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特開2024-13970熱処理方法、熱処理装置及び熱処理用加熱プログラム
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  • 特開-熱処理方法、熱処理装置及び熱処理用加熱プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013970
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】熱処理方法、熱処理装置及び熱処理用加熱プログラム
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/40 20060101AFI20240125BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20240125BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20240125BHJP
   H05B 6/06 20060101ALI20240125BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C21D9/40 A
C21D9/40 B
C21D1/18 K
C21D1/42 T
H05B6/06 366
H05B6/10 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116465
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】石代 健晃
(72)【発明者】
【氏名】藤原 徹也
【テーマコード(参考)】
3K059
4K042
【Fターム(参考)】
3K059AA09
3K059AB28
3K059AC09
3K059AD03
3K059AD40
3K059CD64
3K059CD73
4K042AA22
4K042AA23
4K042BA01
4K042BA10
4K042CA15
4K042DA01
4K042DB01
4K042DC05
4K042EA03
(57)【要約】
【課題】ワークに全体焼入れを施す熱処理工程において、熱処理後のワークの品質が個体間でばらつくのを可及的に防止する。
【解決手段】加熱コイル3と、加熱コイル3に電気的に接続された高周波電源5とを備え、加熱コイル3に通電することでワークWの全体を狙い温度に加熱する加熱部2を有する熱処理装置1において、加熱部2に、高周波電源5から加熱コイル3に供給される電力量の積算値を計測する積算電力量計8と、積算電力量が所定値に到達する毎に加熱コイル3に印加する電圧を変更させる信号を高周波電源5に出力する制御部6と、をさらに設けた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに全体焼入れを施す熱処理工程において、加熱コイルに通電することにより、前記ワークの全体を狙い温度に誘導加熱するに際し、
前記加熱コイルに供給される電力量の積算値を計測し、計測された積算電力量が所定値に到達する毎に前記加熱コイルに印加する電圧を変更することを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
前記積算電力量が所定値に到達するのに要する到達時間Tを監視し、この到達時間Tが所定の下限値TMINよりも短い時又は所定の上限値TMAXよりも長い時、前記加熱コイルへの電圧印加を停止する請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
前記ワークが、転がり軸受の軌道輪の基材である請求項1又は2に記載の熱処理方法。
【請求項4】
加熱コイルと、該加熱コイルと電気的に接続された高周波電源とを備え、前記加熱コイルに通電することによりワークの全体を狙い温度に誘導加熱する加熱部を有する熱処理装置において、
前記加熱部に、前記高周波電源から前記加熱コイルに供給される電力量の積算値を計測する積算電力量計と、計測された積算電力量が所定値に到達する毎に前記加熱コイルに印加する電圧を変更させる信号を前記高周波電源に出力する制御部と、をさらに設けたことを特徴とする熱処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記積算電力量が所定値に到達するのに要する到達時間Tを監視し、この到達時間Tが所定の下限値TMINよりも短い時又は所定の上限値TMAXよりも長い時、前記加熱コイルへの通電を停止させる信号を前記高周波電源に出力する請求項4に記載の熱処理装置。
【請求項6】
ワークに熱処理を施す熱処理工程において、前記ワークの全体を狙い温度に誘導加熱するために用いられる熱処理用加熱プログラムであって、
加熱コイルに対して高周波電源から供給される電力量の積算値を積算電力量計から取得する積算電力量取得処理と、
取得した前記積算電力量が所定値に到達する毎に、前記加熱コイルに印加する電圧を変更させるための信号を前記高周波電源に対して出力する信号出力処理と、を制御装置に実行させることを特徴とする熱処理用加熱プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理方法、熱処理装置及び熱処理用加熱プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、SUJ2等の鋼材を用いて作製される機械部品(例えば、転がり軸受の軌道輪)の製造過程においては、機械部品に必要とされる機械的強度等を付与するために、機械部品の基材(ワーク)に対して熱処理としての焼入れ処理や焼戻し処理が施される。
【0003】
焼入れ処理には、ワーク全体を焼入れする全体焼入れ(「ずぶ焼入れ」とも称される)と、ワークの表層部のみを焼入れする表面焼入れとがあり、例えば、転がり軸受の軌道輪の製造過程においては、軌道輪の基材である環状のワークに対して全体焼入れが施される。ワークを全体焼入れする際の加熱方法としては、ワーク全体を均一に加熱し易い雰囲気加熱を採用するのが一般的であったが、近時においては、ワークのみを加熱することができてエネルギー効率に優れる、加熱時間を大幅に短縮できて機械部品の生産性を高めることができる、などの理由により、例えば下記の特許文献1に記載されているような誘導加熱(高周波誘導加熱)を採用するケースが増加しつつある。
【0004】
ワークを全体焼入れする際の加熱方法として誘導加熱を採用する場合には、短時間で所定の炭化物面積率を得られるように、ワークを雰囲気加熱する場合よりも高温の900℃程度にまで加熱することが行われている。但し、図5に示すように、ワークの加熱温度を高めるほど残留オーステナイト量の増え方も急峻になるため、ワークの加熱温度(加熱コイルの出力)や加熱時間(加熱コイルへの通電時間)を精密に管理する必要が生じる。
【0005】
そこで、熱処理時にワークを狙い温度に誘導加熱すべく、加熱コイルへの出力や通電時間を制御するための加熱プログラムを複数準備し、ワークの形状や材質、狙いの加熱温度等に応じて加熱プログラムを使い分けている。加熱プログラムには、図6(a)に例示するように、加熱コイルに印加する電圧を時間毎に切り替えるタイプや、図6(b)に例示するように、加熱コイルに出力する電力量を時間毎に切り替えるタイプ等、時間毎に出力を切り替えるものが好適に採用されている。時間毎の出力の切り替えは、PLC(シーケンサ)を用いて容易にかつ精度良く(再現性良く)制御できるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-67880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
JIS B6912に規定されているとおり、高周波電源の出力電圧を制御する場合は、定格電圧に対して±2%まで指令値に対する誤差が許容されるものの、ワークを誘導加熱する際に高周波電源に入力される指令電圧値と、高周波電源から出力される出力電圧値との間に僅かでも差があると、ワークの加熱温度に大きな狂いが生じることが懸念される。すなわち、本発明者らが前述したSUJ2製の環状ワークを用いて確認したところ、出力電圧値が指令電圧値とは1V異なるだけでも、実際の加熱温度は狙いの加熱温度に対して15℃程度ずれることが確認された。そして、狙いの加熱温度が高温であるほど、温度ずれによるワークの品質(機械的強度等)に与える悪影響が大きくなる。
【0008】
従って、熱処理用の加熱プログラムとして、時間毎(所定時間経過する毎)に出力を変更するものを選択した場合、一次電圧の変動や高周波電源に内蔵されているコンデンサ等の電子部品の劣化などの影響によって指令値通りの出力を得られないという問題、ひいては機械的強度をはじめとするワークの品質が安定しない(ワークの品質が個体間でばらつく)という問題が発生し易いと言える。係る問題は、例えば、ワークの品質を抜き取り検査によって確認し、その確認結果に基づいて指令値を微調整する等の対策を講じることで解消可能であるが、品質確認及びその後の調整作業に多大な手間を要することから、改善する必要がある。
【0009】
上記の実情に鑑み、本発明は、ワークに熱処理としての全体焼入れを施す熱処理工程において、熱処理後のワーク(全体焼入れされたワーク)の品質が個体間でばらつくのを可及的に防止し、もって高品質の機械部品を安定的に量産可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明では、ワークに全体焼入れを施す熱処理工程において、加熱コイルに通電することにより、上記ワークの全体を狙い温度に誘導加熱するに際し、加熱コイルに供給される電力量の積算値を計測し、計測された積算電力量が所定値に到達する毎に加熱コイルに印加する電圧を変更することを特徴とする熱処理方法を提供する。
【0011】
本発明に係る熱処理方法(全体焼入れ方法)においては、従来方法のように時間ではなく、積算電力量によって加熱コイルに印加する電圧を変化させるようにしている。このような方法によれば、例えば電圧指令値に対して出力電圧が1Vずれたとしても、ワークに与えられる出力の誤差を従来よりも少なくすることができる。これにより、誘導加熱後、ひいては熱処理後のワークの品質(機械的強度等)が個体間でばらつくのを抑制することができる。
【0012】
上記の熱処理方法において、積算電力量が所定値に到達するのに要する到達時間Tを監視し、この到達時間Tが所定の下限値TMINよりも短い時(T<TMIN)又は所定の上限値TMAXよりも長い時(T>TMAX)、加熱コイルへの電圧印加を停止するのが好ましい。このようにすれば、熱処理装置のうち、特にワークを誘導加熱する加熱部に重大欠陥が生じるのを未然に防止することができる。
【0013】
上記の熱処理方法において、熱処理(加熱)対象のワークは、転がり軸受の軌道輪の基材とすることができる。つまり、本発明に係る熱処理方法は、転がり軸受の軌道輪の製造過程で好ましく採用することができる
【0014】
また、上記の目的を達成するため、本発明では、加熱コイルと、加熱コイルと電気的に接続された高周波電源とを備え、加熱コイルに通電することによりワークの全体を狙い温度に加熱する加熱部を有する熱処理装置において、加熱部に、高周波電源から加熱コイルに供給される電力量の積算値を計測する積算電力量計と、計測された積算電力量が所定値に到達する毎に加熱コイルに印加させる信号を高周波電源に出力する制御部と、をさらに設けたことを特徴とする熱処理装置を提供する。
【0015】
上記の構成を有する熱処理装置であっても、上述した本発明に係る誘導加熱方法と同様の作用効果を享受することができる。
【0016】
上記構成の熱処理装置において、制御部は、積算電力量が所定値に到達するのに要する到達時間Tを監視し、この到達時間Tが所定の下限値TMINよりも短い時又は所定の上限値TMAXよりも長い時、加熱コイルへの通電を停止させる信号を高周波電源に出力するものとすることができる。
【0017】
また、上記の目的を達成するため、本発明では、ワークに熱処理を施す熱処理工程において、ワークの全体を狙い温度に誘導加熱するために用いられる熱処理用加熱プログラムであって、加熱コイルに対して高周波電源から供給される電力量の積算値を積算電力量計から取得する積算電力量取得処理と、取得した積算電力量が所定値に到達する毎に、加熱コイルに印加する電圧を変更させるための信号を高周波電源に対して出力する信号出力処理と、を制御装置に実行させることを特徴とする熱処理用加熱プログラムを提供する。
【0018】
上記の構成を有する加熱プログラムであっても、上述した本発明に係る熱処理方法と同様の作用効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上から、本発明によれば、ワークに熱処理としての全体焼入れを施す熱処理工程において、熱処理後のワークの品質が個体間でばらつくのを可及的に防止することができる。これにより、所望の機械的強度等を具備した高品質の機械部品を安定的に量産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る熱処理装置の部分概略図である。
図2】ワークの加熱条件(加熱プログラム)の一例を示す図である。
図3】加熱プログラムを用いた場合の処理手順を示すフロー図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る熱処理装置の部分概略図である。
図5】加熱曲線に対する炭化物面積率と残留オーステナイトの関係を示すグラフ図である。
図6】従来のワークの加熱条件(熱処理用加熱プログラム)を例示した図表であって、(a)図は電圧制御・時間切替タイプの加熱プログラムの一例を示す図表、(b)図は電力制御・時間切替タイプの加熱プログラムの一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1に、本発明の一実施形態に係る熱処理装置1の部分概略図を示す。この熱処理装置1は、ワークWに全体焼入れを施すために使用されるものであって、ワークWの全体を狙い温度(例えば、A変態点を超える温度)に加熱する加熱工程が実施される加熱部2と、加熱部2で狙い温度に加熱されたワークWを冷却・焼入れする冷却工程が実施される冷却部(図示省略)とを備えている。図1に示す加熱部2は、加熱コイル3と、加熱(焼入れ)対象のワークWを支持するワーク支持部材4と、加熱コイル3と電気的に接続された高周波電源5と、高周波電源5と電気的に接続され、高周波電源5から加熱コイル3に対して出力(供給)された電力量の積算値を検知(計測)する積算電力計8と、高周波電源5及び積算電力計8と電気的に接続された制御装置6と、を備える。
【0023】
図2に示すワークWは、例えば、最終的に転がり軸受の内輪となるものであり、炭素含有量0.8質量%以上の鋼材(ここでは、JIS G4805に規定の軸受鋼に分類されるSUJ2)で環状形態に形成されている。炭素含有量0.8質量%以上の鋼としては、SUJ2以外にも、SUJ2と同じ軸受鋼に分類されるSUJ3や、JIS G4404に規定の工具鋼に分類されるSKD11、SKD12、SKD3、SKD31などを挙げることができる。
【0024】
加熱コイル3は、例えば銅管を環状形態に形成したもので構成され、中心軸を鉛直方向に沿わせた平置き姿勢でワークW(詳細には、後述する加熱位置P2に位置するワークW)の径方向外側に配置される。この加熱コイル3は、セラミックス等の絶縁材料で形成されたコイル支持部材7により、ワークWが搬送される搬送路9とは異なる高さ位置(図示例では搬送路9の上側)で上記の平置き姿勢で支持されている。
【0025】
ワーク支持部材4は、鉛直方向に延びる軸部4aと、軸部4aの先端に設けられ、ワークWを下方側から支持するフランジ部4bとを備える。このワーク支持部材4は、搬送路面9に沿って搬送されてくる加熱対象のワークWを受け取ると共に、加熱完了後のワークWを搬送路9に受け渡す受け渡し位置P1と、フランジ部4bに載置されたワークWを加熱コイル3の対向領域に位置させる加熱位置P2との間を昇降可能に設けられている。図示例では、上記2つの位置P1,P2のうち、受け渡し位置P1が相対的に下方側に、また加熱位置P2が相対的に上方側にあるが、両者の位置関係は逆にすることもできる。
【0026】
制御装置6には、加熱位置P2で支持されたワークWの全体を狙い温度に誘導加熱するための熱処理用加熱プログラムが記録(記憶)されている。この加熱プログラムは、加熱コイル3に対して高周波電源5から供給(出力)される電力量の積算値を、この積算値を計測する積算電力量計8から取得する積算電力量取得処理と、取得した積算電力量が所定値に到達する毎に、加熱コイル3に対する出力(電圧)を変更させるための信号を高周波電源5に対して出力する信号出力処理と、を制御装置6に実行させるものである。
【0027】
つまり、加熱部2(加熱工程)に投入されたワークWは、加熱コイル3に印加される電圧(高周波電源5の出力電圧)が段階的に変更されることによってその全体が狙い温度に加熱され、高周波電力5の出力電圧は、高周波電源5から加熱コイル3に出力された電力量の積算値(積算電力量)に基づいて変更される。図2に、高周波電源5の出力電圧の変更プログラム(すなわち、上記の加熱プログラム)の一例を示し、図3に、上記の加熱プログラムを用いた場合のワークWの加熱処理の流れを簡単に示す。
【0028】
図2に示すプログラムでは、高周波電源5の出力電圧が、第1ステップ:100V→第2ステップ:200V→第3ステップ:250V→第4ステップ:300V→第5ステップ:100Vの順に変更され、第1~第4ステップにおける積算電力量が、それぞれ、第1ステップ:123KWs、第2ステップ:225KWs、第3ステップ:236KWs、第4ステップ:120KWsに到達すると次ステップに移行する。そして、第5ステップにおける積算電力量が50KWsに到達すると、高周波電源5の出力電圧がゼロとなり、ワークWの加熱処理が終了する(図2中の第6ステップを参照)。
【0029】
上記のように、本実施形態の熱処理方法(熱処理装置1の加熱部2)においては、時間ではなく、高周波電源5から加熱コイル3に出力される積算電力量によって加熱コイル3に印加する電圧が変化させられる。このような方法によれば、高周波電源5に入力される電圧指令値に対して高周波電源5の出力電圧が1Vずれたとしても、ワークWに与えられる出力の誤差を従来よりも少なくすることができる。すなわち、本発明者らが、トータルで840kWsの電力量を加熱コイル3(ワークW)に付与するべく、図6(a)に例示したような電圧制御・時間切替プロフラムを繰り返し採用したところ、ワークW間での積算電力量のばらつきが5.6kWsにも達したのに対し、本発明(に係るプログラム10)を繰り返し採用した場合には、ワークW間での積算電力量のばらつきを1kWs以下に抑えることができた。従って、誘導加熱後、ひいては熱処理後のワークWの機械的強度等が個体間でばらつくのを抑制することができるので、高品質の機械部品を安定的に量産することができる。
【0030】
なお、本実施形態においては、積算電力量が所定値に到達するのに要する到達時間Tを監視し、この到達時間Tが所定の下限値TMINよりも短い時、又は所定の上限値TMAXよりも長い時には、加熱部2で実施される加熱工程、つまり高周波電源5から加熱コイル3への電圧印加(電力供給)が強制的に停止される。具体的には、図2中に「加熱時間」と表示している時間を基準の到達時間Tとし、各ステップで設定した積算電力量に到達するのに要した時間が設定時間外の場合、具体的には、図2中に「加熱時間下限」と表示している下限値TMINよりも短い時、又は図2中に「加熱時間上限」と表示している上限値TMAXよりも長い時、加熱コイル3への電圧印加が強制的に停止される(図3を参照)。
【0031】
これは、積算電力量が所定値に到達するのに要する時間(到達時間T)は、高周波電源5や積算電力量計8が故障等しない限り大きくばらつくことはないため、到達時間Tが所定の下限値TMINよりも短い時又は所定の上限値TMAXよりも長い時には、高周波電源5や積算電力量計8等が故障している蓋然性が高いためである。従って、上記の到達時間Tが所定の下限値TMINよりも短い時又は所定の上限値TMAXよりも長い時に、高周波電源5から加熱コイル3への電圧印加を強制的に停止するようにすれば、加熱部2に重大な故障が生じる可能性を可及的に低減することができる。
【0032】
以上、本発明の一実施形態に係る熱処理装置1(の加熱部2)、及びこれを用いたワークWの熱処理方法(誘導加熱方法)について説明したが、本発明の実施の形態はこれに限られない。
【0033】
例えば熱処理装置1の加熱部2は図4に示すような構成とすることもできる。同図に示す加熱部2では、環状のワークWを誘導加熱するための加熱コイル3として、ワークWの径方向外側に配される加熱コイル(外側加熱コイル3A)に加え、ワークWの径方向内側に配される加熱コイル(内側加熱コイル3B)を設けている。この場合、ワークWの加熱効率を一層高めることができる。なお、内側加熱コイル3Bに電力を供給するための高周波電源5は、図示するように外側加熱コイル3Aに電力を供給する高周波電源5と兼用しても良いし、外側加熱コイル3Aに電力を供給する高周波電源5とは別のものを用いても良い(図示省略)。
【0034】
以上では、転がり軸受の内輪となる環状のワークWを全体焼入れする際に本発明を適用する場合を例示したが、本発明は、その他のワーク、例えば、転がり軸受の外輪、すべり軸受、転がり軸受や等速自在継手に組み込まれる保持器等になる環状のワークWを全体焼入れする場合にも好ましく使用することができる。
【0035】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得る。すなわち、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0036】
1 熱処理装置
2 加熱部
3 加熱コイル
5 高周波電源
6 制御装置
8 積算電力量計
10 熱処理用加熱プログラム
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6