(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139704
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】解析装置、システム、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20 20180101AFI20241002BHJP
G01N 23/201 20180101ALI20241002BHJP
【FI】
G01N23/20 400
G01N23/201
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024025809
(22)【出願日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2023049475
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110004107
【氏名又は名称】弁理士法人Kighs
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】末永 梨絵子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義泰
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA14
2G001BA15
2G001CA01
2G001FA02
2G001KA13
(57)【要約】
【課題】測定データに対してモデルの最適化度合いを示す指標を算出する解析装置、システム、方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】測定データが従う確率分布関数が既知である前記測定データに対して、電子密度分布の情報を含むモデルの最適化度合いを示す指標を算出する解析装置400であって、前記測定データを取得する測定データ取得部410と、前記モデルから計算された計算データを取得する計算データ取得部420と、前記測定データと前記計算データとを含む所定の数式により定義される残差、および前記確率分布関数と前記所定の数式とに基づいて定義される前記残差の期待値に対し、前記残差と前記残差の期待値との比を含む指標GOFを算出する指標算出部430と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定データが従う確率分布関数が既知である前記測定データに対して、電子密度分布の情報を含むモデルの最適化度合いを示す指標を算出する解析装置であって、
前記測定データを取得する測定データ取得部と、
前記モデルから計算された計算データを取得する計算データ取得部と、
前記測定データと前記計算データとを含む所定の数式により定義される残差、および前記確率分布関数と前記所定の数式とに基づいて定義される前記残差の期待値に対し、前記残差と前記残差の期待値との比を含む指標GOFを算出する指標算出部と、を備えることを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記GOFの収束を評価する指標評価部を備えることを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項3】
前記所定の数式は、前記測定データの対数と前記計算データの対数との残差二乗和を含むことを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項4】
前記所定の数式は、前記測定データが所定の値以下の強度であるときに前記測定データを定数倍し、前記測定データが前記所定の値より大きい強度であるときに前記測定データの対数の値をとる重みパラメータを含むことを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項5】
前記確率分布関数はポアソン分布であり、前記指標算出部は前記残差の期待値をガウス分布で近似して求めることを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項6】
前記モデルを作成し、作成した前記モデルに基づいて前記計算データを計算するモデル作成部を備え、
前記計算データ取得部は、前記モデル作成部が計算した前記計算データを取得し、
前記指標評価部が前記GOFを収束したと評価した場合、前記モデル作成部は前記モデルを出力し、
前記指標評価部が前記GOFを収束していないと評価した場合、前記モデル作成部は前記モデルのモデルパラメータを更新し、前記モデルの作成および前記計算データの計算を行い、前記指標算出部は計算された前記計算データに基づいて前記GOFを算出することを特徴とする請求項2記載の解析装置。
【請求項7】
X線を発生させるX線発生部と、試料を設置する試料台と、X線を検出する検出器と、を備えるX線分析装置と、
請求項1から請求項6のいずれかに記載の解析装置と、を備えることを特徴とするシステム。
【請求項8】
測定データが従う確率分布関数が既知である前記測定データに対して、電子密度分布の情報を含むモデルの最適化度合いを示す指標を算出する方法であって、
前記測定データを取得する測定データ取得ステップと、
前記モデルから計算された計算データを取得する計算データ取得ステップと、
前記測定データと前記計算データとを含む所定の数式により定義される残差、および前記確率分布関数と前記所定の数式とに基づいて定義される前記残差の期待値に対し、前記残差と前記残差の期待値との比を含む指標GOFを算出する指標算出ステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
測定データが従う確率分布関数が既知である前記測定データに対して、電子密度分布の情報を含むモデルの最適化度合いを示す指標を算出するプログラムであって、
前記測定データを取得する処理と、
前記モデルから計算された計算データを取得する処理と、
前記測定データと前記計算データとを含む所定の数式により定義される残差、および前記確率分布関数と前記所定の数式とに基づいて定義される前記残差の期待値に対し、前記残差と前記残差の期待値との比を含む指標GOFを算出する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モデルの最適化度合いを示す指標を算出する解析装置、システム、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線反射率解析は扱うデータのダイナミックレンジが大きいため、対数で重み付けをした最小二乗法による最適化計算を行っていた(非特許文献1)。また、X線反射率解析の理論を応用したX線小角散乱解析によるCD(critical dimension)計測(CD-SAXS)も、同様に対数で重み付けをした最小二乗法による最適化計算を行っていた(非特許文献2)。これらの解析では、以下の数式(1)に示すR因子という指標をフィッティングの信頼性を示す指標として使用していた。Obsは測定強度を、Calcは計算強度を示している。このR因子は、フィッティングの収束を評価するためにも使用される。
【0003】
【0004】
一方、粉末X線回折においてはS因子と呼ばれる以下の数式(2)から数式(4)に示す指標が収束判定に用いられていた(非特許文献3、4)。S=1は精密化が完璧であることを意味し、一般的にはSが1.3より小さければ満足すべき解析結果とみなす。このように、S因子は、フィッティングの収束を絶対的に判定することができる。収束判定の指標であるS因子は、最小化関数とは別のものとして定義される。
【0005】
【0006】
【0007】
【0008】
なお、Rwpが粉末解析で用いられるR因子であり、Reは推定される最小のR因子である。また、nは測定プロファイルを構成するデータ点数、pはフィッティングするパラメータの数を表す。またwは各データ点に含まれる誤差(=統計変動の分散)の逆数で定義された統計的重みパラメータである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】桜井健次[編],X線反射率法入門,2009年,p.97
【非特許文献2】Y Ito and K Omote, Meas. Sci. Technol. 22 (2011) 024008 (8pp)
【非特許文献3】R. A. Young, The Rietveld Method, 1995年, p. 43-44, 51
【非特許文献4】中井泉・泉冨士夫,粉末X線解析の実際(第2版),2009年,p125
【非特許文献5】中川徹・小柳義夫,最小二乗法による実験データ解析(新装版),2018年,p40-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、X線反射率やX線小角散乱などのダイナミックレンジの大きい測定データを解析する場合、一般的には対数で重み付けをした最小二乗法による最適化計算を行い、最小二乗法の本来の定義のように誤差による規格化を行わなかった。すなわち、このような解析において、従来手法では重み付き残差二乗和から計算されるR因子を収束判定の目安に用いてきた。
【0011】
しかしながら、このR因子の値は測定データの質によって変化する。例えば、統計が良いデータはR因子の値が小さくなる。また、測定時間が長いほど、あるいはフィッティングに用いるデータを強度が比較的高い部分のみに限定してフィッティングを行うほど、R因子の値が小さくなる。そのため、R因子の値のみではフィッティングの収束を絶対的に判定することができず、同一データ内での相対評価のみ可能であった。また、X線反射率やX線小角散乱において、R因子を用いて解析が十分に収束しているかどうかの判定を行う場合、熟練したエンジニアの経験に頼らざるを得なかった。
【0012】
また、粉末X線回折の収束判定には上記のS因子が用いられる。S因子に含まれるReは、Rwpの定義および最小二乗法の定義により導出されるパラメータであり、Reの導出には各データ点を誤差で規格化するという前提条件が必要であった(非特許文献5)。仮に、X線反射率やX線小角散乱の測定データなどのダイナミックレンジの大きい測定データに対して誤差での規格化を適用すると、高強度領域におけるシグナルの重みが大きくなり、低強度領域におけるシグナルを無視した解析となってしまう。X線反射率やX線小角散乱等の測定においては、低強度領域におけるシグナルにも解析に必要な情報を含む場合があり、これを無視することはできない。そのため、X線反射率やX線小角散乱等の測定データに対しては、誤差での規格化は適しておらず、S因子を適用していなかった。
【0013】
したがって、X線反射率やX線小角散乱等の測定データに適用できる絶対的な収束評価指標が強く望まれていた。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、測定データに対してモデルの最適化度合いを示す指標を算出する解析装置、システム、方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の解析装置は、以下の手段を講じた。すなわち、本発明の一態様の解析装置は、測定データが従う確率分布関数が既知である前記測定データに対して、電子密度分布の情報を含むモデルの最適化度合いを示す指標を算出する解析装置であって、前記測定データを取得する測定データ取得部と、前記モデルから計算された計算データを取得する計算データ取得部と、前記測定データと前記計算データとを含む所定の数式により定義される残差、および前記確率分布関数と前記所定の数式とに基づいて定義される前記残差の期待値に対し、前記残差と前記残差の期待値との比を含む指標GOFを算出する指標算出部と、を備えることを特徴としている。
【0016】
(2)また、本発明の一態様の解析装置は、前記GOFの収束を評価する指標評価部を備えることを特徴としている。
【0017】
(3)また、本発明の一態様の解析装置において、前記所定の数式は、前記測定データの対数と前記計算データの対数との残差二乗和を含むことを特徴としている。
【0018】
(4)また、本発明の一態様の解析装置において、前記所定の数式は、前記測定データが所定の値以下の強度であるときに前記測定データを定数倍し、前記測定データが前記所定の値より大きい強度であるときに前記測定データの対数の値をとる重みパラメータを含むことを特徴としている。
【0019】
(5)また、本発明の一態様の解析装置において、前記確率分布関数はポアソン分布であり、前記指標算出部は前記残差の期待値をガウス分布で近似して求めることを特徴としている。
【0020】
(6)また、本発明の一態様の解析装置は、前記モデルを作成し、作成した前記モデルに基づいて前記計算データを計算するモデル作成部を備え、前記計算データ取得部は、前記モデル作成部が計算した前記計算データを取得し、前記指標評価部が前記GOFを収束したと評価した場合、前記モデル作成部は前記モデルを出力し、前記指標評価部が前記GOFを収束していないと評価した場合、前記モデル作成部は前記モデルのモデルパラメータを更新し、前記モデルの作成および前記計算データの計算を行い、前記指標算出部は計算された前記計算データに基づいて前記GOFを算出することを特徴としている。
【0021】
(7)また、本発明の一態様のシステムは、X線を発生させるX線発生部と、試料を設置する試料台と、X線を検出する検出器と、を備えるX線分析装置と、上記(1)から(6)のいずれかに記載の解析装置と、を備えることを特徴としている。
【0022】
(8)また、本発明の一態様の方法は、測定データが従う確率分布関数が既知である前記測定データに対して、電子密度分布の情報を含むモデルの最適化度合いを示す指標を算出する方法であって、前記測定データを取得する測定データ取得ステップと、前記モデルから計算された計算データを取得する計算データ取得ステップと、前記測定データと前記計算データとを含む所定の数式により定義される残差、および前記確率分布関数と前記所定の数式とに基づいて定義される前記残差の期待値に対し、前記残差と前記残差の期待値との比を含む指標GOFを算出する指標算出ステップと、を含むことを特徴としている。
【0023】
(9)また、本発明の一態様のプログラムは、測定データが従う確率分布関数が既知である前記測定データに対して、電子密度分布の情報を含むモデルの最適化度合いを示す指標を算出するプログラムであって、前記測定データを取得する処理と、前記モデルから計算された計算データを取得する処理と、前記測定データと前記計算データとを含む所定の数式により定義される残差、および前記確率分布関数と前記所定の数式とに基づいて定義される前記残差の期待値に対し、前記残差と前記残差の期待値との比を含む指標GOFを算出する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】解析システムの構成の一例を示す概念図である。
【
図2】制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態1に係る解析装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】実施形態1に係る解析装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態2に係る解析装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】実施形態2に係る解析装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態3に係る解析装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図8】実施形態3に係る解析装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図9】(a)は、モデル最適化前の擬似測定波形と計算波形を示すグラフである。(b)は、モデル最適化後の擬似測定波形と計算波形を示すグラフである。
【
図10】実施例の解析過程の1つの回折線に対応するR因子およびGOFの値の変化を示すグラフである。
【
図11】実施例のある段階における測定波形と計算波形を重ねたグラフである。
【
図12】解析に使用した全てのR因子のある段階における値を示すグラフである。
【
図13】解析に使用した全てのR因子、R
G因子、およびGOFのある段階における値のグラフである。
【
図14】解析に使用した全てのR因子、R
G因子、およびGOFの最適化計算後における値のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0026】
[原理]
X線反射率やX線小角散乱は、測定データのダイナミックレンジが大きく、例えば、測定強度は、1.0~1.0×107counts程度の範囲のデータを扱う。これらの解析では、10countsくらいの強度でも干渉縞の周期が見えていれば解析に必要な情報を含んでいるので、フィッティングの際は強度が小さい部分も無視できない。
【0027】
X線により試料の形状を決定するためには、測定データを用いて逆問題を解く必要がある。計測する試料の形状や素材に基づいて、試料を電子密度分布の情報を含むモデルとして表す。そのモデルにX線が照射されたときにどのような反射または散乱が起きるかを計算したものが計算強度である。計算強度のデータ(計算データ)と計測強度のデータ(測定データ)がよく一致するように、最小二乗法によりモデルを最適化していく。このとき、モデルがどの程度最適化されたかを示す最適化度合いを確認するための指標が必要となる。
【0028】
本発明は、測定データが従う確率分布関数が既知である測定データに対して、電子密度分布の情報を含むモデルの最適化度合いを示す指標GOFを算出する。測定データが従う確率分布関数が既知であるとは、測定データのばらつき幅が測定データの値から統計的に推定可能であることをいう。具体的には、測定データがポアソン分布、ガウス分布等に従うことが測定データの性質からわかっている場合をいう。
【0029】
GOFは、例えば、以下の数式(5)で表される。ここで、R(R因子)は、測定データと計算データとを含む所定の数式により定義される残差である。また、RG(RG因子)は測定データが従う確率分布関数と所定の数式とに基づいて定義される残差の期待値である。なお、GOFは、測定データと計算データとを含む残差と残差の期待値との比を含む数式で定義されるものであればどのようなものであってもよく、数式(5)に限られない。測定データと計算データとを含む残差と残差の期待値との比とは、Rに対するRGの比でもRGに対するRの比でもよく、例えば、数式(5)の分母と分子を逆にしたものをGOFと定義してもよい。
【0030】
【0031】
測定データが従う確率分布関数が既知であるため、確率分布関数と所定の数式とに基づいて定義される残差の期待値を計算することができる。RGは、測定データと測定データの統計誤差の残差から計算されるR因子といえる。また、RGは、測定データから見積もられる最小のR因子といえる。所定の数式およびその期待値の具体的な例は、実施形態で詳述する。
【0032】
上記のように算出したGOFは、モデルの最適化度合い(モデルのフィッティングの程度)を示す指標となる。例えば、同一の測定データに対して作成した2つのモデルのうち、どちらがより最適化度合いが高いかを判定できる。また、モデルのフィッティングが十分に収束しているかどうかを評価でき、モデルのフィッティングが十分に収束していない場合、パラメータを更新して再度モデルの作成、計算データの計算と、GOFの判定ができる。また、モデルのフィッティングが理想的な状態であれば、測定データの質に関わらず、GOFは1になるように定義できる。よって、異なるデータ間であっても、モデルの最適化度合いを絶対的に判定することができる。本発明のGOFは、重み付き最小二乗法を用いた解析の指標として好適である。本発明の詳しい指標算出方法は、実施形態で詳述する。
【0033】
以下の実施形態では、X線分析装置で測定された測定データを用いてGOFを算出する方法、GOFの収束を評価する方法、およびGOFの収束の評価を利用してモデルを最適化する方法を詳細に説明する。なお、本発明は、X線分析装置で測定されたX線反射率やX線小角散乱の測定データに限られず、これに類似するプローブで測定された測定データに適用できる。具体的には、例えば、フォトンによる測定データなど、測定データが従う確率分布関数が既知の測定データに対して適用することができる。
【0034】
[実施形態]
[全体のシステム]
図1は、システム100の構成の一例を示す概念図である。システム100は、X線分析装置200、制御装置300、および解析装置400を有している。このシステム100を使用することにより、測定データを測定し、測定データが従う確率分布関数が既知である測定データに対して、モデルの最適化度合いを示す指標GOFを算出することができる。また、GOFを評価したりモデルを最適化したりすることができる。
【0035】
なお、
図1では、制御装置300と解析装置400を同一のPCとして記載している。しかし、上記の説明のように、本発明の方法は、X線分析装置200や制御装置300とは無関係に、測定データおよび計算データを取得して、指標算出を行なうことができる。そのため、解析装置400は、制御装置300とは異なる装置として構成されていてもよい。以下では、制御装置300と解析装置400は異なる装置として構成されている場合を説明する。
【0036】
[X線分析装置]
X線分析装置200は、X線を試料に入射させ、試料から生じた反射X線を検出する光学系を構成する。X線分析装置200は、X線焦点すなわちX線源からX線を発生するX線発生部210と、入射側光学ユニット220と、ゴニオメータ230と、試料を設置する試料台240と、X線を検出する検出器260と、を含んで構成される。X線分析装置200は、出射側光学ユニット250を含んで構成されてもよい。X線分析装置200を構成するX線発生部210、入射側光学ユニット220、ゴニオメータ230、試料台240、出射側光学ユニット250、および検出器260は一般的なものであればよいので、説明は省略する。なお、
図1に示す構成は一例であり、その他様々な構成が採られうる。
【0037】
X線分析装置200は、所定の条件で回転軸の移動とX線の投影を繰り返す。これにより、試料にX線を照射し、X線反射率のデータやX線小角散乱のデータ等の測定データを取得する。X線分析装置200は、装置情報等および取得された測定データを制御装置300に送信する。
【0038】
[制御装置]
制御装置300は、X線分析装置200に接続され、X線分析装置200の制御および取得されたデータの記憶、表示を行なう。システム100内において、解析装置400がモデルを作成し計算データを計算する機能を持たない場合、制御装置300、またはその他の装置(例えば、モデル作成装置)がモデルを作成し計算データを計算する機能を持つ。
【0039】
図2は、制御装置300の構成の一例を示すブロック図である。制御装置300は、CPU(Central Processing Unit/中央演算処理装置)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メモリをバスに接続してなるコンピュータによって構成されている。制御装置300は、X線分析装置200に接続され情報を受け取る。
【0040】
制御装置300は、制御部310、装置情報記憶部320、測定データ記憶部330、および表示部340を備える。各部は、制御バスLにより情報を送受できる。入力装置510および表示装置520は適宜のインターフェースを介してCPUに接続されている。
【0041】
制御部310は、X線分析装置200の動作を制御する。装置情報記憶部320は、X線分析装置200から取得した装置情報を記憶する。装置情報には、装置名、線源の種類、波長、バックグラウンド等のX線分析装置200に関する情報が含まれてもよい。
【0042】
測定データ記憶部330は、X線分析装置200から取得した測定データを記憶する。測定データと合わせて、線源の種類、波長、バックグラウンド等のX線分析装置200に関する情報が含まれてもよい。表示部340は、測定データを表示装置520に表示させる。これにより、測定データをユーザが確認することができる。また、ユーザが測定データに基づいて制御装置300、解析装置400等に指示、指定をすることができる。
【0043】
[解析装置]
解析装置400は、測定データが従う確率分布関数が既知である測定データに対して、電子密度分布の情報を含むモデルの最適化度合いを示す指標GOFを算出する。制御装置300および解析装置400は、CPUおよびメモリを備える装置であり、PC端末であってもよいし、クラウド上のサーバであってもよい。また、全体の装置だけでなく、一部の装置や装置内の一部の機能がクラウド上に設けられてもよい。入力装置510は、例えばキーボード、マウスであり、制御装置300や解析装置400への入力を行なう。表示装置520は、例えばディスプレイであり、モデルやGOFなどを表示する。
【0044】
(実施形態1)
実施形態1では、GOFの算出のみする場合を説明する。
図3は、実施形態1に係る解析装置400の構成の一例を示すブロック図である。解析装置400は、CPU、ROM、RAM、メモリをバスに接続してなるコンピュータによって構成されている。解析装置400は、制御装置300を介してX線分析装置200に接続されてもよい。
【0045】
解析装置400は、測定データ取得部410、計算データ取得部420、および指標算出部430を備える。各部は、制御バスLにより情報を送受できる。解析装置400と制御装置300が別の構成である場合、入力装置510および表示装置520は適宜のインターフェースを介して解析装置400のCPUにも接続されている。この場合、入力装置510および表示装置520は、制御装置300に接続されるものとは異なっていてもよい。
【0046】
図4は、実施形態1に係る解析装置400の動作の一例を示すフローチャートである。
図4は、GOFの算出のみする場合の動作の一例を示している。まず、解析装置400は、測定データ取得部410により測定データを取得する(ステップS1)。次に、計算データ取得部420により計算データを取得する(ステップS2)。次に、指標算出部430によりGOFを算出する(ステップS3)。
【0047】
測定データ取得部410は、測定データを取得する。測定データ取得部410は、X線分析装置200から直接または制御装置300を介して測定データを取得してもよいし、データベース等にあらかじめ保存してある測定データを取得してもよい。
【0048】
計算データ取得部420は、モデルから計算された計算データを取得する。モデルは、測定データを測定した試料の特徴を表すモデルである。具体的には、試料の形状や素材等に由来する電子密度分布の情報を含む。また、試料の屈折率等の電子密度分布以外の情報が含まれてもよい。モデルにX線が照射されたときにどのような反射・散乱が起きるかを計算したものが計算データである。
【0049】
指標算出部430は、測定データと計算データとを含む所定の数式により定義される残差、および確率分布関数と所定の数式とに基づいて定義される残差の期待値に対し、残差と残差の期待値との比を含む指標GOFを算出する。所定の数式、残差の期待値を定義する式、または指標GOFを定義する式は、あらかじめ記憶しておく。または、ユーザが所定の数式等を選択または指示することで任意に設定できる構成としてもよい。
【0050】
次に、X線分析装置で測定された測定データを用いてGOFを算出する方法の一例を説明する。X線分析装置で測定されたX線反射率やX線小角散乱の測定データのX線計数強度をObsとし、モデルから計算された計算データのX線計算強度をCalcとする。モデルは既に作成されているとする。また、モデルをフィッティングするための所定の数式をRとする。所定の数式とは、測定データと計算データとを含み、モデルをフィッティングするための残差を定義する式である。例えば、Rは以下の数式(6)のように、Obsの対数とCalcの対数の残差二乗和をObsの対数強度の和で割った数式とすることができる。このように、所定の数式は、測定データの対数と計算データの対数との残差二乗和を含むことが好ましい。ObsjまたはCalcjは、各データ点jにおけるObsまたはCalcの値を示す。
【0051】
【0052】
測定データのX線計数強度Obsの従う確率分布関数f(x)は、理論的なX線計数強度の平均値をIdealとすると、標準偏差√(Ideal)のポアソン分布で表される。ポアソン分布をガウス分布で近似すると、確率分布関数f(x)は、σ=√(Ideal)として、以下の数式(7)で表される。このように、確率分布関数がポアソン分布である場合、残差の期待値をガウス分布で近似して求めることが好ましい。このようにすることで、ガウス分布の積分は解析的に解けるので、ソフトウェアの実装が容易になる。しかし、測定データと計算データとを含む残差の期待値が他の関数で近似しなくても計算できる場合、他の関数で近似しなくてもよく、残差の期待値が直接計算されてもよい。
【0053】
【0054】
上記の数式(6)では、所定の数式をObsの対数とCalcの対数との残差二乗和を含むように定義した。そのため、以下の数式(8)のように、Obsの対数とIdealの対数との残差二乗和を考える。このとき、Obsの対数とIdealの対数との残差二乗和の期待値は、以下の数式(9)で表される。
【0055】
【0056】
【0057】
実際はIdealの値は未知なので、IdealにObsを代入して計算する。各データ点jにおいて対数の残差二乗和の期待値を計算し、その和を対数強度の和で割ると、上記のRに対する理想的なRとして、以下の数式(10)で表されるRGの値を計算できる。すなわち、RGは、測定データと計算データとを含む所定の数式により定義される残差に対し、確率分布関数の性質を利用して求めた残差の期待値である。よって、RGは、確率分布関数の性質を利用して求めた残差の期待値を表すものであれば、どのように定義してもよい。本発明では、確率分布関数の性質を利用して求められる残差の期待値を、確率分布関数と所定の数式とに基づいて定義される残差の期待値とする。なお、数式(10)のσは、σ=√(Obsj)である。
【0058】
【0059】
上記のRおよびRGに対し、GOFを例えば、以下の数式(11)で定義すると、GOFは、モデルの最適化度合いを示す指標となる。
【0060】
【0061】
実際にGOFを算出する場合は、上記のようにRおよびRGをそれぞれ算出して、それを用いてGOFを算出する必要はない。例えば、上記のRおよびRGに対して数式(11)でGOFを定義する場合、GOFを算出する数式として、以下の数式(12)をあらかじめ規定して、これを用いてGOFを算出してもよい。
【0062】
【0063】
また、所定の数式を異なる数式に置き換えた場合、それに伴いGOFも変更されるが、所定の数式が同じであってもGOFを異なる定義とすることができる。上記のRおよびRGに対して、例えば、以下の数式(13)のようなGOFとすることもできる。このように、GOFは、測定データと計算データとを含む所定の数式により定義される残差、および確率分布関数と所定の数式とに基づいて定義される残差の期待値に対し、残差と残差の期待値との比を含む指標であればよい。
【0064】
【0065】
以下では、所定の数式の別の例を説明する。上記のように、測定データや計算データの対数で残差を計算すると、測定データや計算データの強度が小さいときに値の変動が激しくなる。例えば、log0=-∞になったり、同じ1count差であるはずのlog2-log1≒0.3とlog3-log2≒0.17で値が倍近く違ってきたりしてしまう。このように、小さい値に対して対数を取ることによる影響を低減する方法として、所定の数式を、例えば、以下の数式(14)のようにすることができる。Wjは、測定データのX線計数強度であるObsjで定義される重みである。Wjは、例えば、数式(15)のように定義される。eは自然対数の底である。
【0066】
【0067】
【0068】
このとき、確率分布関数と数式(14)の所定の数式とに基づいて定義される残差の期待値RGは、以下の数式(16)のように定義することができる。これらのRとRGに対し、GOFを定義できる。また、RとRGに対し、GOFを数式(11)で定義する場合、GOFを算出する数式は、例えば、以下の数式(17)のように表される。
【0069】
【0070】
【0071】
上記の近似は、強度がe(≒2.7)counts以下の場合においてはリニアスケールの強度で残差を表し、それを超えるときに対数強度の残差をとることで、よりロバストな挙動を実現している。このように、所定の数式は、測定データが所定の値以下の強度であるときに測定データを定数倍し、測定データが所定の値より大きい強度であるときに測定データの対数の値をとる重みパラメータを含むことが好ましい。なお、数式(15)の重みパラメータは、所定の値はeであるが、所定の値はこれと異なっていてもよい。また、重みパラメータを示す数式も測定データが所定の値以下の強度であるときに定数倍し、測定データが所定の値より大きい強度であるときに対数の値をとるものであればどのようなものであってもよく、数式(15)に限られない。なお、計数値countsは基本的には整数値であるが、計数値に補正項を乗算する場合があり、その場合は補正項を乗算した値を計数値とみなす。そのため、計数値は小数値になり得るので、所定の値も小数値であってもよい。
【0072】
GOFの算出は、測定データと計算データとを含む所定の数式により定義される残差、および確率分布関数と所定の数式とに基づいて定義される残差の期待値の算出をしないで、GOFを定義する式から直接算出することが好ましい。これにより、GOFを容易に算出できる。このようにして、測定データおよび計算データに基づいてGOFを算出することができる。このように、GOFを算出することで、測定データの質やユーザの熟練度によらず、ユーザがモデルの最適化度合いを確認することができる。
【0073】
(実施形態2)
実施形態2では、GOFの収束を評価する場合を説明する。多くの手順が実施形態1と同様であるため、異なる点のみを説明する。
図5は、実施形態2に係る解析装置400の構成の一例を示すブロック図である。
図5に示されるように、解析装置400は、測定データ取得部410、計算データ取得部420、および指標算出部430に加え、指標評価部440を備えていることが好ましい。なお、
図5の構成の解析装置400は、指標評価装置といってもよい。
【0074】
図6は、実施形態2に係る解析装置400の動作の一例を示すフローチャートである。
図6は、GOFの算出後にGOFの収束を評価する場合の動作の一例を示している。まず、解析装置400は、測定データ取得部410により測定データを取得する(ステップT1)。次に、計算データ取得部420により計算データを取得する(ステップT2)。次に、指標算出部430によりGOFを算出する(ステップT3)。ここまでの動作は、上記と同様である。
【0075】
次に、指標評価部440によりGOFの収束を評価する(ステップT4)。このようにして、GOFの収束を評価することができる。GOFの収束の評価基準は、あらかじめ設定されていてもよいし、ユーザが収束の評価基準や所定の閾値等を選択することで任意に設定できる構成としてもよい。指標評価部440は、GOFの収束の評価を出力してもよい。
【0076】
次に、GOFの収束を評価する方法の一例を説明する。GOFの収束の評価は、GOFの定義および収束の定義によって異なる。例えば、数式(11)でGOFが定義されるとき、フィッティングが完璧である場合は、GOFの値は1となる。よって、GOFの値が1に十分近いかどうかでGOFの収束を定義できる。このような定義で収束を評価する場合、例えば、所定の閾値a、bを設定し、GOFと所定の閾値aとの差の絶対値が所定の閾値b以下であるときに収束したと評価することができる。なお、閾値aは、フィッティングが完璧であるときのGOFの値とすることが好ましい。
【0077】
また、あるモデルに基づいて算出したGOF1と、更新したモデルに基づいて算出したGOF2の差が十分に小さくなったかどうかでGOFの収束を定義することもできる。このような定義で収束を評価する場合、例えば、所定の閾値cを設定し、GOF1とGOF2の差の絶対値がc以下となったときに収束したと評価することができる。
【0078】
このように、GOFの収束を評価することで、ユーザがモデルの再作成が必要かどうかを判断することができる。
【0079】
(実施形態3)
実施形態3では、モデルの最適化をする場合を説明する。多くの手順が実施形態1および実施形態2と同様であるため、異なる点のみを説明する。
図7は、実施形態3に係る解析装置400の構成の一例を示すブロック図である。
図7に示されるように、解析装置400は、測定データ取得部410、計算データ取得部420、および指標算出部430、指標評価部440に加え、モデル作成部415を備えていることが好ましい。
【0080】
図8は、実施形態3に係る解析装置400の動作の一例を示すフローチャートである。
図8は、指標評価装置がモデルの最適化をする場合の動作の一例を示している。まず、解析装置400は、測定データ取得部410により測定データを取得する(ステップU1)。次に、モデル作成部415によりモデルパラメータと解析条件を設定する(ステップU2)。モデルパラメータまたは解析条件は、ユーザが選択、指定、入力等することで任意に設定できる構成としてもよい。
【0081】
モデルパラメータとは、試料を電子密度分布の情報を含むモデルとして表すために必要なパラメータであり、例えば、試料の形状を示すパラメータや試料の素材を示すパラメータである。モデルパラメータは、具体的には、CD(Critical Dimension)、深さあるいは高さ、センターラインの位置等である。解析条件とは、例えば、解析に使用する測定データの範囲、モデルパラメータの拘束条件、各回折線に付与する重みの強さ等である。モデルパラメータの拘束条件とは、モデルパラメータがある特定の値より大きくあるいは小さくならないように拘束したり、パラメータの値が急激に変化しないよう繰り返し解析の1ステップごとにパラメータが変化できる幅を制限したりするために設定される条件である。
【0082】
次に、モデルパラメータの最適化をする(ステップU3)。モデルパラメータの最適化は、例えば、最小二乗法で行うことができる。次に、モデル作成部415によりモデルを作成する(ステップU4)。モデルは、最適化されたモデルパラメータに基づいて作成する。次に、計算データを計算する(ステップU5)。計算データは、測定データの線源の種類、波長、モデルの形状、組成等に基づいて算出する。
【0083】
次に、指標算出部430によりGOFを算出する(ステップU6)。GOFの算出は、ステップS3と同様である。次に、指標評価部440によりGOFの収束を評価する(ステップU7)。GOFの収束の評価は、ステップT4と同様である。
【0084】
次に、GOFの収束の評価が条件を満たさない場合(ステップU8-NO)、ステップU2に戻り、モデルパラメータおよび解析条件を設定(更新)する。そして、更新したモデルパラメータを用いてモデルを作成(再作成)し、ステップU7までの処理を再び行う。
【0085】
一方、GOFの収束の評価が条件を満たす場合(ステップU8-YES)、必要に応じてモデルを出力して(ステップU9)、終了する。このようにして、モデルを最適化することができる。なお、GOFの収束が更新前後のGOFに基づいて評価される場合、1回目のループでGOFの収束が評価できない場合がある。そのような場合は、必ず2回目のループをするように構成してもよい。
【0086】
モデル作成部415は、モデルパラメータの最適化をする。また、モデル作成部415は、モデルを作成し、作成したモデルに基づいて計算データを計算する。モデルは、モデルパラメータに基づいて作成する。計算データは、測定データの線源の種類、波長、モデルの形状、組成等に基づいて計算する。このとき、計算データ取得部420は、モデル作成部415が計算した計算データを取得する。
【0087】
モデル作成部415は、指標評価部440がGOFを収束していないと評価した場合、解析条件およびモデルパラメータを更新し、モデルパラメータの最適化、モデルの作成(再作成)および計算データの計算(再計算)を行う。このとき、指標算出部430は計算(再計算)された計算データに基づいてGOFを再度算出する。また、モデル作成部415は、指標評価部440がGOFを収束したと評価した場合、必要に応じてモデルを出力する。これにより、解析装置400は、GOFの収束の評価に基づいてモデルを最適化することができる。また、解析装置400は、ユーザの収束確認を経なくても自動的にモデルを最適化することができる。なお、
図7の構成の解析装置400は、モデル最適化装置といってもよい。
【0088】
次に、GOFの収束の評価を利用してモデルの最適化をする方法の一例を説明する。まず、解析条件およびモデルパラメータを設定する。次に、モデルパラメータを最適化する。モデルパラメータの最適化は、例えば、最小二乗法により行うことができる。次に、最適化したモデルパラメータに基づいてモデルを作成する。次に、モデルから計算データを計算する。そして、測定データと計算データを用いてGOFを算出する。GOFは、上記のような定義に従って算出する。算出したGOFの収束を評価し、収束したと評価された場合、必要に応じてモデルを出力して終了する。
【0089】
一方、算出したGOFの収束を評価し、収束していないと評価された場合、解析条件およびモデルパラメータを更新する。次に、更新されたモデルパラメータを最適化する。次に、最適化されたモデルパラメータに基づいてモデルを作成(更新)する。次に、更新したモデルから計算データを算出する。そして、測定データと計算データを用いてGOFを算出する。モデルパラメータの更新は、ランダムに行ってもよいが、GOFの値に基づいて更新してもよい。また、複数の回折線があるなど測定データと計算データが複数セットある場合、すべてのデータセットをまとめて1つのGOFを算出することもできるし、対応する測定データと計算データごとにGOFを算出することもできる。対応する測定データと計算データごとにGOFを算出する場合、GOFの値が収束から遠い、すなわち、最適化度合いが遠い回折線またはデータセットを重視するような重みを付けてモデルパラメータを更新してもよい。例えば、GOFの値が収束から遠い回折線またはデータセットに対し、残差を定数倍する重みを付けることができる。
【0090】
このように、GOFの収束の評価を利用してモデルの最適化することで、測定データの質やユーザの熟練度によらず、客観的な指標GOFに基づいて最適化されたモデルを作成することができる。
【0091】
[実施例]
上記のように構成された指標算出装置を用いて、シミュレーションデータを用いた解析収束過程を調べた。最初に、実在する試料の解析結果(モデル)をもとに、計算波形を生成した。次に、計算波形に統計ノイズ(ポアソン分布に従う乱数)を加えて擬似的な測定波形を生成した。次に、生成した擬似測定波形に対し、単純な円筒を初期モデルとして最小二乗法フィッティングを行い、波形生成の元となったモデルを復元した。
【0092】
図9(a)は、モデル最適化前の擬似測定波形と計算波形を示すグラフである。
図9(b)は、モデル最適化後の擬似測定波形と計算波形を示すグラフである。解析は、以下の3ステップで行った。
1.各深さにおける直径を線形に変化させる、台形フィッティングを行う。
2.各深さにおける直径を自由に変化させたフィッティングを行う。
3.GOFの値が1を超えている回折線について,残差を定数倍する重み付けを行い、ローカルミニマムを超えさせてフィッティングを行う。
【0093】
図10は、実施例の解析過程の1つの回折線に対応するR因子およびGOFの値の変化を示すグラフである。解析終了時のGOFは1.03であり、限りなく1に近いことから解析が十分に収束したことをユーザの熟練度によらず判定することができた。これと比較して、解析終了時のR因子は8.39%であり、これだけを見ても解析終了を判別できない。従来は、この状態のときの波形を熟練ユーザが目で見て解析終了の判断を下していたため、本発明の方法は、収束判定にユーザの熟練度を要求しないことが確認できた。
【0094】
図11は、実施例のある段階における測定波形と計算波形を重ねたグラフである。
図11の波形プロットは、ある程度解析が進んだ状態における測定波形と計算波形の重ね描きを示している。なお、
図11のグラフは、解析に使用した一部の波形のみ表示している。実際のシミュレーションは、162本の回折線を使用して行った。
図11を見ると、目視ではある程度波形は一致しているように見えた。
【0095】
一方、
図12は、解析に使用した全てのR因子のある段階における値を示すグラフである。
図12は、
図11と同一の段階におけるR因子の値をプロットした。
図12を見ると、回折線ごとに強度が異なるため、R因子の値は大きな範囲で変動している。よって、これだけではどの回折線で計算値と測定値のずれが大きいのか判断がつかなかった。
【0096】
図13は、解析に使用した全てのR因子、R
G因子、およびGOFのある段階における値のグラフである。
図13は、
図11と同一の段階におけるR因子に加え、R
G因子とGOFもそれぞれの回折線ごとに計算しプロットした。
図13を見ると、GOFが1を大きく超えている部分があることがわかる(ローカルミニマム)。
【0097】
GOFの値が1を超えている回折線について、残差を定数倍する重みをつけて再度最適化計算を実施した。残差が大きいほど最適化計算における影響が大きくなるため、重みをつけた回折線がより強くフィッティングされる最適化結果が得られるためである。最適化計算後、重みを外して再度GOFを計算した。
図14は、解析に使用した全てのR因子、R
G因子、およびGOFの最適化計算後における値のグラフである。
図14に示されるように、全ての回折線でGOFが1に十分近く、収束したと判断できた。これにより、GOFを用いることで、ローカルミニマムを超えて正しい解へ収束させることができた。
【0098】
以上の結果により、本発明の指標算出装置、システム、方法およびプログラムは、X線反射率やX線小角散乱等の測定データに適用できる絶対的な収束評価指標を算出できることが確認された。
【符号の説明】
【0099】
100 システム
200 X線分析装置
210 X線発生部
220 入射側光学ユニット
230 ゴニオメータ
240 試料台
250 出射側光学ユニット
260 検出器
300 制御装置
310 制御部
320 装置情報記憶部
330 測定データ記憶部
340 表示部
400 解析装置
410 測定データ取得部
415 モデル作成部
420 計算データ取得部
430 指標算出部
440 指標評価部
510 入力装置
520 表示装置