(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139710
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】雑草抑制装置
(51)【国際特許分類】
A01M 21/04 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
A01M21/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024029724
(22)【出願日】2024-02-29
(31)【優先権主張番号】P 2023049449
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】593033980
【氏名又は名称】トワロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167416
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 佳男
(72)【発明者】
【氏名】松田 克礼
(72)【発明者】
【氏名】角谷 晃司
(72)【発明者】
【氏名】野々村 照雄
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 義浩
(72)【発明者】
【氏名】豊田 秀吉
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和隆
(72)【発明者】
【氏名】梶村 典彦
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 敏彦
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA19
2B121DA06
2B121EA25
(57)【要約】
【課題】本発明は、火災を引き起こす可能性を無くすため、1秒間に1回の帯電を発生させる市販の電気柵をそのまま利用し、蔓性雑草が帯電ラインを通過しても、複数回にわたり新たな帯電ラインに近づくように効率を考慮した雑草抑制装置を提案することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る雑草抑制装置は、所望の領域に囲設した導電線及び該導電線に電圧を印加する電圧印加部とからなる電柵と、該電柵に接続した導電体とを備え、該導電体は、雑草が伸長する方向に所定の間隔で配置され、雑草が伸長した先端が導電体までの距離が1~2cmに近接すると、導電体に電荷を供給して静電場が発生し、帯電した導電体から雑草の先端を狙って空中放電を与えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の領域に囲設した導電線及び該導電線に電圧を印加する電圧印加部とからなる電柵と、該電柵に接続した導電体とを備える雑草抑制装置であって、
前記導電体は、雑草が伸長する方向に所定の間隔で配置され、
前記雑草が伸長した先端が前記導電体までの距離が1~2cmに近接すると、前記導電体に電荷を供給して静電場が発生し、前記導電体から前記雑草の先端を狙って空中放電を与えることを特徴とする雑草抑制装置。
【請求項2】
所望の領域に囲設した導電線及び該導電線に電圧を印加する電圧印加部とからなる電柵と、該電柵に接続した導電体とを備える雑草抑制装置であって、
前記導電体は、導電ラインとアースラインそれぞれが3cmから10cmの間隔を保持して平行に複数のラインで配列したものであり、
蔓性雑草の先端が、前記導電ラインまたは前記アースラインのいずれかに接触し、さらに伸長して別の前記導電ラインまたは前記アースラインに近づくと、自動的に前記蔓性雑草の先端に空中放電が誘発され前記蔓性雑草の蔓の伸長を抑制することを特徴とする雑草抑制装置。
【請求項3】
前記導電体は、前記導電ラインと前記アースラインの間に絶縁被覆線を配置して網状に形成した絶縁性ネットであって、前記電柵に近接して設けられたフェンスに斜めに立てかけるか又は吊り下げて設置することを特徴とする請求項2に記載の雑草抑制装置。
【請求項4】
所望の領域に囲設した導電線及び該導電線に電圧を印加する電圧印加部とからなる電柵と、該電柵に接続した第1の導電体と第2の導電体を備える雑草抑制装置であって、
前記第1の導電体は、雑草が伸長する方向に所定の間隔で配置され、
前記雑草が伸長した先端が前記第1の導電体までの距離が1~2cmに近接すると、前記第1の導電体に電荷を供給して静電場が発生し、帯電した前記第1の導電体から前記雑草の先端を狙って空中放電を与え、
さらに、前記第2の導電体は、導電ラインとアースラインそれぞれが3cmから10cmの間隔を保持して平行に複数のラインで配列したものであり、かつ、前記導電ラインと前記アースラインの間に絶縁被覆線を配置して網状に形成した絶縁性ネットであって、前記電柵に近接して設けられたフェンスに斜めに立てかけるか又は吊り下げて設置することで、蔓性雑草の先端が、前記導電ラインまたは前記アースラインのいずれかに接触し、さらに伸長して別の前記導電ラインまたは前記アースラインに近づくと、自動的に前記蔓性雑草の先端に空中放電が誘発される、
ことを特徴とする雑草抑制装置。
【請求項5】
所望の領域に囲設した導電線及び該導電線に電圧を印加する電圧印加部とからなる電柵と、該電柵に接続した第1の導電体と、雑草が生えた領域の地面に接地した第2の導電体と、を備える雑草抑制装置であって、
前記第1の導電体は、前記雑草が伸長する方向に所定の間隔で配置され、
前記雑草が伸長した先端が前記第1の導電体までの距離が1~2cmに近接すると、前記第1の導電体に電荷を供給して静電場が発生し、前記第1の導電体から前記雑草の先端を狙って空中放電を与えることを特徴とする雑草抑制装置。
【請求項6】
前記導電体は、前記導電ラインと前記アースラインの間に絶縁被覆線を配置して網状に形成した絶縁性ネットであって、前記導電体を3~10cm離間した二層にして前記電柵に近接して設けられたフェンスに斜めに立てかけるか又は吊り下げ、かつ、前記二層の前記導電体のうち前記フェンスからみて外側の前記導電体は大地から3cm以上離して設置することを特徴とする請求項2に記載の雑草抑制装置。
【請求項7】
前記導電体は、前記導電ラインと前記アースラインの間に絶縁被覆線を配置して網状に形成した絶縁性ネットであって、3~10cm離間した二層にして前記電柵に近接して設けられたフェンスに斜めに立てかけて設置する導電体と、前記フェンスに吊り下げて設置する導電体との組み合わせからなる請求項2に記載の雑草抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雑草抑制装置、特に、伸長してくる雑草を感知して放電電荷によるダメージを与える、全自動で設置型の雑草抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路における植栽作業の9割以上が、のり面や道路脇の周辺、中央分離帯の除草作業であるが、傾斜の少ない道路脇や路肩の作業には、芝刈りロボットやトリマー式自走草刈機を取り入れ、安全と景観保護のため定期的に除草を行っている。また、傾斜のあるのり面やその道路脇周辺の除草には草刈機を取り付けた多目的作業用トラック(ウニモグ)などが利用されている。しかしながら、植栽作業のほとんどは熟練者の草刈り機による手作業が中心となっているのが現状である。
また、近年、設置面積が増加傾向にある大型太陽光発電施設においても、雑草が下の架台からパネル面にまで伸長し、従来の手作業に代わる除草方法の開発が期待されている。
除草剤は、現代農業における雑草の主要な防除方法であるが、その過剰使用により、除草剤耐性雑草が急速に進化している。除草剤耐性の問題や,農薬の使用量を減らすという長年の社会的関心を考えると,除草剤に代わる真の総合的な雑草管理戦略が緊急に必要であるといえる。
【0003】
現在、農薬を効率よく植物に吸着させるため、静電気を利用した農薬散布法は開発され実用化されているものの、静電気を利用して除草する技術は実用化されているわけではない。しかし、静電気による雑草抑制については、いくつかその抑制方法が、下記の先行技術文献において提案されている。
特許文献1には、高電圧で発生させた電流を手動、または、金属ラインから雑草に与え、火花放電によって根まで枯らすシステムを提案している。また、非特許文献1には、つる性雑草である葛に対して電気柵を利用して伸長抑制する方法が示されている。非特許文献2と非特許文献3には、電気柵を利用して地面から上方向に成長する雑草の抑制方法が示されている。非特許文献2と3に記載されている方法は、本発明の発明者等が考案した技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Use of Pulsed Arc Discharge Exposure to ImpedeExpansion of the Invasive Vine Pueraria montana」MDPI 2020年12月3日発行;https://doi.org/10.3390/agriculture10120600
【非特許文献2】「Use of a Pair of Pulse-Charged Grounded Metal Nets as an Electrostatic Soil Cover for EradicatingWeed Seedlings」MDPI 2023年4月 https://doi.org/10.3390/agronomy13041115
【非特許文献3】「A Simple Electrostatic Apparatus for Controlling Weeds on Slopes without Causing Soil Erosion」American Journal of Civil Engineering and Architecture 2024年1月4日発行;Available online at http://pubs.sciepub.com/ajcea/12/1/1 doi:10.12691/ajcea-12-1-1.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る方法は、雑草を火花放電によるダメージで枯らすため使用する電流値が大きく、火災を引き起こす可能性がある。そのため、設置型にすることは困難であり、人手が要求される手作業となり、草刈機による手作業とほとんど変わらない。
【0007】
非特許文献1に記載されている方法は、本発明の発明者等が考案した技術であるが、葛の木の侵入拡大を阻止するために、電界を利用した簡易な装置を設計し、蔓(つる)を伸ばしている葛の苗木を用い、接地した蔓(つる)の先端と負電圧にパルス充電した導線との間でアーク放電を発生させる実験を行った。該実験の結果、高電圧で加速された自由電子が電界中の植物体を通過することで、植物の生存に有害な影響を与えることが確認できた。しかしながら、当該実験に用いられた装置は、帯電ラインが1本であったことから、蔓(つる)性雑草の先端は容易に通過でき、そのラインを避けて通り抜けた蔓(つる)性雑草は通常通り生育するという問題がある。
【0008】
そこで、上記問題に鑑み、発明者らが取り組んできた静電気を利用する下記既存技術を発展させ、人手に頼らない固定式で全自動による雑草抑制装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る雑草抑制装置は、所望の領域に囲設した導電線及び該導電線に電圧を印加する電圧印加部とからなる電柵と、該電柵に接続した導電体とを備え、該導電体は、雑草が伸長する方向に所定の間隔で配置され、雑草が伸長した先端が導電体までの距離が1~2cmに近接すると、導電体に電荷を供給して静電場が発生し、導電体から雑草の先端を狙って空中放電を与え、雑草を通じて電荷が大地に移動することを特徴とする。雑草は導電性をもっており、地面に根をはっていることからアースされた導体とみなすことができる。なお、導電体は、金属製ネットにすると好適である。また、雑草抑制装置は、電柵が太陽光発電により稼働するようにすると好適である。
【0010】
また、本発明に係る雑草抑制装置は、所望の領域に囲設した導電線及び該導電線に電圧を印加する電圧印加部とからなる電柵と、該電柵に接続した導電体とを備える雑草抑制装置であって、導電ラインとアースラインそれぞれが3cmから10cmの間隔を保持して平行に複数のラインで配列したものであり、蔓性雑草の先端が、導電ラインまたはアースラインのいずれかに接触し、さらに伸長して別の導電ラインまたはアースラインに近づくと、自動的に蔓性雑草の先端に空中放電が誘発され蔓性雑草の蔓の伸長を抑制することを特徴とする。なお、導電体は、導電ラインとアースラインの間に絶縁被覆線を配置して網状に形成した絶縁性ネットであって、電柵に近接して設けられたフェンスに斜めに立てかけるか又は吊り下げて設置するようにすると好適である。
【0011】
また、本発明に係る雑草抑制装置は、所望の領域に囲設した導電線及び該導電線に電圧を印加する電圧印加部とからなる電柵と、該電柵に接続した第1の導電体と第2の導電体を備え、第1の導電体は、雑草が伸長する方向に所定の間隔で配置され、雑草が伸長した先端が第1の導電体までの距離が1~2cmに近接すると、第1の導電体に電荷を供給して静電場が発生し、帯電した前記第1の導電体から雑草の先端を狙って空中放電を与え、他方、第2の導電体は、導電ラインとアースラインそれぞれが3cmから10cmの間隔を保持して平行に複数のラインで配列したものであり、かつ、導電ラインとアースラインの間に絶縁被覆線を配置して網状に形成した絶縁性ネットであって、電柵に近接して設けられたフェンスに斜めに立てかけるか又は吊り下げて設置することで、蔓性雑草の先端が、導電ラインまたはアースラインのいずれかに接触し、さらに伸長して別の導電ラインまたはアースラインに近づくと、自動的に蔓性雑草の先端に空中放電が誘発されるようにしてもよい。
【0012】
さらに、本発明に係る雑草抑制装置は、所望の領域に囲設した金属性ネット及び該金属製ネットに電圧を印加する電圧印加部とからなる電柵と、該電柵に接続した第1の金属製ネットと、雑草が生えた領域の地面に接地した第2の金属製ネットと、を備える雑草抑制装置であって、第1の金属製ネットは、雑草が伸長する方向に所定の間隔で配置され、雑草が伸長した先端が第1の金属製ネットまでの距離が1~2cmに近接すると、第1の金属製ネットに電荷を供給して静電場が発生し、第1の金属製ネットから雑草の先端を狙って空中放電を与え、雑草を通じて地面に接地した第2の金属製ネットに電荷が移動することを特徴とする。
【0013】
またさらに、本発明に係る雑草抑制装置は、蔓性雑草の葛に対しても有効である。金属製ネットとアースに接地された金属製ネットの間に絶縁支持体を配置し、金属製ネット間を3~10cm離間した二層にしてフェンスに斜めに立てかけるか又は吊り下げることを特徴とする。ただし、二層の金属製ネットのうちフェンスからみて外側の電気柵に接続された金属製ネットは、金属ネットから大地への自然放電を避けるため、大地から3cm以上離して設置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の雑草抑制装置は、雑草が伸長して金属ネットに近づくことでアーク放電が誘発される「自然誘発システム」を適用しているので、人手が不要の設置型を実現できる。また、雑草の伸長は抑制されるが、根は生きているので、土壌は通常通り安定に保持されており、根まで枯らす除草剤のように土壌が崩れやすくなる現象を引き起こさない。
蔓性雑草の中でも、葛は根が地下深くにあり、除草剤で駆除するのが困難な雑草で、伸長した葛の蔓(つる)はフェンスに巻き付いて這い登る習性があり、生育旺盛な時期にはフェンスが葛で覆われることになる。この状態で、フェンスが風で煽られると、フェンスが直接風を受け、フェンスの倒壊を引き起こすことになるが、本発明の雑草抑制装置をフェンスに設置すれば、フェンス倒壊の問題を解決できる効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明に係る雑草抑制装置1の基本原理を示す。
【
図4】本発明に係る雑草抑制装置2の導電体20の構造を示す。
【
図5】本発明に係る雑草抑制装置2の基本原理を示す。
【
図6】公知技術での静電場スクリーン発生装置の静電場及び静的電場の形成を簡単に説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。各図において、同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は、本発明を理解するために誇張して表現している場合もあり、必ずしも縮尺どおり精緻に表したものではないことに留意されたい。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に示した具体的な用途や形状・寸法などには限定されるものではない。以下、図面を参照しつつ、本発明に係る雑草抑制装置の実施形態を説明する。
【0017】
本発明は、本願発明者が以前に開発した、特にSD-スクリーン(単印加・双極型静電場スクリーン)と呼ばれる静電場スクリーン発生装置の原理を利用してさらに改良し発明に至ったものである。実施例を説明する前に、
図6を参照しながら、公知技術(特許第5252449号)に示されるSD-スクリーンの原理について説明する。被覆体01は、軟質塩化ビニル01bに鉄棒01aを通して作製される。この被覆体1の片側には、ステンレス製のアース網(アース電極)02がある。被覆体01とアース網02(アース電極)の間隔は3mmとして、各層面が平行になるように配置する。まず、被覆体01に電圧を印加すると各被覆体の周りに静電場が形成される。この静電場にアース網02(アース電極)を挿入するのである。そうすると、例えば被覆体01にマイナス電圧を印加すると、アース網02(アース電極)の被覆体に対向する側がプラスに分極する。すなわち、静電場にアース網02(アース電極)を挿入することにより、静電場空間に正負一対の電極を作り、静電場の内部に電場(以下、「静的電場」という。)を形成させるのである。この静的電場には、常に可動電荷をマイナス極(被覆体01)からプラス極(アース網02)に押しやる力が働き、虫等が入ると虫等の持つ電荷が押し出され、押し出された電荷はアース網02(アース電極)に吸収される。そうすると、電荷を奪われた虫等はプラスに帯電し、マイナス極(被覆体01)に強く誘引・捕捉される原理であり、「電界発生方式」ともいわれる。
本発明では、上述の原理を発展させ、静電場で誘発される放電を利用すれば、静電場に向かって植物体が近づくと、空中放電が誘発され、植物体にダメージを与え、その成長を抑制することもできる雑草抑制装置を提案するものである。本発明は、空中放電の誘発を雑草感知センサとして利用した、設置型で全自動の雑草抑制装置であることが理解されるであろう。
【0018】
空気中にプラスとマイナスに帯電した2つの導体が存在すると、その周辺に静電場が形成される。静電場の空気は電離されてプラズマ状態となり、生成されたプラスおよびマイナスの電荷によって空気の電気的抵抗値が低下する。静電場空間の抵抗値が低下することによって、帯電している電位の高い方から低い方へ電荷が移動できるようになり、空中放電が発生する。
空中放電の発生には、放電を受ける側がアースに接地していることが重要なポイントとなる。また、成長した植物が電線にもたれかかったり、接触したりした場合でも、植物に対して放電は起こらない。植物体は、不完全な導体で、植物体の長さが5~8cm程度までなら電気を通すが、それより長くなると抵抗値が大きくなり電気を通さなくなると思われる。植物体の長さと抵抗値の関係を調べたところ、比例関係にあることが分かっている。発明者等は、帯電導体によって雑草が感知され、空中放電が誘発される空間をつくり、大地に根を張ることによりアースされている雑草への適用を想到するにいたった。
【実施例0019】
実施例1においては、雑草抑制装置1の基本的構造と基本的原理を図面に基づき説明する。
まず、雑草抑制装置1の基本的構造を説明する。
図1は、本発明に係る雑草抑制装置1を示す概念図である。
図2は、本発明に係る雑草抑制装置1の基本原理を説明するための図である。
図1を参照する。
図1に示すとおり、本発明に係る雑草抑制装置1は、所望の領域に囲設した導電線及び該導電線に電圧を印加する電圧印加部とからなる電柵11と、電柵11に帯電ライン14を介して接続した導電体10とを備え、導電体10は、雑草が伸長する方向に所定の間隔で配置され、伸長した雑草の先端が導電体10までの距離1~2cmに近接すると、導電体10に電荷を供給して静電場が発生し、帯電した導電体10から雑草の先端を狙って空中放電を与えることを特徴とする。
なお、本明細書にいう「電柵」とは、電気牧柵のことを指し、家畜を放牧管理する際に用いられる施設の一つである。放牧地の周囲に鉄線を張りめぐらし,電源の一端をこの鉄線 (牧柵線) に,他の一端を地中に接続して,牧柵線に触れると動物体と地中を通る電気回路が形成され,電流が流れる仕組みになっている。この電気的衝撃によって,家畜が柵外へ脱出するのを防ごうというものである。施設費がそれほどかからず,柵の移動や取除きが容易にでき,放牧を実施するうえで非常に便利であるため,広く用いられるが、実施例においては市販の装置を用いている。
【0020】
なお、導電体10は、金属製ネットであると好適であり、
図1で示すとおり、絶縁性支持体13によって、雑草P1、P2、P3等を一定の空間を開けて覆うように配置される。地面から地上部に成長する雑草への対応は、金属ネットを利用するとよい。絶縁性の樹脂を利用して地面から3~10cmの位置に金属ネットを地面とある程度平行にセットする。金属ネットの素材に制限はなく、導電性をもつ材質であればよい。エキスパンドメタル、パンチングメタル、平織り金網、亀甲金網など網目の構造にも制限はなく、自由に選択できる。金属ネットの目合いは、5cm以下であれば利用できる。金属ネットを保持する絶縁性の樹脂の素材にも制限はなく、保持することができれば、構造に制限はない。
また、雑草抑制装置1は、電柵11が太陽光発電により稼働するように電源部が太陽電池パネル12であると好適であるが、限定されない。また、電柵11は接地されている。
【0021】
図2を参照する。
図2は、本発明に係る雑草抑制装置1の基本原理を説明するための図である。
通常、大地で生育している雑草は、プラスおよびマイナス、そのどちらにも帯電しておらず、電気的に中性である。しかしながら、雑草は大地に根を張っており、電気的にアースに接地された状態である。
図2に示すとおり、帯電した導体(例えば、プラス)10に、アースされた雑草Pを近づけると、空中放電が誘発され、電荷(プラス)が、符号イ、ロ、ハ、ニの方向に移動し、土壌表面に拡散する。電荷は根に届くことはない。
大地に根を張っている雑草Pは、常にアースに接地されている生物的な導体と考えられるので、この現象を応用すれば、帯電した導体10から、伸長して近づいてくる雑草を狙って空中放電を与えれば、その電荷移動によるダメージによって伸長を抑制できるとするのが、雑草抑制の基本原理である。
【0022】
前述したとおり、空気中にプラスとマイナスに帯電した2つの導体が存在すると、その周辺に静電場が形成される。静電場の空気は電離されてプラズマ状態となり、生成されたプラスおよびマイナスの電荷によって空気の電気的抵抗値が低下する。静電場空間の抵抗値が低下することによって、帯電している電位の高い方から低い方へ電荷が移動できるようになり、空中放電が発生する。
【0023】
雑草に対する放電は、雑草が伸長して金属ネットに近づくと誘発される。金属ネットとの距離が遠い(3~5cm)場合、空中放電は発生せず、雑草が伸長して金属ネットに近づくと(例えば、1~2cmに)、1秒間に1~数回の空中放電を受けることになる。空中放電は、雑草がダメージを受けて、距離が遠く離れる、または、雑草がダメージを受けて枯れると導電性が低下して自動的に停止する。また、複数の雑草が同時に近づくと、最も近い雑草を感知して空中放電を与え、ダメージがある程度進むと、次の雑草への空中放電を開始する。この放電は、雑草の伸長レベルによって全自動で感知され、雑草は常に一定の高さに抑制される。
【0024】
以上のとおり、雑草抑制装置1の特徴は、導体間の距離に対応して空中放電が誘発される現象をいわば「雑草感知センサ」に応用する点である。通常、植物は大地に根を張っており、電気的にアースに接地された状態である。また、植物体は、その表皮および内部組織に多くの水分を含んでおり、電気的に導体の特性をもつことからアースに接地された導体に近いと考えられる。本願の新たな視点は、大地に根を張っている雑草を、「常にアースに接地されている導体」と考えるところである。これらの現象を組み合わせれば、帯電した導体から、成長して近づいてくる雑草の先端部を狙って空中放電を与え、そのダメージによって雑草の伸長抑制が可能になるのである。
クズは秋の七草のひとつとされているが、農地や植林に侵入すると、作物や樹木に巻き付いて覆いかぶさり、被害を及ぼす有害雑草である。日本の農業において、その被害額は数十億円と推定されており、さらに、公共緑地を含むと二百億円以上になると考えられている。被害を受けている公共緑地としては、道路や線路わき、用水路や側溝、電柱や高圧鉄塔などがあり、近年では、メガソーラー施設にも被害が出ている。その旺盛な繁殖力が着目され、家畜の飼料、緑化や砂防を目的としてアメリカへ導入されたが、それらが野生化し、日本と同様に公共緑地に被害を及ぼしている。近年では、電柱を登って電線に巻き付き、その重さで電線を切断する被害も報告されている。
クズの蔓は10m以上に伸長し、分枝を繰り返して周囲に覆い被さる様に成長する。根は長さ1.5m、太さ20cm以上の塊根となり、デンプンを蓄えることができる。冬に葉が枯れてもそのデンプンを利用して越冬し、春になると旺盛に繁殖する有害雑草である。除草剤を散布して葉や茎を枯らすことはできるが、根の位置を特定することが難しく、効果的に根を枯らせないのが現状である。
伸長したクズのつるはフェンスに巻き付いて這い登る習性があり、生育旺盛な時期にはフェンスが葛で覆われることになるが、この状態で、フェンスが風で煽られると、フェンスが直接風を受け、フェンスの倒壊を引き起こすことになる。実施例2の雑草抑制装置2は、当該クズ等蔓性雑草対策用の装置といえる。
なお、実施例1の雑草抑制装置1と実施例2の雑草抑制装置2の両方を備える構成にしてもよい。この場合の両者の配置は自由な裁量で決定することができ、蔓性雑草と非蔓性雑草の両方の伸長を抑制しうる。