(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139715
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】熱電素子
(51)【国際特許分類】
H10N 10/857 20230101AFI20241002BHJP
H10N 10/852 20230101ALI20241002BHJP
【FI】
H10N10/857
H10N10/852
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024031690
(22)【出願日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2023050263
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】藤田 利晃
(72)【発明者】
【氏名】松永 卓也
(72)【発明者】
【氏名】安達 真樹
(57)【要約】
【課題】 熱電変換効率が高く、高いZT値を得ることが可能で、表面実装及び小型化が可能な熱電素子を提供すること。
【解決手段】一端部1aと他端部1bとを有した第1熱電材料部1と、第1熱電材料部と直接又は導電体2aを介して接合された第2熱電材料部2と、第1熱電材料部に接続された一対の電極3とを備え、第1熱電材料部が、第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有し、第1熱電材料部と第2熱電材料部との接合体4が、一端部側と他端部側とに端面を有し、一対の電極が、第2熱電材料部に接触しない状態で第1熱電材料部に接触していると共に、接合体の前記一端部側の端面と前記他端部側の端面とに形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部と他端部とを有した第1熱電材料部と、
前記第1熱電材料部と直接又は導電体を介して接合された第2熱電材料部と、
前記第1熱電材料部に接続された一対の電極とを備え、
前記第1熱電材料部が、前記第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有し、
前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部との接合体が、前記一端部側と前記他端部側とに端面を有し、
前記一対の電極が、前記第2熱電材料部に接触しない状態で前記第1熱電材料部に接触していると共に、前記接合体の前記一端部側の端面と前記他端部側の端面とに形成されていることを特徴とする熱電素子。
【請求項2】
請求項1に記載の熱電素子において、
前記接合体の前記一端部側の端面と前記他端部側の端面とで、少なくとも前記第2熱電材料部を覆って形成された一対の絶縁性材料部を備えていることを特徴とする熱電素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱電素子において、
前記第1熱電材料部が、前記第2熱電材料部の上下面にそれぞれ接合され、
前記一対の電極が、前記上下面の前記第1熱電材料部のそれぞれに接続されていることを特徴とする熱電素子。
【請求項4】
請求項3に記載の熱電素子において、
前記第1熱電材料部が、前記第2熱電材料部の両側面にもそれぞれ接合され、
前記一対の電極が、前記両側面の前記第1熱電材料部のそれぞれにも接続されていることを特徴とする熱電素子。
【請求項5】
請求項3に記載の熱電素子において、
前記第1熱電材料部が、前記第2熱電材料部の両端面にもそれぞれ接合され、
前記一対の電極が、前記両端面の前記第1熱電材料部上に形成されていることを特徴とする熱電素子。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の熱電素子において、
前記第1熱電材料部が、前記第2熱電材料部よりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きいことを特徴とする熱電素子。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の熱電素子において、
前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部とが、いずれもA2+δM(但し、AがAg,Cuの少なくとも1種であり、Mが、S,Se,Teの少なくとも1種である。)で形成されていることを特徴とする熱電素子。
【請求項8】
請求項7に記載の熱電素子において、
前記第1熱電材料部が、Ag-Sで形成され、
前記第2熱電材料部が、Ag-Se又はAg-S-Seで形成されていることを特徴とする熱電素子。
【請求項9】
請求項7に記載の熱電素子において、
前記第1熱電材料部が、Cu-Sで形成され、
前記第2熱電材料部が、Cu-Seで形成されていることを特徴とする熱電素子。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の熱電素子において、
前記第1熱電材料部が、少なくともBi,Teを含む材料で形成されていることを特徴とする熱電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱電変換効率を得ることができる熱電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、組成の異なる複数の材料を接合させた、いわゆるセグメント型の熱電素子が知られている。
例えば、特許文献1には、基板上に第1の電極と、第2の電極と、熱電材料から成るP型半導体薄膜と、熱電材料から成るN型半導体薄膜とが形成され、P型半導体薄膜は第1の電極に接続されており、N型半導体薄膜は第2の電極に接続されている熱電素子において、P型半導体薄膜とN型半導体薄膜とが重なって接合しており、その接合面が基板の略全面に存する熱電素子が記載されている。
【0003】
また、特許文献2及び3にも、互いに異なる材料の第1熱電材料と第2熱電材料とが接合され、一対の電極の一方が第1熱電材料に接続され、一対の電極の他方が第2熱電材料に接続された熱電素子が記載されている。すなわち、これら従来の熱電素子では、接合された第1熱電材料と第2熱電材料とにそれぞれ電極を設け、第1熱電材料と第2熱電材料とが電気的に直列接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-303471号公報
【特許文献2】特開2009-32960号公報
【特許文献3】特開2018-152464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、熱電発電の実用化に必要な熱電素子の性能として、熱電変換材料のエネルギー変換性能を表す指標であるZT値(無次元性能指数ZT(=S2T/ρκ):但し、S,T,ρ,κは、それぞれゼーベック係数(熱起電力;温度差1K当たりで生じる起電力)、絶対温度、電気抵抗率、熱伝導率κ)が、1以上であることが要求されている。また、熱電変換で得られる電圧出力と発電量(=電圧×電流)とを共に増大させるため、P型特性、N型特性を有し、かつ、ゼーベック係数の絶対値が100μV/K以上であり、かつ、出力因子(パワー因子、Power factor PW=S2/ρ))が1×10-3W/mK2を上回る高い性能がもつことが要求されている。
これまで、様々な材料系にて、単一材料を用いてZT値の増大を目的とした研究開発がされてきたが、室温近傍温度におけるZT値が1程度の実用化されている材料はBi-Te系材料のみであり、Bi-Te系材料の耐熱性が低く、200℃程度の温度以下での使用が限定され、熱電変換効率が小さいことから、熱電の実用化が困難となっていた。
一方、従来の上記セグメント型の熱電素子を用いると、高温側に200℃以上の耐熱性を有する熱電材料を配置することができるが、セグメント型の熱電素子を構成するそれぞれの熱電材料のZT値が小さく、複数の熱電素子が電気的かつ熱的に直列回路を形成されているため、素子全体としてのZT値が小さくなり、熱電変換効率の増大を図ることが困難であった。さらに、表面実装が可能で小型化できる熱電素子が要望されている。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、熱電変換効率が高く、高いZT値を得ることが可能で、表面実装及び小型化が可能な熱電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る熱電素子は、一端部と他端部とを有した第1熱電材料部と、前記第1熱電材料部と直接又は導電体を介して接合された第2熱電材料部と、前記第1熱電材料部に接続された一対の電極とを備え、前記第1熱電材料部が、前記第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有し、前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部との接合体が、前記一端部側と前記他端部側とに端面を有し、前記一対の電極が、前記第2熱電材料部に接触しない状態で前記第1熱電材料部に接触していると共に、前記接合体の前記一端部側の端面と前記他端部側の端面とに形成されていることを特徴とする。
【0008】
この熱電素子では、第1熱電材料部と第2熱電材料部との接合体が、一端部側と他端部側とに端面を有し、一対の電極が、第2熱電材料部に接触しない状態で第1熱電材料部に接触していると共に、接合体の一端部側の端面と他端部側の端面とに形成されているので、表面実装及び小型化が可能であると共に、高い熱電変換効率及びZT値を有した素子を実現可能である。
すなわち、本発明の熱電素子は、全体がチップ化されていると共に、両端面に電極が形成されていることで、半田等による表面実装がし易く、コンパクトな形状であるため、設置場所の自由度が高い。例えば、既存のパイ型の熱電モジュールでは、基板上に電極付きの熱電素子が複数個、電気的に直列接続されているが、熱電モジュールの構造を変えることなく、本発明のチップ化された熱電素子を設置することが可能となる。
【0009】
なお、この熱電素子では、第1熱電材料部が、第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有し、一対の電極が、第1熱電材料部の一端部側と他端部側とに互いに離間して接続されているので、第1熱電材料部と第2熱電材料部とが電気的かつ熱的な並列回路を構成し、一端部側と他端部側との間で温度差が生じる(熱流が生じる)と、高い熱電変換効率で起電力が発生する。すなわち、一対の電極が接続され高いゼーベック係数(絶対値)かつ高い電気抵抗値を有する第1熱電材料部では、主にゼーベック効果に従う起電圧経路を構成し、第1熱電材料部に接合され接触している低い電気抵抗値を有する第2熱電材料部では、電流経路を構成する。第2熱電材料部内を流れる電流値はオームの法則に従うことが望ましい。このように、起電圧経路と電流経路との並列回路が構成されることにより、起電圧経路とは別に電流パスとなる電流経路が形成されることで、第1熱電材料部の高いゼーベック係数(絶対値)を維持したまま電気伝導度が増加し、高い熱電変換効率及びZT値を得ることができる。
なお、第2熱電材料部と一対の電極とは直接接合されておらず、第1熱電材料部を介して電気的接触をしている。本発明は、組成の異なる複数の材料を接合させた熱電素子の構造をとるが、第1熱電材料部に一対の電極(2つの電極)を接続することを特徴とする。(セグメント型の熱電素子も、組成の異なる複数の材料を接合させた構造をとるが、一対の電極は互いに異なる熱電材料に接続されており、本発明とは異なる電極接続方法をとる。)
【0010】
第2の発明に係る熱電素子は、第1の発明において、前記接合体の前記一端部側の端面と前記他端部側の端面とで、少なくとも前記第2熱電材料部を覆って形成された一対の絶縁性材料部を備えていることを特徴とする。
すなわち、この熱電素子では、接合体の一端部側の端面と他端部側の端面とで、少なくとも第2熱電材料部を覆って形成された一対の絶縁性材料部を備えているので、一対の電極が接合体の端面において第2熱電材料部に接触することを絶縁性材料部より防ぐことができる。
【0011】
第3の発明に係る熱電素子は、第1又は第2の発明において、前記第1熱電材料部が、前記第2熱電材料部の上下面にそれぞれ接合され、前記一対の電極が、前記上下面の前記第1熱電材料部のそれぞれに接続されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電素子では、第1熱電材料部が、第2熱電材料部の上下面にそれぞれ積層され、一対の電極が、上下面の第1熱電材料部のそれぞれに接続されているので、上下にそれぞれ起電圧経路が形成され、より高い熱電変換効率を得ることができる。
【0012】
第4の発明に係る熱電素子は、第3の発明において、前記第1熱電材料部が、前記第2熱電材料部の両側面にもそれぞれ接合され、前記一対の電極が、前記両側面の前記第1熱電材料部のそれぞれにも接続されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電素子では、第1熱電材料部が、第2熱電材料部の両側面にもそれぞれ接合され、一対の電極が、両側面の第1熱電材料部のそれぞれにも接続されているので、上下面だけでなく両側面にもそれぞれ起電圧経路が形成され、さらに高い熱電変換効率を得ることができる。
【0013】
第5の発明に係る熱電素子は、第1の発明において、前記第1熱電材料部が、前記第2熱電材料部の両端面にもそれぞれ接合され、前記一対の電極が、前記両端面の前記第1熱電材料部上に形成されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電素子では、第1熱電材料部が、第2熱電材料部の両端面にもそれぞれ接合され、一対の電極が、前記両端面の第1熱電材料部上に形成されているので、一対の電極から両端面の第1熱電材料部を介して少なくとも外周面上の第1熱電材料部に起電圧経路が形成され、より高い熱電変換効率を得ることができる。また、第2熱電材料部の両端面に絶縁性材料部を形成する必要がなく、製造工程を削減することができる。
【0014】
第6の発明に係る熱電素子は、第1又は第2の発明において、前記第1熱電材料部が、第2熱電材料部よりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きいことを特徴とする。
すなわち、この熱電素子では、第1熱電材料部が、第2熱電材料部よりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きいので、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路と電気伝導が十分に高い電流経路とが構成されることで、より高い熱電変換効率及びZT値を得ることができる。
【0015】
第7の発明に係る熱電素子は、第1又は第2の発明において、前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部とが、いずれもA2+δM(但し、AがAg,Cuの少なくとも1種であり、Mが、S,Se,Teの少なくとも1種である。)で形成されていることを特徴とする。
なお、第1熱電材料部A2+δMが、前記第2熱電材料部A2+δMよりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きくなるように、材料の組成を設計することで、大きなZT値を得ることが可能となる。
【0016】
第8の発明に係る熱電素子は、第7の発明において、前記第1熱電材料部が、Ag-Sで形成され、前記第2熱電材料部が、Ag-Se又はAg-S-Seで形成されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電素子では、例えば第1熱電材料部をAg2Sで形成し、第2熱電材料部をAg2Seで形成することで、少なくとも室温におけるZT値が1以上を得ることが可能になる。
【0017】
第9の発明に係る熱電素子は、第7の発明において、前記第1熱電材料部が、Cu-Sで形成され、前記第2熱電材料部が、Cu-Seで形成されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電素子では、例えば第1熱電材料部をCu2Sで形成し、第2熱電材料部をCu2Seで形成することで、少なくとも室温におけるZT値が1以上を得ることが可能になる。
【0018】
第10の発明に係る熱電素子は、第1から第6の発明のいずれかにおいて、前記第1熱電材料部が、少なくともBi,Teを含む材料で形成されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電素子では、第1熱電材料部がBi-Te又はBi-Sb-Te等の少なくともBi,Teを含む材料であって、例えば第1熱電材料部をBi2Te3で形成し、第2熱電材料部をCu0.55Ni0.45(コンスタンタン)で形成することで、少なくともBi2Te3単体の2倍程度のパワー因子を得ることが可能になる。なお、第1熱電材料部が、第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有していれば、第2熱電材料部の組成にかかわらず、第1熱電材料部単体の場合よりも熱電特性が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る熱電素子によれば、第1熱電材料部と第2熱電材料部との接合体が、一端部側と他端部側とに端面を有し、一対の電極が、第2熱電材料部に接触しない状態で第1熱電材料部に接触していると共に、接合体の一端部側の端面と他端部側の端面とに形成されているので、表面実装及び小型化が可能であると共に、高い熱電変換効率及びZT値を有した素子を実現可能である。
したがって、本発明に係る熱電素子では、高い設置自由度を有して回路やモジュールに容易に実装可能であると共に、高い熱電変換効率及びZT値を得ることから、温度差によって高効率に電気を取り出す環境発電の実用化を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る熱電素子の第1実施形態において、熱電素子を示す断面図である。
【
図2】第1実施形態において、熱電素子の原理を説明するための概念図である。
【
図3】本発明に係る熱電素子の第2実施形態において、熱電素子を示す軸線方向(一端部から他端部への方向)に対して垂直な断面図である。
【
図4】第2実施形態において、熱電素子を示す斜視図である。
【
図5】本発明に係る熱電素子の第3実施形態において、熱電素子を示す軸線方向(一端部から他端部への方向)に沿った断面図である。
【
図6】本発明の熱電素子の原理を実証するために作製した本発明の熱電素子の実施例を示す断面図である。
【
図7】本発明に係る熱電素子の実施例において、熱電素子の発電特性を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る熱電素子における第1実施形態を、
図1及び
図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0022】
本実施形態の熱電素子10は、
図1及び
図2に示すように、一端部1aと他端部1bとを有した第1熱電材料部1と、第1熱電材料部1と直接又は導電体2aを介して接合された第2熱電材料部2と、第1熱電材料部1に接続された一対の電極3とを備えている。
なお、上記導電体2aを介して第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とを接合した場合、導電体2aは中間層としても機能する。上記導電体2aは、例えば半田やIn等の導電性接合材である。
上記第1熱電材料部1は、第2熱電材料部2よりも高いゼーベック係数及び高い電気抵抗率を有している。
また、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2との接合体4は、一端部側と他端部側とに端面を有したチップ状に形成されている。すなわち、接合体4は、板状または直方体形状となっており、その両端面に第1熱電材料部1の一端部1aと他端部1bとが配されている。
第1熱電材料部1の厚み(つまり、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2との積層方向の厚み)は100nm以上10mm以下が望ましく、1μm以上3mm以下でもよい。第2熱電材料部2の厚みは、0.1mm以上10mm以下が望ましく、0.5mm以上3mm以下でもよい。
【0023】
上記一対の電極3は、第2熱電材料部2に接触しない状態で第1熱電材料部1に接触している。
すなわち、本実施形態の熱電素子10は、上記接合体4の一端部1a側の端面と他端部1b側の端面とで、少なくとも第2熱電材料部2を覆って形成された一対の絶縁性材料部5を備えている。
また、一対の電極3は、接合体4の一端部1a側の端面と他端部1b側の端面とに形成されている。
すなわち、上記一対の電極3は、第1熱電材料部1の一端部1a側と他端部1b側とに互いに離間して接続されている。
さらに、上記一対の電極3は、第2熱電材料部2には接触しておらず、第2熱電材料部2から離れて配されている。
また、上記接合体4の一端部1a側の端面と他端部1b側の端面とは対向して配置されている。
【0024】
上記第1熱電材料部1は、第2熱電材料部2の上下面にそれぞれ接合されている。
また、一対の電極3は、前記上下面の第1熱電材料部1のそれぞれに接続されている。
すなわち、上記一対の電極3は、第1熱電材料部1の表面に接続されていると共に一対の絶縁性材料部5を覆って接合体4の両端面に形成されている。そして、一対の電極3は、一対の絶縁性材料部5を超えて接合体4の上下面(第1熱電材料部1)まで達している。
このように、一対の電極3は、第1熱電材料部1とだけ接触して接続されており、一対の絶縁性材料部5により第2熱電材料部2とは接触していない。
【0025】
上記第1熱電材料部1は、第2熱電材料部2よりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きいことが好ましい。
なお、第1熱電材料部1の室温の電気抵抗率は、10-5Ωcm以下が好ましい。
例えば、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とが、いずれもA2+δM(但し、AがAg,Cuの少なくとも1種であり、Mが、S,Se,Teの少なくとも1種である。)で形成されている。
なお、δの範囲が、-0.5≦δ≦+0.5であることが好ましい。δの範囲が-0.05~+0.02の範囲であることが更に好ましい。
【0026】
また、本発明では、ゼーベック係数の絶対値が0.1μV/K以上の材料を熱電材料とする。すなわち、第2熱電材料部2のゼーベック係数の絶対値は、0.1μV/K以上である。
さらに、第1熱電材料部1のゼーベック係数の絶対値は、10mV/K以下が好ましい。
また、第1熱電材料部1の室温での電気抵抗率が10mΩcm以下の場合、第2熱電材料部2よりも第1熱電材料部1の厚さが薄いことが好ましい。
また、第1熱電材料部1の室温での電気抵抗率が10mΩcm以下の場合であって、第2熱電材料部2の室温での電気抵抗率が1mΩcm以下かつ熱伝導率が10W/mK以上の場合、第1熱電材料部1の厚さは、第2熱電材料部2の厚さよりも厚いことが好ましい。
【0027】
A2+δMとしては、N型熱電素子の場合、例えば第1熱電材料部1が、Ag-Sで形成され、第2熱電材料部2が、Ag-SeやAg-S-Seで形成されている構成が採用可能である。P型熱電素子の場合、例えば第1熱電材料部1が、Cu-Sで形成され、第2熱電材料部2が、Cu-Seで形成されている構成が採用可能である。
例えば、第1熱電材料部1をAg2Sで形成し、第2熱電材料部2をAg2Seで形成することができる。なお、Ag2Sは、Ag2Seよりも、ゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きい。
また、第1熱電材料部1は、Cu2Sで形成され、第2熱電材料部2は、Cu2Seで形成されていても構わない。Cu2Sは、Cu2Seよりも、ゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きい。
また、第1熱電材料部1を、Bi-Te又はBi-Sb-Te等の少なくともBi,Teを含む材料で形成しても構わない。
例えば、第1熱電材料部1は、Bi2Te3又は(Bi0.7Sb0.3)Te3で形成され、第2熱電材料部2は、Cu0.55Ni0.45(コンスタンタン)で形成されていても構わない。Bi2Te3及び(Bi0.7Sb0.3)Te3は、Cu0.55Ni0.45よりも、ゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きい。
なお、上記Bi,Teを含む材料にRuやCu等の不純物を添加した第1熱電材料部1を、採用しても構わない。
【0028】
このように第1熱電材料部1は、低熱伝導性カルコゲナイド材料等の高電気抵抗の半導体材料や絶縁性材料であり、第2熱電材料部2は、半導体材料や合金等の低電気抵抗の導電性材料で形成される。
また、熱電素子10に印加される温度差を大きくするために、第1熱電材料部1及び第2熱電材料部2は、共に熱伝導率が小さいことが好ましい。特に、第1熱電材料部1は、ゼーベック効果により高い熱起電力を得るために、熱伝導率は10W/mK以下であることが好ましい。
なお、第1熱電材料部の熱伝導率は、0.02W/mK以上が好ましい。
【0029】
上記第1熱電材料部1は薄膜でも構わないが、第2熱電材料部2は第1熱電材料部1よりも厚い導電体バルク等が好ましい。
第1熱電材料部1の厚み(つまり、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2との積層方向の厚み)は100nm以上10mm以下が望ましく、1μm以上3mm以下でもよい。第2熱電材料部2の厚みは、0.1mm以上10mm以下が望ましく、0.5mm以上3mm以下でもよい。
第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とを、上記導電体2aを介して接合する場合は、導電体2aとして半田やIn等の導電性接合材が採用可能である。なお、この接合部に用いる導電体2aの電気抵抗率は、第2熱電材料部2の電気抵抗率と同程度であることが好ましい。
合金材料と半田材料とは、電気抵抗率と同程度であるケースが多い(10-4Ωcm程度のオーダー)。例えば、合金材料としてCu0.55Ni0.45(コンスタンタン)を用いると、第2熱電材料部2と半田の電気抵抗率が同程度のため、実質、第1熱電材料部1にとっては、電気伝導的な観点として、半田も第2熱電材料部2の一部としてみなせることができるので、熱電素子の設計の自由度が増える。
上記一対の電極3は、例えばAgペーストやAg半田等が採用可能であり、ディップ等により接合体4の両端面に形成される。
なお、一対の電極3の材料は、電気抵抗率が10-4Ωm以下のものが採用される。
上記絶縁性材料部5は、例えばアルミナやSiO2等で形成されている。
【0030】
本実施形態の熱電素子10を製造する方法は、第2熱電材料部2と第1熱電材料部1とを接合する接合工程と、第1熱電材料部1に一対の電極3を形成する電極形成工程とを有している。
例えば、上記接合工程では、第2熱電材料部2と第1熱電材料部1とを半田等の導電性接合材で接合する。
また、上記接合工程では、各種薄膜成長法(PVD法、スパッタ法、CVD法等の気相成長法)が採用される。
なお、第1熱電材料部1にカルコゲナイド材料を用いる場合は、第2熱電材料部2上に第1熱電材料部1をMBD法(分子線蒸着法)により成膜するのが好ましい。
【0031】
また、上記接合工程では、第2熱電材料部2の上に第1熱電材料部1をゾルゲル法により成膜しても構わない。
また、上記接合工程では、第1熱電材料部1となる粉体と第2熱電材料部2となる粉体とを積層させた状態で、第1熱電材料部1および第2熱電材料部2の焼結と、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2との接合とを同時に行うホットプレス法を採用しても構わない。
【0032】
このように本実施形態の熱電素子10では、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2との接合体4が、一端部側と他端部側とに端面を有し、一対の電極3が、第2熱電材料部2に接触しない状態で第1熱電材料部1に接触していると共に、接合体4の一端部1a側の端面と他端部1b側の端面とに形成されているので、表面実装及び小型化が可能で、高い熱電変換効率及びZT値を有した素子を実現可能である。すなわち、本実施形態の熱電素子10は、全体がチップ化されていると共に、両端面に電極3が形成されていることで、半田等による表面実装がし易く、コンパクトな形状であるため、設置場所の自由度が高い。
【0033】
なお、この熱電素子10では、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2よりも高いゼーベック係数及び高い電気抵抗率を有し、一対の電極3が、第1熱電材料部1の一端部1a側と他端部1b側とに互いに離間して接続されているので、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とが並列回路を構成し、一端部1a側と他端部1b側との間で温度差が生じる(熱流が生じる)と、高い熱電変換効率で起電力が発生する。
【0034】
すなわち、
図2に示すように、一対の電極3が接続され高ゼーベック係数(絶対値)かつ高い電気抵抗値を有する第1熱電材料部1では、主にゼーベック効果に従う起電圧経路R1を構成し、第1熱電材料部1に接合され接触している低い電気抵抗値を有する第2熱電材料部2では、電流経路R2を構成する。第2熱電材料部2内を流れる電流値はオームの法則に従うことが望ましい。このように、起電圧経路R1と電流経路R2との並列回路が構成されることにより、起電圧経路R1とは別に電流パスとなる電流経路R2が形成されることで、第1熱電材料部1の高いゼーベック係数(絶対値)を維持したまま一対の電極3間を流れる電気伝導度が増加し、高い熱電変換効率及びZT値を得ることができる。なお、
図2において矢印Yは、熱流方向(熱流束の流れる方向、温度差が生じる方向)である。
【0035】
また、接合体4の一端部1a側の端面と他端部1b側の端面とで、少なくとも第2熱電材料部2を覆って形成された一対の絶縁性材料部5を備えているので、一対の電極3が接合体4の端面において第2熱電材料部2に接触することを絶縁性材料部5より防ぐことができる。
さらに、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2の上下面にそれぞれ積層され、一対の電極3が、上下面の第1熱電材料部1のそれぞれに接続されているので、上下にそれぞれ起電圧経路R1が形成され、より高い熱電変換効率を得ることができる。
【0036】
また、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2よりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きいので、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路R1と電気伝導が十分に高い電流経路R2とが構成されることで、より高い熱電変換効率及びZT値を得ることができる。
なお、第1熱電材料部1のゼーベック係数の絶対値は、第2熱電材料部2よりもゼーベック係数の絶対値よりも、100μV/K以上大きくてもよい。第1熱電材料部1のゼーベック係数の絶対値と、第2熱電材料部2のゼーベック係数の絶対値との差は大きいほど望ましく、特に上限はないが、10000μV/Kであってもよい。
【0037】
また、第1熱電材料部1をAg2Sで形成し、第2熱電材料部2をAg2Seで形成することで、Ag2S単体、Ag2Se単体よりも、本発明の複合熱電素子の出力因子(PW=S2/ρ)が大きくなり、少なくとも室温におけるZT値が1以上のN型熱電素子を得ることが可能になる。
また、第1熱電材料部1をCu2Sで形成し、第2熱電材料部2をCu2Seで形成することで、Cu2S単体、Cu2Se単体よりも、本発明の複合熱電素子の出力因子(PW=S2/ρ)が大きくなり、少なくとも室温におけるZT値が1以上のP型熱電素子を得ることが可能になる。
また、第1熱電材料部1をBi2Te3で形成し、第2熱電材料部2をCu0.55Ni0.45(コンスタンタン)で形成することで、少なくともBi2Te3単体の2倍程度のパワー因子を有するN型熱電素子を得ることが可能になる。
また、第1熱電材料部1を(Bi0.7Sb0.3)2Te3で形成し、第2熱電材料部2をCu0.55Ni0.45(コンスタンタン)で形成することで、少なくとも(Bi0.7Sb0.3)2Te3単体の2倍程度のパワー因子を有するP型熱電素子を得ることが可能になる。
【0038】
次に、本発明に係る熱電素子の第2から第3実施形態について、
図3から
図6を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0039】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2の上下面にそれぞれ接合され、一対の電極3が、前記上下面の第1熱電材料部1のそれぞれに接続されているのに対し、第2実施形態の熱電素子20では、
図3及び
図4に示すように、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2の両側面にもそれぞれ接合され、一対の電極3が、前記両側面の第1熱電材料部1のそれぞれにも接続されている点である。
なお、接合体4は、板状又は直方体状のチップ状に形成されており、第2熱電材料部2の上下面と第2熱電材料部2の両側面とは直交している。
【0040】
すなわち、第2実施形態では、第1熱電材料部1が第2熱電材料部2の外周面全部を覆っており、第2熱電材料部2の外周4面全てに第1熱電材料部1が接合されている。
このように第2実施形態の熱電素子20では、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2の両側面にもそれぞれ接合され、一対の電極3が、両側面の第1熱電材料部1のそれぞれにも接続されているので、上下面だけでなく両側面にもそれぞれ起電圧経路R1が形成され、さらに高い熱電変換効率を得ることができる。
【0041】
次に、第3実施形態と第2実施形態との異なる点は、第2実施形態では、第1熱電材料部1が第2熱電材料部2の上下面及び両側面に接合されているのに対し、第3実施形態の熱電素子30では、
図5に示すように、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2の両端面にもそれぞれ接合され、一対の電極3が、前記両端面の第1熱電材料部1上に形成されている点である。
【0042】
すなわち、第3実施形態では、チップ状の第2熱電材料部2の表面全てが第1熱電材料部1で覆われた状態となっている。
このように、第3実施形態の熱電素子30では、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2の両端面にもそれぞれ接合され、一対の電極3が、前記両端面の第1熱電材料部1上に形成されているので、一対の電極3から両端面の第1熱電材料部1を介して外周面上の各第1熱電材料部1に起電圧経路R1が形成され、より高い熱電変換効率を得ることができる。また、第2熱電材料部2の両端面に絶縁性材料部を形成する必要がなく、製造工程を削減することができる。
【実施例0043】
本発明の熱電特性の原理を実証するために、
図6に示すようなサンプルを実施例として作製し、評価した結果を表1及び表2に示す。
本発明の実施例では、第1熱電材料部及び第2熱電材料部について上記実施形態で記載した複数の材料及び製法で作製し、室温(300K)における熱電特性(導電型判定(P/N型判定),ゼーベック係数,電気抵抗率及び出力因子)について調べた。
また、本発明の比較例として熱電材料単体で作製した熱電素子について、本発明の実施例と同様に評価を行った。
各実施例は、以下の様にして製作した。
なお、本発明の実施例では、評価用として、第2熱電材料部2の上面にのみ第1熱電材料部1を接合させている。また、一対の電極3を、第1熱電材料部1の上面に形成している。
【0044】
<実施例1,2><実施例9~12>(半田接合)
まず、第1熱電材料部となるBi-Teバルク焼結体(又はBi-Sb-Teバルク焼結体)と第2熱電材料部となるCu-Ni合金板又はCu板とを用意して、所定のサイズへ切断し、接合面を研磨した。
この後、上記Bi-Teバルク焼結体とCu-Ni合金板又はCu板との間の接合面には半田箔を設置し、ホットプレス機を用いて、半田溶融を利用することでBi-Teバルク焼結体とCu-Ni合金板又はCu板とを接合した。すなわち、導電体として半田の中間層を介して第1熱電材料部に第2熱電材料部が接合した。
上記接合条件は、圧力100MPa,接合温度250度,保持時間は5分程度とし、目視により半田の溶融を確認後、冷却プロセス,圧力を下げるプロセスを行った。
その後、Agペースト等を用いて、第1熱電材料部側(Bi-Te側)に電極2対を形成して実施例1,2とした。
【0045】
<実施例3>(MBD成膜)
まず、MBD(分子線蒸着)装置にて、第2熱電材料部となるAg2Seバルク焼結体上に、第1熱電材料部となるAg2S薄膜を成膜した。なお、Ag2Seバルク焼結体は、SHS(自己伝搬型高温合成)法により形成した。
上記MBD法による成膜では、基板温度を室温とし、原料であるAgとSとが入っているセルを適当な温度にヒーターにて加熱し、成膜を行うことで、第1熱電材料部となるAg2Sの単相薄膜を得た。
なお、X線回折実験により、Ag2S薄膜、Ag2Seバルク焼結体は結晶性材料であることを確認している。Ag2S1-xSex系では、相転移温度以下の室温近傍の低温相において、x≦0.6では、Ag2S(単斜晶、空間群P21/c)と同じ結晶構造を有し、x≧0.7では、Ag2Se(斜方晶、空間群P212121)と同じ結晶構造を有する(0.6<x<0.7の組成域では、成膜条件により、混相もしくは異なる結晶構造をとる。)。
電極の作製は、実施例1,2と同様である。
【0046】
<実施例4~8><実施例13~17>(ホットプレス)
まず、第1熱電材料部及び第2熱電材料部の原料粉(例えば、Ag,S,Cuなど)を所定の化学両論比となるように秤量し、混合し、プレス機を用いて成型した後、所定の温度で熱処理することで、例えば、Ag2S単一相の焼結体が得られる。
なお、S,Se,Teを含むカルコゲナイドを用いる場合は、自己発熱反応法を用いても単一相の焼結体が得られる。
もし、X線回折実験により、未反応相が確認できた場合は、焼結体を粉砕し、粉体とした後、再度上記のプロセスを実施する。X線回折実験により、単一相の焼結体が得られるため、これを繰り返す。
【0047】
単一相の焼結体が得られた後、乳鉢等を用いて、上記焼結体を粉砕し、例えばAg2S,Ag2Se,Cu2-δS,Cu2-δSeの粉体を得る。
これらの粉体を用いて、ホットプレス機による加熱、加圧処理をすることで、第1熱電材料部と第2熱電材料部のバルク体を作製すると同時に、第1熱電材料部と第2熱電材料部との接合体を作製する。なお、ホットプレスの際には、密度を考慮し、Ag2S,Ag2Se,Cu2-δS,Cu2-δSeが所定の厚さとなるように秤量し、順番に原料を投入し、成型する。
【0048】
また、ホットプレス機による接合条件を、圧力100MPa,所定の保持温度とし,保持時間は20分とすることで、接合体を形成する。
その後、ワイヤーソー等を用いて、接合体を切断することで、例えば17mm×3mm×2mmtのチップ状の接合体が得られる。
電極の作製は、実施例1,2と同様である。
【0049】
<熱電素子の評価方法>
熱電素子に温度差ΔTを与えると、温度差に比例した電圧ΔVが発生する。この現象をゼーベック効果、発生した電圧を熱起電力といい、比例係数S=ΔV/ΔTをゼーベック係数Sとして定義される。すなわち、ゼーベック係数を測定するには、2つの端子間の電位差(熱起電力)測定と温度差測定が共に必要となる。
ゼーベック係数は、市販のペルチェ素子を2個用い、2個のペルチェ素子間で温度差がつくように、一方のペルチェ素子を冷却すると共に、他方のペルチェ素子を加熱するように配線し、0.1~5℃の温度差をつけて測定した。
また、測定用の熱電対は、T型熱電対(Cu―コンスタンタン)を用いた。この熱電対は、20ミクロン程度の極薄タイプを選択し、さらに、電気的絶縁性が高く断熱性の高いゴム材を用いて荷重を印加し、材料と熱電対間の良好な熱接触、電気接触を実現した。
さらに、熱電プローブ法と呼ばれる2端子法を採用し、2つのT型熱電対のCu配線を利用し、2つの端子間の電位差(熱起電力)を測定した。
上記熱起電力ΔVと温度差ΔTの関係をプロットし、温度差ゼロ近傍(ΔV/ΔTの原点近傍)の直線関係より、ゼーベック係数を評価した。
なお、P型,N型の判定(導電型の判定)は、計測したゼーベック係数の符号から判定した。また、第1熱電材料部と第2熱電材料部とを接合する際、P型/N型の極性を同じにそろえる、すなわちP型同士又はN型同士で接合することが望ましいが、異なる極性同士、すなわちP型とN型とを接合してもよい。このような場合も、第1熱電材料部が、接合される第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有する。
【0050】
電気抵抗率(電気伝導率)は、4端子法により測定した。
この測定では、電極端子に、電流計測用の端子と電圧計測用の端子とを共に接続した。
なお、電気抵抗値から電気抵抗率を算出する際に、厚さについては、複数の材料の厚さの和を採用した。例えば、実施例4の0.1mmのAg2S(第1熱電材料部)と、2mmのAg2Se(第2熱電材料部)との接合体の電気抵抗率を求める場合、厚さは2つの材料の厚さの和である2.1mmとした。
出力因子は、「ゼーベック係数の2乗」と「電気抵抗率の逆数(=電気伝導率)」との積であらわされ,計測されたゼーベック係数と電気抵抗率とから算出した。
【0051】
【0052】
上記評価結果から分かるように、本発明の実施例は、いずれも第1熱電材料部又は第2熱電材料部の材料単体の比較例と比べて、出力因子が大幅に向上している。
比較例1,2のBi-Te系材料のゼーベック係数の絶対値が、比較例3のCu-Ni材料よりもゼーベック係数の絶対値よりも50μV/K以上大きく、かつ、比較例1,2のBi-Te系材料の電気抵抗率が比較例3のCu-Ni材料の電気抵抗率よりも10倍以上大きい。このため、第1熱電材料部をBi-Te系材料とし、第2熱電材料部をCu-Niとした実施例1,2において、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路と電気伝導が十分に高い電流経路とが共に構成されることで、一対の電極間から出力される起電圧値と電流値とが共に大きくなり、出力因子が大幅に向上している。実施例1ではN型特性、実施例2ではP型特性が得られている。
【0053】
比較例4のAg2Sのゼーベック係数の絶対値が、比較例5のAg2Seよりもゼーベック係数の絶対値よりも50μV/K以上大きく、かつ、比較例4のAg2Sの電気抵抗率が比較例5のAg2Seの電気抵抗率よりも10倍以上大きい。このため、第1熱電材料部をAg2S系材料とし、第2熱電材料部をAg2Seとした実施例3~6において、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路と電気伝導が十分に高い電流経路とが共に構成されることで、一対の電極間から出力される起電圧値と電流値とが共に大きくなり、出力因子が大幅に向上している。
なお、実施例5がN型特性を示しているのに対し、実施例4がP型特性を示しているが、この材料では通常、N型特性であるため、実施例4では不純物や結晶欠陥等のためP型特性になったものと考えられる。
【0054】
また、比較例6のCu2Sのゼーベック係数の絶対値が、比較例7のCu2Seよりもゼーベック係数の絶対値よりも50μV/K以上大きく、かつ、比較例6のCu2Sの電気抵抗率が比較例7のCu2Seの電気抵抗率よりも10倍以上大きい。このため、第1熱電材料部をCu2-δS系材料とし、第2熱電材料部をCu2-δSeとした実施例7,8,13~17において、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路と電気伝導が十分に高い電流経路とが共に構成されることで、一対の電極間から出力される起電圧値と電流値とが共に大きくなり、出力因子が大幅に向上している。
【0055】
さらに、比較例1,2のBi-Te系材料のゼーベック係数の絶対値が、比較例8のCuよりもゼーベック係数の絶対値よりも50μV/K以上大きく、かつ、比較例1,2のBi-Te系材料の電気抵抗率が比較例8のCuの電気抵抗率よりも10倍以上大きい。このため、第1熱電材料部をBi-Te系材料とし、第2熱電材料部をCuとした実施例9~12において、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路と電気伝導が十分に高い電流経路とが共に構成されることで、一対の電極間から出力される起電圧値と電流値とが共に大きくなり、出力因子が大幅に向上している。
【0056】
第1熱電材料部をAg2S、第2熱電材料部をAg2Seとした、実施例においては、Ag2S、Ag2Seが室温における熱伝導率が1W/mK未満となり、例えば、実施例4においては、室温におけるZT値が3程度の、高い熱電性能が得られていることを確認している。
また、実施例1のN型特性を示すBi-Te/Cu-Ni素子と、実施例2のP型特性を示すBi-Sb-Te/Cu-Ni素子を、それぞれ2つ用いて、素子数4つのパイ型熱電変換モジュールを作製し、Bi-Te(比較例1)とBi-Sb-Te(比較例2)のみからなる素子数4つのパイ型熱電変換モジュールと、発電性能を比較した。その結果、実施例の素子を用いた熱電変換モジュールの方が、温度差30K印加時(低温側の温度は、室温近傍で約20℃)の発電出力が、38.4%向上することが確認された。
【0057】
<実施例21~25>(ホットプレス)
本発明の実施例21~25は、上記実施例4~6と同様の製法で作製し、これら実施例21~25について、熱電特性の温度依存性を評価した。
なお、実施例22では、導電体としてAgの中間層を介して、また実施例23では、導電体としてInの中間層を介して、第1熱電材料部に第2熱電材料部をホットプレスで接合した。
【0058】
・高温の熱電特性評価
上記実施例1~17の評価方法では、測定温度が室温(25℃)での熱電特性を測定したが、本発明の実施例21~25では、測定温度88~95℃での高温の熱電特性を測定した。
実施例21~25では、第1熱電材料部をAg2S、第2熱電材料部をAg2Seとした。その結果を表2に示す。
これら実施例21~25の評価結果からわかるように、測定温度88~95℃においても、高いゼーベック係数(絶対値)が維持されており、出力因子が大幅に向上している。
測定温度88~95℃において、Ag2S単体、および、Ag2Se単体の出力因子は、2×10-3W/mK2以下であり、実施例21~25は、単体素子に比べて、非常に高い熱電変換特性が得られている。実施例21~25の熱電素子の熱伝導率は、1.2W/mK以下である。実施例24,25では、2.5以上のZT値(=S2T/ρκ):但し、S,T,ρ,κは、それぞれゼーベック係数、絶対温度、電気抵抗率、熱伝導率)が計測され、実施例21では5以上のZT値が計測され、非常に高い熱電変換特性が得られている。
【0059】
【0060】
・発電特性の評価
次に、実施例26として、第1熱電材料部をAg2S、第2熱電材料部をAg2S0.5Se0.5とする熱電素子の発電特性を評価した。
なお、Ag2S及びAg2S0.5Se0.5は共に、N型特性を示す。また、Ag2SとAg2S0.5Se0.5とは、200℃以下の温度で、ホットプレス法で接合した。この実施例26では、中間層は用いておらず、直接接合されている素子である。
素子の厚さについて、第1熱電材料部のAg2Sの厚さを10μm、第2熱電材料部のAg2S0.5Se0.5の厚さを0.70mmとした。また、素子の幅は2.2mmとした。さらに、一対の電極間の距離は、2.91mmとした。なお、電極は、電極針を採用し、第1熱電材料部に点線触させることで、発電特性を評価している。
【0061】
図7に、本発明の実施例26のAg
2S/Ag
2S
0.5Se
0.5熱電素子の発電特性を評価した結果を示す。
この発電特性の評価は、熱電素子と可変抵抗素子(外部負荷抵抗素子)と電流計から構成される閉回路を構成し、熱電素子の両端に温度差を与え、熱電素子から出力される電圧、電流、電力を測定した。
図7には、電流に対する出力電圧値(左軸に表示)と発電出力密度(右図に表示)とが示されている。
実施例26の熱電素子はN型特性を示すため、電圧値は負の値を示すが、
図7の左軸に示す電圧値は絶対値表示されている。なお、発電量は、電圧値と電流値との積で表される。また、発電出力密度は、発電量を素子の断面積(素子の厚さと素子の幅との積)で割ることで算出される。
なお、
図7には、実測値がプロットとして表示され、その実測値をもとに計算された値が、線で表示されている。出力電流がゼロのときの電圧値を開放電圧と呼ぶ。出力電圧が0Vの時の電流値を短絡電流と呼ぶ。また、
図7には、素子の低温側温度を50℃、60℃、70℃に設定し、温度差を3Kとして、開放電圧が評価された結果が表示されている。
【0062】
実施例26の熱電素子の発電特性を評価した結果、素子の低温側温度が60℃の時、開放電圧は0.59mV、短絡電流は191μA、発電出力密度は1.7μWcm―2となった。
開放電圧から算出されるゼーベック係数の絶対値は196μV/Kとなった。
Ag2S0.5Se0.5単体のゼーベック係数の絶対値は、130μV/Kであるので、実施例26の出力電圧が増大していることがわかる。
また、Ag2S単体の電気抵抗率が高く、実施例26の短絡電流値は、Ag2S単体に比べて、1000倍以上大きい。
Ag2S単体、Ag2S0.5Se0.5単体の発電出力密度は、それぞれ、0.1μWcm―2未満、1.0μWcm―2と算出される。これに対して、実施例26のAg2S/Ag2S0.5Se0.5熱電素子の発電出力密度(=1.7μWcm―2)は大きく、単体素子に比べて、非常に高い熱電変換特性が得られていることがわかる。
【0063】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、本発明の熱電素子を発電用途として記載しているが、ペルチェ冷却やペルチェ温調等の用途として本発明の熱電素子を適用しても構わない。
また、
図3では四角柱状だが、円柱状(円筒状の第1熱電材料部と円柱状の第2熱電材料部との組み合わせ)や、多角形柱状でもよい。