(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139716
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
H10N 10/17 20230101AFI20241002BHJP
H10N 10/852 20230101ALI20241002BHJP
【FI】
H10N10/17 A
H10N10/852
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024031691
(22)【出願日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2023050264
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】藤田 利晃
(72)【発明者】
【氏名】松永 卓也
(72)【発明者】
【氏名】安達 真樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広昭
(57)【要約】
【課題】 熱電変換効率が高く、高いZT値を有した熱電素子を用いて、高い発電性能を有した熱電変換モジュールを提供すること。
【解決手段】P型熱電素子部11P又はN型熱電素子部11Nである複数の熱電素子部を備え、熱電素子部が、一端部1a及び他端部1bを有する第1熱電材料部1と、第1熱電材料部と直接又は導電体を介して接合された第2熱電材料部2と、第1熱電材料部に接続された一対の電極3とを備え、一対の電極が、第1熱電材料部の一端部側と他端部側とに互いに離間して接続され、熱電素子部の互いに接合された第1熱電材料部と第2熱電材料部とが接合体14P,14Nを構成し、複数の熱電素子部が、電極を介して電気的に接続され、第1熱電材料部が、接合される第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
P型熱電素子部又はN型熱電素子部である複数の熱電素子部を備え、
前記熱電素子部が、一端部及び他端部を有する第1熱電材料部と、
前記第1熱電材料部と直接又は導電体を介して接合された第2熱電材料部と、
前記第1熱電材料部に接続された一対の電極とを備え、
前記一対の電極が、前記第1熱電材料部の前記一端部側と前記他端部側とに互いに離間して接続され、
前記熱電素子部の互いに接合された前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部とが接合体を構成し、
前記複数の熱電素子部が、前記電極を介して電気的に接続され、
前記第1熱電材料部が、接合される前記第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有していることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の熱電変換モジュールにおいて、
前記熱電素子部として、前記P型熱電素子部と前記N型熱電素子部との両方を備え、
前記P型熱電素子部の互いに接合された前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部とがP型接合体を構成し、
前記N型熱電素子部の互いに接合された前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部とがN型接合体を構成し、
前記P型熱電素子部の前記一端部側の前記電極と前記N型熱電素子部の前記一端部側の前記電極とが電気的に接続されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の熱電変換モジュールにおいて、
前記複数の熱電素子部が、前記P型熱電素子部だけで構成又は前記N型熱電素子部だけで構成され、
互いに隣設する一方である前記熱電素子部の前記一端部側の前記電極と他方である前記熱電素子部の前記他端部側の前記電極とが電気的に接続されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の熱電変換モジュールにおいて、
並列に配置された前記複数の熱電素子部の互いの間に絶縁層を備えていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の熱電変換モジュールにおいて、
前記接合体が、前記一端部側の端面と前記他端部側の端面とに、少なくとも前記第2熱電材料部を覆って形成された一対の絶縁性材料部を備えていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項6】
請求項2に記載の熱電変換モジュールにおいて、
前記P型熱電素子部と前記N型熱電素子部とが互いに平行に延在し、
前記P型熱電素子部と前記N型熱電素子部との前記一端部に設置された一端部側基板と、
前記P型熱電素子部と前記N型熱電素子部との前記他端部に設置された他端部側基板とを備え、
前記一端部側基板が、前記P型熱電素子部の前記一端部側の前記電極と前記N型熱電素子部の前記一端部側の前記電極とを電気的に接続する接続電極部を備えていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項7】
請求項3に記載の熱電変換モジュールにおいて、
前記複数の熱電素子部が互いに平行に延在し、
前記複数の熱電素子部の前記一端部に設置された一端部側基板と、
前記複数の熱電素子部の前記他端部に設置された他端部側基板と、
隣設する一方である前記熱電素子部の前記一端部側の前記電極と他方である前記熱電素子部の前記他端部側の前記電極とを電気的に接続する連結用電極部材とを備えていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の熱電変換モジュールにおいて、
前記複数の熱電素子部がチップ状に形成され、
前記一端部側基板が、前記複数の熱電素子部の前記一端部側の端面に設置され、
前記他端部側基板が、前記複数の熱電素子部の前記他端部側の端面に設置されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか一項に記載の熱電変換モジュールにおいて、
前記第1熱電材料部が、前記第2熱電材料部よりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きいことを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか一項に記載の熱電変換モジュールにおいて、
前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部とが、いずれもA2+δM(但し、AがAg,Cuの少なくとも1種であり、Mが、S,Se,Teの少なくとも1種である。)で形成されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項11】
請求項10に記載の熱電変換モジュールにおいて、
前記第1熱電材料部が、Ag-Sで形成され、
前記第2熱電材料部が、Ag-Se又はAg-S-Seで形成されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項12】
請求項10に記載の熱電変換モジュールにおいて、
前記第1熱電材料部が、Cu-Sで形成され、
前記第2熱電材料部が、Cu-Seで形成されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項13】
請求項1から3のいずれか一項に記載の熱電変換モジュールにおいて、
前記第1熱電材料部が、少なくともBi,Teを含む材料で形成されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱電変換効率を得ることができる熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、組成の異なる複数の材料を接合させた、いわゆるセグメント型の熱電素子が知られている。
例えば、特許文献1には、基板上に第1の電極と、第2の電極と、熱電材料から成るP型半導体薄膜と、熱電材料から成るN型半導体薄膜とが形成され、P型半導体薄膜は第1の電極に接続されており、N型半導体薄膜は第2の電極に接続されている熱電素子において、P型半導体薄膜とN型半導体薄膜とが重なって接合しており、その接合面が基板の略全面に存する熱電素子が記載されている。
【0003】
また、特許文献2及び3にも、互いに異なる材料の第1熱電材料と第2熱電材料とが接合され、一対の電極の一方が第1熱電材料に接続され、一対の電極の他方が第2熱電材料に接続された熱電素子が記載されている。すなわち、これら従来の熱電素子では、接合された第1熱電材料と第2熱電材料とにそれぞれ電極を設け、第1熱電材料と第2熱電材料とが電気的に直列接続されている。
【0004】
さらに、特許文献4には、π型構造と呼ばれる構造でN型とP型の熱電変換素子が、低温側の絶縁基板と高温側の絶縁基板の間に挟み込まれ、また電極を介して各絶縁基板に接合されている熱電変換モジュールが記載されている。このような熱電変換モジュールでは、N型及びP型の熱電変換素子が直列に接続されてPN接合対を成すように、設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-303471号公報
【特許文献2】特開2009-32960号公報
【特許文献3】特開2018-152464号公報
【特許文献4】特開2012-248819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、熱電発電の実用化に必要な熱電素子の性能として、熱電変換材料のエネルギー変換性能を表す指標であるZT値(無次元性能指数ZT(=S2T/ρκ):但し、S,T,ρ,κは、それぞれゼーベック係数(熱起電力;温度差1K当たりで生じる起電力)、絶対温度、電気抵抗率、熱伝導率κ)が、1以上であることが要求されている。しかしながら、従来の上記セグメント型の熱電素子では、熱電変換効率が十分でなく、ZT値の増大を図ることが困難であった。
また、熱電変換で得られる電圧出力と発電量(=電圧×電流)とを共に増大させるため、P型特性、N型特性を有し、かつ、ゼーベック係数の絶対値が100μV/K以上であり、かつ、出力因子(パワー因子、Power factor PW=S2/ρ))が1×10-3W/mK2を上回る高い性能がもつことが要求されている。
これまで、様々な材料系にて、単一材料を用いてZT値の増大を目的とした研究開発がされてきたが、室温近傍温度におけるZT値が1程度の実用化されている材料はBi-Te系材料のみであり、Bi-Te系材料の耐熱性が低く、200℃程度の温度以下での使用が限定され、熱電変換効率が小さいことから、熱電の実用化が困難となっていた。
一方、従来の上記セグメント型の熱電素子を用いると、高温側に200℃以上の耐熱性を有する熱電材料を配置することができるが、セグメント型の熱電素子を構成するそれぞれの熱電材料のZT値が小さく、複数の熱電素子が電気的かつ熱的に直列回路を形成されているため、素子全体としてのZT値が小さくなり、熱電変換効率の増大を図ることが困難であった。
さらに、基板上に複数の熱電素子が電気的に直列接続された熱電変換モジュールにおいても、熱電変換効率が高く、高いZT値を有した熱電素子を用いて、高い発電性能を有したものが要望されている。熱電変換モジュールには、π型構造(P型熱電素子とN型熱電素子とが交互に電気的に直列接続された構造)、ユニレグ型構造(P型熱電素子のみ、もしくは、N型熱電素子のみから構成され、高温側の熱電素子と低温側の熱電素子とは金属など電気伝導性の高い材料を用いて、電気的に接続されている構造)など様々な構造があるが、いずれも熱電変換効率が高く、高いZT値を有した熱電素子を用いて、高い発電性能を有したものが要望されている。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、熱電変換効率が高く、高いZT値を有した熱電素子を用いて、高い発電性能を有した熱電変換モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る熱電変換モジュールは、P型熱電素子部又はN型熱電素子部である複数の熱電素子部を備え、前記熱電素子部が、一端部及び他端部を有する第1熱電材料部と、前記第1熱電材料部と直接又は導電体を介して接合された第2熱電材料部と、前記第1熱電材料部に接続された一対の電極とを備え、前記一対の電極が、前記第1熱電材料部の前記一端部側と前記他端部側とに互いに離間して接続され、前記熱電素子部の互いに接合された前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部とが接合体を構成し、前記複数の熱電素子部が、前記電極を介して電気的に接続され、前記第1熱電材料部が、接合される前記第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有していることを特徴とする。
【0009】
この熱電変換モジュールでは、一対の電極が、第1熱電材料部の一端部側と他端部側とに互いに離間して接続され、熱電素子部の互いに接合された第1熱電材料部と第2熱電材料部とが接合体を構成し、複数の熱電素子部が、電極を介して電気的に接続されているので、電気的に接続された複数の熱電素子部により、良好な性能を有するゼーベック素子又はサーモパイル等とすることができる。
【0010】
また、この熱電変換モジュールでは、熱電素子部において、第1熱電材料部が、第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有し、一対の電極が、第1熱電材料部の一端部側と他端部側とに互いに離間して接続されているので、第1熱電材料部と第2熱電材料部とが電気的かつ熱的な並列回路を構成し、一端部側と他端部側との間で温度差が生じる(熱流が生じる)と、高い熱電変換効率で熱起電力が発生する。すなわち、一対の電極が接続され高いゼーベック係数(絶対値)かつ高い電気抵抗値を有する第1熱電材料部では、主にゼーベック効果に従う起電圧経路を構成し、第1熱電材料部に接合され接触している低い電気抵抗値を有する第2熱電材料部では、電流経路を構成する。第2熱電材料部内を流れる電流値はオームの法則に従うことが望ましい。このように、起電圧経路と電流経路との並列回路が構成されることにより、起電圧経路とは別に電流パスとなる電流経路が形成されることで、第1熱電材料部の高いゼーベック係数(絶対値)を維持したまま一対の電極間を流れる電気伝導度が増加し、高い熱電変換効率及びZT値を得ることができ、熱電変換モジュールにおいては、少ない温度差でも高い熱電変換効率を達成することが可能となる。
なお、第2熱電材料部と一対の電極とは直接接合されておらず、第1熱電材料部を介して電気的接触をしている。本発明は、組成の異なる複数の材料を接合させた熱電素子部の構造をとるが、第1熱電材料部に一対の電極(2つの電極)を接続することを特徴とする。(セグメント型の熱電素子も、組成の異なる複数の材料を接合させた構造をとるが、一対の電極は互いに異なる熱電材料に接続されており、本発明とは異なる電極接続方法をとる。)
【0011】
第2の発明に係る熱電変換モジュールは、第1の発明において、前記熱電素子部として、前記P型熱電素子部と前記N型熱電素子部との両方を備え、前記P型熱電素子部の互いに接合された前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部とがP型接合体を構成し、前記N型熱電素子部の互いに接合された前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部とがN型接合体を構成し、前記P型熱電素子部の前記一端部側の前記電極と前記N型熱電素子部の前記一端部側の前記電極とが電気的に接続されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換モジュールでは、P型熱電素子部の互いに接合された第1熱電材料部と第2熱電材料部とがP型接合体を構成し、N型熱電素子部の互いに接合された第1熱電材料部と第2熱電材料部とがN型接合体を構成し、P型熱電素子部の一端部側の電極とN型熱電素子部の一端部側の電極とが電気的に接続されているので、π型に接続されたP型熱電素子部とN型熱電素子部とにより、良好な性能を有するゼーベック素子又はサーモパイル等とすることができる。
【0012】
第3の発明に係る熱電変換モジュールは、第1の発明において、前記複数の熱電素子部が、前記P型熱電素子部だけで構成又は前記N型熱電素子部だけで構成され、互いに隣設する一方である前記熱電素子部の前記一端部側の前記電極と他方である前記熱電素子部の前記他端部側の前記電極とが電気的に接続されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換モジュールでは、複数の熱電素子部が、P型熱電素子部だけで構成又はN型熱電素子部だけで構成され、互いに隣設する一方である熱電素子部の一端部側の電極と他方である熱電素子部の他端部側の電極とが電気的に接続されているので、ユニレグ型に接続されたP型だけ又はN型だけの複数の同型の熱電素子部により、良好な性能を有するゼーベック素子又はサーモパイル等とすることができる。
【0013】
第4の発明に係る熱電変換モジュールは、第1から第3の発明のいずれかにおいて、並列に配置された前記複数の熱電素子部の互いの間に絶縁層を備えていることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換モジュールでは、並列に配置された複数の熱電素子部の互いの間に絶縁層を備えているので、複数の熱電素子部が互いに直接接触することを絶縁層で防ぐことができる。
この絶縁層の熱伝導度は、熱電素子部の熱伝導度が同等以下の断熱性能を有していることが好ましく、熱電素子部同士間の熱伝導を抑制することで、熱電変換モジュールに印加される熱流方向(温度差印加方向)と垂直方向への熱拡散されることなく、高い熱電変換効率を得ることができる。
【0014】
第5の発明に係る熱電変換モジュールは、第1から第4の発明のいずれかにおいて、前記接合体が、前記一端部側の端面と前記他端部側の端面とに、少なくとも前記第2熱電材料部を覆って形成された一対の絶縁性材料部を備えていることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換モジュールでは、接合体が、一端部側の端面と他端部側の端面とに、少なくとも第2熱電材料部を覆って形成された一対の絶縁性材料部を備えているので、一対の電極が第2熱電材料部に接触することを絶縁性材料部より防ぐことができる。
【0015】
第6の発明に係る熱電変換モジュールは、第2の発明において、前記P型熱電素子部と前記N型熱電素子部とが互いに平行に延在し、前記P型熱電素子部と前記N型熱電素子部との前記一端部に設置された一端部側基板と、前記P型熱電素子部と前記N型熱電素子部との前記他端部に設置された他端部側基板とを備え、前記一端部側基板が、前記P型熱電素子部の前記一端部側の前記電極と前記N型熱電素子部の前記一端部側の前記電極とを電気的に接続する接続電極部を備えていることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換モジュールでは、一端部側基板が、P型熱電素子部の一端部側の電極とN型熱電素子部の一端部側の電極とを電気的に接続する接続電極部を備えているので、P型熱電素子部とN型熱電素子部との一端部側の電極を容易に接続してπ型のモジュールを構成することができる。
【0016】
第7の発明に係る熱電変換モジュールは、第3の発明において、前記複数の熱電素子部が互いに平行に延在し、前記複数の熱電素子部の前記一端部に設置された一端部側基板と、前記複数の熱電素子部の前記他端部に設置された他端部側基板と、隣設する一方である前記熱電素子部の前記一端部側の前記電極と他方である前記熱電素子部の前記他端部側の前記電極とを電気的に接続する連結用電極部材とを備えていることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換モジュールでは、隣設する一方である熱電素子部の一端部側の電極と他方である熱電素子部の他端部側の電極とを電気的に接続する連結用電極部材を備えているので、互いに隣設する一方の熱電素子部と他方の熱電素子部との電極を容易に接続してユニレグ型のモジュールを構成することができる。
【0017】
第8の発明に係る熱電変換モジュールは、第6又は第7の発明において、前記複数の熱電素子部がチップ状に形成され、前記一端部側基板が、前記複数の熱電素子部の前記一端部側の端面に設置され、前記他端部側基板が、前記複数の熱電素子部の前記他端部側の端面に設置されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換モジュールでは、一端部側基板が、複数の熱電素子部の一端部側の端面に設置され、他端部側基板が、複数の熱電素子部の他端部側の端面に設置されている、チップ状の複数の熱電素子部を一端部側基板と他端部側基板との間に挟んだ状態でπ型又はユニレグ型のモジュールを構成することができる。
【0018】
第9の発明に係る熱電変換モジュールは、第1から第8の発明のいずれかにおいて、前記第1熱電材料部が、第2熱電材料部よりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きいことを特徴とする。
すなわち、この熱電変換モジュールでは、第1熱電材料部が、第2熱電材料部よりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きいので、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路と電気伝導が十分に高い電流経路とが共に構成されることで、一対の電極間から出力される起電圧値と電流値とが共に大きくなり、より高い熱電変換効率及びZT値を得ることができる。
【0019】
第10の発明に係る熱電変換モジュールは、第1から第9の発明のいずれかにおいて、前記第1熱電材料部と前記第2熱電材料部とが、いずれもA2+δM(但し、AがAg,Cuの少なくとも1種であり、Mが、S,Se,Teの少なくとも1種である。)で形成されていることを特徴とする。
なお、第1熱電材料部A2+δMが、前記第2熱電材料部A2+δMよりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きくなるように、材料の組成を設計することで、大きなZT値を得ることが可能となる。
【0020】
第11の発明に係る熱電変換モジュールは、第10の発明において、前記第1熱電材料部が、Ag-Sで形成され、前記第2熱電材料部が、Ag-Se又はAg-S-Seで形成されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換モジュールでは、例えば第1熱電材料部をAg2Sで形成し、第2熱電材料部をAg2Seで形成することで、少なくとも室温におけるZT値が1以上を得ることが可能になる。
【0021】
第12の発明に係る熱電変換モジュールは、第10の発明において、前記第1熱電材料部が、Cu-Sで形成され、前記第2熱電材料部が、Cu-Seで形成されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換モジュールでは、例えば第1熱電材料部をCu2Sで形成し、第2熱電材料部をCu2Seで形成することで、少なくとも室温におけるZT値が1以上を得ることが可能になる。
【0022】
第13の発明に係る熱電変換モジュールは、第1から第12の発明のいずれかにおいて、前記第1熱電材料部が、少なくともBi,Teを含む材料で形成されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換モジュールでは、第1熱電材料部がBi-Te又はBi-Sb-Te等の少なくともBi,Teを含む材料であって、例えば第1熱電材料部をBi2Te3で形成し、第2熱電材料部をCu0.55Ni0.45(コンスタンタン)で形成することで、少なくともBi2Te3単体の2倍程度のパワー因子を得ることが可能になる。
なお、第1熱電材料部が、接合される第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有していれば、第2熱電材料部の組成にかかわらず、第1熱電材料部単体の場合よりも熱電特性が向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る熱電変換モジュールによれば、一対の電極が、第1熱電材料部の一端部側と他端部側とに互いに離間して接続され、熱電素子部の互いに接合された第1熱電材料部と第2熱電材料部とが接合体を構成し、複数の熱電素子部が、電極を介して電気的に接続され、第1熱電材料部が、接合される第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有しているので、高い熱電変換効率及びZT値を有しπ型やユニレグ型に接続された複数の熱電素子部により、良好な性能を有するゼーベック素子又はサーモパイル等とすることができる。
したがって、本発明に係る熱電変換モジュールでは、高い熱電変換効率及びZT値を得ることから、温度差によって高効率に電気を取り出す環境発電の実用化を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る熱電変換モジュールの第1実施形態を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態において、熱電素子の原理を説明するための概念図である。
【
図3】本発明に係る熱電変換モジュールの第2実施形態を示す斜視図である。
【
図4】本発明に係る熱電変換モジュールの第3実施形態を示す断面図である。
【
図5】本発明に係る熱電変換モジュールの第4実施形態を示す断面図である。
【
図6】本発明に係る熱電変換モジュールの第5実施形態を示す斜視図である。
【
図7】第5実施形態において、基板間に設置した熱電変換モジュールを示す平面図である。
【
図8】本発明の熱電素子部の原理を実証するために作製した本発明の熱電素子部の実施例を示す断面図である。
【
図9】本発明に係る熱電変換モジュールの第6実施形態を示す斜視図である。
【
図10】本発明に係る熱電変換モジュールの第7実施形態を示す断面図である。
【
図11】本発明に係る熱電変換モジュールの第8実施形態を示す斜視図である。
【
図12】本発明に係る熱電変換モジュールの実施例において、熱電素子の発電特性を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る熱電変換モジュールにおける第1実施形態を、
図1及び
図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0026】
本実施形態の熱電変換モジュール10は、
図1及び
図2に示すように、P型熱電素子部11P又はN型熱電素子部11Nである複数の熱電素子部を備えている。
なお、本実施形態の熱電変換モジュール10は、熱電素子部として、P型熱電素子部11Pと、N型熱電素子部11Nとの両方を備えている。
上記P型熱電素子部11P及びN型熱電素子部11Nは、一端部1a及び他端部1bを有する第1熱電材料部1と、第1熱電材料部1と直接又は導電体2aを介して接合された第2熱電材料部2と、第1熱電材料部1に接続された一対の電極3とを備えている。
なお、上記導電体2aを介して第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とを接合した場合、導電体2aは中間層としても機能する。上記導電体2aは、例えば半田やIn等の導電性接合材である。
【0027】
上記一対の電極3は、第1熱電材料部1の一端部1a側と他端部1b側とに互いに離間して接続されている。
さらに、上記一対の電極3は、第2熱電材料部2には接触しておらず、第2熱電材料部2から離れて配されている。
上記熱電素子部の互いに接合された第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とが接合体を構成している。
すなわち、上記P型熱電素子部11Pの互いに接合された第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とは、P型接合体14Pを構成し、上記N型熱電素子部11Nの互いに接合された第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とは、N型接合体14Nを構成している。
【0028】
上記P型接合体14Pは、P型特性を示す接合体である。すなわち、P型接合体14Pは、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とを合わせた全体として極性がP型の熱電変換材料として機能する。
また、上記N型接合体14Nは、N型特性を示す接合体である。すなわち、N型接合体14Nは、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とを合わせた全体として極性がN型の熱電変換材料として機能する。
上記複数の熱電素子部は、電極3を介して電気的に接続されている。すなわち、上記P型熱電素子部11Pの一端部1a側の電極3とN型熱電素子部11Nの一端部1a側の電極3とは、電気的に接続されている。
【0029】
第1熱電材料部1は、接合される第2熱電材料部2よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有している。
すなわち、上記P型熱電素子部11Pの第1熱電材料部1は、P型熱電素子部11Pの第2熱電材料部2よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有し、上記N型熱電素子部11Nの第1熱電材料部1は、N型熱電素子部11Nの第2熱電材料部2よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有している。
なお、熱電素子部のP型,N型の判定は、計測したゼーベック係数の符号から判定する。また、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とを接合する際、P型/N型の極性を同じにそろえる、すなわちP型同士又はN型同士で接合することが望ましいが、異なる極性同士、すなわちP型とN型とを接合してもよい。このような場合も、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有する。
【0030】
また、本実施形態の熱電変換モジュール10は、P型熱電素子部11PとN型熱電素子部11Nとが互いに平行に延在しており、P型熱電素子部11PとN型熱電素子部11Mとの一端部1aに設置された一端部側基板14aと、P型熱電素子部11PとN型熱電素子部11Nとの他端部1bに設置された他端部側基板14bとを備えている。
上記一端部側基板14aは、絶縁性基材上に、P型熱電素子部11Pの一端部1a側の電極3とN型熱電素子部11Nの一端部1a側の電極3とを電気的に接続する接続電極部14cを備えている。
なお、他端部側基板14bは、絶縁性基材上に、P型熱電素子部11PとN型熱電素子部11Nとの他端部1b側の電極3に接続された一対の端子電極部14dを備えている。
本実施形態の熱電変換モジュール10では、例えば一端部1a側が高温側に配され、他端部1b側が低温側に配される。
【0031】
上記第1熱電材料部1は、第2熱電材料部2よりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きいことが好ましい。
なお、第1熱電材料部1の室温の電気抵抗率は、10-5Ωcm以下が好ましい。
例えば、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とが、いずれもA2+δM(但し、AがAg,Cuの少なくとも1種であり、Mが、S,Se,Teの少なくとも1種である。)で形成されている。
なお、δの範囲が、-0.5≦δ≦+0.5であることが好ましい。δの範囲が-0.05~+0.02の範囲であることが更に好ましい。
【0032】
また、本発明では、ゼーベック係数の絶対値が0.1μV/K以上の材料を熱電材料とする。すなわち、第2熱電材料部2のゼーベック係数の絶対値は、0.1μV/K以上である。
さらに、第1熱電材料部1のゼーベック係数の絶対値は、10mV/K以下が好ましい。
また、第1熱電材料部1の室温での電気抵抗率が10mΩcm以下の場合、第2熱電材料部2よりも第1熱電材料部1の厚さが薄いことが好ましい。
また、第1熱電材料部1の室温での電気抵抗率が10mΩcm以下の場合であって、第2熱電材料部2の室温での電気抵抗率が1mΩcm以下かつ熱伝導率が10W/mK以上の場合、第1熱電材料部1の厚さは、第2熱電材料部2の厚さよりも厚いことが好ましい。
【0033】
A2+δMとしては、N型熱電素子の場合、例えば第1熱電材料部1が、Ag-Sで形成され、第2熱電材料部2が、Ag-SeやAg-S-Seで形成されている構成が採用可能である。P型熱電素子の場合、例えば第1熱電材料部1が、Cu-Sで形成され、第2熱電材料部2が、Cu-Seで形成されている構成が採用可能である。
例えば、第1熱電材料部1をAg2Sで形成し、第2熱電材料部2をAg2Seで形成することができる。なお、Ag2Sは、Ag2Seよりも、ゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きい。
また、第1熱電材料部1は、Cu2Sで形成され、第2熱電材料部2は、Cu2Seで形成されていても構わない。Cu2Sは、Cu2Seよりも、ゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きい。
【0034】
また、第1熱電材料部1を、Bi-Te又はBi-Sb-Te等の少なくともBi,Teを含む材料で形成しても構わない。
例えば、第1熱電材料部1は、Bi2Te3又は(Bi0.7Sb0.3)Te3で形成され、第2熱電材料部2は、Cu0.55Ni0.45(コンスタンタン)で形成されていても構わない。Bi2Te3及び(Bi0.7Sb0.3)Te3は、Cu0.55Ni0.45よりも、ゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きい。
なお、上記Bi,Teを含む材料にRuやCu等の不純物を添加した第1熱電材料部1を、採用しても構わない。
【0035】
このように第1熱電材料部1は、低熱伝導性カルコゲナイド材料等の高電気抵抗の半導体材料や絶縁性材料であり、第2熱電材料部2は、半導体材料や合金等の低電気抵抗の導電性材料で形成される。
また、P型熱電素子部11PとN型熱電素子部11Nとに印加される温度差を大きくするために、第1熱電材料部1及び第2熱電材料部2は、共に熱伝導率が小さいことが好ましい。特に、第1熱電材料部1は、ゼーベック効果により高い熱起電力を得るために、熱伝導率は10W/mK以下であることが好ましい。
なお、第1熱電材料部の熱伝導率は、0.02W/mK以上が好ましい。
【0036】
上記第1熱電材料部1は薄膜でも構わないが、第2熱電材料部2は第1熱電材料部1よりも厚い導電体バルク等が好ましい。
第1熱電材料部1の厚み(つまり、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2との積層方向の厚み)は100nm以上10mm以下が望ましく、1μm以上3mm以下でもよい。第2熱電材料部2の厚みは、0.1mm以上10mm以下が望ましく、0.5mm以上3mm以下でもよい。
第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とを、上記導電体2aを介して接合する場合は、導電体2aとして半田やIn等の導電性接合材が採用可能である。なお、この接合部に用いる導電体2aの電気抵抗率は、第2熱電材料部2の電気抵抗率と同程度であることが好ましい。
合金材料と半田材料とは、電気抵抗率と同程度であるケースが多い(10-4Ωcm程度のオーダー)。例えば、合金材料としてCu0.55Ni0.45(コンスタンタン)を用いると、第2熱電材料部2と半田の電気抵抗率が同程度のため、実質、第1熱電材料部1にとっては、電気伝導的な観点として、半田も第2熱電材料部2の一部としてみなせることができるので、熱電素子の設計の自由度が増える。
上記一対の電極3は、例えばAgペーストやAg半田等が採用可能である。
なお、一対の電極3の材料は、電気抵抗率が10-4Ωm以下のものが採用される。
【0037】
本実施形態のP型熱電素子部11PとN型熱電素子部11Nとを製造する方法は、第2熱電材料部2と第1熱電材料部1とを接合する接合工程と、第1熱電材料部1に一対の電極3を形成する電極形成工程とを有している。
例えば、上記接合工程では、第2熱電材料部2と第1熱電材料部1とを半田等の導電性接合材で接合する。
また、上記接合工程では、各種薄膜成長法(PVD法、スパッタ法、CVD法等の気相成長法)が採用される。
なお、第1熱電材料部1にカルコゲナイド材料を用いる場合は、第2熱電材料部2上に第1熱電材料部1をMBD法(分子線蒸着法)により成膜するのが好ましい。
【0038】
また、上記接合工程では、第2熱電材料部2の上に第1熱電材料部1をゾルゲル法により成膜しても構わない。
また、上記接合工程では、第1熱電材料部1となる粉体と第2熱電材料部2となる粉体とを積層させた状態で、第1熱電材料部1および第2熱電材料部2の焼結と、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2との接合とを同時に行うホットプレス法を採用しても構わない。
【0039】
このように本実施形態の熱電変換モジュール10では、一対の電極3が、第1熱電材料部1の一端部1a側と他端部1b側とに互いに離間して接続され、熱電素子部の互いに接合された第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とが接合体を構成し、複数の熱電素子部が、電極3を介して電気的に接続されているので、電気的に接続された複数の熱電素子部により、良好な性能を有するゼーベック素子又はサーモパイル等とすることができる。
特に、本実施形態では、P型熱電素子部11Pの互いに接合された第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とがP型接合体14Pを構成し、N型熱電素子部11Nの互いに接合された第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とがN型接合体14Nを構成し、P型熱電素子部11Pの一端部1a側の電極3とN型熱電素子部11Nの一端部1a側の電極3とが電気的に接続されているので、π型に接続されたP型熱電素子部11PとN型熱電素子部11Nとにより、良好な性能を有するゼーベック素子又はサーモパイル等とすることができる。
【0040】
また、この熱電変換モジュール10では、P型熱電素子部11P及びN型熱電素子部11Nのそれぞれにおいて、第1熱電材料部1が、接合される第2熱電材料部2よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有し、一対の電極3が、第1熱電材料部1の一端部1a側と他端部1b側とに互いに離間して接続されているので、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2とが電気的かつ熱的な並列回路を構成し、一端部1a側と他端部1b側との間で温度差が生じる(熱流が生じる)と、高い熱電変換効率で熱起電力が発生する。
【0041】
すなわち、
図2に示すように、一対の電極3が接続され高ゼーベック係数(絶対値)かつ高い電気抵抗値を有する第1熱電材料部1では、主にゼーベック効果に従う起電圧経路R1を構成し、第1熱電材料部1に接合され接触している低い電気抵抗値を有する第2熱電材料部2では、電流経路R2を構成する。第2熱電材料部2内を流れる電流値はオームの法則に従うことが望ましい。このように、起電圧経路R1と電流経路R2との並列回路が構成されることにより、起電圧経路R1とは別に電流パスとなる電流経路R2が形成されることで、第1熱電材料部1の高いゼーベック係数(絶対値)を維持したまま一対の電極3間を流れる電気伝導度が増加し、高い熱電変換効率及びZT値を得ることができる。なお、
図2において矢印Yは、熱流方向(熱流束の流れる方向、温度差が生じる方向)である。
【0042】
また、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2よりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きいので、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路R1と電気伝導が十分に高い電流経路R2とが共に構成されることで、一対の電極3間から出力される起電圧値と電流値とが共に大きくなり、より高い熱電変換効率及び高いZT値を得ることができる。
なお、第1熱電材料部1のゼーベック係数の絶対値は、接合される第2熱電材料部2よりもゼーベック係数の絶対値よりも、100μV/K以上大きくてもよい。第1熱電材料部1のゼーベック係数の絶対値と、接合される第2熱電材料部2のゼーベック係数の絶対値との差は大きいほど望ましく、特に上限はないが、10000μV/Kであってもよい。
【0043】
さらに、一端部側基板14aが、P型熱電素子部11Pの一端部1a側の電極3とN型熱電素子部11Nの一端部1a側の電極3とを電気的に接続する接続電極部14cを備えているので、P型熱電素子部11PとN型熱電素子部11Nとの一端部1a側の電極3を容易に接続してπ型のモジュールを構成することができる。
【0044】
また、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2よりもゼーベック係数の絶対値が50μV/K以上大きく、かつ電気抵抗率が10倍以上大きいので、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路R1と電気伝導が十分に高い電流経路R2とが共に構成されることで、一対の電極3間から出力される起電圧値と電流値とが共に大きくなり、より高い熱電変換効率及び高いZT値を得ることができる。
【0045】
また、第1熱電材料部1をAg2Sで形成し、第2熱電材料部2をAg2Seで形成することで、Ag2S単体、Ag2Se単体よりも、本発明の複合熱電素子の出力因子(PW=S2/ρ)が大きくなり、少なくとも室温におけるZT値が1以上のN型熱電素子を得ることが可能になる。
また、第1熱電材料部1をCu2Sで形成し、第2熱電材料部2をCu2Seで形成することで、Cu2S単体、Cu2Se単体よりも、本発明の複合熱電素子の出力因子(PW=S2/ρ)が大きくなり、少なくとも室温におけるZT値が1以上のP型熱電素子を得ることが可能になる。
また、第1熱電材料部1をBi2Te3で形成し、第2熱電材料部2をCu0.55Ni0.45(コンスタンタン)で形成することで、少なくともBi2Te3単体の2倍程度のパワー因子を有するN型熱電素子を得ることが可能になる。
また、第1熱電材料部1を(Bi0.7Sb0.3)2Te3で形成し、第2熱電材料部2をCu0.55Ni0.45(コンスタンタン)で形成することで、少なくとも(Bi0.7Sb0.3)2Te3単体の2倍程度のパワー因子を有するP型熱電素子を得ることが可能になる。
【0046】
次に、本発明に係る熱電変換モジュールの第2~第8実施形態について、
図3~
図7,
図9~
図11を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0047】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、P型熱電素子部11P及びN型熱電素子部11Nの第1熱電材料部1が下部(基板側)に配されているのに対し、第2実施形態の熱電変換モジュール20では、
図3に示すように、P型熱電素子部21P及びN型熱電素子部21Nの第1熱電材料部1が上部に配されている点である。
また、第2実施形態では、P型接合体24P及びN型接合体24Nが、一端部1a側の端面と他端部1b側の端面とに、少なくとも第2熱電材料部2を覆って形成された一対の絶縁性材料部25を備えている点でも第1実施形態と異なっている。
【0048】
また、第2実施形態では、一対の電極23が、一対の絶縁性材料部25を覆っている。
すなわち、電極23は、P型接合体24P及びN型接合体24Nの端面に形成された絶縁性材料部25の端面を覆っていると共に、絶縁性材料部25の上面も覆った状態で第1熱電材料部1に接続されている。
さらに、一端部1a側の一対の電極23が、一端部側基板14aの接続電極部14cに接続されていると共に、他端部1b側の電極23が、他端部側基板14bの端子電極部14dに接続されている。
なお、絶縁性材料部25は、例えばSiO2やSi3N4等の絶縁性材料で形成されている。
このように第2実施形態の熱電変換モジュール20では、P型接合体24P及びN型接合体24Nが、一端部1a側の端面と他端部1b側の端面とに、少なくとも第2熱電材料部2を覆って形成された一対の絶縁性材料部25を備えているので、一対の電極23が第2熱電材料部2に接触することを絶縁性材料部25より防ぐことができる。
【0049】
次に、第3実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、P型熱電素子部1P及びN型熱電素子部1Nが、一端部1aから他端部1bまで長尺に延在した棒状であるのに対し、第3実施形態の熱電変換モジュール30では、
図4に示すように、P型熱電素子部31PとN型熱電素子部31Nとがチップ状に形成されている点である。
すなわち、第3実施形態では、P型熱電素子部31PとN型熱電素子部31Nとが、直方体形状となっており、その両端面に第1熱電材料部1の一端部1aと他端部1bとが配されている。
【0050】
また、第3実施形態では、一端部側基板34aが、P型熱電素子部31PとN型熱電素子部31Nとの一端部1a側の端面に設置され、他端部側基板34bが、P型熱電素子部31PとN型熱電素子部31Nとの他端部1b側の端面に設置されている点も第1実施形態と異なっている。
上記一端部側基板34aは、P型熱電素子部31Pの一端部1a側の電極33とN型熱電素子部31Nの一端部1a側の電極33とを接続する接続電極部34cを備えている。
すなわち、P型熱電素子部31PとN型熱電素子部31Nとは、互いに第2熱電材料部2の一側面に形成された第1熱電材料部1を向かい合わせて並べて配置され、互いに向かい合わされたP型熱電素子部31Pの一端部1a側の電極33同士を接続電極部34cで電気的に接続している。
【0051】
このように第3実施形態の熱電変換モジュール30では、一端部側基板34aが、P型熱電素子部31PとN型熱電素子部31Nとの一端部1a側の端面に設置され、他端部側基板34bが、P型熱電素子部31PとN型熱電素子部31Nとの他端部側の端面に設置されているので、チップ状のP型熱電素子部31PとN型熱電素子部31Nとを一端部側基板34aと他端部側基板34bとの間に挟んだ状態でπ型のモジュールを構成することができる。
【0052】
次に、第4実施形態と第3実施形態との異なる点は、第3実施形態では、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2の一側面に接続されているのに対し、第4実施形態の熱電変換モジュール40では、
図5に示すように、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部2の互いに反対側の両側面にそれぞれ接合されている点である。
また、第4実施形態では、第2熱電材料部2の両側面に接合された一対の第1熱電材料部1の一端部1a及び他端部1bには、それぞれ電極43が形成されている。
【0053】
さらに、第4実施形態では、第2実施形態と同様に、第1熱電材料部1と第2熱電材料部2との接合体44の一端部1a側の端面と他端部1b側の端面とで、少なくとも第2熱電材料部2を覆って形成された一対の絶縁性材料部45を備えている。
なお、一端部側基板44aにCu箔等の金属膜でパターン形成された接続電極部44cは、両側面の第1熱電材料部1の一端部1aに形成された各電極43に接続されている。
また、他端部側基板44bにCu箔等の金属膜でパターン形成された一対の端子電極部44dは、対応するP型熱電素子部41P及びN型熱電素子部41Nの電極43に接続されている。
【0054】
このように第4実施形態の熱電変換モジュール40では、第1熱電材料部1が、第2熱電材料部の両側面にそれぞれ接合されているので、両側面にそれぞれ起電圧経路が形成され、より高い熱電変換効率を得ることができる。
【0055】
次に、第5実施形態と第3実施形態との異なる点は、第3実施形態では、P型熱電素子部31PとN型熱電素子部31Nとが、互いの第1熱電材料部1を向かい合わせて並べて配置され、互いの間に何もない空間であるのに対し、第5実施形態の熱電変換モジュール50では、
図6及び
図7に示すように、チップ状のP型熱電素子部51PとN型熱電素子部51Nとが、互いの第1熱電材料部1を上面に配して並列に配置され、P型熱電素子部51PとN型熱電素子部51Nとの間に絶縁層56を備えている点である。
【0056】
また、第5実施形態では、他端部1b側の電極となる接続電極部54cが、P型熱電素子部51Pの第1熱電材料部1上からN型熱電素子部51Nの第1熱電材料部1上まで絶縁層56上を介して架け渡して形成されている。
すなわち、
図7に示すように、P型熱電素子部51PとN型熱電素子部51Nとの両端面に一端部側基板54aと他端部側基板45bとを設置した場合、一端部側基板54aと他端部側基板45bとには、接続電極部が形成されない。
また、一端部1a側の電極となる端子電極部54dが、P型熱電素子部51Pの第1熱電材料部1上と、N型熱電素子部51Nの第1熱電材料部1上に、それぞれ接続されて形成されている。
上記絶縁層56は、例えばSiO
2やSi
3N
4等の絶縁性材料で形成されている。
また、端子電極部54d,接続電極部54cは、Cu板等の金属で形成され、対応する絶縁層56や第1熱電材料部1と半田等で接着されている。
【0057】
このように第5実施形態の熱電変換モジュール50では、並列に配置されたP型熱電素子部51PとN型熱電素子部51Nとの間に絶縁層56を備えているので、P型熱電素子部51PとN型熱電素子部51Nとが互いに直接接触することを絶縁層56で防ぐことができる。
【0058】
次に、第6実施形態と第2実施形態との異なる点は、第2実施形態では、P型熱電素子部21PとN型熱電素子部21Nとの両方を使用する、いわゆるπ型の熱電変換モジュールであるのに対し、第6実施形態の熱電変換モジュール60では、
図9に示すように、P型熱電素子部21P又はN型熱電素子部21Nの一方のみを使用するユニレグ型の熱電変換モジュールである点である。
【0059】
すなわち、第6実施形態の熱電変換モジュール60は、例えば一対のN型熱電素子部21Nが互いに平行に延在しており、各N型熱電素子部21Nの一端部1aに設置された一端部側基板64aと、各N型熱電素子部21Nの他端部1bに設置された他端部側基板64bとを備えている。
上記一端部側基板64aは、絶縁性基材上に、N型熱電素子部21Nの一端部1a側の電極23に接続された一対の接続電極部64cを備えている。
また、他端部側基板64bは、絶縁性基材上に、N型熱電素子部21Nの他端部1b側の電極23に接続された接続電極部64eと、一対の端子電極部64dとを備えている。
【0060】
さらに、熱電変換モジュール60は、隣設する一方であるN型熱電素子部21Nの一端部1a側の電極23と他方であるN型熱電素子部21Nの他端部1b側の電極23とを電気的に接続する連結用電極部材64fを備えている。
すなわち、隣設する一対のN型熱電素子部21Nの間に配された連結用電極部材64fは、一端側が一方であるN型熱電素子部21Nの一端部1a側の電極23に接続電極部64cを介して電気的に接続されていると共に、他端側が他方であるN型熱電素子部21Nの他端部1b側の電極23に接続電極部64eを介して電気的に接続されている。
なお、連結用電極部材64fは、一対のN型熱電素子部21Nに直接接触しないように一対のN型熱電素子部21Nから離間して配されている。
これにより、一対のN型熱電素子部21Nが、連結用電極部材64fにより電気的に直列状態でユニレグ型に接続されている。
【0061】
なお、熱電変換モジュール60は、隣設する他方であるN型熱電素子部21Nの一端部1a側の電極23に接続された接続電極部64cと他端部側基板64bの端子電極部64dとを電気的に接続する端子用電極部材64gを備えている。
なお、端子用電極部材64gは、N型熱電素子部21Nに直接接触しないようにN型熱電素子部21Nから離間して配されている。
上記連結用電極部材64f及び端子用電極部材64gは、N型熱電素子部21Nに沿って延在するCu板等の金属板で形成され、その端部が対応する接続電極部64c,64eや端子電極部64dと半田等で接着、接続されている。
【0062】
このように第6実施形態の熱電変換モジュール60では、隣設する一方である熱電素子部(
図9の奥側のN型熱電素子部21N)の一端部1a側の電極23と他方である熱電素子部(
図9の手前側のN型熱電素子部21N)の他端部1b側の電極23とを電気的に接続する連結用電極部材64fを備えているので、互いに隣設する一方の熱電素子部と他方の熱電素子部との電極23を容易に接続してユニレグ型のモジュールを構成することができる。
なお、第6実施形態では、複数の熱電素子部として全て同じN型のN型熱電素子部21Nを採用したが、複数の熱電素子部として全て同じP型のP型熱電素子部21Pを採用しても構わない。
【0063】
次に、第7実施形態と第4実施形態との異なる点は、第4実施形態の熱電変換モジュール40では、一端部側基板44aに形成された接続電極部44cが、隣設されたP型熱電素子部41P及びN型熱電素子部41Nにおける両側面の第1熱電材料部1の一端部1aに形成された各電極43に接続されたπ型であるのに対し、第7実施形態の熱電変換モジュール70は、
図10に示すように、連結用電極部材74fを備えて、P型熱電素子部21P又はN型熱電素子部21Nの一方のみを使用するユニレグ型の熱電変換モジュールである点である。
【0064】
すなわち、第7実施形態の熱電変換モジュール70は、例えばチップ状の一対のN型熱電素子部41Nが互いに間隔を空けて立設されており、各N型熱電素子部41Nの一端部1aに設置された一端部側基板74aと、各N型熱電素子部41Nの他端部1bに設置された他端部側基板74bとを備えている。
上記一端部側基板74aは、絶縁性基材上に、N型熱電素子部41Nの一端部1a側の電極43に接続されCu箔等の金属膜でパターン形成された一対の接続電極部74cを備えている。
また、他端部側基板74bは、絶縁性基材上に、Cu箔等の金属膜でパターン形成された接続電極部74eと一対の端子電極部74dとを備えている。
上記接続電極部74eは、他方であるN型熱電素子部41Nの他端部1b側の電極43に接続されている。
【0065】
さらに、熱電変換モジュール70は、隣設する一方であるN型熱電素子部41Nの一端部1a側の電極43と他方であるN型熱電素子部41Nの他端部1b側の電極43とを電気的に接続する連結用電極部材74fを備えている。
すなわち、隣設する一対のN型熱電素子部41Nの間に配された連結用電極部材74fは、一端側が一方であるN型熱電素子部41Nの一端部1a側の電極43に接続電極部74cを介して電気的に接続されていると共に、他端側が他方であるN型熱電素子部41Nの他端部1b側の電極43に接続電極部74eを介して電気的に接続されている。
なお、連結用電極部材74fは、一対のN型熱電素子部21Nに直接接触しないようにN型熱電素子部21Nから離間して配されている。
これにより、一対のN型熱電素子部41Nが、連結用電極部材74fにより電気的に直列状態でユニレグ型に接続されている。
【0066】
また、熱電変換モジュール70は、隣設する他方であるN型熱電素子部41Nの一端部1a側の電極43に接続された接続電極部74cと他端部側基板74bの端子電極部74dとを電気的に接続する端子用電極部材74gを備えている。
なお、端子用電極部材74gは、N型熱電素子部21Nに直接接触しないようにN型熱電素子部21Nから離間して配されている。
上記連結用電極部材74f及び端子用電極部材74gは、N型熱電素子部41Nに沿って延在するCu板等の金属板又は板バネで形成され、その端部が対応する接続電極部74c,74eや端子電極部74dと半田等で接着されている。
【0067】
このように第7実施形態の熱電変換モジュール70では、隣設する一方である熱電素子部(
図10の右側のN型熱電素子部41N)の一端部1a側の電極43と他方である熱電素子部(
図10の左側のN型熱電素子部41N)の他端部1b側の電極43とを電気的に接続する連結用電極部材74fを備えているので、互いに隣設する一方の熱電素子部と他方の熱電素子部との電極43を容易に接続してユニレグ型のモジュールを構成することができる。
なお、第7実施形態では、複数の熱電素子部として全て同じN型のN型熱電素子部41Nを採用したが、複数の熱電素子部として全て同じP型のP型熱電素子部41Pを採用しても構わない。
【0068】
次に、第8実施形態と第5実施形態との異なる点は、第5実施形態の熱電変換モジュール50では、接続電極部54cが、P型熱電素子部51Pの第1熱電材料部1上からN型熱電素子部51Nの第1熱電材料部1上まで絶縁層56上を介して架け渡して形成されてπ型であるのに対し、第8実施形態の熱電変換モジュール80は、
図11に示すように、連結用電極部材84fを備えて、P型熱電素子部51P又はN型熱電素子部51Nの一方のみを使用するユニレグ型の熱電変換モジュールである点である。
【0069】
すなわち、第8実施形態の熱電変換モジュール80は、例えば一対のN型熱電素子部51Nの間に配された絶縁層56a上に、隣設する一方であるN型熱電素子部51Nの一端部1a側の電極53と他方であるN型熱電素子部51Nの他端部1b側の電極53とを電気的に接続する連結用電極部材84fを備えている。
これにより、一対のN型熱電素子部51Nが、連結用電極部材84fにより電気的に直列状態でユニレグ型に接続されている。
【0070】
また、第8実施形態の熱電変換モジュール80は、上記一方であるN型熱電素子部51Nの絶縁層56a側とは反対側の側面にも、絶縁層56bが接合されている。
上記絶縁層56bは、その上面に、一方のN型熱電素子部51Nの第1熱電材料部1上に形成された他端部1b側の電極53に一端が接続された接続電極部84cと、接続電極部84cの他端に接続された端子電極部84dとを備えている。
【0071】
また、上記他方のN型熱電素子部51Nの第1熱電材料部1上には、一端部1a側の電極でもある端子電極部84dが接続されている。
すなわち、端子電極部84dが、絶縁層56b上と、他方のN型熱電素子部51Nの第1熱電材料部1上とに、それぞれ接続されている。
上記端子電極部84d,接続電極部84c,電極53及び連結用電極部材84fは、Cu板等の金属で形成され、対応する絶縁層56a,56bや第1熱電材料部1と半田等で接着されている。
【0072】
このように第8実施形態の熱電変換モジュール80では、隣設する一方である熱電素子部(
図11の奥側のN型熱電素子部51N)の一端部1a側の電極53と他方である熱電素子部(
図11の手前側のN型熱電素子部51N)の他端部1b側の電極53とを電気的に接続する連結用電極部材84fを備えているので、互いに隣設する一方の熱電素子部と他方の熱電素子部との電極53を容易に接続してユニレグ型のモジュールを構成することができる。
なお、第8実施形態では、複数の熱電素子部として全て同じN型のN型熱電素子部51Nを採用したが、複数の熱電素子部として全て同じP型のP型熱電素子部51Pを採用しても構わない。
【実施例0073】
本発明の熱電変換モジュールにおけるP型熱電素子部及びN型熱電素子部について、熱電特性の原理を実証するために、
図8に示すような熱電素子のサンプルを実施例として作製し、評価した結果を表1及び表2に示す。
本発明の実施例では、第1熱電材料部及び第2熱電材料部について上記実施形態で記載した複数の材料及び製法で作製し、室温(300K)における熱電特性(導電型判定(P/N型判定),ゼーベック係数,電気抵抗率及び出力因子)について調べた。
また、本発明の比較例として熱電材料単体で作製した熱電素子について、本発明の実施例と同様に評価を行った。
各実施例は、以下の様にして製作した。
なお、本発明の実施例では、評価用として、第2熱電材料部2の上面に第1熱電材料部1を接合させ、一対の電極3を第1熱電材料部1の上面に形成している。
【0074】
<実施例1,2><実施例9~12>(半田接合)
まず、第1熱電材料部となるBi-Teバルク焼結体(又はBi-Sb-Teバルク焼結体)と第2熱電材料部となるCu-Ni合金板又はCu板とを用意して、所定のサイズへ切断し、接合面を研磨した。
この後、上記Bi-Teバルク焼結体とCu-Ni合金板又はCu板との間の接合面には半田箔を設置し、ホットプレス機を用いて、半田溶融を利用することでBi-Teバルク焼結体とCu-Ni合金板又はCu板とを接合した。すなわち、導電体として半田の中間層を介して第1熱電材料部に第2熱電材料部が接合した。
上記接合条件は、圧力100MPa,接合温度250度,保持時間は5分程度とし、目視により半田の溶融を確認後、冷却プロセス,圧力を下げるプロセスを行った。
その後、Agペースト等を用いて、第1熱電材料部側(Bi-Te側)に電極2対を形成して実施例1,2とした。
【0075】
<実施例3>(MBD成膜)
まず、MBD(分子線蒸着)装置にて、第2熱電材料部となるAg2Seバルク焼結体上に、第1熱電材料部となるAg2S薄膜を成膜した。なお、Ag2Seバルク焼結体は、SHS(自己伝搬型高温合成)法により形成した。
上記MBD法による成膜では、基板温度を室温とし、原料であるAgとSとが入っているセルを適当な温度にヒーターにて加熱し、成膜を行うことで、第1熱電材料部となるAg2Sの単相薄膜を得た。
なお、X線回折実験により、Ag2S薄膜、Ag2Seバルク焼結体は結晶性材料であることを確認している。Ag2S1-xSex系では、相転移温度以下の室温近傍の低温相において、x≦0.6では、Ag2S(単斜晶、空間群P21/c)と同じ結晶構造を有し、x≧0.7では、Ag2Se(斜方晶、空間群P212121)と同じ結晶構造を有する(0.6<x<0.7の組成域では、成膜条件により、混相もしくは異なる結晶構造をとる。)。
電極の作製は、実施例1,2と同様である。
【0076】
<実施例4~8><実施例13~17>(ホットプレス)
まず、第1熱電材料部及び第2熱電材料部の原料粉(例えば、Ag,S,Cuなど)を所定の化学両論比となるように秤量し、混合し、プレス機を用いて成型した後、所定の温度で熱処理することで、例えば、Ag2S単一相の焼結体が得られる。
なお、S,Se,Teを含むカルコゲナイドを用いる場合は、自己発熱反応法を用いても単一相の焼結体が得られる。
もし、X線回折実験により、未反応相が確認できた場合は、焼結体を粉砕し、粉体とした後、再度上記のプロセスを実施する。X線回折実験により、単一相の焼結体が得られるため、これを繰り返す。
【0077】
単一相の焼結体が得られた後、乳鉢等を用いて、上記焼結体を粉砕し、例えばAg2S,Ag2Se,Cu2-δS,Cu2-δSeの粉体を得る。
これらの粉体を用いて、ホットプレス機による加熱、加圧処理をすることで、第1熱電材料部と第2熱電材料部のバルク体を作製すると同時に、第1熱電材料部と第2熱電材料部との接合体を作製する。なお、ホットプレスの際には、密度を考慮し、Ag2S,Ag2Se,Cu2-δS,Cu2-δSeが所定の厚さとなるように秤量し、順番に原料を投入し、成型する。
【0078】
また、ホットプレス機による接合条件を、圧力100MPa,所定の保持温度とし,保持時間は20分とすることで、接合体を形成する。
その後、ワイヤーソー等を用いて、接合体を切断することで、例えば17mm×3mm×2mmtのチップ状の接合体が得られる。
電極の作製は、実施例1,2と同様である。
【0079】
<熱電素子の評価方法>
熱電素子に温度差ΔTを与えると、温度差に比例した電圧ΔVが発生する。この現象をゼーベック効果、発生した電圧を熱起電力といい、比例係数S=ΔV/ΔTをゼーベック係数Sとして定義される。すなわち、ゼーベック係数を測定するには、2つの端子間の電位差(熱起電力)測定と温度差測定が共に必要となる。
ゼーベック係数は、市販のペルチェ素子を2個用い、2個のペルチェ素子間で温度差がつくように、一方のペルチェ素子を冷却すると共に、他方のペルチェ素子を加熱するように配線し、0.1~5℃の温度差をつけて測定した。
また、測定用の熱電対は、T型熱電対(Cu―コンスタンタン)を用いた。この熱電対は、20ミクロン程度の極薄タイプを選択し、さらに、電気的絶縁性が高く断熱性の高いゴム材を用いて荷重を印加し、材料と熱電対間の良好な熱接触、電気接触を実現した。
さらに、熱電プローブ法と呼ばれる2端子法を採用し、2つのT型熱電対のCu配線を利用し、2つの端子間の電位差(熱起電力)を測定した。
上記熱起電力ΔVと温度差ΔTの関係をプロットし、温度差ゼロ近傍(ΔV/ΔTの原点近傍)の直線関係より、ゼーベック係数を評価した。
なお、P型,N型の判定(導電型の判定)は、計測したゼーベック係数の符号から判定した。また、第1熱電材料部と第2熱電材料部とを接合する際、P型/N型の極性を同じにそろえる、すなわちP型同士又はN型同士で接合することが望ましいが、異なる極性同士、すなわちP型とN型とを接合してもよい。このような場合も、第1熱電材料部が、接合される第2熱電材料部よりも高いゼーベック係数の絶対値及び高い電気抵抗率を有する。
【0080】
電気抵抗率(電気伝導率)は、4端子法により測定した。
この測定では、電極端子に、電流計測用の端子と電圧計測用の端子とを共に接続した。
なお、電気抵抗値から電気抵抗率を算出する際に、厚さについては、複数の材料の厚さの和を採用した。例えば、実施例4の0.1mmのAg2S(第1熱電材料部)と、2mmのAg2Se(第2熱電材料部)との接合体の電気抵抗率を求める場合、厚さは2つの材料の厚さの和である2.1mmとした。
出力因子は、「ゼーベック係数の2乗」と「電気抵抗率の逆数(=電気伝導率)」との積であらわされ,計測されたゼーベック係数と電気抵抗率とから算出した。
【0081】
【0082】
上記評価結果から分かるように、本発明の実施例は、いずれも第1熱電材料部又は第2熱電材料部の材料単体の比較例と比べて、出力因子が大幅に向上している。
比較例1,2のBi-Te系材料のゼーベック係数の絶対値が、比較例3のCu-Ni材料よりもゼーベック係数の絶対値よりも50μV/K以上大きく、かつ、比較例1,2のBi-Te系材料の電気抵抗率が比較例3のCu-Ni材料の電気抵抗率よりも10倍以上大きい。このため、第1熱電材料部をBi-Te系材料とし、第2熱電材料部をCu-Niとした実施例1,2において、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路と電気伝導が十分に高い電流経路とが共に構成されることで、一対の電極間から出力される起電圧値と電流値とが共に大きくなり、出力因子が大幅に向上している。実施例1ではN型特性、実施例2ではP型特性が得られている。
【0083】
比較例4のAg2Sのゼーベック係数の絶対値が、比較例5のAg2Seよりもゼーベック係数の絶対値よりも50μV/K以上大きく、かつ、比較例4のAg2Sの電気抵抗率が比較例5のAg2Seの電気抵抗率よりも10倍以上大きい。このため、第1熱電材料部をAg2S系材料とし、第2熱電材料部をAg2Seとした実施例3~6において、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路と電気伝導が十分に高い電流経路とが共に構成されることで、一対の電極間から出力される起電圧値と電流値とが共に大きくなり、出力因子が大幅に向上している。
なお、実施例5がN型特性を示しているのに対し、実施例4がP型特性を示しているが、この材料では通常、N型特性であるため、実施例4では不純物や結晶欠陥等のためP型特性になったものと考えられる。
【0084】
また、比較例6のCu2Sのゼーベック係数の絶対値が、比較例7のCu2Seよりもゼーベック係数の絶対値よりも50μV/K以上大きく、かつ、比較例6のCu2Sの電気抵抗率が比較例7のCu2Seの電気抵抗率よりも10倍以上大きい。このため、第1熱電材料部をCu2-δS系材料とし、第2熱電材料部をCu2-δSeとした実施例7,8,13~17において、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路と電気伝導が十分に高い電流経路とが共に構成されることで、一対の電極間から出力される起電圧値と電流値とが共に大きくなり、出力因子が大幅に向上している。
【0085】
さらに、比較例1,2のBi-Te系材料のゼーベック係数の絶対値が、比較例8のCuよりもゼーベック係数の絶対値よりも50μV/K以上大きく、かつ、比較例1,2のBi-Te系材料の電気抵抗率が比較例8のCuの電気抵抗率よりも10倍以上大きい。このため、第1熱電材料部をBi-Te系材料とし、第2熱電材料部をCuとした実施例9~12において、ゼーベック効果が十分に高い起電圧経路と電気伝導が十分に高い電流経路とが共に構成されることで、一対の電極間から出力される起電圧値と電流値とが共に大きくなり、出力因子が大幅に向上している。
【0086】
第1熱電材料部をAg2S、第2熱電材料部をAg2Seとした、実施例においては、Ag2S、Ag2Seが室温における熱伝導率が1W/mK未満となり、例えば、実施例4においては、室温におけるZT値が3程度の、高い熱電性能が得られていることを確認している。
また、実施例1のN型特性を示すBi-Te/Cu-Ni素子と、実施例2のP型特性を示すBi-Sb-Te/Cu-Ni素子を、それぞれ2つ用いて、素子数4つのパイ型熱電変換モジュールを作製し、Bi-Te(比較例1)とBi-Sb-Te(比較例2)のみからなる素子数4つのパイ型熱電変換モジュールと、発電性能を比較した。その結果、実施例の素子を用いた熱電変換モジュールの方が、温度差30K印加時(低温側の温度は、室温近傍で約20℃)の発電出力が、38.4%向上することが確認された。
【0087】
<実施例21~25>(ホットプレス)
本発明の実施例21~25は、上記実施例4~6と同様の製法で作製し、これら実施例21~25について、熱電特性の温度依存性を評価した。
なお、実施例22では、導電体としてAgの中間層を介して、また実施例23では、導電体としてInの中間層を介して、第1熱電材料部に第2熱電材料部をホットプレスで接合した。
【0088】
・高温の熱電特性評価
上記実施例1~17の評価方法では、測定温度が室温(25℃)での熱電特性を測定したが、本発明の実施例21~25では、測定温度88~95℃での高温の熱電特性を測定した。
実施例21~25では、第1熱電材料部をAg2S、第2熱電材料部をAg2Seとした。その結果を表2に示す。
これら実施例21~25の評価結果からわかるように、測定温度88~95℃においても、高いゼーベック係数(絶対値)が維持されており、出力因子が大幅に向上している。
測定温度88~95℃において、Ag2S単体、および、Ag2Se単体の出力因子は、2×10-3W/mK2以下であり、実施例21~25は、単体素子に比べて、非常に高い熱電変換特性が得られている。実施例21~25の熱電素子の熱伝導率は、1.2W/mK以下である。実施例24,25では、2.5以上のZT値(=S2T/ρκ):但し、S,T,ρ,κは、それぞれゼーベック係数、絶対温度、電気抵抗率、熱伝導率)が計測され、実施例21では5以上のZT値が計測され、非常に高い熱電変換特性が得られている。
【0089】
【0090】
・発電特性の評価
次に、実施例26として、第1熱電材料部をAg2S、第2熱電材料部をAg2S0.5Se0.5とする熱電素子の発電特性を評価した。
なお、Ag2S及びAg2S0.5Se0.5は共に、N型特性を示す。また、Ag2SとAg2S0.5Se0.5とは、200℃以下の温度で、ホットプレス法で接合した。この実施例26では、中間層は用いておらず、直接接合されている素子である。
素子の厚さについて、第1熱電材料部のAg2Sの厚さを10μm、第2熱電材料部のAg2S0.5Se0.5の厚さを0.70mmとした。また、素子の幅は2.2mmとした。さらに、一対の電極間の距離は、2.91mmとした。なお、電極は、電極針を採用し、第1熱電材料部に点線触させることで、発電特性を評価している。
【0091】
図12に、本発明の実施例26のAg
2S/Ag
2S
0.5Se
0.5熱電素子の発電特性を評価した結果を示す。
この発電特性の評価は、熱電素子と可変抵抗素子(外部負荷抵抗素子)と電流計から構成される閉回路を構成し、熱電素子の両端に温度差を与え、熱電素子から出力される電圧、電流、電力を測定した。
図12には、電流に対する出力電圧値(左軸に表示)と発電出力密度(右図に表示)とが示されている。
実施例26の熱電素子はN型特性を示すため、電圧値は負の値を示すが、
図12の左軸に示す電圧値は絶対値表示されている。なお、発電量は、電圧値と電流値との積で表される。また、発電出力密度は、発電量を素子の断面積(素子の厚さと素子の幅との積)で割ることで算出される。
なお、
図12には、実測値がプロットとして表示され、その実測値をもとに計算された値が、線で表示されている。出力電流がゼロのときの電圧値を開放電圧と呼ぶ。出力電圧が0Vの時の電流値を短絡電流と呼ぶ。また、
図12には、素子の低温側温度を50℃、60℃、70℃に設定し、温度差を3Kとして、開放電圧が評価された結果が表示されている。
【0092】
実施例26の熱電素子の発電特性を評価した結果、素子の低温側温度が60℃の時、開放電圧は0.59mV、短絡電流は191μA、発電出力密度は1.7μWcm―2となった。
開放電圧から算出されるゼーベック係数の絶対値は196μV/Kとなった。
Ag2S0.5Se0.5単体のゼーベック係数の絶対値は、130μV/Kであるので、実施例26の出力電圧が増大していることがわかる。
また、Ag2S単体の電気抵抗率が高く、実施例26の短絡電流値は、Ag2S単体に比べて、1000倍以上大きい。
Ag2S単体、Ag2S0.5Se0.5単体の発電出力密度は、それぞれ、0.1μWcm―2未満、1.0μWcm―2と算出される。これに対して、実施例26のAg2S/Ag2S0.5Se0.5熱電素子の発電出力密度(=1.7μWcm―2)は大きく、単体素子に比べて、非常に高い熱電変換特性が得られていることがわかる。
【0093】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
1…第1熱電材料部、1a…一端部、1b…他端部、2…第2熱電材料部、2a…導電体、3,43,53…電極、10,20,30,40,50,60,70,80…熱電変換モジュール、11P,21P,31P,41P,51P…P型熱電素子部、11N,21N,31N,41N,51N…N型熱電素子部、14a,44a,54a,64a,74a…一端部側基板、14b,44b,54b,54b,64b,74b…他端部側基板、14c,34c,44c,54c,64c,74c,84c…接続電極部、14P,24P…P型接合体、14N,24N…N型接合体、25…絶縁性材料部、44…接合体、56,56a,56b…絶縁層