(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139723
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】吸湿剤
(51)【国際特許分類】
B01D 53/28 20060101AFI20241002BHJP
C07C 229/08 20060101ALI20241002BHJP
C07F 9/54 20060101ALI20241002BHJP
C07F 9/11 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B01D53/28
C07C229/08
C07F9/54
C07F9/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037113
(22)【出願日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2023050120
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉矢 正
(72)【発明者】
【氏名】古井 恵里
【テーマコード(参考)】
4D052
4H006
4H050
【Fターム(参考)】
4D052AA00
4D052CF00
4D052DA06
4D052GA04
4D052GB12
4D052HA49
4D052HB01
4H006AA03
4H006AB80
4H006BS10
4H006BS70
4H006NB11
4H006NB16
4H050AA03
4H050AB80
(57)【要約】
【課題】優れた水蒸気の吸収性を有する吸湿剤を提供すること。
【解決手段】下記イオン液体(A)及びイオン液体(B)を含有する吸湿剤である。
イオン液体(A):アニオン成分が、リン酸エステルイオン又はリン酸イオンであるイオン液体。
イオン液体(B):アニオン成分が、アミノ基を有するカルボキシラートイオン又は窒素含有複素環を有するカルボキシラートイオンであるイオン液体。
前記イオン液体(A)及びイオン液体(B)のカチオン成分としては、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン及びイミダゾリウムイオンが好ましく、ホスホニウムイオンがより好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記イオン液体(A)及びイオン液体(B)を含有する吸湿剤。
イオン液体(A):アニオン成分が、リン酸エステルイオン又はリン酸イオンであるイオン液体。
イオン液体(B):アニオン成分が、アミノ基を有するカルボキシラートイオン又は窒素含有複素環を有するカルボキシラートイオンであるイオン液体。
【請求項2】
前記イオン液体(A)及びイオン液体(B)のカチオン成分が、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン又はイミダゾリウムイオンである、請求項1に記載の吸湿剤。
【請求項3】
前記カチオン成分が、下記一般式(I)で表されるホスホニウムイオンである、請求項2に記載の吸湿剤。
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、炭素数1~20の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基を表す。)
【請求項4】
前記イオン液体(A)のアニオン成分が、リン酸ジアルキルエステルイオンであり、
前記イオン液体(B)のアニオン成分が、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、DL-アラニン、β-アラニン、D-アラニン、L-アラニン、L-アルギニン、L-イソロイシン、グリシン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-システイン、DL-セリン、L-セリン、L-チロシン、L-トリプトファン、L-トレオニン、L-バリン、L-ヒスチジン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-メチオニン、L-リジン及びL-ロイシンから選ばれるアミノ酸のアニオンである、請求項1に記載の吸湿剤。
【請求項5】
前記イオン液体(A)と、前記イオン液体(B)との混合モル比が、前者:後者=95:5~5:95である、請求項1に記載の吸湿剤。
【請求項6】
吸放湿性を有する、請求項1に記載の吸湿剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の吸湿剤を用いた装置。
【請求項8】
装置が、乾燥水電解ガスの製造装置、空調機又は吸収式冷凍機である、請求項7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿剤に関するものである。特に乾燥水電解ガスの製造装置または空調装置等に用いられる吸湿剤に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光、風力などの再生可能エネルギーは、貴重なエネルギー資源である。しかしながら、日照や風況の適地は偏在しており、得られる場所が消費地から遠隔であったり、季節や時間によって得られる発電電力が変動したりする。そのため、場所や量、時期を調整するために再生可能エネルギーを水素に転換して利用する方法が研究されている。例えば、アルカリ水電解、固体高分子型水電解などの、水を電解して水素を製造する方法がある。
【0003】
これらの水電解によって得られる水電解ガスは、陽極側から水素ガスが、陰極側から酸素ガスが別々に得られる。また、炭化水素の水蒸気改質によって得られる水素ガスのように二酸化炭素などの副生成物を含んでいない一方で、原料の水が水蒸気として同伴している。そのため、用途によっては、それを取り除いて高純度化する必要がある。
【0004】
気体の一般的な除湿プロセスとしては、水蒸気を含む混合気体をチラーで冷却して露点を下げるプロセス、水蒸気を含む混合気体を吸着剤や吸収剤に接触させるプロセスなどがある。
【0005】
水蒸気を含む混合気体を吸着剤や吸水剤に接触させる除湿プロセスには、固体吸着剤と液体吸収剤を用いる方法がある。ゼオライトなどの固体吸着剤を用いて除湿を行う場合、水分を吸収した固体吸着剤の再生には、高温(~200℃)で加熱処理する必要がある。そのため、この除湿プロセスを水分の量が多い水電解ガスに適用すると、必要とされるエネルギーが多大となる。また、一般に固体吸着剤による除湿はバッチ処理(2筒あるいは多筒式)が行われている。このバッチ処理は、その都度バッチ処理部全体を加熱し、その後に冷却する必要がある。そしてこの処理においては熱交換が困難であるので、必要とされるエネルギーが多大となる。
【0006】
液体吸収剤としては、トリエチレングリコール(TEG)がガス吸収剤や空気調湿剤として知られている。しかし、TEGを吸収剤として用いようとすると、吸収剤自体が蒸気圧を有しており、水素の高純度化の妨げになる。また、TEGは、可燃性を有しており、水素ガスや酸素ガスを対象とするのには不適であるなどの他の課題もある。
【0007】
これらの課題を解決するために、例えば、特許文献1には、液体吸収剤としてイオン液体が有用であることが開示されており、特許文献2には、イオン液体と無機塩とを含有する吸収液が有用であることが開示されている。
【0008】
また、デシカント式の空調機においては、空気中の水蒸気を吸収する特性を持つ吸湿剤(デシカント)が使用されている。このような吸湿剤としてイオン液体が提案されており、優れた吸湿性を有するとともに、臭気や金属溶解性を有しないとしている。例えば、特許文献3には、ホスホニウム系カチオンとリン酸エステル系のアニオンとを含む吸湿剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-51543号公報
【特許文献2】特開2019-202917号公報
【特許文献3】特開2020-6349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示されているイオン液体は、カチオンとアニオンからなり、カチオンは特に限定されないが、例えばイミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピペリジニウム塩、ピリジニウム塩、モルホリニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩を挙げている。中でも、イミダゾリウム塩が好ましいとしている。また、アニオンとしては、特に限定されないが、オキソ酸イオンが好ましく、例えば、カルボン酸、硝酸、硫酸、スルホン酸、リン酸エステル、リン酸、ホスホン酸エステル、ホスホン酸が挙げられている。
【0011】
また、特許文献2は、イオン液体と無機塩とを含有する吸収液が有用であるとしており、具体的には、イオン液体としてのメチルトリブチルホスホニウム・ジメチルホスフェートと、無機塩として酢酸リチウムまたは酢酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化リチウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウム、臭化リチウムの組み合わせが好ましいとしている。
しかし、乾燥水電解ガスの製造には、水を電解して水素と酸素を得る水電解ガスを生成させるが、係る水電解ガスには原料由来の水蒸気を含有しており、水蒸気を選択的に吸収液に吸収した富吸収液を気液分離する必要がある。
上記、イオン液体は優れた吸水能を有するが、更なる吸水能を求められている。また吸水された水分を低温で分離する必要があるが、更なる分離能が求められている。
【0012】
特許文献3に開示されているイオン液体として、ホスホニウム系カチオンとリン酸エステル系のアニオンとを含む化合物、特にトリブチルメチルホスホニウムジメチルホスホネートが、吸湿性、臭気、金属溶解性および実用化の観点で優れているとしている。しかしながら、これらイオン液体は優れた吸湿性を有するものの、更なる吸水能が求められている。
【0013】
したがって、本発明の目的は、優れた水蒸気の吸収性を有する吸湿剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定の2種類のイオン液体を用いた吸湿剤が、優れた水蒸気の吸収性及び放出性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、下記イオン液体(A)及びイオン液体(B)を含有する吸湿剤である。
イオン液体(A):アニオン成分が、リン酸エステルイオン又はリン酸イオンであるイオン液体。
イオン液体(B):アニオン成分が、アミノ基を有するカルボキシラートイオン又は窒素含有複素環を有するカルボキシラートイオンであるイオン液体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた水蒸気の吸収性を有する吸湿剤を提供することができる。更に、上記特性に加え、優れた水蒸気の放出性を有する吸放湿剤としても有用な吸湿剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の吸湿剤は、下記イオン液体(A)及びイオン液体(B)を含有するものである。
イオン液体(A):アニオン成分が、リン酸エステルイオン又はリン酸イオンであるイオン液体。
イオン液体(B):アニオン成分が、アミノ基を有するカルボキシラートイオン又は窒素含有複素環を有するカルボキシラートイオンであるイオン液体。
なお、本発明においてイオン液体とは、カチオン成分とアニオン成分とで構成される液体の塩を指す。
【0018】
前記イオン液体(A)及びイオン液体(B)を構成するカチオン成分としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピリジニウムイオン、モルホリニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン及びスルホニウムイオン等が挙げられる。イオン液体(A)のカチオン成分とイオン液体(B)のカチオン成分は、同一のものでも異なるものでもよい。また、カチオン成分は、2種類以上のイオンを含有していてもよい。
【0019】
これらの中でも、吸湿性(以下、水蒸気の吸収性とも記載する。)の観点から、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン及びイミダゾリウムイオンが好ましく、ホスホニウムイオンがより好ましく、下記一般式(I)で表されるホスホニウムイオンが特に好ましい。
【0020】
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、炭素数1~20の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基を表す。)
【0021】
前記R1、R2、R3及びR4で表される炭素数1~20の直鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基及びn-イコシル基等が挙げられる。
【0022】
前記R1、R2、R3及びR4で表される炭素数1~20の分岐鎖状のアルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、t-ペンチル基、イソヘキシル基、s-ヘキシル基、t-ヘキシル基及びエチルヘキシル基等が挙げられる。
【0023】
前記R1、R2、R3及びR4で表される炭素数1~20の環状アルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2-メチルシクロペンチル基、3-メチルシクロペンチル基、シクロヘプチル基、2-メチルシクロヘキシル基、3-メチルシクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、2-メチルシクロヘプチル基、3-メチルシクロヘプチル基、4-メチルシクロヘプチル基及び5-メチルシクロヘプチル基等が挙げられる。
【0024】
前記R1、R2、R3及びR4は、炭素数1~15の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが、吸湿性の観点から好ましく、炭素数1~10の直鎖状のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~6の直鎖状のアルキル基であることが特に好ましい。R1、R2、R3及びR4は、それぞれ同一でもよく、異なってもよい。
【0025】
前記一般式(I)で表されるホスホニウムイオンとしては、メチルトリブチルホスホニウムイオン及びテトラブチルホスホニウムイオンが好ましい。
【0026】
前記イオン液体(A)のアニオン成分は、リン酸エステルイオン又はリン酸イオンであり、前記イオン液体(B)のアニオン成分は、アミノ基を有するカルボキシラートイオン又は窒素含有複素環を有するカルボキシラートイオンである。このような2種類のイオン液体を含有することで、優れた水蒸気の吸収性を有する吸湿剤となるとともに、更に優れた放湿性(以下、水蒸気の放出性とも記載する。)も有する、すなわち吸放湿性を有する吸湿剤ともなる。
【0027】
前記イオン液体(A)のアニオン成分である、リン酸エステルイオン又はリン酸イオンは、下記一般式(II)で表されるイオンである。
【0028】
【化2】
(式中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~20の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基若しくは環状アルキル基を表す。)
【0029】
前記R5及びR6で表される炭素数1~20の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基及び環状アルキル基は、前記一般式(I)におけるそれらと同義である。
【0030】
前記一般式(II)において、R5及びR6が、水素原子である場合がリン酸イオンであり、一方が水素原子で他方が炭化水素基である場合がリン酸モノアルキルエステルイオンであり、両方が炭化水素基である場合がリン酸ジアルキルエステルイオンである。本発明においては、イオン液体(A)のアニオン成分が、リン酸ジアルキルエステルイオンであることが好ましい。
【0031】
前記R5及びR6は、炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが、吸湿性及び吸放湿性の観点から好ましく、炭素数1~5の直鎖状のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3の直鎖状のアルキル基であることが特に好ましい。前記R5及びR6は、それぞれ同一でもよく、異なってもよいが、合成上の観点から同一であることが好ましい。
【0032】
前記R5及びR6が炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であるリン酸ジアルキルエステルとしては、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート等が挙げられる。本発明においては、ジメチルホスフェートが特に好ましい。
【0033】
前記イオン液体(B)のアニオン成分である、アミノ基を有するカルボキシラートイオンとしては、天然のアミノ酸のアニオンが挙げられ、具体的には、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、DL-アラニン、β-アラニン、D-アラニン、L-アラニン、L-アルギニン、L-イソロイシン、グリシン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-システイン、DL-セリン、L-セリン、L-チロシン、L-トリプトファン、L-トレオニン、L-バリン、L-ヒスチジン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-メチオニン、L-リジン及びL-ロイシン等のアニオンが挙げられる。
【0034】
前記窒素含有複素環を有するカルボキシラートイオンとしては、L-プロリン、L-ピログルタミン酸、α-メチルプロリン及びシス-4-ヒドロキシ-L-プロリン等のアニオンが挙げられる。
【0035】
本発明においては、イオン液体(B)のアニオン成分が、DL-アラニネート、D-アラニネート、L-アラニネート、β-アラニネート、グリシネート、L-プロリネート及びDL-セリネートから選ばれるアミノ酸のアニオンであることが、吸湿性及び吸放湿性の観点から好ましく、DL-アラニネート、D-アラニネート、L-アラニネート、β-アラニネート及びグリシネートから選ばれるアミノ酸のアニオンであることが特に好ましい。
【0036】
本発明で用いるイオン液体(A)及びイオン液体(B)は、例えば、トリアルキルホスフィンとハロゲン化アルキルを不活性ガス雰囲気下で反応させ、アニオンがハロゲンであるホスホニウム塩を得た後、所望により中和・酸化処理を行い、次いで得られたホスホニウム塩に所望のアニオン成分を滴下して混合し、アニオン交換することで製造できる。
【0037】
前記アニオン交換において、リン酸エステルイオン又はリン酸イオンを含有するアニオン成分を用いることで、本発明で用いるイオン液体(A)を製造することができ、アミノ基を有するカルボキシラートイオン又は窒素含有複素環を有するカルボキシラートイオンを含有するアニオン成分を用いることで、本発明で用いるイオン液体(B)を製造することができる。
【0038】
また、混合モル比の調整が容易である点から、リン酸エステルイオン又はリン酸イオンからなるアニオン成分を用いて製造したイオン液体(A)、及びアミノ基を有するカルボキシラートイオン又は窒素含有複素環を有するカルボキシラートイオンからなるアニオン成分を用いて製造したイオン液体(B)を、それぞれ別に製造した後、これらを混合することで、本発明の吸湿剤を製造することが好ましい。
【0039】
前記イオン液体(A)と、前記イオン液体(B)との混合モル比は、前者:後者=95:5~5:95であることが好ましく、92:8~28:72であることがより好ましい。混合モル比が上記範囲にあることにより、吸湿性に優れた吸湿剤となるとともに、吸放湿性に優れた吸湿剤ともなるため、吸湿剤のみならず吸放湿剤としても好適である。
【0040】
なお、本発明の吸湿剤において、本発明の効果に影響を与えない程度であれば、イオン液体(A)とイオン液体(B)の他に、イオン液体(A)やイオン液体(B)以外のイオン液体、他の吸湿剤あるいは通常の吸湿剤に用いられるその他成分を含有してもよい。
【0041】
本発明の吸湿剤は、実施例で示したように、イオン液体(A)又はイオン液体(B)を単独で用いた吸湿剤に比べて、相対湿度が半減するまでの各吸湿剤のモルあたりの吸湿速度を計算して求めたモル吸湿速度が、イオン液体(A)とイオン液体(B)の相乗効果で速くなる。
また、従来のイオン液体であるメチルトリブチルホスホニウム・ジメチルホスフェートを用いた吸湿剤に比べて、低い加熱温度で吸収した水蒸気を放出でき、放湿性にも優れる。
更に、本発明の吸湿剤は、吸収した水蒸気を全量又は一部放出させたものは再度吸湿剤として使用することができる。
【0042】
本発明の吸湿剤は、乾燥水電解ガスの製造装置等に使用することができる。例えば特開2018-51543号公報、特開2019-202917号公報、特開2021-7938号公報等にこれらの装置が開示されている。
また、空調機や吸収式冷凍機等の装置にも使用できる。例えば、特開2006-142121号公報、特開2018-144029号公報、特開2020-30004号公報等にこれらの装置が開示されている。
本発明の吸湿剤は、特に乾燥水電解ガスの製造装置及び空調機等の装置に使用されることが好ましい。
【実施例0043】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
[製造例1]
イオン交換樹脂(オルガノ社製、アンバーライトIRA400(OH)HG)を直径5cmのガラスカラムに400ml充填し、純水200mlをSV=1.0の速度で上方からチューブポンプを用いて流した。次いで、テトラブチルホスホニウム・ブロマイド(日本化学工業製、ヒシコーリンPX-4B)33.9g(0.1モル)を純水400mlに溶解した水溶液を、カラムの上方からSV=1.0の速度で流し、さらに純水300mlを流して、テトラブチホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液690.5gを得た。0.1規定塩酸水溶液で中和滴定して、濃度3.7%(粗収率92.4%)であった。また、0.1規定硝酸銀滴定により、残留ブロマイド濃度は540ppmであった。
0.1モル/L水酸化ナトリウム水溶液400mlをSV=1.0の速度で上方からチューブポンプを用いて流し、更に純水300mlを流して、イオン交換樹脂を再生した。同様にテトラブチルホスホニウム・ブロマイド(日本化学工業製、ヒシコーリンPX-4B)33.9g(0.1モル)を純水400mlに溶解した水溶液を、カラムの上方からSV=1.0の速度で流し、さらに純水300mlを流す操作を合計で10回繰り返すことで、平均濃度3.6%のテトラブチホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液7150g(粗収率93.1%)を得た。0.1規定硝酸銀滴定により、残留ブロマイド濃度は500ppmであった。
【0045】
得られたテトラブチルホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液614g(0.08モル)と、β-アラニン7.1g(0.08モル)を純水100mlに溶解した水溶液を、室温で撹拌混合した。得られた混合水溶液を、エバポレーターで減圧濃縮後、濃縮液をメタノールと混合したメタノール溶液を無水硫酸マグネシウムで一昼夜脱水し、脱水したメタノール溶液をエバポレーターで減圧濃縮することで、無色透明粘性液体の化合物2を27.5g(粗収率99.0%)得た。カールフィッシャー法で測定した水分は、5702ppmであった。得られた化合物1のNMR同定データは以下の通りである。
(同定データ)
31P-NMR;33.10ppm
1H-NMR;0.98ppm(t,12H,-CH3),1.51~1.58ppm(m,16H,-CH2-),2.29ppm(t,2H,-C(=O)―CH2-),2.39~2.44(m,8H,P-CH2-),2.87(t,2H,-CH2-NH2),3.35(s,2H,-NH2)
この結果、化合物1はテトラブチルホスホニウム・β-アラニネートであることが確認された。
【0046】
[製造例2]
製造例1と同様にして得られたテトラブチルホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液614g(0.08モル)と、グリシン6.0g(0.08モル)を純水100mlに溶解した水溶液を、室温で撹拌混合した。得られた混合水溶液を、エバポレーターで減圧濃縮後、濃縮液をメタノールと混合したメタノール溶液を無水硫酸マグネシウムで一昼夜脱水し、脱水したメタノール溶液をエバポレーターで減圧濃縮することで、無色透明粘性液体の化合物3を26.5g(粗収率99.0%)得た。カールフィッシャー法で測定した水分は、5092ppmであった。得られた化合物2のNMR同定データは以下の通りである。
(同定データ)
31P-NMR;33.37ppm
1H-NMR;0.98ppm(t,12H,-CH3),1.51~1.58ppm(m,16H,-CH2-),2.36~2.42ppm(m,8H,P-CH2-),3.12ppm(s,2H,-CH2-NH2),3.35ppm(s,2H,-NH2)
この結果、化合物2はテトラブチルホスホニウム・グリシネートであることが確認された。
【0047】
[製造例3]
製造例1と同様にして得られたテトラブチルホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液614g(0.08モル)と、DL-アラニン7.1g(0.08モル)を純水100mlに溶解した水溶液を、室温で撹拌混合した。得られた混合水溶液を、エバポレーターで減圧濃縮後、濃縮液をメタノールと混合したメタノール溶液を無水硫酸マグネシウムで一昼夜脱水し、脱水したメタノール溶液をエバポレーターで減圧濃縮することで、無色透明粘性液体の化合物1を27.2g(粗収率98.0%)得た。カールフィッシャー法で測定した水分は、4947ppmであった。得られた化合物3のNMR同定データは以下の通りである。
(同定データ)
31P-NMR;33.37ppm
1H-NMR;0.98ppm(t,12H,-CH3),1.51~1.58ppm(m,16H,-CH2-),1.29ppm(d,3H,-CH3),2.39~2.40(m,8H,P-CH2-),3.25(q,1H,-CH-NH2),3.35(s,2H,-NH2)
この結果、化合物3はテトラブチルホスホニウム・DL-アラニネートであることが確認された。
【0048】
[実施例1-1~1~3]
表1に示す組成となるように製造例1で得られた化合物1(テトラブチルホスホニウム・β-アラニネート)と、メチルトリブチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(PX-4MP:日本化学工業(株)製)を混合して吸湿剤を得た。
得られた吸湿剤を用いて、後述する手順で吸湿試験及び放湿試験を行った。結果を表2及び表4に示す。
また、実施例1-2の吸湿剤については、後述する手順で再吸湿試験を行った。結果を表3に示す。
【0049】
[比較例1-1]
メチルトリブチルホスホニウム・ジメチルホスフェートを用いて、実施例1-1~1~3と同様に吸湿試験及び放湿試験を行った。結果を表2及び表4に示す。
【0050】
[比較例1-2]
化合物1を用いて、実施例1-1~1~3と同様に吸湿試験及び放湿試験を行った。結果を表2及び表4に示す。
【0051】
<吸湿試験>
縦170mm、横220mm、高さ80mmのステンレス製かごをチャック付きポリエチレン袋に入れ、相対湿度を約50%に調整したアクリル製試験箱内に置いた。70mmφガラス製シャーレに吸湿剤を約1g入れて0.1mg感量まで正確に秤量した。このシャーレ及び温湿度計(T&D社製データロガーおんどとりTR72nw)をかご内に入れて袋を密封し、袋内の相対湿度の経時変化を測定した。
初期相対湿度が半減するまでの時間を湿度半減時間とし、また、相対湿度が半減するまでの各吸湿剤のモルあたりの吸湿速度を計算してモル吸湿速度として、各吸湿剤の吸湿性能を比較した。
なお、モル吸湿速度(%/mol・min)は以下の式により計算した。
(初期湿度の1/2)/[(サンプル重量/分子量)×(初期湿度が1/2となる時間)]
【0052】
<再吸湿試験>
実施例1-2の吸湿剤について、上述の吸湿試験を、袋内の相対湿度が10%以下になるまで行った後、再度袋内の相対湿度を約50%に調整し、袋内の相対湿度の経時変化を上述の吸湿試験と同様に測定した。湿度半減時間及びモル吸湿速度を表3に示す。
【0053】
<放湿試験>
75mmφガラス製シャーレに、イオン交換水を添加して水分量が2%前後になるように調整した吸湿剤を約3g入れて0.1mg感量まで正確に秤量した。このシャーレを所定の温度に加熱した恒温器に大気雰囲気下で入れた。30分後にシャーレを取り出して、各吸湿剤の含水量をカールフィッシャー水分計で測定し、初期の水分量からの減少率(%)を求め、各吸湿剤の放湿性能を比較した。また、加熱後の外観を観察した。加熱温度、水分減少率及び加熱後外観を表4に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
表3に示した結果より、吸湿速度は遅くなったが、十分な吸湿能力があることが判る。
【0059】
[実施例2-1~2~4]
表5に示す組成となるように製造例2で得られた化合物2(テトラブチルホスホニウム・グリシネート)と、メチルトリブチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(PX-4MP:日本化学工業(株)製)を混合して吸湿剤を得た。
実施例2-1、2-3及び2-4で得られた吸湿剤を用いて、実施例1-1~1~3と同様に吸湿試験を行った。結果を表6に示す。
また、実施例2-2の吸湿剤については、実施例1-1~1~3と同様に放湿試験を行った。結果を表7に示す。
【0060】
[比較例2-1]
化合物2を用いて、実施例1-1~1~3と同様に吸湿試験及び放湿試験を行った。結果を表6及び表7に示す。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
[実施例3-1~3~3]
表8に示す組成となるように製造例3で得られた化合物3(テトラブチルホスホニウム・DL-アラニネート)と、メチルトリブチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(PX-4MP:日本化学工業(株)製)を混合して吸湿剤を得た。
得られた吸湿剤を用いて、実施例1-1~1~3と同様に吸湿試験を行った。結果を表7に示す。
【0065】
[比較例3-1]
化合物3を用いて、実施例1-1~1~3と同様に吸湿試験を行った。結果を表9に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
表2、表6及び表9に示した結果より、特定の2種類のイオン液体を含有することで、1種類のイオン液体のみを含有する場合と比較して優れた吸湿性を有する吸湿剤となることが判る。
更に、表4及び表7に示した結果より、特定の2種類のイオン液体を含有することで、1種類のイオン液体のみを含有する場合と同程度又はそれ以下の加熱温度で吸収した水分を放出でき、吸放湿性にも優れた吸湿剤となることが判る。