(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139737
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】積層体および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20241002BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20241002BHJP
H01L 21/50 20060101ALI20241002BHJP
H01L 33/48 20100101ALN20241002BHJP
【FI】
H01L21/60 311S
B32B7/023
H01L21/50 C
H01L33/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024045519
(22)【出願日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2023050535
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 大地
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 里沙乃
(72)【発明者】
【氏名】青島 健太
(72)【発明者】
【氏名】有本 由香里
【テーマコード(参考)】
4F100
5F044
5F142
【Fターム(参考)】
4F100AG00A
4F100AK01B
4F100AK54B
4F100BA02
4F100CA07B
4F100EJ61
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4F100YY00B
5F044KK01
5F044LL07
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5F044RR12
5F142AA54
5F142BA32
5F142CB23
5F142CD02
5F142FA32
5F142GA02
(57)【要約】
【課題】微細かつ高密度に搭載された半導体素子を、デブリの発生なく、かつ、半導体素子を高い位置精度で転写可能な積層体、および当該積層体を用いた半導体素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、レーザー透過性を有する第1基板と、樹脂膜が順に積層された積層体であって、25℃、1.0×106Hzにおける動的粘弾性測定により測定される前記樹脂膜の損失正接が0.01~0.15である、積層体に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー透過性を有する第1基板と、樹脂膜が順に積層された積層体であって、
25℃、1.0×106Hzにおける動的粘弾性測定により測定される前記樹脂膜の損失正接が0.01~0.15である、積層体。
【請求項2】
さらに、半導体素子を有し、
前記第1基板と、前記樹脂膜と、前記半導体素子がこの順に積層されている、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
25℃、1.0×106Hzにおける動的粘弾性測定により測定される前記樹脂膜の貯蔵弾性率が300MPa以上である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
25℃、1.0×10-2Hzにおける動的粘弾性測定により測定される前記樹脂膜の損失正接が0.4以上である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項5】
前記樹脂膜の膜厚が0.7μm以上、30μm以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項6】
前記樹脂膜が光吸収剤を含有する、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項7】
前記樹脂膜の、200~1100nmのいずれかの波長における膜厚1.0μm換算時の吸光度が0.4以上、5.0以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項8】
下記工程(a)および(b)を含む半導体装置の製造方法。
(a)請求項2に記載の積層体の、前記半導体素子が積層されている面に対向させて第2基板を配置する工程。
(b)前記積層体に対し、前記第1基板の側からレーザー光を照射して、前記半導体素子を前記第2基板へ転写する工程。
【請求項9】
前記第2基板の、前記半導体素子が転写される面に粘着層が積層されている、請求項8に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記レーザー光の波長が355nmである、請求項8または9に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体および半導体装置の製造方法に関する。より詳しくは、半導体素子をレーザー転写により実装する際に好適に用いられる積層体、およびそれを使用した半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に半導体装置に組み込まれる素子は、回路基板などにフリップチップボンダーなどを使用したピックアンドプレース法で移載・実装される。近年では半導体装置の高性能化、小型化が進んでおり、それに伴い、半導体装置内に組み込まれる素子も、小型化、薄型化され、また、半導体装置内に実装される素子の個数が増えてきている。近年、半導体素子の一種である発光ダイオード(LED)を各画素に配列したディスプレイが、高輝度、低消費電力、高画質であるため注目されている。各画素に実装するLEDはマイクロLEDと呼ばれ、1辺が数百~十数μmほどの小さいLEDが用いられる。このマイクロLEDディスプレイを製造するにあたり、上記の実装方式では時間がかかりすぎるため、新たな手法が検討されている。
【0003】
小型半導体素子を多数実装する手法として、支持基板上に粘着層を有する積層体に、粘着層の支持基板側とは反対の面に半導体素子を搭載して積層体を準備したのち、該積層体の支持基板側からレーザーを照射することで、積層体から一定の距離をもって離れた下方に位置する回路基板等の対向基板に、半導体素子を目的の半導体素子間隔となるように選択的に転写・実装するレーザー転写技術が提案されている。この手法は、積層体および/または対向基板のステージを高速に移動させながらレーザーを照射することで、半導体素子を高速かつ広範囲に転写できる利点を持つ。なお、「転写」とは、半導体素子が、元の基板から別の基板に移載されることを表す。
【0004】
該レーザー転写技術に用いられる積層体として、薄膜の粘着層を適用し、レーザー照射により支持基板と半導体素子の間に存在する粘着層をすべてアブレーションさせ、消失させることで、半導体素子上の粘着層残渣もすべて除去しながら半導体素子の転写を可能とする積層体が挙げられる(例えば、特許文献1)。また、レーザー照射により、支持基板と樹脂膜の界面に位置する樹脂膜をアブレーションさせ、それによって発生したガスが粘着層と支持基板の界面に溜まって空隙(ブリスター)を形成し、粘着層の形状変化により、素子が剥がれ落ちて分離することで、半導体素子を転写する積層体も挙げられる(例えば、特許文献2)。さらに、吸光度と接着強度を制御した粘着層を適用することで、粘着層の残膜なく、半導体素子を転写する技術も挙げられる(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-188037公報
【特許文献2】国際公開第2022/153745号
【特許文献3】国際公開第2022/210155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、粘着層の半導体素子表面の残渣を回避するため、過剰なレーザー光を照射し、粘着層をすべてアブレーションで除去する必要があり、粘着層の飛散による対向基板の汚損や、半導体素子が破損するなどのダメージが課題であった(以降、半導体素子表面の粘着層の残渣を糊残り、飛散した粘着層の残渣をデブリと呼ぶことがある)。特許文献2および3では、残渣やデブリの発生を抑制しながら半導体素子を転写できる一方、マイクロLEDといった微細かつ高密度に搭載された半導体素子を、精度高く転写するには不十分であった。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みて、微細かつ高密度に搭載された半導体素子を、デブリの発生なく、かつ、高い位置精度で転写可能な積層体、および当該積層体を用いた半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の1~10の態様を包含する。
1.レーザー透過性を有する第1基板と、樹脂膜が順に積層された積層体であって、
25℃、1.0×106Hzにおける動的粘弾性測定により測定される前記樹脂膜の損失正接が0.01~0.15である、積層体。
2.さらに、半導体素子を有し、
前記第1基板と、前記樹脂膜と、前記半導体素子がこの順に積層されている、前記1に記載の積層体。
3.25℃、1.0×106Hzにおける動的粘弾性測定により測定される前記樹脂膜の貯蔵弾性率が300MPa以上である、前記1または2に記載の積層体。
4.25℃、1.0×10-2Hzにおける動的粘弾性測定により測定される前記樹脂膜の損失正接が0.4以上である、前記1~3のいずれか1に記載の積層体。
5.前記樹脂膜の膜厚が0.7μm以上、30μm以下である、前記1~4のいずれか1に記載の積層体。
6.前記樹脂膜が光吸収剤を含有する、前記1~5のいずれか1に記載の積層体。
7.前記樹脂膜の、200~1100nmのいずれかの波長における膜厚1.0μm換算時の吸光度が0.4以上、5.0以下である、前記1~6のいずれか1に記載の積層体。
8.下記工程(a)および(b)を含む半導体装置の製造方法。
(a)前記2~7のいずれか1に記載の積層体の、前記半導体素子が積層されている面に対向させて第2基板を配置する工程。
(b)前記積層体に対し、前記第1基板の側からレーザー光を照射して、前記半導体素子を前記第2基板へ転写する工程。
9.前記第2基板の、前記半導体素子が転写される面に粘着層が積層されている、前記8に記載の半導体装置の製造方法。
10.前記レーザー光の波長が355nmである、前記8または9に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層体によれば、微細かつ高密度に搭載された半導体素子を、デブリの発生なく、かつ、高い位置精度で転写できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第2積層体の作製方法を例示する図である。
【
図2】
図2は、仮接着剤を利用した、第2積層体の作製方法を例示する図である。
【
図3】
図3は、レーザーリフトオフを利用した第2積層体の作製方法を例示する図である。
【
図4】
図4は、半導体基板を利用した、第2積層体の別の作製方法を例示する図である。
【
図5】
図5は、半導体装置の製法方法における、第2積層体の半導体素子面と第2基板を対向させる工程を例示する図である。
【
図6】
図6は、レーザー光を照射して、半導体素子を第2基板へ転写する工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。
本発明の一実施形態に係る積層体は、レーザー透過性を有する第1基板と、樹脂膜がこの順に積層された積層体であって、25℃、1.0×106Hzにおける動的粘弾性測定により測定される前記樹脂膜の損失正接が0.01~0.15である。本態様の積層体を、以降、第1積層体と呼ぶ。
また、本発明の一実施形態に係る積層体は、上記第1積層体の構成を含み、さらに、半導体素子を有する。すなわち本発明の一実施形態に係る積層体は、レーザー透過性を有する第1基板と、樹脂膜と、半導体素子がこの順に積層されている。本態様の積層体を、以降、第2積層体と呼ぶ。
【0012】
本発明の実施形態に係る第1積層体、および、本発明の実施形態に係る第2積層体を総称して、単に本発明の実施形態に係る積層体と呼ぶことがある。
【0013】
本発明において、半導体素子は、半導体を含んでなり、半導体装置を構成する要素を指す。半導体素子は、具体的には例えば、トランジスタ、ダイオード、マイクロLEDチップを含む発光ダイオードなどである。また半導体装置は、複数の半導体素子を電気的に接続して集合させた装置であり、例えば、集積回路やディスプレイを駆動するTFT基板、マイクロLEDチップが配列されたマイクロLEDディスプレイ等を含む。
【0014】
以下に本発明の実施形態に係る積層体の各構成成分について説明する。
レーザー透過性を有する第1基板とは、少なくとも200~1100nmのいずれかの波長における吸光度が0.1以下である基板のことをいう。200~1100nmのいずれかの波長において吸光度が特定範囲内にあるとは、例えば、波長200~1100nmの範囲で吸光度を測定した際に、波長が整数値である場合の吸光度について、少なくとも1つの値における吸光度が特定範囲内にあればよい。このような吸光度を有する基板としては、石英、サファイア、アルカリガラス、無アルカリガラス、ほうケイ酸ガラス等の無機基板が挙げられる。基板の厚みは上記の吸光度を損なわない範囲で選択することができ、例えば0.1mm~5.0mmが好ましい。すなわち、基板の取り扱いやすさの観点から基板の厚みは0.3mm以上がより好ましい。一方、入手しやすさや汎用性の観点から基板の厚みは2.0mm以下がより好ましい。
【0015】
レーザー透過性を有する第1基板には、PETやアラミド、ポリエステル、ポリプロピレン、シクロオレフィンなどの有機基板を用いることも可能である。有機基板を用いる場合の基板の厚みは、上記の吸光度を損なわない範囲で選択することができ、例えば0.05mm~3.0mmが好ましい。基板の取り扱いやすさの観点から、基板の厚みは0.1mm以上がより好ましい。一方、レーザー照射時の光散乱を抑制できることから基板の厚みは1.0mm以下がより好ましい。
【0016】
第1基板がレーザー透過性を有すると、半導体素子をレーザー転写する際、積層体の第1基板の側から照射されたレーザーは、第1基板を透過して樹脂膜に到達する。第2積層体の態様である場合、到達したレーザーは樹脂膜に吸収されて、以下に挙げる方式Aまたは方式Bによって半導体素子が転写される。
方式A:レーザーが照射されたエリアの樹脂膜の全体が分解することでガスが発生する。発生したガスによって、樹脂膜上に積層されている半導体素子が転写される。
方式B:レーザーが照射されたエリアの樹脂膜のうち、第1基板に接する表面とその近傍が分解することで、第1基板と樹脂膜の界面でガスが発生する。発生したガスの圧力によって樹脂膜が変形して、樹脂膜の上に積層されている半導体素子が転写される。
以下、特に断りがない限りは方式Bにより半導体素子が転写される場合を例にして、本発明の実施形態についてさらに説明する。
【0017】
<樹脂膜>
樹脂膜は少なくとも樹脂を含む膜であり、25℃、1.0×106Hzにおける動的粘弾性測定により測定される損失正接(以下、単に樹脂膜の損失正接αともいう。)が0.01~0.15である。レーザーを照射してから半導体素子が樹脂膜を離れるまでの時間は一般的に0.1~10μsecの範囲である。よって、この時間範囲を周波数に置換えた場合、1.0×105~1.0×107Hzである。前記損失正接αが0.15より大きいと、レーザーを照射してから半導体素子が転写されるまでの過程において、レーザーの照射で発生したエネルギーが樹脂膜の熱運動に消費されやすく、樹脂膜の変形が起こりにくい。このため、半導体素子を転写する勢いが弱まり、転写した先の位置精度が落ちる。一方、前記損失正接αが0.01より小さい樹脂膜は、半導体素子を保持しにくく、樹脂膜上のレーザーを照射するまでのあいだのハンドリングによって、樹脂膜に積層した半導体素子の位置がずれたり、落下したりするリスクがある。よって、樹脂膜の損失正接αが上記範囲内にあることで、本発明の実施形態に係る積層体は、第2積層体の態様とした際に半導体素子を適切に保持でき、さらに、半導体素子を転写する際に位置精度を優れたものとできる。損失正接αは、好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.05以上である。また、損失正接αは好ましくは0.13以下、さらに好ましくは0.11以下である。
【0018】
また、樹脂膜は、25℃、1.0×106Hzにおける動的粘弾性測定により測定される貯蔵弾性率(以下、単に樹脂膜の貯蔵弾性率ともいう。)が300MPa以上であることが好ましい。前記貯蔵弾性率が、300MPa以上であれば、樹脂膜が過剰に変形するのを抑制でき、転写の精度がより良好に保たれる。貯蔵弾性率は、より好ましくは350MPa以上、さらに好ましくは380MPa以上、特に好ましくは450MPa以上である。
【0019】
また、樹脂膜は、25℃、1.0×10-2Hzにおける動的粘弾性測定により測定される損失正接(以下、単に樹脂膜の損失正接βともいう。)が0.4以上であることが好ましい。第2積層体を作製するにあたり、フリップチップボンダーなどの実装機を使用して樹脂膜に半導体素子を積層する。このとき、後述するとおり、必要に応じて加熱しながら圧力をかける。その時間は一般的に10~1000secの範囲である。よって、この時間範囲を周波数に置換えた場合、1.0×10-1~1.0×10-3Hzである。前記損失正接βが0.4より小さいと、樹脂膜の粘性が発現しにくく、半導体素子を樹脂膜に貼り付けることが困難となる。よって、樹脂膜の損失正接βが上記範囲内にあることで、半導体素子を樹脂膜に積層することができ、第2積層体を作製することができる。損失正接βは、より好ましくは0.45以上、さらに好ましくは0.5以上である。
【0020】
本発明の実施形態に係る積層体は、樹脂膜の膜厚が0.7μm以上、30μm以下であることが好ましい。膜厚が0.7μm以上であることで、レーザー光を照射した際に発生した熱が半導体素子に伝わることを低減し、半導体素子へのダメージを抑制することができ、さらに、樹脂膜が破断し、デブリとなって対向基板を汚損することを防止できる。
【0021】
また樹脂膜の膜厚が30μm以下であれば、レーザー透過性を有する第1基板側からのレーザー光照射によって樹脂膜がアブレーションされることによって生じる変形が、半導体素子の界面に効率よく伝わり、結果として半導体素子を転写できる。膜厚は、さらに好ましくは、20μm以下であり、これにより半導体素子を対向基板に転写する際の位置精度をより優れたものにできる。
【0022】
樹脂膜は、200~1100nmのいずれかの波長における、膜厚1.0μm換算時の吸光度が0.4以上、5.0以下であることが好ましい。吸光度はより好ましくは、0.6以上であり、4.0以下である。吸光度が0.4以上であれば、レーザー透過性を有する第1基板側からレーザーを照射した際、樹脂膜は第1基板との界面付近でレーザーを完全に吸収する。よって樹脂膜の内部にレーザーが侵入することがなく、第2積層体において前記方式Bで半導体素子を転写できる。また、半導体素子にレーザーが照射されてダメージを受けることを防ぐことができる。一方、前記吸光度が5.0以下であれば、使用できる樹脂の汎用性が高まる。
【0023】
前記吸光度を満たす波長は、248nm、266nm、308nm、355nm、532nmおよび1064nmのいずれか1以上の波長であることが好ましい。より好ましくは248nm、266nm、308nmおよび355nmのいずれか1以上の波長である。さらに好ましくは、波長335nmである。これらの波長において樹脂膜の吸光度が上述の範囲を満たすことによって、樹脂膜がレーザーエネルギーを効率よく吸収することができる。
【0024】
樹脂膜は、第1基板と該樹脂膜が接する面とは反対側の該樹脂膜表面の接着強度が0.02N/cm以上、0.3N/cm以下であることが好ましい。ここで挙げる接着強度とは、樹脂膜の表面とカプトンフィルムの90°ピール試験から得られる値を示す。具体的な測定方法は、樹脂膜の表面に1cm×9cmにカットしたカプトンフィルムを真空ラミネーターにて0.6MPa、35℃の条件で圧着し、圧着したカプトンテープを引張試験機で樹脂膜に対して垂直方向に2mm/秒の一定速度で引きはがし試験を行うものである。
【0025】
前記接着強度が0.02N/cm以上であることで、半導体素子を樹脂膜上に積層した際に安定して保持することができる。また、前記接着強度が0.3N/cm以下であることで転写の際に低いレーザー光エネルギー密度で半導体素子を転写することができる。さらに好ましくは前記接着強度が0.2N/cm以下である。この範囲とすることで、レーザー透過性を有する第1基板側からレーザーを照射し半導体素子を転写した際の、半導体素子上の糊残りを抑制できる。
【0026】
樹脂膜の接着強度を上記の範囲とするには、後述する樹脂に柔軟な成分や屈曲した成分が含有されることが好ましい。柔軟成分や屈曲成分を導入することでガラス転移温度が下がり、接着強度を上げることができる。柔軟性や屈曲性を上げる成分としては、アルキレン基、シロキサンなどの脂肪族やシランに由来する柔軟構造、アルキレングリコールや、ビフェニルエーテルなどのエーテル基に由来する柔軟構造、脂環式構造、オレフィンなどの屈曲構造などが挙げられる。樹脂膜に含有される樹脂を構成する全てのモノマー残基100モル%に対して、これらの柔軟性を付与する構造を有するモノマー残基を20モル%以上含有していることで接着強度を0.02N/cm以上とすることができる。また、モノマー残基含有量を70モル%以下とすることで接着強度を0.3N/cm以下とすることができる。
【0027】
樹脂膜に含まれる樹脂として、ポリイミド、ポリアミド酸、ポリベンゾオキサゾール、ポリヒドロキシアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリイミドシロキサン、ノボラック樹脂、ポリヒドロキシスチレン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができるが、この限りではない。以下、樹脂の具体的な例を挙げる。
【0028】
<樹脂>
本発明の実施形態において樹脂膜に用いられる樹脂は、例えば、化学式(1)または(2)で表される繰り返し単位を主成分とすることができる。ここで、化学式(1)または(2)で表される繰り返し単位を主成分とする樹脂とは、該繰り返し単位の繰り返し数が全ての繰り返し数の50%以上を占めることをいう。
【0029】
【0030】
化学式(1)および(2)中、Xは炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示し、Yは炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、炭素数1~10のアルキルシリル基、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンを示す。
【0031】
化学式(1)はポリイミドの化学構造を示す。化学式(2)はポリアミド酸の化学構造を示す。ポリアミド酸は、後述の通り、テトラカルボン酸とジアミン化合物を反応させることで得られる。さらにポリアミド酸は、加熱や化学処理を行うことにより、耐熱性樹脂であるポリイミドに変換することができる。
【0032】
化学式(1)および(2)中、Xは、水素原子および炭素原子を必須成分とし、ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンからなる群より選ばれる1種以上の原子を含んでもよい炭素数2~80の4価の有機基であることが好ましく、炭素数2~80の4価の炭化水素基であることがより好ましい。ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンの各原子は、それぞれ独立に20以下の範囲であるものが好ましく、10以下の範囲であるものがより好ましい。
【0033】
Xを与えるテトラカルボン酸としては特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例として、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸や国際公開第2017/099183号に記載のテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0034】
これらのテトラカルボン酸は、そのまま、あるいは酸無水物、活性エステル、活性アミドの状態でも使用できる。これらのうち、酸無水物は、重合時に副生成物が生じないため好ましく用いられる。また、これらを2種以上用いてもよい。
【0035】
化学式(1)および(2)中、Yは、水素原子および炭素原子を必須成分とし、ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンからなる群より選ばれる1種以上の原子を含んでもよい炭素数2~80の2価の有機基であることが好ましく、炭素数2~80の2価の炭化水素基であることがより好ましい。ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンの各原子は、それぞれ独立に20以下の範囲であるものが好ましく、10以下の範囲であるものがより好ましい。
【0036】
Yを与えるジアミンとしては特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例として、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジ(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(4-アミノフェノキシフェニル)スルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンや、国際公開第2017/099183号に記載のジアミンなどが挙げられる。
これらのジアミンは、そのまま、あるいは対応するトリメチルシリル化ジアミンの状態でも使用できる。また、これらを2種以上用いてもよい。
【0037】
また、XまたはYは、化学式(11)~(13)で表される構造からなる群より選ばれるいずれか1種類以上の構造を有することが好ましい。
【0038】
【0039】
化学式(11)中、R11およびR12は、それぞれ独立して炭素数1~10の1価の炭化水素基を表す。jは4~40の整数を表す。化学式(12)中、R13およびR14はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10の1価の炭化水素基を表す。kは10~40の整数を表す。化学式(13)中、R15およびR16はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10の1価の炭化水素基を表す。mは1~16の整数、nは4~40の整数を表す。
樹脂膜が化学式(11)~(13)のいずれかで表される構造を有する樹脂を含むと、第1基板と界面や半導体素子との接着性を強くすることができる。
【0040】
化学式(11)で表される構造を有するYを与えるジアミンとしては、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジエチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジプロピルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジブチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジフェノキシシロキサン、α,ω-ビス(2-アミノエチル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(2-アミノエチル)ポリジフェノキシシロキサン、α,ω-ビス(4-アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(4-アミノブチル)ポリジフェノキシシロキサン、α,ω-ビス(5-アミノペンチル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(5-アミノペンチル)ポリジフェノキシシロキサン、α,ω-ビス(4-アミノフェニル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(4-アミノフェニル)ポリジフェノキシシロキサンなどが挙げられる。市販品として、KF-8010、KF-8012、KF-8008、X22-161A、X-22-161B、X-22-1660B-3、X-22-9409(以上商品名、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。化学式(11)で表される構造を有するXを与えるテトラカルボン酸としては、X-22-168AS、X-22-168A、X-22-168B、X-22-168-P5-B(以上商品名、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。化学式(12)で表される構造を有するYを与えるジアミンとしては、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンなどが挙げられる。化学式(13)で表される構造を有するYを与えるジアミンとしては、ジェファーミンKH-511、ジェファーミンED-600、ジェファーミンED-900、ジェファーミンED-2003、ジェファーミンEDR-148、ジェファーミンEDR-176、ジェファーミンD-200、ジェファーミンD-400、ジェファーミンD-2000、ジェファーミンD-4000(以上商品名、HUNTSMAN社製)、エラスマー250P、エラスマー650P、エラスマー1000P、ポレアSL100A(以上商品名、クミアイ化学工業株式会社製)などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0041】
末端のモノマーがジアミン化合物である場合は、そのアミノ基を封止するために、ジカルボン酸無水物、モノカルボン酸、モノカルボン酸クロリド化合物、モノカルボン酸活性エステル化合物、二炭酸ジアルキルエステルなどを末端封止剤として用いることができる。
末端のモノマーが酸二無水物である場合は、その酸無水物基を封止するために、モノアミン、モノアルコールなどを末端封止剤として用いることができる。
【0042】
化学式(1)または(2)で表される繰り返し単位を主成分とする樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、ポリスチレン換算で好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、さらに好ましくは100,000以下である。この範囲であれば、高濃度の樹脂組成物であっても粘度が増大するのをより抑制することができる。また、重量平均分子量は好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは30,000以上である。重量平均分子量が30,000以上であれば、樹脂組成物としたときの粘度が低下しすぎることがなく、より良好な塗布性を保つことができる。
化学式(1)および(2)の繰り返し数は、上述の重量平均分子量を満たす範囲であればよい。好ましくは5以上であり、より好ましくは10以上である。また、好ましく1000以下であり、より好ましくは500以下である。
【0043】
本発明の実施形態において樹脂膜に用いられる樹脂は、化学式(3)で表される繰り返し単位を主成分とすることもできる。
【0044】
【0045】
化学式(3)中、Uは炭素数2以上の2価のポリイソシアネート残基を示し、Vは炭素数2以上の2価のポリオール残基を示す。
【0046】
Uを与えるポリイソシアネートとしては特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1、4-シクロヘキサンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、ジシクロへキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート;及びトリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;並びに、これらのビウレット体、イソシアヌレート体、トリメチロールプロパンのアダクト体などが挙げられる。市販品として、例えば、デュラネート(登録商標)24A-100、デュラネート22A-75P、デュラネートTPA-100、デュラネートTKA-100、デュラネートP301-75E、デュラネート21S-75E、デュラネートMFA-75B、デュラネートMHG-80B、デュラネートTUL-100、デュラネートTLA-100、デュラネートTSA-100、デュラネートTSS-100、デュラネートTSE100、デュラネートE402-80B、デュラネートE405-70B、デュラネートAS700-100、デュラネートD101、デュラネートD201、及びデュラネートA201H(以上、商品名、旭化成株式会社製)等が挙げられる。また、これらを2種以上用いてもよい。
【0047】
Vを与えるポリオールとしては特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例えば低分子量ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が好ましく用いられる。低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の分子量が50以上300以下である脂肪族ポリオール;シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA等の脂環式構造を有するポリオール;ビスフェノールA及びビスフェノールF等の芳香族構造を有するポリオールなどが挙げられる。また、これらを2種以上用いてもよい。
【0048】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、活性水素原子を2つ以上有する化合物の1種又は2種以上を開始剤として、アルキレンオキサイドを付加重合させた化合物などが挙げられる。前記活性水素原子を2つ以上有する化合物としては、例えば、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、水、ヘキサントリオール等が挙げられる。また、前記アルキレンオキサイドとしては、例えば、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。また、これらを2種以上用いてもよい。
【0049】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子量のポリオールと、ポリカルボン酸とを反応して得られるポリエステルポリオール;ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルポリオール;これらを共重合して得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。ポリエステルポリオールの製造に用いられる低分子量のポリオールとしては、前記低分子量ポリオールと同じものを用いることができる。ポリカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸等の脂環式ポリカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸;それらの無水物またはエステル化物などが挙げられる。また、これらを2種以上用いてもよい。
【0050】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステルと多価アルコールとのエステル化反応物、多価アルコールとホスゲンとの反応物などが挙げられる。炭酸エステルとしては、例えば、脂肪族カーボネート、脂環式カーボネート、芳香族カーボネートなどが挙げられる。脂肪族カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジ-n-ブチルカーボネート、ジイソブチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、エチルイソブチルカーボネート等の飽和脂肪族カーボネート;エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、1,2-プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、1,3-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、1,3-ペンチレンカーボネート、1,4-ペンチレンカーボネート、1,5-ペンチレンカーボネート、2,3-ペンチレンカーボネートおよび2,4-ペンチレンカーボネート等の不飽和脂肪族カーボネートなどが挙げられる。芳香族カーボネートとしては、ジフェニルカーボネート、ジベンジルカーボネート等が挙げられる。また、これらを2種以上用いてもよい。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の直鎖状又は分岐鎖状のジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA等の脂環式ジオール;トリメチロールメタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の3官能以上のポリオールなどが挙げられる。また、これらを2種以上用いてもよい。
【0051】
本発明の実施形態において樹脂膜に用いられる樹脂は、ウレタンアクリレート、アクリル樹脂アクリレート、エポキシアクリレートなどのオリゴマーから得られるものであってもよい。これらのオリゴマーは、分子鎖末端にアクリル基やメタクリル基などの重合性基を有するため、電子線や紫外線などで硬化させて樹脂とすることができる。なかでも、半導体素子を保持でき、かつ方式Bを用いて半導体素子をレーザーで転写する際に樹脂膜が適切に変形するよう、密着性と可撓性を制御しやすいウレタンアクリレートが好ましい。ウレタンアクリレートも、化学式(3)で表される繰り返し単位を含み、その説明は、化学式(3)で表される繰り返し単位を主成分とする樹脂と同じである。
【0052】
本発明の実施形態に係る積層体では、樹脂膜の損失正接が特定の範囲にあることで半導体素子を転写する際の位置精度を向上できる。ここで、樹脂膜の損失正接を調整する方法は特に限定されないが、例えば、樹脂の構造や分子量、架橋度合いを調整して樹脂の熱運動性を制御する方法が挙げられる。樹脂の熱運動性が低ければ損失正接を小さく、逆に樹脂の熱運動性が高ければ損失正接を大きく設計することができる。樹脂の剛直性を高くすると樹脂の熱運動性が低下し、樹脂の柔軟性を高くすると樹脂の熱運動性が高まる。樹脂の剛直性を高めるには、芳香族を有するモノマーを原料として用いることが有効である。また、水素結合などの分子間力をもたらす官能基を有するモノマーを用いると、樹脂同士の分子間力も高まるため樹脂の熱運動性が低下する。逆にそれらのモノマーを用いなければ、樹脂の熱運動性は高まる。一方、樹脂の柔軟性を高めるには、ポリイミドの場合は前記化学式(11)~(13)で表される構造を有するモノマー、ポリウレタン、ウレタンアクリレートの場合は分子量500以上のポリオールを原料として用いることが有効である。全モノマー100質量部中にこれらの柔軟性を高めるために用いるモノマーが占める割合は、50質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましい。50質量部以上であれば、樹脂の熱運動性が高くなり、損失正接αを0.01以上、損失正接βを0.4以上に設計しやすくなる。このため、樹脂膜が半導体素子を保持しやすくなり、樹脂膜に積層した半導体素子の位置がずれたり、落下したりするリスクを減らすことができる。一方、熱運動性が高すぎると、損失正接αが0.15を超えて転写精度が低下するため、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましい。樹脂の分子量を高くすると、分子鎖同士の絡み合いが増え、それが架橋点として作用して樹脂の熱運動性を低下させる。樹脂の分子量を、重量平均分子量で好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上とすることで、樹脂の熱運動性を十分に低くすることができる。また、後述の架橋剤を共存させることで、樹脂膜としたときに架橋点を形成して樹脂の熱運動性を低下させることもできる。
加えて、樹脂の剛直性を高めることや架橋剤を用いて架橋度合いを高めることは、貯蔵弾性率を大きくすることにも有効である。
【0053】
<光吸収剤>
樹脂膜中に紫外線吸収剤や色素、染料、顔料などの光吸収剤を含有させることでも、上記の吸光度を達成することが可能である。樹脂膜に含有される光吸収剤の例としては、TinuvinPS、Tinuvin99-2、Tinuvin326、Tinuvin328、Tinuvin384-2、Tinuvin400、Tinuvin405、Tinuvin460、Tinuvin477、Tinuvin479、Tinuvin900、Tinuvin928、Tinuvin1130(以上商品名、BASF社製)、DAINSORB T-0、DAINSORB T-7、DAINSORB T-31、DAINSORB T-52、DAINSORB T-53、DAINSORB T-84、DAINSORB P-6、DAINSORB P-7(以上商品名、大和化学工業株式会社製)などの紫外線吸収剤、Solvent Yellow93、Solvent Yellow33、Solvent Orange60、Solvent Red111、Solvent Red135、Solvent Red168、Solvent Red207、Solvent Red52、Solvent Red179、Solvent Blue36、Solvent Blue94、Solvent Blue63、Solvent Blue104、Solvent Blue97、Solvent Green20、Solvent Violet13、Solvent Violet36(以上商品名、東京化成工業株式会社製)、カーボンブラック、ペリレンブラック、シアニンブラック、アニリンブラックなどの色素、染料および顔料などが挙げられる。
【0054】
これらは、樹脂膜中に単独で含有されていてもよく、複数種含有されてもよい。吸光度を上記範囲にするための前記光吸収剤の含有量は、樹脂膜100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、また、積層体を形成する前のワニスの状態における安定性の観点から、50質量部以下が好ましい。
【0055】
<架橋剤>
本発明の実施形態に係る積層体における樹脂膜は架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤の添加によって、構造の一部を架橋させて樹脂膜の表面を硬質化させ、接着強度を調整することができる。さらに樹脂膜の表面が架橋されて強固になることによって、糊残りの抑制効果が高まる。また先述の通り、樹脂膜における樹脂の架橋度合いを高めることは、樹脂膜の損失正接を比較的小さくすることにも寄与し得る。
【0056】
架橋剤の例としては、アルコキシメチル基またはメチロール基を有する化合物として、例えば、DML-PC、DML-PEP、DML-OC、DML-OEP、DML-34X、DML-PTBP、DML-PCHP、DML-OCHP、DML-PFP、DML-PSBP、DML-POP、DML-MBOC、DML-MBPC、DML-MTrisPC、DML-BisOC-Z、DMLBisOCHP-Z、DML-BPC、DML-BisOC-P、DMOM-PC、DMOM-PTBP、DMOM-MBPC、TriML-P、TriML-35XL、TML-HQ、TML-BP、TML-pp-BPF、TML-BPE、TML-BPA、TML-BPAF、TML-BPAP、TMOM-BP、TMOM-BPE、TMOM-BPA、TMOM-BPAF、TMOM-BPAP、HML-TPPHBA、HML-TPHAP、HMOM-TPPHBA、HMOM-TPHAP(以上、商品名、本州化学工業株式会社製)、“NIKALAC(登録商標)”MX-290、NIKALAC MX-280、NIKALAC MX-270、NIKALAC MX-279、NIKALAC MW-100LM、NIKALAC MX-750LM(以上商品名、株式会社三和ケミカル製)が挙げられる。
【0057】
また、架橋剤として、エポキシ基を有する化合物を含むことも好ましい。エポキシ基を有する化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリメチル(グリシジロキシプロピル)シロキサン等のエポキシ基含有シリコーン、ダイマー酸変性エポキシ樹脂などを挙げることができるが、これらに限定されない。具体的には、エピクロン850-S、エピクロンHP-4032、エピクロンHP-7200、エピクロンHP-820、エピクロンHP-4700、エピクロンEXA-4710、エピクロンHP-4770、エピクロンEXA-859CRP、エピクロンEXA-1514、エピクロンEXA-4880、エピクロンEXA-4850-150、エピクロンEXA-4850-1000、エピクロンEXA-4816、エピクロンEXA-4822(以上商品名、DIC株式会社製)、リカレジン BEO-60E(以下商品名、新日本理化株式会社製)、EP-4003S、EP-4000S(以上商品名、株式会社アデカ製)、JER871、JER872、YX-4000、YX-4000H(以上商品名、三菱ケミカル株式会社製)、セロキサイド2021P(以上商品名、株式会社ダイセル製)、ショウフリーPETG、ショウフリーCDMGB、ショウフリーBATG(以上商品名、株式会社レゾナック製)、デナコールEX-201-IM(以上商品名、ナガセケムテックス株式会社製)、TEPIC-VL(以上商品名、日産化学株式会社製)などが挙げられる。
【0058】
また、オキセタニル基を有する架橋剤を有することも好ましく、具体例としては、OXT-121、OXT-221、OX-SQ-H、OXT-191、PNOX-1009、RSOX(以上商品名、東亞合成株式会社製)、“エタナコール(登録商標)”OXBP、“エタナコール”OXTP(以上商品名、UBE株式会社製)などが挙げられる。
【0059】
架橋剤は、樹脂膜中に2種以上含有されてもよく、樹脂膜100質量部中に、1質量部以上含有されることが好ましい。1質量部以上であれば、樹脂膜の接着強度を小さくして糊残りを低減したり、損失正接を小さくしたりすることができる。さらに好ましくは樹脂膜100質量部中に、3質量部以上含有されることである。また、架橋剤は、樹脂膜100質量部中に、25質量部以下含有されることが好ましい。25質量部以下であれば、樹脂膜の接着強度の過剰な低下を防ぎ、半導体素子を樹脂膜上に積層した際に安定して保持することができる。
また、架橋剤による硬化を促進させる目的で、硬化促進剤を含有することもできる。硬化促進剤としては、国際公開第2022/210155号に記載の硬化促進剤などが挙げられる。
【0060】
<光重合開始剤>
ウレタンアクリレート、アクリル樹脂アクリレート、エポキシアクリレートなどのオリゴマーから樹脂を得る場合、分子鎖末端のアクリル基やメタクリル基などの重合性基の重合を促進するため、光重合開始剤を加えることができる。
光重合開始剤は、特に限定されず、従来公知の紫外線硬化用の光重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系重合開始剤、ホスフィンオキシド系重合開始剤、ベンゾイルホルメート系重合開始剤、チオキサントン系重合開始剤、オキシムエステル系重合開始剤、ヒドロキシベンゾイル系重合開始剤、ベンゾフェノン系重合開始剤、α-アミノアルキルフェノン系重合開始剤等が挙げられる。
アセトフェノン系重合開始剤としては、アセトフェノン、3-メチルアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル-2-モルホリノプロパン-1-オン、および2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン
等が挙げられる。
ホスフィンオキシド系重合開始剤としては、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドおよびジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド等が挙げられる。
ベンゾイルホルメート系重合開始剤としては、メチルベンゾイルホルメート等が挙げられる。
チオキサントン系重合開始剤としては、イソプロピルチオキサントン等が挙げられる。
オキシムエステル系重合開始剤としては、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]およびエタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。
ヒドロキシベンゾイル系重合開始剤としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよびベンゾインアルキルエーテル等が挙げられる。
ベンゾフェノン系重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノン、および4,4’-ジアミノベンゾフェノン等が挙げられる。
α-アミノアルキルフェノン系重合開始剤としては、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロ-ブタノン-1および2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン等が挙げられる。
光重合架橋剤は、樹脂膜中に2種以上含有されてもよく、樹脂膜100質量部中に、0.1質量部以上含有されることが好ましい。0.1質量部以上であれば、前記オリゴマーの分子鎖末端のアクリル基やメタクリル基などの重合性基の重合を促進して、樹脂膜を硬化させることができる。また好ましくは、1質量部以下である。
【0061】
<その他の添加剤>
また、樹脂膜は必要に応じてさらにシラン化合物を含有することができる。シラン化合物を含有することにより、樹脂膜とレーザー透過性を有する第1基板の密着性を調整することができる。これにより、レーザー光未照射部分の樹脂膜が、レーザー透過性を有する第1基板から剥離することを防ぐことができる。シラン化合物の具体例としては、国際公開第2022/210155号に記載のシラン化合物などが挙げられる。
さらに、樹脂膜は、必要に応じて、成膜時のレーザー透過性を有する第1基板との塗工性を向上させ、均一な膜厚の樹脂膜を形成する目的で界面活性剤を含有してもよい。
【0062】
<半導体素子>
次に、本発明の実施形態に係る第2積層体における半導体素子について説明する。
本発明における半導体素子とは、GaN、AlN、InN、InP、GaAs、Si、SiCなどの半導体を素子化したものが挙げられる。これらの半導体素子は、さらに異なる種類の半導体が積層されているものや、電極材料、サファイア基板やガラス基板、配線などが積層されているものも含まれる。半導体素子の大きさは一辺が5μm以上、5.0mm以下であることが好ましい。さらに好ましくは3.0mm以下である。これにより、レーザーを集光し、スポット径を小さくして照射できるために、位置精度よく転写が可能となる。該半導体素子との該樹脂膜の接する面の接着強度は、0.02N/cm以上、0.3N/cm以下が好ましい。
【0063】
本発明の実施形態に係る第2積層体に搭載される半導体素子の数は、単位面積当たり、5個/cm2以上が好ましく、さらに好ましくは50個/cm2以上である。半導体素子の数を上記下限値以上にすることで、レーザー転写を利用することによるスループット向上の効果が大きくなる。またレーザーを半導体素子ひとつひとつに、正確に照射できることから、第2積層体に搭載される半導体素子の数は50万個/cm2以下が好ましく、さらに好ましくは10万個/cm2以下である。
【0064】
本発明の第2積層体の積層順は、レーザー透過性を有する第1基板、樹脂膜、半導体素子の順であれば間に別の層を有していても構わない。ただし、半導体素子は樹脂膜に接して形成され、レーザー透過性を有する第1基板および半導体素子は第2積層体における最表面に位置する。すなわち、第1基板は第2積層体の一方の最表面に位置し、半導体素子は第2積層体の他方の最表面に位置する。
【0065】
<樹脂の製造方法>
化学式(1)または(2)で表される繰り返し単位を主成分とする樹脂は、既知の方法によって重合することができる。
例えば、テトラカルボン酸、あるいは対応する酸二無水物、活性エステル、活性アミドなどを酸成分とし、ジアミンあるいは対応するトリメチルシリル化ジアミンなどをジアミン成分として反応溶剤中で重合させることにより、ポリアミド酸を得ることができる。また、ポリアミド酸は、カルボキシ基がアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンと塩を形成したものでもあってもよく、炭素数1~10の炭化水素基または炭素数1~10のアルキルシリル基でエステル化されたものであってもよい。一方、ポリイミドは、後述する方法によってポリアミド酸をイミド化することで得られる。
【0066】
反応溶剤としては特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例として、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、γ-ブチロラクトン、乳酸エチル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレンウレア、1,1,3,3-テトラメチルウレア、ジメチルスルホキシド、スルホラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、水や、国際公開第2017/099183号に記載の反応溶剤などを単独で、または2種以上使用することができる。
【0067】
反応溶剤の使用量は、テトラカルボン酸およびジアミン化合物の合計量が、反応溶液の全体の0.1~50質量%となるように調整することが好ましい。また反応温度は-20℃~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。さらに、反応時間は0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。また、反応で使用するジアミン化合物のモル数とテトラカルボン酸のモル数は等しいことが好ましい。等しければ、樹脂組成物から高い機械特性の樹脂膜が得られやすい。
得られたポリアミド酸溶液はそのまま樹脂組成物の原料として使用してもよい。この場合、反応溶剤に樹脂組成物として使用する溶剤と同じものを用いたり、反応終了後に添加剤や溶剤を添加したりすることで、樹脂を単離することなく目的の樹脂組成物を得ることができる。
【0068】
また、得られたポリアミド酸は、更にポリアミド酸の繰り返し単位の一部または全てをイミド化させたり、エステル化させたりしてもよい。この場合、ポリアミド酸の重合で得られたポリアミド酸溶液をそのまま次の反応に用いてもよく、ポリアミド酸を単離したうえで、次の反応に用いてもよい。
エステル化およびイミド化反応においても、反応溶剤に樹脂組成物として使用する溶剤と同じものを用いたり、反応終了後に添加剤や溶剤を添加したりすることで、樹脂を単離することなく目的の樹脂組成物を得ることができる。
【0069】
イミド化する方法は、ポリアミド酸を加熱する方法、もしくは、脱水剤およびイミド化触媒を添加して必要に応じて加熱する方法であることが好ましい。後者の方法の場合、脱水剤の反応物やイミド化触媒などを除去する工程が必要になるため、前者の方法がより好ましい。脱水剤およびイミド化触媒としては特に制限はなく、公知のものを用いることができる。
【0070】
イミド化に用いられる反応溶剤としては、重合反応で例示した反応溶剤を挙げることができる。
【0071】
イミド化反応の反応温度は、好しくは0~180℃であり、より好ましくは10~150℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間であり、より好ましくは2.0~30時間である。反応温度や反応時間をこのような範囲で適宜調整することで、ポリアミド酸のうち所望の割合をイミド化させることができる。
エステル化する方法は、エステル化剤を反応させる方法、もしくは、脱水縮合剤の存在下にアルコールを反応させる方法が好ましい。エステル化のために用いられる材料や反応条件には特に制限はなく、公知のものを用いることができる。
【0072】
また、化学式(3)で表される繰り返し単位を主成分とする樹脂も、既知の方法によって重合することができる。
例えば、ポリイソシアネートとポリオールを重合させることにより、ポリウレタンを得ることができる。必要に応じて、ウレタン化触媒を共存させてもよい。ウレタン化触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ベンジルジブチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルホリン等の含窒素化合物;あるいはチタンテトラブトキシド、ジブチルスズオキシド、ジラウリン酸ジブチルスズ、2-エチルカプロン酸スズ、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、2-エチルカプロン酸亜鉛、グリコール酸モリブデン、酢酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、オクチル酸錫、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジネオデカネート等の有機金属化合物;あるいは塩化鉄、塩化亜鉛等の無機化合物などが挙げられる。また、これらを2種以上用いてもよい。
【0073】
反応溶剤を共存させてもよく、ポリアミド酸やポリイミドの重合と同じ反応溶剤を用いることができる。反応温度は、好しくは0~100℃であり、より好ましくは40~90℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間であり、より好ましくは2.0~30時間である。また、反応で使用するポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基とポリオールに含まれる水酸基のモル数は等しいことが好ましい。等しければ、樹脂組成物から高い機械特性の樹脂膜が得られやすい。
【0074】
<樹脂組成物の製造方法>
一例として、上記樹脂、ならびに必要により光吸収剤や架橋剤などの添加剤を溶剤に溶解させることにより、ワニスとして樹脂組成物を得て、当該樹脂組成物を成膜することで積層体における樹脂膜を得ることができる。樹脂組成物(ワニス)を得る際の樹脂の溶解方法としては撹拌や加熱が挙げられ、通常、室温~80℃で撹拌する。また、各成分の溶解順序は特に限定されず、例えば、溶解性の低い化合物から順次溶解させる方法がある。これらの製造方法により得られたワニスは、濾過フィルターを用いて濾過し、ゴミなどの異物を除去することが好ましい。
【0075】
<積層体の製造方法>
次に本発明の実施形態に係る積層体の製造方法について説明する。
第1積層体は、レーザー透過性を有する第1基板の上に、樹脂膜を形成することで得られる。第1積層体の作製方法の一例を説明する。レーザー透過性を有する第1基板上に、上述のワニスを塗布し、加熱硬化することで樹脂膜を作製する。樹脂膜を塗布法で作製する場合は、任意の塗布方法を選択することができ、スピンナーを用いた回転塗布、スプレー塗布、ロールコーティング、スリットダイコーティングなどの方法が挙げられる。塗布後の樹脂膜は、ホットプレート、乾燥オーブン、赤外線などを使用し、50℃~150℃の範囲で1分間~数10分乾燥させることが好ましい。さらにその後、必要に応じて、100℃~500℃の範囲で数分から数時間加熱硬化させる。この時の樹脂膜の膜厚は0.7μm以上30μm以下が好ましい。膜厚は、走査型電子顕微鏡や光学式膜厚計、段差計などで測定することができる。
【0076】
次に半導体素子を積層して第2積層体を作製する方法の一例を、図面を用いて説明する。
図1~
図3に第2積層体(120)を作製する方法を例示する。
図1の方法で第2積層体を作成する場合、半導体素子(14)を、レーザー透過性を有する第1基板(11)上に樹脂膜(12)が積層された第1積層体(110)の樹脂膜(12)上に直接並べて、真空ラミネーターやウエハボンダー、プレス機といった圧着装置(41)で圧着することで積層する。もしくは、
図2に示すように、別の支持体(15)上に仮接着剤(16)を介して半導体素子(14)が仮接着された半導体素子仮接着基板(130)を準備し、仮接着剤(16)上の半導体素子(14)と第1積層体(110)の樹脂膜(12)面を重ね合わせ、上述の圧着装置(41)にて圧着する。その後、半導体素子(14)から仮接着剤(16)と支持体(15)を除去し、第2積層体(120)を作製することができる。さらに
図3に示すように、サファイアなどの結晶成長用基板(17)に半導体素子(14)を直接作製した半導体素子付き基板(140)を、半導体素子(14)面と樹脂膜(12)面を対向させて重ね合わせ、上述の装置(41)にて圧着する。その後、結晶成長用基板(17)側からレーザー光(31)を照射し、結晶成長用基板(17)から半導体素子(14)を第1積層体(110)側にレーザーリフトオフする手法などにより、第2積層体(120)を作製できる。
【0077】
半導体素子を積層する際の圧力は、樹脂膜の接着強度によって最適な値を選択することでき、例えば0.05MPa~5.0MPaの範囲で選択される。半導体素子の破損を避け、樹脂膜への埋没を抑制できることから、圧力は2.0MPa以下がより好ましい。また、半導体素子を積層する際は、必要に応じて加熱しながら圧力をかけることも可能である。加熱をすることで、樹脂膜の柔軟性が上がり、より低圧で半導体素子を圧着することができるようになる。
また、積層体にはあらかじめアライメントマークを付けることで、以降の操作での転写位置の調整が容易になる。
【0078】
さらに、第2積層体を作製する別の方法について
図4を用いて説明する。別の支持体(15)上に仮接着剤(16)を介して、個片化する前の状態の半導体基板(18)を貼り合わせる。さらにこの個片化される前の半導体基板(18)の上にワニスを塗布し、加熱硬化させて樹脂膜(12)を形成する。この状態で、レーザー透過性第1基板と樹脂膜付きの支持体を向かい合わせて接着する。支持体(15)と、支持体(15)に隣接する仮接着剤(16)を剥離、除去し、その後半導体基板(18)を個片化し、半導体素子(14)とすることで第2積層体(120)を作製することができる。
【0079】
<半導体装置の製造方法>
次に半導体装置の製造方法について説明する。
本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法は、前記の第2積層体を用いる半導体装置の製造方法であって、下記工程(a)及び(b)を含む。
(a)第2積層体の、前記半導体素子が積層されている面に対向させて第2基板を配置する工程。
(b)前記第2積層体に対し、前記第1基板の側からレーザー光を照射して、半導体素子を前記第2基板へ転写する工程。
【0080】
前記第2積層体の半導体素子面と、第2基板を対向させる工程について図面を用いて説明する。
図5に半導体装置の製造方法を例示する。
半導体素子面とは、第2積層体(120)の表面のうち、半導体素子(14)を備える面(半導体素子が積層されている面)のことをいう。
前述の方法で作製した第2積層体(120)と第2基板(21)について、第2積層体(120)の半導体素子(14)が保持されている面と第2基板(21)を向かい合わせ、第2積層体(120)と第2基板(21)が平行になるように基板を固定する。転写時の半導体素子(14)の自重による位置ずれを防ぐため、向かい合わせた第2積層体(120)と第2基板(21)は第2積層体(120)が上になるように配置する。第2積層体と第2基板は一定の間隔をもって配置される。半導体素子面と、第2基板の間隔は半導体素子の大きさ、厚みによって選択することができ、例えば数μmから数100μmの範囲で選択される。
【0081】
第2基板には、ガラス基板や樹脂基板、金属基板、すでに配線が形成されている回路基板など任意の基板を使用することができる。また転写後の半導体素子を保持するために、粘着層を有していてもよい。粘着層には、ポリシロキサン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ACF(Anisotropic Conductive Film)樹脂、導電性銀ペースト、本発明の実施形態に係る積層体における樹脂膜と同様の樹脂膜など、粘着性を有する材料を選択することができる。粘着層の厚みは、例えば0.5μm~100μmの範囲で、半導体素子の大きさや半導体素子と第2基板の間隔によって選択される。
また、転写位置合わせのために、第2基板側にもアライメントマークがあってもよい。
【0082】
次に、第2積層体のレーザー透過性を有する第1基板側からレーザー光を照射して、半導体素子を第2基板へ転写する工程について図面を用いて説明する。
図6の(a)に転写工程の一例を示す。
前述の方法で配置した、第2積層体(120)と第2基板(21)において、第2積層体(120)のレーザー透過性を有する第1基板(11)側からレーザー透過性を有する第1基板(11)を介して、半導体素子にレーザー光(31)を照射する。レーザー光の種類としては、YAGレーザー、YVO4レーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザーといった固体レーザー、炭酸レーザー、エキシマレーザー、アルゴンレーザーといったガスレーザーなどが挙げられ、使用する波長によって選択することができる。照射するレーザー光のビーム形状は限定されず、またレーザースポットサイズは半導体素子の大きさより小さくても構わない。ただし、転写する半導体素子に隣接する半導体素子にレーザー光が当たらない大きさとする。
【0083】
また、レーザー光のスポットサイズが、隣接する半導体素子にも当たる大きさである場合、
図6の(b)に示すよう、フォトマスク(51)を通して、レーザー光(31)を照射することも可能である。レーザー光は任意のエネルギー密度で選択できる。レーザー光のエネルギー密度は、レーザー光のエネルギー密度の安定性の観点から、1mJ/cm
2以上が好ましく、半導体素子へのダメージを防止し、処理時間を短くする観点から1000mJ/cm
2以下が好ましい。さらに好ましくは、レーザー光のエネルギー密度は、10mJ/cm
2以上、500mJ/cm
2以下である。
【0084】
本発明の実施形態に係る第2積層体を用いることで、低いエネルギーでも転写が可能であり、さらに、レーザー光のエネルギー密度を変えた場合も、位置精度やデブリ、糊残りへの影響が少なくできる。照射するレーザー光のエネルギー密度には出力のムラがある場合があり、出力ムラによる転写性への影響を少なくするために、第2積層体には、レーザー光のエネルギー密度によらず、同程度の転写性を有していることが好ましい。同程度の転写性を有するレーザー光のエネルギー密度の範囲としては、30mJ/cm2以上のマージンがあることがより好ましく、実用性の観点から50μm/cm2以上が特に好ましい。
【0085】
また、半導体素子を転写する際、第2基板を加熱することも可能である。特に、第2基板に粘着層が形成されている場合、第2基板を加熱することで転写した半導体素子の保持性が上がるため好ましい。第2基板を加熱する場合は、第2基板の熱による反りを防ぎ、位置精度よく転写できることから、加熱温度は120℃以下であることが好ましい。
【0086】
半導体素子の転写は、作製する半導体装置における半導体素子の実際の実装箇所に合わせて位置を調整しながら行う。例えば、LED基板を作製する場合は、LEDの画素サイズおよび、RGBの配置に合わせて、LED素子のピッチをずらしながら転写を行う。次に、LED素子を転写した第2基板と回路基板を向かい合わせて、回路基板へ圧着することでLED素子を実装した回路基板を作製することができる。本発明の実施形態に係る積層体を用いて転写を行う場合は、高い位置精度で転写できるため、最終的に実装する基板の回路からのずれがなく半導体素子を転写でき、位置ずれに起因する実装不良を低減することができる。
【0087】
前記レーザー光が、248nm、266nm、308nm、355nm、532nm、1064nmのいずれかの波長のレーザー光を有することが好ましく、特に樹脂膜における吸光度が0.4以上である波長を使用することが好ましい。これらのレーザー光を用いることで半導体素子の破損を低減することができる。
本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法において、前記レーザー光は、248nm、266nm、308nm、355nmのいずれかの波長のレーザー光を有することがより好ましく、レーザー光の波長は355nmであることがさらに好ましい。これによりμLEDのような微小な半導体素子も正確に転写ができる。248nm、266nm、308nm、355nmのレーザー光としては、エキシマレーザー、YAGレーザーが特に好ましい。
【0088】
また、本発明の半導体装置の製造方法は、前記第2基板が回路基板であることが好ましい。第2基板が回路基板であれば、上記の方法で転写した基板を、そのまま半導体装置化することができる。転写後の基板の操作による位置ずれ懸念がなくなり、位置精度をさらに高くすることができる。回路基板としてはTFT基板やプリント配線基板など公知のものを使用することができる。
【実施例0089】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。まず、各実施例および比較例における評価方法について説明する。
【0090】
(1)積層体の作製方法
厚み0.6mmの4インチ石英ガラス基板(株式会社大興製作所製、波長248nm、266nm、308nmおよび355nmにおける吸光度が0.01)に、後述の方法で作製した樹脂膜用ワニスを、スピンナーを用いて塗布し、ホットプレートでプリベークし、さらに続けて硬化させ、ガラス基板上に樹脂膜を作製し、第1積層体を作製した。
プリベーク条件は下記の通りである。
実施例1~6、比較例1~5:120℃、3分間
実施例7、比較例6および7:80℃、1分間
硬化条件は以下の通りである。
実施例1~5、比較例1~3:ガスオーブン「INH-21CD」(光洋サーモシステム株式会社製)を用いて、窒素雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)、室温から250℃まで昇温して200℃で30分加熱し、最後に室温まで降温することで加熱硬化させた。
実施例6、比較例4および5:ガスオーブン「INH-21CD」(光洋サーモシステム株式会社製)を用いて、窒素雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)、室温から250℃まで昇温して250℃で30分加熱し、最後に室温まで降温することで加熱硬化させた。
実施例7、比較例6および7:マスクアライナ「PEM-6M」(ユニオン光学株式会社製)を用いて、マスクを介さずに、ghi線の混合スペクトルを露光量1000mJ/cm2照射して硬化させた。
樹脂膜の膜厚は、光学式膜厚計(大日本スクリーン社製、ラムダエース、屈折率=1.543)にて測定した。
別途、4インチLED基板(EPILEDS社製、アライメントマークあり)を準備し、ダイサーで20mm角にカットした。搭載されているLEDは下記の通りである。なお、半導体素子のサイズ、突起状電極部のサイズおよび隣接素子との間の距離は、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、S-4800)を用いて測定した。
結晶成長用基板:サファイア(厚み0.8mm)
半導体素子の種類:GaN
半導体素子のサイズ:20.2μm×30.3μm×9.4μm(電極部含む)
電極部の数:一つの面に2つ
電極部のサイズ:17.5μm×11.0μm×3.4μm
電極部の種類:Au
隣接素子間の距離:10.0μm
【0091】
第1積層体の樹脂膜面と4インチLED基板の半導体素子面が接触するように重ね合わせ、フリップチップボンダー(東レエンジニアリング株式会社製、FC-3000WS)にて、57.8kN、80℃、2分間加圧して貼り合わせた。その後、第1基板側から、266nm波長のレーザー装置(HOYA株式会社製、HSL-5500IIISUV、パルス幅5~7nec、エネルギー密度600mJ/cm2)でレーザーをLED基板全面に照射し、結晶成長用基板と半導体素子の界面で結晶成長用基板を分離させ、第2積層体を作製した。
【0092】
(2)樹脂膜の吸光度の測定
(1)で作製した第1積層体については、紫外可視分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、U-2910)を用いて200nmから1100nmまでの透過率を連続測定した。その中から、248nm、266nmおよび355nmにおける値を読み取り、以下の式より、膜厚1.0μm当たりのそれぞれの吸光度を算出した。なお測定の際は、予め第1積層体に用いたものと同様の基板を参照試料として測定しておくことで、第1積層体の測定結果から参照試料の測定値を差し引いた値として樹脂膜の吸光度を得た。
膜厚1.0μm当たりの吸光度=(-log10(透過率))/(測定膜厚[μm])
例えば、透過率5%(=0.05)、測定膜厚15μmのとき、
膜厚1.0μm当たりの吸光度=(-log10(0.05))/15≒0.087
と求められる。
前述の(1)の方法で作製した第2積層体については、半導体素子面にダイシングテープ(UDC-1025MC)を貼り付け、引きはがすことで、樹脂膜から半導体素子を剥がしとり、前述と同じ方法で透過率を測定し、吸光度を算出した。
【0093】
(3)損失正接・貯蔵弾性率の測定
損失正接α、損失正接βおよび貯蔵弾性率は動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社製、DVA-200)を用いて測定した。
最初に(1)で作製した第1積層体に対し、エキシマレーザー装置(ライトマシー社製、レーザー波長308nm)を用いて、石英ガラス基板の側からレーザーを下記条件で全面に照射し、樹脂膜と石英ガラス基板を分離した。
照射面のエネルギー密度:220mJ/cm2
繰り返し周波数:30Hz
照射面ビームサイズ:2mm×14mm
スキャン方向:短軸方向
スキャンスピード:19.5mm/sec
長軸方向オーバーラップ:2mm
前述の(1)の方法で作製した第2積層体については、半導体素子面にダイシングテープ(UDC-1025MC)を貼り付け、引きはがすことで、樹脂膜から半導体素子を剥がしとり、前述と同じ方法で樹脂膜と石英ガラス基板を分離した。次に樹脂膜を5mm×20mmの大きさにカットして測定に使用した。
[測定条件]
測定温度:-130~25℃
測定周波数:0.5~100Hz
変形モード:引張
初期の掴み間長:1cm
静/動応力比:1.7
設定歪:0.1%
昇温速度:2℃/min
得られたデータを用いて、25℃を基準温度としてマスターカーブを作成した。そのマスターカーブから、25℃、1.0×106Hzにおける損失正接(損失正接α)・貯蔵弾性率の値を求めた。また、同じマスターカーブから、25℃、1.0×10-2Hzにおける損失正接(損失正接β)を求めた。
【0094】
(4)樹脂膜の貼り付け性の評価
(1)で作製した第2積層体について、以下の式より、4インチLED基板から移しとれた半導体素子の収率を求めた。
収率=(第2積層体の任意の1mm2について4インチLED基板から移しとれた半導体素子の数)/(4インチLED基板の1mm2あたりに配置されているチップの数(1124個))
得られた収率の値に基づいて貼り付け性を評価した。98%以上を「++++」、90%以上98%未満を「+++」、70%以上90%未満を「++」、70%未満を「+」、0%は「0」と判定した。
例えば、第2積層体の任意の1mm2について移しとれた半導体素子の数が1050個のとき、
収率=1050/1124=93%
と求められる。よって「+++」と判定する。
【0095】
(5)半導体素子の転写試験
(5-1)対向基板の作製
厚み0.5mmの4インチ無アルカリガラス基板(コーニング社製イーグルXG)に、ポリジメチルシロキサンをトルエンで希釈して、ポリジメチルシロキサンとトルエンの質量比が1:3になるように調整した希釈液を、スピンナーを用いて塗布し、ホットプレートで120℃、3分間加熱硬化させ、ガラス基板上に粘着層を形成した。熱硬化後の粘着層の膜厚は光学式膜厚計(大日本スクリーン社製、ラムダエース、屈折率=1.543)にて測定し、粘着層の膜厚が5.0μmの対向基板として第2基板を作製した。
【0096】
(5-2)半導体素子の転写
レーザー光源、前述の方法で作製した第2積層体、第2基板をこの順に上下方向に配置した。この際、第2積層体の半導体素子が保持されている面と、対向第2基板の粘着層が形成されている面を、半導体素子表面と粘着層表面の間隔が50μm(半導体素子高さの約6倍)になるよう向かい合わせて保持した。レーザー光のスポットサイズは18μm×36μmの角型であり、レーザー光のスポットの中央に半導体素子1個が配置されるようにレーザー光源と積層体の位置を調整し、隣接する半導体素子にはレーザー光が当たらないようにした。レーザー光源には、波長355nmのYAGレーザー(HOYA株式会社製、HSL-5500IIIST)を用いた。レーザー光照射位置に配置された半導体素子に対して波長355nmのレーザー光を、250~400mJ/cm2の間で、50mJ/cm2ずつエネルギー密度を変えながら照射を行った。各エネルギー密度において、20個の半導体素子のレーザー転写試験を実施した。
【0097】
(5-3)転写収率の評価
(5-2)のレーザー光照射後の対向第2基板を観察し、破損や横転せず、正常に転写された半導体素子の個数を数え、以下の式より、転写収率を算出した。
転写収率=正常に転写された半導体素子の個数/レーザー転写した全ての半導体素子の個数
得られた転写収率の値に基づいて転写性を評価した。95%以上を「A」、80%以上95%未満を「B」、50%以上80%未満を「C」、50%未満を「D」と判定した。
例えば、20個の半導体素子のレーザー転写を行い、正常に転写された半導体素子が15個のとき、
転写収率=15/20=75%
と求められる。よって「B」と判定する。
【0098】
(5-4)位置精度の評価
(5-3)で「D」と判定した水準を除き、以下の方法で位置精度を評価した。レーザー光源と同軸に設置されたレンズから投影したCCDカメラを用いて、レーザー転写前の第2積層体上の半導体素子の画像と、レーザー転写後の第2基板上の半導体素子の画像を取得し、各取得画像における半導体素子の中心座標から、転写前後での半導体素子の中心の位置ずれ量を算出した。正常に転写された半導体素子のみ位置ずれ量を算出し、その平均値に基づいて位置精度を評価した。平均値が0μm以上、1.5μm未満を「a」、1.5μm以上、2μm未満を「b」、2μm以上、3μm未満を「c」、3μm以上を「d」と判定した。
【0099】
(6)樹脂溶液の固形分の測定方法
後述の方法で製造した、樹脂溶液をアルミカップに約1gをはかり取り、120℃のホットプレートに載せて3分加熱し、続いて250℃まで昇温し、250℃に到達してから30分加熱した。加熱後に残った樹脂の質量を測定し、以下の式より固形分を算出した。
固形分(質量%)=加熱後の樹脂の質量[g]/加熱前の樹脂溶液の質量[g]
例えば、樹脂溶液1.10gを加熱後、残った樹脂の質量が0.60gのとき、
固形分=0.60/1.10≒0.55 (すなわち、55質量%)
と求められる。
合成例および調製例で使用する原料、添加剤、溶剤の略称は下記の通りである。
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート(富士フイルム和光純薬株式会社製)
PTMG:ポリテトラメチレンオキシド(平均分子量:1000、富士フイルム和光純薬株式会社製)
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物(三菱ケミカル株式会社製)
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物(富士フイルム和光純薬株式会社製)
BAHF:4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルヘキサフルオロプロパン(メルク社製)
APPS1:α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン(平均分子量:860、q=9(平均値))(信越化学工業株式会社製)
APPS2:α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン(平均分子量:1600、q=19(平均値))(信越化学工業株式会社製)
PA:無水フタル酸(東京化成工業株式会社製)
UN-333:ウレタンアクリレート(根上工業株式会社製)
UN-6306:ウレタンアクリレート(根上工業株式会社製)
UN-2601:ウレタンアクリレート(根上工業株式会社製)
DMAC:N,N-ジメチルアセトアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製)
CHN:シクロヘキサノン(東洋合成工業株式会社製)
MEK:メチルエチルケトン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
Tinuvin477:ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製)
Omnirad819:光重合開始剤フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(IGM Resins B.V.社製)
TG-129:下記式(21)の構造であらわされるアルコキシメチル基を有する架橋剤(株式会社三和ケミカル製)
【0100】
【0101】
合成例1:樹脂P-1の合成
500mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、DMAC(110g)と、MDI(24.78g(99.00mmol))とを投入し、40℃で撹拌した。撹拌しながら、PTMG(50.00g(50.00mmol))を投入し、DMAC(20g)で洗い込んだ。80℃で3時間攪拌後、1,4-ブタンジオール((4.506g(50.00mmol))を投入し、DMAC(20g)で洗い込んだ。80℃で5時間撹拌後、樹脂P-1の溶液を得た。固形分は41質量%であった。
【0102】
合成例2:樹脂P-2の合成
500mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、DMAC(110g)と、MDI(24.78g(99.00mmol))とを投入し、40℃で撹拌した。撹拌しながら、PTMG(60.00g(40.00mmol))を投入し、DMAC(20g)で洗い込んだ。80℃で3時間攪拌後、1,4-ブタンジオール((3.605g(60.00mmol))を投入し、DMAC(20g)で洗い込んだ。80℃で5時間撹拌後、樹脂P-2の溶液を得た。固形分は42質量%であった。
【0103】
合成例3:樹脂P-3の合成
500mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、DMAC(110g)と、MDI(24.78g(99.00mmol))とを投入し、40℃で撹拌した。撹拌しながら、PTMG(75.00g(75.00mmol))を投入し、DMAC(20g)で洗い込んだ。80℃で3時間攪拌後、1,4-ブタンジオール((2.253g(25.00mmol))を投入し、DMAC(20g)で洗い込んだ。80℃で5時間撹拌後、樹脂P-3の溶液を得た。固形分は45質量%であった。
【0104】
合成例4:樹脂P-4の合成
500mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、CHN(110g)、APPS1(63.64g(74.00mmol))、APPS2(8.000g(5.000mmol))、BAHF(7.325g(20.00mmol))を投入し、50℃で撹拌した。撹拌しながら、BTDA(16.11g(50.00mmol))、BPDA(14.71g(50.00mmol))を投入し、CHN(40g)で洗い込んだ。95℃で1時間攪拌後、さらに150℃で5時間撹拌後、樹脂P-4の溶液を得た。固形分は52質量%であった。
【0105】
合成例5:樹脂P-5の合成
500mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、CHN(110g)、APPS1(68.80g(80.00mmol))、APPS2(8.000g(5.000mmol))、BAHF(5.494g(15.00mmol))を投入し、50℃で撹拌した。撹拌しながらPA(2.962g(20.00mmol))を投入し、CHN(20g)で洗い込み、60℃で15分撹拌した。続いて、撹拌しながら、PMDA(19.63g(90.00mmol))を投入し、CHN(20g)で洗い込んだ。60℃で1時間攪拌後、さらに145℃で4時間撹拌後、樹脂P-5の溶液を得た。固形分は49質量%であった。
【0106】
調製例1:
合成例1で得られた樹脂P-1の溶液に対して、Tinuvin477を18質量部(樹脂P-1の溶液の固形分を100質量部とする)と、TG-129を5質量部(同)とを加えて撹拌した。撹拌後、孔径0.2μmの高密度ポリエチレン製のフィルターを用いて濾過を行い、ワニスを調製した。
【0107】
調製例2~11:
表1に記載の樹脂および添加剤を用いて、調製例1と同様にしてワニスを調製した。
【0108】
調製例12:
UN-333を20gに対して、Tinuvin477を20質量部(樹脂を100質量部とする)、Omnirad127を3質量部(同)と、MEKを20質量部(同)とを加えて撹拌した。撹拌後、孔径0.2μmの高密度ポリエチレン製のフィルターを用いて濾過を行い、ワニスを調製した。
【0109】
調製例13:
UN-333の代わりにUN-6306を用いて、調製例12と同様にしてワニスを調製した。
【0110】
調製例14:
UN-333の代わりにUN-2601を用いて、調製例12と同様にしてワニスを調製した。
【0111】
調製例1~14で得られたワニスを用いて、前述の方法で第1積層体および第2積層体を作製した(実施例1~7、比較例1~7)。作製した積層体の評価結果を表1にまとめた。
【0112】
【0113】
表1の結果から、実施例1~7の積層体では、半導体素子を優れた位置精度で転写することができた。一方で、比較例1、3~7では、正常に転写できた半導体素子の数が少なかったか、または、位置精度に劣る結果となった。これは、樹脂膜の損失正接αが大きすぎたことで、レーザーの照射で発生したエネルギーが樹脂膜の熱運動により多く消費されてしまい、半導体素子を転写するためのエネルギーを十分に伝えられなかったためと考えられる。また、比較例2では、樹脂膜の損失正接βが小さすぎることで接着性が低下し、樹脂膜の上に半導体素子を写し取ることができず、第2積層体の作製ができない結果となった。