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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139743
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】インクセット、及び印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/54 20140101AFI20241002BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20241002BHJP
   B41M 1/30 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C09D11/54
C09D11/322
B41M1/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046597
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023049197
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】延江 英将
(72)【発明者】
【氏名】河上 昌知
(72)【発明者】
【氏名】松木 誠二郎
【テーマコード(参考)】
2H113
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA03
2H113AA06
2H113BA01
2H113BA03
2H113BA05
2H113BB02
2H113BB08
2H113BB10
2H113BB22
2H113BC00
4J039AD09
4J039AE04
4J039BA13
4J039BA35
4J039BB01
4J039BC08
4J039BC20
4J039BC47
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE25
4J039CA07
4J039EA42
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】視認性が良好な表刷り印刷UVレーザーマーキングが可能なインクセットを提供すること。
【解決手段】バインダー樹脂を含むオーバーコート剤と、表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物を有し、前記オーバーコート剤は、前記インク組成物から形成されるインク層の被覆用であり、前記インク組成物は、平均粒子径が0.26μm以下の酸化チタンを含み、前記酸化チタンは、前記インク組成物の固形分中、60質量%以上であるインクセット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂を含むオーバーコート剤と、表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物を有し、
前記オーバーコート剤は、前記インク組成物から形成されるインク層の被覆用であり、
前記インク組成物は、平均粒子径が0.26μm以下の酸化チタンを含み、
前記酸化チタンは、前記インク組成物の固形分中、60質量%以上であることを特徴とするインクセット。
【請求項2】
請求項1に記載のインクセットを印刷して得られることを特徴とする印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、及び印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料容器、食品容器、医薬品包装等の各種の包装材料では、包装材料の基材の表面に印刷される表刷り印刷、あるいは包装材料の基材の印刷面に必要に応じて接着剤やアンカー剤を塗布し、フィルムにラミネート加工を施す裏刷り印刷が行われる。また、包装材料では、例えば、製造ロット番号、製造年月日、内容物の消費期限、賞味期限等の各種トレーサビリティーの可変情報の印字あるいはマーキングが必要とされる。マーキング方法としては、レーザーマーキング方式が、ホットスタンプ方式やインクジェット方式と比較して、印字あるいやマーキングの剥離や消えが無く、改ざん防止によるトレーサビリティーの確立に有効である。
【0003】
特許文献1-3では、上記のようなレーザーマーキング方式に用いられるインク組成物として、酸化チタン等の白色顔料を含み、VYOレーザー光を利用した裏刷りレーザーマーキング用インク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-2258号公報
【特許文献2】特開2020-2259号公報
【特許文献3】特開2020-1261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献に開示されたレーザーマーキング用インク組成物をプラスチックフィルムに対して表刷り印刷を行い、印刷面又はプラスチックフィルム面からレーザーを照射してレーザーマーキングを行うと、マーキングにより印字された黒字が薄く、情報の視認性に課題があることが判明した。また、レーザー光としては、フィルムや印刷層への熱ダメージを軽減するため、UVレーザーを用いた印刷方法が求められている。
【0006】
よって、本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、視認性が良好な表刷り印刷UVレーザーマーキングが可能なインクセットを提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、上記のインクセットを印刷して得られる印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、バインダー樹脂を含むオーバーコート剤と、表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物を有し、前記オーバーコート剤は、前記インク組成物から形成されるインク層の被覆用であり、前記インク組成物は、平均粒子径が0.26μm以下の酸化チタンを含み、前記酸化チタンは、前記インク組成物の固形分中、60質量%以上であるインクセットに関する。
【0009】
また、本発明は、前記インクセットを印刷して得られる印刷物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクセットは、バインダー樹脂を含むオーバーコート剤と、表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物を有する。前記オーバーコート剤は、前記インク組成物から形成されるインク層の被覆用であり、前記インク組成物は、特定量の平均粒子径が0.26μm以下の酸化チタンを含むため、UVレーザーマーキングを行った際に、視認性(レーザー印字性)が良好な印刷物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<インクセット>
本発明のインクセットは、バインダー樹脂を含むオーバーコート剤と、表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物を有し、前記オーバーコート剤は、前記インク組成物から形成されるインク層の被覆用であり、前記インク組成物は、平均粒子径が0.26μm以下の酸化チタンを含み、前記酸化チタンは、前記インク組成物の固形分中、60質量%以上である。上記の「インク層の被覆用」とは、前記インク層の面に、前記オーバーコート剤を塗工(印刷)してオーバーコート層を形成して用いることをいう。
【0012】
<オーバーコート剤>
前記バインダー樹脂は、UVレーザーを透し被覆層を形成できる樹脂であればよく、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、石油樹脂、クマロンインデン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂等が挙げられる。これらの中でも、被覆層の諸耐性(耐摩擦性、耐ブロッキング性、耐水性、耐溶剤性など)、柔軟性、および残留溶剤量の観点から、前記バインダー樹脂は、アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましく、アクリル系樹脂及びポリウレタン樹脂の併用がより好ましい。前記バインダー樹脂は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、前記バインダー樹脂として、アクリル系樹脂及びポリウレタン樹脂を併用する場合、これらの質量比率(アクリル系樹脂/ポリウレタン樹脂)は、残留溶剤量の観点から、3.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましい。
【0013】
また、前記バインダー樹脂は、被覆層の諸耐性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上である樹脂を含むことが好ましく、20℃以上である樹脂を含むことがより好ましく、40℃以上である樹脂を含むことがさらに好ましく、そして、被覆層の柔軟性や残留溶剤量の観点から、ガラス転移温度(Tg)が100℃以下である樹脂を含むことが好ましく、90℃以下である樹脂を含むことがより好ましく、80℃以下である樹脂を含むことがさらに好ましい。
【0014】
上記のガラス転移温度は、バインダー樹脂がアクリル系樹脂又はスチレン-アクリル系樹脂の場合、下記のwoodの式により求めた理論ガラス転移温度である。Woodの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・・+Wx/Tgx[式中、Tg1~Tgxはアニオン性基含有樹脂を構成する単量体1、2、3・・・xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W1~Wxは単量体1、2、3・・・xのそれぞれの重合分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。ただし、woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である。]
【0015】
前記アクリル系樹脂又はスチレン-アクリル系樹脂以外における樹脂のガラス転移温度は、熱分析により求めた実測ガラス転移温度である。熱分析の方法としては、JIS K7121(プラスチックの転移温度測定方法)に準じ、一例として、パーキンエルマー社製Pyris1 DSCを用いて、昇温速度20℃/分、窒素ガス流速20ミリリットル/分の条件下でガラス転移温度を測定できる。
【0016】
ただし、上記のバインダー樹脂が市販品の場合、そのガラス転移温度はカタログ値が参考となる。
【0017】
また、前記バインダー樹脂は、被覆層の諸耐性の観点から、架橋剤と反応可能な官能基を有するものが好ましく、このような官能基としては、例えば、水酸基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。前記架橋剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
前記架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤、エポキシ架橋剤等が挙げあれ、ポットライフおよび反応性の観点から、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0019】
前記イソシアネート系架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート等が挙げられる。
【0020】
また、前記イソシアネート系架橋剤としては、例えば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ジイソシアネート類、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート類、2,4-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体等のイソシアネート付加物、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物;ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート、ならびにこれらと各種のポリオールとの付加物、イソシアヌレート結合、ビューレット結合、アロファネート結合等で多官能化したポリイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、分子内に3つ以上のイソシアネート基を有する架橋剤が好ましい。
【0021】
また、前記オーバーコート剤は、上記の成分を分散あるいは溶解させるために、有機溶剤を含むことが好ましい。前記有機溶剤としては、特に制限なく使用でき、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤;n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の脂肪族炭化水素系有機溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素系有機溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系有機溶剤等が挙げられる。前記有機溶剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
前記有機溶剤は、前記オーバーコート剤を、フレキソ印刷又はグラビア印刷に適用する観点から、前記アルコール系有機溶剤、及び/又は前記エステル系有機溶剤を使用することが好ましい。この場合、前記有機溶剤中、前記アルコール系有機溶剤及び/又は前記エステル系有機溶剤の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0023】
前記バインダー樹脂と前記架橋剤と前記有機溶剤の合計の割合は、前記オーバーコート剤中、塗工(印刷)適性を考慮する観点から、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
前記オーバーコート剤には、さらに、必要に応じて、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤等の添加剤を添加してもよい。
【0025】
前記バインダー樹脂と前記架橋剤の合計の割合は、前記オーバーコート剤の固形分中、オーバーコート層の諸耐性を考慮する観点から、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
<表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物>
本発明の表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物は、酸化チタンを含む表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)である。ここで、表刷りとは、印刷物を加工して包材などにする場合、基材等に設けられたインク組成物から形成されるインク層(印刷面)が表側、すなわち内容物の反対側、となることを意図した印刷をいう。
【0027】
前記酸化チタンは、視認性(レーザー印字性)を向上させる観点から、平均粒子径が0.26μm以下であり、好ましくは0.24μm以下である。また、前記酸化チタンは、ドクター切れ性を向上させる観点から、平均粒子径が0.20μm以上であることが好ましい。なお、前記平均粒子径は、透過型電子顕微鏡で撮影された像を統計処理する方法により求めることができる。当該方法としては、例えば、特開2003-26856号公報、特開2006-341628号公報等に開示の方法を採用すればよい。前記酸化チタンは、その表面がアルミナ、シリカ、チタン酸バリウム等の種々の材料で表面処理されていてもよく、また、その形態がアナターゼ型でも、ルチル型であってもよく、チタンゾルであってもよい。前記酸化チタンは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
前記酸化チタンは、前記インク組成物の固形分中、60質量%以上である。前記酸化チタンは、レーザー印字箇所の視認性の観点から、前記インク組成物の固形分中、65質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、そして、インキの粘度や経時安定性の観点から、前記インク組成物の固形分中、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
また、前記表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物は、インク層を形成するための樹脂成分として、ポリウレタン樹脂を含むことが好ましい。前記ポリウレタン樹脂は、分子中に2個以上のウレタン結合を有する樹脂であり、特に制限なく使用できるが、例えば、ジイソシアネート化合物、ジオール化合物、鎖伸長剤、及び反応停止剤を反応して得られる(ジイソシアネート化合物とジオール化合物を反応させて得られたウレタンプレポリマーに、さらに、鎖伸長剤及び反応停止剤を反応させて得られる)ポリウレタン樹脂等が挙げられる。前記ポリウレタン樹脂は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
前記ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート化合物;キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物;トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物等が挙げられる。これらの中でも、反応の制御が簡単で、得られるポリウレタン樹脂の性能のバランスが良好である観点から、脂環族又は芳香脂肪族ジイソシアネート化合物が好ましく、特に、イソホロンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートが好ましい。前記ジイソシアネート化合物は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
前記ジオール化合物としては、例えば、ポリエステルジオール化合物、ポリエーテルジオール化合物、ポリカーボネート化合物、ポリブタジエングリコール化合物等の高分子ジオール等が挙げられる。前記ジオール化合物は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
前記ジオール化合物の数平均分子量は、良好な皮膜特性を有するレーザーマーキング用インク層が得られる観点から、400以上が好ましく、1,000以上がより好ましい。また、ジオール化合物の数平均分子量は、ジイソシアネート化合物との反応性を高める観点から、10,000以下が好ましく、6,000以下がより好ましい。
【0033】
前記ポリエステルジオール化合物としては、例えば、低分子ジオール成分(エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等の直鎖状グリコール類;1,2-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール等の分岐グリコール類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエーテル系ジオール類)と、ジカルボン酸成分(コハク酸、アジピン酸、マレイン酸等の飽和及び不飽和脂肪族ジカルボン酸類;フタル酸等の芳香族ジカルボン酸類)を反応させて得られるもの等が挙げられる。
【0034】
前記ポリエーテルジオール化合物としては、例えば、環状エステル化合物(ラクトン等)を開環反応させて得られるポリエステルジオール化合物、あるいはジオール化合物((ポリ)アルキレングリコール化合物、ビスフェノール等)にオキシアルキレン(酸化エチレン、酸化プロピレン等)やテトラヒドロフラン等を重付加させて得られるポリエーテルジオール化合物等が挙げられる。
【0035】
前記ジオール化合物は、インク諸物性の観点から、ポリエステルジオールやポリエーテルジオールが好ましい。
【0036】
前記鎖伸長剤は、分子内にイソシアネート基との反応可能な官能基(アミノ基、水酸基等)を2つ以上有する化合物が利用できる。分子内にアミノ基を2つ以上含有化合物としては、例えば、1級アミノ基を2つ有するジアミン類(エチレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン等)、1級アミノ基と2級アミノ基を1つずつ有するジアミン類(2-エチルアミノエチルアミン等)、1級アミノ基を2つと2級アミノ基を1つ以上有するポリアミン類(ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等)等が挙げられる。また、分子内に水酸基を2つ以上含有する水酸基含有化合物としては、低分子ジオール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等)等が挙げられる。さらに、分子内にアミノ基を2つと水酸基を1つ有する化合物としては、例えば、アミノエチルエタノールアミン、アミノプロピルエタノールアミン等、上記1級アミノ基を2つ有するジアミン類にエチレンオキサイドの1モル付加物等が挙げられる。前記鎖伸長剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
前記鎖伸長剤は、ポリウレタン樹脂の分子内に水酸基やアミノ基等の官能基を導入する観点から、アミノ基、水酸基等の官能基を3つ以上有する化合物を用いることができる。前記アミノ基、水酸基等の官能基を3つ以上有する化合物としては、グリセリン、アミノエチルエタノールアミン等が挙げられる。
【0038】
前記反応停止剤は、分子内にイソシアネート基との反応可能な官能基(アミノ基、水酸基等)を1つ以上有する化合物が利用でき、具体的には、モノアルコール類(メタノール、エタノール等)、モノアミン類(n-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン等)、分子内にアミノ基と水酸基と1つずつ有するアルカノールアミン類(モノエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジエタノールアミン)等が挙げられる。また、前記反応停止剤としては、前記鎖伸長剤として挙げた化合物も利用できる。反応停止剤は、ポリウレタン樹脂の分子内に水酸基やアミノ基等の官能基を導入する観点から、前記分子内にアミノ基と水酸基と1つずつ有するアルカノールアミン類や、前記鎖伸長剤として例示した、1級アミノ基を2つ有するジアミン類や、低分子ジオール類を用いることができる。前記反応停止剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
前記ジイソシアネート化合物とジオール化合物を反応させて得られるウレタンプレポリマーの製造において、ジイソシアネート化合物のNCOとジオール化合物のOHの当量比(ジイソシアネート化合物のNCOの当量/ジオール化合物のOHの当量)は、1.3~3で反応させることが好ましく、1.5~2で反応させることがより好ましい。
【0040】
前記鎖伸長剤は、前記プレポリマーの残存するイソシアネート基に対して、0.5~0.95当量程度の範囲で反応させることが好ましい。また、前記反応停止剤は、鎖伸長後のポリウレタン樹脂1モルに対して、2モル程度の比率で反応させることが好ましい。
【0041】
前記ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、5,000~50,000であることが好ましく、10,000~30,000であることがより好ましい。なお、本発明の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。一例として、GPC装置としてWater2690(ウォーターズ社製)、カラムとしてPLgel、5μ、MIXED-D(Polymer Laboratories社製)を使用して、展開溶媒としてテトラヒドロフラン、カラム温度25℃、流速1ミリリットル/分、RI検出器、試料注入濃度10ミリグラム/ミリリットル、注入量100マイクロリットルの条件下、クロマトグラフィーを行ない、ポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができる。
【0042】
前記ポリウレタン樹脂は、水酸基やアミノ基等の官能基を有するポリウレタン樹脂が好ましい。このような官能基を有するポリウレタン樹脂を得る方法としては、上記のアミノ基、水酸基等の官能基を3つ以上有する化合物を鎖伸長剤として用いる方法や、前記鎖伸長剤や前記反応停止剤を用いずに、前記ジイソシアネート化合物を前記ジオール化合物の1.0倍未満のモル比率で反応させる方法等の既知の方法が採用できる。なお、前記ポリウレタン樹脂がアミノ基を有する場合、アミン価は0.1~10mgKOH/gの範囲が好適である。なお、アミン価とは、遊離塩基及び塩基の総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する塩酸に対して当量の水酸化カリウムのmg数で表したものである。
【0043】
また、ポリウレタン樹脂としては、環境面を考慮するとバイオマスポリウレタン樹脂を含有していてもよい。バイオマスポリウレタン樹脂について説明する。なお、バイオマスポリウレタン樹脂の説明のうち、上記したポリウレタン樹脂と共通する説明は適宜省略する。バイオマスポリウレタン樹脂は、バイオマス由来(植物由来)の成分を含むポリウレタン樹脂である。バイオマスポリウレタン樹脂は、他の枯渇性資源を用いる場合と比較して地球温暖化防止や環境負荷低減の点で貢献できることから、バイオポリオール成分イソシアネート成分との反応によりウレタンプレポリマーを合成し、これに必要に応じて鎖伸長剤、反応停止剤を反応させて得られるバイオマスポリウレタン樹脂であることが好ましく、イソシアネート成分が植物由来のバイオイソシアネートであることがより好ましい。
【0044】
前記バインダー樹脂には、インク組成物の性能が低下しない範囲で、前記ポリウレタン樹脂以外のその他の樹脂を用いてもよい。前記その他の樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル系共重合体、ブチラール樹脂、セルロース誘導体等が挙げられる。
【0045】
また、前記表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物は、上記の成分を分散あるいは溶解させるために、有機溶剤を含むことが好ましい。前記有機溶剤としては、特に制限なく使用でき、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤;n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の脂肪族炭化水素系有機溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素系有機溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系有機溶剤等が挙げられる。前記有機溶剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
前記有機溶剤は、前記表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物を、フレキソ印刷又はグラビア印刷に適用する観点と、環境面の観点から、前記アルコール系有機溶剤、及び/又は前記エステル系有機溶剤を使用することが好ましい。この場合、前記有機溶剤中、前記アルコール系有機溶剤及び/又は前記エステル系有機溶剤の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0047】
前記酸化チタンと前記樹脂と前記有機溶剤の合計の割合は、インク組成物中、インキ層の諸耐性と白色度を考慮する観点から、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明のインク組成物には、インク組成物の性能が低下しない範囲でチタンキレート、ジルコニウムキレート等の金属キレート架橋剤;ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス等のワックス類;飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、変性脂肪酸アミド等の脂肪酸アミド;ダイマー酸系樹脂、ロジン系樹脂、マレイン酸系樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、ダンマー樹脂、コーパル樹脂、塩素化ポリプロピレン、酸化ポリプロピレン等のハードレジン;レベリング剤、界面活性剤、可塑剤等を任意に添加することができる。
【0049】
前記酸化チタンと前記樹脂の合計の割合は、インク組成物の固形分中、印刷適性を考慮する観点から、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0050】
<オーバーコート剤、及び表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物の調製方法>
前記オーバーコート剤、及び前記UVレーザーマーキング用インク組成物の調製方法は、特に限定されず、例えば、上記の各成分を順番に、あるいは同時に添加して、ロールミル、ニーダー、高速攪拌機、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散機、高圧分散装置等を用いて調製すればよい。
【0051】
<印刷物>
本発明の印刷物は、前記インクセットを印刷して得られる。具体的には、後述する基材フィルム上に、前記表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物を塗工(印刷)してインク層を形成した後、前記インク層の面に、前記オーバーコート剤を塗工(印刷)してオーバーコート層を形成し、積層体を得た後、前記積層体にUVレーザー光を照射して得られる。前記塗工(印刷)の方法は、オフセット印刷、枚葉印刷、デジタル印刷(インクジェット方式、トナー方式)、フレキソ印刷、グラビア印刷による方法を用いることができ、フレキソ印刷、グラビア印刷が好適である。また、上記の塗工(印刷)には、溶剤を蒸発させる乾燥工程を設けてもよい。印刷条件は、従来公知の条件が適宜採用できる。
【0052】
前記インク層の厚さは、通常、0.1~20μmであることが好ましく、0.2~15μmであることがより好ましい。また、前記オーバーコート層は、クラックやカールを防止する観点から、0.1~20μmであることが好ましく、0.2~15μmであることがより好ましい。前記インク層及び前記オーバーコート層は単層でも、多層(複層)でもよい。
【0053】
前記基材フィルムの材質としては、例えば、金属、木材、紙、プラスチック等のフィルムが挙げられ、これらの中でもプラスチックフィルムが好ましい。前記プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリシクロオレフィン、ポリアセテート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー等のフィルムが挙げられる。
【0054】
前記基材フィルムは、前記インク組成物の印刷適性(濡れ性や接着性)を良好にする観点から、表面がコロナ処理やプラズマ処理等により表面処理されていてもよく、また、ガスバリア性などを向上させる観点から、透明な無機酸化物の蒸着層などが積層されていてもよい。
【0055】
上記のUVレーザーとは、300~380nm領域の中心波長を有するレーザー光である。レーザー光は、前記積層体の前記基材フィルム側から照射してもよく、あるいは、前記積層体の前記オーバーコート層の側から照射してもよい。前記積層体におけるオーバーコート層の厚さを薄くした印刷物が得られる観点から、レーザー光は、前記積層体の前記オーバーコート層の側から照射することが好ましい。なお、レーザー光の照射条件は、使用する機器、印刷物の印字性などの印刷品質を考慮して適宜設定すればよい。
【実施例0056】
以下に本発明を実施例等によって説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。
【0057】
<製造例>
<ポリウレタン樹脂ワニス1の製造>
攪拌機、冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、セバシン酸と1,3-プロパンジオールから得られる平均分子量2000のポリエステルジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添ジフェニルメタンジイソシアネートの21.0質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100~105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸プロピルの562質量部、イソプロピルアルコールの187質量部を加えた後、イソホロンジアミンの8.2質量部を加えて鎖伸長させ、さらにモノエタノールアミンの0.35質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミンの1.3質量部、ジエチレントリアミンの0.6質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニス1(固形分25質量%)を得た。
【0058】
<オーバーコート剤、及び表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物の調製>
表1及び2に示す配合にて、各材料を混合し、各オーバーコート剤及び表刷りUVレーザーマーキング用インク組成物を調製した。なお、各表に記載の数値は質量部である。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1-2中、アクリル樹脂ワニス1は、アクリル系樹脂(ガラス転移温度が約78℃のアクリルポリオール、固形分40質量%);
アクリル樹脂ワニス2は、アクリル系樹脂(ガラス転移温度が約50℃のアクリルポリオール、固形分40質量%);
架橋剤は、多官能イソシアネート系架橋剤(商品名「硬化剤No.5000」、サカタインクス社製、固形分45質量%);
酸化チタン1は、アルミナ及びチタン酸バリウム被覆酸化チタン(平均粒子径が0.23μm);
酸化チタン2は、アルミナ及びシリカ被覆酸化チタン(平均粒子径が0.29μm);
ワックスは、ポリエチレンワックス(平均粒子径8μm)を示す。
【0062】
<実施例1-10、比較例1-4>
<積層体の製造方法>
上記で得られた各インク組成物をポリプロピレンフィルム(商品名「P-2161」、東洋紡社製)に、刷版を用いて単層または複層印刷した。その後、印刷面の上に、上記で得られた各オーバーコート剤を、刷版を用いて単層または複層塗工し、各積層体を製造した。各積層体における、インク組成物、オーバーコート剤、刷版、及び印刷回数(単層または複層)は表3に示す。
【0063】
上記で得られた各積層体について、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0064】
<視認性>
キーエンス社製のUVレーザーマーカーFP-1000を用いて、上記で得られた各積層体のポリプロピレンフィルム側ではない側からレーザー光を照射して印字し(印字条件:レーザー本数3本)、レーザー印字性(視認性)について、以下の3段階で評価し、〇を合格基準とした。
○:印字部分が視認できる。
△:印字部分の視認は可能だが、黒化不十分で灰色である。
×:印字部分の視認が難しいか、印字ができない。
【0065】
<残留溶剤の測定>
実施例7-10の各積層体(0.2m)を500mlのフラスコに入れ、80℃、30分間オーブン中で加熱して印刷物中に残存している溶剤を気化させ、フラスコ中よりガス1mlを採取し、ガスクロマトグラフィーで残留溶剤量(mg/m)を測定した。残留溶剤量(mg/m)は、印刷物や包材としての臭気の観点からは、40(mg/m)以下であることが好ましい。
【0066】
【表3】
【0067】
表3中、H175lpiは、ヘリオ175線ベタ版;
L32μ:レーザー175線版深32μベタ版を示す。