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特開2024-139746耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材の製造方法及びそれに用いるアルミニウム合金
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  • 特開-耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材の製造方法及びそれに用いるアルミニウム合金 図1
  • 特開-耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材の製造方法及びそれに用いるアルミニウム合金 図2
  • 特開-耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材の製造方法及びそれに用いるアルミニウム合金 図3
  • 特開-耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材の製造方法及びそれに用いるアルミニウム合金 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139746
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材の製造方法及びそれに用いるアルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/053 20060101AFI20241002BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20241002BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
C22F1/053
C22C21/10
C22F1/00 602
C22F1/00 612
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024047122
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023049527
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】濱高 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 果林
(57)【要約】
【課題】所定の成分組成からなるAl-Zn-Mg系合金を用いて、所定の押出条件にて押出材を得ることで耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材を得ることを目的とする。
【解決手段】以下、質量%で、Zn:6.0~10.0%,Mg:1.5~3.5%,Cu:0.20~2.50%,Zr:0.10~0.25%,Ti:0.005~0.05%,Mn:0.30以下,Cr:0.25%以下,[Mn+Cr+Zr]の合計で0.10~0.50%であって、残部がAl及び不可避的不純物であり、鋳造後の平均結晶粒径が250μm以下であるアルミニウム合金を用い、押出加工直後の押出材温度が440℃以上になるように押出加工し、押出加工直後から押出材の温度が250~400℃になるまでは、冷却速度が100℃/min未満で、1.0分~3.4分かけて大気中で放冷し、その後に押出材温度が150℃以下になるまで冷却速度100~2000℃/minで強制冷却した後に時効処理することを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下、質量%で、Zn:6.0~10.0%,Mg:1.5~3.5%,Cu:0.20~2.50%,Zr:0.10~0.25%,Ti:0.005~0.05%,Mn:0.30以下,Cr:0.25%以下,[Mn+Cr+Zr]の合計で0.10~0.50%であって、残部がAl及び不可避的不純物であり、鋳造後の平均結晶粒径が250μm以下であるアルミニウム合金を用い、
押出加工直後の押出材温度が440℃以上になるように押出加工し、
押出加工直後から押出材の温度が250~400℃になるまでは、冷却速度が100℃/min未満で、1.0分~3.4分かけて大気中で放冷し、その後に押出材温度が150℃以下になるまで冷却速度100~2000℃/minで強制冷却した後に時効処理することを特徴とする耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材の製造方法。
【請求項2】
前記押出加工直後から押出材の温度が300~400℃になるまでは、1分以上かけて大気中で放冷し、
その後に押出温度が150℃以下になるまでは冷却速度200~2000℃/minで強制冷却した後に、時効処理することを特徴とする請求項1記載の耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材の製造方法。
【請求項3】
引張強さ500MPa以上で0.2%耐力470MPa以上であることを特徴とする請求項2記載の耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度でありながら耐SCC性に優れるAl-Zn-Mg系アルミニウム合金からなる押出材の製造方法及び、それに用いるアルミニウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の分野等においては、軽量化の目的に高強度のアルミニウム合金押出材が要求されている。
アルミニウム合金の中でも、Al-Zn-Mg系合金は高強度であることが知られているが、さらなる高強度を得ようとすると耐応力腐食割れ性(耐SCC性)が低下する技術課題があった。
【0003】
例えば特許文献1には、表面再結晶の厚さを肉厚の7%以下、表面再結晶の平均粒径を150μm以下とすることで、耐SCC性を改善しているが引張強さが約450MPaレベルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2928445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、所定の成分組成からなるAl-Zn-Mg系合金を用いて、所定の押出条件にて押出材を得ることで耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材は、以下、質量%で、Zn:6.0~10.0%,Mg:1.5~3.5%,Cu:0.20~2.50%,Zr:0.10~0.25%,Ti:0.005~0.05%,Mn:0.30以下,Cr:0.25%以下,[Mn+Cr+Zr]の合計で0.10~0.50%であって、残部がAl及び不可避的不純物であり、鋳造後の平均結晶粒径が250μm以下のアルミニウム合金を用いる。
ここで平均結晶粒径250μm以下の鋳造組織を得るには、上記合金組成のアルミニウム合金の溶湯を用いて50mm/min以上の鋳造速度で鋳造し、480~520℃×1~12hrの均質化処理(HOMO処理)した後に冷却速度50℃以上にて冷却することで得られる。
【0007】
本発明に係る耐SCC性に優れた高強度アルミニウム合金押出材の製造方法は、上記アルミニウム合金を用いて押出加工直後の押出材温度が440℃以上になるように押出加工し、押出加工直後から押出材の温度が250~400℃になるまでは、冷却速度が100℃/min未満で1.0分から3.4分かけて大気中で放冷し、その後に押出材温度が150℃以下になるまで冷却速度100~2000℃/minで冷却した後に時効処理することを特徴とする。
これにより、引張強さ500MPa以上で0.2%耐力470MPa以上が得られる。
ここで放冷とは、押出加工直後の押出材温度を440℃以上になるように押出し、その後に1.0分~3.4分かけて冷却速度100℃/min未満にて大気中で自然放冷することをいう。
また、強制冷却とは冷却速度100~2000℃の範囲にてファン等を用いた強制空冷あるいは水冷等にて行う。
また、押出材が150℃以下になれば、その強度や耐SCC性に影響を与えない。
【0008】
また、好ましくは、前記押出加工直後から押出材の温度が300~400℃になるまでは、1分以上かけて大気中で放冷し、その後に押出温度が150℃以下になるまでは冷却速度200~2000℃/minで強制冷却した後に、時効処理することを特徴とする。
【0009】
本発明に用いたアルミニウム合金組成を選定した理由は次のとおりである。
<Zn及びMg成分>
Znは比較的高濃度でも押出性が低下することがなく、強度の向上に寄与し、Mgの添加により、組織中にMgZnが折出し、強度アップする。
しかし、Mgは添加量が多くなると押出性が低下するとともに、MgZnの析出量が多くなりすぎ靭性が低下する恐れがある。
そこで、Zn:6.0~10.0%,Mg:1.5~3.5%の範囲の組み合せがよい。
<Cu成分>
Cu成分の添加は固溶効果により強度向上を図るのに有効であるが、添加量が多くなると一般的な耐食性が低下するので、Cu:0.20~2.50%の範囲がよい。
<Zr,Mn及びCr成分>
これらの成分は、いずれも遷移元素であり、押出加工時に押出材の表面に形成される再結晶深さを抑制するとともに結晶粒の微細化に効果がある。
これにより、耐応力腐食割れ性が向上する。
このうちCr成分は最も焼入れ感受性を鋭く、Mn成分はCrよりも焼入れ感受性が強くないものの、Zrよりもその影響が大きい。
そこで本発明は、Zr:0.10~0.25%とし、Mnを添加する場合には、Mn:0.30%以下に抑え、Crを添加する場合にはCr:0.25%以下に抑えるとともに[Mn+Cr+Zr]の合計で0.10~0.50%の範囲に抑えるのがよい。
<Ti成分>
Ti成分は、押出加工に用いるためのビレットを鋳造する際に結晶粒の微細化に効果があり、一般的にはBもごく微量添加される。
Ti:0.005~0.05%のわずかな添加量でよい。
<その他の成分>
7000系のアルミニウム合金の鋳造過程等にて、Fe成分及びSi成分が不純物として含まれることが多いが、その量が多くなると、押出性,耐応力腐食割れ性等に影響を与えるので、Fe:0.2%以下,Si:0.1%以下に抑えるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
所定の組成からなるアルミニウム合金を用いて、押出加工し、押出加工直後の冷却条件(ダイス端焼き入れ)を制御することで優れた耐SCC性を確保しつつ、高強度の押出材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】評価に用いたアルミニウム合金の組成を示し、残部がAlと不可避的不純物である。
図2】押出用ビレットの鋳造条件及び均質化処理(HOMO処理)条件を示す。
図3】押出材の押出条件及び押出直後の冷却条件を示す。
図4】押出材の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1の表に示したアルミニウム合金組成の溶湯を調整し、図2の表に示した条件にてビレットを鋳造及び均質化処理(HOMO処理)を行った。
次に図3に示したようにビレット(BLT)を440℃以上に余熱し、押出速度5m/min以上にて肉厚2~3mm,高さ50~60mm,幅110~120mmのホロー押出形材、又はソリッド押出形材を製造した。
押出直後の押出材の温度を図3の表に示す。
いずれも440℃以上であった。
【0013】
図3の表には、実施例1~14と比較例1~16の条件を示すように押出直後の冷却条件を、いろいろ変えて評価した。
図3の表中に各条件の目標範囲を示し、その範囲にあるものを「○」と表示し、それから外れた条件のものを「×」と表示した。
【0014】
図4に評価結果を示し、評価条件は次のとおりである。
<機械的性質>
JIS-Z2241に基づいて、JIS-5号試験片を作製し、JIS規格に準拠した引張試験機を用いて、引張強さ,σ0.2耐力,伸びを計測した。
<ビレット結晶粒径及び押出材のミクロ組織>
サンプル表面を鏡面研磨仕上げし、ケラー試薬にてエッチングを行った。
これを光学顕微鏡観察により金属組織を観察し、100倍の画像を画像処理し、平均結晶粒径を求めた。
<耐応力腐食割れ性(SCC性)>
試験片に耐力の80%の応力を負荷した状態で、次の条件を1サイクルとして720サイクルにて割れが発生しなかったものを目標達成とした。
なお、途中で割れが発生したものは、そのサイクル数を表示した。
[1サイクル]
3.5%NaCl水溶液中に25℃,10min浸漬し、その後に25℃,湿度40%中に50min放置し、その後に自然乾燥する。
【0015】
図4の表から実施例1~14は、いずれも押出直後の冷却条件を目標範囲に制御したことにより全て耐SCC性が優れているのに対して、比較例1~14は引張強さ500MPa以上,0.2%耐力470MPa以上,伸び8%以上を有しているものの、いずれも耐SCC性が目標未達であった。
【0016】
評価結果を具体的に検討すると、次のことが言える。
図3の表にて冷却開始押出材温度は、押出直後の押出材を大気中で自然放冷し、図3の表に示した冷却開始押出材温度に達した時点から押出形材冷却速度100~2000℃/minにて強制冷却をしたことを示す。
また、図3の表中、冷却開始到達時間とは、上記の大気中での自然放冷時間をいう。
【0017】
実施例1~10は図3の表に示すように、押出材冷却速度は279~350℃/minであり、これはファンによる強制空冷であることを示す。
これに対して、実施例11~14は押出材冷却速度1500℃/minであり、これは水冷による強制冷却であることを示す。
このことは押出直後の押出材の温度が440℃以上であり、1.0~3.4分かけてゆっくり大気中での自然放冷させる行程を設けることで、その後の強制冷却が空冷であっても水冷であっても、耐SCC性に優れていることが分かる。
なお、比較例15は5.02分かけてゆっくり大気中で自然放冷し、比較例16は3.45分かけて大気中で自然放冷させたことにより、伸び及び耐SCC性は確保できたものの、引張強さ、耐力が目標未達であった。
【0018】
押出直後の放冷による冷却速度は、(押出後押出材温度)-(冷却開始押出温度)/(冷却開始到達時間)の計算式で求めることができる。
例えば、実施例1の大気中の放冷による冷却速度は(470-382)/1.24=約70℃/minである。
また、実施例12の冷却速度は、(500-350)/2.40=約62.5℃/minである。
上記に説明したように比較例15,16は、耐SCC性を確保できるが強度が目標未達であったことから、押出直後の大気中の自然放冷は100℃/min未満のゆっくりであれば耐SCC性を確保できるが、強度を確保するには大気中での放冷時間を1.0~3.4分の間に抑える必要があることが分かる。
また、強度を確保する観点からは、冷却開始温度は300~400℃の範囲であるのが好ましい。
さらには、ファン又は水冷による強制冷却は200℃/min以上が好ましい。
【0019】
比較例1は、冷却開始到達時間が0.10分と短く、強制冷却が2300℃/minと速いため、耐SCC性が未達であった。
図1
図2
図3
図4