(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139754
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
B24B 37/26 20120101AFI20241002BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20241002BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20241002BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20241002BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B24B37/26
B24B37/24 C
B24B37/24 A
C08G18/42
C08G18/48 054
H01L21/304 622F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024048760
(22)【出願日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2023050341
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】立野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見沢 大和
(72)【発明者】
【氏名】越智 恵介
(72)【発明者】
【氏名】川崎 哲明
【テーマコード(参考)】
3C158
4J034
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AC04
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3C158BA04
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5F057AA06
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5F057EB08
(57)【要約】
【課題】 ディフェクト低減および研磨レートに優れた研磨パッドを提供する
【解決手段】 ポリウレタン樹脂によって構成された研磨層を有するとともに、当該研磨層の表面に形成されて被研磨物3と摺動する研磨面1Aに、円周方向に沿った周方向溝からなる保持溝1Bと、該保持溝1Bと交差して外周面に貫通する交差溝からなる排出溝1Cとが形成された研磨パッド1に関する。
上記研磨層における、40℃における損失弾性率E”を貯蔵弾性率E’で割った損失正接tanδ(=E”/E’)について、
0.073≦tanδ≦0.130・・・(1)
0.158≦0.0072×(Sc/Sr)+tanδ≦0.258・・・(2)
(上記式2において、Srは上記研磨面に占める上記排出溝の面積を、Scは上記保持溝の面積から上記排出溝との交差部分の面積を除いた面積を示す)を満たしている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂によって構成された研磨層を有するとともに、当該研磨層の表面に形成された研磨面に、周方向溝からなる保持溝と、該保持溝と交差して研磨層の外周縁に貫通する交差溝からなる排出溝とが形成された研磨パッドにおいて、
上記研磨層における、40℃における損失弾性率E”を貯蔵弾性率E’で割った損失正接tanδ(=E”/E’)について、
0.073≦tanδ≦0.130・・・(1)
0.158≦0.0072×(Sc/Sr)+tanδ≦0.258・・・(2)
(上記式2において、Srは上記研磨面に占める上記排出溝の面積を、Scは上記保持溝の面積から上記排出溝との交差部分の面積を除いた面積を示す)
を満たすことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記保持溝が同心円状溝であり、前記排出溝が放射状溝である、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記保持溝と前記排出溝の溝深さが同一である、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記排出溝の溝本数が12~32本である、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記式2におけるSc/Srが、
7≦Sc/Sr≦12・・・(3)
を満たす、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記研磨層はポリウレタン樹脂中に中空体を有し、平均開孔径が11・0μm以上17.0μm以下である、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記研磨層を構成するポリウレタン樹脂は、原料としてポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて合成したポリウレタン結合含有イソシアネート化合物を含み、上記ポリオール化合物はポリエーテルポリオール化合物及び/又はポリエステルポリオール化合物であり、上記ポリエーテルポリオール化合物はポリ(オキシテトラメチレン)グリコール又はポリプロピレングリコールであり、上記ポリエステルポリオール化合物はポリ(1,4-アジピン酸ブチレン)である、請求項1記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに関し、より詳しくは、研磨面に周方向溝からなる保持溝と交差溝からなる排出溝とが形成された研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造における絶縁膜や金属配線の形成工程において化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)が行われており、このような研磨には、ポリウレタン樹脂によって構成された研磨層を有した研磨パッドが用いられている。
今日の研磨には、高い研磨性能に加えてディフェクト(スクラッチ(傷)および付着物)の低減が求められており、上記研磨層の研磨面に、円周方向に沿った周方向溝および交差溝を形成し、上記周方向溝はスラリーを保持する保持溝として機能させ、上記交差溝は研磨屑や使用後のスラリーを排出する排出溝として機能させた研磨パッド(特許文献1)や、研磨層の動的粘弾性を規定した研磨パッド(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5706178号公報
【特許文献2】特許第4959901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、研磨性能やディフェクト低減について多くの提案がなされてきたが、今般、研磨面に形成した周方向溝および交差溝と、研磨層の有する動的粘弾性との間に関係性を見出したことで、ディフェクト低減および研磨レートに優れた研磨パッドを得ることができた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる研磨パッドは、ポリウレタン樹脂によって構成された研磨層を有するとともに、当該研磨層の表面に形成された研磨面に、周方向溝からなる保持溝と、該保持溝と交差して研磨層の外周縁に貫通する交差溝からなる排出溝とが形成された研磨パッドにおいて、
上記研磨層について、40℃における損失弾性率E”を貯蔵弾性率E’で割った損失正接tanδ(=E”/E’)について、
0.073≦tanδ≦0.130・・・(1)
0.158≦0.0072×(Sc/Sr)+tanδ≦0.258・・・(2)
(上記式2において、Srは上記研磨面に占める上記排出溝の面積を、Scは上記保持溝の面積から上記排出溝との交差部分の面積を除いた面積を示す)
を満たすことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明において、式1にかかる損失正接tanδ(E”/E’)は、研磨層の粘性と弾性とに関係するパラメータとなっており、式2にかかる面積比(Sc/Sr)は、排出溝によるスラリーの排出性と、保持溝によるスラリーの保持性とに関係するパラメータとなっている。
本発明では、研磨層の粘性および弾性と、排出溝および保持溝によるスラリーの排出性および保持性との関係に着目して、ディフェクト低減および研磨レートが優れた研磨パッドを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】実施例および比較例についての実験結果を示した表。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施形態について本発明を説明すると、
図1は本発明にかかる研磨パッド1を備えた研磨装置2の側面図を示し、この研磨装置2は、被研磨物3を研磨パッド1によって研磨するものとなっている。
上記研磨装置2は、下方側に設けられて研磨パッド1を支持する研磨定盤4と、上方側に設けられて被研磨物3を支持する支持定盤5と、液状のスラリーSを供給するスラリー供給手段6とを備えている。
上記研磨パッド1および被研磨物3はそれぞれ略円盤状を有しており、本実施形態では研磨パッド1の直径は被研磨物3の直径よりも大径となっている。また研磨パッド1は、その下面を両面テープ等によって研磨定盤4に固定されており、被研磨物3は支持定盤5に真空吸着されている。
また上記研磨定盤4および支持定盤5は図示しない駆動手段によって相対的に回転するとともに、上記支持定盤5は研磨定盤4の中心位置から半径方向に往復動可能に設けられており、これにより上記研磨パッド1と被研磨物3とが相対的に回転しながら摺動するようになっている。
スラリー供給手段6は、所要の薬品中に砥粒の混合された液状のスラリーSを上記研磨パッド1と被研磨物3との間に供給し、これにより被研磨物3の研磨が行われるようになっている。
このような構成を有する研磨装置2自体は従来公知であり、これ以上の詳細な説明については省略する。なお、上記構成を有する研磨装置2の他、例えば支持定盤5には駆動がなく、研磨定盤4の回転により支持定盤5が連れ回るようにした研磨装置2など、その他の構成を有した研磨装置2も使用可能である。
【0009】
上記研磨パッド1における被研磨物3を研磨する研磨面1Aには、
図2に示すように周方向溝からなる同心円状の保持溝1Bと、上記保持溝1Bに交差する交差溝からなる複数の排出溝1Cとが形成されている。また以下の説明において、研磨面1Aにおける上記保持溝1Bおよび排出溝1Cが形成されていない部分をランド部1Dと呼ぶ。
上記保持溝1Bおよび排出溝1Cの断面形状については特に限定はないが、例えば断面コ字形やV字形、ないしは研磨面1Aに向けて拡大する台形形状を有したものを使用することができる。また保持溝1Bと排出溝1Cとで断面形状を異ならせてもよい。
上記保持溝1Bは中心から同心円状に形成された複数の同心円によって構成され、各保持溝1Bそのものは研磨パッド1の外周縁に直接的には貫通しておらず、閉じられた形状となっている。
このように形成された保持溝1Bは、被研磨物3を研磨する際にスラリーSをその内部に保持することで、研磨レートを向上させる効果を奏するものとなっている。
なお、本実施形態における保持溝1Bは同心円状に等ピッチで形成されているが、隣接する保持溝1Bの間隔(ピッチ)を異ならせてもよい。
【0010】
一方、上記排出溝1Cは中心から放射状に形成された複数の直線状の溝によって構成され、各排出溝1Cの端部は研磨パッド1の外周縁に達しており、研磨パッド1の側面に貫通するようになっている。
このように形成された排出溝1Cは、被研磨物3の研磨中に研磨屑等が入り込むと、これら研磨屑等を研磨パッド1の回転に伴って上記スラリーSと共に研磨パッド1の外周縁より排出させるようになっており、被研磨物3のディフェクト(スクラッチ(傷)および付着物の発生)を低減する機能を奏するものとなっている。
なお、本実施形態における排出溝1Cは等角度で形成されているが、隣接する排出溝1Cの角度を異ならせてもよい。
保持溝1Bおよび排出溝1Cの溝深さについては、同一であっても異なる溝深さであっても良いが、研磨屑等の滞留を防ぐ観点では同一の溝深さであることが好ましい。
【0011】
また、研磨面1Aには、研磨層に形成された気泡の一部が開孔している。
本実施形態では、研磨面1Aに開孔している気泡の平均開孔径が、11.0μm以上17.0μm以下の範囲内であることが望ましい。より好ましくは12.0μm以上16.0μm以下、特に好ましい範囲として12.0μm以上15.5μm以下とすることが望ましい。
上記平均開孔径が11.0μm以上の場合、スクラッチ要因となるスラリー中の砥粒や研磨屑等の凝集体が開孔部に詰まることを抑制しやすい。一方、上記平均開孔径が17.0μm以下の場合、開孔底部でスラリー中の砥粒や研磨屑等が凝集しにくく、スクラッチ(傷)および付着物を発生させにくくなる。
しかし、平均開孔径が上記範囲内であっても、溝面積比と研磨層の動的粘弾性tanδに関する条件を満たさない場合には、後述するように、砥粒・研磨屑の保持/排出性能のバランスが取れないため、または、研磨面の粘性と弾性のバランスが取れないため、スクラッチ(傷)および付着物が発生しやすくなったり、研磨レートが低下しやすくなったりする。
【0012】
そして、上記形態を有する研磨パッド1の製造方法としては、例えば、少なくともプレポリマーとしてのポリウレタン結合含有イソシアネート化合物、硬化剤、中空体を準備する準備工程;少なくとも、上記ポリウレタン結合含有イソシアネート化合物、硬化剤を混合して成形体成形用の混合液を得る混合工程;上記成形体成形用混合液からポリウレタン樹脂成形体を成形する成形体成形工程;および上記ポリウレタン樹脂成形体から、上記研磨面1Aを有する研磨層を形成する研磨層形成工程、を含むことが挙げられる。
以下、準備工程、混合工程、成形体成形工程、研磨層形成工程に分けて、それぞれ説明する。
【0013】
上記準備工程として、上記研磨パッド1の製造には、ポリウレタン樹脂成形体の原料として、例えば、ポリウレタン結合含有イソシアネート化合物、硬化剤、中空体が用いられる。更にポリオール化合物を上記成分とともに用いてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の成分を併せて用いてもよい。
【0014】
上記準備工程で準備される上記ポリウレタン結合含有イソシアネート化合物は、下記ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを、通常用いられる条件で反応させることにより得られる化合物であり、ポリウレタン結合とイソシアネート基を分子内に含むものである。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の成分がポリウレタン結合含有イソシアネート化合物に含まれていてもよい。
上記ポリウレタン結合含有イソシアネート化合物としては、市販されているものを用いてもよく、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて合成したものを用いてもよい。上記反応に特に制限はなく、ポリウレタン樹脂の製造において公知の方法および条件を用いて付加重合反応すればよい。
例えば、40℃に加温したポリオール化合物に、窒素雰囲気にて撹拌しながら50℃に加温したポリイソシアネート化合物を添加し、30分後に80℃まで昇温させ更に80℃にて60分間反応させるといった方法で製造することが出来る。
【0015】
まず、上記ポリイソシアネート化合物とは、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物を意味する。またポリイソシアネート化合物としては、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有していれば特に制限されるものではない。
例えば、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物としては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。
さらに、ポリイソシアネート化合物としては、ジイソシアネート化合物が好ましく、中でも2,4-TDI、2,6-TDI、MDIがより好ましく、2,4-TDI、2,6-TDIが特に好ましい。
これらのポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、複数のポリイソシアネート化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
次に上記ポリオール化合物とは、分子内に2つ以上のアルコール性水酸基(OH)を有する化合物を意味する。
上記ポリウレタン結合含有イソシアネート化合物の合成に用いられるポリオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、ブチレングリコール等のジオール化合物、トリオール化合物等;ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(又はポリテトラメチレンエーテルグリコール)(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエーテルポリカーボネートジオール(PEPCD)等のポリエーテルポリオール化合物;エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物;ポリカーボネートポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物等を挙げることができる。
また、エチレンオキサイドを付加した3官能性プロピレングリコールを用いることもできる。これらの中でも、PTMG、PPG、PTMGとポリエステルポリオール化合物の混合物、PPGとPEPCDの混合物、又はこれらとDEGの組み合わせが好ましい。
上記ポリオール化合物は単独で用いてもよく、複数のポリオール化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
ここで、NCO基1個当たりのポリウレタン結合含有イソシアネート化合物(プレポリマー)の分子量を示すプレポリマーのNCO当量としては、200~800であることが好ましく、300~700であることがより好ましく、400~600であることがさらにより好ましい。
具体的に上記プレポリマーのNCO当量は以下のようにして求めることができる。
プレポリマーのNCO当量=(ポリイソシアネート化合物の質量部+ポリオール化合物の質量部)/[(ポリイソシアネート化合物1分子当たりの官能基数×ポリイソシアネート化合物の質量部/ポリイソシアネート化合物の分子量)-(ポリオール化合物1分子当たりの官能基数×ポリオール化合物の質量部/ポリオール化合物の分子量)]
【0018】
上記硬化剤(鎖伸長剤ともいう)としては、例えば、ポリアミン化合物および/又はポリオール化合物を用いることができる。
ポリアミン化合物とは、分子内に2つ以上のアミノ基を有する化合物を意味し、脂肪族や芳香族のポリアミン化合物、特にはジアミン化合物を使用することができる。
例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(メチレンビス-o-クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する。)、MOCAと同様の構造を有するポリアミン化合物等を挙げることができる。
また、ポリアミン化合物が水酸基を有していてもよく、このようなアミン系化合物として、例えば、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等を挙げることができる。
ポリアミン化合物としては、ジアミン化合物が好ましく、MOCA、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンがより好ましく、MOCAが特に好ましい。
ポリアミン化合物は、単独で用いてもよく、複数のポリアミン化合物を組み合わせて用いてもよい。
ポリアミン化合物は、他の成分と混合し易くするためおよび/又は後の成形体形成工程における気泡径の均一性を向上させるために、必要により加熱した状態で減圧下脱泡することが好ましい。減圧下での脱泡方法としては、ポリウレタンの製造において公知の方法を用いればよく、例えば、真空ポンプを用いて0.1MPa以下の真空度で脱泡することができる。
硬化剤(鎖伸長剤)として固体の化合物を用いる場合は、加熱により溶融させつつ、減圧下脱泡することができる。
【0019】
また、硬化剤としてのポリオール化合物としては、ジオール化合物やトリオール化合物等の化合物であれば特に制限なく用いることができる。また、プレポリマーを形成するのに用いられるポリオール化合物と同一であっても異なっていてもよい。
具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの低分子量ジオール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの高分子量のポリオール化合物などが挙げられる。
上記ポリオール化合物は単独で用いてもよく、複数のポリオール化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ここで、上記ポリウレタン結合含有イソシアネート化合物の末端に存在するイソシアネート基に対する、硬化剤に存在する活性水素基(アミノ基および水酸基)の当量比であるR値が、0.60~1.40となるよう、各成分を混合する。R値は、0.65~0.130が好ましく、0.70~1.20がより好ましい。
【0021】
上記中空体とは、空隙を有する微小球体を意味する。微小球体には、球状、楕円状、およびこれらに近い形状のものが含まれる。中空体の例としては、熱可塑性樹脂からなる外殻(ポリマー殻)と、外殻に内包される低沸点炭化水素とからなる未発泡の加熱膨張性微小球状体を、加熱膨張させたものが挙げられる。
上記ポリマー殻としては、特開昭57-137323号公報等に開示されているように、例えば、アクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体などの熱可塑性樹脂を用いることができる。同様に、ポリマー殻に内包される低沸点炭化水素としては、例えば、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、石油エーテル等を用いることができる。
なお、上記中空体を用いる他、水発泡等の化学的発泡や機械的な撹拌による発泡を用いて気泡を形成しても良く、これらの方法を組み合わせても良い。
【0022】
次に混合工程について説明すると、当該混合工程では、上記準備工程で準備した、プレポリマーとしてのポリウレタン結合含有イソシアネート化合物、硬化剤および中空体を、混合機内に供給して攪拌・混合する。混合工程は、上記各成分の流動性を確保できる温度に加温した状態で行われる。
混合順序に特に制限はないが、ポリウレタン結合含有イソシアネート化合物と中空体とを混合した混合液と、硬化剤および必要に応じて他の成分を混合した混合液とを用意し、両混合液を混合器内に供給して混合撹拌することが好ましい。このようにして、成形体成形用の混合液が調製される。
【0023】
次に成形体成形工程では、上記混合工程で調製された成形体成形用混合液を80~120℃の型枠内に流し込み、硬化させることによりポリウレタン樹脂成形体を成形する。
このとき、プレポリマー、硬化剤が反応してポリウレタン樹脂を形成することにより該混合液は硬化する。
【0024】
そして、研磨層形成工程では、上記成形体成形工程により得られたポリウレタン樹脂成形体をシート状にスライスするとともに、スライスした樹脂シートを円形に裁断することで、円盤状の研磨層が得られることとなる。
上記研磨層の一方の面が研磨面1Aとなり、当該研磨面1Aには
図2に示すように上記保持溝1Bおよび排出溝1Cが加工される。また研磨層の反対側の面には研磨装置2に装着するための両面テープが装着される。
【0025】
図2に示すような上記研磨面1Aに保持溝1Bおよび排出溝1Cが形成された研磨パッド1は、上記特許文献1、2に示すように従来公知であり、保持溝1BによるスラリーSの保持機能と、排出溝1CによるスラリーSの排出機能とを両立させることで、ディフェクト低減機能と高い研磨レートを得るようになっている。
しかしながら、依然としてこれらの機能向上が求められており、本発明は、上記保持溝1Bおよび排出溝1Cが形成された研磨パッド1において、より優れたディフェクト低減機能と高い研磨レートを有するものを提供するものとなっている。
【0026】
本発明にかかる研磨パッド1の研磨層は、以下の式1、式2で示す条件を満たすように構成され、より具体的には
図3のグラフに示す略平行四辺形の辺上および内側の領域に定義される条件を満たすように構成されている。
図3において、縦軸は以下に説明する式1の損失正接tanδを示し、横軸は排出溝1Cと保持溝1Bとの面積比(Sc/Sr)を示している。
式1については以下の通りとなっている。
0.073≦tanδ≦0.130・・・(1)
上記式1において、tanδは40℃における研磨層の損失弾性率E”を貯蔵弾性率E’で割った損失正接tanδ(=E”/E’)を示している。
上記貯蔵弾性率E’および損失弾性率E”については、従来公知の方法(例えばJIS K7244-4に準拠した動的粘弾性試験(DMA))を用いて測定することができ、本発明では研磨中における研磨層表面の温度を想定して、40℃での研磨パッドの貯蔵弾性率E’および損失弾性率E”を測定し、損失正接tanδを算出した。
tanδは、ある温度条件での粘弾性の指標である。貯蔵弾性率E’とは、正弦的に変化する応力を加えた場合における、1周期あたりに貯蔵され完全に回復するエネルギーの尺度である。一方、損失弾性率E”とは、特性振動数の正弦波のひずみを加えたときのひずみよりn/2だけ位相が進んだ応力成分の大きさを意味する。
この損失正接tanδは、研磨パッド1を被研磨物に押し当てた際における、研磨面1Aの粘性と弾性との関係を示すパラメータとなっており、一般に、tanδが大きいと粘性に富み、tanδが小さいと弾性に富む傾向がある。研磨面1Aの粘性が高いと、スラリー中の砥粒が沈み込みやすくスクラッチ(傷)は発生しにくくなるものの、研磨レート(特に機械的研磨の場合)が低下しやすい。また、研磨によって発生した研磨屑が研磨面に取り込こまれやすく、付着物が増加する原因となる。
一方、研磨面1Aの弾性が高いと、研磨面1Aの硬度が高くなるため、スラリー中の砥粒が沈み込みにくく研磨レート(特に機械的研磨の場合)が向上しやすいものの、スクラッチ(傷)は発生しやすくなる。
すなわち式1において、tanδが0.073未満となると、研磨面の弾性が高くなりすぎてスクラッチ(傷)の値が悪化し、またtanδが0.130を超えると、研磨面の粘性が高くなりすぎて研磨レートが低下することとなる。
上記式1においては、tanδを0.073以上0.130以下としているが、より好ましくは0.073以上0.125以下、特に好ましい範囲として0.073以上0.120以下とすることが望ましい。
【0027】
また式2については以下の通りとなっている。
0.158≦0.0072×(Sc/Sr)+tanδ≦0.258・・・(2)
上記式2において、Srは上記研磨面1Aに占める上記排出溝1Cの面積(mm2)、Scは上記保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた面積(mm2)を示しており、Sc/Srは上記保持溝1Bと排出溝1Cとの面積比を表している。
上記面積比(Sc/Sr)はこの保持溝1BによるスラリーSの保持機能と排出溝1CによるスラリーSの排出機能との関係を示すパラメータとなっており、保持溝1Bの保持機能を高くすると、スラリーSを保持溝に保持することができるものの、保持溝1Bに研磨屑も収容されてしまうため、スクラッチ(傷)および付着物が増加する原因となる。
一方、排出溝1Cの排出機能を高くすると、研磨屑を速やかに研磨パッド1の外部に排出することができるものの、スラリーSが保持されにくく、研磨レートが低下するという問題が生じる。
そして式2は、上記この保持溝1Bと排出溝1Cとの面積比(Sc/Sr)と、上記式1にかかる損失正接tanδとの関係を示したものとなっている。
上記式2においては、当該式2にかかる値を0.158以上0.258以下としているが、より好ましくは0.158以上0.250以下、特に好ましい範囲として0.158以上0.242以下とすることが望ましい。
式(2)における(0.0072×(Sc/Sr)+tanδ)項は、研磨層の動的粘弾性と保持溝・排出溝の保持/排出性能を総合したパラメータ値であり、該パラメータ値を上記範囲内とすることで、高いディフェクト低減効果および研磨レートを得ることができる。
【0028】
そして
図3において、式1にかかる損失正接tanδは縦軸の値に相当し、
図3に示す平行四辺形の図示上下の対辺を規定するものとなっている。これに対し、式2は平行四辺形の図示左右の対辺を規定するものとなっている。
本発明にかかる研磨パッドは、上記平行四辺形からなる領域の辺上および内側に位置するように定義され、換言すると、上記平行四辺形の頂点(3.9、0.130)(17.8、0.130)(11.8、0.073)(25.7、0.073)を結んで形成された四角形の領域の辺上および内側に定義されるものとなっている。
そして当該領域の辺上および内側に定義された研磨層を有する研磨パッド1は、以下の実験結果に基づき、優れたディフェクト低減機能および研磨レートを有することが確認されたものである。
【0029】
以下
図3および
図4に示すように、上記実施形態に基づく研磨パッド1について、以下の実施例1~13の研磨パッド1と、比較例1~5としての研磨パッド1とを用いて以下の実験を行った。
上記実施例1~3と9~10および比較例1~2に用いる研磨パッド1は、以下のようにして製造した。
まず、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)と分子量2000のポリ(1,4-アジピン酸ブチレン)及びジエチレングリコール(DEG)を反応させてなるNCO当量460のウレタンプレポリマー100部に、外殻部分がアクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体からなり、殻内にイソブタンガスが内包された未膨脹タイプの中空体1.2部を添加混合し、ウレタンプレポリマー混合液を得た。
得られたウレタンプレポリマー混合液を第1液タンクに仕込み、60℃で保温した。また、第1液タンクとは別に、硬化剤として3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(メチレンビス-o-クロロアニリン)(MOCA)25.5部を第2液タンクに入れ、120℃で保温した。
【0030】
次に、第1液タンク、第2液タンクのそれぞれの液体を、注入口を2つ備えた混合機のそれぞれの注入口から注入し、攪拌混合して混合液を得た。なお、この際に、ウレタンプレポリマー中の末端に存在するイソシアネート基に対する硬化剤に存在するアミノ基及び水酸基の当量比を表わすR値が0.90となるように、混合割合を調整した。
【0031】
得られた混合液を、90℃に予熱した型枠に注型して、30分間加熱して、一次硬化させた。形成されたブロック状の成形物を型枠から抜き出し、オーブンにて120℃で4~8時間二次硬化し、ポリウレタン樹脂成形体を得た。得られたポリウレタン樹脂成形体を25℃まで放冷した後、再度オーブンにて120℃で5時間加熱してから、1.3mm厚もしくは1.6mm厚にスライス処理を施し、円盤状の発泡ポリウレタンシート(研磨層)を得た。
ここで、得られた研磨層の一方の面は研磨面1Aを構成し、当該研磨面1Aの直径は740mm、研磨面1Aの面積は430084mm2であった。
その後、研磨層の表面に、以下に示す実施例1~11または比較例1~5の通りに同心円状の保持溝1Bおよび放射状の排出溝1Cを形成し、さらに研磨に用いない裏面にクッション層および両面テープを貼り付けて、研磨パッド1を得た。ここで本実験において、上記保持溝1Bおよび排出溝1Cの深さは0.6mmとした。
上記クッション層には、樹脂を含浸させた含浸不織布、合成樹脂やゴム等の可撓性を有する材料、気泡構造を有する発泡体等を用いることが可能であり、上記実施例および比較例ではポリウレタン樹脂を含浸させた厚さ1.3mmの含浸不織布をクッション層として用いた。
【0032】
下記測定条件に基づき研磨層の動的粘弾性試験を行った。温度23度(±2℃)、相対湿度50%(±5%)の恒温恒湿槽中で40時間保持した乾燥状態の研磨層をサンプルとして用い、通常の大気雰囲気下(乾燥状態)で、引張モードにより測定した。測定結果は
図3に示す。
(測定条件)
測定装置 :RSA-G2(TAインスツルメント社)
サンプルの大きさ :縦5cm×横0.5cm×厚み0.16cm
試験長 :1cm
試験モード :引張モード
周波数 :10rad/s(1.6Hz)
測定温度 :40℃
昇温速度 :5℃/min
歪範囲 :0.10%
初荷重 :148g
測定間隔 :2point/℃
【0033】
研磨層の平均開孔径は、研磨層をスライスすることにより得られた切断面に形成された開孔を用いて算出した。
研磨層の切断面に対し、レーザーマイクロスコープ(VK-X1000、KEYENCE製)を用いて研磨層表面の約0.6mm四方の範囲(溝の部分を除く)を400倍に拡大して観察し、得られた画像を画像処理ソフト(WinRooF2018 Ver4.0.2、三谷商事製)により二値化処理し、切断面に形成された開孔を確認した。その後、各開孔の面積から各開孔の円相当径を算出し、その平均値(平均開孔径)を上記平均開孔径として算出した。
【0034】
実施例1
実施例1にかかる研磨パッドにおいて、貯蔵弾性率E’は274.2MPa、損失弾性率E”は32.7MPaであり、式1にかかる損失正接tanδは0.1191であった。
研磨面1Aに形成した排出溝1Cは、溝ピッチ角度15°、溝幅1.5mm、溝本数24本(以下、半径方向において)とし、これにより、排出溝1Cの面積Srは13320mm2となった。
一方、保持溝1Bは、溝ピッチ1.7mm、溝幅0.4mm、溝本数209本とし、これにより保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは97843mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは7.3となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.1720となった。
また、研磨面Aにおける平均開孔径は12.6μmであった。
【0035】
実施例2
実施例2にかかる研磨パッドの研磨層は、実施例1にかかる研磨パッドと同じものを使用し、このため式1にかかる損失正接tanδは0.1191であった。
研磨面1Aに形成した排出溝1Cは、溝ピッチ角度11.25°、溝幅1.0mm、溝本数32本とし、これにより、排出溝1Cの面積Srは11840mm2となった。
一方、保持溝1Bは実施例1の保持溝1Bと同じ構成となっており、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは98177mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは8.3となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.1788となった。
【0036】
実施例3
実施例3にかかる研磨パッドの研磨層は、実施例1にかかる研磨パッドと同じものを使用し、このため式1にかかる損失正接tanδは0.1191であった。
研磨面1Aに形成した排出溝1Cは、溝ピッチ角度22.5°、溝幅1.5mm、溝本数16本とし、これにより、排出溝1Cの面積Srは8880mm2となった。
一方、保持溝1Bは実施例1の保持溝1Bと同じ構成となっており、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは98846mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは11.1となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.1933となった。
ここで、実施例1~3については、同じ研磨層を有する研磨パッドにおいて、排出溝1Cの構成を異ならせたものとなっている。
【0037】
実施例4
実施例4にかかる研磨パッドの研磨層は、上記実施例1~3と9~10および比較例1~2と異なる研磨層を用いた。具体的には、より分子量が低い(分子量800)ポリ(1,4-アジピン酸ブチレン)を反応させてなるNCO当量420のウレタンプレポリマーを用いて研磨層を作製した。
実施例4にかかる研磨パッドにおいて、貯蔵弾性率E’は361.5MPa、損失弾性率E”は33.8MPaであり、式1にかかる損失正接tanδは0.0935であった。
研磨面1Aに形成した保持溝1Bおよび排出溝1Cは上記実施例3と同じ構成となっており、排出溝1Cの面積Srは8880mm2、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは98846mm2となった。
そして上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは11.1であり、式2にかかる値は0.1736であった。
また、研磨面Aにおける平均開孔径は13.4μmであった。
【0038】
実施例5
実施例5にかかる研磨パッドの研磨層は、上記実施例1~3と9~10および比較例1~2と異なる研磨層を用いた。具体的には、ウレタンプレポリマー混合液にポリ(1,4-アジピン酸ブチレン)を混合せず、また粒径の大きい中空体を用いて研磨層を作製した。
実施例5にかかる研磨パッドにおいて、貯蔵弾性率E’は322.0MPa、損失弾性率E”は29.9MPaであり、式1にかかる損失正接tanδは0.0928であった。
研磨面1Aに形成した保持溝1Bおよび排出溝1Cは上記実施例3と同じ構成となっており、排出溝1Cの面積Srは8880mm2、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは98846mm2となった。
そして上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは11.1であり、式2にかかる値は0.1730であった。
また、研磨面Aにおける平均開孔径は15.0μmであった。
【0039】
実施例6
実施例6にかかる研磨パッドの研磨層は、上記実施例1~3と9~10および比較例1~2と異なる研磨層を用いた。具体的には、より分子量の低い(分子量800)ポリ(1,4-アジピン酸ブチレン)を反応させてなるNCO当量420のウレタンプレポリマーを用い、また粒径の大きい中空体を用いて研磨層を作製した。
実施例6にかかる研磨パッドにおいて、貯蔵弾性率E’は370.9MPa、損失弾性率E”は32.8MPaであり、式1にかかる損失正接tanδは0.0884であった。
研磨面1Aに形成した保持溝1Bおよび排出溝1Cは上記実施例3と同じ構成となっており、排出溝1Cの面積Srは8880mm2、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは98846mm2となった。
そして上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは11.1であり、式2にかかる値は0.1685であった。
また、研磨面Aにおける平均開孔径は14.9μmであった。
【0040】
実施例7
実施例7にかかる研磨パッドの研磨層は、上記実施例1~3と9~10および比較例1~2と異なる研磨層を用いた。具体的には、ポリ(1,4-アジピン酸ブチレン)を混合せず、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)及びジエチレングリコール(DEG)を反応させてなるウレタンプレポリマーを用い、また粒径の大きい中空体を用い、さらに密度が低い研磨層を作製した。
実施例7にかかる研磨パッドにおいて、貯蔵弾性率E’は249.2MPa、損失弾性率E”は21.5MPaであり、式1にかかる損失正接tanδは0.0862であった。
研磨面1Aに形成した保持溝1Bおよび排出溝1Cは上記実施例3と同じ構成となっており、排出溝1Cの面積Srは8880mm2、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは98846mm2となった。
そして上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは11.1であり、式2にかかる値は0.1664であった。
また、研磨面Aにおける平均開孔径は14.6μmであった。
【0041】
実施例8
実施例8にかかる研磨パッドの研磨層は、上記実施例1~3と9~10および比較例1~2と異なる研磨層を用いた。具体的には、より分子量が低い(分子量800)ポリ(1,4-アジピン酸ブチレン)を反応させてなるNCO当量420のウレタンプレポリマーを用い、また粒径が大きく組成の異なる中空体を用いて研磨層を作製した。
実施例8にかかる研磨パッドにおいて、貯蔵弾性率E’は577.7MPa、損失弾性率E”は46.9MPaであり、式1にかかる損失正接tanδは0.0812であった。
研磨面1Aに形成した保持溝1Bおよび排出溝1Cは上記実施例3と同じ構成となっており、排出溝1Cの面積Srは8880mm2、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは98846mm2となった。
そして上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは11.1であり、式2にかかる値は0.1613であった。
また、研磨面Aにおける平均開孔径は13.6μmであった。
ここで、実施例3~8については、研磨面1Aに同じ構成の排出溝1Cおよび保持溝1Bを形成した研磨パッドにおいて、研磨層の損失正接tanδを異ならせたものとなっている。
【0042】
実施例9
実施例9にかかる研磨パッドの研磨層は、実施例1にかかる研磨パッドと同じものを使用し、このため式1にかかる損失正接tanδは0.1191であった。
研磨面1Aに形成した排出溝1Cは、溝ピッチ角度15°、溝幅1.0mm、溝本数24本とし、これにより、排出溝1Cの面積Srは8880mm2となった。
一方、保持溝1Bは実施例1の保持溝1Bと同じ構成となっており、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは98846mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは11.1となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.1993となった。
ここで、実施例9は実施例1に対して排出溝1Cの溝幅を異ならせたものとなっており、その結果、排出溝1Cの面積Srが実施例3と同じになったものである。そのうえで、実施例9および実施例3には同じ研磨層を用いていることから、式1および式2が同じ値を示したものとなっている。
【0043】
実施例10
実施例10にかかる研磨パッドの研磨層は、実施例1にかかる研磨パッドと同じものを使用し、このため式1にかかる損失正接tanδは0.1191であった。
研磨面1Aに形成した排出溝1Cは、溝ピッチ角度22.5°、溝幅1.0mm、溝本数16本とし、これにより、排出溝1Cの面積Srは5920mm2となった。
一方、保持溝1Bは実施例1の保持溝1Bと同じ構成となっており、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは99515mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは16.8となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.2402となった。
ここで、実施例10は実施例3に対して排出溝1Cの溝幅を異ならせたものとなっている。
【0044】
実施例11
実施例11にかかる研磨パッドの研磨層は、上記実施例1~3と9~10および比較例1~2と異なる研磨層を用いた。具体的には、より分子量が低い(分子量800)ポリ(1,4-アジピン酸ブチレン)を反応させてなるNCO当量400のウレタンプレポリマーを用いて研磨層を作製した。
実施例11にかかる研磨パッドにおいて、貯蔵弾性率E’は468.7MPa、損失弾性率E”は35.4MPaであり、式1にかかる損失正接tanδは0.0755であった。
研磨面1Aに形成した排出溝1Cは、溝ピッチ角度30°、溝幅1.0mm、溝本数12本とし、これにより、排出溝1Cの面積Srは4440mm2となった。
一方、保持溝1Bは実施例1の保持溝1Bと同じ構成となっており、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは99849mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは22.5となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.2374となった。
また、研磨面Aにおける平均開孔径は14.8μmであった。
【0045】
実施例12
実施例12にかかる研磨パッドの研磨層は、上記実施例1~3と9~10および比較例1~2と異なる研磨層を用いた。具体的には、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)の代わりにポリプロピレングリコール(PPG)およびポリエーテルポリカーボネートジオール(PEPCD)を用い、NCO当量420のウレタンプレポリマーを用いて研磨層を作製した。
実施例12にかかる研磨パッドにおいて、貯蔵弾性率E’は247.6MPa、損失弾性率E”は22.5MPaであり、式1にかかる損失正接tanδは0.0908であった。
研磨面1Aに形成した排出溝1Cは、溝ピッチ角度22.5°、溝幅1.5mm、溝本数16本とし、これにより、排出溝1Cの面積Srは8880mm2となった。
一方、保持溝1Bは実施例1の保持溝1Bと同じ構成となっており、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは99849mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは11.1となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.1709となった。
また、研磨面Aにおける平均開孔径は14.0μmであった。
【0046】
実施例13
実施例13にかかる研磨パッドの研磨層は、上記実施例1~3と9~10および比較例1~2と異なる研磨層を用いた。具体的には、樹脂としては同一のものを用い、添加する中空体を3.3部として研磨層を作製した。
実施例13にかかる研磨パッドにおいて、貯蔵弾性率E’は221.9MPa、損失弾性率E”は22.5MPaであり、式1にかかる損失正接tanδは0.1016であった。
研磨面1Aに形成した排出溝1Cは、溝ピッチ角度22.5°、溝幅1.5mm、溝本数16本とし、これにより、排出溝1Cの面積Srは8880mm2となった。
一方、保持溝1Bは実施例1の保持溝1Bと同じ構成となっており、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは99849mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは11.1となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.1818となった。
また、研磨面Aにおける平均開孔径は13.2μmであった。
【0047】
比較例1
比較例1にかかる研磨パッドの研磨層は、実施例1にかかる研磨パッドと同じものを使用し、このため式1にかかる損失正接tanδは0.1191であった。
研磨面1Aに形成した排出溝1Cは、溝ピッチ角度20°、溝幅2.0mm、溝本数18本とし、これにより、排出溝1Cの面積Srは13320mm2となった。
一方、保持溝1Bは、溝ピッチ2.82mm、溝幅0.4mm、溝本数126本とし、これにより保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは58813mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは4.4となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.1509となった。
【0048】
比較例2
比較例2にかかる研磨パッドの研磨層は、実施例1にかかる研磨パッドと同じものを使用し、このため式1にかかる損失正接tanδは0.1191であった。
研磨面1Aに形成した排出溝1Cは、溝ピッチ角度22.5°、溝幅2.0mm、溝本数16本とし、これにより、排出溝1Cの面積Srは11840mm2となった。
一方、保持溝1Bは比較例1の保持溝1Bと同じ構成となっており、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは59014mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは5.0となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.1550となった。
【0049】
比較例3
比較例3にかかる研磨パッドの研磨層は、実施例11にかかる研磨パッドと同じものを使用し、このため式1にかかる損失正接tanδは0.0755であった。
研磨面1Aに形成した保持溝1Bおよび排出溝1Cは上記実施例3と同じ構成となっており、排出溝1Cの面積Srは8880mm2、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは98846mm2となった。
以上のことから、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは11.1となり、式2にかかる値は0.1557であった。
ここで比較例3は、実施例3に対して異なる研磨層を用いたものとなっている。
【0050】
比較例4
比較例4にかかる研磨パッドの研磨層は、上記実施例1~3と9~10および比較例1~2と異なる研磨層を用いた。具体的には、ウレタンプレポリマー混合液にポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)およびポリ(1,4-アジピン酸ブチレン)ではなく、ポリプロピレングリコール(PPG)を用い、また粒径の大きい中空体を用いて研磨層を作製した。
比較例4にかかる研磨パッドにおいて、式1にかかる損失正接tanδは0.1747であった。
研磨面1Aに形成した保持溝1Bおよび排出溝1Cは上記実施例10と同じ構成となっており、排出溝1Cの面積Srは5920mm2、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは99515mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは16.8となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.2957となった。
また、研磨面Aにおける平均開孔径は15.1μmであった。
ここで比較例4は、実施例10に対して異なる研磨層を用いたものとなっている。
【0051】
比較例5
比較例5にかかる研磨パッドの研磨層は、上記実施例1~3と9~10および比較例1~2と異なる研磨層を用いた。具体的には、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)の混合比を増加し、低分子量化したポリ(1,4-アジピン酸ブチレン)の混合比を減少して反応させてなる、NCO当量400のウレタンプレポリマーを用いて研磨層を作製した。
比較例5にかかる研磨パッドにおいて、貯蔵弾性率E’は446.1MPa、損失弾性率E”は32.1MPaであり、式1にかかる損失正接tanδは0.0720であった。
研磨面1Aに形成した保持溝1Bおよび排出溝1Cは上記実施例11と同じ構成となっており、排出溝1Cの面積Srは4440mm2、保持溝1Bの面積から上記排出溝1Cとの交差部分の面積を除いた保持溝1Bの面積Scは99849mm2となった。
これにより、上記式2における保持溝1Bの面積Scと排出溝1Cの面積Srとの面積比Sc/Srは22.5となり、上記損失正接tanδを加味した式2にかかる値は0.2339となった。
また、研磨面Aにおける平均開孔径は14.7μmであった。
ここで比較例5は、実施例11に対して異なる研磨層を用いたものとなっている。
【0052】
そして
図3に示す通り、上記実施例1~11および比較例1~5のそれぞれの研磨パッドについて、研磨特性(研磨レートおよびディフェクト性能(スクラッチおよび付着物))について下記研磨条件で評価を行った。
(研磨条件)
使用研磨機:F-REX300X(荏原製作所社製)
Disk:KINIK 34R
研磨剤温度:20℃
研磨定盤回転数:90rpm
研磨ヘッド回転数:81rpm
研磨圧力:1.7psi
研磨スラリー(正に帯電):CES-5003-2.5(CES-5003-2.5原液:純水=重量比1:3の混合液を使用)(AGC株式会社製)
研磨スラリー流量:250ml/min
研磨時間:60秒
被研磨物:TEOS膜基板
パツドブレーク:32N 30分
コンディショニング:Ex-situ、32N、4スキャン
【0053】
(研磨レート)
研磨された被研磨物3について、研磨前後の121か所の厚さの測定結果から平均値を求めて、その平均値から各店において測定された厚さを研磨時間で割ることにより研磨レート(Å/分)を求めた。なお、厚さ測定は光学式膜厚膜質測定器(KLAテンコール社製、ASET-F5x)のDBSモードを用いて行った。各研磨パッドの研磨レートの測定結果を
図4にまとめた。
(ディフェクト)
研磨された被研磨物3について、表面検査装置(KLAテンコール社製、Surfscan SP5)の高感度測定モードを用いて、60nm以上のディフェクト(表面欠陥)を検出した。検出された各ディフェクトについて、レビューSEMを用いて撮影したSEM画像の解析を行い、表面の傷を表す「スクラッチ(Scratch)」の個数、および表面の付着物を表す「パーティクル(Particles)」「パッド屑(Pad Debris)」「有機残渣(Organic Residue)」の合計個数を、それぞれ計測し平均化した。各研磨パッドのディフェクトの測定結果を
図4にまとめた。スクラッチ(傷)が平均4個未満、かつ付着物の合計が平均50個未満であった場合には評価をマルとし、スクラッチ(傷)が平均4個以上、又は付着物の合計が平均50個以上認められた場合には評価をバツとした。
測定の結果、
図4に示すように実施例1~13については、いずれも900Å/分以上の高い研磨レートであり、被研磨物3に平均4個以上のスクラッチ(傷)、および付着物の合計が平均50個以上は検出されず良好なディフェクト性能であった。一方、比較例3~5では、平均4個以上のスクラッチ(傷)、又は付着物の合計が平均50個以上検出され、実施例と比較してディフェクト性能に劣るものであった。また、比較例1、2および4では研磨レートが不十分なものであった。
【0054】
なお、上記実施形態においては、保持溝1Bとして同心円状のものを採用したが、らせん状の保持溝1Bとしても同様の効果が得られるものと思われる。またらせん状の保持溝1Bとした場合、外周側の端部は研磨パッド1の外周部に貫通しないように形成する必要がある。
【符号の説明】
【0055】
1 研磨パッド 1A 研磨面
1B 保持溝 1C 排出溝