(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139775
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20241002BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20241002BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C02F1/28 D
B01D61/14 500
B01D65/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024050730
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023049457
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】大山 将
(72)【発明者】
【氏名】中島 卓夫
(72)【発明者】
【氏名】松生 隆司
(72)【発明者】
【氏名】平尾 壽啓
【テーマコード(参考)】
4D006
4D624
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA07
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(57)【要約】
【課題】吸着剤として粉末活性炭を利用する物理化学的手法を用いて、環境水等に含まれるPFAS類等の難分解性の有機フッ素化合物を吸着処理する方法を提供すること。
【解決手段】処理対象水と粉末活性炭を、一次反応槽に供給し、処理対象水に含まれる有機フッ素化合物を粉末活性炭に吸着させ、有機フッ素化合物を吸着した粉末活性炭を含む処理水を一次濾過装置で濾過し、有機フッ素化合物を吸着した粉末活性炭を、一次濾過装置を洗浄する際に発生する一次濃縮水として回収する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象水に含まれる有機フッ素化合物を粉末活性炭に吸着させて回収する有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法であって、前記処理対象水と粉末活性炭を、一次反応槽に供給し、処理対象水に含まれる有機フッ素化合物を粉末活性炭に吸着させ、有機フッ素化合物を吸着した粉末活性炭を含む処理水を一次濾過装置で濾過し、有機フッ素化合物を吸着した粉末活性炭を、一次濾過装置を洗浄する際に発生する一次濃縮水として回収することを特徴とする有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法。
【請求項2】
前記一次濾過装置で濾過した一次処理水と粉末活性炭を、二次反応槽に供給し、一次処理水に含まれる有機フッ素化合物を粉末活性炭に吸着させ、有機フッ素化合物を吸着した粉末活性炭を含む一次処理水を二次濾過装置で濾過し、有機フッ素化合物を吸着した粉末活性炭を、二次濾過装置を洗浄する際に発生する二次濃縮水として回収し、該二次濃縮水を一次反応槽に供給することを特徴とする請求項1に記載の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法。
【請求項3】
前記二次反応槽に未吸着の粉末活性炭を供給し、一次反応槽に供給される粉末活性炭が、二次濾過装置を洗浄する際に発生する二次濃縮水に含まれる粉末活性炭のみからなることを特徴とする請求項2に記載の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法。
【請求項4】
前記一次反応槽及び/又は二次反応槽に、処理対象水及び/又は一次処理水を酸性に維持するための酸を供給することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法。
【請求項5】
前記処理対象水に含まれる炭素数が6以下の有機フッ素化合物の濃度が所定値以上の場合に、酸を供給することを特徴とする請求項4に記載の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法。
【請求項6】
前記処理対象水が、強酸性であり、該処理対象水のpH値を未調整の状態で一次反応槽に供給することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法。
【請求項7】
前記処理対象水のpH値が、1以下であることを特徴とする請求項6に記載の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法。
【請求項8】
前記処理対象水に、多価カチオン元素を含有する処理剤を添加するようにしたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法。
【請求項9】
前記処理対象水に、高分子凝集剤を添加するようにしたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難分解性の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機フッ素化合物であるペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物(本明細書において、「PFAS類」という場合がある。)による環境水等の汚染に注目が集まっている。特に、ペルフルオロオクタンスルホン酸(本明細書において、「PFOS」という場合がある。)及びペルフルオロオクタン酸(本明細書において、「PFOA」という場合がある。)は、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の付属書B及び付属書Aへの掲載を踏まえ、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」において第一種特定化学物質に指定されており、原則として、製造、輸入、使用が禁止されている。また、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(本明細書において、「PFHxS」という場合がある。)についても、2022年6月にPOPs条約の付属書Aへの追加掲載が決定され、2024年2月に第一種特定化学物質に指定された。
【0003】
しかしながら、これらPFAS類は、撥水性及び撥油性という特性を持ち、また、化学的及び熱安定性等に優れているため、撥水剤、コーティング剤、泡消火剤等に長年広く使用されてきたこともあり、環境省の調査でも、PFOS/PFOA及びPFHxSが河川水や地下水等から幅広く検出されている。そして、2020年には、水道水質基準の水質管理目標設定項目及び水質環境基準の要監視項目にPFOS/PFOAがそれぞれ追加され、目標値及び指針値(暫定)として50ng/L(PFOS及びPFOAの合算値)が設定された。また、PFHxSについても、2021年3月に水質環境基準の要調査項目、2021年4月に水道水質基準の要検討項目にそれぞれ追加された。
【0004】
PFOS/PFOA及びPFHxSは化学的に極めて安定性が高く、水溶性かつ不揮発性の物質であるため、環境中に放出された場合には水系に移行しやすく、難分解性のため長期的に環境に残留すると考えられている。
そして、PFOS/PFOA及びPFHxSが河川水や地下水等から幅広く検出されている状況から、河川水、湖沼水、地下水等の環境水(本明細書において、「環境水」という場合がある。)中に含まれるPFAS類を低コストで分解処理する手法の開発が要請されているが、有効な手法はないのが実情であった。
【0005】
具体的には、有機化合物の分解処理に促進酸化法が広く用いられているが、促進酸化法は、PFOS/PFOAのOHラジカルとの反応性が極めて低いことから、PFOS/PFOAの分解処理には適用できないとされており、実際に、PFOSを2~6ng/L、PFOAを40~58ng/L含有する地下水を用いて、促進酸化法(O3+H2O2、O3+UV)を試みたが、PFOS/PFOAの有意な分解処理効果を確認できなかった。
【0006】
一方、促進酸化法以外の有機化合物の分解処理の手法として、吸着剤として活性炭を利用する物理化学的手法が提案されている(例えば、特許文献1~2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-146326号公報
【特許文献2】特開2010-22961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、吸着剤として粉末活性炭を利用する物理化学的手法を用いて、環境水等に含まれるPFAS類等の難分解性の有機フッ素化合物を吸着処理する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法は、処理対象水に含まれる有機フッ素化合物を粉末活性炭に吸着させて回収する有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法であって、前記処理対象水と粉末活性炭を、一次反応槽に供給し、処理対象水に含まれる有機フッ素化合物を粉末活性炭に吸着させ、有機フッ素化合物を吸着した粉末活性炭を含む処理水を一次濾過装置で濾過し、有機フッ素化合物を吸着した粉末活性炭を、一次濾過装置を洗浄する際に発生する一次濃縮水として回収することを特徴とする。
【0010】
この場合において、前記一次濾過装置で濾過した一次処理水と粉末活性炭を、二次反応槽に供給し、一次処理水に含まれる有機フッ素化合物を粉末活性炭に吸着させ、有機フッ素化合物を吸着した粉末活性炭を含む一次処理水を二次濾過装置で濾過し、有機フッ素化合物を吸着した粉末活性炭を、二次濾過装置を洗浄する際に発生する二次濃縮水として回収し、該二次濃縮水を一次反応槽に供給すること(2段処理フローとすること)ができる。
ここで、処理対象水に含まれる有機フッ素化合物の濃度に応じて、2段処理フローに続けて、同様の処理フローを追加すること(3段又はそれ以上の多段処理フローとすること)ができる。
この場合、前記二次反応槽に未吸着の粉末活性炭を供給し、一次反応槽に供給される粉末活性炭が、二次濾過装置を洗浄する際に発生する二次濃縮水に含まれる粉末活性炭のみからなるようにすることができる。
【0011】
また、前記一次反応槽及び/又は二次反応槽に、処理対象水及び/又は一次処理水を酸性に維持するための酸を供給することができる。
この場合、前記処理対象水に含まれる炭素数が6以下の有機フッ素化合物の濃度が所定値以上の場合に、酸を供給することができる。
【0012】
また、前記処理対象水が、強酸性であり、該処理対象水のpH値を未調整の状態で一次反応槽に供給することができる。
この場合、前記処理対象水のpH値が、1以下であることができる。
【0013】
また、前記処理対象水に、多価カチオン元素を含有する処理剤を添加するようにすることができる。
【0014】
また、前記処理対象水に、高分子凝集剤を添加するようにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法によれば、吸着剤として粉末活性炭を利用する物理化学的手法を用いて、環境水等に含まれるPFAS類等の難分解性の有機フッ素化合物を粉末活性炭に吸着させて回収することができる。
【0016】
また、2段処理フロー(3段又はそれ以上の多段処理フロー)とすることにより、環境水等に含まれるPFAS類等の難分解性の有機フッ素化合物を粉末活性炭に確実に吸着させて回収することができる。
そして、二次反応槽に未吸着の粉末活性炭を供給し、一次反応槽に供給される粉末活性炭が、二次濾過装置を洗浄する際に発生する二次濃縮水に含まれる粉末活性炭のみからなるようにすることにより、粉末活性炭の使用量を適正化することができる。
【0017】
また、処理対象水及び/又は一次処理水を酸性に維持するための酸を供給することにより、環境水等に含まれるPFAS類等の難分解性の有機フッ素化合物、特に、炭素数が6以下の有機フッ素化合物を粉末活性炭に確実に吸着させて回収することができる。
そして、処理対象水に含まれる炭素数が6以下の有機フッ素化合物の濃度が所定値以上の場合に、酸を供給するようにすることにより、酸の使用量を適正化し、処理水(濾過水)の後処理(中和処理)の負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】有機フッ素化合物含有水の処理フロー(1段処理フロー)の一例を示す説明図である。
【
図2】有機フッ素化合物含有水の処理フロー(2段処理フロー)の一例を示す説明図である。
【
図3】室内吸着処理試験のフロー図(バッチ試験)である。
【
図4】平衡濃度と吸着量との関係(左図:PFOS・PFHxS、右図:PFOA、PFHxA)を示すグラフである。
【
図5】試料水Bを用いた吸着処理試験結果(その1)を示すグラフである。
【
図6】試料水Bを用いた吸着処理試験結果(その2)を示すグラフである。
【
図7】試料水Cを用いた吸着処理試験結果を示すグラフである。
【
図8】試料水Dを用いた吸着処理試験結果を示すグラフである。
【
図9】平衡濃度と吸着量との関係(左図:PFOA、PFHxA、右図:PFOS・PFHxS)を示すグラフである。
【
図10】試料水B(pH未調整)を用いた吸着処理試験結果を示すグラフである。
【
図11】試料水B(pHを酸性側に調整)を用いた吸着処理試験結果を示すグラフである。
【
図12】試料水C(pH未調整)を用いた吸着処理試験結果を示すグラフである。
【
図13】試料水C(pHを酸性側に調整)を用いた吸着処理試験結果を示すグラフである。
【
図14】強酸性の処理対象水を用いた吸着処理試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に、有機フッ素化合物含有水の処理フロー(1段処理フロー)の一例を示す。
この処理フローは、PFOS/PFOA及びPFHxS等のPFAS類(その代表的な例を表1に示す。)を含有する環境水等の有機フッ素化合物含有水(処理対象水)を処理するためのもので、処理対象水は、原水槽、反応槽(1)(一次反応槽)、中継槽(1)、精密濾過(1)(一次濾過装置)を経て、処理水(濾過水)として処理される。
【0021】
【0022】
ここで、反応槽(1)には、吸収剤として、粉末活性炭溶解槽から水に溶解(分散)させた粉末活性炭を供給するようにして、粉末活性炭にPFOS/PFOA等の有機化合物を吸着させるようにする。なお、粉末活性炭は、スラリー状として供給するほか、粉体(湿潤炭又は乾燥炭)のまま反応槽(1)に供給することもできる。
また、反応槽(1)には、吸収剤としての粉末活性炭のほか、反応槽(1)内のpHを調整するため、希硫酸等の酸を添加するようにしている。
また、精密濾過(1)(後述の精密濾過(2)も同じ。)は、0.01~10μmの孔径の分離膜を用いて、液中の微粒子を分離するもので、通常のケーク濾過と限外濾過の中間に位置するものである。精密濾過で使用される分離膜はメンブレンフイルタと呼ばれ、セルロース系、フッ素樹脂(親水性PTFE)等の合成高分子系、無機系等の材質を使用することができる。なお、一次濾過装置(後述の二次濾過装置も同じ。)の濾過方式には、精密濾過のほか、凝集沈澱処理を併用した砂濾過や、ナノ濾過、RO膜濾過等を採用することもできる。
【0023】
PFOS/PFOA等の有機化合物を吸着した活性炭は、精密濾過(1)において分離され、洗浄水(濃縮水)(一次濃縮水)として沈降槽に送られ、濃縮されたスラリー状の混合物の状態で、中継槽(3)を介して、分解炉に供給される。
ここで、精密濾過(1)におけるPFOS/PFOA等の有機化合物を吸着した活性炭の分離は、適用する濾過装置に応じて、濾過装置の洗浄方法として汎用されている方法、例えば、液体や気体を用いた逆流洗浄(逆洗)方法、表面洗浄方法等を用いることができる(以下の精密濾過(2)においても同じ。)。
【0024】
分解炉に供給されたPFAS類等の有機化合物を吸着した活性炭は、分解炉において、焼却するとともに、活性炭に吸着したPFAS類等の有機化合物は熱分解され、無機フッ素を含む排ガスとして排出される。
【0025】
分解炉から排出された排ガスは、適宜スクラバー等の処理設備を介することで、除塵、ガス吸収・吸着等の適切な処理により無害化された後、大気中に放出される。
【0026】
ここで、PFOS/PFOA等の有機化合物を吸着した活性炭の処理方法としては、適切な設備を備えた産業廃棄物処理施設に持ち込んでそこで処理することもできる。
【0027】
図1に示す有機フッ素化合物含有水の処理フローは、1段処理フローの例を説明したが、
図2に示す有機フッ素化合物含有水の処理フロー(2段処理フロー)のように、精密濾過(1)を経た処理水(一次濾過水)を、さらに、反応槽(2)(二次反応槽)、中継槽(2)、精密濾過(2)(二次濾過装置)を経て、処理水(濾過水)として処理するようにすることができる。
【0028】
ここで、反応槽(2)には、本実施例においては、吸収剤としての粉末活性炭溶解槽から水に溶解(分散)させた粉末活性炭を供給するようにして、粉末活性炭にPFOS/PFOA等の有機化合物を吸着させるようにしている。なお、粉末活性炭を粉体(湿潤炭又は乾燥炭)のまま反応槽(2)に供給することもできる。
また、反応槽(2)には、吸収剤としての粉末活性炭のほか、反応槽(2)内のpHを調整するため、希硫酸等の酸を添加するようにしている。
【0029】
PFOS/PFOA等の有機化合物を吸着した活性炭は、精密濾過(2)において分離され、洗浄水(濃縮水)(二次濃縮水)として反応槽(1)に送られるようにする。このため、本実施例においては、反応槽(1)には、
図1に示す、有機フッ素化合物含有水の処理フロー(1段処理フロー)のように、吸収剤としての粉末活性炭溶解槽から水に溶解(分散)させた粉末活性炭は供給していないが、必要に応じて、反応槽(1)にも、吸収剤としての粉末活性炭のほか、反応槽(1)内のpHを調整する希硫酸等の酸を添加するようにすることもできる。
【0030】
図2に示す有機フッ素化合物含有水の処理フロー(2段処理フロー)のその他の工程は、
図1に示す有機フッ素化合物含有水の処理フロー(1段処理フロー)と同様である。
ここで、処理対象水に含まれる有機フッ素化合物の濃度に応じて(濃度が高い場合)、2段処理フローに続けて、同様の処理フローを追加すること(3段又はそれ以上の多段処理フローとすること)ができる。
【0031】
次に、上記有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法について、PFOS/PFOA等のPFAS類を含む実際の河川水、地下水を用いて実施した粉末活性炭を用いた吸着処理の実証実験を行った内容について説明する。
【0032】
[実証実験(1)]
1.実験方法
1.1 粉末活性炭
実験には、浄水・排水処理、有機物除去等の用途に汎用されている比較的安価で取り扱いが容易な、木質(活性炭A)、ヤシ/木質(活性炭B)、石炭(活性炭C)の3種類の湿潤状態の粉末活性炭を用いた。
粉末活性炭は、湿潤状態のため、水分量を実測し、粉末活性炭の固形分質量を算出した。
【0033】
1.2 試料水の性状及び分析方法
試料水として、PFOS/PFOA等のPFAS類を含む実際の河川水(試料水B、試料水C)、地下水(試料水D)を使用した。試料水のpH、TOC、鉄・マンガン濃度、主なPFAS類としてPFOS(C8)、PFHxS(C6)、PFOA(C8)、PF
HxA(C6)の濃度を表2に示す。試料水B、試料水Cは、試料採取日が異なる複数の試料を使用しており、同一試料でも測定時期が異なる場合もあることから、濃度の範囲を示している。
試料水や処理水中のPFOS/PFOA等の分析は、環境省の通知「水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の施行等について」(環水大水発第2005281号・環水大土発第2005282号、令和2年5月28日)の付表1及びJIS K 0450-70-10に示された方法に従い固相抽出-LC/MS/MS法で行った。混合標準液を用いてPFOS類(PFCAs:ペルフルオロカルボン酸類)はC4~C10(PFBS~PFDS、ただしC9:PFNSを除く。またC5:PFPeSはC6:PFHxS標準を用いた半定量)、PFOA類(PFSAs:ペルフルオロスルホン酸類)はC4~C14(PFBA~PFTeDA)の同族体を直鎖体のみ及び直鎖体+分岐異性体で定量しており、ここでは直鎖体のみの結果を示している。pHはJIS K 0102-12.1、TOCはJIS K 0102-22.1、鉄はJIS K 0102-57.4、マンガンはJIS K 0102-56.4に従って測定した。
試料水Bは河川水でPFCAsを主体として含んでおり、PFOAが3,600~6,700ng/L、PFHxAが12,000~22,000ng/Lと高濃度で、他にC4~C12の同族体を含んでいた。また、PFSAsも低濃度であるがPFOS、PFHxS、PFBS(C4)が含まれていた。
試料水Cは試料水Bとは異なる河川水で、PFOSが140~500ng/L、PFHxSが670~2,200ng/L、PFOAが140~300ng/L、PFHxAが350~670ng/L含まれていた。他にPFSAsはC4~C7、PFCAsはC4~C11の同族体を含んでいた。鉄、マンガン濃度が他の試料と比較して高い値であった。
試料水Dは地下水試料で地理的条件からPFSAsを主体として含んでいると想定されていた(直前の地下水の調査ではPFOSを1,100ng/L検出。)。実際に採取した試料水の濃度はPFOSが270ng/L、PFHxSが390ng/Lであったことから、採水時に5倍程度の希釈効果が働いたものと推測される。またPFOAが19ng/L、PFHxAが66ng/L含まれており、PFCAs、PFSAsは他にC4~C7の同族体を含んでいた。
【0034】
【0035】
1.3 粉末活性炭のPFAS類吸着量比較実験
試料水B及び試料水Cを用いて、粉末活性炭A~CのPFAS類吸着量の把握を行った
。容量2LのPP製ディスポーザルカップに試料水2Lを測り取り、粉末活性炭A~Cを添加量100mg-dry/L程度を基本として、25mg-dry/L~最大540mg-dry/Lの範囲で数水準変化させて試料水に添加し、撹拌機を用いて室温で1時間撹拌した。撹拌中にpH調整は行わなかった。撹拌終了後に速やかに5C濾紙で濾過して濾水を得た。試料水及び濾水中のPFAS類濃度を差し引いた値から、粉末活性炭への吸着量を算出した。
【0036】
1.4 粉末活性炭を用いたPFAS類を含む環境水の室内吸着処理試験
実処理で想定している吸着処理フロー(
図1~
図2)を勘案し、
図3に示すフローで、試料水Bを用いて50L規模の室内吸着処理試験をバッチ試験で実施した。
図2で示した連続処理フローは、安定した処理を確保するため2段処理をイメージしているが、PFAS類濃度等によっては
図2で示した1段処理のみでの処理も想定している。
図3に示す試験フローにおいて、処理水(1)は1段処理での処理水を想定して処理効果を確認するものである。
室内吸着処理試験では、処理水槽に70LのPE製ポリペールを使用した。試料水B~C(原水(1)、(2)、・・・)及び処理水(2)に所定量の粉末活性炭(活性炭A)又は精密濾過装置の洗浄水(濃縮水)を添加し、ミニ水中ポンプ(吐出量25L/min)2台を使用して1時間撹拌することで吸着処理とした。精密濾過にはフィルタ精度0.15μm×99.95%の親水性PTFEプリーツ型フィルタ式濾過装置(流機エンジニアリング社製、ECOクリーン1N、6L/min)を使用した。精密濾過により濾過した濾水を「処理水」とした。プリーツフィルタで捕捉した粉末活性炭を処理水で洗浄した「洗浄水(濃縮水)」は原水へ添加又は最終残渣として回収・保管した。実験は20℃前後の室温で行い、pHを調整するケースでは、工業用希硫酸(62.5%)を用いて適宜pH調整を行った。
【0037】
2.実験結果及び考察
2.1 粉末活性炭へのPFAS類吸着量の比較
試料水B及び試料水Cを用いて、粉末活性炭A~CのPFAS類吸着量の把握を行った。その結果を
図4に示す。原水で検出されたPFAS類は全て分析しており、それぞれの吸着量を算出しているが、主なPFAS類としてPFOS(C8)、PFHxS(C6)及びPFOA(C8)、PFHxA(C6)の結果を示している。なお、吸着処理中にpH調整は行っておらず、また、粉末活性炭はアルカリ性であることから、濾水のpHは原水と比較して0.2~0.7ポイント上昇した。
試料水CにはPFSAs、PFCAの両方とも同程度の濃度で含まれていたが、
図4の結果からは、同様の平衡濃度であれば、PFOS、PFHxS(PFSAs)の方がPFOA、PFHxA(PFCAs)よりも吸着量が多い結果となった。
試料水BはPFOA、PFHxA(PFCAs)が主体で高濃度に含まれていたが、試料水Cと比較して、同様の平衡濃度であれば、試料水Bの方が活性炭へのPFCAs吸着量が多い結果となった。
PFSAs、PFCAsのいずれも、一般的な活性炭の等温吸着線のように平衡濃度と吸着量を整理できると考えられるが、対象の水が異なると(試料水BとCでは)PFAS類の吸着量が異なることが確認できた。対象水によってPFAS類濃度や含まれるマトリックスが異なることが要因と考えられる。また、当然ではあるが、平衡濃度が高いと吸着量が増加する(水中に吸着する物質が多いと多くの量が吸着し、吸着する物質が少ないと少ない量しか吸着しない。)。したがって、平衡濃度が高い状態を処理プロセスの中で作った方が、粉末活性炭の持つ吸着能力をより多く発揮できることに繋がるため、
図2に示した2段処理フローが好ましいということができる。
粉末活性炭の種類(活性炭A:木質、活性炭B:ヤシ/木質、活性炭C:石炭)によってPFAS類の吸着量に大きな差異は認められなかったが、今回の実験では木質系の活性炭Aの吸着量が他と比較してやや良好であったことから、以後の検討は活性炭A(木質)
を使用して行った。
【0038】
2.2 室内吸着処理試験結果
2.2.1 試料水B(河川水)
2.1の結果を踏まえ、試料水Bを用いた吸着処理試験では、活性炭Aの添加量を300mg-dry/Lに設定し、比較として添加量を155mg-dry/Lに減らしたケースの試験を実施した。その結果を
図5に示す。
吸着処理中のpHは調整せず、粉末活性炭の添加により、原水と比較してpHは0.3~0.5ポイント上昇した。C9~C12のPFCAsは処理水(1)、処理水(3)共に定量下限値未満(1ng/L未満)まで濃度が低減した。PFOA(C8)、PFHpA(C7)も活性炭添加量300mg-dry/Lでは99%以上、155mg-dry/LではPFOAは99%以上、PFHpAは97%以上濃度が低減した。
PFHxA(C6)は原水濃度が12,000ng/Lと高濃度であったが、活性炭添加量300mg-dry/Lでは95~97%、添加量155mg-dry/Lでは90~92%濃度が低減した。
PFPeA(C5)、PFBA(C4)と炭素数が少なくなると活性炭への吸着量は低下し、PFBAは活性炭添加量300mg-dry/Lでも40%前後の濃度低減にとどまった。
活性炭添加量が300mg-dry/Lのケースで、吸着処理中にpHを4.0と酸性雰囲気に調整したケースの試験結果を、pH未調整の結果と併せて
図6に示す。pH4の酸性雰囲気で吸着処理することで、粉末活性炭に対するPFASの吸着量は増加し、PFOAでは99%以上→99.9%以上、PFHpAでは97%以上→99%以上、PFHxAでは95~97%→99%以上、PFPeAでは80~82%→96~98%、PFBAについても40%前後→75~87%と濃度低減効果が向上することが確認できた。PFAS類を活性炭吸着処理する際に、pHを酸性雰囲気に調整することが非常に効果的であることが判明した。
処理水(1)(1段処理)と処理水(3)(2段処理)のPFAS類濃度を比較すると、吸着処理時にpH未調整の場合は処理水(1)の方がやや低濃度であったが、酸性雰囲気で吸着処理した場合は、明らかに処理水(3)の方がより低濃度となっていた。粉末活性炭との接触時間は処理水(1)(1段処理)の場合より処理水(3)(2段処理)の方が長く、pH未調整の場合は処理水(3)の方がpHはやや高くなるため、吸着量の差が見られたものと考えられる。
【0039】
2.2.2 試料水C(河川水)
試料水Cを用いた吸着処理試験では、活性炭Aの添加量を110mg-dry/Lに設定し、吸着処理時にpH未調整のケース(原水と比較してpHは0.2~0.4ポイント上昇)と、pH3.6の酸性雰囲気に調整したケースの試験を実施した。その結果を
図7に示す。
PFSAs(C4~C8)についてはpH調整の有無に関わらず88~99%以上濃度が低減した(PFHpA、PFOAは1ng/L未満まで低減。)。pHを酸性雰囲気に調整するとPFBS(C4)、PFPeS(C5)についても97~99%以上の濃度低減が可能となった。
PFCAs(C4~C11)については、炭素数が多いC7~C11ではpH調整の有無に関わらず93~99%以上濃度が低減した(初期濃度が低いPFDA(C10)を除く。PFDA、PFUnDAは1ng/L未満まで低減。)。pHを酸性雰囲気に調整するとPFHpA(C7)、PFOA(C8)についてはさらに濃度が低減した。炭素数が少ないC4~C6では、pH未調整のケースで明らかに吸着量が減少した。一方、pHを酸性雰囲気に調整すると、pH未調整のケースと比較して濃度は低減した。処理水(3)ではPFHxA(C6)で68%→98%、PFPeA(C5)で66%→96%、PFBA(C4)で0%→79%と濃度低減効果が大きく向上した。
なお、試料水Cには鉄、マンガンが他の試料水と比較して高い濃度で含まれていたが、PFAS類吸着処理に支障は見られなかった。
【0040】
2.2.3 試料水D(地下水)
試料水Dを用いた吸着処理試験では、直前の調査でPFOSを1,100ng/L検出していたことを踏まえ、活性炭Aの添加量を110mg-dry/Lに設定し、吸着処理時にpH未調整のケース(原水と比較してpHは0.1~0.3ポイント上昇)と、pH4.0の酸性雰囲気に調整したケースの試験を実施した。その結果を
図8に示す。
PFSAs(C4~C8)についてはpH調整の有無に関わらず96~99%以上濃度が低減した。
PFCAs(C4~C8)については、炭素数が多いPFHpA(C7)、PFOA(C8)でpH未調整でも濃度低減効果が高く、pHを酸性雰囲気に調整するとPFHpA、PFOAは処理水(1)、処理水(3)共に定量下限値未満(1ng/L未満)まで濃度が低減した。炭素数が少ないC4~C6では、試料水Cのケースと同様に、pH未調整のケースで明らかに吸着量が減少した。一方、pHを酸性雰囲気に調整すると、処理水(1)、処理水(3)共にpH未調整のケースと比較して濃度は低減した。処理水(3)ではPFHxA(C6)で83%→96%、PFPeA(C5)で83%→98%、PFBA(C4)で15%→73%と濃度低減効果が向上した。
【0041】
[実証実験(2)]
1.実験方法
1.1 粉末活性炭
実験には、比較的安価で取り扱いが容易な4種類の粉末活性炭(WET品:湿潤状態)を準備した。原料別に木質(活性炭A)、ヤシ/木質(活性炭B)、石炭(活性炭C)、木質(活性炭D)の4種類で、いずれも水蒸気賦活で製造された一般的な製品で、浄水・排水処理、有機物除去等の用途に使用されている。また、植物由来の材料を原料として新規に開発された粉末活性炭(活性炭E:乾燥品・酸洗品)も検討に加えた。
試験に供する際には粉末活性炭の水分量を実測し、その値を用いて粉末活性炭の固形分質量を算出した。
【0042】
1.2 試料水の性状及び分析方法
試料水として、試料水として、PFOS/PFOA及びPFHxS等のPFAS類を含む実際の河川水(試料水B、試料水C)を使用した。試料水のpH、TOC、鉄・マンガン濃度、主なPFAS類としてPFOS(C8)、PFHxS(C6)、PFOA(C8)、PFHxA(C6)の濃度を表3に示す。なお、試料水B、試料水Cについては、実証実験(1)で使用した試料水と基本的には同じものである。試料水B、試料水Cは試料採取日が異なる複数の試料を使用しており、また、同一採取日の試料でも実験実施の都度、濃度を測定しているため、濃度の範囲を示している。
試料水や処理水中のPFAS類の分析は、前記環境省通知の付表1及びJIS K 0450-70-10に示された方法に従い固相抽出-LC/MS/MS法で行った。混合標準液を用いてPFOS類(PFSAs:ペルフルオロスルホン酸類)はC4~C12(PFBS~PFDoS、ただしC11を除く、C12は直近の分析のみ。)、PFOA類(PFCAs:ペルフルオロカルボン酸類)はC4~C18(PFBA~PFOcDA 、ただしC15、C17を除く、C16、C18は直近の分析のみ。)の同族体を直鎖体のみ及び直鎖体+分岐異性体で定量しており、ここでは直鎖体のみの結果を示している。また、分析ではUS EPA Method 1633に示された方法に従い、上記方法で測定可能な物質以外のPFAS類:21項目も分析した。pHはJIS K 0102-12.1、TOCはJIS K 0102-22.1、鉄はJIS K 0102-57.4、マンガンはJIS K 0102-56.4に従って測定した。
試料水Bは河川水でPFCAsを主体として含んでおり、PFOAが3,600~6,
700ng/L、PFHxAが8,800~22,000ng/Lと高濃度で、他にC4~C12の同族体を含んでいた。また、PFSAsも低濃度であるがPFOS、PFHxS、PFBS(C4)が含まれていた。PFAS類連物質としては、HFPO-DA(ヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸)が1,200~1,300ng/L、8:2FTS(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデカンスルホン酸)、PFOSA(ペルフルオロオクタンスルホンアミド)、3:3FTCA(2H,2H,3H,3H-ペルフルオロヘキサン酸)が数ng/L程度含まれていた。
試料水Cは試料水Bとは異なる河川水で、PFOSが140~500ng/L、PFHxSが650~2,200ng/L、PFOAが140~300ng/L、PFHxAが350~670ng/L含まれていた。他にPFSAsはC4~C7、PFCAsはC4~C11の同族体を含んでいた。PFAS類連物質としては、6:2FTS(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクタンスルホン酸)が270~310ng/L、8:2FTSが17~25ng/L、PFOSAが40~48ng/L、4:2FTS(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロヘキサンスルホン酸)が数ng/L程度含まれていた。鉄、マンガン濃度が試料水Bと比較して高い値であった。
【0043】
【0044】
1.3 粉末活性炭のPFAS類吸着量比較実験
試料水B及び試料水Cを用いて、粉末活性炭A~EのPFAS類吸着量の把握を行った。容量2L、1L若しくは500mLのPP製ディスポーザルカップに試料水2L、1L若しくは500mLを量り取り、粉末活性炭A~Eを試料水に応じて添加量100~300mg-dry/L程度を基本として、25mg-dry/L~最大540mg-dry/Lの範囲で数水準変化させて試料水に添加し、撹拌機を用いて20℃程度に調整した室温で1時間撹拌した。撹拌中にpH調整は行わなかった。撹拌終了後に速やかに5C濾紙で濾過して濾水を得た。試料水及び濾中のPFAS類濃度を差し引いた値から、粉末活性炭の固形分に対する吸着量を算出した。
【0045】
1.4 pHを酸性側に調整した場合のPFAS類吸着除去効果比較実験
実証試験(1)では実処理で想定している吸着処理フロー(
図1)を勘案し、活性炭A
(木質)を用いて50L規模の室内吸着処理試験をバッチ試験で実施した。その際、工業用希硫酸(62.5%)を用いてpHを4程度に調整して粉末活性炭に吸着させるケースについても試験を行った。その結果、pHを酸性雰囲気に調整すると、粉末活性炭への吸着性が悪いC4~C6のPFCAsにおいてもpH未調整のケースと比較して濃度は低減し、ほとんど活性炭に吸着しなかったPFBA(C4)でも70~80%程度の濃度低減効果が得られることを確認した。
そこで、活性炭D(木質)及び活性炭E(植物)について、1.3に示す方法で、希硫酸を用いてpHを4程度に調整して吸着させるケースの実験を併せて行い、pH調整によるPFAS類濃度低減効果を確認した。活性炭Aとの比較は、実証実験(1)の室内吸着処理試験における「処理水(1)」(1段処理での処理水を想定)の結果と比較した。
【0046】
2.実験結果及び考察
2.1 粉末活性炭へのPFAS類吸着量の比較
試料水B及び試料水Cを用いて、粉末活性炭A~EのPFAS類吸着量の把握を行った。その結果を
図9に示す。
原水で検出されたPFAS類は全て分析しており、それぞれの吸着量を算出しているが、主なPFAS類としてPFOS、PFHxS及びPFOA、PFHxAの結果を示している。なお、吸着処理中にpH調整は行っておらず、粉末活性炭A~D(未洗品)はアルカリ性であることから、濾水のpHは原水と比較して0.2~0.7ポイント程度上昇した。
試料水CにはPFSAs、PFCAsの両方とも同程度の濃度で含まれていたが、
図9の結果からは、同様の平衡濃度であれば、PFOS、PFHxS(PFSAs)の方がPFOA、PFHxA(PFCAs)よりも吸着量が多かった。
試料水BはPFOA、PFHxA(PFCAs)が主体で高濃度に含まれていたが、試料水Cと比較して、同様の平衡濃度であれば、試料水Bの方が活性炭へのPFCAs吸着量が多い結果であった。
PFSAs、PFCAsのいずれも、対象水が異なると(試料水BとCでは)PFAS類の吸着量が異なることが確認できた。対象水によってPFAS類度や含まれるマトリックスが異なることが要因と考えられる。また、当然ではあるが、平衡濃度が高いと吸着量が増加する(水中に吸着する物質が多いと多くの量が吸着し、吸着する物質が少ないと少ない量しか吸着しない。)。したがって、平衡濃度が高い状態を処理プロセスの中に作った方が、粉末活性炭の持つ吸着能力をより多く発揮できることに繋がるため、
図2に示した2段処理フローが好ましいということができる。
粉末活性炭の種類(活性炭A:木質、活性炭B:ヤシ/木質、活性炭C:石炭、活性炭D:木質、活性炭E:植物)によってPFAS類の吸着量に大きな差異は認められなかった。
【0047】
2.2 PFAS類吸着除去効果の比較(pH未調整及びpHを酸性側に調整)
2.2.1 試料水B(河川水)
2.1の結果を踏まえ、試料水Bを用いた吸着処理試験では、活性炭D(木質:303mg-dry/L)及び活性炭E(植物:303mg-dry/L)のPFAS類吸着除去効果について、活性炭A(木質:300mg-dry/L、実証試験(1)の処理水(1))と比較した結果を
図10に示す。
活性炭D、Eともに、活性炭Aと同様のPFAS類除去効果を示した。すなわち、粉末活性炭添加量300mg-dry/L程度において、C9~C12のPFCAsは1ng/L~定量下限値未満(1ng/L未満)まで濃度が低減し、PFOA(C8)、PFHpA(C7)も99%以上、PFHpAは97%以上濃度が低減した。PFHxA(C6)は原水濃度が高濃度でバラツキがあるが、95~98%濃度が低減した。PFPeA(C5)、PFBA(C4)と炭素数が少なくなると活性炭への吸着量は低下し、PFBAは38~57%程度の濃度低減にとどまった。PFBAの除去効果に着目すると、活性炭
D>活性炭E>活性炭Aの順で除去効果が高かった。
試料水Bの直近の分析では1,200~1,300ng/LのHFPO-DAを確認したが、粉末活性炭による吸着処理により濃度が低減すること、添加量300mg-dry/L程度において98%程度濃度が低減すること、8:2FTS、PFOSA、3:3FTCAについても濃度が低減することを確認した。
吸着処理中にpHを4.0と酸性雰囲気に調整したケースにおいて、活性炭D(木質:303mg-dry/L)、活性炭E(植物:303mg-dry/L)及び活性炭A(木質:300mg-dry/L、実証実験(1)の処理水(1))のPFAS類除去効果について比較した結果を
図11に示す。
pH4の酸性雰囲気で吸着処理することで、粉末活性炭に対するPFAS類の吸着量は増加し、PFPeA(C5)では80~93%→96~98%、PFBA(C4)についても38~57%→82~85%と濃度低減効果が向上することが確認できた。PFAS類を活性炭吸着処理する際に、pHを酸性雰囲気に調整することが非常に効果的であることを改めて確認した。また、HFPO-DA、8:2FTS、PFOSA、3:3FTCAについても濃度低減効果が酸性雰囲気で向上した。
【0048】
2.2.2 試料水C(河川水)
2.1で示した試験結果(吸着処理中のpHは未調整)のうち、試料水Cを用いたケースにおいて、活性炭D(木質:101mg-dry/L)及び活性炭E(植物:101mg-dry/L)のPFAS類吸着除去効果について、活性炭A(木質:110 mg-dry/L、実証実験(1)の処理水(1))と比較した結果を
図12に示す。
試料水Cを用いたケースにおいても、活性炭D、Eともに、活性炭Aと概ね同様のPFAS類除去効果を示した。すなわち、粉末活性炭添加量100mg-dry/L程度において、PFSAs(C4~C8)は90~99%以上濃度が低減した。PFCAs(C4~C11)については、炭素数が多いC7~C11では93~99%以上濃度が低減した(初期濃度が低いPFDA(C10)を除く。)。PFHxA(C6)、PFPeA(C5)については、活性炭Aではそれぞれ10%程度、50%程度の濃度低減にとどまったが、活性炭D、Eではそれぞれ91~92%程度、67~72%程度濃度が低減した。また、PFBA(C4)については、活性炭Aでは濃度低減が見られなかったが、活性炭D、Eでは25~30%程度が低減した。試料水CではC4~C6のPFCAsに対して、粉末活性炭の種類(活性炭A:木質、活性炭D:木質、活性炭E:植物)によって吸着量の差異が若干認められた。試料水Cの直近の分析では270~310ng/Lの6:2FTSのほか、8:2FTS(17~25ng/L)、PFOSA(40~48ng/L)、4:2FTS(数ng/L程度)を確認したが、粉末活性炭による吸着処理により濃度が低減することを確認した。
吸着処理中にpHを4.0と酸性雰囲気に調整したケースにおいて、活性炭D(木質:101mg-dry/L)、活性炭E(植物:101mg-dry/L)及び活性炭A(木質;110mg-dry/L、pHを3.6に調整、実証実験(1)の処理水(1))のPFAS類除去効果について比較した結果を
図13に示す。
pHを酸性雰囲気に調整すると、粉末活性炭に対するPFAS類の吸着量は増加し、PFBS(C4)についても96~98%程度の濃度低減が可能となった。炭素数が少ないC4~C6のPFCAsでは、PFHxA(C6)で10~92%→81~97%、PFPeA(C5)で50~72%→84~89%、PFBA(C4)では0~30%→48~63%と濃度低減効果が大きく向上した。PFAS類を活性炭吸着処理する際に、pHを酸性雰囲気に調整することが非常に効果的であることを改めて確認した。また、6:2FTS、8:2FTS、PFOSA、4:2FTSについても酸性雰囲気での濃度低減効果を確認した。
なお、試料水Cには鉄、マンガンが試料水Bと比較して高い濃度で含まれていたが、PFAS類吸着処理に支障は見られなかった。
【0049】
PFOS/PFOA等のPFAS類を含む実際の河川水、地下水を用いて実施した粉末活性炭を用いた吸着処理の実証実験(1)及び(2)を行った結果から、以下のことが分かった。
・浄水・排水処理、有機物除去等の用途に一般的に使用されている粉末活性炭(木質、ヤシ/木質、石炭)や植物由来の新規の活性炭を用いたPFAS類吸着量比較実験では、活性炭原料によって吸着量に大きな差がない。
・対象水によって平衡濃度と吸着量の関係が異なる。
・実処理で想定している吸着処理フローを模擬した50L規模の室内吸着処理試験では、吸着処理時のpH調整の有無に関わらずPFSAs(C4~C8)は粉末活性炭への吸着性がよく、濃度低減効果が大きかった。PFCAs(C4~C12)のうち、炭素数が多いC7~C12では、吸着処理時のpH調整の有無に関わらず粉末活性炭への吸着性がよく、濃度低減効果が大きかった。C4~C6ではpH未調整のケースで明らかに吸着量が減少し、特にPFBA(C4)はほとんど活性炭には吸着しなかった。一方、pHを酸性雰囲気に調整すると、pH未調整のケースと比較して濃度はさらに低減し、PFBA(C4)でも70~80%程度の濃度低減効果が得られることを確認した。ここで、pHは、5以下、好ましくは、4以下の酸性雰囲気に調整することが好ましいといえる。なお、pH3を下回る強酸性雰囲気は、設備の対策が必要となる。また、処理対象水に含まれる炭素数が6以下の有機フッ素化合物(特に、PFCAs(C4~C6))の濃度が所定値(基準値)以上の場合に、酸を供給するようにすることにより、酸の使用量を適正化し、処理水(濾過水)の後処理(中和処理)の負荷を軽減することができる。
・実証試験(2)では、活性炭D(木質)、活性炭E(植物)のPFAS類吸着除去効果(濃度低減効果)を活性炭A(木質)と比較する形で、試料水B、試料水Cに対する結果を整理した。吸着処理時のpH調整の有無に関わらずPFSAs(C4~C8)は粉末活性炭への吸着性がよく、濃度低減効果が大きかった。PFCAs(C4~C12)のうち、炭素数が多いC7~C12では、吸着処理時のpH調整の有無に関わらず粉末活性炭への吸着性がよく、濃度低減効果が大きかった。C4~C6ではpH未調整のケースで明らかに吸着量が減少し、特にPFBA(C4)は活性炭に吸着しにくかった。一方、pHを酸性雰囲気に調整すると、pH未調整のケースと比較して濃度はさらに低減し、PFBA(C4)でも48~63%程度の濃度低減効果が得られることを確認した。なお、これらの濃度低減効果は、実処理で想定している吸着処理フロー(
図1)の1段処理での処理水で得られる効果であり、特に酸性雰囲気での処理では、2段処理によりさらに大きな濃度低減効果が期待できると考えられる。
・粉末活性炭による吸着処理後にはPFAS類を吸着した使用済み活性炭(廃活性炭)が発生する(今回の吸着処理試験では精密濾過後の「洗浄水(濃縮水)」がこれに該当する。)。この廃活性炭に含まれるPFAS類については、最終的には、適切かつ確実に分解処理される必要があり、例えば、廃活性炭を分解炉において焼却することで、活性炭に吸着したPFAS類等の有機化合物を熱分解するようにしたり、適切な設備を備えた産業廃棄物処理施設に持ち込んでそこで処理するようにしたりすることが考えられる。
【0050】
ところで、上記実証実験(1)及び(2)は、pHが中性域の処理対象水(PFOS/PFOA等のPFAS類を含む実際の河川水、地下水)を用い、pHを酸性雰囲気に調整した場合のPFAS類濃度低減効果を確認したが、処理対象水が、例えば、pH3以下、さらには、pH1以下の強酸性であり、処理対象水のpH値を実質的に未調整の状態で一次反応槽に供給する場合について、以下に記載する室内試験を行った。
【0051】
[実証実験(3)]
1.実験方法
処理対象水(PFOS/PFOA等のPFAS類を含むpH1以下(ガラス電極による実測値:pH0.58)の強酸性の原水)を用い、原水に対して、表4に示すように、粉末活性炭(ケース1~3)に加えて消石灰(ケース4のみ)、有機物除去剤(多木化学社
製ノニオン系有機物除去剤「タキフロック(登録商標)L-2」)(ケース5のみ)、高分子凝集剤(多木化学社製ノニオン系高分子凝集剤「タキフロック(登録商標)N-100T」)(ケース6のみ)をそれぞれ添加し、吸着処理の実証実験を行った。
ここで、ケース1~3は、水量500mL、粉末活性炭を所定量添加し、室温(20℃)で1時間撹拌後、5C濾紙で濾過操作、濾液を検液とした。ケース4は、事前に消石灰を所定量添加して撹拌したものを500mL用意し、粉末活性炭を所定量添加し、室温(20℃)で1時間撹拌後、5C濾紙で濾過操作、濾液を検液とした。ケース5~6は、水量500mL、有機物除去剤又は高分子凝集剤を所定量添加し、室温(20℃)で30分間撹拌後、粉末活性炭を所定量添加し、室温(20℃)で1時間撹拌後、5C濾紙で濾過操作、濾液を検液とした。
吸着処理は、水量500mL、室温20℃で、撹拌機を使用して1時間撹拌処理を行い、その後、5C濾紙で濾過して得た濾水を検体とし、PFAS類等の分析を行った。ここで、PFAS類の分析は同族体を直鎖体のみ及び直鎖体+分岐異性体で定量しており、ここでは直鎖体+分岐異性体のみの結果を示している。
ここで、消石灰は、多価カチオン元素を含有する処理剤として添加するもので、pH値の調整を目的とするものではない。多価カチオン元素としては、Caのほか、Al、Mg、Fe、Si等を挙げることができる。ちなみに、消石灰を添加したケース4の処理対象水の最終pH値は、pH0.66であった。
また、有機物除去剤や高分子凝集剤は、PFAS類と水溶性高分子材料との吸着等の種々の相互作用の効果(粉末活性炭への吸着量向上効果)を確認するために添加した。
【0052】
【0053】
2.実験結果
検体(原水及びケース1~6の処理水)の分析結果を表5~表7及び
図14に示す。
ここで、表7は、PFOAのPRF(相対効力係数)を1としたときのPFOA等量濃度を示す。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
処理対象水(PFOS/PFOA等のPFAS類を含むpH1以下(ガラス電極による実測値:pH0.58)の強酸性の原水)を用いた吸着処理の実証実験(3)を行った結果から、以下のことが分かった。
・強酸性の処理対象水を、処理対象水のpH値を実質的に未調整の状態で粉末活性炭を用いて処理することで、粉末活性炭にPFAS類を吸着させ、処理水中のPFAS類濃度を大幅に低減することができる。処理水中のPFAS類濃度の低減効果は、木質(活性炭D)が良好で、多価カチオン元素を含有する処理剤(消石灰)や高分子凝集剤を添加することにより、より良好となることを確認した。特に、高分子凝集剤は少量の添加量で処理水中のPFAS類濃度の低減効果に加え、粉末活性炭の凝集効果があるため、材料コスト、設備面等でメリットがある。
・有機物除去剤を添加することによる処理水中のPFAS類濃度の低減効果の向上は認められなかったが、吸着阻害がないことを確認できたので、処理水中に油分等の有機物が含まれる場合の油分等の有機物の除去には効果があると考えられる。
【0058】
以上、本発明の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法について、その実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の有機フッ素化合物の粉末活性炭を用いた吸着処理方法は、河川水、湖沼水、地
下水等の環境水中に含まれるPFOS/PFOA及びPFHxS等のPFAS類をはじめとして、処理対象水に含まれる難分解性の有機フッ素化合物を粉末活性炭に吸着させて回収する用途に好適に用いることができる。