(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139781
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】芳香族ポリエーテルケトン成形体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 71/10 20060101AFI20241002BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C08L71/10
C08K3/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084430
(22)【出願日】2024-05-24
(62)【分割の表示】P 2023049519の分割
【原出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 岳史
(72)【発明者】
【氏名】池田 愼
(72)【発明者】
【氏名】赤岡 太一
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CH061
4J002DA016
4J002DA036
4J002FD016
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】高い機械的強度と大きい伸びとを兼ね備える芳香族ポリエーテルケトン成形体を提供する。
【解決手段】芳香族ポリエーテルケトン成形体は、マトリックス相と、上記マトリックス相に分散された分散相と、を含む。上記マトリックス相は、芳香族ポリエーテルケトンで構成され、結晶子サイズが63Åより大きい。上記分散相は、カーボンブラック及びカーボンナノチューブの少なくとも一方で構成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエーテルケトンで構成され、結晶子サイズが63Åより大きいマトリックス相と、
カーボンブラック及びカーボンナノチューブの少なくとも一方で構成され、前記マトリックス相に分散された分散相と、
を含む芳香族ポリエーテルケトン成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種部品に利用可能な芳香族ポリエーテルケトン成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械分野では、軽量化の観点などから金属部品から樹脂成形体への代替が求められている。特許文献1には、樹脂成形体の機械的強度を向上させるための技術が開示されている。この技術では、樹脂成分の結晶化度を向上させて分子運動の自由度を拘束することで、樹脂成形体の機械的強度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属部品から樹脂成形体への代替が求められる部品として、ギヤ部材などの摺動部材が挙げられる。摺動部材では、耐久性の向上のために、機械的強度が高いことに加え、伸びが大きいことが有利である。ところが、樹脂成形体において、高い機械的強度と大きい伸びとを両立させることが可能な技術はあまり知られていない。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明は、高い機械的強度と大きい伸びとを兼ね備える芳香族ポリエーテルケトン成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る芳香族ポリエーテルケトン成形体は、マトリックス相と、上記マトリックス相に分散された分散相と、を含む。
上記マトリックス相は、芳香族ポリエーテルケトンで構成され、結晶子サイズが63Åより大きい。
上記分散相は、カーボンブラック及びカーボンナノチューブの少なくとも一方で構成される。
【0007】
この芳香族ポリエーテルケトン成形体では、マトリックス相が芳香族ポリエーテルケトンで構成されていることで、高い機械的強度が得られる。また、この芳香族ポリエーテルケトン成形体では、マトリックス相の結晶子サイズが大きいことで、大きい伸びが得られる。つまり、この芳香族ポリエーテルケトン成形体では、高い機械的強度と大きい伸びとを両立することができる。
【0008】
上記マトリックス相を構成する芳香族ポリエーテルケトンは最大ピーク分子量が5万以上の範囲に存在する分子量分布を有してもよい。
上記分散相がカーボンブラックで構成され、粒径が0.1μm以上の分散相が占める領域の面積率が0.6%以上であってもよい。
上記分散相がカーボンナノチューブで構成され、粒径が0.1μm以上の分散相が占める領域の面積率が1.9%以上であってもよい。
上記マトリックス相が、ポリエーテルエーテルケトンで構成されていてもよい。
上記芳香族ポリエーテルケトン成形体は、摺動部材として構成されていてもよい。
上記芳香族ポリエーテルケトン成形体は、ギヤ部材として構成されていてもよい。
【0009】
本発明の一形態に係る芳香族ポリエーテルケトン成形体の製造方法では、射出成形法によって、最大ピーク分子量が5万以上の範囲に存在する分子量分布を有する芳香族ポリエーテルケトンで構成されたマトリックス相に、カーボンブラック及びカーボンナノチューブの少なくとも一方で構成された分散相が分散された成形体が作製される。
上記マトリックス相の融点とガラス転移点との中間の温度よりも高く、上記マトリックス相の融点よりも低い温度において上記成形体のアニール処理が行われる。
【0010】
分子量の大きい芳香族ポリエーテルケトンでは、結晶子サイズが大きくなりにくいことが知られている。これに対し、上記の構成では、マトリックス相にカーボンブラック及びカーボンナノチューブの少なくとも一方を分散させ、かつマトリックス相の融点に近い高温においてアニール処理を行う。アニール処理中の高温の環境では分子量の大きい芳香族ポリエーテルケトンであっても分子運動が活発となる。このように分子運動が活発となったマトリックス相では、分散相を構成するカーボンブラック及びカーボンナノチューブの少なくとも一方が結晶子の核となることで、長い分子鎖で構成された結晶子であっても粒成長が進行する。これにより、上記の構成では、結晶子サイズの大きいマトリックス相が得られる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明では、高い機械的強度と大きい伸びとを兼ね備える芳香族ポリエーテルケトン成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る樹脂成形体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】上記樹脂成形体をギヤ部材として構成した例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[樹脂成形体の説明]
本発明は、芳香族ポリエーテルケトンを主成分として形成された樹脂成形体である芳香族ポリエーテルケトン成形体に関する。より詳細に、本実施形態に係る樹脂成形体は、芳香族ポリエーテルケトンで構成されたマトリックス相と、カーボン粉末で構成され、マトリックス相に分散された分散相と、を含む。分散相を構成するカーボン粉末は、カーボンブラック及びカーボンナノチューブの少なくとも一方で構成される。
【0014】
マトリックス相を構成する芳香族ポリエーテルケトンは、ベンゼン環、エーテル、及びケトンにより構成された樹脂である。本実施形態に係る樹脂成形体では、マトリックス相を構成する芳香族ポリエーテルケトンとして、優れた耐熱性及び機械的強度を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用いることが好ましい。
【0015】
本実施形態に係る樹脂成形体では、マトリックス相を構成する芳香族ポリエーテルケトンの分子量が大きく、具体的に、最大ピーク分子量が5万以上の範囲に存在する分子量分布を有することが好ましい。これにより、本実施形態に係る樹脂成形体では、長い分子鎖同士が相互に拘束し合うことで高い機械的強度が得られる。
【0016】
また、本実施形態に係る樹脂成形体では、マトリックス相における芳香族ポリエーテルケトンの結晶子サイズが大きく、具体的に、63Åより大きい。これにより、本実施形態に係る樹脂成形体では、大きい引張応力が加わっても各結晶子を構成する分子鎖が切断しにくくなることで、大きい伸びが得られる。
【0017】
つまり、本実施形態に係る樹脂成形体では、マトリックス相を長い分子鎖で構成し、かつマトリックス相における結晶子サイズを大きくすることで、高い機械的強度と大きい伸びとを両立することができる。これにより、本実施形態に係る樹脂成形体では、摺動部材などの用途で利用される場合に高い耐久性が得られる。
【0018】
マトリックス相を構成する芳香族ポリエーテルケトンの分子量分布の測定には、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いることができる。また、最大ピーク分子量とは、分子量測定により得られた分子量分布曲線においてピーク値となる分子数(頻度)に対応する分子量を指すものとする。
【0019】
マトリックス相の結晶子サイズの測定には、X線回折(XRD)法で得られた回折パターンを用いることができる。つまり、マトリックス相の結晶子サイズは、回折パターンにおける芳香族ポリエーテルケトンに対応する最大ピークの半値幅を測定することで、Scherrerの式に基づいて算出することができる。
【0020】
なお、マトリックス相の結晶子サイズは63Åより大きければよく、大きすぎることによるデメリットは現段階では確認されていないが、マトリックス相の結晶子サイズを大きくすることによる機械的強度の向上には限界があるものと考えられる。この観点から、マトリックス相の結晶子サイズの上限値としては、例えば、250Åが想定される。
【0021】
図1は、本実施形態に係る樹脂成形体の製造方法を示すフローチャートである。まず、ステップS01では、原料を用意する。ステップS01で用意する原料は、例えば、マトリックス相を構成する芳香族ポリエーテルケトンと、分散相を構成するカーボン粉末と、が混練された混練物として用意される。
【0022】
ステップS01では、芳香族ポリエーテルケトンとして、最大ピーク分子量が5万以上の範囲に存在する分子量分布を有するものを用いる。また、ステップS01では、カーボン粉末として、後述のステップS03において説明する作用を得るために適切な粒度分布を有するものを用いることができる。
【0023】
原料としての混練物は、例えば、芳香族ポリエーテルケトンとカーボン粉末とを単軸押出機や二軸押出機などによって混練することで得られる。また、ステップS01では、原料としての混練物を、予め芳香族ポリエーテルケトンとカーボン粉末とが混練された市販品として用意することもできる。
【0024】
次に、ステップS02では、ステップS01で用意した原料を用途に応じた形状に成形する。原料の成形には、射出成形法を利用することができる。ステップS02で得られる原料成形体では、芳香族ポリエーテルケトンで構成されたマトリックス相にカーボン粉末で構成された分散相が分散している。
【0025】
ステップS02では分子量の大きいマトリックス相において結晶子の粒成長が進行しにくいため、ステップS02で得られる原料成形体ではマトリックス相における大きい結晶子サイズが得られにくい。このため、本実施形態では、マトリックス相の結晶子サイズを大きくするためにステップS03を行う。
【0026】
ステップS03では、ステップS02で得られた原料成形体のアニール処理を行う。ステップS03におけるアニール処理の保持温度は、一般的に残留応力の緩和を目的とするアニール処理で設定される温度よりも高く、具体的に、マトリックス相の融点とガラス転移点との中間の温度よりも高く、マトリックス相の融点よりも低い温度とする。
【0027】
原料成形体では、このような融点に近い高温の環境では分子量の大きいマトリックス相においても分子運動が活発になる。このように分子運動が活発となったマトリックス相では、分散相を構成するカーボン粉末が結晶子の核となることで、長い分子鎖で構成された結晶子であっても粒成長が進行しやすくなる。更に、分散相を構成するカーボンナノチューブは、マトリックス相を含む原料成形体全体としての熱伝導性を向上させる作用も有する。このため、分散相がカーボンナノチューブで構成された原料成形体では、アニール中におけるマトリックス相の分子運動が更に活発になることで結晶子の粒成長が更に促進される。
【0028】
つまり、ステップS03では、カーボン粉末を分散させることと、マトリックス相の融点に近い高温でアニール処理を行うことと、の相乗作用によって分子量の大きいマトリックス相における結晶子の粒成長が進行する。これにより、ステップS03では、マトリックス相の結晶子サイズが大きい樹脂成形体が得られる。
【0029】
分散相における結晶子の核となって粒成長を促進させる作用は、分散相の大きさに関わらずに得られるものと考えられるが、分散相をある程度大きくすることでより効果的に得られる。この点、本実施形態に係る樹脂成形体では、分散相がカーボンブラックで構成される場合、粒径が0.1μm以上の分散相が占める領域の面積率が0.6%以上であることが好ましい。また、分散相がカーボンナノチューブで構成される場合、粒径が0.1μm以上の分散相が占める領域の面積率が1.9%以上であることが好ましい。
【0030】
一方、本実施形態に係る樹脂成形体では、成形性の観点から、粒径が0.1μm以上の分散相が占める領域の面積率を、20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることが更に好ましい。樹脂成形体の分散相の面積率は、樹脂成形体を蛍光顕微鏡で撮像した写真から求めることができる。
【0031】
ステップS03における原料成形体のアニール処理には、公知の加熱処理の手法を用いることができ、例えば、熱風加熱、遠赤外線加熱、近赤外線加熱などを用いることができる。原料成形体のアニール処理は、典型的には大気中で行うが、例えば、低酸素分圧中や不活性ガス中などで行ってもよい。
【0032】
本実施形態に係る樹脂成形体は、局所に応力が集中しやすい部品への応用に特に適している。このような部品としては、例えば、ギヤ部材やシールリングやスラストワッシャーや軸受けなどの摺動部材が挙げられる。摺動部材として構成された本実施形態に係る樹脂成形体では、高い耐久性が得られる。
【0033】
図2には、本実施形態に係る樹脂成形体の摺動部材としての応用例としてギヤ部材が示されている。ギヤ部材では、外周に沿って連設された複数の歯Tの歯元部に応力が集中しやすいが、本実施形態に係る樹脂成形体として構成することで歯Tの欠けの発生を効果的に抑制することができる。
【0034】
[実施例及び比較例]
上記実施形態の実施例及び比較例について説明する。
【0035】
(実施例1~4及び比較例1,2)
実施例1~4及び比較例1,2では、樹脂成形体のサンプルを作製し、各サンプルについて評価を行った。実施例1~4及び比較例2ではいずれも、分散相を構成するカーボン粉末としてカーボンブラックを用いた。比較例1は、分散相を用いず、またアニール処理を行わない点で上記実施形態とは異なる。比較例2は、アニール処理を行わない点で上記実施形態とは異なる。
【0036】
実施例1~4及び比較例1,2ではいずれも、共通の芳香族ポリエーテルケトンを用いた。具体的に、実施例1~4及び比較例1,2ではいずれも、芳香族ポリエーテルケトンとしてポリプラ・エボニック社製のポリエーテルエーテルケトン「ベスタキープ(登録商標) 5000G」を用いた。
【0037】
また、実施例1~4及び比較例2ではいずれも、共通のカーボンブラックを用いた。具体的に、実施例1~4及び比較例2ではいずれも、三菱ケミカル社製のカーボンブラック「#750B」を用いた。なお、比較例1では、カーボンブラックを用いず、つまり芳香族ポリエーテルケトンのみを用いた。
【0038】
表1には、実施例1~4におけるアニール処理の保持温度及び保持時間が示されている。また、表1には、実施例1~4及び比較例1,2における、サンプルの粒径が0.1μm以上の分散相が占める領域の面積率、及びサンプルのマトリックス相の結晶子サイズも示されている。
【0039】
各サンプルの分散相の面積率は、オリンパス社製の蛍光顕微鏡「BX53M」で各サンプルを撮像した写真から求めた。また、各サンプルのマトリックス相の結晶子サイズは、Rigaku社製のX線回折装置「Samartlab」による測定で得られた各サンプルの回折パターンから求めた。
【0040】
表1に示すとおり、実施例1~4ではいずれも、マトリックス相の結晶子サイズが比較例1よりも大きかった。これに対し、比較例2では、マトリックス相の結晶子サイズが比較例1と同等であった。これにより、マトリックス相の結晶子サイズを大きくするために高温でのアニール処理が有効であることが確認された。
【0041】
【0042】
実施例1~4及び比較例1,2に係る各サンプルについて、破壊特性の評価のために、引張試験を行った。引張試験には、島津製作所製の「AGX」を用いた。引張試験では、各サンプルをJIS K7139(2009)に準拠したA12型のダンベル形状とし、引張速度を10mm/minとし、その他の条件も共通とした。
【0043】
その結果として、表2には、実施例1~4及び比較例1,2について、降伏点強度、降伏点ストローク、及び抗張積が、比較例1に対する変化率(%)として示されている。降伏点強度及び降伏点ストロークは引張試験で得られた応力ひずみ曲線から求め、抗張積は降伏点強度及び降伏点ストロークから算出した。
【0044】
実施例1~4ではいずれも、比較例1に対し、特に降伏点ストロークが大きく向上することで、抗張積として15%以上高い値が得られている。一方、比較例2では、実施例1~4よりも降伏点ストロークが小さかった。これにより、マトリックス相の結晶子サイズを大きくすることで大きい伸びが得られることが確認された。
【0045】
次に、実施例1~4及び比較例1,2に係る各サンプルについて、ギヤ部材としての製品特性を評価するために、歯車耐久試験を行った。歯車耐久試験では、各サンプルの形状をギヤ形状とした。各サンプルの歯車耐久試験では、相手材としてギヤ部材(S45C製)を用い、相手材と噛み合った状態で回転駆動させた。
【0046】
また、各サンプルの歯車耐久試験ではいずれも、回転速度を1000rpmとし、トルクを10N・mとし、その他の条件も共通とした。回転駆動時の各サンプルと相手材との間の潤滑剤としてグリスを用いた。各サンプルについて、110万回回転させた後の歯の欠けの有無によって「OK」及び「NG」を判定した。
【0047】
表2には、実施例1~4及び比較例1,2について歯車耐久試験の結果が示されている。実施例1~4に係るサンプルではいずれも歯の欠けが発生しなかったのに対し、比較例1,2に係るサンプルではいずれも歯の欠けが発生した。これにより、実施例1~4では、ギヤ部材としての高い製品特性が得られることがわかる。
【0048】
【0049】
(実施例5~7)
実施例5~7では、樹脂成形体のサンプルを作製し、各サンプルについて評価を行った。実施例5~7ではいずれも、分散相を構成するカーボン粉末としてカーボンナノチューブを用いた。実施例5~7ではいずれも、実施例1~4及び比較例1,2と共通の芳香族ポリエーテルケトンを用いた。
【0050】
また、実施例5~7ではいずれも、共通のカーボンナノチューブを用いた。具体的に、実施例5~7ではいずれも、Nanocyl社製のカーボンナノチューブ「NC7000」を用いた。
【0051】
表3には、実施例5~7におけるアニール処理の保持温度及び保持時間が示されている。また、表3には、実施例5~7及び比較例1における、サンプルにおける粒径が0.1μm以上の分散相が占める領域の面積率、及びサンプルのマトリックス相の結晶子サイズも示されている。各サンプルにおける分散相の面積率及びマトリックス相の結晶子サイズは、実施例1~4及び比較例1,2と同様の手法で求めた。
【0052】
表3に示すとおり、実施例5~7ではいずれも、マトリックス相の結晶子サイズが比較例1よりも大きかった。特に、分散相の面積率が大きい実施例6では、大幅に大きい結晶子サイズが得られた。これにより、熱伝導率の高いカーボンナノチューブが多いことで結晶子の粒成長が促進される効果が得られることが確認された。
【0053】
【0054】
実施例5~7について、破壊特性の評価のために、実施例1~4及び比較例1,2と同様の手法で引張試験を行った。その結果として、表4には、実施例5~7及び比較例1について、降伏点強度、降伏点ストローク、及び抗張積が、比較例1に対する変化率(%)として示されている。
【0055】
実施例5~7ではいずれも、比較例1に対し、降伏点強度及び降伏点ストロークがいずれも向上することで、抗張積として20%以上高い値が得られている。特に、分散相の面積率が大きい実施例6では、降伏点強度及び降伏点ストロークがいずれも最も大きかった。これにより、マトリックス相の結晶子サイズを大きくすることで大きい抗張積が得られることが確認された。
【0056】
次に、実施例5~7及び比較例に係る各サンプルについて、ギヤ部材としての製品特性を評価するために、実施例1~4及び比較例1,2と同様の手法で歯車耐久試験を行った。表4には、実施例5~7及び比較例1について歯車耐久試験の結果が示されている。実施例5~7に係るサンプルではいずれも歯の欠けが発生しなかった。これにより、実施例5~7では、ギヤ部材としての高い製品特性が得られることがわかる。
【0057】
【0058】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0059】
例えば、本発明の樹脂成形体では、用途などに応じて充分な機械的強度が得られればよく、マトリックス相を構成する芳香族ポリエーテルケトンの分子量は特に限定されない。つまり、マトリックス相を構成する芳香族ポリエーテルケトンは、分子量分布において最大ピーク分子量がどの範囲に存在していてもよい。
【0060】
また、本発明の樹脂成形体のマトリックス相を構成する芳香族ポリエーテルケトンは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)以外であってもよく、例えば、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などであってもよい。また、本発明の樹脂成形体のマトリックス相は、複数種類の芳香族ポリエーテルケトンがブレンドされた構成であってもよい。