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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139835
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20241003BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B41J2/16 305
B41J2/14 603
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050749
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正寛
(72)【発明者】
【氏名】北原 浩司
(72)【発明者】
【氏名】四谷 真一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 本規
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF72
2C057AF93
2C057AG44
2C057AP02
2C057AP31
2C057AP33
2C057AP35
2C057AP53
2C057AQ02
2C057BA03
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】高精細な孔を有するフィルターを容易に形成可能な液体吐出ヘッド製造方法、を提供する。
【解決手段】液体吐出ヘッド製造方法は、圧電素子と、複数の圧力室を含む圧力室基板と、複数の圧力室に液体を供給する第1共通供給流路を含む連通板と、複数の圧力室に連通する複数のノズルを含むノズル基板と、第1共通供給流路に液体を供給する第2共通供給流路と、第2共通供給流路に設けられたフィルターと、を含み、圧電素子が配置された空間を封止し、半導体基板で形成された封止基板と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、封止基板の第1面のうちの第2共通供給流路に対応する第1部分表面には、封止基板の表面上に金属膜が形成され、第1面のうちの第2共通供給流路に対応しない第2部分表面には、封止基板の表面上に金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことで、フィルターを形成する第1工程を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子と、
複数の圧力室を含む圧力室基板と、
前記複数の圧力室に共通に連通し、前記複数の圧力室に液体を供給する第1共通供給流路を含む連通板と、
前記複数の圧力室に連通する複数のノズルを含むノズル基板と、
前記第1共通供給流路に連通し、前記第1共通供給流路に液体を供給する第2共通供給流路と、前記第2共通供給流路に設けられたフィルターと、を含み、前記圧電素子が配置された空間を封止し、半導体基板で形成された封止基板と、を有する液体吐出ヘッド製造方法であって、
前記封止基板が有する第1面のうちの前記第2共通供給流路に対応する第1部分表面に金属膜が形成され、前記第1面のうちの前記第2共通供給流路に対応しない第2部分表面に前記金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことで、前記フィルターを形成する第1工程を含むことを特徴とする液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項2】
前記第1工程は、
前記第1面上にレジスト層を形成し、
前記レジスト層を形成した後に、前記第1部分で開口し、前記第2部分で開口しないように前記レジスト層をパターニングし、
前記レジスト層をパターニングした後に、前記第1面上に前記金属膜を形成することを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項3】
前記レジスト層を形成する前に、前記第1面上に酸化膜を形成し、
前記酸化膜上に前記レジスト層を形成し、
前記レジスト層をパターニングした後であって、前記金属膜を形成する前に、前記酸化膜をエッチングすることにより、前記酸化膜のうち前記第1部分上の部分を開口させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項4】
前記酸化膜をエッチングすることにより、前記第1面と前記レジスト層の間に隙間を形成する、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項5】
前記第1工程では、
前記第1面上に前記金属膜を形成した後、前記レジスト層を除去する、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項6】
前記連通板は、前記複数の圧力室に共通に連通し、前記複数の圧力室から液体を排出する第1共通排出流路をさらに含み、
前記封止基板は、前記第1共通排出流路から液体を排出する第2共通排出流路をさらに含み、
前記第1面のうちの前記第2共通排出流路に対応する第3部分表面には、前記封止基板の表面上に前記金属膜が形成された状態で、金属アシスト化学エッチングを行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項7】
前記第1部分には、前記第2共通供給流路と重なる領域を覆い、かつ、前記フィルターが有する貫通孔に対応する部分表面に前記金属膜が存在するようにして、前記金属膜が形成される、
ことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項8】
前記第3部分には、前記第2共通排出流路と重なる領域のうちの周縁表面に前記金属膜が存在し、当該領域の中央表面には前記金属膜が存在しないようにして、前記金属膜が形成されることを特徴とする、
請求項6に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項9】
前記第1工程において、フッ化水素および酸化剤を含む溶液を用いて、前記金属アシスト化学エッチングを行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項10】
前記金属膜は、金で構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項11】
前記封止基板が有する前記第1面とは反対側の第2面のうちの前記第2共通供給流路に対応する第4部分上に第2酸化膜を形成し、かつ前記第2面のうちの前記第2共通供給流路に対応しない第5部分上に前記第2酸化膜が形成されていない状態で、異方性ウエットエッチングを行うことで、前記第2共通供給流路を形成する第2工程を、さらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項12】
圧電素子と、
複数の圧力室と、第3共通供給流路と、前記第3共通供給流路に設けられたフィルターとを含む圧力室基板と、
前記複数の圧力室に共通に連通し、前記複数の圧力室に液体を供給する第1共通供給流路を含む連通板と、
前記複数の圧力室に連通する複数のノズルを含むノズル基板と、
前記第1共通供給流路に連通し、前記第1共通供給流路に液体を供給する第2共通供給流路と、を含み、前記圧電素子が配置された空間を封止し、半導体基板で形成された封止基板と、を有する液体吐出ヘッド製造方法であって、
前記圧力室基板が有する第3面のうちの前記第3共通供給流路に対応する部分表面に金属膜が形成され、前記第3面のうちの前記第3共通供給流路に対応しない部分表面に前記金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことで、前記フィルターを形成する第1工程を含むことを特徴とする液体吐出ヘッド製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンターは、印刷用途だけでなく、液体化できる材料を任意の場所に塗布できる装置として注目されている。インクジェットプリンターは、インク等の液体を吐出する液体吐出ヘッドを備える。液体吐出ヘッドとして、圧力室の壁面を構成する振動板を圧電素子により振動させることで、圧力室に充填された液体をノズルから吐出するヘッドが知られている。
【0003】
特許文献1に記載のヘッドは、インクカートリッジに挿入されるインク供給針と、インクカートリッジが固定されるカートリッジケースと、カートリッジケースに固定されたヘッド本体とを備える。インク供給針およびカートリッジケースは、供給流路を有しており、インク供給針およびカートリッジケースの間には、フィルターが設けられる。このフィルターによって、インク内の気泡および異物が除去される。フィルターは、インク供給針およびカートリッジケースに溶着されている。
【0004】
特許文献2に記載のヘッドは、ノズルからインク滴を噴射するヘッド本体と、ヘッド本体にインクを供給する流路ユニットとを備える。流路ユニットの内部には、フィルターが設けられる。フィルターによって、インクに含まれる気泡および異物が除去される。フィルターは、流路ユニットに溶着されている。
【0005】
特許文献3に記載のヘッドは、ノズルが形成されたノズルプレートと、キャビティプレートとを含む。キャビティプレートは、ダイヤフラムを有しており、ダイヤフラムにはフィルター孔が形成されている。フィルター孔によって、微細な異物が除去される。このフィルター孔は、ICP放電によるドライエッチングにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-194753号公報
【特許文献2】特開2016-049725号公報
【特許文献3】特開2000-334970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に記載のフィルターは、別部品に組み付けられ、溶着により接合される。これでは、フィルターを別部材に組付けなければならず、構成が複雑で、製造が困難である。また、フィルターのフィルタリングの性能を上げるためにはフィルターの孔径のサイズを小さくし、かつ精度を高くする必要がある。フィルターが有する孔の形成は、エッチング等により形成される。孔径のサイズを小さくし、かつ精度を高くすることは非常に難しく、かつ製造コストがかかってしまう。
【0008】
特許文献3に記載のフィルターは、ICP放電によるドライエッチングにより形成される。かかる方法によれば、微細な孔を形成することができる。その一方、高価な真空装置が必要であり、かつ、エッチング加工に使用するガスは六フッ化硫黄等の温室効果ガスを除外する必要がある。このため、装置が高価であり、かつ、環境への負荷が増大しないよう配慮しなくてはならず、製造が容易であるとは言い難い。
【0009】
したがって、従来の方法では、高精細な孔を有するフィルターを容易に形成することが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好適な態様に係る液体吐出ヘッド製造方法は、圧電素子と、複数の圧力室を含む圧力室基板と、前記複数の圧力室に共通に連通し、前記複数の圧力室に液体を供給する第1共通供給流路を含む連通板と、前記複数の圧力室に連通する複数のノズルを含むノズル基板と、前記第1共通供給流路に連通し、前記第1共通供給流路に液体を供給する第2共通供給流路と、前記第2共通供給流路に設けられたフィルターと、を含み、前記圧電素子が配置された空間を封止し、半導体基板で形成された封止基板と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記封止基板の第1面のうちの前記第2共通供給流路に対応する第1部分表面には、前記封止基板の表面上に金属膜が形成され、前記第1面のうちの前記第2共通供給流路に対応しない第2部分表面には、前記封止基板の表面上に前記金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことで、前記フィルターを形成する第1工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る液体吐出装置の構成を例示する概略図である。
図2図1に示す液体吐出ヘッドの一部斜視図である。
図3図2の液体吐出ヘッドの断面図である。
図4図3に示す封止基板の平面図である。
図5図4に示すフィルターの一部の拡大図である。
図6図5に示すフィルターの断面図である。
図7図3に示す封止基板の製造方法の流れを示す図である。
図8図7に示す第2工程の流れを示す図である。
図9図7の第2工程を説明するための図である。
図10図7に示す第1工程の流れを示す図である。
図11図10の酸化膜形成工程からレジスト層パターニング工程までを説明するための図である。
図12図10の酸化膜エッチング工程から金属アシスト化学エッチング工程までを説明するための図である。
図13図7に示す第1工程におけるフィルターの製造を説明するための図である。
図14】金属アシスト化学エッチング工程を説明するための図である。
図15】第2実施形態における封止基板の製造方法の流れを示す図である。
図16図15に示す1つ目の第2工程の流れを示す図である。
図17図15に示す2つ目の第2工程の流れを示す図である。
図18図16に示す1つ目の第2工程を説明するための図である。
図19図15に示す第1工程を説明するための図である。
図20図19に示すフィルターの製造を説明するための図である。
図21図17に示す2つ目の第2工程を説明するための図である。
図22】第3実施形態の液体吐出ヘッドの一部を示す断面図である。
図23図22に示す圧力室基板の製造を説明するための図である。
図24】液体吐出ヘッド製造方法の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.第1実施形態
1-1.液体吐出装置1の全体構成
図1は、第1実施形態に係る液体吐出装置1を例示する構成図である。以下では、説明の便宜上、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を適宜用いて説明する。また、X軸に沿う一方向をX1方向と表記し、X1方向とは反対の方向をX2方向と表記する。同様に、Y軸に沿う一方向をY1方向と表記し、Y1方向とは反対の方向をY2方向と表記する。Z軸に沿う一方向をZ1方向と表記し、Z1方向とは反対の方向をZ2方向と表記する。
【0013】
また、「要素αと要素βとが連通する」とは、要素αと要素βとが直接的に連通する場合のほか、要素αと要素βとが他の要素を介して間接的に連通する場合も含まれる。「要素A上の要素β」とは、要素αと要素βとが直接的に接触する構成に限定されず、要素Aと要素βとが直接的に接触していない構成も含まれる。「要素A表面の要素B」とは、要素Aに要素Bが接触していることを示す。
【0014】
図1に示す液体吐出装置1は、液体の一例であるインクを媒体12に吐出するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙であるが、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象が媒体12として利用される。液体吐出装置1には、インクを貯留する液体容器14が設置される。液体容器14としては、例えば、液体吐出装置1に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、および、インクを補充可能なインクタンクが挙げられる。なお、液体容器14に貯留されるインクの種類は任意である。
【0015】
液体吐出装置1は、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24と循環機構26と液体吐出ヘッド3とを備える。制御ユニット20は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の1または複数の処理回路と半導体メモリー等の1または複数の記憶回路とを含み、液体吐出装置1の各要素を統括的に制御する。搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで媒体12をY軸に沿った方向に搬送する。
【0016】
移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとで液体吐出ヘッド3をX軸に沿って往復させる。X軸は、媒体12が搬送される方向に沿うY軸に交差する。第1実施形態の移動機構24は、液体吐出ヘッド3を収容する略箱型の搬送体242と、搬送体242が固定された搬送ベルト244とを備える。なお、複数の液体吐出ヘッド3を搬送体242に搭載した構成、または、液体容器14を液体吐出ヘッド3とともに搬送体242に搭載した構成も採用され得る。
【0017】
循環機構26は、液体容器14が接続される。循環機構26は、制御ユニット20による制御のもとで、液体吐出ヘッド3にインクを供給するとともに、液体吐出ヘッド3から排出されるインクを液体吐出ヘッド3への再供給のために回収する機構である。循環機構26は、例えば、インクを貯留するサブタンクと、インクを流動させるためのポンプと、を有する。循環機構26を備えることで、インクの粘度上昇を抑えたり、インク内の気泡の滞留を低減したりすることができる。
【0018】
液体吐出ヘッド3は、制御ユニット20による制御のもとで、液体容器14から循環機構26を介して供給されるインクを媒体12に吐出する。搬送機構22による媒体12の搬送と搬送体242の反復的な往復とに並行して各液体吐出ヘッド3が媒体12にインクを吐出することで、媒体12の表面に画像が形成される。
【0019】
1-2.液体吐出ヘッド3の全体構成
図2は、図1に示す液体吐出ヘッド3の一部斜視図である。図3は、図2に示す液体吐出ヘッド3の断面図である。Z軸は、液体吐出ヘッド3によるインクの吐出方向に沿う軸線である。また、Z1方向またはZ2方向から見ることを「平面視」とする。
【0020】
液体吐出ヘッド3は、仮想面aにほぼ面対称の構造である。以下の説明では、仮想面aに対して図3中右側の構成を重点的に説明し、仮想面aに対して図3中左側の構成の説明は適宜に割愛する。
【0021】
図2および図3に例示される通り、液体吐出ヘッド3は、ノズル基板37と流路構造体30と複数の圧電素子34と封止基板36と配線基板40とを備える。ノズル基板37、流路構造体30、および封止基板36のそれぞれは、詳細な図示はしないが、Y軸に沿った長尺な板状部材である。
【0022】
ノズル基板37は、複数のノズルNが形成された板状部材である。複数のノズルNのそれぞれは、インクを吐出する円形状の貫通孔である。複数のノズルNは、Y軸に沿って直線状に配列される。ノズルNの数は、例えば、400程度である。ノズル基板37は、例えばシリコンの単結晶基板等の半導体基板を加工することで製造される。
【0023】
流路構造体30は、複数のノズルNのそれぞれにインクを供給するための流路が内部に形成された構造体である。流路構造体30は、連通板31と圧力室基板32とを含む。連通板31と圧力室基板32とは、Z2方向に積層される。連通板31おけるZ1方向の表面にノズル基板37が配置される。圧力室基板32おけるZ2方向の表面に封止基板36が配置される。
【0024】
流路構造体30には、第1共通供給流路R1と第3共通供給流路R7と複数の圧力室C1と複数の第1連通流路R3と複数の第2連通流路R4と第1共通排出流路R5と第3共通排出流路R8とが形成される。連通板31および圧力室基板32のそれぞれは、凹部または貫通孔を有しており、これら凹部または貫通孔によって各流路が形成される。なお、図3では、複数の圧力室C1、複数の第1連通流路R3および複数の第2連通流路R4のうち、1つの圧力室C1、およびこれに対応する1つの第1連通流路R3および1つの第2連通流路R4が図示される。
【0025】
第1共通供給流路R1および第3共通供給流路R7のそれぞれは、Y軸に沿う長尺状に形成された空間である。第3共通供給流路R7は、圧力室基板32の内壁面で構成され、第1共通供給流路R1と第2共通供給流路R2とを連通する。第1共通供給流路R1は、第3共通供給流路R7を介して複数の圧力室C1に共通に連通し、複数の圧力室C1にインクを供給する。
【0026】
圧力室C1は、ノズルNごとに形成され、X1方向に延在する長尺状の空間である。複数の圧力室C1は、互いに離間してY軸に沿って配列される。圧力室C1は、第1共通供給流路R1に連通する。圧力室C1のX1方向における一端には、第1連通流路R3を介してノズルNが連通する。
【0027】
第1連通流路R3および第2連通流路R4のぞれぞれは、ノズルNごとに形成された空間である。複数の第1連通流路R3は、互いに離間してY軸に沿って配列される。複数の第2連通流路R4は、互いに離間してY軸に沿って配列される。第1連通流路R3は、ノズルNに対してX2方向に設けられ、圧力室C1に連通する。第2連通流路R4は、ノズルNに対してX1方向に設けられ、第1共通排出流路R5に連通する。
【0028】
第1共通排出流路R5および第3共通排出流路R8のそれぞれは、Y軸に沿う長尺状に形成された空間である。第3共通排出流路R8は、圧力室基板32の内壁面で構成され、第1共通排出流路R5と第2共通排出流路R6とを連通する。第1共通排出流路R5は、第2連通流路R4および第1連通流路R3を介して複数の圧力室C1に共通に連通し、複数の圧力室C1からインクを排出する。
【0029】
流路構造体30において、インクは、第3共通供給流路R7、第1共通供給流路R1、複数の圧力室C1、複数の第1連通流路R3、複数の第2連通流路R4、第1共通排出流路R5、および第3共通排出流路R8の順に流れる。
【0030】
また、圧力室基板32の一部は、振動板33を構成する。振動板33は、封止基板36に接触し、平面視で、複数の圧力室C1、第1共通供給流路R1、および第1共通排出流路R5に重なる。振動板33は、弾性的に変形可能である。また、圧力室基板32は、第3面306と、第3面306とは反対側の第4面307とを有する。振動板33の表面は、第3面306の一部で構成される。第3面306は、封止基板36に接触する。第4面307は、連通板31に接触する。
【0031】
連通板31および圧力室基板32は、例えばシリコンの単結晶基板等の半導体基板を加工することで製造される。なお、連通板31および圧力室基板32のそれぞれは、単一部材で構成されてもよいし、複数の部材の組み合わせにより構成されてもよい。
【0032】
封止基板36は、複数の圧電素子34を保護するとともに流路構造体30の機械的な強度を補強する構造体である。さらに、封止基板36は、インクを循環させるための流路を有する。封止基板36は、第1面301および第2面302を含む。第2面302は第1面301と反対側の面である。第2面302は、圧力室基板32に接触する。
【0033】
封止基板36には、第2共通供給流路R2と第2共通排出流路R6と配線用空間361と複数の第1空間H1と複数の第2空間H2と複数の第3空間H3とが形成される。封止基板36は、凹部または貫通孔を有しており、これら凹部または貫通孔によって各流路または空間が形成される。なお、図3では、複数の第1空間H1と複数の第2空間H2と複数の第3空間H3のうち、1つの第1空間H1、およびこれに対応する1つの第2空間H2および1つの第3空間H3が図示される。
【0034】
第2共通供給流路R2は、封止基板36を貫通する孔であって、Y軸に沿う長尺状に形成された空間である。第2共通供給流路R2は、第3共通供給流路R7を介して第1共通供給流路R1に連通し、第1共通供給流路R1にインクを供給する。第2共通排出流路R6は、封止基板36を貫通する孔であって、Y軸に沿う長尺状に形成された空間である。第2共通排出流路R6は、第3共通排出流路R8を介して第1共通排出流路R5に連通し、第1共通排出流路R5からインクを排出する。配線用空間361は、封止基板36を貫通する孔であって、Y軸に沿う長尺状に形成された空間である。なお、図示の例では、配線用空間361を形成する内壁面は、Z軸に平行であるが、Z軸に対して傾斜してもよい。傾斜している場合、配線基板40の実装時に用いられる治具との干渉を防止することができる。また、傾斜している場合、配線基板40の実装スペースを小型にできる。
【0035】
第1空間H1、第2空間H2および第3空間H3は、ノズルNごとに形成された空間であって、振動板33と封止基板36とによって囲まれた空間である。複数の第1空間H1は、互いに離間してY軸に沿って配列される。複数の第2空間H2は、互いに離間してY軸に沿って配列される。複数の第3空間H3は、互いに離間してY軸に沿って配列される。複数の第1空間H1に対してX2方向に複数の第2空間H2が配置され、複数の第1空間H1に対してX1方向に複数の第3空間H3が配置される。複数の第1空間H1には、複数の圧電素子34が1対1で配置される。
【0036】
第2空間H2は、振動板33を介して第1共通供給流路R1と隔てらえており、第1共通供給流路R1のインクの圧力変動に応じた振動板33の変形を吸収するコンプライアンス空間である。第3空間H3は、振動板33を介して第1共通排出流路R5と隔てらえており、第1共通排出流路R5のインクの圧力変動に応じた振動板33の変形を吸収するコンプライアンス空間である。第2空間H2および第3空間H3が設けられることで、インクの吐出およびインクの循環を安定化させることができる。なお、図示の例では、第1空間H1、第2空間H2および第3空間H3を形成する各内側面は、Z軸に平行であるが、Z軸に対して傾斜してもよい。
【0037】
かかる封止基板36、圧力室基板32、および連通板31が積層されることで、3次元的なインク流路が構成される。
【0038】
また、封止基板36は、フィルター360を有する。フィルター360は、第2共通供給流路R2のインク供給口に設けられる。フィルター360は、インクに混入する気泡および異物を取り除くために設けられる。異物を取り除くことで、ノズルNの詰まりを防止することができる。また、気泡を取り除くことで、圧力室C1での圧力伝搬の遅延を抑制することができる。このようなことから、フィルター360が設けられることで、安定したインク吐出を確保することができる。
【0039】
圧電素子34は、振動板33のうち圧力室C1とは反対側の第3面306上に圧力室C1ごとに配置される。圧電素子34は、平面視でX軸に沿う長尺状の受動素子である。圧電素子34は、駆動信号が印加されることで、インクを吐出するためのエネルギーを生成するエネルギー生成素子の例示である。ここではエネルギー生成素子として機械的エネルギーを生成する圧電素子を記載するが、振動板33を有する系であれば、熱エネルギーを生成する電気熱変換素子でも良い。また、圧電素子34は、駆動信号が印加されることで駆動する駆動素子でもある。圧電素子34は、配線基板40と導通し、パルス電圧が印加されて収縮し、振動板33を撓ませて、圧力室C1を加圧する。
【0040】
配線用空間361には、配線基板40が配置される。配線基板40は、圧力室基板32に接合される。配線基板40は、制御ユニット20と液体吐出ヘッド3とを電気的に接続するための複数の配線が形成された実装部品である。配線基板40としては、例えばTCP(Tape Carrier Package)またはFPC(Flexible Printed Circuit)等が用いられる。圧電素子34を駆動するための駆動信号および基準電圧が配線基板40から各圧電素子34に供給される。
【0041】
かかる液体吐出ヘッド3では、インクは、第2共通供給流路R2から流入し、第3共通供給流路R7および第1共通供給流路R1を介して圧力室C1へと導かれる。圧電素子34が駆動することで圧力室C1の圧力が変動し、この圧力の変動によって、ノズルNからインク滴が吐出される。これと同時に、インクは、第1共通排出流路R5、第3共通排出流路R8および第2共通排出流路R6を通って還流する。このように、インクは、前述の循環機構26の動作により、第1共通供給流路R1、第3共通供給流路R7、第2共通供給流路R2、圧力室C1、第1連通流路R3、第2連通流路R4、第1共通排出流路R5、第3共通排出流路R8、および第2共通排出流路R6をこの順に循環する。
【0042】
1-3.封止基板36
図4は、図3に示す封止基板36の平面図である。図4に示すように、封止基板36には、2つの第2共通供給流路R2、1つの第2共通排出流路R6、および2つの配線用空間361が形成される。第2共通供給流路R2、第2共通排出流路R6、および配線用空間361は、互いに離間し、X軸に沿って並ぶ。第2共通排出流路R6は、封止基板36のX軸に沿った中心軸A0に重なる。中心軸A0は、前述の液体吐出ヘッド3の左右面対称の基準である仮想面aと平面視で一致する。第2共通排出流路R6は、2つの第2共通供給流路R2で共通である。
【0043】
また、封止基板36には、フィルター360が設けられる。フィルター360は、Y1方向に延在する。フィルター360は、平面視で、第2共通供給流路R2に重なる。フィルター360は、封止基板36の一部で構成されるメンブレンフィルターである。
【0044】
図5は、図4に示すフィルター360の一部の拡大図である。図6は、図5に示すフィルター360の断面図である。図5および図6に示すように、フィルター360は、複数の貫通孔H0を有する。複数の貫通孔H0は、フィルター360を貫通する孔である。各貫通孔H0の平面形状は、例えば、円形である。複数の貫通孔H0は、互いに離間し、等間隔に配置される。なお、複数の貫通孔H0は、等間隔で配置されなくてもよい。
【0045】
複数の貫通孔H0の中心O1同士の間の距離、すなわち中心間距離L1は、例えば、20μm以上50μm以下である。各貫通孔H0の幅D0、すなわち直径は、例えば、10μm以上20μ以下である。フィルター360が有する複数の貫通孔H0の数は、例えば、2万個以上4万個以下である。フィルター360の開口率は、例えば、20%以上50%以下である。
【0046】
これら中心間距離L1、幅D0、複数の貫通孔H0の数、および開口率は、インクの粘度、およびインクの吐出頻度に応じて、フィルター360の圧力損失が高くなることによる吐出精度の低下を抑制するよう設定される。例えば、1つのノズル基板37が有するノズルNの数が400ノズルであり、インクの吐出頻度が5.8pl×80kHz/ノズルであり、かつ、25℃におけるインクの粘度が3.2mPa.sである場合、フィルター360の圧力損失は約200Pa以下である。かかる圧力損失であれば、吐出精度の影響は低く抑えられる。
【0047】
各貫通孔H0を形成する内壁面には、図示省略するが、液体保護膜が成膜される。液体保護膜は、例えば、酸化ケイ素膜および酸化タンタル(TaOx)膜の積層構造である。インク保護膜は、例えば、CVD(chemical vapor deposition)により形成される。
【0048】
なお、前述の図3に示す例では、第2共通供給流路R2に対応する箇所にフィルター360が設けられており、第2共通排出流路R6に対応する箇所には、フィルターが設けられていない。しかし、第2共通排出流路R6に対応する箇所にフィルターを設けてもよい。当該箇所にフィルターを設ける場合、当該フィルターは、フィルター360よりも孔径および開口率が大きくなるように設計してよい。第2共通排出流路R6に対応する箇所にフィルターを設けることで、インクの逆流による異物の流入を防止し、液体吐出ヘッド3のインク流路における異物および気泡の滞留を防止することができる。
【0049】
1-4.封止基板36の製造方法
図7は、図3に示す封止基板36の製造方法の流れを示す図である。液体吐出ヘッド製造方法は、封止基板36の製造方法を含む。図7に示すように封止基板36の製造方法は、第2工程S200および第1工程S100を含む。第2工程S200は、封止基板36の第2面302から加工する工程である。第1工程S100は、封止基板36の第1面301から加工する工程である。また、第1工程S100では、後で説明するが、金属アシスト化学エッチングが用いられる。金属アシスト化学エッチングは、MACEと略される。金属アシスト化学エッチングを用いることで、フィルター360の微細な貫通孔H0を高精度に形成することができる。なお、封止基板36の製造方法は、フィルター360の製造方法を含む。
【0050】
図8は、図7に示す第2工程S200の流れを示す図である。図8に示すように、第2工程S200は、第3酸化膜形成工程S20と、第1ウエットエッチング工程S21と、第2酸化膜形成工程S22と、第2ウエットエッチング工程S23とを含む。
【0051】
図9は、図7の第2工程S200を説明するための図である。まず、封止基板36として、例えば、結晶方位100のN型単結晶シリコン基板等の半導体基板を用意する。
【0052】
図9(a)は、第3酸化膜形成工程S20を説明するための図である。図9(a)に示すように、第3酸化膜形成工程S20では、封止基板36の外表面にパターニングされた第3酸化膜51が形成される。第3酸化膜51は、具体的には酸化シリコン膜である。したがって、封止基板36の第1面301および第2面302に第3酸化膜51が形成される。第3酸化膜51の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.02μm以上0.2μm以下である。
【0053】
封止基板36の第2面302は、第4部分3021と第5部分3022と第6部分3023と第8部分3024と第9部分3025と第10部分3026と第11部分3027とを含む。第4部分3021は、前述の第2共通供給流路R2に対応する部分である。第6部分3023は、第2共通排出流路R6に対応する部分である。第8部分3024は、配線用空間361に対応する部分である。第9部分3025は、第1空間H1に対応する部分である。第10部分3026は、第2空間H2に対応する部分である。第11部分3027は、第3空間H3に対応する部分である。第5部分3022は、第2共通供給流路R2、第2共通排出流路R6、配線用空間361、第1空間H1、第2空間H2および第3空間H3に対応しない部分である。
【0054】
第9部分3025、第10部分3026、および第11部分3027は、後述の第1ウエットエッチングにより除去される部分である。第4部分3021、第6部分3023、および第8部分3024は、後述の第2ウエットエッチングにより除去される部分である。第5部分3022は、第1ウエットエッチングおよび第2ウエットエッチングにより除去されない部分である。
【0055】
本工程において、第3酸化膜51は、第9部分3025、第10部分3026、および第11部分3027上に形成されず、第4部分3021、第5部分3022、第6部分3023、および第8部分3024上に形成される。したがって、第3酸化膜51は、平面視で、第9部分3025、第10部分3026、および第11部分3027上に重ならず、第4部分3021、第5部分3022、第6部分3023、および第8部分3024に重なる。
【0056】
パターニングされた第3酸化膜51は、例えば、以下のように形成される。熱酸化またはCVD法により、封止基板36の外表面の全域に一様に第3酸化膜51を形成する。当該第3酸化膜51の一部がレジストマスクを用いたエッチングにより除去される。例えばバッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより当該第3酸化膜51の一部が除去される。この結果、パターニングされた第3酸化膜51が得られる。
【0057】
図9(b)は、第1ウエットエッチング工程S21を説明するための図である。図9(b)に示すように、第1ウエットエッチング工程S21では、封止基板36の一部が第1ウエットエッチングにより除去される。第1ウエットエッチングは、異方性ウエットエッチングである。例えば、水酸化カリウムを用いた異方性ウエットエッチングにより封止基板36の一部が除去される。第9部分3025、第10部分3026、および第11部分3027が除去され、第1空間H1、第2空間H2および第3空間H3が形成される。
【0058】
第1ウエットエッチングが終了した後、次の工程の前に、第3酸化膜51は、除去される。例えば、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより、第3酸化膜51が除去される。なお、第3酸化膜51は、除去されなくてもよく、後述の第2酸化膜52の一部として用いられてもよい。
【0059】
図9(c)は、第2酸化膜形成工程S22を説明するための図である。図9(c)に示すように、第2酸化膜形成工程S22では、封止基板36の外表面にパターニングされた第2酸化膜52が形成される。第2酸化膜52は、具体的には酸化シリコン膜である。したがって、封止基板36の第1面301および第2面302に第2酸化膜52が形成される。第2酸化膜52の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.02μm以上0.2μm以下である。
【0060】
本工程において、第2酸化膜52は、第4部分3021、第6部分3023、および第8部分3024上には形成されず、第5部分3022上に形成される。したがって、第2酸化膜52は、平面視で、第4部分3021、第6部分3023、および第8部分3024に重ならず、第5部分3022に重なる。また、第2酸化膜52は、第1空間H1、第2空間H2および第3空間H3を形成する各内壁面上に形成される。
【0061】
パターニングされた第2酸化膜52は、例えば、以下のように形成される。熱酸化またはCVD法により、封止基板36の外表面の全域に一様に第2酸化膜52を形成する。当該第2酸化膜52の一部がレジストマスクを用いたエッチングにより除去される。例えばバッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより当該第2酸化膜52の一部が除去される。この結果、パターニングされた第2酸化膜52が得られる。
【0062】
図9(d)および図9(e)は、第2ウエットエッチング工程S23を説明するための図である。図9(d)に示すように、第2ウエットエッチング工程S23では、封止基板36の一部が第2ウエットエッチングにより除去される。第2ウエットエッチングは、異方性ウエットエッチングである。例えば、水酸化カリウムを用いた異方性ウエットエッチングにより封止基板36の一部が除去される。第4部分3021、第6部分3023、および第8部分3024が除去され、第2共通供給流路R2、第2共通排出流路R6の一部、および配線用空間361の一部が形成される。
【0063】
図9(e)に示すように、第1ウエットエッチングが終了した後、第2酸化膜52は、除去される。例えば、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより、第2酸化膜52が除去される。なお、第2酸化膜52は、除去されなくてもよく、後述の第1工程S100で用いられる酸化膜41の一部として使用してもよい。
【0064】
図10は、図7に示す第1工程S100の流れを示す図である。図10に示すように、第1工程S100は、酸化膜形成工程S10、保護膜形成工程S11、レジスト層形成工程S12、レジスト層パターニング工程S13、酸化膜エッチング工程S14、金属膜形成工程S15、レジスト層除去工程S16、および金属アシスト化学エッチング工程S17を含む。
【0065】
図11は、図10の酸化膜形成工程S10からレジスト層パターニング工程S13までを説明するための図である。図11(a)は、酸化膜形成工程S10を説明するための図である。図11(a)に示すように、酸化膜形成工程S10では、封止基板36の外表面の全域に酸化膜41が形成される。したがって、酸化膜41は、第1面301および第2面302上に形成される。なお、酸化膜41は、第1面301上にのみ形成され、第2面302上に形成されなくてもよい。酸化膜41は、具体的には酸化シリコン膜である。例えば、CVD(chemical vapor deposition)法または熱酸化により酸化膜41が形成される。酸化膜41の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.02μm以上0.2μm以下である。
【0066】
図11(b)は、保護膜形成工程S11を説明するための図である。図11(b)に示すように、保護膜形成工程S11では、封止基板36の第2面302上に保護膜42が形成される。具体的には、保護膜42は、第2面302上の酸化膜41上に形成される。保護膜42は、例えば、ダイヤモンドライクカーボン等で構成される。ダイヤモンドライクカーボンは、DLCと略される。例えば、CVD法またはスパッタリング法により保護膜42が形成される。
【0067】
図11(c)は、レジスト層形成工程S12を説明するための図である。図11(c)に示すように、レジスト層形成工程S12では、封止基板36の第1面301上にレジスト層43を形成する。具体的には、第1面301上に形成された酸化膜41上にレジスト層43を形成する。レジストを酸化膜41上に塗布し、遠心力を利用して酸化膜41上にレジスト層43を形成する。レジスト層43の厚みは、特に限定されないが、例えば、1μm以上3μm以下である。
【0068】
図11(d)および11(e)のそれぞれは、レジスト層パターニング工程S13を説明するための図である。図11(d)に示すように、レジスト層パターニング工程S13では、レジスト層43の一部を除去することにより、レジスト層43をパターニングする。
【0069】
封止基板36の第1面301は、第1部分3011と第2部分3012と第3部分3013と第7部分3014とを含む。第1部分3011は、第2共通供給流路R2に平面視で重なり、フィルター360に対応する部分である。第3部分3013は、第2共通排出流路R6に対応する部分である。第7部分3014は、配線用空間361に対応する部分である。第2部分3012は、第2共通供給流路R2、第2共通排出流路R6および配線用空間361に対応しない部分である。第1部分3011、第3部分3013、および第7部分3014は、後述の金属アシスト化学エッチングにより除去される部分である。第2部分3012は、金属アシスト化学エッチングにより除去されない部分である。
【0070】
レジスト層パターニング工程S13では、第1部分3011、第3部分3013、および第7部分3014で開口し、第2部分3012で開口しないようレジスト層43をパターニングする。
【0071】
図11(e)に示すように、レジスト層43をパターニングした後、リフローベークを行う。この結果、パターニングされたレジスト層43は、表面張力によって、Z2方向の面がZ1方向の面よりも狭い状態になる。
【0072】
図12は、図10の酸化膜エッチング工程S14から金属アシスト化学エッチング工程S17までを説明するための図である。
【0073】
図12(a)は、酸化膜エッチング工程S14を説明するための図である。図12(a)に示すように、酸化膜エッチング工程S14では、酸化膜41の一部をエッチングにより除去することにより、酸化膜41がパターニングされる。例えば、レジスト層43をマスクとして、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより、酸化膜41の一部が除去される。バッファードフッ酸は、BHFと略される。
【0074】
酸化膜エッチング工程S14では、第1面301とレジスト層43との間に隙間Gが形成される。すなわち、酸化膜エッチング工程S14では、隙間Gが形成される程度に、酸化膜41の一部が除去される。特に、封止基板36がシリコンを含む場合、フッ酸を用いたウエットエッチングを行うことにより、隙間Gを形成し易い。また、隙間Gが形成されることで、パターニングされた酸化膜41は、平面視でパターニングされたレジスト層43に覆われている。
【0075】
図12(b)は、金属膜形成工程S15を説明するための図である。図12(b)に示すように、金属膜形成工程S15では、封止基板36の第1面301上に金属膜44を形成する。具体的には、第1面301上に配置されたレジスト層43上に金属膜44を形成する。金属膜44は、例えば、スパッタリング法等により成膜される。金属膜44は、例えば、プラチナ、ルテニウム、プラチナ、パラジウム、モリブデン、クロム、銅、タンタル、チタン、またはイリジウムを含む。
【0076】
前述のように、第1面301とレジスト層43との間には隙間Gが形成される。このため、金属膜44は、第1面301に接触する部分441と、レジスト層43に接触する部分442とを含む。隙間Gが設けられることで、部分441と部分442とは連続しておらず、分断される。
【0077】
図12(c)は、レジスト層除去工程S16を説明するための図である。図12(c)に示すように、レジスト層除去工程S16では、レジスト層43が除去される。この除去に伴い、レジスト層43上に接触する金属膜44の部分442も同時に除去される。この結果、複数の部分441で構成される金属膜44が第1面301上に形成される。
【0078】
金属膜44は、第1部分3011、第3部分3013、および第7部分3014表面に形成され、第2部分3012表面には形成されない。したがって、金属膜44は、平面視で、第1部分3011、第3部分3013、および第7部分3014に重なり、第2部分3012に重ならない。また、金属膜44は、第1部分3011、第3部分3013、および第7部分3014に接触しており、第2部分3012には接触していない。また、金属膜44は、平面視で第3部分3013が有する周縁3013aに形成され、第2部分3012の中心には形成されない。同様に、金属膜44は、平面視で第7部分3014の周縁3014aに形成され、第7部分3014の中心部には形成されない。
【0079】
図12(d)および(e)のそれぞれは、金属アシスト化学エッチング工程S17を説明するための図である。図12(d)に示すように、金属アシスト化学エッチング工程S17では、金属アシスト化学エッチングにより封止基板36の一部を除去する。例えば、フッ化水素および酸化剤を含む溶媒を用いた金属アシスト化学エッチングが最適である。
【0080】
金属アシスト化学エッチングでは、金属膜44の材料の触媒作用による封止基板36の酸化と、溶媒による封止基板36の酸化物のエッチングと、金属膜44と封止基板36とのクーロン力による吸着とが繰り返される。これらが繰り返されることで、Z1方向に穴を形成することが可能である。
【0081】
図12(e)に示すように、封止基板36の一部を除去した後、金属膜44が除去される。また、酸化膜41および保護膜42も除去される。酸化膜41は、例えば、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより除去される。保護膜42は、例えばプラズマアッシングにより除去される。この結果、封止基板36に、第2共通供給流路R2に設けられたフィルター360、第2共通排出流路R6の残部、および配線用空間361の残部が形成される。
【0082】
以上により、封止基板36に、フィルター360、第2共通供給流路R2、第2共通排出流路R6、配線用空間361、第1空間H1、第2空間H2、および第3空間H3が形成される。
【0083】
図13は、図7に示す第1工程S100におけるフィルター360の製造を説明するための図である。図13は、フィルター360の一部が拡大して図示される。図11および図12では、フィルター360が有する複数の貫通孔H0の形成の詳細な図示が省略されている。よって、図13を用いて、フィルター360の製造工程の一部を説明する。
【0084】
図13(a)は、レジスト層パターニング工程S13を説明するための図である。図13(a)に示すように、封止基板36の第1面301が有する第1部分3011は、孔対応部3011aと非孔対応部3011bとを含む。孔対応部3011aは、第1部分3011のうち貫通孔H0に対応する部分である。非孔対応部3011bは、第1部分3011のうち貫通孔H0以外に対応する部分である。レジスト層パターニング工程S13では、貫通孔H0で開口し、貫通孔H0で開口しないようレジスト層43をパターニングする。また、レジスト層43をパターニングした後、リフローベークが行われる。
【0085】
図13(b)は、酸化膜エッチング工程S14を説明するための図である。図13(b)に示すように、酸化膜エッチング工程S14では、酸化膜41の一部をエッチングにより除去することにより、酸化膜41がパターニングされる。この結果、酸化膜41のうち孔対応部3011aに対応する部分が除去される。また、第1面301とレジスト層43との間に隙間Gが形成される。
【0086】
図13(c)は、金属膜形成工程S15を説明するための図である。図13(c)に示すように、金属膜形成工程S15では、封止基板36のレジスト層43上に金属膜44を形成する。金属膜44は、第1面301に接触する部分441と、レジスト層43に接触する部分442とを含む。
【0087】
図13(d)は、レジスト層除去工程S16を説明するための図である。図13(d)に示すように、レジスト層除去工程S16では、レジスト層43が除去される。この除去に伴い、部分442も同時に除去される。この結果、複数の部分441で構成される金属膜44が第1面301表面に形成される。
【0088】
金属膜44は、孔対応部3011a表面に形成され、非孔対応部3011b表面には形成されない。したがって、金属膜44は、平面視で、孔対応部3011aに重なり、非孔対応部3011bに重ならない。また、金属膜44は、孔対応部3011aに接触しており、非孔対応部3011bには接触していない。
【0089】
図13(e)のそれぞれは、金属アシスト化学エッチング工程S17を説明するための図である。図13(e)に示すように、金属アシスト化学エッチング工程S17では、金属アシスト化学エッチングにより孔対応部3011aが除去される。この結果、複数の貫通孔H0を有するフィルター360が形成される。
【0090】
図14は、金属アシスト化学エッチング工程S17を説明するための図である。図14(a)に示すように、前述の金属膜44は、複数の貫通孔Hを有する。各貫通孔Hは、金属膜44をZ1方向に貫通する。複数の貫通孔Hは、金属膜44の多孔質化により設けられ、レジスト層除去工程S16において形成されてもよいし、金属膜形成工程S15で形成される金属膜44において形成されてもよい。また、以下では、フッ化水素および酸化剤を含む溶媒を用いた場合を例に金属アシスト化学エッチングについて説明する。
【0091】
図14(a)に示すように、溶媒に含まれるフッ化水素が金属膜44と反応し、金属膜44の材料の触媒作用により封止基板36が酸化する。この結果、封止基板36の酸化物が形成される。図14(b)の複数の矢印で示すように、溶媒は、金属膜44の複数の貫通孔Hを移動する。溶媒は、貫通孔Hから封止基板36と金属膜44との間に侵入する。侵入した溶媒に含まれる酸化剤により封止基板36の酸化物が溶解する。図10(c)に示すように、金属膜44と封止基板36とのクーロン力により、封止基板36に金属膜44が吸着する。図14(a)、(b)および(c)に示す状態が繰り替えされることで、Z1方向に穴が形成される。
【0092】
前述のように、封止基板36の製造方法は、金属アシスト化学エッチングを行うことにより、フィルター360を形成する第1工程S100を含む。第1工程S100では、封止基板36が有する第1面301のうちの第2共通供給流路R2に対応する第1部分3011表面に金属膜44を形成し、かつ第1面301のうちの第2共通供給流路R2に対応しない第2部分3012表面に金属膜44が形成されていない状態で金属アシスト化学エッチングが行われる。この結果、第2共通供給流路R2に設けられたフィルター360が形成される。
【0093】
金属アシスト化学エッチングでは、ドライエッチングの様なマイクロローディング効果がないため、これを用いることで、高アスペクト比の半導体貫通孔の微細加工が可能となり、フィルター360が有する複数の貫通孔H0を、開口率や開口数に関わらず、アスペクト比が異なる配線用空間361や第2共通排出流路R6等の半導体貫通孔と同時に、高精細に形成することができる。
【0094】
ウエハー毎の加工となるドライエッチングでは加工するウエハー数の増大に伴い加工時間が膨大となり、生産性と製造のための真空装置への投資効率が低下するおそれがある。さらに、従来のドライエッチングでは、温室効果ガスの除害が必要であり、環境負荷が増大する。一方、金属アシスト化学エッチングによれば多数のウエハーを一括してエッチング処理することが可能で、当該加工時間が膨大にかかることが低減される。さらに、製造時の環境負荷が低い。
【0095】
また、結晶方位に沿った異方性ウエットエッチングでは貫通孔H0の幅D1、中心間距離L1、および開口率を制御することが難しい。一方、金属アシスト化学エッチングによれば、目的とする幅D1、中心間距離L1、および開口率を有する貫通孔H0を形成し易い。加えて、金属アシスト化学エッチングを用いることで、封止基板36の一部を用いてフィルター360を形成することができる。このため、封止基板36と別体でフィルター360を形成し、当該フィルター360を封止基板36に溶着する必要がない。
【0096】
以上のように、金属アシスト化学エッチングを用いることで、高価な真空装置を必要とせずに、目的とする高精細な貫通孔H0を有するフィルター360を容易に形成することができる。よって、かかるフィルター360を備えることで、安定したインク吐出が確保された吐出性能に優れる液体吐出ヘッド3を提供することができる。
【0097】
前述のように、第1工程S100は、レジスト層形成工程S12と、レジスト層パターニング工程S13と、金属膜形成工程S15とを含む。レジスト層形成工程S12では、封止基板36の第1面301上にレジスト層43を形成する。レジスト層パターニング工程S13では、レジスト層43を形成した後に、第1部分3011で開口し、第2部分3012で開口しないようにレジスト層43をパターニングする。金属膜形成工程S15では、レジスト層43をパターニングした後に、第1面301上に金属膜44を形成する。
【0098】
パターニングされたレジスト層43を用いることで、金属膜44を非エッチング領域である第2部分3012の表面に工程上一度も触れさせずに第1部分3011に対応する金属膜44を形成することが可能となる。すなわち、金属膜44を目的とする箇所に形成する以外の部分には原子レベルで金属を拡散、残留させずに、目的とする箇所のみに金属膜44を形成することを可能にしている。
【0099】
前述のように、第1工程S100は、酸化膜形成工程S10と、酸化膜エッチング工程S14とを含む。酸化膜形成工程S10では、レジスト層43を形成する前に、第1面301上に酸化膜41を形成する。その後、レジスト層形成工程S12において酸化膜41上にレジスト層43が形成される。また、酸化膜エッチング工程S14では、レジスト層43をパターニングした後であって、金属膜44を形成する前に、酸化膜41をエッチングすることにより、酸化膜41のうち第1部分3011上の部分を開口させる。
【0100】
このため、第1面301とレジスト層43と間に酸化膜41が形成される。酸化膜41が形成されることで、後の工程での酸化膜41からのレジスト層43の剥離、すなわち、レジスト剥離による第1面301表面への金属膜44のパターニングがし易い。具体的には、レジスト層43および酸化膜41のそれぞれが第1部分3011に開口していることで、前述のように、第1部分3011に対応する金属膜44を形成し易い。
【0101】
さらに、酸化膜エッチング工程S14では、酸化膜41をエッチングすることにより、第1面301とレジスト層43の間に隙間Gを形成する。隙間Gが形成されることで、隙間Gが形成されない場合に比べ、後の工程で金属膜44をパターニングし易い。隙間Gが設けられることで、金属膜44を第1面301に接触する部分441とレジスト層43に接触する部分442とに、金属膜44の成膜時に分離し、金属膜44をレジスト層43の剥離時にその輪郭を明瞭なままにして簡単に分断することができる。
【0102】
第1工程S100は、レジスト層除去工程S16を含む。レジスト層除去工程S16では、第1面301上に金属膜44を形成した後、レジスト層43を除去する。前述のようにレジスト層43を除去することにより、部分442で構成される金属膜44が第1面301上に形成される。このため、簡単にパターニングされた金属膜44を形成することができる。微細な形状の金属膜44であっても、かかる方法によれば、簡単かつ高精度に目的とする形状および配置のパターンを有する金属膜44を形成することができる。
【0103】
第1工程S100において、フッ化水素および酸化剤を含む溶媒を用いて、金属アシスト化学エッチングが行われることが好ましい。フッ化水素を用いることで封止基板36の酸化物をエッチングにより除去し易い。酸化剤を用いることで、金属膜44を触媒として封止基板36を酸化させることができる。このため、金属アシスト化学エッチングを効率良く行うことができる。
【0104】
酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、過酸化水素水(H2O2)、および硝酸(HNO3)が挙げられる。特に、封止基板36が酸化シリコンを含む場合、封止基板36の酸化物の効率的な形成のために、酸化剤は過酸化水素水であることが好ましい。なお、溶媒の種類はフッ化水素および酸化剤を含むことに限定されない。
【0105】
金属膜44は、前述のように、例えば、プラチナ、ルテニウム、プラチナ、パラジウム、モリブデン、クロム、銅、タンタル、チタン、またはイリジウムを含む。これらの中でも金属膜44は、金で構成されることが好ましい。金は、触媒反応に特に優れるためである。また、溶媒に含まれる酸化剤が過酸化水素水である場合、金の触媒反応を好適に発揮させることができる。
【0106】
封止基板36としては、半導体材料を含む基板であれば特に限定されないが、シリコン基板であることが好ましく、N型の単結晶シリコン基板であることが特に好ましい。N型を採用することで、キャリア電子の作用により金属アシスト化学エッチングを効率的に行うことができる。また、高いエッチングレートであっても面粗が生じ難く、高品質である。
【0107】
また、前述のように、第1部分3011には、第2共通供給流路R2と重なる領域を覆い、かつ、フィルター360が有する貫通孔H0に対応する部分である孔対応部3011a表面に金属膜44が存在するようにして、金属膜44が形成される。このため、フィルター360のうち、孔対応部3011aを金属アシスト化学エッチングにより選択的に除去することができる。よって、目的とする箇所に貫通孔H0を形成することができる。フィルター360が有する貫通孔H0は、幅D1、および中心間距離L1が非常に微細である。金属アシスト化学エッチングを用いることで、このような微細な形状を高精細に形成することができる。
【0108】
また、第1工程S100において、第1部分3011に加えて、第3部分3013および第7部分3014上に金属膜44を形成した状態で、金属アシスト化学エッチングが行われることで、フィルター360、第2共通排出流路R6の一部および配線用空間361の一部が一括で形成される。金属アシスト化学エッチングによれば、ドライエッチングのようにエッチングパターンの平面区画形成面積の違いによるエッチングレートの差、すなわちマイクロローディング効果が生じない。このため、フィルター360、第2共通排出流路R6の一部、および配線用空間361の一部を一括で均一に簡単かつ迅速に形成することができる。つまり、X-Y平面に平行な断面積が異なる孔を一括で簡単かつ迅速に形成することができる。このため、加工時間を短くすることができる。
【0109】
また、前述のように、第2共通排出流路R6と重なる領域である第3部分3013のうちの周縁3013a表面に金属膜44が存在し、第3部分3013の中央表面には金属膜44が存在しないようにして、金属膜44が形成される。第3部分3013の全域が金属膜44で覆われる場合、金属膜44の平面積が増加することにより、金属膜44に反り等が生じるおそれがある。これに対し、周縁3013aにだけ金属膜44を形成することで、当該反りの発生のおそれを抑制しつつ、封止基板36のうち第2共通排出流路R6に対応する第3部分3013を除去することができる。
【0110】
また、配線用空間361に対応する第7部分3014についても同様に、周縁3014aに金属膜44が設けられることで、金属膜44の反りを抑制しつつ、封止基板36のうち配線用空間361に対応する第7部分3014を除去することができる。なお、金属膜44は、第3部分3013の全域に設けられてもよい。同様に、金属膜44は、第7部分3014の全域に設けられてもよい。
【0111】
また、封止基板36の製造方法は、第2工程S200を含む。第2工程S200では、第2共通排出流路R6が形成される。第2共通排出流路R6は、封止基板36が有する第2面302のうちの第2共通排出流路R6に対応する第4部分3021上に第2酸化膜52を形成し、第2面302のうちの第2共通排出流路R6に対応しない第5部分3022上に第2酸化膜52が形成されていない状態で、異方性ウエットエッチングを行うことで形成される。
【0112】
フィルター360の貫通孔H0の幅D1よりも大きな幅の孔で構成される第2共通排出流路R6を形成する場合、異方性ウエットエッチングを用いることは製造時間の短縮化の観点から有効である。したがって、封止基板36の形成において、例えば孔のサイズに応じて異方性ウエットエッチングおよび金属アシスト化学エッチングを併用することで、目的とする構成の封止基板36を迅速かつ容易に形成することができる。
【0113】
また、封止基板36の製造方法は、第2工程S200と第1工程S100とがこの順番で行われる。金属アシスト化学エッチングを用いることで、位置精度が高い加工が実現される。このため、第2面302と第1面301の加工をこの順に行うことで、第2共通供給流路R2に設けられたフィルター360を形成することができる。さらに、第2共通排出流路R6、および配線用空間361のそれぞれを直接接続させることができる。
【0114】
なお、本実施形態では、第2共通排出流路R6、および配線用空間361の各断面積は一定であったが、一定でなくてもよい。例えば、第2工程S200で形成される第2共通排出流路R6の一部の断面積よりも、第1工程S100で形成される第2共通排出流路R6の残部の断面積が大きくてもよい。同様に、第2工程S200で形成される配線用空間361の一部の断面積よりも、第1工程S100で形成される配線用空間361の残部の断面積が大きくてもよい。
【0115】
2.第2実施形態
以下、第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が前述の第1実施形態と同様である要素については、前述の第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0116】
図15は、第2実施形態における封止基板36Aの製造方法の流れを示す図である。本実施形態における封止基板36の製造方法は、第2工程S201と、第1工程S100と、第2工程S202とを含む。第1実施形態の第2工程S200が、2つの第2工程S201および第2工程S202に分割されている。
【0117】
図16は、図15に示す1つ目の第2工程S201の流れを示す図である。図16に示すように、1つ目の第2工程S201は、第3酸化膜形成工程S20と、第1ウエットエッチング工程S21とを含む。
【0118】
図17は、図15に示す2つ目の第2工程S202の流れを示す図である。図17に示すように、2つ目の第2工程S202は、第2酸化膜形成工程S22と、第2ウエットエッチング工程S23とを含む。
【0119】
図18は、図16に示す1つ目の第2工程S201を説明するための図である。本実施形態では、封止基板36Aを構成する半導体基板としてSOI基板が用いられる。SOI基板の仕様は特に限定されない。例えば、当該半導体基板で構成される封止基板36Aは、結晶方位100のN型の単結晶シリコン基板303、酸化シリコン膜304、および結晶方位110のP型の単結晶シリコン基板305の積層体である。SOI基板の仕様を同例の構成とすることで、SOI基板の結晶方位100のN型の単結晶シリコン基板303ではMACEにより均一で垂直なシリコン孔加工を可能とし、結晶方位110のP型の単結晶シリコン基板305では流路壁を111面で構成する異方性ウエットエッチングによる高精度のシリコン溝加工が可能である。以て、それぞれの流路形状・寸法を作り込める最適なシリコン加工が可能な構成としたSOI基板の仕様とすることができる。
【0120】
図18(a)は、第3酸化膜形成工程S20を説明するための図である。図18(a)に示すように、第3酸化膜形成工程S20では、封止基板36の外表面にパターニングされた第3酸化膜51が形成される。第3酸化膜51は、第9部分3025、第10部分3026、および第11部分3027上に形成されず、第4部分3021、第5部分3022、第6部分3023、および第8部分3024上に形成される。
【0121】
図18(b)および(c)は、第1ウエットエッチング工程S21を説明するための図である。図18(b)に示すように、第1ウエットエッチング工程S21では、封止基板36の一部が第1ウエットエッチングにより除去される。第1ウエットエッチングとしての異方性ウエットエッチングにより、第9部分3025、第10部分3026、および第11部分3027が除去され、第1空間H1、第2空間H2および第3空間H3が形成される。
【0122】
図18(c)に示すように、第1ウエットエッチング終了後、次の工程の前に、例えば、第3酸化膜51は除去される。
【0123】
図19は、図15に示す第1工程S100を説明するための図である。第1工程S100は、第1実施形態と同様である。図19(a)は、第1工程S100のうちのレジスト層除去工程S16を説明するための図である。図19(a)に示すように、レジスト層除去工程S16では、第1実施形態と同様に、複数の部分441で構成される金属膜44が第1面301上に形成される。金属膜44は、第1部分3011、第3部分3013、および第7部分3014に接触しており、第2部分3012には接触していない。
【0124】
図19(b)および(c)のそれぞれは、第1工程S100のうちの金属アシスト化学エッチング工程S17を説明するための図である。図19(b)に示すように、金属アシスト化学エッチングにより封止基板36の一部が除去される。第1部分3011、第3部分3013、および第7部分3014が除去される。また、図19(c)に示すように、封止基板36の一部を除去した後、金属膜44が除去される。また、酸化膜41および保護膜42も除去される。この結果、封止基板36に、フィルター360、第2共通排出流路R6の一部、および配線用空間361の一部が形成される。
【0125】
図20は、図19に示すフィルター360の製造を説明するための図である。図20(a)は、レジスト層除去工程S16を説明するための図である。図20(a)に示すように、レジスト層除去工程S16では、金属膜44は、孔対応部3011a表面に形成され、非孔対応部3011b表面には形成されない。よって、金属膜44は、孔対応部3011aに接触しており、非孔対応部3011bには接触していない。
【0126】
図20(b)は、金属アシスト化学エッチング工程S17を説明するための図である。図20(b)に示すように、金属アシスト化学エッチング工程S17では、金属アシスト化学エッチングにより孔対応部3011aが除去される。この結果、複数の貫通孔H0が形成される。
【0127】
図21は、図17に示す2つ目の第2工程S202を説明するための図である。図21(a)は、第2酸化膜形成工程S22を説明するための図である。図21(a)に示すように、第2酸化膜形成工程S22では、封止基板36Aの外表面にパターニングされた第2酸化膜52が形成される。第2酸化膜52は、第4部分3021、第6部分3023、および第8部分3024上には形成されず、第5部分3022上に形成される。
【0128】
図21(b)および(c)は、第2ウエットエッチング工程S23を説明するための図である。図21(b)に示すように、第2ウエットエッチング工程S23では、封止基板36の一部が第2ウエットエッチングにより除去される。第2ウエットエッチングとしての異方性ウエットエッチングにより、第4部分3021、第6部分3023、および第8部分3024が除去される。この結果、第2共通供給流路R2、第2共通排出流路R6の残部、および配線用空間361の残部が形成される。
【0129】
図21(c)に示すように、第2ウエットエッチング終了後、第2酸化膜52は除去される。
【0130】
以上により、封止基板36Aに、フィルター360、第2共通供給流路R2、第2共通排出流路R6、配線用空間361、第1空間H1、第2空間H2、および第3空間H3が形成される。
【0131】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、金属アシスト化学エッチングが用いられることで、高価な真空装置を必要とせずに、目的とする高精細な貫通孔H0を有するフィルター360を容易に形成することができる。よって、かかるフィルター360を備えることで、安定したインク吐出が確保された吐出性能に優れる液体吐出ヘッド3を提供することができる。
【0132】
また、封止基板36Aの形成において、異方性ウエットエッチングおよび金属アシスト化学エッチングを併用することで、目的とする構成の封止基板36Aを迅速かつ容易に形成することができる。
【0133】
加えて、SOI基板の酸化シリコン膜304によりそれぞれのエッチングが停止するので、Z軸に沿った方向の寸法は、SOI基板を構成するそれぞれの単結晶シリコン基板303、305の厚みにより決定づけることができるので、SOI基板の厚み精度を高めることで、目的とする厚みのフィルター360を高い精度で形成することが可能となる。
【0134】
3.第3実施形態
以下、第3実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が前述の第1実施形態と同様である要素については、前述の第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0135】
図22は、第3実施形態における液体吐出ヘッド3Bの一部を示す図である。図22に示す液体吐出ヘッド3Bでは、封止基板36にフィルター360が設けられておらず、圧力室基板32にフィルター320が設けられる。具体的には、フィルター320は、第3共通供給流路R7に設けられる。フィルター320は、フィルター360と配置が異なる以外、同様である。したがって、フィルター320の構成および機能は、フィルター360の構成および機能と同じである。
【0136】
図23は、図22に示す圧力室基板32の製造を説明するための図である。圧力室基板32の製造方法は、第1実施形態の封止基板36の製造方法を用いることができる。したがって、第2工程S200および第1工程S100は、第1実施形態と同様である。
【0137】
図23(a)は、第1工程S100のうちのレジスト層除去工程S16を説明するための図である。図23(a)に示すように、レジスト層除去工程S16では、複数の部分441で構成される金属膜44が第3面306上に形成される。金属膜44は、前述のフィルター320に対応する部分3061の表面、および第3共通排出流路R8に対応する部分3063の表面に形成される。部分3061は、第3共通供給流路R7に平面視で重なる領域である。部分3063は、平面視で第3共通排出流路R8に重なる領域である。一方、金属膜44は、部分3061および3063に対応しない部分3062の表面に形成されない。金属膜44は、部分3061および部分3063に接触し、部分3062に接触しない。
【0138】
図23(b)は、第1工程S100のうちの金属アシスト化学エッチング工程S17を説明するための図である。図23(b)に示すように、金属アシスト化学エッチングにより圧力室基板32の一部が除去される。部分3061および部分3063が除去され、第3共通供給流路R7に設けられたフィルター320、および第3共通排出流路R8の一部が形成される。
【0139】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、金属アシスト化学エッチングが用いられることで、高価な真空装置を必要とせずに、目的とする高精細な貫通孔H0を有するフィルター320を容易に形成することができる。よって、かかるフィルター320を備えることで、安定したインク吐出が確保された吐出性能に優れる液体吐出ヘッド3Bを提供することができる。
【0140】
なお、前述の第1実施形態の製造方法が適用された圧力室基板32の製造方法に変えて、第2実施形態の製造方法を適用することも可能である。
【0141】
4.液体吐出ヘッド3の製造方法
図24は、液体吐出ヘッド3の製造方法の流れを示す図である。前述のように、液体吐出ヘッド3は、封止基板36と、圧力室基板32と、連通板31と、ノズル基板37と、を有する。
【0142】
図24に示す例では、ステップSS1において、複数の圧力室基板32を含む圧力室基板ウエハー、複数のノズル基板37を含むノズル基板ウエハー、および複数の連通板31を含む連通板ウエハーをそれぞれ個別に形成する。ステップSS2において、これらウエハーを直接接合する。その後、各流路を形成する壁面に対して液体保護層を成膜する。なお、液体保護層は直接接合前に成膜してもよい。また、ステップSS3において、複数の封止基板36を含む封止基板ウエハーを形成し、各流路に対して液体保護層を成膜する。
【0143】
前述の液体保護層は、例えば、タンタル酸化物、または酸化ハフニウムを含む。タンタル酸化物の化学式は、TaOxで表される。酸化ハフニウムの化学式は、HfOxで表される。液体保護層は、例えば、ALD(Atomic Layer Deposition)法で形成される。
【0144】
ステップSS4で、圧力室基板ウエハー、ノズル基板ウエハーおよび連通板ウエハーに対して封止基板ウエハーを接合することで、これらウエハーを含む構造物を製造する。ステップSS5において当該構造物をレーザースクラブ等で割断してチップ化する。ステップSS6において、チップを実装パッドにCOF実装する。COFは、Chip On Filmの略である。その後、ステップSS7において、インク配管部品等のケース部品を接着等により組み立てる。これにより、液体吐出ヘッド3が得られる。
【0145】
5.変形例
以上に例示した実施形態は多様に変形され得る。前述の実施形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0146】
前述の各実施形態では、第1空間H1、第2空間H2および第3空間H3を形成した後、第2共通供給流路R2、配線用空間361および第2共通排出流路R6が形成される。しかし、第2共通供給流路R2、配線用空間361および第2共通排出流路R6を形成した後に、第1空間H1、第2空間H2および第3空間H3が形成されてもよい。また、第2共通供給流路R2、配線用空間361および第2共通排出流路R6の各一部と同時に、第1空間H1、第2空間H2および第3空間H3は形成されてもよい。
【0147】
液体吐出ヘッド3は、循環機構26を有していなくてもよい。すなわち、液体吐出ヘッド3は、インクが循環しない構成であってもよい。この場合、第2共通排出流路R6および第1共通排出流路R5は省略される。
【0148】
金属膜44は、スパッタリング法等により形成されるが、金属膜44は、無電解めっきにより形成されてもよい。この場合、酸化膜41の成膜は省略してもよい。レジスト膜がマスクとして用いられる。
【0149】
第1実施形態で例示した液体吐出装置1は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。液体吐出装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示パネル等の表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する液体吐出装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。また、生体に関する有機物の溶液を吐出する液体吐出装置は、例えばバイオチップを製造する製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0150】
1…液体吐出装置、3…液体吐出ヘッド、3B…液体吐出ヘッド、12…媒体、14…液体容器、20…制御ユニット、22…搬送機構、24…移動機構、26…循環機構、30…流路構造体、31…連通板、32…圧力室基板、33…振動板、34…圧電素子、36…封止基板、36A…封止基板、37…ノズル基板、40…配線基板、41…酸化膜、42…保護膜、43…レジスト層、44…金属膜、51…第3酸化膜、52…第2酸化膜、242…搬送体、244…搬送ベルト、301…第1面、302…第2面、303…単結晶シリコン基板、304…酸化シリコン膜、305…単結晶シリコン基板、306…第3面、307…第4面、320…フィルター、360…フィルター、361…配線用空間、441…部分、442…部分、3011…第1部分、3011a…孔対応部、3011b…非孔対応部、3012…第2部分、3013…第3部分、3013a…周縁、3014…第7部分、3014a…周縁、3021…第4部分、3022…第5部分、3023…第6部分、3024…第8部分、3025…第9部分、3026…第10部分、3027…第11部分、3061…部分、3062…部分、3063…部分、A0…中心軸、C1…圧力室、G…隙間、H0…貫通孔、H1…第1空間、H2…第2空間、H3…第3空間、L1…中心間距離、N…ノズル、O1…中心、R1…第1共通供給流路、R2…第2共通供給流路、R3…第1連通流路、R4…第2連通流路、R5…第1共通排出流路、R6…第2共通排出流路、R7…第3共通供給流路、R8…第3共通排出流路、S100…第1工程、S200…第2工程、S201…第2工程、S202…第2工程、S10…酸化膜形成工程、S11…保護膜形成工程、S12…レジスト層形成工程、S13…レジスト層パターニング工程、S14…酸化膜エッチング工程、S15…金属膜形成工程、S16…レジスト層除去工程、S17…金属アシスト化学エッチング工程、S20…第3酸化膜形成工程、S21…第1ウエットエッチング工程、S22…第2酸化膜形成工程、S23…第2ウエットエッチング工程、SS1…ステップ、SS2…ステップ、SS3…ステップ、SS4…ステップ、SS5…ステップ、SS6…ステップ、SS7…ステップ、a…仮想面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24