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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013984
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】電気音響変換器
(51)【国際特許分類】
   H04R 23/00 20060101AFI20240125BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H04R23/00 330
H04R3/00 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116489
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 孝
(72)【発明者】
【氏名】安野 裕貴
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019AA02
5D019AA21
5D019DD00
5D019FF01
5D019HH01
(57)【要約】
【課題】非線形な音響出力を可能な限り低い音圧で実現可能な電気音響変換器を提供すること。
【解決手段】電気音響変換器(1)は、導電性炭素材料の薄膜である発熱体(3)と、前記発熱体の背面側に設けられた熱絶縁層(22)とを備えている。前記発熱体は、例えば、グラフェン薄膜である。前記熱絶縁層は、音響放射方向(D)に沿った板厚方向を有する基板(2)の一面(21)側に設けられる。前記熱絶縁層は、例えば、ポーラスシリコンからなる。駆動制御部(5)は、前記発熱体に駆動電圧を印加するように設けられている。前記駆動電圧は、時間経過とともに電圧が上昇する電圧上昇波形と、その後に電圧が立ち下がる遮断波形とを有する。前記電圧上昇波形は、電圧がステップ状に上昇する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気音響変換器(1)であって、
導電性炭素材料の薄膜である発熱体(3)と、
前記発熱体の背面側に設けられた熱絶縁層(24)と、
を備えた電気音響変換器。
【請求項2】
前記熱絶縁層は、音響放射方向(D)に沿った板厚方向を有する基板(2)の一面(21)側に設けられ、
前記板厚方向と直交する面内方向における、前記熱絶縁層に対応する位置には、前記音響放射方向に向かって開口する凹部(R)が設けられた、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項3】
前記発熱体は、グラフェン薄膜である、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項4】
前記発熱体には、放射する音響の波長の0.9~1.1倍の間隔で、欠陥部(301)が設けられた、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項5】
前記熱絶縁層は、ポーラスシリコンからなる、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項6】
前記発熱体に駆動電圧を印加するように設けられた、駆動制御部(5)をさらに備え、
前記駆動制御部は、時間経過とともに電圧が上昇する電圧上昇波形と、その後に電圧が立ち下がる遮断波形とを有する前記駆動電圧を、前記発熱体に印加する、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項7】
前記電圧上昇波形は、電圧がステップ状に上昇する、
請求項6に記載の電気音響変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より産業上で広く利用されている、超音波発生装置等の音響装置は、圧電効果等により機械的振動を発生させることで、音響(すなわち音波や超音波)を放射するように構成されている。このため、従来のこの種の装置においては、正弦波状以外の波形の音響を生成することが困難であった。
【0003】
これに対し、いわゆる熱音響変換を用いた音波発生装置が提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。かかる音波発生装置は、基板と、基板上に設けられた熱絶縁層(すなわち断熱層)と、熱絶縁層上に設けられて電気的に駆動される発熱体薄膜とから構成されている。かかる音波発生装置は、熱伝導率の極めて小さい多孔質層や高分子層等の熱絶縁層を設けることで、発熱体薄膜表面の空気層の温度変化が大きくなるようにして、音波を発生するようにしている。かかる構成によれば、三角波状の音響出力波形を得ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-239518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、20kHz以上の超音波帯域では、音圧が120dBを超えると非線形現象が発現して、指向性が強い音響装置を実現することができることが知られている(すなわちパラメトリック効果)。しかしながら、115dB以上の超音波が、人体の聴覚器官に長時間にわたって作用することは、好ましくないこととされている。また、上述の通り、従来型の機械的振動を伴う音響装置では、正弦波状以外の波形の音響を生成することが困難である。このため、従来型の機械的振動を伴う非線形音響デバイスの利用は、人の入れ替わりが多い駅のホーム等、限られた場所に限定されている。一方、インパルス応答が可能な音響装置が実現されれば、120dBよりも低い音圧で非線形な超音波を放出することが可能となる。本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、例えば、非線形な音響出力を可能な限り低い音圧で実現可能な電気音響変換器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の電気音響変換器(1)は、
導電性炭素材料の薄膜である発熱体(3)と、
前記発熱体の背面側に設けられた熱絶縁層(24)と、
を備えている。
【0007】
なお、出願書類中の各欄において、各要素に括弧付きの参照符号が付されている場合がある。この場合、参照符号は、同要素と後述する実施形態に記載の具体的構成との対応関係の単なる一例を示すものである。よって、本発明は、参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る電気音響変換器の概略的な装置構成を示す側断面図である。
図2図1に示された電気音響変換器におけるインパルス応答性能を比較例とともに示すグラフである。
図3図1に示された電気音響変換器における超音波の放射波形の一例を示すグラフである。
図4A図1に示された電気音響変換器における超音波の放射波形の他の一例を示すグラフである。
図4B図1に示された電気音響変換器における超音波の放射波形の他の一例を示すグラフである。
図5図1に示された電気音響変換器における面内形状の一例を概略的に示す平面図である。
図6図1に示された電気音響変換器における面内形状の他の一例を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第一実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると、当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中には挿入せず、その後にまとめて説明する。また、各図面の記載や、これに対応して以下に説明する装置構成やその機能あるいは動作の記載は、本発明の内容を簡潔に説明するために簡略化されたものであって、本発明の内容を何ら限定するものではない。このため、各図に示された例示的な構成と、実際に製造販売される具体的な構成とは、必ずしも一致するとは限らないということは、云うまでもない。すなわち、出願人が本願の出願経過により明示的に限定しない限りにおいて、本発明は、各図面の記載や、これに対応して以下に説明する装置構成やその機能あるいは動作の記載によって限定的に解釈されてはならないことは、云うまでもない。
【0010】
(構成)
図1を参照しつつ、本実施形態に係る電気音響変換器1の概略構成について説明する。なお、説明の便宜上、図示の如く、Z軸が指向軸CAと平行となるように、右手系XYZ直交座標系を設定する。指向軸CAは、音響を放射する電気音響変換器1における、音響放射方向Dに沿った仮想直線である。指向軸CAは、典型的には、電気音響変換器1における指向性の基準となる仮想直線であり、指向性の範囲、例えば、所定利得あるいは所定音響レベルが得られる範囲を、略円錐形状や略紡錘形状等の立体形状で表した場合の、当該立体形状の軸中心を示す仮想直線に相当するものである。具体的には、例えば、指向軸CAは、音圧半減角の中心軸である。以下、指向軸CAに沿った方向、すなわち、指向軸CAと平行な方向を、「軸方向」と称する。よって、軸方向は、図中Z軸と平行な方向である。また、軸方向と直交する任意の方向を、「面内方向」と称する。「面内方向」は、図中XY平面と平行な方向である。さらに、図1における上方からZ軸と反対方向の視線で電気音響変換器1やその構成要素を見ることを、「平面視」と称する。すなわち、「平面視」における、或る構成要素の形状は、同構成要素を図中XY平面に写像した場合の形状に相当するものである。平面視における形状、すなわち、面内方向における形状を、「面内形状」と称する。
【0011】
図1に示されているように、本実施形態に係る電気音響変換器1は、超音波を放射すなわち送信する、いわゆる超音波スピーカとしての構成を有している。具体的には、電気音響変換器1は、基板2と、発熱体3と、電極4と、駆動制御部5とを備えている。以下、本実施形態に係る電気音響変換器1における各部の構成について、順に説明する。
【0012】
基板2は、シリコン基板であって、軸方向すなわち音響放射方向Dに沿った板厚方向を有するように設けられている。基板2の上面21すなわち一対の主面のうちの音響放射方向D側の一面は、平坦な平面状に形成されている。「主面」とは、板状物における、板厚方向と直交する表面であり、「板面」とも称され得る。図中、上面21の裏側の他面側の部分は、図示の簡略化のため、図示が省略されている。
【0013】
上面21上には、マスク層22が設けられている。マスク層22は、SiN膜やSiC膜によって、サブミクロンレベルの厚さで形成されている。マスク層22には、開口部23が設けられている。開口部23は、マスク層22を貫通するように形成されている。開口部23は、平面視にて、略矩形状、略円形状、略楕円形状、あるいは略多角形状に形成され得る。基板2の板厚方向と直交する面内方向における、開口部23に対応する位置には、ポーラスシリコンからなる熱絶縁層24が形成されている。熱絶縁層24は、基板2における上面21側に(すなわち上面21に面する位置に)設けられている。熱絶縁層24は、開口部23における面内形状に対応する面内形状を有している。熱絶縁層24は、10μm程度の厚さ、すなわち、上面21から10μm程度の深さの範囲で形成されている。
【0014】
発熱体3は、導電性炭素材料の薄膜、具体的にはグラフェン薄膜であって、マスク層22および熱絶縁層24を覆うように設けられている。すなわち、面内方向における熱絶縁層24に対応する位置にて、発熱体3の背面側には、熱絶縁層24が設けられている。本実施形態においては、発熱体3は、サブナノレベルあるいはナノレベルの厚さで形成されている。そして、面内方向における、熱絶縁層24に対応する位置には、音響放射方向Dに向かって開口する凹部Rが設けられている。かかる凹部Rの内壁面、すなわち、底壁面および側壁面には、発熱体3が設けられている。
【0015】
電極4は、面内方向における、マスク層22が設けられた位置にて、発熱体3上に設けられている。電極4は、導体膜であって、金属等により形成されている。電極4は、第一電極41と第二電極42とを有している。第一電極41と第二電極42との間には、凹部Rが設けられている。第一電極41および第二電極42は、駆動制御部5と電気的に接続されている。駆動制御部5は、第一電極41と第二電極42との間に駆動電圧を印加して、発熱体3における第一電極41と第二電極42との間の部分に電流を通流させるようになっている。
【0016】
(製造方法)
以下、図1に示された構成を有する電気音響変換器1の製造方法について、簡単に説明する。まず、シリコンウエハである基板2における上面21上に、SiN膜またはSiC膜をパターン形成することで、開口部23を有するマスク層22を設ける。次に、開口部23によって露出されたシリコンウエハ表面である上面21に対して、フッ化水素酸とエタノールとの混合液を用いて陽極化成を行う。これにより、上面21から所定深さで、ポーラスシリコンからなる熱絶縁層24が形成される。その後、グラフェン薄膜からなる発熱体3と、金属膜からなる電極4とを形成する。発熱体3や電極4の成膜方法としては、周知のものが用いられ得る。
【0017】
(効果)
以下、本実施形態の構成による動作概要を、同構成により奏される効果とともに、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
駆動制御部5が第一電極41と第二電極42との間に駆動電圧を印加すると、発熱体3における第一電極41と第二電極42との間の部分(すなわち凹部Rに対応する部分)に電流が通流する。すると、かかる部分にてジュール熱が発生し、凹部Rにおける底部領域、すなわち、図中二点鎖線の楕円で概略的に示されている領域にて、空気が加熱される。駆動電圧として、オン状態がパルス状に発生する、パルス状あるいは交流状の波形の電圧を印加すると、オン状態における発熱による空気の膨張がパルス状にあるいは断続的に発生することで、空気に粗密波が発生する。かかる空気の粗密波により、超音波である音響出力が発生し、音響放射方向Dに放射される。
【0019】
本実施形態に係る電気音響変換器1においては、熱容量が小さいグラフェン等の導電性炭素材料の薄膜からなる発熱体3の背面側に、熱容量および熱伝導率が小さいポーラスシリコンからなる熱絶縁層24が設けられている。これにより、オン状態にて発熱体3が均一且つ急速に加熱される。ここで、発熱体3において、下地にシリコンとほぼ同等の熱特性を有するSiN膜あるいはSiC膜からなるマスク層22が設けられた部分は、熱が迅速にマスク層22側に逃げる。これに対し、熱絶縁層24が設けられた部分は、熱が逃げ難い。このため、凹部R内の空気層は、瞬時に暖められて膨張する。また、オフ状態において、グラフェン等の導電性炭素材料の薄膜からなる発熱体3は、タングステン等の金属薄膜よりも熱伝導率が大きい。このため、面内方向に熱がよく逃げる。さらに、膜厚が薄いために熱容量が小さくなり、その効果が大きくなる。加えて、ポーラスシリコンからなる熱絶縁層24もシリコンの格子で出来ており、そのシリコン部分の熱伝導は空気層より大きいため、そこを通って急速な冷却が実現される。よって、発熱体3が環境温度まで急速に冷却される。したがって、かかる構成を有する電気音響変換器1によれば、インパルス応答が可能となり、非線形な音響出力を可能な限り低い音圧で実現可能となる。
【0020】
図2は、本実施形態に係る電気音響変換器1におけるインパルス応答特性を、比較例とともに示す。比較例は、発熱体3としてタングステン膜を用いたこと以外は、本実施形態と同様の構成を有している。図2における上側が本実施形態におけるインパルス応答特性を示し、下側が比較例におけるインパルス応答特性を示す。図中、点線の波形は駆動電圧を示し、実線の波形はマイク電圧を示す。マイク電圧は、電気音響変換器1から音響放射方向Dに所定距離隔てて配置された音圧検出用マイクの出力電圧である。このため、駆動電圧のパルスと、発生音圧のパルスとの間には、電気音響変換器1から音圧検出用マイクまでの超音波の伝播時間、すなわち、電気音響変換器1から音圧検出用マイクまでの距離に対応する時間差が生じている。
【0021】
比較例の構成においては、発熱体3としてタングステン膜を用いているため、オフ時における発熱体3の温度すなわちヒータ温度の低下が、比較的緩やかである。このため、空気の圧縮による上向きの音圧ピークと、その後の空気の膨張による下向きの音圧ピークとの双方が発生し、その後消音している。また、ヒータ膜厚が大きいことに起因して冷却速度がμsecレベルとなるために、2つ目の上向きの音圧ピークが発生している。これに対し、本実施形態においては、オフ時におけるヒータ温度の低下が急激であるため、空気の圧縮による上向きの音圧ピークのみが1個のみ発生し、その後の空気の膨張による下向きの音圧ピークや、2つ目の上向きの音圧ピークは発生しない。このため、本実施形態によれば、比較例に比して、より良好なインパルス応答特性が得られる。
【0022】
図3は、時間経過とともに電圧が上昇する電圧上昇波形と、その後に電圧が立ち下がる遮断波形とを有する駆動電圧を、発熱体3に印加した場合の、応答特性を示す。図3の例においては、駆動電圧として、0Vから所定電圧まで瞬間的に立ち上げた後に1.5μsec毎に5回ステップ状に電圧上昇し、その後の7.5μsec電圧を一定に保持してから電圧を0Vまで瞬間的に立ち下げる、15μsec幅のパルス状電圧を用いた。かかる駆動電圧波形において、ステップ状の部分が電圧上昇波形に相当し、その後の電圧保持期間からの立ち下がり波形が遮断波形に相当する。この場合、圧縮方向については、立ち上がり部にて約7.5μsec、立ち下がり部にて約2.2μsecの、合計9.7μsecの音圧ピークが得られた。また、膨張方向については、5.3μsecの音圧ピークが得られた。圧縮方向と膨張方向とを合計すると、駆動電圧波形と同じ15μsecとなった。なお、図3の例においては、ステップ状の電圧上昇は、1.5μsec単位で行っているが、かかるステップ時間は、電源周波数に依存するものであって、理論的には1nsec以上で設定することが可能である。一方、1周期が50μsecを超えると、周波数が20kHz以下となって可聴音の領域に入り、人が異音を感じることになるため好ましくない。このため、1周期の長さ、すなわち、駆動電圧波形のパルス幅は、1nsec~50μsecであることが好ましい。
【0023】
図4Aは、図3のような駆動電圧波形を連続的に発熱体3に印加した場合の応答特性を示す。図4の例においては、ステップ時間が5μsec、電圧保持時間が5μsec、オフ時間が5μsecであり、1周期は50kHzである。この場合、空気の膨張に要する時間が15μsec、圧縮に要する時間が5μsecとなる。図4Bは、ステップ状の電圧上昇区間を0Vから開始するように図4Aの駆動電圧波形を変形した場合の応答特性を示す。この場合、空気の膨張に要する時間が14μsec、圧縮に要する時間が6μsecとなる。このように、駆動電圧波形を変形することで、出力される超音波の非線形性を変更することができる。周波数一定の下では、ステップ状に電圧を上昇させつつと、発熱体3に接する部分の空気を冷却するために必要なオフ時間を設ければ、このような非線形波形を得ることができる。
【0024】
本実施形態によれば、特開平11-145915号公報や特許第4251052号公報に開示されているような、非線形超音波を干渉させてその差分の周波数を復調させる、局所スピーカの効率を向上させることができる。ここで、特許第4251052号公報に開示されているように、超音波波形をパラメトリックスピーカで非線形化しようとすると、120dB以上の音圧が必要になる。しかしながら、115dB以上の超音波が、人体の聴覚器官に長時間にわたって作用することは、好ましくないこととされている。さらに、120dB以上の2種類の超音波が交差したところで、2つの超音波の差分の可聴音が復調することになるが、効率が悪く、最大でも60dB程度の音圧にしかならなかった。これに対し、本実施形態によれば、超音波の非線形性を任意に設定できるので、復調の効率がよくなり、120dBより低い音圧の超音波で60dB以上の可聴音を復調できる可能性がある。
【0025】
(第二実施形態)
以下、第二実施形態について、図5を参照しつつ説明する。なお、以下の第二実施形態の説明においては、主として、上記第一実施形態と異なる部分について説明する。また、第一実施形態と第二実施形態とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の第二実施形態の説明において、第一実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記第一実施形態における説明が適宜援用され得る。後述する他の実施形態についても同様である。
【0026】
本実施形態においては、発熱体3は、平面視にて、第一電極41と第二電極42との間にて図中X軸方向に延設されている。また、発熱体3には、欠陥部301が設けられている。欠陥部301は、発熱体3における非欠陥部302よりも電気抵抗値が大きい部分であって、発熱体3の膜厚方向および延設方向と直交する幅方向(すなわち図中Y軸方向)に沿って延設されている。具体的には、欠陥部301を構成する欠陥は、炭素原子の欠陥や、炭素原子の他の原子への置換や、皺等の構造的欠陥により形成され得る。非欠陥部302は、欠陥部301とは異なる部分、すなわち、欠陥部301を構成する欠陥がないか欠陥部301よりも少ない部分であって、平面視にて略矩形状に形成されている。また、本実施形態においては、複数の欠陥部301が、第一電極41と第二電極42との間で、等間隔に配設されている。
【0027】
かかる構成においては、欠陥部301の方が、非欠陥部302よりも電気抵抗値が大きくなるため、非欠陥部302よりも発熱量が大きくなる。このため、欠陥部301にて、局所的に大きな音圧が発生する。このように、大きな音圧が発生する欠陥部301が、所定ピッチで配列されることで、干渉効果により所定の指向性が得られる。この場合、放射する音響の波長の0.9~1.1倍の間隔で欠陥部301を設けることが好適である。
【0028】
(第三実施形態)
以下、第三実施形態について、図6を参照しつつ説明する。なお、以下の第三実施形態の説明においては、主として、上記第二実施形態と異なる部分について説明する。
【0029】
本実施形態においては、直線状の欠陥部301が、格子状に形成されている。すなわち、平面視にて略矩形状の非欠陥部302が、二次元配置されている。かかる構成によれば、二次元的な指向性が得られる。
【0030】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。故に、上記実施形態に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態との相違点を主として説明する。また、上記実施形態と変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態における説明が適宜援用され得る。
【0031】
本発明は、上記実施形態に記載された具体的な装置構成に限定されない。すなわち、上述した通り、上記実施形態の記載は、本発明の内容を簡潔に説明するために簡略化されたものである。このため、実際に製造販売される製品に通常設けられる構成要素、例えば、ケーシングや接合材や端子や配線等は、上記実施形態やこれに対応する図面において、図示や説明が適宜省略されている。
【0032】
電気音響変換器1は、いわゆる超音波スピーカに限定されない。すなわち、電気音響変換器1は、例えば、可聴域の音波を放射する音波スピーカであってもよい。
【0033】
各部を構成する材料も、上記の具体例に限定されない。例えば、発熱体3は、カーボンナノチューブやカーボンナノホーン等の炭素材料すなわちナノカーボン材料によって形成されていてもよい。
【0034】
上記の説明において、互いに継ぎ目無く一体に形成されていた複数の構成要素は、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されてもよい。同様に、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されていた複数の構成要素は、互いに継ぎ目無く一体に形成されてもよい。
【0035】
上記の説明において、互いに同一の材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに異なる材料によって形成されてもよい。同様に、互いに異なる材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに同一の材料によって形成されてもよい。
【0036】
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、量、寸法、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数値に限定される場合等を除き、その特定の数値に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
【0037】
変形例も、上記の例示に限定されない。すなわち、例えば、複数の実施形態のうちの任意の1つと、複数の変形例のうちの任意の1つとが、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。同様に、複数の変形例のうちの1つと他の1つとが、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。
【0038】
(開示内容)
上記の通りの実施形態および変形例についての説明から明らかなように、本明細書には、少なくとも以下の観点が開示されている。
<観点1>
電気音響変換器(1)は、
導電性炭素材料の薄膜である発熱体(3)と、
前記発熱体の背面側に設けられた熱絶縁層(24)と、
を備えている。
<観点2>
観点1において、
前記熱絶縁層は、音響放射方向(D)に沿った板厚方向を有する基板(2)の一面(21)側に設けられ、
前記板厚方向と直交する面内方向における、前記熱絶縁層に対応する位置には、前記音響放射方向に向かって開口する凹部(R)が設けられている。
<観点3>
観点1、2において、
前記発熱体は、グラフェン薄膜である。
<観点4>
観点1~3において、
前記発熱体には、放射する音響の波長の0.9~1.1倍の間隔で、欠陥部(301)が設けられている。
<観点5>
観点1~4において、
前記熱絶縁層は、ポーラスシリコンからなる。
<観点6>
観点1~5において、
前記発熱体に駆動電圧を印加するように設けられた、駆動制御部(5)をさらに備え、
前記駆動制御部は、時間経過とともに電圧が上昇する電圧上昇波形と、その後に電圧が立ち下がる遮断波形とを有する前記駆動電圧を、前記発熱体に印加する。
<観点7>
観点6において、
前記電圧上昇波形は、電圧がステップ状に上昇する。
【符号の説明】
【0039】
1 電気音響変換器
2 基板
21 上面
24 熱絶縁層
3 発熱体
302 欠陥
4 電極
5 駆動制御部
D 音響放射方向
R 凹部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6