(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139844
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】筆記具用油性インキ組成物及びそれを内蔵した筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20241003BHJP
【FI】
C09D11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050765
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】尾関 遊之
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD07
4J039AD10
4J039AD19
4J039AE01
4J039AE02
4J039AE07
4J039AE08
4J039AF01
4J039BC07
4J039BC08
4J039BC10
4J039BC14
4J039BC18
4J039BC20
4J039BC21
4J039BC22
4J039BC54
4J039BC79
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE07
4J039BE23
4J039CA02
4J039EA38
4J039EA47
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】 染料を含む油性インキであっても、様々な材質の被筆記面に対し、水が付着しても滲みが生じることのない、高い耐水性を有する筆跡を形成できる筆記具用油性インキ組成物とそれを内蔵した筆記具を提供する。
【解決手段】 染料と、有機溶剤と、一般式(1)で表されるフェニルスルフィド化合物とを含んでなる筆記具用油性インキ組成物と、それを内蔵した筆記具。
【化1】
〔式中、R
1~R
5から任意に選択される1つ以上が水酸基であり、且つ、R
6~R
10から任意に選択される1つ以上が水酸基であり、水酸基ではない残りの置換基は、任意の置換基又はその誘導体であり、Xは、硫黄原子又はジスルフィド基を表す。〕
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料と、有機溶剤と、下記一般式(1)で表されるフェニルスルフィド化合物とを含んでなる筆記具用油性インキ組成物。
【化1】
〔式中、R
1~R
5から任意に選択される1つ以上が水酸基であり、且つ、R
6~R
10から任意に選択される1つ以上が水酸基であり、水酸基ではない残りの置換基は、水素原子又は、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、アミノ基、カルボキシ基、ハロゲン基、チオエーテル基、フェニル基、ニトロ基、スルホン酸基から選ばれる置換基又はその誘導体であり、Xは、硫黄原子又はジスルフィド基を表す。〕
【請求項2】
前記染料が、ソルベント染料である、請求項1に記載のインキ組成物。
【請求項3】
前記ソルベント染料が造塩染料である、請求項2に記載のインキ組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤の20℃における蒸気圧が5~50mmHgである、請求項1~3のいずれか一項に記載のインキ組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容した、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用油性インキ組成物に関する。更には、耐水性に優れた筆跡を形成できる筆記具用油性インキ組成物とそれを内蔵した筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油性インキ組成物においては、発色性に優れることから着色剤として染料が広く用いられているが、染料を含む油性インキ組成物は、耐水性が低下する傾向にあり、水の付着により、筆跡からインキ組成物が滲み出て周囲へ広がる筆跡滲みが生じてしまう。この問題に鑑みて、インキ組成物へ含金染料を含有させることや、含有される樹脂を増量すること等が行われているが、含金染料を含有するインキ組成物は、発色性が十分ではなく、また、樹脂を増量したインキ組成物は、粘度が高く、その筆記性能には改善の余地があった。
【0003】
上記問題を解消するために、様々な化合物の添加が検討されており、例えば、HLB値が8以下のショ糖脂肪酸エステルやHLB値が9~11のショ糖脂肪酸エステルをインキ組成物に含有させることが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
しかしながら、ショ糖脂肪酸エステルは、規定されるHLB値であっても、使用する染料の種類や被筆記面の材質等によっては十分な効果が発現されず、筆跡の耐水性を向上することはできなかった。特に、被筆記面の材質が紙である場合、その筆跡は、水が付着することにより筆跡周辺に滲み、広がりやすく、極端に筆跡の見栄えが悪くなってしまう。そのため、被筆記面の材質が紙であっても、滲みの発生を防止することのできる高い耐水性を有する筆跡を形成することのできる油性インキ組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-200186号公報
【特許文献2】特開2012-214611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明が解決しようとする課題は、染料を含む油性インキであっても、様々な材質の被筆記面に対し、水が付着しても滲みが生じることのない、高い耐水性を有する筆跡を形成できる筆記具用油性インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、染料と、有機溶剤と、下記一般式(1)で表されるフェニルスルフィド化合物とを含んでなる筆記具用油性インキ組成物を要件とする。
【化1】
〔式中、R
1~R
5から任意に選択される1つ以上が水酸基であり、且つ、R
6~R
10から任意に選択される1つ以上が水酸基であり、水酸基ではない残りの置換基は、水素原子又は、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、アミノ基、カルボキシ基、ハロゲン基、チオエーテル基、フェニル基、ニトロ基、スルホン酸基から選ばれる置換基又はその誘導体であり、Xは、硫黄原子又はジスルフィド基を表す。〕
更に、前記染料が、ソルベント染料であること、前記ソルベント染料が造塩染料であることを要件とする。
更に、前記有機溶剤の20℃における蒸気圧が5~50mmHgであることを要件とする。
更には、前記いずれかの筆記具用油性インキ組成物を内蔵した筆記具を要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、染料を用いて優れた発色性を維持しながら、様々な材質の被筆記面に対して高い耐水性を有し、滲みを生じることのない筆跡を形成できる。特に、被筆記面の材質が、筆跡の滲みが生じやすい紙であっても、滲みを生じることのない高い耐水性を有する筆跡を形成できる。
更に、本発明の筆記具用油性インキ組成物によれば、利便性に優れ、実用性に富んだ、筆記具用油性インキ組成物を内蔵した筆記具が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(筆記具用油性インキ組成物)
本発明の筆記具用油性インキ組成物(以下、単に「インキ組成物」と記載する)は、染料と有機溶剤と下記一般式(1)で表されるフェニルスルフィド化合物を少なくとも含有してなることを特徴とする。
尚、前記染料、有機溶剤及びジフェニルスルフィド化合物は、マイクロカプセルに封入されることなく、前記有機溶剤を溶媒とする油性インキとして筆記時に吐出されるものであり、通常の筆記具に内蔵される油性インキ組成物である。
【0009】
(フェニルスルフィド化合物)
本発明のインキ組成物に含まれるフェニルスルフィド化合物は、下記一般式(1)で表されるように、ジフェニルスルフィド又はジフェニルジスルフィドを基本骨格とし、2つ以上のフェノール性水酸基を有する化合物であり、それ自身の水への溶解性は低い。
フェニルスルフィド化合物中のフェノール性水酸基は、電子吸引性を呈する硫黄原子によりプロトン乖離が誘発されアニオンとなったところに、染料由来のカチオンがイオン結合することにより、水溶性の高い染料が疎水化されると推察される。それにより染料の水への溶解を抑制することができる。すなわち、筆跡の耐水性を向上させ、水の付着等に起因する滲みの発生を抑制することができる。この効果は、特に耐水性が弱い塩基性染料を原料とするソルベント染料(油溶性染料とも呼ばれる)に対して有効に作用するため、染料の種類によらず水に滲み難い鮮明な筆跡を形成できる。
【化2】
【0010】
上記一般式(1)中、R1~R10は、それぞれ独立しており、R1~R5から任意に選択される1つ以上が水酸基であり、且つ、R6~R10から任意に選択される1つ以上が水酸基である。更に、水酸基ではない残りの置換基は、水素原子又は、炭素数1~18、好ましくは炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~18、好ましくは炭素数1~8のアルコキシ基、アミノ基、カルボキシ基、ハロゲン基、チオエーテル基、フェニル基、ニトロ基、スルホン酸基から選ばれる置換基や、これらの置換基の誘導体である。また、Xは、硫黄原子又はジスルフィド基である。
【0011】
上記一般式(1)を満たす化合物としては、置換基としてR1~R10を有する、ジフェニルスルフィドやジフェニルジスルフィドが挙げられる。より具体的には、例えばジフェニルスルフィドとして、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(2-ヒドロキシ-5-クロロフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)スルフィド、ビス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)スルフィド、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシ-ジフェニル-スルフィド、5,5‘-チオジサリチル酸、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3-ニトロ-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド等が例示でき、ジフェニルジスルフィドとして、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(3-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド等が例示できる。
更に、これらの化合物をもとに、水酸基ではない置換基を先に例示した置換基に置き換えた化合物や、該化合物のうち、R1~R5から任意に選択される1つの水酸基と、R6~R10から任意に選択される1つの水酸基を残したまま、反応させた誘導体も挙げられる。
【0012】
本発明のインキ組成物におけるフェニルスルフィド化合物の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として0.1~10質量%であることが好ましく、0.3~5質量%であることがより好ましい。
フェニルスルフィド化合物の含有量を上記数値範囲とすることにより、本発明のインキ組成物を用いて形成した筆跡の耐水性をより向上させることができる。
【0013】
(染料)
本発明のインキ組成物に含まれる染料としては、例えば、カラーインデックスにおいてソルベント染料として分類される有機溶剤可溶性染料、塩基性染料、酸性染料、直接染料及び食用染料等が挙げられる。インキ組成物は、これらの染料を二種以上含んでいてもよい。
通常、塩基性染料は、水への溶解性が高く、塩基性染料を構成成分とするソルベント染料等を含むインキ組成物を用いて形成させた筆跡は、水の付着により筆跡滲みが生じ易い。しかしながら、本発明の油性インキ組成物によれば、筆跡の耐水性が向上しているため、滲みの発生が抑制される。
【0014】
ソルベント染料の具体例としては、バリファーストブラック3806(C.I.ソルベントブラック29)、バリファーストブラック3807(C.I.ソルベントブラック29のトリメチルベンジルアンモニウム塩)、スピリットブラックSB(C.I.ソルベントブラック5)、スピロンブラックGMH(C.I.ソルベントブラック43)、ニグロシンベースEX(C.I.ソルベントブラック7)、スピロンピンクBH(C.I.ソルベ ントレッド82)、ネオザポンブルー808(C.I.ソルベントブルー70)、スピロンバイオレットCRH(C.I.ソルベントバイオレット8-1)、バリファストレッド1308(C.I.ベーシックレッド1とC.I.アシッドイエロー23の造塩体)、バリファストレッド1320、スピリットレッド102(C.I.ベーシックレッド1とC.I.アシッドイエロー42の造塩体)、バリファーストバイオレット1701(C.I.ベーシックバイオレット1とC.I.アシッドイエロー42の造塩体)、バリファーストバイオレット1702(C.I.ベーシックバイオレット3とC.I.アシッドイエロー36の造塩体)、スピロンレッドCGH(C.I.ベーシックレッド1とドデシル(スルホフェノキシ)-ベンゼンスルホン酸の造塩体)、スピロンイエローC-GNH及びオイルブルー613(C.I.ソルベントブルー5と樹脂の混合物)等が挙げられる。
塩基性染料の具体例としては、C.I.ベーシックレッド1、C.I.ベーシックオレンジ2、C.I.ベーシックオレンジ14、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックブルー9、C.I.ベーシックブルー26、C.I.ベーシックバイオレット1、C.I.ベーシックバイオレット3及びC.I.ベーシックバイオレット10等が挙げられる。
酸性染料の具体例としては、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドレッド51、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド92、C.I.アシッドレッド289、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドイエロー3、C.I.アシッドイエロー7、C.I.アシッドイエロー23、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドグリーン3、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー22、C.I.アシッドブルー90、C.I.アシッドブルー239、C.I.アシッドブルー248、C.I.アシッドバイオレット15、C.I.アシッドバイオレット49、C.I.アシッドブラック1及びC.I.アシッドブラック2等が挙げられる。
直接染料の具体例としては、C.I.ダイレクトレッド28、C.I.ダイレクトイエロー44、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー87、C.I.ダイレクトバイオレット51及びC.I.ダイレクトブラック19等が挙げられる。
食用染料の具体例としては、C.I.フードイエロー3及びC.I.フードブラック2等が挙げられる。
【0015】
本発明のインキ組成物における染料の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として3~40質量%であることが好ましい。
【0016】
(有機溶剤)
本発明のインキ組成物に含まれる有機溶剤としては、従来汎用の溶剤を使用できる。また、インキ組成物は、二種以上の有機溶剤を含んでいてもよい。
具体的には、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルグリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノフェニルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル及びγ-ブチロラクトン等が挙げられる。
【0017】
一実施形態において、有機溶剤が揮発し易い20℃における蒸気圧が5.0~50mmHg、より好ましくは10~50mmHgの有機溶剤を使用することが特に好ましい。このような有機溶剤は、インキ組成物を収容する筆記具が、マーキングペンである場合に特に好ましい。
このような蒸気圧を有する有機溶剤を使用することにより、筆跡の乾燥性を向上させることができる。そのため、筆跡を手触した際、未乾燥のインキが手に付着したり、筆記面上の筆跡を形成していない空白部分を汚染する等の不具合を生じることなく、良好な筆跡を形成できる。
20℃における蒸気圧が5.0~50mmHgの有機溶剤としては、エチルアルコール(45)、n-プロピルアルコール(14.5)、イソプロピルアルコール(32.4)、n-ブチルアルコール(5.5)、イソブチルアルコール(8.9)、sec-ブチルアルコール(12.7)、tert-ブチルアルコール(30.6)、tert-アミルアルコール(13.0)等のアルコール系有機溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテ
ル(8.5)、エチレングリコールジエチルエーテル(9.7)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(6.0)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(7.6)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(10.6)等のグリコールエーテル系有機溶剤、n-ヘプタン(35.0)、n-オクタン(11.0)、イソオクタン(41.0)、メチルシクロヘキサン(37.0)、エチルシクロヘキサン(10.0)、トルエ
ン(24.0)、キシレン(5.0~6.0)、エチルベンゼン(7.1)等の炭化水素系有機溶剤、メチルイソブチルケトン(16.0)、メチルn-プロピルケトン(12.0)、メチルn-ブチルケトン(12.0)、ジ-n-プロピルケトン(5.2)等のケトン系有機溶剤、蟻酸n-ブチル(22.0)、蟻酸イソブチル(33.0)、酢酸n-プロピル(25.0)、酢酸イソプロピル(48.0)、酢酸n-ブチル(8.4)、酢酸イソブチル(13.0)、プロピオン酸エチル(28.0)、プロピオン酸n-ブチル(45.0)、酪酸メチル(25.0)、酪酸エチル(11.0)等のエステル系有機溶剤等が挙げられる。
尚、括弧内の数字は20℃におけるそれぞれの有機溶剤の蒸気圧を示す。
【0018】
上記した有機溶剤の中でも、筆跡の速乾性、及び使用しうる樹脂や添加剤の溶解性という観点から、炭素数4以下のアルコール及び/又は炭素数4以下のグリコールエーテル類がより好ましく、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルが更に好ましい。
【0019】
更に、本発明のインキ組成物は、沸点が160~250℃の有機溶剤を含んでなることが好ましい。
このような比較的高沸点の有機溶剤は、インキ組成物を収容する筆記具がボールペンである場合に好ましい。
また、このような比較的高沸点の有機溶剤を、マーキングペン等に収容して使用するインキ組成物に含有させ、筆跡の乾燥速度を調整することにより、多湿環境下において生じやすい筆跡の白化を抑制することができる。特に、炭素数3以下のアルコール及び/又は炭素数4以下のグリコールエーテル類といった20℃における蒸気圧が5.0~50mmHgの有機溶剤を使用する場合、このような高沸点有機溶剤を併用し、乾燥速度を調整することが好ましい。
【0020】
高沸点有機溶剤として、ベンジルアルコール(205)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(245)、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル(170)、ジプロピレングリコールメチルエーテル(190)、プロピレングリコールジアセテート(190)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(175)、ジプロピレングリコール-n-プロピルエーテル(212)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(209)、プロピレングリコールフェニルエーテル(243)、トリプロピレングリコールメチルエーテル(242)、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(229)、トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(274)、p-キシレングリコールジメチルエーテル(235)、ギ酸ベンジル(201)、酢酸ベンジル(212)、プロピオン酸ベンジル(222)、酪酸ベンジル(240)及びイソ酪酸ベンジル(230)等が挙げられる。
尚、括弧内の数字はそれぞれの有機溶剤の沸点(摂氏)を示す。
【0021】
本発明のインキ組成物における有機溶剤の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として40~80質量%であることが好ましい。
また、マーキングペン用途において、上記した20℃における蒸気圧が5.0~50mmHgの有機溶剤の含有量は、有機溶剤の総質量に対し、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。更に、上記した高沸点有機溶剤の含有量は、有機溶剤の総質量に対し、1~10質量%であることが好ましく、2~8質量%であることがより好ましい。
【0022】
(任意の成分)
本発明のインキ組成物は、以下に挙げるような任意の成分を含んでいてもよい。
【0023】
(樹脂)
本発明のインキ組成物は樹脂を含んでいてもよい。これにより、筆跡の定着性を向上させることができると共に、堅牢性等を付与することができる。本発明のインキ組成物は二種以上の樹脂を含んでいてもよい。
使用することのできる樹脂は、インキ組成物に含まれる有機溶剤に可溶なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ケトン樹脂、アミド樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、テルペン系樹脂、クマロン-インデン樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリメタクリル酸エステル、ケトン-ホルムアルデヒド樹脂、α-及びβ-ピネン・フェノール重縮合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、アクリル樹脂及びポリアクリル酸ポリメタクリル酸共重合物等が挙げられる。
【0024】
本発明のインキ組成物における樹脂の含有量は、インキ組成物の総質量を基準として0.5~40質量%であることが好ましく、1~35質量%であることがより好ましい。
【0025】
(顔料)
本発明のインキ組成物は顔料を含んでいてもよい。顔料としては、カーボンブラック、群青及び二酸化チタン顔料等の無機顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、スレン顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、スロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料及びイソインドリノン系顔料等の有機顔料、アルミニウム粉やアルミニウム粉表面を着色樹脂で処理した金属顔料、透明又は着色透明フィルムに金属蒸着膜を形成した金属光沢顔料、蛍光顔料、蓄光性顔料、並びに芯物質として天然雲母、合成雲母、ガラス片、アルミナ及び透明性フィルム片の表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したパール顔料等が挙げられる。
【0026】
(耐光性付与剤)
本発明のインキ組成物は耐光性付与剤を含んでいてもよい。これにより、筆跡の耐光性を向上させることができ、染料として塩基性染料と酸性成分の混合染料又は造塩染料を使用した場合であっても、染料の退色を好適に防止でき、耐光性に優れた種々の所望する色調の筆跡を形成できる。
耐光性付与剤としては、例えば、2-(3-t-ブチル-5-オクチルオキシカルボニルエチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール誘導体を使用することができる。
【0027】
(剪断減粘性付与剤)
本発明のインキ組成物は剪断減粘性付与剤を含んでいてもよい。これにより、筆跡における滲みの発生をさらに抑制することができるため、被筆記面の材質が、紙や、浸透性の高い布帛等の繊維材料であっても、筆跡における滲みの発生を抑制することができる。
インキ組成物を収容する筆記具がボールペンである場合、剪断減粘性付与剤を使用することが特に好ましい。これにより、不使用時のボールとチップの間隙からのインキ漏れだしを防止したり、筆記先端部を上向き(正立状態)で放置した場合のインキの逆流を防止することができる。
剪断減粘性付与剤としては、架橋型アクリル樹脂、架橋型アクリル樹脂のエマルションタイプ、非架橋型アクリル樹脂、架橋型N-ビニルカルボン酸アミド重合体又は共重合体、非架橋型N-ビニルカルボン酸アミド重合体又は共重合体、水添ヒマシ油、脂肪酸アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス等のワックス類、ステアリン酸、パルミチン酸、オクチル酸及びラウリン酸のアルムニウム塩等の脂肪酸金属塩、ジベンジリデンソルビトール、N-アシルアミノ酸系化合物、スメクタイト系無機化合物、モンモリロナイト系無機化合物、ベントナイト系無機化合物、並びにヘクトライト系無機化合物等が挙げられる。
尚、本発明のインキ組成物は二種以上の剪断減粘性付与剤を含んでいてもよい。
【0028】
(潤滑剤)
本発明のインキ組成物は、潤滑剤を含んでいてもよい。インキ組成物を収容する筆記具がボールペンである場合、インキ組成物が潤滑剤を含むことにより、ボール受け座とボールの接触部分における摩耗を防止してボールペンの耐久性を改良することができる。
潤滑剤としては、オレイン酸等の高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン性界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、リン酸エステル系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド、陰イオン性界面活性剤、陽イオン製界面活性剤、両性界面活性剤、或いは、それらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。
上記した潤滑剤の中でも、ボール受け座及びボールの摩耗をより防止することができるため、リン酸エステル系界面活性剤が特に好ましい。
リン酸エステル系界面活性剤としては、チオ亜リン酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)やチオ亜リン酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜リン酸トリエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等のリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等のリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等のリン酸トリエステルアルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル、或いはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0029】
(曳糸性付与樹脂)
本発明のインキ組成物は、上記した樹脂以外にも、曳糸性付与樹脂を含んでいてもよい。インキ組成物を収容する筆記具が、ボールペンである場合、インキ組成物が、曳糸性付与樹脂を含むことにより、インキ組成物の結着性を向上させることができ、チップ先端における余剰インキの発生を抑制することができる。
曳糸性付与樹脂としては、ポリビニルピロリドン樹脂等が挙げられる。
【0030】
本発明のインキ組成物は、その他にも粘度調整剤、着色安定剤、可塑剤、キレート剤、水等の助溶剤を含んでいてもよい。
【0031】
(筆記具)
本発明の筆記具は、上記インキ組成物を内蔵してなる。
筆記具の種類は特に限定されず、チップを筆記先端部に装着したマーキングペンやボールペン等が挙げられる。
【0032】
本発明によるマーキングペンは、マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、またはプラスチックチップなどのチップを筆記先端部に具備し、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、筆記先端部にインキを供給する構造のマーキングペン、同様のチップに軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させて筆記先端部にインキを供給する構造のマーキングペンが挙げられる。尚、前記軸筒としては、樹脂成形物やアルミ缶等の金属加工体が用いられる。
【0033】
本発明によるボールペンは、ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、ボールを先端部に装着したボールペンチップにインキを供給する構造のボールペン、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させてボールペンチップにインキを供給する構造のボールペン、軸筒内にインキ組成物を収容したインキ収容管を有し、そのインキ収容管はボールペンチップに連通しており、更にインキ収容管内のインキの端面には逆流防止用の液栓、及び必要に応じて固体のインキ逆流防止体が密接している構造のボールペンが挙げられる。尚、前記軸筒やインキ収容管としては、樹脂成形物や金属加工体が用いられる。
【実施例0034】
[耐水性の評価]
実施例及び比較例のインキ組成を以下の表に示す。尚、表中の組成の数値は質量部を示す。
【0035】
【0036】
表中の原料の内容を注番号に沿って説明する。
(1)オリエント化学工業株式会社製、商品名:ニグロシンベースEX
(2)オリエント化学工業株式会社製、商品名:バリファストレッド1308
(3)オリエント化学工業株式会社製、商品名:オイルブルー613
(4)保土ヶ谷化学工業株式会社製、商品名:スピロンイエローC-GNH
(5)荒川化学工業株式会社製、商品名:ケトンレジンK-90
(6)荒川化学工業株式会社製、商品名:ロジンWW
(7)ケトン樹脂、日立化成株式会社製、商品名:ハイラック110H
(8)ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド
(9)ビス(2-ヒドロキシ-5-クロロフェニル)スルフィド
(10)ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド
(11)ビス(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)スルフィド
(12)ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド
(13)ビス(3-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド
(14)ジフェニルスルフィド
(15)4,4′-ジクロロ-ジフェニルスルフィド
(16)第一工業製薬株式会社製、商品名:DKエステルF-110(HLB:11)
(17)東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRA-600
(18)アイエスピージャパン株式会社製、商品名:ポリビニルピロリドンK-90
(19)オレイン酸
【0037】
マーキングペン用インキ組成物の調製
上記表1の実施例1~5及び比較例1~4に記載される配合量で各原料を混合し、20℃で3時間撹拌溶解することによりインキ組成物を得た。
【0038】
マーキングペンの作製
実施例1~5及び比較例1~4により得られたインキ組成物5gを、市販のマーキングペン外装(株式会社パイロットコーポレーション製;WMBM-12L、ポリエステル製チップを備える)に収容することで油性マーキングペンを得た。
【0039】
ボールペン用インキ組成物の調製
上記表1の実施例6~7及び比較例5~6に記載される配合量で各原料を混合し、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全に溶解させ、室温において放冷し、インキ組成物を得た。
【0040】
ボールペンの作製
実施例6~7及び比較例5~6により得られたインキ組成物0.2gを、ボール径がφ0.7mmのボールを備えた市販のボールペン外装(株式会社パイロットコーポレーション製:BPS-GPN-F)に収容することでボールペンを得た。
【0041】
耐水性試験(マーキングペン)
上記のようにして作製したマーキングペンを用いて、JIS S6037に規定された耐水性試験に準拠し、ただし浸漬時間だけを変更して、以下手順に従い耐水性試験を行った。
筆記可能であることを確認した各マーキングペンを用いて、20℃の環境下で、JISP3201筆記用紙Aに手書きで螺旋状に筆記した。次いで、筆跡が浸るように、筆記用紙を水に30分間浸漬させた後、取り出し、乾燥させた。乾燥後、筆跡の状態を目視により確認し、以下の評価基準に従い、評価した。
評価結果を以下の表2に示す。
【0042】
耐水性試験(ボールペン)
上記のようにして作製したボールペンを用いて、JIS S6039に規定された耐水性試験に準拠し、以下手順に従い耐水性試験を行った。
筆記可能であることを確認した各ボールペンを用いて、20℃の環境下で、JIS P3201筆記用紙Aに手書きで螺旋状に筆記した。次いで、筆跡が浸るように、筆記用紙を水に60分間浸漬させた後、取り出し、乾燥させた。乾燥後、筆跡の状態を目視により確認し、以下の評価基準に従い、評価した。
評価結果を以下の表2に示す。
【0043】
評価基準
A:筆跡滲みは生じない。
B:筆跡染料が少し滲み出た、又は、用紙全体と浸漬液が少し着色した。
C:筆跡周辺に染料が滲み出た、又は、用紙全体と浸漬液が着色した。
【0044】