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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139868
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】感染抑制方法、皮膚保護体
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/10 20060101AFI20241003BHJP
   A61N 5/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61L2/10
A61N5/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050799
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 亨介
【テーマコード(参考)】
4C058
4C082
【Fターム(参考)】
4C058AA28
4C058BB06
4C058CC01
4C058CC10
4C058KK02
4C082PA03
4C082PC08
(57)【要約】
【課題】皮膚表面上の所定の領域への紫外光の照射を抑制しつつ、当該領域周辺に対しては十分に紫外光を照射する感染抑制方法、及び当該感染抑制方法に利用可能な皮膚保護体を提供する。
【解決手段】皮膚保護体を皮膚表面に定着させた状態の下で、所定部位の感染を抑制する方法であって、皮膚保護体は、波長が200nm以上240nm未満の紫外光を実質的に透過する材料からなり、第一領域に、前記紫外光を実質的に吸収する液体を保持し、少なくとも第一領域の外側に位置する皮膚保護体に対して紫外光を照射する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚保護体を皮膚表面に定着させた状態の下で、所定部位の感染を抑制する方法であって、
前記皮膚保護体は、波長が200nm以上240nm未満の紫外光を実質的に透過する材料からなり、第一領域に、前記紫外光を実質的に吸収する液体を保持し、
少なくとも前記第一領域の外側に位置する前記皮膚保護体に対して前記紫外光を照射することを特徴とする感染抑制方法。
【請求項2】
前記第一領域を覆うように定着された前記皮膚保護体が、前記第一領域において、前記皮膚表面から滲み出た体液を保持した状態の下で、少なくとも前記第一領域の外側に位置する前記皮膚保護体に対して前記紫外光を照射することを特徴とする請求項1に記載の感染抑制方法。
【請求項3】
前記第一領域に前記紫外光を実質的に吸収する薬液を塗布した後、前記第一領域に前記皮膚保護体を定着させた状態の下で、少なくとも前記第一領域の外側に位置する前記皮膚保護体に対して前記紫外光を照射することを特徴とする請求項1に記載の感染抑制方法。
【請求項4】
皮膚表面の第一領域を覆うように定着される保護体であって、
波長が200nm以上240nm未満の紫外光を実質的に透過し、かつ、前記第一領域において液体を保持することを特徴とする皮膚保護体。
【請求項5】
前記紫外光を実質的に透過する粘着層と、
前記紫外光を実質的に透過し、かつ、前記第一領域において、液体を保持する被覆層とを備えることを特徴とする請求項4に記載の皮膚保護体。
【請求項6】
可視光を実質的に透過することを特徴とする請求項4に記載の皮膚保護体。
【請求項7】
前記紫外光が入射されると、可視光領域に属する光に変換して出射する蛍光体が担持されていることを特徴とする請求項6に記載の皮膚保護体。
【請求項8】
前記紫外光の照射量に応じて色調が変化する色素体が担持されていることを特徴とする請求項6に記載の皮膚保護体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染抑制方法に関し、特に、紫外光の照射による感染抑制方法に関する。また、本発明は、当該感染抑制方法に利用可能な皮膚保護体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外光を照射して菌やウイルスを不活化する技術が知られており、DNAが波長260nm付近に最も高い吸収特性を示すことから、多くの場合、低圧水銀ランプ等を光源とする波長が254nm付近の紫外光が利用されている。
【0003】
上述したような紫外光は、人体に対する影響が大きいが、皮膚表面の殺菌処理のために、短時間、かつ、極めて低い強度で皮膚表面に照射される場合がある。例えば、下記特許文献1には、治療等のために患者の体内にカテーテルを挿入するにあたって、皮膚表面のカテーテル挿入位置に上述した波長帯の紫外光を照射して、皮膚表面を殺菌処理する方法、及びシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4790982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、波長が200nm以上240nm未満の紫外光が、同様に高い殺菌処理効果を示し、かつ、人体に対する影響が極めて小さいことが確認されており、高い注目を集めている。また、最近のコロナウイルス(Covid-19)感染症の流行により、当該波長帯の紫外光は、様々な環境での利用が検討されている。
【0006】
波長が200nm以上240nm未満の紫外光は、皮膚の表層部でその多くが吸収されてしまうため、皮膚内部にまでほとんど到達しない。このため、当該波長の紫外光は、人体に対する影響が極めて小さいと認識されている。
【0007】
近年、波長が上記波長範囲内に属する紫外光を利用する殺菌処理は、人体に対する影響が極めて小さいことと、薬液を使用しないことから、怪我をした直後や、上記特許文献1のように皮膚から体内にカテーテルを挿入する際の皮膚表面の殺菌処理に利用することが検討されている。特に、皮膚表面に存在する常在菌や、外部から侵入してくる菌が、褥瘡部に到達することで炎症を引き起こすことが知られているため、紫外光の照射によって、褥瘡部周辺に存在する菌を殺菌処理することで感染を抑制することが検討されている。
【0008】
ところが、皮膚表面に存在する褥瘡部は、多くの場合、皮膚の表層部が切り開かれた状態や、削り取られた状態となっている。このため、より安全性を高める観点から、褥瘡部が存在する皮膚表面に紫外光を照射して褥瘡部周辺の殺菌処理を行う場合は、褥瘡部周辺には紫外光を照射しつつも、褥瘡部への直接の紫外光の照射はできる限り回避したいという課題が存在する。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、皮膚表面上の所定の領域への紫外光の照射を抑制しつつ、当該領域周辺に対しては十分に紫外光を照射する感染抑制方法、及び当該感染抑制方法に利用可能な皮膚保護体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の感染抑制方法は、
皮膚保護体を皮膚表面に定着させた状態の下で、所定部位の感染を抑制する方法であって、
前記皮膚保護体は、波長が200nm以上240nm未満の紫外光を実質的に透過する材料からなり、第一領域に、前記紫外光を実質的に吸収する液体を保持し、
少なくとも前記第一領域の外側に位置する前記皮膚保護体に対して前記紫外光を照射することを特徴とする。
【0011】
本明細書において、「感染を抑制する」とは、褥瘡部のような菌やウイルスが進行することで感染のおそれがある部位の周辺の領域において、感染の原因となる微生物を減少させることを意図して用いられる。
【0012】
本明細書において、「実質的に透過する」とは、透過率が10%以上であることをいう。また、本明細書において、「実質的に吸収する」とは、光路長を1cmとした場合における吸光度が40以上であることをいう。
【0013】
また、ここでの「第一領域」とは、人の皮膚表面上における紫外光の照射をできる限り回避したい領域に相当する。具体的には、例えば、皮膚表面上の褥瘡部、縫合部の領域、皮膚炎、火傷が生じている領域である。
【0014】
さらに、ここでの「液体」とは、人の体液と、人の皮膚に塗布される薬液とを総称する意図で用いられている。体液とは、例えば、血液や、タンパク分解酵素を含む滲出液等である。また、薬液とは、人の皮膚における褥瘡部や火傷部分に塗布されるような液体の薬品である。なお、本発明に利用されるこれらの液体は、波長が200nm以上240nm未満の紫外光を実質的に吸収する液体である。
【0015】
まず、上記方法において、第一領域の外側に位置する皮膚保護体に対してのみ紫外光が照射される場合は、第一領域には紫外光が照射されない。そして、上記方法において、第一領域に位置する皮膚保護体に対しても紫外光が照射される場合は、第一領域に照射された紫外光のほとんどが、液体に吸収される。
【0016】
上記方法によれば、第一領域の外側に対しては効率よく殺菌処理を行うために必要な強度の紫外光を照射しつつ、第一領域の内側に対しては紫外光を照射しない、又は極めて弱い紫外光を照射することができる。
【0017】
上記感染抑制方法は、
前記第一領域を覆うように定着された前記皮膚保護体が、前記第一領域において、前記皮膚表面から滲み出た体液を保持した状態で、少なくとも前記第一領域の外側に位置する前記皮膚保護体に対して前記紫外光を照射する方法であっても構わない。
【0018】
上記感染抑制方法は、
前記第一領域に前記紫外光を実質的に吸収する薬液を塗布した後、前記第一領域に前記皮膚保護体を定着させた状態の下で、少なくとも前記第一領域の外側に位置する前記皮膚保護体に対して前記紫外光を照射する方法であっても構わない。
【0019】
上記方法では、皮膚保護体が、褥瘡部の形状、すなわち、第一領域の形状に沿うように体液、又は第一領域に塗布された薬液を保持する。
【0020】
つまり、上記方法によれば、第一領域の外側に対しては効率よく殺菌処理を行うために十分な強度の紫外光を照射しつつ、第一領域の内側には紫外光を照射しない、又は極めて弱い紫外光の照射を実現することができる。
【0021】
本発明の皮膚保護体は、
皮膚表面の第一領域を覆うように定着される保護体であって、
波長が200nm以上240nm未満の紫外光を実質的に透過し、かつ、前記第一領域において液体を保持することを特徴とする。
【0022】
上記皮膚保護体は、
前記紫外光を実質的に透過する粘着層と、
前記紫外光を実質的に透過し、かつ、前記第一領域において、液体を保持する被覆層とを備えていても構わない。
【0023】
上記皮膚保護体は、
可視光を実質的に透過するように構成されていても構わない。
【0024】
上記構成によれば、皮膚保護体を皮膚表面に貼付した後に、皮膚保護体が、第一領域において皮膚表面に滲み出た滲出液や血液等の視認可能な体液を保持していることが、視覚的に確認することができる。つまり、上記感染抑制方法に上記皮膚保護体を用いれば、紫外光照射を実施する作業者が、皮膚保護体に体液や薬液等の液体が十分に保持されているか否かを確認して、紫外光の照射を開始することができる。
【0025】
さらに、上記皮膚保護体は、
前記紫外光が入射されると、可視光領域に属する光に変換して出射する蛍光体が担持されていても構わない。
【0026】
また、上記皮膚保護体は、
前記紫外光の照射量に応じて色調が変化する色素体が担持されていても構わない。
【0027】
上記構成とすることで、例えば、紫外光を照射する作業者、又は紫外光が照射される対象者は、紫外光が照射されているか否か、紫外光の照射領域が適切どうかを、作業を実施する際に、視覚的に確認することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、皮膚表面上の所定の領域への紫外光の照射を抑制しつつ、当該領域周辺に対しては十分に紫外光を照射する感染抑制方法、及び当該感染抑制方法に利用可能な皮膚保護体が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】皮膚表面の皮膚保護体を貼付する状態を模式的に示す図面である。
図2】皮膚表面に貼付された皮膚保護体に対して紫外光を照射している状態を模式的に示す図面である。
図3】皮膚保護体の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
図4】照射器の内部構造を模式的に示す断面図である。
図5A】皮膚表面上の褥瘡部を覆うように皮膚保護体を貼付する前の状態を模式的に示す断面図である。
図5B】皮膚表面上の褥瘡部を覆うように皮膚保護体を貼付した直後の状態を模式的に示す断面図である。
図5C】皮膚表面上の褥瘡部を覆うように皮膚保護体を貼付して後であって、褥瘡部から体液が滲み出てきた直後の状態を模式的に示す断面図である。
図5D】皮膚表面上の褥瘡部を覆うように皮膚保護体を貼付して後であって、被覆層が体液を保持している状態を模式的に示す断面図である。
図6A】皮膚表面に皮膚保護体を貼付した直後の状態を、皮膚表面に向かって見たときの図面である。
図6B】皮膚表面に皮膚保護体を貼付した後であって、被覆層が体液を保持している状態を、皮膚表面に向かって見たときの図面である。
図7】皮膚保護体の別実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
図8】皮膚表面に貼付された皮膚保護体に対して紫外光を照射している状態を模式的に示す図面である。
図9】皮膚保護体の別実施形態の構造を模式的に示す斜視図である。
図10】基材層が取り除かれた状態の皮膚保護体の別実施形態の構造を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の感染抑制方法及び皮膚保護体について、図面を参照して説明する。なお、感染抑制方法及び皮膚保護体に関する以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0031】
[実施態様]
以下で説明される実施態様は、人の上腕にある褥瘡部周辺に紫外光を照射することで、傷口に侵入しようとする細菌を殺菌処理する態様である。なお、本発明の感染抑制方法は、褥瘡部が存在する部分に限らず実施可能な方法であり、例えば、皮膚炎が生じている領域や、カテーテルの挿入や手術での切開による治療痕周辺の領域の感染抑制に適用することができる。
【0032】
図1は、皮膚表面2の皮膚保護体1を貼付する状態を模式的に示す図面である。図2は、皮膚表面2に貼付された皮膚保護体1に対して紫外光L1を照射している状態を模式的に示す図面である。図3は、皮膚保護体1の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。そして、図4は、照射器20の内部構造を模式的に示す断面図である。
【0033】
本実施態様では、まず、皮膚表面2の褥瘡部の領域である第一領域A1を覆うように皮膚保護体1が貼付される。これにより、皮膚表面2上に皮膚保護体1が定着される。そして、被覆層12が、第一領域A1から滲み出てくる体液を保持した後に、皮膚保護体1に対して紫外光L1が照射される。
【0034】
皮膚保護体1が貼付された皮膚表面2に対して、紫外光L1が十分な強度で照射されるように、紫外光L1は、第一領域A1から1.0m以内の範囲内から皮膚保護体1に対して照射されることが好ましく、第一領域A1から0.5m以内の範囲内から皮膚保護体1に対して照射されることがより好ましい。
【0035】
まず、皮膚保護体1の構成、及び照射器20の構成を説明した後、第一領域A1に皮膚保護体1を貼付してから皮膚保護体1に現れる変化について説明する。
【0036】
[皮膚保護体1]
図3に示すように、本実施形態における皮膚保護体1は、粘着層11と、被覆層12とを備える。
【0037】
粘着層11は、皮膚保護体1を人の皮膚表面2に貼付する際に、人の皮膚表面2とくっついて定着させる層である。粘着層11は、波長が200nm以上240nm未満の紫外光を実質的に透過させる材料で形成された層である。粘着層11の材料としては、例えば、アクリル系共重合体、ウレタン系共重合体、シリコーン系共重合体、ゴム系共重合体もしくは各共重合体に使用されるモノマーを組み合わせた共重合体を採用し得る。
【0038】
本実施形態の被覆層12は、皮膚表面2の第一領域A1を覆うとともに、粘着層11を形成するための基材であって、かつ、皮膚表面2の第一領域A1から滲み出てきた体液を保持する層である。
【0039】
なお、本実施形態では、被覆層12が、皮膚保護体1の基材となる基材層12aと、体液を保持する保持層12bとが積層されて構成されているが、単一層として構成されていてもよい。
【0040】
また、被覆層12は、粘着層11と同様に、波長が200nm以上240nm未満の紫外光と、可視光とを実質的に透過させる材料で形成された層である。基材層12aは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の材料を採用し得る。また、保持層12bは、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、アルギン酸等に代表される各高分子材料を採用し得る。
【0041】
ここで、図3では粘着層11と、被覆層12とが同じ厚みで図示されているが、実際の皮膚保護体1の構成例としては、粘着層11の厚みが0.1μm~200μm、被覆層12の厚みが20μm~5000μmである。
【0042】
体液は、上述したように、人の体内で生成された白血球やタンパク分解酵素等を含む液体であり、淡黄褐色、又は赤褐色の液体である場合が多い。このため、粘着層11及び被覆層12が可視光を実質的に透過する構成とすることで、皮膚保護体1に対して紫外光L1を照射する際に、体液が滲み出ているかどうかを、目視確認することができる。ただし、紫外光照射による感染抑制の効果が得られるように、少なくとも波長が200nm以上240nm未満の範囲に属する紫外光を実質的に透過する層であればよい。
【0043】
[照射器20]
図4に示すように、紫外光L1を出射する照射器20は、筐体21と、エキシマランプ22と、光学フィルタ23とを備える。
【0044】
筐体21は、図4に示すように、作業者が手で握る把手部21aを備えており、内側にエキシマランプ22が収容されている。
【0045】
エキシマランプ22は、発光管22a内に発光ガスとしてクリプトン(Kr)ガスと、塩素(Cl)ガスとが封入されており、電極(22b,22b)間に点灯に必要な電圧が印加されることで、ピーク波長が222nm付近に現れる紫外光Lxを発する。
【0046】
なお、エキシマランプ22の形状は図4に示したような形状に限られない。また、発光管22a内に発光ガスとして封入されるガスは、上記組み合わせに限られず、例えば、ピーク波長が207nm付近に現れる紫外光を発するように、クリプトン(Kr)ガスと、臭素(Br)ガスとの組み合わせを採用し得る。
【0047】
本実施形態の光学フィルタ23は、波長が200nm以上240nm未満の紫外光を実質的に透過し、波長が240nm以上280nm未満の紫外光を実質的に透過しないフィルタである。より具体的には、光学フィルタ23は、誘電体多層膜フィルタであって、例えば、シリカ(SiO2)層と、ハフニア(HfO2)層とが積層されてなるフィルタである。
【0048】
本実施形態の照射器20は、エキシマランプ22と、光学フィルタ23とを備えているが、照射器20の構成は、当該構成に限られない。例えば、紫外光Lxを出射する光源は、LED等の固体光源であっても構わない。
【0049】
また、固体光源のような比較的狭小なスペクトルを示す光を出射する光源が搭載され、当該光源から出射される紫外光をそのまま人体に照射しても問題とならないような場合は、光学フィルタ23が搭載されていなくても構わない。
【0050】
[皮膚保護体1内部における貼付後の変化]
次に、皮膚表面2に貼付された直後に生じる皮膚保護体1の状態変化について説明する。
【0051】
図5A図5Dは、皮膚表面2上の第一領域A1を覆うように皮膚保護体1を貼付する前の状態と、皮膚保護体1を貼付してから徐々に現れる変化を時系列に図示した断面図である。図6Aは、皮膚表面2に皮膚保護体1を貼付した直後の状態(図5Bの状態)を、皮膚表面2に向かって見たときの図面であり、図6Bは、皮膚表面2に皮膚保護体1を貼付してしばらく時間が経過した後の状態(図5Dの状態)を、皮膚表面2に向かって見たときの図面である。
【0052】
図5Aに示すように、まず、皮膚表面2上の第一領域A1を覆うように、皮膚保護体1の粘着層11が皮膚表面2に貼付される。
【0053】
図5B及び図6Bに示すように、皮膚表面2に皮膚保護体1が貼付された後、図5Cに示すように、徐々に第一領域A1から体液B1が滲み出てくる。体液は、粘着層11内で徐々に広がりながら被覆層12側に向かって移動する。なお、上述したように、実際の粘着層11の厚みは、被覆層12の厚みと比べて非常に薄いため、第一領域A1から滲み出た体液B1は、すぐに被覆層12に到達する。
【0054】
被覆層12に体液B1が到達すると、図5D及び図6Bに示すように、被覆層12によって保持されている体液B1によって、第一領域A1を覆うような吸光領域A2が形成される。
【0055】
以上の過程を経て、図5D及び図6Bに示すような状態となった後、図2に示すように、皮膚保護体1に対して紫外光L1が照射される。なお、図6Bに示すように、被覆層12よって体液B1が保持されて、第一領域A1を十分に覆うまでには、ある程度の時間を要する。皮膚保護体1を皮膚表面2に貼付した後、紫外光L1を照射するまでには、具体的は、30分以上待機することが好ましく、1時間以上待機することがより好ましい。
【0056】
上述したように、人の皮膚表面上に滲み出た体液は、人の体内で生成された白血球やタンパク分解酵素等を含む液体であり、波長が200nm以上240nm未満の紫外光を実質的に吸収する液体である。
【0057】
つまり、図6Dに示すような状態の皮膚保護体1に対して、紫外光L1を照射すると、吸光領域A2に覆われた第一領域A1には、紫外光L1が照射されない、又は極めて強度が低い紫外光L1が照射される。そして、吸光領域A2に覆われていない領域は、紫外光L1が照射されて殺菌処理が行われる。
【0058】
したがって、上記皮膚保護体1を用いて上記方法を実施すれば、第一領域の外側に対しては効率よく殺菌処理を行うために必要な強度の紫外光を照射しつつ、第一領域の内側に対しては紫外光を照射しない、又は極めて弱い紫外光を照射することができる。
【0059】
なお、上記実施形態においては、紫外光L1が第一領域A1にも紫外光L1が照射されている実施態様で説明したが、紫外光L1は、第一領域A1の外側にだけに照射されても構わない。この場合、吸光領域A2は、第一領域A1に対して紫外光L1が照射されないように保護する。
【0060】
また、上記実施形態においては、ガーゼ等で一度拭き取ることによって、体液B1が存在していない状態となった皮膚表面2に、皮膚保護体1を貼付する実施態様で説明したが、皮膚保護体1は、体液B1が存在する状態の皮膚表面2に貼付されても構わない。
【0061】
さらに、皮膚保護体1は、皮膚表面2に定着させることで、皮膚表面2から滲み出た体液や、皮膚表面2に定着される前に塗布された薬液等の液体を保持するシートのみで構成されていても構わない。具体的には、皮膚保護体1は、粘着層11を備えない構成であっても構わない。当該構成の皮膚保護体1は、例えば、腕等に巻き付けることで定着させることや、別部材としての粘着テープによって定着させることが考えられる。
【0062】
さらに、皮膚保護体1は、粘着層11及び被覆層12に加え、被覆層12が保持している薬液が所定の範囲外にまで拡がることを防止する拡散防止層等の更なる別の層を備えていても構わない。また、上述したような各層は、粘着層11も含めて、主面に直交する方向から見たときに、必ずしも同じサイズで形成されていなくても構わない。
【0063】
さらに、吸光領域A2を形成する方法は、上述の方法とは別に、例えば、第一領域A1に波長が200nm以上240nm未満の紫外光を実質的に吸収する薬液を塗布した状態の皮膚表面2に、皮膚保護体1を定着させることで実現しても構わない。なお、薬液は、具体的には、分子量が100以上、かつ、光路長を1cmとした場合における吸光度が40以上の液体である。
【0064】
この場合は、皮膚保護体1の被覆層12に保持された薬液が吸光領域A2を形成する。当該方法は、例えば、第一領域A1から体液がほとんど滲み出てこない状態において好適な方法である。
【0065】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0066】
〈1〉 図7は、皮膚保護体1の別実施形態の構造を模式的に示す断面図である。図8は、皮膚表面2に貼付された図7に示す皮膚保護体1に対して紫外光L1を照射している状態を模式的に示す図面である。
【0067】
被覆層12が、可視光を実質的に透過する層である皮膚保護体1において、図7に示すように、皮膚保護体1は、紫外光L1が入射されると、可視光領域に属する光に変換して出射する蛍光体1aを含有していても構わない。
【0068】
蛍光体1aとしては、例えば、無機蛍光体、蛍光色素、蛍光タンパク質、量子ドット等を採用し得る。
【0069】
上記構成とすることで、図8においてハッチングで示す皮膚保護体1の照射領域A3のように、皮膚保護体1の紫外光L1が照射されている部分が発光する。当該構成によれば、作業者が、皮膚保護体1に紫外光L1が所定の位置に照射されているか否かを確認しながら作業を行うことができる。
【0070】
なお、本実施形態では、図7に示すように、蛍光体1aが被覆層12において担持されているが、蛍光体1aは、粘着層11に担持されていても構わない。
【0071】
また、皮膚保護体1は、粘着層11又は被覆層12において、蛍光体1aに代えて、色素体が担持されていても構わない。色素体とは、紫外光の照射量に応じて色調が変化する物質である。色素体の具体例としては、アゾベンゼン、スピロピラン、又はその類似体を含むフォトクロミック色素、ジアリールエテン、フルギド、又はその類似体を含むフォトクロミック色素等が挙げられる。
【0072】
当該構成によれば、作業者が、皮膚保護体1に対する紫外光L1の照射が十分か不十分化を確認しながら作業を行うことができる。
【0073】
図9は、図7とは別の皮膚保護体の別実施形態の構造を模式的に示す斜視図である。図9に示す実施形態は、基材層12aの一部の領域に、蛍光体又は色素体による発光部12cが形成されている。本実施形態のように、蛍光体、又は色素体は、皮膚保護体1の各層の内部に担持されている構成のみならず、基材層12aの表面上の一部、又は全部に定着されていていても構わない。
【0074】
なお、基材層12aの表面に蛍光体、又は色素体を定着させる方法としては、例えば、基材層12aの一部を削ることで凹部を形成し、そこへ蛍光体、又は色素体を供給し、固着剤やカバー層等を用いて定着することが考えられる。
【0075】
〈2〉 図10は、基材層12aが取り除かれた状態の皮膚保護体1の別実施形態の構造を模式的に示す斜視図である。保持層12bは、液体が浸透しない材料によってシート状に成形されて、図10に示すように、複数の穴12dが設けられた層であっても構わない。
【0076】
上記構成とすることで、定着した皮膚から滲み出た体液が、傷口や褥瘡部を覆う位置の穴12dによって保持される。したがって、体液が皮膚保護体1内において、不必要に広がってしまうことが抑制される。
【0077】
なお、図10に示す保持層12bの構成は、単なる一例であって、例えば、穴12dの形状は任意である。また、穴12dが設けられた保持層12bは、例えば、一枚のシート材に装置や針を用いて穴12dをあける方法や、複数のシートを格子状に組み合わせる方法によって作製される。
【0078】
〈3〉 上述した皮膚保護体1が備える構成、及び感染抑制方法は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0079】
1 : 皮膚保護体
1a : 蛍光体
2 : 皮膚表面
11 : 粘着層
12 : 被覆層
12a : 基材層
12b : 保持層
12c : 発光部
12d : 穴
20 : 照射器
21 : 筐体
21a : 把手部
22 : エキシマランプ
22a : 発光管
22b : 電極
23 : 光学フィルタ
A1 : 第一領域
A2 : 吸光領域
A3 : 照射領域
B1 : 体液
L1 : 紫外光
Lx : 紫外光
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10