(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139871
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】バルブ装置
(51)【国際特許分類】
F16K 7/12 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
F16K7/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050802
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】110002893
【氏名又は名称】弁理士法人KEN知財総合事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊英
(72)【発明者】
【氏名】中田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】北野 真史
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一誠
(72)【発明者】
【氏名】近藤 研太
(72)【発明者】
【氏名】丹野 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕也
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シール性能と流体の流量を確保しつつ流量を精密に調整可能なバルブ装置を提供する。
【解決手段】収容凹部11と、収容凹部の底面で開口する第1の流路12と、収容凹部に接続された第2の流路13とを画定するバルブボディ10と、下端部が収容凹部の底面に密着する下端シール部20bを形成し、内周側が第1の流路と連通する流路を画定するとともに、上端部がバルブシート部20aを形成する筒状部材20と、収容凹部の内周側と筒状部材とを接続し、可撓性を有して筒状部材を下方向に付勢する環状プレート30と、バルブシート部に対して離間及び当接することにより流路の開閉を行うダイヤフラム40と、ダイヤフラムを駆動する駆動部50を有し、バルブシート部20a及び下端シール部20bの少なくとも一方が、筒状部材の表面に設けられたシール性を有する皮膜により形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容凹部と、前記収容凹部の底面で開口する第1の流路と、前記収容凹部に接続された第2の流路とを画定するバルブボディと、
下端部が前記収容凹部の底面に密着する下端シール部を形成し、内周側が前記第1の流路と連通する流路を画定するとともに、上端部がバルブシート部を形成する筒状部材と、
前記バルブボディの収容凹部の内周側と前記筒状部材の外周側とを接続し、可撓性を有して前記筒状部材を下方向に付勢するとともに、前記第2の流路と連通する複数の開口を有する環状プレートと、
前記バルブシート部に対して離間及び当接することにより前記第1の流路と前記第2の流路との間の連通及び遮断を行うダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムを前記バルブシート部に対して離間及び当接させる駆動部と、を有し、
前記バルブシート部及び前記下端シール部の少なくとも一方が、前記筒状部材の表面に設けられたシール性を有する皮膜により形成されている、バルブ装置。
【請求項2】
前記バルブシート部及び前記下端シール部の両方が、前記筒状部材の表面に設けられたシール性を有する皮膜により形成されている、請求項1に記載のバルブ装置。
【請求項3】
前記皮膜の材質は、樹脂である、請求項1又は2に記載のバルブ装置。
【請求項4】
前記樹脂層の材質は、フッ素樹脂である、請求項3に記載のバルブ装置。
【請求項5】
前記皮膜の厚さは、0.05mm~0.1mmである、請求項1又は2に記載のバルブ装置。
【請求項6】
前記筒状部材の表面に設けられたシール性を有する皮膜により形成されている前記バルブシート部又は前記下端シール部が、縦断面視で、外周側テーパ部と内周側テーパ部と稜線部からなる凸型形状を有し、前記筒状部材の軸に垂直な仮想平面に対して、前記外周側テーパ部のテーパ角は5±4度であり、前記内周側テーパ部のテーパ角は27±15度である、請求項1又は2に記載のバルブ装置。
【請求項7】
前記バルブシート部又は前記下端シール部が、縦断面視で、前記外周側テーパ部の外周側に、縮径した外周面と段差面からなる段差部をさらに有し、前記縮径した外周面の途中に前記皮膜の外周側縁部が存在する請求項6に記載のバルブ装置。
【請求項8】
前記駆動部は、
前記ダイヤフラムを前記バルブシート部に対して離間させる開位置及び接触させる閉位置の間で移動可能に設けられ、前記ダイヤフラムを操作する操作部材と、
供給される駆動流体の圧力を受けて、前記操作部材を前記開位置又は閉位置に移動させる主アクチュエータと、
前記開位置に位置付けられた前記操作部材の位置を調整するための調整用アクチュエータと、を含む、請求項1又は2に記載のバルブ装置。
【請求項9】
前記調整用アクチュエータは、圧電素子の伸縮を利用したアクチュエータを含む、請求項8に記載のバルブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程における成膜プロセスにおいては、均一かつ緻密な成膜のために、例えば、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition法)が用いられる場合があり、このようなプロセスでは、処理ガスの流量を精密に調整する必要がある。また、基板の大口径化に対応すべく、処理ガスの大流量化が求められている。
このような要求に応えるべく、大きなストロークでのバルブの開閉が可能な空気圧アクチュエータを主アクチュエータとして流量を確保しつつ、バルブ開度を微細に調整可能な圧電アクチュエータを調整用アクチュエータとして併用することで、小流量から大流量までの精密な制御を可能としたダイヤフラムバルブが存在する(例えば、特許文献1参照)。
一方、半導体製造における成膜プロセスで使用されるダイヤフラムバルブの大流量化を実現するため、インナーディスクと呼ばれる部品を弁室内に組み込む手法が存在している。具体的には、インナーディスクの内周側を構成する筒状部材の長さを大きくし、弁室を深くして、弁室側面に例えば大径の二次側流路を接続することにより、大流量化を実現している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7030359号
【特許文献2】国際公開第2020/021911号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、更に高まる大流量化の要求に応えるべく、空気圧アクチュエータと圧電アクチュエータを併用するダイヤフラムバルブにこのインナーディスクを組み込み、更なる大流量化を図る動きがある。
しかしながら、従来のインナーディスクの筒状部材では、ダイヤフラムと接触する上端部に樹脂製のシートを配置してカシメ等により固定し、ボディと接触する下端部に樹脂製のシール部材を配置してカシメ等により固定する構造のため、開閉動作の際にダイヤフラムから繰り返し受ける押圧力によって、樹脂製シートや樹脂製シールが経時的に押しつぶされるという問題があり、一方、高温環境下で使用する場合には、樹脂製シートや樹脂製シールが熱膨張するという問題がある。
そして、このような樹脂製シートや樹脂製シールの寸法の変化により生ずるシート面の高さの変化は、バルブ開放時のシートとダイヤフラム間の隙間を変化させて、流量の変化を引き起こすのみならず、弁閉及び弁開動作そのものの確実性にまで影響を及ぼす場合がある。
特に、微細にストローク量を変化可能な圧電アクチュエータを併用したダイヤフラムバルブにおいては、上記シート面の高さの変化をカバーすることが困難になり、流量の精度低下を招くおそれがある。
そのため、シート面の高さの経時的な変化が小さいシール手段の開発が求められている。
【0005】
本発明の目的の一つは、シール性能及び流体の流量を確保しつつ流量を精密に調整可能なバルブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のバルブ装置は、収容凹部と、前記収容凹部の底面で開口する第1の流路と、前記収容凹部に接続された第2の流路とを画定するバルブボディと、
下端部が前記収容凹部の底面に密着する下端シール部を形成し、内周側が前記第1の流路と連通する流路を画定するとともに、上端部がバルブシート部を形成する筒状部材と、
外周縁部が前記バルブボディの収容凹部の内周面に形成された支持部に固定され、内周縁部が前記筒状部材の外周面に形成された支持部に固定され、可撓性を有して前記筒状部材を下方向に付勢するとともに、前記第2の流路と連通する複数の開口を有する環状プレートと、
前記バルブシート部に対して離間及び当接することにより前記第1の流路と前記第2の流路との間の連通及び遮断を行うダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムを前記バルブシート部に対して離間及び当接させる駆動部と、を有し、
前記バルブシート部及び前記下端シール部の少なくとも一方が、前記筒状部材の表面に設けられたシール性を有する皮膜により形成されている、ことを特徴とする。
ここで「シール性」とは、当接対象物に当接すると、局部的に弾性変形して当接対象物に密着し、当接対象物との間の流体の流れを遮断できる性質をいう。
【0007】
本発明のバルブ装置において、前記バルブシート部及び前記下端シール部の両方が、前記筒状部材の表面に設けられたシール性を有する皮膜により形成されている、構成が好ましく採用できる。
【0008】
前記皮膜の材質は、樹脂である、構成が好ましく採用できる。
【0009】
前記皮膜の材質は、フッ素樹脂である、構成が特に好ましく採用できる。
【0010】
前記皮膜の厚さは、0.05mm~0.1mmである、構成が好ましく採用できる。
【0011】
前記筒状部材の前記皮膜により形成されている前記バルブシート部又は前記下端シール部が、縦断面視で、外周側テーパ部と内周側テーパ部と稜線部からなる凸型形状を有し、前記筒状部材の軸に垂直な仮想平面に対して、前記外周側テーパ部のテーパ角は5±1度であり、前記内周側テーパ部のテーパ角は27±1度である、構成が好ましく採用できる。
【0012】
前記バルブシート部又は前記下端シール部が、縦断面視で、前記外周側テーパ部の外周側に、さらに縮径した外周面と段差面からなる段差部を有し、前記縮径した外周面の途中に前記皮膜の外周側縁部が存在する、構成であってもよい。
【0013】
前記駆動部は、前記ダイヤフラムを前記バルブシート部に対して離間させる開位置及び接触させる閉位置の間で移動可能に設けられ、前記ダイヤフラムを操作する操作部材と、
供給される駆動流体の圧力を受けて、前記操作部材を前記開位置又は閉位置に移動させる主アクチュエータと、
前記開位置に位置付けられた前記操作部材の位置を調整するための調整用アクチュエータと、を含む、構成が好ましく採用できる。
【0014】
前記調整用アクチュエータは、圧電素子の伸縮を利用したアクチュエータを含む、構成が好ましく採用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、筒状部材を用いたバルブ装置において、バルブシート部及び下端シール部の少なくとも一方を、筒状部材の表面に設けられたシール性を有する皮膜により形成したので、これらの部分を樹脂製部材で形成した場合に比べて樹脂層の厚みが薄くなり、高温環境下での熱膨張や開閉動作によるシート高さの変化を軽減できる。
このため、ダイヤフラムを駆動する微調整用アクチュエータとして圧電アクチュエータを採用し、インナーディスクを採用したダイヤフラムバルブにおいても、シート面高さの経時変化や温度による変化が小さくなり、シール性能と流体の流量を確保しつつ流量を精密に調整可能なバルブ装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るバルブ装置の縦断面図。
【
図2】
図1のバルブ装置の弁室部分を示す要部断面図。
【
図4A】
図3の筒状部材の端部(C部)の形状を示す拡大断面図。
【
図4B】
図3の筒状部材の端部(C部)の形状の変形例を示す拡大断面図。
【
図7】
図1のバルブ装置の閉状態を示す要部断面図。
【
図8】
図1のバルブ装置の開状態で開度調整を示す要部断面図。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係るバルブ装置の筒状部材を示す縦断面図。
【
図10】本発明の第3の実施形態に係るバルブ装置の筒状部材を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。説明において同様の要素には同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。尚、本明細書及び特許請求の範囲における「上面」「下面」等の語は、ボディにおける収容凹部の位置を「上面」側と定義した場合の部材同士の相対的な位置関係を示す語であり、地面に対する位置関係を示す語ではない。
(第1の実施形態)
図1に本発明の実施形態に係るバルブ装置1を示す。
本実施形態は、筒状部材の上端部のバルブシート部及び下端部の下端シール部の両方を筒状部材の表面に設けられたシール性を有する皮膜で形成した形態である。ここで「シール性」とは、当接対象物に当接すると、局部的に弾性変形して当接対象物に密着し、当接対象物との間の流体の流れを遮断できる性質をいう。「シール性を有する皮膜」とは、後述する樹脂に限られず、例えば、金やニッケルなどの金属材料、或いはPTFE無電解ニッケルメッキやポリイミド複合材料などの複合材料でもよい。
図1において、10はバルブボディ、20は筒状部材、30は環状プレート、40はダイヤフラム、50は操作部材、60は主アクチュエータとしてのエアシリンダ、70は調整用アクチュエータとしての圧電アクチュエータ、80はボンネット,90はケーシング、95はコイルばね、96は皿バネ、ORはシール部材としてのOリング、Gは駆動流体としての圧縮エアを示す。なお、駆動流体は、圧縮エアに限定されるわけではなく他の流体を用いることも可能である。
【0018】
バルブボディ10は、ステンレス鋼等の金属により形成されており、内部に収容凹部11,第1の流路12及び第2の流路13を画定している。収容凹部11は、バルブボディ10の上面10a側に形成された円筒状の凹部で、高さ方向中段に段差状の支持部17(
図2参照)を有する。この収容凹部11の周囲には、バルブボディ10の上面10aから円筒状突設部14が突設され、この円筒状突設部14の内周面には、ボンネット80と螺合する内周ネジ部が形成されている。第1の流路12は、一端部が収容凹部11の底面で開口し、他端部がバルブボディ10の左側面に設けられた継手部10bの先端部で開口している。第2の流路13は、一端部が、収容凹部11の側面で開口し他端部がバルブボディ10の右側面の継手部10cの先端部で開口している。
収容凹部11は、後述する筒状部材20の採用により深く形成でき、その結果、第1の流路12及び第2の流路13を大径化できて、大流量に対応できるようになっている。
尚、本実施形態では、バルブボディ10の下面10d側に、第1の流路12に連通する下側収容凹部10eが設けられ、圧力センサ400が配置されている。この圧力センサ400は調整用アクチュエータ70動作時に、フィードバック用のセンサとして機能する。但し、圧力センサ400は必須でない。
【0019】
筒状部材20は、略円筒状の部材で、下端部が前記収容凹部11の底面に密着する下端シール部20bを形成し、内周側20cが前記第1の流路12と連通する流路を画定するとともに、上端部がバルブシート部20aを形成する部材である。
本実施形態では、
図3に示すように、筒状部材20の上端部のバルブシート部20a及び下端部の下端シール部20bの両方を筒状部材20の表面に設けられたシール性を有する樹脂皮膜21a,21bで形成されている。この樹脂皮膜21a,21bの材質は、PFAを用いている。但し、この樹脂皮膜21a,21bの材質は、PFAに限らず、フッ素樹脂全般(PTFEなど)やフッ素樹脂以外のポリイミド等でもよい。シール可能な柔軟性を有しつつ、耐熱性及び被塗布材である筒状部材20への密着性に優れた樹脂が好ましい。
樹脂皮膜21a,21bの厚さは、0.05mm~0.1mmが好ましい。樹脂皮膜21a,21bの厚さが小さいほど、厚さの経時変化や熱膨張が小さいので、バルブボディ10を基準とするバルブシート面高さの変動が抑えられ、その結果、バルブ開状態での流量安定性が高まる。反面、樹脂皮膜21a,21bの厚さが小さすぎると、樹脂皮膜21a,21bの柔軟性が低下し、下端シール部20bのシール性やバルブ閉状態でのバルブシート部20aのシール性が低下する懸念がある。このため、上記した樹脂皮膜21a,21bの厚さが好ましい。
【0020】
樹脂皮膜21a,21bの形成(コーティング)工程は、例えばPFA等のフッ素樹脂の場合、塗布対象面である筒状部材20の上端面及び下端面の粗面化(サンドブラスト等)、プライマーの塗布・焼成、パウダー状態又はディスパージョン状態の樹脂の塗布・焼成、の手順で行う。但し、これに限られず、適切な樹脂皮膜21a,21bが形成できれば、いずれの工程でもよい。
【0021】
樹脂皮膜21a,21bが表面に設けられたバルブシート部20a及び下端シール部20bは、
図4Aの拡大断面図に示すように、外周側テーパ部22と内周側テーパ部23と稜線部24からなる凸型形状を有し、筒状部材20の軸に垂直な仮想平面Hに対して、外周側テーパ部22のテーパ角は5±1度であり、内周側テーパ部23のテーパ角は27±1度である。なお、稜線部24は、断面視で必ずしも尖った形状でなく曲線的に盛り上がった形状でもよい。この断面形状は、従来の樹脂製バルブシートの断面形状に近いので、バルブシート部20aに採用すると安定したバルブシート動作が得られるとともに、下端シール部20bに採用しても、確実なシール性能が得られる。
本実施形態では、筒状部材20は、
図3に示すように両端部の形状が同一で上下対称に形成されているので、上下反転しても使用でき、組み立て作業が容易になる。
但し、本発明においては、筒状部材20は上下対称でなくてもよく、バルブシート部20a及び下端シール部20bの断面形状は、同一なくてもよく、また、バルブシート及び下端シールの機能が得られれば、上記した形状でなくてもよい。
【0022】
図4Bは、バルブシート部20a及び下端シール部20bの断面形状の変形例を示す。この変形例では、バルブシート部20a又は下端シール部20bが、縦断面視で、外周側テーパ部22の外周側に、縮径した外周面25aと段差面25bからなる段差部25をさらに有し、前記縮径した外周面25aの途中に前記樹脂皮膜21a,21bの外周側縁部が存在する。この構成により、縮径した外周面25aの任意の位置まで樹脂皮膜21a,21bを設けることで、樹脂皮膜21a,21bの外縁位置を管理しやすくなり、作業性が向上するメリットがある。なお、稜線部24付近の形状は
図4Aと同じなので、同様のバルブシート動作性能やシール性能が得られる。
【0023】
環状プレート30は、バルブボディ10の収容凹部11の内周側と筒状部材20の外周側20dとを接続し、可撓性を有して筒状部材20を下方向に付勢するとともに、第2の流路13と連通する複数の開口を有する部材である。
環状プレート30は、
図5に示すように、平面視で中心部に貫通孔30aを有する可撓性の円環状の平坦な板材であり、ステンレス等の金属で形成され、周方向に複数の開口30bが形成されている。
図2に示すように、環状プレート30の内周縁部30c(
図5参照)は、筒状部材20の外周面(20d)に形成された段差部20eに、当該外周面(20d)に嵌合された固定リング28によって固定され、環状プレート30の外周縁部30d(
図5参照)は、収容凹部11の内周面に形成された支持部17に、当該内周面に嵌合された支持リング15によって固定されている。段差部20eは支持部17より高い位置にあるので、環状プレート30は、内周縁部30cのみが段差部20eに固定された状態では、略水平の平板状を成すが、さらに外周縁部30dが支持部17に固定されると、外周側が押し下げられて略円錐台面状に変形し、弾性力で筒状部材20を下方向に付勢する。
【0024】
ダイヤフラム40は、
図2に示すように、バルブシート部20aの上方に配設されており、第1の流路12と第2の流路13とを連通する流路を画定すると共に、その中央部が上下動してバルブシート部20aに対して離間・当接することにより、第1の流路12と第2の流路13との間を開閉する。本実施形態では、ダイヤフラム40は、特殊ステンレス鋼等の金属製薄板及びニッケル・コバルト合金薄板の中央部を上方へ膨出させることにより形成され、自然状態では上に凸の球殻状を成す。この特殊ステンレス鋼薄板3枚とニッケル・コバルト合金薄板1枚とが積層されてダイヤフラム40が構成されている。
ダイヤフラム40は、その外周縁部がバルブボディ10の収容凹部11に嵌合された支持リング15の上面に載置されており、円筒状突設部14内へ挿入され螺合されたボンネット80の下端部により、ステンレス合金製の押えアダプタ16を介して前記支持リング15上面へ押圧され、気密状態で挾持固定されている。
【0025】
ボンネット80は、駆動部(50,60,70)をバルブボディ10へ接続する構造部材で、略円筒状を成し、下端部がバルブボディ10の円筒状突設部14内へ挿入され螺合されて固定されると共に、下端部が押えアダプタ16を介してダイヤフラム40の外縁部,支持リング15及び環状プレート30の外縁部を支持部17に押圧し、これらの部材を固定している。ボンネット80の上端部は、主アクチュエータ60の下端部を構成している。
【0026】
操作部材50は、ダイヤフラム40に第1の流路12と第2の流路13との間を開閉させるようにダイヤフラム40を操作するための部材であり、円筒部材51下端部の内周ネジ部とダイヤフラム押えホルダ52上端部の外周ネジ部が螺合してなる略有底円筒状を有し、上端側が開口している。操作部材50は、円筒部材51部分が、ボンネット80の内周面等にOリングORを介して嵌合し(
図1,6参照)、上下方向A1,A2に移動自在に支持されている。
操作部材50のダイヤフラム押えホルダ52の下側にはダイヤフラム40の中央部上面に当接するアルミ製のダイヤフラム押え53が装着されている。
ダイヤフラム押えホルダ52のうち円筒状部材51から外周側に突出した鍔部52aの上面と、ボンネット80の天井面との間には、コイルバネ95が設けられ、操作部材50はコイルバネ95により下方向A2に向けて常時付勢されている。このため、主アクチュエータ60が作動していない状態では、ダイヤフラム40はバルブシート部20aに押し付けられ、第1の流路12と第2の流路13の間は閉じられた状態となる。
【0027】
ケーシング90は、
図1又は
図6に示すように、上側ケーシング部材91と下側ケーシング部材92からなり、下側ケーシング部材92下端部の内周ネジ部がボンネット80の上端部の外周ねじに螺合している。また、下側ケーシング部材92上端部の外周ネジ部に上側ケーシング部材91の下端部の内周ネジ部が螺合している。
下側ケーシング部材92の上端部とこれに対向する上側ケーシング部材91の対向面91fとの間には、環状のバルクヘッド65が固定されている。バルクヘッド65の内周面と操作部材50(円筒状部材51)の外周面との間およびバルクヘッド65の外周面と上側ケーシング部材91の内周面との間は、OリングORによりそれぞれシールされている。
【0028】
主アクチュエータ60は、
図1又は
図6に示すように、ボンネット80上端部とケーシング90により形成された内部空間をシリンダ室とし、円筒状の操作部材50を出力軸とするエアシリンダ機構である。主アクチュエータ60は、操作部材50の外周面に嵌合された環状の第1~第3のピストン61,62,63を有する。第1~第3のピストン61,62,63は、操作部材50と一体的に上下方向A1,A2に移動可能となっている。第1~第3のピストン61,62,63の内周面と操作部材50の外周面との間、および、第1~第3のピストン61,62,63の外周面と上側ケーシング部材91,下側ケーシング部材92,ボンネット80の内周面との間は複数のOリングORでシールされている。
【0029】
第1~第3のピストン61,62,63それぞれの下面側には、
図6に示すように、それぞれ圧力室C1~C3が形成されている。
これらの圧力室C1,C2,C3は、操作部材50の対応する位置において操作部材50を半径方向に貫通する流通路50h1,50h2,50h3と、操作部材50の内周面とその内側に設けられた円筒状の隔壁部材54の外周面との間に形成され、上下両端部がシールされた間隙GP1を介して相互に連通している。
【0030】
ケーシング90の上側ケーシング部材91には、上面で開口し円筒壁内を上下方向A1,A2に延びかつ圧力室C1に連通する流通路90hが形成されている。流通路90hの開口部には、管継手97を介して供給管(図示省略)が接続されている。これにより、供給管(図示省略)から供給される圧縮エアGは、圧力室C1に供給され、さらに上記の各流通路50h1,50h2,50h3と間隙GP1を通じて圧力室C2,C3にも供給される。
尚、第1~第3のピストン61,62,63それぞれの上面側に形成される非圧力室空間は、それぞれケーシング90に設けられた通気孔を介して大気圧開放されている。
【0031】
調整用アクチュエータ70は、圧電アクチュエータからなる(以下、「圧電アクチュエータ70」ともいう)。この圧電アクチュエータ70は、
図1等に示すように、円筒状のケーシング71に図示しない積層された圧電素子を内蔵して構成されている。ケーシング71は、ステンレス合金等の金属製で、半球状の先端部70a側の端面および基端部70b側の端面が閉塞している。積層された圧電素子へ電圧を印加すると、圧電素子の寸法が増加して、ケーシング71を含む圧電アクチュエータ70全体の軸方向長さが伸長するようになっている。
圧電アクチュエータ70は、基端部70bが調整ボディ94を介して上側ケーシング部材91の天井部に固定され、筒状の操作部材50の内側に下向きに設けられている。基端部70bから調整ボディ94の貫通孔を通って外部に引き出されたリード線Ldを通して、圧電アクチュエータ70へ給電できる。初期状態では、圧電アクチュエータ70には基準電圧V
0が印加されて基準長さL
0に設定されており、電圧を調整すると、圧電アクチュエータ70の長さが変化して、先端部70a(下端部)の位置が変化するようになっている。
圧電アクチュエータ70の先端部70a(下端部)には、アクチュエータ受け72が皿バネ96に押し上げられて下から当接し、先端部70aと一体的に上下方向に変位するように設けられている。このアクチュエータ受け72は、操作部材50の上限ストッパとして機能する。
【0032】
尚、調整ボディ94は、ケーシング90の上部に形成されたねじ孔に調整ボディ94の外周ネジ部が螺合されており、調整ボディ94の上下方向A1,A2の位置を調整することで、圧電アクチュエータ70の上下方向A1,A2の位置を調整できる。
【0033】
次にこのように構成された本実施形態のバルブ装置1の動作を、
図7及び8を参照して説明する。
バルブ閉状態を
図7に示す。このとき主アクチュエータ60(
図6参照)に圧縮エアGが供給されておらず、操作部材50はコイルバネ95により押し下げられ、ダイヤフラム押え53がダイヤフラム40を押圧してバルブシート部20aに当接させる閉位置(下限位置)にある。これにより、第1の流路12と第2の流路13との間は遮断される。
操作部材50が下限位置にあるため、このダイヤフラム押えホルダ52上端面は、アクチュエータ受け72下面からLfだけ離間している。
【0034】
バルブ開状態を
図8の中心線CLの左側に示す。このとき、主アクチュエータ60(
図6参照)に圧縮エアGが供給され、操作部材50は、ダイヤフラム押えホルダ52上端面が、上限ストッパとして機能するアクチュエータ受け72下面に当接するまで押し上げられ、ダイヤフラム40をバルブシート部20aから離間させる開位置(上限位置)にある。
このとき、操作部材50は、閉位置からLfだけ上昇しているので、ダイヤフラム40とバルブシート部20aとの間にLfの隙間が生し、この隙間量Lfに応じた流量の流体が第1の流路12と第2の流路13との間に流れる。
【0035】
バルブ開状態において、圧電アクチュエータ70により流体の流量を調整した状態を
図8の中心線CLの右側に示す。このとき、圧電アクチュエータ70の印加電圧を上昇させ、圧電アクチュエータ70を伸長させて、開位置における操作部材50を下方向に移動させている。これにより、ダイヤフラム40とバルブシート部20aとの隙間量は、LfからLf-に減少するため、流量が減少する。
図示していないが、流体の流量を増加させる方向に調整する場合には、圧電アクチュエータ70への印加電圧を低下させ、圧電アクチュエータ70を短縮させて、開位置における操作部材50を上方向に移動させる。これにより、ダイヤフラム40とバルブシート部20aとの隙間量は、LfからLf+に増加するため、流量が増加する。
【0036】
本実施形態では、ダイヤフラム40とバルブシート部20aとの隙間量の最大値は100~1000μm程度で、圧電アクチュエータ70による調整量は±20μm程度である。
従来のバルブにおいて、シート面(バルブシート部20aの上面)の高さは、多数のバルブ開閉動作を経て、筒状部材20のバルブシート部20aや下端シール部20bが潰れることにより低下する場合がある。また、高温のガスを扱う際など、バルブシート部20aや下端シール部20bが熱膨張してシート面の高さが上昇する場合がある。
このようなシート面の高さの変化は、バルブ開時のダイヤフラム40とバルブシート部20aとの隙間量Lfを変化させ、その変化量が±20μmを超えると圧電アクチュエータ70による調整が困難になる。
例えば、上下方向寸法2.5mmの従来構造の樹脂製バルブシート及びバルブシールを用いた場合(高さ合計で5mm)、バルブ開閉動作によるシート面の低下は、合計で最大約100μmと言われている。また、熱膨張については、PTFE樹脂の熱膨張率は10×10-5/K程度なので、100Kの温度上昇で合計約50μm膨張し、シート面が約50μm上昇する。これらの場合、圧電アクチュエータ70の調整範囲±20μmを超えてしまう。
【0037】
この対策として、本実施形態では、筒状部材20の上端部のバルブシート部20a及び下端部の下端シール部20bの両方を筒状部材に塗布された0.05~0.1mm厚の樹脂皮膜21a,21bで形成した(
図3参照)。この場合、樹脂皮膜21a,21bの合計の厚さは最大0.2mmであり、バルブ開閉動作によるシート面の低下は、最大4μmであり、熱膨張によるシート面上昇は最大2μmとなるので、圧電アクチュエータ70の調整範囲±20μm以内に収まる。
このため、本実施形態では、圧電アクチュエータ70で精密に流量調整することができ、調整ボディ94(
図1参照)等により手動で流量調整をする必要がなくなるので、流量調整工数が大幅に削減される。
【0038】
(第2の実施形態)
図9に本発明の第2の実施形態に係るバルブ装置(図示省略)の筒状部材120を示す。
本実施形態は、筒状部材120の上端部のバルブシート部120aのみを筒状部材の表面に設けられた樹脂皮膜121aで形成した形態である。筒状部材120の下端部の下端シール部120bは、従来通り、PFA、PTFE等の樹脂製シール部材122を筒状部材120の下端部に配置し、カシメにより固定して形成している。
【0039】
この樹脂皮膜121aの材質は、第1の実施形態と同様、PFAを用いている。
樹脂皮膜121aの厚さは、第1の実施形態と同様、0.05mm~0.1mmが好ましい。
本実施形態のバルブ装置(図示省略)の上記以外の構成は、第1の実施形態のバルブ装置1と同じであり、動作も同じである。
【0040】
このように構成された本実施形態では、筒状部材120の上端部のバルブシート部120aを筒状部材の表面に設けられた0.05~0.1mm厚の樹脂皮膜121aで形成した。この場合、例えば樹脂製シール部材122の上下方向寸法を2.5mmとすると、樹脂層の合計の厚さは約1.25mmであり、バルブ開閉動作によるシート面(バルブシート部120a上面)の低下は、合計で最大約50μmとなり、温度変化100Kの場合の熱膨張によるシート面上昇は約25μmとなるので、圧電アクチュエータ70の調整範囲±20μm以内から大きくは外れない。
このため、本実施形態では、圧電アクチュエータ70(
図1参照)で精密に流量調整することができ、調整ボディ94(
図1参照)等により手動で流量調整をする必要が少なくなるので、流量調整工数が削減される場合がある。
【0041】
(第3の実施形態)
図10に本発明の第3の実施形態に係るバルブ装置(図示省略)の筒状部材220を示す。
本実施形態は、筒状部材220の下端部の下端シール部220bのみを筒状部材の表面に設けられた樹脂皮膜221bで形成した形態である。筒状部材220の上端部のバルブシート部220aは、従来通りPFA、PTFE等の樹脂製バルブシート222を筒状部材220の上端部に配置し、カシメにより固定して形成している。
【0042】
この樹脂皮膜221bの材質は、第1の実施形態と同様、PFAを用いている。
樹脂皮膜221bの厚さは、第1の実施形態と同様、0.05mm~0.1mmが好ましい。
本実施形態のバルブ装置(図示省略)201の上記以外の構成は、第1の実施形態のバルブ装置1と同じであり、動作も同じである。
【0043】
このように構成された本実施形態では、筒状部材220の下端部の下端シール部220bを筒状部材220の表面に設けられた0.05~0.1mm厚の樹脂皮膜221bで形成した。この場合、例えば樹脂製バルブシート222の上下方向寸法を2.5mmとすると、樹脂層の合計の厚さは約1.25mmであり、バルブ開閉動作によるシート面の低下は、合計で最大約50μmとなり、温度変化100Kの場合の熱膨張によるシート面上昇は約25μmとなるので、圧電アクチュエータ70の調整範囲±20μmから大きくは外れない。
このため、本実施形態では、圧電アクチュエータ70(
図1参照)で精密に流量調整することができ、調整ボディ94(
図1参照)等により手動で流量調整をする必要が少なくなるので、流量調整工数が削減される場合がある。
【0044】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、上記各実施形態では、「シール性を有する皮膜」として樹脂皮膜を用いたが、これに限られず、例えば、金属材料や複合材料からなる皮膜でもよい。
【0045】
また、上記各実施形態では、ダイヤフラムの駆動用アクチュエータとして、主アクチュエータと調整用アクチュエータを用いたが、これに限られず、主アクチュエータのみ用いる構成でもよい。その場合でも、本発明のバルブシート部及び下端シール部の少なくとも一方を、筒状部材に塗布された樹脂皮膜により形成する構成により、高温環境下での熱膨張や開閉動作によるシート高さの変化を軽減できるとの効果が得られる。
【0046】
また、上記第2の実施形態では、筒状部材20の樹脂皮膜を設けない下端部に樹脂製シール部材を配置したが、この形態に限られず、例えば下端面に円周溝を凹設してOリングを配置することにより、バルブボディ10との間をシールしてもよい。この構成でもシール性維持とシート高さの変動低減が期待できる。
【0047】
なお、シール性を有する皮膜(21a,21b)を、筒状部材30の上端部又は下端部の代わりに、ダイヤフラム40又はバルブボディ10の収容凹部11の底面側に設けることでも、上記各実施形態と同様の効果が得られるものと考えられる。
【符号の説明】
【0048】
1 バルブ装置
10 バルブボディ
10a 上面
10b 継手部
10c 継手部
10d 下面
10e 下側収容凹部
11 収容凹部
12 第1の流路
13 第2の流路
14 円筒状突設部
15 支持リング
16 押えアダプタ
17 支持部
20 筒状部材
20a バルブシート部
20b 下端シール部
20c 内周側
20d 外周側
20e 段差部
21a,21b 樹脂皮膜
22 外周側テーパ部
23 内周側テーパ部
24 稜線部
25 段差部
25a 縮径した外周面
25b 段差面
28 固定リング
30 環状プレート
30a 貫通孔
30b 開口
30c 内周縁部
30d 外周縁部
40 ダイヤフラム
50 操作部材
50h1,50h2,50h3 流通路
51 円筒部材
52 ダイヤフラム押えホルダ
52a 鍔部
53 ダイヤフラム押え
54 隔壁部材
60 主アクチュエータ
61,62,63 第1~第3のピストン
65 環状のバルクヘッド
70 圧電アクチュエータ(調整用アクチュエータ)
70a 先端部
70b 基端部
71 ケーシング
72 アクチュエータ受け
80 ボンネット
90 ケーシング
90h 流通路
91 上側ケーシング部材
91f 対向面
92 下側ケーシング部材
94 調整ボディ
95 コイルバネ
96 皿バネ
97 管継手
120 筒状部材
120a バルブシート部
120b 下端シール部
121a 樹脂皮膜
122 樹脂製シール部材
220 筒状部材
220a バルブシート部
220b 下端シール部
221b 樹脂皮膜
222 樹脂製バルブシート
400 圧力センサ
C1,C2,C3 圧力室
CL 中心線
G 圧縮エア
GP1 間隙
H 仮想平面
Ld リード線
OR Oリング