(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139875
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】射出装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20241003BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050806
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】鮎澤 努
(72)【発明者】
【氏名】信田 宗宏
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM09
4F206AP011
4F206AP062
4F206AR081
4F206JA07
4F206JD03
4F206JL03
4F206JP15
4F206JQ06
4F206JQ11
4F206JT02
(57)【要約】
【課題】嵌合動作を誤って停止させることなく、スプラインとスプライン溝の嵌合を完了できる射出装置を提供すること。
【解決手段】本発明の射出装置1において、制御部(90)は、出力軸(78)が前進することによるスクリュ側嵌合部(31C)と出力軸側嵌合部(78B)との嵌合が開始してから、嵌合が完了する前の第1区間(MS)において、出力軸(78)の前進力実測値(FF)に基づいて、出力軸(78)の動作を制御し、第1区間(MS)の後であって、嵌合が完了する前の第2区間(FS)において、出力軸(78)の移動距離実測値(TL)に基づいて、出力軸(78)の動作を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュ側嵌合部を有するスクリュと、
前記スクリュ側嵌合部に嵌合される出力軸側嵌合部を有する出力軸と、
前記出力軸を、前記スクリュの軸方向に移動させる直線駆動手段と、
前記出力軸を、前記スクリュの軸回りに回転させる回転駆動手段と、
前記スクリュ側嵌合部と前記出力軸側嵌合部とを嵌合させるように、前記直線駆動手段および前記回転駆動手段の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記出力軸が前進することによる前記スクリュ側嵌合部と前記出力軸側嵌合部との嵌合が開始してから、前記嵌合が完了する前の第1区間において、前記出力軸の前進力実測値に基づいて、前記出力軸の動作を制御し、
前記第1区間の後であって、前記嵌合が完了する前の第2区間において、前記出力軸の移動距離実測値に基づいて、前記出力軸の動作を制御する、射出装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記嵌合が開始してから所定時間が経過してから、前記第1区間における前記前進力実測値に基づく前記出力軸の動作の制御を開始する、請求項1に記載の射出装置。
【請求項3】
前記出力軸の前進中であって、前記第1区間および前記第2区間において、前記出力軸の周方向が非拘束とされる、請求項1に記載の射出装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記出力軸を前進させる以前に、前記回転駆動手段を駆動させて、前記出力軸の周方向位置を所定位置に調整する、請求項1に記載の射出装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第1区間における前記出力軸が前進する過程において、前記前進力実測値と予め定められる前進力閾値との比較を複数回行い、所定の回数だけ連続して前記前進力実測値が前記前進力閾値に達すると、予め定められる動作を前記出力軸に行わせる、請求項1に記載の射出装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記第1区間における前記出力軸の前進過程において、前記前進力実測値が前記前進力閾値に達したならば警告を発する、請求項1に記載の射出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば射出成形機に用いられる射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出装置は、樹脂を可塑化および射出するためのスクリュを備える。スクリュは、樹脂を可塑化および射出するために回転および進退することができる。そのために射出装置は、直線駆動手段と回転駆動手段とを備える。直線駆動手段はスクリュを軸方向に進退移動させ、回転駆動手段はスクリュを軸周りに回転させる。直線駆動手段の進退力および回転駆動手段の回転力は、一例としてスクリュと互いに嵌合されるブッシュを介してスクリュに伝えられる。スクリュとブッシュの嵌合は、キーまたはキーの一種であるスプライン構造を用いて行われる。つまり、スクリュの外周面に例えば複数条のスプラインが形成されるスプライン軸を設け、ブッシュの内周面に複数条のスプライン溝を設け、スクリュとブッシュとを互いに嵌合させる。
【0003】
特許文献1は、スプライン構造を用いるスクリュとブッシュとの嵌合を自動的に行う手法を提案する。特許文献1は、直動トルクに加えて回転駆動用モータにおける回転トルクに基づいて、直線駆動用モータと回転駆動用モータの動作を制御してスクリュとブッシュとの嵌合を自動で行う。特許文献1の提案によれば、無駄にブッシュを回転させることを低減することができ、この結果、スプライン嵌合の作業効率を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一般に、嵌合動作が進み、スプラインとスプライン溝を備えるスプライン嵌合部の挿入量(嵌合長)が大きくなると、スプラインとスプライン溝との間の摺動面積が大きくなる。そうすると、齧りが発生してしまうような強い当たりが生じない正常な挿入が進んでいても摩擦量(摩擦力)も大きくなる。このため、特許文献1による直動トルクの監視において、スプラインの挿入がある程度進んだ時点で基準トルクを超えてしまい、スプラインの嵌合が完了していないにも関わらず、嵌合動作を誤って停止させてしまう恐れがある。
【0006】
以上より、本発明は、嵌合動作を誤って停止させることなく、スプラインとスプライン溝の嵌合を完了できる射出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の射出装置は、スクリュ側嵌合部を有するスクリュと、
スクリュ側嵌合部に嵌合される出力軸側嵌合部を有する出力軸と、
出力軸を、スクリュの軸方向に移動させる直線駆動手段と、
出力軸を、スクリュの軸回りに回転させる回転駆動手段と、
スクリュ側嵌合部と出力軸側嵌合部とを嵌合させるように、直線駆動手段および回転駆動手段の動作を制御する制御部と、を備える。
制御部は、
出力軸が前進することによる動作スクリュ側嵌合部と出力軸側嵌合部との嵌合が開始してから、嵌合が完了する前の第1区間において、出力軸の前進力実測値に基づいて、出力軸の動作を制御し、
第1区間の後であって、嵌合が完了する前の第2区間において、出力軸の移動距離実測値に基づいて、出力軸の動作を制御する。
【0008】
制御部は、好ましくは、
嵌合が開始してから所定時間が経過してから、第1区間における前進力実測値に基づく出力軸の動作の制御を開始する。
【0009】
出力軸の前進中であって、第1区間および第2区間において、好ましくは、出力軸の周方向は非拘束とされる。
【0010】
制御部は、好ましくは、
出力軸を前進させる以前に、回転駆動手段を駆動させて、出力軸の周方向位置を所定位置に調整する。
【0011】
制御部は、好ましくは、
第1区間における出力軸の前進過程において、前進力実測値と予め定められる前進力閾値との比較を複数回行い、所定の回数だけ連続して前進力実測値が前進力閾値に達すると、予め定められる動作を出力軸に行わせる。
制御部は、好ましくは、
第1区間における出力軸の前進過程において、前進力実測値が前進力閾値に達したならば警告を発する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の射出装置によれば、スクリュ側嵌合部と出力軸側嵌合部との嵌合が開始してから、嵌合が完了する前の第1区間に限って、出力軸の前進力実測値に基づいて、出力軸の動作を制御する。したがって、本発明の射出装置によれば、嵌合動作を誤って停止させることなく、スプラインとスプライン溝の嵌合を完了できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る射出装置の全体構成を示す図である。
【
図2】射出装置におけるスプライン構造の構成の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る制御部の構成例を示す図である。
【
図4】実施形態に係るスプライン構造における嵌合手順の要旨を示し、一組のスプラインとスプライン溝とを平面視する図である。
【
図5】実施形態に係るスプライン構造における一連の嵌合手順を示す、一組のスプラインとスプライン溝とを平面視する図である。
【
図6】実施形態に係る制御手順を示すフロー図である。
【
図7】
図6に続いて、実施形態に係る制御手順を示すフロー図である。
【
図8】実施形態に係る前進速度および前進力監視の第1パターンを示す図である。
【
図9】実施形態に係る前進速度および前進力監視の第2パターンを示す図である。
【
図10】実施形態に係る前進速度および前進力監視の第3パターンを示す図である。
【
図11】実施形態に係る前進力実測値と第2前進力閾値との比較を複数回行う例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明における好適な実施形態について説明する。
実施形態に係る射出装置1は、図示を省略する型締装置と組み合わされることにより、射出成形機を構成する。射出装置1は、スクリュ31と出力軸78との間にスプライン構造SSを設け、このスプライン構造SSを介してスクリュ31と出力軸78とを自動的に嵌合させる。射出装置1は、嵌合開始から嵌合完了までの出力軸78の動作制御の要素を途中で変える。つまり、嵌合開始から嵌合完了に至る途中までは出力軸78の前進力に基づいて出力軸78の動作を制御するが、それ以降の嵌合完了までは出力軸78の移動距離に基づいて出力軸78の動作を制御する。
【0015】
以下、射出装置1の構成、スプライン構造の構成およびスプライン構造の嵌合手順の順に説明する。なお、射出装置1において、
図1にFが記載されている側を前方、Rが記載されている側を後方と定義する。この前方(F)および後方(R)の定義は相対的な意味を含むものとする。また、射出装置1について、長さ方向Lおよび高さ方向Hが
図1に示すように定義される。
【0016】
[射出装置1の構成:
図1]
本実施形態に係る射出装置1の構成について、
図1を参照して説明する。
射出装置1は、射出装置1の構成要素の支持を担う基部10と、スクリュ31を含み、樹脂の射出に関わる射出部30と、スクリュ31の前後方向への移動およびスクリュ31の回転を担う駆動部50と、駆動部50の動作を制御する制御部90と、を備える。射出装置1は、駆動部50によるスクリュ31の前進動作および回転動作を制御部90により制御することにより、図示を省略する型締装置の金型に向けて溶融した樹脂を供給する。
【0017】
[基部10]
基部10は、前方(F)から後方(R)に向けて延びるベッド11と、ベッド11に設けられた支持体13A,13Bと、ベッド11に設けられるガイドレール16を備える。支持体13A,13Bは、直線駆動部60のボールねじ軸66を前方(F)および後方(R)において回転可能に支持する。直動伝達部15は、ボールねじ軸66に回転可能に支持されるボールねじナット67に連結されボールねじナット67の前後方向への移動に伴って、前後方向に移動される。
【0018】
基部10は、ベッド11の上に射出部30の加熱筒33を支持する支持台17を備える。支持台17はベッド11の前方(F)に固定される。したがって、支持台17に支持される射出部30はベッド11に対して位置が固定される。支持台17には射出成形の原料である樹脂ペレットが投入されるホッパ19が設けられている。ホッパ19は、支持台17の内部を高さ方向Hに貫通するペレット通路18および加熱筒33に設けられる投入口34と連通する。
【0019】
[射出部30:
図1]
射出部30は、
図1に示すように、スクリュ31と、スクリュ31の長さ方向Lのほぼ全域を取り囲む中空円筒状の加熱筒33と、加熱筒33の前端に設けられる射出ノズル35と、を備える。
【0020】
スクリュ31は、外周にらせん状に溝が形成される本体31Aと、本体31Aの後端に連なるスクリュ軸31Bと、スクリュ軸31Bの後端に設けられるスプライン軸31Cと、を備える。スクリュ31は、スプライン軸31Cを介して出力軸78に連結されるが、
図1には両者が離れている状態が示されている。スプライン軸31Cがスクリュ側嵌合要素を構成し、出力軸78の嵌合筒78Bが出力軸側嵌合要素を構成し、両者でスプライン構造SSが構成される。なお、本実施形態ではスクリュ31と出力軸78の係合構造としてスプラインを例示するが、スプラインではなくキーによる係合でもよい。
【0021】
加熱筒33は、支持台17に着脱が可能に固定される。したがって、加熱筒33は、支持台17とともにベッド11に対して位置が固定される。
加熱筒33の内部に収容されるスクリュ31は、加熱筒33の内部において、前後方向に往復移動可能とされるとともに回転可能とされる。
加熱筒33の周囲にはバンドヒータやカートリッジヒータなどの図示が省略される電熱線ヒータが備えられており、図示を省略する電源から電熱線ヒータに電力を投入することにより、加熱筒33の内部の樹脂材料を加熱する。
【0022】
[駆動部50:
図1]
次に、駆動部50について説明する。
駆動部50は、出力軸78の進退移動を担う直線駆動部60と、出力軸78の回転を担う回転駆動部70と、を備える。なお、回転駆動部70による出力軸78について、回転というときは正転および逆転の双方を含むものとする。正転および逆転について、一方が時計回りであれば他方が反時計回りであることを意味する。
【0023】
直線駆動部60は、第1モータ61と、第1モータ61の回転駆動力により動作するボールねじ65と、を備える。
第1モータ61は、第1回転軸62と、第1回転軸62に嵌合、固定される第1プーリ63と、を備える。第1モータ61はサーボモータからなり、その回転が制御部90により制御される。第2モータ71も同様である。なお本実施形態の直線駆動部60は、第1モータ61と、第1モータ61の回転駆動力により動作するボールねじ65とを第1プーリ63を介して接続している例を示すが、第1モータ61と、第1モータ61の回転駆動力により動作するボールねじ65とを直接あるいはカップリングを介して同軸上で連結してもよい。また直線駆動部60は、第1モータ61と、第1モータ61の回転駆動力により動作するボールねじ65と、を備える例を示すが、直線駆動部60は油圧シリンダでもよい。また第2モータ71は微小量の高精度位置制御が可能なサーボモータが好ましいが、嵌合筒78Bの嵌合孔78Fとスプライン軸31Cの篏合隙間が大きい場合は油圧モータでもよい。
【0024】
ボールねじ65は、両端部が支持体13A,13Bに回転可能に支持されるボールねじ軸66と、ボールねじ軸66に回転可能に支持されるボールねじナット67と、を備える。ボールねじナット67の内部には、図示が省略される複数の転動体としてのボールを備えられている。ボールねじ65のボールねじ軸66には、前方(F)の端部に第3プーリ68が固定されている。第3プーリ68と第1プーリ63には無端状の伝達ベルト69が掛け回されている。また、ボールねじナット67には直動伝達部15が接続されている。したがって、第1モータ61を正転させるとボールねじナット67が前進するのに伴って直動伝達部15も前進し、第1モータ61を逆転させるとボールねじナット67が後退するのに伴って直動伝達部15も後退する。ガイドレール16にハウジング75が載せられている。ここでいう前進とは後方(R)から前方(F)に向けて移動することをいい、後退とはこの逆で前方(F)から後方(R)に向けて移動することをいう。
【0025】
回転駆動部70は、第2モータ71と、第2モータ71を支持するハウジング75と、を備える。
第2モータ71は、第2回転軸72と、第2回転軸72に嵌合、固定される第1歯車73と、を備える。第1歯車73と後述する第2歯車79とは互いに噛み合うことで、減速機として機能する。
【0026】
ハウジング75は、内部に収容スペース77を備える筐体76と、収容スペース77に回転可能に支持される出力軸78と、を備える。
筐体76は、前方(F)および後方(R)のそれぞれに表裏を貫通する軸支持孔76F,76Rを備えており、収容スペース77は軸支持孔76F,76Rを介して外部と連通する。
【0027】
出力軸78は、軸支持孔76Fに回転可能に支持される駆動軸78Aと、軸支持孔76Rに支持される被駆動軸78Eと、駆動軸78Aと被駆動軸78Eを繋ぐ連結軸78Dと、を備える。出力軸78は、駆動軸78Aと被駆動軸78Eとが玉軸受BBを介してハウジング75の筐体76に回転可能に支持される。
駆動軸78Aは、前方(F)の側に嵌合孔78Fが設けられる嵌合筒78Bが形成されており、この嵌合筒78Bとスプライン軸31Cとでスプライン構造SSが構成される。スプライン構造SSについて具体的には後述する。
被駆動軸78Eは、後方(R)の側が筐体76から外部に露出しており、この露出する部分に第2歯車79が嵌合、固定される。また、ここでは第2モータ71の回転動作を第2回転軸72に伝達する減速機として平行軸歯車を例示するが、ヘリカル歯車、べベル歯車、ハイポイド歯車などの公知の歯車とすることができる。また、減速機は歯車列に限るものではなく、例えばプーリとベルトによるものでもよい。
【0028】
第1モータ61が正転するとガイドレール16に載せられているハウジング75に内蔵された出力軸78は前進し、第1モータ61が逆転すると出力軸78は後退する。出力軸78の嵌合筒78Bの嵌合孔78Fとスクリュ31のスプライン軸31Cが嵌合、接続されていれば、第1モータ61の正転または逆転によりスクリュ31は前進または後退する。
第2モータ71が正転すると出力軸78を介してスクリュ31が正転し、第2モータ71が逆転すると出力軸78も逆転する。
【0029】
図1に示されるように直動伝達部15とハウジング75の間には、例えばロードセルからなる圧力検知センサPSが設けられている。圧力検知センサPSはスクリュ31からハウジング75が受ける後方Rに向かう力あるいはハウジング75からスクリュ31が受ける前方Fに向かう力を測定する。出力軸78を介してスクリュ31を前進させる際の前進力実測値FFは制御部90に送られる。
【0030】
[スプライン構造SS:
図2]
次に、
図2を参照してスプライン構造SSを説明する。
スプライン構造SSは、スプライン軸31Cと嵌合筒78Bとにより構成される。
スプライン軸31Cは、その外周面31Oに径方向r1の外側に突出する複数、一例として6条のスプライン31Dを備えている。スプライン31Dは、スプライン軸31Cの中心軸線C1に沿って平行に形成される。
嵌合筒78Bは、嵌合孔78Fの内周面78Iに径方向r2の外側に凹む複数、一例としてスプライン31Dと同数の6条のスプライン溝78Cを備えている。スプライン溝78Cは、嵌合筒78Bの中心軸線C2に沿って形成される。スプライン31Dおよびスプライン溝78Cに加えて、スプライン軸31Cの側にキーを設け、嵌合筒78Bの側にキーと噛み合うキー溝を設けることもできる。
【0031】
スプライン軸31Cと嵌合筒78Bの嵌合孔78Fとは、スプライン31D、スプライン溝78Cなどが互いに嵌合可能とされる寸法、形状で作製される。スプライン軸31Cと嵌合筒78Bが嵌合されることで、スクリュ31と出力軸78とは周方向に連結され、また図示しないスプラインを軸方向に出力軸78から抜けないようにする押え部材により中心軸線C1,C2の方向に機械的に接続される。したがって、出力軸78が正転または逆転すれば、スクリュ31が正転または逆転する。また、出力軸78が前進または後退すれば、スクリュ31も前進または後退する。
【0032】
[制御部90:
図3]
制御部90は、射出装置1の駆動部50の動作を制御する。
制御部90は、第1モータ61の回転を制御することによりスクリュ31の前進および後退を制御し、第2モータ71の回転を制御することによりスクリュ31の正転および逆転を制御する。
【0033】
[制御部90の構成:
図3]
制御部90は、
図3に示すように、送受信部91、記憶部93、処理部95および入力/表示部97を備える。この機能の区分は一例であり、さら機能を細分化したり、機能を統合したりすることができる。一例として、入力/表示部97は、入力に特化される部分と表示に特化される部分に分けることができる。制御部90は、CPU(Central Processing Unit)、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)などの補助記憶装置(ストレージ)、ランダム・アクセス・メモリ(RAM:Random Access Memory)などの主記憶装置(メインメモリ)およびディスプレイなどを備えるコンピュータ装置により構成される。
【0034】
[送受信部91]
送受信部91は、第1モータ61および第2モータ71のそれぞれについて動作を指示する信号を送信する。また、送受信部91は、圧力検知センサPSからの圧力に関するデータ(前進力実測値FF)を受信する。さらに、送受信部91は、第1モータ61および第2モータ71のそれぞれが備えるエンコーダと回転トルク検出器からの回転角に関するデータを受信する。送受信部91で受信した各種実測値に関するデータは処理部95に転送される。
【0035】
[記憶部93]
記憶部93は、第1モータ61と第2モータ71の動作を制御するのに必要なデータを記憶し、特に実測値データの取り扱いに関して判定データ記憶部93Aと実測値データ記憶部93Bを備える。
【0036】
[判定データ記憶部93A]
判定データ記憶部93Aは、実測値データと比較することにより、実測値データが許容範囲にあるか否かの判定を行う基準となるデータ(閾値)を記憶する。
判定データとしては、以下が含まれる。
第1前進力閾値FFc1:嵌合筒78Bとスプライン軸31Cとが突き当たったか否か前進力実測値FFとの比較対象。
第2前進力閾値FFc2:スプライン31Dがスプライン溝78Cに挿入後の前進力実測値FFとの比較対象。
停止位置閾値SPc:嵌合筒78Bとスプライン軸31Cとが突き当たった位置。
第1移動距離閾値TLc1:スプライン31Dがスプライン溝78Cに挿入後に、前進力監視から移動距離監視に切り替える基準位置であって、移動距離実測値TLとの比較対象。
第2移動距離閾値TLc2:スプライン31Dがスプライン溝78Cに挿入後に、出力軸78を停止させる基準位置であって、移動距離実測値TLとの比較対象。
【0037】
なお、スプライン溝78Cの深さL78と第1移動距離閾値TLc1、第2移動距離閾値TLc2は以下の関係を有する(
図5参照)。
L78=TLc2…(1)
TLc1<TLc2…(2)
【0038】
[実測値データ記憶部93B]
実測値データ記憶部93Bは、第1モータ61および第2モータ71の運転に伴って送受信部91を介して取得する実測値データを記憶する。実測値データとしては以下が含まれる。
前進力実測値FFは、圧力検知センサPSにおいて検出される。位置実測値SPおよび移動距離実測値TLは、適宜の位置に設けられる位置センサとしてのストロークセンサによって検出することができる。また、サーボモータのエンコーダにより検出してもよい。
前進力実測値FF
位置実測値SP,移動距離実測値TL
【0039】
[処理部95]
処理部95は、判定データ記憶部93Aに記憶されている閾値と実測値データ記憶部93Bに記憶される実測値データとを用いて、第1モータ61および第2モータ71の運転を制御する。処理部95はこの運転の制御を通じて、スプライン構造SSを介したスクリュ31と出力軸78との自動的な嵌合を実現できる。処理部95による第1モータ61および第2モータ71の制御の手順は後述される。
【0040】
[入力/表示部97]
入力/表示部97は、判定データの入力などの各種データの入力、制御部90による第1モータ61および第2モータ71の運転の制御状態を表示することができる。
【0041】
[嵌合手順の要部:
図4]
以下、
図4を参照して、射出装置1におけるスプライン構造SSの嵌合手順を説明するが、はじめに嵌合手順の要部を説明し、次いで
図5以降を参照して嵌合手順の全体を説明する。なお、
図4は一組のスプライン31Dとスプライン溝78Cとの嵌合が始まろうとしている状態から、スプライン31Dがスプライン溝78Cの奥まで移動して嵌合が完了した状態までを平断面にて示している。なお、
図4はスプライン31Dとスプライン溝78Cの相対的な位置関係を示している。
【0042】
図4に示される嵌合手順においては、嵌合の開始(
図4(S1))から完了(
図4(S4))まで一例として一定の速度V1で前進する例が示されている。なお、ここでいう前進とは、スプライン31Dがスプライン溝78Cの奥に向けて移動することをいう。なお、
図4は、スプライン31Dとスプライン溝78Cの相対的な移動を示しているが、実際にはスプライン溝78Cが移動する。以降も同様である。嵌合の開始とは、嵌合のための動作が始まることをいい、スプライン31Dがスプライン溝78Cに挿入される前も含まれる。
【0043】
スプライン31Dが前進する過程において、制御部90は、圧力検知センサPSで測定される前進力実測値FFを取得するとともに、取得する記憶部93に記憶されている第1前進力閾値FFc1、第2前進力閾値FFc2と比較する。つまり、制御部90は出力軸78が前進する際の前進力の監視を行う。前進力実測値FFと第1前進力閾値FFc1、第2前進力閾値FFc2との比較結果に基づく出力軸78の動作の制御は、嵌合手順の全体の説明のところで言及する。
本実施形態において、スプライン31Dとスプライン溝78Cとの嵌合に伴う前進力の監視は、スプライン31Dが前進するスプライン溝78Cの中の一部の領域に留める。つまり、全ての前進領域を、
図4(S1)に示されるように前進力の監視区間(第1区間)MSと前進力の非監視区間(第2区間)FSとに区分する。スプライン溝78Cの奥行方向TDにおいて、監視区間MSは手前側に設けられ、非監視区間FSは奥側に設けられる。したがって、
図4(S2),(S3),(S4)に順に示されるように、スプライン31Dは監視区間MSの前進および非監視区間FSの前進を経て、嵌合が完了する。本実施形態においてスプライン31Dが監視区間MSまたは非監視区間FSを前進するか否かは、スプライン31Dの先端位置、つまり
図4(S1)中のスプライン31Dの右端位置で特定される。このように、スプライン31Dが非監視区間FSまで前進すると、以後はスプライン溝78Cの奥に達するまで、制御部90は前進力の監視を行わない。前進力の監視を行わない形態としては、以下の少なくとも第1形態~第3形態があり、制御部90はいずれかの形態を採用できる。
【0044】
第1形態:制御部90が前進力実測値FFを取得しない。
第2形態:制御部90は前進力実測値FFを取得するが、前進力閾値FFcと比較しない。
第3形態:制御部90は前進力実測値FFを取得し、前進力閾値FFcと比較するが、比較結果に基づいて何らかの制御を行うことはしない。つまり、比較結果を無視する。
【0045】
非監視区間FSの最後は、出力軸78の前進動作を止めて嵌合を完了する必要がある。そのためには、前進力を監視することもできるが、本実施形態は前進力に頼らない。つまり、本実施形態は、出力軸78の移動距離を監視して出力軸78の前進を止める。したがって、非監視区間FSは移動距離監視区間ということができる。
【0046】
本実施形態が嵌合開始から嵌合完了までの間、前進力の監視に頼らない理由は以下の通りである。
一般に、スプライン31Dとスプライン溝78Cの嵌合長が長くなると、摺動する面積の増加に伴って両者の間の摩擦力が大きくなる。したがって、スプライン31Dとスプライン溝78Cの間に齧りが発生してしまうような接触状態になっていない正常な嵌合が進んでいても、検知される前進力が大きくなってしまうことがある。そうすると、前進力を監視して前進力が所定の値に達したことにより嵌合が完了したと判断する場合、スプライン31Dとスプライン溝78Cの嵌合長が長くなって正常な摩擦量が増大しただけで実際には嵌合が完了していないにも関わらず、出力軸78の前進を止めてしまうおそれがある。そこで、本実施形態においては、前進力の監視を途中までに留め、以後は前進力の監視よりも信ぴょう性の高い移動距離監視に切り替える。
【0047】
[全ての嵌合手順:
図5,
図6,
図7参照]
次に、
図5~
図7を参照して射出装置1における一連のスプライン構造SSの全ての嵌合手順を説明する。
図5は一組のスプライン31Dとスプライン溝78Cとを平面視しており、スプライン31Dとスプライン溝78Cとの嵌合過程を示している。
【0048】
[前進力監視区間:
図5;S1]
嵌合手順は、スクリュ31のスプライン31Dと出力軸78のスプライン溝78Cとが例えば
図5 S1に示されるように間隔が開けられた状態から始まる。嵌合手順は、出力軸78の前進力を監視することから開始される。また、スプライン31Dとスプライン溝78Cとは、互いが嵌合する位置から周方向CDに位置がずれており、中心軸線C1と中心軸線C2とが傾いている。出力軸78を前進または後退させる動作と第1モータ61の回転との関係、出力軸78を正転または逆転させる動作と第2モータ71の回転との対応は以下の通りであり、以降の説明では第1モータ61および第2モータ71の正転、逆転の記載は省略される。
出力軸78が前進:第1モータ61が正転
出力軸78が後退:第1モータ61が逆転
出力軸78が正転:第2モータ71が正転
出力軸78が逆転:第2モータ71が逆転
【0049】
[前進力監視区間
図5:S1,
図6:S101~S105]
はじめに、出力軸78を前進させる(
図5 S1,
図6 S101)が、出力軸78の嵌合筒78Bがスクリュ31のスプライン軸31Cに突き当たるとこの前進は停止される(
図5 S2,
図6 S105)。嵌合筒78Bがスプライン軸31Cに突き当たるか否かは、制御部90が取得する前進力実測値FFが第1前進力閾値FFc1に達するか否かで判定される(
図6 S103)。前進力実測値FFが第1前進力閾値FFc1に達するまで、制御部90は出力軸78の前進、つまり第1モータ61の正転を継続させる(
図6 S103 N)。前進力実測値FFが第1前進力閾値FFc1に達すれば(
図6 S103 Y)、制御部90は出力軸78の前進、つまり第1モータ61の正転を停止させるとともに、停止した位置を停止位置閾値SPcとして記憶する(
図6 S105)。停止位置閾値SPcは、スプライン31Dとスプライン溝78Cの位相が合致しているか否かの後の判定に用いられる。
【0050】
[前進力監視区間
図5:S3,S4
図6:S107]
出力軸78の前進を停止させた後に、制御部90はスプライン31Dとスプライン溝78Cとの位置合わせのための動作を行う。この動作は、好ましい形態として、嵌合筒78Bをスプライン軸31Cから離すために、出力軸78を嵌合筒78Bがスプライン軸31Cと接触しない距離に位置できるだけの微小量(例えば1mm程)だけ後退させることから行われる。次いで、出力軸78を微小量(例えば1°程)だけ正転させた後に、出力軸78を前進させる(
図5 S2-S3,
図6 S107)。なお、微小後退量および微小正転量は例示した1mm程度および1°程度に限るものではなく、作業者が実験や経験により得られた効率がよいとされる角度で支障ない。
なお、制御部90による自動での出力軸78の前進動作に先立ってあるいは代わりに、作業者が手動操作により出力軸78をスプライン軸31Cと出力軸78が近接するような位置まで前進させるとともに、
図2に示されるように、対応するスプライン31Dとスプライン溝78Cとが噛み合う程度の位置合わせを行ってもよい。このとき対応するスプライン31Dとスプライン溝78Cとが噛み合う程度の位置とは、スプライン31Dとスプライン溝78Cが周方向CDにおいて完全に一致してそのまま嵌合する位置である必要はなく、例えばスプライン31Dとスプライン溝78Cが幅方向(周方向)において半分程度が一致する程度でもよい。
【0051】
[前進力監視区間
図6:S109~S113]
この前進の過程において、制御部90は出力軸78の位置に関する位置実測値SPを取得し、先に記憶している停止位置閾値SPcと比較する(
図6 S109)。この比較は、スプライン31Dとスプライン溝78Cの位相が合ったか否かの判定のために行われる。つまり、出力軸78の位置実測値SPが停止位置閾値SPcを通り越して前進できれば、スプライン31Dとスプライン溝78Cの位相が合うことでスプライン31Dがスプライン溝78Cに挿入(嵌合)されていることになるからである。この場合には、制御部90は出力軸78の前進を継続させる(
図6 S109 Y)。
【0052】
出力軸78の位置実測値SPが停止位置閾値SPcを超えていなければ(
図6 S109 N)、前進力実測値FFが第1前進力閾値FFc1に達するか否かの判定を行う(
図6 S111)。前進力実測値FFが第1前進力閾値FFc1に達していなければ(
図6 S111 N)、制御部90は位置実測値SPと停止位置閾値SPcの比較を行う。前進力実測値FFが第1前進力閾値FFc1に達していれば(
図6 S111 Y)、制御部90は出力軸78の微小量の後退、微小量の正転をさせた後に、出力軸78を前進させる(
図5 S4,
図6 S107)。
【0053】
[前進力監視区間
図5:S5,
図6:S115]
スプライン31Dとスプライン溝78Cの位相が合って嵌合の状態にある出力軸78の前進を継続させる過程で、制御部90は前進力実測値FFと第2前進力閾値FFc2とを比較する(
図6 S115)。この比較は、前進力実測値FFからスプライン31Dとスプライン溝78Cとが互いに干渉しているか否かの判定のために行われる。つまり、スプライン31Dとスプライン溝78Cとが干渉してすれば前進力実測値FFが大きくなるので、この干渉を第2前進力閾値FFc2との比較により検知できる。
【0054】
制御部90は、前進力実測値FFが第2前進力閾値FFc2に達するまで前進を継続させるが(
図5:S4~S5,
図6:S113 N,S117)、前進力実測値FFが第2前進力閾値FFc2に達したならば(
図6 S113 Y)、出力軸78に対して摩擦力軽減動作を行わせる(
図6 S115)。
ここで過大な摩擦力はスプライン溝78Cに対してスプライン31Dが傾いて挿入されていることが原因の一つとして考えられ、この過大な摩擦力は前進力実測値FFに反映される。スプライン溝78Cに対してスプライン31Dが傾いて挿入されているのであれば、出力軸78を一旦微小量逆転させる動作、あるいは一旦逆転させた後に正転させることを繰り返す動作をすることで、傾きが解消される可能性がある。このことから、これらの動作を摩擦軽減動作として行うことを提案する。この摩擦軽減動作を行うとともに表示部97に前進力実測値FFが第2前進力閾値FFc2に到達した旨のアラームメッセージを表示させてもよい(
図6 S115)。またこのアラームメッセージに出力軸78の微小量逆転または微小量の逆転と正転を繰り返すなどの摩擦軽減動作を行う旨の表示を含めることもできる。
以上の摩擦力軽減動作およびアラームメッセージの表示は、本発明における予め定められる動作の一例である。また、アラームメッセージの表示部97への表示は本発明における警告を発する一例にすぎず、例えば音声による警告など他の手段によって警告を発することもできる。
【0055】
[移動距離監視への切換
図5:S4-S5,
図7:S117~S121]
制御部90は、出力軸78を前進させながら(
図7 S117)、移動距離実測値TLが第1移動距離閾値TLc1に達するか否かの判定を行う(
図7 S121)。この判定は、出力軸78の位置が前進力の監視対象領域内であるか否かを判定するためであるとともに、出力軸78の動作の制御を前進力の監視から移動距離実測値に基づく制御に切り替えるか否かを決定するためである。移動距離実測値に基づく制御は、出力軸78の移動距離を監視対象とするのに限らない。以下では移動距離の監視に基づいて出力軸78の動作を制御する例を説明するが、移動距離実測値に基づいて出力軸78の位置を算定することもできるので、出力軸78の位置を監視することもできる。
制御部90は、移動距離実測値TLが第1移動距離閾値TLc1に達していなければ、前進力の監視に基づいて出力軸78を前進させる(
図7 S121 N)。また、制御部90は、移動距離実測値TLが第1移動距離閾値TLc1に達すれば、移動距離の監視に基づいて出力軸78を前進させる(
図7 S121 Y)。
【0056】
[嵌合完了
図5:S5-S6,
図7:S121-S123]
制御部90は、移動距離の監視に切り替えた後に、移動距離実測値TLが第2移動距離閾値TLc2に達するか否かの判定を行う(
図7 S123)。この判定は、スプライン31Dとスプライン溝78Cの嵌合が完了したか否かを特定するために行われる。つまり、出力軸78がスプライン溝78Cの深さL78に等しい第2移動距離閾値TLc2だけ前進すれば、制御部90は嵌合が完了したものと判断する。
【0057】
[射出装置1が奏する効果]
射出装置1によれば、スプライン31Dがスプライン溝78Cに挿入されてから第1移動距離閾値TLc1までの間は前進力の監視に基づいて出力軸78の前進動作が制御されるが、第1移動距離閾値TLc1に達すれば移動距離または位置の監視に基づいて出力軸78の前進動作が制御される。つまり、射出装置1によれば、スプライン31Dのスプライン溝78Cへの挿入量が大きくなると、前進力を無視し、移動距離に基づく出力軸78の動作制御が行われる。したがって、射出装置1によれば、例えば齧りが発生していない正常な挿入状態において誤って出力軸78の動作を停止させてしまうことを防止できる。
【0058】
[変更例]
本発明の主旨を逸脱しない限り、以上の実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0059】
[前進速度可変:
図9]
以上の実施形態においては、
図8に示されるように、前進力の監視有無に関わらず前進速度は嵌合完了まで一定の速度VMとされるが、前進速度を変えることができる。
一例として、
図9は、前進力監視区間における前進速度VLとそれ以降の移動距離監視区間における前進速度VHを前進速度VLよりも速くする。つまり、第2モータ71の前進力を監視する区間の前進速度を低速とすることによって、前進力実測値FFが第2前進力閾値FFc2に到達したタイミングをより確実に検知できる。また前進速度VLが低速であるため圧力検知センサPSが前進力実測値FFを検知したタイミングから、前進力実測値FFが第2前進力閾値FFc2に達したことを制御部90が判断するとともに出力軸78の前進を停止するまでの間に出力軸78が移動する距離が短い。これにより前進力実測値FFが第2前進力閾値FFc2に到達したのを圧力検知センサPSが検知してから制御部90が出力軸78の前進を停止させるまでの間の出力軸78の前進動作中に、スプライン31Dとスプライン溝78Cの押し付け力が増大してしまうことを防止できるため、スプライン31Dとスプライン溝78Cの齧り防止効果を向上できる。一方、移動距離監視区間においては前進速度を高速とすることによって嵌合完了までの時間短縮を図ってスクリュ31の取り付け時間を短縮し生産性の向上に寄与する。
【0060】
[前進力監視の開始タイミング:
図10]
以上の実施形態においては、
図8に示されるように、スプライン31Dがスプライン溝78Cに挿入される当初から前進力監視が開始されるが、本発明はスプライン31Dがスプライン溝78Cに挿入されてから所定時間を経過してから前進力の監視を始めることができる。理由は以下の通りである。
スクリュ31は自らの重量により加熱筒33の内部の下面に接しており(スクリュ31が加熱筒33の内径下面に置かれた状態)、スクリュ31の軸中心は加熱筒33の軸中心よりも下側に微小量(スクリュ31の外径と加熱筒33の内径の半径の差)だけズレている。このため、スプライン31Dが出力軸78に入り始めた際には、スプライン31Dの後端部が持ち上げられスプライン31Dがスプライン溝78Cにある程度沿うまではスプライン31Dとスプライン溝78Cに連続的あるいは断続的に接触する。この連続的あるいは断続的に接触する摺動状態においてスプライン31Dはスティックスリップのような不安定な状態となり、前進力が不安定となる場合がある。そこで、この前進力の不安定期間を
図10に示されるように前進力監視から除外し、不安定期間を過ぎてから前進力監視を開始することができる。そうすることにより、安定した前進力監視を行うことができる。
不安定期間を除外するには、例えば、嵌合開始(
図5 S1)からカウントするタイマがタイムアップしてから、つまり嵌合開始から所定時間が経過してから前進力監視を開始することができる。
【0061】
[出力軸78の周方向の非拘束]
出力軸78の前進動作中は、出力軸78の周方向の動きを機械的に拘束してもよいが、機械的に拘束せずに非拘束とすることが望ましい。
例えば、スプライン31Dがスプライン溝78Cに傾いて挿入されたものとする。出力軸78の周方向が非拘束であるため、スプライン31Dがスプライン溝78Cに押し込まれた際、スプライン31Dとスプライン溝78Cの当たりが強くても、出力軸78が当たり方向に自由回転しスプライン溝78Cが逃げて、スプライン31Dとスプライン溝78Cの接触圧力が過大になるのを抑制できる。これによりスクリュ交換時において、スプライン31Dとスプライン溝78Cの齧り防止効果、あるいは齧りの軽減効果を増大させることができる。
【0062】
[出力軸78の初期位置設定]
スプライン31Dとスプライン溝78Cの嵌合を開始する前に、好ましくは、第2モータ71を駆動して、出力軸78の周方向の位置、換言するとスプライン31Dの周方向の位相を予め記憶された所定の位置となるように出力軸78を回転してからその位置で停止させる。予め記憶された所定の位置とは、例えば、
図2に示される位置であってもよいし、四角で囲われているスプライン31Dが天頂を向く位置であってもよい。
これにより、スクリュ31を加熱筒33に挿入する際には、出力軸78のスプライン溝78Cの周方向位置を常に同じにできる。そうすれば、ここの周方向位置に合わせてスクリュ31のスプライン31Dの周方向位置を合わせれば、嵌合が容易となり、スクリュ交換作業の効率を上げることができる。好ましくは、回転停止後に回転方向を非拘束とする。
また、第2モータ71を駆動して、スプライン31Dの周方向の位相を予め記憶された所定の位置となるように出力軸78を回転してからその位置で停止させるのは、スクリュ31を出力軸78に取り付ける前ではなく、スクリュ31を出力軸78から取り外すときであってもよい。これは、例えば、スクリュ31を加熱筒33に内挿したまま、スクリュ31を加熱筒33と一体の組として支持台17から取り外し、その組におけるスクリュ31の周方向位置をそのままで保管した後に支持台17に再び取り付ける場合に有効である。
【0063】
ところで、弗素系樹脂や塩化ビニル系樹脂などの高腐食性のある特殊な樹脂材料は汎用のスクリュ31と加熱筒33では成形できないため、耐腐食性の高い材質(例えばニッケル基合金)などの専用のスクリュ31と加熱筒33が必要である。しかし、例えば汎用のスクリュ31と加熱筒33を上記のような特殊樹脂成形専用のスクリュ31と加熱筒33に交換するために、スクリュ31を加熱筒33から引き抜き、その後、加熱筒33を支持台17(射出装置1)から引き抜くのは手間がかかる。このため成形作業者はスクリュ31を加熱筒33から引き抜く作業を省いてスクリュ31が加熱筒33に入ったままの内挿状態で、加熱筒33とスクリュ31を一体の組で射出装置1から取り外す場合がある。この場合、加熱筒33内のスクリュ31の周囲には射出されずに残った樹脂が、加熱筒33内で冷えて固化する。この残存樹脂によりスクリュ31と加熱筒33は互いに固定されており、汎用樹脂成形用のスクリュ31の位相は射出成形を終えた時点から保持・維持されている状態にある。
その後、特殊樹脂成形を終了し再び汎用樹脂成形を行うためにスクリュ31と加熱筒33を特殊樹脂成形専用のものから汎用樹脂成形用のものに戻すとき、互いに固定された状態のスクリュ31と加熱筒33をそのまま取り付ける。
このとき、スプライン31Dとスプライン溝78Cの位相が先にスクリュ31と加熱筒33とを取り外した時と同一であるので、容易に加熱筒33およびスクリュ31を射出装置1に取り付けることができる。この場合、出力軸78は先にスクリュ31を取り外した位置でスプライン31Dとスプライン溝78Cの嵌合を待ち受ける。
【0064】
[複数回の閾値超え]
前進力の検知は、好ましくは、所定の時間の間に連続して複数回おこなうとともに、検知した前進力実測値FFが所定の回数だけ連続して第2前進力閾値FFc2に達するか否かを監視する。例えば、
図11(a)に示されように、第2前進力閾値FFc2に達するのが1回だけの場合には、摩擦力軽減動作をしない。これに対して、
図11(b)に示されるように、第2前進力閾値FFc2に達するのが2回を超えた場合には、摩擦力軽減動作をする。
【0065】
前進力を検知するセンサからの信号にノイズなどの外乱が混入すると、実際の前進力が監視基準値を超えていなくても外乱が混入した信号においては監視基準値を超えてしまう場合がある。この場合、制御部90はスプライン31Dの挿入に異常な状態が発生していると判断する。
これに対し、前進力を複数回数連続して検知して、検知した前進力と監視基準値を複数回数連続して比較するので、外乱による瞬間的な過大信号が発生しても、外乱による過大信号の前後の外乱の混入していない信号も監視できるので外乱を無視して正常な前進力を監視できる。
【0066】
[嵌合開始の前]
図5のS2~S3の動作を繰り返して出力軸78を所定の回転量を回転させてもスプライン31Dとスプライン溝78Cの嵌合が開始できない場合に、スプライン溝78Cの溝幅Wの分だけ逆転させてもよい。この逆転により、中心軸線C1と中心軸線C2の位置関係を変える。つまり、この逆転の前までは中心軸線C1よりも中心軸線C2が図中の左側に位置していたのに対し、逆転の後は中心軸線C1よりも中心軸線C2が図中の右側に移動する。
溝幅Wの分に相当する回転角度だけ逆転させてから前進させる。この前進によっても対応するスプライン31Dとスプライン溝78Cとが突き当たったとすると、出力軸78を微小量だけ後退させ、今度は、出力軸78を正転させてから前進させる。ここでの前進動作により対応するスプライン31Dとスプライン溝78Cとは、互いに嵌合できる程度に位置合わせされたために、嵌合が開始される。これにより嵌合が開始されるまでに行われる正転の回数を減らせる可能性がある。
【符号の説明】
【0067】
1 射出装置
10 基部
11 ベッド
13A,13B 支持体
15 直動伝達部
16 ガイドレール
17 支持台
18 ペレット通路
19 ホッパ
30 射出部
31 スクリュ
31A 本体
31B スクリュ軸
31C スプライン軸
31D スプライン
31O 外周面
33 加熱筒
34 投入口
35 射出ノズル
50 駆動部
60 直線駆動部
61 第1モータ
62 第1回転軸
63 第1プーリ
66 ボールねじ軸
67 ボールねじナット
68 第3プーリ
69 伝達ベルト
70 回転駆動部
71 第2モータ
72 第2回転軸
73 第1歯車
75 ハウジング
76 筐体
76F,76R 軸支持孔
77 収容スペース
78 出力軸
78A 駆動軸
78B 嵌合筒
78C スプライン溝
78D 連結軸
78E 被駆動軸
78F 嵌合孔
78I 内周面
79 第2歯車
90 制御部
91 送受信部
93 記憶部
93A 判定データ記憶部
93B 実測値データ記憶部
95 処理部
97 表示部
BB 玉軸受
C1,C2 中心軸線
CD 周方向
F 前方
FS 非監視区間
MS 監視区間
PS 圧力検知センサ
R 後方
r1 径方向
r2 径方向
SP 位置実測値
SPc 停止位置閾値
SS スプライン構造
TD 奥行方向