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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013992
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】撹拌工法及び撹拌装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116504
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000230788
【氏名又は名称】日本基礎技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】新町 修一
(72)【発明者】
【氏名】上村 一義
(72)【発明者】
【氏名】秋本 浩平
(72)【発明者】
【氏名】山根 千学
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AB03
2D040BA08
2D040CA01
2D040CB03
2D040EA16
2D040FA08
(57)【要約】
【課題】改良材を安定して供給すると共に、改良材の吐出口の閉塞を防止する。
【解決手段】本発明の実施の形態に係る撹拌工法は、重機の作業機に取り付けられ、長尺状のロッド部12の先端に設けられた一対の撹拌翼14を回転させると共に、ロッド部12の先端に向かって改良材を吐出する撹拌装置10を地盤へ貫入して、地盤を撹拌するものであって、撹拌装置10の地盤への貫入時と地盤からの引き抜き時との双方において、改良材を吐出するものである。これにより、改良材の設計注入量を、地盤への貫入時と引き抜き時とに分けて注入することになるため、貫入時に注入すべき改良材の流量が減少する。従って、撹拌装置10の貫入時に、ポンプに過剰な負荷をかけることなく、安定して改良材を吐出することができる。更に、撹拌装置10の引き抜き時にも改良材を吐出することで、改良材の吐出口30aが土によって閉塞することを防止することができ、施工性及び品質を向上させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重機の作業機に取り付けられ、長尺状のロッド部の先端に設けられた一対の撹拌翼を回転させると共に、前記ロッド部の先端近傍から改良材を吐出する撹拌装置を地盤へ貫入して、地盤を撹拌する撹拌工法であって、
前記撹拌装置の地盤への貫入時と地盤からの引き抜き時との双方において、前記改良材を吐出することを特徴とする撹拌工法。
【請求項2】
前記撹拌装置の地盤への貫入時に、0.8~3.0MPaの圧力で前記改良材を吐出することを特徴とする請求項1記載の撹拌工法。
【請求項3】
地盤に前記撹拌装置を貫入する1箇所の貫入位置あたりの、前記改良材の設計注入量のうち、半分以上を地盤への貫入時に注入すると共に、残りを地盤からの引き抜き時に注入することを特徴とする請求項2記載の撹拌工法。
【請求項4】
前記改良材の前記設計注入量のうち、7割を地盤への貫入時に注入すると共に、3割を地盤からの引き抜き時に注入することを特徴とする請求項3記載の撹拌工法。
【請求項5】
前記撹拌装置の地盤への貫入速度及び地盤からの引き抜き速度に応じて、前記改良材の吐出量を変化させることを特徴とする請求項1記載の撹拌工法。
【請求項6】
重機の作業機に取り付けられ、地盤に貫入されて改良材を供給しながら地盤を撹拌する撹拌装置であって、
長尺状のロッド部と、
該ロッド部の先端に設けられ、地盤を撹拌するための回転可能な一対の撹拌翼と、
前記ロッド部の先端近傍から前記改良材を吐出するための改良材吐出部と、
装置全体を制御する制御部と、を含み、
該制御部は、地盤への貫入時と地盤からの引き抜き時との双方において、前記改良材吐出部により前記改良材を吐出させることを特徴とする撹拌装置。
【請求項7】
前記一対の撹拌翼は、各々の回転軸が前記ロッド部の延在方向と直交ないし略直交するように、前記ロッド部の延在方向を中心線とした線対称の態様で前記ロッド部の先端に取り付けられ、
前記一対の撹拌翼の各々は、大略円筒状を成す回転部材と、該回転部材の外周部に互いに間隔を空けて放射状に取り付けられた、板状を成す複数の撹拌羽根とを含み、該複数の撹拌羽根が、前記外周部の平面視で前記回転部材の回転方向に対して15度傾けて取り付けられていることを特徴とする請求項6記載の撹拌装置。
【請求項8】
前記一対の撹拌翼の各々は、前記外周部が回転方向に沿って6等分された6つの領域のうち、5つの領域に前記複数の撹拌羽根として5枚の撹拌羽根が各領域に分けて取り付けられ、残りの1つの領域に撹拌羽根が取り付けられていないことを特徴とする請求項7記載の撹拌装置。
【請求項9】
前記一対の撹拌翼は、双方の前記複数の撹拌羽根の全てが同じ方向に傾けて取り付けられ、
前記制御部は、前記一対の撹拌翼の各々における前記外周部の平面視で、大略棒状に見える前記撹拌羽根の各々の2つの端部のうち、前記中心線側へ向けられた端部の方が回転方向の先端側になるように、前記一対の撹拌翼を互いに反対方向に回転させることを特徴とする請求項8記載の撹拌装置。
【請求項10】
前記制御部は、地盤への貫入速度及び地盤からの引き抜き速度に応じて、前記改良材吐出部による前記改良材の吐出量を変化させることを特徴とする請求項6記載の撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重機の作業機に撹拌装置を取り付けて地盤を撹拌する撹拌工法及び撹拌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な建造物を構築するにあたり、現地の地盤が軟弱な場合には地盤改良が行なわれる。そのような地盤改良のための工法の1つとして、回転する撹拌翼により地盤形成土と改良材とを混合撹拌し、地中に改良体を造成する工法が挙げられ、そのような撹拌翼を備えた撹拌装置は、通常、重機に装着して使用される(例えば特許文献1参照)。すなわち、重機を操作して撹拌装置を地盤へと貫入し、その際に改良材を供給しながら、撹拌翼によって地盤形成土と改良材とを混合撹拌するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-277955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、地盤への改良材の供給は、上述したように撹拌装置の地盤への貫入時に行われるが、特に撹拌面積の拡大を図るような場合には、それに応じて改良材の必要量も増加するため、各施工位置で設計通りの注入量の改良材を、撹拌装置の貫入時に安定して注入することは困難であった。また、撹拌装置の引き抜き時には、改良材を供給する吐出口に土が詰まり、吐出口が閉塞してしまうことが懸念される。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、改良材を安定して供給すると共に、改良材の吐出口の閉塞を防止することで、施工性及び品質を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)重機の作業機に取り付けられ、長尺状のロッド部の先端に設けられた一対の撹拌翼を回転させると共に、前記ロッド部の先端近傍から改良材を吐出する撹拌装置を地盤へ貫入して、地盤を撹拌する撹拌工法であって、前記撹拌装置の地盤への貫入時と地盤からの引き抜き時との双方において、前記改良材を吐出する撹拌工法。
【0007】
本項に記載の撹拌工法は、撹拌装置を利用して地盤を撹拌するものであって、この撹拌装置を重機の作業機に取り付けた状態で、重機の操作などを介して撹拌装置を改良対象の地盤へと貫入する。このとき、撹拌装置の長尺状のロッド部の先端に設けられた一対の撹拌翼を回転させながら、ロッド部の先端近傍からスラリー状の改良材を吐出することで、掘削した地盤形成土と改良材とを混合撹拌するものである。更に、撹拌装置の地盤への貫入時だけでなく、所定深度まで貫入した撹拌装置を地盤から引き抜く際にも、一対の撹拌翼の回転に加えて改良材の吐出も行うものである。
【0008】
これにより、各貫入位置に定められる改良材の設計注入量を、撹拌装置の地盤への貫入時と引き抜き時とに分けて注入することになるため、撹拌装置の地盤への貫入時にのみ改良材を吐出していた従来工法と比較して、貫入時に注入すべき改良材の流量が減少するものである。従って、撹拌面積の拡大を図り、それに伴って改良材の設計注入量が増えるような場合であっても、撹拌装置の貫入時に、改良材の吐出に利用するポンプの吐出性能に対して過剰な流量で吐出を行なう必要なく、安定して改良材を吐出するものとなる。更に、撹拌装置の地盤からの引き抜き時に改良材を吐出することで、改良材の吐出口が地盤形成土や改良土などによって閉塞することが防止されるものである。このため、施工性が向上すると共に、改良体の品質が向上することとなる。
【0009】
ここで、貫入時にのみ改良材を吐出していた従来工法では、設計注入量の改良材を貫入時に全て吐出しなければならないことや、地盤を掘り進みながら改良材を吐出していることに起因して、地盤内で混合されなかった余剰な改良材が上昇して地盤から漏れ出ることが多々あった。これに対し、本項に記載の撹拌工法では、撹拌装置の地盤への貫入時には、従来よりも改良材の吐出量が少ないため、余剰な改良材が地盤から漏れ出ることが抑制されるものである。更に、撹拌装置の地盤からの引き抜き時には、既に掘削されて撹拌装置が通った部分へ改良材を吐出することになるため、これによっても余剰な改良材が地盤から漏れ出ることが抑制される。従って、地盤から漏れ出てしまうことで廃棄される改良材の量が、大幅に削減されるものである。
【0010】
(2)上記(1)項において、前記撹拌装置の地盤への貫入時に、0.8~3.0MPaの圧力で前記改良材を吐出する撹拌工法。
本項に記載の撹拌工法は、撹拌装置の地盤への貫入時と引き抜き時との双方で行う改良材の吐出のうち、地盤への貫入時に行う改良材の吐出の際に、0.8~3.0MPaの圧力で改良材を吐出するものである。このために、0.8~3.0MPaの圧力での改良材の吐出に対応した、十分な能力を有するポンプを使用する。すなわち、掘削しながら地盤内へ改良材を供給するための必要最低限の圧力で吐出していた従来工法と比較して、より高い圧力で改良材を吐出する。これにより、撹拌地盤内に改良材が効率よく拡散されると共に、ロッド部の先端近傍から吐出される改良材によって、ロッド部の先端に設けられた撹拌翼に付着する粘性土が吹き飛ばされ、撹拌翼への粘性土の付着が抑制されるものである。従って、上記(1)項で言及した改良材の安定吐出などと相まって、未改良のダマが減少し、地盤内に均質な改良体が形成されるものとなる。なお、地盤からの引き抜き時の改良材の吐出圧は、吐出口の閉塞が防止される程度でよいため、貫入時よりも低い圧力に設定される。
【0011】
(3)上記(2)項において、地盤に前記撹拌装置を貫入する1箇所の貫入位置あたりの、前記改良材の設計注入量のうち、半分以上を地盤への貫入時に注入すると共に、残りを地盤からの引き抜き時に注入する撹拌工法。
本項に記載の撹拌工法は、撹拌装置を地盤に貫入する1箇所の貫入位置あたりに設定された改良材の設計注入量のうち、半分以上を地盤への貫入時に注入し、残りを地盤からの引き抜き時に注入するものである。これにより、比較的高い圧力で行う貫入時の改良材の吐出と、それよりも低圧で行う引き抜き時の改良材の吐出とに、設計注入量をバランスよく分けて対応するものである。
【0012】
(4)上記(3)項において、前記改良材の前記設計注入量のうち、7割を地盤への貫入時に注入すると共に、3割を地盤からの引き抜き時に注入する撹拌工法。
本項に記載の撹拌工法は、1箇所の貫入位置あたりの改良材の設計注入量のうち、7割の改良材を地盤への貫入時に注入し、残りの3割の改良材を地盤からの引き抜き時に注入するものである。このように、撹拌装置の貫入時と引き抜き時との双方に改良材を吐出しながらも、設計注入量をより具体的に配分することで、特に貫入時の吐出圧に対応するために必要な注入量が問題なく確保されるため、撹拌翼に対する粘性土の付着などがより確実に抑制されるものである。
【0013】
(5)上記(1)項において、前記撹拌装置として、前記一対の撹拌翼の回転軸が前記ロッド部の延在方向と直交ないし略直交するように、前記一対の撹拌翼を前記ロッド部の延在方向を中心線とした線対称の態様で前記ロッド部の先端に取り付けた撹拌装置を用い、前記一対の撹拌翼の各々として、大略円筒状を成す回転部材の外周部に、板状を成す複数の撹拌羽根を互いに間隔を空けて放射状に取り付けた撹拌翼を用い、このとき、前記複数の撹拌羽根を、前記外周部の平面視で前記回転部材の回転方向に対して15度傾けて取り付ける撹拌工法。
【0014】
本項に記載の撹拌工法は、利用する撹拌装置として、一対の撹拌翼をロッド部の延在方向を中心線とした線対称の態様でロッド部の先端に取り付けた撹拌装置を用い、このとき、一対の撹拌翼の回転軸がロッド部の延在方向と直交ないし略直交するように取り付ける。また、ロッド部の先端に取り付ける撹拌翼の各々として、大略円筒状を成す回転部材の外周部に、板状を成す複数の撹拌羽根を互いに間隔を空けて放射状に取り付けた撹拌翼を用いる。これにより、ロッド部の先端が向く方向に、回転部材の外周部に取り付けられた複数の撹拌羽根が向けられることになる。更に、各撹拌翼において、板状の複数の撹拌羽根を、回転部材の外周部の平面視で、回転部材の回転方向に対して15度傾けて取り付けるものである。
【0015】
これにより、撹拌羽根を回転部材の回転方向に対して傾けずに平行に取り付けた場合と比較して、掘削された地盤形成土の移動がより促されるため、地盤形成土と改良材とがより効率よく混合撹拌されるものとなる。ここで、回転部材の回転方向に対する撹拌羽根の傾き角度が大きくなると、撹拌羽根による土の移動量が増えるものの、流れが阻害されて同じ回転軌道に土が滞留し易くなるため、結果としてあまり撹拌されないことになり、また、撹拌羽根による地盤形成土の掘削効果が低減してしまう。更に、撹拌羽根の傾き角度が大きくなると、回転により地盤形成土から受ける抵抗が増えるため、回転部材を回転させるために必要なエネルギーが増大してしまう。このため、本発明者らは、上記の点を考慮すると共に、実験結果などに基づいて、適切な撹拌羽根の傾き角度として15度という値を見出したものである。これによって、地盤形成土を掘削する効果と、掘削した土を滞留させずに撹拌する効果とがバランス良く発揮されると共に、回転エネルギーの増大が抑制されるものである。
【0016】
(6)上記(5)項において、前記一対の撹拌翼の各々において、前記外周部を回転方向に沿って6等分した6つの領域のうち、5つの領域に前記複数の撹拌羽根として5枚の撹拌羽根を各領域に分けて取り付け、残りの1つの領域に撹拌羽根を取り付けない撹拌工法。
本項に記載の撹拌工法は、一対の撹拌翼の各々に取り付ける複数の撹拌羽根として、5枚の撹拌羽根を用いるものである。そして、5枚の撹拌羽根を、撹拌翼の各々の外周部を回転方向に沿って6等分した6つの領域のうち、5つの各領域に分けて取り付け、残りの1つの領域には撹拌羽根を取り付けないものである。これにより、撹拌羽根が取り付けられていない領域に、土の移動を促すための逃げ道が形成されるため、一対の撹拌翼による土の撹拌効果が増大するものとなる。
【0017】
(7)上記(6)項において、前記一対の撹拌翼の双方において、前記複数の撹拌羽根の全てを同じ方向に傾けて取り付け、前記一対の撹拌翼の各々における前記外周部の平面視で、大略棒状に見える前記撹拌羽根の各々の2つの端部のうち、前記中心線側へ向けられた端部の方が回転方向の先端側になるように、前記一対の撹拌翼を互いに反対方向に回転させる撹拌工法。
本項に記載の撹拌工法は、一対の撹拌翼の双方において、複数の撹拌羽根の全てを同じ方向に傾けて取り付けるものである。ここで、板状の撹拌羽根を回転部材の回転方向に対して15度傾ける際には、以下のような2つのパターンが存在する。すなわち、回転方向を上下方向とする外周部の平面視で、大略棒状に見える各撹拌羽根の上下の2つの端部のうち、上側の端部が左側で下側の端部が右側に傾けられるパターンと、上側の端部が右側で下側の端部が左側に傾けられるパターンとである。このような2つのパターンのうちの何れか一方の傾きパターンで、双方の撹拌翼の全ての撹拌羽根を傾けるものである。
【0018】
更に、本項に記載の撹拌工法は、上述したような外周部の平面視で、大略棒状に見える各撹拌羽根の2つの端部のうち、ロッド部の延在方向である中心線側へ向けられた端部の方が回転方向の先端側になるように、一対の撹拌翼を互いに反対方向に回転させるものである。すなわち、中心線を挟んで配置される双方の撹拌翼の全ての撹拌羽根が、同じ方向に傾けられているため、外周部の平面視で、一方の撹拌翼の撹拌羽根は、一方の端部が中心線側へ向けられ、他方の撹拌翼の撹拌羽根は、一方の撹拌翼の撹拌羽根とは反対の他方の端部が中心線側へ向けられている。従って、それらの中心線側に向けられた撹拌羽根の端部を回転方向の先端側にするために、一対の撹拌翼を互いに反対方向に回転させることで、主に中心線側を基準とした外側への土の移動を促すものである。これにより、撹拌装置の貫入又は引き抜きによる移動や、上記(5)及び(6)項で言及した作用と相まって、地盤形成土が改良材と共に、双方の撹拌翼に跨って8の字のような動きをするため、効率よく混合撹拌されるものとなり、改良体の品質が向上するものである。
【0019】
(8)上記(1)項において、前記撹拌装置の地盤への貫入速度及び地盤からの引き抜き速度に応じて、前記改良材の吐出量を変化させる撹拌工法。
本項に記載の撹拌工法は、改良材の吐出にあたり、地盤への貫入時には撹拌装置の貫入速度に応じて、地盤からの引き抜き時には撹拌装置の引き抜き速度に応じて、改良材の吐出量を変化させるものである。これにより、対象地盤の性質に応じて設定される必要吐出量の改良材が精度よく供給されるものとなり、改良材の過度な注入や注入不足が防止され、設計通りに改良土が形成されるものである。
【0020】
(9)重機の作業機に取り付けられ、地盤に貫入されて改良材を供給しながら地盤を撹拌する撹拌装置であって、長尺状のロッド部と、該ロッド部の先端に設けられ、地盤を撹拌するための回転可能な一対の撹拌翼と、前記ロッド部の先端近傍から前記改良材を吐出するための改良材吐出部と、装置全体を制御する制御部と、を含み、該制御部は、地盤への貫入時と地盤からの引き抜き時との双方において、前記改良材吐出部により前記改良材を吐出させる撹拌装置。
【0021】
(10)上記(9)項において、前記制御部は、地盤への貫入時に、前記改良材吐出部により0.8~3.0MPaの圧力で前記改良材を吐出させる撹拌装置。
(11)上記(10)項において、前記制御部は、地盤に貫入される1箇所の貫入位置あたりの、前記改良材の設計注入量のうち、半分以上を地盤への貫入時に注入させると共に、残りを地盤からの引き抜き時に注入させる撹拌装置。
(12)上記(11)項において、前記制御部は、前記改良材の前記設計注入量のうち、7割を地盤への貫入時に注入させると共に、3割を地盤からの引き抜き時に注入させる撹拌装置。
【0022】
(13)上記(9)項において、前記一対の撹拌翼は、各々の回転軸が前記ロッド部の延在方向と直交ないし略直交するように、前記ロッド部の延在方向を中心線とした線対称の態様で前記ロッド部の先端に取り付けられ、前記一対の撹拌翼の各々は、大略円筒状を成す回転部材と、該回転部材の外周部に互いに間隔を空けて放射状に取り付けられた、板状を成す複数の撹拌羽根とを含み、該複数の撹拌羽根が、前記外周部の平面視で前記回転部材の回転方向に対して15度傾けて取り付けられている撹拌装置。
(14)上記(13)項において、前記一対の撹拌翼の各々は、前記外周部が回転方向に沿って6等分された6つの領域のうち、5つの領域に前記複数の撹拌羽根として5枚の撹拌羽根が各領域に分けて取り付けられ、残りの1つの領域に撹拌羽根が取り付けられていない撹拌装置。
【0023】
(15)上記(14)項において、前記一対の撹拌翼は、双方の前記複数の撹拌羽根の全てが同じ方向に傾けて取り付けられ、前記制御部は、前記一対の撹拌翼の各々における前記外周部の平面視で、大略棒状に見える前記撹拌羽根の各々の2つの端部のうち、前記中心線側へ向けられた端部の方が回転方向の先端側になるように、前記一対の撹拌翼を互いに反対方向に回転させる撹拌装置。
(16)上記(9)項において、前記制御部は、地盤への貫入速度及び地盤からの引き抜き速度に応じて、前記改良材吐出部による前記改良材の吐出量を変化させる撹拌装置。
そして、(9)から(16)項に記載の撹拌装置は、各々、上記(1)から(8)項の撹拌工法に用いられることで、上記(1)から(8)項の撹拌工法に対応する同等の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上記のような構成であるため、改良材を安定して供給することができ、改良材の吐出口の閉塞を防止することもできるので、施工性及び品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態に係る撹拌装置の先端近傍を概略的に示す正面図及び側面図である。
図2】一対の撹拌翼の回転部材の外周部を疑似的に展開した平面図である。
図3】撹拌翼における撹拌羽根の配置を示す側面イメージ図である。
図4】本発明の実施の形態に係る撹拌方法の手順の一例を示すフロー図である。
図5図4の撹拌方法で採用する施工ブロックの例を示すイメージ図である。
図6図4の撹拌方法で施工する様子を施工イメージ図である。
図7図6に引き続き、図4の撹拌方法で施工する様子を施工イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、また、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。
図1は、本発明の実施の形態に係る撹拌工法で使用する撹拌装置10の構成を模式的に示している。この撹拌装置10は、例えば図6(a)に示されるように、バックホウなどの重機50の作業機52に取り付けられて使用され、原地盤とスラリー化した改良材とを混合撹拌して、軟弱地盤を科学的に固化処理するものである。このような撹拌装置10を用いる撹拌工法は、軟弱地盤から締まった砂質土を含む地盤まで、多様な性質の地盤に対応するものである。
【0027】
図1に戻り、本発明の実施の形態に係る撹拌装置10は、ロッド部12、一対の撹拌翼14(14A、14B)、改良材吐出部30、及び制御部34を含んでいる。ロッド部12は、長尺状を成すものであって、図6(a)に示すように重機50の作業機52に取り付けられ、その先端に一対の撹拌翼14が取り付けられている。図1の実施形態において、一対の撹拌翼14(14A、14B)は、一方の撹拌翼14Aが図1(a)における左側に、他方の撹拌翼14Bが図1(a)における右側に位置するように、ロッド部12の先端部12aを挟んで互いに反対向きに取り付けられている。これら一対の撹拌翼14A、14Bの各々は、大略円筒状を成す回転部材16と、この回転部材16の外周部16aに固定された複数の撹拌羽根20及び複数の切削羽根24とを含み、内蔵する高油圧モータによって個別に回転されるようになっている。そして、一対の撹拌翼14A、14Bが個別に高油圧モータを備えることで、撹拌面積の拡大が図られている。
【0028】
また、一対の撹拌翼14A、14Bは、図1(a)で確認できるように、各々の回転軸ARがロッド部12の延在方向(図1における上下方向)と直交ないし略直交するように、ロッド部12の延在方向を中心線CLとした線対称の態様で、ロッド部12の先端部12aに取り付けられている。図1の例では、各々の回転軸ARとロッド部12の延在方向(中心線CL)との間で成される角度αが、ロッド部12の先端側(図中下側)へ向けて90度よりも小さくなるように、僅かに傾斜した状態になっている。例えば、回転軸ARとロッド部12の延在方向との間で成される角度αは、これに限定されるものではないが、90度よりも5度程度小さくなっている。
【0029】
本実施形態において、一対の撹拌翼14A、14Bの各々は、板状を成す5枚の撹拌羽根20と、屈折した板状を成す2枚の切削羽根24とが、回転部材16の外周部16aに放射状に固定されている。ここで、図2には、撹拌翼14Aの回転部材16の外周部16aと、撹拌翼14Bの回転部材16の外周部16aとを、疑似的に平面に展開したイメージ図を示している。図示のように、図2の平面視では棒状に見える板状の撹拌羽根20の各々は、回転部材16の回転方向(図中上下方向)に対して傾けて固定されており、その傾き角度βが15度になっている。更に、本実施形態では、一方の撹拌翼14Aに固定された5枚の撹拌羽根20と、もう一方の撹拌翼14Bに固定された5枚の撹拌羽根20とが、図2の平面視で各撹拌羽根20の上側の端部が図中左側へ向いて下側の端部が図中右側へ向くように、全て同じ方向に傾けられている。
【0030】
また、本実施形態では、撹拌翼14A、14Bの各々において、回転部材16の外周部16aが回転方向(図2における上下方向)に沿って6等分された(すなわち60度の位相毎に分けられた)6つの領域のうち、5つの領域に5枚の撹拌羽根20が各領域に分けて取り付けられている。図2にはそのように6つに分けた領域の各中心位置を2点鎖線で示しており、例えば図中左側の撹拌翼14Aでは、上から1つ目及び2つ目の領域と下半分の3つの領域とに、撹拌羽根20が取り付けられており、上から3つ目の領域には撹拌羽根20が取り付けられていない。また、図中右側の撹拌翼14Bでは、上半分の3つの領域と下から1つ目及び2つ目の領域とに、撹拌羽根20が取り付けられており、下から3つ目の領域には撹拌羽根20が取り付けられていない。このような様子は、1つの撹拌翼14の回転部材16及び撹拌羽根20のみを示した図3でも確認できる。更に、撹拌翼14A、14Bの各々において、5枚の撹拌羽根20は、図2における左右方向の位置が、互いに異なるように取り付けられている。
【0031】
一方、2枚の切削羽根24は、図2に示すように、図中左側の撹拌翼14Aでは、上から3つ目の領域と一番下の領域とに取り付けられ、図中右側の撹拌翼14Bでは、一番上の領域と下から3つ目の領域とに取り付けられている。そして、撹拌翼14Aの上から3つ目の領域の切削羽根24と、撹拌翼14Bの下から3つ目の領域の切削羽根24とは、中心線CLを基準とした内側寄りの位置に、屈折方向を内側にして取り付けられている。また、撹拌翼14Aの一番下の領域の切削羽根24と、撹拌翼14Bの一番上の領域の切削羽根24とは、中心線CLを基準とした外側寄りの位置に、屈折方向を外側にして取り付けられている。
【0032】
上記のような構成の一対の撹拌翼14A、14Bは、地盤G(図6及び図7参照)の撹拌時には、制御部34からの制御を受けて、図2に矢印で示されるように、互いに反対方向に回転される。すなわち、撹拌翼14Aは、図2における下向きの回転方向であって、図1(b)のような図1(a)における左側からの側面視で、時計回り方向に回転される。これに対し、撹拌翼14Bは、図2における上向きの回転方向であって、図1(b)のような側面視で、反時計回り方向に回転される。これらの回転方向は、図2を参照して、棒状に見える各撹拌羽根20の2つの端部のうち、中心線CL側へ向けられた端部が、回転方向の先端側になるように設定される。
【0033】
すなわち、図中左側の撹拌翼14Aは、各撹拌羽根20の下側の端部が中心線CL側へ向けられているため、この下側の端部が回転方向の先端側になるように、図2における下向きの回転方向に設定される。同様に、図中右側の撹拌翼14Bは、各撹拌羽根20の上側の端部が中心線CL側へ向けられているため、この上側の端部が回転方向の先端側になるように、図2における上向きの回転方向に設定される。このような回転方向と撹拌羽根20の傾きとの組み合わせにより、中心線CLを基準とした外側への土の移動が促されるようになる。
【0034】
図1に戻り、改良材吐出部30は、地盤改良のためのスラリー状の改良材を供給するためのものであり、本実施形態では、吐出口30a及び配管部30bを含んでいる。配管部30bは、ロッド部12の上端近傍から内部を通って下方へ延び、ロッド部12の外側に出た後、更にロッド部12やその先端部12aに沿って下方へ延びている。配管部30bは、ロッド部12の外側では配管ケース32で覆われており、この状態で先端部12aの下端近傍に設けられた吐出口30aまで延びている。そして、吐出口30aは、図1(a)における左右方向へ向かってスラリー状の改良材を噴射するように設けられている。すなわち、吐出口30aは、一対の撹拌翼14A、14Bに向けられており、より詳しくは、撹拌翼14A、14Bの回転部材16が回転することで回動する、回転部材16の外周部16aに設けられた撹拌羽根20や切削羽根24へ向けられている。なお、配管部30bの吐出口30a側とは反対側の端部は、改良材の供給元であるプラントのポンプに接続されている。そして、改良材吐出部30からの改良材の供給量などは、制御部34を介して制御されるようになっている。なお、ロッド部12の内部や配管ケース32の内部には、改良材吐出部30の配管部30bに加えて、エアを供給するためのエア配管33が設けられており、このエア配管33を介して供給されたエアも、吐出口30aから噴射されるようになっている。
【0035】
制御部34は、撹拌装置10全体の制御を行うものである。詳しくは後述するが、制御部34は、一対の撹拌翼14A、14Bの回転のON/OFF、回転方向、回転速度などの制御、改良材吐出部30からの改良材の吐出のON/OFF、吐出圧、吐出量などの制御、その他の撹拌装置10の動作に係る様々な制御を行なう。また、制御部34は、重機50の作業機52に設置された各種のセンサを利用して撹拌装置10の姿勢制御を行うと共に、撹拌装置10の貫入作業や引き抜き作業の制御も行う。図1では、説明の便宜上、図1(a)にのみ制御部34をブロック形態で図示しているが、制御部34は、例えば重機50のオペレータ室に設置される任意のコンピュータなどで構成される。
【0036】
次に、図4に示すフロー図の流れに沿って、図1に示した撹拌装置10を利用する本発明の実施の形態に係る撹拌工法について説明する。撹拌装置10の構成については、適宜、図1図3を参照のこと。なお、図4に示すフロー図は、本発明の実施の形態に係る撹拌工法を説明するための手順の流れの一例を示したものである。従って、本発明の実施の形態に係る撹拌工法は、図4のフロー図に限定されるものではなく、例えば、撹拌装置10の構成や状況などに応じて、図4に示したステップの一部が削除、変更、ないし適宜追加されたフローであってもよいものである。
【0037】
S10(事前準備):作業員により、撹拌工法を実施するための様々な準備を行なう。例えば、各機材のセッティングやキャリブレーション、改良材のプラントの準備、施工範囲の区割りや位置マーキングなどを行なう。本実施形態では、図5に示すように、施工範囲を複数のブロック40に分け、更に各ブロック40を3つのユニット42に分けて施工を行なうため、そのような区割りや位置マーキングを行なう。
S20(位置セット):現在の施工対象のブロック40のユニット42で施工するために、図6(a)に示すように、オペレータにより重機50を操作して撹拌装置10の位置をセットする。
【0038】
S30(貫入):図6(b)で下方向矢印により示すように、現在の施工対象ユニット42の地盤Gに撹拌装置10を貫入する。このとき、オペレータからの操作を受けた制御部34により、撹拌装置10の貫入動作を制御する。撹拌装置10の貫入動作では、一対の撹拌翼14A、14Bを図2に示したように互いに反対方向に回転させると共に、改良材吐出部30から改良材を供給しながら、撹拌装置10の鉛直性が保たれるように姿勢を制御して貫入する。撹拌装置10の貫入時における改良材の吐出圧は、0.8~3.0MPaになるように、制御部34によりポンプなどを制御する。また、各ユニット42において撹拌装置10の貫入を始めてから貫入を終了するまでの、貫入時における改良材の供給量は、本実施形態では、各ユニット42に予め設定された改良材の設計注入量の7割になるようにする。更に、制御部34は、地盤Gに対する撹拌装置10の貫入速度に応じて、改良材の吐出量(吐出圧)を変化させながら、上記のような供給量を達成するように制御を行なう。
【0039】
S40(所定深度確認):制御部34により、撹拌装置10に設置された深度計などによって撹拌装置10の深度を把握し、それが現在の施工対象ユニット42に予め設定された設計改良深度に達していることを確認する。すなわち、撹拌装置10の深度が設計改良深度に達するまで撹拌装置10を貫入し、撹拌装置10の深度が設計改良深度に達したら、撹拌装置10の引き抜き作業を行なうためにS50へと移行する。
【0040】
S50(引き抜き):図6(b)で上方向矢印により示すように、制御部34の制御により、現在の施工対象ユニット42の地盤Gから撹拌装置10を引き抜く。この引き抜き動作においても、一対の撹拌翼14A、14Bを図2に示したように互いに反対方向に回転させると共に、改良材吐出部30から改良材を供給しながら、撹拌装置10の鉛直性が保たれるように姿勢を制御して引き抜きを行なう。撹拌装置10の引き抜き時における改良材の吐出圧は、貫入時よりも低圧になるように、制御部34によりポンプなどを制御する。また、各ユニット42において撹拌装置10の引き抜きを始めてから引き抜きを終了するまでの、引き抜き時における改良材の供給量は、本実施形態では、各ユニット42に予め設定された改良材の設計注入量の3割になるようにする。更に、制御部34は、地盤Gからの撹拌装置10の引き抜き速度に応じて、改良材の吐出量(吐出圧)を変化させながら、上記のような供給量を達成するように制御を行なう。
【0041】
S60(回転数及び添加量確認):制御部34或いはオペレータにより、現在の施工対象ユニット42における一対の撹拌翼14A、14Bの回転数と改良材の添加量とが、予め定められた回転数及び設計注入量に達していることを確認する。
【0042】
S70(ユニット判定):制御部34或いはオペレータにより、現在の施工対象のブロック40内の全てのユニット42で作業を行ったか否かを判定する。そして、現在の施工対象のブロック40内にまだ作業していないユニット42が残っていると判定した場合(NO)はS80へ移行し、現在の施工対象のブロック40内の全てのユニット42で作業を行ったと判定した場合(YES)はS90へ移行する。
S80(対象ユニット変更):現在の施工対象のブロック40内にまだ作業していないユニット42が残っているため、図7(a)に示すように、オペレータにより重機50を操作して、施工対象のユニット42を変更する。そして、上記S20へ復帰して、図7(b)に示すように、新たな施工対象のユニット42で撹拌装置10の貫入及び引き抜き作業を行なう。すなわち、図7(c)に示すように、現在の施工対象のブロック40内の全てのユニット42での作業が終了するまで、上記S20~S60を繰り返し実行する。
【0043】
S90(ブロック判定):制御部34或いはオペレータにより、施工範囲に設定された複数のブロック40の全てで作業を行ったか否かを判定する。そして、まだ作業を行っていないブロック40が残っていると判定した場合(NO)はS100へ移行し、全てのブロック40で作業を行ったと判定した場合(YES)は、施工範囲での作業が終わったため、本発明の実施の形態に係る撹拌工法の説明が終了となる。
S100(次ブロックへ移動):施工範囲にまだ作業していないブロック40が残っているため、図7(d)に示すように、オペレータにより重機50を操作して、施工対象としての次のブロック40へ移動する。そして、上記S20へ復帰する。すなわち、施工範囲の全てのブロック40での作業が終了するまで、上記S20~S60を繰り返し実行する。
【0044】
ここで、本発明の実施の形態に係る撹拌装置10及び撹拌工法は、上述したような構成に限定されるものではなく、他の構成をとり得るものである。例えば、撹拌装置10の貫入時と引き抜き時とにおける改良材の注入量の分配比率は、設計注入量の7割及び3割に限定されるものではなく、貫入時に設計注入量の半分以上が割り当てられれば、任意の分配比率であってよい。また、撹拌翼14に固定される撹拌羽根20は、数量、取り付け位置、取り付け角度、及び形状などが、図1図3に示した例と異なっていてもよい。更に、撹拌装置10が取り付けられる重機50及び作業機52は、バックホウベースのものに限定されることなく、リーダ付油圧式大口径削孔機などであってもよい。
【0045】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る撹拌工法は、図1に示されるような撹拌装置10を利用して、例えば図6(a)に示すように地盤Gを撹拌するものであって、この撹拌装置10を重機50の作業機52に取り付けた状態で、重機50の操作などを介して撹拌装置10を改良対象の地盤Gへと貫入する(図4のS30参照)。このとき、撹拌装置10の長尺状のロッド部12の先端に設けられた一対の撹拌翼14を回転させながら、ロッド部12の先端近傍からスラリー状の改良材を吐出することで、掘削した地盤形成土と改良材とを混合撹拌するものである。更に、撹拌装置10の地盤Gへの貫入時だけでなく、所定深度まで貫入した撹拌装置10を地盤Gから引き抜く際にも、一対の撹拌翼14の回転に加えて改良材の吐出も行うものである(図4のS50参照)。
【0046】
これにより、各貫入位置(ユニット42)に定められる改良材の設計注入量を、撹拌装置10の地盤Gへの貫入時と引き抜き時とに分けて注入することになるため、撹拌装置10の地盤Gへの貫入時にのみ改良材を吐出していた従来工法と比較して、貫入時に注入すべき改良材の流量が減少するものである。従って、一対の撹拌翼14A、14Bに個別に高油圧モータを取り付けることなどによって撹拌面積の拡大を図り、それに伴って改良材の設計注入量が増えるような場合であっても、撹拌装置10の貫入時に、改良材の吐出に利用するポンプの吐出性能に対して過剰な流量で吐出を行なう必要なく、安定して改良材を吐出することができる。更に、撹拌装置10の地盤Gからの引き抜き時に改良材を吐出することで、改良材の吐出口30aが地盤形成土や改良土などによって閉塞することを防止することができる。このため、施工性を向上させることができると共に、改良体の品質を向上させることも可能となる。
【0047】
ここで、貫入時にのみ改良材を吐出していた従来工法では、設計注入量の改良材を貫入時に全て吐出しなければならないことや、地盤Gを掘り進みながら改良材を吐出していることに起因して、地盤G内で混合されなかった余剰な改良材が上昇して地盤Gから漏れ出ることが多々あった。これに対し、本発明の実施の形態に係る撹拌工法では、撹拌装置10の地盤Gへの貫入時には、従来よりも改良材の吐出量が少ないため、余剰な改良材が地盤Gから漏れ出ることを抑制することができる。更に、撹拌装置10の地盤Gからの引き抜き時には、既に掘削されて撹拌装置10が通った部分へ改良材を吐出することになるため、これによっても余剰な改良材が地盤Gから漏れ出ることを抑制することができる。従って、地盤Gから漏れ出てしまうことで廃棄される改良材の量を、大幅に削減することが可能となる。
【0048】
また、本発明の実施の形態に係る撹拌工法は、撹拌装置10の地盤Gへの貫入時と引き抜き時との双方で行う改良材の吐出のうち、地盤Gへの貫入時に行う改良材の吐出の際に、0.8~3.0MPaの圧力で改良材を吐出するものである。すなわち、掘削しながら地盤G内へ改良材を供給するための必要最低限の圧力で吐出していた従来工法と比較して、より高い圧力で改良材を吐出する。これにより、撹拌地盤G内に改良材を効率よく拡散することができると共に、ロッド部12の先端近傍から吐出される改良材によって、ロッド部12の先端に設けられた撹拌翼14に付着する粘性土を吹き飛ばすことができるため、撹拌翼14への粘性土の付着を抑制することができる。従って、上述した改良材の安定吐出などと相まって、未改良のダマを減少させることができ、地盤G内に均質な改良体を形成することが可能となる。
【0049】
更に、本発明の実施の形態に係る撹拌工法は、撹拌装置10を地盤Gに貫入する1箇所の貫入位置(ユニット42)あたりに設定された改良材の設計注入量のうち、半分以上を地盤Gへの貫入時に注入し、残りを地盤Gからの引き抜き時に注入するものである。これにより、比較的高い圧力で行う貫入時の改良材の吐出と、それよりも低圧で行う引き抜き時の改良材の吐出とに、設計注入量をバランスよく分けて対応することができる。特に、本発明の実施の形態に係る撹拌工法では、1箇所の貫入位置あたりの改良材の設計注入量のうち、7割の改良材を地盤Gへの貫入時に注入し、残りの3割の改良材を地盤Gからの引き抜き時に注入するものである。このように、撹拌装置10の貫入時と引き抜き時との双方に改良材を吐出しながらも、設計注入量をより具体的に配分することで、特に貫入時の吐出圧に対応するために必要な注入量を問題なく確保することができるため、撹拌翼14に対する粘性土の付着などをより確実に抑制することができる。
【0050】
また、本発明の実施の形態に係る撹拌工法は、図1に示すように、利用する撹拌装置10として、一対の撹拌翼14A、14Bをロッド部12の延在方向を中心線CLとした線対称の態様でロッド部12の先端に取り付けた撹拌装置10を用いる。このとき、一対の撹拌翼14A、14Bの回転軸ARが、ロッド部12の延在方向と直交ないし略直交するように取り付ける。また、ロッド部12の先端に取り付ける撹拌翼14A、14Bの各々として、大略円筒状を成す回転部材16の外周部16aに、板状を成す複数の撹拌羽根20を互いに間隔を空けて放射状に取り付けた撹拌翼14を用いる。これにより、ロッド部12の先端が向く方向に、回転部材16の外周部16aに取り付けられた複数の撹拌羽根20を向けることができる。更に、各撹拌翼14において、板状の複数の撹拌羽根20を、図2のような回転部材16の外周部16aの平面視で、回転部材16の回転方向に対して15度傾けて取り付けるものであり、図2ではその傾き角度が符号βで示されている。
【0051】
これにより、撹拌羽根20を回転部材16の回転方向に対して傾けずに平行に取り付けた場合と比較して、掘削された地盤形成土の移動をより促すことができるため、地盤形成土と改良材とをより効率よく混合撹拌することが可能となる。また、撹拌羽根20の傾き角度βの15度という大きさは、実験などによって本発明者らが見出した適切な値である。このため、撹拌羽根20による地盤形成土を掘削する効果と、掘削した土を滞留させずに撹拌する効果とをバランス良く発揮することができると共に、回転部材16を回転させるための回転エネルギーの増大を抑制することができる。
【0052】
更に、本発明の実施の形態に係る撹拌工法は、図1図3に示されるように、一対の撹拌翼14A、14Bの各々に取り付ける複数の撹拌羽根20として、5枚の撹拌羽根20を用いるものである。そして、5枚の撹拌羽根20を、撹拌翼14A、14Bの各々の外周部16aを回転方向に沿って6等分した6つの領域のうち、5つの各領域に分けて取り付け、残りの1つの領域には撹拌羽根20を取り付けないものである。これにより、撹拌羽根20が取り付けられていない領域に、土の移動を促すための逃げ道を形成することができるため、一対の撹拌翼14A、14Bによる土の撹拌効果を増大させることが可能となる。
【0053】
また、本発明の実施の形態に係る撹拌工法は、一対の撹拌翼14A、14Bの双方において、複数の撹拌羽根20の全てを同じ方向に傾けて取り付けるものである。図2では、一対の撹拌翼14A、14Bに固定された全ての撹拌羽根20が、大略棒状に見える各撹拌羽根20の上下の2つの端部のうち、上側の端部が左側で下側の端部が右側に傾けられた傾きパターンになっていることが確認できる。更に、図2のような外周部16aの平面視で、大略棒状に見える各撹拌羽根20の2つの端部のうち、中心線CL側へ向けられた端部の方が回転方向の先端側になるように、一対の撹拌翼14A、14Bを互いに反対方向に回転させるものである。
【0054】
すなわち、一方の撹拌翼14Aの撹拌羽根20は、図2における下側の端部が中心線CL側へ向けられ、他方の撹拌翼14Bの撹拌羽根20は、図2における上側の端部が中心線CL側へ向けられている。従って、それらの中心線CL側に向けられた撹拌羽根20の端部を回転方向の先端側にするために、一対の撹拌翼14A、14Bを図中の矢印のように互いに反対方向に回転させることで、主に中心線CL側を基準とした外側への土の移動を促すことができる。これにより、撹拌装置10の貫入又は引き抜きによる移動や、上述した5枚の撹拌羽根20の配置形態や傾きによる作用効果と相まって、地盤形成土を改良材と共に、双方の撹拌翼14A、14Bに跨って8の字のように動かすことができるため、効率よく混合撹拌することができ、改良体の品質を向上させることが可能となる。
【0055】
更に、本発明の実施の形態に係る撹拌工法は、改良材の吐出にあたり、地盤Gへの貫入時には撹拌装置10の貫入速度に応じて、地盤Gからの引き抜き時には撹拌装置10の引き抜き速度に応じて、改良材の吐出量を変化させるものである。これにより、対象地盤Gの性質に応じて設定される必要吐出量の改良材を精度よく供給することができ、改良材の過度な注入や注入不足を防止して、設計通りに改良土を形成することが可能となる。
他方、本発明の実施の形態に係る撹拌装置10は、上述したような本発明の実施の形態に係る撹拌工法で使用されることで、本発明の実施の形態に係る撹拌工法に対応する同等の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0056】
10:撹拌装置、12:ロッド部、14(14A、14B):撹拌翼、16:回転部材、16a:外周部、20:撹拌羽根、30:改良材吐出部、30a:吐出口、34:制御部、50:重機、52:作業機、G:地盤、AR:回転軸、CL:中心線、β:回転部材の回転方向に対する撹拌羽根の傾き角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7