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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139926
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ヘッドモジュール
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20241003BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050877
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100182051
【弁理士】
【氏名又は名称】松川 直宏
(72)【発明者】
【氏名】森本 樹
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA23
2C056FA04
2C056HA15
2C056HA52
2C056KB16
2C056KB37
(57)【要約】
【課題】インク流路内を流れるインクの、冷却流路を流れる冷却媒体による温度低下を防止でき、且つ、ノズルプレートと平行な面方向において小型化可能なヘッドモジュールを提供する。
【解決手段】ヘッドモジュールは、ノズルプレートとICとを有するヘッドチップと、前記ICと熱的に接触しており、前記ICを冷却するための冷却器と、前記ヘッドチップと流体的に接続しており、且つ、前記ヘッドチップにインクを供給するための供給器と、を備える。前記ノズルプレートと直交する第1方向において、前記冷却器と前記供給器とは、前記ノズルプレートに対して一方に位置しており、前記第1方向から見たとき、前記冷却器と前記供給器とが重なっており、前記冷却器と前記供給器とは熱的に隔離されている。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルプレートとICとを有するヘッドチップと、
前記ICと熱的に接触しており、前記ICを冷却するための冷却器と、
前記ヘッドチップと流体的に接続しており、且つ、前記ヘッドチップにインクを供給するための供給器と、を備え、
前記ノズルプレートと直交する第1方向において、前記冷却器と前記供給器とは、前記ノズルプレートに対して一方に位置しており、
前記第1方向から見たとき、前記冷却器と前記供給器とが重なっており、
前記冷却器と前記供給器とは熱的に隔離されている、ヘッドモジュール。
【請求項2】
前記冷却器と前記供給器との間には隙間が形成されている、請求項1に記載のヘッドモジュール。
【請求項3】
前記冷却器には冷却水を流すための冷却水流路が形成されている、請求項1又は2に記載のヘッドモジュール。
【請求項4】
前記冷却器は、前記ICと熱的に接触する接触部を有し、
前記第1方向から見たとき、前記接触部は前記供給器と重なっている、請求項3に記載のヘッドモジュール。
【請求項5】
前記ヘッドチップは、前記供給器と接続され前記供給器から前記ヘッドチップに前記インクを供給するための第1接続口を有し、
前記ヘッドチップは矩形状の外形を有し、
前記冷却器は、前記ヘッドチップの第1辺に対して固定されており、
前記ヘッドチップの第2辺に、前記第1接続口が位置する、請求項4に記載のヘッドモジュール。
【請求項6】
前記第1方向から見たとき、前記冷却器と前記供給器とが前記ヘッドチップの外縁を超えないように位置する、請求項5に記載のヘッドモジュール。
【請求項7】
前記ヘッドチップはさらに、前記供給器と接続され前記供給器から前記ヘッドチップに前記インクを供給するための第2接続口を有し、
前記ヘッドチップの第3辺に、前記第2接続口が位置する、請求項5に記載のヘッドモジュール。
【請求項8】
前記ヘッドチップの前記第2辺と前記第3辺とは互いに対向している、請求項7に記載のヘッドモジュール。
【請求項9】
前記供給器には、前記ヘッドチップに前記インクを供給するためのインク供給流路が形成されており、
前記第1方向から見たとき、前記インク供給流路の上流端と、前記冷却水流路の上流端及び下流端とは、前記ヘッドチップの外縁よりも内側に位置し且つ前記第1方向の前記一方に向かって開口している、請求項5に記載のヘッドモジュール。
【請求項10】
前記インク供給流路の前記上流端の前記第1方向と直交する断面の形状と、前記冷却水流路の前記上流端及び前記下流端の前記第1方向と直交する断面の形状とが異なる、請求項9に記載のヘッドモジュール。
【請求項11】
前記供給器には、前記ヘッドチップに前記インクを供給するためのインク供給流路と、前記ヘッドチップから前記インクを回収するためのインク回収流路とが形成されている、請求項1に記載のヘッドモジュール。
【請求項12】
前記ノズルプレートと直交し且つ前記ヘッドチップの前記第2辺と平行な断面において、前記冷却水流路は前記ICに対して前記第1方向の前記一方に位置し、前記供給器は前記冷却水流路に対して前記第1方向の前記一方に位置する、請求項5に記載のヘッドモジュール。
【請求項13】
前記供給器から前記ヘッドチップに供給される前記インクはヒータにより加熱されている、請求項1に記載のヘッドモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICを有するヘッドチップと、ICを冷却するための冷却器と、ヘッドチップにインクを供給するための供給器とを備える、ヘッドモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷却媒体を流すための冷却流路と、インクを供給及び回収するためのインク流路とを備えるヘッドが知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-320186号公報
【特許文献2】特開2019-181855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のインクジェット記録ヘッドでは、冷却流路とインク流路との断熱については考慮されていない。このため、インク流路内を流れるインクから冷却流路を流れる冷却媒体に伝熱し、インクの温度が低下する可能性がある。
【0005】
一方、特許文献2に記載の液体吐出ヘッドでは、冷却流路が形成された冷却器と、インク流路が形成された供給器とは、液体吐出ヘッドのノズル面と平行な方向に並んでいる。このため、ノズル面と平行な方向において、液体吐出ヘッドを小型化することが困難である。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、インク流路内を流れるインクの、冷却流路を流れる冷却媒体による温度低下を防止でき、且つ、ノズルプレートと平行な面方向において小型化可能なヘッドモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様に従えば、ノズルプレートとICとを有するヘッドチップと、
前記ICと熱的に接触しており、前記ICを冷却するための冷却器と、
前記ヘッドチップと流体的に接続しており、且つ、前記ヘッドチップにインクを供給するための供給器と、を備え、
前記ノズルプレートと直交する第1方向において、前記冷却器と前記供給器とは、前記ノズルプレートに対して一方に位置しており、
前記第1方向から見たとき、前記冷却器と前記供給器とが重なっており、
前記冷却器と前記供給器とは熱的に隔離されている、ヘッドモジュールが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のヘッドモジュールによれば、インク流路内を流れるインクの、冷却流路を流れる冷却媒体による温度低下を防止でき、且つ、ノズルプレートと平行な面方向に小型化可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1はプリンタの概略的な構成図である。
図2図2はヘッドユニットの上面図である。
図3図3はヘッドモジュールの斜視図である。
図4図4は流路部材及びアクチュエータ部材を示す上面図である。
図5図5図4のV-V線断面図である。
図6図6は流路部材の内部におけるインクの流れを説明するための説明図である。
図7図7はヘッドモジュールからインク供給器と冷却器の接続管とを取り除いた状態を示す斜視図である。
図8図8はヘッドモジュールの上面図である。
図9図9図8のIX-IX線断面図である。
図10図10図8のX-X線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態のヘッドモジュール1について、ヘッドモジュール1をプリンタ(印刷装置)1000において用いる場合を例として説明する。
【0011】
[プリンタ1000]
図1に示すように、プリンタ1000は、4つのヘッドユニット100と、プラテン400と、一対の搬送ローラ501、502と、制御装置CONTと、これらを収容する筐体900とを主に備える。筐体900の内部には更に、インクタンク600と、4つのサブタンク700と、冷却機構800とが収容されている。
【0012】
以下の説明においては、一対の搬送ローラ501、502が並ぶ方向、即ち画像形成時に媒体PMが搬送される方向をプリンタ1000の搬送方向と呼ぶ。搬送方向については、媒体PMが搬送される方向の上流側、下流側をそれぞれ、搬送方向の供給側、排出側と呼ぶ。
【0013】
また、搬送方向と直交する水平面内の方向、即ち、搬送ローラ501、502の回転軸の延びる方向を媒体幅方向と呼ぶ。媒体幅方向については、搬送方向の供給側から排出側を見た際の左側、右側をそれぞれ、媒体幅方向の左側、右側と呼ぶ。搬送方向及び媒体幅方向に直交する方向を上下方向と呼ぶ。上下方向は本発明の「第1方向」の一例である。
【0014】
4つのヘッドユニット100の各々は、いわゆるラインタイプのヘッドであり、媒体幅方向の両端部において支持体100aに支持されている。本実施形態では、4つのヘッドユニット100は、互いに異なる色のインクを吐出する。4つのヘッドユニット100により吐出される4色のインクは、一例としてシアンインク、マゼンタインク、イエローインク及びブラックインクである。4つのヘッドユニット100の各々の具体的な構造、機能は後述する。
【0015】
プラテン400は、ヘッドユニット100から媒体PMに向けてインクが吐出される際に、媒体PMをヘッドユニット100とは反対側(下方)から支持する板状部材である。プラテン400の媒体幅方向の幅は、プリンタ1000による画像記録が可能な最も大きな媒体の幅よりも大きい。
【0016】
一対の搬送ローラ501、502は、プラテン400を搬送方向に挟むような状態で位置している。一対の搬送ローラ501、502は、ヘッドユニット100による媒体PMへの画像形成時に、媒体PMを所定の態様で搬送方向の排出側に送る。
【0017】
インクタンク600は、4色のインクを収容できるよう4つに区分されている。4つのサブタンク700は、4つのヘッドユニット100の上方に、1つずつ位置している。
【0018】
4色のインクは、管路610によりリザーバ620に送られる。管路610及びリザーバ620は、4色のインクを流通、収容できるよう4つに区分されている。リザーバ620に送られた各色のインクは、不図示の管路及びポンプを介して、4つのサブタンク700のいずれかとリザーバ620との間で循環される。
【0019】
4つのサブタンク700の各々は、その真下に位置したヘッドユニット100にインクを供給し、且つ当該ヘッドユニット100からインクを回収する。なお、サブタンク700には、ヒータ(不図示)がある。ヒータは、ヘッドユニット100に供給するインクを、ヘッドユニット100から吐出させるのに適切な温度に加熱する。
【0020】
冷却機構800は、冷媒を循環させて、ヘッドユニット100が備えるヘッドチップ10(後述)を冷却するために設けられている。冷却機構800は主に、冷媒タンク、ポンプ、冷媒供給管、冷媒回収管(いずれも不図示)を有する。冷却機構800は、冷媒供給管及び冷媒回収管を介して、冷媒タンクとヘッドユニット100が有するヘッドモジュール1(図2参照)との間で冷媒を循環させる。本実施形態では、冷媒として冷却水を用いている。
【0021】
制御装置CONTは、プリンタ1000の備える各部を全体的に制御し、媒体PMへの画像形成等を行わせる。制御装置CONTは、FPGA(Field Programmable Gate Array)、EEPROM(Electrically Eracable Programmable Read-Only Memory、登録商標)、RAM(Random Access Memory)等を備える。なお、制御装置CONTはCPU(Central Processing Unit)、又はASIC(Application Specific Integrated Curcuit)等を備えてもよい。制御装置CONTは、PC等の外部装置(不図示)とデータ通信可能に接続されており、当該外部装置から送られた印刷データに基づいてプリンタ1000の各部を制御する。
【0022】
[ヘッドユニット100]
4つのヘッドユニット100は互いに同一の構成を有するため、以下では一つを代表的に取り上げて説明する。
【0023】
ヘッドユニット100は、図2に示すように、保持部材HMと、保持部材HMによって保持された10個のヘッドモジュール1とを備える。
【0024】
保持部材HMは、媒体幅方向を長手方向とし、搬送方向を短手方向とする平面視矩形の板状部材である。保持部材HMの長手方向の両端部が、支持体100aによって支持される。
【0025】
10個のヘッドモジュール1は、保持部材HMの複数の開口部(不図示)のそれぞれの内部にそれぞれが位置した状態で、保持部材HMによって一体に保持されている。10個のヘッドモジュール1は、平面視において、媒体幅方向にそって千鳥状(ジグザグ状)に位置している。
【0026】
[ヘッドモジュール1]
10個のヘッドモジュール1は互いに同一の構成を有するため、以下では一つを代表的に取り上げて説明する。
【0027】
図3に示すように、ヘッドモジュール1は、ヘッドチップ10と、ヘッドチップ10にインクを供給するためのインク供給器20と、ヘッドチップ10を冷却するための冷却器30とを備える。
【0028】
[ヘッドチップ10]
図3図5に示すように、ヘッドチップ10は、流路部材11とアクチュエータ部材12とドライバIC17とフレーム部材18とを備える。
【0029】
[流路部材11]
図3及び図4に示すように、流路部材11は矩形状の板状部材である。図5に示すように、流路部材11は、インク封止膜11A、プレート11B~11E、及びノズルプレート11Fが、上からこの順に積層されることにより構成されている。図4に示すように、流路部材11の内部には、流路CHが形成されている。
【0030】
流路CHは、4本のマニホールド流路M1、M2、M3、M4と、48個の個別流路iCHとを含む。4本のマニホールド流路M1~M4の各々は、直線状の共通流路cCHと、共通流路cCHの両端部のインク流通口IP(流入口、排出口)とを含む。4本のマニホールド流路M1~M4の各々には12個の個別流路iCHが接続している。なお、マニホールド流路の本数、及び各マニホールド流路に接続している個別流路の数は一例であり、これらの数には限られない。
【0031】
図5に示すように、個別流路iCHの各々は、圧力室13、ディセンダ流路14、ノズル15を含む。圧力室13の上面はインク封止膜11Aにより画定されている。ディセンダ流路14は圧力室13からノズル15に向けて、上下方向に延びている。ノズル15は、インクを媒体PMに向けて吐出する微小開口であり、ノズルプレート11Fに形成されている。図4に示すように、ノズルプレート11Fの下面には、4本のノズル列Lが形成されている。各ノズル列Lは、マニホールド流路M1~M4が延びる方向に沿って延びている。
【0032】
[アクチュエータ部材12]
図4に示すように、アクチュエータ部材12は、流路部材11よりも一回り小さい矩形状の外形を有する。図5に示すように、アクチュエータ部材12は、流路部材11の上面に設けられた第1圧電層12Aと、第1圧電層12Aの上方の第2圧電層12Bと、第2圧電層12Bの上面に設けられた複数の個別電極12Cと、第1圧電層12A、第2圧電層12Bに挟まれた共通電極12Dとにより構成されている。第1圧電層12A及び第2圧電層12Bはそれぞれ、チタン酸ジルコン酸鉛等を主成分とする圧電材料からなる。第2圧電層12Bのうち、共通電極12Dと複数の個別電極12Cの各々とに挟まれた活性部12Eは、厚み方向に分極されている。複数の個別電極12Cは、複数の個別流路iCHの圧力室13の上方にそれぞれが位置するように、第2圧電層12Bの上面に形成されている。各個別電極12Cには、FPC(Flexible Printed Circuit)16(図9図10参照)と電気的に接続される接点が形成されている。FPC16に実装されたドライバIC17は、制御装置CONTの制御に基づき、FPC16の配線を介して各個別電極12Cに対して、駆動電位及びグランド電位のいずれかを選択的に付与する。共通電極12Dは、第2圧電層12Bを厚み方向に貫通する貫通電極(図示略)を介してFPC16と電気的に接続されている。FPC16に実装されたドライバIC17は、FPC16の配線及び貫通電極を介して共通電極12Dをグランド電位に維持する。共通電極12Dと、複数の個別電極12Cと、共通電極12D及び複数の個別電極12Cで挟まれた複数の活性部12Eとによって、複数の圧電素子が形成されている。
【0033】
[ドライバIC17]
図9及び図10に示すように、アクチュエータ部材12の上面には、保持板19と、保持板19に巻き付けられたFPC16と、FPCに実装された2個のドライバIC17とからなる吐出制御部が位置している。FPC16の外側の面(保持板19と接触していない面)のうち、アクチュエータ部材12の上面と対向する位置には、アクチュエータ部材12の複数の個別電極12Cに形成された複数の接点と電気的に接続される、複数の接点(不図示)が形成されている。また、FPC16の外側の面において、保持板19よりも上方に位置する部分には2個のドライバIC17が実装されている。
【0034】
ここで、マニホールド流路M4と連通する1つのノズル15からインク滴を吐出する場合を例にとり、当該ノズル15に対応する圧電素子の動作について説明する。
【0035】
プリンタ1000が記録動作を開始する前は、個別電極12Cに駆動電位が付与されている。このとき、個別電極12Cと共通電極12Dとの電位差によって、第2圧電層12Bの個別電極12Cと共通電極12Dとに挟まれた活性部12Eに、上下方向下向きの電界が作用する。このとき、活性部12Eの分極方向(上下方向下向き)と電界の方向が一致し、活性部12Eは、第2圧電層12Bの厚み方向(上下方向)に伸び、第2圧電層12Bの面方向に収縮する。活性部12Eの収縮変形に伴い、第1圧電層12A及びインク封止膜11Aの圧力室13と上下方向に重なる部分が、圧力室13に向かって(下向きに)凸となるように変形する。このとき圧力室13は、第1圧電層12A及びインク封止膜11Aがフラットな場合と比べ、容積が小さくなっている。
【0036】
プリンタ1000が記録動作を開始し、当該ノズル15からインクを吐出させる際には、先ず、当該ノズル15に対応する個別電極12Cの電位が駆動電位からグランド電位に切り替えられる。このとき、個別電極12Cと共通電極12Dとの電位差が小さくなることで、活性部12Eの収縮が解消する。これにより、第1圧電層12A及びインク封止膜11Aにおける圧力室13と上下方向に重なる部分がフラットな状態となる。これにより、圧力室13の容積が大きくなり、マニホールド流路M4から圧力室13内にインクが引き込まれる。
【0037】
その後、当該ノズル15に対応する個別電極12Cの電位がグランド電位から駆動電位に切り替えられる。このとき、個別電極12Cと共通電極12Dとの電位差によって、活性部12Eにその分極方向に等しい下向きの電界が生じ、活性部12Eが第2圧電層12Bの面方向に収縮する。これにより、第1圧電層12A及びインク封止膜11Aにおける圧力室13と上下方向に重なる部分が、圧力室13に向かって(下向きに)凸となるように変形する。このとき、圧力室13の容積が大きく減少することにより、圧力室13内のインクに大きな圧力が付与され、圧力室13に引き込まれたインクが当該ノズル15からインク滴として吐出される。
【0038】
[フレーム部材18]
次に、フレーム部材18について説明する。フレーム部材18は、流路部材11の上面に接合される枠状部材であり、1枚の板状部材から中央部分を切り抜くことにより形成されている。図7に示すように、フレーム部材18は、媒体幅方向に互いに対向する辺18A、18Bと、搬送方向に互いに対向する辺18C、18Dとを有する。辺18A、18Bはそれぞれ、搬送方向に沿って延びている。辺18Cは、辺18Aの搬送方向上流の端部から辺18Bの搬送方向上流の端部まで、媒体幅方向に沿って延びている。辺18Dは、辺18Aの搬送方向下流の端部から辺18Bの搬送方向下流の端部まで、媒体幅方向に沿って延びている。図3及び図7に示すように、フレーム部材18の外縁のサイズは、流路部材11の外縁のサイズと略同じである。一方、フレーム部材18の内縁のサイズは、アクチュエータ部材12の外縁のサイズよりも一回り大きい。そして、フレーム部材18が流路部材11の上面に接合された状態では、アクチュエータ部材12の全体が、フレーム部材18の内縁よりも内側に位置する。図7に示すように、フレーム部材18の辺18A、18Bにはそれぞれ、流路部材11のインク流通口IPに対応する4個の貫通孔THが形成されている。各貫通孔THはフレーム部材18を上下方向に貫通しており、対応する流路部材11のインク流通口IPと上下方向に重なっている。つまり、各貫通孔THは、対応する流路部材11のインク流通口IPと連通している。フレーム部材18の辺18A及び18Bは、本発明の「第2辺」及び「第3辺」の一例である。また、辺18Aに形成された貫通孔THの1つは本発明の「第1接続口」の一例であり、辺18Bに形成された貫通孔THの1つは本発明の「第2接続口」の一例である。
【0039】
[インク供給器20]
インク供給器20は、サブタンク700から供給されたインクをヘッドチップ10に供給するためのインク供給流路、及び、ヘッドチップ10からインクを回収してサブタンク700に戻すためのインク回収流路が形成された部材である。上記のとおり、サブタンク700から供給されるインクはヒータによって加熱されており、インク供給器20は、加熱されたインクをヘッドチップ10に供給する。図3に示すように、インク供給器20は本体部21と2個の突出部22、23とを備える。本体部21は、媒体幅方向及び上下方向に長い概ね直方体形状の外形を有する。2個の突出部22、23もそれぞれ、概ね直方体形状の外形を有している。突出部22は、本体部21の下端部且つ媒体幅方向の一端部に位置しており、突出部23は、本体部21の下端部且つ媒体幅方向の他端部に位置している。上方から見たとき、突出部22、23はいずれも、本体部21から、搬送方向の上流及び下流に向かって突出している。
【0040】
図3及び図8に示すように、本体部21の上壁21aには、供給口CP1と回収口CP2とが形成されている。供給口CP1及び回収口CP2はいずれも、略矩形状である。供給口CP1及び回収口CP2は、それぞれの長辺が搬送方向に対して同じ角度で傾斜するように、媒体幅方向に並んでいる。供給口CP1は、インク供給管(不図示)を介してサブタンク700と連通しており、回収口CP2は、インク回収管(不図示)を介してサブタンク700と連通している。供給口CP1は本発明の「インク供給流路の上流端」の一例である。
【0041】
図8及び図10に示すように、突出部22の底壁22aには、搬送方向に並ぶ4個の流通口CP3~CP6が形成されている。流通口CP3~CP6はそれぞれ、フレーム部材18の辺18Aに形成された4個の貫通孔THに対応している。同様に、突出部23の底壁23aには、搬送方向に並ぶ4個の流通口CP7~CP10が形成されている。流通口CP7~CP10はそれぞれ、フレーム部材18の辺18Bに形成された4個の貫通孔THに対応している。突出部22の底壁22aはフレーム部材18の辺18Aに接合されており、流通口CP3~CP6はそれぞれ、辺18Aに形成された4個の貫通孔THと連通している。同様に、突出部23の底壁23aはフレーム部材18の辺18Bに接合されており、流通口CP7~CP10はそれぞれ、辺18Bに形成された4個の貫通孔THと連通している。
【0042】
そして、図6に示すように、インク供給器20の内部には、供給口CP1を4個の流通口CP3、CP5、CP8、CP10に連通させるインク供給流路SCと、4個の流通口CP4、CP6、CP7、CP9をそれぞれ回収口CP2に連通させるインク回収流路RCとが形成されている。なお、図6においては、インク供給流路SCを破線で示し、インク回収流路RCを一点鎖線で示している。
【0043】
供給口CP1に供給されたインクは、インク供給流路SCを介して4個の流通口CP3、CP5、CP8、CP10に到達し、それぞれの流通口と連通する、フレーム部材18の4個の貫通孔TH及び流路部材11の4個のインク流通口(流入口)IPを介して、4本のマニホールド流路M4、M2、M3、M1に流れ込む。マニホールド流路M4、M2に流れ込んだインクは、マニホールド流路M4、M2を媒体幅方向に沿って左に進み、インク流通口(排出口)IPに到達する。一方、マニホールド流路M3、M1に流れ込んだインクは、マニホールド流路M3、M1を媒体幅方向に沿って右に進み、インク流通口(排出口)IPに到達する。4個のインク流通口(排出口)に到達したインクは、それぞれのインク流通口(排出口)IPと連通するフレーム部材18の4個の貫通孔THを介して、インク供給器20の4個の流通口CP7、CP9、CP4、CP6に流れ込む。そして、4個の流通口CP7、CP9、CP4、CP6に流れ込んだインクは、インク回収流路RC及び回収口CP2を介して、サブタンク700に回収される。
【0044】
[冷却器30]
図3に示すように、冷却器30は本体31と連結部32とを備える。本体31は、フレーム部材18の上方に位置し、且つ、媒体幅方向においてインク供給器20の2個の突出部22、23の間に位置する。連結部32は、2本の連結管32a、32bを備える。
【0045】
図7に示すように、本体31は平面視矩形状の部材であり、搬送方向上流の端部に、上方に突出した突出部31aを有している。突出部31aの上面には、円形の開口OP1、OP2が形成されている。開口OP1、OP2はサイズ(径)が同じであり、媒体幅方向に並んでいる。そして、本体31には、5本の流路CC1~CC5により、開口OP1から開口OP2に至る循環流路が形成されている。なお、図7において、流路CC1~CC5はいずれも、破線で示されている。流路CC1は開口OP1から下方に延びている。流路CC2は流路CC1の下端から搬送方向に沿って、搬送方向の下流に向かって延びている。流路CC3は流路CC2の搬送方向の下流端から媒体幅方向に沿って右に延びている。流路CC4は流路CC3の右端から搬送方向に沿って、搬送方向の上流に向かって延びている。そして、流路CC5は流路CC4の搬送方向の上流端から開口OP2まで上方に延びている。
【0046】
図3に示すように、連結部32の連結管32a、32bはいずれも、上下方向に直線状に延びる管である。連結管32aのサイズ及び形状は、連結管32bのサイズ及び形状と同じである。そして、連結管32a、32bの上下方向と直交する断面の形状は円形である。連結管32aの上端32a1は冷却機構800の冷媒供給管に接続されており、連結管32aの下端32a2は本体31の開口OP1に接続されている。連結管32bの上端32b1は冷却機構800の冷媒回収管に接続されており、連結管32aの下端32b2は本体31の開口OP2に接続されている。連結管32aの上端32a1は本発明の「冷却水流路の上流端」の一例であり、連結管32bの上端32b1は本発明の「冷却水流路の下流端」の一例である。また、連結管32a、32b、及び本体31の流路CC1~CC5は、本発明の「冷却水流路」の一例である。
【0047】
冷却水は、冷却機構800の冷媒タンクから冷媒供給管を介して、冷却器30の連結管32aに供給される。そして、連結管32aを下方に向かって流れた冷却水は、開口OP1から本体31に供給される。本体31に供給された冷却水は、開口OP1から開口OP2まで、本体31内に形成された流路CC1、CC2、CC3、CC4、CC5の順に流れる。その後、冷却水は開口OP2から連結管32bに流れ込み、連結管32bを上方に向かって流れる。そして連結管32bを流れた冷却水は、冷却機構800の冷媒回収管を介して冷媒タンクに回収される。
【0048】
図8及び図9に示すように、本体31の搬送方向の両端部は、フレーム部材18の辺18C、18Dに接触している。具体的には、本体31の搬送方向の両端部は、フレーム部材18の辺18C、18Dに固定されている。このため、圧電素子の駆動によって発生した熱を、フレーム部材18を介して吸収することができる。一方で、冷却器30は、フレーム部材18のうち、インクが流通する貫通孔THが形成されている辺18A、18Bとは接触していない。このため、フレーム部材18の貫通孔THを流れるインクの熱がフレーム部材18を介して冷却器30に伝わり、インクの温度が低下するのを防ぐことができる。
【0049】
そして、図9及び図10に示すように、本体31の下面には、2個のドライバIC17とそれぞれ熱的に接触する接触部31bが含まれている。つまり、冷却器30は、2個のドライバIC17と熱的に接触している。なお、「熱的に接触する」とは、直接接触することだけでなく、伝熱可能な部材を介して接触することも含む。2つの部材の間に空間がある場合、つまり接触していない場合や、2つの部材の間に別の部材が位置し、当該別の部材が2つの部材の双方に接触していない場合は、「熱的に接触する」には含まれない。そして、2個の接触部31bの上方にはそれぞれ、流路CC2、CC4が搬送方向に沿って延びている。つまり、流路CC2、CC4は、2個のドライバIC17の上方に位置する。このため、2個のドライバIC17から発生した熱を、流路CC2、CC4を流れる冷却水に効率良く吸収させることができる。そして、流路CC2、CC4のさらに上方には、インク供給器20の本体部21が位置する。つまり、流路CC2、CC4は、インク供給器20の本体部21と上下方向に重なっており、2個のドライバIC17とインク供給器20の本体部21とは、流路CC2、CC4を間に挟んで上下方向に離れている。このため、2個のドライバIC17から発生した熱が、流路CC2、CC4を流れる冷却水に吸収され、インク供給器20の本体部21を流れるインクに伝わることを防ぐことができる。
【0050】
また、図8に示すように、ヘッドモジュール1を上から見たとき、インク供給器20と冷却器30とは部分的に重なっている。このため、インク供給器20と冷却器30とが上下方向に重なっていない場合と比べて、ヘッドモジュール1の搬送方向及び媒体幅方向のサイズを小さくすることができる。また、インク供給器20と冷却器30とが、フレーム部材18の外縁を超えないように位置しているため、ヘッドモジュール1の搬送方向及び媒体幅方向のサイズが、フレーム部材18の外縁よりも大きくなることがない。さらに、インク供給器20の供給口CP1及び回収口CP2と、連結管32aの上端32a1及び連結管32bの上端32b1とは、フレーム部材18の外縁よりも内側に位置しており、且つ、上に向かって開口している。このため、インク供給器20の供給口CP1及び回収口CP2をそれぞれインク供給管及びインク回収管と接続し、冷却器30の連結管32a及び連結管32bをそれぞれ冷媒供給管及び冷媒回収管と接続した状態において、それぞれの接続部分がフレーム部材18の外縁よりも内側に位置する。このため、ヘッドモジュール1の搬送方向及び媒体幅方向のサイズの小型化に寄与することができる。そして、各ヘッドモジュール1の搬送方向及び媒体幅方向のサイズを小型化することにより、複数のヘッドモジュール1を保持部材HMに千鳥状に位置させる際の制約を少なくすることができる。
【0051】
そして、図9及び図10に示すように、冷却器30の本体31の上面と、インク供給器20の本体部21の下面との間には、隙間CLが形成されている。換言すると、冷却器30の本体31の上面と、インク供給器20の本体部21の下面との間には、空気が介在している。これにより、冷却器30とインク供給器20とは、熱的に隔離されている。つまり、インク供給器20の本体部21を流れる加熱されたインクの熱が冷却器30の本体31に伝わることがないように、冷却器30の本体31の上面と、インク供給器20の本体部21の下面とは、上下方向に数mm程度隔離されている。なお、隙間CLの上下方向の幅は、ヘッドモジュール1の小型化の観点から1cm未満であることが好ましい。冷却器30とインク供給器20とが熱的に隔離されていることにより、インク供給器20の本体部21を流れるインクの温度の低下を防ぎ、インクの温度を精度よく制御することができる。この結果、ヘッドモジュール1の複数のノズル15から吐出されるインク滴の体積を均一化し、媒体PMに印刷される画像の濃度ムラを抑制することができる。
【0052】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能である。
【0053】
上記実施形態において、インクはヘッドモジュール1からサブタンク700に回収されていたが、回収されなくてもよい。この場合、ヘッドモジュール1が備えていたインクを回収するための各種流路は不要となる。
【0054】
上記実施形態では、冷媒として冷却水を用いているが、水以外の冷却液を用いてもよく、冷却した空気を冷媒として用いてもよい。
【0055】
上記実施形態では、冷却器30の本体31の上面とインク供給器20の本体部21の下面との間の隙間CLには空気が介在していたが、これには限られない。隙間CLには、例えばゴムのような固体の断熱部材が充填されてもよい。或いは、例えばクリプトンガスやアルゴンガスのような不活性ガスを密閉した断熱部材が、隙間CLに充填されてもよい。
【0056】
上記実施形態におけるプリンタ1000は、ラインタイプのヘッドユニット100を備える、いわゆるライン方式のプリンタであったが、これには限られない。例えば、ヘッドモジュール1をキャリッジとともに走査方向に移動させつつ、ノズル15から媒体PMにインクを吐出させる、いわゆるシリアル方式のプリンタに、本発明を適用してもよい。
【0057】
ノズル15から吐出される液体は、インクに限定されず、インク以外の液体(例えば、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液等)であってもよい。
【0058】
媒体PMは、紙に限定されず、例えば、布、樹脂部材等であってもよい。
【0059】
上記実施形態及びその変形例は、全ての点で例示であって、限定的なものではないと考えられるべきである。例えば、ヘッドユニット100の数、構成等は変更し得る。プリンタ1000が同時に印刷可能な色の数も限定はされず、単色印刷のみが可能な構成であってもよい。また、各種流路の数、形状、位置等も適宜変更し得る。
【符号の説明】
【0060】
1 ヘッドモジュール
10 ヘッドチップ
11 流路部材
12 アクチュエータ部材
17 ドライバIC
18 フレーム部材
20 インク供給器
30 冷却器
100 ヘッドユニット
1000 プリンタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10