(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013993
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】分離装置
(51)【国際特許分類】
B03B 5/00 20060101AFI20240125BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240125BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B03B5/00 Z
C12M1/00 A
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116505
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】浦川 哲
【テーマコード(参考)】
4B029
4D071
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB01
4B029CC01
4B029DG08
4B029GB05
4B029HA05
4D071AA90
4D071AB42
4D071AB62
(57)【要約】
【課題】流路の寸法が設定値からずれた場合であっても、所定の粒径の粒子を分離することが可能な分離装置を提供する。
【解決手段】分離装置100は、主流路11と、複数の副流路13と、制御液流路21と、下流側合流部23と、共通流路25とを備える。主流路11には、粒子を含有する試料液L1が流れる。複数の副流路13は、主流路11から分岐する。制御液流路21は、主流路11のうち副流路13よりも下流側の部分に合流し、制御液L3が流れる。下流側合流部23では、主流路11と制御液流路21とが合流する。共通流路25は、下流側合流部23に接続される。共通流路25には、少なくとも、所定の粒径よりも大きい粒子と制御液L3とが流れる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を含有する試料液が流れる主流路と、
前記主流路から分岐する複数の副流路と、
前記主流路のうち前記副流路よりも下流側の部分に合流し、制御液が流れる制御液流路と、
前記主流路と前記制御液流路とが合流する第1合流部と、
前記第1合流部に接続される共通流路と
を備え、
前記共通流路には、少なくとも、所定の粒径よりも大きい前記粒子と前記制御液とが流れる、分離装置。
【請求項2】
前記制御液流路を流れる前記制御液の量を調整可能な制御液調整部をさらに備える、請求項1に記載の分離装置。
【請求項3】
前記主流路に前記試料液を流す試料液送液部をさらに備え、
前記制御液調整部と前記試料液送液部とは、互いに独立して駆動する、請求項2に記載の分離装置。
【請求項4】
前記試料液が流れる試料液供給流路と、
前記粒子を前記共通流路に輸送する輸送液が流れる輸送液供給流路と、
前記試料液供給流路と前記輸送液供給流路とが合流する第2合流部と、
前記輸送液供給流路に前記輸送液を流す輸送液送液部と
をさらに備え、
前記輸送液送液部と前記制御液調整部とは、互いに独立して駆動する、請求項2または請求項3に記載の分離装置。
【請求項5】
前記制御液と前記輸送液とは、同じ成分である、請求項4に記載の分離装置。
【請求項6】
前記共通流路の幅は、前記主流路の幅と前記制御液流路の幅との和よりも大きい、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液から特定の細胞を分離する分離装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、主流路と、主流路から分岐する複数の分岐流路とを備えた流路チップが記載されている。流路チップは、主流路の一端に連結する2つの入口流路と、主流路の他端に連結する出口流路とをさらに備える。
【0003】
一方の入口流路には、サンプル液としての血液が流される。他方の入口流路には、バッファ液が流される。これにより、主流路の一端には、血液とバッファ液とが流入する。そして、血液中に存在するがん細胞は、主流路の他端に到達し、出口流路を流れる。その一方、がん細胞以外の血液成分は、複数の分岐流路に流れる。このようにして、血液からがん細胞が分離される。なお、バッファ液の一部は、複数の分岐流路に流れ、バッファ液の残りは、主流路の他端に到達して出口流路を流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の流路チップでは、例えば、各流路の断面寸法が設定値に比べて1μm以下だけでも大きくまたは小さく形成されると、各部の流路抵抗が設定値に比べて数10%以上、小さくまたは大きくなってしまう。この場合、がん細胞が分岐流路に流れたり、がん細胞よりも小さい粒子または血液の液体成分が出口流路に流れたりすることがある。つまり、血液からがん細胞を分離することができない場合がある、という問題点がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、流路の寸法が設定値からずれた場合であっても、所定の粒径の粒子を分離することが可能な分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面による分離装置は、主流路と、複数の副流路と、制御液流路と、第1合流部と、共通流路とを備える。前記主流路には、粒子を含有する試料液が流れる。前記複数の副流路は、前記主流路から分岐する。前記制御液流路は、前記主流路のうち前記副流路よりも下流側の部分に合流する。前記制御液流路には、制御液が流れる。前記第1合流部では、前記主流路と前記制御液流路とが合流する。前記共通流路は、前記第1合流部からに接続される。前記共通流路には、少なくとも、所定の粒径よりも大きい前記粒子と前記制御液とが流れる。
【0008】
本発明の一態様において、前記制御液流路を流れる前記制御液の量を調整可能な制御液調整部をさらに備えてもよい。
【0009】
本発明の一態様において、前記主流路に前記試料液を流す試料液送液部をさらに備えてもよい。前記制御液調整部と前記試料液送液部とは、互いに独立して駆動してもよい。
【0010】
本発明の一態様において、試料液供給流路と、輸送液供給流路と、第2合流部と、輸送液送液部とをさらに備えてもよい。前記試料液供給流路には、前記試料液が流れてもよい。前記輸送液供給流路には、前記粒子を前記共通流路に輸送する輸送液が流れてもよい。前記第2合流部では、前記試料液供給流路と前記輸送液供給流路とが合流してもよい。前記輸送液送液部は、前記輸送液供給流路に前記輸送液を流してもよい。前記輸送液送液部と前記制御液調整部とは、互いに独立して駆動してもよい。
【0011】
本発明の一態様において、前記制御液と前記輸送液とは、同じ成分であってもよい。
【0012】
本発明の一態様において、前記共通流路の幅は、前記主流路の幅と前記制御液流路の幅との和よりも大きくてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、流路の寸法が設定値からずれた場合であっても、所定の粒径の粒子を分離することが可能な分離装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態による分離装置の構造を模式的に示す平面図である。
【
図2】分離装置の上流側合流部周辺の構造を模式的に示す平面図である。
【
図3】HDFの動作原理を説明するための模式図である。
【
図4】主流路、副流路および共通流路における、試料液および輸送液に作用する流路抵抗を説明するための概念図である。
【
図5】制御液の供給量と共通流路を流れる輸送液の量との関係を説明するための模式図である。
【
図6】制御液の供給量と共通流路を流れる輸送液の量との関係を説明するための模式図である。
【
図7】本発明の変形例による分離装置の構造を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一または相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0016】
図1~
図6を参照して、本発明の一実施形態による分離装置100を説明する。
図1は、本発明の一実施形態による分離装置100の構造を模式的に示す平面図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の分離装置100は、HDF(Hydrodynamic filtration)チップ1を備える。HDFチップ1は、流体力学的フィルタとしての機能を有する。例えば、HDFチップ1は、微粒子の分離・濃縮を目的としたマイクロ流路チップである。また、例えば、HDFチップ1は、透明基板等によって構成される。
【0018】
HDFチップ1は、主流路11と、複数の副流路13と、試料液供給流路15と、輸送液供給流路17と、上流側合流部19と、制御液流路21と、下流側合流部23と、共通流路25とを備える。主流路11、複数の副流路13、試料液供給流路15、輸送液供給流路17、上流側合流部19、制御液流路21、下流側合流部23および共通流路25は、例えば、透明基板上に配置された樹脂層等によって形成される。なお、上流側合流部19は、本発明の「第2合流部」である。また、下流側合流部23は、本発明の「第1合流部」の一例である。
【0019】
主流路11は、例えば、所定方向に向かって一直線状に延びる。主流路11には、試料液L1が流れる。本実施形態では、主流路11には、試料液L1および輸送液L2が流れる。試料液L1は、微粒子を含有した液である。試料液L1は、特に限定されるものではないが、例えば、血液である。輸送液L2は、例えば、微粒子を含有しない液である。輸送液L2は、特に限定されるものではないが、例えば、液状の培地である。
【0020】
複数の副流路13は、主流路11から分岐する。具体的には、複数の副流路13は、例えば、主流路11の延びる方向に沿って略等ピッチで配置される。複数の副流路13は、例えば、同じ長さを有する。複数の副流路13は、主流路11に対して交差する方向に延びる。本実施形態では、複数の副流路13は、主流路11に対して直交する方向に延びる。
【0021】
また、複数の副流路13は、主流路11の上流側から下流側に向かって流路抵抗が徐々に小さくなるように形成される。具体的には、本実施形態では、各副流路13の基端側(主流路11に近い側)の部分は、第1の幅に形成される。一方、各副流路13の末端側(主流路11から遠い側)の部分は、第1の幅よりも大きい第2の幅に形成される。そして、下流側合流部23に近い副流路13ほど、第1の幅から第2の幅に変化する位置は、基端側に配置される。第1の幅は、特に限定されるものではないが、例えば、10μmから数10μm程度である。第2の幅は、特に限定されるものではないが、例えば、数10μmから100μm程度である。なお、全ての副流路13が同じ一定の幅に形成されてもよい。この場合、例えば、下流側合流部23に近い副流路13ほど、短く形成されてもよい。
【0022】
主流路11および複数の副流路13によって、HDF2が構成される。具体的には、複数の副流路13には、主流路11を流れる液の一部が流れ込む。また、複数の副流路13には、主流路11を流れる液に含有される粒子の一部が流れ込む。粒子が複数の副流路13に流れ込むか否かは、例えば、粒径に起因する。粒径の小さな粒子ほど副流路13に流れ込みやすく、粒径の大きな粒子ほど副流路13に流れ込みにくい。例えば、試料液L1として血液を用いる場合、血液の液体成分である血漿(プラズマともいう)と赤血球および血小板とを副流路13に流し、血液に含有されるがん細胞および白血球を副流路13に流さないようにすることが可能である。つまり、血液からがん細胞および白血球等の粒径の大きな粒子を分離することが可能である。なお、HDF2の動作原理については、後述する。
【0023】
図2は、分離装置100の上流側合流部19周辺の構造を模式的に示す平面図である。
図2に示すように、試料液供給流路15には、試料液L1が流れる。試料液供給流路15は、試料液L1を主流路11に供給するための流路である。なお、本実施形態では、試料液供給流路15は、主流路11に対して傾斜しているが、本発明はこれに限らない。例えば、試料液供給流路15は、主流路11に対して平行であってもよいし、主流路11に対して垂直であってもよい。
【0024】
輸送液供給流路17には、輸送液L2が流れる。輸送液供給流路17は、輸送液L2を主流路11に供給するための流路である。輸送液L2は、例えば、所定の粒径よりも大きい粒子を共通流路25に輸送するための液である。言い換えると、輸送液L2は、副流路13に流れ込まない粒子を、共通流路25に輸送するための液である。なお、本実施形態では、輸送液供給流路17は、主流路11に対して傾斜しているが、本発明はこれに限らない。例えば、輸送液供給流路17は、主流路11に対して平行であってもよいし、主流路11に対して垂直であってもよい。
【0025】
また、試料液供給流路15は、試料液L1が主流路11のうち副流路13側の部分を流れるように配置される。一方、輸送液供給流路17は、輸送液L2が主流路11のうち副流路13とは反対側の部分を流れるように配置される。本実施形態では、試料液供給流路15は、主流路11の内壁のうち副流路13側の内壁11aに繋がる。一方、輸送液供給流路17は、主流路11の内壁のうち副流路13とは反対側の内壁11bに繋がる。
【0026】
上流側合流部19では、試料液供給流路15と輸送液供給流路17とが合流する。上流側合流部19は、主流路11の上流端に配置される。従って、試料液供給流路15を通過した試料液L1と輸送液供給流路17を通過した輸送液L2とは、上流側合流部19で合流し、主流路11を流れる。
【0027】
図1に示すように、制御液流路21は、主流路11のうち副流路13よりも下流側の部分に合流する。本実施形態では、制御液流路21は、主流路11の下流端に合流する。制御液流路21には、制御液L3が流れる。制御液流路21は、制御液L3を共通流路25に供給するための流路である。制御液L3は、例えば、微粒子を含有しない液である。制御液L3は、特に限定されるものではないが、例えば、輸送液L2と同じ成分である。例えば、制御液L3の液体成分は、輸送液L2の液体成分と同じである。また、例えば、制御液L3の導電率は、輸送液L2の導電率と同じである。
【0028】
ここで、制御液流路21に流す制御液L3の量を調整することによって、主流路11から複数の副流路13に流れ込む粒子の粒径を制御することが可能である。言い換えると、制御液流路21に流す制御液L3の量を調整することによって、分離する粒子の粒径を制御することが可能である。なお、本実施形態では、制御液流路21は、主流路11に対して垂直であるが、本発明はこれに限らない。例えば、制御液流路21は、主流路11に対して平行であってもよいし、主流路11に対して傾斜していてもよい。なお、制御液流路21によって、分離する粒子の粒径を制御する方法については、後述する。
【0029】
下流側合流部23では、主流路11と制御液流路21とが合流する。下流側合流部23は、主流路11の下流端に配置される。
【0030】
共通流路25は、下流側合流部23に接続される。従って、主流路11を通過した液と制御液流路21を通過した制御液L3とは、下流側合流部23で合流し、共通流路25を流れる。共通流路25には、少なくとも、試料液L1に含有される所定の粒径よりも大きい粒子と制御液L3とが流れる。本実施形態では、所定の粒径よりも大きい粒子と制御液L3と輸送液L2とが流れる。
【0031】
引き続き
図1を参照して、分離装置100およびHDFチップ1についてさらに説明する。分離装置100は、試料液送液部31と、輸送液送液部33と、制御液調整部35とをさらに備える。分離装置100は、試料液送液部31と、輸送液送液部33と、制御液調整部35とを駆動させる制御部を備えてもよい。試料液送液部31、輸送液送液部33および制御液調整部35は、特に限定されるものではないが、例えば、マイクロポンプである。マイクロポンプは、機械式ポンプであってもよいし、非機械式ポンプであってもよい。
【0032】
試料液送液部31は、試料液供給流路15に繋がっており、試料液供給流路15に試料液L1を流す。具体的には、試料液供給流路15は、試料液入口15aを有する。試料液入口15aは、試料液供給流路15の上流端に配置される。試料液送液部31は、試料液入口15aに繋がっている。試料液送液部31が試料液入口15aに試料液L1を供給することによって、試料液L1は、試料液供給流路15および主流路11を流れる。
【0033】
輸送液送液部33は、輸送液供給流路17に繋がっており、輸送液供給流路17に輸送液L2を流す。具体的には、輸送液供給流路17は、輸送液入口17aを有する。輸送液入口17aは、輸送液供給流路17の上流端に配置される。輸送液送液部33は、輸送液入口17aに繋がっている。輸送液送液部33が輸送液入口17aに輸送液L2を供給することによって、輸送液L2は、輸送液供給流路17および主流路11を流れる。
【0034】
制御液調整部35は、制御液流路21に繋がっており、制御液流路21に制御液L3を流す。具体的には、制御液流路21は、制御液入口21aを有する。制御液入口21aは、制御液流路21の上流端に配置される。制御液調整部35は、制御液入口21aに繋がっている。制御液調整部35が制御液入口21aに制御液L3を供給することによって、制御液L3は、制御液流路21および共通流路25を流れる。
【0035】
本実施形態では、試料液送液部31は、試料液L1が層流になるように試料液L1を供給する。輸送液送液部33は、輸送液L2が層流になるように輸送液L2を供給する。制御液調整部35は、制御液L3が層流になるように制御液L3を供給する。従って、本実施形態では、HDFチップ1において、各液は層流になる。なお、制御液調整部35は、制御液L3が層流にならないように制御液L3を供給してもよい。
【0036】
また、本実施形態では、制御液調整部35は、制御液流路21を流れる制御液L3の量を調整可能である。つまり、制御液調整部35は、制御液流路21に供給する制御液L3の量を調整可能である。なお、試料液送液部31は、試料液供給流路15を流れる試料液L1の量を調整可能であってもよいし、調整できなくてもよい。また、輸送液送液部33は、輸送液供給流路17を流れる輸送液L2の量を調整可能であってもよいし、調整できなくてもよい。
【0037】
また、本実施形態では、制御液調整部35と試料液送液部31とは、互いに独立して駆動する。このため、例えば、試料液L1の供給量にかかわらず、制御液L3の供給量を変化させることができる。また、輸送液送液部33と制御液調整部35とは、互いに独立して駆動する。このため、例えば、輸送液L2の供給量にかかわらず、制御液L3の供給量を変化させることができる。なお、試料液送液部31と輸送液送液部33とは、互いに独立して駆動してもよいし、独立して駆動できなくてもよい。また、試料液送液部31と輸送液送液部33とは、同一のポンプであってもよい。
【0038】
HDFチップ1は、第1出口27および第2出口29をさらに備える。第1出口27は、複数の副流路13に繋がっている。複数の副流路13を通過した液は、第1出口27を介して、図示しない第1回収部に回収される。第1回収部は、例えば、回収容器を含む。第2出口29は、共通流路25の下流端に繋がっている。共通流路25を通過した粒子、輸送液L2および制御液L3は、第2出口29を介して、図示しない第2回収部に回収される。第2回収部は、例えば、回収容器を含む。
【0039】
次に、
図3を参照して、HDF2の動作原理について説明する。
図3は、HDF2の動作原理を説明するための模式図である。
図3に示すように、試料液送液部31が試料液L1を供給し、輸送液送液部33が輸送液L2を供給すると、試料液L1および輸送液L2は、主流路11を流れる。試料液L1は、副流路13側の内壁11aに沿って流れ、輸送液L2は、副流路13とは反対側の内壁11bに沿って流れる。このとき、各種粒子の中心は、主流路11の内壁11aから粒子の半径以上離隔した位置を通過する。
【0040】
ここで、主流路11の幅方向の位置に応じて、流速が変化する。具体的には、主流路11のうち内壁11aおよび内壁11bの近傍では、流速が小さくなる。一方、主流路11のうち内壁11aおよび内壁11bから遠い位置(主流路11の幅方向中央)では、流速が最も大きくなる。
【0041】
このため、粒径が小さく内壁11aの近傍を通過する粒子は、流速が小さいので、副流路13に流れ込みやすい。その一方、粒径が大きく内壁11aから遠い位置を通過する粒子は、流速が大きいので、副流路13に流れ込まず、主流路11を直進する。つまり、試料液L1および輸送液L2の供給量が一定である等の所定条件下において、所定サイズよりも大きい粒子は、主流路11から排出されない一方、所定サイズ以下の粒子は、主流路11から排出される。主流路11から副流路13への排出は、複数の副流路13によって繰り返されるため、所定サイズ以下の粒子は、主流路11の下流端(下流側合流部23)に到達しない。なお、液体成分である血漿も、主流路11の下流端に到達しない。従って、HDFチップ1によって、例えば、血液からがん細胞および白血球等の粒径の大きな粒子を分離することが可能である。
【0042】
次に、
図4~
図6を参照して、制御液流路21を用いて、分離する粒子の粒径を制御する方法について説明する。
図4は、主流路11、副流路13および共通流路25における、試料液L1および輸送液L2に作用する流路抵抗を説明するための概念図である。
図5および
図6は、制御液L3の供給量と共通流路25を流れる輸送液L2の量との関係を説明するための模式図である。
【0043】
図4に示すように、複数の副流路13の流路抵抗を上流側から順にr1、r3、r5・・・rn-2とする。下流側合流部23と共通流路25とを合わせた流路抵抗をrnとする。ただし、nは、正の奇数である。また、副流路13同士の間における主流路11の流路抵抗を上流側から順にr2、r4、r6・・・とする。また、最下流の副流路13と下流側合流部23との間の流路抵抗をrn-1とする。
【0044】
最上流の副流路13と主流路11との分岐部P1において、副流路13への流れやすさは、流路抵抗r1と、流路抵抗r2から流路抵抗rnまでの合成抵抗との比率によって決まる。同様に、上流側から2番目の副流路13と主流路11との分岐部P2において、副流路13への流れやすさは、流路抵抗r3と、流路抵抗r4から流路抵抗rnまでの合成抵抗との比率によって決まる。それ以降も同様である。
【0045】
ここで、
図5および
図6に示すように、制御液流路21に制御液L3を流すと、主流路11から共通流路25に流れる輸送液L2の量が制限される。具体的には、制御液流路21に流す制御液L3を少なくすると、共通流路25を流れる輸送液L2の流路面積は、大きくなる(
図5参照)。その一方、制御液流路21に流す制御液L3を多くすると、共通流路25を流れる輸送液L2の流路面積は、小さくなる。このように、制御液流路21に流す制御液L3の量を変化させることによって、共通流路25を流れる輸送液L2の流路面積が変化する。言い換えると、制御液流路21に流す制御液L3の量を変化させることによって、輸送液L2に作用する流路抵抗rnが変化する。
【0046】
また、流路抵抗rnが変化すると、流路抵抗r2からrnまでの合成抵抗が変化する。従って、流路抵抗r1と、流路抵抗r2からrnまでの合成抵抗との比率が変化するため、分岐部P1における副流路13への流れやすさが変化する。同様に、流路抵抗r3と、流路抵抗r4からrnまでの合成抵抗との比率が変化するため、分岐部P2における副流路13への流れやすさが変化する。分岐部P3、P4・・・P(n-1)/2も同様である。なお、例えば、制御液流路21に流す制御液L3の量を多くすると、流路抵抗rnが大きくなる。従って、例えば、流路抵抗r2からrnまでの合成抵抗が大きくなるので、分岐部P1から副流路13に液が流れやすくなる。つまり、例えば、制御液流路21に流す制御液L3の量を多くすると、主流路11から複数の副流路13に試料液L1が流れやすくなる。
【0047】
以上、
図1~
図6を参照して説明したように、分離装置100は、主流路11のうち副流路13よりも下流側の部分に合流し、制御液L3が流れる制御液流路21を備える。従って、制御液流路21に流す制御液L3の量を変化させることによって、各分岐部P1・・・における副流路13への流れやすさが変化する。よって、例えば、製造ばらつきによってHDFチップ1の各位置における流路の幅および深さ等の寸法が、設定値からずれた場合であっても、制御液流路21に流す制御液L3の量を調整することによって、所定の粒径よりも大きい粒子(例えば、がん細胞、白血球)が副流路13に流れたり、所定の粒径以下の粒子(例えば、赤血球、血小板)が主流路11を通過して共通流路25に流れたりすることを抑制できる。よって、流路の寸法が設定値からずれた場合であっても、所定の粒径の粒子を分離することができる。
【0048】
また、上記のように、分離装置100は、制御液流路21を流れる制御液L3の量を調整可能な制御液調整部35を備える。従って、制御液流路21に流す制御液L3の量を容易に変化させることができる。よって、所定の粒径よりも大きい粒子が副流路13に流れたり、所定の粒径以下の粒子が共通流路25に流れたりすることを容易に抑制できる。
【0049】
また、上記のように、制御液調整部35と試料液送液部31とは、互いに独立して駆動する。従って、試料液L1の供給量を例えば一定に維持しながら、制御液L3の供給量を変化させることができる。よって、制御液L3の供給量に連動して試料液L1の供給量が連動する場合と異なり、副流路13に流れる粒子の粒径、および、共通流路25に流れる粒子の粒径を、容易に調整できる。
【0050】
また、上記のように、輸送液送液部33と制御液調整部35とは、互いに独立して駆動する。従って、輸送液L2の供給量を例えば一定に維持しながら、制御液L3の供給量を変化させることができる。よって、制御液L3の供給量に連動して輸送液L2の供給量が連動する場合と異なり、副流路13に流れる粒子の粒径、および、共通流路25に流れる粒子の粒径を、容易に調整できる。
【0051】
また、上記のように、制御液L3と輸送液L2とは、同じ成分である。従って、制御液L3の供給量に起因して、第2出口29で回収される液の液体成分が変化することを抑制できる。
【0052】
次に、
図7を参照して、本発明の変形例による分離装置100aを説明する。
図7は、本発明の変形例による分離装置100aの構造を概略的に示す平面図である。
【0053】
図7に示すように、本発明の変形例による分離装置100aでは、HDFチップ1aは、主流路11と、制御液流路21bと、下流側合流部23aと、共通流路25aと、第1回収路51と、第2回収路53とを備える。なお、下流側合流部23aは、本発明の「第1合流部」の一例である。また、HDFチップ1aは、HDFチップ1と同様、複数の副流路13、試料液供給流路15、輸送液供給流路17、および、上流側合流部19を備える。
【0054】
主流路11および制御液流路21bは、例えば、平行に配置される。下流側合流部23aでは、主流路11と制御液流路21bとが合流する。下流側合流部23aの幅は、主流路11の幅と制御液流路21bの幅との和よりも大きい。共通流路25aの幅は、主流路11の幅と制御液流路21bの幅との和よりも大きい。共通流路25aの幅は、下流側合流部23aの幅と同じ大きさである。また、主流路11の深さ、制御液流路21bの深さ、下流側合流部23aの深さ、および、共通流路25aの深さは、略等しい。このため、下流側合流部23aの断面積は、主流路11の断面積と制御液流路21bの断面積との和よりも大きい。また、共通流路25aの断面積は、主流路11の断面積と制御液流路21bの断面積との和よりも大きい。
【0055】
このように、共通流路25aの幅を、主流路11の幅と制御液流路21bの幅との和よりも大きくすることによって、共通流路25aを流れる液の流速を低くできる。よって、後述する誘電泳動による粒子の分離を容易に行うことができる。
【0056】
第1回収路51および第2回収路53は、共通流路25aの下流端に接続される。つまり、共通流路25aは、第1回収路51および第2回収路53に分岐される。
【0057】
HDFチップ1aでは、第2出口29は、第2出口29aおよび第2出口29bを含む。第2出口29aは、第1回収路51の下流端に繋がっており、第2出口29bは、第2回収路53の下流端に繋がっている。
【0058】
ここで、HDFチップ1aは、誘電泳動(DEP:Dielectrophoresis)によって、共通流路25aを流れる粒子をさらに分離することが可能である。具体的には、HDFチップ1aは、共通流路25aに対して重なるように配置される電極55および電極57をさらに備える。電極55および電極57は、互いに対向する櫛歯状の電極である。電極55は、例えば、交流電源61に接続される。電極57は、例えば、接地される。この変形例では、分離装置100aは、交流電源61を備える。なお、分離装置100aは、交流電源61を備えなくてもよい。
【0059】
電極55および電極57の歯部は、共通流路25aに対して例えば10°以上60°以下傾斜する。交流電源61により電極55と電極57との間に交流電圧を印加することによって、誘電泳動を生じさせることが可能である。そして、印加する交流電圧の周波数を調整することによって、共通流路25aを通過する複数種類の粒子から所望の粒子を分離回収することが可能である。
【0060】
具体的には、共通流路25aを通過する複数種類の粒子が誘電体粒子を含む場合、DEPによって複数種類の粒子から特定の誘電体粒子を分離することが可能である。例えば、がん細胞および白血球は、誘電体粒子である。共通流路25aを通過する複数種類の粒子が、がん細胞と、がん細胞以外の所定サイズよりも大きい粒子(白血球等)とを含む場合、例えば、がん細胞に誘電泳動力が作用しやすくなるように、特定の周波数の交流電圧を電極55と電極57との間に印加する。これにより、がん細胞を電極55および電極57に沿って移動させることが可能であるため、がん細胞のみを誘電泳動により第2出口29aに誘導することが可能である。よって、がん細胞と、その他の粒子(白血球等)とを分離することが可能である。
【0061】
本発明の変形例による分離装置100a、HDFチップ1a、制御液流路21b、下流側合流部23aおよび共通流路25aのその他の構造は、上記実施形態の分離装置100、HDFチップ1、制御液流路21、下流側合流部23および共通流路25と同様である。また、本発明の変形例のその他の効果は、上記実施形態の効果と同様である。
【0062】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明した。ただし、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。また、上記の実施形態に開示される複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明の形成が可能である。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚み、長さ、個数、間隔等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素の材質、形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0063】
例えば、上記の実施形態では、試料液L1として血液を用い、輸送液L2として液状の培地を用いる例について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、試料液L1として血液以外の液を用い、輸送液L2として培地以外の液を用いてもよい。
【0064】
また、上記の実施形態では、目的の回収物として、第2出口29から回収される粒子(例えば、がん細胞および白血球)を例に挙げたが、本発明はこれに限らない。例えば、第1出口27から回収される粒子または液体成分を目的の回収物としてもよい。
【0065】
また、上記の変形例では、第2出口29aから目的の粒子(例えば、がん細胞)を回収する例について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、第2出口29bから目的の粒子を回収してもよい。
【0066】
また、上記の実施形態では、輸送液L2および制御液L3が粒子を含有しない例について説明したが、本発明はこれに限らない。輸送液L2および制御液L3は、粒子を含有してもよい。ただし、この場合、
図7を参照して説明したような構造を設け、輸送液L2および制御液L3が含有する粒子と、試料液L1が含有していた粒子とを分離することが好ましい。
【0067】
また、上記の実施形態では、輸送液L2を用いる例について説明した。つまり、試料液L1に加えて輸送液L2を主流路11に流す例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限らない。例えば、試料液L1のみを主流路11に流してもよい。例えば、試料液L1として、粒子を含有する海水を用い、海水から粒子を分離してもよい。
【0068】
また、上記の実施形態では、制御液調整部35が、制御液流路21を流れる制御液L3の量を調整できる例について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、複数種類の制御液調整部35を準備しておき、そのうち適切な量の制御液L3を供給する制御液調整部35を用いて、試料液L1から粒子を分離してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、分離装置の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
11 :主流路
13 :副流路
15 :試料液供給流路
17 :輸送液供給流路
19 :上流側合流部(第2合流部)
21、21b :制御液流路
23、23a :下流側合流部(第1合流部)
25、25a :共通流路
31 :試料液送液部
33 :輸送液送液部
35 :制御液調整部
100、100a :分離装置
L1 :試料液
L2 :輸送液
L3 :制御液