(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139948
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】α-オレフィン重合用触媒の製造方法、及び、α-オレフィン系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 10/00 20060101AFI20241003BHJP
C08F 4/654 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08F10/00
C08F4/654
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050904
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】本間 優生
(72)【発明者】
【氏名】中山 浩二
【テーマコード(参考)】
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J100AA01P
4J100AA03P
4J100AA15P
4J100CA01
4J100CA03
4J100DA04
4J100DA39
4J100DA42
4J100EA05
4J100FA04
4J100FA09
4J100FA21
4J100FA28
4J100GC25
4J100JA28
4J100JA43
4J100JA58
4J128AA03
4J128AB03
4J128AC05
4J128BA01B
4J128BA03A
4J128BB01A
4J128BB01B
4J128BC15A
4J128BC34A
4J128BC34B
4J128CB35A
4J128CB44A
4J128DB03A
4J128EA01
4J128EB04
4J128EC01
4J128FA01
4J128GA05
4J128GA06
4J128GA21
4J128GB02
(57)【要約】
【課題】高活性を維持しつつ、非晶成分が少なく、分子量分布が広い重合体が得られるα-オレフィン重合用触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】下記工程1及び工程2を含む、α-オレフィン重合用触媒の製造方法。
工程1:下記の成分(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理し、固体触媒成分(A)を得る工程。
成分(a1):チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分
成分(a2):ジアルコキシシラン化合物[ただし、アルケニル基を有するシラン化合物とは異なる。]
成分(a3):アルケニル基を有するシラン化合物
成分(a4):有機アルミニウム化合物
工程2:前記固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)及びトリアルコキシシラン化合物(C)を混合し、α-オレフィン重合用触媒を調製する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1及び工程2を含む、α-オレフィン重合用触媒の製造方法。
工程1:下記の成分(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理し、固体触媒成分(A)を得る工程。
成分(a1):チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分
成分(a2):ジアルコキシシラン化合物[ただし、アルケニル基を有するシラン化合物とは異なる。]
成分(a3):アルケニル基を有するシラン化合物
成分(a4):有機アルミニウム化合物
工程2:前記固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)及びトリアルコキシシラン化合物(C)を混合し、α-オレフィン重合用触媒を調製する工程。
【請求項2】
前記工程1において、前記(a2)の使用量が、前記成分(a1)に対して0.3mmol/g~1.2mmol/gである、請求項1に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記トリアルコキシシラン化合物(C)が、下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法。
R1Si(OR2)3・・・(1)
[式(1)中、
R1は炭素数3~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または炭素数3~12のシクロアルキル基であり、
R2はそれぞれ独立に、炭素数2~4の直鎖状アルキル基、または炭素数3~4の分岐状アルキル基である。]
【請求項4】
前記トリアルコキシシラン化合物(C)の使用量が、固体触媒成分(A)中のチタン原子に対するモル比(前記トリアルコキシシラン化合物(C)のモル数/固体触媒成分(A)中のチタン原子のモル数)で、1~10000である、請求項1に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記成分(a2)が、下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法。
R3R4Si(OR5)2・・・(2)
[式(2)中、
R3及びR4はそれぞれ独立に、アルケニル基とは異なる炭素数1~12の炭化水素基であり、R3及びR4は互いに同一でも異なっていてもよく、
R5は、それぞれ独立に炭素数1~20の直鎖状アルキル基、または炭素数3~20の分岐状アルキル基である。]
【請求項6】
前記成分(a3)が、ビニルシラン化合物である、請求項1に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法から得られるα-オレフィン重合用触媒の存在下、α-オレフィンを単独重合又は共重合することを特徴とするα-オレフィン系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-オレフィン重合用触媒の製造方法、及び、当該α-オレフィン重合用触媒の製造方法を用いたα-オレフィン系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィンは、自動車部品あるいは家電製品などの成形品の他、容器やフィルム等種々の用途に利用されている。それらの用途向けのポリオレフィンを製造する方法として特許文献1では、立体規則性を維持しつつ分子量分布を広げることを目的として、固体触媒成分に外部ドナーとしてビス(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン(BPIQ)等の環状アミノ基を有するアルコキシシランを用いるα-オレフィン重合用触媒が開示されている。また、特許文献2では、固体触媒成分に特定のトリアルコキシシラン化合物1種以上とジアルコキシシラン化合物及びアミノシラン化合物を外部ドナーとして組み合わせたα-オレフィン重合用触媒が開示されている。この触媒により、広分子量分布化及び立体規則性が改善したと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-238614号公報
【特許文献2】国際公開第2020/035962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリオレフィンの成形として特に大型射出成形機で製造される場合、原料に用いるポリオレフィンポリマーの分子量分布が狭いと成形安定性が悪く、フローマーク(流れ模様)が生じ易い。また、例えば二軸延伸機などによりフィルムを製造する際には生産性向上のために高速延伸することが求められるが、原料に用いるポリオレフィンポリマーの分子量分布が狭いと溶融張力が不足してフィルムが破断し易くなるため高速延伸することはできず、かつフィルムの厚みが均一になりにくい。以上のような点から、適度な立体規則性を維持しつつ従来よりも溶融張力が高いポリオレフィン、すなわち適度な立体規則性を有する分子量分布の広いポリオレフィンを効果的に製造する方法が求められてきた。しかしながら、特許文献1のアミノアルコキシシラン化合物によるα-オレフィン重合用触媒は重合活性が低下するうえ、立体規則性の点においても未だ充分とは言い難い。特許文献2の外部ドナーとしてジアルコキシシラン化合物及びアミノシラン化合物を併用したα-オレフィン重合用触媒でも、重合活性が低下するため,改善の余地が残っている。
従来技術では、生成するα-オレフィン系重合体の分子量分布、立体規則性及び触媒活性などの諸性質は未だに充分とはいえず、諸性質の向上が望まれている。
【0005】
このような状況下、本発明の目的は、さらなる諸性能向上の要望に応えるべく、高活性を維持しつつ、非晶成分が少なく、分子量分布が広い重合体が得られる、α-オレフィン重合用触媒の製造方法及びそれを用いたα-オレフィン系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本研究者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、高活性を維持しつつ,非晶成分が少なく,分子量分布が広い重合体が得られる、α-オレフィン重合用触媒の製造方法を見出した。
すなわち、本発明には、以下の態様が含まれる。
【0007】
<1> 下記工程1及び工程2を含む、α-オレフィン重合用触媒の製造方法。
工程1:下記の成分(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理し、固体触媒成分(A)を得る工程。
成分(a1):チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分
成分(a2):ジアルコキシシラン化合物[ただし、アルケニル基を有するシラン化合物とは異なる。]
成分(a3):アルケニル基を有するシラン化合物
成分(a4):有機アルミニウム化合物
工程2:前記固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)及びトリアルコキシシラン化合物(C)を混合し、α-オレフィン重合用触媒を調製する工程。
<2> 前記工程1において、前記(a2)の使用量が、前記成分(a1)に対して0.3mmol/g~1.2mmol/gである、前記<1>に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法。
<3> 前記トリアルコキシシラン化合物(C)が、下記一般式(1)で表される化合物である、前記<1>又は<2>に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法。
R1Si(OR2)3・・・(1)
[式(1)中、
R1は炭素数3~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または炭素数3~12のシクロアルキル基であり、
R2はそれぞれ独立に、炭素数2~4の直鎖状アルキル基、または炭素数3~4の分岐状アルキル基である。]
<4> 前記トリアルコキシシラン化合物(C)の使用量が、固体触媒成分(A)中のチタン原子に対するモル比(前記トリアルコキシシラン化合物(C)のモル数/固体触媒成分(A)中のチタン原子のモル数)で、1~10000である、前記<1>~<3>のいずれか1項に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法。
<5> 前記成分(a2)が、下記一般式(2)で表される化合物である、前記<1>~<4>のいずれか1項に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法。
R3R4Si(OR5)2・・・(2)
[式(2)中、
R3及びR4はそれぞれ独立に、アルケニル基とは異なる炭素数1~12の炭化水素基であり、R3及びR4は互いに同一でも異なっていてもよく、
R5は、それぞれ独立に炭素数1~20の直鎖状アルキル基、または炭素数3~20の分岐状アルキル基である。]
<6> 前記成分(a3)が、ビニルシラン化合物である、前記<1>~<5>のいずれか1項に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法。
<7> 前記<1>~<6>のいずれか1項に記載のα-オレフィン重合用触媒の製造方法から得られるα-オレフィン重合用触媒の存在下、α-オレフィンを単独重合又は共重合することを特徴とするα-オレフィン系重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高活性を維持しつつ、非晶成分が少なく、分子量分布が広い重合体が得られる、α-オレフィン重合用触媒の製造方法及びそれを用いたα-オレフィン系重合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、GPCにおけるクロマトグラムのベースラインと区間を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、α-オレフィン重合用触媒の製造方法、及び、α-オレフィン系重合体の製造方法について、項目毎に詳細に説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0011】
I.α-オレフィン重合用触媒の製造方法
本発明のα-オレフィン重合用触媒の製造方法は、下記工程1及び工程2を含むことを特徴とする。
工程1:下記の成分(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理し、固体触媒成分(A)を得る工程。
成分(a1):チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分
成分(a2):ジアルコキシシラン化合物[ただし、アルケニル基を有するシラン化合物とは異なる。]
成分(a3):アルケニル基を有するシラン化合物
成分(a4):有機アルミニウム化合物
工程2:前記固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)及びトリアルコキシシラン化合物(C)を混合し、α-オレフィン重合用触媒を調製する工程。
【0012】
本発明においては、前記成分(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理し、固体触媒成分(A)を得て、当該固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)及びトリアルコキシシラン化合物(C)を混合し、α-オレフィン重合用触媒を調製することにより、高活性を維持しつつ、非晶成分が少なく、分子量分布が広い重合体が得られるα-オレフィン重合用触媒を製造することができる。
分子量分布が広い重合体を得るためには、水素応答性が異なる活性点を形成するドナーを使用し、重合体の分子量分布を広げることが考えられる。
重合時において、ジアルコキシシラン化合物(a2)とトリアルコキシシラン化合物(C)は、いずれも活性点となり得るチタン原子近傍に配位し、それぞれ異なる水素応答性を有する活性種を形成する。
しかしながら、後述する比較例に示したように、工程2においてジアルコキシシラン化合物(a2)とトリアルコキシシラン化合物(C)とを一括して添加すると、分子量分布が十分に広がらなかった。これはジアルコキシシラン化合物とトリアルコキシシラン化合物の触媒に対する配位力が異なるために、工程2で適切な比率に制御することが困難であるためだと考えられる。また、工程1においてジアルコキシシラン化合物(a2)とトリアルコキシシラン化合物(C)とを一括して添加すると、分子量分布が十分に広がらなかった。これは、トリアルコキシシラン化合物(C)は配位力が弱く、重合時に触媒から脱離するためと考えられる。
それに対して、本発明においては、固体触媒成分(A)を調製する際に、成分(a1)に電子供与体を含有させ、アルケニル基を有するシラン化合物(a3)とジアルコキシシラン化合物(a2)とを併用して接触させる。これにより、アルケニル基を有するシラン化合物(a3)が活性種のチタンを保護しつつ、ジアルコキシシラン化合物(a2)を成分(a1)中の電子供与体と適量置換して担持することができる。そして、その後、当該固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)及びトリアルコキシシラン化合物(C)を混合し、得られたα-オレフィン重合用触媒によりオレフィン重合を行うと、一括添加して調製した触媒よりもトリアルコキシシラン化合物(C)が重合系内に多く存在するため、脱離しても再担持されることから適切な比率に制御することができると考えられる。
本発明においては、このように、段階を踏んでジアルコキシシラン化合物(a2)とトリアルコキシシラン化合物(C)とを各々適量担持することができるため、重合時において、ジアルコキシシラン化合物(a2)とトリアルコキシシラン化合物(C)は、それぞれ異なる水素応答性を有する活性種の比率を適切することができ、分子量分布を広くすることができると考えられる。
また、成分(a1)に電子供与体を含有させ、アルケニル基を有するシラン化合物(a3)とジアルコキシシラン化合物(a2)とを併用して接触させることにより、非晶成分を生成する活性点の形成も抑制することができる。さらに、前述のようにアルケニル基を有するシラン化合物(a3)による活性点の保護作用により、高活性を維持することができると考えられる。
【0013】
1.工程1
工程1は、下記の成分(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理し、固体触媒成分(A)を得る工程である。
成分(a1):チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分
成分(a2):ジアルコキシシラン化合物[ただし、アルケニル基を有するシラン化合物とは異なる。]
成分(a3):アルケニル基を有するシラン化合物
成分(a4):有機アルミニウム化合物
【0014】
1-1.成分(a1)
本発明に係る成分(a1)は、チタン、マグネシウム、ハロゲン、電子供与体を含有する固体成分である。
【0015】
1-1-1.マグネシウム
本発明に係る固体成分(a1)に用いるマグネシウム源となるマグネシウム化合物としては、任意のものを用いることができる。その代表的な例としては、特開平3-234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。
一般的には、塩化マグネシウムに代表されるハロゲン化マグネシウム化合物類、ジエトキシマグネシウムに代表されるアルコキシマグネシウム化合物類、金属マグネシウム、酸化マグネシウムに代表されるオキシマグネシウム化合物類、水酸化マグネシウムに代表されるヒドロキシマグネシウム化合物類、ブチルマグネシウムクロライドに代表されるグリニャール化合物類、ブチルオクチルマグネシウムに代表される有機マグネシウム化合物類、炭酸マグネシウムやステアリン酸マグネシウムに代表される無機酸及び有機酸のマグネシウム塩化合物類、及びそれらの混合物や平均組成式がそれらの混合された式となる化合物(例えば、Mg(OEt)mCl2-m;0<m<2などの化合物)、などを用いることができる。
この中で特に好ましいのは、塩化マグネシウム、ジエトキシマグネシウム、金属マグネシウム、ブチルマグネシウムクロライドである。
【0016】
特に、大きな粒子を作製する場合には、触媒粒径を制御し易いジアルコキシマグネシウムを用いることが好ましい。ジアルコキシマグネシウムは、事前に製造されたものを用いるだけでなく、触媒製造工程の中で金属マグネシウムとハロゲンあるいはハロゲン含有金属化合物の存在下に、アルコールを反応させて得たものを用いることもできる。
さらに、本発明において、好適なジアルコキシマグネシウムは、顆粒状または粉末状であり、その形状は、不定形あるいは球状のものを使用し得る。例えば、球状のジアルコキシマグネシウムを使用した場合、より良好な粒子形状と狭い粒度分布を有する重合体粉末が得られ、重合操作時の生成重合体粉末の取扱い操作性が向上し、生成重合体粉末に含まれる微粉に起因する閉塞等の問題が解消される。
【0017】
上記の球状ジアルコキシマグネシウムは、必ずしも真球状である必要はなく、楕円形状あるいは馬鈴薯形状のものを用いることもできる。具体的に、その粒子の形状は、長軸径lと短軸径wとの比(l/w)が3以下であり、好ましくは1~2であり、より好ましくは1~1.5である。
また、上記ジアルコキシマグネシウムの平均粒径は、1μm~200μmのものが使用し得る。好ましくは5μm~150μmである。球状のジアルコキシマグネシウムの場合、その平均粒径は、1μm~100μm、好ましくは5μm~50μmであり、更に好ましくは10μm~40μmである。
また、その粒度については、微粉及び粗粉の少ない、粒度分布の狭いものを使用することが望ましい。具体的には、5μm以下の粒子が20%以下であり、好ましくは10%以下である。一方、100μm以上の粒子が10%以下であり、好ましくは5%以下である。
更に、その粒度分布をln(D90/D10)(ここで、D90は積算粒度で90%における粒径、D10は積算粒度で10%における粒径である。)で表すと、3以下であり 、好ましくは2以下である。
【0018】
上記の如き球状のジアルコキシマグネシウムの製造方法は、例えば、特開昭58-41832号公報、特開昭62-51633号公報、特開平3-74341号公報、特開平4-368391号公報、特開平8-73388号公報などに例示されている。
【0019】
1-1-2.チタン
本発明に係る固体成分(a1)で用いるチタン源となるチタン化合物としては、任意のものを用いることができる。代表的な例としては、特開平3-234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。
チタンの価数に関しては、4価、3価、2価、0価の任意の価数を持つチタン化合物を用いることができるが、好ましくは4価および3価のチタン化合物、更に好ましくは4価のチタン化合物を用いることが望ましい。
【0020】
4価のチタン化合物の具体例としては、四塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類、テトラブトキシチタンに代表されるアルコキシチタン化合物類、テトラブトキシチタンダイマー(BuO)3Ti-O-Ti(OBu)3に代表されるTi-O-Ti結合を有するアルコキシチタンの縮合化合物類、ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロライドに代表される有機金属チタン化合物類、などを挙げることができる。この中で、四塩化チタンとテトラブトキシチタンが特に好ましい。
【0021】
また、3価のチタン化合物の具体例としては、三塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類を挙げることができる。三塩化チタンは、水素還元型、金属アルミニウム還元型、金属チタン還元型、有機アルミニウム還元型、など、公知の任意の方法で製造された化合物を用いることができる。
上記のチタン化合物類は、単独で用いるだけではなく、複数の化合物を併用することも可能である。また、上記チタン化合物類の混合物や平均組成式がそれらの混合された式となる化合物(例えば、Ti(OBu)mCl4-m;0<m<4などの化合物)、また、フタル酸エステル等のその他の化合物との錯化物(例えば、Ph(CO2Bu)2・TiCl4などの化合物)、などを用いることができる。
【0022】
1-1-3.ハロゲン
本発明に係る固体成分(a1)で用いるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、及びそれらの混合物を用いることができる。この中で塩素が特に好ましい。
ハロゲンは、上記のチタン化合物及び/又はマグネシウム化合物から供給されるのが一般的であるが、その他の化合物より供給することもできる。代表的な例としては、四塩化ケイ素に代表されるハロゲン化ケイ素化合物類、塩化アルミニウムに代表されるハロゲン化アルミニウム化合物類、1,2-ジクロロエタンやベンジルクロライドに代表されるハロゲン化有機化合物類、トリクロロボランに代表されるハロゲン化ボラン化合物類、五塩化リンに代表されるハロゲン化リン化合物類、六塩化タングステンに代表されるハロゲン化タングステン化合物類、五塩化モリブデンに代表されるハロゲン化モリブデン化合物類、などを挙げることができる。これらの化合物は、単独で用いるだけでなく、併用することも可能である。この中で、四塩化ケイ素が特に好ましい。
【0023】
1-1-4.電子供与体
本発明に係る固体成分(a1)で用いられる電子供与体の代表的な例としては、特開2004-124090号公報に開示されている化合物を挙げることができる。一般的には、有機酸及び無機酸並びにそれらの誘導体(エステル、酸無水物、酸ハライド、アミド)化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、アミン化合物、などを用いることができ、有機酸及び無機酸並びにそれらの誘導体化合物、エーテル化合物、並びにケトン化合物からなる群より選ばれる1種類または2種類以上の混合物であってもよい。
【0024】
電子供与体として用いることのできる有機酸化合物としては、フタル酸に代表される芳香族多価カルボン酸化合物類、安息香酸に代表される芳香族カルボン酸化合物類、2-n-ブチル-マロン酸の様な2位に一つ又は二つの置換基を有するマロン酸や2-n-ブチル-コハク酸の様な2位に一つ又は二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸に代表される脂肪族多価カルボン酸化合物類、プロピオン酸に代表される脂肪族カルボン酸化合物類、ベンゼンスルホン酸やメタンスルホン酸に代表される芳香族及び脂肪族のスルホン酸化合物類、などを例示することができる。
これらのカルボン酸化合物類及びスルホン酸化合物類は、芳香族・脂肪族に関わらず、マレイン酸の様に、分子中の任意の場所に任意の数だけ不飽和結合を有しても良い。
【0025】
電子供与体として用いることのできる有機酸の誘導体化合物としては、上記有機酸のエステル(カルボン酸エステル化合物)、酸無水物、酸ハライド、アミド、などを例示することができる。
エステルの構成要素であるアルコールとしては、脂肪族及び芳香族アルコールを用いることができる。これらのアルコールの中でも、エチル基、ブチル基、イソブチル基、ヘプチル基、オクチル基、ドデシル基等の炭素数1~20の脂肪族の遊離基からなるアルコールが好ましい。更に好ましくは炭素数2~12の脂肪族の遊離基からなるアルコールが望ましい。また、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、等の脂環式の遊離基からなるアルコールを用いることもできる。
【0026】
酸ハライドの構成要素であるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、等を用いることができる。中でも、塩素が最も好ましい。多価有機酸のポリハライドの場合は、複数のハロゲンが同一であっても異なっていても良い。
また、アミドの構成要素であるアミンとしては、脂肪族及び芳香族アミンを用いることができる。これらのアミンの中でも、アンモニア、エチルアミンやジブチルアミンに代表される脂肪族アミン、アニリンやベンジルアミンに代表される芳香族の遊離基を分子内に有するアミン、などを好ましい化合物として例示することができる。
【0027】
電子供与体として用いることのできる無機酸化合物としては、炭酸、リン酸、ケイ酸、硫酸、硝酸、などを例示することができる。
これらの無機酸の誘導体化合物としては、エステルを用いることが望ましい。テトラエトキシシラン(ケイ酸エチル)、テトラブトキシシラン(ケイ酸ブチル)、リン酸トリブチルなどを具体例として挙げることができる。
【0028】
電子供与体として用いることのできるエーテル化合物としては、ジブチルエーテルに代表される脂肪族エーテル化合物類、ジフェニルエーテルに代表される芳香族エーテル化合物類、2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパンや2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパンの様な2位に一つ又は二つの置換基を有する1,3-ジメトキシプロパンに代表される脂肪族多価エーテル化合物類、9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレン、に代表される芳香族の遊離基を分子内に有する多価エーテル化合物類などを例示することができる。
【0029】
電子供与体として用いることのできるケトン化合物としては、メチルエチルケトンに代表される脂肪族ケトン化合物類、アセトフェノンに代表される芳香族ケトン化合物類、2,2,4,6,6-ペンタメチル-3,5-ヘプタンジオンに代表される多価ケトン化合物類、などを例示することができる。
また、電子供与体として用いることのできるアルデヒド化合物としては、プロピオンアルデヒドに代表される脂肪族アルデヒド化合物類、ベンズアルデヒドに代表される芳香族アルデヒド化合物類、などを例示することができる。
さらに、電子供与体として用いることのできるアルコール化合物としては、ブタノールや2-エチルヘキサノールに代表される脂肪族アルコール化合物類、フェノール、クレゾールに代表されるフェノール誘導体化合物類、グリセリンや1,1’-ビ-2-ナフトールに代表される脂肪族若しくは芳香族の多価アルコール化合物類、などを例示することができる。
【0030】
また、電子供与体として用いることのできるアミン化合物としては、ジエチルアミンに代表される脂肪族アミン化合物類、2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジンに代表される窒素含有脂環式化合物類、アニリンに代表される芳香族アミン化合物類、1,3-ビス(ジメチルアミノ)-2,2-ジメチルプロパンに代表される多価アミン化合物類、窒素原子含有芳香族化合物類、などを例示することができる。
【0031】
さらに、電子供与体として用いることのできる化合物として、上記の複数の官能基を同一分子内に含有する化合物を用いることもできる。その様な化合物の例として、酢酸-(2-エトキシエチル)や3-エトキシ-2-t-ブチルプロピオン酸エチルに代表されるアルコキシ基を分子内に有するカルボン酸エステル化合物類、2-ベンゾイル-安息香酸エチルに代表されるケトエステル化合物類、(1-t-ブチル-2-メトキシエチル)メチルケトンに代表されるケトエーテル化合物類、N,N-ジメチル-2,2-ジメチル-3-メトキシプロピルアミンに代表されるアミノエーテル化合物類、エポキシクロロプロパンに代表されるハロゲノエーテル化合物類などを挙げることができる。
【0032】
これらの電子供与体は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
これらの中で好ましいのは、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘプチルに代表されるフタル酸ジエステル化合物、フタロイルジクロライドに代表されるフタル酸ジハライド化合物、2-n-ブチル-マロン酸ジエチルの様な2位に一つ又は二つの置換基を有するマロン酸エステル化合物、2-n-ブチル-コハク酸ジエチルの様な2位に一つ又は二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸エステル化合物、2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパンや2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパンの様な2位に一つ又は二つの置換基を有する1,3-ジメトキシプロパンに代表される脂肪族多価エーテル化合物、9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレンに代表される芳香族の遊離基を分子内に有する多価エーテル化合物、2,5-ジメチルフランや2,5-ジフェニルフランに代表される環状エーテル化合物などである。
これらの中で特に好ましいのは有機酸エステル化合物、酸ハライド化合物およびエーテル化合物であり、特に好ましいのはフタル酸ジエステル化合物およびフタル酸ジハライド化合物からなる群から選択されるものである。
本発明に用いる固体成分(a1)を構成する各成分の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、一般的には、次の範囲内が好ましい。
【0033】
チタン化合物の使用量は、使用するマグネシウム化合物の使用量に対して、モル比(チタン化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.0001~1,000の範囲内であり、より好ましくは0.001~100の範囲であり、特に好ましくは0.01~50の範囲内が望ましい。
【0034】
マグネシウム化合物及びチタン化合物以外にハロゲン源となる化合物を使用する場合は、その使用量は、マグネシウム化合物及びチタン化合物の各々がハロゲンを含むか含まないかに関わらず、使用するマグネシウム化合物の使用量に対して、モル比(ハロゲン源となる化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.01~1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.1~100の範囲内が望ましい。
【0035】
電子供与体の使用量は、使用するマグネシウム化合物(の量に対して、モル比(電子供与体のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.001~10の範囲内であり、特に好ましくは0.01~5の範囲内が望ましい。
【0036】
本発明で用いる固体成分(a1)に含まれる電子供与体の量は、固体成分(a1)1gに対して好ましくは250μmol~720μmolの範囲であり、より好ましくは250μmol~600μmolの範囲であり、特に好ましくは350μmol~450μmolの範囲である。
【0037】
本発明に係る固体成分(a1)は、上記の構成する各成分を上記の量比で接触して得られる。
各成分の接触条件は、酸素を存在させないことが必要であるものの、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
接触温度は、-50℃~200℃程度、好ましくは0℃~150℃である。
接触方法としては、回転ボールミルや振動ミルなどによる機械的な方法、及び、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法、などを例示することができる。
【0038】
固体成分(a1)の調製の際には、中間及び/又は最後に不活性溶媒で洗浄を行っても良い。
好ましい溶媒種としては、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素化合物、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、及び、1,2-ジクロロエチレンやクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素化合物、などを例示することができる。
【0039】
なお、本発明に係る固体成分(a1)の調製方法としては、任意の方法を用いることができるが、具体的には、下記の(i)~(vii)として説明する方法を例示することができる。ただし、本発明は、下記例示により何ら制限されるものではない。
【0040】
(i)共粉砕法
塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物をチタン化合物と共粉砕することにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する方法であり、電子供与体を同時に、又は、別工程で共粉砕しても良い。
機械的粉砕方法としては、回転ボールミルや振動ミル等の任意の粉砕機を用いることができる。溶媒を用いない乾式粉砕法だけでなく、不活性溶媒共存下で共粉砕する湿式粉砕法を用いることもできる。
【0041】
(ii)加熱処理法
塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物とチタン化合物を不活性溶媒中で撹拌することにより接触処理を行い、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する方法であり、電子供与体を同時に、又は、別工程で接触処理しても良い。
チタン化合物として四塩化チタンなどの液状の化合物を用いる場合は、不活性溶媒なしで接触処理することもできる。
また、必要に応じて、ハロゲン化ケイ素化合物等の任意成分を同時に、又は、別工程で接触させても良い。
接触温度に特に制限はないが、90℃~130℃程度の比較的高い温度で接触処理する方が好ましい場合が多い。
【0042】
(iii)溶解析出法
溶解析出法は、塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物を電子供与体と接触させることにより溶解し、生じた溶解液と析出剤を接触させて析出反応を起こすことにより、粒子形成を行う方法である。
溶解に用いる電子供与体の例としては、アルコール化合物類、エポキシ化合物類、リン酸エステル化合物類、アルコキシ基を有するケイ素化合物類、アルコキシ基を有するチタン化合物類、エーテル化合物類などを挙げることができる。
また、析出剤の例としては、ハロゲン化チタン化合物類、ハロゲン化ケイ素化合物類、塩化水素、ハロゲン含有炭化水素化合物類、Si-H結合を有するシロキサン化合物類(ポリシロキサン化合物類を含む)、アルミニウム化合物類、などを例示することができる。
溶解液と析出剤の接触方法としては、溶解液に析出剤を添加しても良いし、析出剤に溶解液を添加しても良い。
溶解、析出のどちらの工程でも、チタン化合物を用いない場合は、析出反応により形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に必要に応じて、上記の方法により形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与体と接触させても良い。この際、電子供与体は、溶解に用いるものとは異なっていても良いし、同じであっても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、溶解、析出、チタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、溶解、析出、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0043】
(iv)造粒法
造粒法は、溶解析出法と同様に、塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物を電子供与体と接触させることにより溶解し、生じた溶解液を主に物理的な手法により造粒する方法である。溶解に用いる電子供与体の例は、溶解析出法の例に同じである。
造粒手法の例としては、高温の溶解液を低温の不活性溶媒中に滴下する方法、高温の気相部に向かって溶解液をノズルから噴き出して乾燥する方法、低温の気相部に向かって溶解液をノズルから噴き出して冷却する方法、などを挙げることができる。
造粒により形成した粒子をチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に、必要に応じて、ハロゲン化ケイ素化合物類、電子供与体、などの任意成分と接触させても良い。この際、電子供与体は溶解に用いるものとは異なっていても良いし、同じであっても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、溶解やチタン化合物との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、溶解、チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0044】
(v)マグネシウム(Mg)化合物のハロゲン化法
マグネシウム(Mg)化合物のハロゲン化法は、ハロゲンを含有しないマグネシウム化合物に対して、ハロゲン化剤を接触させてハロゲン化する方法であり、電子供与体を同時に、又は、別工程で接触処理しても良い。
ハロゲンを含有しないマグネシウム化合物の例としては、ジアルコキシマグネシウム化合物類、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、脂肪酸のマグネシウム塩、などを挙げることができる。
ジアルコキシマグネシウム化合物類を用いる場合は、金属マグネシウムとアルコールとの反応により系中で調製したものを用いることもできる。この調製法を用いる場合は、出発原料であるハロゲンを含まないマグネシウム化合物の段階で造粒等により粒子形成を行うのが一般的である。
ハロゲン化剤の例としては、ハロゲン化チタン化合物類、ハロゲン化ケイ素化合物類、ハロゲン化リン化合物類、などを挙げることができる。
ハロゲン化剤として、ハロゲン化チタン化合物類を用いない場合は、ハロゲン化により形成したハロゲン含有マグネシウム化合物を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に必要に応じて、上記の方法により形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与体と接触させても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、ハロゲンを含まないマグネシウム化合物のハロゲン化やチタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、ハロゲン化チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0045】
(vi)有機マグネシウム化合物からの析出法
ブチルマグネシウムクロライドに代表されるグリニャール試薬、ジアルキルマグネシウム化合物、などの有機マグネシウム化合物類の溶液に、析出剤を接触させる方法であり、電子供与体を同時に、又は、別工程で接触処理しても良い。
析出剤の例としては、チタン化合物類、ケイ素化合物類、塩化水素、などを挙げることができる。
析出剤として、チタン化合物を用いない場合は、析出反応により形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。
更に必要に応じて、上記の方法により形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与体と接触させても良い。
これらの任意成分の接触順序については特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、析出やチタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。
また、析出、チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0046】
(vii)含浸法
有機マグネシウム化合物類の溶液、又は、マグネシウム化合物を電子供与体で溶解した溶液を、無機化合物の担体、又は、有機化合物の担体に含浸させる方法である。
有機マグネシウム化合物類の例は、有機マグネシウム化合物からの析出法の例に同じである。マグネシウム化合物の溶解に用いるマグネシウム化合物は、ハロゲンを含んでいても含んでいなくても良く、電子供与体の例は、溶解析出法の例に同じである。
無機化合物の担体の例としては、シリカ、アルミナ、マグネシア、などを挙げることができる。
有機化合物の担体の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、などを挙げることができる。
含浸処理後の担体粒子は、析出剤との化学反応や乾燥等の物理的処理によりマグネシウム化合物を析出させて固定化する。
析出剤の例は、溶解析出法の例に同じである。
析出剤としてチタン化合物を用いない場合は、こうして形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。更に必要に応じて、こうして形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与体と接触させても良い。
これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、含浸、析出、乾燥、チタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。また、含浸、析出、チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0047】
(viii)複合法
上記(i)~(vii)に記載した方法を組み合わせて、用いることもできる。組み合わせの例としては、「塩化マグネシウムを電子供与体と共粉砕した後にハロゲン化チタン化合物類と加熱処理する方法」、「塩化マグネシウム化合物を電子供与体と共粉砕した後に別の電子供与体を用いて溶解し、更に析出剤を用いて析出する方法」、「ジアルコキシマグネシウム化合物を電子供与体により溶解し、ハロゲン化チタン化合物類と接触させることにより析出させると同時にマグネシウム化合物をハロゲン化する方法」、「ジアルコキシマグネシウム化合物に二酸化炭素を接触させることにより、炭酸エステルマグネシウム化合物類を生成すると同時に溶解し、形成した溶解液をシリカに含浸させ、その後塩化水素と接触させることによりマグネシウム化合物をハロゲン化すると同時に析出固定化し、更にハロゲン化チタン化合物類と接触させることによりチタン化合物を担持する方法」、などを挙げることができる。
【0048】
1-1-5.固体成分(a1)の予備重合
本発明においては、前記固体成分(a1)が、助触媒としての有機アルミニウム化合物の存在下で重合モノマーを用いて予備重合処理されたものであってもよい。
予備重合における重合モノマーとしては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を用いることができ、具体的には、エチレン、プロピレン、後述する一般式(5)で表される炭素数4~22のα-オレフィン等が挙げられる。
固体成分(a1)と上記の重合モノマーとの反応条件は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、以下の範囲内が好ましい。
固体成分(a1)1グラムあたりの基準で、上記重合モノマーの予備重合量は、0.001g~100gの範囲内であり、好ましくは0.1g~50g、更に好ましくは0.5g~10gの範囲内が望ましい。
予備重合時の反応温度は、-150℃~150℃、好ましくは0℃~100℃である。そして、予備重合時の反応温度は、本重合のときの重合温度よりも低くすることが望ましい。
反応は、一般的に撹拌下に行うことが好ましく、そのときヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒を存在させることもできる。
予備重合は、複数回行っても良く、この際用いる重合モノマーは、同一であっても異なっても良い。また、予備重合後にヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒で洗浄を行うこともできる。
有機アルミニウム化合物の材料及び使用量としては、後述する成分(a4)に関する記載と同様とすることができる。
【0049】
1-2.ジアルコキシシラン化合物(a2)
本発明に係るジアルコキシシラン化合物(a2)は、後述するアルケニル基を有するシラン化合物(a3)とは異なる。
本発明においては、成分(a2)が下記一般式(2)で表される化合物であることが、後述するトリアルコキシシラン化合物(C)と異なる水素応答性を有する活性種を形成し、非晶成分が少ない重合体を高活性で得られる点から好ましい。
R3R4Si(OR5)2・・・(2)
[式(2)中、
R3及びR4はそれぞれ独立に、アルケニル基とは異なる炭素数1~12の炭化水素基であり、R3及びR4は互いに同一でも異なっていてもよく、
R5は、それぞれ独立に炭素数1~20の直鎖状アルキル基、または炭素数3~20の分岐状アルキル基である。]
【0050】
一般式(2)中、R3及びR4はそれぞれ独立に、アルケニル基とは異なる炭素数1~12の炭化水素基である。
R3及びR4として用いることができる炭素数1~12の炭化水素基は、好ましくは炭素数3~10の炭化水素基である。R3及びR4として用いることができる炭化水素基の具体的な例としては、n-プロピル基に代表される直鎖状アルキル基、i-プロピル基やt-ブチル基に代表される分岐状アルキル基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表されるシクロアルキル基等の脂肪族炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。R3及びR4の少なくとも一方が、炭素数3~10の分岐状アルキル基または炭素数3~10のシクロアルキル基が好ましく、とりわけ、i-プロピル基、i-ブチル基、t-ブチル基、テキシル基(1,1,2-トリメチルプロピル基)、シクロペンチル基、またはシクロヘキシル基が好ましい。
また、R3とR4とは同一であっても異なっても良い。
【0051】
一般式(2)中、R5は、それぞれ独立に炭素数1~20の直鎖状アルキル基、または炭素数3~20の分岐状アルキル基である。R5として用いることができる炭素数1~20の直鎖状アルキル基、または炭素数3~20の分岐状アルキル基は、好ましくは炭素数1~10の直鎖状アルキル基、または炭素数3~10の分岐状アルキル基、更に好ましくは炭素数1~5の直鎖状アルキル基、または炭素数3~5の分岐状アルキル基である。R5の具体的な例としては、メチル基やエチル基に代表される直鎖状アルキル基、i-プロピル基やt-ブチル基に代表される分岐状アルキル基、などを挙げることができる。中でも、メチル基とエチル基が最も好ましい。複数存在するR5は、同一であっても異なってもよい。
【0052】
アルコキシシラン化合物(a2)の好ましい例としては、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-ブチルエチルジメトキシシラン、t-ブチル-n-プロピルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、イソブチルイソプロピルジメトキシシラン、n-プロピルメチルジメトキシシランなどを挙げることができる。
これらのジアルコキシシラン化合物は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0053】
ジアルコキシシラン化合物(a2)の使用量の範囲は、高活性を維持しつつ、非晶成分が少なく、分子量分布が広い重合体が得られやすい点から、(a1)に対して0.3mmol/g~1.2mmol/gが好ましく、0.4mmol/g~1.1mmol/gがより好ましく、0.4mmol/g~0.8mmol/gが特に好ましい。
本発明で用いられるジアルコキシシラン化合物(a2)は、活性点となり得るチタン原子の近傍に配位し、活性点の触媒活性、重合体の規則性や水素応答性といった触媒性能を制御していると考えられている。
【0054】
1-3.アルケニル基を有するシラン化合物(a3)
本発明に用いられるアルケニル基を有するシラン化合物(a3)としては、特開平2-34707号公報、特開2003-292522号公報、特開2006-169283号公報、及び特開2011-74360号公報に開示された化合物等を用いることができる。
【0055】
一般的には、下記一般式(3)にて表される化合物を用いることが望ましいが、当該化合物に限定されるものではない。
SiR6
nR7
4-n・・・(3)
(ここで、R6は、アルケニル基であり、R7は、水素原子、ハロゲン、炭素数1~20のアルキル基または炭素数1~20のアルコキシ基であり、nは、1、2、3または4を示す。また、nが1または2のとき、R7同士が連結された環状構造を形成してもよい。)
【0056】
R6は、アルケニル基を表し、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基が好ましく、ビニル基、アリル基が特に好ましい。nが2以上の場合、複数あるR6は、同一であっても異なってもよい。
【0057】
R7は、水素原子、ハロゲン、炭素数1~20のアルキル基または炭素数1~20のアルコキシ基を表す。
R7として用いることができるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、などを例示することができる。
また、R7が炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、またはシクロアルキル基であってよい。R7が炭素数1~20のアルキル基の場合、好ましくは炭素数1~12のアルキル基である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、テキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などが、好適な例として挙げられる。
R7が炭素数1~20のアルコキシ基の場合、好ましくは炭素数1~12のアルコキシ基である。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基などを用いることが望ましい。nが2以下の場合、複数あるR7は、同一であっても異なってもよい。また、nが1または2のとき、R7同士が連結された環状構造を形成してもよい。
【0058】
アルケニル基を有するシラン化合物(a3)は、具体的には、ビニルシラン、メチルビニルシラン、ジメチルビニルシラン、トリメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、ジクロロメチルビニルシラン、クロロジメチルビニルシラン、クロロメチルビニルシラン、トリエチルビニルシラン、クロロジエチルビニルシラン、ジクロロエチルビニルシラン、ジメチルエチルビニルシラン、ジエチルメチルビニルシラン、トリペンチルビニルシラン、トリフェニルビニルシラン、ジフェニルメチルビニルシラン、ジメチルフェニルビニルシラン、CH2=CH-Si(CH3)2(C6H4CH3)、(CH2=CH)(CH3)2Si-O-Si(CH3)2(CH=CH2)、ジビニルシラン、ジクロロジビニルシラン、ジメチルジビニルシラン、ジフェニルジビニルシラン、アリルトリメチルシラン、アリルトリエチルシラン、アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン、アリルメチルジクロロシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリブロモシラン、ジアリルジメチルシラン、ジアリルジエチルシラン、ジアリルジビニルシラン、ジアリルメチルビニルシラン、ジアリルメチルクロロシラン、ジアリルジクロロシラン、ジアリルジブロモシラン、トリアリルメチルシラン、トリアリルエチルシラン、トリアリルビニルシラン、トリアリルクロロシラン、トリアリルブロモシラン、テトラアリルシラン、ジ-3-ブテニルジメチルシラン、ジ-3-ブテニルシランジエチルシラン、ジ-3-ブテニルシランジビニルシラン、ジ-3-ブテニルシランメチルビニルシラン、ジ-3-ブテニルシランメチルクロロシラン、ジ-3-ブテニルシランジクロロシラン、トリ-3-ブテニルシランエチルシラン、トリ-3-ブテニルシランビニルシラン、トリ-3-ブテニルシランクロロシラン、トリ-3-ブテニルシランブロモシラン、テトラ-3-ブテニルシラン、1-メチル-1-ビニルシラシクロブタン、1-メチル-1-ビニルシラシクロペンタン、1-メチル-1-ビニルシラシクロヘキサン、1,1-ジビニルシラシクロペンタン、1,1-ジビニルシラシクロヘキサン、1-クロロ-1-ビニルシラシクロペンタン、1-クロロ-1-ビニルシラシクロへキサン、1-アリル-1-メチルシラシクロペンタン、1-アリル-1-メチルシラシクロへキサンなどを例示することができる。
これらの中でも高活性を維持しつつ、非晶成分が少なく、分子量分布が広い重合体が得られやすい点から、ビニルシラン化合物類が好ましく、とりわけトリメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、ジメチルジビニルシラン、1-メチル-1-ビニルシラシクロペンタンが好ましい。
【0059】
アルケニル基を有するシラン化合物(a3)の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
アルケニル基を有するシラン化合物(a3)の使用量は、高活性を維持しつつ、非晶成分が少なく、分子量分布が広い重合体が得られやすい点から、固体成分(a1)を構成するチタン成分に対するモル比(アルケニル基を有するシラン化合物(a3)のモル数/固体成分(a1)中のチタン原子のモル数)で、好ましくは0.001~1,000の範囲内であり、より好ましくは0.01~100の範囲内である。
【0060】
アルケニル基を有するシラン化合物(a3)の役割については、次のように推測している。本発明で用いられるアルケニル基を有するシラン化合物(a3)は、通常、重合に使用するα-オフィンモノマーに較べて、立体障害が大きく、チーグラー・ナッタ触媒では、重合されない。しかし、電子供与性の非常に強い有機シリル基が存在するために、炭素-炭素二重結合部の電荷密度が非常に高く、活性点であるチタン原子へ配位し活性点を保護すると考えられる。したがって、固体触媒成分(A)の調製に用いられる有機アルミ化合物によるチタン原子の過還元や不純物などによる活性点の失活を防ぐ効果が期待される。
【0061】
1-4.有機アルミニウム(a4)
本発明に用いられる有機アルミニウム化合物(a4)としては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。一般的には、下記一般式(4)にて表される化合物を用いることが望ましい。
R8
aAlXb(OR9)c・・・(4)
(一般式(4)中、R8は炭素数1~10の炭化水素基を表す。Xはハロゲン又は水素原子を表す。R9は炭化水素基またはAlによる架橋基を表す。aは1以上の実数、bは0以上2以下の実数、cは0以上2以下の実数、a+b+c=3である。)
【0062】
R8は炭素数1~10の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6の炭化水素基である。R8の具体的な例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、などを挙げることができる。この中で、メチル基、エチル基、イソブチル基が最も好ましい。
Xは、ハロゲン又は水素原子である。Xとして用いることのできるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素などを例示することができる。この中で、塩素が特に好ましい。
R9は、炭化水素基又はアルミニウム原子(Al)による架橋基である。R9が炭化水素基である場合には、R8の炭化水素基の例示と同じ群からR9を選択することができる。また、有機アルミニウム化合物(a4)として、メチルアルモキサンに代表されるアルモキサン化合物類を用いることも可能であり、その場合R9は、Alによる架橋基を表す。
【0063】
有機アルミニウム化合物(a4)として用いることのできる化合物の例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリn-オクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムエトキサイド、メチルアルモキサン、などを挙げることができる。
有機アルミニウム化合物(a4)としては、中でも、トリエチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムが好ましい。
有機アルミニウム化合物(a4)は、単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0064】
有機アルミニウム化合物(a4)の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で
任意のものでありうるが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
有機アルミニウム化合物(a4)の使用量は、固体成分(a1)を構成するチタン成分に対するモル比(アルミニウム原子のモル数/固体成分(a1)中のチタン原子のモル数)で、好ましくは0.1~100の範囲内であり、特に好ましくは1~50の範囲内が望ましい。
【0065】
本発明で用いられる有機アルミニウム化合物(a4)は、固体触媒成分(A)中にアルコキシシラン化合物(a2)を効率よく担持させることを主目的として用いられる。したがって、予備重合時又は本重合時に、重合反応の助触媒として用いられる有機アルミニウム化合物とは、主目的が異なり、区別される。なお、有機アルミニウム(a4)は、ハロゲン及び電子供与体と反応し、反応物になっているため、上記有機アルミニウム(a4)そのものとして固体触媒成分(A)には含有されていないと考えられ,また含有されていなくてもよい。
【0066】
1-5.固体触媒成分(A)の調製方法(工程1)
本発明において、固体触媒成分(A)の製造方法は、固体成分(a1)に対して、ジアルコキシシラン化合物(a2)、アルケニル基を有するシラン化合物(a3)、及び有機アルミニウム化合物(a4)を所定の温度で接触処理することによって調製することができる。
本発明の製造方法においては、固体触媒成分(A)の調製の際に、接触処理は複数回行ってもよい。
接触処理を複数回行う場合は、ジアルコキシシラン化合物(a2)、アルケニル基を有するシラン化合物(a3)、及び有機アルミニウム化合物(a4)のいずれも、複数回の接触で用いる化合物が互いに同一であっても異なっても良い。
本発明に用いる固体触媒成分(A)は、上記の構成する各成分を上記の量比で接触して得られる。
また、先に各成分の使用量の範囲を示したが、これは1回当たりに接触させる使用量であり、2回目以降は、1回の使用量が前述した使用量の範囲内であれば、何回接触させても良い。
【0067】
固体触媒成分(A)の各構成成分の接触条件は、酸素を存在させないことが必要であるが、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
接触方法としては、回転ボールミルや振動ミルなどによる機械的な方法、及び、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法、などを例示することができる。好ましくは、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法を用いることが望ましい。
【0068】
本発明における固体触媒成分(A)の製造方法において、接触処理の温度は10℃~60℃であればよく、好ましくは、10℃~50℃である。
固体触媒成分(A)の調製において、接触処理の温度を変えることで電子供与体およびジアルコキシシラン化合物(a2)の含量を制御することができる。
【0069】
本発明における固体触媒成分(A)中の電子供与体の含量は、分子量分布が広い重合体が得られやすい点から、固体触媒成分(A)1gあたり、41μmol~100μmolであることが好ましく、42μmol~80μmolであることがより好ましく、44μmol~60μmolであることがさらに好ましい。
固体触媒成分中(A)に含まれる電子供与体とジアルコキシシラン化合物(a2)の総量は、非晶成分が少なくなりやすく、分子量分布が広い重合体が得られやすい点から、固体触媒成分(A)1gあたり、250μmol~450μmolであることが好ましく、255μmol~440μmolであることがより好ましく、260μmol~350μmolであることがさらに好ましい。
【0070】
本発明における固体触媒成分(A)中の電子供与体は、活性点となり得るチタン原子近傍に配位していると推定される。この電子供与体は、最終的に重合時にトリアルコキシシラン化合物(C)と置き換わると考えられる。
重合時において、ジアルコキシシラン化合物(a2)とトリアルコキシシラン化合物(C)は、いずれも活性点となり得るチタン原子近傍に配位し、それぞれ異なる水素応答性を有する活性種を形成する。この異なる水素応答性を有する活性種の比率が適切な場合、分子量分布が広くなると考えられる。従って、固体触媒成分(A)中の電子供与体の量が適切であると、トリアルコキシシラン(C)の配位する量が適切になり、水素応答性の異なる活性点の比率が適切な範囲となり、分子量分布が広くなると考えられる。また、固体触媒成分(A)の調製において、電子供与体含量及びジアルコキシシラン化合物(a2)の総量が適切な範囲であると、立体規制されない活性点の数が抑制され、可溶分となり得る規則性の低い重合体の生成を抑制できると考えられる。
【0071】
接触処理において、固体成分(a1)、ジアルコキシシラン化合物(a2)、アルケニル基を有するシラン化合物(a3)、及び有機アルミニウム化合物(a4)の接触手順に関しては、任意の手順を用いることができる。具体的な例としては、下記の手順(i)~手順(iv)などが挙げられ、この中でも、手順(i)及び手順(ii)が好ましい。
手順(i):固体成分(a1)にアルケニル基を有するシラン化合物(a3)を接触させ、次いでジアルコキシシラン化合物(a2)を接触させた後、有機アルミニウム化合物(a4)を接触させる方法。
手順(ii):固体成分(a1)にアルケニル基を有するシラン化合物(a3)及びジアルコキシシラン化合物(a2)を接触させた後、有機アルミニウム化合物(a4)を接触させる方法。
手順(iii):固体成分(a1)にジアルコキシシラン化合物(a2)を接触させ、次いでアルケニル基を有するシラン化合物(a3)を接触させた後、有機アルミニウム化合物(a4)を接触させる方法。
手順(iv):全ての化合物を同時に接触させる方法。
【0072】
固体触媒成分(A)の調製の際には、中間及び/又は最後に不活性溶媒で洗浄を行っても良い。洗浄に用いる好ましい溶媒としては、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素化合物、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、及び、1,2-ジクロロエチレンやクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素化合物、などを例示することができる。
【0073】
1-6.固体触媒成分(A)の予備重合
固体触媒成分(A)は、有機アルミニウム化合物(B)及びトリアルコキシシラン化合物(C)と混合する前に、反応の助触媒としての有機アルミニウム化合物の存在下で重合モノマーを用いて予備重合されていてもよい。重合プロセスに先立って、予め少量のポリマーを触媒周囲に生成させることによって、触媒がより均一となり、微粉の発生量を抑えることができる。
【0074】
予備重合における重合モノマーとしては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を用いることができ、エチレン、プロピレン、後述する一般式(5)で表される炭素数4~22のα-オレフィン等が挙げられる。
固体触媒成分(A)として予備重合されたものを用いる場合には、その調製手順において、任意の手順で予備重合を行うことができる。例えば、固体成分(a1)を予備重合した後に、成分(a2)~(a4)を接触させることができる。更に、固体成分(a1)と成分(a2)~(a4)を接触させる際に、同時に予備重合を行ってもよい。
【0075】
固体触媒成分(A)と上記の重合モノマーとの反応条件は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、以下の範囲内であってよい。
固体触媒成分(A)1gあたりの基準で、上記重合モノマーの予備重合量は、0.001g~100gの範囲内であり、好ましくは0.1g~50g、更に好ましくは0.5g~10gの範囲内であってよい。
予備重合時の反応温度は、-150℃~150℃、好ましくは0℃~100℃である。そして、予備重合時の反応温度は、本重合のときの重合温度よりも低くしてもよい。
反応は、一般的に撹拌下に行うことが好ましく、そのときヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒を存在させることもできる。
予備重合は、複数回行ってもよく、この際用いる重合モノマーは、同一であっても異なってもよい。また、予備重合後にヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒で洗浄を行うこともできる。
【0076】
2.工程2
工程2は、前記固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)及びトリアルコキシシラン化合物(C)を混合し、α-オレフィン重合用触媒を調製する工程である。
【0077】
2-1.有機アルミニウム化合物(B)
本発明において用いられる有機アルミニウム化合物(B)は、主に助触媒として作用し、さらに水その他の不純物を系内から除去するスカベンジャーとしても作用する。
本発明において用いることのできる有機アルミニウム化合物(B)としては、特開2004-124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。
好ましくは、固体触媒成分(A)を調製する際の成分である有機アルミニウム化合物(a4)における例示と同じ群から選択することができる。
【0078】
有機アルミニウム化合物(B)は、固体触媒成分(A)を調製する際に用いることのできる有機アルミニウム化合物(a4)と、同一であっても異なっても良い。
有機アルミニウム化合物(B)は、単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
有機アルミニウム化合物(B)の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
有機アルミニウム化合物(B)の使用量は、固体触媒成分(A)を構成するチタン成分に対するモル比(有機アルミニウム化合物(B)のモル数/固体触媒成分(A)中のチタン原子のモル数)で、好ましくは1~5,000の範囲内であり、特に好ましくは10~500の範囲内が望ましい。
【0079】
2-2.トリアルコキシシラン化合物(C)
本発明において用いられるトリアルコキシシラン化合物(C)は、成分(a2)ジアルコキシシラン化合物と異なる水素応答性を有する活性種を形成する点から、下記一般式(1)で表される化合物であってよい。
R1Si(OR2)3・・・(1)
[式(1)中、
R1は炭素数3~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または炭素数3~12のシクロアルキル基であり、
R2はそれぞれ独立に、炭素数2~4の直鎖状アルキル基、または炭素数3~4の分岐状アルキル基である。]
【0080】
R1として用いることのできる炭素数3~12の直鎖状アルキル基は、好ましくは炭素数5~10の直鎖状アルキル基である。R1として用いることのできる炭素数3~12の直鎖状アルキル水素基の具体的な例としては、n-プロピル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基が挙げられ,好ましくはn-ヘキシル基、またはn-オクチル基である。R1として用いることのできる炭素数3~12の分岐状アルキル基は,好ましくは炭素数5~10の分岐状アルキル基である。具体的な例としては、i-プロピル基、i-ブチル基、t-ブチル基,2―メチルブチル基、ネオペンチル基が挙げられ、好ましくは、2―メチルブチル基、またはネオペンチル基である。R1として用いることのできる炭素数3~12のシクロアルキル基は,好ましくは炭素数5~10のシクロアルキル基である。具体的な例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基が挙げられ、好ましくはシクロペンチル基またはシクロヘキシル基である。R1として、より好ましくは、直鎖状アルキル基または分岐状アルキル基である。
【0081】
また、式中、R2は、それぞれ独立に炭素数2~4の直鎖状アルキル基、炭素数3~4の分岐アルキル基を表す。R2として用いることのできる炭素数2~4の直鎖状アルキル基の具体的な例としては、エチル基やn-プロピル基が挙げられる。炭素数3~4の分岐状アルキル基の具体的な例としてはi-プロピル基、t-ブチル基などが挙げられる。この中でもエチル基が最も好ましい。また、複数存在するR2は、同一であっても異なってもよい。
【0082】
本発明で用いることのできるトリアルコキシシラン化合物(C)の好ましい例としては、n-プロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、n-ペンチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-ヘプチルトリエトキシシランまたはn-オクチルトリエトキシシラン、i-プロピルトリエトキシシラン、i-ブチルトリエトキシシラン、2-メチル-1-プロピルトリエトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、シクロプロピルトリエトキシシラン、シクロブチルトリエトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
これらのトリアルコキシシラン化合物(C)は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0083】
本発明におけるトリアルコキシシラン化合物(C)の使用量は、非晶成分が少なく、分子量分布が広い重合体が得られやすい点から、固体触媒成分(A)中のチタン原子に対するモル比(前記トリアルコキシシラン化合物(C)のモル数/固体触媒成分(A)中のチタン原子のモル数)で、1~10000の範囲内であり、好ましくは1~1000の範囲内であり、特に好ましくは1~100の範囲内である。
【0084】
本発明で用いられるトリアルコキシシラン化合物(C)は、固体触媒成分(A)に含まれる電子供与体とドナー交換反応によって置き換わり、活性点となり得るチタン原子の近傍に配位し、活性点のポリマーの規則性や水素応答性といった触媒性能を制御していると考えられる。
【0085】
2-3.α-オレフィン重合用触媒の調製方法
前記固体触媒成分(A)、成分(B)および成分(C)の接触条件は、α-オレフィンの存在下で酸素を存在させないことが必要であるが、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
具体的な例としては、下記の手順(i)~手順(ii)などが挙げられる。
手順(i):撹拌機能及び温度制御機能を有する装置内において、α-オレフィンの存在下で成分(B)および成分(C)を同時に接触させた後、固体触媒成分(A)を接触させる方法。
手順(ii):撹拌機能及び温度制御機能を有する装置内において、全ての化合物を同時に接触させる方法。接触温度は、後述するα-オレフィンの重合温度で例示する温度を挙げることができる。撹拌機能及び温度制御機能を有する装置は、従来公知の装置を採用することができる。
【0086】
II.α-オレフィン系重合体の製造方法
本発明のα-オレフィン系重合体の製造方法は、前記本発明のα-オレフィン重合用触媒の製造方法から得られるα-オレフィン重合用触媒の存在下、α-オレフィンを単独重合又は共重合することを特徴とする。
本発明のα-オレフィン系重合体の製造方法は、上記固体触媒成分(A)、上記成分(B)および上記成分(C)をα-オレフィンの存在下で接触させることにより行ってもよい。
上記固体触媒成分(A)、上記成分(B)および上記成分(C)をα-オレフィンの存在下で接触させることにより、α-オレフィン重合用触媒が得られる。そして、当該α-オレフィン重合用触媒の存在下、α-オレフィンの単独重合又は共重合を行うことによりα-オレフィン系重合体を製造する。
【0087】
1.α-オレフィン
本発明において用いられるα-オレフィンは、エチレン、プロピレン、下記一般式(5)で表される炭素数4~22のα-オレフィン、ジエン類、及びスチレン類などが挙げられ、少なくともプロピレンを含むものであってよい。
R10-CH=CH2・・・(5)
(一般式(c)中、R10は、炭素数2~20の炭化水素基であり、分枝基を有してもよい。)
【0088】
炭素数4~22のα-オレフィンは、具体的には、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセ
-1、4-メチルペンテン-1などである。
本発明において重合に用いるα-オレフィンは、好ましくはプロピレンであり、プロピレンのみであってもよいし、プロピレンとエチレンの2種類の組み合わせであってもよいし、プロピレンと上記一般式(5)で表される炭素数4~22のα-オレフィンとの2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0089】
2.α-オレフィンの重合処理
α-オレフィンの重合は、炭化水素溶媒を用いるスラリー重合、実質的に溶媒を用いない液相無溶媒重合または気相重合などを用いてもよい。スラリー重合の場合の重合溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素溶媒が用いられる。
採用される重合方法は、連続式重合、回分式重合又は多段式重合などいかなる方法でもよい。
重合温度は、通常30℃~200℃程度、好ましくは50℃~150℃であり、その時分子量調節剤として水素を用いてもよい。
【0090】
また、1段目にα-オレフィン、好ましくはプロピレンの単独重合をした後に、2段目にランダム共重合を行うブロック共重合も実施可能である。
共重合性モノマーは、ランダム共重合においては15質量%まで、ブロック共重合においては50質量%まで使用することができる。中でも、プロピレンの単独重合およびブロック共重合が好ましく、特にプロピレンの単独重合および1段目がプロピレンの単独重合であるブロック共重合が最も好ましい。
【0091】
3.α-オレフィン系重合体
本発明により重合されるα-オレフィン系重合体のインデックスについては、特に制限はなく、各種用途に合わせて、適宜調節することができる。
【0092】
3-1.MFR(g/10分)
α-オレフィン系重合体のMFRは、0.01g/10分~10,000g/10分の範囲内であることが好ましく、特に好ましくは0.1g/10分~1,000g/10分の範囲内である。
【0093】
3-2.分子量分布
本発明の製造方法により得られるα-オレフィン系重合体は、分子量分布が広いことが好ましい。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比[Mw/Mn]は、分子量分布の広がりを表す指標であり、この値が大きいほど分子量分布が広いことを意味する。本発明で製造されるプロピレン系重合体は、5.8以上、15.0以下であることが好ましく、6.0以上、13.0以下であることが好ましい。
分子量分布 Mw/Mnは、具体的には後述に実施例に記載の方法で測定することができる。
【0094】
3-3.40℃可溶分(質量%)
本発明により製造されるα-オレフィン系重合体は、非晶成分が少なく、高い立体規則性を有することが好ましい。
α-オレフィン系重合体の非晶成分としての40℃可溶分は、用途によって好ましい範囲が異なるのが一般的である。例えば、一般射出用途などの硬い成形体が好まれる用途においては、ポリプロピレンの場合、40℃可溶分が好ましくは上限値が1.4質量%以下である。
【0095】
本発明により製造されるα-オレフィン系重合体は、非晶成分が少なく、分子量分布が広いことから、溶融物性も高く、優れた特性を有するものである。
また、このα-オレフィン系重合体は、収率も高く製造され、特に、高剛性化や高耐熱性化が要求される自動車部品や家電部品などの工業材料、あるいはべたつきの少ないことから包装材料などの用途に好適に用いることができる。
【実施例0096】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
【0097】
(1)チタン含量:
試料を精確に秤量し、加水分解した上で比色法を用いて測定した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた質量を用いて含量を計算した。
【0098】
(2)フタル酸エステル含量:
試料を精確に秤量し、試料を硫酸で分解したのち、フタル酸エステルをヘプタンに抽出した。ガスクロマトグラフィーを用いて標準サンプルと比較する事により、得られたヘプタン溶液中のフタル酸エステル濃度を求めた。ヘプタン中のフタル酸エステル濃度と試料の質量から、試料に含まれるフタル酸エステルの含量を計算した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた質量を用いて含量を計算した。
【0099】
(3)アルコキシシラン化合物含量:
試料を精確に秤量し、メタノールで分解した。ガスクロマトグラフィーを用いて標準サンプルと比較する事により、得られたメタノール溶液中のケイ素化合物濃度を求めた。メタノール中のケイ素化合物濃度と試料の質量から、試料に含まれるケイ素化合物の含量を計算した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた質量を用いて含量を計算した。
【0100】
(4)MFR:
タカラ社製メルトインデクサーを用い、JIS-K6921に基づき、230℃、21.18Nの条件で評価した。
【0101】
(5)40℃可溶分(TREF):
TREFによる40℃可溶分量の測定は、以下のとおりである。
試料を140℃でオルトジクロロベンゼンに溶解し溶液とした。これを140℃の昇温溶出分別クロマトグラフ(TREF)カラムに導入した後、8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で40℃まで冷却後、40℃で10分間保持した。
その後、溶媒であるオルトジクロロベンゼンを1mL/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で40℃のオルトジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、40℃可溶分を求めた。
用いたTREFの装置構成は、以下の通りである。
・カラムサイズ:4.3mmφ×150mmステンレスカラム
・カラム充填材:100μm 表面不活性処理ガラスビーズ
・溶媒:オルトジクロロベンゼン
・試料濃度:5mg/mL
・試料注入量:0.1mL
・溶媒流速:1mL/分
・検出器:波長固定型赤外検出器、FOXBORO社製、MIRAN、1A
・測定波長:3.42μm
【0102】
(6)Mw/Mn
本発明において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定したものであり、その測定法、測定機器の詳細は、以下の通りである。
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC、150C)
検出器:FOXBORO社製MIRAN、1A、IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:o-ジクロロベンゼン(ODCB)
測定温度:140℃
流速:1.0ml/分
注入量:0.2ml
測定試料は、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて、試料を1mg/mLの溶液となるように調製し、140℃で約1時間を要して溶解させて調製した。なお、得られたクロマトグラムのベースラインと区間は、
図1のように行う。
また、GPC測定で得られた保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは、何れも東ソー社製の以下の銘柄である。
銘柄:F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000
各々が0.5mg/mLとなるように、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して、較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
【0103】
(実施例1)
[固体成分(a1)の調製]
撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエン2Lを導入した。
ここに、室温で、マグネシウム源としてジエトキシマグネシウム(Mg(OEt)2)を200g、チタン源として四塩化チタン(TiCl4)を1L添加した。
温度を90℃に上げて、電子供与体としてフタル酸ジ-n-ブチル(DBP)を50ml導入した。
その後、温度を110℃に上げて3時間反応を行った。そして、反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。
次いで、オートクレーブに精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。
その後、室温でTiCl4を1L添加し、温度を110℃に上げて2時間反応を行った。
そして、反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。
次いで、再度、オートクレーブに精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。
室温でTiCl4を1L添加し、温度を110℃に上げて2時間反応を行った。
ここから得られた反応生成物は、精製したトルエンで充分に洗浄した。更に、精製したn-ヘプタンを用いて、トルエンをn-ヘプタンで置換した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って固体成分(a1-1)を得た。
この固体成分(a1-1)を分析したところ、チタンが363.3μmol/g、電子供与体としてDBPが407.1μmol/g含まれていた。
【0104】
[固体触媒成分(A)の調製(工程1)]
撹拌装置、温度計を備えた500ml丸底フラスコを充分に窒素で置換し、上記固体成分(a1-1)4gと精製したn-ヘプタン200mLを導入した。
次いで、室温で成分(a3)としてジメチルジビニルシランを0.72g、成分(a2)としてジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPDMS)を0.37g(1.6mmol)、成分(a4)としてトリエチルアルミニウム(AlEt3)のn-ヘプタン希釈液をAlEt3として1.7g添加し、30℃で2時間反応を行った。反応終了後、反応生成物を精製したn-ヘプタンで充分に洗浄した後、真空乾燥を行って固体触媒成分(A-1)を得た。
この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、チタンが276μmol/g、電子供与体としてDBPが44μmol/g、成分(a2)としてDCPDMSが223μmol/g含まれていた。
【0105】
[α-オレフィン重合用触媒の調製(工程2)およびプロピレンの重合]
撹拌及び温度制御装置を有する内容積3.0Lのステンレス鋼製オートクレーブを真空下で加熱乾燥し、室温まで冷却してプロピレン置換した。その後、成分(B)としてAlEt3のn-ヘプタン希釈液をAlEt3として550mg、成分(C)としてn-ヘキシルトリエトキシシラン(nHTES)を120mg及び水素を8000ml導入した。次いで、液体プロピレンを1000g導入して、内部温度を70℃に合わせた。その後、上記の固体触媒成分(A-1)を5mg圧入して、プロピレンを重合させた。1時間後にエタノールを10ml圧入して重合を停止した。得られたポリプロピレンを乾燥して秤量した。結果を表1に示す。
【0106】
(実施例2)
[固体触媒成分(A)の調製(工程1)]
実施例1において、成分(a2)としてDCPDMSを0.99g(4.24mmol)用いた以外は,実施例1と同様に調製を行って、固体触媒成分(A-2)を得た。この固体触媒成分(A-2)のポリプロピレンを除いた部分には電子供与体としてDBPが54μmol/g、含まれていた。その他の分析結果については、表1に示す。
[α-オレフィン重合用触媒の調製(工程2)およびプロピレンの重合]
固体触媒成分(A-1)の代わりに上記固体触媒成分(A-2)を用いた以外は、実施例1と同様に調製及び重合を行った。結果を表1に示す。
【0107】
(実施例3)
[固体触媒成分(A)の調製(工程1)]
実施例1において、成分(a3)としてトリメチルビニルシラン0.69gを用い、成分(a2)としてジイソプロピルジメトキシシラン(DIPDMS)0.64g(2.76mmol)を用いた以外は実施例1と同様に調製を行って、固体触媒成分(A-3)を得た。この固体触媒成分(A-3)のポリプロピレンを除いた部分には、電子供与体としてDBPが46μmol/g含まれていた。その他の分析結果については、表1に示す。
[α-オレフィン重合用触媒の調製(工程2)およびプロピレンの重合]
固体触媒成分(A-1)の代わりに上記固体触媒成分(A-3)を用い、成分(C)としてtert-ブチルトリエトキシシラン(tBTES)106mgを用いた以外は、実施例1と同様に調製及び重合を行った。結果を表1に示す。
【0108】
(比較例1)
[α-オレフィン重合用触媒の調製(工程2)およびプロピレンの重合]
撹拌及び温度制御装置を有する内容積3.0Lのステンレス鋼製オートクレーブを真空下で加熱乾燥し、室温まで冷却してプロピレン置換した。その後、成分(B)としてAlEt3を550mg、成分(C)としてnHTESを108mg導入し、さらにDCPDMSを110mg及び水素を8000ml導入した。次いで、液体プロピレンを1000g導入して、内部温度を70℃に合わせた。その後、実施例1と同様にして得られた固体成分(a1-1)5mgを圧入して、プロピレンを重合させた。1時間後にエタノールを10ml圧入して重合を停止した。得られたポリプロピレンを乾燥して秤量した。結果を表1に示す。
【0109】
(比較例2)
[固体触媒成分(A)の調製(工程1)]
実施例1において、成分(a2)としてDCPDMSを0.99g(4.24mmol)用い、さらにnHTESを0.70g(2.82mmol)用いた以外は実施例1と同様に調製を行って、固体触媒成分(CA-1)を得た。この固体触媒成分(CA-1)のポリプロピレンを除いた部分には、nHTESが158μmol/g含まれていた。その他の分析結果については、表1に示す。
[α-オレフィン重合用触媒の調製(工程2)およびプロピレンの重合]
固体触媒成分(A-1)の代わりに上記固体触媒成分(CA-1)を用い、水素を8000mLから2000mLに変更し、成分(C)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様に重合を行った。結果を表1に示す。
【0110】
(比較例3)
[α-オレフィン重合用触媒を調製(工程2)およびプロピレンの重合]
比較例1において、成分(C)としてnHTESを120mg用い、DCPDMSを使用しなかったこと以外は比較例1と同様に重合を行った。結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
表中、略語は以下を表す。
DCPDMS:ジシクロペンチルジメトキシシラン
DBP:フタル酸ジ-n-ブチル
nHTES:n-ヘキシルトリエトキシシラン
tBTES:tert-ブチルトリエトキシシラン
【0112】
(考察)
表1から明らかなように、実施例及び比較例を対照検討すると、本発明により製造されるα-オレフィン重合用触媒によれば、分子量分布が広く、40℃可溶分(非晶成分)が少ないポリプロピレンを高活性に製造することができる。
比較例1は、特許文献2のように、工程2において成分(a2)相当のジアルコキシシラン化合物と成分(C)相当のトリアルコキシシラン化合物を併用した例である。この場合、分子量分布が広がらず、40℃可溶分(非晶成分)も増加した。比較例1において分子量分布が広がらなかった要因は、成分(a2)相当のジアルコキシシラン化合物と成分(C)相当のトリアルコキシシラン化合物の触媒に対する配位力が異なるために、工程2で適切な比率に制御することが困難であるためだと考えられる。
比較例2は、工程1において、成分(a2)、成分(a3)及び成分(a4)と共に、成分(C)に相当するトリアルコキシシラン化合物を併用し、工程2において成分(C)を使用しなかった例である。この場合も分子量分布が広がらず、40℃可溶分も増加した。比較例2において分子量分布が広がらなかった要因は、この調製方法では成分(a2)及び成分(C)の使用比率によって固体触媒成分(A)に含まれる成分(a2)と成分(C)の比率は変化するが、どのような比率にあったとしても成分(C)が重合時に脱離し、成分(C)による水素応答性を有する活性点が重合時に存在しないためと考えられる。
比較例3は、工程1を行わず、工程2において成分(C)に相当するトリアルコキシシラン化合物を使用した例であるが、成分(a2)による水素応答性を有した活性種が存在しないため、この場合も分子量分布が広がらなかった。また、重合活性が大幅に低下し、40℃可溶分も増加した。
それに対して、前記成分(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を接触処理し、固体触媒成分(A)を得て、前記固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)及びトリアルコキシシラン化合物(C)を混合し、α-オレフィン重合用触媒を調製する工程を有して製造された本発明の実施例1~3のα-オレフィン重合用触媒によれば、高活性を維持しつつ、非晶成分が少なく、分子量分布が広い重合体が得られることが明らかにされた。