(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139952
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】評価方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20241003BHJP
G01B 11/06 20060101ALI20241003BHJP
F27B 7/42 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01B11/24 B
G01B11/06 Z
F27B7/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050911
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小亀 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】森 寛晃
(72)【発明者】
【氏名】星 健太
(72)【発明者】
【氏名】野中 潔
【テーマコード(参考)】
2F065
4K061
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA30
2F065AA53
2F065BB08
2F065DD06
2F065GG04
2F065MM16
2F065QQ25
2F065SS01
4K061AA08
4K061BA01
4K061GA09
(57)【要約】
【課題】作業者による作業量を抑制しつつ、長尺な円筒状の構造物の形状を評価できる方法を提供する。
【解決手段】この方法は、構造物の内側部を3Dレーザスキャナを用いてスキャニングして第一点群データを得る工程(a)と、第一点群データに対して円筒をフィッティング処理して第二点群データを取得する工程(b)と、構造物の長手方向に実質的に平行な基準方向を含む基準座標系を設定する工程(c)と、第二点群データを基準方向に沿って複数区画に分割されてなる第三点群データのそれぞれに対して円筒をフィッティング処理し、円筒の中心軸の基準座標系の下での式を決定する工程(d)と、複数の第三点群データ毎に円筒の中心軸と第三点群データに含まれる各点との離間距離を算出する工程(e)と、工程(e)で算出された離間距離の分布に基づいて構造物の内側部の表面状態を検知する工程(f)とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な円筒状の構造物の形状の評価方法であって、
前記構造物の測定対象領域の全域にわたって前記構造物の内側部を3Dレーザスキャナを用いてスキャニングして第一点群データを得る工程(a)と、
前記第一点群データに対して円筒をフィッティング処理して第二点群データを取得する工程(b)と、
前記第二点群データの一部によって形成される基準面、及び前記基準面に直交し前記構造物の長手方向に実質的に平行な基準方向を含む基準座標系を設定する工程(c)と、
前記第二点群データを前記基準方向に沿って複数区画に分割されてなる第三点群データのそれぞれに対して円筒をフィッティング処理し、フィッティングされた円筒の中心軸の前記第二点群データの前記基準座標系の下での式を決定する工程(d)と、
複数の前記第三点群データ毎に、前記工程(d)でフィッティングされた円筒の中心軸と前記第三点群データに含まれる各点との離間距離を、前記第二点群データの前記基準座標系に基づく座標情報に基づいて算出する工程(e)と、
前記工程(e)で算出された前記離間距離の分布に基づいて、前記構造物の前記測定対象領域にわたる前記内側部の表面状態を検知する工程(f)とを有することを特徴とする、評価方法。
【請求項2】
前記構造物は、内壁面に耐火煉瓦が付設されたキルンシェルであり、
前記工程(f)は、前記測定対象領域にわたる前記耐火煉瓦の摩耗程度を検知する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記工程(f)は、予め測定された、又は設計された前記キルンシェル外径の値から、前記工程(e)で算出された前記離間距離の差分を算出することで、前記測定対象領域にわたる前記耐火煉瓦の残厚の分布を検知する工程を含むことを特徴とする、請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記工程(c)において設定される前記基準面は、前記工程(b)でフィッティングされた円筒の端面であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺な円筒状の構造物の形状を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの材料となるクリンカを生成する際には、高温焼成が可能なロータリーキルンが利用される。ロータリーキルンは、円筒状のキルンシェルを有する。キルンシェルの内側の空間は最大で1300℃~1400℃にも達するため、キルンシェルの内壁には耐火煉瓦が敷き詰められているのが一般的である。
【0003】
ロータリーキルンの一方側(窯尻側)からキルンシェル内に投入された原料が、キルンシェルの回転に連れて回転しつつ、バーナが設置されている他方側(窯前側)に向かって移動しながら焼成されることで、クリンカが生成される。このため、原料又はクリンカ(以下、「原料等」という。)は、耐火煉瓦の面に接触しつつ回転し、壁面の勾配に応じて底部に向けて落下するという動作を繰り返しながら、焼成される。
【0004】
つまり、キルンシェルの内壁に敷き詰められている耐火煉瓦は、原料等と物理的に接触し、且つ、場所によっては運動量を伴って原料等と衝突する。このため、ロータリーキルンの利用に伴って、耐火煉瓦がすり減り、場合によっては耐火煉瓦の一部が崩落する事象が発生することがある。また、原料の焼成過程で気化した成分が耐火煉瓦の表面に付着・成長し(コーチング)、このコーチングが剥離することによって耐火煉瓦のすり減りや崩落を引き起こす場合もある。
【0005】
耐火煉瓦の摩耗の程度を把握し、適切なタイミングで耐火煉瓦を交換することは、耐火煉瓦の崩落や、残厚の小さい耐火煉瓦を通じてキルンシェルへの伝熱量が上昇することによるキルンシェルの塑性変形の発生等を抑制するために、重要である。
【0006】
かかる観点から、従来、定期的に耐火煉瓦の摩耗状態を把握するための点検作業が行われている。典型的には、点検対象となるロータリーキルンの数が多いことや、1回の点検作業に必要なマンパワー等に鑑み、年に2回程度の点検作業が行われる。
【0007】
耐火煉瓦の摩耗状況を把握するに際しては、従来、キルンシェル内部に立ち入った作業者によって、スケール等の計測器を用いて直接測定する方法が行われている。
【0008】
対象物の減肉量又は残厚量を計測する方法としては、以下の特許文献1~3の技術が知られている。
【0009】
特許文献1は、石油精製プラントや石油化学プラント等に設置される熱交換器チューブの腐食減肉量を計測する技術を開示する。特許文献1に開示された技術によれば、対象となる熱交換器チューブのうちの一部の管を抜き取って縦半分に切断して半割加工を施し、半割加工により露出した管の内面と外面をそれぞれ3Dスキャナでスキャンして得られた三次元形状データから減肉量を算出している。
【0010】
特許文献2に開示された技術によれば、耐火物が内張りされたキルンシェル内で、レーザー光線をキルンシェルの中心軸方向に対して平行に照射してレーザー光線から耐火物までの寸法を測定し、耐火物の厚さを測定している。
【0011】
特許文献3に開示された技術によれば、可動式の台車に測定装置を取り付け、散乱されたレーザー光束の移動量から炉体内部の耐火被覆部の残存厚さを求めると共に、二次元の等圧線で残存厚さを分布図で表している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2020-003420号公報
【特許文献2】特開2005-195380号公報
【特許文献3】特開平1-114705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載された方法は、測定対象物が大きい場合や、ロータリーキルン等のように一部を抜き取ることができない場合には、適用が困難である。また、特許文献2又は特許文献3に記載された方法は、測定対象物が大きい場合に、すべての箇所の厚みを測定するには、作業量が膨大になり煩雑である。
【0014】
また、キルンシェルの内側に敷き詰められた耐火煉瓦の厚みを測定する場面の他にも、例えばトンネル、下水道管、発電所の導水管等の大型の円筒状構造物において、内側の表面の変形や摩耗状況を検査したいという事情が存在する。しかし、上記特許文献1~3の方法は、前記した理由により、このような検査にも活用しづらい。
【0015】
本発明は、上記の課題に鑑み、作業者による作業量を抑制しつつ、長尺な円筒状の構造物の形状を評価できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、長尺な円筒状の構造物の形状の評価方法であって、
前記構造物の測定対象領域の全域にわたって前記構造物の内側部を3Dレーザスキャナを用いてスキャニングして第一点群データを得る工程(a)と、
前記第一点群データに対して円筒をフィッティング処理して第二点群データを取得する工程(b)と、
前記第二点群データの一部によって形成される基準面、及び前記基準面に直交し前記構造物の長手方向に実質的に平行な基準方向を含む基準座標系を設定する工程(c)と、
前記第二点群データを前記基準方向に沿って複数区画に分割されてなる第三点群データのそれぞれに対して円筒をフィッティング処理し、フィッティングされた円筒の中心軸の前記第二点群データの前記基準座標系の下での式を決定する工程(d)と、
複数の前記第三点群データ毎に、前記工程(d)でフィッティングされた円筒の中心軸と前記第三点群データに含まれる各点との離間距離を、前記第二点群データの前記基準座標系に基づく座標情報に基づいて算出する工程(e)と、
前記工程(e)で算出された前記離間距離の分布に基づいて、前記構造物の前記測定対象領域にわたる前記内側部の表面状態を検知する工程(f)とを有することを特徴とする。
【0017】
上記方法によれば、構造物の測定対象領域の全域にわたって、構造物の内側部が3Dレーザスキャナを用いてスキャニングされる。3Dレーザスキャナを用いることで、現場のありのままの姿を膨大な点群データ(第一点群データ)として得ることができる。この第一点群データに対して、構造物の内側部の形状に対応する円筒をフィッティングすることで、新たな座標系に基づく点群データ(第二点群データ)が得られる。
【0018】
ところで、長尺な構造物においては、現場に施工されてから年月が経過することで、自重により一部が撓むことがある。また、現場によっては地盤の沈下、断層のずれ等が起こる可能性も否定できない。つまり、第二点群データによって模擬された円筒の中心軸は、実際の構造物の内側部の中心軸と異なっている可能性がある。
【0019】
特に、構造物が大型である場合には、作業員が一見すると構造物の中心軸は直線状であるように見えるものの、構造物に微小な傾斜や撓みが発生している可能性は否定できない。このような場合、第二点群データに基づいて構造物の内側部の表面状態を評価すると、実際には表面に凹凸が存在するのに表面が平坦であるとの判断をしたり、逆に、実際には表面が平坦であるのに表面に凹凸が存在するとの判断をするリスクがある。つまり、構造物の形状を精度よく評価できない可能性がある。
【0020】
これに対し、上記方法によれば、3Dレーザスキャナによるスキャニングで得られた第一点群データを、構造物の長手方向に実質的に平行な方向(基準方向)に沿って複数の区画に分割し、この分割されたそれぞれの点群データ(第三点群データ)に対して改めて円筒をフィッティング処理される。このフィッティング処理により得られる、それぞれの第三点群データによって模擬された各円筒は、構造物を長手方向に仮想的に分割してなる小区画に対応する。
【0021】
言い換えれば、それぞれの第三点群データは、長尺な構造物を長手方向に仮想的に分割してなる小区画を模擬したデータである。上述したように、構造物が長尺である場合には、位置によっては中心軸がずれることがある。しかし、上記方法によって得られた第三点群データは、構造物を長手方向に実質的に分割した小区画毎にフィッティングされている。よって、仮に長尺な構造物の中心軸がずれていたとしても、小区画単位では中心軸のずれがほぼ存在しない。言い換えれば、ある小区画の中心軸と、別の小区画の中心軸とを異なる位置に設定することが可能となる。
【0022】
よって、それぞれの第三点群データに対してフィッティングされた円筒の中心軸と、第三点群データに含まれる各点との離間距離を、それぞれの円筒毎に算出することで、長尺な構造物を長手方向に分割してなる小区画毎に、構造物の内側部の表面状態を評価することができる。
【0023】
また、工程(b)において、予め構造物の測定対象領域の全域にわたってスキャニングすることで得られた第一点群データに対して円筒をフィッティング処理することで、第二点群データが得られている。このため、この第二点群データに含まれる各点群データの、基準座標系に基づく座標情報が特定される。よって、小区画単位でフィッティングされた第三点群データの各点の座標についても、前記基準座標系に基づく座標情報で規定することができる。つまり、第三点群データに対してフィッティングされた各円筒の中心軸が異なっていたとしても、それぞれの中心軸及び各点群データの位置については、基準座標系に基づく情報で規定できるため、各円筒の中心軸と第三点群データに含まれる各点との離間距離を、例えば一般的な幾何学的手法に基づく演算によって簡単に算出できる。
【0024】
工程(b)及び工程(d)は、工程(a)で3Dレーザスキャナによって得られたデータを利用して、演算処理装置が所定のソフトウェアプログラムを実行することで、実行されるものとしても構わない。また、工程(c)、工程(e)、及び工程(f)についても、演算処理装置が、ソフトウェアプログラムを実行することで、実行されるものとしても構わない。
【0025】
なお、工程(c)において設定される基準方向は、第一点群データを分割する方向を規定する際に用いることができる。この分割方向は、長尺な構造物の長手方向に沿っているが、完全な意味において平行である必要はない。言い換えれば、基準方向が「長手方向に実質的に平行」であるとは、構造物の長手方向に沿っていると認められるに足りる程度に、長手方向に近い方向であることを意味する。典型的には、基準方向と長手方向とがなす角度の絶対値は15°以下であり、好ましくは10°以下であり、より好ましくは5°以下である。
【0026】
前記構造物は、内壁面に耐火煉瓦が付設されたキルンシェルであり、
前記工程(f)は、前記測定対象領域にわたる前記耐火煉瓦の摩耗程度を検知する工程を含むものとしても構わない。
【0027】
上述したように、従来、キルンシェル内の耐火煉瓦の摩耗量は、キルンシェル内部に立ち入った作業者によって、スケール等の計測器を用いて直接測定されていた。このため、キルンシェルの天井に近い上部や手の届かない範囲については、目視によって異常がないかどうかを判断するに留まっていた。このため、評価結果が作業者の作業の習熟度に依存するおそれがあった。
【0028】
これに対し、上記方法によれば、3Dレーザスキャナが用いられているため、キルンシェルの内側の状態を、現場のありのままの姿を表現する点群データとして作成できる。よって、この点群データに基づいて耐火煉瓦の摩耗程度を評価することで、作業担当者による測定結果に差が生じない。更に、この方法によれば、現場作業の時間・人員を大幅に削減できる、作業時の安全性が担保される、人間が測定できないような場所の測定が可能になる、といった効果も期待される。
【0029】
更に、上記方法によれば、長尺なキルンシェルが自重によって撓んでいたとしても、キルンシェルを長手方向に分割してなる小区画毎に、円筒をフィッティングされてなる第三点群データが用いられる。このため、上述したように、それぞれの第三点群データがフィッティングされた円筒毎に中心軸を設定できるため、円筒毎に中心軸と点群データとの離間距離を算出することで、キルンシェルを長手方向に分割してなる小区画毎に、キルンシェルの内側部の表面状態を検知できる。より具体的には、中心軸と点群データとの離間距離が相対的に長い箇所は、耐火煉瓦の摩耗が進行していると評価できる。
【0030】
前記工程(f)は、予め測定された、又は設計された前記キルンシェルの内径の値から、前記工程(e)で算出された前記離間距離の差分を算出することで、前記測定対象領域にわたる前記耐火煉瓦の残厚の分布を検知するものとしても構わない。
【0031】
前記工程(c)において設定される前記基準面は、前記工程(b)でフィッティングされた円筒の端面であるものとしても構わない。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、作業者による作業量を抑制しながらも、長尺な円筒状の構造物の形状を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明に係る構造物の形状の評価方法の一実施形態の手順を模式的に示すフローチャートである。
【
図2】キルンシェルの内側面をスキャニングする際の状況を模式的に示す図面である。
【
図3】スキャニング作業時の一例を、キルンシェルの長手方向に見たときの写真である。
【
図4】演算処理装置の構成の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図5】座標空間が変換された点群データ(第二点群データ)の例である。
【
図6】
図5に示す第二点群データに基準座標系を重ね合わせた図面である。
【
図7】フィッティングされた円筒の中心軸と、実際のキルンシェルの中心軸とがずれている状況を説明するための模式的な図面である。
【
図8】区画毎に点群データを円筒にフィッティングすることを説明するための模式的な図面である。
【
図9】区画毎に点群データを円筒にフィッティングすることを説明するための模式的な図面である。
【
図10】耐火煉瓦の残厚を算出する方法を説明するための模式的な図面である。
【
図11】耐火煉瓦の残厚の分布を3D形式で表記した、3Dコンター図の一例である。
【
図12】3Dコンター図からキルン展開図を生成する方法を模式的に示す図面である。
【
図13】キルン展開図の一例であり、比較例及び実施例についてそれぞれ図示されている。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下において、本発明に係る構造物の形状の評価方法の実施形態について、適宜図面を参照して説明する。ただし、以下の図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比は実際の寸法比と一致していない。また、各図面間においても、寸法比は必ずしも一致していない。
【0035】
この方法は、長尺な円筒状の構造物の形状を評価する際に利用が可能であり、より典型的には、大型な構造物の評価に適している。このような構造物の典型例としては、ロータリーキルンのキルンシェルが挙げられる。構造物の他の例としては、トンネル、下水道管、工場配管、発電所の導水管等が挙げられる。
【0036】
この方法によれば、上記において例示した長尺な円筒状の構造物の形状を評価することができ、より具体的には、構造物の円筒内側の表面状態を評価することができる。ここでいう表面状態とは、表面に凹凸が存在しているかどうか、凹凸がどのような態様で存在しているか等を示している。凹凸の存在態様とは、より具体的には、凹凸の発生位置、凹凸の大きさ(面積、深さ)、凹凸の分布等である。例えば円筒内側の壁が一部剥がれて落ちている場合、剥がれ落ちた箇所は周囲よりも凹んでいるため、その領域には凹凸が存在することになる。
【0037】
以下の実施形態では、評価対象となる構造物がセメントキルンのキルンシェルである場合を例に挙げて、説明される。
【0038】
図1は、本発明に係る構造物の形状の評価方法の一実施形態の手順を模式的に示すフローチャートである。以下、
図1に示すフローチャートを参照しながら、本実施形態の評価方法について説明する。
【0039】
(ステップ#1)
まず、対象となる円筒状の構造物の内側部分が、3Dレーザスキャナによってスキャニングされる。この実施形態では、セメントキルンのキルンシェル1の内側が、3Dレーザスキャナによってスキャニングされる。
図2は、スキャニング作業を行う際の模式的な図面である。また、
図3は、スキャニング作業の実行時の様子の一例を、キルンシェル1の長手方向に見たときの写真である。
【0040】
キルンシェル1は、長尺な円筒状を呈しており、その内側には耐火煉瓦が敷き詰められている。一例として、キルンシェル1の長手方向に係る長さは100m、内径(半径)は設計値にて2.75mである。また、キルンシェル1の内側に設けられた耐火煉瓦の1個あたりの大きさの一例は、施工初期時点(摩耗前)において、縦10cm×横20cm×高さ25cmである。
【0041】
本実施形態における3Dレーザスキャナ11は、測定対象物(ここではキルンシェル1の内壁)にレーザ光を照射し、測定対象物から反射した光を受光する。3Dレーザスキャナ11は、出射光と反射光との位相差を検知することで、光放射窓と測定対象物との距離を算定する。このような方式は、一般的に「位相差方式」と呼ばれる。
【0042】
3Dレーザスキャナ11は、典型的には、本体が水平面に沿って180°回転可能であり、レーザ光の光放射窓及び受光部を含む計測部が、水平面を構成する1つの軸と鉛直軸とで形成された平面に沿って鉛直方向に360°回転可能である。このように、計測部を360°回転させながら、本体全体を180°水平回転させることができるため、短時間で高精度の全周囲のデータを取得することが可能となる。具体例としては、3Dレーザスキャナ11によって、4000万点/3分間の座標を計測することが可能となる。
【0043】
キルンシェル1のように、評価対象物の長手方向に係る長さが長い場合には、3Dレーザスキャナ11を1箇所に設置して全ての点群の座標を計測すると、遠方の箇所の測定結果の精度が低くなる。このような場合には、3Dレーザスキャナ11の設置箇所を移動させながら、複数回計測するものとしてよい。
【0044】
具体的には、
図2に示すように、設置箇所a1において3Dレーザスキャナ11を用いてスキャニングを行った後、3Dレーザスキャナ11を設置箇所a2に移動させて同様にスキャニングを行う。キルンシェル1の長手方向の長さに応じて、3Dレーザスキャナ11の設置箇所の移動とスキャニングを繰り返し実行する。
【0045】
このような方法を採用する場合には、それぞれの設置箇所でスキャニングを行って得られた点群データを合成する観点から、目印となるリファレンスボール13を任意の位置に設置しておくのが好ましい。リファレンスボール13もスキャニング対象とすることで、隣接する設置箇所の下で得られた点群データ同士を、精度よく合成できる。かかる観点から、リファレンスボール13は、後方側に隣接する設置箇所から3Dレーザスキャナ11によってスキャニング可能な領域と、前方側に隣接する設置箇所から3Dレーザスキャナ11によってスキャニング可能な領域の両者に含まれる位置に設置される。
【0046】
一例として、3Dレーザスキャナ11の設置箇所(a1,a2,a3,…)は、10m~20m間隔とすることができる。なお、上記では、3Dレーザスキャナ11の設置箇所を移動させながらスキャニングを行うとしたが、複数の3Dレーザスキャナ11を準備して、それぞれの3Dレーザスキャナ11を、異なる箇所(a1,a2,a3,…)に設置しても構わない。この場合には、それぞれの3Dレーザスキャナ11で得られた点群データを、別の演算処理装置に出力し、演算処理装置側で合成処理が行われるものとして構わない。
【0047】
点群データの間隔(測定ピッチ)は、キルンシェル1の寸法に応じて適宜設定されるものとして構わない。一例として、長手方向の距離10m~20mにわたってスキャニングするときの点群データの測定ピッチは、5~15mmが好ましく、12mm程度がより好ましい。
【0048】
ステップ#1によって、キルンシェル1の内側の壁面の状況を模擬した、多数の点群データが得られる。この点群データを「第一点群データ」と称する。
【0049】
ステップ#1は、工程(a)に対応する。
【0050】
(ステップ#2,ステップ#3)
次に、ステップ#1で得られた第一点群データdc1(
図4参照)に対し、円筒をフィッティングする処理を行う。詳細には、このステップ#2は、第一点群データdc1の座標空間に対して、円筒形状との比較を行いやすい座標空間に変換する工程と、変換後の座標空間において中心軸がZ軸と一致し、半径がdである円筒をフィッティングする工程とを含む。フィッティング処理を行う機能は、3Dレーザスキャナ11自体に搭載されていても構わないし、3Dレーザスキャナ11とは異なる演算処理装置に搭載されていても構わない。ここで、座標が変換された第一点群データを「第二点群データdc2」と称する。第二点群データdc2(
図4参照)は、各々の座標が座標空間の変換に伴い変化しているが、互いの位置関係は第一点群データdc1と変わらない。座標空間を区別しない場合には、単に「点群データ」と称する。
【0051】
図4は、演算処理装置によってフィッティング処理が行われる場合の、演算処理装置の構成を模式的に示すブロック図である。この実施形態では、演算処理装置20が、フィッティング処理に加えて、キルンシェル1の内側の表面状態を評価する機能を有している場合が例示されている。
【0052】
図4に示す演算処理装置20は、フィッティング処理部21、分割処理部24、表面状態評価部25、記憶部27、及び出力部29を備えている。フィッティング処理部21、分割処理部24、及び表面状態評価部25は、いずれも所定の演算処理が実行可能なソフトウェア又は専用のハードウェアで構成される。分割処理部24、及び表面状態評価部25の詳細については、ステップ#3以後の箇所で後述される。
【0053】
記憶部27は、演算結果を一時的に記録するための領域であり、ハードディスク、フラッシュメモリ等の記憶媒体で構成される。出力部29は、演算結果を出力するための機能的手段である。出力部29としては、演算処理装置20自体に情報を出力するためのモニタ、他の装置に対して無線又は有線を介して情報を出力するためのインタフェース等で構成される。
【0054】
フィッティング処理部21は、3Dレーザスキャナ11を用いてステップ#1で得られた第一点群データdc1に対して、円筒をフィッティングする処理を行う。ただし、本発明において、フィッティングする方法は限定されない。
【0055】
上述したように、円筒にフィッティングする処理を行うに際しては、まず、円筒形状との比較を行いやすくするための座標空間の変換処理が行われる。すなわち、フィッティング処理部21は、3Dレーザスキャナ11によって得られた第一点群データdc1に対して演算処理を行うことで座標変換を行って、第二点群データdc2を算出する。
【0056】
第一点群データdc1に対してフィッティングする円筒の中心軸の方向に平行な方向にZ軸を定め、それに直交するようにX軸及びY軸を定める。
【0057】
まず、Z軸の向きを仮に定めるために、3次元座標空間であるx-y-z空間上に点A(xA, yA, zA)、点B(xB, yB, zB)の2点を仮定する。任意の計測点と、点A及び点Bを結ぶ線分ABとの離間距離は、幾何学的に算出される。以下ではi番目の計測点と線分ABとの距離をDiと記載する。
【0058】
次に、第一点群データdc1にフィッティングする円筒の半径dを、下記(1)式で規定される誤差の最小二乗和εが最小となるように決定する。具体的な演算方法の一例としては、下記(1)式において、dの値を少しずつ変化させながらεの値を算出し、このεの値が最小となるdを探索する方法を採用できる。このような演算を経て導出されたεの最小値を、以下では、εABと記載する。
【0059】
【0060】
次に、点A、点Bの座標を変化させながら、前述した演算処理が繰り返し行われる。この演算により、各点A及び点Bの組み合わせ毎に、最小二乗和εABが得られる。
【0061】
このようにして得られた、それぞれの最小二乗和εAB同士を比較して、εABの値が最小値を示す点A及び点Bの組み合わせ、及びこのときのdの値を特定する。このようにして特定された点A及び点Bを結ぶ線分ABの向きが、Z軸の向きに定められる。また、このときのdの値が、第一点群データdc1に対してフィッティングする円筒の半径となる。
【0062】
X軸及びY軸の向きは、任意に定めることが可能である。一例として、元のx-y-z空間におけるz軸と新たに定めたZ軸の両方に直交する方向をX軸とし、Z軸とX軸の両方に直交する方向をY軸と定めるものとしても構わない。
【0063】
上記処理によって、新たなZ軸、X軸、及びY軸の向きが定められる。上述したように、第一点群データdc1に対してフィッティングする円筒は、中心軸がこの座標系におけるZ軸と一致し、半径がdに一致する。原点は、線分AB上の任意の位置に設定される。原点は線分AB上であれば任意に定めてよい。一例としては、新たに設定された基準座標系(X-Y-Z座標系)におけるZ=0の下でのX-Y平面上に、x-y-z座標系における原点が位置するように、X-Y-Z座標系の原点が設定される。このようにして、新たなX-Y-Z座標系を定めることができる。
【0064】
以上により、第一点群データdc1を座標空間の異なるデータとして変換することで得られた第二点群データdc2に対して、フィッティングする円筒は、側面が式X
2+Y
2=d
2で、端面がZ=0で表現される。
図5は、このような処理を経て変換された第二点群データdc2の一例を示す図面であり、
図6は、
図5にX-Y-Z座標系を付記した図面である。
【0065】
以上により、フィッティング処理部21における演算処理によって、第一点群データdc1に対して円筒をフィッティングする処理が行われ(工程(b)に対応)、更に、基準となる座標系(X-Y-Z座標系)が特定される(工程(c)に対応)。フィッティングした円筒の中心軸(ここではZ軸)に関する情報、すなわち基準方向に関する情報は、記憶部27に記録されるものとして構わない。また、
図6に示すように、第一点群データdc1に対してフィッティングした円筒の端部位置の面を、基準面18としても構わない。
【0066】
(ステップ#4)
次に、ステップ#2で得られた第二点群データdc2が、ステップ#3で設定された基準方向(ここではZ軸方向)に沿って複数区画に分割される。この分割された点群データを、便宜上、「第三点群データdc3」と呼ぶ。
【0067】
ステップ#2において得られた第二点群データdc2は、記憶部27に記録されているものとして構わない。このステップ#4は、分割処理部24が、記憶部27から第一点群データdc1に関する情報を読み出して、後述する処理を行うものとして構わない。
【0068】
分割処理部24は、ステップ#2で決定した基準方向(すなわち中心軸17の方向)と、所定の分割数に基づいて、第二点群データdc2を複数区画に分割する。これにより、第二点群データdc2は、区画毎に分割された、複数の第三点群データdc3に変換される。なお、この分割処理において、各区画の幅は全て均一であっても構わないし、異なっていてもよい。
【0069】
次に、このようにして得られた複数の第三点群データdc3が、フィッティング処理部21において、それぞれ円筒にフィッティング処理される。フィッティング処理の方法は、ステップ#2と同様の方法で行われる。つまり、この処理によって、それぞれの第三点群データdc3に対してフィッティングされた円筒の中心軸が、第二点群データの基準座標系の下での式で規定される。
【0070】
キルンシェル1は長尺な構造物であるため、現場に施工されてから年月が経過することで、自重により一部が撓むことがある。このため、キルンシェル1の内側表面に基づく第一点群データdc1が、ステップ#2において第一点群データdc1にフィッティング処理された円筒の形状と大きく異なる場合があり得る。
【0071】
図7は、上記の点を誇張して図示した図面である。本来、第二点群データdc2の中心軸の位置は、Z軸方向(キルンシェル1の長手方向)の位置に応じて変化するはずである。言い換えれば、ステップ#2の処理によって決定された、第二点群データdc2がフィッティングする円筒の中心軸17は、キルンシェル1の内側空間の中心軸を正しく模擬していない可能性がある。
【0072】
これに対し、本ステップ#4では、第二点群データdc2が予めZ方向に関して小区画ごとに分割されて得られた第三点群データdc3に対して、円筒がフィッティングされる。この結果、
図8に示すように、Z方向の異なる位置で異なる円筒形状にフィッティングされた、複数の第三点群データdc3が得られる。
【0073】
この結果、
図7に示したようにキルンシェル1の中心軸のX方向に係る位置がZ座標の位置に応じて変化したとしても、小区画毎に異なる中心軸を有する円筒をフィッティングできる(
図9参照)。
図9では、ある第三点群データdc3が、中心軸35aを有する円筒31aにフィッティングされ、別の第三点群データdc3が、中心軸35bを有する円筒31bにフィッティングされ、更に別の第三点群データdc3が、中心軸35cを有する円筒31cにフィッティングされた場合が、模式的に示されている。
【0074】
(ステップ#5)
ステップ#4で得られたそれぞれの第三点群データdc3に対して、ステップ#3と同様の処理が行われることで、各円筒(31a,31b,31c,…)の中心軸(35a,35b,35c,…)の、基準座標系X-Y-Zの下での式が決定される。
【0075】
そして、表面状態評価部25において、それぞれの第三点群データdc3に対して、対応する円筒(31a,31b,31c,…)の中心軸(35a,35b,35c,…)との間の離間距離が、例えば幾何学的手法に基づく演算によって算出される。
【0076】
円筒31aによってフィッティングされた、第三点群データdc3を例に挙げて説明する。この第三点群データdc3は、キルンシェル1の内側の空間を、キルンシェル1の長手方向に沿って仮想的に分割されてなる小領域の表面状態が再現されている。つまり、この第三点群データdc3によって示されている各点と、円筒31aの中心軸との離間距離に関し、この値が周囲よりも長い箇所は、内壁の位置が中心軸から離れる方向に存在していることを表す。
【0077】
(ステップ#6)
表面状態評価部25は、ステップ#5で算出された、第三点群データdc3によって示されている各点と円筒31aの中心軸との離間距離に基づいて、キルンシェル1の内側の表面状態を評価する。
【0078】
例えば、キルンシェル1の内径(半径)Rの設計値は、キルンシェル1を含むセメントキルンの仕様書、設計書等によって予め分かっている場合がある。このため、
図10に示すように、第三点群データdc3に含まれるある点iにおいて、円筒31bの中心軸35bとの離間距離riと、キルンシェル1の内径Rとの差分値Biを算出することで、当該点iに対応する箇所における、キルンシェル1の内側に残存する耐火煉瓦の厚みに関する情報が得られる。同様の算出処理が、同一の円筒31bによってフィッティングされた第三点群データdc3に属する全ての点に対して行われることで、この円筒31bによって模擬されているキルンシェル1の内側壁面の小区画における、残存する耐火煉瓦の厚みの分布が算出される。
【0079】
このような処理を、
図9に示す全ての円筒(31a,31b,31c,…)に対して行うことで、キルンシェル1の長手方向全域にわたって、内側壁面に残存する耐火煉瓦の厚みの分布を算出できる。
【0080】
なお、上記の説明では、各円筒(31a,31b,31c,…)ごとに、それぞれの円筒によってフィッティングされた第三点群データdc3に属する全ての点に対して、中心軸との離間距離と内径との差分の演算が行われるものとした。しかし、計算量を軽減する観点から、第三点群データdc3に属する複数の点から、所定の間隔毎に計算対象となる点を抽出し、この抽出された点に対してのみ、上記の差分演算が行われるものとしても構わない。
【0081】
上記の方法で算出された、キルンシェル1の長手方向全域にわたる耐火煉瓦の厚みの分布の情報は、視覚的に視認しやすくする観点から、
図11に例示されるような3Dコンター図として表記されるものとしても構わない。この表記のための演算処理についても、表面状態評価部25において行われるものとしても構わない。
【0082】
上述したように、キルンシェル1内には、複数の耐火煉瓦が敷き詰められている。このため、耐火煉瓦の残厚の算出後、貼り替えが必要な耐火煉瓦の位置や数を容易に特定できる態様で情報が出力されるのが好ましい。このような観点から、表面状態評価部25は、上記の3Dコンター図を平面状に展開した展開図(以下、「キルン展開図」と称する。)を作成する機能を有していてもよい。
【0083】
図12は、3Dコンター図からキルン展開図を生成する方法を模式的に示す図面である。キルン展開図は、
図12に示すように、3Dコンター図を、中心軸と直交する断面の周方向を一方の軸とし、中心軸方向を他方の軸とする平面状に展開することで作成される。この際、各領域毎に、残厚の範囲に応じて色分け表記をすることで、キルンシェル1の内壁のどの位置に耐火煉瓦の残厚が薄いかが一目でわかり、貼り替え等の補修作業の計画や摩耗量の予測等に資することができる。
【0084】
図13は、上記の手順に沿って生成したキルン展開図の例である。比較例は、ステップ#2で得られた第二点群データdc2に基づいて、キルンシェル1全体のフィッティングを行った円筒に対する離間距離から算出した耐火煉瓦の厚みの分布を、キルン展開図として表記したものである。実施例は、上記で説明したように、ステップ#4において、キルンシェル1の長手方向に分割された小区画毎にフィッティングを行い、このフィッティングに際して利用された複数の円筒のそれぞれに対する離間距離から算出した耐火煉瓦の厚みの分布を、キルン展開図として表記したものである。
【0085】
ロータリーキルンでは、キルンシェルが周方向に回転しながら原料を窯前側に搬送しつつ焼成される。このため、キルンシェルの長手方向に係る位置が同一であれば、周方向の耐火煉瓦に対する摩耗の程度は、通常同程度であることが予想される。
【0086】
しかし、
図13の比較例の結果によれば、例えば領域A1内においては、中心軸方向(長手方向)に係る位置が同一であるにもかかわらず、周方向で耐火煉瓦の残厚に大きな変位が生じていることが確認される。この理由は、
図7を参照して上述したように、キルンシェル1を計測して得られた第一点群データdc1が、第一点群データdc1に対してフィッティングする単一の円筒の形状と大きく異なることに起因するものと考えられる。詳細には、キルンシェル1の中心軸が、長手方向の位置に応じて多少変位するにもかかわらず、第二点群データdc2では、同一の中心軸を有する円筒にフィッティングされている。このため、当該中心軸とキルンシェル1の内側壁面との離間距離に基づいて耐火煉瓦の残厚を算定すると、長手方向に関して、フィッティングされた円筒の中心軸と実際のキルンシェル1の中心軸との間にずれが生じた箇所については、周方向で耐火煉瓦の残厚に大きな差異が生じているものと推察される。
【0087】
これに対し、
図13の実施例の結果によれば、同じ領域A1内において、周方向で耐火煉瓦の残厚がほぼ均一である。このことは、
図8~
図9を参照して上述したように、複数の仮想円筒体の中心軸が、キルンシェル1の長手方向における位置に応じた中心軸の位置をほぼ再現できているためと考えられる。
【0088】
検証の結果、キルンシェル1は、自重等に起因して、長手方向に関して10m進むと断面の中心軸の位置が5mm~10mm程度ずれる場合があることが確認された。標準的な耐火煉瓦の初期厚みは20cm~30cm程度である。よって、例えば耐火煉瓦の残厚を5mm単位で計測したい場合には、ステップ#4における分割単位を5m以下とすることで、中心軸のずれを5mm以下にすることが可能となり、中心軸のずれに起因した耐火煉瓦の残厚の推定誤差を、許容範囲内に留めることができる。更に、ステップ#4における分割単位を2m以下とすれば、中心軸のずれを3mm以下にすることが可能となり、中心軸のずれに起因した耐火煉瓦の残厚の推定誤差を実質的になくすことができる。
【0089】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0090】
〈1〉上述した実施形態では、ステップ#1において、長手方向の全域にわたってキルンシェル1の内側の壁面をスキャニングするものとして説明した。言い換えれば、キルンシェル1の内側壁面の長手方向に係る全域が、測定対象領域であるものとした。しかし、本発明は、キルンシェル1の内側の壁面の一部を測定対象領域とする場合を排除するものではない。
【0091】
例えば、キルンシェル1のうちの長手方向に係る一部の領域を測定対象領域とし、この領域内においてキルンシェル1の内側の壁面をステップ#1でスキャニングしても構わない。この場合であっても、測定対象領域の長手方向に係る長さが十分長い場合には、長手方向の位置に応じてキルンシェル1の中心軸の位置が変位する可能性があるため、上記実施形態と同様の手順を経ることで、キルンシェル1に内貼りされた耐火煉瓦の残厚を精度よく評価できる。
【0092】
〈2〉上述した実施形態では、測定対象となる構造物がキルンシェル1であって、その内壁に敷き詰められた耐火煉瓦の残厚を評価する場合について説明した。しかし、本発明の方法は、キルンシェル1に限らず、他の長尺な円筒状を呈した構造物の内壁(内側部)の表面状態を評価する場合にも適用が可能である。
【0093】
すなわち、上記の方法によれば、構造物の中心軸が長手方向の位置に応じて多少変位する場合であっても、構造物の内壁と中心軸との離間距離の分布を精度よく算出できる。例えば、ある箇所の離間距離が、近接箇所の離間距離、又は全域の離間距離の平均値よりも十分に長い場合、当該箇所には凹みが形成されていると推定できる。逆に、ある箇所の離間距離が、近接箇所の離間距離、又は全域の離間距離の平均値よりも十分に短い場合、当該箇所には凸部の形成要因(異物等)が存在していると推定できる。
【0094】
具体的には、道路のトンネル、水力発電用の導水トンネル、下水道管等の構造物の内壁の表面状態の評価に利用することができる。また、本発明の方法によれば、構造物がキルンシェル1であっても、耐火煉瓦の残厚の評価にとどまらず、単に内壁の表面状態(凹凸の存在等)の評価に利用することもできる。
【0095】
〈3〉本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明のより良い理解のために詳細に説明したものであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0096】
1 :キルンシェル
11 :3Dレーザスキャナ
13 :リファレンスボール
17 :中心軸
18 :基準面
20 :演算処理装置
21 :フィッティング処理部
24 :分割処理部
25 :表面状態評価部
27 :記憶部
29 :出力部
31a,31b,31c :円筒
35a,35b,35c :中心軸
dc1 :第一点群データ
dc2 :第二点群データ
dc3 :第三点群データ