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特開2024-139965地熱発電システムと当該システムに用いる水素エンジン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139965
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】地熱発電システムと当該システムに用いる水素エンジン
(51)【国際特許分類】
   F03G 4/00 20060101AFI20241003BHJP
   F02B 75/28 20060101ALI20241003BHJP
   F02B 63/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F03G4/00 531
F02B75/28 B
F02B63/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050927
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】502248544
【氏名又は名称】中路 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】中路 晋
(57)【要約】
【課題】いわゆる空井戸から得られる熱水や蒸気温度あっても運用できる地熱発電装置を提供する。
【解決手段】地上に導かれた地熱蒸気が、汽水分離器で水分を除いて、熱交換器に送られる。水素エンジンは、前記熱交換器で得られた熱水による霧水を水素の燃焼によって膨張させてピストンを稼働する。前記水素エンジンは、両端が閉じられたシリンダーを備え、2つのピストンが当該シリンダー内を摺動する。当該2つのピストンは、クランクで連結されている。前記シリンダーの軸方向両端に対に設けられた、水素を混合した霧水を前記シリンダー内に供給、圧縮、爆発、排気する燃焼ユニットが備えられる。前記水素エンジンには、前記ピストンの周面と面一にかつ螺旋状に設けられた永久磁石と、前記シリンダーの外周であって、前記ピストンの可動域に設けられたコイルとを備えた構成となっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産井から地熱蒸気を地上に導く導出管と、
当該導出管からの蒸気を含む地熱水から水分を除く汽水分離器と、
前記汽水分離器で得られた高温空気から熱水を取り出す熱交換器と、
前記熱水による霧水を水素の燃焼によって膨張させてピストンを稼働する水素エンジンと、
前記水素エンジンに組み込まれた発電ユニットと
を備えたことを特徴とする地熱発電システム。
【請求項2】
前記水素エンジンが、
両端が閉塞された円筒状のシリンダーと、
前記シリンダー内を摺動する2つのピストンであって、一方のピストンが一方端に達したときに、他方のピストンが他方端から一番遠い中央よりの位置にあるようにクランクで連結された2つのピストンと、
前記シリンダーの軸方向両端に対に設けられた、水素を混合した霧水を前記シリンダー内に供給、圧縮、爆発、排気する燃焼ユニットと
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の地熱発電システム。
【請求項3】
前記発電ユニットが
前記ピストンの周面と面一にかつ螺旋状に設けられた永久磁石と、
前記シリンダーの外周であって、前記ピストンの可動域に設けられたコイルと、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の地熱発電システム。
【請求項4】
両端が閉塞された円筒状のシリンダーと、
前記シリンダー内を摺動する2つのピストンであって、一方のピストンが一方端に達したときに、他方のピストンが他方端から一番遠い中央よりの位置にあるようにクランクで連結された2つのピストンと、
前記シリンダーの軸方向両端に対に設けられた、水素を混合した霧水を前記シリンダー内に供給、圧縮、爆発、排気する燃焼ユニットと、
前記ピストンの周面と面一にかつ螺旋状に設けられた永久磁石と、前記シリンダーの外周であって、前記ピストンの可動域に設けられたコイルとよりなる発電ユニットを備えたことを特徴とする地熱発電システムに用いる水素エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地熱発電システムと当該システムに発電機として用いる水素エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
地熱発電システムは、生産井から得られる水蒸気でタービンを駆動するシステムである。すなわち、地下の地熱貯留層に溜まっている熱水と蒸気を生産井からパイプを介して蒸気と熱水を汲み上げ、得られた熱水と200~350℃の蒸気を汽水分離器で分離して、熱水を還元井に返し、水蒸気をタービンに送り込んで発電機を駆動する。当然、前記タービンには発電機が接続されており、地熱発電が行われることになる(フラッシュ方式)。
【0003】
上記は、200~350℃という高温の蒸気が得られる地熱貯留層に適用されるが、これより低い温度の蒸気(例えば80~150℃)しか得られない場合にはバイナリー方式が採用される。すなわち、生産井から得られた熱水と蒸気は熱媒体の充填された蒸発器に入力され、ここで熱媒体(アンモニア、代替フロン等)を蒸発させて、当該蒸発した熱媒体でタービンを回す構造である。熱媒体はその後凝集器で凝集されて蒸発器に返される。ここでは、蒸発器への入力の時点で80℃が必要である。
【0004】
一方、先行特許文献1には霧水中で水素を燃焼させることによって、霧水を膨張させ蒸気エネルギーとすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭62-17646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記200℃以上の高温蒸気が得られるフラッシュ方式が適用できる場合には当然当該方式の装置が採用され、また80℃以上の蒸気が得られる場合はバイナリー方式を採用することになる。
【0007】
しかしながら80℃より低い気体しか得られない場合がある。空井戸と呼ばれる比較的浅い(例えば200m~600m)、お湯の出ない井戸が代表的な例である。そこから得られる蒸気混入気体は、生産井から汲み上げた時点で140℃程度の温度があっても、熱交換器までの導入管が長い場合や、外気温によっては蒸発器に入力される水や蒸気の温度が80℃を下回る場合も多い。この場合、前記フラッシュ方式はもちろんバイナリー法式すら採用できないことになる。
【0008】
一方、前記特許文献1に開示の水素ガスエンジンは、水素の燃焼を利用して霧水を膨張させ、当該膨張を機械エネルギーに変換する構成であるが、ここから電気エネルギーを取り出すには別途発電機が必要である。
【0009】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、いわゆる空井戸から得られる熱水や蒸気温度であっても運用できる地熱発電装置を提供することを目的とするものである。また、水素ガスエンジンから直接電気エネルギーが取り出せる発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
導出管を介して生産井から地熱蒸気が地上に導かれ、汽水分離器で前記導出管からの蒸気を含む高温空気から水分を除いて、熱交換機に送られる。水素エンジンは、前記汽水分離器で得られた高温水による霧水を水素の燃焼によって膨張させてピストンを稼働する。当該水素エンジンには発電ユニットが組み込まれており、当該発電ユニットで発電をすることになる。
【0011】
前記水素エンジンは、両端が閉じられたシリンダーを備え、2つのピストンが当該シリンダー内を摺動する。当該2つのピストンは、一方のピストンが一方端に達したときに、他方のピストンが他方端から一番遠い中央よりの位置にあるようにクランクで連結されている。前記シリンダーの軸方向両端には、水素を混合した霧水を前記シリンダー内に供給、圧縮、爆発、排気する燃焼ユニットが備えられる。
【0012】
前記発電ユニットは、前記ピストンの周面と面一にかつ螺旋状に設けられた永久磁石と、前記シリンダーの外周であって、前記ピストンの可動域に設けられたコイルとを備えた構成となっている。
【発明の効果】
【0013】
上記構成により、空井戸等の生産井から汲み上げた熱水あるいは熱気体の温度がバイナリー方式に適さない温度であっても、当該空井戸等から得た高温気体から高温水を得て、当該高温水の霧水を水素エンジンに入力することになるので、発電は室温の水から得られる霧水を利用するよりも遥かに高い効率となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のシステムを示す図である。
図2】本発明に使用する水素エンジンを示すものである。
図3】水素エンジンのピストンを示す図である。
図4】両端の4サイクルの対応図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明のシステムを示す図である。
【0016】
生産井1から導出管3で導かれた100~150℃の熱気体は、湿気や不純物を多く含むところから、前記湿気や不純物を除く必要上、汽水分離器11に入力され、ここで液分や固形分と熱気体に分離される。液分は還元井2に返されるが熱気体は熱交換器20に入力される。当該熱交換器20は前記熱気体の熱で水を加熱するようになっている。ここで、前記熱気体が80℃以上あれば、熱媒体として代替フロン等を用いたバイナリー法式を採用することができるが、ここでは80℃以下しか得られない場合を想定する。
【0017】
前記熱交換機20には、初期的にはポンプ21で通常の水が供給されているが、後に説明するように、水素エンジン30が稼働すると、当該水素エンジン30の燃焼によって得られる温水をも循環するようになっている。
【0018】
尚、水素エンジン30は後に説明するように一本のシリンダーの両端に燃焼ユニットを備えた2気筒となっている。
【0019】
前記ポンプ21で加圧され、前記熱交換器20を通過した水は水素エンジン30のシリンダー内に霧水を噴出する霧水噴射ノズル6a、6b(図2参照)に供給される。また、水素エンジン30の排気口51a、51bからは、以下に説明するように、水素エンジン30で水素が燃焼してできた結果の蒸気、および前記霧水噴射ノズル6a、6bより噴霧された水が一旦蒸気となって排出される。
【0020】
この蒸気は排気弁5a、5bを介して排気口51a、51bから水タンク50に戻されるが、このとき、50℃~60℃の温度の水になっている。この水が前記水タンク50に戻され更に、前記熱交換機20に供給されるようになっている。
【0021】
尚、水素エンジン30では水素を燃焼させているので、前記のポンプ21に返す水はどんどん量が増えることになるが、ポンプ21の手前の水タンク50で、所定以上の量の水はオーバフローさせて、水の量を熱交換機20が機能する量に抑えるようにしている。また、霧水噴射ノズル6a、6bが稼働するとき以外の時間はポンプ21から送られる熱水は、弁23をタンク50側に開いてタンク50に返される。
【0022】
前記水素エンジン30は、シリンダー内で水素を燃焼させる構成となっているのであるが、当該燃焼直前にシリンダー内に噴出されたと霧水を、前記水素の燃焼によって膨張させて蒸気エネルギーに転換し、当該蒸気エネルギーを直接電気エネルギーに転換するものである。
【0023】
ここでは、4サイクルのレシプロエンジンを例に説明する。
【0024】
図2に示すように、シリンダー1の長手方向中央にはクランク軸31が径方向に設けられ、当該クランク軸31を中心にクランクアーム32が回転するようになっている。
【0025】
更に、前記クランクアーム32には連結アーム33a、33bを介して、ピストン34a、34bが連結されており、これによって、一方のピストン34a、のシリンダーヘッド方向への進行と、他方のピストン34bのシリンダーヘッドからの後退(他方のピストン34bのシリンダーヘッド方向への進行と、一方のピストン34bのシリンダーヘッドからの後退)が同期するようになっている。
【0026】
尚、図2上では、はずみ車が描かれていないが、ピストンの動きを干渉しないシリンダー1の内部の位置、あるいは外部に設けると、動作がスムーズになる。
【0027】
前記シリンダー1は非磁性体で構成され、図3に示すようにピストン34a、34bには永久磁石36が全周に渡って螺旋状に、当該ピストン34a、34bを一周するように埋め込まれる。もっとも、螺旋状の永久磁石は製造困難であるので、方形のピース36pを螺旋状の溝に、ピストン34a、34bの外周面と面一になるように螺旋状に貼り付けていく。当該永久磁石36は、後述するコイル60との間の電磁誘導で発電することになるが、仮に永久磁石をシリンダー軸に直角に貼り付けると、後に説明するように、ピストン34a、34bが移動するとき、全磁石36pが一度にコイル60を横切ることになるので、負荷が急激に大きくなるおそれがある。
【0028】
シリンダー1の外周面にはコイル60が巻回され、前記、ピストン34a、34bに埋め込まれた永久磁石36の移動に伴って、前記コイル60に電圧が励起されるようになっている。
【0029】
当然のことながら、ピストン34aの移動によって励起される電圧と、ピストン34bの移動によって励起される電圧とは同じ極性を持つように構成される(ピストン34aとピストン34bの移動方向は基本的に同じ方向)。
【0030】
シリンダー1の左右両端のシリンダーヘッド2a、2bには燃焼ユニットが備えられている。当該燃焼ユニットは基本的に円筒状のシリンダー1の両端に同一の構造として備わっているので、以下、一方の端の構造についてのみ説明する。
【0031】
特公昭62-17646号公報に開示するように、シリンダーヘッド2aには点火プラグ3a、吸入弁4a及び排気弁5aとともに、霧水噴射ノズル6aと水素ガス加圧噴射ノズル7aとを、それぞれ、水素ガス8、及び霧水9が燃焼室10内に噴出されるように併設する。
【0032】
前記水素ガス加圧噴射ノズル7aは図示しない水素タンクと連通し、また、前記霧水噴射ノズル6aは、前記したように熱交換器20よりの熱水が供給されている。すなわち、水素ガス8及び霧水9は、吸入弁4aと排気弁5aとが共に閉じられた状態でピストン34aが上死点に達する直前(圧縮工程の最後の段階で)にシリンダー1内に噴射がなされ、同時に点火プラグ3aにより圧縮された水素ガスに着火される。
【0033】
水素ガスの着火燃焼によって、霧水が膨張しピストン34aが押し下げられ、(ピストン34bが押し上げられ)次いでクランクを介して再び押し上げられる。このとき前記霧水は地熱で予熱されているので、水素の燃焼によって、室温の水による霧水を使用した場合より大きな膨張力を得ることができることになる。
【0034】
クランクを介しての再度のピストン34aの押し上げは、排気工程に移行しており、当然のことながら、排気弁5aがオープンになって、排気口51aを介して前記膨張した霧水(蒸気)が排出される(前記したように水タンク50に返される)。次いで、ピストン34aが上死点から下降するときが、吸入工程となり、吸入弁4aがオープンとなり、吸入口41aから空気が吸入される。
【0035】
当該吸入工程でピストン34aが一旦下降して、次いで上死点に到達するまでが圧縮工程となり、前記ピストン34aが上死点に至る直前で、前記のように図示外の供給装置より水素ガス8、及び霧水9を同時にもしくはタイミングをずらした状態で燃焼室10内に噴射し、プラグ3aに点火されるようになっている。
【0036】
図4は、対向するピストン34a、34bについて、上記の爆発、排気、吸入、圧縮の各工程を示す図である。
【0037】
一方のシリンダーヘッドと他方のシリンダーヘッドでの工程を対比すると、爆発-排気、排気-吸入、吸入-圧縮、圧縮-爆発(それぞれ、図4(a)(b)(c)(d))となる。また、上記の点火プラグ3a、3bの点火制御、吸入弁4a、4b及び排気弁5a、5bの開閉制御、水素ガス加圧噴射ノズル7a、7bと霧水噴射ノズル6a、6bよりの噴射制御は制御手段50(図1)によって実行されることになる。
【0038】
以上の構成では、通常の4サイクルエンジンとは異なって、潤滑油の供給の問題がある。通常の4サイクルであればクランク室に潤滑油を充填して定期的に交換することが行われる。しかしながら、上記のようにクランク室を設けない構成では吸入工程で吸入される空気に霧状の潤滑油を混入するか、水素ガス加圧噴射ノズル7a、(7b)から、水素の噴出とともに、潤滑油を噴霧すること、あるいは独自の潤滑油配管を設けて必要部分に供給することになる。
【0039】
当該水素エンジンは前記ピストンの温度が80℃以下で稼働し、埋め込んだ永久磁石の熱により磁力の低下を考慮する必要がないので、既述のような構成を可能とする。
【0040】
以上説明したように、本願発明は、フラッシュ方式にもバイナリー法式にも適さない温度の地熱で予熱した霧水をもちいて、特公昭62-17646号公報に開示する水素エンジンを駆動するようになっているので、当該霧水は予め地熱で余熱されているので、より大みな膨張エネルギーを得ることができ、また、ピストンの動きを回転運動に変換することなく電気エネルギーに変換することができることになる。
【符号の説明】
【0041】
1 シリンダー
2a、2b シリンダーヘッド
3a、3b 火プラグ
4a、4b(41a、41b) 吸入弁(吸入口)
5a、5b(51a、51b) 排気弁(排気口)
6a、6b 霧水噴射ノズル
7a、7b 水素ガス加圧噴射ノズル
8 水素ガス
9 霧水
10 燃焼室
11 汽水分離器
20 熱交換器
21 ポンプ
23a、23b 噴霧器
30 水素エンジン
31 クランク軸
32 クランクアーム
33a、33b 連結軸
34a、34b ピストン
36(36p) 永久磁石(ピース)
50 制御手段
60 コイル
図1
図2
図3
図4