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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139971
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】直接感熱記録材料
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/42 20060101AFI20241003BHJP
   B41M 5/44 20060101ALI20241003BHJP
   B41M 5/41 20060101ALI20241003BHJP
   B41M 5/28 20060101ALI20241003BHJP
   B41M 5/32 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B41M5/42 221
B41M5/44 220
B41M5/41 200
B41M5/28 220
B41M5/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050938
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亮太
(72)【発明者】
【氏名】西村 直哉
【テーマコード(参考)】
2H026
【Fターム(参考)】
2H026AA07
2H026BB46
2H026DD07
2H026DD32
2H026DD42
2H026DD45
2H026DD48
2H026DD55
2H026EE05
(57)【要約】
【課題】サーマルヘッドとの接触による傷の発生が抑制され、さらにピンホールの発生が抑制された直接感熱記録材料を提供する。
【解決手段】光透過性支持体上に、該光透過性支持体に近い側から、非感光性の有機銀塩および還元剤を含有する感熱記録層と、(A)水溶性樹脂、(B)該水溶性樹脂の架橋剤、(C)pKaが4.3以下の酸性化合物、および(D)該酸性化合物を中和して得られる塩を含有する保護層を少なくとも有し、かつ該保護層における該(A)成分と該(B)成分の質量比(B)/(A)が、0.2~2.5であることを特徴とする直接感熱記録材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性支持体上に、該光透過性支持体に近い側から、非感光性の有機銀塩および還元剤を含有する感熱記録層と、(A)水溶性樹脂、(B)該水溶性樹脂の架橋剤、(C)pKaが4.3以下の酸性化合物、および(D)該酸性化合物を中和して得られる塩を含有する保護層を少なくとも有し、かつ該保護層における該(A)成分と該(B)成分の質量比(B)/(A)が、0.2~2.5であることを特徴とする直接感熱記録材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドの加熱により画像を形成する直接感熱記録材料に関し、特に版下材料の作製に好適な直接感熱記録材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高画質の画像記録方法として、ハロゲン化銀感光材料を用いた湿式処理の画像形成方法が長く一般的に用いられてきた。しかしながら該画像形成方法は、現像液や定着液等の廃液処理や、現像処理設備の設置等が必要になることから、前記した湿式処理を必要としない乾式の画像形成方法が望まれてきた。その結果、現在ではインクジェットプリンター、電子写真、染料熱転写方式等といった画像形成システムが実用化されている。しかしこれらの乾式画像形成方法は、版下材料に求められる高い解像力や、画像部における優れた遮光性、および非画像部における優れた光透過性を得ることは困難であった。
【0003】
このような中で、非感光性の有機銀塩と有機還元剤との反応を利用した直接感熱記録材料が、例えば特許文献1に開示されている。かかる直接感熱記録材料は、サーマルヘッドを搭載した感熱プリンターによる直接感熱画像記録を行うことで、高解像度かつ高コントラストな画像を得ることができるため、版下材料の作製に適している。また当該記録材料は非感光性であり安全光を備えた暗室を必要としないことに加え、直接感熱方式の感熱プリンターは低コストで装置の信頼性が高く、小型化が容易であるため、導入のハードルが低いといった利点を有する。
【0004】
直接感熱記録方式で用いられる直接感熱記録材料では、印字時にサーマルヘッドと感熱記録層が接着する、いわゆるスティッキングが生じることを防ぐために、感熱記録層上に保護層を設けることが一般的である。また、該保護層は架橋された樹脂を含有することが版下材料に求められる透明性や印画適性付与の観点から効果的であることが知られている。例えば特許文献1には、活性水素原子を有する硬化剤と反応した親水性重合体を含有する保護層や、紫外線または電子ビームによって架橋した重合体を含有する保護層を有する直接感熱記録材料が開示されている。また特許文献2には、水溶性樹脂および架橋剤を含有する保護層を有する直接感熱記録材料が開示されている。また特許文献3には、感熱層の上に、耐熱性樹脂を主成分とする中間層と、シリコーン変性ポリウレタン樹脂及びポリイソシアネートとの架橋硬化物を主成分とする滑性保護層を有する可逆性感熱記録材料が開示されている。
【0005】
しかしながらこのような直接感熱記録材料では、サーマルヘッドとの接触によって感熱記録層側の面に傷が発生して画像に欠損が生じ、版下材料として用いた場合にはその機能を損なう場合があった。このような傷の発生を抑制する方法については、微粒子によって表面に微細な凹凸をつけてサーマルヘッドとの摩擦を低減する手法が知られており、例えば特許文献4には、艶消剤を含有する保護層を有する感熱記録材料が開示されている。しかしながら、このような感熱記録材料では、艶消剤の存在する場所において画像にピンホールが生じる場合があり、改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平9-504752号公報
【特許文献2】特開2007-38633号公報
【特許文献3】特開平05-38881号公報
【特許文献4】特表平08-503175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、サーマルヘッドとの接触による傷の発生が抑制され、さらにピンホールの発生が抑制された直接感熱記録材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題は、以下の発明により解決される。
光透過性支持体上に、該光透過性支持体に近い側から、非感光性の有機銀塩および還元剤を含有する感熱記録層と、(A)水溶性樹脂、(B)該水溶性樹脂の架橋剤、(C)pKaが4.3以下の酸性化合物、および(D)該酸性化合物を中和して得られる塩を含有する保護層を少なくとも有し、かつ該保護層における該(A)成分と該(B)成分の質量比(B)/(A)が、0.2~2.5であることを特徴とする直接感熱記録材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、サーマルヘッドとの接触による傷の発生が抑制され、さらにピンホールの発生が抑制された直接感熱記録材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0011】
本発明の直接感熱記録材料は、光透過性支持体を有する。かかる光透過性支持体としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、硝酸セルロース、ポリカーボネート等の樹脂フィルムや、ガラス等の無機材料等が挙げられる。なお、本発明において光透過性支持体とは、全光線透過率が60%以上である支持体を意味し、更に該支持体の全光線透過率は70%以上であることがより好ましい。また該光透過性支持体のヘーズ値は10%以下であることが好ましい。該光透過性支持体は易接着層、ハードコート層、帯電防止層等の公知の層を有していてもよい。本発明における光透過性支持体の厚みは特に規定されるものではないが、ハンドリング性の観点から50μm以上かつ300μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の直接感熱記録材料が有する感熱記録層は、非感光性の有機銀塩を含有する。該有機銀塩は、後述する還元剤と共に加熱されることにより還元されて銀画像を形成する。具体的には、熱現像感光材料に関するリサーチディスクロージャー第17029(II)項、第29963(XVI)項に記載されているような没食子酸、シュウ酸、ベヘン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等の有機酸の銀塩;1-(3-カルボキシプロピル)チオ尿素、1-(3-カルボキシプロピル)-3,3-ジメチルチオ尿素等のカルボキシアルキルチオ尿素の銀塩;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド類とサリチル酸、安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、5,5-チオジサリチル酸等の芳香族カルボン酸との高分子反応生成物と銀との錯体;3-(2-カルボキシエチル)-4-ヒドロキシメチル-4-チアゾリン-2-チオン、3-カルボキシメチル-4-メチル-4-チアゾリン-2-チオン等のチオン類の銀塩または錯体;イミダゾール、ピラゾール、ウラゾール、1,2,4-トリアゾール、1H-テトラゾール、3-アミノ-5-ベンジルチオ-1,2,4-トリアゾールおよびベンゾトリアゾールから選ばれる含窒素複素環の銀塩または錯体;サッカリン、5-クロロサリチルアルドキシム等の銀塩;メルカプチド類の銀塩等が挙げられる。これらのうち炭素数が10以上の脂肪酸銀が好ましく、ステアリン酸銀、ベヘン酸銀がより好ましい。
【0013】
本発明において感熱記録層が含有する非感光性の有機銀塩の含有量は、感熱記録材料の感度および保存性の観点から、感熱記録層の全固形分に対して5~80質量%が好ましく、10~70質量%がより好ましく、20~65質量%が更に好ましい。
【0014】
本発明の直接感熱記録材料が有する感熱記録層は還元剤を含有する。かかる還元剤としては、ハイドロキノン、カテコール、4-メチルカテコール、4-tert-ブチルカテコール、クロロヒドロキノン、ピロガロール等のポリヒドロキシベンゼン化合物、没食子酸、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸ステアリル、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチル等のポリヒドロキシ安息香酸化合物、2-アミノフェノール、3-アミノフェノール、4-アミノフェノール等のアミノフェノール化合物、1-フェニル-3-ピラゾリドンおよびその誘導体、ヒドロキシルアミン類、特開平6-317870号公報記載のポリヒドロキシインダン類や、特開2001-328357号公報記載のジヒドロキシ安息香酸誘導体等が例示できる。上記した還元剤の中でも、ポリヒドロキシベンゼン化合物およびポリヒドロキシ安息香酸化合物が好ましい。
【0015】
感熱記録層における還元剤の含有量は、還元剤の種類や、有機銀塩の種類によって広範に変化しうるが、感熱記録材料の感度および保存性の観点から、有機銀塩1モルあたり0.1~3.0モルであることが好ましく、0.5~2.0モルであることが更に好ましい。また種々の目的のために、上述した還元剤は2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明の直接感熱記録材料が有する感熱記録層は、前記した非感光性有機銀塩および還元剤を保持するバインダー成分として樹脂を含有することが好ましい。かかる樹脂は特に限定されず、公知の樹脂を用いることができ、例えばヒドロキシエチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、ゼラチン、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂に代表されるポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が例示できる。中でも、上述した非感光性の有機銀塩の分散性に優れることから、ポリビニルブチラール樹脂に代表されるポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂が好ましく、ポリビニルアセタール樹脂が更に好ましい。これらの樹脂は水や有機溶媒に溶解して用いるか、疎水性ポリマー固体が微粒子の状態で分散しているラテックスやポリマー分子がミセルを形成し分散しているものを用いてもよい。本発明においては、上述した樹脂は乾燥後に光透過性の被膜を形成するものが好ましい。またこれらの樹脂は必要に応じてお互いに相溶する樹脂を2種以上併用してもよい。
【0017】
本発明において感熱記録層が含有する樹脂の含有量は、感熱記録材料の感度および保存性の観点から、感熱記録層の全固形分に対して10~70質量%が好ましく、より好ましくは20~60質量%である。
【0018】
上述した樹脂は、塩化物イオンや臭化物イオン等の遊離のハロゲン化物イオンを実質的に含有しないことが好ましい。ハロゲン化物イオンは有機銀塩の銀イオンと反応し、感光性のハロゲン化銀を形成するため、本発明の直接感熱記録材料の耐光性を低下させる原因となる。具体的には樹脂の含有量に対して500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましい。
【0019】
本発明の直接感熱記録材料が有する感熱記録層は、サーモグラフィまたはフォトサーモグラフィの分野において知られている、いわゆる色調剤を含有することが好ましい。色調剤の例としては上述の熱現像感光材料に関するリサーチディスクロージャー第17029(V)項、第29963(XXII)項等で公知であり、具体的にはフタルイミドに代表されるイミド類、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾールに代表されるメルカプト化合物、フタラジン、フタラゾン、4-メチルフタル酸、テトラクロロフタル酸およびそれらの無水物に代表されるフタル酸誘導体、1,3-ベンズオキサジン-2,4-ジオンに代表されるベンズオキサジン誘導体等が挙げられる。また種々の目的のために、上述した色調剤は2種以上を含有してもよい。
【0020】
本発明において感熱記録層が含有する色調剤の含有量は、感熱記録材料の感度および保存性の観点から、感熱記録層の全固形分に対して0.10~30質量%が好ましく、0.50~20質量%がより好ましく、1.0~15質量%が更に好ましい。
【0021】
本発明の直接感熱記録材料が有する感熱記録層は上述の有機銀塩と共に、還元による画像銀の形成の抑制や促進、印画前後の保存性を向上させる等の目的で、様々な促進剤や安定剤およびそれらの前駆体を含有してもよい。具体的には写真用安定剤、抑制剤としてよく知られているベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、5-クロロベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンズオキサゾール、4-ヒドロキシ-6-メチル-1,3,3a,7-テトラザインデン、1-フェニル-5-メルカプトテトラゾール、2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、3-メルカプト-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール、4-ベンツアミド-3-メルカプト-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール等から選ぶことができる。また種々の目的のために、上記促進剤および安定剤は2種以上を併用してもよい。
【0022】
感熱記録層は、上述した成分以外に紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、染料、pH調整剤、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、軟化剤、滑剤、架橋剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤等の公知の添加剤を含有していてもよい。
【0023】
光透過性支持体上に、上述した感熱記録層を形成する方法としては、上述した非感光性有機銀塩、還元剤、樹脂、色調剤、および感熱記録層が含有可能な添加剤、更に公知の溶剤を含有する感熱記録層塗布液を作製し、該感熱記録層塗布液を上述した光透過性支持体上に塗布、乾燥して形成することが好ましい。また、該感熱記録層塗布液の塗布量は、版下材料として必要十分なUV透過濃度を得る目的から、乾燥質量で2.0~30g/mが好ましく、5.0~25g/mがより好ましく、8.0~20g/mが更に好ましい。
【0024】
本発明の直接感熱記録材料は、上述の感熱記録層上に保護層を有する。該保護層は水溶性樹脂を含有する。本発明における水溶性樹脂とは、水に対して5.0質量%以上の割合で溶解する樹脂を指す。具体的には、ヒドロキシエチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルブチラール樹脂に代表されるポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ゼラチン、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が例示され、その中でもアクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂が好ましく、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂がより好ましい。また、保護層中の水溶性樹脂の含有量は、版下材料としての取扱いにおいて十分な塗膜強度を得るために、保護層の全固形分の10~95質量%が好ましく、20~90質量%がより好ましく、30~85質量%がさらに好ましい。
【0025】
本発明における保護層は、サーマルヘッドによる印字時の熱印加に耐えられるよう、上述した樹脂とともに架橋剤を含有する。樹脂を架橋する架橋剤は特に限定されないが、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネート化合物や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多価エポキシ化合物、分子中に2個以上のアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマー、ホウ酸、アルコキシシランやその部分縮合物であるシリケートオリゴマー、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド等が例示され、その中でも多官能(メタ)アクリレートモノマー、多価イソシアネート化合物、アルコキシシラン、シリケートオリゴマーが好ましく、多価イソシアネート化合物、アルコキシシラン、シリケートオリゴマーがより好ましい。また、保護層中の架橋剤の含有量は、版下材料としての取扱いにおいて十分な塗膜強度を得るために、保護層の全固形分の5~90質量%が好ましく、10~80質量%がより好ましく、20~70質量%がさらに好ましい。
【0026】
本発明における保護層に含有される(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)が0.2~2.5の範囲である必要がある。この範囲より架橋剤が少ない場合は耐傷性が低下し、多い場合は印字した画像におけるピンホールが増加する。水溶性樹脂と架橋剤の質量比(B)/(A)は0.3~2.0であることが好ましく、0.4~1.5であることがより好ましい。
【0027】
本発明における保護層は、pKaが4.3以下の酸性化合物を含有する。本発明における酸性化合物のpKaは中和滴定法を用いて測定される値であり、pKaが4.3以下の酸性化合物としては特に限定されないが、具体的には、硫酸(pKa-3.0)、硝酸(pKa-1.3)、リン酸(pKa2.12)等の無機酸や、乳酸(pKa3.84)、マレイン酸(pKa1.93)、フマル酸(pKa3.03)、クエン酸(pKa3.09)、p-トルエンスルホン酸(pKa-1.34)、メタンスルホン酸(pKa-2.6)等の有機酸が例示され、その中でも有機酸が好ましく、乳酸、フマル酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸がより好ましく、乳酸、p-トルエンスルホン酸がさらに好ましい。これらの酸性化合物は2種以上を併用してもよい。また、保護層塗布液のポットライフを製造において十分な程度確保するために、酸性化合物の含有量(後述する、pKaが4.3以下の酸性化合物を中和して得られる塩を保護層に含有させるにあたり、保護層中にて該酸性化合物を中和させて生成させる場合には、該中和後に残存する遊離酸の量)は保護層の全固形分に対して0.010~5.0質量%であることが好ましく、0.030~4.0質量%であることがより好ましく、0.050~3.0質量%であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明における保護層は、上述した酸性化合物を中和して得られる塩を含有する。本発明において酸性化合物を中和して得られる塩とは、上述した酸性化合物のプロトンを、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、カルシウムイオン等の別のカチオン種で置き換えた化合物であり、ナトリウム塩を具体例とした場合、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、マレイン酸二ナトリウム、マレイン酸一ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、フマル酸二ナトリウム、クエン酸ナトリウム、p-トルエンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸ナトリウム等が例示される。これらの塩は2種以上を併用してもよい。該酸性化合物の塩を保護層に含有させる方法としては、保護層中に塩基性化合物を含有させ、上述した酸性化合物を中和させて生成させてもよく、該酸性化合物の塩を直接添加してもよい。該酸性化合物に対して該酸性化合物の塩が多すぎる場合はピンホールが増加し、塩が少なすぎる場合はサーマルヘッドとの接触による傷の抑制が不十分になる。このような観点から、酸性化合物に対する該酸性化合物の塩のモル比は、0.010~10の範囲であることが好ましく、0.050~9.0の範囲であることがより好ましく、0.10~5.0の範囲であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明において保護層は搬送性を高める目的で、種々の艶消剤を含有していてもよい。該保護層を形成するにあたり、艶消剤は上記保護層中に分散させて用いることが好ましい。艶消剤の分散には、ホモディスパーのような高速攪拌機が適している。
【0030】
保護層が含有することができる上記艶消剤の量は、保護層が含有する樹脂の含有量に対して0.50~40質量%であることが好ましく、1.0~30質量%であることがより好ましく、3.0~20質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
艶消剤は有機系または無機系いずれの艶消剤でも使用することができる。有機系艶消剤としては、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート等が例示され、無機系艶消剤としては、シリカ、アルミナ、タルク、マイカ等が例示される。市販品としては、タルクとして日本タルク(株)製のミクロエース(登録商標)シリーズ、ナノエース(登録商標)シリーズ、SG-95、SG-2000、兵庫クレー(株)製のHC-08L、HC-1Lや、シリコーン樹脂系艶消剤としてモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズジャパン合同会社から発売されているトスパール(登録商標)120、130、145、2000Bや、シリカ系艶消剤としてAGCエスアイテック(株)から発売されているサンスフェア(登録商標)H-31、H-51、NP-30等を例示することができ、これらの中でもシリコーン樹脂系艶消剤はサーマルヘッドとのヘッドマッチング性の観点から好適である。これらは単一の微粒子であるが、艶消剤の形態としては単一の微粒子および微粒子が集合した微粒子集合体粒子のいずれを用いてもよい。
【0032】
本発明における保護層は、上述した成分以外に紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、染料、界面活性剤、分散剤、消泡剤、増粘剤、軟化剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤等の公知の添加剤を含有していてもよい。
【0033】
保護層を形成する方法としては、上述した水溶性樹脂、該水溶性樹脂の架橋剤、pKaが4.3以下の酸性化合物、該酸性化合物を中和して得られる塩、および保護層が含有可能な添加剤、更に公知の溶剤を含有する保護層塗布液を作製し、該保護層塗布液を上述した感熱記録層上に塗布、乾燥し、必要に応じて熱、紫外線や電子線等の放射線を用いて硬化させて形成することが好ましい。また、該保護層塗布液の塗布量は乾燥質量で0.5~10g/mが好ましく、1.0~9.0g/mがより好ましく、1.5~8.0g/mが更に好ましい。塗布量が上限を上回った場合は光透過性が下がり版下材料としての機能が低下し、下限を下回った場合は取扱い時に擦過傷等が発生しやすくなる。
【0034】
本発明において、上記した感熱記録層および保護層の塗布法については特に制限はなく、E.D.Cohen,E.B.Gutoff,“Modern Coating and Drying Technology”,WILEY-VCH,Inc.New York,1992に記載されているような各種の塗布法から選択することができる。更に複数の層を同時に塗布することは、生産性を向上させる意味でも特に好ましい。
【0035】
本発明の直接感熱記録材料には更に必要に応じて、感熱記録層、保護層に加えて、光透過性支持体と感熱記録層との間に易接着層や断熱層等を、感熱記録層と保護層から見て光透過性支持体の反対の面に帯電防止層等の機能層を有していてもよい。
【0036】
本発明によれば、上述した直接感熱記録材料を用い、サーマルヘッドを該直接感熱記録材料の保護層と接触させ、サーマルヘッドの下で直接感熱記録材料を搬送し像に従って加熱することにより画像を得ることができる。直接感熱記録材料は、サーマルヘッドによって与えられる熱パルスの数を変えることにより400℃まで温度を変えて加熱することができ、熱パルスの数を変えることにより、画像部のUV透過濃度を変化させることができる。
【実施例0037】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、この記述により本発明が限定されるものではない。なお記述中「%」は質量基準である。
【0038】
<実施例1>
【0039】
<ベヘン酸銀分散液の調製>
ベヘン酸銀結晶20g、Butvar(登録商標)B-79(イーストマンケミカルジャパン(株)製ポリビニルブチラール)20gを180gの2-ブタノンに加え、ビーズミルを用いて分散しベヘン酸銀分散液を得た。
【0040】
<感熱記録層塗布液の調製および塗布>
2-ブタノン10gに、Butvar B-79を0.5g、上記ベヘン酸銀分散液を10g、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルを0.3g、テトラクロロフタル酸無水物を0.1g、フタラゾンを0.2g加えて混合し、感熱記録層塗布液とした。光透過性支持体として厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(全光線透過率92%、ヘーズ値4%、500mm×400mm)を用意し、その一方の面に感熱記録層塗布液を乾燥質量が13.0g/mとなるようにワイヤーバーを用いて塗布し、80℃にて3分間乾燥させ感熱記録層を形成した。
【0041】
<保護層塗布液の調製および塗布>
エスレック(登録商標)KW-10(積水化学工業(株)製;ポリビニルブチラール樹脂、固形分24%)20.8gを、水29.2gとイソプロパノール20.0g中に溶解させ、デュラネート(登録商標)WB40-80D(旭化成(株)製;多価イソシアネート、固形分80%)2.6g、p-トルエンスルホン酸(pKa-1.34)を0.071g、水酸化ナトリウムを0.0100g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得、上述した感熱記録層上に、該保護層塗布液を乾燥質量が5.0g/mとなるようにワイヤーバーを用いて塗布し、90℃にて3分間乾燥させて保護層を形成したのち、40℃にて24時間加温して実施例1の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、0.42である。
【0042】
<実施例2>
p-トルエンスルホン酸0.071gに代わって乳酸0.037g(pKa3.84)を添加して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして実施例2の直接感熱記録材料を得た。
【0043】
<実施例3>
p-トルエンスルホン酸0.071gに代わって硝酸(pKa-1.3)0.026gを添加して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして実施例3の直接感熱記録材料を得た。
【0044】
<実施例4>
5.0gのクラレポバール3-80((株)クラレ製;ポリビニルアルコール樹脂)を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを5.5g(固形分量換算で2.17g)、p-トルエンスルホン酸を0.071g、水酸化ナトリウムを0.0100g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして実施例4の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、0.43である。
【0045】
<実施例5>
5.0gのクラレポバール3-80を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを5.5g(固形分量換算で2.17g)、p-トルエンスルホン酸を0.071g、水酸化ナトリウムを0.00120g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして実施例5の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、0.43である。
【0046】
<実施例6>
5.0gのクラレポバール3-80を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを5.5g(固形分量換算で2.17g)、p-トルエンスルホン酸を0.071g、水酸化ナトリウムを0.0130g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして実施例6の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、0.43である。
【0047】
<実施例7>
5.0gのクラレポバール3-80を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを5.5g(固形分量換算で2.17g)、p-トルエンスルホン酸を0.071g、水酸化ナトリウムを0.0148g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして実施例7の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、0.43である。
【0048】
<実施例8>
5.5gのクラレポバール3-80を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを4.19g(固形分量換算で1.65g)、p-トルエンスルホン酸を0.071g、水酸化ナトリウムを0.0100g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして実施例8の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、0.30である。
【0049】
<実施例9>
3.6gのクラレポバール3-80を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを9.13g(固形分量換算で3.60g)、p-トルエンスルホン酸を0.071g、水酸化ナトリウムを0.0100g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして実施例9の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、1.00である。
【0050】
<実施例10>
3.0gのクラレポバール3-80を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを10.6g(固形分量換算で4.18g)、p-トルエンスルホン酸を0.071g、水酸化ナトリウムを0.0100g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして実施例10の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、1.39である。
【0051】
<実施例11>
2.4gのクラレポバール3-80を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを12.1g(固形分量換算で4.77g)、p-トルエンスルホン酸を0.071g、水酸化ナトリウムを0.0100g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして実施例11の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、1.99である。
【0052】
<比較例1>
p-トルエンスルホン酸0.071gに代わって酢酸(pKa4.76)0.025gを添加して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして比較例1の直接感熱記録材料を得た。
【0053】
<比較例2>
p-トルエンスルホン酸0.071gに代わってp-ニトロフェノール(pKa7.14)0.063gを添加して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして比較例2の直接感熱記録材料を得た。
【0054】
<比較例3>
水酸化ナトリウムを添加せずに保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして比較例3の直接感熱記録材料を得た。
【0055】
<比較例4>
5.0gのクラレポバール3-80を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを5.5g(固形分量換算で2.17g)、酢酸(pKa4.76)0.025g、水酸化ナトリウムを0.0100g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして比較例4の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、0.43である。
【0056】
<比較例5>
5.0gのクラレポバール3-80を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを5.5g(固形分量換算で2.17g)、p-トルエンスルホン酸を0.071g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして比較例5の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、0.43である。
【0057】
<比較例6>
6.5gのクラレポバール3-80を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを1.65g(固形分量換算で0.652g)、p-トルエンスルホン酸を0.071g、水酸化ナトリウムを0.0100g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして比較例6の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、0.10である。
【0058】
<比較例7>
1.8gのクラレポバール3-80を水45gとイソプロパノール20gに溶解させ、テトラメチルオルソシリケートを13.6g(固形分量換算で5.38g)、p-トルエンスルホン酸を0.071g、水酸化ナトリウムを0.0100g、トスパール145を0.35g添加し、スリーワンモータにて300rpmで1時間攪拌して保護層塗布液を得た以外は実施例1と同様にして比較例7の直接感熱記録材料を得た。なお保護層における(A)水溶性樹脂と(B)該水溶性樹脂の架橋剤の質量比(B)/(A)は、2.99である。
【0059】
このようにして得られた実施例1~11および比較例1~7の直接感熱記録材料を360mm幅に裁断し、サーマルデジタルプリンター(三菱製紙(株)製TDP-459:1200dpi/120lpi、ラインヘッド)により、印字速度1msec/lineにて、画像サイズ350mm(幅)×450mm(長さ)の塗りつぶし画像を印字した。
【0060】
<耐傷性評価>
上述のように塗りつぶし画像を印字した直接感熱記録材料において、画像部に発生した傷を3段階で評価し、その結果を表1に示した。具体的には、傷がほとんど発生しなかったものを〇、傷が発生しているが画像に欠損が生じず版下材料として実用上の問題がないものを△、傷により画像に欠損が生じており版下材料として実用上の問題があるものを×とし、〇および△であったものを印字による傷の発生が抑制された直接感熱記録材料であるとした。
【0061】
<ピンホール評価>
上述のように塗りつぶし画像を印字した直接感熱記録材料において、該塗りつぶし画像(画像サイズ350mm(幅)×450mm(長さ))中に発生したピンホールの数を50倍ルーペを用いて計測して3段階で評価し、その結果を表1に示した。具体的には、ピンホール数が0~10個だったものを〇、11~20個だったものを△、21個以上だったものを×とし、〇および△であったものをピンホールの発生が抑制された直接感熱記録材料であるとした。
【0062】
【表1】
【0063】
表1の結果から明らかなように、本発明によって、サーマルヘッドとの接触による傷の発生が抑制され、さらにピンホールの発生が抑制された直接感熱記録材料が得られることが分かる。