(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139981
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電動運搬車両及びその運行管制システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20241003BHJP
【FI】
B60W30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050952
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】一野瀬 昌則
(72)【発明者】
【氏名】魚津 信一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信好
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241AA31
3D241AA47
3D241AE02
3D241BA16
3D241BA49
3D241BC01
3D241BC02
3D241CC03
3D241DA52Z
3D241DB09Z
3D241DB12Z
3D241DB22Z
3D241DB32Z
3D241DB42Z
(57)【要約】
【課題】輪荷重が変動する状況で操舵力を計測せず路面の滑り易さを正確に判定可能な指標により走行を制御可能な電動運搬車両を提供する。
【解決手段】電動運搬車両1は、駆動輪4と従動輪3の輪荷重の情報を検出する輪荷重検出器31、駆動輪4を駆動する電動モータ11を制御する制御装置40を備える。制御装置40は、輪荷重検出器31の検出情報に基づき輪荷重を算出する輪荷重算出部54、駆動輪4と従動輪3の少なくとも一方のタイヤ力を算出するタイヤ力算出部55、駆動輪4と従動輪3の少なくとも一方のスリップ指標を算出するスリップ指標算出部56、算出結果のタイヤ力を算出結果の輪荷重で除して摩擦係数を算出する摩擦係数算出部57、算出結果の摩擦係数を算出結果のスリップ指標で除して摩擦係数比を算出する摩擦係数比算出部58を有する。制御装置40は、算出結果の摩擦係数比に基づき電動モータ11の駆動を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の駆動輪及び複数の従動輪と、
複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪の回転速度をそれぞれ検出する車輪速度センサと、
複数の前記駆動輪を駆動する電動モータと、
前記電動モータを制御する制御装置とを備えた電動運搬車両において、
複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪に対して鉛直方向に掛かる荷重である輪荷重の情報をそれぞれ検出する輪荷重検出器を備え、
前記制御装置は、
前記輪荷重検出器の検出情報に基づいて輪荷重を算出する輪荷重算出部と、
複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪の少なくとも一方に路面上で発生する摩擦力であるタイヤ力を算出するタイヤ力算出部と、
複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪の少なくとも一方に発生する滑りの程度を表すスリップ指標を算出するスリップ指標算出部と、
前記タイヤ力算出部の算出結果である前記タイヤ力を前記輪荷重算出部の算出結果である前記輪荷重によって除することで摩擦係数を算出する摩擦係数算出部と、
前記摩擦係数算出部の算出結果である前記摩擦係数を前記スリップ指標算出部の算出結果である前記スリップ指標によって除することで摩擦係数比を算出する摩擦係数比算出部との機能部を有するように構成され、
前記制御装置は、前記摩擦係数比算出部の算出結果である前記摩擦係数比に基づき前記電動モータの駆動を制御する
ことを特徴とする電動運搬車両。
【請求項2】
請求項1に記載の電動運搬車両において、
前記タイヤ力算出部は、複数の前記駆動輪にその向きの前後方向に発生する摩擦力である第1方向のタイヤ力を前記タイヤ力としてそれぞれ算出するものであり、
前記スリップ指標算出部は、前記車輪速度センサにより検出された複数の前記駆動輪の回転速度と複数の前記従動輪の回転速度とに基づき算出する複数の前記駆動輪のスリップ率を前記スリップ指標としてそれぞれ算出するものであり、
前記摩擦係数算出部は、前記タイヤ力算出部の算出結果である前記第1方向のタイヤ力を前記輪荷重算出部の算出結果である前記輪荷重によって除することで得られる第1の摩擦係数を前記摩擦係数として算出するものであり、
前記摩擦係数比算出部は、前記摩擦係数算出部の算出結果である前記第1の摩擦係数を前記スリップ指標算出部の算出結果である前記スリップ率によって除することで得られる第1の摩擦係数比を前記摩擦係数比として算出するものであり、
前記制御装置は、前記摩擦係数比算出部の算出結果である前記第1の摩擦係数比に基づき前記電動モータの駆動を制御する
ことを特徴とする電動運搬車両。
【請求項3】
請求項2に記載の電動運搬車両において、
前記電動モータの動力を前記駆動輪に伝達する動力伝達機構を備え、
前記タイヤ力算出部は、前記輪荷重算出部の算出結果の前記輪荷重と単位荷重当たりの転がり抵抗係数と前記電動モータの駆動トルクと前記動力伝達機構の慣性モーメントとに基づき、前記第1方向のタイヤ力を算出するものである
ことを特徴とする電動運搬車両。
【請求項4】
請求項1に記載の電動運搬車両において、
前記電動運搬車両のヨー角速度を検出するヨーレートセンサと、
前記電動運搬車両の前後方向に直交する方向の加速度である横加速度を検出する横加速度センサと、
複数の前記従動輪を操舵する操舵機構の操舵角を検出する操舵角センサとを備え、
前記タイヤ力算出部は、複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪の回転面に直交する方向に発生する摩擦力である第2方向のタイヤ力を前記タイヤ力として、前記車輪速度センサの検出情報と前記ヨーレートセンサの検出情報とに基づきそれぞれ算出するものであり、
前記スリップ指標算出部は、前記車輪速度センサの検出情報と前記ヨーレートセンサの検出情報と前記横加速度センサの検出情報と前記操舵角センサの検出情報とに基づき算出する複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪のスリップ角を前記スリップ指標としてそれぞれ算出するものであり、
前記摩擦係数算出部は、前記タイヤ力算出部の算出結果である前記第2方向のタイヤ力を前記輪荷重算出部の算出結果である前記輪荷重によって除することで得られる第2の摩擦係数を前記摩擦係数として算出するものであり、
前記摩擦係数比算出部は、前記摩擦係数算出部の算出結果である前記第2の摩擦係数を前記スリップ指標算出部の算出結果である前記スリップ角によって除することで得られる第2の摩擦係数比を前記摩擦係数比として算出するものであり、
前記制御装置は、前記摩擦係数比算出部の算出結果である前記第2の摩擦係数比に基づき前記電動モータの駆動を制御する
ことを特徴とする電動運搬車両。
【請求項5】
請求項1に記載の電動運搬車両において、
前記電動運搬車両のヨー角速度を検出するヨーレートセンサと、
前記電動運搬車両の前後方向に直交する方向の加速度である横加速度を検出する横加速度センサと、
複数の前記従動輪を操舵する操舵機構の操舵角を検出する操舵角センサとを備え、
前記タイヤ力算出部は、複数の前記駆動輪にその向きの前後方向に発生する摩擦力である第1方向のタイヤ力を前記タイヤ力としてそれぞれ算出すると共に、複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪の回転面に直交する方向に発生する摩擦力である第2方向のタイヤ力を前記タイヤ力として前記車輪速度センサの検出情報と前記ヨーレートセンサの検出情報とに基づきそれぞれ算出するものであり、
前記スリップ指標算出部は、前記車輪速度センサにより検出された複数の前記駆動輪の回転速度と複数の前記従動輪の回転速度とに基づき算出する複数の前記駆動輪のスリップ率を前記スリップ指標としてそれぞれ算出すると共に、前記車輪速度センサの検出情報と前記ヨーレートセンサの検出情報と前記横加速度センサの検出情報と前記操舵角センサの検出情報とに基づき算出する複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪のスリップ角を前記スリップ指標としてそれぞれ算出するものであり、
前記摩擦係数算出部は、前記タイヤ力算出部の算出結果である前記第1方向のタイヤ力を前記輪荷重算出部の算出結果である前記輪荷重によって除することで得られる第1の摩擦係数を前記摩擦係数として算出すると共に、前記タイヤ力算出部の算出結果である前記第2方向のタイヤ力を前記輪荷重算出部の算出結果である前記輪荷重によって除することで得られる第2の摩擦係数を前記摩擦係数として算出するものであり、
前記摩擦係数比算出部は、前記摩擦係数算出部の算出結果である前記第1の摩擦係数を前記スリップ指標算出部の算出結果である前記スリップ率によって除することで得られる第1の摩擦係数比を前記摩擦係数比として算出すると共に、前記摩擦係数算出部の算出結果である前記第2の摩擦係数を前記スリップ指標算出部の算出結果である前記スリップ角によって除することで得られる第2の摩擦係数比を前記摩擦係数比として算出するものであり、
前記制御装置は、
前記スリップ指標算出部の算出結果である前記スリップ率及び前記スリップ角に基づいて前記摩擦係数比算出部の算出結果である前記第1の摩擦係数比及び前記第2の摩擦係数比のいずれか一方を選択し、
選択した一方に基づいて前記電動モータの駆動を制御する
ことを特徴とする電動運搬車両。
【請求項6】
請求項1に記載の電動運搬車両において、
複数の前記駆動輪と車体フレームとの間に設けられた第1サスペンション及び複数の前記従動輪と前記車体フレームとの間に設けられた第2サスペンションを備え、
前記第1サスペンション及び前記第2サスペンションは、作動油が封入されている油圧シリンダを含み、
前記輪荷重検出器は、前記油圧シリンダにおける作動油の圧力を検出する圧力センサである
ことを特徴とする電動運搬車両。
【請求項7】
請求項1に記載の電動運搬車両において、
路面が滑り易いことを報知する報知装置を備え、
前記制御装置は、前記摩擦係数比算出部の算出結果である前記摩擦係数比が予め設定された閾値よりも小さい場合に前記報知装置を駆動させる
ことを特徴とする電動運搬車両。
【請求項8】
請求項1に記載の電動運搬車両において、
前記制御装置は、
前記摩擦係数比算出部の算出結果である前記摩擦係数比から路面の最大摩擦係数を推定し、
推定結果の前記最大摩擦係数を用いて前記電動運搬車両の走行速度の上限値を演算し、
前記電動運搬車両の走行速度が演算結果の前記上限値を超えないように前記電動モータの駆動を制御する
ことを特徴とする電動運搬車両。
【請求項9】
複数の電動運搬車両の運行を管制する電動運搬車両の運行管制システムであって、
複数の前記電動運搬車両が運行される現場の走行経路に関する地図情報を格納する地図データベースを備え、
複数の前記電動運搬車両は、請求項1に記載の電動運搬車両であり、
複数の前記電動運搬車両は、前記摩擦係数比を用いて路面の最大摩擦係数を推定し、推定結果の前記最大摩擦係数を複数の前記電動運搬車両のそれぞれの位置情報に紐づけて前記運行管制システムへ通知するようにそれぞれ構成されており、
前記運行管制システムは、
前記地図データベースの前記地図情報と複数の前記電動運搬車両からそれぞれ通知され前記位置情報に紐づけられた前記最大摩擦係数とを用いて走行速度の上限値を演算し、
演算結果の上限値を前記位置情報に対応する走行経路の速度制限値として前記地図データベースの前記地図情報に紐づけるように構成され、
前記運行管制システムは、前記位置情報を通知してきた電動運搬車両に対して、前記地図データベースを参照して前記位置情報に対応する走行経路に紐づけられている前記上限値を走行速度の制限値として通知するように構成されている
ことを特徴とする電動運搬車両の運行管制システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの駆動力により走行する電動運搬車両及びその運行管制システムに係り、さらに詳しくは、鉱山などで掘削された鉱石や土砂などの重量物を運搬するダンプトラック等の電動運搬車両及びその運行管制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
露天掘り鉱山などでは、掘削された鉱石や土砂をダンプトラック等の運搬車両が搬送している。運搬車両は、一般的に、鉱物を掘削している積込場で多量の運搬物を荷台に積載し、運搬物を積載した状態で搬送路を走行して放土場で放土(排出)する。運搬車両は、荷台を傾けることが可能であり、積載した運搬物を荷台から車両後方へ落とすように構成されている。荷台が空になった運搬車両は、再び搬送路を走行して積込場に戻り、同様に、積載、運搬、放土を何回も繰り返すことで作業を実行する。
【0003】
鉱山で用いられる上述の運搬車両は、近年電動化が進んでおり、後輪に装着された電動モータを駆動源として走行するものが一般的になっている。この電動運搬車両は、駆動源を電動モータとすることで、トランスミッションを廃してメンテナンスコストを低減できるほか、電動化によるエネルギ効率の向上、駆動トルクの精密な管理などが可能となっている。
【0004】
さらに、鉱山サイト全体の作業効率化を目的として、サイト内の電動運搬車両の作業内容を管制する運行管制システムが構築されている場合がある。運行管制システムは、無線などを介して個々の電動運搬車両に対して走行経路や制限速度などの作業に関する様々な指令を行うように構成されていることが一般化している。
【0005】
このような電動運搬車両における運搬作業の効率を表す指標として、一般には、単位時間当たりに移動した運搬物の重量を用いる。この作業効率の指標によれば、電動運搬車両が、一度になるべく多くの運搬物を積載すると共に、なるべく速い速度で走行することが、作業効率の向上に繋がることが分かる。電動運搬車両の積載量は車両毎に決まっており、加えて鉱山サイト毎に安全に走行できる制限速度が設定されていることから、作業効率には上限がある。さらに、悪天候時などで路面が泥濘になるなど路面状況が悪化した場合には、上述の制限速度を晴天時より低く設定したり、オペレータが個々に路面状況を判断して安全な走行速度に減速したりするので、晴天時に比べると作業効率が低下してしまうことは避けられない。このような状況で安全性を確保しつつ作業効率をなるべく低下させないためには、安全に走行できる範囲で速度低下をなるべく少なくすることが必要である。そこで、路面状況、特に路面の滑り易さをスリップが起きる前に正確に判定し、安全性と作業効率を両立可能な適切な走行速度で走行することが求められる。
【0006】
路面の滑り易さを判定する方法として、特許文献1に記載の技術が公知である。特許文献1に記載のタイヤ接地状態推定装置は、タイヤ接地状態の推定精度を向上させることを目的として、推定した前後輪(転舵輪及び非転舵輪)の路面摩擦係数を補正するものである。具体的な一例としては、検出手段により検出された転舵角及び車速と推定された前輪(転舵輪)の路面摩擦係数とに基づき前輪のセルフアライニングトルク(以下、前輪SATと称する)を推定し、検出手段によって前輪SATを検出し、前輪SATの推定値と検出値との差分で定義される前輪SAT推定誤差を演算し、演算結果の前輪SAT推定誤差に応じて路面摩擦係数を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術においては、前輪SATの検出値を電動パワーステアリングにおけるトルクセンサ値、アシストモータ電流値、ハンドル角から得ている。すなわち、当該技術は、トルクセンサ値やアシストモータ電流値を検出可能な操舵補助モータを含む電動パワーステアリングシステムを備えた自動車などの一般車両を対象としたものであると想定される。
【0009】
それに対して、鉱山で用いられる上述の電動運搬車両は、その車両重量の大きさを理由に、特許文献1に記載の電動パワーステアリングシステムのような電動の操舵機構を備えていない構成が一般的である。そのため、上述の電動運搬車両に対して路面の滑り易さを判定する技術として、電動パワーステアリングにおけるトルクセンサ値やアシストモータ電流値を用いる特許文献1に記載の技術を適用することは難しい。
【0010】
また、上述した電動運搬車両は、荷台に運搬物を積載した状態で走行する場合と、荷台が空の状態で走行する場合とがある。このため、運搬物の積載重量の影響によって、車輪に掛かる鉛直方向の荷重(以下、輪荷重と称することがある)が大きく変動する。加えて、荷台上に運搬物を積載している場合には、電動運搬車両の重心が非常に高い位置にあることから、加減速や旋回運動によって各車輪に掛かる輪荷重が大幅に変化してしまう。上述の電動運搬車両においては、このような特性を有するので、一般車両を対象とする特許文献1に記載の路面摩擦係数の推定方法を用いると、推定精度が低下することがある。これは、路面摩擦係数が輪荷重をタイヤに生じる摩擦力で除することによって得られるものであり、車両重量が殆ど変化しない一般車両の輪荷重を一定値又はモデルから算出される推定値としているためである。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、輪荷重が変動する状況において操舵力を計測せずに路面の滑り易さを正確に判定可能な指標を用いて走行を制御することが可能な電動運搬車両及びその運行管制システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいる。その一例を挙げるならば、複数の駆動輪及び複数の従動輪と、複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪の回転速度をそれぞれ検出する車輪速度センサと、複数の前記駆動輪を駆動する電動モータと、前記電動モータを制御する制御装置とを備えた電動運搬車両において、複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪に対して鉛直方向に掛かる荷重である輪荷重の情報をそれぞれ検出する輪荷重検出器を備え、前記制御装置は、前記輪荷重検出器の検出情報に基づいて輪荷重を算出する輪荷重算出部と、複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪の少なくとも一方に路面上で発生する摩擦力であるタイヤ力を算出するタイヤ力算出部と、複数の前記駆動輪及び複数の前記従動輪の少なくとも一方に発生する滑りの程度を表すスリップ指標を算出するスリップ指標算出部と、前記タイヤ力算出部の算出結果である前記タイヤ力を前記輪荷重算出部の算出結果である前記輪荷重によって除することで摩擦係数を算出する摩擦係数算出部と、前記摩擦係数算出部の算出結果である前記摩擦係数を前記スリップ指標算出部の算出結果である前記スリップ指標によって除することで摩擦係数比を算出する摩擦係数比算出部との機能部を有するように構成され、前記制御装置は、前記摩擦係数比算出部の算出結果である前記摩擦係数比に基づき前記電動モータの駆動を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、輪荷重検出器の検出情報を基に得られる正確な輪荷重を用いて算出した摩擦係数をスリップ指標で除することにより、路面の滑り易さを判定可能な指標である路面の最大摩擦係数と相関関係にある摩擦係数比を算出し、算出結果の摩擦係数比に基づき電動モータの駆動を制御するので、輪荷重が変動する状況において操舵力を計測せずに路面の滑り易さを正確に判定可能な指標を用いて走行を制御することができる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電動運搬車両としてのダンプトラックを示す外観図である。
【
図2】第1の実施形態に係る電動運搬車両の一部を構成するサスペンションの構造を示す断面図である。
【
図3】第1の実施形態に係る電動運搬車両における制御装置のハード及び機能部の構成を示すブロック図である。
【
図4】第1方向のタイヤ力(タイヤ前後力)とスリップ率との一般的な関係を示すグラフである。
【
図5】
図4に示すグラフから得られる路面の第1の摩擦係数(第1方向のタイヤ力に関する摩擦係数)とスリップ率との関係を示すグラフである。
【
図6】
図3に示す第1の実施形態に係る電動運搬車両の制御装置における路面状態判定処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る電動運搬車両における制御装置の機能部の構成を示すブロック図である。
【
図8】第2方向のタイヤ力(タイヤ横力)とスリップ角との一般的な関係を示すグラフである。
【
図9】
図8に示すグラフから得られる路面の第2の摩擦係数(第2方向のタイヤ力に関する摩擦係数)とスリップ角との関係を示すグラフである。
【
図10】旋回走行中の電動運搬車両における車輪(タイヤ)に発生する力及び車両のモーメントを模式的に示す説明図である。
【
図11】
図7に示す第2の実施形態に係る電動運搬車両の制御装置における路面状態判定処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の第3の実施形態に係る電動運搬車両における電動モータから駆動輪までの動力伝達機構を示すと共に駆動輪に発生する力を示す説明図である。
【
図13】本発明の第4の実施形態に係る電動運搬車両における制御装置の機能部の構成を示すブロック図である。
【
図14】本発明の実施形態に係る電動運搬車両の運行管制システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の電動運搬車両及びその運行管制システムの実施形態について図面を用いて説明する。本実施の形態においては、電動運搬車両の一例として、ダンプトラックを例に挙げて説明する。なお、本明細書で述べる前後左右の方向は、電動運搬車両に搭乗したオペレータから見た方向を示している。
【0016】
[第1の実施形態]
まず、第1の実施形態に係る電動運搬車両としてのダンプトラックの概略構成について
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係る電動運搬車両としてのダンプトラックを示す外観図である。
図2は第1の実施形態に係る電動運搬車両の一部を構成するサスペンションの構造を示す断面図である。
【0017】
図1において、電動運搬車両としての鉱山用のダンプトラック1は、鉱山などで採掘した鉱石や土砂等の積荷W(運搬物)を積載して運搬するものであり、電動モータ11の駆動力によって走行するように構成されている。ダンプトラック1は、前後方向(
図1の左右方向)に延びる支持構造体である車体フレーム2と、車体フレーム2の前部及び後部における左右両側にそれぞれ回転可能に設けられた車輪であるタイヤを含む前輪3及び後輪4と、車体フレーム2上に起伏(傾転)可能に搭載された荷台5と、車体フレーム2の前部に設置されたキャビン6とを備えている。
【0018】
前輪3は、例えば、操舵機構を介してオペレータによって操舵されるように構成された従動輪である。後輪4は、電動モータ11が装着されるように構成され、電動モータ11によって回転駆動される駆動輪である。電動モータ11に電力を供給するためのエンジン及び発電機(共に図示せず)が車体フレーム2に搭載されている。電動モータ11は、後述の制御装置40(後述の
図3参照)によって駆動が制御されるように構成されている。
【0019】
荷台5は、ショベルやホイールローダなどの積込機械によって土砂などの積荷Wが積載される部分であり、その後端部が車体フレーム2の後端部に設けられた支持軸2aを介して回動可能に車体フレーム2に支持されている。荷台5と車体フレーム2との間には、荷台5を傾転させるホイストシリンダ13が設けられている。荷台5は、ホイストシリンダ13の伸縮により、積荷Wを運搬する位置である運搬位置(実線により図示)と積荷Wを放土する位置である放土位置(二点鎖線により図示)との間で車体フレーム2に対して傾転可能に構成されている。荷台5の放土位置は、ホイストシリンダ13の伸長により、荷台5の後端部が車体フレーム2の支持軸2aを中心に回動しながら荷台5の前端部を上昇させて傾いた状態となっている。この放土位置では、荷台5上の積荷Wを荷台5の後端から排出することが可能である。
【0020】
キャビン6は、オペレータが搭乗して車両を操縦する部分である。キャビン6には、オペレータが着座する運転席(図示せず)やオペレータがダンプトラック1を操作するための各種の操作機器(図示せず)が配置されている。例えば、ダンプトラック1の走行や停止の走行操作のためのアクセルペダルやブレーキペダルなどの操作ペダル、前輪3を操舵する操舵機構の一部であるステアリングホイール、荷台5を操作する操作部(共に図示せず)などが配置されている。
【0021】
前輪3と車体フレーム2の前部との間には、走行時に路面から受ける振動を吸収して車体フレーム2への衝撃を緩和するフロントサスペンション15が設けられている。後輪4と車体フレーム2の後部との間には、走行時に路面から受ける振動を吸収して車体フレーム2への衝撃を緩和するリアサスペンション16が設けられている。フロントサスペンション15及びリアサスペンション16は、例えば、非常に大きな荷重を支えるために、機械的なばね機構の代わりに、ストラットと呼ばれる油圧部品によって構成されている。ストラットは、油圧シリンダシリンダにより構成されたばねダンパ機構である。
【0022】
具体的には、フロントサスペンション15及びリアサスペンション16としてのストラットは、例えば
図2に示すように、円筒状のチューブ21と、チューブ21内に摺動可能に配置されたピストン22と、一端側がピストン22に固着され他端側がチューブ21外に突出したロッド23とを含んで構成されている。ピストン22及びロッド23は、チューブ21内をチューブ21の中心軸に沿って移動する。チューブ21内の空間は、ピストン22によってボトム室25(メインチャンバ)とロッド室26(サブチャンバ)とに区画されている。ピストン22及びロッド23は、チューブ21の中心軸に沿って延在する内部空間27を有し、当該内部空間27がボトム室25と連通するように構成されている。ロッド23には、絞り孔23aが穿設されている。絞り孔23aは、ロッド23に位置する内部空間27とロッド室26とを常に連通した状態に保つものである。つまり、ロッド室26とボトム室25は、内部空間27及び絞り孔23aを介して連通されている。ストラット15、16は、チューブ21内に作動油が封入されており、外力が作用すると作動油の圧縮作用によってばね効果を発揮するように構成されている。
【0023】
フロントサスペンション15及びリアサスペンション16には、
図1に示すように、チューブ21内の作動油の圧力を検出する圧力センサ31が設置されている。上述した構成のフロントサスペンション15及びリアサスペンション16においては、チューブ21内の作動油の圧力は、ストラット(フロントサスペンション15及びリアサスペンション16)が支える荷重に比例した圧力となる。すなわち、圧力センサ31は、前輪3及び後輪4の鉛直方向に掛かる荷重である輪荷重の情報を検出する輪荷重検出器として機能するものである。
【0024】
前輪3には、前輪3の回転速度を検出する車輪速度センサ32が設置されている。後輪4には、後輪4の回転速度を検出する車輪速度センサ33が設置されている。車輪速度センサ32、33は、例えば、車軸や電動モータ11の駆動軸に取り付けられたロータリーエンコーダであり、車輪の回転角に応じて電気パルスが発生するように構成されている。このように構成された車輪速度センサ32、33においては、前輪3及び後輪4の回転速度が電気パルスの時間間隔(周波数)として検出される。車輪速度センサ32、33は、検出情報を後述の制御装置40へ出力する。
【0025】
電動モータ11には、電力供給源(発電機やバッテリ)から電動モータ11に供給される電圧V及び電流Iを検出する電圧センサ34及び電流センサ35(共に後述の
図3参照)が設けられている。電圧センサ34及び電流センサ35は、電力供給源から電動モータ11に供給される電力の情報を検出する電力検出器として機能するものである。電圧センサ34及び電流センサ35は、検出情報を後述の制御装置40へ出力する。
【0026】
ここで、一般的な鉱山用のダンプトラックの作業内容について説明する。
【0027】
鉱山サイトでは、油圧ショベルなどの掘削機械が鉱脈に達するまで表土を剥いだり鉱物を掘り出したりする作業を行っている。鉱山用のダンプトラックは、鉱山サイト内において、掘削機械により掘削された土砂や鉱物などの運搬物を繰り返し運搬する。具体的には、ダンプトラックは、掘削機械の近辺まで近づき、掘削された土砂や鉱物を掘削機械に積み込んでもらう。この場所を積込場と称する。積み込まれた運搬物を積込場から適切な場所(搬送先)まで搬送路を通って運搬する。例えば、運搬物が表土の土砂である場合には土砂を廃棄埋め立てする場所へ、運搬物が鉱物である場合にはストックパイルやコンベアで鉱物を運搬するためのピットへ運搬する。いずれの場所でも、ダンプトラックはその場所で荷台を傾けて運搬物を排出する荷下ろしを行う。この場所を放土場と称する。空荷になったダンプトラックは、運搬物を積み込むために放土場から再び積込場へと戻る。ダンプトラックは、上述の運搬作業を繰り返す。
【0028】
鉱山用のダンプトラックにおける運搬作業の効率を表す指標としては、一般に、単位時間当たりに移動した運搬物の重量を用いる。この作業効率の指標によれば、ダンプトラックが一度により多くの運搬物を積載すると共に、より速い速度で走行することによって作業効率が向上することがわかる。しかし、ダンプトラックの積載量は車両毎に決まっていると共に、鉱山サイト毎に安全に走行できる制限速度が設定されている。これらのことから、運搬作業の効率には上限がある。さらに、悪天候時などで路面が泥濘になるなど路面状況が悪化する場合を想定したとき、鉱山サイトによっては制限速度を晴天時より低く設定することがある。また、各オペレータが路面状況を判断して安全な走行速度に減速することもある。このため、路面状況が悪化する場合には、作業効率が晴天時の場合と比べて低下することは避けられない。このような状況で安全性を確保しつつ作業効率の低下を抑制するためには、安全に走行できる範囲に走行速度を低下させつつ、速度低下をなるべく抑制することが必要となる。
【0029】
そこで、本実施の形態に係るダンプトラック1は、路面の滑り易さを正確に判定可能な指標を用いて走行を制御することで、安全性と作業効率を両立可能な運搬作業を行うことができるように構成されている。具体的には、ダンプトラック1は、路面の滑り易さを判定して電動モータ11の駆動を制御する制御装置40(後述の
図3参照)を備えている。
【0030】
次に、第1の実施形態に係る電動運搬車両における制御装置のハード及び機能について
図3~
図5を用いて説明する。
図3は第1の実施形態に係る電動運搬車両における制御装置のハード及び機能部の構成を示すブロック図である。
【0031】
図3に示す制御装置40は、路面の滑り易さの判定結果に応じて電動モータ11の駆動を制御するように構成されている。制御装置40は、ハード構成として、例えば、RAMやROM等からなる記憶装置41と、CPUやMPU等からなる処理装置42とを備えている。記憶装置41には、ダンプトラック1が走行する路面の滑り易さを判定して走行を制御するために必要なプラグラムや各種情報が予め記憶されている。処理装置42は、記憶装置41からプログラムや各種情報を適宜読み込み、当該プログラムに従って処理を実行することで各種の機能を実現する。
【0032】
本実施の形態に係る制御装置40は、
図4及び
図5に示す特性図を根拠として路面の滑り易さを判定可能な指標を用いて走行の制御を行うものである。
図4は、一般的なタイヤ特性を表す特性図である。
図4中、横軸ωはスリップ率、縦軸F1は第1方向のタイヤ力(タイヤ前後力)を示している。
【0033】
タイヤは、微小なスリップの発生により力が発生する特性を有している。タイヤが向く前後方向(タイヤの回転面におけるタイヤの前後方向)に関して、タイヤに印加される駆動トルク又は制動トルクによってタイヤと地面との間に微小なスリップが生じることで、タイヤの回転速度と車両速度との間に速度差が生じる。この速度差の比率であるスリップ率ωは、次の式(1)によって表される。
【0034】
ω=(vw-vb)/vw … 式(1)
式(1)において、vwはタイヤの回転速度、vbは車両の対地速度(以下、車両速度と称することがある)を示している。
【0035】
式(1)で表されるスリップ率ωが微小である領域のときには、
図4に示すように、タイヤから地面に対して発生するタイヤの向きの前後方向の摩擦力である第1方向のタイヤ力F1(以下、タイヤの前後力と称することもある)は、スリップ率ωに比例する。第1方向のタイヤ力F1は、特性線C1に示されているように、スリップ率ωが微小領域を超えて増加すると増加する速度が鈍くなり、最終的には飽和して最大値F1maxとなる。最大値F1maxは、その路面においてタイヤが発生可能な第1方向の最大の摩擦力である。第1方向のタイヤ力F1が最大値となるスリップ率ω1は一般的に0.2程度の値になることが判明している。
【0036】
ところで、第1方向のタイヤ力は摩擦力なので、発生可能な第1方向のタイヤ力の最大値は車輪に掛かる荷重(輪荷重)に比例する。
図4に示す第1方向のタイヤ力(前後力)の特性図は、輪荷重が一定である場合の特性を示したものである。鉱山用のダンプトラックは、一般的な自動車の場合とは異なり、自重に対して積載重量が非常に大きく、自重を大幅に超える積荷を積載することが普通である。また、同トラックにおいては、荷台が車両上部に位置している関係から重心位置が非常に高い位置にあり、加減速や旋回走行による各車輪の荷重移動量も大きくなる。
【0037】
鉱山用のダンプトラックのような輪荷重が大きく変化しやすい場合においても路面状況を統一的に扱うために、本実施の形態においては、第1のタイヤ力(前後力)を輪荷重で除して正規化することで摩擦係数として取り扱うことを考えるに至った。この場合の特性曲線を
図5に示す。
図5中、横軸ωはスリップ率、縦軸μ1は第1方向のタイヤ力F1(前後力)に関する摩擦係数である第1の摩擦係数を示している。
【0038】
図5に示す特性線C2は、前述の第1方向のタイヤ力F1(前後力)の場合と同様に、スリップ率ωが微小である領域のとき、第1の摩擦係数μ1はスリップ率ωに比例する。スリップ率ωが微小領域を超えて増加すると、第1の摩擦係数μ1は、スリップ率ωが増加するにつれて増加する速度が鈍くなり、最終的には飽和して最大値μ1maxとなる。最大値μ1maxが第1方向のタイヤ力F1(前後力)に関する路面の最大摩擦係数であり、第1の最大摩擦係数μ1maxの大小が当該路面の滑り易さを表している。すなわち、第1の最大摩擦係数μ1maxは、路面の滑り易さを判別可能な指標として利用することができる。
【0039】
ここで、スリップ率ωが微小範囲にある場合における第1の摩擦係数μ1とスリップ率ωの比例ゲインである直線T2の傾きは、摩擦係数μ1の飽和時の最大値μ1maxと相関していることが想定される。すなわち、直線T2の傾きが相対的に大きい場合には最大値μ1maxも相対的に大きくなり、直線T2の傾きが相対的に小さい場合には最大値μ1maxも相対的に小さくなると想定される。
【0040】
本実施の形態においては、路面の滑り易さの指標として利用可能な第1の最大摩擦係数μ1maxと相関関係にある比例ゲイン(直線T2の傾き)を用いて路面の滑り易さを判定する。当該比例ゲインは、タイヤの前後力(第1方向のタイヤ力F1)に関する第1の摩擦係数とスリップ率の比を示すものなので、前後力摩擦係数比と称することがある。当該前後力摩擦係数比は、詳細は後述するが、車両走行中にセンサにより検出された情報を基にスリップ率及び摩擦係数を算出し、算出結果の点Pdと原点Oを通る直線T2を決定し、決定された直線T2の傾きから算出することが可能である。算出結果の前後力摩擦係数比が相対的に大きい場合には、路面の滑り易さの指標である路面の第1の最大摩擦係数μ1maxも相対的に大きいと推定可能である。一方、前後力摩擦係数比が相対的に小さい場合には、路面の第1の最大摩擦係数μ1maxも相対的に小さいと推定可能である。そこで、算出した前後力摩擦係数比の大小から路面の滑り易さを判定する構成を採用する。
【0041】
本実施の形態に係る制御装置40は、上述の路面の滑り易さの判定を行った上で走行を制御する。具体的には、制御装置40は、
図3に示すように、上述の路面の滑り易さを判定するための一連の処理を行う路面状態判定処理部51と、路面状態判定処理部51からの判定結果に基づき電動モータ11の駆動を制御するモータ制御部52とを備えている。当該判定処理は、輪荷重、第1方向のタイヤ力(タイヤの前後力)、スリップ率の3つのパラメータを必要とする。路面状態判定処理部51は、細分化された機能部として、輪荷重算出部54、第1方向タイヤ力算出部55、スリップ率算出部56、第1摩擦係数算出部57、前後力摩擦係数比算出部58、路面状態判定部59を有している。
【0042】
輪荷重算出部54は、輪荷重検出器として機能する圧力センサ31の検出情報(圧力値)を基に前輪3及び後輪4の輪荷重を算出するものである。輪荷重算出部54は、算出結果の輪荷重を第1摩擦係数算出部57へ出力する。
【0043】
ダンプトラック1の支持荷重はストラット15、16(
図2参照)に封入されている作動油の圧縮により発生しているので、圧力センサ31によって検出されるストラット15、16のチューブ21内の作動油の圧力はストラット15、16を介して前輪3及び後輪4の各車輪に掛かる荷重(輪荷重)に比例する。そこで、輪荷重算出部54は、圧力センサ31の検出情報及びストラット15、16の諸元値(ピストン22の受圧面積やチューブ21の内径など)を用いて各車輪の輪荷重を算出する。例えば、輪荷重Wは、次の式(2)で表される。
【0044】
W=A・P … 式(2)
式(2)において、Pはチューブ21内の作動油の圧力、Aはピストン22の受圧面積を示している。なお、ピストン22の受圧面積Aは例えば記憶装置41に予め記憶されている。
【0045】
本実施の形態においては、ストラット15、16の圧力を圧力センサ31によって検出することで、変動の大きなダンプトラック1の輪荷重を推定せずに直接的且つ正確に得ることができる。
【0046】
第1方向タイヤ力算出部55は、電力供給源から電動モータ11に供給される電力を検出する電力検出器として機能する電圧センサ34の検出情報及び電流センサ35の検出情報から得られる電動モータ11の駆動トルクを基に第1方向のタイヤ力を算出するものである。第1方向のタイヤ力は路面上で駆動輪に発生する所定方向の摩擦力の1つであり、第1方向タイヤ力算出部55は摩擦力であるタイヤ力を算出するタイヤ力算出部を構成する。第1方向タイヤ力算出部55は、算出結果の第1方向のタイヤ力を第1摩擦係数算出部57へ出力する。
【0047】
スリップ率算出部56は、前輪3及び後輪4の回転速度を検出する各車輪速度センサ32、33の検出情報を基に各後輪4のスリップ率ωを算出するものである。スリップ率ωは車輪に発生する滑りの程度を表すスリップ指標の1つであり、スリップ率算出部56は、スリップ指標を算出するスリップ指標算出部を構成する。本実施の形態に係るダンプトラック1は、後輪4が電動モータ11により駆動されるものであり、基本的には電動モータ11の回生トルクによって減速及び停止も行う構成である。このことから、通常の走行時では、前輪3には駆動トルク及び制動トルクが掛からず、前輪3は純粋に従動輪として作動するので、前輪3の回転速度を車両速度として用いることが可能である。そこで、スリップ率算出部56は、例えば、左右の前輪3の回転速度の平均を車両速度vbとし、前述の式(1)を用いて後輪4の各車輪のスリップ率ωを算出する。スリップ率算出部56は、算出結果のスリップ率ωを前後力摩擦係数比算出部58へ出力する。
【0048】
なお、スリップ率算出部56は、各後輪4のスリップ率ωを算出する前に、車両速度vbが速度閾値以上であるか否かを判定する。この判定を行う理由は、車両速度vbが極めて小さい領域ではスリップ率の演算結果が不安定になるからである。車両速度vbが速度閾値よりも小さい場合には、制御装置40は路面の滑り易さを判定することなく路面状態判定処理部51の処理を終了する。車両速度vbは、前述したように、車輪速度センサ32によって検出された前輪3の回転速度を用いることが可能である。
【0049】
第1摩擦係数算出部57は、輪荷重算出部54の算出結果である輪荷重によって第1方向タイヤ力算出部55の算出結果である第1方向のタイヤ力を除することで、第1方向のタイヤ力に関する路面の摩擦係数である第1の摩擦係数を算出するものである。第1摩擦係数算出部57の演算は、
図5に示す第1の摩擦係数μ1を算出することに相当する。第1摩擦係数算出部57は、算出結果の第1の摩擦係数を前後力摩擦係数比算出部58へ出力する。
【0050】
前後力摩擦係数比算出部58は、第1摩擦係数算出部57の算出結果である第1の摩擦係数をスリップ率算出部56の算出結果であるスリップ率ωで除することによって上述の比例ゲインである前後力摩擦係数比を算出するものである。前後力摩擦係数比算出部58の演算は、
図5に示す点Pdの直線T2の傾きを算出することに相当する。点Pdは、スリップ率算出部56の算出結果であるスリップ率ωと第1摩擦係数算出部57の算出結果である第1の摩擦係数μ1とで表される点である。前後力摩擦係数比算出部58は、算出結果の前後力摩擦係数比を路面状態判定部59へ出力する。
【0051】
なお、スリップ率算出部56は、スリップ率ωの算出後に、スリップ率ωが所定の範囲内であるか否かを判定する。上述したように、前後力摩擦係数比が路面の最大摩擦係数に相関関係がある条件は、前後力摩擦係数比を線形と見なすことが可能であるスリップ率が小さい領域の場合のみである。スリップ率が大きい領域では、前後力摩擦係数比を線形とみなすことができず、前後力摩擦係数比と路面の最大摩擦係数との相関関係が維持されない。このような前後力摩擦係数比を用いても、路面の滑り易さの正確な判定を行うことは難しい。また、スリップ率が極めて小さい領域では摩擦係数比の算出結果が不安定になるので、スリップ率がゼロ近傍の極小範囲である場合も、路面の滑り易さの正確な判定を行うことは難しい。これらの理由から、スリップ率ωが所定の範囲を逸脱する場合には、制御装置40は路面の滑り易さを判定することなく路面状態判定処理部51の処理を終了する。
【0052】
路面状態判定部59は、前後力摩擦係数比算出部58の算出結果である前後力摩擦係数比の大小に基づいて路面の滑り易さを判定するものである。例えば、前後力摩擦係数比を判定閾値と比較し、前後力摩擦係数比が判定閾値を下回る場合には、路面の滑り易さを示す指標である路面の第1の最大摩擦係数が低いと推定されるので、路面が滑り易い状態であることを示すフラグを出力する。一方、前後力摩擦係数比が判定閾値以上である場合には、路面の最大摩擦係数が高いと推定されるので、路面が滑り易い状態ではないことを示すフラグを出力する。また、当該判定閾値を複数設定し、設定した複数の判定閾値に対応させて路面の滑り易さのレベルを複数(例えば、大きさの異なる2つの判定閾値に対してレベル1~3)に分け、複数の判定閾値に対する前後力摩擦係数比の大小に応じた路面の滑り易さのレベルを判定する構成が可能である。また、前後力摩擦係数比と路面の第1の最大摩擦係数との関係を表すマップを予め記憶装置41に記憶しておき、路面状態判定部59は前後力摩擦係数比算出部58の演算結果の前後力摩擦係数比から記憶装置41に記憶されているマップを参照して路面の第1の最大摩擦係数を推定し、推定結果の第1の最大摩擦係数を判定閾値と比較することで路面の滑り易さを判定してフラグを出力する構成も可能である。
【0053】
モータ制御部52は、路面状態判定部59による路面の滑り易さの判定結果に基づき電動モータ11の駆動を制御するものである。例えば、路面状態判定部59の判定結果として路面が滑り易い状態であることを示すフラグが出力された場合には、後輪4を減速させるように電動モータ11を制御する。また、路面状態判定部59の判定結果として路面の滑り易さのレベルが出力される場合には、当該レベルが路面の滑り易い状態を示すレベルのときに後輪4を減速させるように電動モータ11を制御する構成が可能である。
【0054】
次に、第1の実施形態に係る電動運搬車両における制御装置の路面状態判定処理の処理手順について
図6を用いて説明する。
図6は
図3に示す第1の実施形態に係る電動運搬車両の制御装置における路面状態判定処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0055】
図6において、
図3に示す制御装置40は、圧力センサ31の検出情報であるサスペンション15、16の作動油の圧力に基づき各車輪3、4の輪荷重を算出する(ステップS10)と共に、電圧センサ34及び電流センサ35の検出情報を基に第1方向のタイヤ力(タイヤの前後力)を算出する(ステップS20)。なお、ステップS10とステップS20の処理の順番は任意である。
【0056】
次に、制御装置40は、ダンプトラック1の車両速度が速度閾値以上か否かを判定する(ステップS30)。車両速度は、例えば、車輪速度センサ32により検出された前輪3の回転速度を基に算出する。車両速度が速度閾値未満(NO)である場合には、路面状態判定処理を終了する(エンド)。一方、車両速度が速度閾値以上(YES)である場合には、車輪速度センサ32、33の全ての検出情報に基づきスリップ率を算出する(ステップS40)。
【0057】
次に、制御装置40は、ステップS40の算出結果であるスリップ率が所定範囲内であるか否かを判定する(ステップS50)。スリップ率が所定範囲外(NO)である場合には、路面の滑り易さの判定が困難になるので路面状態判定処理を終了する(エンド)。一方、スリップ率が所定範囲内(YES)である場合には、ステップS10の算出結果である輪荷重でステップS20の算出結果である第1方向のタイヤ力(タイヤの前後力)を除することによって第1の摩擦係数を算出する(ステップS60)。
【0058】
次いで、制御装置40は、ステップS40の算出結果であるスリップ率でステップS60の算出結果である第1の摩擦係数を除することによって前後力摩擦係数比を算出し(ステップS70)、ステップS70の算出結果の前後力摩擦係数比を基に路面の滑り易さ(路面状態)を判定する(ステップS80)。判定結果が路面の滑り易い状態であることを示すフラグ又はレベルである場合には、制御装置40は、後輪4を減速させるように電動モータ11の回転数又はトルクを制御する。ステップS80の処理を終了すると、再びスタートに戻って上述のステップ10~S80のフローを繰り返す。
【0059】
このように、本実施の形態においては、
図5に示す特性線C2における微小領域のスリップ率ωと第1の摩擦係数μ1との関係を根拠として算出可能な傾きT2である前後力摩擦係数比又は傾きT2から推定可能な第1の最大摩擦係数μ1maxを路面の滑り易さの指標として用いることで路面状態判定処理を行っている。路面の滑り易さの指標として利用可能な第1の最大摩擦係数μ1max又は前後力摩擦係数比が判定閾値よりも小さい場合に後輪4を減速させるように電動モータ11を制御することで、タイヤのスリップが大きくなることを事前に防止することができる。また、第1の最大摩擦係数μ1max又は前後力摩擦係数比が判定閾値以上の場合に後輪4を減速させることなく電動モータ11の駆動を維持することで、作業効率の低下を防ぐことができる。すなわち、安全性を確保しつつ作業効率の低下を防ぐことができる。
【0060】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る電動運搬車両を
図7~
図11を用いて説明する。なお、
図7~
図11において、
図1~
図6に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図7は本発明の第2の実施形態に係る電動運搬車両における制御装置の機能部の構成を示すブロック図である。
【0061】
第2の実施形態に係る電動運搬車両が第1の実施形態と相違する点は、概略すると、次のとおりである。第1の実施形態に係る制御装置40は、第1方向に発生するタイヤ力(前後力)に関するタイヤ特性(以下、縦タイヤ特性と称することがある)に基づき演算した指標(前後力摩擦係数比)を用いて路面の滑り易さを判定するように構成されている。それに対して、第2の実施形態に係る制御装置40Aは、旋回走行時にタイヤの前後方向(第1方向)に直交する方向(以下、第2方向と称することがある)においてタイヤに発生する摩擦力である第2方向のタイヤ力(横力)に関するタイヤ特性(以下、横タイヤ特性と称することがある)に基づき、路面の滑り易さの指標を演算し、演算結果を用いて路面の滑り易さを判定する構成されている。
【0062】
具体的には、
図7に示す第2の実施形態に係る制御装置40Aは、横タイヤ特性に基づき路面の滑り易さの判定の一連の処理を行う路面状態判定処理部51Aと、路面状態判定処理部51Aの判定結果に応じて電動モータ11を制御する第1の実施形態の構成と同様のモータ制御部52とを備えている。路面状態判定処理部51Aは、
図4及び
図5に示す縦タイヤ特性に代えて、
図8及び
図9に示す横タイヤ特性を根拠として路面の滑り易さの判定を行うものである。
図8は第2方向のタイヤ力(タイヤ横力)とスリップ角との一般的な関係を示すグラフである。
図9は
図8に示すグラフから得られる路面の第2の摩擦係数(第2方向のタイヤ力に関する摩擦係数)とスリップ角との関係を示すグラフである。
【0063】
タイヤが転がる際にタイヤが向く前後方向(回転面内の前後方向)と車両の進行方向にずれが生じた状態では、タイヤの前後方向に直交する第2方向にも摩擦力であるタイヤ力(横力)が発生する。このとき、タイヤの前後方向と車両の進行方向のずれ角をスリップ角という。横タイヤ特性は、第2方向のタイヤ力(横力)とスリップ角との関係を示すものであり、
図4に示す縦タイヤ特性と同様な特性を有している。
【0064】
具体的には、横タイヤ特性は、
図8に示すように、スリップ角βが微小である領域のときには、第2方向のタイヤ力F2(横力)はスリップ角βに比例する。第2方向のタイヤ力F2(横力)は、特性線C3に示されているように、スリップ角βが微小領域を超えて増加すると増加する速度が鈍くなり、最終的には飽和して最大値F2maxとなる。最大値F2maxは、その路面においてタイヤが発生可能な第2方向の最大のタイヤ力F2(横力)である。第2方向のタイヤ力F2(横力)が最大値となるスリップ角β1は一般的に10°程度であることが判明している。第2方向のタイヤ力F2(横力)も、前述の縦タイヤ特性における第1方向のタイヤ力(前後力)と同様に摩擦力なので、輪荷重に比例する特性がある。このことから、横タイヤ特性に対しても、鉱山用のダンプトラックのような輪荷重が大きく変化しやすい状況においても路面状況を統一的に扱うため、
図4に示す縦タイヤ特性と同様に、第2方向のタイヤ力F2(横力)を輪荷重で除して正規化することで摩擦係数として取り扱う。この場合の特性曲線を
図9に示す。
図9中、横軸βはスリップ角、縦軸μ2は第2方向のタイヤ力F2(タイヤ横力)に関する摩擦係数である第2の摩擦係数を示している。
【0065】
図9に示す特性線C4は、前述の第2方向のタイヤ力(横力)の場合と同様に、スリップ角βが微小である領域のとき、第2の摩擦係数μ2がスリップ角βに比例する。スリップ角βが微小領域を超えて増加すると、第2の摩擦係数μ2の増加する速度が鈍くなり、最終的には飽和して最大値μ2maxとなる。最大値μ2maxが第2方向のタイヤ力(横力)に関する路面の最大摩擦係数であり、第2の最大摩擦係数μ2maxの大小が当該路面の滑り易さを表している。すなわち、第2の最大摩擦係数μ2maxは、路面の滑り易さの指標として利用することができる。
【0066】
ここで、スリップ角βが微小範囲にある場合における第2の摩擦係数μ2とスリップ角βの比例ゲインである直線T4の傾きが摩擦係数μ2の飽和時の最大値μ2maxと相関していると想定される。すなわち、直線T4の傾きが相対的に大きい場合には最大値μ2maxも相対的に大きくなり、直線T4の傾きが相対的に小さい場合には最大値μ2maxも相対的に小さくなると想定される。
【0067】
本実施の形態においては、路面の滑り易さの指標として利用可能な第2の最大摩擦係数μ2maxと相関関係にある比例ゲイン(直線T4の傾き)を用いて路面の滑り易さを判定する。当該比例ゲインは、タイヤの横力(第2方向のタイヤ力F2)に関する第2の摩擦係数とスリップ角の比を表すものなので、横力摩擦係数比と称することがある。当該横力摩擦係数比は、詳細は後述するが、走行中にセンサにより検出された情報を基にスリップ角及び摩擦係数を算出し、算出結果の点Pdと原点Oを通る直線T4を決定し、決定された直線T4の傾きから算出することが可能である。算出結果の横力摩擦係数比が相対的に大きい場合には、路面の滑り易さの指標である路面の第2の最大摩擦係数μ2maxも相対的に大きいと推定可能である。一方、横力摩擦係数比が相対的に小さい場合には、路面の第2の最大摩擦係数μ2maxも相対的に小さいと推定可能である。そこで、算出した横力摩擦係数比を基に路面の滑り易さを判定する構成を採用する。
【0068】
本実施の形態に係る制御装置40Aの路面状態判定処理部51Aは、上述の横力摩擦係数比を基に路面の滑り易さの判定を行う。この場合、路面状態判定処理部51Aの判定処理は、輪荷重、第2方向のタイヤ力(横力)、スリップ角の3つのパラメータを必要とする。
【0069】
そこで、制御装置40Aは、
図7に示すように、第1の実施形態と同様に圧力センサ31及び車輪速度センサ32、33に電気的に接続されていることに加えて、ヨーレートセンサ36、横加速度センサ37、操舵角センサ38に電気的に接続されている。ヨーレートセンサ36は、ダンプトラック1の重心回りのヨー角速度(旋回走行中に生じる旋回方向への回転角の変化する速度)を検出するものであり、例えば、車両重心の近傍に設置されている。横加速度センサ37は、ダンプトラック1の前後方向に直交する方向に生じる加速度である横加速度を検出するものであり、例えば、車両重心の近傍に設置されている。操舵角センサ38は、従動輪である前輪3を操舵する操舵機構(図示せず)の操舵角を検出するものであり、操舵機構に設けられている。ヨーレートセンサ36、横加速度センサ37、操舵角センサ38の各センサは、検出情報を制御装置40Aへ出力する。
【0070】
路面状態判定処理部51Aは、
図7に示すように、細分化された機能部として、第1の実施形態と同様な輪荷重算出部54と、第1の実施形態の第1方向タイヤ力算出部55の代わりとしての第2方向タイヤ力算出部55Aと、第1の実施形態のスリップ率算出部56の代わりとしてのスリップ角算出部56Aと、第1の実施形態の第1摩擦係数算出部57の代わりとしての第2摩擦係数算出部57Aと、第1の実施形態の前後力摩擦係数比算出部58の代わりとしての横力摩擦係数比算出部58Aと、第1の実施形態の路面状態判定部59の代わりとしての路面状態判定部59Aを有している。第1の実施形態と同様な構成の輪荷重算出部54の説明は省略する。
【0071】
第2方向タイヤ力算出部55Aは、前輪3の車輪速度センサ32及びヨーレートセンサ36の検出情報を用いて第2方向のタイヤ力(横力)を算出するものである。旋回走行中のダンプトラック1における車輪(タイヤ)に発生する力(摩擦力)及びダンプトラック1のモーメントを模式的に
図10に示している。旋回走行中のダンプトラック1に生じた遠心力とそれに対抗する向心力が釣り合うことに基づき第2方向のタイヤ力F2(横力)を算出する。旋回走行時の向心力と遠心力の釣り合いの方程式は、次の式(3)で表される。
【0072】
mvbγ=2Fcf+2Fcr … 式(3)
式(3)において、mは車両重量、vbは車両速度、γはヨーレートを示している。Fcf及びFcrはそれぞれ前輪3及び後輪4のコーナリングフォース(横力における向心方向の成分)を示している。
【0073】
車両重量mは、運搬物の積載の有無に応じて変化するものである。車両速度vbは、前述したように車輪速度センサ32の検出情報から得られるものである。ヨーレートγは、ヨーレートセンサ36の検出情報から得られるものである。前輪3及び後輪4のコーナリングフォースFcf、Fcrは、スリップ角が小さい範囲(上述の横力が線形である領域)では横力と見なすことが可能である。
【0074】
また、ヨーイング運動に関する方程式は、次の式(4)で表される。
【0075】
I・dγ/dt=2L
fF
cf+2L
rF
cr … 式(4)
式(4)において、L
f及びL
rはそれぞれ、
図10に示す車両重心から前輪3の軸までの距離及び車両重心から後輪4の軸までの距離を示しており、記憶装置41に予め記憶されている。Iは、車両の慣性モーメントを示しており、例えば、記憶装置41に予め記憶されている。dγ/dtは、ヨーレートγの時間微分を示しており、ヨーレートセンサ36の検出情報の差分で近似することにより得ることができる。
【0076】
第2方向タイヤ力算出部55Aは、車輪速度センサ32の検出情報から得られる車両速度とヨーレートセンサ36の検出情報から得られるヨーレートとヨーレートγ間の差分とを上述の式(3)及び式(4)に代入して連立方程式を解くことで、横力と見なすことが可能な前輪3のコーナリングフォースFcf及び後輪4のコーナリングフォースFcrを算出する。第2方向のタイヤ力(横力)は路面上で車輪に発生する所定方向の摩擦力の1つであり、第2方向タイヤ力算出部55Aは摩擦力であるタイヤ力を算出するタイヤ力算出部を構成する。第2方向タイヤ力算出部55Aは、演算結果の前輪3及び後輪4の横力Fcf、Fcr(第2方向のタイヤ力F2)を第2摩擦係数算出部57Aへ出力する。
【0077】
スリップ角算出部56Aは、車輪速度センサ32、33の検出情報とヨーレートセンサ36の検出情報と横加速度センサ37の検出情報と操舵角センサ38の検出情報とを用いてスリップ角βを算出するものである。スリップ角βは車輪に発生する滑りの程度を表すスリップ指標の1つであり、スリップ角算出部56Aは、スリップ指標を算出するスリップ指標算出部を構成する。スリップ角算出部56Aは、例えば、車輪速度センサ32、33の検出情報とヨーレートセンサ36の検出情報と横加速度センサ37の検出情報と操舵角センサ38の検出情報に基づき旋回運動パラメータを推定し、上述の式(3)と式(4)とから成る旋回走行時の運動方程式をカルマンフィルタで解くことよってスリップ角βを算出する。スリップ角算出部56Aは、算出結果のスリップ角βを横力摩擦係数比算出部58Aへ出力する。
【0078】
なお、スリップ角算出部56Aは、スリップ角を算出する前に、横加速度センサ37により検出された横加速度Asが加速度閾値以上であるか否かを判定する。この判定を行う理由は、横加速度Asが極めて小さい領域ではスリップ角及び横力(第2方向のタイヤ力F2)の演算結果が不安定になるからである。横加速度Asが加速度閾値よりも小さい場合には、制御装置40Aは路面の滑り易さを判定することなく路面状態判定処理部51Aの処理を終了する。
【0079】
第2摩擦係数算出部57Aは、輪荷重算出部54の算出結果である輪荷重で第2方向タイヤ力算出部55Aの算出結果である第2方向のタイヤ力(横力)を除することによって路面の第2の摩擦係数を算出するものである。第2摩擦係数算出部57Aの演算は、
図9に示す摩擦係数μ2を算出することに相当する。第2摩擦係数算出部57Aは、算出結果の第2の摩擦係数を横力摩擦係数比算出部58Aへ出力する。
【0080】
横力摩擦係数比算出部58Aは、第2摩擦係数算出部57Aの算出結果である第2の摩擦係数μ2をスリップ角算出部56Aの算出結果であるスリップ角βで除することによって上述の比例ゲインである横力摩擦係数比を算出するものである。横力摩擦係数比算出部58Aの演算は、
図9に示す点Pdの直線T4の傾きを算出することに相当する。点Pdは、スリップ角算出部56Aの算出結果であるスリップ角βと第2摩擦係数算出部57Aの算出結果である第2の摩擦係数μ2とで表される点である。横力摩擦係数比算出部58Aは、算出結果の横力摩擦係数比を路面状態判定部59Aへ出力する。
【0081】
なお、スリップ角算出部56Aは、算出結果のスリップ角βが所定の範囲内であるか否かを判定する。上述したように、横力摩擦係数比が路面の最大摩擦係数に相関関係がある条件は、横力摩擦係数比を線形と見なすことが可能であるスリップ角が小さい領域の場合である。スリップ角が大きい領域では、横力摩擦係数比を線形とみなすことができず、横力摩擦係数比と路面の最大摩擦係数との相関関係が維持されない。このような横力摩擦係数比を用いても、路面の滑り易さの正確な判定を行うことは難しい。前述したように、第2方向のタイヤ力F2(横力)が最大値となるスリップ角β1は一般的に10°程度である。そのため、所定の範囲の上限として10°より小さいことが好ましい。また、スリップ角が極めて小さい領域では横力摩擦係数比の算出結果が不安定になるので、スリップ角がゼロ近傍の極小範囲の場合も、路面の滑り易さの正確な判定を行うことは難しい。これらの理由から、スリップ角βが所定の範囲を逸脱する場合には、制御装置40Aは路面の滑り易さを判定することなく路面状態判定処理部51Aの処理を終了する。
【0082】
路面状態判定部59Aは、横力摩擦係数比算出部58Aの算出結果である横力摩擦係数比の大小に基づいて路面の滑り易さを判定するものである。路面状態判定部59Aの判定方法は、横力摩擦係数比算出部58Aの算出結果である横力摩擦係数比を判定指標として用いることを除いて、第1の実施形態の路面状態判定部59の判定方法と同様である。
【0083】
次に、第2の実施形態に係る電動運搬車両における制御装置の路面状態判定処理の処理手順について
図11を用いて説明する。
図11は
図7に示す第2の実施形態に係る電動運搬車両の制御装置における路面状態判定処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0084】
図11において、
図7に示す制御装置40Aは、第1の実施形態の制御装置40と同様に、圧力センサ31の検出情報に基づき各車輪3、4の輪荷重を算出する(ステップS10)。次いで、上述の式(3)及び式(4)の連立方程式を用いて前輪3の車輪速度センサ32及びーレートセンサ36の検出情報を基に第2方向のタイヤ力(横力)を算出する(ステップS20A)。なお、ステップS10とステップS20Aの処理の順番は任意である。
【0085】
次に、制御装置40Aは、横加速度センサ37により検出されたダンプトラック1の横加速度が加速度閾値以上か否かを判定する(ステップS30A)。横加速度が加速度閾値未満(NO)である場合には、スリップ角の演算結果が不安定になるので路面状態判定処理を終了する(エンド)。一方、横加速度が加速度閾値以上(YES)である場合には、車輪速度センサ32、33の検出情報とヨーレートセンサ36の検出情報と横加速度センサ37の検出情報と操舵角センサ38の検出情報とを用いてスリップ角βを算出する(ステップS40A)。
【0086】
次に、制御装置40Aは、ステップS40Aの算出結果であるスリップ角が所定範囲内であるか否かを判定する(ステップS50A)。スリップ角が所定範囲外(NO)である場合には、路面の滑り易さの判定が困難になるので路面状態判定処理を終了する(エンド)。一方、スリップ角が所定範囲内(YES)である場合には、ステップS10の算出結果である輪荷重でステップS20Aの算出結果であるタイヤの横力を除することによって第2の摩擦係数を算出する(ステップS60A)。
【0087】
次いで、制御装置40Aは、ステップS40Aの算出結果であるスリップ角でステップS60Aの算出結果である第2の摩擦係数を除することによって横力摩擦係数比を算出し(ステップS70A)、ステップS70の算出結果の横力摩擦係数比を基に路面の滑り易さ(路面状態)を判定する(ステップS80A)。判定結果が路面の滑り易い状態であることを示すフラグ又はレベルである場合には、制御装置40Aは、後輪4を減速させるように電動モータ11の回転数又はトルクを制御する。ステップS80の処理を終了すると、再びスタートに戻って上述のステップ10~S80Aのフローを繰り返す。
【0088】
このように、本実施の形態においては、
図9に示す特性線C4における微小領域のスリップ角βと第2の摩擦係数μ2との関係を根拠として算出可能な傾きT4である横力摩擦係数比又は傾きT4から推定可能な第2の最大摩擦係数μ2maxを路面の滑り易さの指標として用いることで路面状態判定処理を行っている。路面の滑り易さの指標として利用可能な第2の最大摩擦係数μ2max又は横力摩擦係数比が判定閾値よりも小さい場合に後輪4を減速させるように電動モータ11を制御することで、タイヤのスリップが大きくなることを事前に防止することができる。また、第2の最大摩擦係数μ2max又は横力摩擦係数比が判定閾値以上の場合に後輪4を減速させることなく電動モータ11の駆動を維持することで、作業効率の低下を防ぐことができる。すなわち、安全性を確保しつつ作業効率の低下を防ぐことができる。さらに、前後力摩擦係数比ではなく、横力摩擦係数比を用いることで、略一定の速度を維持して加速や減速が緩やかな走行区間においても、走行経路に追従する旋回運動によって路面状態の判定が可能になる。
【0089】
上述した第1の実施形態と第2の実施形態とを纏めると、ダンプトラック1(電動運搬車両)は、複数の後輪4(駆動輪)及び複数の前輪3(従動輪)と、複数の後輪4(駆動輪)及び複数の前輪3(従動輪)の回転速度をそれぞれ検出する車輪速度センサ32、33と、複数の後輪4(駆動輪)を駆動する電動モータ11と、電動モータ11を制御する制御装置40、40Aとを備えると共に、複数の後輪4(駆動輪)及び複数の前輪3(従動輪)に対して鉛直方向に掛かる荷重である輪荷重の情報をそれぞれ検出する圧力センサ31(輪荷重検出器)を備える。制御装置40、40Aは、圧力センサ31(輪荷重検出器)の検出情報に基づいて輪荷重を算出する輪荷重算出部54と、複数の後輪4(駆動輪)及び複数の前輪3(従動輪)の少なくとも一方に路面上で発生する摩擦力である第1方向のタイヤ力又は第2方向のタイヤ力(タイヤ力)を算出するタイヤ力算出部55、55Aと、複数の後輪4(駆動輪)及び複数の前輪3(従動輪)の少なくとも一方に発生する滑りの程度を表すスリップ率又はスリップ角(スリップ指標)を算出するスリップ指標算出部56、56Aと、タイヤ力算出部55の算出結果である第1方向のタイヤ力又は第2方向のタイヤ力(タイヤ力)を輪荷重算出部54の算出結果である輪荷重によって除することで第1又は第2の摩擦係数を算出する摩擦係数算出部57、57Aと、摩擦係数算出部57の算出結果である第1又は第2の摩擦係数をスリップ指標算出部56の算出結果であるスリップ率又はスリップ角(スリップ指標)によって除することで前後力摩擦係数比又は横力摩擦係数比(摩擦係数比)を算出する摩擦係数比算出部58、58Aとの機能部を有するように構成されている。制御装置40、40Aは、摩擦係数比算出部58、58Aの算出結果である前後力摩擦係数比又は横力摩擦係数比(摩擦係数比)に基づき電動モータ11の駆動を制御するように構成されている。
【0090】
この構成によれば、輪荷重検出器31の検出情報を基に得られる正確な輪荷重を用いて算出した第1又は第2の摩擦係数をスリップ率又はスリップ角(スリップ指標)で除することにより、路面の滑り易さを判定可能な指標である路面の最大摩擦係数μ1maxと相関関係にある前後力摩擦係数比又は横力摩擦係数比(摩擦係数比)を算出し、算出結果の前後力摩擦係数比又は横力摩擦係数比(摩擦係数比)に基づき電動モータ11の駆動を制御するので、輪荷重が変動する状況において操舵力を計測せずに路面の滑り易さを正確に判定可能な指標を用いて走行を制御することができる。
【0091】
また、上述した第1の実施形態においては、タイヤ力算出部が複数の後輪4(駆動輪)にその向きの前後方向に発生する摩擦力である第1方向のタイヤ力をタイヤ力としてそれぞれ算出する第1方向タイヤ算出部55である。スリップ指標算出部は、車輪速度センサ32、33により検出された複数の後輪4(駆動輪)の回転速度と複数の前輪3(従動輪)の回転速度とに基づき算出する複数の後輪4(駆動輪)のスリップ率をスリップ指標としてそれぞれ算出するスリップ率算出部56である。摩擦係数算出部は、第1方向タイヤ算出部55(タイヤ力算出部)の算出結果である第1方向のタイヤ力を輪荷重算出部54の算出結果である輪荷重によって除することで得られる第1の摩擦係数を摩擦係数として算出する第1摩擦係数算出部57である。摩擦係数比算出部は、第1摩擦係数算出部57(摩擦係数算出部)の算出結果である第1の摩擦係数をスリップ指標算出部56の算出結果であるスリップ率によって除することで得られる前後力摩擦係数比(第1の摩擦係数比)を摩擦係数比として算出する前後力摩擦係数比算出部58である。制御装置40は、前後力摩擦係数比算出部58(摩擦係数比算出部)の算出結果である前後力摩擦係数比(第1の摩擦係数比)に基づき電動モータ11の駆動を制御するように構成されている。
【0092】
この構成によれば、第1方向のタイヤ力の特性に応じて演算した前後力摩擦係数比(第1の摩擦係数比)に基づき電動モータ11の駆動を制御するので、加減速が生じる直線区間の走行路において、路面の滑り易い状態であっても安全性を確保しつつ作業効率の低下を抑制した走行が可能となる。
【0093】
また、上述した第1の実施形態に係るダンプトラック1(電動運搬車両)は、複数の後輪4(駆動輪)と車体フレーム2との間に設けられたリアサスペンション16(第1サスペンション)及び複数の前輪3(従動輪)と車体フレーム2との間に設けられたフロントサスペンション15(第2サスペンション)を備える。リアサスペンション16(第1サスペンション)及びフロントサスペンション15(第2サスペンション)は、作動油が封入されている油圧シリンダを含む。さらに、輪荷重検出器は、油圧シリンダ15、16における作動油の圧力を検出する圧力センサ31である。
【0094】
この構成によれば、圧力センサ31により検出された圧力から直接的に輪荷重を算出するので、変動の大きな輪荷重を推定する構成の場合よりも正確に求めることができる。したがって、正確な輪荷重を用いることで、路面の滑り易さを正確に判定可能な指標を算出すること可能となる。
【0095】
また、上述した第2の実施形態に係るダンプトラック1(電動運搬車両)は、ダンプトラック1(電動運搬車両)のヨー角速度を検出するヨーレートセンサ36と、ダンプトラック1(電動運搬車両)の前後方向に直交する方向の加速度である横加速度を検出する横加速度センサ37と、複数の前輪3(従動輪)を操舵する操舵機構の操舵角を検出する操舵角センサ38とを備える。また、タイヤ力算出部は、複数の後輪4(駆動輪)及び複数の前輪3(従動輪)の回転面に直交する方向に発生する摩擦力である第2方向のタイヤ力をタイヤ力として、車輪速度センサ32、33の検出情報とヨーレートセンサ36の検出情報とに基づきそれぞれ算出する第2方向タイヤ算出部55Aである。スリップ指標算出部は、車輪速度センサ32、33の検出情報とヨーレートセンサ36の検出情報と横加速度センサ37の検出情報と操舵角センサ38の検出情報とに基づき算出する複数の後輪4(駆動輪)及び複数の前輪3(従動輪)のスリップ角をスリップ指標としてそれぞれ算出するスリップ角算出部56Aである。摩擦係数算出部は、第2方向タイヤ算出部55A(タイヤ力算出部)の算出結果である第2方向のタイヤ力を輪荷重算出部54の算出結果である輪荷重によって除することで得られる第2の摩擦係数を摩擦係数として算出する第2摩擦係数算出部57Aである。摩擦係数比算出部は、第2摩擦係数算出部57A(摩擦係数算出部)の算出結果である第2の摩擦係数をスリップ角算出部56A(スリップ指標算出部)の算出結果であるスリップ角によって除することで得られる第2の摩擦係数比を摩擦係数比として算出する横力摩擦係数比算出部58Aである。制御装置40Aは、横力摩擦係数比算出部58A(摩擦係数比算出部)の算出結果である横力摩擦係数比(第2の摩擦係数比)に基づき電動モータ11の駆動を制御するように構成されている。
【0096】
この構成によれば、第2方向のタイヤ力の特性に応じて演算した横力摩擦係数比(第2の摩擦係数比)に基づき電動モータ11の駆動を制御するので、旋回が生じる走行路において、路面の滑り易い状態であっても安全性を確保しつつ作業効率の低下を抑制した走行が可能となる。
【0097】
[第1及び第2の実施形態の変形例]
次に、本発明の第1及び第2の実施形態の変形例に係る電動運搬車両について
図3及び
図7を用いて説明する。
【0098】
第1及び第2の実施形態の変形例に係る電動運搬車両が第1及び第2の実施形態の構成と異なる点は、電動運搬車両が報知装置71を備えていること、及び、制御装置40、40Aが路面状態判定処理部51、51Aの判定結果に基づき報知装置71に対して報知指令を出力することである。第1及び第2の実施形態においては、制御装置40、40Aは、判定結果が滑り易い状態である場合にはダンプトラック1の走行を減速させる制御を行うように構成されている。これにより、安全性を確保しつつ作業効率の低下を抑制している。当該変形例においては、路面が滑り易い判定結果である場合には、制御装置40、40Aがダンプトラック1の減速走行の制御に加えて路面が滑り易い状態であることを報知装置71によってオペレータに報知することでオペレータに対して安全性の注意喚起を行うものである。
【0099】
具体的には、
図3に示す制御装置40の路面状態判定処理部51及び
図7に示す制御装置40Aの路面状態判定処理部51Aは、第1及び第2の実施形態の場合と同様に、縦タイヤ特性及び横タイヤ特性を基に算出した前後力摩擦係数比及び横力摩擦係数比に基づき路面の滑り易さを判定する。路面状態判定処理部51、51Aは、例えば、算出結果の前後力摩擦係数比及び横力摩擦係数比が判定閾値よりも小さい場合(路面が滑り易い状態であると判定したことを示すフラグを出力する場合)には、路面が滑り易い状態であることを報知する報知指令を報知装置71に対して出力する。なお、路面の滑り易さの判定において、前後力摩擦係数比及び横力摩擦係数比に対する判定閾値(判定基準)は、電動モータ11の減速制御の場合と報知装置71への報知指令の出力の場合とで異なる値に設定することも可能である。
【0100】
報知装置71は、
図3及び
図7に示すように破線で示されており、制御装置40又は制御装置40Aに電気的に接続されている。報知装置71は、路面が滑り易いことを報知するものであり、視覚的に報知する構成や聴覚的に報知する構成が可能である。報知装置71は、例えば、路面が滑り易いことを示す警告表示をメータークラスタ内に表示したり、ランプなどを点灯して光や色などによって警告したりする視覚的な方法を用いた構成が可能である。報知装置71は、また、警報音を鳴らしたり、音声などで伝達したりする聴覚的な方法を用いた構成が可能である。さらに、報知装置71は、視覚的に報知する構成と聴覚的に報知する構成を組み合わせた構成も可能である。報知装置71は、制御装置40、40Aからの報知指令が入力されると、上述の視覚的や聴覚的な報知を発する。
【0101】
上述した本変形例に係るダンプトラック1(電動運搬車両)は、路面が滑り易いことを報知する報知装置71を備える。また、制御装置40、40Aは、前後力摩擦係数比算出部58又は横力摩擦係数比算出部58A(摩擦係数比算出部)の算出結果である第1の摩擦係数比又は第2の摩擦係数比が予め設定された閾値よりも小さい場合に報知装置71を駆動させるように構成されている。
【0102】
この構成によれば、路面が滑り易い状況であることをオペレータに対して報知装置71によって直接的に伝達することができる。この報知によりオペレータは路面状態に注意を払うようになるので、ダンプトラック1の走行を自主的に減速するよう誘導することが可能になる。
【0103】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態に係る電動運搬車両について
図3及び
図12を用いて説明する。
図12は本発明の第3の実施形態に係る電動運搬車両における電動モータから駆動輪までの動力伝達機構を示すと共に駆動輪に発生する力を示す説明図である。なお、
図12において、
図1~
図11に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0104】
第3の実施形態に係る電動運搬車両が第1の実施形態の構成と異なる点は、制御装置40Bの第1方向タイヤ力算出部55Bにおける第1方向のタイヤ力(タイヤの前後力)の算出方法が異なることである。
【0105】
第1の実施形態に係る制御装置40の第1方向タイヤ力算出部55は、電圧センサ34及び電流センサ35の検出情報を基に得られる電動モータ11の駆動トルクから直接的に第1方向のタイヤ力(タイヤの前後力)を算出するように構成されている。しかし、厳密には、電動モータ11の駆動トルクの全てが後輪4に伝達されて第1方向のタイヤ力(タイヤの前後力)として発生するわけではない。このとき、電動モータ11から後輪4までに動力を伝達する動力伝達機構の慣性モーメント及び摩擦並びに転がり抵抗などが発生するので、電動モータ11の駆動トルクはこれらの抵抗分によっても消費される。つまり、第1の実施形態に係る第1方向タイヤ力算出部55の算出方法では、第1方向のタイヤ力(タイヤの前後力)の算出結果に上述の抵抗分の誤差が生じる。
【0106】
そこで、本実施の形態に係る制御装置40Bの第1方向タイヤ力算出部55Bは、動力伝達機構のモデルに基づき上述の抵抗分を考慮した第1方向のタイヤ力(タイヤの前後力)を算出するように構成されている。例えば、当該動力伝達機構として
図12に示すモデル18を考える。動力伝達機構18は、電動モータ11の動力がギア18aを介して後輪4に伝達されるように構成されている。
【0107】
この場合、第1方向のタイヤ力(タイヤの前後力)Fdは、例えば、次の式(5)として表される。
【0108】
Fd=Te(1/Rt(Td-Jr・α)-Ft・W) … 式(5)
式(5)において、Tdは電動モータ11の駆動トルク、Wは輪荷重、αはタイヤ(後輪4)の回転角加速度を示している。また、Teはギア18aの伝達効率、Rtはタイヤ(後輪4)の半径、Jrは動力伝達機構(電動モータ11、後輪4,ギア18a)の慣性モーメント、Ftは荷重当たりの転がり抵抗係数を示している。
【0109】
電動モータ11の駆動トルクTdは、第1の実施形態と同様に、電圧センサ34及び電流センサ35の検出情報を基に算出する。輪荷重Wは、輪荷重算出部54の算出結果を用いることが可能である(
図3中、輪荷重算出部54からの一点鎖線の出力)。タイヤ(後輪4)の回転角加速度αは、車輪速度センサ33の検出情報の差分を用いることが可能である(
図3中、車輪速度センサ33からの一点鎖線の出力)。また、ギア伝達効率Te、タイヤ(後輪4)の半径Rt、慣性モーメントJr、転がり抵抗係数Ftは、記憶装置41に予め記憶されている。
【0110】
このように、本実施の形態においては、車輪回転系の慣性モーメントや摩擦並びにタイヤの転がり抵抗を考慮した回転モデルに基づき、第1方向のタイヤ力(タイヤの前後力)を算出する。このため、速度変動が大きな運転条件や路面状態が定常的に良くなく転がり抵抗が大きい路面などの条件に依らず、正確な第1方向のタイヤ力(タイヤの前後力)の算出が可能になる。
【0111】
上述した第3の実施形態に係るダンプトラック1(電動運搬車両)は、電動モータ11の動力を後輪4(駆動輪)に伝達する動力伝達機構18を備える。また、制御装置40Bのタイヤ力算出部は、輪荷重算出部54の算出結果の輪荷重と単位荷重当たりの転がり抵抗係数Ftと電動モータ11の駆動トルクと動力伝達機構18の慣性モーメントJrとに基づき、第1方向のタイヤ力を算出する第1方向タイヤ力算出部55Bである。
【0112】
この構成によれば、後輪の駆動の際に発生する抵抗を考慮して第1方向のタイヤ力を算出することで、路面の滑り易さを示す指標を正確に算出することできる。
【0113】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態に係る電動運搬車両について
図13を用いて説明する。
図13は本発明の第4の実施形態に係る電動運搬車両における制御装置の機能部の構成を示すブロック図である。なお、
図13において、
図1~
図12に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0114】
第4の実施形態に係る電動運搬車両が第1及び第2の実施形態の構成と異なる点は、制御装置40Cが縦タイヤ特性に基づき算出した前後力摩擦係数比から推定可能な第1の最大摩擦係数と横タイヤ特性に基づき算出した横力摩擦係数比から推定可能な第2の最大摩擦係数を用いて安全に走行可能な走行速度の上限値を設定し、ダンプトラック1の走行速度が上限値を超えないように電動モータ11の駆動を制御するように構成していることである。路面が滑り易い状態では、停止距離が増加したりカーブが曲がり切れなくなったりする走行不安定性の発生が懸念される。これは、路面が滑り易い状態により第1方向及び第2方向のタイヤ力(前後力及び横力)の最大値の大きさが制限されるためである。そこで、本実施の形態においては、路面の最大摩擦係数及び車両重量を用いて減速時の第1方向のタイヤ力(前後力)及び旋回時の第2方向のタイヤ力(横力)の上限を算出し、算出結果の上限に応じて走行速度の上限値を設定する。
【0115】
具体的には、制御装置40Cは、第1の実施形態の路面状態判定処理部51及び第2の実施形態の路面状態判定処理部51Aの両機能部と同様な機能部を有する路面状態判定処理部51Cと、路面状態判定処理部51Cにより推定された路面の最大摩擦係数を用いてダンプトラック1の走行速度の上限を設定する走行上限設定処理部60と、走行上限設定処理部60により設定された走行速度の上限を用いて電動モータ11の駆動を制御するモータ制御部52Cとを備えている。
【0116】
路面状態判定処理部51Cは、第1の実施形態の路面状態判定処理部51と同様に、前後力摩擦係数比算出部58(
図3参照)が縦タイヤ特性に基づき算出した前後力摩擦係数比から第1方向のタイヤ力F1(前後力)に関する路面の最大摩擦係数μ1maxを推定する。さらに、第2の実施形態の路面状態判定処理部51Aと同様に、横力摩擦係数比算出部58A(
図7参照)が横タイヤ特性に基づき算出した横力摩擦係数比から第2方向のタイヤ力F2(横力)に関する路面の最大摩擦係数μ2を推定する。路面状態判定処理部51Cは、推定結果の第1方向のタイヤ力F1(前後力)に関する路面の最大摩擦係数μ1maxを走行上限設定処理部60の後述の最大停止距離算出部61へ出力する。また、推定結果の第2方向のタイヤ力F2(横力)に関する路面の最大摩擦係数μ2maxを走行上限設定処理部60の後述の最小旋回半径算出部62へ出力する。
【0117】
走行上限設定処理部60は、ダンプトラック1の走行停止に必要な距離の最大値である最大停止距離を算出する最大停止距離算出部61と、ダンプトラック1の旋回走行中に所定以上のスリップの発生を回避可能である最小旋回半径を算出する最小旋回半径算出部62と、最大停止距離算出部61の算出結果及び最小旋回半径算出部62の算出結果に基づき、ダンプトラック1の走行速度の上限値を演算する上限速度設定部63とを含んでいる。
【0118】
最大停止距離算出部61は、圧力センサ31(
図3参照)の検出情報からダンプトラック1の車両重量を算出すると共に、車輪速度センサ32(
図3参照)の検出情報から車両速度を算出する。さらに、算出結果の車両重量と路面状態判定処理部51Cの推定結果である第1方向のタイヤ力F1(前後力)に関する路面の最大摩擦係数μ1maxとを用いて減速時の第1方向のタイヤ力F1(前後力)の上限値を算出する。この第1方向のタイヤ力F1(前後力)の上限値を基に減速度の上限値を得ることができる。さらに、算出結果の車両速度及び減速度の上限値を用いて最大停止距離を算出する。最大停止距離算出部61は、算出結果の最大停止距離を上限速度設定部63へ出力する。
【0119】
最小旋回半径算出部62は、圧力センサ31の検出情報からダンプトラック1の車両重量を算出し、車輪速度センサ32の検出情報から車両速度を算出し、操舵角センサ38(
図7参照)の検出情報から旋回半径を算出する。算出結果の車両重量と路面状態判定処理部51Cの推定結果である第2方向のタイヤ力F2(横力)に関する路面の最大摩擦係数μ2maxとを用いて旋回時の第2方向のタイヤ力F2(横力)の上限値である最大横力を算出する。さらに、算出結果の車両重量、車両速度、旋回半径を基に得られる向心力と算出結果の最大横力とを用いて最小旋回半径を算出する。最小旋回半径算出部62は、算出結果の最小旋回半径及び最大横力を上限速度設定部63へ出力する。
【0120】
上限速度設定部63は、最大停止距離算出部61の算出結果である最大停止距離に基づき、ダンプトラック1の直進走行時の上限速度を設定する。また、上限速度設定部63は、最小旋回半径算出部62の算出結果である最小旋回半径及び最大横力に基づき、ダンプトラック1の旋回走行時の上限速度を設定する。
【0121】
モータ制御部52Cは、上限速度設定部63により設定されたダンプトラック1の直進走行時の上限速度及び旋回走行時の上限速度を用いて電動モータ11の駆動を制御する。すなわち、ダンプトラック1の走行速度が直進走行時の上限速度及び旋回走行時の上限速度を超えないように電動モータ11を制御する。
【0122】
上述した第4の実施形態においては、制御装置40Cが、前後力摩擦係数比算出部58及び横力摩擦係数比算出部58A(摩擦係数比算出部)の算出結果である摩擦係数比から路面の最大摩擦係数μ1max、μ2maxを推定し、推定結果の最大摩擦係数μ1max、μ2maxを用いてダンプトラック1(電動運搬車両)の走行速度の上限値を演算し、ダンプトラック1(電動運搬車両)の走行速度が演算結果の上限値を超えないように電動モータ11の駆動を制御するように構成されている。
【0123】
この構成によれば、路面の滑り易さを判定する指標となる路面の最大摩擦係数μ1max、μ2maxの推定結果に基づいて走行速度の上限値を設定することで、従来の人間の勘に頼った走行速度の設定よりも適切な速度設定が可能となる。これにより、安全性と作業効率の向上を両立することができる。
【0124】
[電動運搬車両の運行管制システムの実施形態]
次に、本発明の実施形態に係る電動運搬車両の運行管制システムについて
図14を用いて説明する。
図14は本発明の実施形態に係る電動運搬車両の運行管制システムの構成を示すブロック図である。なお、
図14において、
図1~
図13に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0125】
鉱山サイトでは、多数の運搬車両が運行しており、積込場となる掘削位置や放土場は複数存在することが一般的である。そのため、運搬車両がこれらの間を必要な場所へ適切なタイミングで走行することができるように、運行管制システムが稼働していることが一般的である。
【0126】
運行管制システムの運搬車両に対する基本機能の1つは、どの積込場からどの放土場まで、どの経路を通って走行するかの指示を各車両のオペレータへ提示することである。悪天候などで路面状況が悪くなっている場合には、経路情報と共に速度指示がなされる場合がある。特に広大な鉱山サイトの場合、サイトの一部だけ大雨が降ることもあるので、走行指示情報は重要である。
【0127】
近年では、運搬車両の運行を無人化・自動化する自律搬送システムを採用している鉱山サイトがあり、そのようなサイトでは運行管制システムの重要性は高くなる。例えば、通常時に搬送路地図で規定された指令速度で各車両が走行している場合でも、管制者が降雨などの悪天候情報を入手したときには、安全性を保つためにサイト内で一律に又は区間を設定して減速運転を指示することがある。この場合、管制室で運行管制システムを操作している管制者には路面状況がどの程度悪化しているかは分からないので、過去の経験などを参考にしながら安全側となる少し低めの速度指令を出すことになる。しかし、低い速度指令が発せられると、搬送時間が通常より長くなり、作業効率である単位時間当たりの搬送量が大幅に低下してしまう。
【0128】
それに対して、悪天候の場合であっても路面状況を正確に把握することができれば、必要以上の減速指示を行うことなく、適切な速度指令により作業効率の低下を抑えることが可能となる。前述した実施形態の電動運搬車両は、縦タイヤ特性に基づき算出した前後力摩擦係数比及び横タイヤ特性に基づき算出した横力摩擦係数比に基づき、路面状態(路面の滑り易さ)を正確に把握することができる。前述した実施形態の電動運搬車両の各車両が個々に路面の滑り易さの指標を利用するだけでなく、各車両が算出した当該指標を運行管制システムに集約することで路面状態の情報の確度を上げて利用することが好ましい。
【0129】
そこで、本実施の形態に係る電動運搬車両の運行管制システムは、路面の滑り易さを判定可能な指標である路面の最大摩擦係数を前述した実施形態の複数の電動運搬車両から収集することで、各電動運搬車両が走行している走行路の路面状態(路面の滑り易さ)を正確に把握した上で、路面状態に応じた速度指令を各電動運搬車両に対して通知するように構成されている。
【0130】
具体的には、本実施の形態に係る運行管制システム100は、前述した実施形態の複数の電動運搬車両の運行を集中的に管制するものであり、例えば、ダンプトラック1の各種情報の授受が可能な情報処理装置としてのサーバである。ここでは、前述した実施形態のダンプトラック1は、算出結果の前後力摩擦係数比を基に路面の第1の最大摩擦係数μ1maxを推定する構成又は算出結果の横力摩擦係数比を基に路面の第2の最大摩擦係数μ2maxを推定する構成を含み、推定結果の第1の最大摩擦係数μ1max及び第2の最大摩擦係数μ2maxを各ダンプトラック1の位置情報に紐づけて運行管制システム100へ通知するように構成されている。さらに、運行管制システム100からの速度指示に応じて走行を制御することを前提としている。
【0131】
運行管制システム100は、複数のダンプトラック1に対して各種情報を送受信する送受信機101と、複数のダンプトラック1が運行される鉱山サイト(現場)の走行経路(搬送路)に関する地図情報(例えば、走行経路の位置や曲率など)を格納する地図データベース102(以下、地
図DBと称する)とを備えている。運行管制システム100は、更に、車両位置取得部111、最大摩擦係数更新部112、指示速度更新部113、速度指示部114の機能部を有している。
【0132】
送受信機101は、各ダンプトラック1から各ダンプトラック1の位置情報及びその情報に紐づけられた路面の最大摩擦係数μ1max、μ2maxを受信する。また、送受信機101は、速度指示部114からの後述の速度指示を各ダンプトラック1に対して送信する。
【0133】
車両位置取得部111は、各ダンプトラック1から通知された位置情報を取得し、当該位置情報が地
図DB102の地図情報のうちどの走行経路の部分であるかを特定する。
【0134】
最大摩擦係数更新部112は、各ダンプトラック1から通知された路面の最大摩擦係数μ1max、μ2maxを取得し、地
図DB102の地図情報のうち車両位置取得部111が特定した部分(位置)に対して路面の最大摩擦係数μ1max、μ2maxを紐づけることで最新情報に更新する。
【0135】
指示速度更新部113は、地
図DB102の地図情報に紐づけられている路面の最大摩擦係数μ1max、μ2maxが最大摩擦係数更新部112により更新された場合に、更新された最新の路面の最大摩擦係数μ1max、μ2maxに基づき指示速度を演算し、演算結果の指示速度を地
図DB102の地図情報における当該部分に再び紐づけて最新情報に更新する。指示速度更新部113は、例えば、第1方向のタイヤ力F1(前後力)に関する路面の最大摩擦係数μ1maxを基にダンプトラック1の走行停止に必要な距離の最大値である最大停止距離を算出し、算出結果の最大停止距離を用いて走行速度の上限値を演算し、演算結果の上限値を指示速度として設定する構成が可能である。また、第2方向のタイヤ力F2(横力)に関する路面の最大摩擦係数μ2maxを基にダンプトラック1の旋回走行中に所定以上のスリップの発生を回避可能な最小旋回半径を算出し、算出結果の最小旋回半径を用いて走行速度の上限値を演算し、演算結果の上限値を指示速度として設定する構成が可能である。
【0136】
速度指示部114は、車両位置取得部111が各ダンプトラック1から通知された位置情報を取得すると、地
図DB102の地図情報のうち、各ダンプトラック1の位置情報に該当する部分に紐づけられている指示速度を抽出し、抽出した指示速度を各ダンプトラック1へ送受信機101を介して送信する。
【0137】
本実施の形態においては、複数のダンプトラック1から通知された車両の位置情報と路面の滑り易さの指標である最大摩擦係数μ1max、μ2maxの情報を地
図DB102の地図上に紐づけて蓄積するものである。また、地
図DB102の地図情報に紐づけた最大摩擦係数μ1max、μ2maxを基に指示速度を演算し、演算結果の指示速度を地
図DB102の地図情報に紐づけている。このため、当該走行路を次に走行する運搬車両が事前に路面状態を取得することができる。また、局所的な悪天候のように特定の区間だけが異なる路面状態の場合でも、その状態が地
図DB102の地図情報に反映されるので、当該特定区間を通過する車両に対しても的確な速度指示を発することが可能である。
【0138】
上述した本実施の形態に係る電動運搬車両の運行管制システム100は、複数のダンプトラック1(電動運搬車両)が運行される現場の走行経路に関する地図情報を格納する地図データベース102を備えている。また、複数のダンプトラック1(電動運搬車両)は、前後力摩擦係数比及び横力摩擦係数比(摩擦係数比)を用いて路面の最大摩擦係数μ1max、μ2maxを推定し、推定結果の最大摩擦係数μ1max、μ2maxを複数のダンプトラック1(電動運搬車両)のそれぞれの位置情報に紐づけて運行管制システム100へ通知するように構成されている。さらに、運行管制システム100は、地図データベース102の地図情報と複数のダンプトラック1(電動運搬車両)からそれぞれ通知され位置情報に紐づけられた最大摩擦係数μ1max、μ2maxとを用いて走行速度の上限値を演算し、演算結果の上限値を位置情報に対応する走行経路の速度制限値として地図データベース102の地図情報に紐づけるように構成されている。また、運行管制システム100は、位置情報を通知してきたダンプトラック1(電動運搬車両)に対して、地図データベース102を参照して当該位置情報に対応する走行経路に紐づけられている上限値を走行速度の制限値として通知するように構成されている。
【0139】
この構成によれば、各ダンプトラック1(電動運搬車両)が算出した路面の滑り易さの指標である最大摩擦係数μ1max、μ2maxを運行管制システム100に集約することで、路面状態の情報の確度を上げて利用することができ、必要以上の減速指示を行うことなく、適切な速度指令により作業効率の低下を抑えることが可能となる。
【0140】
[その他の実施形態]
なお、本発明は、上述した第1~4の実施形態及びそれらの変形例に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0141】
例えば、上述した第1の実施形態の構成と第2の実施形態の構成とを組み合わせる変形例が可能である。つまり、本変形例に係る電動運搬車両は、第1の実施形態に係る制御装置40により実行される第1方向のタイヤ力(前後力)に関する縦タイヤ特性に基づく路面の滑り易さの判定処理(路面状態判定処理部51の処理)と、第2の実施形態に係る制御装置40Aより実行される第2方向のタイヤ力(横力)に関する横タイヤ特性に基づく路面の滑り易さの判定処理(路面状態判定処理部51Aの処理)とを組み合わせて行うように構成される。
【0142】
前述したように、路面の滑り易さの判定処理では、当該判定に適したスリップ率及びスリップ角の範囲が存在する。極めて短い或る時間区間において路面の滑り易さを判定する場合、第1方向のタイヤ力F1(前後力)に関する前後力摩擦係数比及び第2方向のタイヤ力F2(横力)に関する横力摩擦係数比のいずれか一方のみを用いた判定しか有効でない場合もあり得る。例えば、当該時間区間において、直線走行路を走行中の場合にはスリップ率を用いることが有効である。一方、円弧状の走行路を旋回走行中の場合にはスリップ角を用いることが有効である。特に、前述した自律搬送システムにおいては、加減速を直線区間で行う一方、旋回中は一定速度で走行することが多いので、縦タイヤ特性を基に算出した前後力摩擦係数比及び横タイヤ特性を基に算出した前後力摩擦係数比のいずれか一方しか有効でない場合がある。
【0143】
そこで、本変形例に係る電動運搬車両は、第1及び第2の実施形態に係る制御装置40、40Aと同様にスリップ率及びスリップ角を算出すると共に前後力摩擦係数比及び横力摩擦係数比を算出し、算出結果のスリップ率及びスリップ角に基づいて前後力摩擦係数比及び横力摩擦係数比のうちのいずれか一方を選択し、選択結果に応じて第1の実施形態に係る制御装置40の路面状態判定部59又は第2の実施形態に係る制御装置40Aの路面状態判定部59Aと同様な路面の滑り易さの判定を行うように構成することが可能である。さらに、前後力摩擦係数比及び横力摩擦係数比のいずれか一方を用いた当該判定結果に応じて電動モータ11の駆動を制御するように構成する。
【0144】
また、スリップ率及びスリップ角が所定範囲内にあり、前後力摩擦係数比及び横力摩擦係数比の両方を用いた判定が有効である場合であっても、どちらか一方を選択して路面の滑り易さを判定する方がより正確に判定を行うことが可能な場合がある。例えば、所定範囲内にあるスリップ率及びスリップ角のうち所定範囲の上限値により近い方(例えば、上限に対する比率の大小で判別)を選択し、選択した方の摩擦係数比を用いる方が路面状態の正確な判定が可能になると考えらえる。これは、スリップ率及びスリップ角が前後力摩擦係数比及び横力摩擦係数比の分母であり、スリップ率及びスリップ角が所定範囲内にあっても小さい値の場合にはスリップ率及びスリップ角の演算誤差などが前後力摩擦係数比及び横力摩擦係数比に大きく影響するからである。
【0145】
上述した本変形例に係る電動運搬車両においては、制御装置40、40Aがスリップ率及びスリップ角に基づいて摩擦係数比算出部の算出結果である前後力摩擦係数比(第1の摩擦係数比)及び横力摩擦係数比(第2の摩擦係数比)のいずれか一方を選択し、選択した一方に基づいて電動モータ11の駆動を制御するように構成されている。
【0146】
この構成によれば、第1方向のタイヤ力F1(前後力)に関する前後力摩擦係数比及び第2方向のタイヤ力F2(横力)に関する横力摩擦係数比のいずれか一方のみを用いた判定しか有効でない場合に対しても、適切な路面の滑り易さの指標を用いて走行を制御することが可能である。
【0147】
また、上述した実施の形態においては、フロントサスペンション15及びリアサスペンション16の圧力センサ31が輪荷重検出器として機能する構成の例を示した。しかし、輪荷重検出器は、フロントサスペンション15及びリアサスペンション16の圧力センサ31に限られず、前輪3及び後輪4の輪荷重を検出可能なセンサであれば任意である。
【0148】
また、上述した実施の形態の制御装置40、40A、40B、40Cの各機能は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計することによりハードウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0149】
1…ダンプトラック(電動運搬車両)、 2…車体フレーム、 3…前輪(従動輪)、 4…後輪(駆動輪)、 11…電動モータ、 15…フロントサスペンション(第2サスペンション)、 16…リアサスペンション(第1サスペンション)、 18…動力伝達機構、 31…圧力センサ(輪荷重検出器)、 32、33…車輪速度センサ、 36…ヨーレートセンサ、 37…横加速度センサ、 38…操舵角センサ、 40、40A、40B、40C…制御装置、 54…輪荷重算出部、 55…第1方向タイヤ力算出部(タイヤ力算出部)、 55A…第2方向タイヤ力算出部(タイヤ力算出部)、 56…スリップ率算出部(スリップ指標算出部)、 56A…スリップ角算出部(スリップ指標算出部)、 57…第1摩擦係数算出部(摩擦係数算出部)、 57A…第2摩擦係数算出部(摩擦係数算出部)、 58…前後力摩擦係数比算出部(摩擦係数比算出部)、 58A…横力摩擦係数比算出部(摩擦係数比算出部)、 71…報知装置、 100…運行管制システム、 102…地図データベース