(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139986
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】板状ナット装着工具
(51)【国際特許分類】
B25B 23/04 20060101AFI20241003BHJP
B25H 3/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B25B23/04 B
B25H3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050960
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】591045541
【氏名又は名称】岳南建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】坂井 善洋
(72)【発明者】
【氏名】川崎 伯晃
【テーマコード(参考)】
3C012
3C038
【Fターム(参考)】
3C012BG00
3C038AA04
3C038BA01
3C038BA03
3C038BA10
(57)【要約】
【課題】手指での板状ナットの取り出し及び装着の操作を排して、装着操作中の板状ナットの脱落を防止する。
【解決手段】 複数の板状ナットRを貫通して保持する装填軸2と、板状ナットRの外周面に沿う側面3aを有し、板状ナットRに嵌合し装填軸3と共に収容する操作ケース3とを具備させて板状ナット装着工具1を構成する。装填軸2は、保持した板状ナットRを先端側へ押し出すばね10と、先頭の板状ナットRをボルトBに押し当てると、側方へ突出変形して当該板状ナットRを隣接のものから離す分離爪14bとを具備させる。操作ケース3は、先頭の板状ナットRに係合して抜け止めし、軸周りの回転操作により先頭の板状ナットをボルトBに回し入れ螺合させ、ボルトBから引き離すと、弾性的に変形して板状ナットRを解放するストッパ爪20aを具備させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナットの緩み止めのためにボルトに螺合される板状ナットの挿通孔を貫通して複数の板状ナットを重ね合わせて保持する装填軸と、
板状ナット列の外周面に対応する側面及び軸線方向両端の開口を有して、前記装填軸に保持された板状ナット列に嵌合しつつ装填軸と共に抜け止めして収容し、軸周りの回転操作により装填軸に保持された先頭の板状ナットをボルトに回し入れる操作ケースとを具備し、
前記装填軸は、板状ナット列の保持位置への軸方向の押し込みにより蓄勢され、板状ナットを先端側へ押し出すばねと、先頭の板状ナットをボルトに押し当てると、側方へ突出するよう弾力的に変形し隣接の板状ナットとの間に介入して間隔を開け、当該先頭の板状ナットのみをボルトに螺合させる分離爪とを具備し、
前記操作ケースは、先頭の板状ナットの縁に係合して板状ナットを抜け止めする一方、当該板状ナットのボルトへの螺合によりボルトからの軸方向の引き離し操作により軸線直交方向に弾性的に変形して当該板状ナットを離脱させるストッパ爪を備えていることを特徴とする緩み止め用板状ナット装着工具。
【請求項2】
板状ナット列を貫通して保持し、一端を前記装填軸の先端に突き合わせた状態で他端から前記操作ケースに挿入し、前記操作ケースを装填軸周りに移動させて引き抜かれる途上で、前記抜け止め爪に係合する板状ナットに押されて装填軸に板状ナット列を装填する補充杆を具備することを特徴とする請求項1に記載の緩み止め用板状ナット装着工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結対象物のボルトに締め込まれたナットを緩み止めするイダリング(登録商標)のような板状ナットを複数保持しつつその一つをボルトへ移行させ、装着の際の落下を防止する板状ナット装着工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトに締め込まれたナットを緩み止めする板状ナットの着脱は、スパナやペンチ等の工具を用いた手作業で行われる。板状ナットは、工具袋に収容した多数の板状ナットから一つを取り出して金具などに取り付けられたボルトに装着するが、厚手の作業手袋を装着して動きが制限された手指で取り出して装着操作したり、雨水や潤滑油などが付着するなどにより、作業員の手から板状ナットが脱落しがちである。特に、鉄塔や送電線のような高所での作業において板状ナットを落下させると、下方に位置する衝突対象の破損や、地上作業者の損傷の危険が懸念される。板状ナットの落下に注意を払った慎重な作業は、工事の迅速な進行を妨げる。ボルト、ナットは広範な産業分野において多用される一般的な固定手段であるため、ナットのみならず板状ナットの効率的な装着操作が望まれる。
従来、特許文献1には、環状部品の挿通孔に挿入される第1紐状部材に、環状部品の挿通孔より大きく変形時に環状部品の通過を許容する第1弾性部材を介して第2紐状部材が接続された環状部品保持具が開示されている。
また特許文献2には、複数のナットを保持しつつボルトへの連続的な締結操作を行うためのナットの脱落防止具が開示されている。このナットの脱落防止具は、複数個のナットが直列状態で挿通されるナット挿通部材と、ナット挿通部材の一端部に、内蔵のばねにより付勢される係止片が側方に突出する係止位置で先頭のナットを係止して全てのナットを保持し、ナット挿通部材から抜け止めする一方、押し込み位置で先頭のナットを通過させてナット装填軸から離脱させる係止機構と、ナット挿通部材の一端部から離脱したナットを挿通移動させる連接部材と、連接部材の先端部に固定され、ボルト軸の端面に吸着する吸着部材とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3200366号公報
【特許文献2】特開2013-002530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のもののうち前者においては、重なり合う複数の板状ナットから作業手袋を装着した手指で一つずつを取り出し難く、またボルトへの装着に手指での細かな操作を伴い、手元からの脱落の難点が依然としてある。
後者においては、上記の他に、ナット挿通部材と係止片が接近しているので、ナットを繰り出す際に係止片に隣接する先頭のナットが干渉し易く係止片の押し込み操作を妨げがちになり、装着した厚手の作業手袋によりこの不具合が助長され、小径のナットほど顕著になる。ナット挿通部材は、保持するナットの内径に対応させた棒状をなし、ナットの内径と装填軸の外径が近い寸法に設定されているので、ナットの移動の際の接触抵抗が大きく、係止片を押し込みながらの先頭のナットのスムーズな抜き出しを妨げる。
そこで本発明は、上記問題に鑑み、手指での板状ナットの取り出し及び装着の操作を排して、複数の板状ナットを保持しつつ、装着操作中の脱落を有効に防止し、板状ナットを円滑にボルトに装着させる良好な操作性を有し、連続的に繰り返される装着作業の効率を向上させる板状ナット装着工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために本発明は、板状ナットRの挿通孔を貫通して複数の板状ナットRを重ね合わせて保持する装填軸2と、板状ナットR列の外周面に対応する側面3a及び軸線方向両端の開口を有して、装填軸2に保持された板状ナットRに嵌合しつつ装填軸3と共に抜け止めして収容し、軸周りの回転操作により装填軸2に保持された先頭の板状ナットをボルトBに回し入れる操作ケース3とを具備させて板状ナット装着工具1を構成した。装填軸2は、板状ナットR列の保持位置への軸方向の押し込みにより蓄勢され、板状ナットRを先端側へ押し出すばね10と、先頭の板状ナットRをボルトBに押し当てると、側方へ突出するよう弾力的に変形し隣接の板状ナットRとの間に介入して間隔を開け、当該先頭の板状ナットRのみをボルトBに螺合させる分離爪14bとを具備させる。操作ケース3は、先頭の板状ナットRの縁に係合して板状ナットRを抜け止めする一方、当該板状ナットRのボルトBへの螺合によりボルトBからの軸方向の引き離し操作により軸線直交方向に弾性的に変形して当該板状ナットRを離脱させるストッパ爪20aを具備させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、操作ケースに複数収容したまま、一つずつ板状ナットをボルトに装着でき、手指の細かな操作を排して、可及的に脱落を防止することができ、繰り返される板状ナットの連続的な装着作業の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係る板状ナット装着工具の斜視図である。
【
図2】
図1の板状ナット装着工具の分解斜視図である。
【
図6】板状ナットを充装填した状態の板状ナット装着工具の縦断面図である。
【
図7】(A)は装填軸の正面図、(B)は同平面図である。
【
図10】板状ナットの装着過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の一形態を図面に基づいて説明する。
図1ないし
図6において、板状ナット装着工具1は、複数の板状ナットRを貫通して保持する装填軸2と、装填軸2に収容した板状ナットRに嵌合して抜け止めし、装填軸2に挿通した板状ナットRを収容し、先端から板状ナットRを一つずつボルトに装着操作する操作ケース3と、複数の板状ナットRを重ね合わせて貫通しこれらを保持し、装填軸2と先端同士を突き合わせて基端から操作ケース3を被せて嵌合させ、保持した板状ナットR列を装填軸2に移行させるための補充杆4とを具備する。
【0009】
装填軸2は、金属製円棒材から成る貫通杆5と、
図7に示すように、貫通杆5上を軸方向にスライド自在に嵌合する対向一対のばね受け6,7と、貫通杆5の基端に径方向に突出し操作ケース3の基端に嵌合する端蓋8と、基端側のばね受け6と端蓋8との間に環装される緩衝ばね9と、ばね受け6,7間に環装される押し出しばね10とを具備する。貫通杆5の基端には、掛け止め用O環11と、上下位置から先端側へ延びて操作ケース3の係合孔19に係合する凸部12aを先端部に備えた上下一対の係合アーム12とを備える。貫通杆5の先端側のばね受け7は、貫通杆5のガイド溝5a内を移動するピンにより軸方向に移動を規制され、基端側のばね受け6に接近するように押し込まれると押し出しばね10により先端側に押される。貫通杆5の先端部には、先頭の板状ナットRを隣接のものと間隔を置くための分離機構13が組み込まれている。分離機構13は、
図8,
図9に示すように、貫通杆5の先端部の収容凹所5bに固定され、収容凹所5bの側壁の対向部の開口に出没可能な分離爪14bを先端部に有する左右一対の拡張アーム14aが軸方向に向かって延出するばね受け14と、分離爪14bが接触して押し込みにより相互間に介入して両分離爪14bを側方へ押し開く内細りテーパ面15aを有する押し込み部材15と、ばね受け14と押し込み部材15の間に係止され圧縮により押し込み部材15を押し出す方向に付勢するばね17とを具備する。
【0010】
操作ケース3は、装填軸2を挿入するように、前後を開放した断面六角柱状の筒体を構成する六角側面3aと、側面3aの対向する一対の角部位置に断面矩形に突出して軸方向に両端まで延びる矩形側面3bとを備える。六角側面3aは、板状ナットRを重ねて貫通させた装填軸2の外形に対応して板状ナットRに嵌合し、操作ケース3の軸周りの回転により先端部に位置する先頭の板状ナットRをボルトBに回し入れ操作できる。操作ケース3は、基端部において装填軸2の係合アーム12のねじ孔12aに螺合して固定する固定ボルト18を貫通させる。操作ケース3の基端部上下には、装填軸2の係合アーム12の先端部凸片12bが係合する係合孔19を備える。操作ケース3の矩形側面3bの内側には、中間部にねじ止めされ先端に向かって軸方向に延び、その先端のストッパ爪20aが先頭の板状ナットRの対向一対の角縁にそれぞれ係合する一対の板ばね20を備える。操作ケース3の六角側面3aの先端部対向面には、軸方向の上下の切り込みにより内外に弾性的に撓む一対の可撓片21をそれぞれ備える。可撓片21の先端の上下側部には、内側に突出して先頭の板状ナットRの側縁に係合する係合爪21aを備える。操作ケース3の矩形側面3bの先端部には、係合爪21aの係合、解放動作を調整するために、内側への切欠き22に入り込んで六角側面3a周りを包囲して弾性的に拡径可能な環状の収縮スプリング23を備える。
【0011】
補充杆4は板状ナットRを貫通する径の金属丸棒材からなり、基端に径方向に延出する止め鍔4aと、基端から軸方向に延出する掛け止めようのO環4bとを具備する。
【0012】
本発明に係る板状ナット装着工具1は、
図10に示すように、板状ナットRに補充杆4を貫通させて板状ナットRを連続的に複数重ね合わせて保持し、この補充杆4の先端を装填軸2の先端に突き合わせて(同図(A))、補充杆4の基端側から操作ケース3の基端側を挿入していき(同図(B))、操作ケース3を補充杆4から装填軸2に軸方向に移動させ、その途上で操作ケース3のストッパ爪20a及び係合爪21aが後端の板状ナットRに係合するので、操作ケース3に板状ナットR列が補充杆4から装填軸2に押し出されて移動し、操作ケース3から補充杆4が抜ければ、板状ナットR列が装填軸2と共に操作ケース3に収容される(同図(C))。操作ケース3の係合孔19に装填軸2の係合アーム12の凸片12aが係合すれば、装填軸2と操作ケース3が位置決めされるので、固定ボルト18を締め込んで固定し、また切欠き22に位置する六角側面3aの周囲に収縮スプリング23を掛け回す。
板状ナットRを収容した板状ナット装着工具1の装填軸2の先端をボルトBに押し当てると、分離機構13の押し込み部材15が押されて、拡張アーム14a,14a間に介入し、ばね17を圧縮しつつ内細りテーパ面15aに沿って分離爪14bが収容凹所5bの側壁の開口から突出し、先頭の板状ナットRと隣接のそれとの間隔を広げる。この状態で、操作ケース3を軸周りに回転操作すれば、操作ケース3の側面3bに嵌合する先頭の板状ナットRが共回りしてボルトBに螺合するので、操作ケース3をボルトから引き離せば、ボルトBに板状ナットRを残したままストッパ爪20a及び係合爪21aが弾力的に押し開かれてこれらの係合が解かれ、板状ナットRから操作ケース3を離すことができる。従って、ボルトBに残した板状ナットRを工具で締め込みできる。先頭の板状ナットRをこのようにしてボルトBに装着していけば、複数の板状ナットの連続的な装着作業の効率を高める。
【符号の説明】
【0013】
1 板状ナット装着工具
2 装填軸
3 操作ケース
3a 六角側面
3b 矩形側面
4 補充杆
4a 止め鍔
4b O環
5 貫通杆
5a ガイド溝
5b 収容凹所
6 ばね受け
7 ばね受け
8 端蓋
9 緩衝ばね
10 押し出しばね
11 O環
12 係合アーム
12a ねじ孔
12b 凸片
14 ばね受け
14a 拡張アーム
14b 分離爪
15 押し込み部材
15a テーパ面
17 ばね
18 固定ボルト
19 係合孔
20 板ばね
20a ストッパ爪
21 可撓片
21a 係合爪
22 切欠き
23 収縮スプリング
R 板状ナット
B ボルト