(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139992
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】インダクタ
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20241003BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20241003BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F17/04 F
H01F27/29 H
H01F27/29 P
H01F27/29 123
H01F27/28 152
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050967
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 武士
(72)【発明者】
【氏名】石田 大昌
【テーマコード(参考)】
5E043
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AB03
5E043BA01
5E043EA01
5E043EB05
5E070AA01
5E070AB03
5E070BB03
5E070CA13
5E070CA16
5E070DA13
5E070EA01
5E070EA06
5E070EB04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】良好な特性を有するインダクタを提供する。
【解決手段】インダクタは、コイル20を内蔵する素体2及び素体表面に形成された外部端子を含む。素体は、第1、第2方向に沿った辺を有する長方形の主面と、第1方向に沿った一対の第1面16と、第2方向に沿った一対の第2面14と、コイルの巻回部の外周と一対の第1面との間に形成される第1サイドギャップ部30a、bと、外周と一対の第2面との間に形成される第2サイドギャップ部30c、dと、を有し、主面の面積をS1、第1サイドギャップ部の第2方向の寸法の合計をWSG、第2サイドギャップ部の第1方向の寸法の合計をLSG、主面に垂直な方向から透視したときの巻回部の内周の内側の面積をS3、外周と素体の外縁との間の面積をS4としSGを式(A)の値としたとき、Kは70以上且つ110以下である。
SG=WSG×LSG・・・(A)
K=(S1/SG)×(S4/S3)・・・(B)
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角状の導線を巻回した巻回部と、前記巻回部から引き出された1対の引出部と、を有するコイルと、
磁性粉と樹脂を含有し、前記コイルを内蔵する素体と、
前記素体の表面に形成され、前記引出部に接続された外部端子と、を備え、
前記素体は、
前記コイルの巻軸に交わり、第1方向および第2方向に沿った辺を有する長方形形状である主面と、
前記主面に隣接し、前記第1方向に沿った一対の第1面と、
前記主面に隣接し、前記第2方向に沿った一対の第2面と、
前記巻回部の外周と、前記一対の第1面と、の間にそれぞれ形成される第1サイドギャップ部と、
前記外周と、前記一対の第2面と、の間にそれぞれ形成される第2サイドギャップ部と、を有し、
前記主面の面積を、S1とし、
それぞれの前記第1サイドギャップ部の前記第2方向の寸法の合計を、WSGとし、
それぞれの前記第2サイドギャップ部の前記第1方向の寸法の合計を、LSGとし、
前記主面に垂直な方向から透視したときの、前記巻回部の内周の内側の面積をS3とし、前記外周と前記素体の外縁との間の面積をS4とし、
SGを次の式(A)で求められる値であるとしたときに、
次の式(B)で求められるKは、70以上、且つ、110以下である、インダクタ。
SG=WSG×LSG (A)
K=(S1/SG)×(S4/S3) (B)
【請求項2】
前記第2面には、前記引出部を構成する前記導線の断面が露出し、
前記断面は、前記第2面と面一である、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記引出部を構成する前記導線の表面は、前記主面から露出している、
請求項1または2に記載のインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、導線を巻回して形成したコイルと、樹脂と磁性材料を含む封止材を用いた素体と、を有する成型体を備えた表面実装インダクタを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のインダクタにおいて、従来は、要求される直流重畳定格電流および直流抵抗の値を満たすように、素体におけるコイルの内周の内側の面積、および、素体におけるコイルの外周の外側の面積を設計していた。しかしながら、特に小型サイズの素体を有するインダクタにおいて、これらのパラメータを従来のように最適化しても、要求される特性を満たすことが難しく、パラメータの設定に改良の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一様態は、平角状の導線を巻回した巻回部と、前記巻回部から引き出された1対の引出部と、を有するコイルと、磁性粉と樹脂を含有し、前記コイルを内蔵する素体と、前記素体の表面に形成され、前記引出部に接続された外部端子と、を備え、前記素体は、前記コイルの巻軸に交わり、第1方向および第2方向に沿った辺を有する長方形形状である主面と、前記主面に隣接し、前記第1方向に沿った一対の第1面と、前記主面に隣接し、前記第2方向に沿った一対の第2面と、前記巻回部の外周と、前記一対の第1面と、の間にそれぞれ形成される第1サイドギャップ部と、前記外周と、前記一対の第2面と、の間にそれぞれ形成される第2サイドギャップ部と、を有し、前記主面の面積を、S1とし、それぞれの前記第1サイドギャップ部の前記第2方向の寸法の合計を、WSGとし、それぞれの前記第2サイドギャップ部の前記第1方向の寸法の合計を、LSGとし、前記主面に垂直な方向から透視したときの、前記巻回部の内周の内側の面積をS3とし、前記外周と前記素体の外縁との間の面積をS4とし、SGを次の式(A)で求められる値であるとしたときに、次の式(B)で求められるKは、70以上、且つ、110以下である、インダクタである。
SG=WSG×LSG (A)
K=(S1/SG)×(S4/S3) (B)
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、良好な特性を有するインダクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態1に係るインダクタを上面の側から視た斜視図である。
【
図2】実施形態1に係るインダクタを底面の側から視た斜視図である。
【
図3】実施形態1に係るインダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
【
図4】実施形態1に係るインダクタの製造工程の概要図である。
【
図5】上面に垂直な方向から透視した実施形態1に係る素体を示す模式図。
【
図6】実施例のシミュレーションにおける、各種パラメータおよび算出された値Kを示す図表。
【
図7】実施例のシミュレーションにおける、値KとIsat/Rdcとの関係を示す図表。
【
図8】実施例のシミュレーションにおける、値KとIsat/Rdcとの関係を示すグラフ。
【
図10】上面に垂直な方向から透視した実施形態2に係る素体を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態1]
以下、実施形態1に係るインダクタ1の製造方法およびインダクタ1について説明する。
(インダクタ全体構成)
図1は本実施形態に係るインダクタ1を上面12の側から視た斜視図であり、
図2はインダクタ1を底面10の側から視た斜視図である。
本実施形態のインダクタ1は、表面実装型の電子部品として構成されており、略六面体形状の一態様である略直方体形状の素体2と、当該素体2の表面に設けられた一対の外部電極(外部端子)4とを備えている。
【0009】
以下、素体2において、実装時に図示しない実装基板に向けられる第1の主面を底面(主面)10と定義し、底面10に対向する第2の主面を上面(主面)12と言い、底面10に直交する一対の外面を端面(第2面)14と言い、これら底面10、及び一対の端面14に直交する一対の外面を側面(第1面)16と言う。一対の端面14は、互いに対向して配置される。また、一対の側面16は、互いに対向して配置される。底面10、上面12、端面14、および、側面16は、それぞれ略長方形形状である。
図1に示すように、底面10から上面12までの距離を素体2の厚みTと定義し、一対の側面16の間の距離を素体2の幅Wと定義し、一対の端面14の間の距離を素体2の長さLと定義する。また、厚みTの方向を厚み方向DTと定義し、幅Wの方向を幅方向(第2方向)DWと定義し、長さ距離の方向を長さ方向(第1方向)DLと定義する。すなわち、底面10および上面12は幅方向DWおよび長さ方向DLに沿い、端面14は幅方向DWおよび厚み方向DTに沿い、側面16は、長さ方向DLおよび厚み方向DTに沿う。また、端面14は、底面10、上面12、および、一対の側面16に隣接する。側面16は、底面10、上面12、および、一対の端面14に隣接する。
完成品としてのインダクタ1の公称サイズは、例えば、長さL寸法が1.4mm、幅W寸法が1.2mm、厚みT寸法が0.65mmである。
【0010】
以下、DL方向およびDT方向に沿った面をLT面、DT方向およびDW方向に沿った面をTW面、DL方向およびDW方向に沿った面をLW面というものとする。また、インダクタ1の、LT面、TW面、およびLW面に沿った断面を、それぞれ、LT断面、TW断面、及びLW断面というものとする。
【0011】
図3は、インダクタ1の内部構成を示す透視斜視図である。
素体2は、コイル導体(コイル)20と、当該コイル導体20が埋設された略六面体形状のコア30と、を備え、かかるコイル導体20をコア30に封入したモールドインダクタとして構成されている。
【0012】
コア30は、磁性粒子(磁性粉)と樹脂を混合した混合粉を、コイル導体20を内包した状態で加圧及び加熱することで略六面体形状に圧縮成型された成型体である。
【0013】
また、本実施形態の磁性粒子は、軟磁性体で形成されており、平均粒径が比較的大きな大粒子の第1磁性粒子と、平均粒径が比較的小さな小粒子の第2磁性粒子との2種類の粒度の粒子を含んでいる。これにより、圧縮成型時において、大粒子の第1磁性粒子の間に、小粒子である第2磁性粒子が樹脂とともに入り込むことでコア30における磁性粒子の充填率を大きくし、また透磁率も高めることができる。
本実施形態において、第1磁性粒子の金属粒子の平均粒径は、20μm以上28μm以下であり、第2磁性粒子の金属粒子の平均粒径は、1μm以上6μm以下である。なお、第1磁性粒子の平均粒径は21.4μm以上27.4μm以下が好ましく、第2磁性粒子の平均粒径は1.5μm以上1.8μm以下が好ましい。また、磁性粒子が第1磁性粒子および第2磁性粒子と異なる平均粒径の粒子を含むことで、3種類以上の粒度の粒子を含んでもよい。
【0014】
第1磁性粒子及び第2磁性粒子はいずれも、金属粒子と、金属粒子の表面を覆う酸化膜と、酸化膜の表面を覆う絶縁膜とを有した粒子である。金属粒子が酸化膜及び絶縁膜で覆われることで、絶縁抵抗と耐電圧とが高められる。
本実施形態の第1磁性粒子では、金属粒子には、Fe-Si-Bアモルファス合金粉が用いられている。第1磁性粒子の酸化膜は、SiO層とFe2SiO4の2層で構成されており、酸化膜全体の厚みは20nm以上155nm以下である。また、第1磁性粒子の絶縁膜は、厚み10nm以上50nm以下のリン酸塩ガラスで形成されている。
【0015】
また、本実施形態の第2磁性粒子では、金属粒子には、カルボニル鉄粉が用いられている。第2磁性粒子の酸化膜は、金属粒子であるカルボニル鉄粉を表面酸化して形成される酸化鉄である。また、第2磁性粒子の絶縁膜は、シリカを成分とするゾルゲル反応生成物である。これにより、第2磁性粒子の表面の滑り性を高めて、後述する素体2の素体成型・硬化工程の際に第1磁性粒子の間への第2磁性粒子の入り込みを容易にすることができる。その結果、コア30における磁性材料の密度をより増大させて、コア30の比透磁率を更に増大させることができる。
【0016】
なお、第1磁性粒子において、金属粒子には、Fe-Si-Cr合金粉、Fe-Ni-Al合金粉、Fe-Cr-Al合金粉、Fe-Si-Al合金粉、Fe-Ni合金粉、Fe-Ni-Mo合金粉を用いてもよい。
また、第1磁性粒子において、絶縁膜には、リン酸、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、ガラス、または樹脂を用いてもよい。
【0017】
本実施形態の混合粉が含む樹脂の材料は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とゴム変性エポキシ樹脂とを含む。これにより、素体2の強度と靭性の双方が向上したインダクタ1を製造することができる。
【0018】
本実施形態では、混合粉に含まれる磁性粉は、その混合粉に含まれる磁性粒子の総重量を基準として第1磁性粒子が70wt%以上85wt%以下、第2磁性粒子が15wt%以上30wt%以下である。また、混合粉に含まれる樹脂は、磁性粉と樹脂の総重量を基準として、2.0wt%以上3.5wt%以下である。なお、第1磁性粒子は、70wt%以上80wt%以下が好ましく、第2磁性粒子は、20wt%以上30wt%以下が好ましい。また、樹脂は、2.7wt%以上30wt%以下が好ましい。
【0019】
コイル導体20は、
図3に示すように、巻軸Qの周りに導線がその両端が外周に位置し、かつ内周で互いに繋がるように渦巻き状に巻軸Qに沿って上下2段に巻回された巻回部22と、当該巻回部22から引き出された一対の引出部23と、を備える。それぞれの引出部23には、後述の外部電極に接続するための導線部分である一対の外部電極接続領域24が形成されている。巻回部22は、巻軸Qに沿って重なった2つの巻回領域22a、22bを含む。巻回領域22aと22bとは、それらの内周の一部において互いの導線がつながっている。
【0020】
コイル導体20は、巻軸Qが素体2の厚み方向DTに沿うように素体2内に埋設されている。すなわち、巻軸Qは、底面10および上面12に対して直交し、端面14および側面16に沿う方向に延びる。
【0021】
コイル導体20を構成する導線は、導体と、導体の表面に形成された被覆層とで構成される。導線は、断面が矩形の平角状導線であり、導体は、銅を材質とする断面が矩形の帯状導体である。導体の厚みは、52μm以上118μm以下、幅は、110μm以上180μm以下である。被覆層は、帯状導線の表面上に形成された絶縁層と、絶縁層の表面に形成された、巻回部22において重なりあう帯状導線同士を接着するための融着層と、で構成される。絶縁層は、例えば、ポリイミドアミド樹脂から成り、厚みは3μmである。また、融着層は、例えば、ポリアミド樹脂から成り、厚みは、1μm以上25μm以下である。
【0022】
引出部23は、巻回部22から引き出され、一対の端面14のそれぞれまで引き出され露出する外部電極接続領域24を介して外部電極4に電気的に接続されている。
一対の外部電極4は、素体2の端面14のそれぞれから底面10に亘って延びるL字状部材で構成された、いわゆるL字電極である。外部電極4はそれぞれ、端面14においてコイル導体20の外部電極接続領域24と接続され、また底面10に延出した部分4A(
図2)がはんだなどの適宜の実装手段によって回路基板の配線に電気的に接続される。
【0023】
また、外部電極4の範囲を除く素体2の表面には、素体保護層(図示せず)が形成されている。素体保護層は、例えば、ノボラック樹脂にフェノキシ樹脂を添加した樹脂であり、フィラーとしてナノシリカを含む。素体保護層は、素体2の表面上に、10μm以上30μm以下の厚みで形成されている。なお、素体保護層の厚みは、10μm以上20μm以下が望ましく、15μm以下がより好ましい。
【0024】
かかる構成のインダクタ1は、磁性粒子に軟磁性材料を用いることにより、直流重畳特性を改善できるので、大電流が流れる電気回路の電子部品、DC-DCコンバータ回路や電源回路のチョークコイルとして用いられ、また、パソコン、DVDプレーヤー、デジカメ、TV、携帯電話、スマートフォン、カーエレクトロニクス、医療用・産業用機械などの電子機器の電子部品に用いられる。ただし、インダクタ1の用途はこれに限られず、例えば、同調回路、フィルタ回路や整流平滑回路などにも用いることもできる。
【0025】
(インダクタ製造工程概要)
図4は、インダクタ1の製造工程の概要図である。
同図に示すように、インダクタ1の製造工程は、コイル導体形成工程、予備成型体形成工程、素体成型・硬化工程、素体研磨工程、及び、外部電極形成工程を含んでいる。
【0026】
コイル導体形成工程は、導線からコイル導体20を形成する工程である。当該工程において、コイル導体20は、「アルファ巻」と称される巻き方で導線を巻回することにより、上述した巻回部22、引出部23を有した形状に形成される。アルファ巻とは、導体として機能する導線の巻始めと巻終わりの引出部23が外周に位置するように渦巻き状に2段に巻回された状態を言う。コイル導体20のターン数は、特に限定されるものではない。
【0027】
予備成型体形成工程は、タブレットと称される予備成型体を形成する工程である。
予備成型体は、素体2の材料である上記混合粉を加圧することで、取り扱いが容易な固形状に成型したものであり、本実施形態では、コイル導体20が配置される適宜形状(例えば、E型やT型など)の第1タブレットと、この第1タブレットとの間にコイル導体20を挟む適宜形状(例えばI型や板状など)の第2タブレットとの2種類のタブレットが形成される。
【0028】
素体成型・硬化工程は、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを成型金型にセットし、熱を加えながら、第1タブレットと第2タブレットの重なり方向に加圧し、これらを硬化させることとで、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを一体化する。これにより、コイル導体20をコア30に内包した素体2が成型される。また、この工程で得られた素体2に対して、素体2に生じたバリ等を除去したり、素体2の角を面取りしたりするために、バレル研磨を行っても良い。
【0029】
素体研磨工程は、素体2の側面16を研磨し、素体2の幅Wを調整する工程である。素体研磨工程において、素体2は、保持板と呼ばれる板状の部材に保持された状態で、研磨機の上砥石と下砥石とによって上下から挟み込まれる。この状態で、研磨機を作動させ、上砥石および下砥石を回転させることにより、素体2の側面を研磨する。素体研磨工程により、後述する幅寸法WSG1、WSG2の合計である第1サイドギャップWSGは、0.14mm以下とされる。
【0030】
外部電極形成工程は、外部電極4を素体2に形成する工程であり、素体保護層形成工程と、表面処理工程と、めっき層形成工程と、を含んでいる。
【0031】
素体保護層形成工程は、素体2の全表面を絶縁性の樹脂でコーティングする工程である。
【0032】
表面処理工程は、コア30の表面の電極予定箇所にレーザ光を照射することで電極予定箇所の表面を改質する工程である。ここで、電極予定箇所とは、コア30の表面のうち外部電極4を形成すべき範囲をいい、外部電極接続領域24が露出されている部分を含む。具体的には、レーザ光を照射することにより、電極予定箇所の範囲において、素体2の表面の素体保護層およびコイル導体20の外部電極接続領域24の被覆層を除去すると共に、コア30の表面の樹脂を除去し、且つ、コア30から露出している磁性粒子の表面の絶縁膜を除去する。これにより、コア30の表面のうち電極予定箇所の部分は、コア30の他の表面部分に比べて、コア30の表面の単位面積あたりの磁性粒子の金属の露出面積が大きくなる。なお、レーザ光の照射後に、電極予定箇所の表面を清浄するための洗浄処理(例えばエッチング処理)を行っても良い。
【0033】
めっき層形成工程では、コア30の表面に銅をバレルめっきすることにより、レーザ光が照射された電極予定箇所に銅めっき層を形成する。これに加えて、めっき層は、銅めっき層の上に、さらにNiめっき層およびSnめっき層を設けて形成されるものとしてもよい。
【0034】
以下、本実施形態におけるインダクタ1の詳細について、更に説明する。以降は、インダクタ1の特性の評価指標、および、評価指標に対して影響する各種パラメータについて説明したのち、好適な各種パラメータの範囲について説明する。
【0035】
(インダクタの特性の評価指標)
インダクタ1において重視される性能として、インダクタンスの他に、直流重畳定格電流(以下、Isatと記載)、および、直流抵抗(以下、Rdcと記載)が挙げられる。Isatは、磁気飽和によってインダクタ1のインダクタンスが初期値から所定の割合だけ低下するときの電流値であり、本実施形態では、初期値から30%低下するときの電流値である。Rdcは、インダクタ1に直流電流を流した際の抵抗値である。一般に、インダクタ1は、Isatが大きく、Rdcが小さいほど、良好な特性を有するとされる。このため、本実施形態では、IsatをRdcで除したIsat/Rdcが大きいほど、インダクタ1の特性は良好であると評価する。
【0036】
(パラメータの説明)
インダクタ1において、Isat/Rdcに影響する主要なパラメータには、総面積S1、外周側面積S4、内周側面積S3、第1サイドギャップWSG、および、第2サイドギャップLSGが含まれる。以下では、これらのパラメータについてそれぞれ説明する。
【0037】
総面積S1は、主面、すなわち、上面12または底面10のどちらか一方の面積である。なお、上面12および底面10は、DW方向およびDL方向に沿った辺を有する略長方形形状であるため、総面積S1を、素体2の幅Wと素体2の長さLとの積として求めてもよい。
【0038】
図5は、上面12に垂直な方向から透視した素体2を示す模式図である。
図5に相当する透視図は、例えば、X線を用いた撮影等によって得ることができる。
本実施形態では、素体2は略直方体であるため、
図5に示すように、上面12に垂直な方向から透視したときの素体2の外縁2aの内側の面積は、上面12および底面10の面積と略一致する。このため、総面積S1として、上面12に垂直な方向から透視したときの素体2の外縁2aの内側の面積を用いてもよい。
【0039】
外周側面積S4は、素体2を上面12に垂直な方向から透視したときの、巻回部22の外周22cと、素体2の外縁2aと、の間の領域の面積である。巻回部22の外周22cは、上面12に垂直な方向から透視して、2つの巻回領域22a、22bの両方を合わせた巻回部22の最外周側の導線の外側の縁を指す。すなわち、外周22cは、巻回領域22aの最外周側の導線の外側の縁と、巻回領域22bの最外周側の導線の外側の縁と、の両方によって構成される場合がある。
【0040】
内周側面積S3は、素体2を上面12に垂直な方向から透視したときの、巻回部22の内周22dの内側の面積である。巻回部22の内周22dは、上面12に垂直な方向から透視して、2つの巻回領域22a、22bの両方を合わせた巻回部22の最内周側の導線の内側の縁を指す。すなわち、内周22dは、巻回領域22aの最内周側の導線の内側の縁と、巻回領域22bの最内周側の導線の内側の縁と、の両方によって構成される場合がある。
【0041】
外周側面積S4および内周側面積S3は、例えば、上面12に垂直な方向から素体2をX線撮影し、得られた画像から面積を測定することで、それぞれの測定値を得ることができる。また、後述のように、外周側面積S4および内周側面積S3は、後述する式(1)の値S2を求めるために必要とされる。値S2は、外周側面積S4を内周側面積S3によって除した値であるため、値S2の算出のためには、外周側面積S4および内周側面積S3の値を個々に求める必要は無い。このため、上述したX線撮影によって得られた画像から、外周側面積S4に相当する面積と、内周側面積S3に相当する面積と、の割合を算定することにより、直接的に値S2を求めてもよい。
【0042】
第1サイドギャップWSGは、巻回部22の外周22cと、素体2の2つの側面16と、の間に形成された2つの第1サイドギャップ部30a、30bの幅寸法WSG1、WSG2の合計である。第1サイドギャップ部30a、30bは、それぞれコア30の一部である。また、幅寸法WSG1、WSG2は、ともに、DW方向における第1サイドギャップ部30a、30bの寸法である。第1サイドギャップ部30aの幅寸法WSG1は、具体的には、素体2を上面12に垂直な方向から透視したときの、巻回部22の外周22cと、一方の側面16と、のDW方向における間隔の最小値である。同様に、第1サイドギャップ部30bの幅寸法WSG2は、具体的には、素体2を上面12に垂直な方向から透視したときの、巻回部22の外周22cと、他方の側面16と、のDW方向における間隔の最小値である。
【0043】
また、例えば、幅寸法WSG1、WSG2は、
図5に示すように、上面12に垂直な方向から素体2を透視したときの、仮想線L1上における、巻回部22の外周22cと、2つの側面16と、の間隔の測定値であるとしてもよい。仮想線L1は、上面12に垂直な方向から素体2を透視したときに、巻回部22の巻軸Qを通り、且つ、DW方向に延びる仮想的な直線である。このように幅寸法WSG1、WSG2を測定することにより、素体2を上面12に垂直な方向から透視したときの、巻回部22の外周22cと、側面16と、のDW方向における間隔の最小値に、幅寸法WSG1、WSG2を十分に近似させることができる。なお、素体2を上面12に垂直な方向から透視したときの巻軸Qの位置は、例えば、巻回部22の内周22dに対する最大の内接円の中心であるとしてもよい。また、仮想線L1は、素体2のDL方向における中央に配置されてもよい。
【0044】
第2サイドギャップLSGは、巻回部22の外周22cと、素体2の2つの端面14と、の間に形成された2つの第2サイドギャップ部30c、30dの長さ寸法LSG1、LSG2の合計である。第2サイドギャップ部30c、30dは、それぞれコア30の一部である。また、長さ寸法LSG1、LSG2は、ともに、DL方向における第2サイドギャップ部30c、30dの寸法である。第2サイドギャップ部30cの長さ寸法LSG1は、具体的には、素体2を上面12に垂直な方向から透視したときの、巻回部22の外周22cと、一方の端面14と、のDL方向における間隔の最小値である。同様に、第2サイドギャップ部30dの長さ寸法LSG2は、具体的には、素体2を上面12に垂直な方向から透視したときの、巻回部22の外周22cと、他方の端面14と、のDL方向における間隔の最小値である。なお、
図5では、巻回部22の外周22cから素体の端面14に向かって延びる引出部23を有するが、引出部23と巻回部22がつながる部分すなわち、最外周の導線の巻軸Q側の表面がその内周の導線から離れ始める部分は巻回部の外周22cから除外される。
【0045】
また、例えば、長さ寸法LSG1、LSG2は、
図5に示すように、上面12に垂直な方向から素体2を透視したときの、仮想線L2上における、巻回部22の外周22cと、2つの端面14と、の間隔の測定値であってもよい。仮想線L2は、上面12に垂直な方向から素体2を透視したときに、巻回部22の巻軸Qを通り、且つ、DL方向に延びる仮想的な直線である。このように長さ寸法LSG1、LSG2を測定することにより、素体2を上面12に垂直な方向から透視したときの、巻回部22の外周22cと、側面16と、のDL方向における間隔の最小値に、長さ寸法LSG1、LSG2を十分に近似させることができる。なお、仮想線L2は、素体2のDW方向における中央に配置されてもよい。
【0046】
(パラメータの好適な範囲)
これらのパラメータについて、発明者らが実施した後述する実施例の結果として、Isat/Rdcを大きくするためには、次の式(1)で求められる値Kの好適な範囲が、70以上、且つ、110以下であることが判明した。また、値Kのより好適な範囲は、80以上、且つ、100以下であることが判明した。
K=S1/(WSG×LSG)×(S4/S3)
=(S1/SG)×(S4/S3)
=B×S2 (1)
本実施形態では、値Kは、70以上、且つ、110以下であるとされる。このため、インダクタ1のIsat/Rdcを大きくすることができ、良好な特性のインダクタ1を得ることができる。
【0047】
[実施例]
発明者らは、上述した各種パラメータとインダクタの特性との関係を検証するための実験を実施した。実施例において、発明者らは、素体2を1つ作成し、作成した素体2をもとにシミュレーション上で様々なパラメータを変化させ、値Kを算出した。さらに、発明者らは、算出された値Kごとに、Isat/Rdcを算出して、値Kの好適な範囲を求めた。以下に、その詳細を説明する。
【0048】
(試料の作成)
始めに、発明者らは、シミュレーションに使用する素体2を制作した。発明者らは、コア30の材料となる混合粉のうち、金属磁性粉として、第1磁性粒子としてのFe-Si-Cr合金粉と、第2磁性粒子としてのカルボニル鉄粉と、を混合したものを使用した。粒度分布計による計測結果によれば、実施例の金属磁性粉は、第1磁性粒子の平均粒径が25.3μm、第2磁性粒子の平均粒径が1.7μmであった。また、実施例の樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とゴム変性エポキシ樹脂とを含んでおり、混合粉のうち2.7wt%を占めていた。発明者らの測定によれば、混合粉は、比透磁率が34であり、飽和磁束密度が1.36Tであった。なお、比透磁率は、BHアナライザとインピーダンス・マテリアル・アナライザを利用し、周波数1MHzの高周波信号を用いて測定された。また、飽和磁束密度は、LCRメータと直流電源を用いて重畳時のインダクタンス変化を測定し、BHデータを逆算して、磁束が飽和した値を混合粉の飽和磁束密度とした。
【0049】
実施例において、発明者らは、断面の寸法が縦横それぞれ0.128mmおよび0.083mmの平角状導線を使用してコイル導体20を作成した。コイル導体20は、実施形態1と同様に、2段に巻き回されて形成された巻回部22と、引出部23と、を有する形状に形成された。
【0050】
実施例において、発明者らは、上記のコア30およびコイル導体20を用いて、素体2を制作した。圧縮成型時には、実施例のコア30と同様の金属磁性粉と樹脂とを混合したE型予備成型体にコイル導体20を配置した。また、コイル導体20は、E型予備成型体と、E型予備成型体と同じ材料のI型予備成型体と、の間に挟まれた状態で、金型内に配置された。この状態で、E型予備成型体、コイル導体20、および、I型予備成型体を熱圧縮して、素体2を形成した。また、このとき、コイル導体20は、巻回部22の巻軸Qが、素体2の実装面である底面10に対し、略垂直になる姿勢とされた。
【0051】
これにより、長さ方向DLに沿った長さLが1.52mm、幅方向DWに沿った幅Wが1.35mm、厚み方向DTに沿った厚みTが0.57mmの素体2が制作された。
【0052】
(シミュレーション)
図6は、シミュレーションにおける、各種パラメータおよび算出された値Kを示す図表である。なお、
図6の各パラメータの文字は、実施形態1で説明した各パラメータの文字と対応している。また、内径Rは、巻回部22の内周22dのうち、湾曲した部分の曲率半径の値である。
発明者らは、得られた素体2の各部位の形状をもとにシミュレーションを行い、第1サイドギャップWSGが0.1mm、第2サイドギャップLSGが0.2mm、および、コイル導体20の内径Rが0.25mmとなる素体2の値Kを算出した。このとき算出された値Kは、63.4であった。
【0053】
その後、発明者らは、シミュレーション上において、インダクタンス値が0.31μHとなるように、平角状導線の断面の寸法、内径Rの大きさ、第1サイドギャップWSG、および、第2サイドギャップLSGの大きさを変化させた各パターンに対し、値Kを算出した。このとき、素体2の外形寸法は、長さLを1.52mmに、幅Wを1.35mmに、厚みTを0.57mmにそれぞれ固定された。この結果として、
図6に示すように、合計12パターンのパラメータの組み合わせに対し、59.8以上、112.5以下の範囲の値Kが得られた。
【0054】
なお、このようなシミュレーション上に限らず、実際の製造時においても、金型内の空間の大きさを変更することにより、第1サイドギャップWSGおよび第2サイドギャップLSGを調整することが可能である。また、第1サイドギャップWSGおよび第2サイドギャップLSGの大きさは、金型内の空間の大きさを素体2の最終的な大きさよりも大きくし、圧縮成型後にコア30を研磨することによっても、調整することができる。
【0055】
発明者らは、さらに、
図6の値Kに対応するIsat/Rdcの変化について、シミュレーションを行った。
図7は、シミュレーションにおける、値KとIsat/Rdcとの関係を示す図表である。
図8は、シミュレーションにおける、値KとIsat/Rdcとの関係を示すグラフである。なお、
図8の曲線は、
図7に示したシミュレーションの各結果を補間した曲線である。
【0056】
図7および
図8に示すように、シミュレーションを行った値Kのうち、Isat/Rdcが最も大きくなったのは、値Kが93.2となる場合であり、この時のIsat/Rdcは0.2629A/mΩであった。また、
図7に示すように、Isat/Rdcはピークを有しており、値Kがピーク時の値から大きくなる、または、小さくなることにより、Isat/Rdcは減少する傾向であった。
【0057】
また、
図7および
図8に示すように、実施例の第2のシミュレーションにおいて、値Kが70以上、且つ、110以下となる範囲におけるIsat/Rdcは、Isat/Rdcの最大値の90%以上で推移している。さらに、値Kが80以上、且つ、100以下となる範囲におけるIsat/Rdcは、Isat/Rdcの最大値の95%以上で推移している。
【0058】
このため、実施例より、実物での各パラメータの測定精度も加味すれば、値Kの好適な範囲は、70以上、且つ、110以下であることが判明した。また、実施例より、値Kのより好適な範囲は、80以上、且つ、100以下であることが判明した。
【0059】
この様な効果が得られる理由は不明であるが、素子サイズが1412サイズ(1.4mm×1.2mm)よりも大きなサイズの従来品とは異なる設計思想が必要であるためと考えられる。
また、値Kに対するIsat/Rdcが
図7のようにピークを有する理由としては、上述した式(1)に用いられる値B、および、値S2のそれぞれについて、Isat/Rdcを大きくするうえでの好適な範囲が存在するためであると考えられる。
【0060】
値S2が大きい場合は、外周側面積S4が大きく、内周側面積S3が小さい場合である。この場合、外周側面積S4が大きいため、外周22cの径が小さく、コイル導体20を形成する導線の長さは短くなり易く、Rdcは小さくなり易い。一方で、内周側面積S3が小さいため、磁気飽和が生じやすく、Isatは小さくなり易い。
値S2が小さい場合は、外周側面積S4が小さく、内周側面積S3が大きい場合である。この場合、外周側面積S4が小さいため、外周22cの径が大きく、コイル導体20を形成する導線の長さは長くなり易くRdcは大きくなり易い。一方で、内周側面積S3が大きいため、磁気飽和が生じにくく、Isatは大きくなり易い。
このように、値S2が大きい場合は、RdcおよびIsatはともに小さくなり易く、値S2が小さい場合は、RdcおよびIsatはともに大きくなり易い。従って、値S2に対して、Isat/Rdcは単調に増加または減少することなく、Isat/Rdcを大きくするうえで好適な値S2の範囲が存在すると考えられる。
【0061】
値Bは、総面積S1を幅Wと長さLとの積と見做せば、次の式(2)のように変形できる。
B=S1/SG
=(W×L)/(WSG×LSG)
=(W/WSG)×(L/LSG) (2)
すなわち、値Bは、幅Wに対する第1サイドギャップWSGの比率WSG/Wの逆数と、長さLに対する第2サイドギャップLSGの比率LSG/Lの逆数と、の積であると見做せる。
【0062】
このため、値Bが大きい場合は、それぞれの比率WSG/W、LSG/Lが小さい場合である。この場合は、上面12に垂直な方向から透視したときに、巻回部22の外周22cが素体2の側面16、および端面14に近い位置にあることを意味する。すなわち、コイル導体20を構成する導線の長さが長くなり易く、Rdcは大きくなり易い。また、巻回部22の内周22dの径は大きくなり易いので、磁気飽和しにくく、Isatは大きくなり易い。
また、値Bが小さい場合は、それぞれの比率WSG/W、LSG/Lが大きい場合である。この場合は、上面12に垂直な方向から透視したときに、巻回部22の外周22cが素体2の側面16、および端面14から遠い位置にあることを意味する。すなわち、コイル導体20を構成する導線の長さが短くなり易く、Rdcは小さくなり易い。また、巻回部22の内周22dの径は小さくなり易いので、磁気飽和し易く、Isatは小さくなり易い。
このように、値Bが大きい場合は、RdcおよびIsatはともに大きくなり易く、値Bが小さい場合は、RdcおよびIsatはともに小さくなり易い。このため、値Bに対して、Isat/Rdcは単調に増加または減少することなく、Isat/Rdcを大きくするうえで好適な値Bの範囲が存在すると考えられる。
【0063】
このように、値Bおよび値S2には、それぞれにIsat/Rdcを大きくするうえで好適な範囲が存在すると考えられる。従って、値Bおよび値S2の積である値Kにも、Isat/Rdcを大きくするうえで好適な範囲が存在していると考えられる。
【0064】
[実施形態2]
次に、
図9および
図10を用いて、実施形態2について説明する。なお、以下では、実施形態1と異なる点についてのみ説明し、同一の説明は省略する。
【0065】
図9は、実施形態2に係る素体102の斜視図である。
図9は、上面12に垂直な方向から透視した素体102を示す模式図である。
実施形態2に係る素体102では、実施形態1の素体2と異なり、2つの端面14から、コイル導体20の2つの引出部123を構成する導線の断面123aが露出している。より詳細には、引出部123を構成する導線の断面123aは、素体102の2つの端面14と略面一である。換言すれば、引出部123を構成する導線の断面123aは、素体102の端面14とほぼ同一平面上にある。引出部123を構成する導線の断面123aは、例えば、素体研磨工程で、素体102の2つの端面14を引出部23ごとDL方向に削ることにより、引出部123を構成する導線の断面123aが素体102の端面14から露出し、且つ、端面14と略面一になる。なお、素体102の端面14から露出する引出部123を構成する導線の断面123aは、外部電極形成工程において、外部電極4に接続される。
【0066】
このように、素体102の端面14を削って引出部123を構成する導線の断面123aを素体102の端面14から露出させる構成とすることにより、第2サイドギャップ部30c、30dの長さ寸法LSG1、LSG2を、容易に調整することができる。従って、上述の式(1)で算出される値Kを、70以上、且つ、110以下に調整し易くなる。
【0067】
[実施形態3]
次に、
図11および
図12を用いて、実施形態3について説明する。なお、以下では、実施形態1および2と異なる点についてのみ説明し、同一の説明は省略する。
【0068】
図11は、実施形態3に係る素体202の斜視図である。
図12は、底面10側から見た素体202を示す模式図である。
実施形態3に係る素体202では、実施形態1および2と異なり、コイル導体20の2つの引出部223は底面10に向けて曲げられ、底面10から引出部223が露出している。より詳細には、引出部223を構成する導線の表面223aが、素体202の底面10から露出している。なお、素体202の底面10から露出した引出部223を構成する導線の表面223aは、外部電極形成工程において、外部電極4に対して接続される。
【0069】
このように、引出部223を構成する導線の表面223aを素体202の底面10から露出させることにより、引出部223が素体202の端面14から露出していなくても、引出部223と外部電極4とが接続可能となる。従って、引出部223を素体202の端面14から露出させる必要がなくなり、第2サイドギャップ部30c、30dの長さ寸法LSG1、LSG2の調整の自由度を大きくできる。このため、上述の式(1)で算出される値Kを、70以上、且つ、110以下に調整し易くなる。
【0070】
[他の実施形態]
上記実施形態では、外部電極4は、素体2、102、202の端面14および底面10に跨って形成されたL字電極であると説明したが、これは一例である。外部電極4は、L字電極に限定されず、素体2、102、202の端面14と、それぞれ端面14に隣接する底面10、上面12、および2つの側面16と、に跨って形成される構成であってもよい。この場合、実施形態3で説明した引出部223を構成する導線の表面223aは、素体202の底面10ではなく上面12から露出していてもよい。
【0071】
上記実施形態では、巻回部22と2つの側面16との間には、2つの第1サイドギャップ部30a、30bが形成されていたが、これは一例である。例えば、巻回部22の外周22cは片方の側面16から露出しており、第1サイドギャップ部30a、30bのうち片方のみが形成される構成としてもよい。この場合、第1サイドギャップWSGは、幅寸法WSG1、WSG2の片方と一致する。同様に、巻回部22は端面14の片方から露出し、巻回部22と2つの端面14との間には、第2サイドギャップ部30c、30dのうち片方のみが形成され、第2サイドギャップLSGは、長さ寸法LSG1、LSG2のうち片方と一致する構成としてもよい。
【0072】
上述した全ての実施形態および変形例は、本発明の一態様を例示したものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に変形及び応用が可能である。また、上述した各実施形態の任意の要素を組み合わせ、新たな実施形態としてもよい。
また、上述した実施形態における水平、直交、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。
【0073】
[上記実施形態によりサポートされる構成]
上述した実施形態は、以下の構成をサポートする。
【0074】
(構成1)平角状の導線を巻回した巻回部と、前記巻回部から引き出された1対の引出部と、を有するコイルと、磁性粉と樹脂を含有し、前記コイルを内蔵する素体と、前記素体の表面に形成され、前記引出部に接続された外部端子と、を備え、前記素体は、前記コイルの巻軸に交わり、第1方向および第2方向に沿った辺を有する長方形形状である主面と、前記主面に隣接し、前記第1方向に沿った一対の第1面と、前記主面に隣接し、前記第2方向に沿った一対の第2面と、前記巻回部の外周と、前記一対の第1面と、の間にそれぞれ形成される第1サイドギャップ部と、前記外周と、前記一対の第2面と、の間にそれぞれ形成される第2サイドギャップ部と、を有し、前記主面の面積を、S1とし、それぞれの前記第1サイドギャップ部の前記第2方向の寸法の合計を、WSGとし、それぞれの前記第2サイドギャップ部の前記第1方向の寸法の合計を、LSGとし、前記主面に垂直な方向から透視したときの、前記巻回部の内周の内側の面積をS3とし、前記外周と前記素体の外縁との間の面積をS4とし、SGを次の式(A)で求められる値であるとしたときに、次の式(B)で求められるKは、70以上、且つ、110以下である、インダクタ。
SG=WSG×LSG (A)
K=(S1/SG)×(S4/S3) (B)
構成1に記載のインダクタによれば、Isat/Rdcを高めることができる。このため、良好な特性を有するインダクタを提供することができる。
【0075】
(構成2)前記第2面には、前記引出部を構成する前記導線の断面が露出し、前記断面は、前記第2面と面一である、構成1に記載のインダクタ。
構成2に記載のインダクタによれば、第2サイドギャップ部の第1方向の寸法を調整し易くなり、Kを70以上、且つ、110以下に調整し易くなる。このため、良好な特性を有するインダクタを提供し易くすることができる。
【0076】
(構成3)前記引出部を構成する前記導線の表面は、前記主面から露出している、構成1または2に記載のインダクタ。
構成3に記載のインダクタによれば、第2サイドギャップ部の第1方向の寸法の自由度が大きくなり、Kを70以上、且つ、110以下に調整し易くなる。このため、良好な特性を有するインダクタを提供し易くすることができる。
【符号の説明】
【0077】
1…インダクタ、2…素体、2a…外縁、4…外部電極(外部端子)、10…底面(主面)、12…上面(主面)、14…端面(第2面)、16…側面(第1面)、20…コイル導体(コイル)、22…巻回部、22c…外周、22d…内周、23…引出部、30…コア、30a…第1サイドギャップ部、30b…第1サイドギャップ部、30c…第2サイドギャップ部、30d…第2サイドギャップ部、102…素体、123…引出部、123a…断面、202…素体、223…引出部、223a…表面、Q…巻軸。