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特開2024-14002抗微生物性材料及びその製造方法、抗微生物性鏡
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014002
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】抗微生物性材料及びその製造方法、抗微生物性鏡
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20240125BHJP
   A47G 1/00 20060101ALI20240125BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20240125BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240125BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240125BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B32B9/00 A
A47G1/00 A
G02B5/08 A
G02B5/08 C
B32B7/023
B32B27/32 Z
B32B27/36
B32B27/36 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116524
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 幸治
(72)【発明者】
【氏名】福本 晴彦
【テーマコード(参考)】
2H042
3B111
4F100
【Fターム(参考)】
2H042DA07
2H042DA11
2H042DA14
2H042DC02
2H042DE08
3B111AA01
3B111AC03
4F100AB17A
4F100AB21A
4F100AB31A
4F100AK07B
4F100AK42B
4F100AK45B
4F100EH662
4F100EH66A
4F100GB71
4F100JC00A
4F100JN06
(57)【要約】
【課題】例えば樹脂鏡等に適した、軽量で、高い鏡面光沢を有する抗微生物性材料を提供する。
【解決手段】樹脂基材と、前記樹脂基材上に配置され、銅と錫の合計100原子%に対して、40~90原子%の銅と、10~60原子%の錫とを含む銅-錫合金層とを含み、前記銅-錫合金層の厚みは、80~300nmである、抗微生物性材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と、
前記樹脂基材上に配置され、銅と錫の合計100原子%に対して、40~90原子%の銅と、10~60原子%の錫とを含む銅-錫合金層と
を含み、
前記銅-錫合金層の厚みは、80~300nmである、
抗微生物性材料。
【請求項2】
全光線透過率が、70%以下である、
請求項1に記載の抗微生物性材料。
【請求項3】
前記樹脂基材の前記銅-錫合金層側の面の算術平均高さSaが、10~25nmである、
請求項1又は2に記載の抗微生物性材料。
【請求項4】
前記銅-錫合金層の算術平均高さSaが、10~25nmである、
請求項3に記載の抗微生物性材料。
【請求項5】
前記銅-錫合金層の全光線反射率が、60%以上である、
請求項4に記載の抗微生物性材料。
【請求項6】
前記樹脂基材の厚みが、0.3~3.0mmである、
請求項4に記載の抗微生物性材料。
【請求項7】
前記樹脂基材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート及びポリプロピレンからなる群より選ばれる樹脂を含む、
請求項4に記載の抗微生物性材料。
【請求項8】
前記銅-錫合金層の、CIE1976(L、a、b)色空間で評価されるb値が、-3.0~-0.90である、
請求項4に記載の抗微生物性材料。
【請求項9】
前記銅-錫合金層の、JIS Z 8741:1997で規定される60度鏡面光沢Gs(60°)が、250~380である、
請求項4に記載の抗微生物性材料。
【請求項10】
請求項1に記載の抗微生物性材料の製造方法であって、
算術平均高さSaが10~25nmである表面を有する樹脂基材を準備する工程と、
前記樹脂基材の前記表面上に、蒸着法により前記銅-錫合金層を形成する工程と
を含む、
抗微生物性材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1、2又は4に記載の抗微生物性材料を含む、
抗微生物性鏡。
【請求項12】
前記銅-錫合金層が、最表面に配置されている、
請求項11に記載の抗微生物性鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物性材料及びその製造方法、抗微生物性鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
コンパクト容器として、ファンデーションや化粧用パウダーとパフ等とをまとめて携帯する化粧用のコンパクトケースが知られている。このようなコンパクトケースでは、開閉可能な蓋体の裏面に、板ガラスを基材とする鏡が取り付けられている。
【0003】
しかしながら、板ガラスを基材とする鏡は重く、ケースを落としたときに割れやすい。そのため、板ガラスを基材とする鏡に代えて、樹脂板を基材とする鏡(樹脂鏡)の使用が検討されている。例えば特許文献1では、透明な樹脂基材と、その裏面に配置された反射金属層とを有する樹脂鏡が開示されている。そして、透明な樹脂基材を介して入射した光を反射金属層で反射させることによって、物体を映し出せるようになっている。このような樹脂鏡は、板ガラスを基材とする鏡よりも軽量で割れにくいという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-287745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、樹脂鏡は、上記のようなコンパクトケースに限らず、浴室鏡等にも広く用いられている。そのため、樹脂鏡は、表面を清潔に保ち、良好な視認性を維持する観点から、抗微生物性を有することが望まれる。しかしながら、従来の樹脂鏡は、表面に樹脂コーティングが施される程度であり、十分な抗微生物性を有するものではなかった。
【0006】
本発明者らは、これまでの検討において、銅-錫合金層が高い抗微生物性を示すことを見出した。そこで、銅-錫合金層を樹脂基材上の最表面に配置し、抗微生物性を有する反射層として機能させることを検討した。しかしながら、樹脂基材上に形成された銅-錫合金層は曇りやすく、高い鏡面光沢を有するものではなかった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、例えば樹脂鏡等に適した、軽量で、高い鏡面光沢を有する抗微生物性材料及びその製造方法、並びに抗微生物性鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の抗微生物性材料は、樹脂基材と、前記樹脂基材上に配置され、銅と錫の合計100原子%に対して、40~90原子%の銅と、10~60原子%の錫とを含む銅-錫合金層とを含み、前記銅-錫合金層の厚みは、80~300nmである。
【0009】
本発明の抗微生物性材料の製造方法は、上記抗微生物性材料の製造方法であって、算術平均高さSaが10~25nmである表面を有する樹脂基材を準備する工程と、前記樹脂基材の前記表面上に、蒸着法により前記銅-錫合金層を形成する工程とを含む。
【0010】
本発明の抗微生物性鏡は、上記抗微生物性材料を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば樹脂鏡等に適した、軽量で、高い鏡面光沢を有する抗微生物性材料及びその製造方法、並びに抗微生物性鏡を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.抗微生物性材料
本発明の抗微生物性材料は、樹脂基材と、銅-錫合金層とを含む。
【0013】
1-1.樹脂基材
樹脂基材を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。中でも、加工性に優れ、表面の算術平均高さSaが小さい基材を得やすい観点では、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0014】
熱可塑性樹脂の例には、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド及び(メタ)アクリル樹脂等が含まれる。ポリエステルの例には、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸が含まれる。ポリオレフィンは、α-オレフィンの単独重合体であっても、α-オレフィンと他の共重合モノマーとの共重合体であってもよい。α-オレフィンは、エチレンやプロピレン等でありうる。このようなポリオレフィン樹脂の例には、ポリエチレンやポリプロピレンが含まれる。ポリアミドの例には、ナイロン6やナイロン66が含まれる。(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アルキルアクリレートの単独重合体又はそれと他の共重合モノマーとの共重合体であり、その例には、ポリメチルメタクリレート等が含まれる。中でも、樹脂基材の表面の算術平均高さSaを小さくし、銅-錫合金層の鏡面光沢を得やすくする観点では、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネートが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びポリカーボネートがより好ましい。
【0015】
樹脂のASTM-D648-56に準拠して荷重1820kPaにて測定される荷重たわみ温度は、例えば140℃以下であることが好ましい。荷重たわみ温度が140℃以下である樹脂は、加工性が良好である。
【0016】
荷重たわみ温度は、ASTM-D648-56に準拠した方法で測定される。具体的には、荷重たわみ温度は、試験片をフラットワイズ用の装置にセットし、昇温速度2℃/分で昇温したときに、荷重1820kPaで曲げ歪が0.2%になるときの温度として測定することができる。試験片の大きさは、縦80mm、横10mm、厚み4mmとし、支点間距離は64mmとしうる。
【0017】
樹脂基材の、銅-錫合金層が配置される側の表面の凹凸の大きさは、鏡面光沢を有する銅-錫合金層を形成する観点では小さいことが好ましい。具体的には、樹脂基材の、銅-錫合金層が配置される側の表面の算術平均高さSaは、410nm以下であることが好ましい。樹脂基材の表面のSaが410nm以下であると、得られる銅-錫合金層のSaを一層小さくしうるため、鏡面光沢が一層得られやすい。同様の観点から、樹脂基材の上記算術平均高さSaは、5~100nmであることがより好ましく、10~30nmであることがさらに好ましく、10~25nmであることが特に好ましい。特に、樹脂基材のSaが10nm以上であると、アンカー効果により銅-錫合金層との密着性をより高めやすい。
【0018】
樹脂基材の算術平均高さSaは、ISO25178に規定された方法に従って測定することができる。
具体的には、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、樹脂基材の銅-錫合金層が配置される側の表面形状を測定し、形状解析を行う。表面形状の測定は、任意の3箇所、1箇所あたりの測定面積0.5mm×0.5mmについて、以下の条件で測定し、各箇所の形状解析から、算術平均高さSaをそれぞれ求め、それらの平均値として求めることができる。
測定装置:LEXTOLS4000(OLYMPUS社製)
条件(測定):対物レンズ/×50、測定モード/高精度、補正/傾き補正・ノイズ除去
条件(スナップショット):対物レンズ/×5、測定モード/スナップショット
【0019】
また、樹脂基材の表面粗さRzは、鏡面光沢を一層得やすくする観点では、10.5μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましく、0.405μm以下であることがより好ましい。表面粗さRzは、上記と同様の方法で、共焦点レーザー顕微鏡により測定することができる。
【0020】
樹脂基材の形状は、特に制限されないが、フィルム状又は板状であることが好ましい。また、銅-錫合金層の密着性を高める観点から、樹脂基材の表面は、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0021】
樹脂基材の厚みは、抗微生物性材料の用途にもよるが、例えば0.3~3mmであることが好ましい。樹脂基材の厚みが0.3mm以上であると、十分な機械的強度が得られやすいため、例えば樹脂鏡に適している。樹脂基材の厚みが3mm以下であると、例えばコンパクトケースに取り付けた際に重量が重くなりにくい。同様の観点から、樹脂基材の厚みは、0.35~2mmであることがより好ましい。
【0022】
1-2.銅-錫合金層
銅-錫合金層は、樹脂基材上に配置され、抗微生物性を発現する。そのため、銅-錫合金層は、抗微生物性材料の最表面に配置されていることが好ましい。
【0023】
銅-錫合金層が高い抗微生物性を示すメカニズムは、以下の通りである。即ち、銅-錫合金層は、水蒸気中または微生物中の過酸化水素(H)を分解して、ヒドロキシラジカル(・OH)を生成する触媒反応(Cu→Cu2+)を生じる。そして、生成したヒドロキシラジカル(・OH)が微生物を攻撃することで、抗微生物性を発現しうる。
【0024】
銅-錫合金層の厚みは、80~300nmである。銅-錫合金層の厚みが80nm以上であると、所定の抗微生物性が得られるだけでなく、曇りが少なく、高い鏡面光沢が得られやすい。銅-錫合金層の厚みが300nm以下であると、銅-錫合金層の表面が粗くなりにくい。そのため、乱反射をより抑制しやすく、乱反射による反射率の低下を抑制しやすい。同様の観点から、銅-錫合金層の厚みは、100~200nmであることがより好ましい。
【0025】
銅-錫合金層の厚みは、透過型電子顕微鏡による断面観察により測定することができる。具体的には、断面観察において、1箇所当たりの測定領域100μm×100μm、任意の5箇所の銅-錫合金層の厚みを測定し、それらの平均値として測定することができる。
【0026】
銅-錫合金層の鏡面光沢をより高める観点では、銅-錫合金層の算術平均高さSaは小さいことが好ましい。具体的には、銅-錫合金層の算術平均高さSaは、240nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、10~35nmであることがさらに好ましく、10~25nmであることが特に好ましい。
【0027】
銅-錫合金層の算術平均高さSaは、主に、樹脂基材の表面の算術平均高さSaや銅-錫合金層の厚みによって調整することができる。例えば、樹脂基材の表面の算術平均高さSaを小さくし、銅-錫合金層の厚みを大きくすると、銅-錫合金層の算術平均高さSaは小さくなりやすい。
【0028】
銅-錫合金層は、銅と錫の合計100原子%に対して、銅を40~90原子%含み、かつ錫を10~60原子%含むことが好ましく;銅を50~85原子%含み、錫を15~50原子%含むことがより好ましい。銅の含有割合が高いほど、抗微生物性能が向上しやすく、錫の含有割合が高いほど、水や塩水、体液等との接触による腐食や変色などの外観変化を生じにくい。銅と錫の合計量は、銅-錫合金層に対して75原子%以上であることが好ましく、100原子%であってもよい。
【0029】
銅-錫合金層の平均組成は、走査型電子顕微鏡等で可能なエネルギー分散形X線分光法(EDS)により確認することができる。
【0030】
銅-錫合金層には、前述の銅及び錫の含有量を満たす限りにおいて、他の元素がさらに含まれていてもよい。例えば、銅-錫合金層には、溶融状態での蒸気圧が銅に近いアルミニウム、ゲルマニウム、ベリリウム、ニッケル、シリコン等が含有されていてもよい。また、耐食性を損なわない範囲で亜鉛、銀、ニッケル等の抗微生物性を有する他の金属が含有されていてもよい。
【0031】
1-3.他の層
本発明の抗微生物性材料は、必要に応じて他の層をさらに含んでもよい。例えば、抗微生物性材料は、アンカーコート層や粘着層などをさらに含んでいてもよい。
【0032】
(アンカーコート層)
アンカーコート層は、樹脂基材と銅-錫合金層との間に配置され、銅-錫合金層の密着性を高めうる。
【0033】
アンカーコート層を構成する材料は、各種樹脂を用いることができる。樹脂としては、例えば、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、水性ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール系重合体及びその誘導体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、酸化でんぷん、エーテル化でんぷん、デキストリン等のでんぷん類、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸又はそのエステル、塩類及びそれらの共重合体、水性ポリエステル樹脂、ポリヒドロキシエチルメタクリレート及びその共重合体等のビニル系重合体、これらの各種重合体が、カルボキシル基等の官能基含有化合物で変性された重合体が挙げられる。中でも、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂とポリビニルアルコール系重合体との混合物、又は水性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0034】
上記樹脂は、硬化剤で硬化されていることが好ましい。硬化剤は、樹脂と反応性を有する化合物であればよく、例えば2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水分散性(又は水溶性)カルボジイミド、水溶性エポキシ化合物、水分散性(又は水溶性)オキサゾリドン化合物、水溶性アジリジン系化合物、水分散性ポリイソシアネート系硬化剤が含まれる。
【0035】
アンカーコート層の厚みは、特に限定されないが、例えば0.01~10μm、好ましくは0.05~5μmでありうる。アンカーコート層の厚みが下限値以上であると、銅-錫合金層の密着性を高めやすく、上限値以下であれば、アンカーコート層の柔軟性(可撓性)が損なわれにくく、アンカーコート層に亀裂等が入りにくい。
【0036】
(粘着層)
粘着層は、樹脂基材の銅-錫合金層が配置された面とは反対側に配置されうる。粘着層を構成する粘着剤の種類は特に限定されず、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、その他の粘着剤のいずれでもよい。
【0037】
1-4.物性
抗微生物性材料における銅-錫合金層の全光線透過率(T)は、70%以下であることが好ましい。銅-錫合金層の全光線透過率が70%以下であると、鏡面光沢度が一層高まりやすい。同様の観点から、全光線透過率は、55%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、10%以であることが特に好ましい。
【0038】
銅-錫合金層の全光線透過率(T)は、JIS K 7375:2008に準じて、積分球方式のヘーズメータにて測定される。具体的には、東京電色製全自動ヘーズメータTC-HIIIDPKにて測定することができる。光源はハロゲンランプ、受光素子はシリコンフォトセルを用い、試料の照射面積は10mmφとしうる。なお、測定では、銅-錫合金層側を入射面とする。
【0039】
銅-錫合金層の全光線透過率(T)は、主に、樹脂基材の算術平均高さSaや銅-錫合金層の厚みによって調整することができる。例えば、樹脂基材の表面の算術平均高さSaは小さく、銅-錫合金層の厚みは大きいほど、全光線透過率は低くなりやすい。
【0040】
銅-錫合金層の全光線反射率は、60%以上であることが好ましい。銅-錫合金層の全光線反射率が60%以上であると、鏡面光沢度が一層高まりやすい。同様の観点から、銅-錫合金層の全光線反射率は、75%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
銅-錫合金層の全光線反射率は、上記と同様に、JIS K 7375:2008に準じて、積分球方式のヘーズメータにより測定することができる。
測定は、プラスチックの透過光を、試験片端部からの散逸を可能な限り少なくした状態で、反射光の鏡面反射光を捕捉することによって行う。散逸とは、エッジロスと称されるものであり;試験片が厚く、ヘーズ値が大きいほど、試験片内部での光の拡散が増大し、エッジロスは大きくなる。
測定条件は、以下の通りとする。
試験片に入射する光束は、平行光線で光軸に対して3°以上傾く光線が含まれないようにする。光束の中心は、開口部の中心と一致させる。光束の断面は円形であって、鮮明なものを使用する。また、開口部の直径は、試験片直径の0.5~0.6倍とする。
但し、不透明の試料の全光線反射率を求める場合はこの限りでない。
【0042】
また、銅-錫合金層の全光線反射率は、上記と同様に、樹脂基材の表面の算術平均高さSaや銅-錫合金層の厚みによって調整することができる。例えば、樹脂基材の算術平均高さSaを小さくし、銅-錫合金層の厚みを大きくすると、全光線反射率はいずれも高くなりやすい。
【0043】
銅-錫合金層のCIE1976(L、a、b)色空間で評価されるb値は、例えば-3.0~-0.90であることが好ましく、-2.0~-1.0であることがより好ましく、-1.5~-1.0であることがさらに好ましい。銅-錫合金層のbが上記範囲であると、色味のバランスがよく、鏡として特に好適である。b値は、銅-錫合金層の厚みによって調整されうる。例えば、銅-錫合金層の厚みが大きくなると、b値は大きくなりやすい。
【0044】
銅-錫合金層のJIS Z 8741:1997で規定される60度鏡面光沢Gs(60°)は、250~380であることが好ましく、280~360であることがより好ましく、320~350であることがさらに好ましい。60度鏡面光沢Gs(60°)が上記範囲であると、鏡面光沢度が高いため、鏡として好適である。
銅-錫合金層の60度鏡面光沢Gsは、上記と同様に、樹脂基材の表面の算術平均高さSaや銅-錫合金層の厚みによって調整することができる。例えば、樹脂基材の表面の算術平均高さSaを小さくし、銅-錫合金層の厚みを大きくすると、銅-錫合金層の60度鏡面光沢Gsは高くなりやすい。
【0045】
1-5.作用
上記抗微生物性材料は、樹脂基材と、所定以上の厚みを有する銅-錫合金層とを有する。所定以上の厚みを有する銅-錫合金層は、良好な抗微生物性を有するだけでなく、高い鏡面光沢を有する。また、樹脂基材は、軽量であり、落としても割れにくい。従って、上記抗微生物性材料は、各種鏡、特に化粧用のコンパクトケースや手鏡等、携帯して使用される鏡に好適である。
【0046】
2.抗微生物性材料の製造方法
上記抗微生物性材料は、樹脂基材の一方の面に、薄膜形成プロセスにより銅-錫合金層を形成する工程を経て製造することができる。薄膜形成プロセスは、特に限定されず、蒸着法やスパッタリング法が含まれる。中でも、銅層と錫層の合金化させるためのアニール処理が不要である等の観点から、蒸着法(真空蒸着法)が好ましい。
【0047】
即ち、上記抗微生物性材料は、1)樹脂基材を準備する工程と、2)当該樹脂基材上に、蒸着法により銅-錫合金層を形成する工程とを経て製造されうる。
【0048】
1)の工程について
樹脂基材は、上記樹脂基材であり、好ましくは算術平均高さSaが10~20nmである表面を有する樹脂基材である。そのような樹脂基材は、例えば製造条件(成形条件)の調整や表面処理を行うことにより得てもよいし、市販品を用いてもよい。
【0049】
また、樹脂基材の表面は、銅-錫合金層との密着性を高める観点から、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理が施されることが好ましい。
【0050】
2)の工程について
次いで、樹脂基材上に、蒸着法により銅-錫合金層を形成する。具体的には、蒸着源から気化させた金属蒸気を樹脂基材に接触させて、樹脂基材の表面に銅-錫合金層を形成する。
【0051】
蒸着源は、所望の銅-錫合金層が得られるように調整されたものであればよく、銅と錫の合計100原子%に対して、銅を40~90原子%含有し、かつ錫を10~60原子%含有することが好ましい。蒸着源が上記組成を有していれば、蒸着源の組成とのずれが少ない銅-錫合金層が得られやすい。銅と錫の合計量は、上記と同様、蒸着源を構成する全原子に対して75原子%以上であることが好ましく、100原子%であってもよい。蒸着源は、上記の通り、所望の組成の銅-錫合金層が得られる範囲において、他金属元素をさらに含んでもよい。
【0052】
蒸着源を気化させる方法は、蒸着による成膜が可能な方法であればよく、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱のいずれであってもよく、銅-錫合金層を良好に形成しやすい観点から、電子ビーム加熱が好ましい。
【0053】
成膜速度は、成膜厚みの調整が可能な範囲に設定されればよく、例えばバッチ式の製膜装置であれば、0.1~100nm/秒であることが好ましい。成膜時間は、成膜速度や成膜厚み(銅-錫合金層の厚み)に応じて設定できる。銅-錫合金層の厚みは、触針式粗さ計(例えばBRUKER社製Dektak XT)により、測定領域0.1mm(n数=3)として測定することができる。
【0054】
3.抗微生物性材料の用途
上記抗微生物性材料は、上記の通り、高い鏡面光沢と抗微生物性とを有する。そのため、上記抗微生物性材料は、各種鏡、例えば浴室鏡やシャンプードレッサー鏡、手鏡、化粧用のコンパクトケース等の樹脂鏡(抗微生物性鏡)として使用することができる。中でも、上記抗微生物性鏡は、樹脂基材を用いるため軽量で、落としても割れにくい。そのため、特に化粧用のコンパクトケースや手鏡等の、携帯して使用される樹脂鏡として好ましく使用することができる。
【0055】
例えば、化粧用のコンパクトケースは、樹脂製のケースであって、ファンデーションやパフ等を収容するケース本体と、ケース本体に開閉自在に取り付けられた蓋体と、蓋体の裏面に取り付けられた樹脂鏡とを含む。樹脂鏡は、上記抗微生物性鏡である。
【0056】
上記抗微生物性鏡では、銅-錫合金層は、反射層として機能する。また、銅-錫合金層は、上記抗微生物性鏡の最表面に配置され、表面が外部に露出している。従って、銅-錫合金層の抗微生物性により、ケース内を清潔に保つことができる。
【実施例0057】
以下、実施例及び比較例を参照してさらに本発明を説明する。本発明の技術的範囲は、これらによって限定されるものではない。
【0058】
1.試験1
<サンプル1の作製>
樹脂基材として、厚み0.35mmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、算術平均高さSa:17nm、荷重たわみ温度(荷重1820kPa時)21~38℃)を準備した。この樹脂基材の表面をコロナ処理した後、蒸着装置の蒸発源から400mm上方に、当該コロナ処理面が蒸着源と対向するようにセットした。
【0059】
また、大きさ1~2mmの粒状の純銅(純度99.9%)を60.0gと、大きさ1~2mmの粒状の純錫(純度99.9%)を40.0gとを、合計で100g秤量し、これらを金属容器内に入れてよく混合して、銅74原子%、錫26原子%(銅60重量%、錫40重量%)の蒸発源とした。この蒸発源を、蒸着装置のルツボに入れて、真空度(圧力)10-3Pa以下となるまで真空排気した。次いで、蒸発源が大きく飛散しないようにゆっくりと電子ビームでルツボと蒸発源を加熱し、ルツボ中の蒸発源を完全に融解させて合金蒸発源とした。この合金蒸発源を一旦真空中で放冷した後、再度電子ビームにより加熱し、蒸発源から約400mm上方に設置された樹脂基材上に、厚み28nmの銅-錫合金層を形成し、抗微生物性材料のサンプルを作製した。銅-錫合金層の厚みは、成膜速度と成膜時間により調整した。成膜速度は50nm/秒とした。
【0060】
得られた銅-錫合金層の平均組成を、走査型電子顕微鏡等で可能なエネルギー分散形X線分光法(EDS)で分析したところ、銅74原子%、錫26原子%であった。
【0061】
<サンプル2~6の作製>
成膜速度と成膜時間を調整して、銅-錫合金層の厚みを表1に示されるように変更した以外はサンプル1と同様にしてサンプル2~6を作製した。なお、成膜速度は、電子ビームの電流値に依存して0.1~20nm/秒の範囲で調整した。
【0062】
<評価>
作製したサンプル1~6の銅-錫合金層の厚み、全光線透過率、全光線反射率、60度鏡面光沢及びb値を、以下の方法で測定した。
【0063】
(1)銅-錫合金層の厚み
まず、蒸着装置の基板ホルダに、基材フィルムとその近傍にマスクを施したシリコンウェハを設置し、基材フィルムとシリコンウェハ上に同時に蒸着した。蒸着したシリコンウェハよりマスクを取り除き、シリコンウェハ上の未蒸着部と蒸着部の段差をBRUKER社製触針式薄膜段差計Dektak XTにより測定し、銅-錫合金層の厚みとした。
【0064】
(2)全光線透過率(T)、全光線反射率
JIS K 7375:2008に準じた積分球方式を採用した東京電色社製全自動ヘイズメータTC-HIIIDPKを用いて、サンプルの全光線透過率(T)及び全光線反射率を測定した。光源はハロゲンランプ、受光素子はシリコンフォトセルを用い、試料の照射面積は、10mmφとした。測定の際、銅-錫合金層側を入射面とした。
【0065】
(3)60度鏡面光沢Gs(60°)
得られたサンプルの銅-錫合金層の60度鏡面光沢Gs(60°)を、JIS Z 8741:1997に準拠して、村上色彩社製、鏡面光沢計60D/GM-26 Proを用いて測定した。
【0066】
(4)b
得られたサンプルの銅-錫合金層の、CIE1976(L、a、b)色空間におけるb値を、コニカミノルタ社製CM-3700Aを用いて測定した。
【0067】
(5)抗菌性試験
得られたサンプルについてJIS Z 2801を参考にして、大腸菌(Echerichia coli;NBRC3972)による抗菌試験を実施した。無加工品の24時間培養後菌数(B)を、抗菌加工品の24時間培養後菌数(C)で除した数の対数値を、抗菌活性値とした。
【0068】
サンプル1~6の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0069】
表1に示されるように、銅-錫合金層の厚みを80nm以上としたサンプル3~6は、曇りが少なく、高い鏡面光沢が得られた。また、全光線反射率も60%以上と高かった。
【0070】
これに対し、銅-錫合金層の厚みが80nmよりも小さいサンプル1及び2は、曇りが生じ、鏡面光沢が得られなかった。また、全光線反射率も60%よりも低かった。
【0071】
また、JIS Z 2801の抗菌試験において、全サンプルで抗菌活性>2となり、良好な抗微生物性を示すことが確認された。
【0072】
3.試験2
<基材の準備>
・ガラス板(厚み2mm)
・PET板(ポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み2mm)
・PP板(ポリプロピレンフィルム、厚み2mm)
・PC板(ポリカーボネートフィルム、厚み2mm)
・アクリル板(PMMAフィルム、厚み2mm)
・OPPフィルム(二軸延伸ポリプロピレンフィルム、厚み0.03mm)
・低AGフィルム(ダイセル社製、PETフィルム/AG層の積層物、厚み0.125mm)
・ペン入力フィルム(ダイセル社製、PETフィルム/高凹凸AG層の積層物、厚み0.125mm)
・PLAフィルム(ポリ乳酸フィルム、厚み0.05mm)
【0073】
<サンプル7の作製>
基材として、厚み2mmのガラス板を準備した。このガラス板の表面をコロナ処理した後、蒸着装置の蒸発源から400mm上方に、当該ガラス板のコロナ処理面が蒸着源に対向するようにセットした。
【0074】
また、大きさ1~2mmの粒状の純銅(純度99.9%)を60.0gと、大きさ1~2mmの粒状の純錫(純度99.9%)を40.0gとを、合計で100g秤量し、これらを金属容器内に入れてよく混合して、銅74原子%、錫26原子%(銅60重量%、錫40重量%)の蒸発源とした。この蒸発源を、蒸着装置のルツボに入れて、真空度(圧力)10-3Pa以下となるまで真空排気した。次いで、蒸発源が大きく飛散しないようにゆっくりと電子ビームでルツボと蒸発源を加熱し、ルツボ中の蒸発源を完全に融解させて合金蒸発源とした。この合金蒸発源を一旦真空中で放冷した後、再度電子ビームにより加熱し、蒸発源から約400mm上方に設置された樹脂基材上に、厚み150nmの銅-錫合金層を形成し、抗微生物性材料のサンプルを作製した。成膜速度は50nm/秒とした。
【0075】
得られた銅-錫合金層の平均組成を、走査型電子顕微鏡等で可能なエネルギー分散形X線分光法(EDS)で分析したところ、銅74原子%、錫26原子%であった。
【0076】
<サンプル8~15の作製>
基材の種類を表2に示されるように変更した以外はサンプル7と同様にしてサンプル8~15を作製した。
【0077】
<評価>
上記基材及び作製したサンプルの表面物性、全光線透過率及び表面状態を、以下の方法で測定した。
【0078】
(1)表面物性
基材に銅-錫合金層を形成する前と後の表面物性(Sq、Sa、Sz、Sp、Sv、Rz)を、それぞれ共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定した。
なお、Saは算術平均高さ、Sqは二乗平均平方根高さ、Spは最大山高さ、Svは最大谷深さ、Szは最大高さ、Svkは突出谷部高さ、Rzは十点平均粗さを示す。
【0079】
(2)全光線透過率
得られたサンプルの全光線透過率を、上記と同様の方法で測定した。
【0080】
(3)表面状態
得られたサンプルの銅-錫合金層の表面状態を目視により観察した。
○:曇りがなく、高い鏡面光沢が得られる
△:やや曇りがあるが、概ね鏡面光沢が得られる
×:曇りが多く、鏡面光沢が得られない
【0081】
サンプル7~15の評価結果を表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
表2に示される通り、PP板やPET板、PC板を用いたサンプル9~11は、アクリル板や各種フィルムを用いたサンプル8、12~15よりも全光線透過率が低く、鏡面が得られやすいことがわかる。
【0084】
また、サンプル7~15の他の表面物性の測定結果を表3、4に示す。表3は、蒸着前の表面物性、表4は蒸着後の表面物性を示す。
【表3】
【表4】
【0085】
表3、4に示される通り、基材表面の最大高さSzや十点平均粗さRzは、算術平均高さSaと概ね同様の傾向を示すことが確認された。