(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140048
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】Akkermansia属細菌の増殖促進用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/19 20060101AFI20241003BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20241003BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241003BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241003BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241003BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241003BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241003BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241003BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241003BHJP
A61K 35/741 20150101ALN20241003BHJP
A23C 9/12 20060101ALN20241003BHJP
A23L 21/10 20160101ALN20241003BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A61K31/19
A61P3/04
A61P1/16
A61P35/00
A61P3/10
A61P29/00
A61P1/04
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K39/395 N
A23L33/10
A61K35/741
A23C9/12
A23L21/10
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051034
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】311002148
【氏名又は名称】明治ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】川鍋 啓誠
(72)【発明者】
【氏名】中村 真梨枝
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4B041
4B117
4C084
4C085
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4B001AC99
4B001EC05
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD08
4B018ME01
4B018ME03
4B018ME08
4B018ME11
4B041LC10
4B041LD02
4B041LK05
4B117LC04
4B117LK06
4B117LL09
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA14
4C085EE03
4C087AA01
4C087BC31
4C087MA02
4C087MA52
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA68
4C087ZA70
4C087ZA75
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZC35
4C087ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA02
4C206DA07
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA68
4C206ZA70
4C206ZA75
4C206ZB11
4C206ZB26
4C206ZC35
(57)【要約】
【課題】Akkermansia属細菌の増殖を促進することが可能な組成物を提供する。
【解決手段】β-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩を有効成分として含有するAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物により、前記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩を有効成分として含有する、Akkermansia属細菌の増殖促進用組成物。
【請求項2】
前記Akkermansia属細菌の増殖促進が、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率向上である、請求項1に記載のAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有する、肥満予防または改善用、非アルコール性脂肪肝予防または治療用、および、肝臓癌予防または治療用からなる群から選ばれる1以上の用途の組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有する、糖尿病予防または治療用組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載のAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有する、炎症性疾患予防または治療用組成物。
【請求項6】
前記炎症性疾患が炎症性腸疾患である、請求項5に記載の炎症性疾患予防または治療用組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載のAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物と、免疫チェックポイント阻害剤と、を有効成分として含有する、癌予防または治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Akkermansia属細菌の増殖促進用組成物、およびこの組成物を有効成分として含む医薬組成物、食品組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌叢は、ヒトなどの腸内(小腸および大腸)に生息している多種多様な細菌の集団を意味し、腸内フローラなどとも呼ばれている。そして、この腸内細菌叢と疾病等とが密接に関連していることや、腸内細菌叢を調整、改善することにより疾病等のリスクを低減できることが報告されている。
【0003】
この腸内細菌叢を構成している細菌には、宿主にとって有用な働きをする善玉菌と、宿主に悪影響を与える悪玉菌とが含まれるが、近年、善玉菌の1つであるAkkermansia属細菌の役割、作用が注目されている。
【0004】
Akkermansia属細菌は、腸内では腸粘液層に存在してムチンを分解、資化するという特徴を有し、非肥満型のヒトの腸内には多く存在するが肥満型のヒトの腸内では少ないことが知られている。さらに、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の量と、空腹時血糖値やウエスト周囲長などとが逆相関を示すという報告がある。また、男性の糖尿病発症リスクの高い人では腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の比率が低かったことや、肥満モデルマウスおよび2型糖尿病モデルマウスにおいて、通常マウスと比較して腸内のAkkermansia属細菌の存在量が少ないこと、Akkermansia属細菌の摂取によって腸管バリア機能が増強され、慢性炎症や全身疾患の発症と関係すると言われている血清中へのリポ多糖(LPS)の流入が減少することも報告されている(いずれも非特許文献1)。加えて、潰瘍性大腸炎ではAkkermansia属細菌などの腸内細菌が減少していることや(非特許文献2)、免疫チェックポイント阻害剤に無反応であった癌患者にAkkermansia属細菌を経口補給して免疫チェックポイント阻害剤の効能を取り戻したことなども報告されている(非特許文献3)。
【0005】
そして、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の存在量(存在比率)を増加させるための組成物として、これまでに、アスタキサンチン(特許文献1)、グネチンC及び/又はその配糖体(特許文献2)、イソキサントフモール及び/又はキサントフモール(特許文献3)などを有効成分として含む組成物が開示されている。さらに、アスタキサンチンを含む組成物は過敏性腸症候群の症状改善や肥満改善予防に使用できることも開示され(特許文献1)、グネチンC及び/又はその配糖体を含む組成物は非アルコール性脂肪肝、及び/又は肝臓癌の予防剤及び/又は改善剤や、免疫チェックポイント阻害薬の効果向上剤、炎症性腸疾患治療剤などとなることも開示され(特許文献2)、イソキサントフモール及び/又はキサントフモールを含む組成物は腸管バリア機能増強などに使用できることも開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-131527号公報
【特許文献2】特許第6917662号公報
【特許文献3】国際公開第2020/031957号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Proc.Natl.Acad.Sci.USA.2013,vol.110,no.22,9066-9071
【非特許文献2】World Journal of Gastroenterology,2017,vol.23,issue22,4548-4558
【非特許文献3】Science,vol.359,issue6371,91-97(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、腸内細菌叢の調整、改善やこれによる疾病などの予防治療等においては選択肢として多くの薬剤等があることが望ましく、当業界においては、Akkermansia属細菌の増殖を促進して腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率を向上させることが可能な新たな組成物の開発が求められている。
【0009】
そこで本発明は、Akkermansia属細菌の増殖を促進することが可能な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、β-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩がAkkermansia属細菌の増殖促進作用を有することを見出し、さらに検討を行って本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は次の<1>~<7>である。
<1>β-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩を有効成分として含有する、Akkermansia属細菌の増殖促進用組成物。
<2>前記Akkermansia属細菌の増殖促進が、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率向上である、<1>に記載のAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物。
<3><1>または<2>に記載のAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有する、肥満予防または改善用、非アルコール性脂肪肝予防または治療用、および、肝臓癌予防または治療用からなる群から選ばれる1以上の用途の組成物。
<4><1>または<2>に記載のAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有する、糖尿病予防または治療用組成物。
<5><1>または<2>に記載のAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有する、炎症性疾患予防または治療用組成物。
<6>前記炎症性疾患が炎症性腸疾患である、<5>に記載の炎症性疾患予防または治療用組成物。
<7><1>または<2>に記載のAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物と、免疫チェックポイント阻害剤と、を有効成分として含有する、癌予防または治療用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Akkermansia属細菌の増殖を促進することが可能な組成物を提供することができる。さらに、この組成物を有効成分として含有する肥満予防または改善用組成物、非アルコール性脂肪肝予防または治療用組成物、肝臓癌予防または治療用組成物、糖尿病予防または治療用組成物、炎症性疾患予防または治療用組成物、あるいは、この組成物と免疫チェックポイント阻害剤とを有効成分として含有する癌予防または治療用組成物を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例で行った、BALB/cマウス空腸内容物のAkkermansia属細菌占有率解析結果を示すグラフである。
【
図2】実施例で行った、BALB/cマウス回腸内容物のAkkermansia属細菌占有率解析結果を示すグラフである。
【
図3】実施例で行った、BALB/cマウス糞便のAkkermansia属細菌占有率解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について説明する。
本発明は、β-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩を有効成分として含有するAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物(以下においては「本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物」という場合もある)である。また、この組成物を有効成分として含有する肥満予防または改善用組成物、非アルコール性脂肪肝予防または治療用組成物、肝臓癌予防または治療用組成物、糖尿病予防または治療用組成物、炎症性疾患予防または治療用組成物、あるいは、この組成物と免疫チェックポイント阻害剤とを有効成分として含有する癌予防または治療用組成物である。
【0015】
まず、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物について詳細に説明する。本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物は、有効成分としてβ-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩を含有する。
【0016】
β-ヒドロキシ酪酸(beta-Hydroxybutyric acid(BHB):C4H8O3、CAS No.300-85-6)は、ケトン体と称される物質の1つであり、下記式(1)で表される化合物である。なお、β-ヒドロキシ酪酸には光学異性体(D体、L体)が存在するが、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物の有効成分としてはいずれの光学異性体であってもよく、これらの混合物(例えばDL体)であってもよい。また、上記したように、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物の有効成分としてβ-ヒドロキシ酪酸塩(β-ヒドロキシ酪酸ナトリウム塩など)を用いることもでき、この塩とβ-ヒドロキシ酪酸との混合物を用いてもよい。そして、このβ-ヒドロキシ酪酸およびその塩は、天然由来(例えば糖類等を原料として発酵法により製造されたものや、天然物から抽出されたものなど)であってもよく、あるいは合成品(化学的に合成されたもの)であってもよい。
【0017】
【0018】
本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物は、このようなβ-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩を有効成分として含有することにより、Akkermansia属細菌の増殖を促進させることができる。特に、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物をヒトなどの動物に投与または給与することにより、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌を選択的に増殖促進させ、その占有率を向上させることができる。そして、小腸ならびに大腸のいずれにおいても、その腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の選択的な増殖促進およびこの占有率の向上を生じさせることができる。つまり、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物は、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率向上用組成物(例えば経口投与または給与剤)として好適に用いることができる。
【0019】
この腸内細菌叢とは、腸内に生息している多種多様な細菌の集団を意味し、よって、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率向上とは、この集団を構成している全細菌数のうちAkkermansia属細菌の菌数の割合を向上させることである。特に、ヒトなどの哺乳動物の腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率向上用組成物とするとより好ましい。
なお、この腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率向上用組成物は、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率向上による腸内細菌叢調整または改善用組成物、腸内細菌叢における善玉菌増加(善玉菌占有率向上)用組成物などと言うこともできる。したがって、上記した用途またはその一部から選ばれる1以上が表示として付されたものとしてもよい。
【0020】
このAkkermansia属細菌は、偏性嫌気性/グラム陰性の細菌であり、腸内では腸粘液層に存在してムチンを分解、資化する細菌である。なお、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物は、分類学的にAkkermansia属に属する細菌であればいずれも増殖促進が可能である。
【0021】
本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物の有効成分量(含有量)は、その効果が発揮される有効な量であればよく、用法などを踏まえて適宜設定でき限定されるものではないが、例えば液状物である場合には、β-ヒドロキシ酪酸およびその塩の合計濃度として5mM以上とするのが好ましく、10mM以上とするのがより好ましく、15mM以上とするのがさらに好ましく、20mM以上とするのがさらに好ましく、50mM以上とするのがさらに好ましく、100mM以上とするのがさらに好ましい。上限は、例えば1000mM以下などであってよい。固形物である場合には、β-ヒドロキシ酪酸およびその塩の合計量として0.01質量%以上とするのが好ましく、0.05質量%以上とするのがより好ましく、0.1質量%以上とするのがさらに好ましく、0.5質量%以上とするのがさらに好ましく、1質量%以上とするのがさらに好ましい。上限は、例えば5質量%以下などであってよい。
また、その用量についても限定されるものではないが、例えばヒトの場合、1~1000mg/kg体重のβ-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩(合計量)が、ヒトに対して1日1回投与または給与されるように用いられるのが好ましい。
なお、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物におけるβ-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩の濃度等は、HPLC等の分析機器や一般分析用試薬キットなどを用いて定量することができる。
【0022】
本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物は、β-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩を有効成分として含有し、且つ本発明の効果に大きな影響を与えない限りにおいて、任意成分をさらに含むことができる。例えば、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物が食品組成物(飲料、ゼリー、発酵乳、サプリメントなど)である場合、公知の食品成分や食品添加物などを含んでいてよい。そして、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物は、所定の表示が付された特定保健用食品や機能性表示食品、その他の健康食品などとすることもできる。
【0023】
本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物が医薬組成物である場合でも、公知の製剤成分や製剤学的(医薬的)に許容される担体などを含んでいてよい。そして、液状、ペースト状、ゲル状、固形状、顆粒状など、任意の剤型とすることができる。具体的には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤等に製剤化することができる。これらの各種製剤は、例えば、常法に従って主剤に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、希釈剤、コーティング剤、溶剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて製剤化することができる。また、担体としては、水、生理食塩水、グリセロール、アルコール水溶液などが挙げられ、これらから選ばれる2以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物が前述のような食品組成物である場合でも、食品として用いることが可能な補助剤等を使用して上記と同様の製剤化を行ってもよい。
【0024】
以上のような実施形態である本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物は、Akkermansia属細菌の増殖を促進することが可能であり、さらに、小腸および大腸の腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌を選択的に増殖促進させてその占有率を向上させることもできる。加えて、その有効成分であるβ-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩は、構造が比較的単純で安価に合成または生産することができ、また保存安定性も高いため、コスト面なども含めて、医薬組成物や食品組成物などとして好適に用いることが可能である。
【0025】
そして、このような、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率を向上させることが可能な本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有させることにより、以下のような組成物を提供することもできる。なお、この「本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有させる(含有する)」とは、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物と他の成分等とを含有させる実施形態だけでなく、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物をそのまま以下のような組成物とする実施形態(本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物からなる実施形態)も包含される。
【0026】
まず、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率は前述したように肥満や非アルコール性脂肪肝、肝臓癌への影響が確認されているため、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有させることにより、肥満予防または改善用、非アルコール性脂肪肝予防または治療用、および、肝臓癌予防または治療用からなる群から選ばれる1以上の用途の組成物を提供することができる。
【0027】
また、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率はこれも前述したように糖尿病への影響も確認されているため、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有させることにより、糖尿病予防または治療用組成物を提供することができる。
【0028】
さらに、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率等はこれも前述したように慢性炎症や炎症性疾患への影響も確認されているため、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有させることにより、炎症性疾患予防または治療用組成物を提供することができる。特に、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率は潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群などの腸での炎症性疾患(炎症性腸疾患)に対する影響が多く確認されており、よって、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有する炎症性腸疾患予防または治療用組成物とするのがより好ましい。
ここで、過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)には、検査をしても腸に炎症や潰瘍が認められない症例も含める場合があるが、本発明における炎症性腸疾患の過敏性腸症候群とは、腸に炎症または潰瘍が認められる過敏性腸症候群である。
【0029】
なお、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率等はこれも前述したように腸管バリア機能(腸管上皮細胞外からの体内への異物侵入抑制機能)への影響も確認されているため、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有させることにより、腸管バリア機能増強用組成物を提供することもできる。
【0030】
さらには、腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率等はこれも前述したように免疫チェックポイント阻害剤の効果への影響も確認されているため、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物と、免疫チェックポイント阻害剤と、を有効成分として含有させることにより、免疫チェックポイント阻害剤の効能が十分に発揮される癌予防または治療用組成物を提供することができる。なお、この癌には、前述した肝臓癌以外の癌も包含される。
【0031】
この免疫チェックポイント阻害剤とは、免疫チェックポイント分子の機能を阻害する物質を意味する。この免疫チェックポイント分子は、自己に対する免疫応答や過剰な免疫反応を抑制する分子であり、例えば、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、LAG-3、TIM3、BTLA、B7H3、B7H4、2B4、CD160、A2aR、KIR、VISTA、TIGIT等が挙げられる。つまり、免疫チェックポイント阻害剤としては、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体などが挙げられる。そして、これらの抗体は、抗体の一部分を構成要素として含み且つ抗原への結合性を保持する分子であってもよい。
また、この癌予防または治療用組成物における免疫チェックポイント阻害剤の含有量は、その効果が発揮される有効な量であればよく、用量や症状などに応じて適宜設定でき特段限定はされない。さらに、この組成物は、免疫チェックポイント阻害剤が2種以上含まれる実施形態であっても構わない。
【0032】
なお、上記した各組成物についても、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含有する限り、前述した本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物と同様に、公知の製剤成分や製剤学的に許容される担体などを含んでいてよい。また、食品組成物である場合には、これも同様に、公知の食品成分や食品添加物などを含んでいてよい。そして、前述と同様に、所定の表示が付された特定保健用食品や機能性表示食品、その他の健康食品などとすることもできる。あるいは、上記した各組成物は、前述したように本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物からなるものとしても構わない。免疫チェックポイント阻害剤をさらに含む癌予防または治療用組成物についても、免疫チェックポイント阻害剤と本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物とからなるものとしても構わない。そして、これらの剤型等についても前述した本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物と同様であってよい。
さらに、上記した各組成物における、含有しているβ-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩の含有量やその用量などについても、前述した本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物と同様であってよい。
【0033】
本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物の製造方法は、有効成分としてβ-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩を含有させる工程を含む限り、他は限定されない。また、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として含む各組成物の製造方法も同様であり、有効成分として本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物、あるいはβ-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩を含有させる工程を含む限り、他は限定されない。
【0034】
そして、本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物、ならびにこれを有効成分として含む各組成物の具体的な実施形態としては、食品組成物の場合には、飲料(乳飲料、清涼飲料等)、ゼリー、発酵乳(ヨーグルト等)、サプリメントなどが例示される。一方で、医薬組成物の場合には、前述したような錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤等であってよい。
【0035】
本発明は、β-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩を有効成分として投与または給与することを特徴とするAkkermansia属細菌の増殖促進方法、さらには腸内細菌叢におけるAkkermansia属細菌の占有率向上方法を提供するものであるとも言える。また、本発明は、β-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩、あるいは本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物を有効成分として投与または給与することを特徴とする、肥満予防または改善、非アルコール性脂肪肝予防または治療、肝臓癌予防または治療、糖尿病予防または治療、および炎症性疾患予防または治療からなる群から選ばれる1以上の方法を提供するものであるとも言える。さらに、免疫チェックポイント阻害剤と、β-ヒドロキシ酪酸および/またはその塩、あるいは本発明に係るAkkermansia属細菌の増殖促進用組成物と、を有効成分として投与または給与することを特徴とする、癌予防または治療方法を提供するものであるとも言える。そして、これらは、前述したような実施形態であってもよい。ここで、この投与は経口投与であるのが好ましいが、非経口投与(例えば直腸投与など)であっても構わない。
【0036】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例0037】
1週間の馴化を行ったBALB/cマウス(雄、9-10週齢、ジャクソンラボラトリージャパン社製)18匹を2群に分け、試験群(n=9)には、β-ヒドロキシ酪酸ナトリウム塩(DL体:富士フイルム和光純薬社製)を300mMの濃度で含む水(300mM)を3-5週間自由飲水で投与した。陰性対照群(n=9)には、水(0mM)を同様に3-5週間自由飲水で投与した。なお、いずれも飼育形態は群飼い(4-5匹)とし、各ケージには飼料(CRF-1、オリエンタル酵母工業社製)を設置して自由摂取させた。
【0038】
飼育後、各群の個体から上部小腸内容物(空腸内容物)、下部小腸内容物(回腸内容物)、および糞便(糞便は各群それぞれ4匹分)を試料として採取し、各試料からQIAamp DNA Stool Mini kit(QIAGEN社製)を用いてDNAを抽出した。そして、抽出したDNAを鋳型DNAとして、細菌群の16SrRNA遺伝子(16SrDNA)を標的としたPCRを行い、得られたPCR増幅産物を次世代シーケンサー(Miseq Reagent Kit v3、Illumina社製)に供し、菌叢解析ソフト(Qiime2)によって腸内細菌叢解析を行った。
【0039】
この結果を
図1(空腸)、
図2(回腸)、および
図3(糞便)に示した。これらの結果から、空腸、回腸、糞便のいずれも、試験群は腸内細菌叢のうちAkkermansia属細菌の占有率が陰性対照群と比較して有意(P<0.05)に増加していることが明らかとなった。特に、空腸および回腸ではこれが顕著であった(P<0.01)。よって、ケトン体の1つであるβ-ヒドロキシ酪酸またはその塩には、腸内細菌叢における善玉菌の1つであるAkkermansia属細菌の増殖促進作用(占有率向上作用)があることが見出された。また、他の腸内細菌については、上記各試料における、悪玉菌の1つであるErysipelatoclostridium属細菌(その占有率と血中コレステロール濃度とに正の相関があると報告されている)などの占有率も確認したが、他の細菌の占有率について有意な変化は認められなかった。よって、β-ヒドロキシ酪酸またはその塩は、腸内細菌叢においてAkkermansia属細菌を選択的に増殖促進させ、その占有率を向上することができると認められた。