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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140050
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】臨床検体からのウイルスの分離方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/02 20060101AFI20241003BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C12N7/02 ZNA
C12N5/10
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051037
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 暁
(72)【発明者】
【氏名】マヤ ショーファ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、効率的にウイルス分離する方法を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のインターフェロン関連タンパク質が不活化された動物細胞に、ウイルス及びインターフェロン誘導物質を含む可能性のある臨床検体を接触させる工程、及び前記動物細胞からウイルスを分離する工程、を含む、臨床サンプルからのウイルスの分離方法によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターフェロン関連タンパク質が不活化された動物細胞に、ウイルス及びインターフェロン誘導物質を含む可能性のある臨床検体を接触させる工程、及び
前記動物細胞からウイルスを分離する工程、
を含む、臨床サンプルからのウイルスの分離方法。
【請求項2】
前記臨床検体が、血液、唾液、糞便、尿、涙、髄液、リンパ液、鼻腔スワブ、咽頭スワブ、直腸スワブ、皮膚パンチ、気管支肺胞洗浄液、膣洗浄液、精液、又は組織検体である、請求項1に記載のウイルスの分離方法。
【請求項3】
動物細胞が、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、及びネコからなる群から選択される動物由来の細胞である、請求項1に記載のウイルスの分離方法。
【請求項4】
前記インターフェロン関連タンパク質が、IFNAR1、IFNAR2、JAK1、STAT1、STAT2、及びIRF1からなる群から選択される、請求項1に記載のウイルスの分離方法。
【請求項5】
前記動物細胞が、前記ウイルスの自然宿主由来の動物細胞である、請求項1に記載のウイルスの分離方法。
【請求項6】
前記インターフェロン関連タンパク質の不活化が、インターフェロン関連タンパク質をコードする遺伝子の不活化である、請求項1に記載のウイルスの製造方法。
【請求項7】
インターフェロン関連タンパク質が不活化された動物細胞にウイルス検体を接触させる工程、及び
前記動物細胞からウイルスを回収する工程、
を含むウイルスの製造方法。
【請求項8】
動物細胞が、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、及びネコからなる群から選択される動物由来の細胞である、請求項7に記載のウイルスの製造方法。
【請求項9】
前記インターフェロン関連タンパク質が、IFNAR1、IFNAR2、JAK1、STAT1、STAT2、及びIRF1からなる群から選択される、請求項7に記載のウイルスの製造方法。
【請求項10】
前記動物細胞が、前記ウイルスの自然宿主由来の動物細胞である、請求項7に記載のウイルスの製造方法。
【請求項11】
前記インターフェロン関連タンパク質の不活化が、インターフェロン関連タンパク質をコードする遺伝子の不活化である、請求項7に記載のウイルスの製造方法。
【請求項12】
インターフェロン関連タンパク質が不活化された、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、又はネコ由来の細胞。
【請求項13】
前記インターフェロン関連タンパク質が、IFNAR1、IFNAR2、JAK1、STAT1、STAT2、及びIRF1からなる群から選択される、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
前記インターフェロン関連タンパク質の不活化が、インターフェロン関連タンパク質をコードする遺伝子の不活化である、請求項12に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検体からのウイルスの分離方法に関する。本発明によれば、高率に臨床サンプルからウイルスを分離することができる。
【背景技術】
【0002】
新たなウイルス感染症が発見された場合、臨床検体から病原体であるウイルスの分離が必要である。ウイルス分離は、例えば細胞に臨床検体に含まれるウイルスを感染させて、細胞中で増殖させ、分離することができる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「クリニカル・マイクロバイオロジー・レビュー(Clinical Microbiology Reviews)」2007年、(米国)、第20巻、p.49-78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、臨床検体からウイルスを分離できる効率は非常に低い。従って、本発明の目的は、効率的にウイルス分離する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、効率的にウイルス分離する方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、インターフェロン関連タンパク質が不活化された動物細胞を用いることにより、効率的にウイルスを分離できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]インターフェロン関連タンパク質が不活化された動物細胞に、ウイルス及びインターフェロン誘導物質を含む可能性のある臨床検体を接触させる工程、及び前記動物細胞からウイルスを分離する工程、を含む、臨床サンプルからのウイルスの分離方法、
[2]前記臨床検体が、血液、唾液、糞便、尿、涙、髄液、リンパ液、鼻腔スワブ、咽頭スワブ、直腸スワブ、皮膚パンチ、気管支肺胞洗浄液、膣洗浄液、精液、又は組織検体である、[1]に記載のウイルスの分離方法、
[3]動物細胞が、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、及びネコからなる群から選択される動物由来の細胞である、[1]又は[2]に記載のウイルスの分離方法、
[4]前記インターフェロン関連タンパク質が、IFNAR1、IFNAR2、JAK1、STAT1、STAT2、及びIRF1からなる群から選択される、[1]~[3]のいずれかに記載のウイルスの分離方法、
[5]前記動物細胞が、前記ウイルスの自然宿主由来の動物細胞である、[1]~[4]のいずれかに記載のウイルスの分離方法、
[6]前記インターフェロン関連タンパク質の不活化が、インターフェロン関連タンパク質をコードする遺伝子の不活化である、[1]に記載のウイルスの製造方法、
[7]インターフェロン関連タンパク質が不活化された動物細胞にウイルス検体を接触させる工程、及び前記動物細胞からウイルスを回収する工程、を含むウイルスの製造方法、
[8]動物細胞が、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、及びネコからなる群から選択される動物由来の細胞である、[7]に記載のウイルスの製造方法、
[9]前記インターフェロン関連タンパク質が、IFNAR1、IFNAR2、JAK1、STAT1、STAT2、及びIRF1からなる群から選択される、[7]又は[8]に記載のウイルスの製造方法、
[10]前記動物細胞が、前記ウイルスの自然宿主由来の動物細胞である、[7]~[9]のいずれかに記載のウイルスの製造方法、
[11]前記インターフェロン関連タンパク質の不活化が、インターフェロン関連タンパク質をコードする遺伝子の不活化である、[7]~[10]のいずれかに記載のウイルスの製造方法、
[12]インターフェロン関連タンパク質が不活化された、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、又はネコ由来の細胞、
[13]前記インターフェロン関連タンパク質が、IFNAR1、IFNAR2、JAK1、STAT1、STAT2、及びIRF1からなる群から選択される、[12]に記載の細胞、及び
[14]前記インターフェロン関連タンパク質の不活化が、インターフェロン関連タンパク質をコードする遺伝子の不活化である、[12]又は[13]に記載の細胞、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のウイルスの分離方法によれば、臨床検体から効率的にウイルスを分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】インターフェロン関連タンパク質をコードするIFNAR1遺伝子ノックアウトされた細胞株(1-20株、2-20株、3-9株、及び4-11株)、又はStat2遺伝子がノックアウトされた細胞株(1-3株)の、インターフェロンβに応答性の抗レンチウイルス活性を示したグラフである。
図2】インターフェロン関連タンパク質をコードするIFNAR1遺伝子ノックアウトされた細胞株(1-20株、2-20株、3-9株、及び4-11株)、又はStat2遺伝子がノックアウトされた細胞株(1-3株)のインターフェロン処理による抗アカバネウイルス作用を示したグラフである。
図3】インターフェロン関連タンパク質をコードするIFNAR1遺伝子ノックアウトされた細胞株(1-20株、2-20株、3-9株、及び4-11株)、又はStat2遺伝子がノックアウトされた細胞株(1-3株)の、インターフェロンβに応答性のインターフェロン刺激遺伝子(Mx-1、ISG15、及びViperin)の活性化を示したグラフである。
図4】IFNAR1遺伝子ノックアウト4-11株、及びStat2遺伝子ノックアウト1-3株のPoly(I:C)処理によるウイルス増殖を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]ウイルスの分離方法
本発明のウイルスの分離方法は、インターフェロン関連タンパク質が不活化された動物細胞に、ウイルス及びインターフェロン誘導物質を含む可能性のある臨床検体を接触させる工程、及び前記動物細胞からウイルスを分離する工程、を含む。
【0009】
《臨床検体》
本発明のウイルスの分離方法において使用する臨床検体は、ウイルス及びインターフェロン誘導物質を含む可能性のある検体である限りにおいて、特に限定されるものではない。本明細書において、「臨床検体」は、なんらかの疾患の症状を示す動物(ヒトを含む)から得られた検体、又は疾患の症状がないがウイルスが感染している可能性のある動物から得られた検体を意味する。
臨床検体は、動物から得られた検体である限りにおいて限定されるものではなく、例えば、消化器(食道、胃、小腸、又は大腸など)、筋肉、骨、神経(脳、脊髄、又は末梢神経など)の器官から得られた検体が挙げられる。より具体的には、血液、唾液、糞便、尿、涙、髄液、リンパ液、又は組織検体が挙げられる。組織検体としては、様々な生体器官に含まれる組織から得られた検体が含まれる。
【0010】
臨床検体の採取方法としては、本分野で通常使用される採取方法を限定することなく用いることができる。生体から採取する場合、例えば、注射器、カテーテル等による採取、生検による採取等が挙げられる
また、臨床検体は動物の斃死体から採取してもよく、斃死体からの採取も、本分野で通常使用される採取方法を限定することなく用いることができる。
【0011】
(インターフェロン誘導物質)
臨床検体に含まれるインターフェロン誘導物質としては、限定されるものではないが、例えばウイルス、二本鎖RNA、又は細胞質内DNAが挙げられる。これらのインターフェロン誘導物質が臨床検体に含まれることによって、ウイルス分離の効率が下がることがある。
【0012】
(ウイルス)
本発明のウイルス分離方法において分離されるウイルスは、未知のウイルスでもよく、既知のウイルスでもよいが、本発明のウイルス分離方法は未知のウイルスを分離することができる。
既知のウイルスとしては、動物を宿主とするウイルスであれば限定されるものでなく、例えば、ブタを宿主とするウイルス、ウシを宿主とするウイルス、ウマを宿主とするウイルス、ヤギを宿主とするウイルス、ヒツジを宿主とするウイルス、イヌを宿主とするウイルス、又はネコを宿主とするウイルスが挙げられる。
ブタを宿主とするウイルスとしては、日本脳炎ウイルス、インフルエンザウイルス、口蹄疫ウイルス、豚サーコウイルス、アカバネ病ウイルス、ゲタウイルス、CSF(豚熱)ウイルス、オーエスキー病ウイルス、豚流行性下痢(PED)ウイルス、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、ASF(アフリカ豚熱)ウイルス、ウエストナイルウイルス、が挙げられる。
ウシを宿主とするウイルスとしては、日本脳炎ウイルス、牛伝染性リンパ腫ウイルス、アカバネ病ウイルス、イバラキ病ウイルス、口蹄疫ウイルス、チュウザン病ウイルス、ウシ免疫不全症候群ウイルス(BIV)、牛伝染性鼻気管炎ウイルス、リフトバレー熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、が挙げられる。
ウマを宿主とするウイルスとしては、ゲタウイルス、馬インフルエンザウイルス、水疱性口内炎ウイルス、ヘンドラウイルス、馬伝染性貧血ウイルス、馬ウイルス性動脈炎ウイルス、ニパウイルス、狂犬病ウイルス、が挙げられる。
ヤギを宿主とするウイルスとしては、口蹄疫ウイルス、アカバネ病ウイルス、日本脳炎ウイルス、リフトバレー熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、ブルータングウイルス、が挙げられる。
ヒツジを宿主とするウイルスとしては、口蹄疫ウイルス、アカバネ病ウイルス、日本脳炎ウイルス、リフトバレー熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、ブルータングウイルス、が挙げられる。
イヌを宿主とするウイルスとしては、犬伝染性肝炎ウイルス、犬ジステンパーウイルス、犬パルボウイルス、が挙げられる。
ネコを宿主とするウイルスとしては、ネコ免疫不全症候群ウイルス(FIV)、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、猫カリシウイルス、猫ヘパドナウイルス、が挙げられる。
【0013】
《動物細胞》
本発明のウイルス分離方法において用いられる動物細胞は、インターフェロン関連タンパク質が不活化された動物細胞であるが、もとの動物細胞は特に限定されるものではない。
動物細胞の由来は、特に限定されるものではないが、例えばブタ由来細胞、ウシ由来細胞、ウマ由来細胞、ヤギ由来細胞、ヒツジ由来細胞、イヌ由来細胞、又はネコ由来細胞が挙げられる。
ブタ由来細胞としては、PK-15細胞、ST細胞、PK-13細胞が挙げられる。ウシ由来細胞としては、MDBK細胞、EBTr細胞、CPAE細胞が挙げられる。ウマ由来細胞としては、E.Derm細胞が挙げられる。ヤギ由来細胞としては、Ch 1 Es細胞が挙げられる。ヒツジ由来細胞としては、MDOK細胞、OA3.Ts細胞が挙げられる。イヌ由来細胞としては、MDCK細胞、Cf2Th細胞、A-72細胞が挙げられる。ネコ由来細胞としては、CRFK細胞、Fcwf-4細胞、PG-4(S+L-)細胞が挙げられる。
【0014】
《インターフェロン関連タンパク質》
本発明のウイルス分離方法に用いられる動物細胞においては、インターフェロン関連タンパク質が不活化されている。
前記インターフェロン関連タンパク質は特に限定されるものではなく、インターフェロンα/βに関連するタンパク質、インターフェロλに関連するタンパク質、又はインターフェロンγに関連するタンパク質が挙げられる。インターフェロンα/βに関連するタンパク質としては、IFNAR1、IFNAR2、JAK1、STAT1、STAT2、又はIRF9が挙げられる。インターフェロンλに関連するタンパク質としては、IFNLR1、IL10R2、JAK1、JAK2、STAT1、STAT2、又はIRF9が挙げられる。インターフェロンγに関連するタンパク質としては、IFNGR1、IFNGR2、JAK1、JAK2、又はSTAT1が挙げられる。
インターフェロンα/βは、IFNAR1及びIFNAR2で構成される受容体に結合する。IFNAR1の細胞内ドメインはTYK2と結合する一方、IFNAR2の細胞内ドメインはJAK1と結合する。JAK1ならびにTYK2は、リン酸化STAT1、リン酸化STAT2、及びIRF9の複合体にシグナル伝達する。
インターフェロンλは、IFNLR1及びIL10RBで構成される受容体に結合する。IFNAR1の細胞内ドメインはJAK1と結合する一方、IL10RBの細胞内ドメインはTYK2と結合する。JAK1ならびにTYK2は、リン酸化STAT1、リン酸化STAT2、及びIRF9の複合体にシグナルを伝達する。
インターフェロンγは、IFNGR1及びIFNGR2で構成される受容体に結合する。IFNGR1の細胞内ドメインにJAK1が結合し、そしてIFNGR2の細胞内ドメインにJAK2が結合する。JAK1ならびにJAK2は、リン酸化STAT1の複合体(二量体)にシグナルを伝達する。
それぞれの複合体からのシグナルが、核内に伝達され、ISG(interferon-stimulated genes;例えば、ISG15、viperin、MxA、MxB、IFIT1、IFIT2、IFIT3、IFITM1、IFITM2、又はIFITM3)を活性化する。
【0015】
《インターフェロン関連タンパク質が不活化された細胞株》
インターフェロン関連タンパク質の不活化方法は、特に限定されるものではなく、インターフェロン関連タンパク質自体の機能を不活化する方法でもよく、インターフェロン関連タンパク質をコードする遺伝子を不活化する方法でもよい。
【0016】
タンパク質自体の機能を不活化する方法としては、例えばインターフェロン関連タンパク質の活性部位に結合する抗体を用いて、インターフェロン関連タンパク質の機能を不活化する方法が挙げられる。
また、インターフェロン関連タンパク質の活性部位のアミノ酸に変異を導入してタンパク質の機能を不活化させる方法が挙げられる。更に、タンパク質の構造を変化させ、それによってタンパク質の機能を低下又は喪失させるアミノ酸に変異を導入して、タンパク質の機能を不活化させる方法が挙げられる。これらのアミノ酸変異は、アミノ酸の欠失、導入、又は置換などによって実施可能であるが、具体的には遺伝子の改変によって実施することができる。
【0017】
インターフェロン関連タンパク質をコードする遺伝子を不活化する方法としては、インターフェロン関連タンパク質をコードする遺伝子をノックアウトする方法、又はインターフェロン関連タンパク質をコードする遺伝子をノックダウンする方法が挙げられる。
インターフェロン関連タンパク質をコードする遺伝子をノックアウトする方法としては、具体的にはCRISPR/Cas9法が挙げられるが、具体的には以下のように実施することができる。CRISPR/Cas9法は、標的遺伝子に特異的なガイドRNAと、ヌクレアーゼであるCas9を用いた遺伝子改変技術である。細胞内に導入されたガイドRNAは標的とするDNA配列を認識して結合し、それを標識にしてCas9タンパク質が機能する。Cas9タンパク質によって切断された2本鎖DNAはその切断部位を修復するが、その際に余分な塩基の挿入、欠失が起こりうる。CRISPR/Cas9法はこの原理を利用した技術であり、高効率かつ安価であるため、最近の遺伝子改変技術の主流となっている。
インターフェロン関連タンパク質をノックダウンする方法としては、アンチセンスRNAを用いるアンチセンス法、又はsiRNA又はmicroRNAを用いるRNAi法が挙げられる。
【0018】
《臨床検体接触工程》
本発明のウイルスの分離方法における臨床検体接触工程においては、インターフェロン関連タンパク質が不活化された動物細胞に、ウイルス及びインターフェロン誘導物質を含む可能性のある臨床検体を接触させる。臨床検体の細胞への接触は、本分野における通常の方法を限定することなく用いることができる。例えば、細胞培養用の培地に、臨床検体を段階的に希釈して、培養することによって細胞に、ウイルスを接触させることができる。
培地は、それぞれの細胞を培養できる培地である限りにおいて、特に限定されるものではない。例えば、ブタのPK-15細胞の場合、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)培地、又はMEM(イーグル培地)培地を用いることができる。これらの培地で、例えば5%CO下、37℃で、2~3日、培養すればよい。
【0019】
臨床検体接触工程においては、限定されるものではないが、臨床検体を採取した動物と、臨床検体を接触させる細胞の由来の動物が同じであることが好ましい。すなわち、動物細胞が、臨床検体に含まれるウイルスの自然宿主由来の動物細胞であることが好ましい。特に、臨床検体に含まれるウイルスが未知のウイルスである場合、臨床検体が得られた動物由来の細胞で、ウイルスが増殖(感染)する可能性が高いと考えられるからである。しかしながら、臨床検体が得られた動物と、細胞が由来する動物が異なる場合においても、ウイルスを分離できることは、従来の知見からも明らかである。
【0020】
《ウイルス分離工程》
本発明のウイルスの分離方法におけるウイルス分離工程においては、前記動物細胞からウイルスを分離する。ウイルスは、前記細胞から放出されることもあるが、細胞中に留まることもある。
ウイルスが、細胞に感染(侵入)した場合、プラクを形成したり、融合細胞を形成したり、細胞を破壊したり、蛍光タンパク質もしくは発光タンパク質発現ウイルスに感染した場合には感染細胞が蛍光タンパク質を発現したりする。プラク形成、細胞融合、細胞の破壊、又は蛍光タンパク質もしくは発光タンパク質の発現、により、ウイルスが動物細胞に感染した可能性が高いと判断できる。
【0021】
ウイルスが細胞から放出される場合、細胞の培養上清からウイルスを回収することができる。培養上清を遠心分離することよって細胞等を分離し、更に超遠心等で、ウイルスを回収することができる。
一方、ウイルスが細胞中に留まる場合、細胞を破壊してウイルスを回収する。例えば、培地中で、超音波破砕、凍結融解などによって細胞を破砕し、ウイルスを培地中に回収することができる。
回収したウイルスは、例えば同じ細胞に接触(感染)させることによって、同様にプラク形成、細胞融合、蛍光タンパク質もしくは発光タンパク質の発現、又は細胞の破壊などを起こす。これらの状態を確認することによって、ウイルスの回収を同定することができる。回収したウイルスは、電子顕微鏡などで、確認することもできる。
【0022】
[2]ウイルスの製造方法
本発明のウイルスの製造方法は、インターフェロン関連タンパク質が不活化された動物細胞にウイルス検体を接触させる工程、及び前記動物細胞からウイルスを回収する工程、を含む。本発明のウイルスの製造方法においては、「ウイルス及びインターフェロン誘導物質を含む可能性のある臨床検体」に代えて「ウイルス検体」を用いることを除いては、前記「[1]ウイルスの分離方法」と同様に、製造方法を実施することができる。「ウイルス及びインターフェロン誘導物質を含む可能性のある臨床検体」と「ウイルス検体」とは、全く異なるものではなく、重複することもある。
【0023】
《ウイルス検体》
本発明のウイルスの製造方法に用いるウイルス検体は、ウイルスが含まれている限りにおいて、特に限定されるものではない。例えば、培地中にウイルスが含まれている検体でもよく、細胞中にウイルスが含まれ、その細胞が培地等に含まれている検体でもよい。
【実施例0024】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0025】
《実施例1》
本実施例では、ブタ由来のPK-15細胞を用いて、IFNAR1をコードする遺伝子をノックアウトした細胞を、CRISPR/Cas9法によって作製した。具体的な方法として、あらかじめ制限酵素BbsIで切断したpSpCas9(BB)-2A-Puro (PX459) V2.0プラスミド(Addgene, cat#62988)に、オリゴアニーリング法で2本鎖にした挿入配列を組み込んだ。組み込んだ挿入配列は以下の4種類であり、それぞれのオリゴDNAを2本鎖にした上でベクターに組み込んだ。pIFNAR1-1(caccgCAGATCTCCTGAAAATGTCG(配列番号1)およびaaacCGACATTTTCAGGAGATCTGc(配列番号2))、pIFNAR1-2(caccgCAGGAAACAGCACTTCTCCG(配列番号3)およびaaacCGGAGAAGTGCTGTTTCCTGc(配列番号4))、pIFNAR1-3(caccgCAGCACTTCTCCGTGGTATG(配列番号5)およびaaacCATACCACGGAGAAGTGCTGc(配列番号6))、pIFNAR1-4(caccgGCTTCACTGCGTGTCGGTAT(配列番号7)およびaaacATACCGACACGCAGTGAAGCc(配列番号8))。これらのプラスミドを大腸菌内で増幅後、シークエンサーにより塩基配列を確認した。シークエンスに問題がなかったものをPK-15細胞にトランスフェクションした。2日間培養した後、5μg/mLのPuromycinを培地に添加し、約2週間培養した。生残した細胞集団について、96ウェルプレートを用いてシングルセルクローニングを行い、約2週間培養した。増殖してきた細胞について、さまざまな濃度のブタIFNβを24時間処理後、ルシフェラーゼ発現レンチウイルスベクターを感染させた。2日後に細胞を融解し、ルシフェラーゼ活性を測定することで抗ウイルス効果の有無を確認した。感染実験の結果、IFNAR1遺伝子がノックアウトされたことが強く推測されたクローン1-20、2-20、3-9、及び4-11の4つの細胞株を得た。
【0026】
《実施例2》
本実施例は、ブタ由来のPK-15細胞を用いて、Stat2をコードする遺伝子をノックアウトした細胞を、CRISPR/Cas9法によって作製した。具体的な方法として、あらかじめ制限酵素Esp3Iで切断したlentiCRISPRv2(Addgene, cat#52961)に、オリゴアニーリング法で2本鎖にした挿入配列を組み込んだ。組み込んだ挿入配列は以下の4種類であり、それぞれのオリゴDNAを2本鎖にした上でベクターに組み込んだ。pigStat2-1(CACCGTCAGAGGCCAAATGGCGCAG(配列番号9)およびAAACCTGCGCCATTTGGCCTCTGAC(配列番号10))、pigStat2-2(CACCGACAACTTGCGAAAATTCTAT(配列番号11)およびAAACATAGAATTTTCGCAAGTTGTC(配列番号12))。これらのプラスミドを大腸菌内で増幅後、シークエンサーにより塩基配列を確認した。シークエンスに問題がなかったものをpsPAX2プラスミド、pMD.2Gプラスミドと共に293T細胞にトランスフェクションすることでレンチウイルスベクターを作成した。2日間培養した後、培養上清を0.45μmフィルターに通した後、PK-15細胞に感染させた。2日間培養した後、5μg/mLのPuromycinを培地に添加し、約2週間培養した。生残した細胞集団について、96ウェルプレートを用いてシングルセルクローニングを行い、約2週間培養した。増殖してきた細胞について、さまざまな濃度のブタIFNβを24時間処理後、ルシフェラーゼ発現レンチウイルスベクターを感染させた。2日後に細胞を融解し、ルシフェラーゼ活性を測定することで抗ウイルス効果の有無を確認した。感染実験の結果、IFNAR1遺伝子がノックアウトされたことが強く推測されたクローン1-20、2-20、3-9、及び4-11の4つの細胞株を得た。
Stat2遺伝子がノックアウトされたクローン1-3細胞株を得た。
【0027】
《インターフェロン応答性の検討-1》
実施例1で得られたIFNAR1遺伝子ノックアウト1-20株、2-20株、3-9株、及び4-11株、並びに実施例2で得られたStat2遺伝子ノックアウト1-3株のインターフェロン処理による抗レンチウイルス作用を検討した。
1プレートあたり1×10個のPK-15細胞を96ウェルプレートに播種した。この際に最終濃度100、50、25、12.5、6.3、3.1、1.6、0ng/mLのブタIFNβを添加した。24時間処理後、ルシフェラーゼ発現レンチウイルスベクターを感染させた。2日後に細胞を融解し、ルシフェラーゼ活性を測定することで抗ウイルス効果の有無を確認した。
図1に示すように、野生型のPK-15細胞は、インターフェロンβに応答して、抗レンチウイルス活性を示したが、1-20株、2-20株、3-9株、及び4-11株、並びに1-3株は、インターフェロンβを処理しても抗レンチウイルス効果を示さなかった。
【0028】
実施例1で得られたIFNAR1遺伝子ノックアウト1-20株、2-20株、3-9株、及び4-11株、並びに実施例2で得られたStat2遺伝子ノックアウト1-3株のインターフェロン処理による抗アカバネウイルス作用を検討した。
1プレートあたり1×10個のPK-15細胞を96ウェルプレートに播種した。この際に最終濃度100、0ng/mLのブタIFNβを添加した。24時間処理後、アカバネウイルスを2時間感染させた。細胞を2回培養液で洗浄してから培養を開始した。感染5日後の培養上清中のウイルスRNA量をOne Step TB Green(登録商標) PrimeScriptTM PLUS RT-PCR Kit(Perfect Real Time)(TaKaRa, cat#RR096A)を用いることで測定した。測定に用いたプライマーは以下の通りである(TGCGTTTCAGAGCCTACAAG(配列番号21)およびGCTACCTCAGGCAACAGATTAG(配列番号22))。0ng/mLブタIFNβをコントロールとして、他の処理群の相対ウイルスRNA量をΔΔCt法で計算した。
図2に示すように、野生型のPK-15細胞は、100ng/mLのブタIFNβ処理によってウイルス増殖レベルが約99.9%低下したが、IFNAR1遺伝子ノックアウト1-20株、2-20株、3-9株、及び4-11株、並びにStat2遺伝子ノックアウト1-3株では一切の低下が認められなかった。
【0029】
《インターフェロン応答性の検討-2》
実施例1で得られたIFNAR1遺伝子ノックアウト1-20株、2-20株、3-9株、及び4-11株、並びに実施例2で得られたStat2遺伝子ノックアウト1-3株のインターフェロン処理によるインターフェロン刺激遺伝子(interferon-stimulated gene)の活性化を検討した。
1プレートあたり1×10個のPK-15細胞を96ウェルプレートに播種した。この際に最終濃度100、50、25、12.5、6.3、3.1、1.6、0ng/mLのブタIFNβを添加した。24時間処理後、CellAmpTM Direct RNA Prep Kit for RT-PCR(Real Time)(TaKaRa, cat#3732)を用いて細胞からトータルRNAを回収した。One Step TB Green(登録商標) PrimeScriptTM PLUS RT-PCR Kit(Perfect Real Time)(TaKaRa, cat#RR096A)を用いることで、ISGならびにハウスキーピング遺伝子のmRNA量を測定した。測定に用いたプライマーは以下の通りである。ブタMx1遺伝子(TACGACATCGAATACCAGATCAA(配列番号13)およびATGGTCCTGTCTCCTTCGG(配列番号14))、ブタISG15遺伝子(GACTGCATGATGGCATCGGA(配列番号15)およびTGCACCATCAACAGGACCAT(配列番号16))、ブタViperin遺伝子(GGACACTGGTACCTGTCACCTT(配列番号17)およびTGAAGTGGTAATTGACGCTAGT(配列番号18))、ブタβ-actin遺伝子(TCCCTGGAGAAGAGCTACGA(配列番号19)およびAGCACCGTGTTGGCGTAGAG(配列番号20))。mRNA量の計算にはΔΔCt法を用いた。
図3に示すように、野生型のPK-15細胞は、インターフェロン処理によって、インターフェロン刺激遺伝子である、Mx-1遺伝子、ISG15遺伝子、及びViperin遺伝子の発現が上昇したが、1-20株、2-20株、3-9株、及び4-11株、並びに1-3株は、インターフェロンβを処理してもMx-1遺伝子、ISG15遺伝子、及びViperin遺伝子の発現は上昇しなかった。
【0030】
《実施例3》
実施例1で得られたIFNAR1遺伝子ノックアウト4-11株、並びに実施例2で得られたStat2遺伝子ノックアウト1-3株のPoly(I:C)処理によるウイルス増殖への影響を調べた。本実施例においては、1プレートあたり1×10個の野生型PK-15細胞、4-11株、1-3株を96ウェルプレートに播種した。この際に最終濃度100、10、0ng/mLのPoly(I:C)を添加した。24時間処理後、アカバネウイルスを2時間感染させた。細胞を2回培養液で洗浄してから培養を開始した。感染5日後の培養上清中のウイルスRNA量をOne Step TB Green(登録商標) PrimeScriptTM PLUS RT-PCR Kit(Perfect Real Time)(TaKaRa, cat#RR096A)を用いることで測定した。測定に用いたプライマーは以下の通りである(TGCGTTTCAGAGCCTACAAG(配列番号21)およびGCTACCTCAGGCAACAGATTAG(配列番号22))。0ng/mLブタIFNβをコントロールとして、他の処理群の相対ウイルスRNA量をΔΔCt法で計算した。
図4に示すように、野生型のPK-15細胞は、ウイルス増幅中間産物RNAを模倣するための合成2本鎖RNA(Poly(I:C))処理によって、100ng/mL処理群ではウイルス増殖レベルが約75%低下したが、4-11株では約40%低下に留まり、1-3株では一切の低下が認められず、むしろウイルス増殖の亢進が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の細胞は、臨床検体からの効率なウイルス分離に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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