(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140068
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20241003BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20241003BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20241003BHJP
F02B 23/10 20060101ALI20241003BHJP
F02D 19/08 20060101ALI20241003BHJP
F02M 25/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F02D45/00 360A
F02D41/34
F02D43/00 301J
F02D43/00 301M
F02B23/10 320
F02D19/08 B
F02M25/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051060
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】松浦 勝也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 公太郎
【テーマコード(参考)】
3G023
3G092
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G023AA08
3G023AB01
3G023AC04
3G023AC08
3G092AA01
3G092AA06
3G092AB15
3G092BB01
3G092BB06
3G092BB14
3G092BB20
3G092EA04
3G092FA31
3G092GA01
3G092HA04Z
3G092HE03Z
3G092HE08Z
3G301HA01
3G301HA04
3G301JA00
3G301KA01
3G301LB04
3G301MA18
3G301NC02
3G301PA10Z
3G301PE03Z
3G301PE08Z
3G384AA02
3G384BA11
3G384BA18
3G384CA01
3G384DA13
3G384FA13Z
3G384FA28Z
3G384FA58Z
3G384FA86B
(57)【要約】
【課題】エンジンの冷間始動時における始動性を向上する。
【解決手段】エンジン制御装置100は、燃焼室に燃料を噴射するインジェクタ13と燃焼室内の燃料と空気との混合気に点火する点火プラグ14とを有するエンジンと、エンジンの温度を検出する温度検出部15と、検出された温度に基づいてインジェクタ13を制御する制御部50とを備える。インジェクタ13から噴射される燃料は、ガソリン燃料およびガソリン燃料の一部を過酸化物に改質した改質燃料の少なくとも一方である。制御部50は、エンジンの始動時に、検出された温度が所定温度を超えるとき、第1目標噴射時期でガソリン燃料を噴射するようにインジェクタ13を制御する一方、検出された温度が所定温度以下のとき、第1目標噴射時期よりも遅角された第2目標噴射時期で改質燃料を噴射するようにインジェクタ13を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に燃料を噴射するインジェクタと、前記燃焼室内の燃料と空気との混合気に点火する点火プラグと、を有するエンジンと、
前記エンジンの温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部により検出された温度に基づいて前記インジェクタを制御する制御部と、を備え、
前記インジェクタから噴射される燃料は、ガソリン燃料および前記ガソリン燃料の一部を過酸化物に改質した改質燃料の少なくとも一方であり、
前記制御部は、前記エンジンの始動時に、前記温度検出部により検出された温度が所定温度を超えるとき、第1目標噴射時期で前記ガソリン燃料を噴射するように前記インジェクタを制御する一方、前記温度検出部により検出された温度が前記所定温度以下のとき、前記第1目標噴射時期よりも遅角された第2目標噴射時期で前記改質燃料を噴射するように前記インジェクタを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記エンジンは、火花点火式エンジンであることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジン制御装置において、
前記温度は、前記エンジンの冷却水温であり、
前記所定温度は、前記エンジンの冷間始動時の冷却水温であり、
前記制御部は、前記第2目標噴射時期で前記改質燃料を噴射するように前記インジェクタを制御した後、所定回数の燃焼サイクルで前記点火プラグによる点火が成功すると、前記第1目標噴射時期で前記ガソリン燃料を噴射するように前記インジェクタを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記エンジンは、予混合圧縮着火式エンジンであり、
前記制御部は、前記温度検出部により検出された温度が前記所定温度以下のとき、さらに、前記燃焼室内の前記改質燃料と空気との混合気に点火するように前記点火プラグを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のエンジン制御装置において、
前記温度は、前記エンジンの冷却水温であり、
前記所定温度は、前記エンジンの冷間始動時の冷却水温であり、
前記制御部は、前記第2目標噴射時期で前記改質燃料を噴射するように前記インジェクタを制御し、前記燃焼室内の前記改質燃料と空気との混合気に点火するように前記点火プラグを制御した後、所定回数の燃焼サイクルで前記点火プラグによる点火が成功すると、前記第1目標噴射時期で前記ガソリン燃料を噴射するように前記インジェクタを制御するとともに、前記燃焼室内の前記ガソリン燃料と空気との混合気に点火するように前記点火プラグを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のエンジン制御装置において、
前記所定温度は、第1所定温度であり、
前記制御部は、前記所定回数の燃焼サイクルで前記点火プラグによる点火が成功すると、前記温度検出部により検出された温度が、前記第1所定温度より高温の第2所定温度を超えたことを条件として、点火を停止するように前記点火プラグを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料と空気との混合気を圧縮して自己着火させる予混合圧縮着火燃焼を行うようにしたエンジンが知られている(例えば特許文献1参照)。上記特許文献1記載のエンジンでは、吸気行程または圧縮行程中にインジェクタから燃焼室内にガソリン燃料が噴射され、噴射されたガソリン燃料が燃焼室に導入された空気と混合された後に、圧縮上死点の近傍で自己着火する。また、エンジンの冷間始動時には、点火プラグによる混合気の着火アシストが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、着火性の低いガソリン燃料を用いるため、点火プラグによる混合気の点火を行ったとしても、冷間始動時には火炎が十分に成長できずに失火するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様であるエンジン制御装置は、燃焼室に燃料を噴射するインジェクタと、燃焼室内の燃料と空気との混合気に点火する点火プラグと、を有するエンジンと、エンジンの温度を検出する温度検出部と、温度検出部により検出された温度に基づいてインジェクタを制御する制御部と、を備える。インジェクタから噴射される燃料は、ガソリン燃料およびガソリン燃料の一部を過酸化物に改質した改質燃料の少なくとも一方である。制御部は、エンジンの始動時に、温度検出部により検出された温度が所定温度を超えるとき、第1目標噴射時期でガソリン燃料を噴射するようにインジェクタを制御する一方、温度検出部により検出された温度が所定温度以下のとき、第1目標噴射時期よりも遅角された第2目標噴射時期で改質燃料を噴射するようにインジェクタを制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、エンジンの冷間始動時における始動性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジン制御装置のエンジンの内部構成の一例を模式的に示す図。
【
図2】本発明の実施形態に係るエンジン制御装置のエンジンに燃料を供給する燃料供給路の一例を模式的に示す図。
【
図3】本発明の実施形態に係るエンジン制御装置の要部構成の一例を模式的に示すブロック図。
【
図4】燃料中の過酸化物濃度とオクタン価、着火性との関係について説明するための図。
【
図5】燃料噴射時期と筒内温度、熱発生率との関係について説明するための図。
【
図6】燃料噴射時期と筒内圧力、熱発生率との関係について説明するための図。
【
図7】冷間始動時の噴射時期について説明するための図。
【
図8】本発明の実施形態に係るエンジン制御装置を火花点火式エンジンに適用する場合の始動処理の一例を示すフローチャート。
【
図9】本発明の実施形態に係るエンジン制御装置を予混合圧縮着火式エンジンに適用する場合の始動処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図9を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係るエンジン制御装置は、車両に搭載された火花点火式エンジンまたは予混合圧縮着火式エンジンに適用され、冷間始動時の始動性を向上するためのエンジン制御を行う。
【0009】
通常のオクタン価のガソリン燃料は、着火性が低く、点火プラグによる混合気の点火を行ったとしても、冷間始動時には火炎が十分に成長できずに失火するおそれがある。そこで、本実施形態では、必要に応じてガソリン燃料の一部を過酸化物に改質した改質燃料を用いることで、冷間始動時における始動性を向上することができるよう、以下のようにエンジン制御装置を構成する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るエンジン制御装置(以下、装置)100のエンジン1の内部構成の一例を模式的に示す図である。
図1に示すように、エンジン1は、シリンダ2が形成されるシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上部を覆うシリンダヘッド4とを有する。シリンダヘッド4には、エンジン1への吸気が通過する吸気ポート5と、エンジン1からの排気が通過する排気ポート6とが設けられる。吸気ポート5には吸気ポート5を開閉する吸気バルブ7が設けられ、排気ポート6には排気ポート6を開閉する排気バルブ8が設けられる。吸気バルブ7と排気バルブ8とは不図示の動弁機構により開閉駆動される。
【0011】
各シリンダ2には、シリンダ2内を摺動可能にピストン9が配置され、ピストン9に面して燃焼室10が形成される。燃焼室10に吸気ポート5を介して連通する吸気通路11には、スロットルバルブ12が設けられる。スロットルバルブ12は、例えばバタフライ弁により構成され、スロットルバルブ12により燃焼室10に吸い込まれる空気の量(吸気量)が調整される。スロットルバルブ12の開度(スロットル開度)は、電子制御ユニット(ECU(Electronic Control Unit))50(
図3)により制御される。
【0012】
シリンダヘッド4には、それぞれ燃焼室10を臨むようにインジェクタ13と点火プラグ14とが装着される。インジェクタ13は、筒内噴射型の燃料噴射弁として構成され、燃料を燃焼室10に噴射する。点火プラグ14は、電気エネルギーにより火花を発生し、燃焼室10内の燃料と空気との混合気に点火する。インジェクタ13の燃料噴射時期(開弁時期)、燃料噴射量(開弁時間)、点火プラグ14の点火時期、および点火プラグ14による点火のオン、オフは、ECU50(
図3)により制御される。図示は省略するが、エンジン1には、エンジン冷却水の温度(水温)Twを検出する水温センサ15(
図3)、吸気温(外気温)Taを検出する外気温センサ16(
図3)等も設けられる。水温センサ15および外気温センサ16による検出結果を示す信号は、ECU50(
図3)に送信される。
【0013】
吸気ポート5が開放、排気ポート6が閉鎖され、ピストン9が下降すると、吸気ポート5から燃焼室10内に空気(新気)が吸い込まれる(吸気行程)。吸気ポート5および排気ポート6が閉鎖され、ピストン9が上昇すると、燃焼室10内の空気または混合気が圧縮され、燃焼室10内の圧力が徐々に上昇する(圧縮行程)。
【0014】
火花点火式エンジンでは、吸気行程または圧縮行程でインジェクタ13から燃焼室10に燃料が噴射され、圧縮上死点TDC(Top Dead Center)付近で点火プラグ14により混合気が点火され、火炎伝播により燃焼室10内の燃料が燃焼する。このような燃焼を、以下では火花点火(SI(Spark Ignition))燃焼と称する。
【0015】
予混合圧縮着火式エンジンでは、吸気行程または圧縮行程でインジェクタ13から燃焼室10に燃料が噴射され、燃焼室10内の混合気が圧縮されることで温度上昇すると、圧縮上死点TDC付近で自己着火により燃料が燃焼する。このような燃焼を、以下では予混合圧縮着火(HCCI(Homogenous Charge Compression Ignition))燃焼と称する。
【0016】
HCCI燃焼を行う場合、冷間始動時には圧縮上死点TDC付近で点火プラグ14により混合気が点火され、火炎伝播により燃焼室10内の燃料の一部が燃焼し、燃焼により高温となった燃焼室10内で残りの燃料が自己着火により燃焼する。このような燃焼を、以下では火花点火アシスト予混合圧縮着火(SAHCCI(Spark Assist Homogeneous Charge Compression Ignition))燃焼と称する。
【0017】
燃焼室10内で燃料が燃焼すると、燃焼室10内の圧力が急激に上昇し、ピストン9が下降する(膨張行程)。吸気ポート5が閉鎖、排気ポート6が開放され、ピストン9が上昇すると、燃焼室10内の空気(排気)が排気ポート6から排出される(排気行程)。ピストン9がシリンダ2の内壁に沿って往復動することで、コンロッド17を介してクランクシャフト18が回転する。エンジン1のクランクシャフト18には、クランクシャフト18の回転角(クランク角)を検出するクランク角センサ19も設けられる。クランク角センサ19による検出結果を示す信号は、ECU50(
図3)に送信される。
【0018】
炭化水素を主成分とするガソリン燃料は、N-ヒドロキシフタルイミド(NHPI)等の触媒を用いて酸化改質し、過酸化物を生成することで、その着火性を向上することができる。具体的には、NHPIは、酸素分子により容易に水素原子が引き抜かれ、フタルイミド-N-オキシル(PINO)ラジカルを生成する。PINOラジカルは、燃料に含まれる炭化水素(RH)から水素原子を引き抜き、アルキルラジカル(R・)を生成する。アルキルラジカルは、酸素分子と結合してアルキルペルオキシラジカル(ROO・)を生成する。アルキルペルオキシラジカルは、燃料に含まれる炭化水素から水素原子を引き抜き、過酸化物であるアルキルヒドロペルオキシド(ROOH)、例えばクメンヒドロペルオキシドを生成する。
【化1】
【0019】
酸化反応が進行すると過酸化物濃度が増加し、さらに酸化反応が進行すると過酸化物がアルコール、アルデヒド、ケトンなどの酸化物に分解され、過酸化物濃度が減少するとともに酸化物濃度が増加する。燃料中の過酸化物濃度を高め、燃料の着火性を向上するには、酸化反応の進行度を適正な範囲内に調整する必要がある。具体的には、ガソリン燃料の一部を酸化改質した改質燃料のオクタン価が所定値以下となるよう、改質燃料中の過酸化物濃度が所定濃度以上となるように調整する必要がある。
【0020】
図2は、装置100のエンジン1に燃料を供給する燃料供給路20の一例を模式的に示す図である。
図2に示すように、燃料供給路20には、ガソリン燃料を貯留する燃料タンク21と、ガソリン燃料を酸化改質する改質器22と、改質燃料を貯留する改質燃料タンク23と、ガソリン燃料と改質燃料とを混合する混合器24とが設けられる。混合器24により混合された混合燃料は、インジェクタ13(
図1)を介してエンジン1の燃焼室10に噴射される。
【0021】
燃料タンク21の液相と改質器22の入口とは、配管25を介して接続され、配管25に設けられた電動ポンプ26により、配管25を介して、燃料タンク21に貯留されたガソリン燃料が改質器22に供給される。電動ポンプ26の動作は、ECU50(
図3)により制御される。
【0022】
改質器22には、NHPI等の触媒が充填される。改質器22には、改質器22の温度を調整するヒータ27が設けられ、温度に応じた改質率で、燃料タンク21から供給されたガソリン燃料の一部を過酸化物に酸化改質する。酸化改質後の改質燃料には、改質率に応じた割合で、クメンヒドロペルオキシド等の過酸化物が含まれる。ヒータ27の動作は、ECU50(
図3)により制御される。
【0023】
改質器22の出口と改質燃料タンク23とは、配管28を介して接続される。改質器22で改質された改質燃料は、配管28を介して改質燃料タンク23に供給される。改質器22と改質燃料タンク23との間の配管28には、凝縮器29が設けられる。改質後の気体の燃料は、凝縮器29で凝縮し、液体として改質燃料タンク23に貯留される。改質燃料タンク23には、例えば静電容量式の濃度センサ23aが設けられ、改質燃料タンク23に液体として貯留された改質燃料の過酸化物濃度C1を検出する。濃度センサ23aによる検出結果を示す信号は、ECU50(
図3)に送信される。
【0024】
燃料タンク21の液相は、さらに、配管30を介して混合器24に接続される。燃料タンク21に貯留されたガソリン燃料は、配管30に設けられた電動ポンプ31により、配管30を介して混合器24に供給される。改質燃料タンク23の液相は、配管32を介して混合器24に接続される。改質燃料タンク23に貯留された改質燃料は、配管32に設けられた電動ポンプ33により、配管32を介して混合器24に供給される。電動ポンプ31,33の動作は、ECU50(
図3)により制御される。混合器24には、例えば静電容量式の濃度センサ24aが設けられ、混合燃料の過酸化物濃度C2を検出する。濃度センサ24aによる検出結果を示す信号は、ECU50(
図3)に送信される。
【0025】
図3は、装置100の要部構成の一例を模式的に示すブロック図である。
図3に示すように、装置100は、主にECU50により構成され、ECU50は、CPU等の処理部51と、ROM,RAM等の記憶部52と、I/Oインターフェース等の図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。ECU50は、エンジン1の動作を制御するエンジン制御用ECUの一部として構成されてもよい。
【0026】
ECU50には、水温センサ15と、外気温センサ16と、クランク角センサ19と、濃度センサ23a,24aとが電気的に接続され、各センサからの信号が入力される。また、ECU50には、スロットルバルブ12、インジェクタ13、点火プラグ14、電動ポンプ26,31,33、およびヒータ27のアクチュエータが電気的に接続され、ECU50から各アクチュエータに制御信号が送信される。
【0027】
ECU50は、エンジン回転数、要求トルク等のエンジン1の運転条件に応じて、スロットルバルブ12の開度、インジェクタ13の燃料噴射時期および燃料噴射量、点火プラグ14の点火時期、および点火プラグ14による点火のオン、オフ等を制御する。スロットルバルブ12の目標開度、インジェクタ13の目標燃料噴射時期および目標燃料噴射量、点火プラグ14の目標点火時期等は、エンジン1の運転条件に応じて予め定められ、特性マップ等としてECU50の記憶部52に記憶される。また、ECU50は、濃度センサ23aにより検出される改質燃料の過酸化物濃度C1が、所定オクタン価に対応する所定濃度以上となるように、電動ポンプ26およびヒータ27を制御する。これにより、改質燃料タンク23には、過酸化物濃度C1が所定濃度以上、オクタン価が所定値以下の改質燃料が貯留される。
【0028】
図4は、エンジン1に供給される燃料中の過酸化物濃度C2とオクタン価および着火性との関係について説明するための図である。
図4に示すように、過酸化物濃度C2が高いほど、オクタン価が低く、着火性が高くなる。
【0029】
図5は、燃料噴射時期と筒内温度および熱発生率との関係について説明するための図であり、常圧低温(-30℃)条件下で混合気を圧縮するときの計算結果を示す。
図5に示すように、ガソリン燃料では、圧縮上死点TDCを基準とするクランク角度-180度で燃料噴射する吸気行程噴射とした場合でも、-30度で燃料噴射する圧縮行程噴射とした場合でも、燃料の着火による筒内温度の急激な温度上昇は見られなかった。また、吸気行程噴射とした場合でも圧縮行程噴射とした場合でも、圧縮上死点TDC付近で発熱が殆ど見られず、燃料分子の緩慢な酸化反応により生じる発熱反応である低温酸化反応が殆ど進行していないことが確認された。
【0030】
一方、改質燃料では、圧縮行程噴射とした場合に、圧縮上死点TDC付近で着火による急激な温度上昇が見られた。また、吸気行程噴射とした場合でも圧縮行程噴射とした場合でも、圧縮上死点TDC付近で発熱が見られ、低温酸化反応が進行していることが確認された。圧縮行程噴射とした場合には、圧縮上死点TDC付近で発熱率の急激な上昇が見られ、低温酸化反応に加え、燃焼反応が開始したことが確認された。
【0031】
図6は、燃料噴射時期と筒内圧力および熱発生率との関係について説明するための図であり、吸気圧130[kPa]の条件下で改質燃料を噴射したときの筒内圧力および熱発生率の変化を示す。
図6に示すように、-30度で燃料噴射する圧縮行程噴射とした場合には、圧縮上死点TDC付近で着火による筒内圧力の急激な上昇が見られた。噴射時期を遅角し、圧縮行程後半で燃料噴射を行うと、筒内の空気が圧縮されて筒内温度が高まった状態で燃料が噴射されるとともに、筒内の燃料分布が不均一になるため、低温酸化反応が十分に進行し、自己着火に至る温度まで筒内温度を昇温することができる。
【0032】
ECU50は、エンジン1の始動時に、水温センサ15により検出された水温Twおよび外気温センサ16により検出された外気温Taに基づいて、冷間始動であるか否かを判定する。より具体的には、水温Twが第1所定水温Tw1以下、かつ、外気温Taが所定外気温Ta1以下のとき、冷間始動であると判定し、水温Twが第1所定水温Tw1を超えている、あるいは外気温Taが所定外気温Ta1を超えているとき、通常始動であると判定する。第1所定水温Tw1は、冷間始動時の水温Twであり、所定外気温Ta1は、冷間始動時の外気温Taである。
【0033】
ECU50は、通常始動であると判定すると、通常の目標噴射時期(以下、第1目標噴射時期)でガソリン燃料を噴射するように、電動ポンプ31,33およびインジェクタ13を制御する。より具体的には、電動ポンプ33をオフ、電動ポンプ31をオンにして、燃料タンク21に貯留されたガソリン燃料をそのままインジェクタ13に導くとともに、第1目標噴射時期でガソリン燃料を噴射するようにインジェクタ13を制御する。
【0034】
ECU50は、冷間始動であると判定すると、第1目標噴射時期よりも遅角された第2目標噴射時期で改質燃料を噴射するように、電動ポンプ31,33およびインジェクタ13を制御する。より具体的には、電動ポンプ31をオフ、電動ポンプ33をオンにして、改質燃料タンク23に貯留された改質燃料をインジェクタ13に導くとともに、第2目標噴射時期でガソリン燃料を噴射するようにインジェクタ13を制御する。改質燃料タンク23に貯留された改質燃料の残量が不足している場合には、電動ポンプ33に加えて電動ポンプ31もオンにして、ガソリン燃料と改質燃料との混合燃料をインジェクタ13に導いてもよい。
【0035】
図7は、冷間始動時の噴射時期について説明するための図であり、第1目標噴射時期に対する第2目標噴射時期の遅角量の特性マップの一例を示す。
図7に示すように、第1目標噴射時期に対する第2目標噴射時期の遅角量は、エンジン1の水温Twが低く、エンジン1に供給される燃料中の過酸化物濃度C2が低いほど、遅角側に設定される。このような特性マップは、予め設定され、ECU50の記憶部52に記憶される。ECU50(処理部51)は、水温センサ15により検出された水温Twおよび濃度センサ24aにより検出された過酸化物濃度C2に基づいて、記憶部52に記憶された特性マップを参照して遅角量を算出し、第2目標噴射時期を算出する。
【0036】
通常運転時はガソリン燃料を用いるエンジン1について、冷間始動時は通常時よりも噴射時期を遅角し、吸気が圧縮されて比較的高温となった燃焼室10に着火性の高い改質燃料を噴射することで、始動性を向上することができる。
【0037】
エンジン1が予混合圧縮着火式エンジンにより構成される場合、ECU50は、冷間始動であると判定すると、上述した改質燃料の供給および噴射時期の遅角に加え、燃焼室10内の改質燃料と空気との混合気に点火するように点火プラグ14を制御する。すなわち、SAHCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。
【0038】
ECU50は、上述した改質燃料の供給、噴射時期の遅角、およびSAHCCI燃焼を行った後、例えばクランク角センサ19により検出されたクランク角の変動に基づいて、点火プラグ14による点火が所定回数の燃焼サイクルで成功したか否かを判定する。ECU50は、所定回数の燃焼サイクルで点火が成功し、エンジン1が確実に始動されたと判定すると、改質燃料の供給および噴射時期の遅角を終了し、第1目標噴射時期でガソリン燃料を噴射するように、電動ポンプ31,33およびインジェクタ13を制御する。エンジン1が確実に始動された後は、通常の点火時期でのガソリン燃料噴射に切り替えることで、エンジン1の熱効率を向上することができる。
【0039】
エンジン1が予混合圧縮着火式エンジンにより構成される場合、ECU50は、水温Twが、第1所定水温Tw1より高温の第2所定水温Tw2を超えたことを条件として、点火を停止するように点火プラグ14を制御する。水温Twが第2所定水温Tw2を超え、筒内温度が所定温度を超えている状態では、点火を伴うSAHCCI燃焼を継続するとノッキングが発生する可能性が高まる。第2所定水温Tw2は、ノッキングの可能性が高まる所定の筒内温度に対応する水温Twである。水温Twが第2所定水温Tw2を超えると点火を終了し、SAHCCI燃焼から熱効率の高いHCCI燃焼に切り替えることで、ノッキングの可能性を低減できるとともに、エンジン1の熱効率を一層向上することができる。
【0040】
図8は、装置100を火花点火式エンジンに適用する場合の始動処理の一例を示すフローチャートであり、
図3のECU50(処理部51)により実行される始動処理の一例を示す。
図8の始動処理は、エンジン1の始動時に実行される。
図8に示すように、先ずステップS1で、各センサからの信号を読み込み、水温Twが第1所定水温Tw1以下、かつ、外気温Taが所定外気温Ta1以下であるか否かを判定する。ステップS1で肯定されると、冷間始動であると判定してステップS2に進む。ステップS1で否定されると、通常始動であると判定してステップS4に進む。
【0041】
ステップS2では、第2目標噴射時期で改質燃料を噴射するように電動ポンプ31,33およびインジェクタ13を制御する。次いでステップS3で、点火プラグ14による点火が所定回数の燃焼サイクルで成功したか否かを判定する。ステップS3で否定されると、ステップS2に戻り、改質燃料の供給および噴射時期の遅角を継続する。ステップS3で肯定されると、ステップS4に進む。ステップS4では、第1目標噴射時期でガソリン燃料を噴射するように電動ポンプ31,33およびインジェクタ13を制御する。
【0042】
図9は、装置100を予混合圧縮着火式エンジンに適用する場合の始動処理の一例を示すフローチャートであり、
図3のECU50(処理部51)により実行される始動処理の一例を示す。
図9の始動処理は、エンジン1の始動時に実行される。
図9に示すように、先ずステップS10で、各センサからの信号を読み込み、水温Twが第1所定水温Tw1以下、かつ、外気温Taが所定外気温Ta1以下であるか否かを判定する。ステップS10で肯定されると、冷間始動であると判定してステップS11に進む。ステップS10で否定されると、通常始動であると判定してステップS14に進む。
【0043】
ステップS11では、第2目標噴射時期で改質燃料を噴射するように電動ポンプ31,33およびインジェクタ13を制御するとともに、燃焼室10内の改質燃料と空気との混合気に点火するように点火プラグ14を制御する。すなわち、改質燃料によるSAHCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。次いでステップS12で、点火プラグ14による点火が所定回数の燃焼サイクルで成功したか否かを判定する。ステップS12で否定されると、ステップS11に戻り、改質燃料によるSAHCCI燃焼を継続する。ステップS12で肯定されると、ステップS13に進む。
【0044】
ステップS13では、第1目標噴射時期でガソリン燃料を噴射するように電動ポンプ31,33およびインジェクタ13を制御するとともに、燃焼室10内のガソリン燃料と空気との混合気に点火するように点火プラグ14を制御する。すなわち、ガソリン燃料によるSAHCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。次いでステップS14で、水温Twが第2所定水温Tw2を超えているか否かを判定する。ステップS14で否定されると、ステップS13に戻り、ガソリン燃料によるSAHCCI燃焼を継続する。ステップS14で肯定されると、ステップS15に進み、点火を停止してガソリン燃料によるSAHCCI燃焼からガソリン燃料によるHCCI燃焼に切り替えるようにエンジン1(点火プラグ14)を制御する。
【0045】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)装置100は、燃焼室10に燃料を噴射するインジェクタ13と燃焼室10内の燃料と空気との混合気に点火する点火プラグ14とを有するエンジン1と、エンジン1の水温Twを検出する水温センサ15と、水温センサ15により検出された水温Twに基づいてインジェクタ13を制御するECU50とを備える(
図1、
図3)。インジェクタ13から噴射される燃料は、ガソリン燃料およびガソリン燃料の一部を過酸化物に改質した改質燃料の少なくとも一方である(
図2)。
【0046】
ECU50は、エンジン1の始動時に、水温センサ15により検出された水温Twが第1所定水温Tw1を超えるとき、第1目標噴射時期でガソリン燃料を噴射するようにインジェクタ13を制御する一方、水温センサ15により検出された水温Twが第1所定水温Tw1以下のとき、第1目標噴射時期よりも遅角された第2目標噴射時期で改質燃料を噴射するようにインジェクタ13を制御する(
図8のステップS1,S2,S4、
図9のステップS10,S11,S13)。通常運転時はガソリン燃料を用いるエンジン1について、冷間始動時は通常時よりも噴射時期を遅角し、吸気が圧縮されて比較的高温となった燃焼室10に着火性の高い改質燃料を噴射することで、始動性を向上することができる。
【0047】
(2)エンジン1は、火花点火式エンジンであり、第1所定水温Tw1は、エンジン1の冷間始動時の水温Twである。ECU50は、第2目標噴射時期で改質燃料を噴射するようにインジェクタ13を制御した後、所定回数の燃焼サイクルで点火プラグ14による点火が成功すると、第1目標噴射時期でガソリン燃料を噴射するようにインジェクタ13を制御する(
図8のステップS3,S4)。エンジン1が確実に始動された後は、通常の点火時期でのガソリン燃料噴射に切り替えることで、エンジン1の熱効率を向上することができる。
【0048】
(3)エンジン1は、予混合圧縮着火式エンジンである。ECU50は、水温センサ15により検出された水温Twが第1所定水温Tw1以下のとき、さらに、燃焼室10内の改質燃料と空気との混合気に点火するように点火プラグ14を制御する(
図9のステップS10,S11)。予混合圧縮着火式エンジンの冷間始動時は、改質燃料の供給および噴射時期の遅角に加えて点火を行うSAHCCI燃焼に切り替えることで、始動性を一層向上することができる。
【0049】
(4)第1所定水温Tw1は、エンジン1の冷間始動時の水温Twである。ECU50は、第2目標噴射時期で改質燃料を噴射するようにインジェクタ13を制御し、燃焼室10内の改質燃料と空気との混合気に点火するように点火プラグ14を制御した後、所定回数の燃焼サイクルで点火プラグ14による点火が成功すると、第1目標噴射時期でガソリン燃料を噴射するようにインジェクタ13を制御するとともに、燃焼室10内のガソリン燃料と空気との混合気に点火するように点火プラグ14を制御する(
図9のステップS11~S13)。エンジン1が確実に始動された後は、通常の点火時期でのガソリン燃料噴射に切り替えることで、エンジン1の熱効率を向上することができる。
【0050】
(5)ECU50は、所定回数の燃焼サイクルで点火プラグ14による点火が成功すると、水温センサ15により検出された水温Twが、第1所定水温Tw1より高温の第2所定水温Tw2を超えたことを条件として、点火を停止するように点火プラグ14を制御する(
図9のステップS14,S15)。水温Twが第2所定水温Tw2を超えると点火を終了し、SAHCCI燃焼から熱効率の高いHCCI燃焼に切り替えることで、ノッキングの可能性を低減できるとともに、エンジン1の熱効率を一層向上することができる。
【0051】
上記実施形態では、エンジン1が火花点火式エンジンの場合と予混合圧縮着火式エンジンの場合とについて説明したが、インジェクタと点火プラグとを有するエンジンは、このようなものに限定されない。例えば、運転条件に応じてSI燃焼とHCCI燃焼とを含む複数の燃焼形態を切り替えるものであってもよい。
【0052】
上記実施形態では、
図1等でエンジン1の内部構成を例示して説明したが、インジェクタや点火プラグの配置等のエンジンの内部構成は、図示したものに限定されない。
【0053】
上記実施形態では、車両に搭載された改質器22によりオンボードで改質した改質燃料を用いる例を説明したが、ガソリン燃料の一部を過酸化物に改質した改質燃料は、このようなものに限定されない。例えば、予め製造され、車載燃料タンクに貯留された改質燃料であってもよい。
【0054】
上記実施形態では、
図2、
図3等で改質燃料を改質燃料タンク23に貯留し、ECU50が電動ポンプ33およびインジェクタ13を制御することで改質燃料をエンジン1に供給する例を説明したが、インジェクタを制御する制御部は、このようなものに限定されない。例えば、電動ポンプ33に代えて電動ポンプ26およびヒータ27を制御し、改質器22のオン、オフを切り替えたり、改質器22による改質率や改質量を調整したりすることで改質燃料をエンジン1に供給してもよい。この場合、改質燃料タンク23および電動ポンプ33を設けなくてもよい。
【0055】
上記実施形態では、
図2等でガソリン燃料と改質燃料とを混合する混合器24を設ける例を説明したが、十分な量の改質燃料を供給できる場合には混合器24を設けなくてもよい。
【0056】
上記実施形態では、
図8、
図9等で水温Twと外気温Taとに基づいて冷間始動であるか否かを判定する例を説明したが、エンジンの温度に基づいてインジェクタを制御する制御部は、このようなものに限定されない。例えば、水温Twのみに基づいて冷間始動であるか否かを判定してもよい。
【0057】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 エンジン、10 燃焼室、13 インジェクタ、14 点火プラグ、15 水温センサ、16 外気温センサ、19 クランク角センサ、20 燃料供給路、21 燃料タンク、22 改質器、23 改質燃料タンク、23a,24a 濃度センサ、24 混合器、26,31,33 電動ポンプ、27 ヒータ、50 ECU、51 処理部、52 記憶部、100 エンジン制御装置(装置)