(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140069
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02B 23/10 20060101AFI20241003BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20241003BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20241003BHJP
F02B 3/06 20060101ALI20241003BHJP
F02M 25/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F02B23/10 320
F02D43/00 301A
F02D43/00 301G
F02D43/00 301J
F02D45/00 368A
F02D43/00 301K
F02B3/06 B
F02M25/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051061
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】松浦 勝也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 公太郎
【テーマコード(参考)】
3G023
3G384
【Fターム(参考)】
3G023AA01
3G023AB06
3G023AC08
3G384AA02
3G384BA05
3G384BA13
3G384BA18
3G384BA23
3G384DA00
3G384FA13Z
3G384FA33Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】エンジンの熱効率を向上する。
【解決手段】エンジン制御装置100は、燃焼室に燃料を噴射するインジェクタ13と混合気に点火する点火プラグ14とを有するエンジンと、要求トルクに応じて燃焼形態を切り替えるようにインジェクタと点火プラグとを制御する制御部50とを備える。燃焼形態は、ガソリン燃料の点火を伴う火花点火燃焼と、ガソリン燃料の一部を過酸化物に改質した改質燃料の点火を伴わない第1予混合圧縮着火燃焼と、改質燃料の点火を伴う第2予混合圧縮着火燃焼と、改質燃料の点火を伴わない拡散燃焼と、を含む。制御部50は、要求トルクが第1所定値未満のとき第2予混合圧縮着火燃焼、第1所定値以上、第2所定値未満のとき第1予混合圧縮着火燃焼、第2所定値以上、第3所定値未満のとき火花点火燃焼、第3所定値以上のとき拡散燃焼に切り替えるようにインジェクタと点火プラグとを制御する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に燃料を噴射するインジェクタと、前記燃焼室内の燃料と空気との混合気に点火する点火プラグと、を有するエンジンと、
前記エンジンの要求トルクに応じて燃焼形態を切り替えるように前記インジェクタと前記点火プラグとを制御する制御部と、を備え、
前記燃焼形態は、ガソリン燃料の点火を伴う火花点火燃焼と、ガソリン燃料の一部を過酸化物に改質した改質燃料の点火を伴わない第1予混合圧縮着火燃焼と、前記改質燃料の点火を伴う第2予混合圧縮着火燃焼と、前記改質燃料の点火を伴わない拡散燃焼と、を含み、
前記制御部は、前記要求トルクが第1所定値未満であるとき、前記燃焼形態を前記第2予混合圧縮着火燃焼に切り替え、前記要求トルクが前記第1所定値以上であり、かつ、前記第1所定値よりも大きい第2所定値未満であるとき、前記燃焼形態を前記第1予混合圧縮着火燃焼に切り替え、前記要求トルクが前記第2所定値以上であり、かつ、前記第2所定値よりも大きい第3所定値未満であるとき、前記燃焼形態を前記火花点火燃焼に切り替え、前記要求トルクが前記第3所定値以上であるとき、前記燃焼形態を前記拡散燃焼に切り替えるように、前記インジェクタと前記点火プラグとを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記燃焼室に噴射される燃料の過酸化物濃度を検出する濃度センサと、
前記エンジンの振動の振幅値を検出するノックセンサと、をさらに備え、
前記制御部は、前記ノックセンサにより検出された振幅値が所定振幅値未満であり、かつ、前記濃度センサにより検出された過酸化物濃度が所定濃度以上であることを条件として、前記火花点火燃焼から前記第1予混合圧縮着火燃焼に切り替えるように前記インジェクタと前記点火プラグとを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記エンジンの振動の振幅値を検出するノックセンサをさらに備え、
前記制御部は、前記ノックセンサにより検出された振幅値が所定振幅値以上であることを条件として、前記第1予混合圧縮着火燃焼から前記火花点火燃焼に切り替えるように前記インジェクタと前記点火プラグとを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記エンジンのクランク角を検出するクランク角センサと、
前記燃焼室に噴射される燃料の過酸化物濃度を検出する濃度センサと、
前記エンジンの振動の振幅値を検出するノックセンサと、をさらに備え、
前記制御部は、前記クランク角センサにより検出されたクランク角に基づいてクランク角加速度を算出し、算出されたクランク角加速度が所定角速度以上であり、かつ、前記ノックセンサにより検出された振幅値が所定振幅値未満であり、かつ、前記濃度センサにより検出された過酸化物濃度が所定濃度以上であることを条件として、前記第1予混合圧縮着火燃焼から前記第2予混合圧縮着火燃焼に切り替えるように前記インジェクタと前記点火プラグとを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記エンジンのクランク角を検出するクランク角センサと、
前記燃焼室に噴射される燃料の過酸化物濃度を検出する濃度センサと、
前記エンジンの振動の振幅値を検出するノックセンサと、をさらに備え、
前記制御部は、前記クランク角センサにより検出されたクランク角に基づいてクランク角加速度を算出し、算出されたクランク角加速度が所定角速度未満であり、かつ、前記ノックセンサにより検出された振幅値が所定振幅値以上であり、かつ、前記濃度センサにより検出された過酸化物濃度が所定濃度以上であることを条件として、前記第2予混合圧縮着火燃焼から前記第1予混合圧縮着火燃焼に切り替えるように前記インジェクタと前記点火プラグとを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記エンジンの振動の振幅値を検出するノックセンサをさらに備え、
前記制御部は、前記ノックセンサにより検出された振幅値が所定振幅値以上であることを条件として、前記火花点火燃焼から前記拡散燃焼に切り替えるように前記インジェクタと前記点火プラグとを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記エンジンのクランク角を検出するクランク角センサと、
前記エンジンの振動の振幅値を検出するノックセンサと、をさらに備え、
前記制御部は、前記クランク角センサにより検出されたクランク角に基づいてクランク角加速度を算出し、算出されたクランク角加速度が所定角速度以上、かつ、前記ノックセンサにより検出された振幅値が所定振幅値未満であることを条件として、前記拡散燃焼から前記火花点火燃焼に切り替えるように前記インジェクタと前記点火プラグとを制御することを特徴とするエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンに供給されるガソリン燃料を改質するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。上記特許文献1記載の装置では、火花点火式エンジン用のオクタン価のガソリン燃料を、必要に応じて車載改質器での酸化反応により着火性の高い低オクタン価ガソリンに改質した上で、燃焼室に噴射し、燃焼室で圧縮着火(拡散燃焼)させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の装置では、着火性の高い改質燃料を用いた拡散燃焼のみを想定している。しかしながら、改質前のガソリン燃料をそのまま用いた方がエンジンの熱効率が高くなる運転領域も存在するため、上記特許文献1記載の装置ではエンジンの熱効率が低下することがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様であるエンジン制御装置は、燃焼室に燃料を噴射するインジェクタと、燃焼室内の燃料と空気との混合気に点火する点火プラグと、を有するエンジンと、エンジンの要求トルクに応じて燃焼形態を切り替えるようにインジェクタと点火プラグとを制御する制御部と、を備える。燃焼形態は、ガソリン燃料の点火を伴う火花点火燃焼と、ガソリン燃料の一部を過酸化物に改質した改質燃料の点火を伴わない第1予混合圧縮着火燃焼と、改質燃料の点火を伴う第2予混合圧縮着火燃焼と、改質燃料の点火を伴わない拡散燃焼と、を含む。制御部は、要求トルクが第1所定値未満であるとき、燃焼形態を第2予混合圧縮着火燃焼に切り替え、要求トルクが第1所定値以上であり、かつ、第1所定値よりも大きい第2所定値未満であるとき、燃焼形態を第1予混合圧縮着火燃焼に切り替え、要求トルクが第2所定値以上であり、かつ、第2所定値よりも大きい第3所定値未満であるとき、燃焼形態を火花点火燃焼に切り替え、要求トルクが第3所定値以上であるとき、燃焼形態を拡散燃焼に切り替えるように、インジェクタと点火プラグとを制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、エンジンの熱効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】火花点火燃焼でのエンジンの熱効率について説明するための図。
【
図2】本発明の実施形態に係るエンジン制御装置のエンジンの内部構成の一例を模式的に示す図。
【
図3】本発明の実施形態に係るエンジン制御装置のエンジンに燃料を供給する燃料供給路の一例を模式的に示す図。
【
図4】本発明の実施形態に係るエンジン制御装置の要部構成の一例を模式的に示すブロック図。
【
図5】燃料中の過酸化物濃度とオクタン価、着火性との関係について説明するための図。
【
図6】エンジンの熱効率を向上する燃焼形態について説明するための図。
【
図7】
図4のECUにより実行される燃焼形態切替処理の一例を示すフローチャート。
【
図8】火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼に切り替えるときの、
図4のECUにより実行される処理の一例を示すフローチャート。
【
図9】予混合圧縮着火燃焼から火花点火燃焼に切り替えるときの、
図4のECUにより実行される処理の一例を示すフローチャート。
【
図10】予混合圧縮着火燃焼から火花点火アシスト予混合圧縮着火燃焼に切り替えるときの、
図4のECUにより実行される処理の一例を示すフローチャート。
【
図11】火花点火アシスト予混合圧縮着火燃焼から予混合圧縮着火燃焼に切り替えるときの、
図4のECUにより実行される処理の一例を示すフローチャート。
【
図12】火花点火燃焼から拡散燃焼に切り替えるときの、
図4のECUにより実行される処理の一例を示すフローチャート。
【
図13】拡散燃焼から火花点火燃焼に切り替えるときの、
図4のECUにより実行される処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図13を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係るエンジン制御装置は、車両に搭載され、燃焼室に燃料を噴射するインジェクタと燃焼室内の混合器に点火する点火プラグとを有するエンジンに適用され、運転領域全体で熱効率を向上するためのエンジン制御を行う。
【0009】
図1は、火花点火(SI(Spark Ignition))燃焼でのエンジンの熱効率について説明するための図である。
図1に示すように、SI燃焼を行う場合、エンジンの要求トルクが小さい低負荷領域では、必要な吸気量が少なくなるため、スロットル開度が小さくなることで吸気時のポンピングロスが増大し、熱効率が低下する。一方、予混合圧縮着火(HCCI(Homogenous Charge Compression Ignition))燃焼では、燃料噴射量により出力トルクを調整するため、低負荷領域でもスロットル開度が全開付近に維持され、ポンピングロスによる熱効率の低下が生じない。
【0010】
点火を伴うSI燃焼を行う場合、エンジンの要求トルクが大きい高負荷領域では、火炎伝播前にシリンダ2の壁面近傍で混合気が自己着火するノッキングを抑制するため、点火時期を最適点火時期(目標点火時期)よりも遅角する必要があり、熱効率が低下する。一方、点火を伴わない拡散燃焼を行う場合は、燃料が蒸発しながら空気と混合して燃焼するため、このような問題が生じない。
【0011】
そこで、本実施形態では、要求トルクに応じて燃焼形態を切り替えることで、エンジンの運転領域全体で熱効率を向上することができるよう、以下のようにエンジン制御装置を構成する。
【0012】
図2は、本発明の実施形態に係るエンジン制御装置(以下、装置)100のエンジン1の内部構成の一例を模式的に示す図である。
図2に示すように、エンジン1は、シリンダ2が形成されるシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上部を覆うシリンダヘッド4とを有する。シリンダヘッド4には、エンジン1への吸気が通過する吸気ポート5と、エンジン1からの排気が通過する排気ポート6とが設けられる。吸気ポート5には吸気ポート5を開閉する吸気バルブ7が設けられ、排気ポート6には排気ポート6を開閉する排気バルブ8が設けられる。吸気バルブ7と排気バルブ8とは不図示の動弁機構により開閉駆動される。
【0013】
各シリンダ2には、シリンダ2内を摺動可能にピストン9が配置され、ピストン9に面して燃焼室10が形成される。燃焼室10に吸気ポート5を介して連通する吸気通路11には、スロットルバルブ12が設けられる。スロットルバルブ12は、例えばバタフライ弁により構成され、スロットルバルブ12により燃焼室10に吸い込まれる空気の量(吸気量)が調整される。スロットルバルブ12の開度(スロットル開度)は、電子制御ユニット(ECU(Electronic Control Unit))50(
図4)により制御される。
【0014】
シリンダヘッド4には、それぞれ燃焼室10を臨むようにインジェクタ13と点火プラグ14とが装着される。インジェクタ13は、筒内噴射型の燃料噴射弁として構成され、燃料を燃焼室10に噴射する。点火プラグ14は、電気エネルギーにより火花を発生し、燃焼室10内の燃料と空気との混合気に点火する。インジェクタ13の燃料噴射時期(開弁時期)、燃料噴射量(開弁時間)、点火プラグ14の点火時期、および点火プラグ14による点火のオン、オフは、ECU50(
図4)により制御される。
【0015】
吸気ポート5が開放、排気ポート6が閉鎖され、ピストン9が下降すると、吸気ポート5から燃焼室10内に空気(新気)が吸い込まれる(吸気行程)。吸気ポート5および排気ポート6が閉鎖され、ピストン9が上昇すると、燃焼室10内の空気または混合気が圧縮され、燃焼室10内の圧力が徐々に上昇する(圧縮行程)。
【0016】
SI燃焼を行う場合、吸気行程または圧縮行程でインジェクタ13から燃焼室10に燃料が噴射され、圧縮上死点TDC(Top Dead Center)付近で点火プラグ14により混合気が点火され、火炎伝播により燃焼室10内の燃料が燃焼する。SI燃焼では、ガソリン燃料が用いられる。
【0017】
HCCI燃焼を行う場合、吸気行程または圧縮行程でインジェクタ13から燃焼室10に燃料が噴射され、燃焼室10内の混合気が圧縮されることで温度上昇すると、圧縮上死点TDC付近で自己着火により燃料が燃焼する。HCCI燃焼では、エンジンの要求トルクが比較的大きく、燃焼が安定する領域では、ガソリン燃料を用いることができる。エンジンの要求トルクが比較的小さく、燃焼が不安定となる領域でHCCI燃焼を行う場合は、ガソリン燃料よりも着火性の高い燃料を用いる必要がある。
【0018】
エンジンの要求トルクがさらに小さい領域でHCCI燃焼を行う場合は、着火性の高い燃料の利用に加え、圧縮上死点TDC付近で点火プラグ14により混合気に点火し、着火を補助する必要がある。このような燃焼を、以下では火花点火アシスト予混合圧縮着火(SAHCCI(Spark Assist Homogeneous Charge Compression Ignition))燃焼と称する。SAHCCI燃焼では、火炎伝播により燃焼室10内の燃料の一部が燃焼し、燃焼により高温となった燃焼室10内で残りの燃料が自己着火により燃焼する。
【0019】
拡散燃焼を行う場合、インジェクタ13から燃焼室10に燃料が噴射されると、燃料が蒸発しながら空気と混合し、燃焼する。拡散燃焼では、着火性の高い燃料を用いる必要がある。
【0020】
燃焼室10内で燃料が燃焼すると、燃焼室10内の圧力が急激に上昇し、ピストン9が下降する(膨張行程)。吸気ポート5が閉鎖、排気ポート6が開放され、ピストン9が上昇すると、燃焼室10内の空気(排気)が排気ポート6から排出される(排気行程)。ピストン9がシリンダ2の内壁に沿って往復動することで、コンロッド15を介してクランクシャフト16が回転する。
【0021】
エンジン1のクランクシャフト16には、クランクシャフト16の回転角(クランク角)θを検出するクランク角センサ17が設けられる。クランク角センサ17による検出結果を示す信号は、ECU50(
図4)に送信される。図示は省略するが、エンジン1には、シリンダブロック3に取り付けられ、エンジン1の振動の振幅値Kを検出するノックセンサ18(
図4)も設けられる。ノックセンサ18による検出結果を示す信号は、ECU50(
図4)に送信される。ノックセンサ18に代えて、燃焼室10内の圧力(筒内圧)Pを検出する筒内圧センサを設けてもよい。この場合、クランク角θの変化に対する筒内圧Pの変動dP/dθを算出し、筒内圧Pの変動dP/dθに基づいてエンジン1の振動の振幅値Kを算出することができる。
【0022】
炭化水素を主成分とするガソリン燃料は、N-ヒドロキシフタルイミド(NHPI)等の触媒を用いて酸化改質し、過酸化物を生成することで、その着火性を向上することができる。具体的には、NHPIは、酸素分子により容易に水素原子が引き抜かれ、フタルイミド-N-オキシル(PINO)ラジカルを生成する。PINOラジカルは、燃料に含まれる炭化水素(RH)から水素原子を引き抜き、アルキルラジカル(R・)を生成する。アルキルラジカルは、酸素分子と結合してアルキルペルオキシラジカル(ROO・)を生成する。アルキルペルオキシラジカルは、燃料に含まれる炭化水素から水素原子を引き抜き、過酸化物であるアルキルヒドロペルオキシド(ROOH)、例えばクメンヒドロペルオキシドを生成する。
【化1】
【0023】
酸化反応が進行すると過酸化物濃度が増加し、さらに酸化反応が進行すると過酸化物がアルコール、アルデヒド、ケトンなどの酸化物に分解され、過酸化物濃度が減少するとともに酸化物濃度が増加する。燃料中の過酸化物濃度を高め、燃料の着火性を向上するには、酸化反応の進行度を適正な範囲内に調整する必要がある。具体的には、ガソリン燃料の一部を酸化改質した改質燃料のオクタン価が所定値以下となるよう、改質燃料中の過酸化物濃度が所定濃度以上となるように調整する必要がある。
【0024】
図3は、装置100のエンジン1に燃料を供給する燃料供給路20の一例を模式的に示す図である。
図3に示すように、燃料供給路20には、ガソリン燃料を貯留する燃料タンク21と、ガソリン燃料を酸化改質する改質器22と、改質燃料を貯留する改質燃料タンク23と、ガソリン燃料と改質燃料とを混合する混合器24とが設けられる。混合器24により混合された混合燃料は、インジェクタ13(
図2)を介してエンジン1の燃焼室10に噴射される。
【0025】
燃料タンク21の液相と改質器22の入口とは、配管25を介して接続され、配管25に設けられた電動ポンプ26により、配管25を介して、燃料タンク21に貯留されたガソリン燃料が改質器22に供給される。電動ポンプ26の動作は、ECU50(
図4)により制御される。
【0026】
改質器22には、NHPI等の触媒が充填される。改質器22には、改質器22の温度を調整するヒータ27が設けられ、温度に応じた改質率で、燃料タンク21から供給されたガソリン燃料の一部を過酸化物に酸化改質する。酸化改質後の改質燃料には、改質率に応じた割合で、クメンヒドロペルオキシド等の過酸化物が含まれる。ヒータ27の動作は、ECU50(
図4)により制御される。
【0027】
改質器22の出口と改質燃料タンク23とは、配管28を介して接続される。改質器22で改質された改質燃料は、配管28を介して改質燃料タンク23に供給される。改質器22と改質燃料タンク23との間の配管28には、凝縮器29が設けられる。改質後の気体の燃料は、凝縮器29で凝縮し、液体として改質燃料タンク23に貯留される。改質燃料タンク23には、例えば静電容量式の濃度センサ23aが設けられ、改質燃料タンク23に液体として貯留された改質燃料の過酸化物濃度C1を検出する。濃度センサ23aによる検出結果を示す信号は、ECU50(
図4)に送信される。
【0028】
燃料タンク21の液相は、さらに、配管30を介して混合器24に接続される。燃料タンク21に貯留されたガソリン燃料は、配管30に設けられた電動ポンプ31により、配管30を介して混合器24に供給される。改質燃料タンク23の液相は、配管32を介して混合器24に接続される。改質燃料タンク23に貯留された改質燃料は、配管32に設けられた電動ポンプ33により、配管32を介して混合器24に供給される。電動ポンプ31,33の動作は、ECU50(
図4)により制御される。混合器24には、例えば静電容量式の濃度センサ24aが設けられ、混合燃料の過酸化物濃度C2を検出する。濃度センサ24aによる検出結果を示す信号は、ECU50(
図4)に送信される。エンジン1が筒内圧センサを有する場合は、筒内圧Pに基づいてエンジン1に供給されている燃料の着火性を推定し、燃料の着火性に基づいて燃料中の過酸化物濃度C2を推定してもよい。この場合、濃度センサ24aを省略してもよい。
【0029】
図4は、装置100の要部構成の一例を模式的に示すブロック図である。
図4に示すように、装置100は、主にECU50により構成され、ECU50は、CPU等の処理部51と、ROM,RAM等の記憶部52と、I/Oインターフェース等の図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。ECU50は、エンジン1の動作を制御するエンジン制御用ECUの一部として構成されてもよい。
【0030】
ECU50には、クランク角センサ17と、ノックセンサ18と、濃度センサ23a,24aとが電気的に接続され、各センサからの信号が入力される。また、ECU50には、スロットルバルブ12、インジェクタ13、点火プラグ14、電動ポンプ26,31,33、およびヒータ27のアクチュエータが電気的に接続され、ECU50から各アクチュエータに制御信号が送信される。
【0031】
ECU50は、エンジン回転数、要求トルク等のエンジン1の運転条件に応じて、スロットルバルブ12の開度、インジェクタ13の燃料噴射時期および燃料噴射量、点火プラグ14の点火時期、および点火プラグ14による点火のオン、オフ等を制御する。スロットルバルブ12の目標開度、インジェクタ13の目標燃料噴射時期および目標燃料噴射量、点火プラグ14の目標点火時期等は、エンジン1の運転条件に応じて予め定められ、特性マップ等としてECU50の記憶部52に記憶される。また、ECU50は、濃度センサ23aにより検出される改質燃料の過酸化物濃度C1が、所定オクタン価に対応する所定濃度以上となるように、電動ポンプ26およびヒータ27を制御する。これにより、改質燃料タンク23には、過酸化物濃度C1が所定濃度以上、オクタン価が所定値以下の改質燃料が貯留される。
【0032】
図5は、エンジン1に供給される燃料中の過酸化物濃度C2とオクタン価および着火性との関係について説明するための図である。
図5に示すように、過酸化物濃度C2が高いほど、オクタン価が低く、着火性が高くなる。
【0033】
図6は、エンジン1の熱効率を向上する燃焼形態について説明するための図であり、予め設定され、ECU50の記憶部52に記憶される特性マップの一例を示す。
図6に示すように、エンジン1の熱効率を向上する観点では、要求トルクが第1所定値Te1未満のときはSAHCCI燃焼、第1所定値Te1以上、第2所定値Te2未満のときはHCCI燃焼、第2所定値Te2以上、第3所定値Te3未満のときは、SI燃焼、第3所定値Te3以上のときは、拡散燃焼を行うことが好ましい(Te1<Te2<Te3)。第1所定値Te1、第2所定値Te2、および第3所定値Te3は、エンジン回転数、要求トルク等のエンジン1の運転条件に応じて予め設定され、例えば特性マップとしてECU50の記憶部52に記憶される。
【0034】
ECU50(処理部51)は、記憶部52に記憶された特性マップを参照し、エンジン1の要求トルクに応じて最適な燃焼形態を特定し、必要に応じて燃焼形態を切り替えるように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。より具体的には、ガソリン燃料による燃焼を行う場合は、電動ポンプ33をオフ、電動ポンプ31をオンにして、燃料タンク21に貯留されたガソリン燃料をそのままインジェクタ13に導く。改質燃料による燃焼を行う場合は、電動ポンプ31をオフ、電動ポンプ33をオンにして、改質燃料タンク23に貯留された改質燃料をインジェクタ13に導く。このとき、改質燃料タンク23に貯留された改質燃料の残量が不足している場合には、電動ポンプ33に加えて電動ポンプ31もオンにして、ガソリン燃料と改質燃料との混合燃料をインジェクタ13に導いてもよい。
【0035】
SI燃焼を行う場合は、記憶部52に記憶されたSI燃焼用の目標スロットル開度マップ、目標燃料噴射時期マップ、目標燃料噴射量マップ、目標点火時期マップに従ってスロットルバルブ12、インジェクタ13、点火プラグ14を制御する。HCCI燃焼を行う場合は、記憶部52に記憶されたHCCI燃焼用の目標スロットル開度マップ、目標燃料噴射時期マップ、目標燃料噴射量マップに従ってスロットルバルブ12、インジェクタ13を制御するとともに、点火プラグ14による点火をオフにする。SAHCCI燃焼を行う場合は、記憶部52に記憶されたSAHCCI燃焼用の目標スロットル開度マップ、目標燃料噴射時期マップ、目標燃料噴射量マップ、目標点火時期マップに従ってスロットルバルブ12、インジェクタ13、点火プラグ14を制御する。拡散燃焼を行う場合は、記憶部52に記憶された拡散燃焼用の目標スロットル開度マップ、目標燃料噴射時期マップ、目標燃料噴射量マップに従ってスロットルバルブ12、インジェクタ13を制御するとともに、点火プラグ14による点火をオフにする。
【0036】
このように、要求トルクに応じて燃焼形態を切り替えることで、エンジン1の運転領域全体で熱効率を向上することができる。このとき、ガソリン燃料に加え、改質燃料を用いることで、中負荷領域でのSI燃焼やHCCI燃焼だけでなく、低負荷領域でのHCCI燃焼やSAHCCI燃焼、高負荷領域での拡散燃焼にも切り替えることができる。
【0037】
<SI燃焼からHCCI燃焼への切り替え>
ECU50は、SI燃焼を実行中に要求トルクが第2所定値Te2未満になると、ノックセンサ18により検出された振幅値Kが所定振幅値Kα未満、濃度センサ24aにより検出された過酸化物濃度C2が所定濃度Cα以上であることを条件として、HCCI燃焼への切り替えを行う。所定振幅値Kαおよび所定濃度Cαは、エンジン回転数、要求トルク等のエンジン1の運転条件に応じて予め設定され、例えば特性マップとしてECU50の記憶部52に記憶される。
【0038】
なお、過酸化物濃度C2が所定濃度Cα未満で、切り替えるべき改質燃料中の過酸化物濃度が不足している場合は、電動ポンプ26およびヒータ27を制御して改質燃料中の過酸化物濃度を増加させた上で切り替えを行うことができる。
【0039】
ECU50は、HCCI燃焼に切り替えた後、振幅値Kが所定振幅値Kα未満となった場合は、HCCI燃焼が安定して行われていると判定する。一方、振幅値Kが所定振幅値Kα以上となった場合は、改質燃料をガソリン燃料に戻す。この場合、ガソリン燃料によるHCCI燃焼に移行する。ガソリン燃料によるHCCI燃焼に移行した後も振幅値Kが所定振幅値Kα以上である場合は、燃焼形態をSI燃焼に戻し、ガソリン燃料によるSI燃焼に戻す。
【0040】
<HCCI燃焼からSI燃焼への切り替え>
ECU50は、HCCI燃焼を実行中に要求トルクが第2所定値Te2以上になると、振幅値Kが所定振幅値Kα以上であることを条件として、SI燃焼への切り替えを行う。ECU50は、SI燃焼に切り替えた後、振幅値Kが所定振幅値Kα未満となった場合は、SI燃焼が安定して行われていると判定する。一方、振幅値Kが所定振幅値Kα以上となった場合は、点火時期を遅角するように点火プラグ14を制御する。振幅値Kが所定振幅値Kα未満となるまで点火時期を遅角することで、SI燃焼を安定させることができる。
【0041】
<HCCI燃焼からSAHCCI燃焼への切り替え>
ECU50は、クランク角センサ17により検出されたクランク角θに基づいてクランク角加速度d2θ/d2tを算出する。ECU50は、HCCI燃焼を実行中に要求トルクが第1所定値Te1未満になると、クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aα以上、振幅値Kが所定振幅値Kβ未満、過酸化物濃度C2が所定濃度Cβ以上であることを条件として、SAHCCI燃焼への切り替えを行う。所定角速度aα、所定振幅値Kβ、および所定濃度Cβは、エンジン回転数、要求トルク等のエンジン1の運転条件に応じて予め設定され、例えば特性マップとしてECU50の記憶部52に記憶される。
【0042】
ECU50は、SAHCCI燃焼に切り替えた後、クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aα未満、振幅値Kが所定振幅値Kβ未満となった場合は、SAHCCI燃焼が安定して行われていると判定する。一方、クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aα以上または振幅値Kが所定振幅値Kβ以上となった場合は、点火時期を遅角するように点火プラグ14を制御する。クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aα未満、振幅値Kが所定振幅値Kβ未満となるまで点火時期を遅角することで、SAHCCI燃焼を安定させることができる。
【0043】
ECU50は、HCCI燃焼からSAHCCI燃焼への切り替えを行わない場合、過酸化物濃度C2が所定濃度Cβ以上のときは、HCCI燃焼を継続する。一方、過酸化物濃度C2が所定濃度Cβ未満のときは、ガソリン燃料によるSI燃焼に切り替える。ECU50は、SI燃焼に切り替えた後、クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aα未満、振幅値Kが所定振幅値Kβ未満となった場合は、SI燃焼が安定して行われていると判定する。一方、クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aα以上または振幅値Kが所定振幅値Kβ以上となった場合は、点火時期を遅角するように点火プラグ14を制御する。クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aα未満、振幅値Kが所定振幅値Kβ未満となるまで点火時期を遅角することで、SI燃焼を安定させることができる。
【0044】
<SAHCCI燃焼からHCCI燃焼への切り替え>
ECU50は、SAHCCI燃焼を実行中に要求トルクが第1所定値Te1以上になると、クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aα未満、振幅値Kが所定振幅値Kβ以上、過酸化物濃度C2が所定濃度Cγ以上であることを条件として、HCCI燃焼への切り替えを行う。所定濃度Cγは、エンジン回転数、要求トルク等のエンジン1の運転条件に応じて予め設定され、例えば特性マップとしてECU50の記憶部52に記憶される。
【0045】
ECU50は、HCCI燃焼に切り替えた後、振幅値Kが所定振幅値Kβ未満となった場合は、HCCI燃焼が安定して行われていると判定する。一方、振幅値Kが所定振幅値Kβ以上となった場合は、改質燃料に代えてガソリン燃料を噴射するようにインジェクタ13を制御する。着火性の高い改質燃料に代えて着火性の低いガソリン燃料を用いることで、HCCI燃焼を安定させることができる。
【0046】
<SI燃焼から拡散燃焼への切り替え>
ECU50は、SI燃焼を実行中に要求トルクが第3所定値Te3以上になると、振幅値Kが所定振幅値Kγ以上であることを条件として、拡散燃焼への切り替えを行う。所定振幅値Kγは、エンジン回転数、要求トルク等のエンジン1の運転条件に応じて予め設定され、例えば特性マップとしてECU50の記憶部52に記憶される。
【0047】
ECU50は、拡散燃焼に切り替えた後、振幅値Kが所定振幅値Kε未満となった場合は、拡散燃焼が安定して行われていると判定する。一方、振幅値Kが所定振幅値Kε以上となった場合は、燃料噴射時期を遅角するようにインジェクタ13を制御する。振幅値Kが所定振幅値Kε未満となるまで燃料噴射時期を遅角することで、拡散燃焼を安定させることができる。所定振幅値Kεは、エンジン回転数、要求トルク等のエンジン1の運転条件に応じて予め設定され、例えば特性マップとしてECU50の記憶部52に記憶される。
【0048】
<拡散燃焼からSI燃焼への切り替え>
ECU50は、拡散燃焼を実行中に要求トルクが第3所定値Te3未満になると、クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aβ以上、振幅値Kが所定振幅値Kε未満であることを条件として、SI燃焼への切り替えを行う。所定角速度aβは、エンジン回転数、要求トルク等のエンジン1の運転条件に応じて予め設定され、例えば特性マップとしてECU50の記憶部52に記憶される。
【0049】
ECU50は、SI燃焼に切り替えた後、クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aβ未満、振幅値Kが所定振幅値Kε未満となった場合は、SI燃焼が安定して行われていると判定する。一方、クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aβ以上または振幅値Kが所定振幅値Kε以上となった場合は、点火時期を遅角するように点火プラグ14を制御する。クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aβ未満、振幅値Kが所定振幅値Kε未満となるまで点火時期を遅角することで、SI燃焼を安定させることができる。
【0050】
図7~
図13は、
図4のECU50により実行される燃焼形態切替処理の一例を示すフローチャートである。
図7~
図13の処理は、エンジン1の運転中、所定周期で繰り返し実行される。
図7に示すように、先ずステップS1で、記憶部52に記憶された特性マップを参照し、エンジン1の運転条件に応じて最適な燃焼形態を特定する。次いでステップS2で、現在実行中の燃焼形態とステップS1で特定された最適な燃焼形態とが異なり、燃焼形態を切り替える必要があるか否かを判定する。ステップS2で肯定されると、ステップS3に進み、
図8~
図13の切替処理を実行する。ステップS2で否定されると、処理を終了する。
【0051】
図8は、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときの切替処理の一例を示す。
図8に示すように、先ずステップS10で、振幅値Kが所定振幅値Kα未満であり、かつ、過酸化物濃度C2が所定濃度Cα以上であるか否かを判定する。ステップS10で肯定されると、ステップS11に進み、改質燃料によるHCCI燃焼を行うように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。次いでステップS12で、振幅値Kが所定振幅値Kα未満であるか否かを判定する。ステップS12で肯定されると、燃焼が安定して行われていると判定し、処理を終了する。ステップS12で否定されると、ステップS13に進み、ガソリン燃料によるHCCI燃焼を行うように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。次いでステップS14で、振幅値Kが所定振幅値Kα未満であるか否かを判定する。ステップS14で肯定されると、燃焼が安定して行われていると判定し、処理を終了する。ステップS14で否定されると、ステップS15に進み、ガソリン燃料によるSI燃焼を行うように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。
【0052】
図9は、HCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときの切替処理の一例を示す。
図9に示すように、先ずステップS20で、振幅値Kが所定振幅値Kα以上であるか否かを判定する。ステップS20で肯定されると、ステップS21に進み、ガソリン燃料によるSI燃焼を行うように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。次いでステップS22で、振幅値Kが所定振幅値Kα未満であるか否かを判定する。ステップS22で肯定されると、燃焼が安定して行われていると判定し、処理を終了する。ステップS22で否定されると、ステップS23に進み、点火時期を遅角するように点火プラグ14を制御する。ステップS20で否定されると、ステップS24に進み、HCCI燃焼を継続するように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。
【0053】
図10は、HCCI燃焼からSAHCCI燃焼に切り替えるときの切替処理の一例を示す。
図10に示すように、先ずステップS30で、クランク角加速度d
2θ/d
2tが所定角速度aα以上であり、かつ、振幅値Kが所定振幅値Kβ未満であり、かつ、過酸化物濃度C2が所定濃度Cβ以上であるか否かを判定する。ステップS30で肯定されると、ステップS31に進み、改質燃料によるSAHCCI燃焼を行うように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。次いでステップS32で、クランク角加速度d
2θ/d
2tが所定角速度aα未満であり、かつ、振幅値Kが所定振幅値Kβ未満であるか否かを判定する。ステップS32で肯定されると、燃焼が安定して行われていると判定し、処理を終了する。ステップS32で否定されると、ステップS33に進み、点火時期を遅角するように点火プラグ14を制御する。
【0054】
ステップS30で否定されると、ステップS34に進み、過酸化物濃度C2が所定濃度Cβ未満であるか否かを判定する。ステップS34で肯定されると、ステップS35に進み、ガソリン燃料によるSI燃焼を行うように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。次いでステップS36で、クランク角加速度d2θ/d2tが所定角速度aα未満であり、かつ、振幅値Kが所定振幅値Kβ未満であるか否かを判定する。ステップS36で肯定されると、燃焼が安定して行われていると判定し、処理を終了する。ステップS36で否定されると、ステップS37に進み、点火時期を遅角するように点火プラグ14を制御する。ステップS34で否定されると、ステップS38に進み、HCCI燃焼を継続するように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。
【0055】
図11は、SAHCCI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときの切替処理の一例を示す。
図11に示すように、先ずステップS40で、クランク角加速度d
2θ/d
2tが所定角速度aα未満であり、かつ、振幅値Kが所定振幅値Kβ以上であり、かつ、過酸化物濃度C2が所定濃度Cγ以上であるか否かを判定する。ステップS40で肯定されると、ステップS41に進み、改質燃料によるHCCI燃焼を行うように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。次いでステップS42で、振幅値Kが所定振幅値Kβ未満であるか否かを判定する。ステップS42で肯定されると、燃焼が安定して行われていると判定し、処理を終了する。ステップS42で否定されると、ステップS43に進み、ガソリン燃料によるHCCI燃焼を行うように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。ステップS40で否定されると、ステップS44に進み、SAHCCI燃焼を継続するように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。
【0056】
図12は、SI燃焼から拡散燃焼に切り替えるときの切替処理の一例を示す。
図12に示すように、先ずステップS50で、振幅値Kが所定振幅値Kγ以上であるか否かを判定する。ステップS50で肯定されると、ステップS51に進み、改質燃料による拡散燃焼を行うように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。次いでステップS52で、振幅値Kが所定振幅値Kε未満であるか否かを判定する。ステップS52で肯定されると、燃焼が安定して行われていると判定し、処理を終了する。ステップS52で否定されると、ステップS53に進み、噴射時期を遅角するようにインジェクタ13を制御する。ステップS50で否定されると、ステップS54に進み、ガソリン燃料によるSI燃焼を継続するように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。
【0057】
図13は、拡散燃焼からSI燃焼に切り替えるときの切替処理の一例を示す。
図13に示すように、先ずステップS60で、クランク角加速度d
2θ/d
2tが所定角速度aβ以上であり、かつ、振幅値Kが所定振幅値Kε未満であるか否かを判定する。ステップS60で肯定されると、ステップS61に進み、ガソリン燃料によるSI燃焼を行うように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。次いでステップS62で、クランク角加速度d
2θ/d
2tが所定角速度aβ未満であり、かつ、振幅値Kが所定振幅値Kε未満であるか否かを判定する。ステップS62で肯定されると、燃焼が安定して行われていると判定し、処理を終了する。ステップS62で否定されると、ステップS63に進み、点火時期を遅角するように点火プラグ14を制御する。ステップS60で否定されると、ステップS64に進み、改質燃料による拡散燃焼を継続するように、電動ポンプ31,33、スロットルバルブ12、インジェクタ13、および点火プラグ14を制御する。
【0058】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)装置100は、燃焼室10に燃料を噴射するインジェクタ13と燃焼室10内の燃料と空気との混合気に点火する点火プラグ14とを有するエンジン1と、エンジン1の要求トルクに応じて燃焼形態を切り替えるようにインジェクタ13と点火プラグ14とを制御するECU50とを備える(
図2、
図4、
図7)。燃焼形態は、ガソリン燃料の点火を伴うSI燃焼と、ガソリン燃料の一部を過酸化物に改質した改質燃料の点火を伴わないHCCI燃焼と、改質燃料の点火を伴うSAHCCI燃焼と、改質燃料の点火を伴わない拡散燃焼とを含む(
図6)。
【0059】
ECU50は、要求トルクが第1所定値Te1未満であるとき、燃焼形態をSAHCCI燃焼に切り替え、要求トルクが第1所定値Te1以上であり、かつ、第1所定値Te1よりも大きい第2所定値Te2未満であるとき、燃焼形態をHCCI燃焼に切り替え、要求トルクが第2所定値Te2以上であり、かつ、第2所定値Te2よりも大きい第3所定値Te3未満であるとき、燃焼形態をSI燃焼に切り替え、要求トルクが第3所定値Te3以上であるとき、燃焼形態を拡散燃焼に切り替えるように、インジェクタ13と点火プラグ14とを制御する(
図6~
図13)。このように、エンジン1の要求トルクに応じて燃焼形態を切り替え、最適な燃焼形態を採ることで、エンジン1の運転領域全体で熱効率を向上することができる。
【0060】
(2)装置100は、燃焼室10に噴射される燃料の過酸化物濃度C2を検出する濃度センサ24aと、エンジン1の振動の振幅値Kを検出するノックセンサ18とを備える(
図4)。ECU50は、ノックセンサ18により検出された振幅値Kが所定振幅値Kα未満であり、かつ、濃度センサ24aにより検出された過酸化物濃度C2が所定濃度Cα以上であることを条件として、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるようにインジェクタ13と点火プラグ14とを制御する(
図8)。
【0061】
(3)装置100は、エンジン1の振動の振幅値Kを検出するノックセンサ18を備える(
図4)。ECU50は、ノックセンサ18により検出された振幅値Kが所定振幅値Kα以上であることを条件として、HCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるようにインジェクタ13と点火プラグ14とを制御する(
図9)。
【0062】
エンジン1の中負荷領域ではSI燃焼、低負荷領域ではHCCI燃焼を採用することで、ポンピングロスによる熱効率低下を解消し、エンジン1の低負荷領域での熱効率を向上することができる。このとき、エンジン1の振動の振幅値Kや過酸化物濃度C2が所定の条件を満たすことを条件として燃焼形態の切り替えを行うことで、燃焼形態を切り替える際の燃焼の安定性を確保することができる。
【0063】
(4)装置100は、エンジン1のクランク角θを検出するクランク角センサ17と、燃焼室10に噴射される燃料の過酸化物濃度C2を検出する濃度センサ24aと、エンジン1の振動の振幅値Kを検出するノックセンサ18とを備える(
図4)。ECU50は、クランク角センサ17により検出されたクランク角θに基づいてクランク角加速度d
2θ/d
2tを算出し、算出されたクランク角加速度d
2θ/d
2tが所定角速度aα以上であり、かつ、ノックセンサ18により検出された振幅値Kが所定振幅値Kβ未満であり、かつ、濃度センサ24aにより検出された過酸化物濃度C2が所定濃度Cβ以上であることを条件として、HCCI燃焼からSAHCCI燃焼に切り替えるようにインジェクタ13と点火プラグ14とを制御する(
図10)。
【0064】
(5)装置100は、エンジン1のクランク角θを検出するクランク角センサ17と、燃焼室10に噴射される燃料の過酸化物濃度C2を検出する濃度センサ24aと、エンジン1の振動の振幅値Kを検出するノックセンサ18とを備える(
図4)。ECU50は、クランク角センサ17により検出されたクランク角θに基づいてクランク角加速度d
2θ/d
2tを算出し、算出されたクランク角加速度d
2θ/d
2tが所定角速度aα未満であり、かつ、ノックセンサ18により検出された振幅値Kが所定振幅値Kβ以上であり、かつ、濃度センサ24aにより検出された過酸化物濃度C2が所定濃度Cγ以上であることを条件として、SAHCCI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるようにインジェクタ13と点火プラグ14とを制御する(
図11)。
【0065】
エンジン1の低負荷領域の中でも特に要求トルクの小さい極低負荷領域ではSAHCCI燃焼を採用し、点火により燃料の自己着火を補助することで、極低負荷領域での燃焼の安定性を確保することができる。このとき、エンジン1の振動の振幅値Kや過酸化物濃度C2、クランク角加速度d2θ/d2tが所定の条件を満たすことを条件として燃焼形態の切り替えを行うことで、燃焼形態を切り替える際の燃焼の安定性を確保することができる。
【0066】
(6)装置100は、エンジン1の振動の振幅値Kを検出するノックセンサ18を備える(
図4)。ECU50は、ノックセンサ18により検出された振幅値Kが所定振幅値Kγ以上であることを条件として、SI燃焼から拡散燃焼に切り替えるようにインジェクタ13と点火プラグ14とを制御する(
図12)。
【0067】
(7)装置100は、エンジン1のクランク角θを検出するクランク角センサ17と、エンジン1の振動の振幅値Kを検出するノックセンサ18と備える(
図4)。ECU50は、クランク角センサ17により検出されたクランク角θに基づいてクランク角加速度d
2θ/d
2tを算出し、算出されたクランク角加速度d
2θ/d
2tが所定角速度aβ以上、かつ、ノックセンサ18により検出された振幅値Kが所定振幅値Kε未満であることを条件として、拡散燃焼からSI燃焼に切り替えるようにインジェクタ13と点火プラグ14とを制御する(
図13)。
【0068】
エンジン1の中負荷領域ではSI燃焼、高負荷領域では拡散燃焼を採用することで、ノッキング回避のための点火時期遅角による熱効率低下を解消し、エンジン1の高負荷領域での熱効率を向上することができる。このとき、エンジン1の振動の振幅値Kやクランク角加速度d2θ/d2tが所定の条件を満たすことを条件として燃焼形態の切り替えを行うことで、燃焼形態を切り替える際の燃焼の安定性を確保することができる。
【0069】
上記実施形態では、
図2等でエンジン1の内部構成を例示して説明したが、インジェクタや点火プラグの配置等のエンジンの内部構成は、図示したものに限定されない。
【0070】
上記実施形態では、車両に搭載された改質器22によりオンボードで改質した改質燃料を用いる例を説明したが、ガソリン燃料の一部を過酸化物に改質した改質燃料は、このようなものに限定されない。例えば、予め製造され、車載燃料タンクに貯留された改質燃料であってもよい。
【0071】
上記実施形態では、
図3、
図4等で改質燃料を改質燃料タンク23に貯留し、ECU50が電動ポンプ33およびインジェクタ13を制御することで改質燃料をエンジン1に供給する例を説明したが、インジェクタを制御する制御部は、このようなものに限定されない。例えば、電動ポンプ33に代えて電動ポンプ26およびヒータ27を制御し、改質器22のオン、オフを切り替えたり、改質器22による改質率や改質量を調整したりすることで改質燃料をエンジン1に供給してもよい。この場合、改質燃料タンク23および電動ポンプ33を設けなくてもよい。
【0072】
上記実施形態では、
図3等でガソリン燃料と改質燃料とを混合する混合器24を設ける例を説明したが、十分な量の改質燃料を供給できる場合には混合器24を設けなくてもよい。
【0073】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 エンジン、10 燃焼室、13 インジェクタ、14 点火プラグ、17 クランク角センサ、18 ノックセンサ、20 燃料供給路、21 燃料タンク、22 改質器、23 改質燃料タンク、23a,24a 濃度センサ、24 混合器、26,31,33 電動ポンプ、27 ヒータ、50 ECU、51 処理部、52 記憶部、100 エンジン制御装置(装置)