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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140070
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】聴覚測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/12 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A61B5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051063
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】野中 隆司
(72)【発明者】
【氏名】岡井 凜太郎
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038AA04
4C038AB07
4C038AB10
(57)【要約】
【課題】測定における検者の負担を軽減する技術の提供。
【解決手段】聴覚測定装置1には、被検者の応答が得られた音の提示レベルを記録するための仮閾値ボタンが設けられている。周波数毎の測定において、予備測定で得られたレベルより10~20dB下げたレベルから音を提示し、応答が得られるまで5dBステップで提示レベルを上げていき、検者が正当な応答であると判断して仮閾値ボタンを押下すると(S24:Yes→S28)、現在の提示レベルが仮閾値としてメモリに記録され、画面表示されたオージオグラム上にその仮閾値を示す記号が追加される(S30)。測定を繰り返し、最新の仮閾値が現在の周波数についての測定回数における過半数に達すると(S42:Yes)、仮閾値の表示が変化し、数秒後に聴覚閾値が確定されてその記号が追加される(S44)。検者は、仮閾値の管理や過半数の判断を自ら行う必要がないため、負担が大幅に軽減される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定の過程で得られた値を記憶する記憶手段と、
少なくとも、周波数毎の測定において被検者に提示する音の提示レベルを調整するためのレベル調整部と、被検者からの応答が得られた前記提示レベルを前記記憶手段に記憶させるための仮閾値ボタンと、測定対象の周波数に対する聴覚閾値を確定させるための閾値ボタンとを有する操作手段と、
前記操作手段が受け付けた操作に応じた制御を実行し、前記仮閾値ボタンが所定の態様で操作されると、その時点での前記提示レベルを仮閾値として前記記憶手段に記憶させる制御手段と
を備えた聴覚測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の聴覚測定装置において、
前記制御手段は、
前記記憶手段が記憶した複数個の前記仮閾値のうち、いずれかの前記仮閾値の個数が全個数の過半数に達したか否かを判定することを特徴とする聴覚測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の聴覚測定装置において、
前記制御手段は、
過半数に達したと判定すると、直ちに又は所定の条件が満たされた後に、過半数に達した前記仮閾値を測定対象の周波数に対する聴覚閾値として確定し、前記記憶手段に記憶させることを特徴とする聴覚測定装置。
【請求項4】
請求項2に記載の聴覚測定装置において、
前記制御手段は、
前記閾値ボタンが前記所定の態様で操作されると、前記記憶手段に前記仮閾値が記憶されているか否かに関わらず、その時点での前記提示レベルを測定対象の周波数に対する聴覚閾値として確定して前記記憶手段に記憶させるとともに、その時点で前記記憶手段に記憶されている全ての前記仮閾値を消去することを特徴とする聴覚測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の聴覚測定装置において、
前記制御手段は、
前記仮閾値を記憶させた後に、前記提示レベルを所定の上げ幅で上げ、一定時間が経過した後に、前記提示レベルを所定の下げ幅で下げることを特徴とする聴覚測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の聴覚測定装置において、
前記制御手段は、
前記仮閾値ボタンが前記所定の態様とは異なる態様で操作されると、その時点での前記提示レベルを予備測定における聴覚閾値として前記記憶手段に記憶させ、その後に実施される前記周波数毎の測定の開始時に、前記提示レベルを前記予備測定における聴覚閾値より低くすることを特徴とする聴覚測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の聴覚測定装置において、
前記制御手段により過半数に達したとの判定がなされると、そのことを報知する表示を行う表示手段をさらに備えた聴覚測定装置。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の聴覚測定装置において、
前記操作手段は、
測定対象の周波数を切り替えるための複数の周波数ボタンをさらに有しており、
前記制御手段は、
いずれかの前記周波数ボタンが前記所定の態様で操作されると、当該周波数ボタンに応じて測定対象の周波数を切り替えるとともに、その時点で前記記憶手段に記憶されている全ての前記仮閾値を消去することを特徴とする聴覚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の聴覚機能を測定するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人の聞こえの程度を測定する際には、オージオメータに代表されるような専用の装置が用いられる。測定においては、被検者が、装置に設けられた操作パネルを操作して測定対象の周波数毎に提示レベルを変えながら音を被検者に聞かせ、被検者は、音が聞こえたら装置に接続された応答ボタン等を用いて聞こえたことを検者に伝える。そして、被検者による応答の状況を踏まえて、検者が所定のボタンを押下すると、その時点での提示レベルがその周波数に対する聴覚閾値として確定される。
【0003】
より具体的には、検者が、予備測定を行って被検者のおおよその聴覚閾値を予め調べた後に、本測定に進み、予備測定で得られた聴覚閾値よりも10~20dB低いレベルから音を提示して、5dBずつ提示レベルを上げながら被検者の応答を確認し、応答のあったレベル(以下、「応答レベル」と称する。)を留めておく。続いて、提示レベルを5~10dB上げて被検者に一定時間聞かせた後に、10~20dB下げて直前の応答レベルよりも低いレベルから同様に測定を行い、再び同じ応答レベルが得られたら、検者が所定のボタンを押下する。これにより、その応答レベルがその周波数に対する聴覚閾値として確定され、装置に記録される。
【0004】
これに対し、同じ応答レベルが連続しなかった場合には、検者は再び、提示レベルを5~10dB上げて被検者に一定時間聞かせた後に10~20dB下げて直前の応答レベルよりも低いレベルから再び測定を行い、被検者の応答レベルを確認する。そして、3回の測定において2回同じ応答レベルが得られた場合には、そのレベルをその周波数に対する聴覚閾値として確定させる一方、応答レベルが3回とも一致しない場合には、いずれかの応答レベルがその周波数における測定回数の過半数になるまで繰り返し測定を行う。
【0005】
上述したような手順に沿った測定が、測定周波数毎に実施される。検者は提示した音に対する被検者の応答状況を確認しながら操作パネルを操作し、また、聴覚閾値が確定するまでの間、測定周波数についての複数回の応答レベルを管理しなければならないため、検者には大きな負担がかかる。そのような背景の下、音の提示にまつわる検者の負担を軽減するための工夫が施された装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6133052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した先行技術によれば、タッチパネルに表示されたオージオグラム上で検者が所定の操作を行うことにより、測定周波数やその周波数における提示レベルの設定を感覚的に変更することができるため、音の提示にまつわる負担はある程度軽減されると考えられるが、応答レベルの管理にまつわる負担は従来と変わっていない。
【0008】
検者は、測定周波数についての測定において得られた応答レベルを、頭の中で記憶したり紙等にメモしたりすることで管理する。1つの周波数についての測定は、測定回数の過半数が同じ応答レベルになるまで繰り返し提示レベルを変えながら実施されるが、被検者の応答状況の確認に際しては、応答の有無を確認するだけでなく、応答の正当性、すなわち応答が音の提示パターンに一致しているか等も判断しなければならず、その上で状況に応じた操作を行わなければならないため、相当な注意力を要し、また、手間がかかり誤りも生じやすい。誤りを防いで測定を正確に実施するために、検者の負担のさらなる軽減が求められている。
【0009】
そこで、本発明は、測定における検者の負担を軽減する技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の聴覚測定装置を採用する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0011】
すなわち、本発明の聴覚測定装置は、測定の過程で得られた値を記憶する記憶手段と、少なくとも、周波数毎の測定において被検者に提示する音の提示レベルを調整するためのレベル調整部と、被検者からの応答が得られた提示レベルを記憶手段に記憶させるための仮閾値ボタンと、測定対象の周波数に対する聴覚閾値を確定させるための閾値ボタンとを有する操作手段と、操作手段が受け付けた操作に応じた制御を実行し、仮閾値ボタンが所定の態様で操作されると、その時点での提示レベルを仮閾値として記憶手段に記憶させる制御手段とを備えている。
【0012】
この態様の聴覚測定装置によれば、仮閾値ボタンが所定の態様で操作(例えば、押下やタップ等)された時点での提示レベルが仮閾値として記憶手段に記憶されるため、聴覚閾値が確定されるまでの間検者が複数の仮閾値を管理する必要がないことから、測定における検者の負担を大幅に軽減することができる。
【0013】
好ましくは、上述した態様の聴覚測定装置において、制御手段は、記憶手段が記憶した複数個の仮閾値のうち、いずれかの仮閾値の個数が全個数の過半数に達したか否かを判定する。また、制御手段は、過半数に達したと判定すると、直ちに又は所定の条件が満たされた後に、過半数に達した仮閾値を測定対象の周波数に対する聴覚閾値として確定し、記憶手段に記憶させる。
【0014】
この態様の聴覚測定装置によれば、いずれかの仮閾値の個数が全個数の過半数に達したか否かが制御手段により判定されるため、検者が過半数に関する判断を行う必要がないことから、測定における検者の負担をさらに軽減することができる。また、過半数に達したと判定されると、直ちに、又は、所定の条件(例えば、所定時間の経過や、仮閾値ボタンの再操作等)が満たされた後に、過半数に達した仮閾値が測定対象の周波数に対する聴覚閾値として確定されるため、複数個の仮閾値、すなわち複数回の測定結果に基づいて聴覚閾値を正確に確定することができ、結果として、測定を効率よく正確に行うことが可能となる。
【0015】
より好ましくは、上述した態様の聴覚測定装置において、制御手段は、仮閾値を記憶させた後に、提示レベルを所定の上げ幅で上げ、一定時間が経過した後に、提示レベルを所定の下げ幅で下げる。
【0016】
この態様の聴覚測定装置によれば、仮閾値を記憶させた後における音の提示レベルの上下(例えば、10dB上げて一定時間経過後に20dB下げる)が制御手段により実行されるため、検者がレベル調整部を操作する必要がないことから、測定における検者の負担をさらに軽減することができる。
【0017】
さらに好ましくは、上述した態様の聴覚測定装置において、制御手段は、仮閾値ボタンが所定の態様とは異なる態様で操作されると、その時点での提示レベルを予備測定における聴覚閾値として記憶手段に記憶させ、その後に実施される周波数毎の測定の開始時に、提示レベルを予備測定における聴覚閾値より低くする。
【0018】
この態様の聴覚測定装置によれば、仮閾値ボタンが所定の態様とは異なる態様で操作(例えば、長押し)された時点での提示レベルが予備測定における聴覚閾値として記憶手段に記憶され、この閾値を用いて、周波数毎の測定の開始時における提示レベルが制御手段により制御されるため、予備測定における聴覚閾値を検者が覚えたりメモしたりする必要がなく、また、周波数毎の測定の開始時に検者がレベル調整部を操作して提示レベルを指定する必要もないことから、測定における検者の負担をさらに軽減することができる。
【0019】
また、好ましくは、上述した態様の聴覚測定装置において、制御手段により過半数に達したとの判定がなされると、そのことを報知する表示を行う表示手段をさらに備えている。
【0020】
この態様の聴覚測定装置によれば、いずれかの仮閾値の個数が全個数の過半数に達したと判定されると、表示手段(例えば、ディスプレイやメモリランプ)によりその旨を報知する表示がなされるため、検者はその旨、ひいては聴覚閾値を確定可能な状態になったことを容易に認識することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の聴覚測定装置によれば、測定における検者の負担を軽減することができ、測定を効率よく正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】聴覚測定装置1の構成を簡略的に示すブロック図である。
図2】操作パネル10の一例を示す平面図である。
図3】第1実施形態の聴覚測定装置1による測定の流れを示すフローチャートである。
図4】画面に表示される仮閾値を示す記号の一例を示す図(1/2)である。
図5】画面に表示される仮閾値を示す記号の一例を示す図(2/2)である。
図6】仮閾値を示す記号の第1変形例を示す図である。
図7】仮閾値を示す記号の第2変形例を示す図である。
図8】第2実施形態の聴覚測定装置2による測定の流れを示すフローチャートである。
図9】第3実施形態の聴覚測定装置3による測定の流れを示すフローチャートである。
図10】第4実施形態の聴覚測定装置4による測定の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。また、以下の説明において、「測定」との語には「検査」の意が含まれるものとし、「検者」は測定を行う者(測定者)、「被検者」は測定を受ける者(被験者)、「検査音」は測定を受ける耳に提示される音(測定音)、をそれぞれ表すものとする。
【0024】
〔聴覚測定装置の構成〕
図1は、聴覚測定装置1の構成を簡略的に示すブロック図である。
聴覚測定装置1は、少なくとも、操作パネル10と、ディスプレイ40と、プロセッサ50と、メモリ60とを備えている。
【0025】
操作パネル10は、測定に関する操作を受け付けるボタンやダイヤル等で構成された操作入力部20と、測定に関する状態を示す複数のランプで構成された状態表示部30とを有している。ディスプレイ40は、測定に関する情報(例えば、オージオグラム等)を画面に表示する。
【0026】
プロセッサ50は、操作入力部20が受け付ける操作に応じた処理を実行しながら、測定の進行を制御するとともにディスプレイ40の表示を制御する。メモリ60は、測定の過程で得られる種々の値、例えば、予備測定において得られる聴覚閾値、本測定において聴覚閾値が確定するまでの間に得られる仮の聴覚閾値(以下、「仮閾値」と略称する。)、確定した聴覚閾値等を記憶する。
【0027】
また、聴覚測定装置1には、受話器70及び応答ボタン80が有線又は無線で接続されている。受話器70は気導受話器や骨導受話器であり、検者が操作入力部20で周波数及び提示レベルを指定すると、これに対応する検査音が不図示のアンプを介して受話器70から被検者に提示される。被検者は、音が聞こえたら応答ボタン80を押下し、音が聞こえなくなったら応答ボタン80の押下を解除する。応答ボタン80の状態(被検者による応答の状況)は、状態表示部30やディスプレイ40に表示される。
【0028】
なお、受話器70に代えて、音を提示可能なその他の機器を聴覚測定装置1に接続してもよい。例えば、音場閾値を測定する際には、受話器70に代えてスピーカが接続される。また、応答ボタン80に代えて、その他の入力機器(例えば、画面上に応答ボタンが表示されたタッチパネル等)を聴覚測定装置1に接続して、被検者からの応答を受け付けてもよい。受話器70及び応答ボタン80は、聴覚測定装置1の一部として捉えることも可能である。
【0029】
図2は、操作パネル10の一例を示す平面図である。
操作パネル10には、ボタンやダイヤル等の複数の操作部品が配置されるとともに(操作受付部20)、測定に関する状態を示す複数のランプが配置されている(状態表示部30)。なお、説明の便宜のため、以下では、検査音の提示から聴覚閾値の確定に至る過程で使用されるもののみを説明し、その他については説明を省略する。
【0030】
操作パネル10の中央部に配置された複数の周波数スイッチ(ボタン)21は、測定対象の周波数(測定周波数)を切り替えるためのものである。次周波数スイッチ21Aが押下されると、一般的に測定される複数の周波数について予め定められた順序に従って測定周波数が切り替わる。これに対し、特定の周波数が付記された複数の個別周波数スイッチ21Bのいずれかが押下されると、測定周波数がそのスイッチに付記された周波数に切り替わる。
【0031】
レベルダイヤル22(レベル調整部)は、検査音の提示レベルを調整するためのものである。インタラプタボタン23は、検査音の提示を休止するためのものであり、押下されている間は検査音の出力が止まる。仮閾値ボタン24は、被検者の応答が得られた検査音の提示レベルをメモリ60に記録する(記憶させる)ためのものであり、被検者から正当な応答が得られたと検者が判断した時に押下される。閾値ボタン25は、仮閾値の有無に関わらず、聴覚閾値を確定しメモリ60に記録するためのものであり、検者が現在の提示レベルを聴覚閾値として確定可能であると判断した時に押下される。なお、レベルダイヤル22に代えて、検査音の提示レベルを調整可能な他の操作部品(例えば、スライダ等)を配置してもよい。
【0032】
キャンセルボタン26は、現在測定している周波数についての測定の結果をキャンセルするためのものである。被検者が測定方法を正しく理解していないと判断した場合(正当な応答が得られない場合や、複数回の測定の結果が安定しない場合等)には、検者が、キャンセルボタン26を押下して、測定を中断し、被検者に測定方法を改めて説明した上で、測定を再開する。キャンセルボタン26が押下されると、現在の周波数についてメモリ60に記録された仮閾値等の情報がクリアされる。
【0033】
なお、操作パネル10においては、操作性を考慮して、インタラプタボタン23、仮閾値ボタン24及び閾値ボタン25がそれぞれ中央下部及び右側下部の2箇所に設けられており、キャンセルボタン26が操作パネル10の左上部及び右上部の2箇所に設けられているが、これらのボタンを1箇所のみに設けてもよい。
【0034】
提示ランプ31は、検査音が提示されているときに点灯し、応答ランプ32は、被検者が応答ボタン80を押下しているときに点灯する。検者は、レベルダイヤル22を操作しながら応答ランプ32やディスプレイ40の表示を注視して、応答ボタン80の押下を示す表示(応答ランプ32の点灯や、ディスプレイ40の画面における応答ボタン80がアクティブ状態であることを示す画像の表示)がなされたら、その表示が検査音の提示中になされているかを確認し、必要に応じて被検者の反応を見ながら、応答が正当であるか否かを判断する。
【0035】
このように、本実施形態においては、操作パネル10が聴覚測定装置1専用のハードウェアとして実装されているが、これに代えて、ソフトウェアによりディスプレイ40又はその他の表示機器の画面上に操作パネルを実装し、マウスやタッチパネル等の入力機器を介して操作を受け付けてもよい。そのような構成においては、画面上に実装されたボタンを選択するクリックやタップ等の操作が、上記の操作パネル10に配置された各種のボタンを押下する操作に相当する。
【0036】
また、聴覚測定装置1の一部又は全体を、CPUやRAM、HDD、各種I/F、ディスプレイ等を備えた汎用コンピュータ(例えば、タブレット端末、ノートPC、デスクトップPC等)に実装することも可能である。
【0037】
〔第1実施形態による測定の流れ〕
図3は、第1実施形態の聴覚測定装置1を用いて行う測定の流れを示すフローチャートである。発明の理解を容易とするために、フローチャートにおいては、検者が実行する手順(手動処理)を一重枠で囲んで示しており、プロセッサ50が実行する手順(自動処理)を二重枠で囲んで示している(後述する図8,9においても同様)。以下、片方の耳の聴力を測定する流れを説明する。
【0038】
ステップS10:予備測定が実施される。予備測定においては、検者が操作パネル10を操作して、1000Hzの検査音を先ず40dBで提示する。40dBでの提示に対し、被検者からの応答があれば、10~20dBステップで応答がなくなるまで提示レベルを下げる。一方、応答がなければ、10~20dBステップで応答が得られまで提示レベルを上げて、応答が得られたら、10~20dBステップで応答がなくなるまで提示レベルを下げる。そして、応答がなくなったら、5dBステップで応答が得られるまで提示レベルを上げて、応答が得られたレベル又はそれより5dB上のレベルで固定し、インタラプタボタン23を用いて検査音の提示及び休止を数回繰り返す。応答が検査音の提示パターンに概ね一致していれば、予備測定は完了となり、この時点での提示レベルが予備測定における聴覚閾値となる(以下、この聴覚閾値を「予備測定で得られたレベル」と称する。)。
【0039】
続いて、本測定が開始される。
ステップS20:先ず、検者が最初の測定周波数を設定する。一般的に、気導聴力の測定は、1000Hz→2000Hz→4000Hz→8000Hz→1000Hz→500Hz→250Hz→125Hzの順で実施され、骨導聴力や音場閾値の測定は、1000Hz→2000Hz→4000Hz→1000Hz→500Hz→250Hzの順で実施される。1000Hzの測定を最初と中盤とで合計2回実施するのは、応答の正当性を確認するためである。
【0040】
したがって、一般的には、最初の測定周波数として「1000Hz」が設定されるが、この周波数は予備測定における周波数と同じであるため、予備測定の直後に本測定を「1000Hz」から開始する場合には、ここで改めて周波数を設定する必要はない(ステップS20は省略可能である)。なお、測定周波数及びその順序は上記に限定されず、必要に応じて測定周波数の追加や削除を行ってもよいし、順序を変更してもよい。
【0041】
ステップS22~S26:検者がレベルダイヤル22を操作して、予備測定で得られたレベルより10~20dB下げて検査音を提示し(ステップS22)、応答が得られなければ(ステップS24:No)、提示レベルを5dB上げて(ステップS26)、再び応答の有無を確認する、という具合に、応答が得られるまで5dBステップで提示レベルを上げていく。また、応答が得られたら、その応答の正当性も併せて確認し、正当な応答であると判断できない場合には、ステップS24,S26を繰り返す。
【0042】
ステップS28,S30:これに対し、正当な応答であると判断できる場合には(ステップS24:Yes)、検者が仮閾値ボタン24を押下する(ステップS28)。これに応じて、プロセッサ50が、現在の提示レベルを仮閾値としてメモリ60に記録するとともに、ディスプレイ40の画面表示を更新させる。これにより、この仮閾値を示す記号が画面に表示されているオージオグラム上に追加される(ステップS30)。なお、仮閾値を示す記号の表示例については、別の図面を参照しながら詳しく後述する。
【0043】
ステップS32~S36:検者がレベルダイヤル22を操作して、提示レベルを5~10dB上げ、一定時間経過後に10~20dB下げる(ステップS32)。これにより、検査音が応答のあった提示レベル(=最新の仮閾値)より小さくなる。ここで応答が得られなければ(ステップS34:No)、提示レベルを5dB上げて(ステップS36)、再び応答の有無を確認する、という具合に、応答が得られるまで5dBステップで提示レベルを上げていく。また、応答が得られたら、その応答の正当性も併せて確認し、正当な応答であると判断できない場合には、ステップS34,S36を繰り返す。
【0044】
ステップS38,S40:これに対し、正当な応答であると判断できる場合には(ステップS34:Yes)、検者が仮閾値ボタン24を押下する(ステップS38)。これに応じて、プロセッサ50が、現在の提示レベルを新たな仮閾値としてメモリ60に記録するとともに、ディスプレイ40の画面表示を更新させる。これにより、画面に表示されているオージオグラム上に新たに記録された仮閾値を示す記号が追加される(ステップS40)。
【0045】
ステップS42,S44:プロセッサ50が、直前のステップS40で記録された仮閾値がこれまでに記録された仮閾値、すなわち複数回の測定で得られた複数個の仮閾値において過半数に達したか否かを確認する(ステップS42)。過半数に達していれば(ステップS42:Yes)、プロセッサ50は、ディスプレイ40の画面表示を更新させ、仮閾値の表示を変化させて過半数に達したことを検者に報知し、数秒後に、過半数に達した仮閾値を現在の測定周波数に対する聴覚閾値として確定してメモリ60に記録するとともに、再びディスプレイ40の画面表示を更新させる。これにより、画面に表示されているオージオグラム上から仮閾値の表示が消去され、聴覚閾値を示す記号が追加される(ステップS44)。一方、過半数に達していなければ(ステップS42:No)、検者がステップS32に戻り、再び測定を行う。
【0046】
例えば、1回目の測定(ステップS22~S30)と2回目の測定(ステップS32~S40)とで同じ仮閾値が記録された場合には、過半数に達しているため(ステップS42:Yes)、ステップS44に進み、この仮閾値が聴覚閾値として確定される。これに対し、1回目の測定と2回目の測定とで異なる仮閾値が記録された場合には、過半数に達していないため(ステップS42:No)、ステップS32に戻って3回目の測定が行われる。
【0047】
そして、3回目の測定(ステップS32~S40)で記録された仮閾値が1回目又は2回目のいずれかの仮閾値と同じである場合には、過半数に達しているため(ステップS42:Yes)、ステップS44に進み、この仮閾値が聴覚閾値として確定される。一方、3回目の測定で記録された仮閾値が1回目及び2回目のいずれの仮閾値とも異なる場合には、過半数に達していないため(ステップS42:No)、再びステップS32に戻って4回目の測定が行われる。そして、新たに記録された仮閾値がそれまでに記録された仮閾値の個数の過半数に達するまで、言い換えると、新たな仮閾値と同じ仮閾値が得られた回数が測定回数の過半数に達するまで、同様の手順で測定が繰り返されることとなる。
【0048】
なお、本実施形態においては、ステップS42で最新の仮閾値が現在の測定周波数についての測定回数の過半数に達した場合に、ステップS44でその仮閾値をその測定周波数に対する聴覚閾値として確定しているが、これに代えて、現在の測定周波数についての直近3回(例えば、4回目の測定においては2~4回目の3回)の測定の過半数に達した場合に、その仮閾値を聴覚閾値として確定してもよい。
【0049】
ステップS46:聴覚閾値が確定されたら、検者がレベルダイヤル22を操作して、提示レベルを5~10dB上げ、一定時間経過後に、被検者に聞こえないと思われる十分に小さいレベルまで下げる。
【0050】
ステップS50~54:未測定の周波数が残っている場合には(ステップS50:Yes)、検者が複数の周波数スイッチ21(次周波数スイッチA、複数の個別周波数スイッチ21B)のいずれかを押下して、次の測定周波数を設定する(ステップS52)。また、周波数スイッチ21の押下に応じて、プロセッサ50が、メモリ60に記録されている全ての仮閾値をクリアする(ステップS54)。そして、検者がステップS22に戻り、次の測定周波数についての測定を行う。
【0051】
これに対し、未測定の周波数が残っていない場合、すなわち全ての周波数についての測定を終えた場合には(ステップS50:No)、一方の耳の測定が終了する。これに続き、上記と同様の流れに沿って、他方の耳の測定がなされることとなる。
【0052】
このように、聴覚測定装置1においては、測定の過程で得られる仮閾値がメモリ60に記録され、過半数に達したか否かの判定がプロセッサ50により実行されるため、検者が本測定の過程で得られた仮閾値を管理する必要がなく、また、管理した仮閾値を踏まえて過半数に達したか否かを判断する必要もない。したがって、聴覚測定装置1によれば、従来の測定装置と比較して、測定における検者の負担を大幅に軽減することができる。
【0053】
なお、上述した流れはあくまで一例として示したものであり、適宜変更が可能である。例えば、ステップS44において、仮閾値が過半数に達したことを報知する表示を行い、数秒後に、プロセッサ50が最新の仮閾値を聴覚閾値として確定しているが、これに代えて、仮閾値が過半数に達したことを報知する表示を行い、検者がこの表示から聴覚閾値を確定させてもよいと判断して、仮閾値ボタン24を再度押下した場合に、聴覚閾値を確定する(仮閾値ボタン24が再度押下されるまでは、聴覚閾値を確定しない)ようにしてもよい。この場合には、検者が仮閾値ボタン24を再度押下すると、これに応じてプロセッサ50が聴覚閾値を確定する。或いは、ステップS42において仮閾値が過半数に達したら、直ちに聴覚閾値を確定してもよい。これらの場合に、聴覚閾値の確定に伴ってメモリ60に記録されている全ての仮閾値をクリアしてもよい。
【0054】
また、検者がいずれかのタイミングで閾値ボタン25を押下することで、その時点でメモリ60に記録されている仮閾値とは無関係に、現在の提示レベルを聴覚閾値として確定させることも可能である。この場合には、検者が閾値ボタン25を押下すると、これに応じてプロセッサ50が、聴覚閾値を確定するとともに、メモリ60に記録されている全ての仮閾値をクリアする。
【0055】
〔仮閾値の表示例〕
図4及び図5は、ディスプレイ40の画面に表示されたオージオグラム上に追加される仮閾値を示す記号の一例を、測定の流れに沿って示している。ここでは、右耳の気導聴力について予備測定で得られたレベルが25dBである場合の本測定において、最初の1000Hzについての測定で、1回目と2回目とで異なる仮閾値が得られ、3回目に1回目と同じ仮閾値が得られて、聴覚閾値が確定した場合になされる表示の遷移の一例を説明する。
【0056】
図4中(A):本測定における1000Hzについて1回目の測定では、先ず予備測定で得られたレベル(25dB)から例えば20dB下げた5dBの検査音が提示される。これに伴ってオージオグラム上には、測定周波数(1000Hz)と検査音の提示レベル(5dB)とが交差する位置に、受話器を模した図形が表示される。続いて、応答が得られるまで5dBステップでレベルが上げられ、これに伴って受話器の図形が対応するレベルの位置に移動する。そして、提示レベルが20dBになったところで、被検者から応答が得られたとする。
【0057】
図4中(B):検者がこの応答を正当であると判断し、仮閾値ボタン24を押下すると、オージオグラムの右側の「20dB」に相当する位置に、1回目の仮閾値であることを示す記号(丸で囲まれた数字「1」)が追加される。
【0058】
図4中(C):2回目の測定では、提示レベルを1回目の仮閾値から例えば10dB上げ、一定時間経過後に例えば20dB下げて1回目の仮閾値より低くした後に、応答が得られるまで5dBステップでレベルが上げられる。そして、提示レベルが15dBになったところで、被検者から応答が得られたとする。検者がこの応答を正当であると判断し、仮閾値ボタン24を押下すると、オージオグラムの右側の「15dB」に相当する位置に、2回目の仮閾値であることを示す記号(丸で囲まれた数字「2」)が追加される。
【0059】
図5中(D):3回目の測定では、提示レベルを2回目の仮閾値から例えば10dB上げ、一定時間経過後に例えば20dB下げて2回目の仮閾値より低くした後に、応答が得られるまで5dBステップでレベルが上げられる。そして、提示レベルが20dBになったところで、被検者から応答が得られたとする。検者がこの応答を正当であると判断し、仮閾値ボタン24を押下すると、オージオグラムの右側の「20dB」に相当する位置に、3回目の仮閾値であることを示す記号(丸で囲まれた数字「3」)が追加される。
【0060】
図5中(E):直後に、1回目及び3回目の仮閾値を示す記号が反転する。このとき、反転した記号を数回点滅させて目立たせてもよい。これらの表示の変化は、3回目の仮閾値が1回目の仮閾値と同じであることから、その仮閾値が得られた回数が測定回数の過半数に達したために生じたものである。
【0061】
図5中(F):数秒が経過すると、これまで表示されていた仮閾値の記号が消去され、オージオグラムにおける「1000Hz」かつ「20dB」の位置に、気導の聴覚閾値を示す記号(赤色の丸印)が追加される。そして、次の測定周波数に移り、その測定の過程で、上記と同様の流れに沿って仮閾値を示す記号が表示される。
【0062】
このようにして、測定の過程で得られた仮閾値を示す記号が次々と追加されていき、過半数に達した仮閾値の表示が変化することにより、検者は、ディスプレイ40の画面を一瞥するだけで、個々の仮閾値の内容や、いずれかの仮閾値が得られた回数が測定回数の過半数に達したか否か(聴覚閾値を確定可能な状態であるか否か)を容易に認識することができる。
【0063】
なお、上記の表示例においては、図5中(D)で3回目の仮閾値を示す記号を通常の態様で追加した直後に、図5中(E)で1回目及び3回目の仮閾値を示す記号を反転させているが、図5中(D)の表示を省略して、図4中(C)の表示から図5中(E)の表示に直接遷移させてもよい。また、図5中(E)で3回目の仮閾値が1~3回目の仮閾値の過半数に達した時に仮閾値を示す記号を反転させているが、過半数に達したときに行う表示の変化は、反転に限定されず、その旨を明示できる態様(例えば、表示色の変化、囲み線の変化、表示の拡大等)であればよい。
【0064】
図6及び図7は、仮閾値を示す記号の変形例を示している。なお、説明の便宜のため、これらの図においては、検査音の提示レベルを示す記号の表示を省略する。
【0065】
図6に示された第1変形例においては、上述した実施形態と同様に、仮閾値を示す記号が丸で囲まれた測定回を示す数字で構成されているが、この記号が、オージオグラムにおける測定周波数を示す縦軸上又はその付近に表示される。
【0066】
また、図7に示された第2変形例においては、オージオグラムにおける測定周波数を示す縦軸に対し、特定のレベルを指す矢印が追加され、その矢印の中に、仮閾値を示す記号が表示される。
【0067】
これらのような表示態様によっても、検者は、個々の仮閾値の内容や、いずれかの仮閾値が測定回数の過半数に達したか否かを容易に認識することができる。なお、仮閾値の表示態様は、上述した実施形態や変形例に限定されず、さらに異なる態様により表示を行ってもよい。
【0068】
〔第2実施形態による測定の流れ〕
図8は、第2実施形態の聴覚測定装置2を用いて行う測定の流れを示すフローチャートである。聴覚測定装置2は、その物理的な構成は第1実施形態の聴覚測定装置1(図1)と同じであるが、測定の過程でプロセッサ50により実行される処理の範囲が異なっており、第1実施形態による測定の流れ(図3)におけるステップS32,S46がそれぞれステップS32-2,S46-2に置き換わっている。なお、第1実施形態と共通する点については、説明を省略する。
【0069】
第2実施形態においては、ある周波数についての測定の過程で仮閾値が記録された後に、検者に代わってプロセッサ50が、提示レベルを10dB上げ、一定時間経過後に20dB下げる(ステップS32-2)。なお、ここでは一例として提示レベルの上げ幅を10dBとし下げ幅を20dBとしているが、下げた後の提示レベルが最新の仮閾値より低くなる組み合わせであればよく、例えば、上げ幅を5dBとし下げ幅を10dBとしてもよいし、或いは、上げ幅を5dBとし下げ幅を15dBとしてもよい。
【0070】
また、第2実施形態においては、ある周波数についての聴覚閾値が確定した後に、検者に代わってプロセッサ50が、提示レベルを10dB上げ、一定時間経過後に50dB下げる。なお、ここでの下げ幅は、被検者に聞こえないと思われる十分に小さい提示レベルにできるものであればよく、50dBに代えて、例えば40dBとしてもよい。また、最新の仮閾値から下げ幅を差し引いたレベルが聴覚測定装置1において提示可能な最低の音圧レベルを下回る場合には、プロセッサ50は、提示レベルを最低の音圧レベルまで下げることとなる。或いは、聴覚閾値の確定後における提示レベルの制御においては下げ幅を設定せずに、提示レベルを10dB上げてから一定時間経過後に常に最低の音圧レベルまで下げてもよい。
【0071】
このように、第2実施形態による測定は、第1実施形態による測定よりも自動処理(フローチャートにおいて二重枠で囲まれた手順)の割合が高い。したがって、聴覚測定装置2によれば、測定における検者の負担をより軽減することができる。
【0072】
〔第3実施形態による測定の流れ〕
図9は、第3実施形態の聴覚測定装置3を用いて行う測定の流れを示すフローチャートである。聴覚測定装置3は、その物理的な構成は第1及び第2実施形態の聴覚測定装置1,2と同じであるが、測定の過程でプロセッサ50により実行される処理の範囲が異なっており、第2実施形態による測定の流れ(図8)に対し、予備測定の実施後に2つのステップS12-3,S14-3が追加されるとともに、本測定におけるステップS22,S50,S52がそれぞれステップステップS22-3,S50-3,S52-3に置き換わっている。なお、第1及び第2実施形態と共通する点については、説明を省略する。
【0073】
第3実施形態においては、予備測定を実施した後に、検者が仮閾値ボタン24を長押しする(ステップS12-3)。これに応じて、プロセッサ50が、予備測定で得られたレベルをメモリ60に記録し(ステップS14-3)、これ以降に受け付ける操作を本測定に対してなされたものとして処理する。なお、ステップS14-3の実行後に、ディスプレイ40の画面内における視認し易い位置に、予備測定で得られたレベルが記録された旨を示す表示を行ってもよい。
【0074】
また、第3実施形態においては、検者がステップS20を実行して最初の測定周波数を設定した後に、検者に代わってプロセッサ50が、予備測定で得られたレベル、すなわちステップS14-3でメモリ60に記録された値より20dB下げて検査音を提示する(ステップS22-3)。
【0075】
なお、第1及び第2実施形態においては、予備測定の直後に本測定を「1000Hz」から開始する場合にステップS20(最初の測定周波数の設定)を省略可能であったが、第3実施形態においては、その場合でも検者がステップS20を実行する必要がある。これにより、プロセッサ50が本測定の開始を認識することができ、ステップS22-3に進むことができる。また、ステップS22-3における提示レベルの下げ幅は、20dBに限定されず、10dB以上の値であればよい。
【0076】
第3実施形態においては、さらに、ある周波数についての聴覚閾値が確定し、提示レベルを大幅に下げた後に、検者に代わってプロセッサ50が、未測定の周波数が残っているか否かを判定し(ステップS50-3)、残っている場合には(ステップS50-3:Yes)、プロセッサ50が、予め定められた順序に従って次の測定周波数を設定する(ステップS52-3)。
【0077】
このように、第3実施形態による測定は、第2実施形態による測定よりも自動処理(フローチャートにおいて二重枠で囲まれた手順)の割合が高く、検者は、予備測定で得られたレベルを管理する必要がなく、また、本測定においては、被検者の応答が得られるまで5dBステップで提示レベルを上げていき、正当な応答が得られたら仮閾値ボタンを押下するだけで済む。したがって、聴覚測定装置3によれば、測定における検者の負担を一段と軽減することができる。
【0078】
〔第4実施形態による測定の流れ〕
図10は、第4実施形態の聴覚測定装置4を用いて行う測定の流れを示すフローチャートである。上述した第1~第3実施形態の聴覚測定装置1~3は、ディスプレイ40を備えていたのに対し、聴覚測定装置4は、ディスプレイ40を備えておらず、その代わりに、状態表示部30に設けられたランプが測定の過程で必要な表示を行う。聴覚測定装置4は、言い換えると、聴覚測定装置1~3のいずれかからディスプレイ40を無くして構成されており、これに対応して、測定の過程でプロセッサ50により実行される処理の内容が異なっている。
【0079】
発明の理解を容易とするために、ここでは、聴覚測定装置1からディスプレイ40を無くした構成を聴覚測定装置4として想定し、その測定の流れについて説明する。第4実施形態による測定の流れにおいては、第1実施形態による測定の流れ(図3)におけるステップS30,S40,S44がそれぞれS30-4,S40-4,S44-4に置き換わるとともに、ステップS43-4が追加されている。なお、第1実施形態と共通する点については、説明を省略する。
【0080】
第4実施形態においては、1回目の測定において検者が仮閾値ボタン24を押下すると、これに応じてプロセッサ50が、現在の提示レベルを仮閾値としてメモリ60に記録するとともに、メモリランプを赤色で点灯させる(ステップS30-4)。なお、メモリランプとしては、操作パネル10(状態表示部30)に専用のランプを新設して用いてもよいし、既存のランプのうち測定中に兼用しても支障を来さないもの(例えば、変調ランプ33)を用いてもよい。
【0081】
また、第4実施形態においては、2回目以降の測定において検者が仮閾値ボタン24を押下すると、これに応じてプロセッサ50が、現在の提示レベルを仮閾値としてメモリ60に記録し(ステップS40-4)、その仮閾値がそれまでの測定で得られた複数個の仮閾値において過半数に達していなければ、メモリランプを赤色で点灯させて(ステップS43-4)、測定を再度実施するのに対し、過半数に達していれば、メモリランプを緑色で点灯させるとともに、過半数に達した仮閾値を現在の測定周波数に対する聴覚閾値として確定してメモリ60に記録する(ステップS44-4)。
【0082】
このように、第4実施形態による測定では、仮閾値及び確定した聴覚閾値に関する表示をメモリランプが担っており、第1実施形態と同様に、検者が本測定の過程で得られた仮閾値を管理する必要がなく、また、管理した仮閾値を踏まえて過半数に達したか否かを判断する必要もない。したがって、聴覚測定装置4によっても、従来の測定装置と比較して、測定における検者の負担を大幅に軽減することができる。
【0083】
なお、上記の例においては、検者による仮閾値ボタンの押下時に、仮閾値が過半数に達していた場合には、プロセッサがメモリランプを緑色で点灯させ、それ以外の場合にはメモリランプを赤色で点灯させているが、メモリランプの点灯色はこれに限定されない。また、メモリランプが単色の場合には、発光態様を異ならせることにより、過半数に到達したか否か(聴覚閾値が確定したか否か)を報知することが可能である。例えば、仮閾値が過半数に達した場合にはメモリランプを点灯させ、それ以外の場合にはメモリランプを点滅させてもよい。
【0084】
また、上記の例においては、聴覚測定装置1からディスプレイ40を無くした構成を聴覚測定装置4としているが、これに代えて、聴覚測定装置2,3のいずれかからディスプレイ40を無くした構成を聴覚測定装置4とすることも可能である。その場合には、第2実施形態による測定の流れ(図8)又は第3実施形態による測定の流れ(図9)における仮閾値や聴覚閾値についての報知を行うステップに関して、上記の例と同様に置換や追加がなされることとなる。
【0085】
〔本発明の優位性〕
以上のように、上述した聴覚測定装置1~4によれば、以下のような効果が得られる。
【0086】
(1)聴覚測定装置1~3によれば、測定の過程で検者が仮閾値ボタン24を押下すると、その時点での検査音の提示レベルが仮閾値としてメモリ60に記録されるとともに、その仮閾値を示す記号が画面に表示されたオージオグラム上に追加されるため、従来のように検者が仮閾値を管理する必要がないことから、検者の負担を大幅に軽減することができる。
【0087】
(2)聴覚測定装置1~3によれば、複数回の測定に対応してメモリ60に記録された複数個の仮閾値(複数回の測定で得られた個々の仮閾値)に基づいて、いずれかの仮閾値の個数が記憶された仮閾値の全個数(測定回数)の過半数に達したか否かの判定が自動で行われ、従来のように検者が過半数に関する判断を行う必要がないことから、検者の負担を軽減することができる。また、過半数に達したと判定されると、その仮閾値の表示態様が変化するため、検者は、その仮閾値が測定回数の過半数に達し、聴覚閾値を確定可能な状態になったことを容易に認識することができる。
【0088】
(3)聴覚測定装置4によれば、測定の過程で検者が仮閾値ボタン24を押下すると、その時点での検査音の提示レベルが仮閾値としてメモリ60に記録され、その時点での仮閾値の状態、すなわち、いずれかの仮閾値が複数回の測定に対応して記録された複数個の仮閾値における過半数に達したか否かがメモリランプに表示されるため、従来のように検者が仮閾値を管理する必要がなく、また、過半数に関する判断を行う必要もないことから、検者の負担を大幅に軽減することができる。
【0089】
(4)聴覚測定装置1~4によれば、いずれかの仮閾値が測定回数の過半数に達すると、その仮閾値が現在の測定周波数に対する聴覚閾値として自動で確定されるため、聴覚閾値を複数回の測定結果に基づいて正確に確定することができる。
【0090】
(5)聴覚測定装置2~4によれば、測定の過程で仮閾値がメモリ60に記録された後における検査音の提示レベルの上下(例えば、10dB上げて一定時間経過後に20dB下げる制御)や、測定周波数に対する聴覚閾値の確定後における検査音の提示レベルの上下(例えば、10dB上げて一定時間経過後に50dB下げる制御)が、自動で行われるため、検者がこれらに相当する操作を行う必要がないことから、検者の負担をさらに軽減することができる。
【0091】
(6)聴覚測定装置3,4によれば、予備測定の実施後に検者が仮閾値ボタン24を長押しすると、予備測定で得られたレベルがメモリ60に記録され、この記録値を用いて、周波数毎の測定の開始時に検査音の提示レベルの制御(例えば、予備測定で得られたレベルより20dB下げる制御)が自動で行われ、また、その周波数についての聴覚閾値の確定後に未測定の周波数が残っているか否かの判定が自動で行われ、残っている場合には次の周波数が自動で設定されるため、検者がこれらに相当する操作を行う必要がないことから、検者の負担を一段と軽減することができる。
【0092】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することが可能である。
【0093】
上述した実施形態においては、最新の仮閾値と同じ仮閾値が得られた回数が現在の測定周波数についての測定回数の過半数に達した場合に、画面に表示されている仮閾値の記号を変化させてその旨を報知しているが、これに併せて、報知音の出力やランプの点灯を行ってもよいし、画面にさらなる報知の表示を追加してもよい。
【0094】
上述した実施形態においては、仮閾値を示す記号に測定回数を示す数字が含まれており、これにより測定回毎の仮閾値を識別可能としているが、必ずしも記号に数字を含める(各仮閾値が何回目の測定で得られたものかまで明示する)必要はなく、それぞれが異なる記号として識別可能であればよい。また、上述した実施形態においては、オージオグラムに測定回毎の仮閾値を示す記号を表示しているが、これに代えて、オージオグラムから離れた位置に記号を表示してもよいし、或いは、オージオグラム又はその他の位置に、記号以外の表示(例えば、測定毎の仮閾値を識別可能な文字情報等の表示)を行ってもよい。
【0095】
上述した実施形態においては、仮閾値ボタン24の長押しを予備測定で得られたレベルの記録に対応付けているが、予備測定で得られたレベルの記録に対応付けるボタンやその操作態様はこれに限定されず、対応付けるボタンを本来の用途で使用する際の操作態様と異なる操作態様であればよい。
【0096】
その他、聴覚測定装置1~4に関する説明の過程で挙げた構成や数値等は、あくまで例示であり、本発明の実施に際して適宜に変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0097】
1 聴覚測定装置
10 操作パネル
20 操作入力部 (操作手段)
30 状態表示部 (表示手段)
40 ディスプレイ (表示手段)
50 プロセッサ (制御手段)
60 メモリ (記憶手段)
70 受話器
80 応答ボタン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10