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特開2024-140073防曇剤組成物、及び防曇塗膜を有する防曇性物品
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  • 特開-防曇剤組成物、及び防曇塗膜を有する防曇性物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140073
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】防曇剤組成物、及び防曇塗膜を有する防曇性物品
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20241003BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 7/47 20180101ALI20241003BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C09D201/02
C09D7/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051066
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 大
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038CG171
4J038KA06
4J038KA09
4J038NA06
4J038PB07
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】車両灯具に求められる性能を有し、特に耐VOC性に優れた防曇塗膜を形成することができる防曇剤組成物、及び当該防曇塗膜を有する防曇性物品を提供する。
【解決手段】共重合体(A)と界面活性剤(B)を含み、前記共重合体(A)は、構成単位として、親水性単量体(A-1)と、疎水性単量体(A-2)を含み、前記界面活性剤(B)は、カチオン系界面活性剤(B-1)と、アニオン系界面活性剤(B-2)を含み、かつ前記共重合体(A)100重量部に対して、1~15重量部であり、前記カチオン系界面活性剤(B-1)と前記アニオン系界面活性剤(B-2)の重量比((B-1)/(B-2))が4~20の範囲内である、防曇剤組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体(A)と界面活性剤(B)を含む防曇剤組成物であって、
前記共重合体(A)は、構成単位として、親水性単量体(A-1)と、疎水性単量体(A-2)を含み、
前記親水性単量体(A-1)は、アミノ基、アミド基、イミド基、4級アンモニウム塩基、アセチル基、ポリオキシアルキレン基、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、及びホスフィン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基、並びに前記官能基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの親水性基を有し、
前記疎水性単量体(A-2)は、直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも1つの疎水性基を有し、
前記界面活性剤(B)は、カチオン系界面活性剤(B-1)と、アニオン系界面活性剤(B-2)を含み、かつ前記共重合体(A)100重量部に対して、1~15重量部であり、
前記カチオン系界面活性剤(B-1)と前記アニオン系界面活性剤(B-2)の重量比((B-1)/(B-2))が4~20の範囲内である、防曇剤組成物。
【請求項2】
基材と、請求項1に記載の防曇剤組成物が加熱硬化されてなる防曇塗膜を有する防曇性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇剤組成物、及び防曇塗膜を有する防曇性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のヘッドランプ等の車両灯具において、灯室内に高湿度の空気が入り込み、外気や降雨等によってレンズが冷やされ、内面に水分が結露することによって曇りが生じることがある。その結果、車両灯の輝度が低下し、またレンズ面の美観が損なわれることにより、ユーザーの不快感を引き起こす場合がある。このようなレンズの曇りを防ぐために、曇りが発生する部位(レンズ内側)に防曇剤を塗布して、防曇塗膜(乾燥塗膜、あるいは硬化塗膜)を形成する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
車両灯具用の防曇剤組成物には、良好な、防曇持続性、耐熱試験後の防曇性を有し、かつ水垂れ跡が発生し難く、密着性及び耐水性を有する防曇塗膜を形成できるものが求められている(特許文献2~3)。
【0004】
また、車両灯具は、レンズランプハウジング、リフレクタ、カバー、パッキン等の密閉系のランプ部品を有している。ランプ部品を構成する材料や、構造体の作成に使用される接着剤等が揮発性成分(Volatile Organic Compounds、以後VOCと表記する)を発生しやすいものである場合、防曇塗膜表面等に揮発性成分(VOC)が付着し、レンズ面の輝度や美観の低下、及び防曇性が低下する等の問題がある。このため、耐VOC性に優れた防曇塗膜を形成することができる防曇剤組成物が求められている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-150470号公報
【特許文献2】特開2019-156969号公報
【特許文献3】国際公開第2016/047430号
【特許文献4】国際公開第2022/107879号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4で開示されているように、シリカ微粒子と、バインダー化合物と、ポリエーテル基を有するシランカップリング剤と、液状媒体と、を含む防曇剤組成物によって、ランプ部品のゴムカバー材からの揮発性成分(VOC)を防曇塗膜表面に付着させるフォギング試験(以後耐VOC性試験と表記する)後にも防曇性が低下しにくい防曇塗膜が提供されている。
【0007】
しかし、特許文献4で開示された防曇剤組成物を用いて、本発明者らが定めた耐VOC性試験後に、本発明者らが定めた防曇性評価方法を実施したところ、十分な防曇性が得られなかった。
【0008】
また、特許文献1-3で開示された、本発明者らが定めた防曇性評価方法で優れた防曇性が確認されている防曇剤組成物を用いて、耐VOC性試験を実施したところ、十分な防曇性が得られなかった。
【0009】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、車両灯具に求められる性能を有し、特に耐VOC性に優れた防曇塗膜を形成することができる防曇剤組成物、及び当該防曇塗膜を有する防曇性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、共重合体(A)と界面活性剤(B)を含む防曇剤組成物であって、前記共重合体(A)は、構成単位として、親水性単量体(A-1)と、疎水性単量体(A-2)を含み、前記親水性単量体(A-1)は、アミノ基、アミド基、イミド基、4級アンモニウム塩基、アセチル基、ポリオキシアルキレン基、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、及びホスフィン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基、並びに前記官能基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの親水性基を有し、前記疎水性単量体(A-2)は、直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも1つの疎水性基を有し、前記界面活性剤(B)は、カチオン系界面活性剤(B-1)と、アニオン系界面活性剤(B-2)を含み、かつ前記共重合体(A)100重量部に対して、1~15重量部であり、前記カチオン系界面活性剤(B-1)と前記アニオン系界面活性剤(B-2)の重量比((B-1)/(B-2))が4~20の範囲内である、防曇剤組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、基材と、前記防曇剤組成物が加熱硬化されてなる防曇塗膜を有する防曇性物品に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、以下の作用メカニズムが推定される。
【0013】
本発明の防曇剤組成物から形成される防曇塗膜は、主に、共重合体(A)を構成する親水性単量体(A-1)と界面活性剤(B)の性質に基づいて良好な防曇性が発現され、疎水性単量体(A-2)の性質に基づいて基材との良好な密着性と耐水性が発現される。
【0014】
本発明の防曇剤組成物は、界面活性剤(B)として、カチオン系界面活性剤(B-1)とアニオン系界面活性剤(B-2)を併用する。前記カチオン系界面活性剤(B-1)と前記アニオン系界面活性剤(B-2)は、塗膜中でイオンペアを形成して、塗膜から溶出し難くなることになることによって、本発明の防曇塗膜は、長期の使用にわたって防曇性が低下しにくくなり、良好な防曇性が持続する。
【0015】
また、本発明の防曇剤組成物は、界面活性剤(B)として、カチオン系界面活性剤(B-1)とアニオン系界面活性剤(B-2)との重量部の比が特定の範囲である場合、良好な耐VOC性、防曇持続性及び防曇塗膜上に水膜を形成した後に生じる水垂れ跡を目立ちにくくすることができる。なお、水垂れ跡とは、防曇塗膜が水膜を形成した後に、塗膜表面に溶出した成分が乾燥することにより、目視で認識される跡をさす。さらに、界面活性剤(B)の重量部が特定の範囲である場合、良好な防曇性かつ水垂れ跡を目立ちにくくすることができる。
【0016】
よって、本発明の防曇剤組成物によれば、従来の防曇剤組成物よりも、車両灯具に求められる性能を有し、特に耐VOC性に優れた防曇塗膜、及び防曇塗膜を有する防曇性物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】耐VOC性試験装置の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の防曇剤組成物は、共重合体(A)と界面活性剤(B)を含む。
【0019】
<共重合体(A)>
本発明の共重合体(A)は、構成単位として、親水性単量体(A-1)と、疎水性単量体(A-2)を含み、具体的には、親水性単量体(A-1)と、疎水性単量体(A-2)を含む単量体混合物から得られる共重合体である。
【0020】
<親水性単量体(A-1)>
前記親水性単量体(A-1)は、主に、前記共重合体(A)に吸水性を発現させ、防曇塗膜の防曇性を高める機能を有する。
【0021】
前記親水性単量体(A-1)は、アミノ基、アミド基、イミド基、4級アンモニウム塩基、アセチル基、ポリオキシアルキレン基(例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、オキシエチレン基とオキシプロピレン基がブロック又はランダム結合したポリオキシアルキレン基等)、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、及びホスフィン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基、並びに前記官能基の塩(例えば、アンモニア、有機アミン、アルカリ金属との塩等)からなる群より選ばれる少なくとも1つの親水性基を有する。
【0022】
前記単量体(A-1)としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等のアミノ基含有単量体;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクロイルモルホリン、N-ビニル-2-ピロリドン等のアミド基含有単量体;N-スクシンイミジルアクリレート等のイミド基含有単量体;(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩基含有単量体;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレート等のアセチル基含有単量体;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートのカプロラクトン付加物等のヒドロキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩等のカルボキシル基含有単量体;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-スルホプロピル(メタ)アクリレート、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩等のスルホン酸基含有単量体;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートアシッドホスフェート等のホスホン酸及びホスフィン酸基含有単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩等が挙げられる。前記親水性単量体(A-1)は、防曇性と共に、塗膜と基材との密着性が優れるという観点から、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体及びスルホン酸塩含有(メタ)アクリルアミド系単量体が好ましく、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム塩、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ジアザビシクロウンデセン塩が特に好ましい。前記親水性単量体(A-1)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
また、前記親水性単量体(A-1)は、防曇性と密着性を向上させる観点から、2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体(A-1-1)と、スルホン酸塩含有(メタ)アクリルアミド系単量体(A-1-2)を併用することがより好ましい。前記単量体(A-1-1)と前記単量体(A-1-2)の重量比((A-1-1)/(A-2-2))は、100/100以上であることが好ましく、100/50以上であることがより好ましく、そして、100/5以下であることが好ましく、100/10以下であることがより好ましい。
【0024】
<疎水性単量体(A-2)>
前記疎水性単量体(A-2)は、主に、防曇塗膜の基材への密着性を高めると共に、耐水性を高める機能を有する。
【0025】
本発明の疎水性単量体(A-2)は、直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも1つの疎水性基を有する。
【0026】
前記疎水性単量体(A-2)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の脂肪族アクリル系単量体;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環アクリル系単量体;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族アクリル系単量体;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体等が挙げられる。前記疎水性単量体(A-2)は、塗膜と基材との密着性、耐水性を高めると共に、防曇性を高める観点から、直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有することが好ましく、また、炭素数は1から16であることが好ましく、1から12であることがより好ましく、1から8であることがさらに好ましい。前記疎水性単量体(A-2)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
以下に、本発明の共重合体(A)を形成する単量体混合物中の各単量体成分の割合について説明する。
【0028】
前記単量体混合物中、前記親水性単量体(A-1)の割合は40~95重量%であることが好ましい。前記親水性単量体(A-1)の割合は、防曇性を向上させる観点から、前記単量体混合物中、45重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましく、55重量%以上であることがよりさらに好ましく、そして、耐水性を向上させる、及び水垂れ跡を抑制させる観点から、90重量%以下であることがより好ましく、85重量%以下であることがさらに好ましく、80重量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0029】
前記単量体混合物中、前記疎水性単量体(A-2)の割合は5~60重量%であることが好ましい。前記疎水性単量体(A-2)の割合は、耐水性及び密着性を向上させる観点から、前記単量体混合物中、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることがさらに好ましく、20重量%以上であることがよりさらに好ましく、そして、防曇性を向上させる観点から、50重量%以下であることがより好ましく、45重量%以下であることがさらに好ましく、40重量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0030】
前記単量体混合物中、前記親水性単量体(A-1)及び疎水性単量体(A-2)の合計の割合は、85重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、95重量%以上であることがさら好ましく、97重量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0031】
なお、前記単量体混合物には、前記親水性単量体(A-1)及び疎水性単量体(A-2)以外のその他の単量体として、例えば、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス〔(メタ)アクリルアミド〕等の2官能性(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能ビニル系単量体;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のアルコキシシリル基を有するビニル系単量体等が使用できる。
【0032】
前記単量体混合物には、前記共重合体(A)を架橋させるため、公知の架橋方法で反応可能な架橋性単量体が含まれる。前記架橋性単量体は、前記親水性単量体(A-1)及び/又は疎水性単量体(A-2)の中から選択するものとする。
【0033】
<共重合体(A)の製造方法>
本発明の共重合体(A)は、前記単量体混合物を共重合することにより得られる。共重合体の構造としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体のいずれの構造であってもよいが、防曇性をはじめとする防曇剤組成物の効果を向上させることができると共に、防曇剤組成物を容易に調製することができるという観点からランダム共重合体が好ましい。共重合体を得るための重合方法としては、ラジカル重合法、カチオン重合法、アニオンリビング重合法、カチオンリビング重合法等の公知の各種重合方法が採用されるが、特に工業的な生産性の容易さ、多義にわたる性能面より、ラジカル重合法が好ましい。ラジカル重合法としては、通常の塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法等が採用されるが、重合後にそのまま防曇剤組成物として使用することができる点で溶液重合法が好ましい。
【0034】
前記溶液重合法に用いる重合溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のアルコールエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤;水等が使用される。前記重合溶剤は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
なお、前記重合溶剤は、著しく高沸点を有する溶剤は、塗膜の乾燥、加熱硬化時において、溶剤の残留によって基材に対する塗膜の密着性を損なう場合がある観点から、1気圧下、180℃未満の沸点を有する溶剤を使用することが好ましい。
【0036】
前記ラジカル重合開始剤は、一般的に使用される有機過酸化物、アゾ化合物等を使用することができる。前記有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-ヘキサノエートレート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシピバレート等が挙げられる。前記アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル等が挙げられる。前記ラジカル重合開始剤は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
前記ラジカル重合開始剤の添加量は、前記単量体混合物100重量部に対して0.01~5重量部であることが好ましい。前記ラジカル重合開始剤は、反応容器中に滴下しながら重合を行うことが重合発熱を制御しやすくなる点で好ましい。重合反応を行う温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類によって適宜変更されるが、工業的に製造を行う上で好ましくは30~150℃、より好ましくは40~100℃である。
【0038】
前記共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、防曇塗膜に耐水性を付与する観点から、20,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましい。共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、防曇剤組成物の塗装性及びハンドリング性を高める観点から、120,000以下が好ましく、110,000以下がより好ましい。
【0039】
前記共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、GPC法にて求めることができる。サンプルは、試料をジメチルホルムアミドに溶解して0.2重量%の溶液とし、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したものを用い、以下の条件にて測定することができる。
<重量平均分子量(Mw)の測定>
分析装置:HLC‐8320GPC(東ソー社製)
カラム:KD-802.5(昭和電工社製)、KD-803(昭和電工社製)、KD-80M(昭和電工社製)の直列接続
カラムサイズ:8.0×300mm
溶離液:ジメチルホルムアミド
流量:1.0ml/min
検出器:示差屈折計
カラム温度:40℃
標準試料:ポリスチレン
【0040】
<界面活性剤(B)>
前記界面活性剤(B)は、少なくとも、カチオン系界面活性剤(B-1)と、アニオン系界面活性剤(B-2)を含む。
【0041】
前記カチオン系界面活性剤(B-1)としては、従来公知のものを全て使用することができるが、例えば、エタノールアミン類、ラウリルアミンアセテート、トリエタノールアミンモノ蟻酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩等のアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩;ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。また、前記カチオン系界面活性剤(B-1)としては、例えば、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等のフッ素含有カチオン系界面活性剤が挙げられる。前記カチオン系界面活性剤(B-1)は、防曇性に優れるという観点から、フッ素含有カチオン系界面活性剤が好ましく、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩がより好ましい。前記カチオン系界面活性剤(B-1)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
前記アニオン系界面活性剤(B-2)としては、従来公知のものを全て使用することができるが、例えば、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等の高級アルコール硫酸エステル類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルジアルキルホスフェート塩、マリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンサルフェート塩が挙げられる。また、前記アニオン系界面活性剤(B-2)としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等のフッ素含有アニオン系界面活性剤等が挙げられる。前記アニオン系界面活性剤(B-2)は、防曇性に優れるという観点から、ジアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルホスフェート塩が好ましい。前記アニオン系界面活性剤(B-2)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
なお、前記界面活性剤(B)には、ベタイン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤を含むことができる。
【0044】
前記ベタイン系界面活性剤としては、従来公知のものを全て使用することができるが、例えば、ジメチルアルキルラウリルベタイン、ジメチルアルキルステアリルベタイン等の脂肪酸型ベタイン系界面活性剤;ジメチルアルキルスルホベタインのようなスルホン酸型ベタイン系界面活性剤;アルキルグリシン;パーフルオロアルキルベタイン等のフッ素含有ベタイン界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、従来公知のものを全て使用することができるが、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェノール、ポリオキシエチレンノニルフェノール等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類;ポリオキシエチレングリコールモノステアレート等のポリオキシエチレンアシルエステル類;ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類;アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル類;シュガーエステル類、セルロースエーテル類等が挙げられる。また、前記ノニオン系界面活性剤(C-3)としては、例えば、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基及び親水性基を有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基を有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基を有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基と親水性基及び親油性基を有するオリゴマー等のフッ素含有ノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0046】
前記界面活性剤(B)は、共重合体(A)100重量部に対して、1~15重量部である。前記界面活性剤(B)は、防曇性と耐VOC性を向上させる観点から、前記共重合体(A)100重量部に対して、2重量部以上であることがより好ましく、3重量部以上であることがさらに好ましく、そして、水垂れ跡を抑制させる観点から、14重量部以下であることがより好ましく、13重量部以下であることがさらに好ましい。
【0047】
前記カチオン系界面活性剤(B-1)と前記アニオン系界面活性剤(B-2)の重量比((B-1)/(B-2))は、4~20の範囲内である。前記カチオン系界面活性剤(B-1)と前記アニオン系界面活性剤(B-2)の重量比((B-1)/(B-2))は、耐VOC性、防曇持続性及び水垂れ跡の観点から、5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、そして、18以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましい。また、前記カチオン系界面活性剤(B-1)と前記アニオン系界面活性剤(B-2)の合計は、共重合体(A)100重量部に対して、1~15重量部であることが好ましい。前記カチオン系界面活性剤(B-1)と前記アニオン系界面活性剤(B-2)の合計は、防曇性と耐VOC性を向上させる観点から、前記共重合体(A)100重量部に対して、2重量部以上であることがより好ましく、3重量部以上であることがさらに好ましく、そして、水垂れ跡を抑制させる観点から、14重量部以下であることがより好ましく、13重量部以下であることがさらに好ましい。
【0048】
<希釈溶剤>
本発明の防曇剤組成物は、さらに、希釈溶剤を含むことができる。
【0049】
前記希釈溶剤は、防曇剤組成物の塗装に適した固形分及び粘度調整を目的として使用する。希釈溶剤としては、前記共重合体(A)の重合溶剤を用いることが好ましい。塗装方法により、塗装に適した固形分及び粘度は異なるが、スプレーコート法の場合、前記共重合体(A)は、防曇剤組成物中、3重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがさらに好ましく、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
<共重合体(A)の架橋方法>
本発明の共重合体(A)を架橋させる方法については、特に制限はなく、公知の架橋方法(架橋反応)から適宜選択できる。共重合体(A)は単独で架橋してもよく、また、架橋剤(例えば、エポキシ系架橋剤、アミノ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、チオール系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤等)を使用して架橋してもよい。前記架橋剤は、目的や用途に合わせて、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用しても良い。前記架橋剤の添加量は、慣用的な添加量で配合することができる。
【0051】
<架橋触媒、架橋助剤>
本発明の防曇剤組成物には、共重合体(A)の架橋反応を促進させたり、補助させたりするため、必要に応じ、架橋触媒や架橋助剤等を配合することができる。前記架橋触媒、架橋助剤の添加量は、それぞれ慣用的な添加量で配合することができる。
【0052】
<その他>
本発明の防曇剤組成物には、その他の成分として、必要に応じ、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の慣用の各種添加剤を配合することができる。前記その他の成分の添加量は、それぞれの添加剤につき慣用的な添加量で配合することができるが、通常、前記共重合体(A)100重量部に対して、10重量部以下である。
【0053】
<防曇性物品>
本発明の防曇性物品は、前記防曇剤組成物を、通常の塗料において行われる塗装方法により基材(被塗装物)に塗装し、加熱硬化することによって、被塗装物表面に防曇塗膜が形成されたものである。なお、塗装直後の塗膜中に含まれる溶剤を揮発乾燥させることを目的として、加熱硬化の工程の前に乾燥工程を設けることができる。
【0054】
前記基材(被塗装物)としては、その種類は問わず、公知の樹脂基材が使用可能であるが、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0055】
前記基材(被塗装物)への塗装の際には、被塗装物に対する防曇剤組成物の濡れ性を高め、はじきを防止する目的で、塗装前における被塗装物表面の付着異物除去を行うことが好ましい。高圧エアやイオン化エアによる除塵、洗剤水溶液又はアルコール溶剤による超音波洗浄、アルコール溶剤等を使用したワイピング、紫外線とオゾンによる洗浄等が挙げられる。塗装方法としては、例えば、浸漬法、フローコート法、ロールコート法、バーコート法、スプレーコート法等が挙げられる。
【0056】
前記乾燥は、通常、20~50℃の温度で0.5~5分間の条件下で行われる。
【0057】
前記加熱は、基材(被塗装物)が樹脂部材である場合、加熱温度を樹脂部材の熱変形温度以下に設定することが必要であるが、樹脂部材の僅かな変形を防止する観点から、樹脂部材の熱変形温度より5℃以下が好ましく、10℃以下が好ましい。例えば、樹脂部材がポリメチルメタクリレート樹脂の場合は60℃以下が好ましく、ポリカーボネート樹脂の場合は110℃以下が好ましい。加熱時間は、例えば、加熱温度が60℃の場合、10分以上が好ましく、15分以上がより好ましい。加熱時間は、例えば、加熱温度が110℃の場合、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。
【0058】
防曇塗膜の膜厚は、良好な防曇性と塗膜外観を得る観点から、0.5~10μm程度であることが好ましく、1~5μm程度であることがより好ましい。
【0059】
前記防曇性物品は、その用途は何ら限定されるものではないが、例えば、自動車の車両灯具に用いることができる。前記車両灯具としては、例えば、前照灯、補助前照灯、車幅灯、番号灯、尾灯、駐車灯、後退灯、方向指示灯、補助方向指示灯、非常点滅表示等が挙げられる。
【実施例0060】
以下に本発明を実施例等によって説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。
【0061】
<実施例1>
<共重合体(A)の製造>
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び冷却管を備えた反応容器に、重合溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを347重量部仕込み、窒素ガスを吹き込みながら70℃に加熱した。次いで、親水性単量体(A-1)として、N,N-ジメチルアクリルアミドを40重量部、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ジアザビシクロウンデセン塩を15重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレートを10重量部、疎水性単量体(A-2)として、ブチルアクリレートを35重量部混合した溶液と、ラジカル重合開始剤としてt-ヘキシルペルオキシネオデカネート(日油株式会社製、商品名「パーヘキシルND」(有効成分70重量%))1.0重量部を、プロピレングリコールモノメチルエーテル20重量部に溶解した溶液とを、2時間かけて滴下した。滴下終了後に70℃で1時間攪拌し、80℃で1時間攪拌した後、冷却して共重合体(A)の溶液を製造した。ガスクロマトグラフィーにて共重合体(A)の仕込み単量体の重合転化率を測定したところ、100%であった。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて共重合体(A)の重量平均分子量を測定したところ、60,000であった。この共重合体(A)の溶液の固形分は30.0重量%であった。
【0062】
<防曇剤組成物の製造>
上記で得られた共重合体(A)100重量部(固形分30%)の溶液333重量部に、ダイアセトンアルコール200重量部、n-プロピルアルコール467重量部を加えて、共重合体(A)の濃度を10.0重量%に調整した。次に、カチオン系界面活性剤(B-1)としてフッ素含有カチオン系界面活性剤(株式会社ネオス製、商品名「フタージェント300」(有効成分100重量%))を7.0重量部、アニオン系界面活性剤(B-2)としてジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(日油株式会社製、商品名「ラピゾールA80」(有効成分80重量%))を0.7重量部、硬化剤としてマロネートブロックイソシアネート(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「デュラネートMF-K60B」(NCO濃度6.5重量%))をNCO/OH比が1.0相当となる55.6重量部、レベリング剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名「BYK333」)を0.1重量部混合し、防曇剤組成物を製造した。
【0063】
<防曇性物品の作製>
25℃、30%RHの相対湿度に設定した環境下で、上記で得られた防曇剤組成物をポリカーボネート(PC)樹脂板に、硬化後の塗膜の膜厚が2~3μm程度になるように、スプレー塗装法にて塗装を行い、130℃で30分間の加熱硬化を行い、防曇塗膜を有する防曇性物品(試験片)を作製した。
【0064】
上記で得られた試験片を用いて、下記の(1)~(5)の評価方法で得られた結果を表1に示す。
【0065】
<(1)耐VOC性試験>
<(1-1)試験片の準備>
フォギングテスターWF-2(スガ試験機社製)を用いて、図1に示される試験装置を組み、以下の手順で試験片を準備した。
(i)試験管1の底部に、裁断したEPDM製ゴムパッキン2(2cm×2cm×2cmの欠片を一つ)を載置し、試験管1の開口部上に試験片3を塗膜面が底部側に向くよう載置し、開口部上にシリコーン製ゴムパッキン4を配置して、試験片3及びシリコーン製ゴムパッキン4の上からガラス板5で覆う。
(ii)試験管1をフォギングテスター6に配置し、ガラス板5の上に20℃の冷却ブタ7を載置して、120℃で6時間加熱する。
(iii)加熱後、試験管1が常温になるまで静置し、試験片3を取り外す。
<(1-2)スチーム試験>
80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、(1-1)で準備した試験片3を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続照射し、照射から10秒後の曇りの有無を目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題なく、Bであれば好ましく、Aであればより好ましい。
A:スチーム照射直後に水膜が形成され、曇らない。
B:スチーム照射直後に一瞬の曇りが認められるが、すぐに水膜が形成され曇らない。
C:スチーム照射直後に曇りが認められるが、水膜が形成され曇らない。
D:スチーム照射直後に曇りが認められ、水膜が形成されない。
【0066】
<(2)防曇性能の評価>
<(2-1)スチーム試験>
80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続照射し、照射から10秒後の曇りの有無を目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題なく、Bであれば好ましく、Aであればより好ましい。
A:スチーム照射直後に水膜が形成され、曇らない。
B:スチーム照射直後に一瞬の曇りが認められるが、すぐに水膜が形成され曇らない。
C:スチーム照射直後に曇りが認められるが、水膜が形成され曇らない。
D:スチーム照射直後に曇りが認められ、水膜が形成されない。
【0067】
<(2-2)持続性試験>
80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続で10秒間照射した後、試験片を垂直に立てた状態で室温にて1時間乾燥させた。これを30回繰り返した後、スチーム照射から10秒後の曇りの有無を目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題なく、Bであれば好ましく、Aであればより好ましい。
A:スチーム照射直後に水膜が形成され、曇らない。
B:スチーム照射直後に一瞬の曇りが認められるが、すぐに水膜が形成され曇らない。
C:スチーム照射直後に曇りが認められるが、水膜が形成され曇らない。
D:スチーム照射後にきれいな水膜が形成されない、もしくは水膜が形成されず曇りが認められる。
【0068】
<(2-3)耐熱性試験>
試験片を80℃の条件で240時間静置した後、室温にて24時間静置した。その後、80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続照射し、照射から10秒後の曇りの有無を目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題なく、Bであれば好ましく、Aであればより好ましい。
A:スチーム照射直後に水膜が形成され、曇らない。
B:スチーム照射直後に一瞬の曇りが認められるが、すぐに水膜が形成され曇らない。
C:スチーム照射直後に曇りが認められるが、水膜が形成され曇らない。
D:スチーム照射後にきれいな水膜が形成されない、もしくは水膜が形成されず曇りが認められる。
【0069】
<(3)水垂れ跡>
80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続10秒間照射した後、試験片を垂直に立てた状態で室温にて1時間乾燥させた。乾燥後に水垂れ跡の有無を目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題なく、Bであれば好ましく、Aであればより好ましい。
A:水垂れ跡が目立たない。
B:水垂れ跡がほとんど目立たない。
C:水垂れ跡がやや目立つ。
D:水垂れ跡が目立つ。
【0070】
<(4)耐水性>
試験片を40℃温水に240時間静置した後、室温にて1時間静置した後の、塗膜外観を目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題なく、Bであれば好ましく、Aであればより好ましい。
A:試験前と外観に変化がない。
B:わずかに塗膜表面が荒れている。
C:塗膜表面が荒れているか、又はわずか白化やシミが認められる。
D:塗膜の一部又は全部が溶解している、又ははっきりと白化やシミが認められる。
【0071】
<(5)密着性>
JIS K 5600 5.6に準拠して塗膜の剥離の有無を目視によって次の3段階で評価した。なお、評価がB以上であれば実用上問題なく、Aであればより好ましい。
A:全く剥離が認められない。
B:一部に剥離が認められる。
D:全て剥離している。
【0072】
<実施例2~23>
<共重合体(A)の製造>
実施例1の単量体を、表1に記載の原料及びその割合に変更したこと以外は、実施例1と同様な操作にて、実施例2~23の共重合体(A)の溶液を製造した。
【0073】
<防曇剤組成物の製造及び防曇性物品の作製>
実施例1の原料を、表1に記載の原料及びその割合に変更したこと以外は、実施例1と同様な操作にて、実施例2~23の防曇剤組成物を製造した。さらに、実施例1と同様な操作にて、実施例2~23の防曇塗膜を有する防曇性物品(試験片)を作製した。なお、表の値は、有効成分の値を示す。
【0074】
上記で得られた試験片を用いて、上記の(1)~(5)の評価方法で得られた結果を表1に示す。
【0075】
<比較例1>
<共重合体(A)の製造>
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び冷却管を備えた反応容器に、重合溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを347重量部仕込み、窒素ガスを吹き込みながら70℃に加熱した。次いで、単量体(A-1)として、N,N-ジメチルアクリルアミドを75重量部、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ジアザビシクロウンデセン塩を15重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレートを10重量部混合した溶液と、ラジカル重合開始剤としてt-ヘキシルペルオキシネオデカネート(日油株式会社製、商品名「パーヘキシルND」(有効成分70重量%))1.0重量部を、プロピレングリコールモノメチルエーテル20重量部に溶解した溶液とを2時間かけて滴下した。滴下終了後に70℃で1時間攪拌し、80℃で1時間攪拌した後、冷却して共重合体(A)の溶液を製造した。ガスクロマトグラフィーにて共重合体(A)の仕込み単量体の重合転化率を測定したところ、100%であった。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて共重合体(A)の重量平均分子量を測定したところ、70,000であった。この共重合体(A)の溶液の固形分は30.0重量%であった。
【0076】
<防曇剤組成物の製造>
上記で得られた共重合体(A)100重量部(固形分30%)の溶液333重量部に、ダイアセトンアルコール200重量部、n-プロピルアルコール467重量部を加えて、共重合体(A)の濃度を10.0重量%に調整した。次に、カチオン系界面活性剤(B-1)としてフッ素含有カチオン系界面活性剤(株式会社ネオス製、商品名「フタージェント300」(有効成分100重量%))を7.0重量部、アニオン系界面活性剤(B-2)としてジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(日油株式会社製、商品名「ラピゾールA80」(有効成分80重量%))を0.7重量部、硬化剤としてマロネートブロックイソシアネート(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「デュラネートMF-K60B」(NCO濃度6.5重量%))をNCO/OH比が1.0相当となる55.6重量部、レベリング剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名「BYK333」)を0.1重量部混合し、防曇剤組成物を製造した。
【0077】
<比較例2~4>
<共重合体(A)の製造>
比較例1の単量体を、表2に記載の原料及びその割合に変更したこと以外は、比較例1と同様な操作にて、比較例2~4の共重合体(A)の溶液を製造した。
【0078】
<防曇剤組成物の製造及び防曇性物品の作製>
比較例1の原料を、表2に記載の原料及びその割合に変更したこと以外は、比較例1と同様な操作にて、比較例2~4の防曇剤組成物を製造した。さらに、実施例1と同様な操作にて、比較例2~4の防曇塗膜を有する防曇性物品(試験片)を作製した。なお、表の値は、有効成分の値を示す。
【0079】
上記の比較例で得られた試験片を用いて、上記の(1)~(5)の評価方法で得られた結果を表2に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
表1~2中、親水性単量体(A-1)として、
DMAAは、N,N-ジメチルアクリルアミド;
DEAAは、N,N-ジエチルアクリルアミド;
DAAAは、ジアセトンアクリルアミド;
ACMOは、N-アクリロイルモルホリン;
AMPSは、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸;
AMPS-Naは、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム塩;
AMPS-DBUは、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ジアザビシクロウンデセン塩;
SPMA-Kは、3-スルホプロピルメタクリレートカリウム塩;を示す。
【0083】
表1~2中、疎水性単量体(A-2)として、
MMAは、メチルメタクリレート;
BAは、n-ブチルアクリレート;
CHAは、シクロヘキシルアクリレート;
LAは、ラウリルアクリレート;を示す。
【0084】
また、架橋性単量体として、
HEAは、2-ヒドロキシエチルアクリレート;を示す。
【0085】
表1~2中、界面活性剤(B)として、
ニッサンカチオン2DB500Eは、ジアルキル4級アンモニウム塩(日油株式会社製、有効成分50重量%);
ニッサンカチオンBBは、モノアルキル4級アンモニウム塩(日油株式会社製、有効成分30重量%);
フタージェント300は、フッ素含有カチオン系界面活性剤(株式会社ネオス社製、有効成分100重量%);
サーフロンS-221:フッ素基含有カチオン系界面活性剤(AGCセイミケミカル(株)製(有効成分30重量%))
ラピゾールA80は、スルホコハク酸ジエステル塩(日油株式会社製、有効成分80重量%);
パーソフトSKは、アルキル硫酸エステルナトリウム塩(日油株式会社製、有効成分30重量%);
フタージェント100は、フッ素含有スルホン酸塩(株式会社ネオス社製、有効成分100重量%);
サーフロンS-211:フッ素基含有アニオン系界面活性剤(AGCセイミケミカル(株)製(有効成分50重量%));を示す。
【0086】
また、架橋剤として、
Duranate MF-K60B:マロネートブロックイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製の商品名:デュラネートMF-K60B(NCO濃度6.5重量%));を示す。
【0087】
<その他>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0088】
以下、上記の実施例及び比較例の結果の主な考察を示す。
【0089】
実施例1~11の結果から、耐VOC性、防曇性及び水垂れ跡を向上させるための界面活性剤(B)の好ましい重量部、及びカチオン系界面活性剤(B-1)とアニオン系界面活性剤(B-2)の好ましい混合比が分かった。また、カチオン系界面活性剤(B-1)のなかでも、防曇持続性を向上させる観点から、フッ素含有カチオン系界面活性剤が好ましいことが分かった。
【0090】
実施例1、12~18の結果から、親水性単量体(A-1)のなかでも、密着性を向上させる観点から、DMAA及びAMPS-DBU、AMPS-Naが好ましいことが分かった。実施例1、19~21の結果から、疎水性単量体(A-2)のなかでも、防曇性を向上させる観点から、炭素数が1~8であるアルキル鎖を有するものが好ましいことが分かった。
【0091】
実施例1、22~23の結果から、各性能をバランスよく発現するための、共重合体(A)中の親水性単量体(A-1)と疎水性単量体(A-2)の好ましい割合が分かった。
【0092】
一方、比較例1は、共重合体を構成する単量体に、疎水性単量体(A-2)を使用していないため、実施例と比較して、耐VOC性、防曇持続性、耐熱性、水垂れ跡、耐水性及び密着性が劣ることが分かった。比較例2は、共重合体を構成する単量体に、親水性単量体(A-1)を使用していないため、実施例と比較して、耐VOC性、防曇性、水垂れ跡及び密着性が劣ることが分かった。比較例3~4は、カチオン系界面活性剤(B-1)とアニオン系界面活性剤(B-2)を併用していないため、実施例と比較して、耐VOC性、防曇持続性及び水垂れ跡が劣ることが分かった。
【符号の説明】
【0093】
1 試験管
2 裁断したEPDM製ゴムパッキン
3 試験片
4 シリコーン製ゴムパッキン
5 ガラス板
6 フォギングテスター
7 冷却ブタ
図1