(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140074
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】全方向移動体
(51)【国際特許分類】
B62D 11/04 20060101AFI20241003BHJP
B62D 61/10 20060101ALI20241003BHJP
B60B 19/00 20060101ALI20241003BHJP
B60K 17/16 20060101ALI20241003BHJP
B60K 17/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B62D11/04 Z
B62D61/10
B60B19/00 H
B60K17/16 Z
B60K17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051067
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 功一
【テーマコード(参考)】
3D042
3D052
【Fターム(参考)】
3D042AA01
3D042AA06
3D042BE01
3D042CA03
3D042CB01
3D052AA01
3D052AA02
3D052BB01
3D052BB08
3D052EE03
3D052FF03
3D052JJ08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】全方向移動体の自由度に適合する3つのアクチュエータを備え、全方向移動の動作に対する制御性の優れる4輪型の全方向移動体を提供する。
【解決手段】全方向移動体は、第1回転軸線C1を中心にして正転または逆転し、互いに間隔を隔てて配置される第1車輪11および第2車輪13と、第1回転軸線と直交する第2回転軸線を中心にして正転または逆転し、互いに間隔を隔てて配置される第3車輪15および第4車輪17と、第1車輪11と第2車輪13に正転または逆転の駆動力を出力する第1電動モータ21と、第3車輪15に正転または逆転の駆動力を出力する第2電動モータ23と、第4車輪17に正転または逆転の駆動力を出力する第3電動モータ25と、を備え、第1電動モータ21の駆動力を第1車輪11と第2車輪13に伝達する差動歯車装置30と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転軸線を中心にして正転または逆転し、互いに間隔を隔てて配置される第1車輪および第2車輪と、
前記第1回転軸線と直交する第2回転軸線を中心にして正転または逆転し、互いに間隔を隔てて配置される第3車輪および第4車輪と、
前記第1車輪と前記第2車輪に正転または逆転の駆動力を出力する第1電動モータと、
前記第3車輪に正転または逆転の駆動力を出力する第2電動モータと、
前記第4車輪に正転または逆転の駆動力を出力する第3電動モータと、を備え、
前記第1電動モータの駆動力を前記第1車輪と前記第2車輪に伝達する差動機構と、を備える、全方向移動体。
【請求項2】
前記第2電動モータおよび前記第3電動モータを同じ向きに回転させることにより前記第1回転軸線に沿う第1方向へ移動させ、
前記第1電動モータの正転または逆転により前記第2回転軸線に沿う第2方向へ移動させ、
前記第2電動モータおよび前記第3電動モータを異なる向きに回転させることにより、旋回運動をさせる、
請求項1に記載の全方向移動体。
【請求項3】
前記第1車輪および前記第2車輪は、平行リンク機構を備えるサスペンションを介してそれぞれが架台に支持される、
請求項1に記載の全方向移動体。
【請求項4】
前記サスペンションを構成する前記平行リンク機構は、
前記架台の側に固定される第1リンクと、
前記第1リンクと対向し、前記第1車輪および前記第2車輪の側に設けられる第3リンクと、
前記第1リンクと前記第3リンクとを連結し、互いに間隔を隔てて設けられる第2リンクと第4リンクと、を備え、
前記第2リンクと前記第4リンクは、前記第1リンクと前記第2リンクよりもリンク長が短い、
請求項3に記載の全方向移動体。
【請求項5】
前記第1電動モータの駆動力を前記第1車輪および前記第2車輪のそれぞれに伝達する駆動力伝達構造を備え、
駆動力伝達構造は、一対の自在接手構造を備え、
前記第2リンクと前記第4リンクのリンク長をllとし、
一対の自在接手構造の間隔をljとすると、
ll=ljが成り立つ、請求項4に記載の全方向移動体。
【請求項6】
前記第1車輪、前記第2車輪、前記第3車輪および前記第4車輪と、
前記第1電動モータ、前記第2電動モータおよび第3電動モータと、
前記差動機構と、
前記第1電動モータ、前記第2電動モータおよび第3電動モータに電力を供給するバッテリと、を支持し、おもて面とうら面を有する架台を備え、
前記第1電動モータは、前記おもて面の側に配置され、
前記第2電動モータ、前記第3電動モータおよび前記バッテリは、前記うら面の側に配置される、
請求項1に記載の全方向移動体。
【請求項7】
前記架台に支持される前記第2電動モータおよび前記第3電動モータのそれぞれは、回転電機と、前記回転電機の出力軸に連結される減速機と、を備え、
前記回転電機と前記減速機とは、平面視してL字状に配列される、
請求項6に記載の全方向移動体。
【請求項8】
前記第1車輪、前記第2車輪、前記第3車輪および前記第4車輪のそれぞれは、
ホイールと、前記ホイールの外周側に設けられ前記ホイールに対して転がり接触する複数のローラと、を備え、
前記ホイールは、前記駆動力により自転し、
前記ローラは、摩擦力が負荷されると従動回転する、
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の全方向移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全方向移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば物品を搬送するための自律走行型台車が用いられており、搬送作業等の自動化が図られている。自律走行型台車の一例として、電動モータで駆動される全方向移動車輪を用いた自律走行型台車が知られている。この全方向移動体として、4つの全方向移動車輪と、4つの全方向移動車輪のそれぞれを駆動する電動モータと、を備える、4輪および4アクチュエータ式の台車の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1は、バッテリの供給可能な電流に応じて駆動させるモータユニットの数を制限し、モータユニットで消費される全消費電流を減らすことを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるような従来の4輪型全方向移動体は、4つのアクチュエータを各車輪に連結し、駆動する。しかし、全方向移動動作は3自由度のため、従来の4輪型全方向移動体は全方向移動動作に対してアクチュエータの数が1自由度だけ冗長となり、制御性を悪化させる。また、アクチュエータ数が増えることにより、台車の寸法および重量が増となり、運動性能やコスト競争力を下げる要因となる。
【0005】
以上より、本発明は、全方向移動体の自由度に適合する3つのアクチュエータを備え、全方向移動の動作に対する制御性の優れる4輪型の全方向移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の全方向移動体は、
第1回転軸線を中心にして正転または逆転し、互いに間隔を隔てて配置される第1車輪および第2車輪と、
第1回転軸線と直交する第2回転軸線を中心にして正転または逆転し、互いに間隔を隔てて配置される第3車輪および第4車輪と、
第1車輪と第2車輪に正転または逆転の駆動力を出力する第1電動モータと、
第3車輪に正転または逆転の駆動力を出力する第2電動モータと、
第4車輪に正転または逆転の駆動力を出力する第3電動モータと、を備える。
本発明の全方向移動体は、第1電動モータの駆動力を第1車輪と第2車輪に伝達する差動機構と、を備える。
【0007】
本発明の全方向移動体において、好ましくは、
第2電動モータおよび第3電動モータを同じ向きに回転させることにより第1回転軸線に沿う第1方向へ移動させ、
第1電動モータの正転または逆転により第2回転軸線に沿う第2方向へ移動させ、
第2電動モータおよび第3電動モータを異なる向きに回転させることにより、旋回運動をさせる。
【0008】
本発明の全方向移動体において、好ましくは、
第1車輪および第2車輪は、平行リンク機構を備えるサスペンションを介してそれぞれが架台に支持される。
【0009】
本発明の全方向移動体において、好ましくは、
サスペンションを構成する平行リンク機構は、
架台の側に固定される第1リンクと、
第1リンクと対向し、第1車輪および第2車輪の側に設けられる第3リンクと、
第1リンクと第3リンクとを連結し、互いに間隔を隔てて設けられる第2リンクと第4リンクと、を備え、
第2リンクと第4リンクは、第1リンクと第2リンクよりもリンク長が短い。
【0010】
本発明の全方向移動体において、好ましくは、
第1電動モータの駆動力を第1車輪および第2車輪のそれぞれに伝達する駆動力伝達構造を備え、
駆動力伝達構造は、一対の自在接手構造を備え、
第2リンクと第4リンクのリンク長をllとし、
一対の自在接手構造の間隔をljとすると、
ll=ljが成り立つ。
【0011】
本発明の全方向移動体において、好ましくは、
第1車輪、第2車輪、第3車輪および第4車輪と、
第1電動モータ、第2電動モータおよび第3電動モータと、
差動機構と、
第1電動モータ、第2電動モータおよび第3電動モータに電力を供給するバッテリと、を支持し、おもて面とうら面を有する架台を備え、
第1電動モータは、おもて面の側に配置される。
【0012】
本発明の全方向移動体において、好ましくは、架台に支持される第2電動モータおよび第3電動モータのそれぞれは、回転電機と、回転電機の出力軸に連結される減速機と、を備え、
回転電機と減速機とは、平面視してL字状に配列される。
【0013】
本発明の全方向移動体において、好ましくは、
第1車輪、第2車輪、第3車輪および第4車輪のそれぞれは、
ホイールと、ホイールの外周側に設けられホイールに対して転がり接触する複数のローラと、を備え、
ホイールは、駆動力により自転し、
ローラは、摩擦力が負荷されると従動回転する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、全方向移動体の自由度に適合する3つのアクチュエータを備え、全方向移動の動作に対する制御性の優れる4輪型の全方向移動体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る全方向移動体の駆動系を示す図である。
【
図2】実施形態に係る全方向移動体を示し、(1)斜視図、(2)側面図および(3)平面図である。
【
図3】実施形態に係る他の全方向移動体を示し、(1)斜視図、(2)側面図および(3)平面図である。
【
図4】実施形態に係るさらに他の全方向移動体を示す平面図である。
【
図5】実施形態に係る全方向移動体が水平面から傾斜面に差し掛かったときに生ずる車輪と移動面との間の隙間を示す図である。
【
図6】オムニホイールの接地構造を説明する図である。
【
図7】全方向移動体のサスペンションに平行リンクを用いた場合の接地点の変動を示す図である。
【
図8】全方向移動体のサスペンションに平行リンクを用いた場合のスカッフ変化を示す図である。
【
図9】サスペンションによる上下に昇降する車輪に対して2つのフック接手を動力伝達構造して用いる例を示す図である。
【
図10】2つのフック接手を動力伝達構造して用いる例であって、昇降ストロークが0の場合と、昇降ストロークがmaxの場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、実施形態に係る全方向移動体1Aについて説明する。
全方向移動体1Aは、
図1および
図2に示されるように、その移動を実現する駆動系3と、駆動系3の要素であるアクチュエータ20に電力を供給するバッテリ7と、駆動系3およびバッテリ7を支持する架台9と、を備える。
【0017】
全方向移動体1Aは、駆動系3として、4つの車輪10と、4つの車輪10を駆動する3つのアクチュエータ20と、を備える。全方向移動体1Aは、4つの車輪10のうち2つの車輪10を1つのアクチュエータ20で駆動させ、他の2つの車輪10のそれぞれはアクチュエータ20で駆動させる。4つのアクチュエータ20の動作を制御することにより、全方向移動体1Aは全方向に移動することができる。全方向の移動は、前・後、左・右、斜め右前・左後、斜め左前・左後および旋回を組み合わせることにより実現される。
全方向移動体1Aは、好ましい形態として、構成要素の配置(レイアウト)を特定することにより、平面方向の寸法を小さくできるとともに、平面方向の重心位置を中央に近づけることができる。また、サスペンション(懸架装置)を特定することにより、くぼみのある路面を移動する際に車輪10が路面から浮くのを防止できる。
以下、全方向移動体1Aについて説明した後に、好ましい形態について言及する。
【0018】
[駆動系3:
図1参照]
全方向移動体1Aの駆動系3は、4つの車輪10の一例として第1車輪11、第2車輪13、第3車輪15および第4車輪17を備える。第1車輪11と第2車輪13は、第1回転軸線C1を中心にして正転または逆転し、互いに間隔を隔てて配置される。第3車輪15および第4車輪17は、第2回転軸線C2を中心にして正転または逆転し、互いに間隔を隔てて配置される。、第1回転軸線C1と第2回転軸線C2は直交しており、第1車輪11~第4車輪17は互いに90°の間隔を隔て、かつ、同一円周上に設けられる。また、第1車輪11~第4車輪17は、寸法、形状などが一致する、つまり同じ仕様で作製されている。
全方向移動体1Aは、3つのアクチュエータ20として、第1車輪11および第2車輪13を駆動する第1電動モータ21と、第3車輪15を駆動する第2電動モータ23と、第4車輪17を駆動する第3電動モータ25と、を備える。
全方向移動体1Aは、第1電動モータ21の回転駆動力を第1車輪11および第2車輪13に伝達する作動機構30を備える。
全方向移動体1Aにおいて、これからの説明の便宜のために、
図1に示されるように前方F、後方B、左方Lおよび右方Rが定義されるものとする。前方Fおよび後方Bを結ぶ方向を前後方向(第1方向)と定義し、左方Lおよび右方Rを結ぶ方向を左右方向(第2方向)と定義する。
【0019】
[車輪10(第1車輪11~第4車輪17):
図1参照]
第1車輪11~第4車輪17は、本発明の一例として公知のオムニホイールが用いられている。第1車輪11を例にしてオムニホイールを説明する。オムニホイールは、ホイールの正転および逆転による前後の動作と、円周上の樽型のローラの正転または逆転による左右の動作と、の組み合わせによって全方向への移動を支援する。ホイールの回転は動力源による主動回転であるのに対して、ローラの正転または逆転は移動面MPとの摩擦力による従動回転である。以下、オムニホイールの概要を説明する。
【0020】
オムニホイールからなる第1車輪11は、内輪12と、内輪12と同軸上に設けられる外輪14と、を備える。内輪12と外輪14は第1駆動軸35に固定され、第1駆動軸35の正転または逆転に伴って正転または逆転する。内輪12と外輪14は同じ寸法および構造を有しているが、第1駆動軸35に固定される位相が相違する。位相の相違は、内輪12と外輪14のそれぞれのローラ18の位置が周方向で交互に配置されることを言う。
【0021】
内輪12は、円板形状を有し、その中心が第1駆動軸35に固定されるホイール16と、ホイール16の円周に沿い、等間隔をもっと配置される複数のローラ18と、を備える。
ホイール16は、第1電動モータ21の駆動により正転または逆転する。このときローラ18も正転または逆転する。
ホイール16には、その周縁の近傍に、それぞれが表裏を貫通する複数のバレル保持用孔16Aが等間隔で穿孔されている。バレル保持用孔16Aよりも外周側のホイール16の部分がローラ18の従動回転の中心となる従動軸16Bをなし、ローラ18は従動軸16Bを中心にして正転または逆転する。ローラ18は、従動軸16Bを中心にして従動軸16Bと転がり接触をすることにより、従動回転する。
以上は、第1車輪11の構成を説明したが、第2車輪13、第3車輪15および第4車輪17も同様の構成を備えている。第2車輪13~第4車輪17には符号の記載が省略されている。
【0022】
図1において、第1車輪11および第2車輪13が例えば正転し、第2車輪13および第3車輪15が停止していると、駆動系3は右方Rへ移動する。このとき、第1車輪11および第2車輪13のローラ18は移動面MPを摺動しながら移動する一方、第2車輪13および第3車輪15のローラ18であって、移動面MPに接しているローラ18は移動に伴って回転する。
以上は、右方Rへの直線的な移動だけを示したが、第1車輪11~第3車輪15の正転または逆転を制御することにより、全方向移動体1Aは全方向移動台への移動できる。
【0023】
[アクチュエータ20(第1電動モータ21~第3電動モータ25):
図1,
図2参照]
全方向移動体1Aは、第1車輪11~第3車輪15の駆動源として、第1電動モータ21、第2電動モータ23および第3電動モータ25という3つのアクチュエータ20を備える。第1電動モータ21~第3電動モータ25には、正転および回転が可能であり、かつ、好ましくは回転速度の制御が可能な電動モータが広く適用される。
【0024】
第1電動モータ21は、駆動源としての回転電機22と、回転電機22の図示が省略される出力軸に連結される減速機24Aと、減速機24Aの出力軸26に固定される主動歯車28と、を備える。第1電動モータ21は、一例として、回転電機22と減速機24Aとが同軸上に配列されている。
第1電動モータ21は、回転電機22を駆動させることにより、主動歯車28と噛み合うリング歯車33を回転(正転/逆転)させることにより、第1車輪11および第2車輪13を回転(正転/逆転)させる。
第2電動モータ23、第3電動モータ25および第3電動モータ25は、主動歯車28を備えていないことを除けば、第1電動モータ21と同じ構成を備えている。
【0025】
第1電動モータ21、第2電動モータ23および第3電動モータ25は、全方向移動体1Aの移動を以下のように受け持つように動作が制御される。
前後方向(第1方向D1):第2電動モータ23および第3電動モータ25
左右方向(第2方向D2):第1電動モータ21
旋回:第2電動モータ23および第3電動モータ25
【0026】
[差動機構30:
図1,
図2参照]
駆動系3は、第1電動モータ21の出力を第1車輪11および第2車輪13に伝達する差動機構30を備える。本実施形態における差動機構30は、差動歯車装置からなる。
差動機構30は、筐体31と、筐体31一体化されるとともに主動歯車28と噛み合う従動環状歯車33と、を備える。筐体31の内部に設けられる歯車列の一例を示すと以下の通りである。筐体31の内部には、図示が省略される一対のサイドギヤと、一対のサイドギヤと噛み合う一対のピニオンギヤが収容されている。一対のサイドギヤの一方のサイドギヤは第1車輪11に軸支される第1駆動軸35に動力を伝達し、一対のサイドギヤの他方のサイドギヤは第2車輪13に軸支される第2駆動軸37に動力を伝達するように構成される。ピニオンギヤは、筐体31に収容されつつ、一対のサイドギヤと噛み合うことにより筐体31に支持されたピニオンシャフトの周りに回転する。一対のピニオンギヤは、1本のピニオンシャフトにそれぞれ軸支され、一対のサイドギヤのそれぞれと噛み合う。
差動機構30は、以上の例示した構造の差動歯車装置に限られず、例えば、一対の円環状のデフプレートの間に球体を挟む構造を有するボールデフと称される差動機構を用いることもできる。
差動機構30の動作は当業者間において周知であるから、ここでの説明は省略される。
差動機構30は、うら面9Bの側に配置されるが、主動歯車28と噛み合うために従動環状歯車33の一部は架台9を貫通して設けられる。
【0027】
[全方向移動体1Aの全体:
図2参照]
以上で説明した駆動系3を備える全方向移動体1Aは、一例として平面形状が円形の架台9を備える。架台9はおもて面9Aおよびうら面9Bを備える。おもて面9Aの側には第1電動モータ21が設けられる。また、うら面9Bの側には、第2電動モータ23、第3電動モータ25および差動機構30が設けられる。
全方向移動体1Aは、第1電動モータ21、第2電動モータ23および第3電動モータ25に電力を供給する電源として2つのバッテリ7を備える。2つのバッテリ7は、蓄電および給電の性能が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0028】
第1電動モータ21、第2電動モータ23および第3電動モータ25が受け持つ移動の方向は前述の通りであるが、より具体的には以下の通りである。
<前後:第2電動モータ23および第3電動モータ25>
第2電動モータ23および第3電動モータ25を同じ回転数および同じ向き、例えば正転させると、全方向移動体1Aは前方Fに向けて真直ぐに移動、つまり前進する。また、第2電動モータ23および第3電動モータ25を同じ回転数で正転させると、全方向移動体1Aは後方Bに向けて真直ぐに移動、つまり後退する。このとき、第1電動モータ21は停止しているものとする。
【0029】
<左右:第1電動モータ21>
第1電動モータ21を例えば正転させると全方向移動体1Aは左方Lに向けて真直ぐに移動し、第1電動モータ21を逆転させると全方向移動体1Aは右方Rに向けて真直ぐに移動する。このとき、第2電動モータ23および第3電動モータ25は回転が停止されている。
<旋回:第2電動モータ23および第3電動モータ25>
第2電動モータ23および第3電動モータ25を、同じ回転数で異なる向き、例えば第2電動モータ23を正転させ、第3電動モータ25を逆転させると、全方向移動体1Aは例えば時計回りに旋回運動する。第2電動モータ23および第3電動モータ25を、同じ回転数で異なる向き、例えば第2電動モータ23を逆転させ、第2モータ25を正転させる、全方向移動体1Aは例えば反時計回りに旋回運動する。このとき、第1電動モータ21の回転を停止させていれば、全方向移動体1Aは同じ位置で旋回運動する。
第2電動モータ23および第3電動モータ25を、異なる回転数で異なる向きに回転させると、全方向移動体1Aは当初とは異なる位置に移動しながら旋回運動する。
【0030】
以上のように、第1電動モータ21、第2電動モータ23および第3電動モータ25の回転を制御することにより、全方向移動体1Aは全方向に移動することができる。
【0031】
[全方向移動体1Aが奏する効果]
以上のように、全方向移動体1Aは、第1車輪11と第2車輪13を第1電動モータ21により回転駆動させ、第3車輪15を第2電動モータ23により駆動させ、第4車輪17を第3電動モータ25で駆動させる。この全方向移動体1Aによれば、4台のアクチュエータを備えるのに比べて、アクチュエータの数が少ないので、アクチュエータの制御性が向上とする。また、全方向移動台体1Aによれば、3台の第1電動モータ21~第3電動モータ25、3台の減速機24Aおよび1台の差動機構30を備え、他の機械的な要素を加えることなく、全方位に移動することができる。したがって、全方向移動体1Aによれば、機械的な要素の数を抑えることができるために、その分だけ寸法および製作コストを抑えることができる。また、機械的な要素の数を抑えることができるために、全方向移動体1Aは軽量であり運動性能に優れる。
【0032】
全方向移動体1Aについて説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、全方向移動体1Aで挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0033】
[配置最適化:
図2,
図3,
図4参照]
全方向移動体1Aについて、その構成要素の配置を最適化することができる。以下、
図3および
図4をも参照して最適化された配置について説明する。
はじめに、全方向移動体1Aが示される
図2の(3)平面図において、二点鎖線で囲まれる領域には構成要素が配置されていない空きスペースFSとなっている。この空きスペースFSは相当の表面積を占めるので、この空きスペースFSを狭くしたい。そのために、電動モータの構成を変更する。その一例として全方向移動体1Bが
図3に示されている。全方向移動体1Bは、第2電動モータ23および第3電動モータ25の構成が全方向移動体1Aと異なり、当初の空きスペースFSが狭くなることの他は、全方向移動体1Aと構成が同じである。したがって、
図3において、全方向移動体1Aと同じ要素には同じ符号が付されている。
【0034】
全方向移動体1Bにおいて、第2電動モータ23および第3電動モータ25が、平面視してL字状の形態をなしている。この形態において、減速機24Bは、歯車列を構成する歯車が並列に配列される構成を備えており、平面視すると一方向、ここでは前後方向の寸方が長い矩形の外形を有している。この構成を備えることにより、回転電機22を架台9の径方向の中心から外側にずらして配置することができる。これにより、回転電機22だけでなく減速機24Bを全方向移動体1Aにおける空きスペースFSに配置させることで、空きスペースFSを狭くできる。また、回転電機22の配置が架台9の前方Fの側に移動したことにより、全方向移動体1Bの重心Gの位置を架台9の中心Cに近づけることができる。なお、全方向移動体1Aの重心Gは、
図3に示される重心Gよりも後方Bにある。
【0035】
図3に示される全方向移動体1Bにおいても、二点鎖線および破線で示される空きスペースFSが存在するとともに、重心Gを架台9の中心Cに一致させることが望ましい。そこで、
図4に示される全方向移動体1Cは、第1車輪11~第4車輪17、第2電動モータ23および第3電動モータ25ならびにバッテリ7,7を中心Cに近づけられている。第2電動モータ23および第3電動モータ25ならびにバッテリ7,7については、前後方向および左右方向の両方について、中心Cに近づけられている。
【0036】
ここで、
図3に示されるように、第1電動モータ21は架台9のおもて面9Aの側に第1電動モータ21を設け、架台9のうら面9Bの側に差動機構30、第2電動モータ23および第3電動モータ25、二つのバッテリ7を設けている。したがって、第2電動モータ23および第3電動モータ25、二つのバッテリ7を中心Cに近づけるのに、第1電動モータ21が障害となることがない。また、第2電動モータ23および第3電動モータ25がL字状の形態をなしており、差動機構30に干渉するのを避けながら、第2電動モータ23および第3電動モータ25を中心Cに近づけることができる。
【0037】
以上のように、各構成要素の配置調整することにより、全方向移動体1Cは、重心Gを中心Cに一致させることができるとともに、径方向の寸法を全方向移動体1Aに比べて10~20%だけ小寸法化できる。重心Gを中心Cと一致させることができれば、全方向移動体1Cとしての運動性能、制御能力の向上を図ることができる。
【0038】
[サスペンション仕様:
図5~
図10参照]
平坦な移動面だけを移動する場合には全方向移動体はサスペンションを必要としない。しかし、例えば
図5に示されるように、起伏のある移動面MPを移動する場合には全方向移動体1Cは、移動が不能になる。つまり、後方Bから前方Fに向けて移動している最中に例えば第3車輪15および第4車輪17が移動面MPから離れることがある。そうすると、全方向移動体1Cは、そのままでは前方Fおよび後方Bへの移動が困難になるおそれがある。そこで、移動面MPから車輪が離れるのを防ぐことができるサスペンションを設ける。
【0039】
[オムニホイールの接地構造:
図6参照]
サスペンションの説明の前に、
図6を参照して、第1車輪11~第4車輪17を構成するオムニホイールの接地構造を説明する。この特質は、同じ構成、寸法を有する内輪12と外輪14を周方向の位相を変えて配置していることに基づいている。
図6の上側の図は、外輪14のローラ18が移動面MPに設置している状態を示している。このとき、内輪12は移動面MPから離れている。この状態から、オムニホイールを30°だけ回転させると、
図6の下側の図のように、今度は内輪12のローラ18が移動面MPに接地する代わりに、外輪14は移動面MPから離れる。以上のように、オムニホイールは、所定の回転角の回転の度に設置するローラ18が内輪12と外輪14で切り替わりながら、移動面MPと接地点GPにおいて連続的に接地される。オムニホイールにおいて、全方向移動体が移動する際に接地点GPが変動しないことが望まれる。オムニホイール、ひいては全方向移動体の姿勢安定性の担保のためである。
【0040】
[4節リンク機構によるサスペンション:
図7,
図8]
オムニホイールを懸架するサスペンションを設ける場合、4節リンク機構を採用することが想定される。ここで、4節リンク機構とは、平面上で連結された4つの回転対偶で、そのうち1つを固定して得られる機構のことである。ここでは、第1リンク41が架台9の側に固定され、変位が制限されている。
4つのリンクの長さをa,b,c,dとすると、4節リンク機構は以下の式(1)~(3)として成立し、実施形態においては何れをも採用できる。しかし、接地点GPを変動させないためには、4節リンク機構のなかでも平行リンク機構、つまり式(1)~(3)において、左辺と右辺とが等しい機構を採用することが好ましい。その一例が、
図7に示されている。なお、
図7において、オムニホイール(第1車輪11を例示)は構造が簡略化されて描かれている。
a+c ≦b+d … 式(1)
a+d ≦b+c … 式(2)
a+b ≦c+d … 式(3)
【0041】
図7に示されるサスペンション40は、第1リンク41、第2リンク42、第3リンク43および第4リンク44を備える。なお、第1リンク41は架台9の側に設けられ、第4リンク44はオムニホイールの側に設けられる。サスペンション40は、第1リンク41と第2リンク42は第1ジョイント45により、第2リンク42と第3リンク43とは第2ジョイント46により、第3リンク43と第4リンク44とは第3ジョイント47により、第4リンク44と第1リンク41とは第4ジョイント48により、それぞれ回転対偶をなす。そして、サスペンション40は、第1リンク41、第2リンク42、第3リンク43および第4リンク44のそれぞれのリンク長をL41,L42,L43,L44とすると、以下の関係が成立する平行リンク機構である。なお、L41,L43=L42,L44の場合もあれば、L41,L43≠L42,L44の場合もある。
L41=L43 , L42=L44
【0042】
図7に示されるように、第1車輪11が鉛直方向Vに昇降したとしても、平行リンク機構からなるサスペンション40が第1車輪11を懸架しているために、第1車輪11は鉛直方向Vに平行な姿勢を保つのに加えて、第2リンク42から第4リンク44までの水平方向Hの距離の変動、つまりスカッフ量を小さくできる。したがって、平行リンク機構からなるサスペンション40を用いることにより、全方向移動体が鉛直方向Vに起伏のある移動面MPを移動する際に、水平方向Hにおける接地点GPの変動を抑え、全方向移動体のふらつきを防止して姿勢安定性の担保に寄与できる。
【0043】
ここで、スカッフ量を小さくすることを優先させるのであれば、第2リンク42および第4リンク44を長くすればよい。逆に、
図8に示されるように、第2リンク42および第4リンク44を短くすればスカッフ量は大きくなる。全方向移動体の平面方向の寸法を小さくしたいのであれば、第2リンク42および第4リンク44を短くすることが望まれる。
【0044】
ここで、スカッフ量の増大によるふらつきは、接地点GPを含む車輪と移動面MPとの摩擦が原因であるが、オムニホイールの場合、接地点GPはローラ18と移動面MPの間に現れる。ローラ18はホイール16に対して転がり接触により支持されており、スカッフ量が大きくなったとしても、摩擦力によるふらつきは発生しにくい。したがって、小寸法化を優先させるとするのであれば、第2リンク42および第4リンク44を短くしてもよい。
【0045】
[駆動力伝達構造50:
図9,
図10]
次に、第1電動モータ21の駆動力を、第1駆動軸35を介して第1車輪11に伝達する駆動力伝達構造50について、
図9および
図10を参照して説明する。この駆動力伝達構造50は、平行リンク機構を備えるサスペンション40により昇降ストロークする第1車輪11に第1駆動軸35の駆動力を伝達する。なお、ここでは第1車輪11について説明するが、第2車輪13についても同様の構造を備える。
【0046】
駆動力伝達構造50は、自在接手により構成される。具体的には、第1電動モータ21に接続される第1駆動軸35Aに連結される第1接手51と、第1車輪11の回転中心に接続される第1駆動軸35Bに連結される第2接手52と、第1接手51と第2接手52とを連結する第3接手53と、を備える。第1接手51と第3接手53との連結部分、および、第2接手52と第3接手53の連結部分がそれぞれ自在接手からなる。
【0047】
自在接手は、フック接手とも称され、二つの軸第1駆動軸35Aと第1駆動軸35Bとがある角度を有しても軸力を伝達できるように連結する機械要素をいう。ただし、駆動力伝達構造50は、第1車輪11が昇降ストロークすることを前提として、第1駆動軸35Aから第1駆動軸35Bへ軸力を伝達できることが前提である。そのためには、サスペンション40の第2リンク42および第4リンク44の長さl
lと第3接手53の長さl
jを等しく(l
l=l
j)する。そうすることにより、
図10に示されるように、第1車輪11の昇降ストロークができるとともに、第1駆動軸35Aから第1駆動軸35Bへ軸力を伝達できる。
【0048】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、本実施形態における車輪は、内輪12と外輪14を備える、つまりホイールが2つのオムニホイールを例示したが、ホイールが1つまたはホイールが3つ以上のオムニホイールを用いることもできる。
また、本発明の車輪として、オムニホイールの他にメカナムホイールを用いることができる。メカナムホイールとは、本体外円上に本体に対して45°だけ傾いた樽型のローラで覆われた車輪をいう。オムニホイールとメカナムホイールは、一般的なタイヤのようにステアリングを用いて旋回するのではなく、駆動輪の回転差を用いて旋回を行う車輪である点で共通する。車輪の回転差を制御することで、通常のタイヤのように車輪の回転方向への移動だけでなく、旋回や全方向への平行移動が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1A,1B,1C 全方向移動体
3 駆動系
7 バッテリ
9 架台
9A おもて面
9B うら面
10 車輪
11 第1車輪
13 第2車輪
15 第3車輪
17 第4車輪
12 内輪
14 外輪
16 ホイール
16A バレル保持用孔
16B 従動軸
18 ローラ
20 アクチュエータ
21 第1電動モータ
23 第2電動モータ
25 第3電動モータ
22 回転電機
24A,24B 減速機
26 出力軸
28 主動歯車
30 差動伝達系
30 差動歯車装置
31 筐体
33 従動環状歯車
35 第1駆動軸
37 第2駆動軸
40 サスペンション
41 第1リンク
42 第2リンク
43 第3リンク
44 第4リンク
45 第1ジョイント
46 第2ジョイント
47 第3ジョイント
48 第4ジョイント
C 中心
G 重心
FS 空きスペース
B 後方
F 前方
L 左方
R 右方
MP 移動面
GP 接地点
H 水平方向
V 鉛直方向