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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140075
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】半割スラスト軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/04 20060101AFI20241003BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F16C17/04 Z
F16C9/02
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051068
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 滉平
(72)【発明者】
【氏名】米谷 晋也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 龍樹
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011AA07
3J011BA09
3J011BA13
3J011CA01
3J011JA02
3J011KA03
3J011LA04
3J011MA07
3J011NA01
3J011RA03
3J033AA02
3J033AA05
3J033GA02
3J033GA09
(57)【要約】
【課題】内燃機関の運転時に焼付が生じにくい半割スラスト軸受の提供。
【解決手段】半割スラスト軸受は摺動面に2つの油溝を有する。半割スラスト軸受の軸線方向と直交して半円環形状の中心および周方向中央を通る直線を垂直中心線と定義し、半割スラスト軸受の軸線方向と直交して各周方端面を通る直線を水平中心線と定義する。各油溝は、垂直中心線と平行に延び、半割スラスト軸受の内周側縁部および外周側縁部に開口する。各油溝は、溝底面を有し、一定の溝幅、一定の底面幅および一定の溝深さを有する。2つの油溝は、垂直中心線に関して対称に垂直中心線から離間する。摺動面に垂直、且つ、垂直中心線に平行な断面視において、油溝の溝底面は、平坦部なしに連続的に起伏する複数の山と複数の谷とから成る凹凸面になされ、各山の稜線及び各谷の谷線は、水平中心線と平行に延び、凹凸面の高低差は、溝深さの5%以上、20%以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための半円環形状の半割スラスト軸受(8)であって、該半割スラスト軸受は、前記軸線方向力を受ける摺動面(81)およびその反対側の摺動面に平行な背面(82)を有し、該摺動面に、2つの油溝(81a)を有し、
前記半割スラスト軸受の軸線方向と直交して、前記半円環形状の中心(O)
および周方向中央(CP)を通る直線を垂直中心線(LV)と定義し、前記半割スラスト軸受の軸線方向直交し、各周方端面を通る直線を水平中心線(LH)と定義すると、各油溝は、前記垂直中心線(LV)と平行に延び、前記半割スラスト軸受の内周側縁部(8i)および外周側縁部(8o)に開口し、
前記各油溝は、溝底面(90)を有し、一定の溝幅(W1)、一定の底面幅(W2)および一定の溝深さ(D)を有し、
前記2つの油溝(81a)は、前記垂直中心線(LV)に関して対称に前記垂直中心線(LV)から離間して位置する、前記半割スラスト軸受(8)において、
前記摺動面(81)に垂直、且つ、前記垂直中心線LVに平行な断面視にて、前記油溝(81a)の前記溝底面(90)は、平坦部なしに連続的に起伏する複数の山(91)と複数の谷(92)とから成る凹凸面になされ、
各山(91)の稜線(91L)及び各谷(92)の谷線(92L)は、前記水平中心線(LH)と平行に延び、
前記凹凸面の高低差(h)は、前記溝深さ(D)の5%以上、20%以下であることを特徴とする半割スラスト軸受。
【請求項2】
前記凹凸面の高低差(h)は、前記溝深さ(D)の5%以上、15%以下であることを特徴とする、請求項1に記載された半割スラスト軸受。
【請求項3】
前記溝底面(90)の隣り合う山(91)の前記稜線(91L)どうしの間の前記垂直中心線(LV)に平行な方向のピッチ(P1)は、1~3mmであることを特徴とする、請求項1に記載された半割スラスト軸受。
【請求項4】
前記油溝(81a)は、前記垂直中心線(LV)から円周角度θで20°~45°の範囲で離間していることを特徴とする、請求項1に記載された半割スラスト軸受。
【請求項5】
前記摺動面に他の油溝を更に有することを特徴とする、請求項1に記載された半割スラスト軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受に関するものである。とりわけ、摺動面に潤滑油を供給するために油溝を有する半割スラスト軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受を円筒形状に組み合わせて構成される主軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に回転自在に支承される。
【0003】
一対の半割軸受のうちの一方又は両方が、クランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受と組み合わせて用いられる。半割スラスト軸受は、半割軸受の軸線方向端面の一方又は両方に配設される。
【0004】
半割スラスト軸受は、クランク軸に生じる軸線方向力を受ける。すなわち、クラッチによってクランク軸と変速機とが接続される際等に、クランク軸に対して入力される軸線方向力を支承することを目的として配置されている。
【0005】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受からなる主軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に支承される。このとき潤滑油は、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから主軸受の壁内の貫通口を通じて、主軸受の内周面に沿って形成された潤滑油溝内に送り込まれる。潤滑油はこのようにして主軸受の潤滑油溝内に供給され、その後に半割スラスト軸受に供給される。
【0006】
半割スラスト軸受の摺動面には、潤滑油を摺動面に供給するために油溝が形成される(特許文献1の図1参照)。
【0007】
ところで、近年、内燃機関の潤滑油供給用のオイルポンプが小型化され、このため軸受に対する潤滑油の供給量が減少している。これに伴って主軸受の端面からの潤滑油の漏れ量が減少し、半割スラスト軸受に対する潤滑油の供給量も減少する傾向にある。この対策として、例えば半割スラスト軸受の摺動面に複数の細溝を並設して形成することによって、潤滑油の保油性を高める技術が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-201145号公報
【特許文献2】特開2001-323928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さらに、近年、内燃機関の軽量化のためにクランク軸の軸径が小径化され、従来のクランク軸よりも低剛性となっている。このため、内燃機関の運転時にクランク軸に撓みが発生しやすく、クランク軸の振動が大きくなる傾向にあり、半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面に対するスラストカラー面の傾斜が特に大きくなる。したがって、半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面とクランク軸のスラストカラー面とが直接に接触し、損傷(焼付)が起きやすくなっている。
【0010】
特許文献2は、摺動面に複数の細溝を設けることによって、軸受面のほぼ全面に潤滑油を供給する構成を開示している。しかし、特許文献2の技術を採用しても、上述のクランク軸の撓みによる振動が大きい場合には、特に半割スラスト軸受の周方向中央部付近の摺動面が、クランク軸のスラストカラーと接触することを防止することは困難である。
ところで、内燃機関の運転時にクランク軸の振動が大きくなると、半割スラスト軸受の摺動面とクランク軸のカラー面が近接する動作と離間する動作を繰り返す。半割スラスト軸受の摺動面とクランク軸のカラー面が近接する動作時、潤滑油溝内の油が、クランク軸のカラー面に押圧されて、潤滑油溝の半割スラスト軸受の外周側の開口や内周側の開口から外部へ漏れ出ていた。このため半割スラスト軸受の周方向中央側の摺動面では潤滑油の給油が不十分となり、半割スラスト軸受の摺動面に焼付が生じる可能性があった。
【0011】
したがって本発明の目的は、内燃機関の運転時に、焼付が生じにくい半割スラスト軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一観点によれば、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための半円環形状の半割スラスト軸受が提供される。この半割スラスト軸受は、軸線方向力を受ける摺動面およびその反対側の摺動面に平行な背面を有し、摺動面に、2つの油溝を有する。ここで、半割スラスト軸受の軸線方向と直交して半円環形状の中心および周方向中央を通る直線を垂直中心線と定義し、半割スラスト軸受の軸線方向と直交して各周方端面を通る直線を水平中心線と定義する。そうすると、各油溝は、垂直中心線と平行に延び、半割スラスト軸受の内周側縁部および外周側縁部に開口する。各油溝は、溝底面を有し、一定の溝幅、一定の底面幅および一定の溝深さを有する。2つの油溝は、垂直中心線に関して対称に垂直中心線から離間して位置する。
摺動面に垂直、且つ、垂直中心線LVに平行な断面で視たとき、油溝の溝底面は、平坦部なしに連続的に起伏する複数の山と複数の谷とから成る凹凸面になされ、各山の稜線及び各谷の谷線は、水平中心線と平行に延び、凹凸面の高低差は、溝深さの5%以上、20%以下である。
【0013】
本発明の一具体例によれば、凹凸面の高低差は、溝深さの5%以上、15%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の一具体例によれば、溝底面の隣り合う山の稜線どうしの間の垂直中心線に平行な方向のピッチは、1~3mmであることが好ましい。
【0015】
本発明の一具体例によれば、油溝は、垂直中心線から円周角度θで20°~45°の範囲で離間していることが好ましい。
【0016】
本発明の一具体例によれば、摺動面に他の油溝を更に有することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】軸受装置の分解斜視図である。
図2】軸受装置の断面図である。
図3】半割軸受及びスラスト軸受の正面図である。
図4】実施例1の半割スラスト軸受の正面図である。
図5図4の半割スラスト軸受のA-A断面図である。
図6図4の半割スラスト軸受のB-B断面図である。
図7A図5の溝底面付近の拡大図である。
図7B図7AのC矢視図の拡大図である。
図8】本発明の作用を説明するための半割スラスト軸受の正面図である。
図9】本発明の作用を説明するための、図8の半割スラスト軸受のC-C断面図である。
図10】従来技術の半割スラスト軸受の正面図である。
図11図10の半割スラスト軸受のA1-A1断面図である。
図12】従来技術の作用を説明するための図である。
図13】従来技術の作用を説明するための図である。
図14】別形態の半割スラスト軸受の正面図である。
図15図14の半割スラスト軸受のY1矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。
【0019】
(軸受装置の全体構成)
まず、図1図3を用いて本発明の半割スラスト軸受8を有する軸受装置1の全体構成を説明する。図1図3に示すように、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔(保持孔)5が形成されており、側面における軸受孔5の周縁には円環状凹部である受座6、6が形成されている。軸受孔5には、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が円筒状に組み合わされて嵌合される。受座6、6には、クランク軸のスラストカラー12を介して軸線方向力f(図2参照)を受ける半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて嵌合される。
【0020】
図3に示すように、主軸受を構成する半割軸受7のうち、シリンダブロック2側(図中の上側)の半割軸受7の内周面には潤滑油溝71が形成され、また潤滑油溝71内には外周面に貫通する貫通孔72が形成されている。なお、潤滑油溝は、上下両方の半割軸受に形成することもできる。
【0021】
(半割スラスト軸受の構成)
次に、図4図7を用いて実施例の半割スラスト軸受8の構成について説明する。図4は、実施例1の半割スラスト軸受8の正面図であり、図5は、図4におけるA-A断面図であり、図6は、図4におけるB-B断面図であり、図7Aは、図5の溝底面付近の拡大図であり、図7Bは、図7AのC矢視図である。
本実施例の半割スラスト軸受8は、例えば鋼製の裏金層に薄い軸受合金層を接着したバイメタルによって、半円環形状の平板に形成される。半割スラスト軸受8は、軸受合金層の表面でありスラストカラー12を支承する摺動面81と、裏金層の、軸受合金層を接着させた側と反対側の表面である背面82とを有し、摺動面81と背面82は、平行になっている。摺動面81には、潤滑油を摺動面81に供給するために、2つの油溝81a、81aが形成されている。
【0022】
半割スラスト軸受8の軸線方向と直交し、半円環形状の中心O及び周方向中央CPを通る中心線が、垂直中心線LVであり、半割スラスト軸受8の軸線方向と直交し、各周方端面83を通る中心線が、水平中心線LHであると定義する。ここで、半割スラスト軸受8の軸線方向は摺動面と垂直な方向であり、周方向中央CPは両周方端面83からの円周角が等しくなる位置である。垂直中心線LVと水平中心線LHは直交する。油溝81aは、垂直中心線LVと(下記に記載する凹凸を無視すれば概略的に言えば)平行に延び、半割スラスト軸受8の径方向内側端部(内周側縁部)8iおよび径方向外側端部(外周側縁部)8oに開口している。
油溝81aは、摺動面81に垂直、且つ、水平中心線LHに平行な断面視にて、摺動面81と平行な溝底面90を有している。油溝81aの延びる方向で、油溝81aの溝幅W1および底面幅W2は、一定となっている(図6参照)。2つの油溝81a、81aは、同じ溝幅W1、溝底幅W2を有するようになっている。なお、油溝81aの溝幅W1は、摺動面81の位置における水平中心線LHと平行な方向の油溝81aの長さとして定義され、底面幅W2は、水平中心線LHと平行な方向の溝底面90の長さとして定義される。
【0023】
2つの油溝81a、81aは、垂直中心線LVに関して対称に垂直中心線LVからそれぞれ離間して摺動面81に形成されている。油溝81aは、垂直中心線LVから円周角度θ1で20°~45°の範囲で離間しているようにできる(図4参照)。ここで、油溝81aの垂直中心線LVからの離間角度は、油溝81aの外周側縁部8oの位置における半割スラスト軸受8の周方向中央側の溝端部の位置での円周角(半円環形状の中心Oを中心とする)で表す。
【0024】
油溝81aの溝底面90は、摺動面81に垂直、且つ、垂直中心線LVに平行な断面視にて、平坦部なしに連続的に起伏する複数の山91と複数の谷92から成る凹凸面になされている。なお、油溝81aの溝深さDは、摺動面81から谷92の最深部92Pまでの摺動面に垂直方向の深さとして定義される(図7A参照)。図5および図7Aにおける破線は、複数の谷92の最深部92Pを結んだ仮想線を示し、摺動面81からこの仮想線までの間の距離(溝深さD)は、油溝81aの延び方向で一定となっている。なお、油溝81aの溝深さDは、油溝81aの延び方向で僅かに変化してもよい。
各山91の稜線91L及び各谷92の谷線92Lは、水平中心線LHと平行に延びている。なお、山91の稜線91Lは、山91の頂部91Pが連なった線として定義され、谷92の谷線92Lは、谷92の最深部92P(摺動面81からの深さが最大となる点)が連なった線として定義される(図7B参照。なお、図7Bにおける一点鎖線は稜線91Lを示し、破線は谷線92Lを示し、H矢印は、水平中心線と平行方向を示す)。
【0025】
隣り合う山91の稜線91Lどうしの間の垂直中心線LVに平行な方向のピッチP1は、1~3mmとすることが好ましいが、これに限定されないでピッチP1は他の寸法であってもよい。
【0026】
凹凸面の高低差すなわち山91の高さhは、溝深さDの5%以上、20%以下である。山91の高さhは、溝深さDの5%以上、15%以下とすることがより好ましい。なお、山91の高さhさは、稜線91Lの延び方向で一定になっていることが好ましいが、上記の溝深さDと山91の高さhとの関係が成立する範囲内であれば、稜線の延び方向で僅かに変化していてもよい。
【0027】
(作用)
次に、図8及び図9を用いて、本実施例の半割スラスト軸受8の作用を説明する。
【0028】
図8は、半割スラスト軸受8の摺動面81とスラストカラー12の表面が最も近接したときの正面図を示し、Xはクランク軸(スラストカラー12)の回転方向を示し、油溝81aから流出する矢印は、油溝81aから摺動面81とスラストカラー12の表面との間の隙間への油の流れを示す。図9は、図8の半割スラスト軸受8のC-C断面を示し、白抜き矢印は、溝底面90側への油の流れを示し、実線の矢印は、溝側面93に沿った油の流れ(逆流)を示す。
【0029】
上記のように、内燃機関の運転時、クランク軸の撓みによる振動が大きくなると、クランク軸のスラストカラー12の表面は、半割スラスト軸受8の摺動面81に対して傾斜角度を変化させながら、あるいはうねりながら近接する動作と離間する動作を繰り返すが、特に半割スラスト軸受8の周方向中央部付近にて、スラストカラー12の表面が最も近接する。半割スラスト軸受8の摺動面81とクランク軸のスラストカラー12の表面が、離間した状態から相対的に近接するように動作するとき、半割スラスト軸受8の油溝81aの溝底面90とクランク軸のスラストカラー12の表面との間の隙間の油は、圧縮されて圧力が高くなり、溝底面90側へ向かって押し込まれるように流れる。
油溝81の溝底面90は、摺動面81に垂直、且つ、垂直中心線LVに平行な断面視にて、平坦部なしに連続的に起伏する複数の山91と複数の谷92から成る凹凸面になされ、各山の稜線91L及び各谷の谷線92Lは、水平中心線LHと平行に延びる。このため、油溝81aの溝底面90に向かって流れてきた高圧の油は、山91が、油の油溝の延び方向(垂直中心線LVに平行方向)への流動抵抗となるために、谷92に沿って流れて、溝底面90の幅方向の両端部側(谷線92Lの延び方向の端部側)へ流れ、さらに、その慣性力によって油溝81aの溝側面93に沿って逆流し、摺動面81とスラストカラー12の表面との間の隙間に流出する。この流出した油は、スラストカラー12の表面に付随し、半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81に送られため、半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81の損傷(焼付)が防がれる。
【0030】
なお、上記作用は、2つの油溝81aの内、主に半割スラスト軸受8の周方向中央CPに対しクランク軸(スラストカラー12)の回転方向の後方側の油溝81a(図4では、紙面左側の油溝81a)によるものである。なお、図2に示す紙面の左側の受座6に配置される半割スラスト軸受8、8に対するスラストカラー面の回転方向Xと、紙面の右側の受座6に配置される半割スラスト軸受8、8に対するスラストカラー面の回転方向Xとは逆になる。図2に示されるスラストカラー12の回転方向とは逆方向(左回転)である側に配置される半割スラスト軸受8では、図4における紙面右側の油溝81aが主に作用に関係することとなる。
【0031】
油溝81a(油溝81aの外周側縁部8oの位置における半割スラスト軸受8の周方向中央側の溝幅W1の端部)は、垂直中心線LVから円周角度θ1で20°~45°の範囲で離間するようにすることが好ましい。
内燃機関の運転時にクランク軸に撓みが発生し、クランク軸の振動が大きくなるとき、半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81に対するスラストカラー12の表面の傾斜が特に大きくなり、2面間の隙間は狭くなる。油溝81aは、垂直中心線LVから円周角度θ1で20°未満で離間するようにした場合、油溝81aに隣接する摺動面81とスラストカラー12の表面の間の隙間が狭すぎて、油溝81a内の油が隙間へ流出し難くなることがある。また、油溝81aは、垂直中心線LVから円周角度θ1で45°を超えて離間するようにした場合、油溝81aから油溝81aに隣接する摺動面81とスラストカラー12の表面の間の隙間に流出した油が、スラストカラー12の表面に付随して、周方向中央部付近の摺動面81へ達する前に、遠心力の作用で隙間の半割スラスト軸受8の外周側縁部8o側から外部へ流出し、周方向中央部付近の摺動面81へ流れる油の量が不十分になることがある。
【0032】
また、凹凸面の高低差すなわち山の高さhは、油溝81aの溝深さDの5%以上、20%以下である。山の高さhが、油溝81aの溝深さDの5%未満であると、油溝81aの溝底面90に向かって流れてきた高圧の油が、油溝81aの延び方向(垂直中心線と平行方向)へも流れやすくなり、油溝81aの外周側縁部8o側の開口や内周側縁部8i側の開口から外部へ流出してしまい、周方向中央部付近の摺動面81へ流れる油の量が不十分となる。
【0033】
一般に、層流状態の油が乱流状態となる際、圧力損失が生じ、内燃機関の機械損失が生じる。内燃機関の常用運転時でも、クランク軸には小さな撓みや振動が起こるが、山の高さhが油溝81aの溝深さDの20%を超えると、この小さな振動による半割スラスト軸受8の摺動面81とスラストカラー12の表面が近接する動作時に、油溝81aの溝側面93に沿って摺動面81とスラストカラー12の表面との間の隙間への油の流れが形成されやすくなり、この油流がストストカラー12の表面に付随して摺動面81とスラストカラー12面の間の隙間を流れる油流(層流状態)にぶつかる(合流する)際、油は乱流状態となるので、内燃機関の機械損失が大きくなってしまう。油溝81aの溝深さDの20%以下であると、内燃機関の常用運転時のクランク軸の小さな撓み、振動による半割スラスト軸受8の摺動面81とスラストカラー12の表面が近接する動作時に、油溝81aの溝側面93に沿って摺動面81とスラストカラー12の表面との間の隙間への油の流れが形成されなくなる。このため、内燃機関の常用運転時の機械損失の増加を防ぐことができる。
【0034】
これに対して、実施例とは異なり油溝81aの溝底面90の山91の稜線91Lおよび谷92の谷線92Lを水平中心線LVに対して傾斜させた場合には、この傾斜角度が大きくなるほど、溝底面90に向かって流れてきた高圧の油の油溝81aの延び方向(垂直中心線LVに平行方向)へ流れへの抵抗が小さくなる。このため、油が油溝81aの外周側縁部8o側の開口や内周側縁部8i側の開口から外部へ流出しやすくなり、半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81に送られ難くなるため、半割スラスト軸受8の周方向中央部付近の摺動面81の損傷(焼付)が起きやすくなる。
【0035】
次に、図10図11図12および図13を用いて、従来技術の半割スラスト軸受18の構成およびその作用を説明する。図10は、半割スラスト軸受18の摺動面側を見た正面図であり、図11は、図10のA1-A1断面図であり、図12は、半割スラスト軸受18の摺動面181とスラストカラー12の表面が最も近接したときの正面図を示し、Xはクランク軸(スラストカラー12)の回転方向を示し、白抜き矢印は、油の流れを示し、図13は、図12の半割スラスト軸受18のC1-C1断面を示し、白抜き矢印は油の流れを示す。
【0036】
従来技術の半割スラスト軸受18は、油溝181aの溝底面190以外の構成は実施例の半割スラスト軸受8の構成と同じになっている。従来技術の半割スラスト軸受18の油溝181aの溝底面190は、摺動面181に垂直、且つ、垂直中心線LVに平行な断面にて、摺動面181と平行な平坦面になされている(図11参照)。
半割スラスト軸受18の摺動面181とクランク軸のスラストカラー12の表面が、離間した状態から相対的に近接するように動作するとき、半割スラスト軸受18の油溝181aの溝底面190とクランク軸のスラストカラー12の表面との間の隙間の油は、溝底面190側へ向かって押し込まれるように流れる。
油溝181aの溝底面190は、平坦面になされているため、油溝81aの溝底面190に向かって流れてきた油は、溝底面190に沿って油溝181aの延び方向(垂直中心線と平行方向)へ流れ、油溝181aの外周側縁部18o側の開口や内周側縁部18i側の開口から外部へ流出してしまい、油溝181aに隣接する摺動面181とスラストカラー12の表面との間の隙間には流出できなくなり、半割スラスト軸受18の周方向中央部付近の摺動面181に送られ難くなる。
【0037】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0038】
図14は、別形態の半割スラスト軸受8の正面図を示し、図15は、図14の半割スラスト軸受8のY1矢視図を示す。例えば、図14に示すように、半割スラスト軸受8は、位置決め及び回転止めのために、半径方向外側に突出する突出部88を備えることもできる。また、図14および図15に示すように半割スラスト軸受8の摺動面81の周方向両端部にスラストリリーフ84形成することもでき、背面82の周方向両端部に背面リリーフ84Bを形成することもできる。さらに、半割スラスト軸受8の円周方向長さは、実施例1に示す半割スラスト軸受8の周方向端面83の位置(スラスト軸受分割平面HP)よりも所定の長さS1だけ短くすることもできる。
また、半割スラスト軸受8は、周方向端部近傍において内周面を半径Rの円弧状に切り欠くこともできる。
【0039】
また、半割スラスト軸受8は、上記に説明した2つの油溝とは別に他の油溝を有してもよい。他の油溝の配置及び構造はどのようなものでもよい。例えば、摺動面81の周方向中央CPに、垂直中心線LVと平行に延びる油溝であってもよい。
【0040】
また上記では、軸受装置に半割スラスト軸受を4つ使用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも1つの本発明による半割スラスト軸受を使用することで所望の効果を得ることができる。また本発明の軸受装置において、半割スラスト軸受は、クランク軸を回転自在に支承する半割軸受の軸線方向の一方又は両方の端面に一体に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 軸受装置
11 ジャーナル部
12 スラストカラー面
2 シリンダブロック
3 軸受キャップ
4 軸受ハウジング
5 軸受孔(保持孔)
6 受座
7 半割軸受
71 潤滑油溝
72 貫通孔
8 半割スラスト軸受
8i 内周側縁部
8o 外周側縁部
81 摺動面
81a 油溝
82 背面
83 周方向両端面
84 スラストリリーフ
84S 背面リリーフ
90 溝底面
91 山
91L 稜線
91P 頂部
92 谷
92L 谷線
92P 最深部
93 溝側面
CP 周方向中央部
D 溝深さ
h 山高さ
HP スラスト軸受分割平面
LH 水平中心線
LV 垂直中心線
O 中心
P1 ピッチ
W1 溝幅
W2 底面幅
X 回転方向
θ1 円周角度
H 水平中心線LHと平行方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15