(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140076
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】水系インクジェットインク組成物、記録方法およびインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20241003BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241003BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09D11/322
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051069
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】丸山 友暉
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 哲郎
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB58
4J039BC09
4J039BC13
4J039BC50
4J039BC78
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA41
4J039EA42
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクジェット法による吐出を行った際の尾引きの発生を十分に抑制しつつ、エポキシ接着剤が用いられたインクジェットヘッドに適用した場合における異物の析出を十分に抑制することができ、長期間にわたって優れた吐出安定性を保持することができる水系インクジェットインク組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の水系インクジェットインク組成物は、顔料と、水溶性有機溶剤と、ε-カプロラクタムと、水とを含有し、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が、2.0質量%以下であり、25℃における粘度が4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下であり、エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドから吐出して用いられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、水溶性有機溶剤と、ε-カプロラクタムと、水とを含有し、
トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が、2.0質量%以下であり、
25℃における粘度が4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下であり、
エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドから吐出して用いられる、水系インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記水の含有量が50.0質量%以上90.0質量%以下である、請求項1に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記顔料の含有量が5.0質量%以上20.0質量%以下である、請求項1または2に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記ε-カプロラクタムの含有量が1.0質量%以上10.0質量%以下である、請求項1または2に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と前記1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が、0.5質量%以上である、請求項1または2に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項6】
前記水溶性有機溶剤として、沸点270℃以上の多価アルコールを含有する、請求項1または2に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項7】
さらにベタインを含有する、請求項1または2に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項8】
顔料と、水溶性有機溶剤と、ε-カプロラクタムと、ベタインと、水とを含有し、
トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が、0.5質量%以上2.0質量%以下であり、
前記水溶性有機溶剤として、沸点270℃以上の多価アルコールを含有し、
前記顔料の含有量が5.0質量%以上20.0質量%以下であり、
前記水の含有量が50.0質量%以上90.0質量%以下であり、
前記ε-カプロラクタムの含有量が1.0質量%以上10.0質量%以下であり、
25℃における粘度が4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下であり、
エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドから吐出して用いられる、水系インクジェットインク組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の水系インクジェットインク組成物を、エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドから吐出し、記録媒体に付着させる工程を有する、記録方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載の水系インクジェットインク組成物と、エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドとを備える、インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インクジェットインク組成物、記録方法およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリントの用途が拡大しており、オフィス、家庭用の印刷機としてのほか、商業印刷、テキスタイルプリント等へも適用されている。
【0003】
インクジェット用インクとしては、環境負荷への配慮等から、水を液体成分の主成分として含む水系インクジェットインクの開発が行われている。
【0004】
また、水系インクジェットインク組成物の粘度、表面張力を調整したり、水系インクジェットインク組成物の保湿性を向上させたりする目的で、トリエチレングリコールモノブチルエーテルや1,2-ヘキサンジオールといった特定の水溶性有機溶剤を比較的高い割合で含有させることがある(例えば、特許文献1の段落番号0068、0142等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように特定の水溶性有機溶剤の含有量が比較的高いものであると、インクジェット法による吐出を行った際に、いわゆる尾引きを生じやすく、インクジェット記録装置の筐体内を汚染しやすくなる等の問題があった。
【0007】
特定の水溶性有機溶剤の含有量を低くすることにより、尾引きの発生は抑制することができるものの、以下の問題が生じる。すなわち、エポキシ接着剤が用いられたインクジェットヘッドに、上記のような特定の水溶性有機溶剤の含有量が低い水系インクジェットインク組成物を適用した場合、接着剤の硬化物からの溶出物が異物として析出しやすくなる。このような異物の析出が進行すると、例えば、インクジェットヘッドのノズル突端に異物が付着して、インクジェット法による水系インクジェットインク組成物の吐出安定性が低下する等の問題を生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0009】
本発明の適用例に係る水系インクジェットインク組成物は、顔料と、水溶性有機溶剤と、ε-カプロラクタムと、水とを含有し、
トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が、2.0質量%以下であり、
25℃における粘度が4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下であり、
エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドから吐出して用いられる。
【0010】
本発明の他の適用例に係る水系インクジェットインク組成物は、顔料と、水溶性有機溶剤と、ε-カプロラクタムと、ベタインと、水とを含有し、
トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が、0.5質量%以上2.0質量%以下であり、
前記水溶性有機溶剤として、沸点270℃以上の多価アルコールを含有し、
前記顔料の含有量が5.0質量%以上20.0質量%以下であり、
前記水の含有量が50.0質量%以上90.0質量%以下であり、
前記ε-カプロラクタムの含有量が1.0質量%以上10.0質量%以下であり、
25℃における粘度が4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下であり、
エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドから吐出して用いられる。
【0011】
本発明の適用例に係る記録方法は、本発明の適用例に係る水系インクジェットインク組成物を、エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドから吐出し、記録媒体に付着させる工程を有する。
【0012】
本発明の適用例に係るインクジェット記録装置は、本発明の適用例に係る水系インクジェットインク組成物と、エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドとを備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、インクジェット記録装置の一例としてのシリアルプリンターを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施例1~10および比較例1~4の水系インクジェットインク組成物についての、組成、25℃における粘度、評価結果等を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]水系インクジェットインク組成物
まず、本発明の水系インクジェットインク組成物について説明する。
【0015】
本発明の水系インクジェットインク組成物は、顔料と、水溶性有機溶剤と、ε-カプロラクタムと、水とを含有している。そして、本発明の水系インクジェットインク組成物中におけるトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和は、2.0質量%以下であり、本発明の水系インクジェットインク組成物の25℃における粘度は、4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下である。そして、本発明の水系インクジェットインク組成物は、エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドから吐出して用いられるものである。
【0016】
これにより、インクジェット法による吐出を行った際の尾引きの発生を十分に抑制しつつ、エポキシ接着剤が用いられたインクジェットヘッドに適用した場合における異物の析出を十分に抑制することができ、長期間にわたって優れた吐出安定性を保持することができる水系インクジェットインク組成物を提供することができる。
【0017】
このような優れた効果が得られるのは、以下のような理由によると考えられる。すなわち、本発明では、水系インクジェットインク組成物中に、ε―カプロラクタムを含有させることにより、水系インクジェットインク組成物中におけるトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が、2.0質量%以下という十分に小さい値であっても、水系インクジェットインク組成物の粘度、表面張力を好適に調整することができる。また、水系インクジェットインク組成物をエポキシ接着剤が用いられたインクジェットヘッドに適用した場合においても、接着剤の硬化物からの溶出物が異物として析出することを十分に抑制することができる。そのため、インクジェット法による水系インクジェットインク組成物の吐出安定性を、長期間にわたって安定的に優れたものとすることができる。
【0018】
これに対し、上記の条件を満たさない場合は、満足のいく結果が得られない。
例えば、水系インクジェットインク組成物が、ε-カプロラクタムを含まない場合には、水系インクジェットインク組成物を、エポキシ接着剤が用いられたインクジェットヘッドに適用した場合に、接着剤の硬化物からの溶出物が異物として析出しやすくなり、インクジェット法による水系インクジェットインク組成物の吐出安定性が低下する等の問題を生じる。
【0019】
また、水系インクジェットインク組成物中における、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が、2.0質量%を超えると、インクジェット法による吐出を行った際に尾引きを生じやすくなる。
【0020】
また、水系インクジェットインク組成物の25℃における粘度が前記下限値未満であると、水系インクジェットインク組成物の水溶性有機溶剤や顔料の含有量を十分に高めることが困難となり、インクジェット法による印字安定性が低下したり、水系インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部の色濃度を十分に高めることができず、記録部の発色性が低下したりする等の問題を生じる。
【0021】
また、水系インクジェットインク組成物の25℃における粘度が前記上限値を超えると、インクジェット法による安定的な液滴吐出が困難となる。
【0022】
なお、本発明において、水系インクジェットインク組成物は、水を液体成分の主成分として含むものであればよく、具体的には、水系インクジェットインク組成物中に含まれる25℃において単独で液状をなす全成分のうち、水の占める割合が50質量%以上のインクジェット組成物であればよい。
【0023】
また、本発明において、水系インクジェットインク組成物中における、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和は、2.0質量%以下であればよく、例えば、水系インクジェットインク組成物中における、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が0質量%であってもよい。言い換えると、本発明において、水系インクジェットインク組成物は、トリエチレングリコールモノブチルエーテルおよび1,2-ヘキサンジオールをいずれも含まないものであってもよい。
【0024】
また、本発明において、「粘度」とは、「動粘度」のことを指し、振動式粘度計、回転式粘度計、細管式粘度計、落球式粘度計により測定して求めることができる。例えば、振動式粘度計としては、JIS Z8809に準拠した測定により求めることができるが、細管式粘度計(例えば、キャノンフェンスケ、離合社製)により測定して求めることが好ましい。
【0025】
[1-1]顔料
本発明の水系インクジェットインク組成物は、顔料を含んでいる。
【0026】
顔料としては、各種の無機顔料や有機顔料を用いることができる。顔料としては、2種以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
無機顔料としては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック類、酸化鉄、酸化チタン等が挙げられる。
【0028】
有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等の染料キレート、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染色レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等が挙げられる。
【0029】
さらに詳しくは、黒色の顔料として使用されるカーボンブラックとしては、例えば、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(以上、キャボット社製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ社製)等が挙げられる。
【0030】
白色の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21等が挙げられる。
【0031】
黄色の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180等が挙げられる。
【0032】
紅紫色の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、C.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0033】
藍紫色の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バット ブルー 4、60等が挙げられる。
【0034】
また、前記以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7、10、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63等が挙げられる。
【0035】
水系インクジェットインク組成物は、顔料として、自己分散顔料を含んでいてもよい。
これにより、顔料を分散させるための分散剤を含有させる必要が無く、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡を効果的に防止し、水系インクジェットインク組成物の吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0036】
なお、本明細書において、自己分散顔料とは、樹脂あるいは界面活性剤等の分散剤なしに、水性媒体中に分散および/または溶解することが可能な顔料のことを言う。ここで、「分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても、その表面の親水基により、顔料が水性媒体中に安定に存在している状態を言う。
【0037】
自己分散顔料は、その顔料表面に親水基を有する顔料であり、その親水基としては、例えば、-OM、-COOM、-CO-、-SO3M、-SO2M、-SO2NH2、-RSO2M、-PO3HM、-PO3M2、-SO2NHCOR、-NH3、-NR3等が挙げられる。なお、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、または有機アンモニウムを表し、Rは、炭素原子数が1以上12以下のアルキル基または置換基を有していてもよいナフチル基を表す。また、顔料表面と前記親水基との間には、例えば、フェニル基が存在していてもよい。
【0038】
自己分散顔料は、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、親水基を顔料の表面に結合させることにより製造することができる。このような物理的処理としては、例えば、真空プラズマ処理等が挙げられる。また、化学的処理としては、例えば、水中で酸化剤により酸化する湿式酸化法等が挙げられる。
【0039】
また、自己分散顔料としては、例えば、次亜ハロゲン酸および/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、オゾンによる酸化処理、または過硫酸および/または過硫酸塩による酸化処理により表面処理された自己分散顔料が、高発色という点で好ましい。また、自己分散顔料としては、市販品を利用することも可能であり、好ましい例としては、マイクロジェットCW1(オリヱント化学工業社製)、CAB-O-JET250C、CAB-O-JET260M、CAB-O-JET270Y、CAB-O-JET444MP(以上、キャボット社製)等が挙げられる。
【0040】
水系インクジェットインク組成物中における顔料の含有量は、特に限定されないが、1.0質量%以上30.0質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以上20.0質量%以下であるのがより好ましく、5.5質量%以上12.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0041】
これにより、水系インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部において、十分な色濃度を確保しやすくなり、記録媒体上での発色性をより優れたものとすることができるとともに、水系インクジェットインク組成物の保存安定性、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットヘッドにおける目詰まり回復性等をより優れたものとすることができる。
【0042】
[1-2]水
本発明の水系インクジェットインク組成物は、水を含んでいる。
【0043】
水は、例えば、水系インクジェットインク組成物中において、顔料を分散する分散媒や、ε-カプロラクタムを溶解する溶媒として機能する成分である。
【0044】
また、水系インクジェットインク組成物が水を含むことにより、水系インクジェットインク組成物中において、水溶性有機溶剤等を均一に含ませることができ、これらの機能をより効果的に発揮させることができる。
【0045】
本発明の水系インクジェットインク組成物中における水の含有量は、50.0質量%以上90.0質量%以下であるのが好ましく、53.0質量%以上85.0質量%以下であるのがより好ましく、55.0質量%以上80.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0046】
これにより、顔料以外の成分をそれぞれ十分な含有量で含むことができ、これらの機能を十分に発揮させることができるとともに、水系インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部において、十分な色濃度を確保しやすくなり、記録媒体上での発色性をより優れたものとすることができる。また、例えば、インクジェットヘッドのノズル端面での水分蒸発による過剰な高粘度が進行することをより効果的に防止しつつ、顔料をより好適に分散させることができ、インクジェット法による吐出安定性をより向上させることができる。
【0047】
[1-3]ε-カプロラクタム
本発明の水系インクジェットインク組成物は、ε-カプロラクタムを含んでいる。
【0048】
これにより、水系インクジェットインク組成物中におけるトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が、2.0質量%以下という十分に小さい値であっても、水系インクジェットインク組成物の粘度、表面張力を好適に調整することができる。また、水系インクジェットインク組成物をエポキシ接着剤が用いられたインクジェットヘッドに適用した場合においても、接着剤の硬化物からの溶出物が異物として析出することを十分に抑制することができる。
【0049】
水系インクジェットインク組成物中におけるε-カプロラクタムの含有量は、0.5質量%以上15.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であるのがより好ましく、2.0質量%以上7.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0050】
これにより、水系インクジェットインク組成物をエポキシ接着剤が用いられたインクジェットヘッドに適用した場合における、異物の析出をより好適に抑制することができるとともに、異物が発生した場合においても当該異物の溶解性を優れたものとすることができ、インクジェットヘッドにおける目詰まりの発生をより好適に防止することができる。
【0051】
水系インクジェットインク組成物中における顔料の含有量をXA[質量%]、水系インクジェットインク組成物中におけるε-カプロラクタムの含有量をXB[質量%]としたとき、以下の関係を満たすのが好ましい。すなわち、0.10≦XB/XA≦1.20の関係を満たすのが好ましく、0.30≦XB/XA≦1.10の関係を満たすのがより好ましく、0.40≦XB/XA≦1.00の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0052】
これにより、インクジェット法による吐出を行った際の尾引きの発生をより効果的に抑制しつつ、エポキシ接着剤が用いられたインクジェットヘッドに適用した場合における異物の析出をより効果的に抑制することができ、長期間にわたってより優れた吐出安定性を保持することができる。
【0053】
[1-4]水溶性有機溶剤
本発明の水系インクジェットインク組成物は、水溶性有機溶剤を含んでいる。
【0054】
これにより、水系インクジェットインク組成物の粘度、表面張力を好適に調整することができる。また、水系インクジェットインク組成物の保湿性が優れたものとなり、インクジェットヘッド等での乾燥等により、水系インクジェットインク組成物の固形分が不本意に析出してしまうこと等が効果的に防止され、目詰まり回復性も優れたものとすることができ、水系インクジェットインク組成物の吐出安定性を優れたものとすることができる。
【0055】
このような水溶性有機溶剤としては、25℃における水に対する溶解度が10g/100g水以上の有機溶媒を好適に用いることができる。
【0056】
水溶性有機溶剤の大気圧下での沸点は、180℃以上であるのが好ましく、200℃以上であるのがより好ましい。
【0057】
これにより、水系インクジェットインク組成物により良好な保湿性を付与することができる。
【0058】
水溶性有機溶剤としては、例えば、ポリオール化合物、グリコールエーテル、環状アミド化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
ポリオール化合物としては、例えば、分子内の炭素数が2以上6以下であり、かつ、分子内にエーテル結合を1つ有してもよいポリオール化合物、好ましくはジオール化合物等が挙げられる。具体例としては、1,2-ペンタンジオール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-3-フェノキシ-1,2-プロパンジオール、3-(3-メチルフェノキシ)-1,2-プロパンジオール、3-ヘキシルオキシ-1,2-プロパンジオール、2-ヒドロキシメチル-2-フェノキシメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール等のグリコール類が挙げられる。
【0060】
グリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選択されるグリコールのモノアルキルエーテルが挙げられる。前記モノアルキルエーテルとしては、例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0061】
環状アミド化合物としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、2-ピペリドン(δ-バレロラクタム)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0062】
本発明の水系インクジェットインク組成物は、上記の中でも、水溶性有機溶剤として、沸点270℃以上の多価アルコールを含有するのが好ましい。
【0063】
このような水溶性有機溶剤を、ε-カプロラクタムと併用することにより、インクジェット法による吐出を行った際の尾引きの発生をより効果的に抑制しつつ、エポキシ接着剤が用いられたインクジェットヘッドに適用した場合における異物の析出をより効果的に抑制することができ、長期間にわたってより優れた吐出安定性を保持することができる。
【0064】
特に、本発明の水系インクジェットインク組成物は、水溶性有機溶剤として、グリセリン、トリエチレングリコールのうちの少なくとも一方を含むことが好ましく、グリセリンおよびトリエチレングリコールの両方を含むことが好ましい。
【0065】
このような水溶性有機溶剤を、ε-カプロラクタムと併用することにより、インクジェット法による吐出を行った際の尾引きの発生をさらに効果的に抑制しつつ、エポキシ接着剤が用いられたインクジェットヘッドに適用した場合における異物の析出をさらに効果的に抑制することができ、長期間にわたってさらに優れた吐出安定性を保持することができる。
【0066】
本発明の水系インクジェットインク組成物を構成する全水溶性有機溶剤中に占めるグリセリンおよびトリエチレングリコールの占める割合、すなわち、本発明の水系インクジェットインク組成物中における、全水溶性有機溶剤の含有量をXS[質量%]、グリセリンの含有量をXG[質量%]、トリエチレングリコールの含有量をXTEG[質量%]としたとき以下の条件を満たすのが好ましい。すなわち、[(XG+XTEG)/XS]×100は、50%以上であるのが好ましく、60%以上99%以下であるのがより好ましく、70%以上98%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がさらに顕著に発揮される。
【0067】
本発明の水系インクジェットインク組成物中における、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和は、2.0質量%以下であればよいが、1.8質量%以下であるのが好ましく、1.5質量%以下であるのがより好ましい。
これにより、前述した本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0068】
本発明の水系インクジェットインク組成物中における、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和の下限は、0質量%であってもよいが、0.5質量%であるのが好ましく、0.7質量%であるのがより好ましい。
【0069】
これにより、水系インクジェットインク組成物をエポキシ接着剤が用いられたインクジェットヘッドに適用した場合における、異物の析出をさらに効果的に抑制することができるとともに、異物が発生した場合においても当該異物の溶解性をさらに優れたものとすることができ、インクジェットヘッドにおける目詰まりの発生をさらに好適に防止することができる。
【0070】
水系インクジェットインク組成物中における全水溶性有機溶剤の含有量は、10.0質量%以上48.0質量%以下であるのが好ましく、15.0質量%以上40.0質量%以下であるのがより好ましく、23.0質量%以上32.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0071】
これにより、水系インクジェットインク組成物の粘度、表面張力をより好適に調整することができる。また、水系インクジェットインク組成物の保湿性がより優れたものとなり、インクジェットヘッド等での乾燥等により、水系インクジェットインク組成物の固形分が不本意に析出してしまうこと等がより効果的に防止され、目詰まり回復性もより優れたものとすることができ、水系インクジェットインク組成物の吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0072】
[1-5]ベタイン
本発明の水系インクジェットインク組成物は、さらにベタイン、すなわち、トリメチルグリシンを含有していてもよい。
【0073】
これにより、水系インクジェットインク組成物のインクジェット法による吐出安定性、インクジェットヘッドにおける目詰まり回復性等をより優れたものとすることができる。
【0074】
本発明の水系インクジェットインク組成物がベタインを含有するものである場合、水系インクジェットインク組成物中におけるベタインの含有量は、0.5質量%以上12.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であるのがより好ましく、2.0質量%以上8.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0075】
[1-6]その他の成分
本発明の水系インクジェットインク組成物は、前述した成分以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内において、このような成分を「その他の成分」ともいう。
【0076】
その他の成分としては、例えば、キレート化剤;防腐剤;防かび剤;防錆剤;防炎剤;各種分散剤;界面活性剤;樹脂粒子;トリエタノールアミン等のpH調整剤;染料;酸化防止剤;紫外線吸収剤;酸素吸収剤;溶解助剤;浸透剤等が挙げられる。
【0077】
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸塩等が挙げられる。また、防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンゾイソチアゾリン-3-オン、4-クロロ-3-メチルフェノール等が挙げられる。また、防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0078】
界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の各種界面活性剤を用いることができる。
【0079】
本発明の水系インクジェットインク組成物中におけるその他の成分の含有量は、6.0質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以下であるのがより好ましい。
なお、その他の成分の含有量の下限は、0質量%である。
【0080】
[1-7]その他
本発明の水系インクジェットインク組成物の25℃における粘度は、4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下であればよいが、4.4mm2/s以上7.6mm2/s以下であるのが好ましく、4.8mm2/s以上7.0mm2/s以下であるのがより好ましく、5.5mm2/s以上6.5mm2/s以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0081】
本発明の水系インクジェットインク組成物の25℃における表面張力は、特に限定されないが、20mN/m以上60mN/m以下であるのが好ましく、25mN/m以上50mN/m以下であるのがより好ましく、27mN/m以上40mN/m以下であるのがさらに好ましい。
【0082】
これにより、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり等がより生じにくくなり、水系インクジェットインク組成物の吐出安定性がより向上する。また、ノズルの目詰まりを生じた場合でも、ノズルにキャップをすることによる回復性をより優れたものとすることができる。
【0083】
なお、表面張力としては、ウィルヘルミー法、もしくはリング法により測定した値を採用することができる。表面張力の測定は、表面張力計(例えば、協和界面科学社製、DY-300、DY-500、DY-700等)を用いることができる。
【0084】
本発明の水系インクジェットインク組成物は、インクジェット法による吐出に供されるものであればよく、インクジェット法としては、例えば、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式等のオンデマンド方式等が挙げられるが、本発明の水系インクジェットインク組成物は、特に、ピエゾ振動子を用いたインクジェットヘッドより吐出されるものであるのが好ましい。
【0085】
これにより、インクジェットヘッド内での水系インクジェットインク組成物の構成成分の不本意な変性等をより効果的に防止し、インクジェット法による吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0086】
上述したように、本発明の水系インクジェットインク組成物は、顔料と、水溶性有機溶剤と、ε-カプロラクタムと、水とを含有し、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が、2.0質量%以下であり、25℃における粘度が4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下であり、エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドから吐出して用いられるものであればよいが、顔料と、水溶性有機溶剤と、ε-カプロラクタムと、ベタインと、水とを含有し、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有量と1,2-ヘキサンジオールの含有量との和が、0.5質量%以上2.0質量%以下であり、前記水溶性有機溶剤として、沸点270℃以上の多価アルコールを含有し、前記顔料の含有量が5.0質量%以上20.0質量%以下であり、前記水の含有量が50.0質量%以上90.0質量%以下であり、前記ε-カプロラクタムの含有量が1.0質量%以上10.0質量%以下であり、25℃における粘度が4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下であり、エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドから吐出して用いられるものであるのが好ましい。
【0087】
これにより、前述したような各効果が相乗的に作用しあい、特に優れた効果が得られる。
【0088】
[2]インク組成物セット
次に、本発明に係るインク組成物セットについて説明する。
【0089】
本発明に係るインク組成物セットは、複数のインク組成物を備えている。そして、インク組成物セットを構成する少なくとも1つのインク組成物が、前述した本発明の水系インクジェットインク組成物である。
【0090】
本発明に係るインク組成物セットを構成する複数のインク組成物のうち、少なくとも1つが前述した本発明の水系インクジェットインク組成物であればよく、本発明に係るインク組成物セットは、前述した本発明の水系インクジェットインク組成物ではないインクジェットインク組成物を備えていてもよい。例えば、本発明に係るインク組成物セットは、前述した本発明の水系インクジェットインク組成物に加えて、顔料を含まず染料を含む染料インクを備えるものであってもよいし、色材を含まないクリアインクを備えるものであってもよい。また、本発明に係るインク組成物セットは、前述した本発明の水系インクジェットインク組成物に加えて、油性のインクジェットインク組成物を備えるものであってもよい。特に、本発明に係るインク組成物セットは、複数種の本発明の水系インクジェットインク組成物を備えるものであるのが好ましく、構成する全てのインク組成物が本発明の水系インクジェットインク組成物であるのがより好ましい。
【0091】
本発明に係るインク組成物セットは、色の三原色、すなわち、シアン、マゼンタおよびイエローに対応する3種の水系インクジェットインク組成物を備えているのが好ましい。なお、色の三原色については、その色濃度によって、さらに細分化されていてもよい。例えば、シアン、マゼンタおよびイエローに加え、ライトシアン、ライトマゼンタおよびライトイエローを備えていてもよい。
【0092】
また、本発明に係るインク組成物セットは、無彩色のインク、より具体的には、黒色のインクを備えていてもよい。
【0093】
[3]記録方法
次に、本発明の記録方法について説明する。
【0094】
本発明の記録方法は、前述した水系インクジェットインク組成物を、エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドから吐出し、記録媒体に付着させる吐出工程を有する。
【0095】
これにより、インクジェット法による吐出を行った際の尾引きの発生を十分に抑制しつつ、異物の析出を十分に抑制することができ、長期間にわたって記録物を安定的に製造することができる記録方法を提供することができる。
【0096】
[3-1]吐出工程
吐出工程では、インクジェット法により本発明の水系インクジェットインク組成物を液滴として吐出し、記録媒体に、当該液滴を付着させる。これにより、所望の像を形成する。像の形成には、複数種の水系インクジェットインク組成物、例えば、複数種の本発明の水系インクジェットインク組成物を用いてもよい。また、前述したインク組成物セットを用いてもよい。
【0097】
水系インクジェットインク組成物を吐出するインクジェット法は、いずれの方式でもよく、例えば、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式等のオンデマンド方式等が挙げられる。
【0098】
吐出工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0099】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に記録部を記録する。
【0100】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドであるシリアルヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に記録部を記録する。
【0101】
記録媒体は、特に限定されないが、例えば、各種布帛、普通紙等の紙や、インクジェット用専用紙、コート紙等で呼称されるインク受容層が設けられた記録媒体、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等の各種プラスチックで構成されたプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0102】
[4]インクジェット記録装置
次に、本発明のインクジェット記録装置について説明する。
【0103】
本発明のインクジェット記録装置は、前述した本発明の水系インクジェットインク組成物と、エポキシ系接着剤を用いたインクジェットヘッドとを備える。
【0104】
これにより、インクジェット法による吐出を行った際の尾引きの発生を十分に抑制しつつ、異物の析出を十分に抑制することができ、長期間にわたって記録物を安定的に製造することができるインクジェット記録装置を提供することができる。
【0105】
図1は、インクジェット記録装置の一例としてのシリアルプリンターを示す斜視図である。
図1に示すように、インクジェット記録装置としてのシリアルプリンター20は、搬送部220と、記録部230とを備えている。搬送部220は、シリアルプリンター20に給送された記録媒体Fを記録部230へと搬送し、記録後の記録媒体Fである記録物をシリアルプリンター20の外に排出する。具体的には、搬送部220は、各送りローラーを有し、送られた記録媒体Fを副走査方向T2へ搬送する。
【0106】
また、記録部230は、搬送部220から送られた記録媒体Fに対してインク組成物を吐出するノズルを有するインクジェットヘッド231を搭載するキャリッジ234と、キャリッジ234を記録媒体Fの主走査方向S1、S2に移動させるキャリッジ移動機構235を備える。特に、インクジェットヘッド231は、少なくとも、前述した本発明の水系インクジェットインク組成物を吐出するノズルを有する。
【0107】
シリアルプリンター20では、インクジェットヘッド231として記録媒体の幅より小さい長さであるヘッドを備え、ヘッドが移動し、複数パス(マルチパス)で記録が行われる。また、シリアルプリンター20では、所定の方向に移動するキャリッジ234にインクジェットヘッド231が搭載されており、キャリッジ234の移動に伴ってヘッドが移動することにより記録媒体上にインク組成物を吐出する。これにより、2パス以上(マルチパス)で記録が行われる。なお、パスを主走査ともいう。パスとパスの間には記録媒体を搬送する副走査を行う。つまり主走査と副走査を交互に行う。
【0108】
インクジェットヘッド231は、エポキシ系接着剤が用いられたものである。
エポキシ系接着剤としては、例えば、エポキシ基を有する化合物を含む主剤を硬化剤により硬化させる従来公知の接着剤が挙げられる。
【0109】
上記の主剤に含まれるエポキシ基を有する化合物としては、例えば、ビスフェノールA型やビスフェノールF型等のビスフェノール型エポキシ、フェノールノボラック型やクレゾールノボラック型等のノボラック型エポキシ、エポキシポリオール型エポキシ、ウレタン変性エポキシ、キレート変性エポキシ、ゴム変性エポキシ等を用いることができる。
【0110】
上記の硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、アミンやポリアミン等のアミン類、酸無水物、アミドやポリアミド等のアミド類、イミダゾール類、ポリメルカプタン等を用いることができる。
【0111】
中でも、主剤としてビスフェノール型エポキシ、かつ、硬化剤としてアミン類が特に好ましい。主剤と硬化剤との混合比は、特に限定されないが、10:1以上1:10以下であるのが好ましい。
【0112】
[5]記録物
本発明に係る記録物は、前述した本発明の水系インクジェットインク組成物を用いて製造されたものであり、前述した記録方法を用いて製造することができる。
【0113】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0114】
例えば、前述した説明では、本発明のインクジェット記録装置として、シリアルヘッドを用いたシリアル方式のプリンター、すなわち、シリアルプリンターについて、中心的に説明したが、本発明のインクジェット記録装置は、例えば、インクジェットヘッドとして、ライン方式により記録を行うラインヘッドを備えたライン方式のプリンター、すなわち、ラインプリンターであってもよい。
【実施例0115】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[6]水系インクジェットインク組成物の調製
【0116】
(実施例1)
各成分を所定の比率で混合することで、
図2に示す組成の水系インクジェットインク組成物を得た。
【0117】
(実施例2~10)
水系インクジェットインク組成物の調製に用いる成分の種類、各成分の配合比率を変更し、
図2に示す組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にして水系インクジェットインク組成物を調製した。
【0118】
(比較例1~4)
水系インクジェットインク組成物の調製に用いる成分の種類、各成分の配合比率を変更し、
図2に示す組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にして水系インクジェットインク組成物を調製した。
【0119】
前記各実施例および各比較例の水系インクジェットインク組成物について、組成および25℃における粘度を
図2にまとめて示す。なお、
図2中の「組成」の各成分の数値は、含有量を質量%の単位で示したものである。また、粘度の測定は、振動式粘度計(セニコック社製、VM-100)を用いてJIS Z8809に準拠して行った。また、
図2中、黒色顔料であるCAB-O-JET300(キャボット社製)を「CB」、水溶性有機溶剤であるグリセリンを「Gly」、水溶性有機溶剤であるトリエチレングリコールを「TEG」、水溶性有機溶剤であるトリエチレングリコールモノブチルエーテルを「TEGmBE」、水溶性有機溶剤である1,2-ヘキサンジオールを「1,2HD」、ε-カプロラクタムを「εCL」、界面活性剤としてのサーフィノール104PG50(日信化学工業社製)を「104PG50」、pH調整剤であるトリエタノールアミンを「TEA」と示した。また、前記各実施例の水系インクジェットインク組成物は、いずれも、25℃における表面張力が30mN/m以上40mN/m以下の範囲内の値であった。なお、表面張力は、表面張力計(協和界面科学社製、DY-300)を用いてウィルヘルミー法により測定した。
【0120】
[7]評価
[7-1]異物の溶解力
前記各実施例および各比較例の水系インクジェットインク組成物について、それぞれ、以下のようにして異物の溶解力の評価を行った。
【0121】
まず、3.0gの純水を入れたサンプル瓶に、1.0gのエポキシ系接着剤を入れて、純水中に浸漬し、25℃の環境下で3日間放置した。
【0122】
その後、エポキシ系接着剤を浸漬した液体の上澄み液をガラスプレートに1滴垂らした。
【0123】
上澄み液が乾燥した後、前記ガラスプレート上に水系インクジェットインク組成物を滴下し、5分間放置した。
【0124】
その後、ガラスプレート上の水系インクジェットインク組成物を目視で観察し、固形分としての異物の状態を確認し、以下の基準で判定した。異物の量が少ないほど、水系インクジェットインク組成物の異物の溶解性に優れており、異物の析出を好適に抑制することができるといえる。
【0125】
A:ガラスプレート上に何も残っていない。
B:ガラスプレート上に若干の残りはあるものの、異物の輪郭等が分からない程度まで溶解している。
C:ガラスプレート上に輪郭のわかる異物があるものの、輪郭が一部崩れたり細くなっている。
D:ガラスプレート上に乾燥時と変わらない状態ではっきりと異物が残っている。
【0126】
[7-2]尾引き
市販のインクジェット記録装置(セイコーエプソン社製、PX-M7090)に、前記各実施例および各比較例の水系インクジェットインク組成物を充填し、インクジェットノズルから吐出させた。この際に、吐出された水系インクジェットインク組成物がインク滴としてちぎれる位置がどの程度の範囲にあるのかを確認し、以下の基準で判定した。ちぎれる位置が短いほど、尾引きの発生が抑制されているといえる。
【0127】
A:ちぎれる位置がドット径の2倍未満であり、実質的に同じ位置でちぎれる。
B:ちぎれる位置がドット径の2倍以上3倍未満の範囲に収まる。
C:ちぎれる位置がドット径の3倍以上である。
【0128】
[7-3]印字安定性
市販のインクジェット記録装置(セイコーエプソン社製、PX-M7090)に、前記各実施例および各比較例の水系インクジェットインク組成物を充填し、ベタパターンとノズルチェックパターンを各3枚印字することにより、記録物を得、これらの記録物を目視で観察し、以下の基準で判定した。
【0129】
A:ノズルチェックパターンに異常がなく、ベタパターンにおいてもスジ等の不良が発生していない。
B:ノズルチェックパターンにわずかなヨレはあるものの、ベタパターンにてスジ等の不良が発生していない。
C:ノズルチェックパターンにヨレがあり、ベタパターンにて1枚にスジ等の不良が発生している。
D:ノズルチェックパターンにヨレがあり、ベタパターンにて2枚にスジ等の不良が発生している。
E:ノズルチェックパターンにヨレがあり、ベタパターンにて3枚にスジ等が発生している。
【0130】
[7-4]OD値
上記[7-3]で形成したベタパターンの記録物について、測色機(Gretag Macbeth Spectrolino、X-Rite社製)を用いて、OD値を測定し、以下の基準に従い評価した。OD値が高いほど発色性に優れているといえる。
【0131】
A:OD値が1.30超である。
B:OD値が1.30以下である。
【0132】
[7-5]目詰まり回復性
前記各実施例および各比較例の水系インクジェットインク組成物を、それぞれ、市販のインクジェット記録装置(セイコーエプソン社製、PX-M7090)に充填し、温度40℃、湿度25%の環境下において、キャップ開放状態で7日間放置した。
【0133】
放置後、ノズルチェックパターンの印刷とクリーニング処理とを繰り返し行い、ノズルが全て回復するクリーニング回数を求め、以下の基準に従い評価した。
【0134】
A:ノズルが全て回復するクリーニング回数が3回以下である。
B:ノズルが全て回復するクリーニング回数が4回以上である。
これらの結果を
図2にまとめて示す。
【0135】
図2から明らかなように、本発明では優れた結果が得られた。これに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
20…シリアルプリンター、220…搬送部、230…記録部、231…インクジェットヘッド、234…キャリッジ、235…キャリッジ移動機構、F…記録媒体、S1,S2…主走査方向、T2…副走査方向