(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140077
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】抗ムンプスウイルス剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/351 20060101AFI20241003BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
A61K 31/381 20060101ALI20241003BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K31/351
A61P31/14
A61P43/00 111
A61K31/381
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051070
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100205914
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 総明
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】高橋 忠伸
(72)【発明者】
【氏名】紅林 佑希
(72)【発明者】
【氏名】竹内 英之
(72)【発明者】
【氏名】大坪 忠宗
(72)【発明者】
【氏名】池田 潔
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD08
4B018MD18
4B018ME14
4B018MF06
4B018MF14
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA07
4C086BB02
4C086GA03
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】ムンプスウイルスに直接作用して抗ウイルス効果を示し、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤等に用いることのできる抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】本発明のムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤は、下記の一般式(I)で表されるシアル酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する。
[式(I)中、R
1は、エチル基、エチルニトリル基、ブチルニトリル基、アジドブチル基、アジドペンチル基又はブロモブチル基を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)で表されるシアル酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有するムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤。
【化1】
[式(I)中、R
1は、エチル基、エチルニトリル基、ブチルニトリル基、アジドブチル基、アジドペンチル基又はブロモブチル基を示す。]
【請求項2】
前記式(I)中、前記R1が、エチル基、エチルニトリル基又はアジドペンチル基であることを特徴とする請求項1に記載のムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤。
【請求項3】
以下の一般式(I)で表されるシアル酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有するムンプスウイルス感染症の予防・治療剤。
【化2】
[式(I)中、R
1は、エチル基、エチルニトリル基、ブチルニトリル基、アジドブチル基、アジドペンチル基又はブロモブチル基を示す。]
【請求項4】
前記式(I)中、前記R1が、エチル基、エチルニトリル基又はアジドペンチル基であることを特徴とする請求項3に記載のムンプスウイルス感染症の予防・治療剤。
【請求項5】
以下の一般式(I)で表されるシアル酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有するムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品。
【化3】
[式(I)中、R
1は、エチル基、エチルニトリル基、ブチルニトリル基、アジドブチル基、アジドペンチル基又はブロモブチル基を示す。]
【請求項6】
前記式(I)中、前記R1が、エチル基、エチルニトリル基又はアジドペンチル基であることを特徴とする請求項5に記載のムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品。
【請求項7】
以下の一般式(I)で表されるシアル酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有するムンプスウイルスのシアリダーゼ阻害剤。
【化4】
[式(I)中、R
1は、エチル基、エチルニトリル基、ブチルニトリル基、アジドブチル基、アジドペンチル基又はブロモブチル基を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムンプスウイルス(Mumps virus;おたふくかぜウイルス)に対する抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
「おたふくかぜ」と呼ばれる流行性耳下腺炎は、日本国内だけで毎年平均100万人に感染する小児を中心とするウイルス性疾患である。原因ウイルスは、パラミクソウイルス科のムンプスウイルス(MuV)である。ムンプスウイルスの主な病症は、耳下腺の腫脹と疼痛、発熱であるが、下記表1に示すように、無菌性髄膜炎(発生頻度10%)や脳炎・脊髄炎(発生頻度0.02%)、膵炎、睾丸炎、ムンプス難聴等を合併する場合がある(非特許文献1参照)。青年期にムンプスウイルスに感染すると、睾丸炎や卵巣炎を合併することがあり「不妊」の原因となる。そして、このウイルスに特筆すべき後遺症は「ムンプス難聴」と呼ばれる回復の見込めない永続的な難聴であり、重篤な後遺症である。これらムンプス難聴や不妊などの重篤な後遺症は、ムンプスウイルスが神経組織や内分泌腺に直接侵襲したことに起因する。
【0003】
【0004】
現状では、ムンプスウイルスに直接作用する治療薬は無いため、ワクチン接種による予防が現在取り得る最も有効な対処法である。しかしながら、日本では、ムンプスウイルスワクチンは任意接種で自己負担のため、接種率は30~40%程度と低い。それゆえ、ムンプスウイルスの国内流行を制御することは現状で困難であり、4~5年ごとの全国流行を繰り返している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“ムンプスウイルス病原体検査マニュアル”、[online]、国立感染症研究所 ウェブサイト、[2023年3月24日検索]、インターネット<URL:https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Mumps2015.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ワクチンの定期予防接種が導入されておらず、ワクチン接種率が低い現状においては、ワクチン以外の方法で、ムンプスウイルス感染による合併症や後遺症の発症を防ぐことが求められている。さらに、学校等における集団流行の発生時にワクチンを接種しても即時的な感染予防効果は期待できないという問題があった。
【0007】
したがって、本発明は上述した点に鑑みてなされたもので、その目的は、ムンプスウイルスに直接作用して抗ウイルス作用を示し、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤等に用いることのできる抗ウイルス剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ウイルスの増殖に必須である酵素シアリダーゼの阻害剤について研究を行っていた際に、ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性を特異的に阻害する化合物を見出した。この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤は、以下の一般式(I)で表されるシアル酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有し、式(I)中、R1は、エチル基、エチルニトリル基、ブチルニトリル基、アジドブチル基、アジドペンチル基又はブロモブチル基を示している。
【0010】
【0011】
上述の化合物により、ムンプスウイルスに直接作用する、ムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤を得ることができる。これにより、ムンプスウイルス感染症を予防・治療又は改善等するための医薬や食品、ムンプスウイルスに関する研究開発試薬等に活用することができる。
【0012】
また、本発明のムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤は、上述した式(I)中のR1が、エチル基、エチルニトリル基又はアジドペンチル基であることも好ましい。これにより、ムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤として、抗ウイルス効果に優れる化合物が選択される。
【0013】
また、本発明のムンプスウイルス感染症の予防・治療剤は、上述した式(I)で表されるシアル酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有し、式(I)中、R1は、エチル基、エチルニトリル基、ブチルニトリル基、アジドブチル基、アジドペンチル基又はブロモブチル基を示している。これにより、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤として好適な化合物が選択され、ムンプスウイルス感染に伴う疾患や症状を改善、治療又は予防するための医薬にこれらの化合物を用いることができる。
【0014】
また、本発明のムンプスウイルス感染症の予防・治療剤は、上述した式(I)中のR1が、エチル基、エチルニトリル基又はアジドペンチル基であることも好ましい。これにより、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤として、より効果に優れる化合物が選択される。
【0015】
また、本発明のムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品は、上述した式(I)で表されるシアル酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有し、式(I)中、R1は、エチル基、エチルニトリル基、ブチルニトリル基、アジドブチル基、アジドペンチル基又はブロモブチル基を示している。これにより、ムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品として好適な化合物が選択され、ムンプスウイルス感染に伴う疾患や症状を改善、治療又は予防するための食品にこれらの化合物を用いることができる。
【0016】
また、本発明のムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品は、上述した式(I)中のR1が、エチル基、エチルニトリル基又はアジドペンチル基であることも好ましい。これにより、ムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品として、より効果に優れる化合物が選択される。
【0017】
また、本発明のムンプスウイルスのシアリダーゼ阻害剤は、上述した式(I)で表されるシアル酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有し、式(I)中、R1は、エチル基、エチルニトリル基、ブチルニトリル基、アジドブチル基、アジドペンチル基又はブロモブチル基を示している。上述の化合物を用いることにより、ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性を特異的に阻害することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する抗ウイルス剤、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤及びムンプスウイルスのシアリダーゼ阻害剤を提供することができる。
(1)ムンプスウイルス感染に伴う病態、症状又は疾患を予防、改善又は治療することができる。
(2)ムンプスウイルスに直接作用するため、投与後すぐに予防効果を期待でき、周囲への流行拡大を防ぐ即効性の高い予防薬としても利用できる。
(3)ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性を特異的に阻害することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1における、(a)ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性を阻害する化合物のスクリーニング結果を示すグラフ及び(b)化合物a(○)、化合物b(▲)、化合物d(□)及び化合物i(●)の各濃度におけるムンプスウイルスのシアリダーゼ活性阻害効果を示すグラフである。
【
図2】実施例2における、化合物a、b、d及びiのムンプスウイルスに対する増殖阻害試験結果を示すグラフである。
【
図3】実施例4における、化合物a、b、d及びiのムンプスウイルスに対する感染阻害試験結果を示すグラフである。
【
図4】実施例5における、異なるウイルス種のシアリダーゼに対する、化合物a、b、d及びiのシアリダーゼ活性阻害効果を示すグラフである。
【
図5】実施例6における、化合物a、b、d及びiの細胞毒性試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の抗ウイルス阻害剤、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤、ムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品及びムンプスウイルスのシアリダーゼ阻害剤について詳細に説明する。
【0021】
明細書において、ムンプスウイルス(Mumps virus;MuV)とは、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の原因となるウイルスである。ムンプスウイルスはパラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科ルブラウイルス属に分類されるウイルスで、表面にエンベロープを有する一本鎖マイナス鎖RNAウイルスである。大きさは100~600nmで、主に6つの構造タンパクを有している。エンベロープには2つの糖タンパク(hemagglutinin‐neuraminidase glycoprotein及びfusion glycoprotein)を有している。ムンプスウイルスはその遺伝子型によって12群に分類され、ムンプスウイルス流行の動態把握が行われている。
【0022】
本発明におけるムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤とは、ムンプスウイルスに対する抗ウイルス作用を示すことをいい、抗ウイルス作用には、ウイルスに感染した宿主細胞におけるウイルスの複製又は宿主細胞からの放出を阻害して、周囲の細胞や他の細胞への感染を抑制するウイルス増殖阻害作用、及びウイルスが細胞に吸着又は侵入して感染することを阻害するウイルス感染阻害作用が含まれる。また、抗ウイルス作用は、一例として、後述する実施例2~4に記載されたように、ウイルスを感染させた宿主細胞を含む培養上清のウイルス感染価を測定することや、ウイルスに感染した宿主細胞の数をフォーカス形成法等で測定することが可能である。
【0023】
また、本発明におけるムンプスウイルスのシアリダーゼ阻害剤とは、ムンプスウイルスのシアリダーゼの活性を抑制・阻害することをいい、本発明のシアリダーゼ阻害剤を添加又は投与されない状態のコントロールと比較して、シアリダーゼ活性が低下・抑制されていることを意味する。さらに、本発明におけるムンプスウイルスのシアリダーゼ阻害剤は、ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性を特異的に阻害する機能を有することが好ましい。
【0024】
本発明の抗ウイルス阻害剤、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤、ムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品及びムンプスウイルスのシアリダーゼ阻害剤には、以下式(I)で表されるシアル酸誘導体が含まれる。本発明に係るシアル酸誘導体に係る化合物は塩であってもよく、薬理学的に許容される塩であることが好ましい。この化合物の薬理学的に許容される塩としては、酸又は塩基と形成される塩であればよく、特に限定されない。また、この化合物又はその塩は、溶媒和物であってもよく、特に限定されないが、例えば、水和物、エタノール等の有機溶媒和物が挙げられる。
【0025】
【0026】
上述した化合物を表す式(I)中、R1で示される原子又は分子としては、エチル基、エチルニトリル基、ブチルニトリル基、アジドブチル基、アジドペンチル基又はブロモブチル基が挙げられる。また、上述の式(I)で表される化合物は、具体的には、以下式に示される化合物(1)~(6)である。各式の化合物名は次の通りである。
・式(1):2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-エトキシ-N-アセチルノイラミン酸、
・式(2):2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-シアノエトキシ-N-アセチルノイラミン酸、
・式(3):2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-アジドペンチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸。
・式(4):2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-シアノブトキシ-N-アセチルノイラミン酸、
・式(5):2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-アジドブチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸、
・式(6):2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-ブロモブチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
また、各式で表わされる化合物のうち、特にシアリダーゼ阻害作用の点から好ましい化合物としては、式(1)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-エトキシ-N-アセチルノイラミン酸、式(2)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-シアノエトキシ-N-アセチルノイラミン酸、式(3)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-アジドペンチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸及び式(6)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-ブロモブチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸が好ましく、式(1)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-エトキシ-N-アセチルノイラミン酸、及び式(6)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-ブロモブチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸が特に好ましい。
【0034】
また、各式で表わされる化合物のうち、特に抗ウイルス作用の点から好ましい化合物としては、式(1)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-エトキシ-N-アセチルノイラミン酸、式(2)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-シアノエトキシ-N-アセチルノイラミン酸、及び式(3)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-アジドペンチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸が好ましく、ムンプスウイルスの増殖阻害効果及び感染阻害効果を有する観点から、式(1)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-エトキシ-N-アセチルノイラミン酸、及び式(3)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-アジドペンチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸がより好ましく、式(3)に示す2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-アジドペンチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸が特に好ましい。
【0035】
上述した式(I)に示す化合物は、シアル酸誘導体の合成法に係る公知の合成方法で製造することができる。
【0036】
式(1)に示す化合物、2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-エトキシ-N-アセチルノイラミン酸は、以下式に示すように、本発明者らにより開示された方法(Bioorganic Medicinal Chemistry, Vol.14, pp.7893-7897, 2006年)により合成することができる。一例として、メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネートの4位の水酸基をエチル基で保護して以下式に示す化合物Xを得る。化合物Xを80%酢酸に溶かして反応させ、以下式に示す化合物Yを得た後、NaOH水溶液を加えて反応させることで、式(1)に示す化合物を得ることができる。
【0037】
【0038】
また、一例として、式(2)に示す化合物、2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-シアノエトキシ-N-アセチルノイラミン酸は、以下式に示すように合成することができる。特に限定されないが、具体的には、メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネートとアクリロニトリルをアセトニトリルに溶かし、ジアザビシクロウンデセン(DBU)を加えて反応させて以下式に示す化合物Xを得る。化合物Xを80%酢酸に溶かして反応させ、以下式に示す化合物Yを得た後、化合物YをKPB緩衝液に溶かし、カルボキシルエステラーゼ(PLE)を加えて反応させることにより、式(2)に示す化合物を得ることができる。
【0039】
【0040】
また、一例として、式(3)に示す化合物、2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-アジドペンチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸は、以下式に示すように合成することができる。特に限定されないが、例えば、メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネートをDMFに溶かし、Ar置換した後、1,5-ジブロモペンタンとNaHを加えて反応させて以下式に示す化合物Xを得る。化合物XをDMFに溶かしAr置換した後、NaN3を加えて反応させ、以下式に示す化合物Yを得る。化合物Yを80%酢酸に溶かして反応させ、NaOH水溶液を加えて反応させることで、式(3)に示す化合物を得ることができる。
【0041】
【0042】
また、一例として、式(4)に示す化合物、2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-シアノブトキシ-N-アセチルノイラミン酸は、以下式に示すように合成することができる。特に限定されないが、例えば、メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネートをDMFに溶かし、Ar置換し、4-ブロモブチルシアニドとNaHを加えて反応させて以下式に示す化合物Xを得る。化合物Xを80%酢酸に溶かして反応させ、以下式に示す化合物Yを得た後、NaOH水溶液を加えて反応させることで、式(4)に示す化合物を得ることができる。
【0043】
【0044】
また、一例として、式(5)に示す化合物、2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-アジドブチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸は、以下式に示すように合成することができる。特に限定されないが、例えば、メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネートをDMFに溶かし、Ar置換した後、1,4-ジブロモブタンと15-クラウン-5-エーテルを加え、さらにNaHを加えて反応させ、以下式に示す化合物Xを得る。化合物XをDMFに溶かし、Ar置換した後、NaN3を加えて反応させ、以下式に示す化合物Yを得た後、80%酢酸に溶かして反応させ、その後、NaOH水溶液を加えて反応させることで、式(5)に示す化合物を得ることができる。
【0045】
【0046】
また、一例として、式(6)に示す化合物、2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-4-ブロモブチルオキシ-N-アセチルノイラミン酸は、以下式に示すように合成することができる。特に限定されないが、例えば、メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネートをDMFに溶かし、Ar置換した後、1,4-ジブロモブタンと15-クラウン-5-エーテルを加え、さらにNaHを加えて反応させ、以下式に示す化合物Xを得る。化合物Xを80%酢酸に溶かして反応させ、以下式に示す化合物Yを得た後、NaOH水溶液を加えて反応させることで、式(6)に示す化合物を得ることができる。
【0047】
【0048】
本発明のムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤は、上述した式(I)で表されるシアル酸誘導体を含むものであって、ムンプスウイルスに対する増殖阻害作用及び感染阻害作用を有する。そのため、上述した式(I)で表される化合物は、ムンプスウイルスの抗ウイルス剤、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤及びムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品として、用いることができる。
【0049】
ここで、本明細書において、ムンプスウイルス感染症とは、ムンプスウイルスに感染することによって発症する流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)をいう。ムンプスウイルス感染による典型的な症状としては、片側あるいは両側の唾液腺の腫脹・圧痛、嚥下痛、発熱等がみられるが、これらに限定されない。また、感染しても症状が現れない不顕性感染も多く存在するため、無症状も含まれる。また、ムンプスウイルス感染症の症状には、ムンプスウイルス感染による合併症及び後遺症も含まれる。具体的には、無菌性髄膜炎、脳炎、ムンプス難聴、精巣炎、卵巣炎及び膵炎等が挙げられ、これらに限定されない。すなわち、本発明のムンプスウイルス感染症の予防・治療剤及びムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品は、ムンプスウイルス感染による典型的な耳下腺炎の症状のほか、種々の合併症及び後遺症の予防・治療・改善に用いられるものである。
【0050】
本発明のムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤は、上述した式(I)で表される化合物を単独で含むものであっても、上述した式(I)で表される化合物を含む組成物であってもよい。また、本発明のムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤及びムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品は、ヒト又は非ヒトのための医薬品、医薬部外品及び食品として用いることができる。
【0051】
本発明に係る抗ウイルス剤、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤を医薬品又は医薬部外品として用いる場合には、従来慣用されている方法により種々の形態に調製することができる。この場合、通常製剤用の薬理学的に許容される担体や賦形剤、滑沢剤、分散剤、崩壊剤、緩衝剤、溶剤、増量剤、保存剤、香料又は安定化剤など、医薬品等の添加剤として許容されている添加剤を用いて製剤化することができる。さらに、この化合物のバイオアベイラビリティーや安定性を向上させるために、マイクロカプセル、リポソーム製剤、微粉末化又はシクロデキストリン等を用いた包接化などの製剤技術を含むドラッグデリバリーシステムを用いることもできる。また、医薬品又は医薬部外品として用いる際には、本発明の有効成分の効能に影響を与えない範囲において、抗炎症剤、解熱鎮痛剤などの他の薬効成分や、ビタミン等の成分を種々組み合わせることも可能である。
【0052】
本発明に係る抗ウイルス剤、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤を経口投与製剤として用いる場合には、吸入剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤又は内服用液剤等の形態で用いることができる。また、流通性、保存性などの理由により所望される形態での製剤を提供する場合にも従来の製剤技術を用いることができる。また、外用剤等の非経口投与剤として用いる場合には、クリーム、軟膏、貼付剤などの経皮吸収剤のほか、注射剤および坐剤等の形態とすることができる。また、流通性や保存性などの理由から固形製剤を使用時に適当な溶剤で溶解してから用いることもでき、液剤および半固形剤の形態で提供することも従来の製剤技術により可能である。本発明の抗ウイルス剤、ムンプスウイルス感染症の予防・治療剤の投与量又は有効摂取量は、目標とする治療効果、投与方法、投与対象及び剤形によって異なるが、一例として、上述した式(I)で表される化合物として、通常一日0.1mg~2000mg(60kg体重)とすることが好ましく、1mg~1000mg(60kg体重)とすることがより好ましい。
【0053】
さらに、本発明に係るムンプスウイルス感染症の予防・改善用食品は、錠剤やカプセル剤、顆粒剤、シロップ剤などのサプリメント形態、清涼飲料、果汁飲料、アルコール飲料などの飲料、アメやガム、クッキー、ビスケット、チョコレート等の菓子、パン、粥、シリアル、麺類、ゼリー、スープ、乳製品、調味料等のあらゆる形態とすることができる。このように飲食品として用いる際には、本発明の有効成分の効能に影響を与えない範囲において、他の有効成分や、ビタミン、ミネラル若しくはアミノ酸等の栄養素等を種々組み合わせることも可能である。本発明の飲食品には、サプリメント、健康食品、機能性食品、機能性表示食品、特定保健用食品等が含まれる。また、本発明の飲食品の1日あたりの摂取量は、上述した式(I)で表される化合物として、通常一日0.1mg~2000mg(60kg体重)とすることが好ましく、1mg~1000mg(60kg体重)とすることがより好ましい。
【0054】
また、本発明のムンプスウイルスのシアリダーゼ阻害剤は、上述した式(I)で表されるシアル酸誘導体を含むものであって、ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性を特異的に阻害する阻害剤として用いることができる。そのため、本発明のシアリダーゼ阻害剤は、ムンプスウイルス感染症に対する医薬等の開発やムンプスウイルスを用いる研究の際に、研究用試薬として用いることができる。本発明に係るシアリダーゼ阻害剤の使用濃度としては、適用する細胞、ムンプスウイルスシアリダーゼの発現量、環境中に存在する又は添加される成分の影響や目標とする阻害効果に応じて適宜調整可能であるが、一例として、0.1μM~1000μM程度とすることが好ましく、0.5μM~100μM程度とすることがより好ましく、1μM~10μM程度とすることが特に好ましい。
【0055】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0056】
[実施例1]
1.ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性を阻害する化合物のスクリーニング
本実施例では、ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性を阻害する化合物の探索を行った。スクリーニング対象には、公知のシアリダーゼ阻害剤であるZanamivirの他、2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-N-アセチルノイラミン酸(以下、DANAとも称する)及びその誘導体を中心に、約50種類のシアル酸誘導体を選択した。スクリーニング対象としたシアル酸誘導体の一部の化合物を以下表2に示す。化合物aの2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-N-アセチルノイラミン酸(DANA)及び化合物oのZanamivir(4-グアニジノ-2,4-ジデオキシ-2,3-ジデヒドロ-N-アセチルノイラミン酸)は、シグマ-アルドリッチ社製品及びトロント・リサーチ・ケミカルズ社製品を用いた。また、以下表2に示すb~nに示す化合物は、次のようにして合成した。
【0057】
【0058】
[化合物b(KS-2-89)の合成]
化合物bは、メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネートの4位の水酸基をエチル基で保護したのち、80%酢酸でイソプロピリデン基を脱保護し、塩基性条件下、メチルエステルを加水分解することで合成した。
【0059】
[化合物c(KS-2-88)の合成]
化合物cは、メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネートの4位の水酸基をn-プロピル基で保護したのち、80%酢酸でイソプロピリデン基を脱保護し、塩基性条件下、メチルエステルを加水分解することで合成した(参考文献:Bioorganic Medicinal Chemistry, Vol.14, pp.7893-7897, 2006年)。
【0060】
[化合物d(48-16)の合成]
化合物dは、次のようにして合成した。メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネート(87mg、0.25mmol)とアクリロニトリル(133mg、2.5mmol)をアセトニトリル(2mL)に溶かし、氷冷下ジアザビシクロウンデセン(DBU、38mg、0.25mmol)を加えた。反応終了後、減圧濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;10%CHCl3-MeOH)で分離し、化合物X(40mg、40%)を得た。この化合物X(40mg、0.10mmol)を80%酢酸(2mL)に溶かした。その後、80℃の油浴で1時間攪拌し、反応終了後、減圧濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;CHCl3:MeOH:H2O=65:35:5)で分離し、化合物Y(33mg,92%)を得た。この化合物Y(12mg、0.034mmol)を0.01MのKPB緩衝液(2mL)に溶かし、カルボキシルエステラーゼ(PLE、シグマアルドリッチ社製品、13mg)を加え、35℃で一晩撹拌した。濾過後、ろ液を減圧濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;AcOEt→2%AcOEt-MeOH)で分離して化合物d(26mg、26%)を得た。
【0061】
[化合物e(59-49)の合成]
化合物eは、次のようにして合成した。メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネート(203mg、0.59mmol)を減圧乾燥して、DMF(2mL)に溶かし、Ar置換した。氷冷下で撹拌しながら、4-ブロモプロピルシアニド(178mg、1.2mmol)とNaH(29mg、0.72mmol)を加えて30分撹拌し、室温に戻して一晩反応させた。反応終了後、少量のメタノールを加え撹拌し、DMFを減圧留去した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;AcOEt-n-Hexane 1:1)で分離し、化合物X(38mg、15%)を得た。この化合物X(38mg、0.09mmol)を80%酢酸(2mL)に溶かした。その後、80℃の油浴で1時間攪拌した。反応終了後、減圧留去して化合物Yを得た。この化合物Yにメタノール(2mL)を加え氷冷下で攪拌しながら0.1MのNaOH(2mL)を加え、室温に戻して一晩反応させた。反応終了後、ダウエックスイオン交換樹脂50WX8を加え中和した。その後、吸引ろ過を行い、ろ液を減圧濃縮し濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;CHCl3:MeOH:H2O=65:35:5)で分離し、化合物e(31mg、96%)を得た。
【0062】
[化合物f(59-55)の合成]
化合物fは、次のようにして合成した。メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネート(525mg、1.52mmol)を減圧乾燥して、DMF(3mL)に溶かし、Ar置換した。氷冷下で撹拌しながら、4-ブロモブチルシアニド(268mg、1.65mmol)を加え、さらにNaH(40mg、1.67mmol)を加えて30分撹拌し、室温に戻して一晩反応させた。反応終了後、少量のメタノールを加えて撹拌し、DMFを減圧留去した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;AcOEt)で分離し、化合物X(107mg、17%)を得た。MS(ESI)m/z:403(M+Na)+。この化合物X(107mg、0.24mmol)を80%酢酸(5mL)に溶かした。その後、80℃の油浴で1時間攪拌した。反応終了後、減圧留去して化合物Yを得た。この化合物Yにメタノール(2mL)を加え氷冷下で攪拌しながら、0.1MのNaOH(2mL)を加え、室温に戻して一晩反応させた。反応終了後、ダウエックスイオン交換樹脂50WX8を加え中和した。その後、吸引ろ過し、ろ液を減圧濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;CHCl3:MeOH:H2O=65:35:5)で分離し、化合物f(84mg、94%)を得た。
【0063】
[化合物g(AM-24)の合成]
化合物gは、次のようにして合成した。メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネート(100.3mg、0.29mmol)を減圧乾燥して、DMF(1mL)に溶かし、Ar置換した。氷冷下で撹拌しながら、1,3-ジブロモプロパン(71μL、0.70mmol)と15-クラウン-5-エーテルを加え、さらにNaH(31.0mg、0.64mmol)を加えて30分撹拌し、室温に戻して一晩反応させた。TLC(AcOEt)で確認後、少量のメタノールを加え撹拌し、DMFを減圧留去した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;AcOEt→10%AcOEt-MeOH)で分離し、化合物X(36mg、36%)を得た。MS(ESI)m/z:488,490(M+Na)+。この化合物X(44mg、0.095mmol)をDMF(2mL)に溶かし、Ar置換した。室温で攪拌しながらNaN3(19.7mg、0.28mmol)を加えた。その後、50℃の油浴で3時間攪拌した。TLC(AcOEt)で確認後、DMFを減圧留去した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;AcOEt)で分離し化合物Y(40mg、91%)を得た。この化合物Y(8mg)を80%酢酸(2mL)に溶かした。その後、80℃の油浴で2時間攪拌した。TLC(AcOEt→CHCl3:MeOH:H2O=65:35:5)で確認後、減圧濃縮した。その後、トルエンを2回に分けて加え、減圧留去し、減圧乾燥した。その後、メタノール(2mL)を加え氷冷下で攪拌しながら0.1MのNaOH(2mL)を加え、室温に戻して一晩反応させた。反応終了後、ダウエックスイオン交換樹脂50WX8を加え中和した。その後、吸引ろ過を行い、ろ液を減圧濃縮し、濃縮残渣をバイオゲルP-2ゲルカラム(溶出溶媒;蒸留水)で分離して化合物g(5.2mg、65%)を得た。
【0064】
[化合物h(AM-1-17)の合成]
化合物hは、次のようにして合成した。メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネート(101mg、0.29mmol)を減圧乾燥して、DMF(2mL)に溶かし、Ar置換した。氷冷下で撹拌しながら1,4-ジブロモブタン(42μL、0.35mmol)と15-クラウン-5-エーテルを加え、さらにNaH(14mg、0.35mmol)を加えて30分撹拌し、室温に戻して一晩反応させた。TLC(AcOEt)で確認後、少量のメタノールを加えて撹拌し、DMFを減圧留去した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;AcOEt→2%AcOEt-MeOH)で分離して、化合物X(26mg、26%)を得た。MS(ESI)m/z:502,504(M+Na)+。この化合物X(26mg、0.054mmol)をDMF(2mL)に溶かし、Ar置換した。室温で攪拌しながらNaN3(12.8mg、0.16mmol)を加えた。その後、80℃の油浴で3時間攪拌した。反応終了後、DMFを減圧留去した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;5%CHCl3:MeOH)で分離し、化合物Y(124mg、81%)を得た。この化合物Y(125mg、0.27mmol)を80%酢酸(10mL)に溶かした。その後、80℃の油浴で2時間攪拌した。反応終了後、減圧濃縮した。その後、メタノール(2mL)を加え氷冷下で攪拌しながら、0.1MのNaOH(2mL)を加え、室温に戻して一晩反応させた。反応終了後、ダウエックスイオン交換樹脂50WX8を加え中和した。減圧濃縮し、濃縮残渣をバイオゲルP-2ゲルカラム(溶出溶媒;蒸留水)で分離して化合物h(22.7mg、65%)を得た。
【0065】
[化合物i(45-122)の合成]
化合物iは、次のようにして合成した。メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネート(345mg、1.0mmol)を減圧乾燥して、DMF(2mL)に溶かし、Ar置換した。氷冷下で撹拌しながら1,5-ジブロモペンタン(42.0μL、0.35mmol)を加え、さらにNaH(29mg、1.2mmol)を加えて30分撹拌し、室温に戻して一晩反応させた。反応終了後、少量のメタノールを加え撹拌し、DMFを減圧留去した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;AcOEt→2%AcOEt-MeOH)で分離し、化合物X(87mg、18%)を得た。MS(ESI)m/z:516(M+Na)+。この化合物X(87mg、0.176mmol)をDMF(3mL)に溶かし、Ar置換した。室温で攪拌しながらNaN3(34mg,0.176mmol)を加えた。その後、80℃の油浴で3時間攪拌した。反応終了後、DMFを減圧留去した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;5%CHCl3:MeOH)で分離して化合物Y(124mg、81%)を得た。この化合物Y(124mg、0.27mmol)を80%酢酸(10mL)に溶かした。その後、80℃の油浴で2時間攪拌した。反応終了後、減圧濃縮した。その後、メタノール(2mL)を加え氷冷下で攪拌しながら0.1MのNaOH(2mL)を加え、室温に戻して一晩反応させた。反応終了後、ダウエックスイオン交換樹脂50WX8を加え中和した。吸引ろ過し、ろ液を減圧濃縮して濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;CHCl3:MeOH:H2O=65:35:5)で分離し、化合物i(60mg、75%)を得た。
【0066】
[化合物j(AM-1-18)の合成]
化合物jは、次のようにして合成した。メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネート(101mg、0.29mmol)を減圧乾燥して、DMF(2mL)に溶かし、Ar置換した。氷冷下で撹拌しながら1,4-ジブロモブタン(42.0μL、0.35mmol)と15-クラウン-5-エーテルを加え、さらにNaH(14mg、0.35mmol)を加えて30分撹拌し、室温に戻して一晩反応させた。反応終了後、少量のメタノールを加え撹拌し、DMFを減圧留去した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;AcOEt→2%AcOEt-MeOH)で分離し、化合物X(26mg,26%)を得た。MS(ESI)m/z:502,504(M+Na)+。この化合物X(35mg)を80%酢酸(3mL)に溶かした。その後、80℃の油浴で2時間攪拌した。TLC(AcOEt)で確認後、減圧濃縮した。その後、トルエン(2mL)を2回に分けて加え、減圧留去し、減圧乾燥して化合物Yを得た。この化合物Yにメタノール(2mL)を加え、氷冷下で攪拌しながら0.1MのNaOH(2mL)を加え、室温に戻して一晩反応させた。反応終了後、ダウエックスイオン交換樹脂50WX8を加え中和した。吸引ろ過し、ろ液を減圧濃縮して濃縮残渣をバイオゲルP-2ゲルカラム(溶出溶媒;蒸留水)で分離し、化合物j(22.7mg、65%)を得た。
【0067】
[化合物k(KI-62-26)の合成]
化合物kは、次のようにして合成した。メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネート(345mg、1.0mmol)をDMF(5mL)に溶かし、氷冷下、NaH(60%w/w)(48mg、1.2mmol)および1,5-ジブロモペンタン(345mg、1.5mmol)を加え反応を行った。反応終了後、常法で処理した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;AcOEt→10%AcOEt-MeOH)で分離し、化合物X(87mg,18%)を得た。MS(ESI)m/z:516(M+Na)+。この化合物X(60mg、0.13mmol)を80%酢酸(2mL)に溶かした。その後、80℃の油浴で1時間攪拌して反応させ、減圧留去した。その後、メタノール(2mL)を加え、氷冷下で攪拌しながら0.1MのNaOH(2mL)を加え、室温に戻して一晩反応させた。TLC(CHCl3:MeOH:H2O=65:35:5)で確認後、ダウエックスイオン交換樹脂50WX8を加え中和した。吸引ろ過後、減圧濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;CHCl3:MeOH:H2O=65:35:5)で分離し、化合物k(53mg、98%)を得た。
【0068】
[化合物l(14-128a)の合成]
化合物lは、7,8,9位の水酸基をアセチル基で保護したN-Ac-DANA誘導体の5位アミノ基をBoc化によりジアミド化し、TFAで処理して生成したアミノ基をN-イソプロピル化し、さらに4位の水酸基をプロパルギル基で保護したのち、パラジウム触媒存在下、薗頭カップリング法によりチエニル基を導入した。これを、さらに塩基性条件下、メチルエステルを加水分解することで合成した(参考文献:Tetrahedron, Vol.63, pp.7571-7581, 2007年)。
【0069】
[化合物m(SK-1-36)の合成]
化合物mは、以下式に示すように、メチル5-アセタミド-8,9-O-イソプロピリデン-2,3,5-トリ-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラノソネートの4位の水酸基にアリル基を導入し、以下式に示す化合物Xとしたのち、Pd触媒存在下、クロスカップリング法により化合物Yとした。次に80%酢酸でイソプロピリデン基を脱保護して化合物Zとし、塩基性条件下、メチルエステルを加水分解することで合成した。
【0070】
【0071】
[化合物n(RN397)の合成]
化合物nは、8,9位の水酸基をイソプロピリデン基で保護した4-プロパルギル-DANA誘導体をMsN3(メタンスルフォニルアジド)、NH4Cl、NEt3、CuIを用いた4成分連結反応によりN-スルフォニルアミジン基を導入した。さらに80%酢酸でイソプロピリデン基を脱保護し、塩基性条件下、メチルエステルを加水分解することで合成した(参考文献:Bioorganic Medicinal Chemistry, Vol.19, pp.2418-2427, 2011年及びChem. Pharm. Bull., Vol.61, pp.69-74, 2013年)。
【0072】
[ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性阻害試験]
ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性阻害試験は、ムンプスウイルスのシアリダーゼを発現する、ムンプスウイルスのヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)発現細胞を調製し、そのHN発現細胞に各化合物を添加した際のシアリダーゼ活性を測定することによって行った。測定方法は具体的には次の通りである。
【0073】
細胞は、ヒト胎児腎細胞であるHEK293T細胞を用いた。HEK293T細胞の培養には、D-MEM培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製品)に10%ウシ胎児血清(FBS、シグマ-アルドリッチ社製品)を添加したものを用い、5%CO2条件下、37℃で培養した。また、プラスミドは、pCAGGSベクターにムンプスウイルス 13V165E2株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド、pCAGGS-MuV HNを用いた。
【0074】
まず、HEK293T細胞を6ウェルプレートの各ウェルに播種し、5%CO2、37℃で一晩培養して70%コンフルエントの状態とした。リン酸緩衝液(131mM NaCl、14mM Na2HPO4、1.5mM KH2PO4、2.7mM KCl、pH 7.2、以下PBSと称する)を各ウェルに500μLずつ添加して細胞を洗浄し、Opti-MEM(登録商標)I培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製品)を、各ウェルに1200μLずつ加えた。トランスフェクション試薬(TransIT(登録商標)-293 Reagent、タカラバイオ株式会社製品)4μL/ウェル、Opti-MEM I培地を200μL/ウェル、上述したプラスミドpCAGGS-MuV HN(ムンプスウイルス:13V165E2株由来)を2000ng/ウェルを用いて、HEK293T細胞をトランスフェクションし、37℃で48時間培養した。PBSを各ウェルに1000μL添加し、細胞を懸濁したのち遠心分離(4℃、800×g、3分間)して上清を除去した。これを3回繰り返し、遠心分離により沈降した細胞を10mM 酢酸緩衝液(pH 4.5)500μLに懸濁してHN発現細胞懸濁液とした。
【0075】
氷浴した96ウェルの黒色プレートの各ウェルに、上述のようにして調製したHN発現細胞懸濁液5μLを加えた。スクリーニング対象のa~oの各化合物を10mM 酢酸緩衝液に溶解させて2倍段階希釈液に調製し、5μL/ウェル添加した。また、10mM 酢酸緩衝液のみを5μL/ウェル添加し、ブランクコントロールとした。各ウェルにおいてピペッティングを10回行い、37℃で10分間、氷浴上で1時間静置した。シアリダーゼ活性を蛍光検出できる基質である4MU-Neu5Ac(4-メチルウンベリフェリル-α-D-N-アセチルノイラミン酸、シグマ-アルドリッチ社製品)を精製水で希釈して調製した0.4mM 4MU-Neu5Acを各ウェルに2μLずつ添加し、各ウェルにおいてピペッティングを10回行い、37℃で30分間反応させた。100mM 炭酸緩衝液(pH 10.7)を各ウェルに100μLずつ加えて酵素反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(Infinite(登録商標)M200、テカンジャパン株式会社)を用いて、シアリダーゼとの反応によって遊離した4MU(4-メチルウンベリフェロン)の励起波長356nm、測定波長466nm(Ex/Em=356nm/466nm)における蛍光強度を独立して3回測定した。IC50値の計算には、HN発現細胞と4MU-Neu5Acを添加した時の各ウェルにおける各化合物の最終濃度を使用した。また、統計解析ソフトウェア(GraphPad Prism5、グラフパッド・ソフトウェア社製品)を使用して以下表3に示すIC50値と95%信頼区間(以下、95%CIと称する)を算出した。
【0076】
【0077】
結果を
図1(a)及び表3に示す。
図1(a)の横軸は化合物No.を、縦軸はIC
50値を示す。本発明者らは、公知のシアリダーゼ阻害剤である2-デオキシ-2,3-ジデヒドロ-N-アセチルノイラミン酸(DANA;化合物a)よりも高いシアリダーゼ活性阻害効果を示す化合物を見出した。具体的には、化合物b(KS-2-89)、化合物d(48-16)、化合物f(59-55)、化合物h(AM-1-17)、化合物i(45-122)及び化合物j(AM-1-18)のIC
50は、DANAのIC
50の約4分の1以下であり、このうち、化合物b(KS-2-89)のIC
50は、DANAのIC
50の約10分の1以下であった。このことから、化合物b(KS-2-89)、化合物d(48-16)、化合物f(59-55)、化合物h(AM-1-17)、化合物i(45-122)及び化合物j(AM-1-18)はムンプスウイルスのシアリダーゼに対し、優れた活性阻害効果を有することが明らかとなった。
【0078】
そこで、特に高い阻害作用を示した化合物b、d及びiについて、濃度依存的にムンプスウイルスのシアリダーゼ活性を阻害するか否かについて、上述と同様の方法で試験を行った。また、陽性対照として、公知のシアリダーゼ阻害剤であるDANA(化合物a)を用いて同様の試験を行った。結果を
図1(b)に示す。
図1(b)の横軸は化合物濃度を、縦軸は化合物を添加していないブランクコントロールのシアリダーゼ活性を100%としたときの、各化合物濃度における相対シアリダーゼ活性(%)を示す。DANA(化合物a)は白丸形のマーカー(○)、化合物b(KS-2-89)は三角形のマーカー(▲)、化合物d(48-16)は四角形のマーカー(□)及び化合物i(45-122)は黒丸形のマーカー(●)で示している。
【0079】
この結果によれば、化合物b(KS-2-89)、d(48-16)及びi(45-122)は、濃度依存的にムンプスウイルスのシアリダーゼ活性を阻害し、いずれも公知のシアリダーゼ阻害剤であるDANA(化合物a)よりも高い阻害効果を示すことがわかった。
【0080】
[実施例2]
2.ムンプスウイルスの増殖阻害作用の検討
実施例1において、高いシアリダーゼ阻害効果を有することが見出された化合物b、d及びiについて、ムンプスウイルスの増殖阻害能を調べた。ムンプスウイルスの増殖阻害能は、ムンプスウイルスに感染させてから48時間後の培養上清のウイルス感染価を測定することで調べた。測定方法は具体的には次の通りである。
【0081】
宿主細胞はアフリカミドリザル腎由来細胞である、Vero細胞を用いた。Vero細胞の培養には、MEM培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製品)に5%ウシ胎児血清(FBS、シグマ-アルドリッチ社製品)を添加したものを用い、5%CO2条件下、37℃で培養した。
【0082】
まず、Vero細胞を48ウェルプレートの各ウェルに播種し、5%CO2、37℃で一晩培養してコンフルエントの状態にした。26×10-3赤血球凝集活性(HAU)のムンプスウイルス(13V165E2株)-無血清MEM懸濁液を500μLずつ各ウェルに添加して、37℃で1時間静置し、Vero細胞にムンプスウイルス13V165E2株を感染させた。500μL/ウェルのPBSで細胞を洗浄後、2μg/mLのウシ膵臓由来アセチル化トリプシン(品番:T6763、シグマ-アルドリッチ社製品)含有の無血清MEMを500μL/ウェルで置換すると共に、化合物a(DANA)、化合物b、d及びiを無血清MEMで溶解させた無血清MEM溶液を、各化合物の最終濃度が0.01μM、0.1μM、1μM、10μM又は100μMとなるようにそれぞれウェルに添加した。また、化合物を添加しないものをブランクコントロールとした。添加後、5%CO2、37℃で48時間培養した。そのウイルス培養液を遠心(4℃、800×g、9分間)して細胞を沈降させ、ウイルス培養上清200μLを回収した。上清中のウイルス感染価を測定するまで-80℃にて保存した。
【0083】
上清中のウイルス感染価の測定は、次のようにして行った。Vero細胞を12ウェルプレートの各ウェルに播種し、5%CO
2、37℃で一晩培養してコンフルエントの状態にした。1000μL/ウェルのPBSで細胞を洗浄後、上記で回収したウイルス培養上清の10
1~3倍の希釈液を1000μL/ウェルで添加し、37℃で30分間静置して感染させた。1000μL/ウェルのPBSで細胞を洗浄後、2μg/mLのウシ膵臓由来アセチル化トリプシン含有の1.2%結晶化セルロース(品名:アビセル、FMCバイオポリマー社製品)-無血清培地(SFM;品番:12300067、品名:Hybridoma-SFM、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製品)懸濁液2000μL/ウェルで置換し、5%CO
2、37℃で48時間培養した。培養上清を除去し、細胞を1000μL/ウェルのPBSで洗浄後、メタノールを500μL/ウェルで添加し、室温で1分間固定化した。細胞を1000μL/ウェルのPBSで洗浄後、一次抗体として、PBSで2000倍に希釈したマウス抗ムンプスウイルス核タンパク質のモノクローナル抗体7B10(品番:ab9880、アブカム社製品)500μL/ウェルを加え、室温で1時間反応させた。細胞を500μL/ウェルのPBSで洗浄後、二次抗体として、PBSで3000倍に希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウスIgG+IgM抗体(品番:115-036-068、ジャクソンイムノリサーチ社製品)500μL/ウェルを加え、室温で1時間反応させた。細胞を500μL/ウェルのPBSで洗浄後、N,N-ジエチル-p-フェニレンジアミン二塩酸塩(以下DEPDA)発色液(0.1M クエン酸緩衝液(pH6.0):10mL、0.06M DEPDAのアセトニトリル溶液:200μL、0.1M 4-クロロ-1-ナフトールのアセトニトリル溶液:200μL、30%H
2O
2:1μL)500μL/ウェルを加え、室温でウイルス感染細胞を発色させ、感染細胞数をカウントした。感染細胞数から感染価(%)を測定した。感染価(%)は、化合物を添加していないブランクコントロールの感染価を100%としたときの相対感染価を示す。
図2のグラフは、独立した3回の測定における相対感染価の平均値±標準誤差で示している。
図2のグラフ中の***はp<0.001、**はp<0.01及び*はp<0.05、いずれもvsブランクコントロールを示す(Dunnettの多重比較検定)。統計解析ソフトウェア(GraphPad Prism5、グラフパッド・ソフトウェア社製品)を使用して、以下表4に示す50%効果濃度(50% Effective concentration、以下EC
50)値と95%信頼区間(95%CI)を算出した。
【0084】
【0085】
この結果によれば、化合物b(KS-2-89)、d(48-16)及びi(45-122)は、公知のシアリダーゼ阻害剤であるDANA(化合物a)よりも著しく高いムンプスウイルスの増殖阻害効果を示した。ここで、化合物b、d及びiのうち、シアリダーゼ活性阻害効果に最も優れるのは化合物b(KS-2-89)であったが、ウイルス増殖阻害効果は化合物i(45-122)が最も優れていた。化合物iのEC50は、DANAのEC50の2422分の1であった。このことから、化合物iには、単なるムンプスウイルスのシアリダーゼ阻害によるウイルス増殖阻害効果だけでなく、宿主細胞へのムンプスウイルスの感染自体を阻害する効果も有することが推測された。
【0086】
[実施例3]
3.ムンプスウイルスの感染阻害作用の検討(1)
(赤血球凝集阻害試験)
実施例2において、ムンプスウイルスの増殖阻害効果が確認された化合物b、d及びiについて、さらに、感染阻害効果も有するかどうか確認すべく、ムンプスウイルスの感染阻害能を調べた。ムンプスウイルスの感染阻害能は、赤血球凝集阻害活性(HI)を測定することで調べた。測定方法は具体的には次の通りである。
【0087】
96ウェルU底プレート(品番:4845-96U、ワトソン社製品)のウェルに、PBSで40μMから2倍段階希釈した化合物a(DANA)、化合物b、d及びiをそれぞれ、25μL/ウェルとなるように添加した。また、陰性コントロールとして、PBSを25μL添加した。各ウェルに、PBSで希釈した4HAUのムンプスウイルス懸濁液を25μLずつ加えて混合後、4℃で1時間静置した。各ウェルに、0.8%モルモット赤血球-PBS懸濁液を50μLずつ加えて混合後、4℃で4時間静置した。静置後のプレートにおける赤血球凝集像をスキャナー(品番:GT-S640、セイコーエプソン社製品)で画像データとした。赤血球凝集阻害活性(HI)は、凝集阻害が見られる各化合物の最小濃度を示す。結果を以下表5に示す。
【0088】
【0089】
この結果によれば、化合物b(KS-2-89)、d(48-16)及びi(45-122)は、公知のシアリダーゼ阻害剤であるDANA(化合物a)と同等又はそれ以下の化合物濃度での赤血球凝集阻害作用が認められた。特に、化合物bとiは、DANAよりも低い化合物濃度で赤血球凝集阻害作用が認められており、ムンプスウイルスに対する受容体結合の阻害効果を有することが見出された。
【0090】
[実施例4]
4.ムンプスウイルスの感染阻害作用の検討(2)
引き続き、化合物b、d及びiによるムンプスウイルスの感染阻害作用について調べた。本実施例では、ムンプスウイルスに感染させてから48時間後の感染細胞数を測定することでムンプスウイルスの感染阻害能を調べた。測定方法は具体的には次の通りである。
【0091】
Vero細胞を12ウェルプレートの各ウェルに播種し、5%CO
2、37℃で一晩培養してコンフルエントの状態にした。他方、ムンプスウイルス(感染価2000フォーカス形成単位(FFU/mL))-無血清MEM懸濁液に、化合物a(DANA)、化合物b、d及びiを、各化合物の最終濃度が1μM、10μM又は100μMとなるようにそれぞれ添加して、37℃で1時間反応させた。12ウェルプレートの各ウェルに1000μLのPBSを添加してVero細胞を洗浄後、各化合物を含有したムンプスウイルス-無血清MEM懸濁液をそれぞれ500μLずつウェルに加え、5%CO
2、37℃で30分間感染させた。ウイルス懸濁液を除去した後、各ウェルに2μg/mLのウシ膵臓由来アセチル化トリプシン含有の1.2%結晶化セルロースアビセル-SFM懸濁液を2000μLずつ添加し、5%CO
2、37℃で48時間培養した。細胞を1000μL/ウェルのPBSで洗浄後、メタノールを500μL/ウェルで添加し、室温で1分間固定化した。細胞を1000μL/ウェルのPBSで洗浄後、一次抗体として、PBSで2000倍に希釈したマウス抗ムンプスウイルス核タンパク質のモノクローナル抗体7B10を500μLずつ各ウェルに加え、室温で1時間反応させた。細胞を500μL/ウェルのPBSで洗浄後、二次抗体として、PBSで3000倍に希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG+IgM抗体を500μLずつ各ウェルに加え、室温で1時間反応させた。細胞を500μL/ウェルのPBSで洗浄後、各ウェルにDEPDA発色液を500μLずつ加え、室温でウイルス感染細胞を発色させ、フォーカス(感染細胞の集団)の数をカウントした。フォーカス数(%)は、化合物を添加していないブランクコントロールのフォーカス数を100%とした時の相対数を示す。
図3のグラフは、独立した3回の測定における相対値の平均値±標準誤差で示している。
図3のグラフ中の***はp<0.001、**はp<0.01及び*はp<0.05、いずれもvsブランクコントロールを示す(Dunnettの多重比較検定)。統計解析ソフトウェア(GraphPad Prism5、グラフパッド・ソフトウェア社製品)を使用して、以下表4に示す50%効果濃度(EC
50)値と95%信頼区間(95%CI)を算出した。
【0092】
【0093】
この結果によれば、化合物b(KS-2-89)及び化合物i(45-122)は、ムンプスウイルスの感染阻害効果を有することが明らかとなった。特に、化合物i(45-122)はEC50が3.98と最も小さく、感染阻害効果に優れていることがわかった。この結果によれば、化合物b(KS-2-89)及び化合物i(45-122)は、ムンプスウイルスの増殖阻害効果だけでなく、ムンプスウイルスの感染阻害効果も有することが明らかとなった。
【0094】
[実施例5]
5.シアリダーゼ阻害作用の特異性の検討
これまでの試験において、化合物b、d及びiは、ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性を阻害する作用を有すると共に、ムンプスウイルスの増殖阻害作用・感染阻害作用を有することが見出された。そこで、他のウイルス種のシアリダーゼに対しても、シアリダーゼ活性の阻害作用を有するのかどうか確認する試験を行った。具体的には、各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞を調製し、そのシアリダーゼ発現細胞に化合物b、d又はiを添加した際のシアリダーゼ活性を測定した。本実施例では、ウイルス種として、ムンプスウイルス13V165E2株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清1型C35株、A型インフルエンザウイルスA/Hong Kong/1/1968 H3N2株を選択し、これらのシアリダーゼ発現細胞を調製した。具体的には、プラスミドは以下のものを用いた。
・pCAGGS-MuV HN:pCAGGSベクターにムンプスウイルス 13V165E2株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド(実施例1で用いたものと同じ)。
・pCAGGS-hPIV1 HN:pCAGGSベクターにヒトパラインフルエンザウイルス血清1型C35株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGS-HK68 NA:pCAGGSベクターにA型インフルエンザウイルスA/Hong Kong/1/1968 H3N2株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
【0095】
実施例1のシアリダーゼ活性阻害試験において使用したプラスミドを、上述した3種のプラスミドにそれぞれ替えた以外は、実施例1と同様にして各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞を調製した。実施例1と同様の材料及び方法により、各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞に化合物b、d及びiを添加した際のシアリダーゼ活性を測定した。結果を
図4のグラフに示す。各グラフの縦軸はブランクコントロールのシアリダーゼ活性を100%としたときの、各化合物濃度における相対シアリダーゼ活性(%)を示す。
図4のグラフは、独立した3回の測定における相対値の平均値±標準誤差で示している。
図4のグラフ中の***はp<0.001、**はp<0.01及び*はp<0.05、いずれもvsブランクコントロールを示す(Dunnettの多重比較検定)。
【0096】
この結果によれば、DANA(化合物a)は、ムンプスウイルスのシアリダーゼだけでなく、A型ヒトインフルエンザウイルスのシアリダーゼ及びヒトパラインフルエンザウイルス1型のシアリダーゼに対しても阻害効果を示した。しかしながら、化合物b、d及びiは、ムンプスウイルスのシアリダーゼに対する阻害効果は顕著であるが、他のウイルス種のシアリダーゼに対する阻害効果は弱いものであった。特に化合物b(KS-2-89)及び化合物i(45-122)は、他のウイルス種のシアリダーゼに対する阻害効果が小さく、ムンプスウイルス特異性を示した。
【0097】
[実施例6]
6.細胞毒性試験
本実施例では、化合物b、d及びiが、細胞に与える毒性の程度を調べるため、細胞毒性試験を行った。試験は、市販の細胞毒性試験キット(品名:CytoTox-ONE Homogeneous Membrane Integrity Assay kit、プロメガ社製品)を用いて行った。この細胞毒性試験キットにより、細胞毒性を起こし、細胞膜から漏出した乳酸脱水素酵素(Lactate dehydrogenase;LDH)の酵素活性量を二段階の酵素反応により測定した。この試験キットに付属するLysis試薬は、実験条件において全細胞を溶解させて細胞毒性を起こすことで、最大のLDH放出量を求めることができる。この時の最大LDH量を陽性コントロールとした。
【0098】
Vero細胞を96ウェルプレートの各ウェルに播種し、5%CO
2、37℃で一晩培養してコンフルエントの状態にした。各ウェルにPBSを100μLずつ添加して細胞を洗浄後、化合物a(DANA)、化合物b、d及びiについて、最終濃度0.1μM、1μM、10μM又は100μMとなるように調製した各化合物の水溶液を1μL/ウェル及びSFMを100μL/ウェルずつ添加して、5%CO
2、37℃で24時間培養した。陽性コントロールとして化合物を添加していない細胞に試験キット付属のLysis試薬を2μL/ウェル添加して、30分間、室温で静置した。各ウェルに、CytoTox-ONE Reagent溶液を100μLずつ加え、室温で10分間反応させた後、試験キット付属の反応停止液を50μLずつ加えて反応を停止させた。マイクロプレートリーダーで励起波長560nm、蛍光波長590nm(Ex/Em=560nm/590nm)における蛍光強度を測定した。結果を
図5のグラフに示す。細胞毒性(%)は、陽性コントロールの測定値を100%としたときの、独立した3回の測定における相対値の平均値±標準誤差を示す。
【0099】
この結果によれば、DANA(化合物a)を含め、いずれの化合物についても、細胞毒性は観察されず、DANA同様の安全性を有することが示された。
【0100】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含むものである。
本発明は、ムンプスウイルスに対する抗ウイルス剤及びムンプスウイルス感染症の予防・治療剤を提供するものであり、医薬及び医療等の分野の産業において幅広く役立つものである。