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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140082
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/04 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C23C24/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051076
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 享平
(72)【発明者】
【氏名】佐脇 航平
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044BA01
4K044BA12
4K044BB01
4K044CA21
(57)【要約】
【課題】膜形成されない飛散する未利用粉が移動機構における機械部品に接触し難い成膜装置を提供する。
【解決手段】原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルXを基材Kの処理対象面Kaに向けて噴出して、基材Kが配設される処理室2内で処理対象面Ka上に膜を形成する成膜装置1であって、処理室2内に、基材Kを保持する保持部3と、エアロゾルXの噴出端4aが保持部3と対向するように配設された少なくとも一本のエアロゾル噴出部4と、保持部3を噴出端4aに対して相対移動可能な移動機構5と、噴出端4aと移動機構5との間に、噴出したエアロゾルXの少なくとも一部の移動機構5の側への移動を阻止できるエアロゾル制御部Aと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記基材が配設される処理室内で前記処理対象面上に膜を形成する成膜装置であって、
前記処理室内に、前記基材を保持する保持部と、
前記エアロゾルの噴出端が前記保持部と対向するように配設された少なくとも一本のエアロゾル噴出部と、
前記保持部を前記噴出端に対して相対移動可能な移動機構と、
前記噴出端と前記移動機構との間に、噴出した前記エアロゾルの少なくとも一部の前記移動機構の側への移動を阻止できるエアロゾル制御部と、を備える成膜装置。
【請求項2】
前記エアロゾル制御部に、前記処理対象面と対向し、前記噴出端から噴出した前記エアロゾルが通過できる開口部を設けてある請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記エアロゾル制御部を板状としてある請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記エアロゾル制御部に、前記噴出端から噴出した前記エアロゾルの流れを、前記移動機構から離間する方向に誘導する誘導部を設けた請求項1~3の何れか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記エアロゾル制御部と前記基材との距離が2mm以下になるよう構成してある請求項1~3の何れか一項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記開口部は、前記噴出端から噴出した前記エアロゾルが前記エアロゾル制御部に衝突したときの面積に対して20%以上、かつ前記処理対象面または前記保持部の表面の面積より小さい開口面積を有する請求項2に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記開口部の数を前記エアロゾル噴出部の数と同じとしてある請求項2に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記処理室において前記エアロゾル制御部で仕切られた空間のうち、前記エアロゾル噴出部を設置している空間の側に、前記エアロゾルを前記処理室の外部に排気する排気部を設けてある請求項1~3の何れか一項に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記基材が配設される処理室内で前記処理対象面上に膜を形成する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結のような高温での熱処理を経ることなく、金属酸化物材料からなる膜を基材上に形成する方法として、エアロゾルデポジション法(AD法)と呼ばれる手法がある。このAD法は、金属酸化物などの微粒子からなる原料粉を、ノズルから音速程度でセラミックスやプラスチックなどの基材に向けて噴射し、原料粉が基材に衝突する際のエネルギーによって微粒子を破砕・変形させることで、基材上に緻密な膜を形成する手法である。
【0003】
AD法は、例えば、基材が配設される処理室内において、基材を保持する保持部をノズルの噴出端に対して移動機構によって相対移動させながら、セラミックスなどの原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材に吹き付けることで、均質なセラミックス膜を基材上に成膜することができる。
【0004】
AD法では、基材に吹き付けられた原料粉のうち、膜形成されない未利用粉は処理室内を暫くの間飛散してしまうため、処理室内の移動機構における機械部品に接触して付着してしまい、例えば移動機構における駆動部(駆動モーター部品等)を故障させる虞があった。特に成膜枚数を増やして量産する場合においてはこのような故障のリスクが高いと考えられ、実用化の障壁になっていると考えられる。
【0005】
特許文献1には、膜形成されない飛散する未利用粉を収集する方法が開示してある。具体的には、基材に衝突後に飛散する未利用粉を基材の近傍に設けた吸引筒で吸引し、処理室内に飛散する微粒子の量を抑え、吸引された未利用粉を処理室外の回収容器に回収する。
【0006】
このような手法を用いれば、処理室内の移動機構における機械部品をある程度保護することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-119573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された手法では、基材衝突後に全方位に飛散する未利用粉の大部分を収集することは困難であり、成膜した基材を量産した場合には飛散した未利用粉による移動機構における機械部品の故障リスクは低減できないと考えられる。また、基材を駆動させるための移動機構における機械部品は基材とともにXYZ方向に移動することが一般的であるため、移動機構における機械部品(例えば駆動部)を基材と隔絶して配置することは難しい。また仮に当該機械部品を隔絶できたとしても、付帯設備が増加して装置サイズも大きくなるため、メンテナンス性に優れないものとなる。
【0009】
従って、本発明の目的は、膜形成されない飛散する未利用粉が移動機構における機械部品に接触し難い成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る成膜装置は、原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記基材が配設される処理室内で前記処理対象面上に膜を形成する成膜装置であって、その特徴構成は、前記処理室内に、前記基材を保持する保持部と、前記エアロゾルの噴出端が前記保持部と対向するように配設された少なくとも一本のエアロゾル噴出部と、前記保持部を前記噴出端に対して相対移動可能な移動機構と、前記噴出端と前記移動機構との間に、噴出した前記エアロゾルの少なくとも一部の前記移動機構の側への移動を阻止できるエアロゾル制御部と、を備えた点にある。
【0011】
本構成によれば、エアロゾル制御部を備えることで、噴出したエアロゾルの少なくとも一部の移動機構の側への移動を阻止することができる。これにより、簡便な構成で、膜形成されない飛散する未利用粉が移動機構における機械部品に接触或いは付着し難い成膜装置を提供することができる。よって、移動機構における機械部品の故障リスクが低減し、成膜装置のメンテナンスの頻度を減少させることができる。
【0012】
また、成膜枚数を増やして量産する場合においても、移動機構における機械部品の寿命を延ばすことが可能となる。
【0013】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、前記エアロゾル制御部に、前記処理対象面と対向し、前記噴出端から噴出した前記エアロゾルが通過できる開口部を設けた点にある。
【0014】
本構成によれば、エアロゾル制御部を噴出端と移動機構との間に設けた状態であっても、エアロゾルが処理対象面と対向する開口部を通過することで、当該処理対象面にエアロゾルを確実に到達させることができる。
【0015】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、前記エアロゾル制御部を板状とした点にある。
【0016】
本構成によれば、エアロゾル制御部を簡便な構成とすることができる。
【0017】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、前記エアロゾル制御部に、前記噴出端から噴出した前記エアロゾルの流れを、前記移動機構から離間する方向に誘導する誘導部を設けた点にある。
【0018】
本構成によれば、噴出端から噴出し開口部を通過しなかったエアロゾルがエアロゾル制御部に衝突した後、当該エアロゾルの流れを誘導部に沿わせて移動機構から離間する方向に誘導することができる。これにより、膜形成されずに飛散する未利用粉を、移動機構から離間する方向に確実に移動させることができる。
【0019】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、前記エアロゾル制御部と前記基材との距離が2mm以下になるよう構成した点にある。
【0020】
本構成によれば、当該距離を2mm以下とすることで、エアロゾル制御部と基材との隙間をできるだけ狭く設定することができる。これにより、当該隙間より移動機構の側に移動するエアロゾルの量をできるだけ少なくすることができる。
【0021】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、前記開口部は、前記噴出端から噴出した前記エアロゾルが前記エアロゾル制御部に衝突したときの面積に対して20%以上、かつ前記処理対象面または前記保持部の表面の面積より小さい開口面積を有する点にある。
【0022】
本構成によれば、噴出端から噴出したエアロゾルが開口部を通過できる量を、処理対象面上に効率よく成膜できる量とすることができる。
【0023】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、前記開口部の数を前記エアロゾル噴出部の数と同じとした点にある。
【0024】
本構成によれば、開口部を噴出端に対向した位置に設けることができ、開口部の対向した位置からエアロゾルが開口部を通過するように構成することができるため、エアロゾルを基材の処理対象面に確実に到達させることができる。
【0025】
本発明に係る成膜装置の更なる特徴構成は、前記処理室において前記エアロゾル制御部で仕切られた空間のうち、前記エアロゾル噴出部を設置している空間の側に、前記エアロゾルを前記処理室の外部に排気する排気部を設けた点にある。
【0026】
本構成によれば、排気部によって処理室に飛散する膜形成されない未利用粉を排出し易くすることができる。これにより、当該未利用粉が移動機構における機械部品により接触し難い成膜装置を提供することができる。よって、移動機構における機械部品の故障リスクがより低減し、成膜装置のメンテナンスの頻度をより低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施形態の成膜装置を示す概略図である。
図2】実施形態の成膜装置を示す要部概略図である。
図3】別実施形態1の成膜装置を示す要部概略図である。
図4】別実施形態2の成膜装置を示す要部概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は、原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルXを基材Kの処理対象面Kaに向けて噴出して、基材Kが配設される処理室2内で処理対象面Ka上に膜を形成する装置であって、処理室2内に、基材Kを保持する保持部3と、エアロゾルXの噴出端4aが保持部3と対向するように配設された少なくとも一本のエアロゾル噴出部4と、保持部3を噴出端4aに対して相対移動可能な移動機構5と、噴出端4aと移動機構5との間に、噴出したエアロゾルXの少なくとも一部の移動機構5の側への移動を阻止できるエアロゾル制御部Aと、を備える。
【0029】
原料粉は、金属酸化物や金属などの微粒子であれば特に限定されるものではない。本実施形態では、原料粉をセラミックス原料粉とする場合について説明する。
【0030】
本実施形態の成膜装置1は、セラミックス原料粉をガスに分散させたエアロゾルXを発生させるエアロゾル発生部15、搬送ガスをエアロゾル発生部15に送給する搬送ガス送給機構18、セラミックス原料粉をエアロゾル発生部15に送給する原料粉供給機構16、を備える場合について説明する。
【0031】
基材Kは、成膜対象(被成膜物)となるものであれば、その材質や形状は特に限定されるものではないが、基材Kの処理対象面Kaは平面とするのが好ましい。
【0032】
処理室2は、上端及び下端が閉塞された直方体又は概円筒状の気密状の筐体で構成されており、上端面に上端開口2aが形成してある。当該処理室2の内部には、基材Kを保持する保持部3、エアロゾル噴出部4が配設してある。更に、処理室2の上端開口2aには、排気設備としてのメカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2が排気管S1によって接続されており、これらメカニカルブースターポンプP1及び真空ポンプP2によって気体が排出されることで、処理室2内が所定圧力(例えば1.0kPa程度)以下に減圧される。
【0033】
保持部3は、成膜処理の対象である基材Kを、処理対象面Kaが水平面と平行となるように当該処理対象面Kaを下側に向けて保持可能に構成してある。基材Kを保持する手法としては、基材Kの処理対象面Kaと反対の面を真空吸着する手法や、電圧を印加して電極と基材Kとの間に発生したクーロン力によって吸着する手法(所謂静電チャック)や、基材Kが磁性体の場合は電磁石によって吸着する手法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
エアロゾル噴出部4は、円筒状の直管部材である。当該エアロゾル噴出部4は、噴出端4aが処理室2内の保持部3と対向するように処理室2内に配設してあり、噴出端4aと反対の端部はエアロゾル発生部15に接続してある。このエアロゾル噴出部4によれば、エアロゾル発生部15から送給されたエアロゾルXが、噴出端4aから基材Kの処理対象面Kaに向けて噴出される、言い換えれば、鉛直方向下側から処理対象面Kaに向けてエアロゾルXが噴射される。噴出端4aは、その断面形状は円形とすることができるが、円形に限られるものではなく、楕円形であってもよく、三角形や矩形(スリットを含む)等の多角形であってもよい。
【0035】
本実施形態では、一本のエアロゾル噴出部4を備えた場合について説明するが、エアロゾル噴出部4の数はこれに限定されるものではない。
【0036】
エアロゾル発生部15には、原料供給管S3、搬送ガス送給管S4及びエアロゾル噴出部4が接続してある。エアロゾル発生部15では、原料粉供給機構16によって一定速度で供給されるセラミックス原料粉と、搬送ガス送給機構18によって送給される搬送ガスとを混合したエアロゾルXを発生する。発生したエアロゾルXは、エアロゾル噴出部4に送給される。
【0037】
原料粉供給機構16は、原料粉供給部17や原料供給管S3などからなる。原料粉供給部17にはセラミックス原料粉が貯留されており、このセラミックス原料粉が原料供給管S3を通してエアロゾル発生部15に供給される。セラミックス原料粉を構成する粒子としては、例えばジルコニアにイットリウムやカルシウム,マグネシウム,ハフニウムなどを含有する安定化ジルコニアの粒子とすることができるが、これらに限定されるものではない。本実施形態においては、イットリウムを含有するジルコニア(YSZ)をセラミックス原料粉として用いる場合について説明する。
【0038】
搬送ガス送給機構18は、ガス供給部19、搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21および搬送ガス送給管S4などからなる。
【0039】
具体的に、ガス供給部19には搬送ガス送給管S4が接続してある。ガス供給部19は、空気やN,He,Arなどの搬送ガスをコンプレッサーやガスボンベによって搬送ガス送給管S4内に供給するように構成してある。
【0040】
本実施形態における搬送ガス送給管S4は、ガス供給部19から供給される搬送ガスをエアロゾル発生部15まで送給するためのものである。具体的に、本実施形態では、ガス供給部19から送出された搬送ガスが、搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21を順に経由してエアロゾル発生部15まで送給されるように構成してあり、ガス供給部19、搬送ガス圧力制御部20、搬送ガス流量制御部21及びエアロゾル発生部15の間に接続された複数の配管によって搬送ガス送給管S4が構成してある。また、搬送ガス送給管S4における搬送ガス流量制御部21とエアロゾル発生部15との間には、搬送ガス送給管S4内の圧力を検出する圧力センサM1が設けてある。
【0041】
搬送ガス圧力制御部20は、搬送ガス送給管S4内を流通する搬送ガスを適正圧力に静定するものであり、搬送ガス流量制御部21は、搬送ガス送給管S4内を流通する搬送ガスの流量を制御するものである。本実施形態において、搬送ガス圧力制御部20及び搬送ガス流量制御部21は、圧力センサM1により検出される圧力などを基に、その動作が図示しない制御装置によって適宜制御される。
【0042】
移動機構5は、保持部3を噴出端4aに対して相対移動可能な機構であれば、特に限定されるものではない。本実施形態では、移動機構5を、ステッピングモータやボールねじなどからなる水平駆動機構及び油圧シリンダなどからなる昇降駆動機構によって構成される場合について説明する。しかし、この態様に限らず、昇降駆動機構もステッピングモータやボールねじなどからなる機構としてもよい。水平駆動機構によって保持部3を水平方向に移動させ、昇降駆動機構によって保持部3を鉛直方向に移動させることができる。
【0043】
図1では、移動機構5の一部を処理室2の外部に配置した状態を示したが、処理室2の内部に移動機構5の全てを配置してもよい。本明細書では、移動機構5を構成する水平駆動機構及び昇降駆動機構の一部または全ての部材を機械部品と称する。
【0044】
エアロゾル制御部Aは、噴出端4aと移動機構5との間に、噴出したエアロゾルXの少なくとも一部の移動機構5の側への移動を阻止できるように構成してある。
【0045】
エアロゾル制御部Aは、噴出したエアロゾルXの少なくとも一部の移動機構5の側への流れを制御できる態様であれば、その形状は限定されるものではない。例えば、エアロゾル制御部Aは処理室2の内周に配設(固定)した板状の部材とし、移動機構5の側へ向かうエアロゾルXの少なくとも一部の流れを阻止するように当該部材を配設することが可能である。当該部材は、移動機構5の側へ向かうエアロゾルXの流れを阻止できる角度をつけて配設してもよい。
【0046】
エアロゾル制御部Aは、上述したように処理室2の内周に配設(固定)してもよいし、エアロゾル噴出部4に配設(固定)してもよい。また、エアロゾル制御部Aは、処理室2を、移動機構5の側の空間およびエアロゾル噴出部4の側の空間を隔てるように構成するとよい。
【0047】
本実施形態では、エアロゾル制御部Aに、処理対象面Kaと対向し、噴出端4aから噴出したエアロゾルXが通過できる開口部a1を設けた場合について説明する。この場合、例えば板状のエアロゾル制御部Aにおいて噴出端4aと対向する対向面A1の位置に開口部a1を設けるとよい。これにより、エアロゾル制御部Aを噴出端4aと移動機構5との間に設けた状態であっても、エアロゾルXが処理対象面Kaと対向する開口部a1を通過することで、当該処理対象面KaにエアロゾルXを確実に到達させることができる。本実施形態では、噴出端4aの鉛直方向の真上に開口部a1を設けた場合について説明する。
【0048】
開口部a1の形状は特に限定されるものではなく、例えば、噴出端4aの断面形状(例えば円形)と同様とすることができる。開口部a1のサイズは特に限定されるものではないが、成膜効率を鑑みると噴出端4aの開口面積より大きくするのがよい。
【0049】
開口部a1の数は特に限定されるものではないが、エアロゾル噴出部4の数と同じとするのがよい。本実施形態では、エアロゾル噴出部4の数(一本)と同じ一つの開口部a1とする場合について説明する。開口部a1の数をエアロゾル噴出部4の数と同じとすることで、開口部a1を噴出端4aに対向した位置に設けることができ、開口部a1の対向した位置からエアロゾルXが開口部a1を通過するように構成することができるため、エアロゾルXを基材Kの処理対象面Kaに確実に到達させることができる。
【0050】
開口部a1は、移動機構5の水平駆動機構によって保持部3(基材K)を水平方向に移動させたときに、開口部a1の開口部分が保持部3(基材K)に対向するように構成するとよい。これにより、開口部a1を通過したエアロゾルXを基材Kの処理対象面Kaに確実に到達させることができるとともに、移動機構5の側に移動するエアロゾルXの量をできるだけ少なくすることができる。
【0051】
また、本実施形態では、エアロゾル制御部Aに、噴出端4aから噴出したエアロゾルXの流れを、移動機構5から離間する方向に誘導する誘導部A2を設けた場合について説明する。誘導部A2を設ける位置については特に限定されるものではないが、本実施形態では、対向面A1の周囲に接続するように誘導部A2を設けた場合について説明する。
【0052】
この場合、対向面A1を処理対象面Kaと平行となるように構成し、誘導部A2の端部(処理室2の内周に近接あるいは接続する端部)が移動機構5から離間する態様となるように角度を付けて対向面A1および誘導部A2を接続するように構成することができる。この場合、対向面A1および誘導部A2の接続部位の断面形状は、曲線であってもよい。
【0053】
本構成では、噴出端4aから噴出し開口部a1を通過しなかったエアロゾルXがエアロゾル制御部Aに衝突した後、当該エアロゾルXの流れを対向面A1および誘導部A2に沿わせて移動機構5から離間する方向に誘導することができる。これにより、膜形成されずに飛散する未利用粉を、移動機構5から離間する方向に確実に移動させることができる。
【0054】
本発明のようにエアロゾル制御部Aを備えることで、噴出したエアロゾルXの少なくとも一部の移動機構5の側への移動を阻止することができる。これにより、膜形成されない飛散する未利用粉が移動機構5における機械部品に接触或いは付着し難い成膜装置1を提供することができる。よって、移動機構5における機械部品の故障リスクが低減し、成膜装置1のメンテナンスの頻度を減少させることができる。
【0055】
エアロゾル制御部Aと基材Kとの距離は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、2mm以下になるよう構成する場合について説明する。
【0056】
当該距離を2mm以下とすることで、エアロゾル制御部Aと基材Kとの隙間をできるだけ狭く設定することができる。これにより、当該隙間より移動機構5の側に移動するエアロゾルXの量をできるだけ少なくすることができる。
【0057】
当該距離は、好ましくは0.1mm~2mmとすることができる。この距離が0.1mmより小さい場合は、成膜した表面がエアロゾル制御部Aの表面と接する虞があるため、好ましくない。また、この距離が2mmを超えると、前記隙間よりエアロゾルXが移動機構5の側に移動し易くなるため、好ましくない。
【0058】
図2に示したように、エアロゾル制御部Aにおける開口部a1は、噴出端4aから噴出したエアロゾルXがエアロゾル制御部Aに衝突したときの面積d1に対して20%以上、かつ処理対象面Kaまたは保持部3の表面の面積d3より小さい開口面積d2を有するように構成することができる。
【0059】
エアロゾルXが噴出端4aから噴出する際には、エアロゾルXは噴出端4aより広がるようにエアロゾル制御部Aの側に移動する。即ち、当該面積d1は、エアロゾルXがエアロゾル制御部Aの表面に衝突したときにエアロゾルXが達する範囲を示すものとなる。本構成では、開口面積d2が面積d1の20%以上とすることを規定している。これにより、
噴出端4aから噴出したエアロゾルXが開口部a1を通過できる量を、処理対象面Ka上に効率よく成膜できる量とすることができる。
【0060】
また、開口面積d2を処理対象面Kaまたは保持部3の表面の面積d3より小さく設定することで、移動機構5の側に移動するエアロゾルXの量をできるだけ少なくすることができる。さらに、開口面積d2を前記面積d3より小さく設定すると、移動機構5の水平駆動機構によって保持部3(基材K)を水平方向に移動させた場合であっても、開口部a1の開口部分が保持部3(基材K)に対向するように構成し易くすることができる。
【0061】
開口面積d2が面積d1の20%未満である場合は、噴出端4aから噴出したエアロゾルXが開口部a1を通過できる量が少なくなり、処理対象面Ka上に効率よく成膜し難くなるため好ましくない。
【0062】
〔別実施形態1〕
上述した実施形態では、エアロゾル噴出部4の数を一本とし、エアロゾル噴出部4の数と同じ一つの開口部a1とする場合について説明したが、エアロゾル噴出部4の数を二本とした場合は、二つの開口部a1を設けることができる(図3)。
【0063】
本構成のように複数の開口部a1を設けることで、処理対象面Kaに対する成膜速度を向上させることができる。
【0064】
また、エアロゾル噴出部4から噴出したエアロゾルXに含まれる原料粉どうしが衝突することで、密着性が低く緻密度の低い膜(圧粉体p)が形成されることがある。このような成膜不良の原因となる圧粉体pは、複数のエアロゾル噴出部4を設けた場合に水平方向に隣接するエアロゾル噴出部4の間(隣接する開口部a1の間)の領域で発生し易い。本発明では、このような圧粉体pはエアロゾル制御部Aにおけるエアロゾル噴出部4の側に形成させ易くなるため、処理対象面Kaに成膜不良の膜を形成するのを防止することができる。
【0065】
〔別実施形態2〕
上述した実施形態では、処理室2の上端面に上端開口2aを形成して排気設備を接続した場合について説明したが、このような態様に限定されるものではない。本実施形態では、処理室2の下端面に下端開口2bを形成して排気設備を接続した場合について説明する。
【0066】
即ち、本実施形態では、図4に示したように、処理室2においてエアロゾル制御部Aで仕切られた空間のうち、エアロゾル噴出部4を設置している空間の側に、エアロゾルXを処理室2の外部に排気する排気部30を設けるとよい。
【0067】
当該排気部30は、下端面に形成した下端開口2b、排気設備としての排気ポンプP3および排気管S2を備えることができる。当該下端開口2bには、排気ポンプP3が排気管S2によって接続されており、排気ポンプP3によって処理室2に飛散する膜形成されない未利用粉を排出し易くすることができる。これにより、当該未利用粉が移動機構5における機械部品により接触し難い成膜装置1を提供することができる。よって、移動機構5における機械部品の故障リスクがより低減し、成膜装置1のメンテナンスの頻度をより低減させることができる。
【0068】
本実施形態では、例えば上端開口2aを形成せず、当該上端開口2aに接続する排気設備(メカニカルブースターポンプP1,真空ポンプP2および排気管S1)を下端開口2bに接続してもよい。このとき、排気設備として、メカニカルブースターポンプP1,真空ポンプP2を備える排気設備、および排気ポンプP3を備える排気設備の両者を設けてもよいし、何れか一方の排気設備のみを設ける態様としてもよい。
【0069】
〔別実施形態3〕
上述した実施形態では、エアロゾル制御部Aにおいて、対向面A1および当該対向面A1に角度を付けて接続する誘導部A2を設けた場合について説明したが、このような態様に限定されるものではない。
【0070】
例えば、誘導部A2を設けず開口部a1を備えた平板状の構成(対向面A1のみの構成)としてもよいし、対向面A1を設けず開口部a1を備えたすり鉢状の構成(誘導部A2のみの構成)としてもよい。
【0071】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、原料粉を搬送ガス中に分散させたエアロゾルを基材の処理対象面に向けて噴出して、前記基材が配設される処理室内で前記処理対象面上に膜を形成する成膜装置に利用できる。
【符号の説明】
【0073】
A エアロゾル制御部
a1 開口部
A2 誘導部
X エアロゾル
K 基材
Ka 処理対象面
1 成膜装置
2 処理室
3 保持部
4 エアロゾル噴出部
4a 噴出端
5 移動機構
30 排気部
図1
図2
図3
図4