(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140086
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】光学フィルター
(51)【国際特許分類】
G02B 26/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G02B26/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051081
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】森田 喜久哉
【テーマコード(参考)】
2H141
【Fターム(参考)】
2H141MA22
2H141MB28
2H141MB52
2H141MB56
2H141MC06
2H141MD38
2H141ME01
2H141ME23
2H141MF30
2H141MG09
2H141MZ03
(57)【要約】
【課題】透過波長のばらつきを抑制できる光学フィルターを提供する。
【解決手段】光学フィルターは1、反射膜3Aと、反射膜3Aに対してギャップを介して対向配置された反射膜3Bと、を備え、反射膜3A,3Bの対向方向から見たとき、反射膜3A,3Bが互いに重なる範囲は、光透過領域Rを形成しており、光透過領域Rの中央部におけるギャップの寸法は、光透過領域R内の中央部より外側の外周部におけるギャップの寸法よりも小さい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1反射膜と、
前記第1反射膜に対してギャップを介して対向配置された第2反射膜と、を備え、
前記第1反射膜と前記第2反射膜との対向方向から見たとき、前記第1反射膜および前記第2反射膜が互いに重なる範囲は、光透過領域を形成しており、
前記光透過領域の中央部における前記ギャップの寸法は、前記光透過領域内の前記中央部より外側の外周部における前記ギャップの寸法よりも小さい、光学フィルター。
【請求項2】
前記第1反射膜が設けられた第1基板と、
前記第1基板に対して対向配置され、前記第2反射膜が設けられた第2基板と、
前記第1基板に設けられた第1応力膜と、をさらに備え、
前記第1応力膜は、前記第1基板に対して、前記第1反射膜を前記第2反射膜側に撓ませる応力を加える、請求項1に記載の光学フィルター。
【請求項3】
前記第1基板は、前記第2基板に対向する第1面と、当該第1面とは反対側の第2面とを備え、
前記第1応力膜は、
前記第1基板の前記第1面と前記第1反射膜との間に設けられた圧縮応力膜、または、前記第1基板の前記第2面に設けられた引張応力膜である、請求項2に記載の光学フィルター。
【請求項4】
前記第2基板に設けられた第2応力膜をさらに備え、
前記第2応力膜は、前記第2基板に対して、前記第2反射膜を前記第1反射膜側に撓ませる応力を加える、請求項2または請求項3に記載の光学フィルター。
【請求項5】
前記第2基板は、前記第1基板に対向する第1面と、当該第1面とは反対側の第2面とを備え、
前記第2応力膜は、
前記第2基板の前記第1面と前記第2反射膜との間に設けられた圧縮応力膜、または、前記第2基板の前記第2面に設けられた引張応力膜である、請求項4に記載の光学フィルター。
【請求項6】
前記第2反射膜は、前記第1基板側とは反対側に撓んだ状態であり、
前記第1反射膜の撓み量は、前記第2反射膜の撓み量よりも大きい、請求項1に記載の光学フィルター。
【請求項7】
前記第1応力膜の少なくとも一部は、前記第1反射膜と前記第2反射膜との対向方向から見たとき、前記光透過領域に重なるように配置される、請求項2に記載の光学フィルター。
【請求項8】
前記第1応力膜の中央部は、前記第1反射膜と前記第2反射膜との対向方向から見たとき、前記光透過領域の前記中央部に一致する、請求項7に記載の光学フィルター。
【請求項9】
前記第1応力膜は、環形状を有する、請求項8に記載の光学フィルター。
【請求項10】
前記第1応力膜の内周および外周は、前記光透過領域の前記中央部を中心とする円形状を有する、請求項9に記載の光学フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象からの光を複数の波長に分光して撮像する分光カメラが知られており、この分光カメラは、任意の波長の光を分光可能な光学フィルターを備えている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示の光学フィルターは、ギャップを介して対向配置された一対の反射膜を備えている。この光学フィルターでは、一対の反射膜間で光の多重反射が生じ、所定波長の透過光が互いに強め合うように干渉するため、所定波長における透過率のピークが生じる。この所定波長は、干渉し合う光の光路長差に対応し、当該光路長差は、一対の反射膜間のギャップ寸法に対応する。このため、光学フィルターは、ギャップ寸法に応じた透過波長特性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の光学フィルターでは、一対の反射膜が互いに平行に配置されており、ギャップ寸法が均一である。しかし、一般的な光源やカメラ光学系から光学フィルターに光が入射する場合、光学フィルターに入射する光の主光線の角度は、光軸から離れるほどに大きくなる。このため、一対の反射膜間のギャップ寸法が均一であっても、光学フィルターに対する入射位置によって、干渉し合う光の光路長差にばらつきが生じることがある。よって、光学フィルターにおける透過波長にばらつきが生じるという問題が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る光学フィルターは、第1反射膜と、前記第1反射膜に対してギャップを介して対向配置された第2反射膜と、を備え、前記第1反射膜と前記第2反射膜との対向方向から見たとき、前記第1反射膜および前記第2反射膜が互いに重なる範囲は、光透過領域を形成しており、前記光透過領域の中央部における前記ギャップの寸法は、前記光透過領域内の前記中央部より外側の外周部における前記ギャップの寸法よりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の光学フィルターを含んだ分光カメラの概略を示す模式図。
【
図2】第1実施形態の光学フィルターを示す断面図。
【
図3】第1実施形態の光学フィルターを示す平面図。
【
図4】第1実施形態の反射膜の撓み状態を示す模式図。
【
図5】比較例の光学フィルターにおける光の透過率を示すグラフ。
【
図6】第1実施形態の光学フィルターにおける光の透過率を示すグラフ。
【
図7】第2実施形態の光学フィルターを示す断面図。
【
図8】第3実施形態の光学フィルターを示す断面図。
【
図9】第3実施形態の反射膜の撓み状態を示す模式図。
【
図10】第4実施形態の光学フィルターを示す断面図。
【
図11】第4実施形態の反射膜の撓み状態を示す模式図。
【
図12】第5実施形態の光学フィルターを示す平面図。
【
図13】第6実施形態の光学フィルターを示す平面図。
【
図14】第1実施形態の光学フィルターを含んだ光源装置の概略を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1実施形態]
図1に示すように、本実施形態に係る光学フィルター1は、測定対象からの光を複数の波長に分光して撮像する分光カメラ10に利用可能である。
【0009】
(分光カメラの概略構成)
まず、分光カメラ10の概略構成について説明する。分光カメラ10は、
図1に示すように、光学フィルター1と、集光レンズ11と、バンドパスフィルター12と、受光部13と、信号処理部14、駆動回路15と、制御部16と、を備える。
【0010】
光学フィルター1は、後述にて詳細を説明するが、例えば波長可変型のファブリーペローエタロン素子である。この光学フィルター1は、集光レンズ11からバンドパスフィルター12を介して入射された光のうち、所望の波長の光を透過させる。また、光学フィルター1は、駆動回路15から入力される駆動電圧に応じて透過波長を変更する。
【0011】
集光レンズ11は、1以上のレンズを含んで構成される。測定対象からの光は、集光レンズ11により集光され、受光部13で合焦する。また、集光レンズ11の光軸Aは、光学フィルター1の光透過領域Rの中央部Rcを通るように配置される。
【0012】
バンドパスフィルター12は、集光レンズ11と光学フィルター1との間に配置される。このバンドパスフィルター12は、測定内容に対応する特定の波長域(測定波長域)の光を透過させ、かつ、特定波長域以外の光をカットさせる。
【0013】
受光部13は、例えばCCDやCMOS等のイメージセンサーであり、受光した光に応じた画像信号を信号処理部14に出力する。
信号処理部14は、増幅アンプやA/D変換器等により構成され、受光部13から入力される画像信号に信号処理を行って制御部16に出力する。
駆動回路15は、制御部16からの駆動指令に従って光学フィルター1に駆動電圧を入力する。
【0014】
制御部16は、例えばCPU(Central Processing Unit)やメモリー等が組み合わされることで構成され、分光カメラ10の全体動作を制御する。この制御部16は、目標波長に基づいて駆動回路15を制御したり、信号処理部14から取得した画像信号に基づいて測定対象の分光スペクトルを測定および解析したりする。
【0015】
(光学フィルター1の構成)
図2は、光学フィルター1を模式的に示す断面図であり、
図3は、光学フィルター1を模式的に示す平面図である。この光学フィルター1は、互いに対向配置された可動基板21および固定基板22と、可動基板21に設けられた反射膜3Aおよび電極4Aと、固定基板22に設けられた反射膜3Bおよび電極4Bと、を備える。
なお、本実施形態では、可動基板21が第1基板に相当し、固定基板22が第2基板に相当する。また、可動基板21に設けられた反射膜3Aが第1反射膜に相当し、固定基板22に設けられた反射膜3Bが第2反射膜に相当する。
【0016】
可動基板21および固定基板22は、光軸Aに沿った方向において互いに対向するように配置される。このため、可動基板21および固定基板22の対向方向は、光軸Aに平行である。また、可動基板21および固定基板22は、それぞれ、シリコン基板またはガラス基板など、測定波長域に対して透光性を有する材料により形成さる。
【0017】
可動基板21は、固定基板22に対向する第1面211と、第1面211とは反対側の面である第2面212とを有する。可動基板21の第2面212には、環状の溝213が形成されている。これにより、可動基板21は、反射膜3Aが設けられた部位である可動部214と、可動部214を囲うダイアフラム部215と、ダイアフラム部215を介して可動部214を変位可能に支持する基部216とを備える。ダイアフラム部215は、可動基板21の溝213により、可動基板21の厚みが基部216および可動部214よりも薄く形成された部位である。なお、基部216は、図示を省略する筐体などにより支持されている。
【0018】
固定基板22には、可動基板21と固定基板22との間のキャビティーCを成す凹部223が形成されており、固定基板22のうち、凹部223の周りの周縁部は、可動基板21の基部216に接合されている。固定基板22は、凹部223内において、可動基板21に対向する第1面221と、第1面221とは反対側の面である第2面222とを有する。なお、凹部223の中央付近には、反射膜3Bが設けられる台座が形成されており、第1面221は当該台座による段差を有する。また、図示を省略するが、固定基板22の一部は、可動基板21の外周縁よりも外側に突出して電装部を構成する。
【0019】
反射膜3Aは、可動部214の第1面211に形成され、反射膜3Bは、固定基板22の台座の第1面221に形成される。また、反射膜3Aおよび反射膜3Bは、ギャップを介して互いに対向している。このギャップの寸法(以下、ギャップ寸法D)は、光学フィルター1を透過する光の波長に対応する。
また、光学フィルター1の平面視において、反射膜3A,3Bは、それぞれ光軸Aを中心とする円形状を有し、互いに重なるように配置される。反射膜3A,3Bが互いに重なる領域は、光透過領域Rを形成する。光透過領域Rに入射した光は、反射膜3A,3B間で多重反射し、ギャップ寸法Dに応じた波長の光が干渉により強め合って光学フィルター1を透過する。
【0020】
反射膜3A,3Bとしては、Ag等の金属膜や、Ag合金等の合金膜を用いることができる。また、反射膜3A,3Bとして、TiO2等の高屈折層とSiO2等の低屈折層とを交互に積層することで構成された誘電体多層膜を用いてもよい。
【0021】
電極4Aは、可動部214の第2面212において反射膜3Aの周りを囲う環状に形成され、電極4Bは、固定基板22の凹部223内の台座の外側において反射膜3Bの周りを囲う環状に形成されている。また、電極4A,4Bは、互いに対向配置されており、共に静電アクチュエーター41を構成している。なお、図示は省略するが、電極4A,4Bは、引出配線を介してキャビティーCの外側の電装部に電気的に接続される。
【0022】
以上の構成を有する光学フィルター1では、電極4A,4Bの一方がグランドに接地され、他方に駆動電圧が入力されることで、電極4A,4B間に静電引力が作用する。これにより、可動部214が固定基板22側に向かって変位し、ギャップ寸法Dが変更される。
【0023】
本実施形態の光学フィルター1は、可動部214の第2面212に形成された応力膜5(第1応力膜)をさらに備える。光学フィルター1の平面視において、応力膜5は、光軸Aを中心とする円形状を有し、少なくとも光透過領域Rを覆うように形成される。また、応力膜5の中心は、光透過領域Rの中心(反射膜3A,3Bの各中心)に一致するように配置される。本実施形態の応力膜5は、光透過領域Rよりも広い範囲に広がっている。
【0024】
また、応力膜5は、測定波長域に対して透光性を有する材料により形成される。応力膜5の膜応力は、膜の材料、膜厚および成膜条件を適宜選択することにより調整される。
本実施形態の応力膜5は、引張応力を有する引張応力膜であり、可動部214に対して引張応力を与える。このような応力膜5は、例えばSiO2、SiON、TiO2、Al2O2やMgF2などの材料により形成される。応力膜5は、単層で形成されてもよいし、複数の層で形成されていてもよい。
【0025】
可動部214は、応力膜5の引張応力により、固定基板22側に撓んでいる。これにより、反射膜3Aは、可動部214に沿って反射膜3B側に撓んでいる。一方、固定基板22は、大きな撓みを有さず、反射膜3Aは、光軸Aに直交する仮想面に沿って配置される。
【0026】
ここで、
図4は、反射膜3A,3Bの撓み状態を誇張して示す模式図である。
図4に示すように、反射膜3A,3B間のギャップ寸法Dは、光透過領域Rの中央部Rcから径方向外側に向かって徐々に大きくなっている。例えば、光透過領域Rの中央部Rcのギャップ寸法Dcは、光透過領域Rの外周部Rpのギャップ寸法Dpよりも小さい。
【0027】
なお、光学フィルター1の動作中、静電アクチュエーター41により可動部214が変位した状態においても、応力膜5の引張応力により可動部214が固定基板22側に撓んだ状態は維持されるものとする。
【0028】
また、応力膜5が可動部214に作用する応力は、反射膜3Aが可動部214に作用する応力に対して相乗される力であってもよい。すなわち、反射膜3Aは、可動部214が固定基板22側に撓むように可動部214に対して圧縮応力を与えていてもよい。
【0029】
[第1実施形態の作用効果]
本実施形態の光学フィルター1による作用効果について、比較例を用いて説明する。
ここで、比較例に係る光学フィルターは、本実施形態の光学フィルター1と略同様の構成を有するが、応力膜5を備えておらず、光透過領域Rにおけるギャップ寸法Dが均一であるものとする。
また、本実施形態および比較例のそれぞれでは、
図1に示すように、光透過領域Rの中央部Rcに入射する光の主光線は、光軸Aに平行であるが、光透過領域Rの外周部Rpに入射する光の主光線は、光軸Aに対して傾斜する(例えば入射角15度)。なお、光透過領域Rの中央部Rcは、光軸Aが通る部分であり、光透過領域Rの外周部Rpは、光透過領域R内において中央部Rcよりも外側となる任意の部分であるとする。
【0030】
本実施形態の光学フィルター1および比較例の光学フィルターにおいて、それぞれ、透過率が最大となる条件は、以下の式(1)により表される。
【数1】
【0031】
なお、式(1)において、λは光の波長であり、nは、キャビティーC内の媒質(本実施形態では真空)の屈折率であり、Dは、反射膜3A,3B間のギャップ寸法であり、θは、キャビティーC内の媒質に対する光の入射角である。mは任意の整数であり、バンドパスフィルター12による測定波長域に応じて決定される。また、式(1)において、2nDcosθは、光透過領域Rを透過する光の光路長差に相当する。
【0032】
例えば、比較例において、m=1,n=1,D=350nmと仮定する。そして、光透過領域Rの中央部Rcに入射する光の主光線について、θ=0度とするとき、上記式(1)により、透過率が最大となる波長λは700nmである。また、光透過領域Rの外周部Rpに入射する光の主光線について、θ=15度とするとき、上記式(1)により、透過率が最大となる波長λは676.1nmである。その結果、光透過領域Rにおける透過率が
図5のようなグラフを示す。
【0033】
図5は、比較例の光学フィルターにおいて、光透過領域Rの中央部Rcおよび外周部Rpのそれぞれを透過する光の透過率を示すグラフである。この
図5に示すように、比較例において、光透過領域Rの中央部Rcに入射した光は、700nm付近で透過率のピークを示し、光透過領域Rの外周部Rpに入射した光は、670nm付近で透過率のピークを示す。すなわち、比較例の光学フィルターでは、光透過領域Rの外周部Rpにおける透過波長が光透過領域Rの中央部Rcにおける透過波長よりも小さくなる。
【0034】
一方、本実施形態において、比較例と同様、m=1,n=1と仮定する。また、光透過領域Rの中央部Rcに入射する光の主光線について、θ=0度とし、光透過領域Rの外周部Rpに入射する光の主光線について、θ=15度とする。ここで、本実施形態では、応力膜5の応力を調整することにより、光透過領域Rの外周部Rpにおけるギャップ寸法Dを、光透過領域Rの中央部Rcにおけるギャップ寸法Dよりも大きくできる。すなわち、光透過領域Rの中央部Rcおよび外周部Rpにおいて、式(1)により求められる波長λが互いに等しくなるように、各ギャップ寸法Dを調整できる。その結果、光透過領域Rにおける透過率が
図6のようなグラフを示す。
【0035】
図6は、本実施形態の光学フィルター1において、光透過領域Rの中央部Rcおよび外周部Rpのそれぞれを透過する光の透過率を示すグラフである。この
図6に示すように、本実施形態の光学フィルター1では、応力膜5の応力を調整し、光透過領域Rの中央部Rcおよび外周部Rpのギャップ寸法Dを調整することにより、中央部Rcおよび外周部Rpにおける各透過波長が共に700nm付近となる。すなわち、本実施形態の光学フィルター1では、光透過領域Rにおける透過波長のばらつきを抑制できる。
【0036】
[第2実施形態]
第2実施形態の光学フィルター1Aは、
図7に示すように、応力膜5の配置および応力向き以外、第1実施形態の光学フィルター1と同様の構成を有する。
具体的には、第2実施形態の応力膜5は、可動基板21の第1面211と反射膜3Aとの間に形成される。また、第2実施形態の応力膜5は、圧縮応力を有する圧縮応力膜であり、可動基板21の可動部214に対して圧縮応力を与える。このような圧縮応力膜としての応力膜5は、例えばITO、Si、SiO
2、SiONまたはTiO
2などの材料により形成される。
【0037】
このような第2実施形態では、可動部214が応力膜5の引張応力により固定基板22側に撓んでおり、反射膜3Aは、可動部214に沿って反射膜3B側に撓んでいる。これにより、第1実施形態と同様、ギャップ寸法Dが光透過領域Rの中央部Rcから径方向外側に向かって徐々に大きくなるため、光透過領域Rにおける透過波長のばらつきを抑制できる。
【0038】
[第3実施形態]
第3実施形態の光学フィルター1Bは、
図8に示すように、可動基板21に設けられる応力膜5(第1応力膜)だけでなく、固定基板22に設けられる応力膜6(第2応力膜)を有する点以外、第1実施形態の光学フィルター1と同様の構成を有する。
【0039】
具体的には、第3実施形態の応力膜6は、固定基板22の第2面222に形成され、引張応力を有する引張応力膜である。また、応力膜6は、応力膜5と同様、光学フィルター1Bの平面視において、光透過領域Rを覆うように配置されればよい。
【0040】
このような第3実施形態構成では、可動部214が応力膜5の引張応力により固定基板22側に撓んでいると共に、固定基板22が応力膜6の引張応力により可動基板21側に撓んでいる。これにより、反射膜3Aが可動部214に沿って反射膜3B側に撓んでいると共に、反射膜3Bが固定基板22に沿って反射膜3A側に撓んでいる。
ここで、
図9は、第3実施形態における反射膜3A,3Bの撓み状態を誇張して示す模式図である。反射膜3A,3B間のギャップ寸法Dは、光透過領域Rの中央部Rcから径方向外側に向かって徐々に大きくなっている。このため、光透過領域Rの中央部Rcのギャップ寸法Dcは、光透過領域Rの外周部Rpのギャップ寸法Dpよりも小さい。
【0041】
第3実施形態によっても、第1実施形態と同様、光透過領域Rにおける透過波長のばらつきを抑制できる。また、第3実施形態では、可動基板21の可動部214だけでなく、固定基板22も撓むため、光透過領域Rのギャップ寸法Dの径方向の変化率を大きく調整することが容易である。
【0042】
なお、第3実施形態において、応力膜6は、固定基板22の第2面222に形成される引張応力膜ではなく、固定基板22の第1面221と反射膜3Bとの間に形成される圧縮応力膜であってもよい。
【0043】
[第4実施形態]
第4実施形態の光学フィルター1Cは、
図10に示すように、可動基板21に設けられる応力膜5を有さず、固定基板22に設けられる応力膜6を有する点以外、第1実施形態の光学フィルター1とほぼ同様の構成を有する。
なお、第4実施形態では、第1~第3実施形態とは異なり、可動基板21が第2基板に相当し、固定基板22が第1基板に相当する。また、可動基板21に設けられた反射膜3Aが第2反射膜に相当し、固定基板22に設けられた反射膜3Bが第1反射膜に相当する。
【0044】
具体的には、第4実施形態の応力膜6は、第3実施形態の応力膜6と同様、固定基板22の第2面222に形成される。また、第4実施形態の応力膜6は、引張応力を有する引張応力膜であり、固定基板22に対して引張応力を与える。固定基板22は、応力膜6の引張応力により可動基板21側に撓んでおり、反射膜3Bは、固定基板22に沿って反射膜3Aに撓んでいる。
【0045】
なお、第4実施形態の光学フィルター1Cでは、可動部214が反射膜3Aまたは電極4Aの応力により、固定基板22側とは反対側に撓んでいるものとする。このため、反射膜3Aは、可動部214に沿って、反射膜3B側とは反対側に撓んだ状態となっている。
【0046】
ここで、
図11は、第4実施形態における反射膜3A,3Bの撓み状態を誇張して示す模式図である。
図11に示すように、応力膜6の引張応力は、反射膜3Bの撓み量が反射膜3Aの撓み量よりも大きくなるように調整されている。これにより、反射膜3A,3B間のギャップ寸法Dは、光透過領域Rの中央部Rcから径方向外側にかけて徐々に大きくなっている。このため、光透過領域Rの中央部Rcのギャップ寸法Dcは、光透過領域Rの外周部Rpのギャップ寸法Dpよりも小さい。
【0047】
第4実施形態によっても、第1実施形態と同様、光透過領域Rにおける透過波長のばらつきを抑制できる。また、第4実施形態の構成は、一方側の基板(本実施形態での可動基板21)に応力膜(本実施形態での応力膜5)を設けることが困難である場合に有効である。
【0048】
[第5実施形態]
第5実施形態の光学フィルター1Dは、
図12に示すように、応力膜5の形状以外、第1実施形態の光学フィルター1と同様の構成を有する。
具体的には、第5実施形態の応力膜5は、光学フィルター1Dの平面視において、中央に円形の穴51が形成された環形状を有する。また、応力膜5の内周および外周は、光透過領域Rの中央部Rc(
図12において光軸Aが通る部分)を中心とする円形状を有する。
【0049】
このような第5実施形態では、光透過領域Rの中央部付近の領域(すなわち応力膜5の穴51に対応する領域)において反射膜3A,3B間のギャップ寸法Dを均一にしつつ、当該領域よりも外側においてギャップ寸法Dを径方向外側に向けて徐々に大きくすることができる。このような第5実施形態によっても、光透過領域Rにおける透過波長のばらつきを抑制できる。
【0050】
[第6実施形態]
第6実施形態の光学フィルター1Eは、
図13に示すように、応力膜5の形状以外、第1実施形態の光学フィルター1と同様の構成を有する。
具体的には、第6実施形態の応力膜5は、光軸Aに直交する一方向を長手方向とする俵形状を有する。
【0051】
このような第6実施形態において、応力膜5の形状は、反射膜3Aや電極4Aから可動部214に加わる応力に応じて調整される。例えば、光軸Aに直交する仮想面上で、反射膜3Aや電極4Aが作用する応力の方向と、応力膜5の長手方向とを互いに直交するように配置することで、可動部214を好適に固定基板22側に撓ませることができる。これにより、反射膜3A,3B間のギャップ寸法Dを光透過領域Rの中央部Rcから径方向外側に向かって大きくすることができ、光透過領域Rにおける透過波長のばらつきを抑制できる。
【0052】
[変形例]
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良、および各実施形態を適宜組み合わせる等によって得られる構成は本発明に含まれるものである。
【0053】
(変形例1)
上記各実施形態の可動基板21および固定基板22と、本発明の第1基板および第2基板との対応関係は組み換え可能である。
例えば、第1,第2実施形態では、可動基板21の第1面211または第2面212に応力膜5が設けられ、固定基板22に応力膜6が設けられない。この変形として、可動基板21に応力膜5が設けられず、固定基板22の第1面221または第2面222に応力膜6が設けられてもよい。
また、第4実施形態では、可動基板21が固定基板22側に撓み、固定基板22が可動基板21側とは反対側に撓み、可動基板21の撓み量が固定基板22の撓み量よりも大きい。この変形として、可動基板21が固定基板22側とは反対側に撓み、固定基板22が可動基板21側に撓み、固定基板22の撓み量が可動基板21の撓み量よりも大きくてもよい。
【0054】
(変形例2)
上記各実施形態において、可動基板21および固定基板22のそれぞれに複数の応力膜5,6が設けられてもよい。
例えば、第1~第3実施形態において、可動基板21の第1面211に引張応力を有する応力膜5が設けられると共に、可動基板21の第2面212に圧縮応力を有する応力膜5が設けられてもよい。
また、第3,第4実施形態において、固定基板22の第1面221に引張応力を有する応力膜6が設けられると共に、固定基板22の第2面222に圧縮応力を有する応力膜6が設けられてもよい。
【0055】
(変形例3)
上記各実施形態では、応力膜5が円形、円環形状または俵形状を有するが、本発明はこれに限られない。例えば、応力膜5は、矩形または矩形環形状など、他の形状を有してもよい。また、応力膜6の形状についても、応力膜5の形状についての説明と同様の説明を適用できる。
【0056】
(変形例4)
上記各実施形態において、応力膜5,6の中央部は、可動基板21および固定基板22の対向方向から見たとき、光透過領域Rの中央部Rcに一致することに限定されず、当該中央部Rcからずれて配置されてもよい。
【0057】
また、上記各実施形態において、応力膜5,6は、可動基板21および固定基板22の対向方向から見たとき、光透過領域Rを覆うように配置されるが、これに限定されない。例えば、応力膜5,6は、少なくとも一部が光透過領域Rに重なった状態でもよいし、光透過領域Rに重ならなくてもよい。仮に、応力膜5(または応力膜6)が光透過領域Rに重ならない状態であっても、応力膜5(または応力膜6)の応力が可動部214(または固定基板22)を撓ませることで、光透過領域Rの中央部Rcのギャップ寸法Dcが、光透過領域R内の外周部Rpのギャップ寸法Dpよりも小さくなっていればよい。
【0058】
(変形例5)
上記各実施形態では、応力膜5(または応力膜6)の応力により可動部214(または固定基板22)を撓ませることで、光透過領域Rのギャップ寸法Dcを調整しているが、これに限定されない。例えば、可動部214または固定基板22に搭載される反射膜3A,3Bおよび電極4A,4Bのいずれかの応力を調整することにより、光透過領域Rのギャップ寸法Dcを調整してもよい。すなわち、変形例に係る光学フィルターは、応力膜5,6を備えず、反射膜3A,3Bおよび電極4A,4Bのいずれかの応力が調整されることで、光透過領域Rの中央部Rcのギャップ寸法Dcが光透過領域Rの外周部Rpのギャップ寸法Dpよりも小さくなっていてもよい。
【0059】
(変形例6)
上記各実施形態では、光学フィルター1を備える分光カメラ10を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図14に示すように、光学フィルター1は、光源装置70に利用されてもよい。光源装置70は、光ファイバーなどの光源71と、光源71から広がって出射される光のうち所望の波長の光を透過させる光学フィルター1とを備える。この光源装置70は、光学フィルター1を透過した所望の波長の光を対象物に向かって照射できる。
【0060】
[本開示のまとめ]
(1)本開示の一態様に係る光学フィルターは、第1反射膜と、前記第1反射膜に対してギャップを介して対向配置された第2反射膜と、を備え、前記第1反射膜と前記第2反射膜との対向方向から見たとき、前記第1反射膜および前記第2反射膜が互いに重なる範囲は、光透過領域を形成しており、前記光透過領域の中央部における前記ギャップの寸法は、前記光透過領域内の前記中央部より外側の外周部における前記ギャップの寸法よりも小さい。
このような構成では、一般的な光源やカメラ光学系から光学フィルターに光が入射する場合など、入射光の主光線の角度が光透過領域の中央部と外周部との間で異なる場合であっても、光透過領域の中央部と外周部とのそれぞれにおける透過波長を等しくすることができる。これにより、光透過領域における透過波長のばらつきを抑制できる。
【0061】
(2)本開示の一態様に係る光学フィルターは、前記第1反射膜が設けられた第1基板と、前記第1基板に対して対向配置され、前記第2反射膜が設けられた第2基板と、前記第1基板に設けられた第1応力膜と、をさらに備え、前記第1応力膜は、前記第1基板に対して、前記第1反射膜を前記第2反射膜側に撓ませる応力を加えることが好ましい。
このような構成では、応力膜の応力を調整することにより、光透過領域の中央部および外周部の各ギャップ寸法を好適に調整できる。
【0062】
(3)本開示の一態様において、前記第1基板は、前記第2基板に対向する第1面と、当該第1面とは反対側の第2面とを備え、前記第1応力膜は、前記第1基板の前記第1面と前記第1反射膜との間に設けられた圧縮応力膜、または、前記第1基板の前記第2面に設けられた引張応力膜であってもよい。
【0063】
(4)本開示の一態様に係る光学フィルターは、前記第2基板に設けられた第2応力膜をさらに備え、前記第2応力膜は、前記第2基板に対して、前記第2反射膜を前記第1反射膜側に撓ませる応力を加えてもよい。
このような構成では、第1基板の可動部だけでなく、第2基板も撓むため、光透過領域のギャップ寸法の径方向の変化率を大きく調整することが容易である。
【0064】
(5)本開示の一態様において、前記第2基板は、前記第1基板に対向する第1面と、当該第1面とは反対側の第2面とを備え、前記第2応力膜は、前記第2基板の前記第1面と前記第2反射膜との間に設けられた圧縮応力膜、または、前記第2基板の前記第2面に設けられた引張応力膜であってもよい。
【0065】
(6)本開示の一態様において、前記第2反射膜は、前記第1基板側とは反対側に撓んだ状態であり、前記第1反射膜の撓み量は、前記第2反射膜の撓み量よりも大きくてもよい。
このような構成は、第2基板に応力膜を設けることが困難である場合に有効である。
【0066】
(7)本開示の一態様において、前記第1応力膜の少なくとも一部は、前記第1反射膜と前記第2反射膜との対向方向から見たとき、前記光透過領域に重なるように配置されることが好ましい。
このような構成によれば、光透過領域の中央部および外周部の各ギャップ寸法を好適に調整できる。
【0067】
(8)本開示の一態様において、前記第1応力膜の中央部は、前記第1反射膜と前記第2反射膜との対向方向から見たとき、前記光透過領域の前記中央部に一致することが好ましい。
このような構成によれば、光透過領域の中央部から外周部にかけてギャップ寸法をバランス良く調整できる。
【0068】
(9)本開示の一態様において、前記第1応力膜は、環形状を有してもよい。
【0069】
(10)本開示の一態様において、前記第1応力膜の内周および外周は、前記光透過領域の前記中央部を中心とする円形状を有してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1,1A~1E…光学フィルター、10…分光カメラ、11…集光レンズ、12…バンドパスフィルター、13…受光部、14…信号処理部、15…駆動回路、16…制御部、21…可動基板、211…第1面、212…第2面、213…溝、214…可動部、215…ダイアフラム部、216…基部、22…固定基板、221…第1面、222…第2面、223…凹部、3A,3B…反射膜、41…静電アクチュエーター、4A,4B…電極、5,6…応力膜、51…穴、70…光源装置、71…光源、A…光軸、C…キャビティー、D,Dc,Dp…ギャップ寸法、R…光透過領域、Rc…中央部、Rp…外周部。