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特開2024-140089液体吐出ヘッド製造方法、ノズル基板の製造方法および液体吐出ヘッド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140089
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド製造方法、ノズル基板の製造方法および液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B41J2/16 507
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051084
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】四谷 真一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正寛
(72)【発明者】
【氏名】北原 浩司
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF78
2C057AF93
2C057AG33
2C057AG44
2C057AP12
2C057AP22
2C057AP35
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】吐出性能に優れる液体吐出ヘッドを製造可能な液体吐出ヘッド製造方法、ノズル基板の製造方法および液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】液体吐出ヘッド製造方法は、圧力室を含む圧力室基板と、前記圧力室に連通するノズルを含み、半導体基板で形成されたノズル基板と、を含む液体吐出ヘッド製造方法であって、前記ノズル基板の前記圧力室基板側の面である第1面のうち、前記ノズルに対応する第1部分には、前記ノズル基板上に金属膜が形成され、前記第1面のうちの前記ノズルに対応しない第2部分には、前記ノズル基板上に前記金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことで、前記ノズルを形成する第1工程を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室を含む圧力室基板と、前記圧力室に連通するノズルを含み、半導体基板で形成されたノズル基板と、を含む液体吐出ヘッド製造方法であって、
前記ノズル基板の前記圧力室基板側の面である第1面のうち、前記ノズルに対応する第1部分には、前記ノズル基板上に金属膜が形成され、前記第1面のうちの前記ノズルに対応しない第2部分には、前記ノズル基板上に前記金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことで、前記ノズルを形成する第1工程を含むことを特徴とする液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項2】
前記第1工程は、
前記第1面上にレジスト層を形成し、
前記レジスト層を形成した後に、前記第1部分で開口し、前記第2部分で開口しないように前記レジスト層をパターニングし、
前記レジスト層をパターニングした後に、前記第1面上に前記金属膜を形成することを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項3】
前記レジスト層を形成する前に、前記第1面上に酸化膜を形成し、
前記酸化膜上に前記レジスト層を形成し、
前記レジスト層をパターニングした後であって、前記金属膜を形成する前に、前記酸化膜をエッチングすることにより、前記酸化膜のうち前記第1部分上の部分を開口させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項4】
前記酸化膜をエッチングすることにより、前記第1面と前記レジスト層の間に隙間を形成する、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項5】
前記第1工程では、
前記第1面上に前記金属膜を形成した後、前記レジスト層を除去する、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項6】
前記第1工程において、フッ化水素および酸化剤を含む溶液を用いて、前記金属アシスト化学エッチングを行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項7】
前記第1工程において、前記フッ化水素と前記酸化剤との比率によって、前記ノズルのテーパー角度を調整する、
ことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項8】
前記酸化剤は、過酸化水素水である、
請求項6に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項9】
前記第1工程において、前記フッ化水素のモル濃度を[HF]、前記酸化剤のモル濃度を[H]としたとき、0.47≦[HF]/([HF]+[H])≦0.78を満たす、
ことを特徴とする請求項8に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項10】
前記第1工程において、0.56≦[HF]/([HF]+[H])≦0.71を満たす、
ことを特徴とする請求項8に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項11】
前記第1工程において、前記金属アシスト化学エッチングとして、第1金属アシスト化学エッチングと、前記第1金属アシスト化学エッチングの後の第2金属アシスト化学エッチングと、を行い、
前記フッ化水素のモル濃度を[HF]、前記酸化剤のモル濃度を[H]としたとき、前記第1金属アシスト化学エッチングを行う際の方が、前記第2金属アシスト化学エッチングを行う際よりも、[HF]/([HF]+[H])が大きい、
ことを特徴とする請求項8に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項12】
前記第1工程において、前記金属アシスト化学エッチングとして、第1金属アシスト化学エッチングと、前記第1金属アシスト化学エッチングの後の第2金属アシスト化学エッチングと、を行い、
前記第1金属アシスト化学エッチングを行う際には、前記溶液に電界を印可せず、前記第2金属アシスト化学エッチングを行う際には、前記溶液に電界を印可する、
ことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項13】
前記金属膜は、金で構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項14】
ノズルを含み、半導体基板で形成されたノズル基板の製造方法であって、
前記ノズル基板の第1面のうち、前記ノズルに対応する第1部分には、前記ノズル基板の上に金属膜が形成され、前記第1面のうちの前記ノズルに対応しない第2部分には、前記ノズル基板の上に前記金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことで、前記ノズルを形成する第1工程を含む、
ことを特徴とするノズル基板の製造方法。
【請求項15】
圧力室を含む圧力室基板と、
前記圧力室に連通するノズルを含むノズル基板と、を含む液体吐出ヘッドであって、
前記ノズル基板は、p型の半導体基板であって、
前記ノズルは、テーパー角度が4以上20°以下であるテーパー孔部を含む、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド製造方法、ノズル基板の製造方法および液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンターは、印刷用途だけでなく、液体化できる材料を任意の場所に塗布できる装置として注目されている。インクジェットプリンターは、液体を吐出する液体吐出ヘッドを備える。液体吐出ヘッドとして、圧力室の壁面を構成する振動板を圧電素子により振動させることで、圧力室に充填された液体をノズルから吐出するヘッドが知られている。圧電材料を動力源に用いた液体吐出ヘッドは、熱を動力源に用いたヘッドに比べ、液体の種類が限定されないため、幅広い工業用途への応用が期待される。
【0003】
液体吐出ヘッドは、MEMS技術を応用して製造されることが多い。MEMS技術は、Micro Electro Mechanical Systemsの略称である。液体吐出ヘッドは、ノズルを有し、例えばシリコン基板で構成されたノズル基板を備える。ノズル基板は、ノズル加工の要求精度が非常に高い。非特許文献1では、フォトリソグラフィ技術およびSi-Deep-RIEを用いて2段の垂直孔を形成することによりノズルが形成されている。Si-Deep-RIEは、シリコンの深堀りドライエッチングである。
【0004】
非特許文献1に記載の2段の垂直孔で構成されるノズルは、1段目の垂直孔が2段目の垂直孔よりも孔径が大きい。このため、1段目の垂直孔と2段目の垂直孔との間に大きな段差が生じてしまう。この段差によって、インクの乱流、およびインクの流れの淀みが発生してしまう。この結果、当該段差付近に気泡が留まるおそれがある。気泡が溜まると、ドット抜け等の印刷品質に問題が発生するおそれがある。インクを大量に押し出すことにより気泡を排出する方法が考えられる。しかし、当該段差はインク流れの淀みになっているため、インクを大量に押し出したとしても、気泡の排出が難しい。
【0005】
かかる問題を考慮し、理想的には、ノズルは、非特許文献2に記載のように、インクが入る側から吐出する側に向かって直径が小さくなるテーパー孔と、当該テーパー孔に接続された垂直孔とを有することが望ましい。特許文献1には、単結晶シリコン材料の異方性エッチングとドライエッチングとを組み合わせて、円錐状部分と円筒状部分とを含むノズルを形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-025115号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE-Trans.MEMS00 講演予稿集P. 793-798
【非特許文献2】塩崎忠監修;圧電材料の基礎と最新応用<普及版>(シーエムシー出版),P.170の図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、異方性エッチングでは、理想的な円錐状の孔を形成することが非常に難しい。特に、単結晶シリコンは、脆性材料であり、加工が困難である。このため、従来の方法では、円錐状の孔と垂直孔とを組み合わせたノズルを得ることが困難である。それゆえ、従来の方法では、最適な吐出特性を得ること可能なノズルを得ることが難しく、よって、吐出性能に優れる液体吐出ヘッドを製造することが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の好適な態様に係る液体吐出ヘッドの製造方法は、圧力室を含む圧力室基板と、前記圧力室に連通するノズルを含み、半導体基板で形成されたノズル基板と、を含む液体吐出ヘッド製造方法であって、前記ノズル基板の前記圧力室基板側の面である第1面のうち、前記ノズルに対応する第1部分には、前記ノズル基板上に金属膜が形成され、前記第1面のうちの前記ノズルに対応しない第2部分には、前記ノズル基板上に前記金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことで、前記ノズルを形成する第1工程を含むことを特徴とする液体吐出ヘッド製造方法。
【0010】
本発明の好適な態様に係るノズル基板の製造方法は、ノズルを含み、半導体基板で形成されたノズル基板の製造方法であって、前記ノズル基板の第1面のうち、前記ノズルに対応する第1部分には、前記ノズル基板の上に金属膜が形成され、前記第1面のうちの前記ノズルに対応しない第2部分には、前記ノズル基板の上に前記金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことで、前記ノズルを形成する第1工程を含む。
【0011】
本発明の好適な態様に係る液体吐出ヘッドは、圧力室を含む圧力室基板と、前記圧力室に連通するノズルを含むノズル基板と、を含む液体吐出ヘッドであって、前記ノズル基板は、p型の半導体基板であって、前記ノズルは、テーパー角度が4以上20°以下であるテーパー孔部を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る液体吐出装置の構成を例示する概略図である。
図2図1に示す液体吐出ヘッドの分解斜視図である。
図3図2おけるa-a線の断面図である。
図4図3に示すノズル基板の平面図である。
図5図4に示すノズル基板のノズル孔の断面拡大図である。
図6図3に示すノズル基板の製造方法の流れを示す図である。
図7図6のレジスト層形成工程から第2金属アシスト化学エッチング工程までを説明するための図である。
図8図6のレジスト層および金属膜除去工程から研磨工程までを説明するための図である。
図9】金属アシスト化学エッチングを説明するための図である。
図10図6の第1金属アシスト化学エッチング工程を説明するための図である。
図11】モル濃度体積比とテーパー角度との関係を示すグラフである。
図12】第2実施形態の第1工程を説明するための図である。
図13図12の酸化膜形成工程からレジスト層パターニング工程までを説明するための図である。
図14図12の酸化膜エッチング工程から第2金属アシスト化学エッチング工程までを説明するための図である。
図15】第3実施形態のノズル基板の製造方法の流れを示す図である。
図16図15の保護膜エッチング工程から金属膜形成工程までを説明するための図である。
図17図15のレジスト層除去工程から第2金属アシスト化学エッチングまでを説明するための図である。
図18】第1金属アシスト化学エッチング工程で用いられる治具を示す断面図である。
図19】第1金属アシスト化学エッチング工程を説明するための図である。
図20】第1金属アシスト化学エッチング工程を説明するための図である。
図21】第2金属アシスト化学エッチング工程を説明するための図である。
図22】液体吐出ヘッド製造方法の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.第1実施形態
1-1.液体吐出装置1の全体構成
図1は、第1実施形態に係る液体吐出装置1を例示する構成図である。以下では、説明の便宜上、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を適宜用いて説明する。また、X軸に沿う一方向をX1方向と表記し、X1方向とは反対の方向をX2方向と表記する。同様に、Y軸に沿う一方向をY1方向と表記し、Y1方向とは反対の方向をY2方向と表記する。Z軸に沿う一方向をZ1方向と表記し、Z1方向とは反対の方向をZ2方向と表記する。
【0014】
また、「要素αと要素βとが連通する」とは、要素αと要素βとが直接的に連通する場合のほか、要素αと要素βとが他の要素を介して間接的に連通する場合も含まれる。「要素A上の要素β」とは、要素αと要素βとが直接的に接触する構成に限定されず、要素Aと要素βとが直接的に接触していない構成も含まれる。
【0015】
液体吐出装置1は、液体の一例であるインクを媒体12に吐出するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙であるが、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象が媒体12として利用される。図1に例示される通り、液体吐出装置1には、インクを貯留する容器14が設置される。例えば液体吐出装置1に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、または、インクを補充可能なインクタンクが、容器14として利用される。
【0016】
液体吐出装置1は、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24と液体吐出ヘッド3とを備える。制御ユニット20は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の1または複数の処理回路と半導体メモリー等の1または複数の記憶回路とを含み、液体吐出装置1の各要素を統括的に制御する。搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで媒体12をY軸に沿った方向に搬送する。
【0017】
移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとで液体吐出ヘッド3をX軸に沿って往復させる。X軸は、媒体12が搬送される方向に沿うY軸に交差する。第1実施形態の移動機構24は、液体吐出ヘッド3を収容する略箱型の搬送体242と、搬送体242が固定された搬送ベルト244とを備える。なお、複数の液体吐出ヘッド3を搬送体242に搭載した構成、または、容器14を液体吐出ヘッド3とともに搬送体242に搭載した構成も採用され得る。
【0018】
液体吐出ヘッド3は、容器14から供給されるインクを制御ユニット20による制御のもとで複数のノズルから媒体12に吐出する。搬送機構22による媒体12の搬送と搬送体242の反復的な往復とに並行して各液体吐出ヘッド3が媒体12にインクを吐出することで、媒体12の表面に画像が形成される。
【0019】
1-2.液体吐出ヘッド3の全体構成
図2は、図1に示す液体吐出ヘッド3の分解斜視図である。図3は、図2おけるa-a線の断面図である。図3に図示された断面は、X-Z平面に平行な断面である。Z軸は、液体吐出ヘッド3によるインクの吐出方向に沿う軸線である。また、Z1方向またはZ2方向から見ることを「平面視」とする。
【0020】
図2に例示される通り、液体吐出ヘッド3は、Y軸に沿って配列された複数のノズルNを備える。複数のノズルNは、X軸に沿って相互に間隔をあけて並設された第1列Laと第2列Lbとに区分される。第1列Laおよび第2列Lbのそれぞれは、Y軸に沿って直線状に配列された複数のノズルNの集合である。液体吐出ヘッド3は、第1列Laの各ノズルNに関連する要素と第2列Lbの各ノズルNに関連する要素とが略面対称に配置された構造である。第1列Laに属するノズルNは、例えば、300dpiの密度で一列に配置される。同様に、第2列Lbに属するノズルNは、例えば、300dpiの密度で一列に配置される。第1列Laに属するノズルNに対して第2列Lbに属するノズルNは、例えば、600dpiずらして配置される。以下の説明では、第1列Laに対応する要素を重点的に説明し、第2列Lbに対応する要素の説明は適宜に割愛する。
【0021】
図2および図3に例示される通り、液体吐出ヘッド3は、流路構造体30と複数の圧電素子34と封止基板35と筐体部36と配線基板40とを備える。
【0022】
流路構造体30は、複数のノズルNのそれぞれにインクを供給するための流路が内部に形成された構造体である。流路構造体30は、連通板31と圧力室基板32と振動板33とノズル基板37と吸振体38とで構成される。
【0023】
流路構造体30を構成する各部材は、Y軸に沿った長尺な板状部材である。連通板31におけるZ2方向の表面に圧力室基板32と筐体部36とが設置される。連通板31におけるZ1方向の表面に、ノズル基板37および吸振体38が設置される。例えば接着剤により各部材同士は固定される。
【0024】
ノズル基板37は、複数のノズルNが形成された板状部材である。複数のノズルNのそれぞれは、インクを吐出する円形状の貫通孔である。
【0025】
連通板31には、複数の絞り部312と複数の連通流路314と連通空間Raと共通流路Rbが形成される。絞り部312および連通流路314のそれぞれは、Z1方向に延在し、ノズルNごとに形成された貫通孔である。連通流路314は、平面視でノズルNに重なる。連通空間Raは、Y軸に沿う長尺状に形成された開口である。連通空間Raは、Y軸に沿って延在する。共通流路Rbは、連通空間Raに連通しており、平面視で連通空間Raに重なる。共通流路Rbは、Y軸に沿って延在する。共通流路Rbは、複数の絞り部312に連通する。また、連通空間Raは、共通流路Rbと液体吐出ヘッド3の外部流路とを後述の空間Rcを介して連通させる。
【0026】
圧力室基板32には複数の圧力室C1が形成される。圧力室C1は、連通板31と振動板33との間に位置し、圧力室基板32の壁面320により形成される空間である。圧力室C1は、ノズルNごとに形成される。圧力室C1は、X1方向に延在する長尺状の空間である。複数の圧力室C1はY軸に沿って配列される。圧力室C1のX1方向における一端には、連通流路314を介してノズルNが連通する。圧力室C1のX1方向における他端には、絞り部312が連通する。絞り部312は、圧力室C1よりも断面積が小さい。また、圧力室C1、ノズルN、連通流路314、および絞り部312によって、ノズルNごとの個別流路300が構成される。圧力室C1に対して連通流路314および絞り部312がZ1方向に設けられることで、高い密度でのノズル配列を可能とし、液体吐出ヘッド3の小型化および高密度化を図ることができる。
【0027】
連通板31および圧力室基板32は、シリコン(Si)の単結晶基板を加工することで製造される。
【0028】
圧力室C1の上部には、弾性的に変形可能な振動板33が配置される。振動板33は、圧力室基板32に積層され、圧力室基板32における連通板31とは反対の表面に接触する。振動板33は、平面視でY軸に沿う長尺な矩形状に形成された板状部材である。振動板33の厚さ方向は、Z1方向と平行である。圧力室C1は、連通流路314および絞り部312に連通する。したがって、圧力室C1は、連通流路314を介してノズルNに連通し、かつ、絞り部312を介して連通空間Raに連通する。なお、図2では説明のし易さのため圧力室基板32と振動板33を別基板のように図示しているが、実際には1つのシリコン基板に積層されたものである。
【0029】
振動板33のうち圧力室C1とは反対側の表面には圧力室C1ごとに圧電素子34が形成される。圧電素子34は、平面視でX軸に沿う長尺状の受動素子である。圧電素子34は、駆動信号が印加されることで、インクを吐出するためのエネルギーを生成するエネルギー生成素子の例示である。ここではエネルギー生成素子として機械的エネルギーを生成する圧電素子を記載するが、振動板33を有する系であれば、熱エネルギーを生成する電気熱変換素子でも良い。また、圧電素子34は、駆動信号が印加されることで駆動する駆動素子でもある。
【0030】
筐体部36は、複数の圧力室C1に供給されるインクを貯留するためのケースであり、例えば樹脂材料の射出成形で形成される。筐体部36には空間Rcと供給口361とが形成される。供給口361は、容器14からインクが供給される管路であり、空間Rcに連通する。筐体部36の空間Rcと連通板31の連通空間Raとは相互に連通する。前述の連通空間Raと共通流路Rbと空間Rcによって、複数のノズルNで共通な共通空間Rが構成される。共通空間Rは、複数の圧力室C1に供給されるインクを貯留する液体貯留室として機能する。共通空間Rに貯留されたインクは、各絞り部312に分岐して複数の圧力室C1に並列に供給および充填される。
【0031】
吸振体38は、連通空間Raの壁面を構成する可撓性のフィルムであり、共通空間R内のインクの圧力変動を吸収する。吸振体38は、例えば、耐インク性の樹脂フィルムと、樹脂フィルムを保持し、ばね性を有するSUS(ステンレス鋼)部材と、樹脂フィルムおよびSUS部材を保護する固定板と、の積層体である。吸振体38が設けられることで、ノズルNから圧力室C1を経て絞り部312に至る個別流路300の固有振動数が、駆動されるノズルNに関わらず安定化する。
【0032】
封止基板35は、複数の圧電素子34を保護するとともに圧力室基板32および振動板33の機械的な強度を補強する構造体であり、振動板33の表面に例えば接着剤で固定される。封止基板35のうち振動板33との対向面に形成された凹部の内側に複数の圧電素子34が収容される。また、振動板33の表面には配線基板40が接合される。配線基板40は、制御ユニット20と液体吐出ヘッド3とを電気的に接続するための複数の配線が形成された実装部品である。配線基板40としては、例えばTCP(Tape Carrier Package)またはFPC(Flexible Printed Circuit)等が用いられる。圧電素子34を駆動するための駆動信号および基準電圧が配線基板40から各圧電素子34に供給される。
【0033】
かかる液体吐出ヘッド3は、圧電素子34が通電により収縮すると圧力室C1の容積が減る方向に振動板33が曲げられて撓み、圧力室C1内の圧力が上昇してノズルNからインク液滴が吐出される。この時、圧力室C1から絞り部312に向かっても圧力が伝播し、絞り部312を通じて共通流路Rbにもインクが流動する。インク吐出後に圧電素子34は元の位置に復元する。この際、ノズルNから共通流路Rbにおけるインクも振動する。そして、ノズルNのメニスカスが復元すると同時に絞り部312からインクが供給される。以上の一連の動作によりインクがノズルNから吐出される。
【0034】
1-3.ノズル基板37
図4は、図3に示すノズル基板37の平面図である。図5は、図4に示すノズル基板37の一部の拡大図である。図4および図5に示すノズル基板37は、例えば結晶方位100のP型単結晶シリコン基板等の半導体基板で構成される。ノズル基板37は、第1面301および第2面302を有する。第1面301は、圧力室基板32側の面である。第2面302は、第1面301と反対側の面である。
【0035】
ノズル基板37は、複数のノズルNを含む。ノズルNは、前述のように、互いに離間し、Y軸に沿って配列される。各ノズルNは、Z1方向に延在する孔である。ノズルNのZ2方向がインク流入側であり、ノズルNのZ1方向がインク流出側である。
【0036】
ノズルNは、テーパー孔部N1と円筒孔部N2とを有する。テーパー孔部N1と円筒孔部N2とは、互いに接続される。テーパー孔部N1および円筒孔部N2の各平面形状は、円形である。
【0037】
テーパー孔部N1は、円筒孔部N2よりもインク流入側に設けられる。テーパー孔部N1は、インク流入側からインク流出側に向かって先細る。テーパー孔部N1の開口面積は、インク流入側からインク流出側に行くほど狭くなる。したがって、テーパー孔部N1の幅D1は、円筒孔部N2に向かって徐々に小さくなる。幅D1は、直径である。
【0038】
テーパー孔部N1のテーパー角度θは、4°以上20°以下である。テーパー角度θは、第1面301の法線A0とテーパー孔部N1を形成する内壁面303とのなす角度である。
【0039】
テーパー角度θが上記下限値よりも小さいと流路抵抗が大きくなりすぎて、インクスピードが低下してしまうおそれがある。テーパー角度θが上記上限値より大きいとメニスカスが不安定になるおそれがある。この結果、気泡を巻き込んで、インクの吐出方向が定まらなくなるおそれがある。よって、印字品質に影響を及ぼすおそれがあり、厳格な管理が必要になるおそれがある。これに対し、テーパー角度θが上記範囲内であるテーパー孔部N1が設けられることで、吐出性能に優れたノズル基板37を提供することができる。よって、印字品質に優れる液体吐出ヘッド3を提供することができる。但し、テーパー孔部N1のテーパー角度は上記の理由により4°以上20°以下であることが好ましいが、必ずしも必須ではない。
【0040】
また、ノズル基板37がP型単結晶シリコン基板であることで、上記範囲内のテーパー角度θを有するテーパー孔部N1を形成し易い。
【0041】
円筒孔部N2の開口面積は、一定である。したがって、円筒孔部N2の幅D2は、一定である。幅D2は、直径である。円筒孔部N2の幅W2とテーパー孔部N1のインク流出側の端の幅W1とは、等しい。したがって、円筒孔部N2とテーパー孔部N1との接続部分には大きな段差がない。このため、インクの乱流、およびインクの流れの淀みが発生することを回避し易い。それゆえ、ドット抜け等の印刷品質に問題が発生するおそれを抑制することができる。
【0042】
円筒孔部N2は、インクの吐出方向を定め、インクの吐出を安定化させるために必要不可欠である。円筒孔部N2の幅W2は、特に限定されないが、5μm以上50μm以下であることが好ましい。50μmよりも大きいと、気泡が混入しやすくなるおそれがある。
【0043】
かかるノズルNを有するノズル基板37を備えた液体吐出ヘッド3によれば、気泡排出性に非常に優れ、かつ、クリーニングを行う必要がほとんどなく印字することができる。さらに、当該ノズル基板37を備えた液体吐出ヘッド3によれば、パワー効率に優れ、かつ、そのパワーを最大限活用することができる。このため、非常に高性能な液体吐出ヘッド3を提供することができる。
【0044】
1-4.ノズルNの形成方法
図6は、図3に示すノズルNの形成方法の流れを示す図である。液体吐出ヘッド製造方法は、ノズル基板37の製造方法を含む。ノズル基板37の製造方法は、ノズルNの形成方法を含む。図6に示すように、ノズルNの形成方法は、第1工程S1を含む。第1工程S1では、後で説明するが、金属アシスト化学エッチングが用いられる。金属アシスト化学エッチングは、Metal-Assisted Chemical Etchingの頭文字を取ってMACEと略される。金属アシスト化学エッチングを用いることで、従来の方法では加工の難しい構成のノズルNを実現することができる。
【0045】
図6に示すように、第1工程S1は、レジスト層形成工程S10、レジスト層パターニング工程S11、金属膜形成工程S12、第1金属アシスト化学エッチング工程S13、第2金属アシスト化学エッチング工程S14、除去工程S15、および研磨工程S16を含む。
【0046】
図7は、図6のレジスト層形成工程S10から第2金属アシスト化学エッチング工程S14までを説明するための図である。まず、例えば結晶方位100のP型単結晶シリコン基板等の半導体基板であるノズル基板37を用意する。ノズル基板37は、第1面301および第2面302を含む。
【0047】
図7(a)は、レジスト層形成工程S10を説明するための図である。図7(a)に示すように、レジスト層形成工程S10では、ノズル基板37の外表面上にレジスト層43を形成する。したがって、第1面301および第2面302上にレジスト層43が形成される。レジストをノズル基板37の外表面上に塗布し、遠心力を利用してレジスト層43を形成する。レジスト層43の厚みは、特に限定されないが、例えば、1μm以上3μm以下である。
【0048】
図7(b)は、レジスト層パターニング工程S11を説明するための図である。図7(b)に示すように、レジスト層パターニング工程S11では、レジスト層43の一部を除去することにより、レジスト層43をパターニングする。
【0049】
ノズル基板37の第1面301は、第1部分3011と第2部分3012とを含む。第1部分3011は、ノズルNに対応する部分である。第2部分3012は、ノズルNに対応しない部分である。第1部分3011は、後述の金属アシスト化学エッチングのためにレジストを除去される部分である。第2部分3012は、金属アシスト化学エッチングの薬液から基板を守るため、除去されず、保護される部分である。レジスト層パターニング工程S11では、第1部分3011で開口し、半導体基板面を露出させる。一方で、第2部分3012で開口しないようレジスト層43をパターニングする。
【0050】
図7(c)は、金属膜形成工程S12を説明するための図である。図7(c)に示すように、金属膜形成工程S12では、ノズル基板37の第1面301上に金属膜44を形成する。本実施形態では、レジスト層43をマスクとした無電解めっき(置換めっき)により第1面301上に金属膜44を成膜する。金属膜44は、第1部分3011上に形成され、第2部分3012上には形成されない。それは、半導体材料とめっき金属のイオン化傾向の差を利用し、半導体基板面の第1部分3011には半導体基板表面の原子が溶解し、その電子を受け取り、金属膜44が析出し金属膜化する。一方で、樹脂膜で覆われている第2部分3012には形成されない。従って、金属膜44は、平面視で、第1部分3011、に重なり、第2部分3012に重ならない。金属膜44は、複数の部分441を含む。各部分441は、第1面301の第1部分3011に接触しており、ノズルNに対応する。
【0051】
無電解めっきを用いることで、金属膜形成工程S12よりも前に行われる前工程数を少なくすることができる。具体的には、前工程としては、無電解めっきにおいてマスクとして用いられるレジスト層43を形成するだけでよい。前工程数を削減することができるので、ノズル基板37の形成時間を短くすることができる。
【0052】
また、金属膜44は、例えば、白金、金、銀、ルテニウム、パラジウム、モリブデン、クロム、銅、タンタル、チタン、またはイリジウムやルテニウム等の酸化物も含む。
【0053】
図7(d)は、第1金属アシスト化学エッチング工程S13を説明するための図である。図7(d)に示すように、第1金属アシスト化学エッチング工程S13では、金属アシスト化学エッチングとしての第1金属アシスト化学エッチングによりノズル基板37の一部を除去することにより、テーパー孔部N1を形成する。例えば、フッ化水素および酸化剤を含む溶液を用いた金属アシスト化学エッチングが最適である。
【0054】
金属アシスト化学エッチングでは、金属膜44の材料の触媒作用により、ノズル基板37の金属膜44直下の半導体材料の部分が酸化され、フッ化水素溶液によるノズル基板37の酸化物のエッチングが起こり、金属膜44とノズル基板37とのクーロン力による吸着とが繰り返される。これらが繰り返されることで、Z1方向に穴を形成することが可能である。さらに、本実施形態では、溶液に含まれるフッ化水素と酸化剤との比率を調整することで、テーパー角度θを有しつつ、Z1方向に穴を形成することが可能である。この結果、テーパー角度θを有するテーパー孔部N1を形成することができる。
【0055】
図7(e)は、第2金属アシスト化学エッチング工程S14を説明するための図である。に示すように、第2金属アシスト化学エッチング工程S14では、第2金属アシスト化学エッチングによりノズル基板37の一部を除去することにより、円筒孔部N2を形成する。本工程においても、前工程と同様に、例えば、フッ化水素および酸化剤を含む溶液を用いることが最適である。
【0056】
第2金属アシスト化学エッチング工程S14においても、第1金属アシスト化学エッチング工程S13と同様に、金属膜44の材料の触媒作用によるノズル基板37の酸化と、溶液によるノズル基板37の酸化物のエッチングと、金属膜44とノズル基板37とのクーロン力による吸着とが繰り返される。これらが繰り返されることで、Z1方向に穴が形成される。また、本実施形態では、溶液に含まれるフッ化水素および酸化剤の比率を調整することで、幅D1が一定である円筒孔部N2を形成することができる。
【0057】
第1金属アシスト化学エッチング工程S13および第2金属アシスト化学エッチング工程S14は、連続して行われる。したがって、テーパー孔部N1と円筒孔部N2との各形成は連続して行なわれる。第1金属アシスト化学エッチング工程S13を開始して、所定時間経過し、所定深さまでノズル基板37に第1金属アシスト化学エッチングを行ったら、溶液に含まれるフッ化水素と酸化剤との比率を調整する。当該比率を調整することで、第2金属アシスト化学エッチング工程S14が開始される。
【0058】
第1金属アシスト化学エッチングおよび第2金属アシスト化学エッチングの各時間は、事前に決定される。第1金属アシスト化学エッチング工程S13および第2金属アシスト化学エッチング工程S14と同一条件で金属アシスト化学エッチングを行って、エッチングレートを求める。そして、所定深さを掘るためのエッチング時間を算出しておく。このエッチング時間を基にして、第1金属アシスト化学エッチングおよび第2金属アシスト化学エッチングの各時間が決定される。
【0059】
図8は、図6の除去工程S15から研磨工程S16までを説明するための図である。図8(a)に示すように、除去工程S15では、レジスト層43および金属膜44が除去される。金属膜44は、例えば溶解液に浸すことで除去される。本工程では、ノズル基板37は、貫通した孔を有していない。したがって、ノズル基板37の第2面302には、開口する部分が形成されていない。
【0060】
図8(b)に示すように、研磨工程S16では、ノズル基板37の第2面302が研磨されることにより、ノズル基板37の一部が除去される。この結果、テーパー孔部N1と円筒孔部N2とを含むノズルNが形成される。また、研磨工程S16によって、ノズル基板37を所望の厚さにすることができる。
【0061】
研磨工程S16を有することで、前工程で金属膜44の一部が除去されずに残っていても、当該金属膜44の残りを除去することができる。よって、円筒孔部N2内に当該金属膜44の残りが異物として残ることが防止される。よって、ノズルNの歩留まりおよび品質を高めることができる。
【0062】
なお、研磨工程S16は省略してもよい。この場合、除去工程S15において、ノズル基板37を貫通する孔であるノズルNが形成される。
【0063】
図9は、金属アシスト化学エッチングを説明するための図である。図9(a)に示すように、前述の金属膜44は、複数の貫通孔Hを有する。各貫通孔Hは、金属膜44をZ1方向に貫通する。貫通孔Hは、いかなる方法で形成されてもよい。また、貫通孔Hの開口面積は、特に限定されず、溶液が通過可能な程度であればよい。金属膜44の厚さは8nm以上で40nm以下が良く、望ましくは15nm以上で25nm以下が好適である。MACE加工において、金属膜44は半導体基板の中へ向かって移動するため、引張応力を受ける。その応力に耐える必要があるため厚い方が強度も高くなりMACE加工の最中に膜が断裂し、エッチング形状が変形する事も無く安定したエッチング形状が実現できる。一方で40nm以上では、貫通孔Hの形成が困難になり、金属膜44直下の半導体基板の酸化後のエッチングが行われなくなる恐れがある。
【0064】
図9(a)に示すように、溶液に含まれる酸化剤が金属膜44と反応し、金属膜44の材料の触媒作用によりノズル基板37が酸化する。この結果、ノズル基板37の酸化物が形成される。図9(b)の複数の矢印で示すように、溶液は、金属膜44の複数の貫通孔Hを移動する。溶液は、貫通孔Hからノズル基板37と金属膜44との間に侵入する。侵入した溶液に含まれるフッ化水素によりノズル基板37の酸化物が溶解する。図9(c)に示すように、金属膜44とノズル基板37とのクーロン力により、ノズル基板37に金属膜44が吸着する。図9(a)、(b)および(c)に示す状態が繰り替えされることで、Z1方向に穴が形成される。
【0065】
前述のように、ノズル基板37の製造方法は、金属アシスト化学エッチングによりノズルNを形成する第1工程S1を含む。第1工程S1では、ノズル基板37が有する第1面301のうちのノズルNに対応する第1部分3011上に金属膜44を形成し、かつ第1面301のうちのノズルNに対応しない第2部分3012上に金属膜44が形成されていない状態で金属アシスト化学エッチングが行われる。
【0066】
金属アシスト化学エッチングを用いることで、微細加工が可能となり、ノズルNを高精細に形成することができる。また、ドライエッチングでは1枚ごとの加工である事と1枚に係る加工時間が膨大にかかるおそれがあるが、金属アシスト化学エッチングによれば1つのエッチング槽で大量枚数の加工処理ができるバッチ処理ができるため、当該加工時間が大幅に低減される。また、結晶方位に沿った異方性ウエットエッチングでは、ノズルNのアスペクト比を制御することが難しいが、金属アシスト化学エッチングによれば目的とするアスペクト比のノズルNを形成し易い。したがって、金属アシスト化学エッチングを用いることで、ノズルNを高精細に形成することができる。よって、目的とする形状のノズルNを実現することができる。具体的には、前述のようにテーパー孔部N1および円筒孔部N2を含むノズルNを実現することができる。それゆえ、吐出性能に優れたノズル基板37を得ることができる。よって、印字品質に優れる液体吐出ヘッド3を提供することができる。
【0067】
かかる方法によって形成されたノズル基板37によれば、気泡排出性が非常に高く、気泡排出のための余分なインク消費を格段に少なくすることができる。一方で、流路抵抗が小さくなり、インクスピードが向上したことによる着弾位置精度の向上により、高精細画像を容易に実現することができる。
【0068】
前述のように、第1工程S1は、レジスト層形成工程S10と、レジスト層パターニング工程S11と、金属膜形成工程S12とを含む。レジスト層形成工程S10では、ノズル基板37の第1面301上にレジスト層43を形成する。レジスト層パターニング工程S11では、レジスト層43を形成した後に、第1部分3011で開口し、第2部分3012で開口しないようにレジスト層43をパターニングする。金属膜形成工程S12では、レジスト層43をパターニングした後に、第1面301上に金属膜44を形成する。
【0069】
パターニングされたレジスト層43を用いることで、第1部分3011に対応する金属膜44を形成し易い。すなわち、金属膜44を目的とする箇所に形成し易い。また、本実施形態のように、無電解めっきにより金属膜44を形成する場合、パターニングされたレジスト層43をマスクとして好適に用いることができる。
【0070】
また、第1工程S1において、フッ化水素および酸化剤を含む溶液を用いて、金属アシスト化学エッチングが行われることが好ましい。フッ化水素を用いることでノズル基板37の酸化物をエッチングにより除去し易い。酸化剤を用いることで、金属膜44と反応してノズル基板37を酸化させることができる。このため、金属アシスト化学エッチングを効率良く行うことができる。
【0071】
酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、過酸化水素水(H2O2)、および硝酸(HNO3)過硫酸カリウム(KHSO5)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)等が挙げられる。特に、本実施形態では、ノズル基板37がシリコン基板である。この場合、ノズル基板37の酸化物の効率的な形成のために、酸化剤は過酸化水素水であることが好ましい。なお、溶液の種類はフッ化水素および酸化剤を含むことに限定されない。
【0072】
金属膜44は、前述のように、例えば、プラチナ、金、銀、ルテニウム、プラチナ、パラジウム、モリブデン、クロム、銅、タンタル、チタン、またはイリジウムを含む。これらの中でも金属膜44では、金で構成されることが好ましい。金は、触媒反応に特に優れるためと、エッチング加工等で容易に除去できるためである。また、溶液に含まれる酸化剤が過酸化水素水である場合、金の触媒反応を好適に発揮させることができるだけでなく、溶液が乾燥しても固体粉末化してパーティクル飛散により歩留まりを落とす事がないので、精密加工には好適である。
【0073】
図10は、図6の第1金属アシスト化学エッチング工程S13を説明するための図である。金属膜44の触媒作用で酸化剤が正孔H0を発生させる。この正孔H0が金属膜44直下のノズル基板37を酸化させるが、一部はノズル基板37内を放散し、ノズル基板37表面に達してその部分のノズル基板37を酸化させ、フッ化水素によりエッチングされる。このエッチング量は金属膜44の近くで有るほど多くなり、離れると少なくなる。前述のように、溶液に含まれるフッ化水素と酸化剤との比率によって、ノズルNが有するテーパー孔部N1のテーパー角度θが、調整できる。比率によってテーパー角度θを調整することができるので、目的とするテーパー角度θを有するテーパー孔部N1を形成し易い。つまり、テーパー角度θを高精度に制御し易く、歩留まりを高くし易い。
【0074】
酸化剤の濃度を高くすると、テーパー角度θが大きくなる。溶液に含まれる酸化剤が金属膜44と反応し、過剰の正孔H0を発生させることが原因である。図10の矢印A1に示すように、酸化剤から発生した正孔H0はノズル基板37の内部を移動し、酸化剤によってノズル基板37のうちの金属膜44の直下にある部分が酸化する。当該直下にある部分だけでは過剰な正孔H0が消費しきれない。このため、矢印A2に示すように正孔H0がノズル基板37内を拡散し、ノズル基板37のうち溶液が接している内壁面303が溶解する。それゆえ、図10の矢印A3に示すように、内壁面303は、破線で示す状態から実線で示す状態に変化する。この結果、テーパー角度θが大きくなる。
【0075】
テーパー角度θは、フッ化水素と酸化剤とのモル濃度体積比ρにより変化する。酸化剤が過酸化水素水である場合、モル濃度体積比ρは、式(1)で表される。
ρ=[HF]/([HF]+[H]) ・・・(1)
【0076】
式(1)中の[HF]は、溶液に含まれるフッ化水素のモル濃度である。[H]は、溶液に含まれる酸化剤としての過酸化水素水のモル濃度である。モル濃度の単位は、mol/Lである。
【0077】
図11は、モル濃度体積比ρとテーパー角度θとの関係を示すグラフである。図11に示すように、モル濃度体積比ρとテーパー角度θとは関係がある。図11は、溶液がフッ化水素および過酸化水素水を含む場合の例を示している。この例では、テーパー角度θを大きくしたい場合、酸化剤のモル濃度を高くする。テーパー角度θを小さくして0°に近づけたい場合、酸化剤のモル濃度を低くする。
【0078】
モル濃度体積比ρは、例えば、0.47≦[HF]/([HF]+[H])≦0.78を満たすことが好ましい。溶液がフッ化水素および過酸化水素水を含む場合、モル濃度体積比ρが上記範囲内であることで、テーパー角度θが4°以上20°以下であるテーパー孔部N1を得ることができる。このため、インクスピードの低下を抑制できるとともに、メニスカスが不安定になるおそれを抑制することができる。よって、吐出性能に優れたノズル基板37を提供することができる。
【0079】
モル濃度体積比ρは、例えば、0.56≦[HF]/([HF]+[H])≦0.71を満たすことがより好ましい。溶液がフッ化水素および過酸化水素水を含む場合、モル濃度体積比ρが上記範囲内であることで、テーパー角度θが6°以上12°以下であるテーパー孔部N1を得ることができる。このため、吐出性能にさらに優れたノズル基板37を提供することができる。
【0080】
前述のように、テーパー角度θを大きくしたい場合には酸化剤のモル濃度を高くし、テーパー角度θを0°に近くしたい場合には酸化剤のモル濃度を低くする。このため、第1金属アシスト化学エッチングを行う際の方が、第2金属アシスト化学エッチングを行う際よりも、モル濃度体積比ρが大きい。第1金属アシスト化学エッチングと第2金属アシスト化学エッチングとでモル濃度体積比ρを変更することで、テーパー孔部N1と円筒孔部N2とを連続して形成することができる。よって、テーパー孔部N1と円筒孔部N2との間に段差が生じるおそれを抑制することができる。それゆえ、インクの乱流、およびインクの流れの淀みが発生することを回避し易くなる。この結果、ドット抜け等の印刷品質に問題が発生するおそれを抑制することができる。
【0081】
例えば、溶液がフッ化水素および過酸化水素水を含む場合、フッ化水素が7.4mol/L、過酸化水素水が3.9mol/L含有している溶液を用いたることで、テーパー角度が8°であるテーパー孔部N1を得ることができる。
【0082】
2.第2実施形態
以下、第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が前述の第1実施形態と同様である要素については、前述の第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0083】
図12は、第2実施形態の第1工程S1を説明するための図である。図12に示すように、本実施形態の第1工程S1は、酸化膜形成工程S17と、保護膜形成工程S18と、酸化膜エッチング工程S19と、レジスト層除去工程S20とをさらに含む。
【0084】
図13は、図12の酸化膜形成工程S17からレジスト層パターニング工程S11までを説明するための図である。図13(a)は、酸化膜形成工程S17を説明するための図である。図13(a)に示すように、酸化膜形成工程S17では、ノズル基板37の第1面301上に酸化膜41が形成される。酸化膜41は、具体的には酸化シリコン膜である。例えば、CVD(chemical vapor deposition)法または熱酸化により酸化膜41が形成される。酸化膜41の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.2μm以上1.0μm以下である。
【0085】
図13(b)は、保護膜形成工程S18を説明するための図である。図13(b)に示すように、保護膜形成工程S18では、ノズル基板37の第2面302上に保護膜42が形成される。保護膜42は、例えば、ダイヤモンドライクカーボン等で構成される。ダイヤモンドライクカーボンは、DLCと略される。例えば、CVD法またはスパッタリング法により保護膜42が形成される。
【0086】
図13(c)は、レジスト層形成工程S10を説明するための図である。図13(c)に示すように、レジスト層形成工程S10では、ノズル基板37の第1面301上にレジスト層43を形成する。具体的には、第1面301上に形成された酸化膜41上にレジスト層43を形成する。
【0087】
図13(d)および図13(e)のそれぞれは、レジスト層パターニング工程S11を説明するための図である。図13(d)に示すように、レジスト層パターニング工程S11では、第1部分3011で開口し、第2部分3012で開口しないようレジスト層43をパターニングする。
【0088】
図13(e)に示すように、レジスト層43をパターニングした後、リフローベークを行う。この結果、パターニングされたレジスト層43は、表面張力によって、Z2方向の面がZ1方向の面よりも狭い状態になる。
【0089】
図14は、図12の酸化膜エッチング工程S19から第2金属アシスト化学エッチング工程S14までを説明するための図である。
【0090】
図14(a)は、酸化膜エッチング工程S19を説明するための図である。図14(a)に示すように、酸化膜エッチング工程S19では、酸化膜41の一部をエッチングにより除去することにより、酸化膜41がパターニングされる。例えば、レジスト層43をマスクとして、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより、酸化膜41の一部が除去される。バッファードフッ酸は、BHFと略される。
【0091】
酸化膜エッチング工程S19では、第1面301とレジスト層43との間に隙間Gが形成される。すなわち、酸化膜エッチング工程S19では、隙間Gが形成される程度に、酸化膜41の一部が除去される。ノズル基板37がシリコンを含む場合、フッ酸を用いたウエットエッチングを行うことにより、隙間Gを形成し易い。また、隙間Gが形成されることで、パターニングされた酸化膜41は、平面視でパターニングされたレジスト層43に覆われている。
【0092】
図14(b)は、金属膜形成工程S12を説明するための図である。図14(b)に示すように、金属膜形成工程S12では、ノズル基板37の第1面301上に金属膜44を形成する。具体的には、第1面301上のレジスト層43上に金属膜44を形成する。
【0093】
前述のように、第1面301とレジスト層43との間には、酸化膜41設けられている。さらに、第1面301とレジスト層43との間には、隙間Gが形成される。このため、金属膜44は、第1面301に接触する部分441と、レジスト層43に接触する部分442とを含む。部分441と部分442とは連続しておらず、分断される。
【0094】
図14(c)は、レジスト層除去工程S20を説明するための図である。図9(c)に示すように、レジスト層除去工程S20では、レジスト層43が除去される。この除去に伴い、レジスト層43上に接触する金属膜44の部分442も同時に除去される。この結果、複数の部分441で構成される金属膜44が第1面301上に形成される。
【0095】
本工程において、金属膜44は、第1部分3011上に形成され、第2部分3012上には形成されない。したがって、金属膜44は、平面視で、第1部分3011に重なり、第2部分3012に重ならない。
【0096】
図14(d)は、第1金属アシスト化学エッチング工程S13を説明するための図である。図14(d)に示すように、第1金属アシスト化学エッチング工程S13では、第1金属アシスト化学エッチングによりノズル基板37の一部を除去することにより、テーパー孔部N1を形成する。
【0097】
図14(e)は、第2金属アシスト化学エッチング工程S14を説明するための図である。図14(e)に示すように、第2金属アシスト化学エッチングによりノズル基板37の一部を除去することにより、円筒孔部N2を形成する。第1金属アシスト化学エッチング工程S13および第2金属アシスト化学エッチング工程S14は、連続して行われる。
【0098】
図示省略するが、第2金属アシスト化学エッチング工程S14の後に、除去工程S15が行われる。除去工程S15において、酸化膜41、保護膜42および金属膜44が除去される。保護膜42は、例えばプラズマアッシングにより除去される。除去工程S15の後に、研磨工程S16が行われる。研磨工程S16では、ノズル基板37の第2面302が研磨されることにより、ノズル基板37の一部が除去される。この結果、テーパー孔部N1と円筒孔部N2とを含むノズルNが形成される。
【0099】
前述のように、本実施形態の第1工程S1は、酸化膜形成工程S17と、酸化膜エッチング工程S19とを含む。酸化膜形成工程S17では、レジスト層43を形成する前に、第1面301上に酸化膜41を形成する。その後、レジスト層形成工程S10において酸化膜41上にレジスト層43が形成される。また、酸化膜エッチング工程S19では、レジスト層43をパターニングした後であって、金属膜44を形成する前に、酸化膜41をエッチングすることにより、酸化膜41のうち第1部分3011上の部分を開口させる。
【0100】
かかる方法では、第1実施形態の無電解めっきを用いずに形成される。本実施形態では、第1面301とレジスト層43と間に酸化膜41が形成されることで、後の工程で金属膜44をパターニングし易い。また、本実施形態の方法は、量産における安定性に優れる。よって、歩留まりの向上を図ることができる。具体的には、レジスト層43および酸化膜41のそれぞれが第1部分3011に開口していることで、前述のように、第1部分3011に対応する金属膜44を形成し易い。
【0101】
さらに、酸化膜エッチング工程S19では、酸化膜41をエッチングすることにより、第1面301とレジスト層43の間に隙間Gを形成する。隙間Gが形成されることで、隙間Gが形成されない場合に比べ、後の工程で金属膜44をパターニングし易い。隙間Gが設けられることで、設けられていない場合に比べ、第1面301に接触する部分441とレジスト層43に接触する部分442とに金属膜44を分断し易い。よって、目的とする第1部分3011に接触する部分441を含む金属膜44を形成し易い。
【0102】
第1工程S1は、レジスト層除去工程S20を含む。レジスト層除去工程S20では、第1面301上に金属膜44を形成した後、レジスト層43を除去する。レジスト層43を除去することにより、部分442を除去でき、よって、部分441で構成される金属膜44が第1面301上に形成される。このため、簡単にパターニングされた金属膜44を形成することができる。微細な形状の金属膜44であっても、かかる方法によれば、簡単かつ高精度に目的とする形状および配置のパターンを有する金属膜44を歩留まり高く形成することができる。
【0103】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に金属アシスト化学エッチングによりノズルNが形成される。このため、目的とする形状のノズルNを実現することができる。具体的には、前述のようにテーパー孔部N1および円筒孔部N2を含むノズルNを実現することができる。それゆえ、吐出性能に優れたノズル基板37を得ることができる。よって、印字品質に優れる液体吐出ヘッド3を提供することができる。
【0104】
3.第3実施形態
以下、第3実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が前述の第1実施形態と同様である要素については、前述の第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0105】
図15は、第3実施形態のノズル基板37の製造方法の流れを示す図である。図15に示すように、本実施形態の第1工程S1は、保護膜形成工程S18、レジスト層形成工程S10、保護膜エッチング工程S21、およびレジスト層除去工程S20をさらに含む。また、本実施形態では、第2金属アシスト化学エッチング工程S14において、電界の印加が行われる。
【0106】
図16は、図15の保護膜エッチング工程S21から金属膜形成工程S12までを説明するための図である。
【0107】
図16(a)は、保護膜形成工程S18を説明するための図である。図16(a)に示すように、保護膜形成工程S18では、ノズル基板37の第1面301上に保護膜42が形成される。なお、図示省略するが、保護膜42は、ノズル基板37の壁面にも形成される。保護膜42は、例えば、ダイヤモンドライクカーボン等で構成される。ダイヤモンドライクカーボンは、DLCと略される。例えば、CVD法またはスパッタリング法により保護膜42が形成される。保護膜42の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上0.5μm以下である。
【0108】
図16(b)は、レジスト層形成工程S10を説明するための図である。図16(b)に示すように、レジスト層形成工程S10では、ノズル基板37の第1面301上にレジスト層43を形成する。具体的には、第1面301上に形成された保護膜42上にレジスト層43を形成する。
【0109】
図16(c)は、レジスト層パターニング工程S11を説明するための図である。図16(d)に示すように、レジスト層パターニング工程S11では、第1部分3011で開口し、第2部分3012で開口しないようレジスト層43をパターニングする。
【0110】
図16(d)は、保護膜エッチング工程S21を説明するための図である。図16(d)に示すように、保護膜エッチング工程S21では、レジスト層パターニング工程S11では、レジスト層43と同様に、第1部分3011で開口し、第2部分3012で開口しないよう保護膜42をパターニングする。保護膜42がダイヤモンドライクカーボンである場合、酸素プラズマを用いたエッチングにより、保護膜42をパターニングする。
【0111】
図16(e)は、金属膜形成工程S12を説明するための図である。図16(e)に示すように、金属膜形成工程S12では、ノズル基板37の第1面301上に金属膜44を形成する。具体的には、第1面301上のレジスト層43上に金属膜44を形成する。金属膜44は、第1面301に接触する部分441と、レジスト層43に接触する部分442とを含む。保護膜42が第1面301とレジスト層43との間に設けられていることで、部分441と部分442とは連続しておらず、分断される。
【0112】
図17は、図15のレジスト層除去工程S20から第2金属アシスト化学エッチング工程S14までを説明するための図である。図17(a)は、レジスト層除去工程S20を説明するための図である。図17(a)に示すように、レジスト層除去工程S20では、レジスト層43が除去される。この除去に伴い、レジスト層43に接触する金属膜44の部分442も同時に除去される。この結果、複数の部分441で構成される金属膜44が第1面301上に形成される。
【0113】
図17(b)は、第1金属アシスト化学エッチング工程S13を説明するための図である。図17(b)に示すように、第1金属アシスト化学エッチング工程S13では、第1金属アシスト化学エッチングによりノズル基板37の一部を除去することにより、テーパー孔部N1を形成する。
【0114】
図17(c)は、第2金属アシスト化学エッチング工程S14を説明するための図である。図17(c)に示すように、第2金属アシスト化学エッチングによりノズル基板37の一部を除去することにより、円筒孔部N2を形成する。第1金属アシスト化学エッチング工程S13および第2金属アシスト化学エッチング工程S14は、連続して行われる。
【0115】
図示省略するが、第2金属アシスト化学エッチング工程S14の後に、除去工程S15が行われる。除去工程S15において、酸化膜41、保護膜42および金属膜44が除去される。保護膜42は、例えばプラズマアッシングにより除去される。
【0116】
除去工程S15の後に、研磨工程S16が行われる。研磨工程S16では、ノズル基板37の第2面302が研磨されることにより、ノズル基板37の一部が除去される。この結果、テーパー孔部N1と円筒孔部N2とを含むノズルNが形成される。
【0117】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に金属アシスト化学エッチングによりノズルNが形成される。このため、目的とする形状のノズルNを実現することができる。具体的には、前述のようにテーパー孔部N1および円筒孔部N2を含むノズルNを実現することができる。それゆえ、吐出性能に優れたノズル基板37を得ることができる。よって、印字品質に優れる液体吐出ヘッド3を提供することができる。
【0118】
また、本実施形態では、金属アシスト化学エッチングにおいて、電界の印加を利用する。具体的には、第1金属アシスト化学エッチングを行う際には、溶液に電界を印可せず、第2金属アシスト化学エッチングを行う際には、溶液に電界を印可する。このように電界の印加を行うことで、過剰に発生しテーパーを形成する正孔H0を裏面に吸引する事で、テーパー形成を防止し、エッチング液組成の異なる液の交換作業なく電界の印加によりテーパー防止を実現できる。この方式の利点は、電界印加を利用しない場合に比べ、テーパー孔部N1の形成から円筒孔部N2の形成を容易に連続して行うことができる事にある。
【0119】
図18は、第1金属アシスト化学エッチング工程S13で用いられる治具5を示す断面図である。図19は、第1金属アシスト化学エッチング工程S13を説明するための図である。
【0120】
図18に示す治具5は、第1金属アシスト化学エッチング工程S13において、ノズル基板37の固定のために用いられる。治具5は、基部51と、第1部材52と、第2部材53と、2つのネジ520および530と、複数のパッキン54と、電極55と、を含む。基部51は、平板状の部材であり、2つのネジ520および530が貫通する2つの孔を有する。第1部材52は、ノズル基板37を挟んでネジ520で基部51に対して固定するクランプである。第2部材53は、第1部材52に対向配置される。第2部材53は、ノズル基板37を挟んでネジ530で基部51に対して固定するクランプである。第1部材52および第2部材53のそれぞれには、複数のパッキン54が設けられる。複数のパッキン54を介してノズル基板37は第1部材52および第2部材53に挟持された状態で、ネジ520および530によって固定されている。
【0121】
第2部材53と基部51との間には、電極55が配置される。電極55は、ネジ530によって、第2部材53と基部51との間に挟持された状態で固定される。電極55の先端部550は、ノズル基板37の第2面302に接触している。
【0122】
本実施形態では、ノズル基板37の第2面302が保護膜42またはレジスト層43で覆われていない。この場合、金属アシスト化学エッチングにおいて、第2面302に溶液が侵入しないよう、第2面302は複数のパッキン54により保護されている。
【0123】
図19に示すように、第1金属アシスト化学エッチング工程S13では、エッチング液槽50内に溶液6が収容されている。ノズル基板37を挟持した治具5は、溶液6に浸るようにエッチング液槽50内に配置される。また、作用電極56は、溶液6に浸るようにエッチング液槽50内に配置される。作用電極56としては、例えば、白金メッシュ電極が用いられる。作用電極56は、ノズル基板37の第1面301に対向する。また、電極55には、直流電源のマイナス側が取り付けられ、作用電極56には、直流電源のプラス側が取り付けられる。このような状態で第1金属アシスト化学エッチング工程S13が行われる。
【0124】
図20は、第1金属アシスト化学エッチング工程S13を説明するための図である。図21は、第2金属アシスト化学エッチング工程S14を説明するための図である。
【0125】
図20に示すように、第1金属アシスト化学エッチング工程S13では、スイッチ57はオフされており、溶液に電界が印加されない。この場合、酸化剤から発生した正孔H0が矢印A1に示すようにノズル基板37の内部を移動し、酸化剤によってノズル基板37のうちの金属膜44の直下にある部分が酸化する。また、正孔H0が矢印A2に示すようにノズル基板37を拡散し、ノズル基板37のうち溶液が接している内壁面303が溶解する。それゆえ、矢印A3に示すように、内壁面303は、破線で示す状態から実線で示す状態に変化する。この結果、第1金属アシスト化学エッチング工程S13では、テーパー角度θを有するテーパー孔部N1が形成される。また、第1金属アシスト化学エッチング工程S13では、エッチング液槽50内の溶液6のモル濃度体積比ρは、所望のテーパー角度θになるよう設定されている。
【0126】
図21に示すように、第2金属アシスト化学エッチング工程S14では、スイッチ57がオンされており、溶液に電界が印加される。この場合、テーパーが形成されず、ストレートな孔が形成される。当該孔によって円筒孔部N2が構成される。例えば、4V以上8V以下の電圧を印加することにより、ストレートな孔である円筒孔部N2を形成することができる。
【0127】
電圧が印加されると、プラスの電荷を帯びた正孔H0は、矢印A1に示すように、マイナスの電圧が印加されたノズル基板37の第2面302に引き寄せられてしまう。このため、正孔H0が拡散して内壁面303に到達することが抑制される。よって、正孔H0が第2面302に引き寄せされることで、テーパーが形成されず、ストレートな孔が形成される。
【0128】
前述のように、エッチング液槽50内の溶液6のモル濃度体積比ρが所望のテーパー角度θになるよう設定されている状態で、溶液6の電界のオンオフを切り替えることで、テーパー孔部N1の形成と円筒孔部N2の形成とを簡単に切り替えることができる。このため、エッチング液槽50とは別のエッチング液槽に、円筒孔部N2を形成するためにモル濃度体積比ρが調整された溶液を別途用意しなくて済む。よって、第2金属アシスト化学エッチング工程S14を迅速に開示することができる。また、本実施形態の方法によれば、テーパー孔部N1の形成と円筒孔部N2の形成を1つのエッチング液槽50で製造することができる。このため、溶液の使用量を削減することができ、コストダウンを図ることができる。
【0129】
4.液体吐出ヘッド3の製造方法
図22は、液体吐出ヘッド3の製造方法の流れを示す図である。前述のように、液体吐出ヘッド3は、圧力室C1を含む圧力室基板32と、圧力室基板32に積層された連通板31と、連通板31に積層され、ノズルNを含むノズル基板37と、を有する。そして、第1実施形態の例では、ノズル基板37は、半導体基板で構成される。
【0130】
図22に示す例では、ステップSS1において、複数の圧力室基板32を含む圧力室基板ウエハ、複数のノズル基板37を含むノズル基板ウエハ、および複数の連通板31を含む連通板ウエハをそれぞれ個別に形成する。ステップSS2において、これらウエハを直接接合する。その後、各流路を形成する壁面に対して液体保護層を成膜する。なお、液体保護層は直接接合前に成膜してもよい。また、ステップSS3において、複数の封止基板35を含む封止基板ウエハを形成し、連通空間Ra等を含む各流路に対して液体保護層を成膜する。
【0131】
前述の液体保護層は、例えば、タンタル酸化物、または酸化ハフニウムを含む。タンタル酸化物の化学式は、TaOxで表される。酸化ハフニウムの化学式は、HfOxで表される。液体保護層は、例えば、ALD(Atomic Layer Deposition)法で形成される。
【0132】
ステップSS4で、圧力室基板ウエハ、ノズル基板ウエハおよび連通板ウエハに対して封止基板ウエハを接合することで、これらウエハを含む構造物を製造する。ステップSS5において当該構造物をレーザースクラブ等で割断してチップ化する。ステップSS6において、チップを実装パッドにCOF実装する。COFは、Chip On Filmの略である。その後、ステップSS7において、吸振体38、筐体部36、およびインク配管部品等のケース部品を接着等により組み立てる。これにより、液体吐出ヘッド3が得られる。
【0133】
5.変形例
以上に例示した実施形態は多様に変形され得る。前述の実施形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0134】
第1実施形態で例示した液体吐出装置1は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。液体吐出装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示パネル等の表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する液体吐出装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。また、生体に関する有機物の溶液を吐出する液体吐出装置は、例えばバイオチップを製造する製造装置として利用される。
【0135】
前述の実施形態では、ノズル基板37は、P型単結晶シリコン基板であるが、半導体材料を含んでいればよく、これ以外の材料で構成されてもよい。また、ノズルNは、テーパー孔部N1を有するが、ノズルNは、ストレートな孔のみで構成されてもよい。
【符号の説明】
【0136】
1…液体吐出装置、3…液体吐出ヘッド、5…治具、6…溶液、12…媒体、14…容器、20…制御ユニット、22…搬送機構、24…移動機構、30…流路構造体、31…連通板、32…圧力室基板、33…振動板、34…圧電素子、35…封止基板、36…筐体部、37…ノズル基板、38…吸振体、40…配線基板、41…酸化膜、42…保護膜、43…レジスト層、44…金属膜、50…エッチング液槽、51…基部、52…第1部材、53…第2部材、54…パッキン、55…電極、56…作用電極、57…スイッチ、242…搬送体、244…搬送ベルト、300…個別流路、301…第1面、302…第2面、303…内壁面、312…絞り部、314…連通流路、320…壁面、361…供給口、441…部分、442…部分、520…ネジ、530…ネジ、550…先端部、3011…第1部分、3012…第2部分、A0…法線、A1…矢印、A2…矢印、A3…矢印、C1…圧力室、G…隙間、H…貫通孔、H0…正孔、La…第1列、Lb…第2列、N…ノズル、N1…テーパー孔部、N2…円筒孔部、R…共通空間、Ra…連通空間、Rb…共通流路、Rc…空間、S1…第1工程、S10…レジスト層形成工程、S11…レジスト層パターニング工程、S12…金属膜形成工程、S13…第1金属アシスト化学エッチング工程、S14…第2金属アシスト化学エッチング工程、S15…除去工程、S16…研磨工程、S17…酸化膜形成工程、S18…保護膜形成工程、S19…酸化膜エッチング工程、S20…レジスト層除去工程、S21…保護膜エッチング工程、SS1…ステップ、SS2…ステップ、SS3…ステップ、SS4…ステップ、SS5…ステップ、SS6…ステップ、SS7…ステップ、θ…テーパー角度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
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図22