(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140090
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/16 20060101AFI20241003BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B41J2/16 305
B41J2/14 607
B41J2/14 613
B41J2/16 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051085
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正寛
(72)【発明者】
【氏名】北原 浩司
(72)【発明者】
【氏名】四谷 真一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 本規
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF93
2C057AG12
2C057AG44
2C057AP02
2C057AP13
2C057AP31
2C057AP33
2C057AP35
2C057AP52
2C057AQ02
2C057BA03
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】小型で吐出性能に優れる液体吐出ヘッドを製造可能な液体吐出ヘッド製造方法を提供する。
【解決手段】液体吐出ヘッドは、第1方向に延在する圧力室と、前記圧力室の一端に連通するノズルと、前記圧力室の他端に連通し、前記第1方向と交差する第2方向に延在し、前記圧力室よりも断面積が小さい絞り部と、をそれぞれ有する複数の個別流路、および、前記複数の個別流路に共通に連通する共通流路を有する液体吐出ヘッド製造方法であって、半導体基板が有する第1面のうちの前記絞り部に対応する第1部分表面に金属膜を形成し、かつ前記第1面のうちの前記絞り部に対応しない第2部分表面に前記金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことにより、前記絞り部を形成する第1工程を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延在する圧力室と、前記圧力室の一端に連通するノズルと、前記圧力室の他端に連通し、前記第1方向と交差する第2方向に延在し、前記圧力室よりも断面積が小さい絞り部と、をそれぞれ有する複数の個別流路、および、前記複数の個別流路に共通に連通する共通流路を有する液体吐出ヘッド製造方法であって、
半導体基板が有する第1面のうちの前記絞り部に対応する第1部分表面に金属膜を形成し、かつ前記第1面のうちの前記絞り部に対応しない第2部分表面に前記金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことにより、前記絞り部を形成する第1工程を含む、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項2】
前記第1工程は、
前記第1面上にレジスト層を形成し、
前記レジスト層を形成した後に、前記第1部分で開口し、前記第2部分で開口しないように前記レジスト層をパターニングし、
前記レジスト層をパターニングした後に、前記第1面上に前記金属膜を形成することを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項3】
前記レジスト層を形成する前に、前記第1面上に酸化膜を形成し、
前記酸化膜上に前記レジスト層を形成し、
前記レジスト層をパターニングした後であって、前記金属膜を形成する前に、前記酸化膜をエッチングすることにより、前記酸化膜のうち前記第1部分上の部分を開口させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項4】
前記酸化膜をエッチングすることにより、前記第1面と前記レジスト層の間に隙間を形成する、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項5】
前記第1工程では、
前記第1面上に前記金属膜を形成した後、前記レジスト層を除去する、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項6】
前記第1工程において、フッ化水素および酸化剤を含む溶媒を用いて、前記金属アシスト化学エッチングを行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項7】
前記金属膜は、金で構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項8】
前記第2方向に延在し、前記共通流路と外部流路を連通させる連通空間をさらに有し、
前記第1工程において、前記第1部分に加えて、前記第1面のうちの前記連通空間に対応する第3部分上に前記金属膜を形成した状態で、前記金属アシスト化学エッチングを行うことで、前記絞り部と前記連通空間を形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項9】
前記半導体基板が有する前記第1面とは反対側の第2面のうちの前記共通流路に対応する第4部分表面に第2金属膜を形成し、かつ前記第2面のうちの前記共通流路に対応しない第5部分表面に前記第2金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことで、前記共通流路を形成する第2工程を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項10】
前記第1工程、前記第2工程の順番に行い、前記絞り部と前記共通流路とを直接接続させることを特徴とする請求項9に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項11】
前記半導体基板が有する前記第1面とは反対側の第2面のうちの前記共通流路に対応する第4部分上に第2酸化膜を形成し、かつ前記第2面のうちの前記共通流路に対応しない第5部分に前記第2酸化膜が形成されていない状態で、ウエットエッチングを行うことで、前記共通流路を形成する第2工程を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【請求項12】
前記圧力室を含む圧力室基板と、
前記圧力室基板に積層され、前記絞り部および前記共通流路を含む連通板と、
前記連通板に積層され、前記ノズルを含むノズル基板と、を有し、
前記連通板は、前記半導体基板から形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンターは、印刷用途だけでなく、液体化できる材料を任意の場所に塗布できる装置として注目されている。インクジェットプリンターは、液体を吐出する液体吐出ヘッドを備える。液体吐出ヘッドとして、圧力室の壁面を構成する振動板を圧電素子により振動させることで、圧力室に充填された液体をノズルから吐出するヘッドが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の液体吐出ヘッドは、上部基板と中間基板とを有する。上部基板には、複数の圧力室が形成される。中間基板は、上部基板の下面に接合される。中間基板には、マニホールドおよび複数の連通穴が形成される。マニホールドは、複数の連通穴を介して複数の圧力室にインクを供給する。また、上部基板および中間基板のそれぞれは、シリコン基板で構成される。
【0004】
特許文献2に記載の液体吐出ヘッドは、キャビティ基板とリザーバー基板とを有する。キャビティ基板には、複数の圧力室が形成される。リザーバー基板は、キャビティ基板に接合される。リザーバー基板には、リザーバーと供給口とが形成される。リザーバーは、供給口を介して圧力室にインクを供給する。キャビティ基板およびリザーバー基板の各材料は、単結晶シリコンである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-107902号公報
【特許文献2】特開2007-331167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2に記載の液体吐出ヘッドでは、圧力室と、圧力室にインクを供給するためのマニホールドまたはリザーバーとが、互いに異なる基板に形成される。このため、各基板の小型化を図ることができ、よって、吐出ヘッドの小型化を図ることができる。
【0007】
吐出ヘッドの更なる小型化を図りつつ、液体吐出の高速化を図るためには、単位時間あたりの吐出量または吐出周期を高める必要がある。このためには、圧力室を拡大して流路抵抗を低くすることが考えられる。しかし、流路抵抗を低くすると、液滴の吐出後にノズルの内部に残る振動である残留振動の減衰に時間を要してしまう。この結果、ノズル先端におけるメニスカスの安定化に時間を要する。このため、吐出性能が低下するおそれがある。この問題を解決するために、例えば、圧力室とマニホールドまたはリザーバーとの間に設けられる液体流路の微細化を図ることでインク流路の流路抵抗を高めることが考えられる。
【0008】
しかし、吐出ヘッドの小型化において、液体流路の微細加工することは非常に難しい。例えば、ドライエッチングにより基板に液体流路を形成する。この場合、加工深さが増加するにつれてエッチングガスの流入が減少するため、加工時間が膨大にかかる。また、例えば、基板の結晶方位に沿った異方性ウエットエッチングにより基板に液体流路を形成する。この場合、液体流路のアスペクト比を制御することが難しい。
【0009】
したがって、液体流路を高精細に形成することが難しく、小型で吐出性能に優れる液体吐出ヘッドを製造することが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好適な態様に係る液体吐出ヘッド製造方法は、第1方向に延在する圧力室と、前記圧力室の一端に連通するノズルと、前記圧力室の他端に連通し、前記第1方向と交差する第2方向に延在し、前記圧力室よりも断面積が小さい絞り部と、をそれぞれ有する複数の個別流路、および、前記複数の個別流路に共通に連通する共通流路を有する液体吐出ヘッド製造方法であって、半導体基板が有する第1面のうちの前記絞り部に対応する第1部分上に金属膜を形成し、かつ前記第1面のうちの前記絞り部に対応しない第2部分の表面上に前記金属膜が形成されていない状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことにより、前記絞り部を形成する第1工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る液体吐出装置の構成を例示する概略図である。
【
図2】
図1に示す液体吐出ヘッドの分解斜視図である。
【
図6】
図3に示す連通板の製造方法の流れを示す図である。
【
図8】
図7の酸化膜形成工程からレジスト層パターニング工程までを説明するための図である。
【
図9】
図7の酸化膜エッチング工程から金属アシスト化学エッチング工程までを説明するための図である。
【
図10】金属アシスト化学エッチング工程を説明するための図である。
【
図11】
図6に示す第2工程の流れを示す図である。
【
図12】
図11の第2酸化膜形成工程から第2レジスト層パターニング工程までを説明するための図である。
【
図13】
図11の第2酸化膜エッチング工程から金属アシスト化学エッチング工程までを説明するための図である。
【
図14】第2実施形態の第1工程を説明するための図である。
【
図15】第2実施形態の第2工程の流れを示す図である。
【
図16】第2実施形態の第2工程を説明するための図である。
【
図17】第3実施形態の連通板の製造方法の流れを示す図である。
【
図18】第3実施形態の第3工程の流れを示す図である。
【
図19】第3実施形態の第3工程を説明するための図である。
【
図20】第3実施形態の第3工程を説明するための図である。
【
図21】液体吐出ヘッド製造方法の流れを示す図である。
【
図22】
図5の絞り部の実施例を説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.第1実施形態
1-1.液体吐出装置1の全体構成
図1は、第1実施形態に係る液体吐出装置1を例示する構成図である。以下では、説明の便宜上、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を適宜用いて説明する。また、X軸に沿う一方向をX1方向と表記し、X1方向とは反対の方向をX2方向と表記する。同様に、Y軸に沿う一方向をY1方向と表記し、Y1方向とは反対の方向をY2方向と表記する。Z軸に沿う一方向をZ1方向と表記し、Z1方向とは反対の方向をZ2方向と表記する。
【0013】
また、「要素αと要素βとが連通する」とは、要素αと要素βとが直接的に連通する場合のほか、要素αと要素βとが他の要素を介して間接的に連通する場合も含まれる。「要素A上の要素β」とは、要素αと要素βとが直接的に接触する構成に限定されず、要素Aと要素βとが直接的に接触していない構成も含まれる。
【0014】
液体吐出装置1は、液体の一例であるインクを媒体12に吐出するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙であるが、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象が媒体12として利用される。
図1に例示される通り、液体吐出装置1には、インクを貯留する液体容器14が設置される。例えば液体吐出装置1に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、または、インクを補充可能なインクタンクが、液体容器14として利用される。
【0015】
液体吐出装置1は、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24と液体吐出ヘッド3とを備える。制御ユニット20は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の1または複数の処理回路と半導体メモリー等の1または複数の記憶回路とを含み、液体吐出装置1の各要素を統括的に制御する。搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで媒体12をY軸に沿った方向に搬送する。
【0016】
移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとで液体吐出ヘッド3をX軸に沿って往復させる。X軸は、媒体12が搬送される方向に沿うY軸に交差する。第1実施形態の移動機構24は、液体吐出ヘッド3を収容する略箱型の搬送体242と、搬送体242が固定された搬送ベルト244とを備える。なお、複数の液体吐出ヘッド3を搬送体242に搭載した構成、または、液体容器14を液体吐出ヘッド3とともに搬送体242に搭載した構成も採用され得る。
【0017】
液体吐出ヘッド3は、液体容器14から供給されるインクを制御ユニット20による制御のもとで複数のノズルから媒体12に吐出する。搬送機構22による媒体12の搬送と搬送体242の反復的な往復とに並行して各液体吐出ヘッド3が媒体12にインクを吐出することで、媒体12の表面に画像が形成される。
【0018】
1-2.液体吐出ヘッド3の全体構成
図2は、
図1に示す液体吐出ヘッド3の分解斜視図である。
図3は、
図2おけるa-a線の断面図である。
図3に図示された断面は、X-Z平面に平行な断面である。Z軸は、液体吐出ヘッド3によるインクの吐出方向に沿う軸線である。X1方向またはX2方向は「第1方向」の例示である。Z2方向は「第2方向」の例示である。また、Z1方向またはZ2方向から見ることを「平面視」とする。
【0019】
図2に例示される通り、液体吐出ヘッド3は、Y軸に沿って配列された複数のノズルNを備える。複数のノズルNは、X軸に沿って相互に間隔をあけて並設された第1列Laと第2列Lbとに区分される。第1列Laおよび第2列Lbのそれぞれは、Y軸に沿って直線状に配列された複数のノズルNの集合である。液体吐出ヘッド3は、第1列Laの各ノズルNに関連する要素と第2列Lbの各ノズルNに関連する要素とが略面対称に配置された構造である。第1列Laに属するノズルNは、例えば、300dpiの密度で一列に配置される。同様に、第2列Lbに属するノズルNは、例えば、300dpiの密度で一列に配置される。第1列Laに属するノズルNに対して第2列Lbに属するノズルNは、例えば、600dpiずらして配置される。以下の説明では、第1列Laに対応する要素を重点的に説明し、第2列Lbに対応する要素の説明は適宜に割愛する。
【0020】
図2および
図3に例示される通り、液体吐出ヘッド3は、流路構造体30と複数の圧電素子34と封止基板35と筐体部36と配線基板40とを備える。
【0021】
流路構造体30は、複数のノズルNのそれぞれにインクを供給するための流路が内部に形成された構造体である。流路構造体30は、連通板31と圧力室基板32と振動板33とノズル基板37と吸振体38とで構成される。
【0022】
流路構造体30を構成する各部材は、Y軸に沿った長尺な板状部材である。連通板31におけるZ2方向の表面に圧力室基板32と筐体部36とが設置される。連通板31におけるZ1方向の表面に、ノズル基板37および吸振体38が設置される。例えば接着剤により各部材同士は固定される。
【0023】
ノズル基板37は、複数のノズルNが形成された板状部材である。複数のノズルNのそれぞれは、インクを吐出する円形状の貫通孔である。例えばフォトリソグラフィおよびエッチング等の半導体製造技術を利用してシリコン(Si)の単結晶基板を加工することで、ノズル基板37が製造される。
【0024】
連通板31には、複数の絞り部312と複数の連通流路314と連通空間Raと共通流路Rbが形成される。絞り部312および連通流路314のそれぞれは、Z1方向に延在し、ノズルNごとに形成された貫通孔である。連通流路314は、平面視でノズルNに重なる。連通空間Raは、Y軸に沿う長尺状に形成された開口である。連通空間Raは、Y軸に沿って延在する。共通流路Rbは、連通空間Raに連通しており、平面視で連通空間Raに重なる。共通流路Rbは、Y軸に沿って延在する。共通流路Rbは、複数の絞り部312に連通する。また、連通空間Raは、共通流路Rbと液体吐出ヘッド3の外部流路とを後述の空間Rcを介して連通させる。
【0025】
圧力室基板32には複数の圧力室C1が形成される。圧力室C1は、連通板31と振動板33との間に位置し、圧力室基板32の壁面320により形成される空間である。圧力室C1は、ノズルNごとに形成される。圧力室C1は、X1方向に延在する長尺状の空間である。複数の圧力室C1はY軸に沿って配列される。圧力室C1のX1方向における一端には、連通流路314を介してノズルNが連通する。圧力室C1のX1方向における他端には、絞り部312が連通する。絞り部312は、圧力室C1よりも断面積が小さい。また、圧力室C1、ノズルN、連通流路314、および絞り部312によって、ノズルNごとの個別流路300が構成される。圧力室C1に対して連通流路314および絞り部312がZ1方向に設けられることで、高い密度でのノズル配列を可能とし、液体吐出ヘッド3の小型化および高密度化を図ることができる。
【0026】
連通板31および圧力室基板32は、例えばシリコンの単結晶基板等の半導体基板を加工することで製造される。
【0027】
圧力室C1の上部には、弾性的に変形可能な振動板33が配置される。振動板33は、圧力室基板32に積層され、圧力室基板32における連通板31とは反対の表面に接触する。振動板33は、平面視でY軸に沿う長尺な矩形状に形成された板状部材である。振動板33の厚さ方向は、Z1方向と平行である。圧力室C1は、連通流路314および絞り部312に連通する。したがって、圧力室C1は、連通流路314を介してノズルNに連通し、かつ、絞り部312を介して連通空間Raに連通する。なお、
図2では説明のし易さのため圧力室基板32と振動板33を別基板のように図示しているが、実際には1つのシリコン基板に積層されたものである。
【0028】
振動板33のうち圧力室C1とは反対側の表面には圧力室C1ごとに圧電素子34が形成される。圧電素子34は、平面視でX軸に沿う長尺状の受動素子である。圧電素子34は、駆動信号が印加されることで、インクを吐出するためのエネルギーを生成するエネルギー生成素子の例示である。ここではエネルギー生成素子として機械的エネルギーを生成する圧電素子を記載するが、振動板33を有する系であれば、熱エネルギーを生成する電気熱変換素子でも良い。また、圧電素子34は、駆動信号が印加されることで駆動する駆動素子でもある。
【0029】
筐体部36は、複数の圧力室C1に供給されるインクを貯留するためのケースであり、例えば樹脂材料の射出成形で形成される。筐体部36には空間Rcと供給口361とが形成される。供給口361は、液体容器14からインクが供給される管路であり、空間Rcに連通する。筐体部36の空間Rcと連通板31の連通空間Raとは相互に連通する。前述の連通空間Raと共通流路Rbと空間Rcによって、複数のノズルNで共通な共通空間Rが構成される。共通空間Rは、複数の圧力室C1に供給されるインクを貯留する液体貯留室として機能する。共通空間Rに貯留されたインクは、各絞り部312に分岐して複数の圧力室C1に並列に供給および充填される。
【0030】
吸振体38は、連通空間Raの壁面を構成する可撓性のフィルムであり、共通空間R内のインクの圧力変動を吸収する。吸振体38は、例えば、耐インク性の樹脂フィルムと、樹脂フィルムを保持し、ばね性を有するSUS(ステンレス鋼)部材と、樹脂フィルムおよびSUS部材を保護する固定板と、の積層体である。吸振体38が設けられることで、ノズルNから圧力室C1を経て絞り部312に至る個別流路300の固有振動数が、駆動されるノズルNに関わらず安定化する。
【0031】
封止基板35は、複数の圧電素子34を保護するとともに圧力室基板32および振動板33の機械的な強度を補強する構造体であり、振動板33の表面に例えば接着剤で固定される。封止基板35のうち振動板33との対向面に形成された凹部の内側に複数の圧電素子34が収容される。また、配線基板40は、筐体部36が有する貫通孔362、および封止基板35が有する貫通孔353に挿通される。振動板33の表面には配線基板40が接合される。配線基板40は、制御ユニット20と液体吐出ヘッド3とを電気的に接続するための複数の配線が形成された実装部品である。配線基板40としては、例えばTCP(Tape Carrier Package)またはFPC(Flexible Printed Circuit)等が用いられる。圧電素子34を駆動するための駆動信号および基準電圧が配線基板40から各圧電素子34に供給される。
【0032】
かかる液体吐出ヘッド3は、圧電素子34が通電により収縮すると圧力室C1の容積が減る方向に振動板33が曲げられて撓み、圧力室C1内の圧力が上昇してノズルNからインク液滴が吐出される。この時、圧力室C1から絞り部312に向かっても圧力が伝播し、絞り部312を通じて共通流路Rbにもインクが流動する。インク吐出後に圧電素子34は元の位置に復元する。この際、ノズルNから共通流路Rbにおけるインクも振動する。そして、ノズルNのメニスカスが復元すると同時に絞り部312からインクが供給される。以上の一連の動作によりインクがノズルNから吐出される。
【0033】
1-3.連通板31
図4は、
図3に示す連通板31の平面図である。
図4に示すように、連通板31には、連通空間Raと共通流路Rbと複数の絞り部312と複数の連通流路314が形成される。連通空間Raは、Y1方向に延在する。共通流路Rbは、Y1方向に延在し、平面視で連通空間Raおよび複数の絞り部312に重なる。複数の絞り部312および複数の連通流路314のそれぞれは、例えば、複数のノズルNに対して1対1で対応して設けられる。なお、1個のノズルNに、数個の絞り部312が対応してもよい。また、複数の絞り部312は、互いに離間し、Y1方向に沿って並ぶ。複数の連通流路314は、互いに離間し、Y1方向に並ぶ。また、複数の連通流路314は、共通流路Rbおよび複数の絞り部312に対して離間する。
【0034】
図5は、
図4に示す連通板31の一部の拡大図である。
図5に示すように、絞り部312のX-Y平面に平行な断面積は、連通流路314のX-Y平面に平行な断面積よりも小さい。また、絞り部312のX-Y平面に平行な断面積は、共通流路RbのZ軸に沿った断面積よりも小さい。また、共通流路Rbの形状等は、複数の絞り部312の各流路抵抗が互いに等しくなるよう設計される。
【0035】
前述の一連のインクの吐出動作において、
図3に示す個別流路300では、インクの吐出の際に生じた振動は、個別流路300内の流路抵抗により減衰する。個別流路300内の流路抵抗は、絞り部312の流路抵抗が主に起因する。これは、絞り部312のX-Y平面に平行な断面積が共通流路RbのZ軸に平行な断面積および圧力室C1のZ軸に沿った断面積のそれぞれよりも小さいためである。絞り部312の数または当該断面積を調整することで、個別流路300内の流路抵抗を調整することができる。それゆえ、絞り部312は、流体抵抗部として機能する。
【0036】
また、絞り部312は、前述のように、共通流路Rbから個別流路300へとインクを供給する供給口でもある。かかる供給口である絞り部312が流体抵抗部として機能することで、圧力室C1に流体抵抗部を別途設ける必要がない。このため、圧力室C1を小型化することができ、よって、液体吐出ヘッド3を小型化することができる。また、圧力室C1に流体抵抗部を別途設ける必要がないため、圧力室C1の容積を変えずに、圧電素子34の長さを長くし易い。このため、液体吐出ヘッド3の大型化を招かずに、インクの吐出能力を増加させることができる。よって、液体吐出ヘッド3の小型化および高速化を図ることができる。
【0037】
また、圧力室基板32のZ1方向に連通板31が設けられることで、圧力室C1のZ1方向に絞り部312を設けることができる。このため、流路抵抗の調整のために絞り部312の個数または断面積を増加させることが容易である。
【0038】
図22は、
図5の絞り部312の実施例を説明する表である。
図22には、絞り部312の断面形状と、1つのノズルNに対応する絞り部312の数、絞り部213の断面寸法、および絞り部312における流体抵抗が、実施例ごとに示されている。
【0039】
絞り部312のX-Y平面に沿った断面形状に対する絞り部312のZ1方向に沿った長さと、インクの粘度および密度等の物性とから、流体抵抗を計算することができる。流体抵抗は、流路抵抗、流路抵抗比、およびイナ―タンス比を含む。計算結果を
図22に示す。流路抵抗をRで示し、イナータンスをMで示す。絞り部312のZ1方向の長さは200μmとして計算した。流路抵抗の単位は、〔N・s/m
2〕である。
【0040】
絞り部312の流路抵抗とノズルNの流体抵抗とのバランスをとるとことが、インク吐出にとって最も効率的である。このため、絞り部312の流路抵抗がノズルNの流体抵抗とほぼ同一になるよう、絞り部312の断面寸法を設定する。ノズルNの流体抵抗、具体的にはノズルNのうちのZ1方向の開口における流路抵抗は、Rn=8.7×1012〔N・s/m2〕である。この値に絞り部312の流体抵抗が近くなるよう、絞り部312の断面寸法を設定した結果を各実施例に示す。なお、このときの25℃でのインクの粘度は、η25=3.36×10-3〔Pa/s〕である。
【0041】
実施例1の絞り部312の断面寸法は、他の実施例に比べて大きい。このため、絞り部312の流体抵抗、流路抵抗比、およびイナ―タンス比は最も小さい。それゆえ、インク吐出の周波数、具体的には1sec当たりに吐出可能なノズルN当たりの吐出液滴数を最も高くすることができる。しかし、流路抵抗が小さいことで、残留振動の減衰が弱い。このため、圧力室C1内のインクの残留振動が収まり難い場合がある。この結果、インク吐出が不安定となるおそれがある。
【0042】
実施例1の問題に鑑み、実施例2では、絞り部312の断面寸法を実施例1に比べて小さくしている。具体的には、実施例2では、インクの流路抵抗を実施例1の15倍に設定している。実施例2では、実施例1に比べ、安定したインクの吐出が可能である。一方で、実施例2では実施例1に比べイナータンスが大きい。このため、実施例2では実施例1に比べてインク吐出の周波数が低い。
【0043】
実施例3では、実施例2の絞り部312と同様な形状の絞り部312を並列に2個設けている。実施例3では、実施例2に比べ、流路抵抗の増加に対するイナータンスの増加を抑えることができる。絞り部312の数を増加させることで、流路抵抗を増加させることができる。このため、圧力室C1内のインク吐出後の残留振動の減衰能力を高めることがえきる。それゆえ、インク吐出の周波数を高いまま維持することが可能である。
【0044】
実施例4では、実施例3に比べ、絞り部312の数をさらに増やしている。絞り部312の数をさらに増やすことにより、絞り部312の最適な設計を実現している。
【0045】
図22に示すように、1つのノズルNに対応する絞り部312の数を増加させることにより、絞り部312の流体抵抗の最適化を図ることができ。よって、吐出性能に優れる液体吐出ヘッド3を実現することができる。一方で、絞り部312の加工が難しく、実現し難いというデメリットがある。
【0046】
1-4.連通板31の製造方法
図6は、
図3に示す連通板31の製造方法の流れを示す図である。液体吐出ヘッド製造方法は、連通板31の製造方法を含む。
図6に示すように、連通板31の製造方法は、第1工程S1および第2工程S2を含む。第1工程S1では、後で説明するが、金属アシスト化学エッチングが用いられる。金属アシスト化学エッチングは、MACEと略される。金属アシスト化学エッチングを用いることで、従来の方法では加工の難しい構成の絞り部312を実現することができる。なお、連通板31の製造方法は、絞り部312の製造方法を含む。
【0047】
図7は、
図6に示す第1工程S1の流れを示す図である。
図7に示すように、第1工程S1は、酸化膜形成工程S10、保護膜形成工程S11、レジスト層形成工程S12、レジスト層パターニング工程S13、酸化膜エッチング工程S14、金属膜形成工程S15、レジスト層除去工程S16、および金属アシスト化学エッチング工程S17を含む。
【0048】
図8は、
図7の酸化膜形成工程S10からレジスト層パターニング工程S13までを説明するための図である。まず、連通板31の母材として、例えば、結晶方位100のN型単結晶シリコン基板等の半導体基板31aを用意する。半導体基板31aは、第1面301および第2面302を有する。第2面302は第1面301と反対側の面である。
【0049】
図8(a)は、酸化膜形成工程S10を説明するための図である。
図8(a)に示すように、酸化膜形成工程S10では、半導体基板31aの第1面301上に酸化膜41が形成される。酸化膜41は、具体的には酸化シリコン膜である。例えば、CVD(chemical vapor deposition)法または熱酸化により酸化膜41が形成される。酸化膜41の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.02μm以上0.2μm以下である。
【0050】
図8(b)は、保護膜形成工程S11を説明するための図である。
図8(b)に示すように、保護膜形成工程S11では、半導体基板31aの第2面302上に保護膜42が形成される。保護膜42は、例えば、ダイヤモンドライクカーボン等で構成される。ダイヤモンドライクカーボンは、DLCと略される。例えば、CVD法またはスパッタリング法により保護膜42が形成される。
【0051】
図8(c)は、レジスト層形成工程S12を説明するための図である。
図8(c)に示すように、レジスト層形成工程S12では、半導体基板31aの第1面301上にレジスト層43を形成する。具体的には、第1面301上に形成された酸化膜41上にレジスト層43を形成する。レジストを酸化膜41上に塗布し、遠心力を利用して酸化膜41上にレジスト層43を形成する。レジスト層43の厚みは、特に限定されないが、例えば、1μm以上3μm以下である。
【0052】
図8(d)および8(e)のそれぞれは、レジスト層パターニング工程S13を説明するための図である。
図8(d)に示すように、レジスト層パターニング工程S13では、レジスト層43の一部を除去することにより、レジスト層43をパターニングする。
【0053】
半導体基板31aの第1面301は、第1部分3011と第2部分3012と第3部分3013と第6部分3014とを含む。第1部分3011は、絞り部312に対応する部分である。第3部分3013は、連通空間Raに対応する部分である。第6部分3014は、連通流路314に対応する部分である。第2部分3012は、絞り部312、連通流路314および連通空間Raに対応しない部分である。第1部分3011、第3部分3013、および第6部分3014は、後述の金属アシスト化学エッチングにより除去される部分である。第2部分3012は、金属アシスト化学エッチングにより除去されない部分である。
【0054】
レジスト層パターニング工程S13では、第1部分3011、第3部分3013、および第6部分3014で開口し、第2部分3012で開口しないようレジスト層43をパターニングする。
【0055】
図8(e)に示すように、レジスト層43をパターニングした後、リフローベークを行う。この結果、パターニングされたレジスト層43は、表面張力によって、Z2方向の面がZ1方向の面よりも狭い状態になる。
【0056】
図9は、
図7の酸化膜エッチング工程S14から金属アシスト化学エッチング工程S17までを説明するための図である。
【0057】
図9(a)は、酸化膜エッチング工程S14を説明するための図である。
図9(a)に示すように、酸化膜エッチング工程S14では、酸化膜41の一部をエッチングにより除去することにより、酸化膜41がパターニングされる。例えば、レジスト層43をマスクとして、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより、酸化膜41の一部が除去される。バッファードフッ酸は、BHFと略される。
【0058】
酸化膜エッチング工程S14では、第1面301とレジスト層43との間に隙間Gが形成される。すなわち、酸化膜エッチング工程S14では、隙間Gが形成される程度に、酸化膜41の一部が除去される。特に、半導体基板31aがシリコンを含む場合、フッ酸を用いたウエットエッチングを行うことにより、隙間Gを形成し易い。また、隙間Gが形成されることで、パターニングされた酸化膜41は、平面視でパターニングされたレジスト層43に覆われている。
【0059】
図9(b)は、金属膜形成工程S15を説明するための図である。
図9(b)に示すように、金属膜形成工程S15では、半導体基板31aの第1面301上に金属膜44を形成する。具体的には、第1面301上のレジスト層43上に金属膜44を形成する。金属膜44は、例えば、スパッタリング法等により成膜される。金属膜44は、例えば、プラチナ、ルテニウム、プラチナ、パラジウム、モリブデン、クロム、銅、タンタル、チタン、またはイリジウムを含む。
【0060】
前述のように、第1面301とレジスト層43との間には隙間Gが形成される。このため、金属膜44は、第1面301に接触する部分441と、レジスト層43に接触する部分442とを含む。隙間Gが設けられることで、部分441と部分442とは連続しておらず、分断される。
【0061】
図9(c)は、レジスト層除去工程S16を説明するための図である。
図9(c)に示すように、レジスト層除去工程S16では、レジスト層43が除去される。この除去に伴い、レジスト層43上に接触する金属膜44の部分442も同時に除去される。この結果、複数の部分441で構成される金属膜44が第1面301上に形成される。
【0062】
金属膜44は、第1部分3011、第3部分3013、および第6部分3014表面に形成され、第2部分3012表面には形成されない。したがって、金属膜44は、平面視で、第1部分3011、第3部分3013、および第6部分3014に重なり、第2部分3012に重ならない。また、金属膜44は、第1部分3011、第3部分3013、および第6部分3014に接触しており、第2部分3012には接触していない。
【0063】
図9(d)および(e)のそれぞれは、金属アシスト化学エッチング工程S17を説明するための図である。
図9(d)に示すように、金属アシスト化学エッチング工程S17では、金属アシスト化学エッチングにより半導体基板31aの一部を除去する。例えば、フッ化水素および酸化剤を含む溶媒を用いた金属アシスト化学エッチングが最適である。
【0064】
金属アシスト化学エッチングでは、金属膜44の材料の触媒作用による半導体基板31aの酸化と、溶媒による半導体基板31aの酸化物のエッチングと、金属膜44と半導体基板31aとのクーロン力による吸着とが繰り返される。これらが繰り返されることで、Z1方向に穴を形成することが可能である。
【0065】
図9(e)に示すように、半導体基板31aの一部を除去した後、金属膜44が除去される。また、酸化膜41が、例えば、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより除去される。保護膜42が、例えばプラズマアッシングにより除去される。この結果、半導体基板31aに絞り部312、連通流路314の一部、および連通空間Raが形成される。
【0066】
図10は、金属アシスト化学エッチング工程S17を説明するための図である。
図10(a)に示すように、前述の金属膜44は、複数の貫通孔Hを有する。各貫通孔Hは、金属膜44をZ1方向に貫通する。複数の貫通孔Hは、金属膜44の多孔質化により設けられ、レジスト層除去工程S16において形成されてもよいし、金属膜形成工程S15で形成される金属膜44において形成されてもよい。また、以下では、フッ化水素および酸化剤を含む溶媒を用いた場合を例に金属アシスト化学エッチングについて説明する。
【0067】
図10(a)に示すように、溶媒に含まれるフッ化水素が金属膜44と反応し、金属膜44の材料の触媒作用により半導体基板31aが酸化する。この結果、半導体基板31aの酸化物が形成される。
図10(b)の複数の矢印で示すように、溶媒は、金属膜44の複数の貫通孔Hを移動する。溶媒は、貫通孔Hから半導体基板31aと金属膜44との間に侵入する。侵入した溶媒に含まれる酸化剤により半導体基板31aの酸化物が溶解する。
図10(c)に示すように、金属膜44と半導体基板31aとのクーロン力により、半導体基板31aに金属膜44が吸着する。
図10(a)、(b)および(c)に示す状態が繰り替えされることで、Z1方向に穴が形成される。
【0068】
図11は、
図6に示す第2工程S2の流れを示す図である。第2工程S2は、第2酸化膜形成工程S20、第2保護膜形成工程S21、第2レジスト層形成工程S22、第2レジスト層パターニング工程S23、第2酸化膜エッチング工程S24、第2金属膜形成工程S25、第2レジスト層除去工程S26、および金属アシスト化学エッチング工程S27を含む。
【0069】
図12は、
図11の第2酸化膜形成工程S20から第2レジスト層パターニング工程S23までを説明するための図である。
図12(a)は、第2酸化膜形成工程S20を説明するための図である。
図12(a)に示すように、第2酸化膜形成工程S20では、半導体基板31aの外表面の全域に第2酸化膜51が形成される。第2酸化膜51は、具体的には酸化シリコン膜である。したがって、半導体基板31aの第1面301および第2面302に第2酸化膜51が形成される。例えば、CVD法または熱酸化により第2酸化膜51が形成される。第2酸化膜51の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.2μm以上1.0μm以下である。
【0070】
図12(b)は、第2保護膜形成工程S21を説明するための図である。
図12(b)に示すように、第2保護膜形成工程S21では、半導体基板31aの第1面301上に第2保護膜52が形成される。具体的には、第1面301上の第2酸化膜51上に第2保護膜52が形成される。第2保護膜52は、例えば、ダイヤモンドライクカーボン、または耐薬品性の高いレジスト、あるいはこれらの複層膜等で構成される。例えば、CVD法、スパッタリング法、またはスピンコート法により第2保護膜52が形成される。
【0071】
図12(c)は、第2レジスト層形成工程S22を説明するための図である。
図12(c)に示すように、第2レジスト層形成工程S22では、半導体基板31aの第2面302上に第2レジスト層53を形成する。具体的には、第2面302上に形成された第2酸化膜51上に第2レジスト層53を形成する。レジストを第2酸化膜51上に塗布し、遠心力を利用して第2酸化膜51上に第2レジスト層53を形成する。第2レジスト層53の厚みは、特に限定されないが、例えば、1μm以上3μm以下である。
【0072】
図12(d)および12(e)のそれぞれは、第2レジスト層パターニング工程S23を説明するための図である。
図12(d)に示すように、第2レジスト層パターニング工程S23では、第2レジスト層53の一部を除去することにより、第2レジスト層53をパターニングする。
【0073】
半導体基板31aの第2面302は、第4部分3021と第5部分3022と第7部分3023とを含む。第4部分3021は、連通空間Ra、共通流路Rb、および連通流路314に対応する部分である。第7部分3023は、連通流路314に対応する部分である。第5部分3022は、連通流路314および連通空間Raに対応しない部分である。第4部分3021、および第7部分3023は、後述の金属アシスト化学エッチングにより除去される部分である。第5部分3022は、金属アシスト化学エッチングにより除去されない部分である。
【0074】
第2レジスト層パターニング工程S23では、第4部分3021、および第7部分3023で開口し、第5部分3022で開口しないようレジスト層43をパターニングする。
【0075】
図12(e)に示すように、第2レジスト層53をパターニングした後、リフローベークを行う。この結果、パターニングされた第2レジスト層53は、表面張力によって、Z1方向の面がZ2方向の面よりも狭い状態になる。
【0076】
図13は、
図11の第2酸化膜エッチング工程S24から金属アシスト化学エッチング工程S27までを説明するための図である。
【0077】
図13(a)は、第2酸化膜エッチング工程S24を説明するための図である。
図13(a)に示すように、第2酸化膜エッチング工程S24では、第2酸化膜51の一部をエッチングにより除去することにより、第2酸化膜51がパターニングされる。例えば、第2レジスト層53をマスクとして、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより、第2酸化膜51の一部が除去される。
【0078】
第2酸化膜エッチング工程S24では、第2面302と第2レジスト層53との間に隙間Gが形成される。すなわち、第2酸化膜エッチング工程S24では、隙間Gが形成される程度に、第2酸化膜51の一部が除去される。特に、半導体基板31aがシリコンを含む場合、フッ酸を用いたウエットエッチングを行うことにより、隙間Gを形成し易い。
【0079】
図13(b)は、第2金属膜形成工程S25を説明するための図である。
図13(b)に示すように、第2金属膜形成工程S25では、半導体基板31aの第2面302上に第2金属膜54を形成する。具体的には、第2面302上の第2レジスト層53上に第2金属膜54を形成する。第2金属膜54は、例えば、スパッタリング法等により成膜される。第2金属膜54は、例えば、プラチナ、ルテニウム、プラチナ、パラジウム、モリブデン、クロム、銅、タンタル、チタン、またはイリジウムを含む。
【0080】
前述のように、第2面302と第2レジスト層53との間には隙間Gが形成される。このため、第2金属膜54は、第2面302に接触する部分541と、第2レジスト層53に接触する部分542とを含む。隙間Gが設けられることで、部分541と部分542とは連続しておらず、分断される。
【0081】
図13(c)は、第2レジスト層除去工程S26を説明するための図である。
図13(c)に示すように、第2レジスト層除去工程S26では、第2レジスト層53が除去される。この除去に伴い、第2レジスト層53上に接触する第2金属膜54の部分542も同時に除去される。この結果、複数の部分541で構成される第2金属膜54が第2面302上に形成される。
【0082】
第2金属膜54は、第4部分3021、および第7部分3023表面に形成され、第5部分3022表面には形成されない。したがって、第2金属膜54は、平面視で、第4部分3021、および第7部分3023に重なり、第5部分3022に重ならない。また、第2金属膜54は、第4部分3021、および第7部分3023に接触しており、第5部分3052には接触していない。
【0083】
図13(d)および(e)のそれぞれは、金属アシスト化学エッチング工程S27を説明するための図である。
図13(d)に示すように、金属アシスト化学エッチング工程S27では、金属アシスト化学エッチングにより半導体基板31aの一部を除去する。例えば、フッ化水素および酸化剤を含む溶媒を用いた金属アシスト化学エッチングが最適である。
【0084】
金属アシスト化学エッチングでは、第2金属膜54の材料の触媒作用による半導体基板31aの酸化と、溶媒による半導体基板31aの酸化物のエッチングと、第2金属膜54と半導体基板31aとのクーロン力による吸着とが繰り返される。これらが繰り返されることで、Z2方向に穴を形成することが可能である。
【0085】
図13(e)に示すように、半導体基板31aの一部を除去した後、第2金属膜54が除去される。これにより、半導体基板31aに連通流路314の残部、および共通流路Rbが形成される。
【0086】
以上により、絞り部312、連通流路314、共通流路Rb、および連通空間Raを有する連通板31が製造される。
【0087】
前述のように、連通板31の製造方法は、金属アシスト化学エッチングを行うことにより、絞り部312を形成する第1工程S1を含む。第1工程S1では、半導体基板31aが有する第1面301のうちの絞り部312に対応する第1部分3011表面に金属膜44を形成し、かつ第1面301のうちの絞り部312に対応しない第2部分3012表面に金属膜44が形成されていない状態で金属アシスト化学エッチングが行われる。よって、金属膜44は第1部分3011に接触するよう形成され、かつ、第2部分3012には接触していない。
【0088】
金属アシスト化学エッチングを用いることで、高アスペクト比の半導体貫通孔の微細加工が可能となり、絞り部312を高精細に形成することができる。また、ウエハー毎の加工となるドライエッチングでは加工時間が膨大にかかり、生産性と製造のための真空装置への投資効率が低下するおそれがあるが、金属アシスト化学エッチングによれば多数のウエハーを一括してエッチング処理することが可能で、当該加工時間が膨大にかかることが低減される。また、結晶方位に沿った異方性ウエットエッチングでは、絞り部312のアスペクト比を制御することが難しいが、金属アシスト化学エッチングによれば目的とするアスペクト比の絞り部312を形成し易い。したがって、金属アシスト化学エッチングを用いることで、目的とするアスペクト比の貫通孔による絞り部312を高精細に形成することができる。よって、前述の各実施例のような微細な構造の絞り部213を実現することができる。このため、絞り部312によってメニスカスの動きを制御することができ、小型で吐出性能に優れる液体吐出ヘッド3を提供することができる。
【0089】
前述のように、第1工程S1は、レジスト層形成工程S12と、レジスト層パターニング工程S13と、金属膜形成工程S15とを含む。レジスト層形成工程S12では、半導体基板31aの第1面301上にレジスト層43を形成する。レジスト層パターニング工程S13では、レジスト層43を形成した後に、第1部分3011で開口し、第2部分3012で開口しないようにレジスト層43をパターニングする。金属膜形成工程S15では、レジスト層43をパターニングした後に、第1面301上に金属膜44を形成する。
【0090】
パターニングされたレジスト層43を用いることで、金属膜44を非エッチング領域である第2部分3012の表面に工程上一度も触れさせずに第1部分3011に対応する金属膜44を形成することが可能となる。すなわち、金属膜44を目的とする箇所に形成する以外の部分には原子レベルで金属を拡散、残留させずに、目的とする箇所のみに金属膜44を形成することを可能にしている。
【0091】
前述のように、第1工程S1は、酸化膜形成工程S10と、酸化膜エッチング工程S14とを含む。酸化膜形成工程S10では、レジスト層43を形成する前に、第1面301上に酸化膜41を形成する。その後、レジスト層形成工程S12において酸化膜41上にレジスト層43が形成される。また、酸化膜エッチング工程S14では、レジスト層43をパターニングした後であって、金属膜44を形成する前に、酸化膜41をエッチングすることにより、酸化膜41のうち第1部分3011上の部分を開口させる。
【0092】
このため、第1面301とレジスト層43と間に酸化膜41が形成される。酸化膜41が形成されることで、後の工程での酸化膜41からのレジスト層43の剥離、すなわち、レジスト剥離による第1面301表面への金属膜44のパターニングがし易い。具体的には、レジスト層43および酸化膜41のそれぞれが第1部分3011に開口していることで、前述のように、第1部分3011に対応する金属膜44を形成し易い。
【0093】
さらに、酸化膜エッチング工程S14では、酸化膜41をエッチングすることにより、第1面301とレジスト層43の間に隙間Gを形成する。隙間Gが形成されることで、隙間Gが形成されない場合に比べ、後の工程で金属膜44をパターニングし易い。隙間Gが設けられることで、金属膜44を第1面301に接触する部分441とレジスト層43に接触する部分442とに、金属膜44の成膜時に分離し、金属膜44をレジスト層43の剥離時にその輪郭を明瞭なままにして簡単に分断することができる。
【0094】
第1工程S1は、レジスト層除去工程S16を含む。レジスト層除去工程S16では、第1面301上に金属膜44を形成した後、レジスト層43を除去する。前述のようにレジスト層43を除去することにより、部分442で構成される金属膜44が第1面301上に形成される。このため、簡単にパターニングされた金属膜44を形成することができる。微細な形状の金属膜44であっても、かかる方法によれば、簡単かつ高精度に目的とする形状および配置のパターンを有する金属膜44を形成することができる。
【0095】
第1工程S1において、フッ化水素および酸化剤を含む溶媒を用いて、金属アシスト化学エッチングが行われることが好ましい。フッ化水素を用いることで半導体基板31aの酸化物をエッチングにより除去し易い。酸化剤を用いることで、金属膜44を触媒として半導体基板31aを酸化させることができる。このため、金属アシスト化学エッチングを効率良く行うことができる。
【0096】
酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、過酸化水素水(H2O2)、および硝酸(HNO3)が挙げられる。特に、半導体基板31aが酸化シリコンを含む場合、半導体基板31aの酸化物の効率的な形成のために、酸化剤は過酸化水素水であることが好ましい。なお、溶媒の種類はフッ化水素および酸化剤を含むことに限定されない。
【0097】
金属膜44は、前述のように、例えば、プラチナ、ルテニウム、プラチナ、パラジウム、モリブデン、クロム、銅、タンタル、チタン、またはイリジウムを含む。これらの中でも金属膜44は、金で構成されることが好ましい。金は、触媒反応に特に優れるためである。また、溶媒に含まれる酸化剤が過酸化水素水である場合、金の触媒反応を好適に発揮させることができる。
【0098】
半導体基板31aとしては、半導体材料を含む基板であれば特に限定されないが、シリコン基板であることが好ましく、N型の単結晶シリコン基板であることが特に好ましい。N型を採用することで、キャリア電子の作用により金属アシスト化学エッチングを効率的に行うことができる。また、高いエッチングレートであっても面粗が生じ難く、高品質である。
【0099】
また、前述のように、第1工程S1において、第1部分3011に加えて、第1面301のうちの連通空間Raに対応する第3部分3013上に金属膜44を形成した状態で、金属アシスト化学エッチングを行うことで、絞り部312と連通空間Raが形成される。金属アシスト化学エッチングによれば、ドライエッチングの様にエッチングパターンの平面区画形成面積の違いによるエッチングレートの差、すなわちマイクロローディング効果が生じないため、絞り部312および連通空間Raを一括で均一に簡単かつ迅速に形成することができる。つまり、X-Y平面に平行な断面積が異なる孔を一括で簡単かつ迅速に形成することができる。このため、加工時間を短くすることができる。
【0100】
また、連通板31の製造方法は、金属アシスト化学エッチングを行うことにより、共通流路Rbを形成する第2工程S2を含む。第2工程S2では、半導体基板31aの第2面302のうちの共通流路Rbに対応する第4部分3021表面に第2金属膜54を形成し、かつ第2面302のうちの共通流路Rbに対応しない第5部分3022表面に第2金属膜54が形成されていない状態で金属アシスト化学エッチングが行われる。よって、第2金属膜54は第4部分3021に接触するよう形成され、かつ、第5部分3022には接触していない。
【0101】
金属アシスト化学エッチングを用いることで、連通空間Raと絞り部312とに連通し、自由平面形状を有した積層された流路構造体として共通流路Rbを高精細に形成することができる。よって、小型で吐出性能に優れる液体吐出ヘッド3を実現可能である。
【0102】
連通板31の製造方法では、第1工程S1と第2工程S2とがこの順番で行われ、絞り部312と共通流路Rbとを直接接続させる。金属アシスト化学エッチングを用いることで、位置精度が高い加工が実現される。このため、第1面301と第2面302との加工を順に行うことで、絞り部312と共通流路Rb、共通流路Rbと連通空間Raとを一括してそれぞれ直接接続させることができる。
【0103】
2.第2実施形態
以下、第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が前述の第1実施形態と同様である要素については、前述の第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0104】
図14は、第2実施形態の第1工程S1を説明するための図である。
図14は、レジスト層除去工程S16、および金属アシスト化学エッチング工程S17を示している。本実施形態では、半導体基板31bとしてSOI基板が用いられる。SOI基板の仕様は特に限定されない。例えば、半導体基板31bは、結晶方位100のN型の単結晶シリコン基板303、酸化シリコン膜304、および結晶方位110のP型の単結晶シリコン基板305の積層体である。SOI基板の仕様を同例の構成とすることで、SOI基板の結晶方位100N型の単結晶シリコン基板303ではMACEにより均一で垂直なシリコン孔加工を可能とし、結晶方位110のP型の単結晶シリコン基板305では流路壁を111面で構成する異方性ウエットエッチングによる高精度のシリコン溝加工が可能である。以て、それぞれの流路形状・寸法を作り込める最適なシリコン加工が可能な構成としたSOI基板の仕様とすることができる。
【0105】
図14(a)は、レジスト層除去工程S16を説明するための図であって、レジスト層43の除去後が示される。第1実施形態と同様に、レジスト層43とともにレジスト層43上の金属膜44の一部である部分412が除去されることで、複数の部分441で構成される金属膜44が第1面301上に形成される。
【0106】
図14(b)および(c)のそれぞれは、金属アシスト化学エッチング工程S17を説明するための図である。
図14(b)に示すように、第1実施形態と同様に、金属アシスト化学エッチングにより半導体基板31bの一部であるN型の単結晶シリコン基板303を除去する。この際、酸化シリコン膜304に到達するまで金属アシスト化学エッチングが行われる。
図14(c)に示すように、半導体基板31bの一部を除去した後、金属膜44が除去される。これにより、第1実施形態と同様に、半導体基板31bに絞り部312、連通流路314の一部、および連通空間Raが形成される。
【0107】
図15は、第2実施形態の第2工程S2の流れを示す図である。
図15では、第1実施形態の第2工程S2は、第2金属膜形成工程S25、第2レジスト層除去工程S26および金属アシスト化学エッチング工程S27の代わりに、ウエットエッチング工程S28および第2酸化膜除去工程S29を含む。なお、本実施形態では、第2保護膜形成工程S21は、省略してもよい。
【0108】
図16は、第2実施形態の第2工程S2を説明するための図である。
図16(a)は、第2レジスト層パターニング工程S23を説明するための図である。本工程の前に、第1実施形態と同様に、半導体基板31bの外表面の全域に第2酸化膜51が形成される。その後、第1面301上に形成された第2酸化膜51上に、第2保護膜52が形成される。その後、第2面302上に形成された第2酸化膜51上に、第2レジスト層53が形成される。その後、本工程において、第2レジスト層53の一部を除去することにより、第2レジスト層53をパターニングする。
【0109】
半導体基板31bの第2面302は、第1実施形態と同様に、第4部分3021と第5部分3022と第7部分3023とを含む。第2レジスト層パターニング工程S23では、第4部分3021、および第7部分3023で開口し、第5部分3022で開口しないようレジスト層43をパターニングする。本実施形態では、リフローベークが省略される。
【0110】
図16(b)は、第2酸化膜エッチング工程S24を説明するための図である。
図16(b)に示すように、第2酸化膜エッチング工程S24では、第2酸化膜51の一部をエッチングにより除去することにより、第2酸化膜51がパターニングされる。例えば、レジスト層43をマスクとして、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより、第2酸化膜51の一部が除去される。第2酸化膜51をパターニングした後に、第2レジスト層53が除去される。
【0111】
本工程において、第2酸化膜51は、第4部分3021、および第7部分3023上に形成されず、第5部分3022上には形成される。したがって、第2酸化膜51は、平面視で、第4部分3021、および第7部分3023に重ならず、第5部分3022に重なる。
【0112】
図16(c)は、ウエットエッチング工程S28を説明するための図である。
図16(c)に示すウエットエッチング工程S28では、例えば、水酸化カリウムを用いたウエットエッチングにより半導体基板31bの一部であるP型の単結晶シリコン基板305を除去する。
【0113】
図16(d)は、第2酸化膜除去工程S29を説明するための図である。
図16(d)に示すように、半導体基板31bの一部を除去した後、第2酸化膜51が除去される。第2酸化膜51を除去すると同時に半導体基板31bが有する酸化シリコン膜304の一部が除去される。例えば、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより、第2酸化膜51および酸化シリコン膜304の一部が除去される。これにより、半導体基板31bに絞り部312、連通流路314の残部、および連通空間Raが形成される。
【0114】
以上により、絞り部312、連通流路314、共通流路Rb、および連通空間Raを有する連通板31が製造される。
【0115】
前述のように、第2工程S2では、半導体基板31bが有する第2面302のうちの共通流路Rbに対応する第4部分3021上に第2酸化膜51を形成せず、かつ第2面302のうちの共通流路Rbに対応しない第5部分3022に第2酸化膜51が形成された状態で、ウエットエッチングが行われる。この結果、共通流路Rbが形成される。共通流路RbのZ1方向に沿った断面積は、絞り部312のZ1方向に沿った断面積よりも大きい。このため、微細加工に適した金属アシスト化学エッチングを用いずに、結晶異方性ウエットエッチングを用いて高精度の流路壁により流路形成することができる。このため、それぞれの流路構成において最適となる流路形成方法で、簡単にかつ迅速に共通流路Rbを形成し、絞り部312を含む流路構造体30を形成することができる。
【0116】
加えて、SOI基板の酸化シリコン膜304によりそれぞれのエッチングが停止するので、Z軸に沿った方向の寸法は、SOI基板を構成するそれぞれの単結晶シリコン基板303、305の厚みにより決定づけることができるので、SOI基板の厚み精度を高めることで、流路の寸法を高い精度で形成することが可能となる。すなわち、絞り部312のZ1方向の長さを高い精度で形成することが可能となり、高精度の流路抵抗を作り込むことができる。同時に共通流路Rbの深さもZ2方向を高い精度で仕上げて、併せて小型で高精度の流路構造体30を実現できる。
【0117】
3.第3実施形態
以下、第3実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が前述の第1実施形態と同様である要素については、前述の第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0118】
図17は、第3実施形態の連通板31の製造方法の流れを示す図である。
図17に示すように、本実施形態では、さらに第3工程S3を含む。第1工程S1では、第1実施形態と同様に、半導体基板31aに絞り部312、連通流路314の一部、および連通空間Raを形成する。図示省略するが、第2工程S2では、半導体基板31aとは別の半導体基板31cを用意する。そして、第2工程S2では、第1実施形態と同様に、半導体基板31cに連通流路314の残部、および共通流路Rbを形成する。
【0119】
図18は、第3実施形態の第3工程S3の流れを示す図である。
図18に示すように、第3工程S3は、貼り合わせ工程S30、研磨工程S31、第3酸化膜形成工程S32、第3酸化膜エッチング工程S33、ウエットエッチング工程S34および第3酸化膜除去工程S35を含む。
【0120】
図19および
図20のそれぞれは、第3実施形態の第3工程S3を説明するための図である。
図19(a)は、貼り合わせ工程S30を説明するための図である。
図19(a)に示すように、貼り合わせ工程S30では、第1工程S1の半導体基板31aと第2工程S2の半導体基板31bとを貼り合わせることで、構造体31dが形成される。例えば、半導体基板31aおよび31cのそれぞれがシリコン基板である場合、シリコン直接接合により貼り合わせられる。
【0121】
図19(b)は、研磨工程S31を説明するための図である。
図19(b)に示すように、研磨工程S31では、構造体31dのうちの半導体基板31b側から研磨が行われる。これにより、構造体31dの一部が除去される。
【0122】
図19(c)は、第3酸化膜形成工程S32を説明するための図である。
図19(c)に示すように、第3酸化膜形成工程S32では、構造体31dの外表面に第3酸化膜61が形成される。例えば、熱酸化により第3酸化膜61が形成される。
【0123】
図19(d)は、第3酸化膜エッチング工程S33を説明するための図である。
図19(d)に示すように、第3酸化膜エッチング工程S33では、構造体31dのうちの半導体基板31a側に形成された第3酸化膜61がエッチングにより除去される。例えば、バッファードフッ酸により除去される。
【0124】
図20(a)は、ウエットエッチング工程S34を説明するための図である。
図20(a)に示すように、ウエットエッチング工程S34では、例えば、第3酸化膜61をマスクとして構造体31dのうちの半導体基板31a側が水酸化カリウムを用いたウエットエッチングにより除去される。
【0125】
図20(b)は、第3酸化膜除去工程S35を説明するための図である。
図20(b)に示すように、第3酸化膜除去工程S35では、例えば、第3酸化膜61がバッファードフッ酸を用いたウエットエッチングにより除去される。以上により、絞り部312、連通流路314、共通流路Rb、および連通空間Raを有する連通板31が製造される。
【0126】
本実施形態においても、第1工程S1および第2工程S2では金属アシスト化学エッチングが用いられる。このため、絞り部312を高精細に形成することができる。
【0127】
4.液体吐出ヘッド3の製造方法
図21は、液体吐出ヘッド3の製造方法の流れを示す図である。前述のように、液体吐出ヘッド3は、圧力室C1を含む圧力室基板32と、圧力室基板32に積層され、絞り部312と共通流路Rbを含む連通板31と、連通板31に積層され、ノズルNを含むノズル基板37と、を有する。そして、第1実施形態の例では、連通板31は、半導体基板31aから形成される、
【0128】
図21に示す例では、ステップSS1において、複数の圧力室基板32を含む圧力室基板ウエハー、複数のノズル基板37を含むノズル基板ウエハー、および複数の連通板31を含む連通板ウエハーをそれぞれ個別に形成する。ステップSS2において、これらウエハーを直接接合する。その後、絞り部312および共通流路Rbを含む各流路を形成する壁面に対して液体保護層を成膜する。なお、液体保護層は直接接合前に成膜してもよい。また、ステップSS3において、複数の封止基板35を含む封止基板ウエハーを形成し、連通空間Ra等を含む各流路に対して液体保護層を成膜する。
【0129】
前述の液体保護層は、例えば、タンタル酸化物、または酸化ハフニウムを含む。タンタル酸化物の化学式は、TaOxで表される。酸化ハフニウムの化学式は、HfOxで表される。液体保護層は、例えば、ALD(Atomic Layer Deposition)法で形成される。
【0130】
ステップSS4で、圧力室基板ウエハー、ノズル基板ウエハーおよび連通板ウエハーに対して封止基板ウエハーを接合することで、これらウエハーを含む構造物を製造する。ステップSS5において当該構造物をレーザースクラブ等で割断してチップ化する。ステップSS6において、チップを実装パッドにCOF実装する。COFは、Chip On Filmの略である。その後、ステップSS7において、吸振体38、筐体部36、およびインク配管部品等のケース部品を接着等により組み立てる。これにより、液体吐出ヘッド3が得られる。
【0131】
5.変形例
以上に例示した実施形態は多様に変形され得る。前述の実施形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0132】
液体吐出ヘッド3は、いわゆる循環型のヘッドであってもよい。この場合、液体吐出ヘッド3は、循環機構26をさらに有する。また、この場合、絞り部312は、供給口として機能していたが、排出口として機能してもよい。
【0133】
金属膜44は、スパッタリング法等により形成されるが、金属膜44は、無電解めっきにより形成されてもよい。この場合、酸化膜41の成膜は省略してもよい。レジスト膜がマスクとして用いられる。
【0134】
第1実施形態で例示した液体吐出装置1は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。液体吐出装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示パネル等の表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する液体吐出装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。また、生体に関する有機物の溶液を吐出する液体吐出装置は、例えばバイオチップを製造する製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0135】
1…液体吐出装置、3…液体吐出ヘッド、12…媒体、14…液体容器、20…制御ユニット、22…搬送機構、24…移動機構、30…流路構造体、31…連通板、31a…半導体基板、31b…半導体基板、31c…半導体基板、31d…構造体、32…圧力室基板、33…振動板、34…圧電素子、35…封止基板、36…筐体部、37…ノズル基板、38…吸振体、40…配線基板、41…酸化膜、42…保護膜、43…レジスト層、44…金属膜、51…第2酸化膜、52…第2保護膜、53…第2レジスト層、54…第2金属膜、61…第3酸化膜、100…結晶方位、110…結晶方位、213…絞り部、242…搬送体、244…搬送ベルト、300…個別流路、301…第1面、302…第2面、303…N型単結晶シリコン基板、304…酸化シリコン膜、305…P型単結晶シリコン、312…絞り部、314…連通流路、320…壁面、361…供給口、412…部分、441…部分、442…部分、541…部分、542…部分、3011…第1部分、3012…第2部分、3013…第3部分、3014…第6部分、3021…第4部分、3022…第5部分、3023…第7部分、C1…圧力室、G…隙間、H…貫通孔、La…第1列、Lb…第2列、N…ノズル、R…共通空間、Ra…連通空間、Rb…共通流路、Rc…空間、S1…第1工程、S10…酸化膜形成工程、S11…保護膜形成工程、S12…レジスト層形成工程、S13…レジスト層パターニング工程、S14…酸化膜エッチング工程、S15…金属膜形成工程、S16…レジスト層除去工程、S17…金属アシスト化学エッチング工程、S2…第2工程、S20…第2酸化膜形成工程、S21…第2保護膜形成工程、S22…第2レジスト層形成工程、S23…第2レジスト層パターニング工程、S24…第2酸化膜エッチング工程、S25…第2金属膜形成工程、S26…第2レジスト層除去工程、S27…金属アシスト化学エッチング工程、S28…ウエットエッチング工程、S29…第2酸化膜除去工程、S3…第3工程、S30…貼り合わせ工程、S31…研磨工程、S32…第3酸化膜形成工程、S33…第3酸化膜エッチング工程、S34…ウエットエッチング工程、S35…第3酸化膜除去工程、SS1…ステップ、SS2…ステップ、SS3…ステップ、SS4…ステップ、SS5…ステップ、SS6…ステップ、SS7…ステップ。