(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140093
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】時計
(51)【国際特許分類】
G04C 3/00 20060101AFI20241003BHJP
G04C 10/00 20060101ALI20241003BHJP
G04G 19/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G04C3/00 B
G04C10/00 C
G04G19/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051088
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】牧内 佳樹
【テーマコード(参考)】
2F002
2F101
【Fターム(参考)】
2F002AA12
2F002AC01
2F002AE00
2F002EE00
2F002GA06
2F101AA00
2F101AB00
2F101AC01
2F101AD01
2F101DJ05
(57)【要約】
【課題】発電機のコイルを用いてデータを通信して記憶装置に記憶できる時計の提供。
【解決手段】時計は、時刻を表示する指針と、指針の動作を制御する制御手段と、発電用のコイルを備える発電機と、データを記憶する記憶装置と、コイルで発生した電気エネルギーを蓄電し、制御手段に電気エネルギーを供給する第1蓄電装置と、スイッチ回路を介して第1蓄電装置に並列に接続され、電気エネルギーを蓄電可能な第2蓄電装置と、コイルを介して外部調整装置との間でデータを送信または受信を行う通信手段と、を備え、スイッチ回路は、データの送信時または受信時に接続状態とされ、通信手段は、第1蓄電装置および第2蓄電装置に蓄電された電力によって動作することを特徴する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時刻を表示する指針と、
前記指針の動作を制御する制御手段と、
発電用のコイルを備える発電機と、
データを記憶する記憶装置と、
前記コイルで発生した電気エネルギーを蓄電し、前記制御手段に電気エネルギーを供給する第1蓄電装置と、
スイッチ回路を介して前記第1蓄電装置に並列に接続され、電気エネルギーを蓄電可能な第2蓄電装置と、
前記コイルを介して外部調整装置との間で、前記データの送信または受信を行う通信手段と、を備え、
前記スイッチ回路は、前記データの送信時または受信時に接続状態とされ、
前記通信手段は、前記第1蓄電装置および前記第2蓄電装置に蓄電された電力によって動作する
ことを特徴する時計。
【請求項2】
請求項1に記載の時計において、
前記第2蓄電装置の蓄電容量は、前記第1蓄電装置の蓄電容量よりも大きい
ことを特徴とする時計。
【請求項3】
請求項1に記載の時計において、
前記第2蓄電装置は、前記スイッチ回路を接続した状態で、前記コイルを介して前記外部調整装置から出力された電力を蓄電する
ことを特徴とする時計。
【請求項4】
請求項1に記載の時計において、
前記スイッチ回路を接続および切断可能な操作入力手段を備え、
前記制御手段は、前記スイッチ回路が切断状態の場合に前記指針の制御を実行する
ことを特徴とする時計。
【請求項5】
請求項1に記載の時計において、
前記発電機は、ローターを含み、
前記通信手段は、前記コイルで受信した前記データを検出するデータ検出回路を含み、
前記データ検出回路は、前記ローターの回転を検出する回転検出回路を兼用する
ことを特徴とする時計。
【請求項6】
請求項1に記載の時計において、
前記通信手段は、前記コイルの一方の端子に接続された送信用トランジスターと、前記送信用トランジスターを制御するデータ送信回路とを備え、
前記送信用トランジスターは、歩度測定用トランジスターを兼用する
ことを特徴とする時計。
【請求項7】
請求項1に記載の時計において、
ゼンマイと、前記ゼンマイの機械エネルギーを伝達する輪列とを備え、
前記指針は、前記輪列によって駆動され、
前記発電機は、前記ゼンマイの前記機械エネルギーを電気エネルギーに変換することで発電し、且つ、前記輪列の回転周期を制御する機能を備え、
前記制御手段は、前記発電機を介して、前記指針の動作を制御する
ことを特徴とする時計。
【請求項8】
請求項1に記載の時計において、
水晶振動子と、
前記水晶振動子からの発振信号に基づく基準信号を出力する出力回路と、
温度を測定する温度測定部と、を備え、
前記記憶装置は、前記水晶振動子の温度特性に関する補正データを記憶し、
前記制御手段は、前記温度測定部の出力と前記補正データとに基づいて前記基準信号の周波数を補正する温度補償機能を実行可能であり、補正された前記基準信号の周波数に基づいて、前記指針の動作を制御し、
前記通信手段は、前記外部調整装置から送信される前記補正データを受信する
ことを特徴とする時計。
【請求項9】
請求項8に記載の時計において、
前記温度測定部は、温度に応じた発振信号を出力する感温発振器であり、
前記通信手段は、前記外部調整装置に前記感温発振器の出力を送信する
ことを特徴とする時計。
【請求項10】
ゼンマイと、
前記ゼンマイの機械エネルギーを伝達する輪列と、
発電用のコイルを備え、前記機械エネルギーを電気エネルギーに変換することで発電し、且つ、前記輪列の回転周期を制御する機能を備える調速機を兼用する発電機と、
水晶振動子と、
前記水晶振動子からの発振信号に基づく基準信号を出力する出力回路と、
温度を測定する温度測定部と、
前記水晶振動子の温度特性に関する補正データを記憶する記憶装置と、
前記コイルを介して外部調整装置との間で前記補正データを受信する通信手段と、
前記温度測定部の出力と前記補正データとに基づいて前記基準信号の周波数を補正する温度補償機能を実行する制御手段と、を備える
ことを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、発電機から供給された電気エネルギーを電源回路の電源コンデンサーに充電し、電源コンデンサーから供給される電力で回転制御装置を駆動する電子制御式機械時計において、個体差補正データに基づいて水晶振動子の温度補償を行うことが開示されている。また、水晶振動子の個体差補正データを、電子制御式機械時計の量産工程の中でICに書き込むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電子制御式機械時計において、個体差補正データをICに書き込む場合、回路基板やムーブメントの状態でデータ書き込み装置のプローブ等を端子に接触させて書き込むことができる。
しかしながら、ムーブメントを時計の外装ケースに組み込むと、浮遊容量や水晶振動子に加わる応力等が変化することで、ムーブメントの組み込みによる歩度シフトが発生する場合があった。この場合、外装ケースからムーブメントを取り外して個体差補正データを再度書き込む必要があり、電子制御式機械時計の組立工程が増えて生産性が低下する。このため、個体差補正データ等のデータを、ムーブメントを外装ケースに組み込んだ状態で書き込むことが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の時計は、時刻を表示する指針と、前記指針の動作を制御する制御手段と、発電用のコイルを備える発電機と、データを記憶する記憶装置と、前記コイルで発生した電気エネルギーを蓄電し、前記制御手段に電気エネルギーを供給する第1蓄電装置と、スイッチ回路を介して前記第1蓄電装置に並列に接続され、電気エネルギーを蓄電可能な第2蓄電装置と、前記コイルを介して外部調整装置との間で、前記データの送信または受信を行う通信手段と、を備え、前記スイッチ回路は、前記データの送信時または受信時に接続状態とされ、前記通信手段は、前記第1蓄電装置および前記第2蓄電装置に蓄電された電力によって動作することを特徴する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】前記実施形態の時計を示すブロック図である。
【
図3】前記実施形態の時計の要部を示す回路図である。
【
図4】前記実施形態のデータ検出回路を示す回路図である。
【
図5】前記実施形態の外部調整装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】前記実施形態での充電時の波形および第2蓄電装置の電圧変化を示す図である。
【
図7】前記実施形態の外部調整装置から時計への送信時の通信フォーマットを示す図である。
【
図8】前記実施形態の時計から外部調整装置へのデータ送信タイミングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の実施形態の時計1を図面に基づいて説明する。
図1は、時計1を示す正面図である。本実施形態では、時計1は電子制御式機械時計として構成される。
図1に示すように、時計1は、ユーザーの手首に装着される腕時計であり、円筒状の外装ケース2を備え、外装ケース2の内周側に、文字板3が配置されている。外装ケース2の二つの開口のうち、表面側の開口は、カバーガラスで塞がれており、裏面側の開口は裏蓋で塞がれている。
【0008】
時計1は、外装ケース2内に収容された図示略のムーブメントと、時刻情報を表示する指針である時針4A、分針4B、秒針4Cとを備えている。文字板3には、カレンダー小窓3Aが設けられており、カレンダー小窓3Aから、日車6が視認可能となっている。また、文字板3には、時刻を指示するためのアワーマーク3Bや、パワーリザーブ針5で持続時間を指示する扇形のサブダイヤル3Cが設けられている。
【0009】
外装ケース2の側面には、りゅうず7が設けられている。りゅうず7は、時計1の中心に向かって押し込まれた0段位置から1段位置および2段位置に引き出すことができる。
りゅうず7を1段位置に引いて回転すると、日車6を移動して日付を合わせることができる。りゅうず7を2段位置に引くと時針4A、分針4B、秒針4Cが停止し、2段位置でりゅうず7を回転すると、時針4A、分針4Bが移動して時刻を合わせることができる。りゅうず7による日車6や時針4A、分針4Bの修正方法は、従来の時計と同様であるため説明を省略する。
【0010】
また、りゅうず7を0段位置で回転すると、後述するゼンマイ40を巻き上げることができる。そして、ゼンマイ40の巻き上げに連動して、パワーリザーブ針5が移動する。本実施形態の時計1は、ゼンマイ40をフルに巻き上げた場合に、約72時間の持続時間を確保できる。
【0011】
図2は、時計1の概略構成を示すブロック図である。
時計1は、機械エネルギー源としてのゼンマイ40と、ゼンマイ40から供給される機械エネルギーを伝達する輪列41と、輪列41に連結されて時刻表示を行う表示装置42と、前記輪列41を介して伝達される機械エネルギーで駆動される調速機を兼用する発電機50と、整流回路60と、電源回路70と、水晶振動子8と、回転制御装置10と、操作入力手段75とを備えた電子制御式機械時計である。なお、操作入力手段75は、本実施形態では、りゅうず7であるが、ボタンでもよく、利用者が操作可能なものであればよい。
【0012】
輪列41は、ゼンマイ40が収納される香箱車の回転を、後述する発電機50のローター51に増速して伝達する複数の歯車で構成されている。また、輪列41を構成する複数の歯車には、輪列41の回転に伴い運針する時針4A、分針4B、秒針4Cが連結されている。
表示装置42は、時針4A、分針4B、秒針4Cの各指針と、パワーリザーブ針5とを備えている。なお、パワーリザーブ針5は、ゼンマイ40の巻き上げおよび巻き解けに連動する図示略のパワーリザーブ輪列によって移動する。
【0013】
[発電機]
発電機50は、
図3に示すように、ローター51と、ローター51の回転に伴い誘導起電力を発生するコイル52とを備え、電気エネルギーを供給する。ローター51は、2極に着磁された一般的なローターであり、輪列41を介してゼンマイ40によって駆動される。発電機50は、ローター51が回転することで磁束が変化し、コイル52に誘導起電力を発生させて発電する。
発電機50のコイル52の出力端子MG1、MG2には、制動制御回路14で制御されるブレーキ回路55と、整流回路60とが接続されている。
【0014】
[電源回路]
整流回路60には、電源回路70が接続されている。電源回路70は、第1蓄電装置71と、第2蓄電装置72と、スイッチ回路73とを備える。
第1蓄電装置71は、第1の電源ライン81および第2の電源ライン82間に接続されたコンデンサーで構成されている。
第2蓄電装置72およびスイッチ回路73は、第1の電源ライン81および第2の電源ライン82間に直列に接続されている。第2蓄電装置72は、第1蓄電装置71に比べて蓄電容量が大きな大容量コンデンサーで構成されている。
スイッチ回路73は、第2蓄電装置72と第1の電源ライン81とを接続状態および切断状態に切り替えるものであり、本実施形態では、操作入力手段75であるりゅうず7によってスイッチ回路73を接続状態であるオン状態と、切断状態であるオフ状態とを切替可能に構成されている。例えば、りゅうず7を2段位置に引き出すと、スイッチ回路73が接続され、リュウズを1段位置や0段位置に戻すとスイッチ回路73は切断される。なお、スイッチ回路73は、第2蓄電装置72と第2の電源ライン82との間に配置してもよい。
【0015】
[ブレーキ回路]
ブレーキ回路55は、発電機50を調速機として機能させるために、ローター51の回転にブレーキを掛けるものである。ブレーキ回路55は、発電機50で発電された交流信号(交流電流)が出力される第1の出力端子MG1に接続された第1のチョッピングトランジスター56と、前記交流信号が出力される第2の出力端子MG2に接続された第2のチョッピングトランジスター57とを有する。そして、各チョッピングトランジスター56、57をオンすることにより、出力端子MG1と出力端子MG2とを短絡させて閉ループ状態にし、発電機50にショートブレーキを掛けるようになっている。
これらの各チョッピングトランジスター56、57は、
図3に示すように、電源回路70の第1の電源ライン81と、出力端子MG1、MG2との間に接続されている。
【0016】
各チョッピングトランジスター56、57は、Pチャネルの電界効果型トランジスターで構成されている。これらの各チョッピングトランジスター56、57のゲートには、制動制御回路14から制御信号P1、P2がそれぞれ入力される。このため、各チョッピングトランジスター56、57は、制御信号P1、P2がLレベルとなっている間はオン状態に維持される。一方、制御信号P1、P2がHレベルとなっている間は、各チョッピングトランジスター56、57はオフ状態に維持され、発電機50にはブレーキが加わらない。すなわち、制御信号P1、P2のレベルによって、各チョッピングトランジスター56、57のオン、オフが制御され、発電機50をチョッピング制御することができる。
【0017】
ここで、制御信号P1、P2は、たとえば128Hzの信号であり、デューティー比を変えることで、発電機50のブレーキ力を調整する。すなわち、制御信号P1、P2の1周期においてLレベルの期間が長くなると、各チョッピングトランジスター56、57がオン状態に維持されてショートブレーキが加えられる期間も長くなり、ブレーキ力が増加する。一方、制御信号P1、P2の1周期においてLレベルの期間が短くなると、ブレーキ力が低下する。したがって、制御信号P1、P2のデューティー比によって、ブレーキ力を調整できる。
なお、チョッピング制御時は、制御信号P1、P2は、チョッピングトランジスター56、57を同時にオン状態やオフ状態に制御する。一方、後述するように、データ送信時やデータ検出時は、チョッピングトランジスター56、57を別々に制御するため、制動制御回路14は、各チョッピングトランジスター56、57に別々の制御信号P1、P2を出力するように設定されている。
【0018】
[整流回路]
整流回路60は、昇圧整流、全波整流、半波整流、トランジスター整流等からなり、発電機50からの交流出力を昇圧、整流して、電源回路70に充電供給するものである。
図3に示すように、本実施形態の整流回路60は、第1の整流用スイッチ61と、第2の整流用スイッチ62と、ダイオード65と、ダイオード66と、昇圧用コンデンサー67とを備えている。
第1の整流用スイッチ61は、ブレーキ回路55の第1のチョッピングトランジスター56と並列に接続され、かつ、第2の出力端子MG2にゲートが接続された第1の整流用トランジスターで構成されている。
同様に、第2の整流用スイッチ62は、第2のチョッピングトランジスター57と並列に接続され、かつ、第1の出力端子MG1にゲートが接続された第2の整流用トランジスターで構成されている。これらの各整流用トランジスターは、Pチャネルの電界効果型トランジスターで構成されている。
ダイオード65、66は、一方向に電流を流す一方向性素子であればよく、その種類は問わない。特に、時計1では、発電機50の起電圧が小さいため、ダイオード65としては逆リーク電流が小さいシリコンダイオード、ダイオード66としては降下電圧が小さいショットキーバリアダイオードを用いることが好ましい。
【0019】
なお、本実施形態では、
図3に示すように、第1のチョッピングトランジスター56、第2のチョッピングトランジスター57、第1の整流用スイッチ61、第2の整流用スイッチ62、ダイオード65、ダイオード66は、回転制御装置10と同様にIC内に構成され、発電機50のローター51およびコイル52と、昇圧用コンデンサー67と、第1蓄電装置71、第2蓄電装置72、スイッチ回路73はICの外部に設けられている。このように、整流回路60の一部をIC内に構成することで、時計1の回路基板に実装する素子を少なくでき、コストを低減できる効果がある。また、リーク電流の小さなIC製造プロセスにより製造されたICを使用する事で、リーク電流も小さくできる。
なお、各チョッピングトランジスター56、57の能力、つまりサイズは、発電機50におけるチョッピング時の電流に基づいて設定すればよい。
【0020】
このような整流回路60は、昇圧用コンデンサー67を備えているため、充電の過程で昇圧用コンデンサー67に充電された電荷も利用して、電源回路70の第1蓄電装置71を充電する。このため、回転制御装置10を構成するICに印加できる電圧も大きくなり、ICの安定的な動作を実現できる。なお、
図3の整流回路60は、2段昇圧整流回路であるが、ダイオード、コンデンサーを使用し、3段昇圧、4段昇圧など、昇圧段数を増やし、第1蓄電装置71の電圧を高くすることもできる。
【0021】
[回転制御装置の構成]
次に、
図2および
図3を参照して、発電機50のローター51の回転を制御する回転制御装置10の構成について説明する。回転制御装置10は、ローター51の回転を制御することで、輪列41の回転速度、すなわち時針4A、分針4B、秒針4Cの各指針の動作を制御する制御手段である。
回転制御装置10は、ICによって構成され、発振回路11、分周回路12、回転検出回路13、制動制御回路14、温度補償機能部20、通信手段90を備えて構成されている。なお、ICは、Integrated Circuitの略語である。
【0022】
発振回路11は、第1蓄電装置71の電圧が高くなると駆動し、発振信号発生源である水晶振動子8を発振させる。そして、水晶振動子8の発振信号(32768Hz)をフリップフロップからなる分周回路12に出力する。
発振回路11は、発振インバーターや調整用コンデンサーなどを備えた水晶振動子8を発振させるための一般的な回路であり、調整用コンデンサーの接続時間や接続個数を変化させることなどで発振信号の周波数を調整可能に構成されている。
【0023】
分周回路12は、前記発振信号を分周して、複数の周波数、たとえば、2kHz~1Hzのクロック信号を作成し、制動制御回路14や温度補償機能部20に必要なクロック信号を出力する。ここで、分周回路12から制動制御回路14に出力されるクロック信号は、後述するように、ローター51の回転制御の基準となる基準信号fs1である。
【0024】
回転検出回路13は、発電機50に接続された図示しない波形整形回路とモノマルチバイブレーターとで構成され、発電機50のローター51の回転周波数を表す回転検出信号FG1を出力する。波形整形回路は、コンパレーターを備えて構成され、出力端子MG2に生じる電圧と、所定の基準電位とを比較して出力することで、正弦波を矩形波に変換する。モノマルチバイブレーターは、ある周期以下のパルスだけを通過させるバンドパス・フィルターとして機能し、ノイズを除去した回転検出信号FG1を出力する。
【0025】
制動制御回路14は、回転検出回路13から出力される回転検出信号FG1と、分周回路12から出力される基準信号fs1とを比較し、発電機50の調速を行うための制御信号P1、P2をブレーキ回路55に出力する。なお、基準信号fs1は、通常運針時のローター51の基準回転速度、例えば8Hzに合わせた信号である。したがって、制動制御回路14は、ローター51の回転速度を示す回転検出信号FG1と基準信号fs1との差に応じて制御信号P1、P2のデューティー比を変更し、ブレーキ回路55のチョッピングトランジスター56、57のオン時間を制御してブレーキ力を調整し、ローター51つまり輪列41の回転速度を制御する。
【0026】
[温度補償機能部]
温度補償機能部20は、水晶振動子8等の温度特性を補償して発振周波数の変動を抑制するものであり、
図2に示すように、温度補償機能制御回路21と、温度補償回路30とを備える。
温度補償機能制御回路21は、所定のタイミングになると、温度補償回路30を動作させる。
温度補償回路30は、温度測定部である温度センサー31と、温度補正テーブル記憶部32と、個体差補正データ記憶部33と、演算回路35と、論理緩急回路36と、周波数調整制御回路37とを備える。温度補償回路30は、温度による発振信号の変動を一定の周期で補償する温度補償機能動作を実行する。なお、本実施形態では、温度センサー31の測定温度に応じて歩度を調整する動作を、温度補償機能動作と称する。
【0027】
温度センサー31は、時計1が使用されている環境の温度に応じた出力を演算回路35に入力する。温度センサー31としては、温度によって変化する出力信号で現在の温度を検出する感温発振器が利用できる。なお、本実施形態では、出力信号を波形整形すれば、すぐにデジタル信号処理が可能なCR発振回路を、温度センサー31として使用している。すなわち、環境温度により、CR発振回路から出力される信号の周波数が変化し、その周波数により温度を検出している。また、CR発振回路を定電流で駆動するように構成すると、温度センサー31の駆動電流は定電流値で決まるため、設計により電流値をコントロール可能となり、低消費電流化し易くなる。定電流駆動型のCR発振回路は低電圧駆動、低消費電流化が可能なため、時計1に温度補償機能を付ける場合の温度センサー31として適している。
CR発振回路を用いた温度センサー31は、定電流回路、CR発振回路、出力バッファー等を備えた一般的なものであるため、説明を省略する。温度センサー31のCR発振回路で発振された感温発振信号の周波数は、温度によって変化する。したがって、CR発振回路の感温発振信号が温度センサー31の出力として演算回路35に入力される。なお、温度センサー31は、本開示の温度測定部の一例である。
【0028】
温度補正テーブル記憶部32は、理想的な水晶振動子8、および、理想的な温度センサー31の場合に、ある温度でどれだけ歩度を補償すればよいかが設定された温度補正テーブルを記憶している。すなわち、温度補正テーブル記憶部32は、水晶振動子8および温度センサー31で共通の温度補正テーブルを記憶している。
また、水晶振動子8や温度センサー31には製造による個体差が生じる。個体差としては、例えば、水晶振動子8の温度特性の2次係数、水晶振動子8の頂点温度、水晶振動子8の頂点歩度、温度センサー31の出力周波数、発振回路11の負荷容量等が挙げられる。そこで、予め製造や検査の工程で測定した、水晶振動子8の特性や、温度センサー31の特性を基に、どれだけ個体差を補正すれば良いかを設定した個体差補正データが個体差補正データ記憶部33に書き込まれている。なお、本実施形態では、温度補償機能動作の中で、上記した水晶振動子8や温度センサー31の個体差を補償する動作を個体差温度補償動作と称する。
温度補正テーブル記憶部32は、マスクROMを利用している。マスクROMを利用するのは、半導体メモリーの中で最も単純なため、集積度を高くし、面積を小さくできるためである。
個体差補正データ記憶部33は、EEPROM等の不揮発性メモリーで構成されている。EEPROMは、Electrically Erasable and Programmable Read-Only Memoryの略語である。
本実施形態では、データを記憶する記憶装置は、個体差補正データ記憶部33であり、記憶装置に記憶されるデータは、個体差補正データである。
【0029】
演算回路35は、温度センサー31の測定温度と、温度補正テーブル記憶部32に記憶された温度補正テーブルと、個体差補正データ記憶部33に記憶された個体差補正データとを利用して、歩度の補正量を演算する。そして、演算回路35は、その演算結果を論理緩急回路36および周波数調整制御回路37に出力する。すなわち、本実施形態の温度補償機能動作では、温度センサー31による温度測定動作および温度補正テーブル記憶部32からの温度補正テーブルの読み出し動作に加えて、個体差補正データ記憶部33からの個体差補正データの読み出し動作を実行することで、個体差温度補償動作を実行する。
【0030】
論理緩急回路36は、分周回路12の各分周段に所定のタイミングでセットもしくはリセット信号を入力することで、デジタル的に基準信号fs1の周期を長くしたり、短くしたりする回路である。
【0031】
周波数調整制御回路37は、発振回路11の負荷容量を調整することにより、発振回路11の発振周波数そのものを調整する回路である。発振回路11は負荷容量を大きくすると、発振周波数が小さくなるため、時刻を遅らすことができる。逆に、負荷容量を小さくすると、発振周波数が大きくなるため、時刻を進ませることができる。
このように、本実施形態では、論理緩急回路36と周波数調整制御回路37とを組み合わせて、歩度を調整する。
【0032】
[通信手段]
通信手段90は、コイル52を介して外部調整装置との間でデータを送信または受信するものであり、
図3に示すように、データ検出回路91と、データ送信回路92と、送信用トランジスター93とを備えている。
データ検出回路91は、
図3および
図4に示すように、コイル52の出力端子MG2に接続されたコンパレーター910を備えて構成されている。コンパレーター910は、コイル52の出力端子MG2に生じる検出電圧と、基準電位VREFとを比較し、検出電圧の大小でデータの「0」、「1」を検出可能に構成されている。データ検出回路91は、検出したデータを、温度補償機能制御回路21に出力する。
【0033】
データ送信回路92は、
図3に示すように、温度補償機能部20によって制御され、送信用トランジスター93を制御する制御信号P3を出力する。
送信用トランジスター93は、コイル52の出力端子MG2と第2の電源ライン82との間に接続されている。
【0034】
[外部調整装置]
外部調整装置100は、時計1に対して充電を行う機能と、時計1から歩度パルスおよび温度センサー31の感温発振信号を受信する機能と、受信したデータに基づいて個体差補正データを作成して時計1に送信する機能とを備える。
このため、外部調整装置100は、
図5に示すように、時計1のコイル52と電磁結合する送受信用のコイル101と、コイル101を介して時計1に対してデータを送信する送信部102と、コイル101を介して時計1からデータを受信する受信部103と、制御部110と、記憶部120とを備える。記憶部120は、時計1から受信した各種データを記憶したり、個体差補正データの算出に必要な情報が記憶される。
【0035】
制御部110は、電力送信制御部111と、命令送信制御部112と、補正データ作成送信制御部113と、周波数測定部115と、データ受信部116とを備える。
電力送信制御部111は、外部調整装置100のコイル101と時計1のコイル52との間で電磁誘導を用いた非接触充電による電力送信制御を行うものである。このため、電力送信制御部111は、予め設定した送電時間の間、送信部102を制御してコイル101に交流電流を供給する。送電時間は、時計1において、通信処理に必要な電力を第2蓄電装置72に蓄電できる時間を予め実験などで求めて設定したものである。
【0036】
命令送信制御部112は、時計1に対して、個体差補正データを作成するために必要な処理を命じる命令を送信する制御部である。具体的には、水晶振動子8の発振信号を分周回路12で分周した分周信号に基づく歩度パルスを出力させる歩度測定命令と、温度センサー31による温度計測を行い、その測定値である感温発振信号を出力させる温度測定命令と、時計1に対して所定データ、例えば、時計1のROM等に記憶された温度センサー31の特性データ等の送信を命じるデータ送信命令とを時計1に送信する。
補正データ作成送信制御部113は、時計1に対して、個体差補正データを作成して送信する制御を行う。
周波数測定部115は、時計1から受信した信号の周波数を測定するものであり、歩度パルスの周波数測定と、感温発振信号の周波数測定とを行う。
データ受信部116は、時計1から送信される温度センサー31の特性データ等を受信する。
【0037】
次に、時計1と外部調整装置100との間の通信処理について説明する。この通信処理は、時計1の生産工程において、ムーブメントを外装ケース2に組み込んで製品状態にした時計1を、一定温度に維持された恒温槽内の外部調整装置100に設置した状態で実行される。
恒温槽の温度を所定温度に設定し、時計1の操作入力手段75であるりゅうず7を2段位置まで引き出す。これにより、
図6に示すように、スイッチ回路73がオフからオンに切り替えられ、第2蓄電装置72を充電したり、第2蓄電装置72に蓄積された電気エネルギーを利用して回転制御装置10を動作できる状態となる。また、りゅうず7を2段位置に引き出すことに伴い、ゼンマイ40が解けることが停止され、発電機50も停止する。また、チョッピングトランジスター56、57はオフ状態に維持され、送信用トランジスター93もオフ状態に維持され、時計1は、電磁誘導による充電可能な状態とされている。
【0038】
次に、外部調整装置100は、電力送信制御部111によって所定の送電時間の間、送電処理を行う。すなわち、外部調整装置100は、電力送信制御部111から時計1への送電用信号を送信部102に出力する。これにより、外部調整装置100は、コイル101に交流電圧を印加し、コイル101で磁界を発生させる。
外部調整装置100のコイル101で発生した磁界により、時計1のコイル52に誘導起電力が発生する。この際、整流回路60は、昇圧用コンデンサー67を備えているので、コイル52で発生する交流電力の半周期分は昇圧用コンデンサー67を充電し、残りの半周期において昇圧用コンデンサー67に充電された電荷も用いて電源回路70、つまり第1蓄電装置71および第2蓄電装置72を充電する。このため、電源回路70への充電波形は、
図6に示すように、半波整流の波形となる。
以上の動作を送電時間、継続することで、スイッチ回路73を介して整流回路60に接続される第2蓄電装置72の電圧は、徐々に上昇し、通信処理に必要な電力が第2蓄電装置72に蓄電される。
図7は、時計1が外部調整装置100から受信する通信フォーマットであり、時計1における受電の期間が送電時間に相当する。
【0039】
外部調整装置100は、送電時間が経過すると、外部調整装置100からの送電を停止する。時計1は、出力端子MG2の波形をデータ検出回路91で検出し、送電が停止したことを検出すると、制御信号P1によってチョッピングトランジスター56をオン、制御信号P2によって第2のチョッピングトランジスター57をオフし、制御信号P3によって送信用トランジスター93をオフとすることで、受信可能な状態とする。
外部調整装置100は、送電時間の経過後、命令送信制御部112によって送信部102を制御することで、同期信号を送信する。時計1は、外部調整装置100からの送信信号を、データ検出回路91を用いて受信可能な状態であり、外部調整装置100からの同期信号もデータ検出回路91で検出できる。
【0040】
時計1は、
図7に示すように、同期信号を受信してからt1期間後に、命令コードの受信を開始する。外部調整装置100の命令送信制御部112は、同期信号からt1期間後、つまり時計1の受信タイミングに合わせて命令コードを送信する。
命令送信制御部112は、歩度測定命令、温度測定命令、データ送信命令を順次、実行する。各命令コードは、2進法のコードであり、送信部102は、例えば、「1」の場合はコイル101に電流を流して磁界を発生させ、「0」の場合はコイル101に電流を流さないことで磁界を発生させないことで、命令コードを送信する。また、外部の磁界ノイズの影響などを考慮し、命令送信制御部112は、同じ命令コードを2回送信している。
【0041】
時計1は、データ検出回路91によって受信した2回の命令コードの一致と、ストローブビットSB=1を検出することで、各命令コードを認識する。時計1は、このような2回の命令コードの一致や、ストローブビットSBの確認により、命令コードを正しく受信できたかを判定できる。
【0042】
時計1は、コイル101からの磁界によってコイル52で誘導起電力が生じると、出力端子MG2の電圧が基準電位VREFを超えるため、データ検出回路91のコンパレーター910はHレベルの信号つまり「1」を出力し、出力端子MG2の電圧が基準電位VREFを下回るとコンパレーター910はLレベルの信号つまり「0」を出力する。時計1の回転制御装置10は、データ検出回路91から入力されるデータによって命令コードを判別する。
【0043】
時計1の回転制御装置10は、命令コードを認識すると、命令コードを受信してからt2期間後に、命令コードの動作を実行する。
また、時計1は、外部調整装置100にデータを送信する場合は、制動制御回路14を介してチョッピングトランジスター56、57を制御し、データ送信回路92を介して送信用トランジスター93を制御して、データ「0」、「1」を送信する。
例えば、データ「1」の送信時は、第1のチョッピングトランジスター56をオン、第2のチョッピングトランジスター57をオフ、送信用トランジスター93をオンにする。これにより、コイル52の出力端子MG2は第2の電源ライン82に接続されて電位VSSとなり、出力端子MG1は第1の電源ライン81に接続されて電位はVDDとなるため、第1の整流用スイッチ61はオン、第2の整流用スイッチ62はオフになる。これにより、コイル52に電流が流れて磁界が発生する。
また、データ「0」の送信時は、第1のチョッピングトランジスター56、第2のチョッピングトランジスター57の両方をオン、送信用トランジスター93をオフにする。これにより、コイル52の出力端子MG1、MG2は第1の電源ライン81に接続されて電位はVDDとなり、整流用スイッチ61、62は両方ともオフになる。これにより、コイル52に電流が流れずに磁界は発生しない。
【0044】
一方、外部調整装置100は、同期信号のタイミングを基準に設定されるデータ検出タイミングで、時計1のコイル52によって発生する磁界の有無を検出し、時計1からのデータを受信する。すなわち、
図8に示すように、データ検出タイミングの期間に、コイル52の出力端子MG2がVSSに変化した場合は、コイル52で磁界が発生し、この磁界をコイル101で検出できるため、受信部103を介してデータ受信部116は、データ「1」を検出する。また、データ検出タイミングの期間に、コイル52の出力端子MG2がVDDに維持された場合は、コイル52で磁界が発生しないため、データ受信部116は、データ「0」を検出する。
また、周波数測定部105は、データ「1」を検出した時間間隔を測定することで、時計1から送信されるデータの周期つまり周波数を測定する。
【0045】
時計1の回転制御装置10は歩度測定命令を認識すると、データ送信回路92を介して発振信号を分周した1Hzの歩度パルスで送信用トランジスター93をオンし、コイル52で磁界を発生させることで歩度パルスを送信する。
外部調整装置100の周波数測定部105は、時計1から受信したデータ「1」を検出した時間間隔を測定することで、時計1から送信される歩度パルスの周期つまり周波数を測定する。
【0046】
時計1の回転制御装置10は温度測定命令を認識すると、データ送信回路92を介して温度センサー31により測定した感温発振信号を送信する。すなわち、感温発振信号の周期に応じて送信用トランジスター93がオンされることで、感温発振信号の周波数でデータ「1」を送信する。
外部調整装置100の周波数測定部105は、時計1から受信したデータ「1」を検出した時間間隔を測定することで、時計1から送信される感温発振信号の周期つまり周波数を測定する。
【0047】
以上の歩度測定と、温度測定とを、恒温槽の温度を3段階に変更して実行する。外部調整装置100の補正データ作成送信制御部113は、各温度での歩度パルスの周波数と、感温発振信号の周波数つまり温度センサー31の測定値とに基づいて個体差補正データを作成し、送信部102およびコイル101を介して時計1に送信する。
補正データ作成送信制御部113は、同期信号を出力してからt1期間経過後に、補正データ書き込み命令およびストローブビットSBを2回送信し、続けて補正データおよびストローブビットSBを2回送信する。
時計1の温度補償機能制御回路21は、2回の補正データ書き込み命令の一致および2回の補正データの一致を認識すると、受信した補正データを個体差補正データ記憶部33に書き込んで更新する。
以上により、ムーブメントを外装ケース2に組み込んだ製品状態で、歩度測定および温度測定を行い、それらの測定データに基づいて個体差補正データを作成し、時計1に送信して個体差補正データ記憶部33に記憶させることができる。
また、時計1の回転制御装置10はデータ送信命令を認識すると、命令内容に応じて所定のデータをROM等から読み出し、データ送信回路92を介して送信用トランジスター93をオン、オフすることで送信する。
外部調整装置100のデータ受信部116は、時計1から受信したデータを解析し、必要に応じて記憶部120に記憶する。
【0048】
以上の温度補償用の個体差補正データの作成や書込処理が終了すると、りゅうず7を0段目に押し込み、スイッチ回路73を切断して第2蓄電装置72を切り離す。これにより、ゼンマイ40が巻き解かれて輪列41および発電機50が駆動し始め、制動制御回路14からの制御信号P1、P2によりローター51および輪列41が調速されて、指針の運針制御が行われる。
【0049】
[実施形態の効果]
本実施形態の時計1は、発電機50のコイル52を用いて外部調整装置100と通信する通信手段90を備えるため、ムーブメントを外装ケース2に組み込んだ製品状態で外部調整装置100と通信できる。このため、個体差補正データ記憶部33に記憶する個体差補正データの作成に必要なデータを外部調整装置100に送信する歩度測定処理や温度測定処理や、外部調整装置100で作成された個体差補正データを時計1に送信して個体差補正データ記憶部33に記憶する処理を、製品状態の時計1で実行できる。このため、時計1の完成後に歩度調整を行うことができ、組み込み歩度シフトも発生しないので、時計1の生産性を向上できる。
また、発電機50のコイル52で通信するためには、発電機50を停止させる必要があるが、第1蓄電装置71に加えて第2蓄電装置72を備えるため、発電機50が停止していてもデータ通信や個体差補正データ記憶部33へのデータの記憶処理を実行できる。このため、電力不足による通信処理の中断や、消費電力が大きな不揮発性メモリーである個体差補正データ記憶部33へのデータ書き込み処理が中断することを防止でき、電源電圧低下によってICで構成される回転制御装置10の動作が停止することも防止できる。
【0050】
第2蓄電装置72はスイッチ回路73を介して第1蓄電装置71に並列に接続されているので、データ通信時およびデータ記憶時にスイッチ回路73を接続して第2蓄電装置72を接続でき、それ以外の発電機50が作動して指針を運針する通常使用時は、スイッチ回路73を切断して第2蓄電装置72を切り離すことができる。したがって、発電機50で発電を開始した場合は、第1蓄電装置71のみを充電すればよいので、第1蓄電装置71の電圧を短時間で上昇でき、回転制御装置10による時計1の制御を早期に開始できて時計1の起動性を向上できる。
通常使用時は、スイッチ回路73を切断して、第2蓄電装置72を切り離すことができるので、第2蓄電装置72に蓄電された電気エネルギーを保持でき、無駄に放電することを防止できる。
【0051】
制動制御回路14から出力される制御信号P1、P2で個別に制御される第1のチョッピングトランジスター56、第2のチョッピングトランジスター57と、データ送信回路92から出力される制御信号P3で制御される送信用トランジスター93とを設けたので、発電機50のコイル52を、外部調整装置100からの電力充電用と、歩度パルス、感温発振信号、ROM等から読み出したデータの送信用と、外部調整装置100から送信される命令コードや個体差補正データの受信用とに、兼用することができる。また、送信用トランジスター93は、歩度測定用および感温発振信号やデータの送信用に兼用できる。このため、回路を削減できて、ICの小型化や低コスト化を実現できる。
【0052】
[変形例]
なお、本開示は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本開示に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、回転検出回路13のコンパレーターと、データ検出回路91のコンパレーター910とを別々に設けていたが、回転検出回路13をデータ検出回路91と兼用して回路を削減してもよい。
第1蓄電装置71および第2蓄電装置72は、それぞれコンデンサーで構成していたが、二次電池で構成してもよい。
発電機50のコイル52を用いて通信するデータは、温度特性に関する個体差補正データに限らず、時計1の制御用のプログラムや各種データ等でもよく、その種類は限定されない。
【0053】
発電機は、コイルを備えたものであればよく、例えば、回転錘で回転するローターを備えた発電機でもよい。また、発電機は、ゼンマイからの機械エネルギーを伝達する輪列を、ガンギ車、アンクル、テンプを用いて調速する機械式時計において、テンプの振動によって発電する発電機でもよい。例えば、テンプのテン真に発電機用のローターを取り付け、このローターの回転によって発電するコイルを通信用に兼用してもよい。また、テンプに永久磁石を設け、この永久磁石の移動で発電するコイルを通信用に兼用してもよい。
【0054】
[まとめ]
本開示の時計は、時刻を表示する指針と、前記指針の動作を制御する制御手段と、発電用のコイルを備える発電機と、データを記憶する記憶装置と、前記コイルで発生した電気エネルギーを蓄電し、前記制御手段に電気エネルギーを供給する第1蓄電装置と、スイッチ回路を介して前記第1蓄電装置に並列に接続され、電気エネルギーを蓄電可能な第2蓄電装置と、前記コイルを介して外部調整装置との間で、前記データの送信または受信を行う通信手段と、を備え、前記スイッチ回路は、前記データの送信時または受信時に接続状態とされ、前記通信手段は、前記第1蓄電装置および前記第2蓄電装置に蓄電された電力によって動作することを特徴する。
このような構成によれば、発電機のコイルを用いて外部調整装置との間でデータの送受信を行う通信手段を備えるので、ムーブメントを外装ケースに組み込んだ製品状態で非接触通信によりデータの送受信を行うことができる。このため、各時計の個体差補正データを作成するためのデータや作成した個体差補正データを、ムーブメントを外装ケースに組み込んだ製品状態で送受信して記憶装置に書き込むことできる。
また、発電機のコイルで通信するためには、発電機を停止させる必要があるが、通信手段を第1蓄電装置に加えて第2蓄電装置に蓄電された電力をも用いて動作できるので、発電機が停止していてもデータ通信や記憶装置へのデータの記憶処理を実行できる。
さらに、第2蓄電装置はスイッチ回路を介して第1蓄電装置に並列に接続されているので、データ通信時およびデータ記憶時、つまり発電機の停止時にスイッチ回路を接続して第2蓄電装置を接続することができる。このため、発電機が作動して指針が運針する通常使用時は、スイッチ回路を切断して第2蓄電装置を切り離し、第1蓄電装置のみを用いることができる。したがって、発電機で発電を開始すれば、第1蓄電装置のみを充電すればよいので、第1蓄電装置の電圧を短時間で上昇でき、時計の制御を早期に開始できる。
データ通信およびデータ記憶が終了した時点でスイッチ回路を切断することで、第2蓄電装置を切り離すことができるので、第2蓄電装置に蓄電された電気エネルギーを保持でき、無駄に放電することを防止できる。
【0055】
本開示の時計において、前記第2蓄電装置の蓄電容量は、前記第1蓄電装置の蓄電容量よりも大きいことが好ましい。
このような構成によれば、第2蓄電装置は、通信処理やデータ記憶処理を実行可能な電力を蓄積できる蓄電容量に設定できる。また、第1蓄電装置は、時計の通常使用時、つまり発電機で発電が行われている場合に必要な電力を蓄電できればよく、蓄電容量を小さく設定できる。このため、発電開始時に第1蓄電装置の電圧を、時計のIC等を駆動可能な電圧に短時間で上昇させることができる。
【0056】
本開示の時計において、前記第2蓄電装置は、前記スイッチ回路を接続した状態で、前記コイルを介して前記外部調整装置から出力された電力を蓄電することが好ましい。
このような構成によれば、第2蓄電装置を外部調整装置によって非接触で充電することができる。このため、第2蓄電装置を時計内部の発電機で充電する必要が無く、大容量のコンデンサーなどで構成した場合も短時間で充電することができる。したがって、通信処理前に外部調整装置で第2蓄電装置を充電することができ、通信処理やデータ記憶処理に必要な電力を確実に確保できる。
【0057】
本開示の時計において、前記スイッチ回路を接続および切断可能な操作入力手段を備え、前記制御手段は、前記スイッチ回路が切断状態の場合に前記指針の制御を実行することが好ましい。
指針が制御される時計の通常動作時は、スイッチ回路が切断されるため、第1蓄電装置のみを発電機に接続して充電することができる。このため、発電機によって、第1蓄電装置および第2蓄電装置の両方を充電する必要が無いため、第1蓄電装置が制御手段を起動できる電圧レベルに上昇するまでの時間を短くできる。
【0058】
本開示の時計において、前記発電機は、ローターを含み、前記通信手段は、前記コイルで受信した前記データを検出するデータ検出回路を含み、前記データ検出回路は、前記ローターの回転を検出する回転検出回路を兼用することが好ましい。
データ検出回路が回転検出回路を兼用することで、これらを別々に設ける場合に比べて回路を削減できる。
【0059】
本開示の時計において、前記通信手段は、前記コイルの一方の端子に接続された送信用トランジスターと、前記送信用トランジスターを制御するデータ送信回路とを備え、前記送信用トランジスターは、歩度測定用トランジスターを兼用することが好ましい。
送信用トランジスターが、歩度測定用トランジスターを兼用することで、これらを別々に設ける場合に比べて回路を削減できる。
【0060】
本開示の時計において、ゼンマイと、前記ゼンマイの機械エネルギーを伝達する輪列とを備え、前記指針は、前記輪列によって駆動され、前記発電機は、前記ゼンマイの前記機械エネルギーを電気エネルギーに変換することで発電し、且つ、前記輪列の回転周期を制御する機能を備え、前記制御手段は、前記発電機を介して、前記指針の動作を制御することが好ましい。
発電機は、ゼンマイの機械エネルギーで駆動される輪列に連動してローターが回転することで発電するため、発電機のローターは一定速度で駆動されて発電能力が制限される。このため、発電機で充電される第1蓄電装置の蓄電容量も小さくなり、発電機が停止する通信処理やデータ記憶処理時に必要な電力を第1蓄電装置のみで確保することは難しい。一方、第1蓄電装置に加えて第2蓄電装置を備えるため、ゼンマイによって輪列とともに駆動されるために発電機の発電能力が制限される時計においても、発電機のコイルを用いて通信処理を行うことができ、通信処理やデータ記憶処理に必要な電力を確保できる。
【0061】
本開示の時計において、水晶振動子と、前記水晶振動子からの発振信号に基づく基準信号を出力する出力回路と、温度を測定する温度測定部と、を備え、前記記憶装置は、前記水晶振動子の温度特性に関する補正データを記憶し、前記制御手段は、前記温度測定部の出力と前記補正データとに基づいて前記基準信号の周波数を補正する温度補償機能を実行可能であり、補正された前記基準信号の周波数に基づいて、前記指針の動作を制御し、前記通信手段は、前記外部調整装置から送信される前記補正データを受信することが好ましい。
水晶振動子の温度特性に関する補正データを用いて基準信号の周波数を補正する温度補償機能を実行できるため、時計を利用している環境の温度が変化しても時刻指示精度を維持できる。また、時計は、通信手段によって外部調整装置から補正データを非接触で受信でき、時計の製品状態で補正データを受信して記憶装置に書き込むことができる。
【0062】
本開示の時計において、前記温度測定部は、温度に応じた発振信号を出力する感温発振器であり、前記通信手段は、前記外部調整装置に前記感温発振器の出力を送信することが好ましい。
温度に応じて発振信号を出力する感温発振器で温度測定部を構成したので、通信手段は、感温発振器の出力である発振信号を出力し、外部調整装置は、発振信号の周波数を検出することで時計の温度測定部で測定された温度を容易に検出できる。
【0063】
本開示の時計は、ゼンマイと、前記ゼンマイの機械エネルギーを伝達する輪列と、発電用のコイルを備え、前記機械エネルギーを電気エネルギーに変換することで発電し、且つ、前記輪列の回転周期を制御する機能を備える調速機を兼用する発電機と、水晶振動子と、前記水晶振動子からの発振信号に基づく基準信号を出力する出力回路と、温度を測定する温度測定部と、前記水晶振動子の温度特性に関する補正データを記憶する記憶装置と、前記コイルを介して外部調整装置との間で前記補正データを受信する通信手段と、前記温度測定部の出力と前記補正データとに基づいて前記基準信号の周波数を補正する温度補償機能を実行する制御手段と、を備えることを特徴とする。
水晶振動子の温度特性に関する補正データを用いて基準信号の周波数を補正する温度補償機能を実行できるため、時計を利用する環境の温度が変化しても時刻指示精度を維持できる。また、時計は、通信手段によって外部調整装置から補正データを非接触で受信でき、時計の製品状態で補正データを受信して記憶装置に書き込むことができる。
【符号の説明】
【0064】
1…時計、2…外装ケース、4A…時針、4B…分針、4C…秒針、8…水晶振動子、10…回転制御装置、13…回転検出回路、14…制動制御回路、20…温度補償機能部、21…温度補償機能制御回路、31…温度センサー、32…温度補正テーブル記憶部、33…個体差補正データ記憶部、36…論理緩急回路、37…周波数調整制御回路、40…ゼンマイ、41…輪列、42…表示装置、50…発電機、51…ローター、52…コイル、55…ブレーキ回路、56…第1のチョッピングトランジスター、57…第2のチョッピングトランジスター、60…整流回路、61…第1の整流用スイッチ、62…第2の整流用スイッチ、70…電源回路、71…第1蓄電装置、72…第2蓄電装置、73…スイッチ回路、75…操作入力手段、81…第1の電源ライン、82…第2の電源ライン、90…通信手段、91…データ検出回路、92…データ送信回路、93…送信用トランジスター、100…外部調整装置、101…コイル、102…送信部、103…受信部、105…周波数測定部、110…制御部、111…電力送信制御部、112…命令送信制御部、113…補正データ作成送信制御部、115…周波数測定部、116…データ受信部、120…記憶部。