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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140100
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】転写方法
(51)【国際特許分類】
   G09F 9/00 20060101AFI20241003BHJP
   H01L 33/00 20100101ALI20241003BHJP
   G09F 9/33 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G09F9/00 338
H01L33/00 H
G09F9/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051095
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 憲治
【テーマコード(参考)】
5C094
5F142
5G435
【Fターム(参考)】
5C094AA46
5C094AA60
5C094BA25
5C094CA19
5C094GB10
5C094HA08
5C094JA01
5F142AA82
5F142FA32
5F142FA50
5F142GA02
5G435AA00
5G435BB04
5G435CC09
5G435KK05
5G435KK10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】基板からパネルにチップを転写するシミュレーションにおいて計算時間を短縮できる転写方法を提供する。
【解決手段】発光素子を備えたドナーと、パネルと、パネルに発光素子を転写させる転写手段と、ドナーとパネルと転写手段との各相対位置を制御する位置制御手段と、ドナー及びパネルの発光素子の各位置情報を記憶する記憶手段と、ドナーからパネルに転写可能な発光素子の数を算出する算出手段とを用い、所定の数まで発光素子が転写されるシミュレーションを各相対位置において行うシミュレーションステップと、転写領域にパネルとドナーが相対するよう配置させる配置ステップと、発光素子をパネルに転写させる転写ステップとを備え、シミュレーションステップでは所定の数より小さい第1の数まで第1のシミュレーションアルゴリズムを用い、第1の数以降は計算量がより多い第2のシミュレーションアルゴリズムを用いてシミュレーションを行う。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光素子が平面的に配列されているドナーと、前記発光素子が前記ドナーから転写されて搭載されるパネルと、前記ドナーから前記パネルに前記発光素子を転写させる転写手段と、前記ドナーと前記パネルと前記転写手段とのそれぞれの相対位置を制御する位置制御手段と、前記ドナーにおける前記発光素子の位置情報及び前記パネルにおける転写された前記発光素子の位置情報を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されたデータを用いて前記パネルに所定の数の前記発光素子を転写するために前記相対位置の順番およびそれぞれの前記相対位置において前記ドナーから前記パネルに転写可能な前記発光素子の数を算出する算出手段と、を用いて前記発光素子を前記パネルに転写する転写方法であって、
前記転写手段は前記ドナーよりも小さい面積の転写領域を有しており、当該転写領域において前記発光素子を転写させることが可能な転写可能位置は複数存在しており、
前記パネルに前記所定の数まで前記発光素子が転写されるシミュレーションを、算出された前記相対位置の順番に従って、各前記相対位置において前記発光素子の転写が行われる前記転写可能位置を用いて行うシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップにより選択された前記相対位置および前記転写可能位置の組み合わせと、その順番に従って、前記位置制御手段により前記転写領域に対して前記パネルおよび前記ドナーのそれぞれの所定の位置が相対するように前記パネルと前記ドナーとを配置させる配置ステップと、
それぞれの前記相対位置および前記転写可能位置の組み合わせにおいて、前記転写手段により前記発光素子を前記パネルに転写させる転写ステップと
を備え、
前記シミュレーションステップでは、前記所定の数よりも小さい第1の数まで第1のシミュレーションアルゴリズムを用い、前記第1の数以降は第2のシミュレーションアルゴリズムを用いてシミュレーションを行い、
前記第2のシミュレーションアルゴリズムは前記第1のシミュレーションアルゴリズムよりも計算量が多いアルゴリズムである、転写方法。
【請求項2】
前記第1のシミュレーションアルゴリズムは、前記相対位置をランダムに順次選択するアルゴリズムであり、
前記第2のシミュレーションアルゴリズムは、前記相対位置および前記転写可能位置のすべての組み合わせに対して前記発光素子が転写されるシミュレーションを行って、その結果に基づいて前記相対位置の順番を算出するアルゴリズムである、請求項1に記載の転写方法。
【請求項3】
前記第1の数は、前記所定の数をnとしたとき、0.9n以上0.9999n以下である、請求項2に記載の転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の液晶ディスプレイに代わるものとしてLEDを使用したディスプレイの開発が進められており、製品化が進みつつある。このようなLEDを使用したディスプレイ(LEDディスプレイ)は、FHD(Full High Definition)パネルであって、赤色LED、緑色LED、青色LEDが1920×1080個、4Kパネルでは3840×2160個、それぞれ格子状の配列にて配線基板に高密度に実装されている。
【0003】
このように配線基板へ高密度に実装される各色LEDとしては、たとえば約50μm×50μmといった微小寸法を有する、いわゆるマイクロLEDが用いられる。このようなマイクロLEDは特許文献1に示すようにサファイアなどの成長基板上に窒化ガリウムの結晶をエピタキシャル成長させる工程などを経て得られ、基板上で上記寸法のチップ状にダイシングされる。このように形成されたLEDチップは、1回もしくは複数回の転写工程を経て成長基板からディスプレイである配線基板へ転写される。その後、熱圧着などの実装工程を経て、配線基板にLEDチップが固定される。
【0004】
LEDチップをディスプレイパネルである配線基板に転写する方法はいくつかあるが、例えば特許文献2,3に開示されているレーザーアブレーション技術を用いた方法が知られている。
【0005】
特許文献2にはレーザーアブレーション技術を用いた素子(LEDチップ)の転写方法が開示されている。また、1つの成長基板上に形成された複数のLEDチップの発光波長には個体差があるが、特許文献3には、LEDディスプレイを製造した際に発光波長の個体差によって色むらが見る人によって感じられないようにする転写方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-170993号公報
【特許文献2】特開2006-41500号公報
【特許文献3】特開2022-135521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に開示された発明は、特許文献2に開示された発明を利用しつつLEDディスプレイに色むらが生じないようにするという新たな課題を解決すべく創作されたものである。特許文献3では転写位置決定部によって発光素子の転写位置を決定することが開示されている。しかしながら、具体的な転写位置の決定方法は記載されていない。1つの基板上には数百万個のLEDチップが存在しており、1つのディスプレイパネルには数十万個のLEDチップを搭載する必要があるが、基板上の数百万個からパネルの数十万個に搭載していく組み合わせは1兆通りを越える場合があり、計算に膨大な時間がかかるという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、基板からパネルにチップを転写するシミュレーションにおいて計算時間を短縮できる転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の転写方法は、複数の発光素子が平面的に配列されているドナーと、前記発光素子が前記ドナーから転写されて搭載されるパネルと、前記ドナーから前記パネルに前記発光素子を転写させる転写手段と、前記ドナーと前記パネルと前記転写手段とのそれぞれの相対位置を制御する位置制御手段と、前記ドナーにおける前記発光素子の位置情報及び前記パネルにおける転写された前記発光素子の位置情報を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されたデータを用いて前記パネルに所定の数の前記発光素子を転写するために前記相対位置の順番およびそれぞれの前記相対位置において前記ドナーから前記パネルに転写可能な前記発光素子の数を算出する算出手段と、を用いて前記発光素子を前記パネルに転写する転写方法であって、前記転写手段は前記ドナーよりも小さい面積の転写領域を有しており、当該転写領域において前記発光素子を転写させることが可能な転写可能位置は複数存在しており、前記パネルに前記所定の数まで前記発光素子が転写されるシミュレーションを、算出された前記相対位置の順番に従って、各前記相対位置において前記発光素子の転写が行われる前記転写可能位置を用いて行うシミュレーションステップと、前記シミュレーションステップにより選択された前記相対位置および前記転写可能位置の組み合わせと、その順番に従って、前記位置制御手段により前記転写領域に対して前記パネルおよび前記ドナーのそれぞれの所定の位置が相対するように前記パネルと前記ドナーとを配置させる配置ステップと、それぞれの前記相対位置および前記転写可能位置の組み合わせにおいて、前記転写手段により前記発光素子を前記パネルに転写させる転写ステップとを備え、前記シミュレーションステップでは、前記所定の数よりも小さい第1の数まで第1のシミュレーションアルゴリズムを用い、前記第1の数以降は第2のシミュレーションアルゴリズムを用いてシミュレーションを行い、前記第2のシミュレーションアルゴリズムは前記第1のシミュレーションアルゴリズムよりも計算量が多いアルゴリズムであることを特徴とする。記憶手段に記憶されたデータには発光素子の位置情報が含まれ、それ以外にもドナーとパネルと転写手段とのそれぞれの相対位置や、シミュレーションにおけるドナーとパネルと転写手段とのそれぞれの相対位置の順番、シミュレーションによる結果なども含まれる。
【0010】
前記第1のシミュレーションアルゴリズムは、前記相対位置をランダムに順次選択するアルゴリズムであり、前記第2のシミュレーションアルゴリズムは、前記相対位置および前記転写可能位置のすべての組み合わせに対して前記発光素子が転写されるシミュレーションを行って、その結果に基づいて前記相対位置の順番を算出するアルゴリズムであってもよい。
【0011】
前記第1の数は、前記所定の数をnとしたとき、0.9n以上0.9999n以下であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
パネルへの発光素子の転写のシミュレーションにおいて、最初は計算量が少ないシミュレーションアルゴリズムを用いて計算し、途中で計算量が計算量が多いシミュレーションアルゴリズムを用いて計算することで、いずれか一方のみのシミュレーションアルゴリズムを用いた場合に比べてシミュレーションにかかる時間と実際に転写を行う時間との合計を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る発光素子の転写装置の模式的な図である。
図2】実施形態に係るドナー、転写手段、転写領域、パネルの相対的な位置関係の一例を示す模式的な図である。
図3】(A)は転写領域に相対しているドナーの領域、(B)は転写領域、(C)は転写領域に相対しているパネルの領域を示す一例である。
図4】実施形態に係るドナーの格子点を示す模式的な図である。
図5】実施形態に係るパネルの格子点を示す模式的な図である。
図6】シミュレーションによる計算時間と転写回数とを示した図である。
図7】本実施形態に係るシミュレーションによる計算時間と転写回数とを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0015】
(実施形態1)
実施形態1は、多数のマイクロLEDのチップが平面的に隣り合って配列されているドナー(ウェハ)から、転写手段によりチップをディスプレイパネルとなるパネル基板に転写する転写方法に関する。転写手段はレーザーリフトオフ(レーザーアブレーション技術)を用いているが、他の方法を用いても構わない。
【0016】
図1に示すように、ドナー20は複数の発光素子22が平面的に配列されており、保持手段25により保持されてパネル30に向き合っている。パネル30は、発光素子22aが転写された面とは反対側の面を載置部32により吸着把持されており、載置部32は移動ステージ42の上に載せられている。なお、保持手段25はチップをエピタキシャル成長させるベースとなる成長基板やウェハに貼り付けられた中間基板などである。
【0017】
転写手段10はレーザー光源11、ガルバノミラー12、Fθレンズ14を備えている。レーザー光源11は1本のレーザー光13を出射する装置である。用いるレーザーとしてはYAGレーザー、可視光レーザー、紫外線レーザーなどを挙げることができる。ガルバノミラー12は2枚のミラーを有し、これらのミラーの位置および角度を制御することで、入射してきた光線を任意の方向へ出射する。
【0018】
転写は以下のように行われる。レーザー光源11から発せられたパルス状のレーザー光13がガルバノミラー12及びFθレンズ14を経由して保持手段25に照射される。レーザー光13は保持手段25を透過して、保持手段25と発光素子22との界面に到達し、この界面においてレーザーアブレーションを生じさせる。このレーザーアブレーションによって発光素子22は保持手段25から剥離して下側に付勢されて、パネル30に転写される。なお、パネル30に転写済みの発光素子には符号22aを付す。
【0019】
転写手段においては、レーザー光13はガルバノミラー12によって光路が制御されて、保持手段25の様々な位置に照射されるが、ガルバノミラー12の位置および角度の変更範囲は限定されている。そのため、図2に示すように、転写手段10において、レーザー光13を照射可能な領域である転写領域15はドナー20及びパネル30に比べて小さい面積となっている。
【0020】
(配置ステップ)
転写領域15がドナー20及びパネル30に比べて小さい面積であるので、パネル30の全面に発光素子22aを必要な数だけ転写させるためには、転写領域15とドナー20とパネル30との相対的な位置を変更してその都度転写を行う必要がある。転写手段10は大がかりな装置であって固定されているので、保持手段25を把持している把持手段41によりドナー20の位置を制御し、パネル30の位置を移動ステージ42により制御する。把持手段41及び移動ステージ42を備えた位置制御手段によって、パネル30の発光素子22aが転写される面に対して平行にドナー20及びパネル30が移動して、転写領域15とドナー20とパネル30との相対的な位置が変わっていく。ドナー20とパネル30とは、選択された所定の位置(領域)が転写領域15に対して相対するように、位置制御手段によって移動されて配置される。
【0021】
(転写ステップ)
図3に示すように、(A)では転写領域15に相対するドナー20の領域に複数の発光素子22が隙間(小さな間隔)を介して隣接して並んでいるのに対し、(C)では転写領域15に相対するパネル30の領域に、ドナー20における発光素子22同士の隣接間隔よりも大きな間隔(数倍から数十倍)で発光素子22aが転写されることになる。転写領域15も(B)に示すようにパネル30の転写間隔と同じ間隔で転写可能位置16が設定されている。なお、図3では転写領域15における転写可能位置16は9個存在している。また、転写領域15と重なっているドナー20の範囲内には、13×13=169個の発光素子22が存在している。パネル30へのすべての発光素子22aの転写が完了するまでは、使用可能な転写可能位置16をすべて使用して転写を行う方が効率よく転写ができて早く転写が完了する。使用可能な転写可能位置16というのは、転写可能位置16に対応するドナー20の位置に発光素子22が存在し、且つ転写可能位置16に対応するパネル30の位置に発光素子22が転写されていない状態のものである。
【0022】
図3では、ドナー20に抜けなく発光素子22が並んでいるため、転写領域15のすべての転写可能位置16を用いてパネル30へ発光素子22を転写することが可能であり、このようにすることで転写効率を良くすることができる。ただ、ドナー20から発光素子22が次第に転写されていってドナー20に発光素子22の抜けが生じ、パネル30上に転写された発光素子22aも増えていくと、状況は変化していく。
【0023】
(シミュレーションステップ)
一般的に1枚のドナー(ウェハ)20の全発光素子22数よりも、パネル30に搭載される全発光素子22a数の方が相当少ないため、1枚のドナー20から複数枚のパネル30に発光素子22を転写できる。
【0024】
ドナー20からパネル30に発光素子22の転写を開始する前に、ドナー20のどの位置の発光素子22を、パネル30のどの位置に搭載するのかについて、パネル30の発光素子搭載位置のすべてに発光素子22を転写できるようにシミュレーションをまず行う。このようなシミュレーションを完了せずに転写を開始してしまうと、パネル30の発光素子搭載位置のすべてに発光素子22を実際に転写できるまで配置ステップ及び転写ステップを繰り返し行っていくと非常に時間が掛かったり、ドナー20に発光素子22が残っていてもシミュレーションや配置を効率よく行うためにドナーと20パネル30の相対的位置が限定されていることで、パネル30への転写が行えずパネル30が完成できない事態に陥る虞もある。
【0025】
このような転写のシミュレーションや配置ステップ及び転写ステップを繰り返すシステムはコンピュータを利用して行う。また、シミュレーションステップでは、ドナー20における発光素子22の位置情報及びパネル30における転写された発光素子22aの位置情報や何回目の配置ステップ及び転写ステップにおいてその発光素子22が転写されたのかという情報等は記憶手段によってデータとして記憶される。このデータには、任意の時点でのドナー20において残存している発光素子22の位置情報が含まれ、このデータを用いてシミュレーションを行う。
【0026】
シミュレーションでは、まずドナー20とパネル30との相対位置を1つ決定する。そしてその相対位置付近で、ドナー20からパネル30に転写する発光素子22を決定して、転写する発光素子22のドナー20上及びパネル30上の位置情報を記憶する。次にドナー20とパネル30との相対位置として別の位置を選択して、その位置付近でのドナー20からパネル30に転写する発光素子22を決定して、転写する発光素子22のドナー20上及びパネル30上の位置情報を記憶する。これを繰り返した後、パネル30の発光素子搭載位置のすべてに発光素子22を転写できる相対位置の選択順番と発光素子22の転写順番とを決定してシミュレーションステップは終了し、次に実際の転写工程を行う。
【0027】
ドナー20における隣接する発光素子22の間隔は数十μmという短い間隔なので、ドナー20とパネル30との相対位置を隣接する発光素子22毎に設定してしまうと、シミュレーションおよび配置ステップに非常に時間がかかってしまう。そこで図4,5に示すように、ドナー20を横仮想線71と縦仮想線72で仕切って格子を作成して格子点27を設定し、同様にパネル30を横仮想線73と縦仮想線74で仕切って格子を作成して格子点37を設定し、これらの格子点27,37を利用してドナー20とパネル30との相対位置を決めることとした。これらの格子の大きさは転写領域15の大きさを考慮して決めている。
【0028】
図4では、ドナー20上の格子点27を3×3=9個設定しており、図5ではパネル30上の格子点を11×13=141個設定している。ドナー20とパネル30との相対位置は、ドナー20の格子点27とパネル30の格子点37とが重なる位置に設定しており、全部で9×141=1269の位置が存在することになる。
【0029】
(第1、第2のシミュレーションアルゴリズム)
本実施形態では2種類のシミュレーションアルゴリズムを組み合わせて1つのパネル30に発光素子22をすべて搭載するシミュレーションを行う。上述したようにシミュレーションでは、ドナー20とパネル30との相対位置を1つ選んで、その位置でドナー20からパネル30に転写する発光素子22を決定することを行う。シミュレーションの結果は記憶手段に記憶される。そして、相対位置の選択と転写する発光素子22の決定というプロセスを繰り返していく。
【0030】
シミュレーションアルゴリズムとしては、ドナー20とパネル30との相対位置をどのように選ぶのか(相対位置選択)、および、ドナー20からパネル30に転写する発光素子22をどのように決定するのか(発光素子選択)、が重要になる。発光素子選択では選択する発光素子22の数を少なくすると、シミュレーションの計算時間および実際の転写工程の時間の双方が長くなってコストが大きくなってしまうので、本実施形態では発光素子選択においてはできるだけ多くの発光素子22を選択して転写することにした。
【0031】
一方、相対位置選択については、そのやり方によってシミュレーションの計算時間と実際に発光素子22の転写を行う転写工程の時間とがそれぞれ変わってくる。相対位置選択は図4,5に示した格子点27,37を利用して、ドナー20の格子点27とパネル30の格子点37とが重なる相対位置を選択する。ドナー20の格子点27とパネル30の格子点37とのすべての組み合わせは1269通りある。さらに、その組み合わせの1つ1つにおいてドナー20とパネル30とを、パネル平面に対してドナー20の発光素子配列ピッチ毎に縦または横に移動させて、パネル30上の空いている発光素子搭載位置にドナー20からいくつ発光素子22を転写できるかをシミュレーションする。
【0032】
ドナー20の発光素子配列ピッチ毎に縦または横に移動させる範囲は、最初の格子点27,37同士が重なる位置において転写領域15と重なっているドナー20の領域(発光素子22が13×13=169個並んでいる範囲)が、パネル30の発光素子搭載位置(既に発光素子22aが搭載されている位置を含む)の少なくとも1つと重なり合う範囲である。ドナー20の発光素子配列ピッチ毎に縦または横に移動させる(ドナー内移動)と、169通りのシミュレーションを行うことになる。
【0033】
ドナー20の格子点27とパネル30の格子点37との1つの組み合わせに対して、ドナー20の発光素子配列ピッチ毎に縦または横に移動させる組み合わせが169通りあるので、格子点27,37のすべての組み合わせでは、1269×169=約21万4千通りのシミュレーションすることになる。これらのシミュレーションの結果の中から、パネル30に最も多くの発光素子22を転写できるシミュレーションを選んで、これで1回目の配置ステップ、転写ステップを行うことを記憶手段に記憶しておく。
【0034】
2回目の配置ステップ、転写ステップも1回目のシミュレーションアルゴリズムと同じやり方でシミュレーションを行って、決定する。以後、パネル30に必要な発光素子22をすべて転写して搭載し終わる状態に達するまで、同じシミュレーションアルゴリズムを用いてシミュレーションを続けていく。このシミュレーションアルゴリズムを全数アルゴリズムと呼ぶことにする。
【0035】
なお、未使用のドナー20を用いて、パネル30に最初に転写を行うシミュレーションでは、いずれのシミュレーションもパネル30に転写できる発光素子22数ほぼ同じになるが、ドナー20から発光素子22が転写されていくにつれて、約25万4千通りのシミュレーションの中ではパネル30に転写できる発光素子22数は大きく変化する。
【0036】
全数アルゴリズムは計算回数(計算量)が多いため、シミュレーションの計算時間が長くなるが、配置ステップと転写ステップの回数は少なくなり、実際に転写を行う時間は短い。
【0037】
上述の全数アルゴリズムとは異なる相対位置選択の方法を採用するアルゴリズムとして、例えばパネル30の格子点37の141個の中から1つを選び、それに対してドナー20の格子点27のすべてとドナー内移動との組み合わせ、即ち9×169=1521通りのシミュレーションをして、これらのシミュレーションの結果の中から、パネル30に最も多くの発光素子22を転写できるシミュレーションを選び、これで1回目の配置ステップ、転写ステップを行うことを記憶して、続いてパネル30の別の格子点37をランダムに1つ選び、同じようにドナー20の格子点27のすべてとドナー内移動との組み合わせのシミュレーションを行う、というアルゴリズム(ランダム選択アルゴリズム)が考えられる。
【0038】
ランダム選択アルゴリズムは、1回の配置ステップ、転写ステップを決定するための計算量が1/141であって少ないため、1回のシミュレーションの計算時間が短くなる。しかし、転写が進んでパネル30上の発光素子22未搭載の位置が非常に少なくなってくると、シミュレーションの回数が増える割には発光素子22を搭載できるシミュレーションを見つけられる割合が非常に低くなり、パネル30への発光素子22搭載の最終盤にシミュレーションの計算時間及び実際の転写回数・転写時間が長くなってしまう。特に、最後の数チップを転写するためのシミュレーションの計算時間及び実際の転写回数・転写時間が非常に長くなってしまう。
【0039】
図6に全数アルゴリズムによるシミュレーションの結果と、ランダム選択アルゴリズムによるシミュレーションの結果とを示す。実際の転写が行われる転写時間は、転写回数にほぼ比例する長さとなる。全数アルゴリズムによるシミュレーションでは、転写を行うための計算時間を符号92で表しており、計算量が多いために比較的長時間の計算時間が必要であることがわかるが、転写回数は少ないため実際の転写時間は短い。また、符号91で表されている転写チップ数は転写の初期から比較的多数のチップが転写されて且つ最後に搭載される数十チップの転写のための転写回数も比較的少ないので、実際の転写時間が比較的短くなる。
【0040】
一方、ランダム選択アルゴリズムによるシミュレーションでは、転写を行うための計算時間を符号82で表しており、短時間で計算されていることがわかるが、符号81で表されている転写チップ数は符号91と比較して、転写回数が増えていってもなかなか増えていかないので、実際の転写時間が長くなってしまう。また、最後に搭載される数十チップの転写のための転写回数も多くなって、実際の転写時間が長くなってしまっている。
【0041】
本実施形態では、上記の特徴を踏まえて、最初にランダム選択アルゴリズムを使用してシミュレーションを行い、途中で全数アルゴリズムに切り替えてシミュレーションを行うことにした。第1のシミュレーションアルゴリズムであるランダム選択アルゴリズムを使用して、パネル30に搭載された発光素子22aが第1の数になるまでシミュレーションを行い、そこから第2のアルゴリズムである全数アルゴリズムを使用してシミュレーションを行う。第1の数は、パネル30への発光素子22全搭載数をnとしたとき0.9n以上0.9999n以下が好ましい。
【0042】
本実施形態に係るシミュレーションの結果を図7に示す。本実施形態では、まず第1のシミュレーションアルゴリズムであるランダム選択アルゴリズムを使用してシミュレーションを行う。符号82aにより示されている計算時間は短いが、転写回数は多い。そして、符号81aにより示されている転写チップ数は転写回数が多い割には増加のペースが小さい。特に、パネル30へ搭載された発光素子22aの数が全体の90%を越えてくると転写チップ数の増加のペースがさらに小さくなる。そこでパネル30へ搭載された発光素子22aの数が0.97nに達した時点で、アルゴリズムを切り替えて第2のアルゴリズムである全数アルゴリズムを使用してシミュレーションを行う。図7では切り替えの時点を符号101及び102により示す。アルゴリズムの切り替え以降の計算時間94は転写回数の1回あたりでは増加するが、1回あたりの転写による転写チップ数93が多くすることができ、第1のアルゴリズムに比べて転写終了までの転写回数を少なくできるので、計算時間と転写時間とのトータルはアルゴリズムを切り替えることで短縮される。
【0043】
本実施形態では最初に計算量が少ない第1のアルゴリズムを用いて発光素子の転写のシミュレーションを行い、シミュレーションを行う回数に比べて転写できる発光素子の数がお幅に減ってきた時点でシミュレーションのアルゴリズムを第2のアルゴリズムにすることで、シミュレーションにかかる時間と実際に発光素子をパネルに転写を行う転写工程の時間との和を、それぞれのアルゴリズム単独でシミュレーションした場合よりも短くすることができる。
【0044】
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本願発明の例示であって、本願発明はこれらの例に限定されず、これらの例に周知技術や慣用技術、公知技術を組み合わせたり、一部置き換えたりしてもよい。また当業者であれば容易に思いつく改変発明も本願発明に含まれる。
【0045】
シミュレーションアルゴリズムとして上記以外のアルゴリズムを用いてもよく、また、3つ以上のアルゴリズムを用いてもよい。シミュレーションアルゴリズムとしては、途中でアルゴリズムを切り替えたときに、少なくとも1度の切り替えにおいて、先のシミュレーションアルゴリズムの方が後のシミュレーションアルゴリズムよりも計算量が少ないものであればよい。
【0046】
実施形態1の第1のアルゴリズムであるランダム選択アルゴリズムにおいて、パネル30の格子点37をランダムに選んでいくと、あるときに選んだ格子点37でのシミュレーションにおける結果としての転写することになる発光素子22の数αに対して、次に選んだ格子点37ではシミュレーションを行ってもαよりも著しく少ない発光素子22しか転写可能とならない場合がある(例えば、何回か前に選択した格子点37を再度選んだ場合)。このような場合は、著しく少ない発光素子22(例えば直前のシミュレーションでの転写可能な発光素子22の数の10%未満)しか選べないシミュレーションの結果は採用しないアルゴリズムとしてもよい。シミュレーションの結果を採用しないとは、その結果に基づく実際の転写を行わないということを意味する。
【0047】
実施形態1の第1のアルゴリズムであるランダム選択アルゴリズムにおいて、パネル30の格子点37をランダムに選んでいく代わりに、あらかじめ決められた順番で選んでいくアルゴリズムにしてもよい。
【0048】
シミュレーションアルゴリズムとして、ドナー20とパネル30とのある相対位置において、ドナー20からパネル30に転写する発光素子22を特定の位置にあるもの、あるいは特定の発光特性を有するものを選ぶアルゴリズムであってもよい。例えば図3に示す、転写領域15における転写可能位置16をすべて使用しないで一部使用にするアルゴリズムにしてもよい。あるいは、ドナー20が備える発光素子22のそれぞれの発光特性(例えば発光波長)も記憶手段に記憶させて、発光波長にばらつきがある場合はパネル30の特定領域に特定の発光波長を有する発光素子22が集中してパネル30に色むら生じることがないよう、発光波長分布に応じてパネル30全体に発光波長のばらつきを均等に存在させるようなアルゴリズムであってもよい。
【0049】
ドナー20とパネル30との相対位置を決める方法は格子点27,37を用いる方法に限定されない。
【符号の説明】
【0050】
10 転写手段
15 転写領域
16 転写可能位置
20 ドナー
22 発光素子
22a 発光素子(パネル上に転写された)
30 パネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7