(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140101
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】フラワーペーストの耐熱性向上用組成物およびフラワーペーストの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/30 20160101AFI20241003BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20241003BHJP
A23L 29/212 20160101ALI20241003BHJP
A23G 3/42 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A23L29/30
A23L9/20
A23L29/212
A23G3/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051096
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】吉條 美由
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真裕子
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 雄一
【テーマコード(参考)】
4B014
4B025
4B041
【Fターム(参考)】
4B014GG07
4B014GG11
4B014GG14
4B014GK03
4B014GL10
4B014GL11
4B014GP01
4B014GP14
4B025LB20
4B025LG14
4B025LG26
4B025LG27
4B025LG28
4B025LG53
4B025LP01
4B025LP10
4B041LC06
4B041LD10
4B041LK12
(57)【要約】
【課題】 フラワーペーストの耐熱性を向上する技術を提供する。
【解決手段】 下記(a)~(d)から選択される糖アルコールからなる、フラワーペーストの耐熱性向上用組成物;(a)ソルビトール、(b)単糖を30~50質量%、二糖を20~55質量%および三糖以上を40質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、(c)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、(d)デキストロース当量が35超100未満の水飴を還元してなる、還元水飴。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~(d)から選択される糖アルコールからなる、フラワーペーストの耐熱性向上用組成物;
(a)ソルビトール、
(b)単糖を30~50質量%、二糖を20~55質量%および三糖以上を40質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(c)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(d)デキストロース当量が35超100未満の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項2】
加熱によるフラワーペーストからの油の分離ないし溶出を抑制するために用いられることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の組成物を、フラワーペーストの材料として配合する工程を有する、フラワーペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の糖アルコールを有効成分とする、フラワーペーストの耐熱性向上用組成物、および、これを用いるフラワーペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラワーペーストは、「Flour(小麦粉)」と「Paste(ペースト)」を合わせた造語であり、でん粉に水、糖、油脂等を加えて加熱しペースト状に仕上げた食品をいう。フラワーペーストは主に菓子やパン等のフィリング材として用いられる。その中でも、特に、食品生地に包んだりトッピングした後に、焼く、蒸すなどの加熱をして用いられるものについては、加熱時に含有する油分が溶出して生地に染み込んだり、ペーストの形状が崩れて生地から流れ出る、包餡した内部で空洞が生じるなどし、食味、食感、外観を損ねて商品価値を低下させることが課題となっている。
【0003】
そこで、加熱をしても油分の溶出や形状変化を起こしにくい、すなわち耐熱性の高いフラワーペーストが求められており、例えば、特許文献1には、中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールを含む油脂を使用することで、耐熱保形性を有する高油分フィリング材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールを一定量(25質量%×30質量%=7.5質量%)以上含む必要があることから、フラワーペーストの配合処方の自由度に欠ける。また、耐熱保形性が良好であることが確認されているものの、含有油分の分離・溶出が抑制されるか否かは不明である。この点、後述する本願実施例で示すように、「油分の分離・溶出」と「保形性」とは、必ずしも相関する性質ではないから、ある特定成分が「保形性を良好にする」からといって「油分の溶出も抑制する」とはいえない。すなわち、係る先行技術を鑑みても、フラワーペーストの耐熱性を向上する技術は十分に供給されている状況とはいえない。
【0006】
本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、フラワーペーストの耐熱性を向上する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、下記(a)~(d)から選択される糖アルコール(本発明において、「所定の糖アルコール」という場合がある。)が、フラワーペーストの加熱に伴って起こる油分の分離・溶出や形状変化を抑制して、耐熱性を向上させることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)本発明に係るフラワーペーストの耐熱性向上用組成物(単に、「本組成物」という場合がある。)は、下記(a)~(d)から選択される糖アルコールからなる;
(a)ソルビトール、
(b)単糖を30~50質量%、二糖を20~55質量%および三糖以上を40質量%以下含有する糖組成である、還元水飴(高糖化還元水飴)、
(c)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴(中糖化還元水飴)、
(d)デキストロース当量が35超100未満の水飴を還元してなる、還元水飴(中糖化~高糖化還元水飴)。
【0009】
(2)本組成物は、加熱によるフラワーペーストからの油の分離ないし溶出を抑制するために用いられるものであってもよい。
【0010】
(3)本発明に係るフラワーペーストの製造方法は、本組成物を、フラワーペーストの材料として配合する工程を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フラワーペーストの耐熱性を向上できる。すなわち、フラワーペーストの加熱に伴って起こる含有油分の分離や溶出、あるいは形状変化を抑制できる。よって、本発明によれば、食品に適用した後、加熱する使用態様のフラワーペーストを用いた食品について、その商品価値を維持ないし向上させることに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】糖アルコールを配合しないフラワーペースト(試料1)および各種の糖アルコールを配合したフラワーペースト(試料2~5)について、加熱前後の外観を示す写真画像である。最下段は、同試料について、加熱後における油の分離・溶出および保形性の程度を評価した結果を示す表である。
【
図2】高糖化還元水飴を15~40質量%配合したフラワーペースト(試料1~5)について、加熱前後の外観を示す写真画像である。最下段は、同試料について、加熱後における油の分離・溶出および保形性の程度を評価した結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明において、「フラワーペースト」は、でん粉、水、糖および油脂を合わせて加熱し、ペースト状に仕上げた食品をいう。
【0015】
ここで、糖は、でん粉などの多糖を含まない糖質(例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖、糖アルコールなど)をいう。また、糖は、所定の糖アルコールのみであってもよく、これら所定の糖アルコール以外の糖を含んでいてもよい。また、所定の糖アルコールは、上記(a)~(d)のうちの1種類であってもよく、複数種類であってもよい。
【0016】
でん粉は、食用とされるいずれのでん粉も用いることができる。具体的には、例えば、馬鈴薯、小麦、甘藷、くず、タピオカ、米、コーン、豆、サゴ等から得られるでん粉、あるいはそれらでん粉を化学的、物理的、酵素的に加工処理したもの(加工でん粉、でん粉分解物など)が例示される。また、でん粉は、穀粉などの澱粉を主体とする粉状の食材であってもよい。穀粉としては、例えば、小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、ジャガイモ粉、テフ粉、ひえ粉、きな粉、大豆粉、ヒヨコ豆粉、エンドウ豆粉、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、片栗粉、くず粉、タピオカ粉、栗粉、どんぐり粉などを例示することができる。
【0017】
油脂は、食用油脂であればいずれも用いることができる。食用油脂には、常温で液体状のもの、常温で固体状のもの、植物性油脂、動物性油脂などがあるが、これらのいずれであってもよい。具体的には、例えば、パーム油、カカオ脂、サル脂、シア脂、ヤシ油、パーム核油、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、米油、ゴマ油、オリーブ油、グレープシード油、落花生油、亜麻仁油、乳脂、ラード、牛脂、魚油等、これら動植物性油脂の分別油、水素添加油、エステル交換油、あるいはこれらの二種以上の混合物等が例示される。
【0018】
フラワーペーストは、でん粉、水、糖および油脂以外の材料(副材料)を含んでいてよい。係る副材料は、フラワーペーストに通常使用される各種材料を例示することができ、具体的には、例えば、丁味素材(チョコレート、ココア、抹茶、コーヒー、ナッツ類、ナッツ類の加工品、果肉、果汁、ドライフルーツ類、芋類、豆類、野菜類、カラメル、酒類、食塩などの調味料)、乳製品(乳、粉乳、練乳、チーズ、バター、生クリーム、乳ホエー、バターミルク、カゼインナトリウム等)、蛋白関連製品(乾燥卵白などの卵白類、加糖卵黄などの卵黄類、大豆タンパク、大豆タンパク分解物、大豆ホエー濃縮物、小麦グルテン、小麦グルテン分解物等)、増粘多糖類(ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、CMC、ローカストビーンガム、ジェランガム等)、乳化剤(モノグリセリド、有機酸モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベート等)、フレーバー、着色料、酸化防止剤、保存料等が例示される。
【0019】
フラワーペーストの「耐熱性を向上する」とは、一旦製造されたフラワーペーストが、再度加熱された際に、性質変化を起こさないこと、あるいは性質変化を起こしたとしても、その程度が小さいことをいう。製造完了後のフラワーペーストを加熱することに伴う性質変化としては、例えば、含有される油分の分離・溶出や、ダレなどの形状変化を例示することができる。
【0020】
なお、食品に適用されたフラワーペーストが加熱されるという場合の加熱方法は、当該食品により任意に設定されるものであり、特に限定されない。加熱方法として、具体的には、例えば、焼く(焼成)、蒸す(蒸製)、揚げる(油ちょう)、茹でるなどが例示される。
【0021】
耐熱性が向上したか否かは、例えば、本組成物を用いたフラワーペーストXと、本組成物を用いていないフラワーペーストYとを同条件下で一定時間加熱した後、性質変化の程度を比較することにより確認できる。それにより、例えば、フラワーペーストXの方がフラワーペーストYよりも油分の分離量や溶出量が小さい、あるいは、Xの方がYよりも、形状変化の程度が小さい、との比較結果が得られれば、本組成物により、耐熱性が向上したと判断することができる。
【0022】
(a)のソルビトールは、ナナカマドの実やリンゴ、プルーンなどにも元来含まれている、六炭糖の単糖アルコールであり、グルコースの還元体である。
【0023】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールである。ここで、水飴は、デンプンを酸や酵素などで糖化して得られる物質であり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴もまた、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。還元水飴は、糖化の程度により高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴に分けられる場合がある。
【0024】
高糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(b)単糖を30~50質量%、二糖を20~55質量%および三糖以上を40質量%以下含有する糖組成、あるいは、(e)単糖を37~50質量%、二糖を26~55質量%、三糖を1~21質量%、四糖を0~10質量%および五糖以上を0~8質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0025】
中糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(c)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成、あるいは、(f)単糖を2~10質量%、二糖を15~55質量%、三糖を15~65質量%、四糖を1~15質量%および五糖以上を1~38質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0026】
なお、本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0027】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0028】
還元水飴は、水飴を還元して製造することから、還元水飴の糖化の程度は、水飴の糖化の程度に準じる。すなわち、原料水飴の糖化の程度が高いほど還元水飴の糖化の程度が高く、原料水飴の糖化の程度が低いほど還元水飴の糖化の程度は低い。水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てが還元糖(ブドウ糖)であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0029】
すなわち、高糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、55超、60以上、65以上、70以上、100未満または(g)55超100未満を例示することができる。
【0030】
また、中糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、35超、37以上、48以下、50以下、55以下または(h)35超55以下を例示することができる。
【0031】
また、中糖化~高糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、(d)35超100未満を例示することができる。
【0032】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0033】
本発明において、糖アルコールは、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。糖アルコールの公知の製造方法としては、原料糖(ソルビトールの場合はグルコース、還元水飴の場合は水飴)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。
【0034】
水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の糖アルコールを作ることができる。
【0035】
所定の糖アルコールは、フラワーペーストの通常の製造過程において、水やでん粉などと同様に、一材料として配合して用いることができる。すなわち、本発明は、フラワーペーストの製造方法も提供する。本方法は、フラワーペーストの材料として本組成物を配合する工程を有する。本方法によれば、耐熱性が向上したフラワーペースト、加熱時の形状変化が抑制されたフラワーペースト、あるいは、加熱時の油の分離・溶出が抑制されたフラワーペーストをつくることができる。なお、材料とは、フラワーペーストを構成する食品材料をいう。
【0036】
フラワーペーストは、材料として本組成物を配合するほかは、通常の方法で製造することができる。係る方法としては、例えば、水と糖(本組成物を含む)とを混合し、ここに油脂を加えて混合攪拌し、さらにでん粉を加えて混合攪拌し、これを加熱しながら練る手順を例示することができる。なお、本組成物を他材料に添加するタイミングや方法は特に限定されず、任意に設定することができる。
【0037】
フラワーペーストにおける所定の糖アルコールの配合量は、所望の味、食感、副材料の有無・種類・量などに応じて適宜設定することができる。例えば、フラワーペースト全体を100質量%として、所定の糖アルコールの配合量の下限は、15質量%超、15質量%以上、16質量%以上、17質量%以上、18質量%以上、19質量%以上、20質量%以上などを例示することができる。また、所定の糖アルコールの配合量の上限は、40質量%以下、39質量%以下、38質量%以下、37質量%以下、36質量%以下、35質量%以下、34質量%以下、33質量%以下、32質量%以下、31質量%以下、30質量%以下、29質量%以下、28質量%以下、27質量%以下、26質量%以下などを例示することができる。
【0038】
本方法は、本発明の特徴を損なわない限り他の工程を含むものであってもよい。係る工程としては、例えば、攪拌工程、混練工程、調味工程、加熱工程、冷却工程、包装工程、殺菌工程などを例示することができる。
【0039】
本発明のフラワーペーストは、優れた耐熱性を有するフィリング材として、パン類や菓子類等の食品製造に用いることができる。特に、フラワーペーストを適用後、加熱調理される食品の製造に好適に用いることができる。フラワーペーストの当該食品への適用態様は、トッピング、包餡、充填、折り込み、練り込み、塗布などが例示されるが、食品の種類、所望の味や食感に応じて任意に設定することができる。本発明のフラワーペーストを使用したパン類の例としては食パン、フランスパン、デニッシュ、スイートロール、イーストドーナツ、菓子パン等が挙げられる。また、本発明のフラワーペーストを使用した菓子類の例としてはクッキー、パイ、シュー、サブレ、スポンジケーキ、バターケーキ、ケーキドーナツ等が挙げられる。
【0040】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0041】
<試験方法>
(1)糖アルコール
糖アルコールは、表1に示す市販品を用いた。
【表1】
【0042】
(2)フラワーペーストの作製
フラワーペーストは下記の手順により作製した。各材料の配合は各実施例に示す。
【0043】
(2-A)糖アルコールを配合したフラワーペースト
[1]脱脂粉乳をサラダ油に加えて攪拌することにより分散させた。
[2]水を糖アルコールに加え、60℃程度に加熱しながら、ホモミキサーを用いて250回転/分で1分間攪拌した。
[3][2]に少しずつ[1]を加え、60℃程度に加熱しながら、ホモミキサーを用いて250回転/分で10分間攪拌した。
[4][3]を60℃程度に加熱しながら、ホモジナイザーを用いて5000回転/分で5分間攪拌した。
[5][4]に澱粉(馬鈴薯澱粉、製品名「エリアンGEL100」、松谷化学工業)を加え、60℃程度に加熱しながら、ホモミキサーを用いて250回転/分で3分間攪拌した。
[6]鍋で[5]を芯温90℃以上になるまで加熱し、3分間加熱しながら練った。
[7][6]を室温にて放冷した後、4℃で保管した。
【0044】
(2-B)糖アルコールを配合しないフラワーペースト
[1]脱脂粉乳をサラダ油に加えて攪拌することにより分散させた。
[2]水に少しずつ[1]を加え、60℃程度に加熱しながら、ホモミキサーを用いて250回転/分で10分間攪拌した。
[3][2]を60℃程度に加熱しながら、ホモジナイザーを用いて5000回転/分で5分間攪拌した。
[4][3]に澱粉を加え、60℃程度に加熱しながら、ホモミキサーを用いて250回転/分で3分間攪拌した。
[5]鍋で[4]を芯温90℃以上になるまで加熱し、3分間加熱しながら練った。
[6][5]を室温にて放冷した後、4℃で保管した。
【0045】
<実施例1>糖アルコールの検討
(1)フラワーペーストの作製
表2に示す配合で、試験方法(2)に記載の方法により試料1~5のフラワーペーストを作製した。なお、合計量を合わせるため、糖アルコールを配合しないフラワーペースト(試料1)における各材料の配合量は、糖アルコールを配合したフラワーペースト(試料2-5)の約1.4倍量とした。
【表2】
【0046】
(2)評価
[2-1]油の分離・溶出
試料1~5のフラワーペーストをアイスクリームディッシャー(直径:4.1cm)ですくい取って略半球形の形状としたものを耐熱容器に入れ、写真撮影した後、150℃のオーブンで10分加熱した。加熱後に写真撮影するとともに、容器内を目視観察して油の分離ないし溶出の程度について下記3段階で評価した。
◎:油の分離や溶出が見られない。
○:少量の油の分離(油浮き)が見られるが溶出は殆ど無い。
×:油が溶出している。
【0047】
[2-2]保形性
試料1~5のフラワーペーストをアイスクリームディッシャー(直径:4.1cm)ですくい取って略半球形の形状としたものを天板に載せ、写真撮影した後、150℃のオーブンで10分加熱した。加熱後に写真撮影するとともに、目視観察して加熱前後の形状変化について下記3段階で評価した。
◎:加熱前の形状をほぼ保っている。
○:ダレが生じているが形状の大きな崩れは無い。
×:加熱前の形状が大きく崩れ、変形している。
【0048】
[2-1]および[2-2]の評価結果を
図1に示す。
図1に示すように、試料1(糖アルコール無し)では、加熱前後で形状は比較的保たれていたものの、多量の油が溶出していた。試料2(ソルビトール)では、加熱後にダレが生じていたが、油の分離・溶出は殆ど無かった。試料3(高糖化還元水飴)では、加熱後に油の分離・溶出はほとんど無く、形状も加熱前とほぼ同じでよく保たれていた。試料4(中糖化還元水飴)では、加熱後にダレおよび油浮きが生じていたが、油の溶出は殆ど無かった。試料5(低糖化還元水飴)では、加熱後に油の溶出および変形が生じていた。
【0049】
すなわち、高糖化還元水飴を配合したフラワーペーストでは、加熱による油の分離・溶出や変形が顕著に抑制されていた。また、ソルビトールまたは中糖化還元水飴を配合したフラワーペーストでは、加熱による油の分離・溶出が顕著に抑制されていた。この結果から、ソルビトール、高糖化還元水飴および中糖化還元水飴は、フラワーペーストにおける耐熱性を向上できることが明らかになった。
【0050】
<実施例2>糖アルコールの配合量の検討
高糖化還元水飴の配合量を20~40質量%の間で変化させて、試験方法(2)に記載の方法により試料1~3のフラワーペーストを作製した。その配合を表3に示す。
【表3】
【0051】
試料1~3のフラワーペーストについて、実施例1(2)[2-1]および[2-2]に記載の方法により油の分離・溶出および保形性を評価した。その結果を
図2に示す。
【0052】
図2に示すように、試料1では、加熱後に油浮きが見られたものの、形は良く保たれていた。試料2では、加熱後に油の分離・溶出は殆ど無く、形も良く保たれていた。試料3では、加熱後にダレが見られたものの、油の分離・溶出は殆ど無かった。
【0053】
すなわち、高糖化還元水飴を20~40質量%配合したフラワーペーストでは、油の分離・溶出および変形のいずれか、またはそのいずれもが、顕著に抑制されていた。この結果から、所定の糖アルコールは、配合量の多少に関わらず、フラワーペーストにおける耐熱性を向上できることが明らかになった。