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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140106
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】積層造形用粉末および積層造形体
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/102 20220101AFI20241003BHJP
   B22F 10/14 20210101ALI20241003BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20241003BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20241003BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241003BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241003BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F10/14
B22F1/05
B22F3/02 M
B33Y70/00
B33Y80/00
B22F10/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051104
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】松本 康享
(72)【発明者】
【氏名】若林 桃子
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA06
4K018AA07
4K018AA10
4K018AA24
4K018AA33
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA13
4K018BA17
4K018BB04
4K018BB10
4K018BC01
4K018BC08
4K018CA09
4K018DA03
4K018DA31
4K018DA32
4K018FA08
4K018KA01
4K018KA25
4K018KA28
4K018KA32
4K018KA53
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】エポキシ樹脂を含むバインダーを用いる積層造形法に供された場合でも、より低温または短時間に積層造形体を製造可能な積層造形用粉末、および、より低温または短時間で造形可能な積層造形体を提供すること。
【解決手段】焼結により金属焼結体となる積層造形体をバインダージェット法で製造するために用いられる積層造形用粉末であって、金属材料を含有する造形用粒子と、前記造形用粒子の表面に設けられ、アミノ基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む被膜と、を備えることを特徴とする積層造形用粉末。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結により金属焼結体となる積層造形体をバインダージェット法で製造するために用いられる積層造形用粉末であって、
金属材料を含有する造形用粒子と、
前記造形用粒子の表面に設けられ、アミノ基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む被膜と、
を備えることを特徴とする積層造形用粉末。
【請求項2】
前記カップリング剤は、直鎖構造を含み、
前記直鎖構造の炭素数は、10以下である請求項1に記載の積層造形用粉末。
【請求項3】
前記アミノ基は、第一級アミンまたは第二級アミンを含む請求項1または2に記載の積層造形用粉末。
【請求項4】
大気雰囲気下、200℃で72時間加熱する加熱処理に供された後、層状に敷き詰められた状態で、θ/2法により25℃で測定された水の接触角が、80°以上150°以下である請求項3に記載の積層造形用粉末。
【請求項5】
レーザー回折式粒度分布測定装置により体積基準での粒度分布を取得し、頻度の累積が小径側から10%であるときの粒径をD10とし、頻度の累積が小径側から50%であるときの粒径をD50とし、頻度の累積が小径側から90%であるときの粒径をD90とするとき、
粒径D50が、1.0μm以上15.0μm以下であり、
比(D90-D10)/D50が、0.8以上2.7以下である請求項1または2に記載の積層造形用粉末。
【請求項6】
請求項1または2に記載の積層造形用粉末と、
前記積層造形用粉末の粒子同士を結着し、エポキシ樹脂を含むバインダーと、
を有することを特徴とする積層造形体。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂は、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物である請求項6に記載の積層造形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形用粉末および積層造形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元の立体物を造形する技術として、近年、金属粉末を用いた積層造形法が普及しつつある。この技術は、立体物について積層方向と直交する面で薄くスライスしたときの断面形状を計算する工程と、金属粉末を層状にならして粉末層を形成する工程と、計算により求めた形状に基づいて粉末層の一部を結合させる工程と、を有し、粉末層を形成する工程と一部を結合させる工程とを繰り返すことにより、立体物を造形する技術である。
【0003】
積層造形法としては、結合させる原理に応じて、熱溶融積層法(FDM : Fused Deposition Modeling)、粉末焼結積層造形法(SLS : Selective Laser Sintering)、バインダージェット法等が知られている。
【0004】
特許文献1には、バインダージェッティング法(バインダージェット法)により、積層造形体を形成するのに用いられる積層造形用粉末であって、金属粉末と、金属粉末の粒子表面に設けられ、官能基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む被膜と、を備える積層造形用粉末が開示されている。また、特許文献1には、積層造形用粉末の平均粒径が3.0μm以上30.0μm以下であること、および、官能基は、環状構造含有基、フルオロアルキル基またはフルオロアリール基を含有すること、が開示されている。
【0005】
また、特許文献1には、上記の積層造形用粉末を用いて粉末層を形成した後、所望の領域にバインダー溶液を供給し、その後、粉末層を加熱することが開示されている。これにより、バインダーの固化または硬化を図り、所望の領域の粒子同士を結着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-122503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の積層造形用粉末では、バインダーの固化または硬化に高温および長時間を要するという課題がある。特にバインダーがエポキシ樹脂を含む場合、硬化速度が遅いことが課題となっている。バインダーの硬化に時間を要する場合、積層造形体の生産性が低下する。また、高温を要する場合、積層造形体の加熱に伴って積層造形体が変形しやすくなる。
【0008】
そこで、エポキシ樹脂を含むバインダーを用いる積層造形法に供された場合でも、より低温または短時間に積層造形体を製造可能な積層造形用粉末の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の適用例に係る積層造形用粉末は、
焼結により金属焼結体となる積層造形体をバインダージェット法で製造するために用いられる積層造形用粉末であって、
金属材料を含有する造形用粒子と、
前記造形用粒子の表面に設けられ、アミノ基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む被膜と、
を備える。
【0010】
本発明の適用例に係る積層造形体は、
本発明の適用例に係る積層造形用粉末と、
前記積層造形用粉末の粒子同士を結着し、エポキシ樹脂を含むバインダーと、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】積層造形体を製造する方法を説明するための工程図である。
図2図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図3図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図4図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図5図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図6図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図7図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図8図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図9図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図10図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図11】実施形態に係る積層造形用粉末を模式的に示す断面図である。
図12図11に示す積層造形用粉末の製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の積層造形用粉末および積層造形体の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
1.積層造形体の製造方法
まず、積層造形用粉末を用いた積層造形体の製造方法について説明する。
【0014】
図1は、積層造形体を製造する方法を説明するための工程図である。図2ないし図10は、それぞれ図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。なお、本願の各図では、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸およびZ軸を設定している。各軸は、矢印で表され、先端側を「プラス側」、基端側を「マイナス側」とする。以下の説明では、特に、Z軸のプラス側を「上」とし、Z軸のマイナス側を「下」とする。また、X軸と平行な両方向をX軸方向、Y軸と平行な両方向をY軸方向、Z軸と平行な両方向をZ軸方向という。
【0015】
図1ないし図10に示す積層造形体の製造方法は、積層造形法の一種であるバインダージェット法と呼ばれる方法であり、図1に示すように、粉末層形成工程S102と、バインダー溶液供給工程S104と、繰り返し工程S106と、を有する。バインダージェット法は、造形物を支持するサポート構造が不要であるため、複雑な形状の積層造形体を作製可能であるという利点を有する。
【0016】
粉末層形成工程S102では、図3に示すように、積層造形用粉末1を敷いて粉末層31を形成する。バインダー溶液供給工程S104では、粉末層31の所定領域にバインダー溶液4を供給し、粉末層31中の粒子同士を結着させ、結着層41を得る。繰り返し工程S106では、粉末層形成工程S102およびバインダー溶液供給工程S104を1回以上繰り返すことにより、図10に示す積層造形体6を得る。以下、各工程について順次説明する。
【0017】
作製した積層造形体6は、焼結処理に供されることにより、金属焼結体となる。得られる金属焼結体には、積層造形体の形状が反映されるため、これにより、複雑な形状の金属焼結体を効率よく製造することができる。
【0018】
1.1.積層造形装置
まず、粉末層形成工程S102の説明に先立ち、積層造形装置2について説明する。
【0019】
積層造形装置2は、粉末貯留部211および造形部212を有する装置本体21と、粉末貯留部211に設けられた粉末供給エレベーター22と、造形部212に設けられた造形ステージ23と、装置本体21上において移動可能に設けられたコーター24、ローラー25および液体供給部26と、を備えている。
【0020】
粉末貯留部211は、装置本体21に設けられ、上部が開口している凹部である。この粉末貯留部211には、積層造形用粉末1が貯留される。そして、粉末貯留部211に貯留されている積層造形用粉末1の適量が、コーター24によって造形部212へ供給されるようになっている。
【0021】
粉末貯留部211の底部には、粉末供給エレベーター22が配置されている。粉末供給エレベーター22は、積層造形用粉末1を載せた状態で、上下方向に移動可能になっている。粉末供給エレベーター22を上方に移動させることにより、この粉末供給エレベーター22に載置されている積層造形用粉末1を押し上げ、粉末貯留部211からはみ出させる。これにより、はみ出した分の積層造形用粉末1を造形部212側へ移動させることができる。
【0022】
造形部212は、装置本体21に設けられ、上部が開口している凹部である。造形部212の内部には、造形ステージ23が配置されている。造形ステージ23上には、コーター24によって積層造形用粉末1が層状に敷かれるようになっている。また、造形ステージ23は、積層造形用粉末1が敷かれた状態で、上下方向に移動可能になっている。造形ステージ23の高さを適宜設定することにより、造形ステージ23上に敷かれる積層造形用粉末1の量を調整することができる。
【0023】
コーター24およびローラー25は、粉末貯留部211から造形部212にかけて、X軸方向に移動可能になっている。コーター24は、積層造形用粉末1を引きずることにより、積層造形用粉末1を均して、層状に敷くことができる。ローラー25は、均された積層造形用粉末1を上から圧縮する。
【0024】
液体供給部26は、例えばインクジェットヘッドやディスペンサー等で構成され、造形部212において、X軸方向およびY軸方向に移動可能になっている。そして、液体供給部26は、目的とする量のバインダー溶液4を目的とする位置に供給することができる。なお、液体供給部26は、1つのヘッドに複数の吐出ノズルを備えていてもよい。そして、複数の吐出ノズルからバインダー溶液4を同時または時間差を伴って吐出するようになっていてもよい。
【0025】
1.2.粉末層形成工程
次に、上述した積層造形装置2を用いた粉末層形成工程S102について説明する。粉末層形成工程S102では、造形ステージ23上に積層造形用粉末1を敷いて粉末層31を形成する。具体的には、図2および図3に示すように、コーター24を用い、粉末貯留部211に貯留している積層造形用粉末1を造形ステージ23上に引きずり、均一な厚さに均す。これにより、図4に示す粉末層31を得る。この際、造形ステージ23の上面を、造形部212の上端よりも下げるとともに、下げる量を調整することにより、粉末層31の厚さを調整することができる。
【0026】
次に、粉末層31をローラー25で厚さ方向に圧縮しながら、図4に示すように、ローラー25をX軸方向に移動させる。これにより、粉末層31における積層造形用粉末1の充填率を高めることができる。なお、ローラー25による圧縮は、必要に応じて行えばよく、省略してもよい。また、ローラー25とは異なる手段、例えば押さえ板等により、粉末層31を圧縮するようにしてもよい。
【0027】
1.3.バインダー溶液供給工程
バインダー溶液供給工程S104では、図5に示すように、液体供給部26により、粉末層31のうち、造形しようとする積層造形体6に対応する形成領域60にバインダー溶液4を供給する。バインダー溶液4は、バインダーと、溶媒または分散媒と、を含有する液体である。バインダー溶液4が供給された形成領域60には、図6に示す結着層41が得られる。結着層41では、積層造形用粉末1の粒子同士がバインダーによって結着され、自重によって壊れない程度の保形性を有している。
【0028】
なお、バインダー溶液4の供給と同時または供給後に、結着層41を加熱するようにしてもよい。これにより、バインダー溶液4に含まれる溶媒や分散媒の揮発を促進するとともに、バインダーの硬化による粒子同士の結着を促進する。なお、バインダーが光硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂を含む場合には、加熱に代えて、または、加熱とともに光照射や紫外線照射を行うようにすればよい。
【0029】
加熱する場合の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上250℃以下であるのが好ましく、70℃以上200℃以下であるのがより好ましい。これにより、結着層41に十分な熱量を与えることができ、溶媒や分散媒の揮発を十分に促進することができる。
【0030】
バインダー溶液4は、エポキシ樹脂を含む液体であれば、特に限定されない。バインダー溶液4が含む溶媒または分散媒としては、例えば、水、アルコール類、ケトン類、カルボン酸エステル類等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を含む混合液が用いられる。
【0031】
エポキシ樹脂としては、分子内に1個以上のエポキシ基を含有する化合物であれば、特に制限はなく、各種のものを用いることができる。
【0032】
具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールB型エポキシ樹脂、ビスフェノールC型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;上記ビスフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を水添して得られる水添ビスフェノール型ジグリシジルエーテル、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,3-プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,2-プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,8-オクタンジオールジグリシジルエーテル、1,10-デカンジオールジグリシジルエーテル、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1,1,1-トリ(グリシジルオキシメチル)プロパン、1,1,1-トリ(グリシジルオキシメチル)エタン、1,1,1-トリ(グリシジルオキシメチル)メタン、1,1,1,1-テトラ(グリシジルオキシメチル)メタン、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテル等の脂肪族多価アルコールのグリシジルエーテル;プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の多価アルコールに2種以上のアルキレンオキシドを付加することによって得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ化合物等のノボラック型エポキシ化合物;ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-エポキシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、イソプロピリデンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキシド、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、1,2-エポキシ-2-エポキシエチルシクロヘキサン等の脂環式エポキシ化合物;フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等の二塩基酸のグリシジルエステル;フッ素化エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ポリブタジエンあるいはNBRを含有するゴム変性エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAのグリシジルエーテル等の難燃型エポキシ樹脂、p-オキシ安息香酸グリシジルエーテルエステル型エポキシ樹脂、m-アミノフェノール型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン系エポキシ樹脂、ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂、各種脂環式エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン、ヒダントイン型エポキシ樹脂、石油樹脂等のような不飽和重合体のエポキシ化物等が例示される。
【0033】
なお、エポキシ樹脂は、これらに限定されるものではなく、一般に使用されているエポキシ樹脂が使用され得る。また、これらのエポキシ樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
また、エポキシ樹脂は、分子内に2個以上のエポキシ基を含有する化合物であることが好ましい。これにより、エポキシ樹脂の硬化物が三次元的網目を作りやすくなる。その結果、硬化物を含む積層造形体6の機械的強度をより高めることができる。
【0035】
なお、バインダー溶液4は、エポキシ樹脂以外の樹脂成分を含んでいてもよい。このような樹脂成分としては、例えば、脂肪酸、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル、ステアリン酸、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。なお、これらの樹脂成分の添加量は、質量比でエポキシ樹脂より少ないことが好ましい。
【0036】
1.4.繰り返し工程
繰り返し工程S106では、結着層41を複数積層してなる積層体が、所定の形状になるまで、粉末層形成工程S102およびバインダー溶液供給工程S104を1回以上繰り返す。つまり、これらの工程を合計で2回以上行う。これにより、図10に示す、立体的な積層造形体6を得る。
【0037】
具体的には、まず、図6に示す結着層41の上に、図7に示すように、新たな粉末層31を形成する。次に、図8に示すように、新たに形成した粉末層31のうち、形成領域60にバインダー溶液4を供給する。これにより、図9に示す結着層41が得られる。これらの操作を繰り返すことにより、図10に示す積層造形体6が得られる。
【0038】
なお、粉末層31のうち、結着層41を構成しなかった積層造形用粉末1は回収され、必要に応じて再使用、すなわち再び積層造形体6の製造に供される。
以上のようにして得られた積層造形体6は、後述する焼結処理に供される。
【0039】
1.5.金属焼結体の製造方法
積層造形体6に焼結処理を施すことにより、金属焼結体が得られる。焼結処理では、積層造形体6を加熱し、焼結反応を生じさせる。
【0040】
焼結温度は、積層造形用粉末1の構成材料や粒径等によって異なるが、一例として、980℃以上1330℃以下であるのが好ましく、1050℃以上1260℃以下であるのがより好ましい。また、焼結時間は、0.2時間以上7時間以下であるのが好ましく、1時間以上6時間以下であるのがより好ましい。
【0041】
焼結処理の雰囲気は、例えば、水素等の還元性雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。減圧雰囲気の圧力は、常圧(100kPa)未満であれば、特に限定されないが、10kPa以下であるのが好ましく、1kPa以下であるのがより好ましい。
【0042】
なお、上記のような条件で行う焼結処理を「本焼結」とするとき、必要に応じて積層造形体6に対し、本焼結の前処理に相当する「仮焼結」または「脱脂」を行うようにしてもよい。これにより、積層造形体6に含まれるバインダーの少なくとも一部を除去したり、一部に焼結反応を生じさせたりすることができる。これにより、本焼結を行うとき、意図しない変形等を抑制することができる。
【0043】
仮焼結や脱脂の温度は、金属粉末が焼結を完了させない程度の温度であれば、特に限定されないが、100℃以上500℃以下であるのが好ましく、150℃以上300℃以下であるのがより好ましい。また、仮焼結や脱脂の時間は、前記温度範囲で、5分以上であるのが好ましく、10分以上120分以下であるのがより好ましく、20分以上60分以下であるのがさらに好ましい。仮焼結や脱脂の雰囲気は、例えば、大気雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
【0044】
以上のようにして得られる金属焼結体は、例えば、自動車用部品、自転車用部品、鉄道車両用部品、船舶用部品、航空機用部品、宇宙輸送機用部品のような輸送機器用部品、パソコン用部品、携帯電話端末用部品、タブレット端末用部品、ウェアラブル端末用部品のような電子機器用部品、冷蔵庫、洗濯機、冷暖房機のような電気機器用部品、工作機械、半導体製造装置のような機械用部品、原子力発電所、火力発電所、水力発電所、製油所、化学コンビナートのようなプラント用部品、時計用部品、金属食器、宝飾品、眼鏡フレームのような装飾品の全体または一部を構成する材料として用いることができる。
【0045】
2.積層造形用粉末
次に、実施形態に係る積層造形用粉末について説明する。
図11は、実施形態に係る積層造形用粉末を模式的に示す断面図である。
【0046】
本実施形態に係る積層造形用粉末1は、バインダージェット法に用いられる粉末である。
【0047】
図11に示す積層造形用粉末1は、金属材料を含有する造形用粒子11と、造形用粒子11の表面を覆う被膜12と、を含む表面被覆粒子13を複数有する。被膜12は、アミノ基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む。なお、被膜12は、造形用粒子11の表面全体を覆っているのが好ましいが、覆っていない部分があってもよい。
【0048】
2.1.造形用粒子
造形用粒子11が含有する金属材料は、特に限定されず、焼結性を有している材料であれば、いかなる材料であってもよい。一例としては、Fe、Ni、Co、Ti等の単体、またはこれらを主成分とする合金、金属間化合物等が挙げられる。
【0049】
造形用粒子11が含有する金属材料には、Fe基金属材料が好ましく用いられる。Fe基金属材料は、原子数比でFeの含有率が50%超である金属材料を指す。Fe基金属材料は、入手が容易であるとともに、機械的特性に優れる金属焼結体の製造が可能である。
【0050】
Fe基金属材料としては、例えば、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系(二相系)ステンレス鋼のようなステンレス鋼、低炭素鋼、炭素鋼、耐熱鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Co合金等が挙げられる。
【0051】
このうち、Fe基金属材料には、ステンレス鋼が好ましく用いられる。ステンレス鋼は、機械的強度および耐食性に優れる鋼種である。このため、ステンレス鋼で構成された積層造形用粉末1を用いることにより、機械的強度および耐食性に優れ、形状精度の高い金属焼結体を効率よく製造することができる。
【0052】
オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS301、SUS301L、SUS301J1、SUS302B、SUS303、SUS304、SUS304Cu、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS304J1、SUS304J2、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS312L、SUS315J1、SUS315J2、SUS316、SUS316L、SUS316N、SUS316LN、SUS316Ti、SUS316J1、SUS316J1L、SUS317、SUS317L、SUS317LN、SUS317J1、SUS317J2、SUS836L、SUS890L、SUS321、SUS347、SUSXM7、SUSXM15J1等が挙げられる。
【0053】
フェライト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS405、SUS410L、SUS429、SUS430、SUS430LX、SUS430J1L、SUS434、SUS436L、SUS436J1L、SUS445J1、SUS445J2、SUS444、SUS447J1、SUSXM27等が挙げられる。
【0054】
マルテンサイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS403、SUS410、SUS410S、SUS420J1、SUS420J2、SUS440A等が挙げられる。
【0055】
析出硬化系ステンレス鋼としては、例えば、SUS630、SUS631等が挙げられる。
【0056】
オーステナイト・フェライト系(二相系)ステンレス鋼としては、例えば、SUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4L等が挙げられる。
【0057】
なお、上記の記号は、JIS規格に基づく材料記号である。本明細書におけるステンレス鋼の種類は、上記材料記号で区別される。
【0058】
積層造形体6は、種類の異なるステンレス鋼を含有する積層造形用粉末1を用いて製造されてもよい。積層造形体6を2つの部位に分け、一方の部位を第1のステンレス鋼を含有する積層造形用粉末1を用いて作製し、他方の部位を第2のステンレス鋼を含有する積層造形用粉末1を用いて作製するようにしてもよい。
【0059】
2.2.被膜
被膜12は、アミノ基を持つカップリング剤を造形用粒子11の表面に反応させることによって造膜されたものである。したがって、被膜12は、アミノ基を持つカップリング剤に由来する化合物を含み、アミノ基に由来する性質を示す。
【0060】
カップリング剤に由来するアミノ基が被膜12に付与されると、積層造形用粉末1とエポキシ樹脂とが接触したとき、アミノ基がエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤として作用する。したがって、未硬化のエポキシ樹脂、つまり、エポキシ基を含有するモノマーを含む積層造形用のバインダーが、積層造形用粉末1で構成された粉末層31に供給されたとき、エポキシ樹脂の硬化が促進される。これにより、より低温で、または、より短時間にバインダーを硬化させることができる。その結果、作製される積層造形体6において、熱や時間の経過に伴う変形を抑えることができ、寸法精度の高い積層造形体6を作製することができる。また、硬化不良が発生しにくくなるため、積層造形体6の機械的強度を高めることもできる。
【0061】
アミノ基としては、例えば、第一級アミンを含む官能基、第二級アミンを含む官能基、第三級アミンを含む官能基等が挙げられる。また、カップリング剤は、これらのアミノ基の2種以上を持っていてもよい。
【0062】
このうち、アミノ基は、第一級アミンまたは第二級アミンを含むことが好ましく、第一級アミンを含むことがより好ましい。これらは、反応性が高いため、さらに低温で、または、さらに短時間にバインダーを硬化させることができる。
【0063】
また、アミノ基を持つカップリング剤は、比較的低い臨界表面張力を有する。臨界表面張力は、低いほど疎水性が高くなる。このため、アミノ基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む被膜12は、比較的高い疎水性を有する。これにより、積層造形用粉末1は、多湿環境下でも優れた流動性をもたらす。
【0064】
被膜12の平均厚さは、特に限定されないが、100nm以下であるのが好ましく、0.5nm以上50nm以下であるのがより好ましく、1nm以上10nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、被膜12を維持するのに必要な膜厚を確保することができる。なお、被膜12の平均厚さは、例えば、積層造形用粉末1の粒子断面を透過電子顕微鏡で観察したとき、観察像から取得した被膜12の膜厚を5点以上で平均した値である。
【0065】
また、被膜12は、前述した化合物の分子が複数層、例えば2層以上10層以下の層数で重なった多層膜であってもよいが、前述した化合物による単分子膜であるのが好ましい。単分子膜である被膜12では、その厚さを最小限に抑えることができる。その結果、被膜12の占有率が低く、造形用粒子11の占有率が高い積層造形体6を得ることができる。このような積層造形体6は、焼結処理時の収縮率を抑えられるため、寸法精度の高い金属焼結体が得られる点で有用である。
【0066】
なお、単分子膜は、カップリング剤の自己組織化により形成された膜である。すなわち、カップリング剤によれば、造形用粒子11の表面に親和性を有する分子が表面上に緻密に並ぶことで、分子1つ分の厚さの膜を効率よく形成することができる。
【0067】
被膜12が単分子膜であるか否かは、例えば、X線光電子分光法とイオンスパッタリングとを併用した、深さ方向の定性定量分析によって特定することができる。具体的には、カップリング剤に由来する成分の濃度を深さ方向に沿って調べる。そして、カップリング剤に由来する成分の濃度が高くなっている領域が、カップリング剤の分子サイズ以下であれば、被膜12が単分子膜であると評価することができる。
【0068】
なお、被膜12には、上記化合物以外の任意の成分が含まれていてもよいが、その場合、上述した効果を確実に得るという観点において、上記化合物の質量比率が50%超であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0069】
2.2.積層造形用粉末の各種特性
次に、積層造形用粉末1の各種特性について説明する。
【0070】
2.2.1.粒度分布
本実施形態に係る積層造形用粉末1について、レーザー回折式粒度分布測定装置により体積基準で粒度分布を得たとき、頻度の累積が小径側から10%であるときの粒径をD10とする。同様に、頻度の累積が小径側から50%、90%であるときの粒径をD50、D90とする。粒度分布の測定装置としては、例えば、日機装株式会社製マイクロトラック、HRA9320-X100が挙げられる。
【0071】
積層造形用粉末1の粒径D50は、好ましくは1.0μm以上15.0μm以下とされ、より好ましくは3.0μm以上12.0μm以下とされ、さらに好ましくは4.0μm以上10.0μm以下とされる。これにより、積層造形用粉末1の焼結性と流動性の双方を両立させることができる。その結果、緻密で機械的強度および造形精度の高い積層造形体6を得ることができ、それを用いて最終的に高密度で表面精度の高い金属焼結体を製造することができる。
【0072】
なお、粒径D50が前記下限値を下回ると、積層造形用粉末1の粒子同士が凝集しやすくなるおそれがある。凝集が発生すると、積層造形用粉末1の流動性が低下し、金属焼結体の密度が低下するおそれがある。一方、粒径D50が前記上限値を上回ると、積層造形用粉末1の焼結性が低下し、金属焼結体の密度が低下するおそれがある。
【0073】
粒径D50に対する粒径D90とD10との差の比(D90-D10)/D50は、0.8以上2.7以下であるのが好ましく、1.0以上2.4以下であるのがより好ましく、1.2以上2.2以下であるのがさらに好ましい。これにより、積層造形用粉末1の粒径が比較的揃った状態となり、流動性を高めやすくなるとともに、焼結性も確保することができる。なお、比(D90-D10)/D50が前記下限値を下回ると、粒度分布が広がることになり、流動性が低下するおそれがある。一方、比(D90-D10)/D50が前記上限値を上回った場合、逆に粒度分布が狭すぎて、充填率を高めにくくなり、焼結性が低下するおそれがある。
【0074】
2.2.2.水の接触角
本実施形態に係る積層造形用粉末1は、大気雰囲気下、200℃で72時間加熱する加熱処理に供された後、層状に敷き詰められた状態で測定される水の接触角が80°以上150°以下であることが好ましく、90°以上140°以下であることがより好ましく、100°以上130°以下であることがさらに好ましい。
【0075】
このような水の接触角を示す積層造形用粉末1は、熱処理に繰り返し供された場合でも、アミノ基が失活せず、エポキシ樹脂の硬化を促進する。したがって、かかる積層造形用粉末1は、複数回の再使用に供された場合でも、より低温で、または、より短時間にバインダーを硬化させることができる。その結果、作製される積層造形体6において、熱や時間の経過に伴う変形を抑えることができ、最終的に、寸法精度の高い金属焼結体が得られる。
【0076】
また、上記のような水の接触角を示す積層造形用粉末1は、凝集しにくく、流動性が高い粉末である。したがって、かかる積層造形用粉末1は、複数回の再使用に供された場合でも、充填性に優れる。これにより、複数回再使用した積層造形用粉末1を用いた場合でも、緻密で機械的強度および寸法精度の高い積層造形体6が得られる。そして、このような積層造形体6に焼結処理を施すことで、相対密度、機械的強度および寸法精度に優れる金属焼結体を製造可能な積層造形体6が得られる。
【0077】
また、水の接触角が前記範囲内にある積層造形用粉末1は、バインダー溶液4との親和性に優れる。つまり、バインダー溶液4がエポキシ樹脂を溶解する有機溶剤を含む場合、積層造形用粉末1は、その有機溶剤との親和性に優れる。このため、積層造形用粉末1を敷いて粉末層31を形成した後、バインダー溶液4を供給したとき、粉末層31の形成領域60にバインダー溶液4が浸透しやすくなる。これにより、形成領域60にバインダー溶液4を均一に浸透させることができるので、寸法精度の高い積層造形体6を製造することができる。
【0078】
なお、水の接触角が前記下限値を下回ると、エポキシ樹脂の硬化を十分に促進することができないおそれがある。また、積層造形用粉末1が吸湿して凝集しやすくなり、流動性が低下するおそれがある。一方、水の接触角は前記上限値を上回ってもよいが、その場合、疎水性が大きすぎるため、バインダー溶液4の組成によっては、バインダー溶液4の浸透性が低下するおそれがある。そうすると、積層造形体6の均質性が低下するおそれがある。
【0079】
積層造形用粉末1における水の接触角の測定は、以下の手順で行える。まず、積層造形用粉末1に対し、大気雰囲気下、200℃で72時間加熱する加熱処理を施す。次に、両面テープを平坦面上に貼り付ける。次に、加熱処理を経た積層造形用粉末1を両面テープ上に敷き詰める。両面テープには、例えば、日東電工株式会社製、ポリエステル粘着テープNo.31B、総厚0.080mmタイプが用いられる。そして、板状の部材により、敷き詰められた積層造形用粉末1を軽く押さえつける。次に、余分な積層造形用粉末1をエアーブロワーで吹き飛ばす。これにより、接触角測定用の試験体が得られる。エアーブロワーとしては、例えば、カメラ等のクリーニングに用いられる手動式エアーブロワーが挙げられる。そして、エアーブロワーの先端を、試験体から3cm離した位置に固定し、3回ブローする。
【0080】
次に、協和界面科学株式会社製、接触角測定装置、DropMaster500により、試験体についての水の接触角をθ/2法により測定する。測定条件は、気温25℃、相対湿度50%±5%とする。また、水の滴下量を3μLとし、着滴後5秒後に測定する。
【0081】
3.積層造形用粉末の製造方法
次に、積層造形用粉末1の製造方法の一例について説明する。
【0082】
図12は、図11に示す積層造形用粉末1の製造方法の一例を示す工程図である。なお、以下の説明では、前述した積層造形用粉末1を製造する方法を一例として説明する。
【0083】
図12に示す積層造形用粉末の製造方法は、造形用粒子11を準備する粉末準備工程S202と、被膜12を形成する被膜形成工程S204と、を有する。
【0084】
3.1.粉末準備工程
粉末準備工程S202では、造形用粒子11として用いる金属粉末を準備する。
【0085】
金属粉末は、いかなる製造方法で製造されたものであってもよく、例えばアトマイズ法により製造される。アトマイズ法では、溶融金属を坩堝から流下させ、高速で噴射された液体または気体のような流体に衝突させる。流体に衝突した溶融金属は、惰性落下するので、その際に液滴の球形化が図られる。その結果、比較的小径であるにもかかわらず、円形度が高く、比表面積が比較的小さい金属粉末を製造することができる。
【0086】
アトマイズ法には、冷却媒の種類や装置構成の違いによって、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等がある。
【0087】
溶融金属の流下量は、装置サイズ等によって異なるが、1.0[kg/分]超20.0[kg/分]以下であるのが好ましく、2.0[kg/分]以上10.0[kg/分]以下であるのがより好ましい。これにより、一定時間に流下する溶融金属の量を最適化することができるので、粒度分布が狭く、それぞれ球形化が十分に図られた金属粉末を効率よく製造することができる。その結果、比較的小径であるにもかかわらず、円形度が高く、比表面積が比較的小さい金属粉末を製造することができる。
【0088】
坩堝における溶融金属の温度(鋳込み温度)は、積層造形用粉末の構成材料の融点Tm[℃]に対し、Tm+100℃以上Tm+350℃以下に設定されるのが好ましく、Tm+180℃以上Tm+320℃以下に設定されるのがより好ましく、Tm+250℃以上Tm+300℃以下に設定されるのがさらに好ましい。これにより、各種アトマイズ法で微細化されて固化に至るとき、溶融金属として存在している時間を従来よりも長く確保することができる。その結果、小径でも、円形度が高く、比表面積が比較的小さい金属粉末を製造することができる。
【0089】
また、各種アトマイズ法では、溶融金属を流下させたときの細流の外径は、特に限定されないが、3.0mm以下であるのが好ましく、0.3mm以上2.0mm以下であるのがより好ましく、0.5mm以上1.5mm以下であるのがさらに好ましい。これにより、溶融金属に流体を均一に当て易くなるので、適度な大きさの液滴が均一に飛散し易くなる。その結果、上述したような平均粒径の金属粉末を、狭い粒度分布で製造することができる。
【0090】
また、製造した金属粉末に対し、必要に応じて、分級を行ってもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
【0091】
その後、製造した金属粉末にアニール処理(熱処理)を施してもよい。これにより、造形用粒子11がSiを含む場合、造形用粒子11の表面においてSiの濃度が上昇しやすくなる。その結果、造形用粒子11の表面は、被膜12の密着性を高められる下地となる。
【0092】
アニール処理の条件は、特に限定されないが、好ましくは、加熱温度を600℃以上1000℃以下とし、加熱時間を10分以上3時間以下とし、より好ましくは、加熱温度を700℃以上900℃以下とし、加熱時間を30分以上2時間以下とする。これにより、被膜12の密着性を特に高めた造形用粒子11が得られる。なお、加熱雰囲気は、例えば大気雰囲気とする。
【0093】
一方、造形用粒子11の表面には、被膜12の下地となる下地膜を各種成膜法によって形成してもよい。成膜法としては、気相成膜法が好ましく用いられ、ALD(Atomic Layer Deposition)法がより好ましく用いられる。ALD法では、原子層レベルで原料を堆積させることができるので、緻密で膜厚が薄い下地膜を形成することができる。また、ALD法では、凹部や陰になる部分への原料や酸化剤等の回り込みが良好である。このため、ALD法を用いることにより、被覆率の高い下地膜を形成することができる。その結果、後述する被膜形成工程S204において、被膜12の被覆率も高めることができる。
【0094】
なお、粉末準備工程S202は、造形用粒子11を入手できるのであれば、上記のように製造しなくてもよい。
【0095】
3.2.被膜形成工程
被膜形成工程S204では、造形用粒子11の表面に被膜12を形成する。本工程では、アミノ基を持つカップリング剤を造形用粒子11に反応させる。これにより、造形用粒子11の表面にカップリング剤を付着させる。
【0096】
この操作としては、例えば、以下の3つの操作が挙げられる。
第1の操作としては、造形用粒子11とカップリング剤の双方をチャンバー内に投入した後、チャンバー内を加熱する操作が挙げられる。
【0097】
第2の操作としては、造形用粒子11をチャンバー内に投入した後、造形用粒子11を撹拌しながらチャンバー内にカップリング剤を噴霧する操作が挙げられる。
【0098】
第3の操作としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の第1級アルコールに、水、カップリング剤、アンモニアや水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液および造形用粒子11を入れて撹拌し、ろ過後乾燥させる操作が挙げられる。
【0099】
カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等が挙げられる。
【0100】
次の化学式は、シランカップリング剤の分子構造の一例である。
【0101】
【化1】
【0102】
上記式のXは官能基、Yはスペーサー、ORは加水分解性基である。なお、Xはアミノ基であり、Rは、例えばメチル基、エチル基等である。
【0103】
スペーサーYとしては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基、アルキレンエーテル基等が挙げられる。スペーサーYは、加水分解性基ORと官能基Xとの間に設けられる結合基である。
【0104】
また、スペーサーYが直鎖構造を含む場合、直鎖構造の炭素数は、特に限定されないが、10以下であるのが好ましく、1以上8以下であるのがより好ましく、2以上6以下であるのがさらに好ましい。直鎖構造の炭素数が前記範囲内であれば、直鎖構造の長さが最適化されるため、被膜12の安定性が向上する。その結果、複数回の再使用に供された場合でも、より低温で、または、より短時間にバインダーを硬化させることができる積層造形用粉末1が得られる。
【0105】
なお、直鎖構造の炭素数が前記下限値を下回ってもよいが、その場合、加水分解性基とアミノ基との距離が近くなりすぎるため、アミノ基の配向性が悪化して、アミノ基がエポキシ樹脂に作用しにくくなるおそれがある。一方、直鎖構造の炭素数が前記上限値を上回った場合、カップリング剤に由来する化合物が倒れ込みやすくなり、アミノ基の配向性が悪化するおそれがある。
【0106】
なお、直鎖構造とは、炭素原子が連続して直列に結合している並びのことをいう。そして、直鎖構造の炭素数は、直鎖構造中で連続して結合している炭素原子の数である。
【0107】
加水分解性基は、例えばアルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、アセトキシ基、イソシアネート基等であり、このうち、アルコキシ基の場合、加水分解によってシラノールが生じる。このシラノールと造形用粒子11の表面に生じた水酸基とが反応し、カップリング剤が造形用粒子11の表面に付着する。前述したSi含有率が前記範囲内であれば、カップリング剤がムラなく均一に付着しやすくなる。その結果、被覆率が高く、単分子層に近い被膜12が得られる。
【0108】
このような加水分解性基は、カップリング剤の1分子内に少なくとも1つ含まれていればよいが、2つ以上含まれているのが好ましく、上記式のように3つ以上の加水分解性基が含まれているのがより好ましい。例えば加水分解性基がアルコキシ基であるカップリング剤は、ジアルコキシ基を含有するのが好ましく、トリアルコキシ基を含有するのがより好ましい。トリアルコキシ基を含有するカップリング剤は、造形用粒子11の表面に生じた3つの水酸基と反応する。このため、造形用粒子11に対して良好な密着性を有する。また、トリアルコキシ基を含有するカップリング剤は、造膜性にも優れるため、連続性に優れた被膜12を得ることができる。このような被膜12は、造形用粒子11に対する密着性および安定性が特に良好であり、積層造形用粉末1の耐熱性および流動性をより高めるのに寄与する。
【0109】
なお、1分子内の加水分解性基の数の上限値は、特に設定されなくてもよいが、6つ以下であるのが好ましい。これにより、被膜12の成膜を制御しやすくなり、被膜12の膜厚を均一化しやすくなる。
【0110】
ここで、アミノ基を持つカップリング剤について例示する。
アミノ基を持つカップリング剤としては、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノオクチルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ベンジル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビニルベンジル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(6-アミノヘキシルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、N,N’-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン等が挙げられる。
【0111】
アミノ基含有シランカップリング剤の具体例としては、いずれも信越化学工業社製のKBE-903、X-12-972F、XBM-6803、KBM-573、KBM-575、KBM-602、KBM-603、KBM-903、KBM-6103、X-12-5263HP等が挙げられる。また、アミノ基含有シランカップリング剤の具体例としては、いずれもダウ・東レ社製のZ-6610、Z-6611、OFS-6020、Z-6094、Z-6883、OFS-6032、Z-6269、SZ-6032等が挙げられる。さらに、アミノ基含有シランカップリング剤の具体例としては、いずれも東京化成工業社製のA0439、B2548、P1458、T2246、T3733、A0774、A0876、A2628、A3128、D1980、T3242、A1923、D4328、T1255、B6036、T2826、T2796等が挙げられる。
【0112】
また、官能基Xは、アミノ基以外に、任意の有機基を持っていてもよい。かかる有機基としては、例えば、フェニル基のようなアリール基が挙げられる。これにより、芳香環を含むエポキシ樹脂と、被膜12と、の親和性をより高めることができる。その結果、エポキシ樹脂の硬化をさらに促進することができる。また、粉末層31に対するバインダー溶液4の浸透性をさらに高めることができる。
【0113】
カップリング剤の投入量は、特に限定されないが、造形用粒子11に対して0.01質量%以上1.00質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上0.50質量%以下であるのがより好ましい。
【0114】
また、カップリング剤は、チャンバー内に静置、チャンバー内に噴霧といった方法で供給される。
【0115】
その後、カップリング剤が付着した造形用粒子11を加熱する。これにより、造形用粒子11の表面に被膜12が形成され、積層造形用粉末1が得られる。また、加熱により、未反応のカップリング剤を除去することができる。
【0116】
カップリング剤が付着した造形用粒子11の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上300℃以下であるのが好ましく、100℃以上250℃以下であるのがより好ましい。加熱時間は、10分以上24時間以下であるのが好ましく、30分以上10時間以下であるのがより好ましい。加熱処理の雰囲気としては、例えば、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気等が挙げられる。
【0117】
4.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る積層造形用粉末1は、焼結により金属焼結体となる積層造形体6をバインダージェット法で製造するために用いられる積層造形用粉末であって、金属材料を含有する造形用粒子11と、造形用粒子11の表面に設けられる被膜12と、を備える。被膜12は、アミノ基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む。
【0118】
このような構成によれば、積層造形用粉末1とエポキシ樹脂とが接触したとき、アミノ基がエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤として作用する。したがって、未硬化のエポキシ樹脂を含む積層造形用のバインダーが、積層造形用粉末1で構成された粉末層31に供給されたとき、エポキシ樹脂の硬化が促進される。これにより、より低温で、または、より短時間にバインダーを硬化させることができる。その結果、作製される積層造形体6において、熱や時間の経過に伴う変形を抑えることができ、寸法精度の高い積層造形体6を作製することができる。また、硬化不良が発生しにくくなるため、積層造形体6の機械的強度を高めることもできる。
【0119】
また、カップリング剤は、直鎖構造を含んでいてもよい。この直鎖構造の炭素数は、10以下であることが好ましい。
【0120】
このような構成によれば、直鎖構造の長さが最適化されるため、被膜12の安定性が向上する。その結果、複数回の再使用に供された場合でも、より低温で、または、より短時間にバインダーを硬化させることができる積層造形用粉末1が得られる。
【0121】
また、アミノ基は、第一級アミンまたは第二級アミンを含むことが好ましい。
これらは、反応性が高いため、さらに低温で、または、さらに短時間にバインダーを硬化させることができる。
【0122】
また、大気雰囲気下、200℃で72時間加熱する加熱処理に供された後、層状に敷き詰められた状態で、θ/2法により25℃で測定された水の接触角が、80°以上150°以下であることが好ましい。
【0123】
このような構成によれば、熱処理に繰り返し供された場合でも、アミノ基が失活せず、エポキシ樹脂の硬化を促進する積層造形用粉末1が得られる。かかる積層造形用粉末1は、複数回の再使用に供された場合でも、より低温で、または、より短時間にバインダーを硬化させることができる。
【0124】
また、前記実施形態に係る積層造形用粉末1は、レーザー回折式粒度分布測定装置により体積基準での粒度分布を取得し、頻度の累積が小径側から10%であるときの粒径をD10とし、頻度の累積が小径側から50%であるときの粒径をD50とし、頻度の累積が小径側から90%であるときの粒径をD90とするとき、粒径D50が、1.0μm以上15.0μm以下であり、比(D90-D10)/D50が、0.8以上2.7以下であることが好ましい。
【0125】
このような構成によれば、積層造形用粉末1の焼結性と流動性の双方を両立させることができる。その結果、緻密で機械的強度および造形精度の高い積層造形体6を得ることができる。
【0126】
前記実施形態に係る積層造形体6は、積層造形用粉末1と、積層造形用粉末1の粒子同士を結着し、エポキシ樹脂を含むバインダーと、を有する。
【0127】
このような積層造形体6は、積層造形用粉末1とエポキシ樹脂とが接触したとき、アミノ基がエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤として作用する。したがって、未硬化のエポキシ樹脂を含む積層造形用のバインダーが、積層造形用粉末1で構成された粉末層31に供給されたとき、エポキシ樹脂の硬化が促進される。これにより、より低温で、または、より短時間にバインダーを硬化させることができる。その結果、作製される積層造形体6において、熱や時間の経過に伴う変形を抑えることができ、寸法精度の高い積層造形体6が得られる。また、硬化不良が発生しにくくなるため、積層造形体6の機械的強度を高めることもできる。
【0128】
また、エポキシ樹脂は、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物であることが好ましい。
【0129】
これにより、エポキシ樹脂の硬化物が三次元的網目を作りやすくなる。その結果、硬化物を含む積層造形体6の機械的強度をより高めることができる。
【0130】
以上、本発明の積層造形用粉末および積層造形体を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば本発明の積層造形用粉末および積層造形体は、前記実施形態に任意の成分が付加されたものであってもよい。
【実施例0131】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
5.積層造形用粉末の製造
水アトマイズ法により、サンプルNo.1~22の積層造形用粉末に用いる金属粉末を作製した。次に、得られた金属粉末に対し、カップリング剤を用いて被膜を形成した。これにより、積層造形用粉末を得た。金属粉末の鋼種、積層造形用粉末の代表粒径、カップリング剤の構成、および、加熱処理後の水の接触角は、表1ないし表4に示すとおりである。
【0132】
【表1】
【0133】
また、表2ないし表4に示す化学式の記号は、以下の化合物に対応している。
A-1:3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-903)
A-2:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-603)
A-3:3-(6-アミノヘキシルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン(東京化成工業社製、A3128)
A-4:N-2-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-6803)
A-5:N,N’-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(信越化学工業社製、X-12-5263HP)
A-6:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-573)
【0134】
なお、表2ないし表4では、各サンプルNo.の積層造形用粉末のうち、本発明に相当するものを「実施例」、本発明に相当しないものを「比較例」とした。
【0135】
6.積層造形用粉末の評価
6.1.エポキシ樹脂の硬化性
各積層造形用粉末について、以下の手順で、エポキシ樹脂の硬化性を評価した。
【0136】
まず、各積層造形用粉末0.1を秤量し、直径0.5インチの樹脂チューブ内に詰めた。なお、同一の積層造形用粉末を詰めた樹脂チューブを3本ずつ用意した。次に、エポキシ樹脂エマルション1mLを、純水1mLで希釈して、バインダー溶液を調製した。エポキシ樹脂エマルションには、ADEKA社製、EM-058を使用した。調製したバインダー溶液を、各樹脂チューブ内に1mL滴下し、これを60℃の恒温槽で加熱する硬化処理を行った。
【0137】
硬化処理の開始から30分後、60分後および90分後に、それぞれ1本ずつ樹脂チューブを恒温槽から取り出した。次に、取り出した樹脂チューブ内から積層造形用粉末を押し出した。そして、押し出した積層造形用粉末の状態を目視にて観察し、観察結果を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2ないし表4に示す。
【0138】
A:積層造形用粉末の体積の90%以上がエポキシ樹脂によって結着している
B:積層造形用粉末の体積の50%超90%未満がエポキシ樹脂によって結着している
C:積層造形用粉末の体積の30%超50%未満がエポキシ樹脂によって結着している
D:積層造形用粉末の体積の30%以下がエポキシ樹脂によって結着している
なお、表2ないし表4には、使用したエポキシ樹脂の官能数(分子内のエポキシ基の数)を示している。
【0139】
6.2.積層造形体の寸法精度
各積層造形用粉末を用い、バインダージェット法により、直方体形状をなす積層造形体を作製した。バインダー溶液には、6.1.と同様の溶液を使用した。また、バインダージェット法におけるバインダー使用量(固形分の質量比率)を、積層造形用粉末の70質量%とした。次に、得られた積層造形体の寸法を測定した。次に、寸法の狙い値からのずれ幅を算出し、狙い値に対するずれ幅の比率の絶対値を、積層造形体の寸法精度とした。そして、算出した寸法精度を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2ないし表4に示す。
【0140】
A:寸法精度が1%未満である
B:寸法精度が1%以上2%未満である
C:寸法精度が2%以上3%未満である
D:寸法精度が3%以上である
なお、表2ないし表4には、使用したエポキシ樹脂の官能数(分子内のエポキシ基の数)を示している。
【0141】
6.3.積層造形体の機械的強度
各積層造形用粉末を用い、バインダージェット法により、直方体形状をなす積層造形体を作製した。バインダー溶液には、6.1.と同様の溶液を使用した。また、バインダージェット法におけるバインダー使用量(固形分の質量比率)を、積層造形用粉末の70質量%とした。作製した積層造形体のサイズは、長さ40mm、幅20mm、厚さ5mmであった。
【0142】
次に、作製した積層造形体について、3点曲げ試験治具を用い、曲げ荷重を測定した。そして、下記式により、積層造形体の曲げ応力σを算出した。
【0143】
【数1】
【0144】
なお、上記式において、Fは曲げ荷重、Lは3点曲げ試験治具の支点間距離、bは積層造形体の幅、hは積層造形体の厚さである。そして、算出結果を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2ないし表4に示す。
【0145】
A:積層造形体の機械的強度が高い(曲げ応力σが25N/cm以上である)
B:積層造形体の機械的強度がやや高い(曲げ応力σが20N/cm以上25N/cm未満である)
C:積層造形体の機械的強度がやや低い(曲げ応力σが15N/cm以上20N/cm未満である)
D:積層造形体の機械的強度が低い(曲げ応力σが15N/cm未満である)
なお、表2ないし表4には、使用したエポキシ樹脂の官能数(分子内のエポキシ基の数)を示している。
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】
【0149】
6.4.評価結果に対する考察
表2ないし表4に示すように、各実施例の積層造形用粉末は、エポキシ樹脂を含むバインダー溶液を用いた場合、より短時間でエポキシ樹脂を硬化させ得ることが認められた。また、硬化の温度も十分に低い温度で済んでいることから、各実施例の積層造形用粉末を用いることで、より低温または短時間に積層造形体を製造可能であることが認められた。そして、各実施例の積層造形用粉末を用いることで、製造された積層造形体の寸法精度を高められること、および、得られる積層造形体の機械的強度も十分に高いことが認められた。
【符号の説明】
【0150】
1…積層造形用粉末、2…積層造形装置、4…バインダー溶液、6…積層造形体、11…造形用粒子、12…被膜、13…表面被覆粒子、21…装置本体、22…粉末供給エレベーター、23…造形ステージ、24…コーター、25…ローラー、26…液体供給部、31…粉末層、41…結着層、60…形成領域、211…粉末貯留部、212…造形部、S102…粉末層形成工程、S104…バインダー溶液供給工程、S106…繰り返し工程、S202…粉末準備工程、S204…被膜形成工程
図1
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