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特開2024-140109絶縁物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器
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  • 特開-絶縁物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140109
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】絶縁物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20241003BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20241003BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20241003BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241003BHJP
   B22F 1/102 20220101ALI20241003BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20241003BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241003BHJP
   C22C 45/02 20060101ALN20241003BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20241003BHJP
   B22F 9/02 20060101ALN20241003BHJP
   B22F 9/08 20060101ALN20241003BHJP
   B22F 1/08 20220101ALN20241003BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/26
H01F27/255
B22F1/00 Y
B22F1/102 100
B22F1/16 100
B22F3/00 B
C22C45/02 A
C22C38/00 303S
B22F9/02 B
B22F9/08 A
B22F9/08 M
B22F1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051107
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】若林 桃子
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017AA06
4K017BA06
4K017BB04
4K017BB13
4K017BB16
4K017CA07
4K017DA02
4K017DA05
4K017FA09
4K017FA17
4K018BA13
4K018BB04
4K018BB07
4K018BC28
4K018BC29
4K018BD01
4K018KA43
4K018KA61
5E041AA02
5E041AA04
5E041AA05
5E041AA07
5E041AA11
5E041BC01
5E041BC05
5E041BC08
5E041CA02
5E041NN05
(57)【要約】
【課題】耐湿性に優れ、吸湿に伴う絶縁性や流動性の低下が抑制されている絶縁物被覆軟磁性粉末、かかる絶縁物被覆軟磁性粉末を含む圧粉磁心および磁性素子、ならびに、前記磁性素子を備える電子機器を提供すること。
【解決手段】軟磁性粉末と、前記軟磁性粉末の粒子表面を被覆し、セラミックスを含む無機絶縁膜と、前記無機絶縁膜の表面を被覆し、疎水性官能基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む有機膜と、を有し、前記無機絶縁膜の平均厚さが、5nm以上100nm以下であり、大気圧、気温30℃、相対湿度80%の環境下に、24時間放置した後、カールフィッシャー法により250℃で測定された水分量が、30ppm以上400ppm以下であることを特徴とする絶縁物被覆軟磁性粉末。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末と、
前記軟磁性粉末の粒子表面を被覆し、セラミックスを含む無機絶縁膜と、
前記無機絶縁膜の表面を被覆し、疎水性官能基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む有機膜と、
を有し、
前記無機絶縁膜の平均厚さが、5nm以上100nm以下であり、
大気圧、気温30℃、相対湿度80%の環境下に、24時間放置した後、カールフィッシャー法により250℃で測定された水分量が、30ppm以上400ppm以下であることを特徴とする絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項2】
前記セラミックスは、酸化ケイ素または酸化アルミニウムを含む請求項1に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項3】
前記無機絶縁膜は、前記軟磁性粉末の粒子より小径であり、かつ、前記セラミックスで構成されているセラミック粒子を有する請求項1または2に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項4】
前記有機膜の平均厚さは、前記無機絶縁膜の平均厚さより薄い請求項1または2に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項5】
前記疎水性官能基は、炭素数が1以上6以下の直鎖状アルキル基である請求項1または2に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項6】
前記疎水性官能基は、環状構造含有基、フルオロアルキル基またはフルオロアリール基である請求項1または2に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項7】
請求項1または2に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末を含むことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項8】
請求項7に記載の圧粉磁心を備えることを特徴とする磁性素子。
【請求項9】
請求項8に記載の磁性素子を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軟磁性金属からなる粒子核と、その粒子核の表面に形成された絶縁膜と、で構成される軟磁性粒子が開示されている。また、粒子核は、軟磁性金属を酸化させることにより形成された酸化膜を有することが開示されている。さらに、絶縁膜は、無機ガラス被膜またはゾルゲル反応生成物であることが開示されている。なお、ゾルゲル反応生成物は、炭素数8以上の直鎖部を有する炭化水素基を含むことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-060995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の軟磁性粒子では、絶縁膜が、ガラスやゾルゲル反応生成物のような無機材料で構成されている。無機材料で構成された絶縁膜は、絶縁性が良好な一方、吸湿性が高いため、絶縁膜を持つ軟磁性粒子を保管や輸送等するとき、意図せず吸湿することがある。絶縁膜が吸湿すると、粒子間の絶縁性や粒子の流動性が低下する。その結果、軟磁性粒子を用いて作製された圧粉磁心の絶縁性や圧粉密度の低下を招く。
【0005】
そこで、耐湿性に優れ、吸湿に伴う絶縁性や流動性の低下が抑制されている絶縁物被覆軟磁性粉末の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の適用例に係る絶縁物被覆軟磁性粉末は、
軟磁性粉末と、
前記軟磁性粉末の粒子表面を被覆し、セラミックスを含む無機絶縁膜と、
前記無機絶縁膜の表面を被覆し、疎水性官能基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む有機膜と、
を有し、
前記無機絶縁膜の平均厚さが、5nm以上100nm以下であり、
大気圧、気温30℃、相対湿度80%の環境下に、24時間放置した後、カールフィッシャー法により250℃で測定された水分量が、30ppm以上400ppm以下である。
【0007】
本発明の適用例に係る圧粉磁心は、
本発明の適用例に係る絶縁物被覆軟磁性粉末を含む。
【0008】
本発明の適用例に係る磁性素子は、
本発明の適用例に係る圧粉磁心を備える。
【0009】
本発明の適用例に係る電子機器は、
本発明の適用例に係る磁性素子を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末の一粒子を模式的に示す断面図である。
図2】絶縁物被覆軟磁性粉末を製造する方法を説明するための工程図である。
図3】トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
図4】閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
図5】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。
図6】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。
図7】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の絶縁物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0012】
1.絶縁物被覆軟磁性粉末
まず、実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末について説明する。図1は、実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末1の一粒子を模式的に示す断面図である。なお、以下の説明では、絶縁物被覆軟磁性粉末1の一粒子を「絶縁物被覆軟磁性粒子4」ともいう。
【0013】
図1に示す絶縁物被覆軟磁性粒子4は、軟磁性粒子2と、軟磁性粒子2の表面に設けられた絶縁被膜3と、を有する。このうち、軟磁性粒子2は、後述する軟磁性材料を含んでいる。絶縁被膜3は、軟磁性粒子2の表面を被覆するように設けられ、絶縁性を有する。なお、本明細書における被覆とは、軟磁性粒子2の表面全体を覆う状態の他、表面の一部を覆う状態も含む概念である。また、以下の説明では、軟磁性粒子2の集合物を、「軟磁性粉末」ともいう。
【0014】
後述するように、絶縁物被覆軟磁性粒子4は、耐湿性に優れ、吸湿に伴う絶縁性や流動性の低下が抑制されている。このため、絶縁物被覆軟磁性粉末1を圧粉してなる圧粉体では、吸湿した場合でも絶縁物被覆軟磁性粒子4間の絶縁性が良好であるとともに、高い充填性が得られるために圧粉密度が高くなる。これにより、耐電圧および磁気特性が良好な圧粉磁心が得られる。
【0015】
1.1.軟磁性粒子
軟磁性粒子2は、軟磁性材料で構成される。軟磁性材料としては、例えば、Fe、NiおよびCoのうちの少なくとも1種を主成分とする、つまり、原子数比でこれらの元素を50%以上含む材料が挙げられる。また、軟磁性材料は、これらの主成分となる元素の他、目標とする特性に応じて、Cr、Nb、Cu、Al、Mn、Mo、Si、Sn、B、C、P、TiおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。また、軟磁性材料には、本実施形態の効果を損なわない範囲で、不可避的不純物が含まれていてもよい。不可避的不純物とは、原料や製造時に意図せずに混入する不純物である。不可避的不純物には、上述した元素以外のあらゆる元素が含まれるが、一例として、O、N、S、Na、Mg、K等が挙げられる。
【0016】
軟磁性材料の具体例としては、ケイ素鋼のようなFe-Si系合金、センダストのようなFe-Si-Al系合金の他、Fe-Ni系、Fe-Co系、Fe-Ni-Co系、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系、Fe-Cr系、Fe-Cr-Al系のようなFe系合金、Ni-Si-B系、Ni-P-B系のようなNi系合金、Co-Si-B系のようなCo系合金等の各種合金が挙げられる。
【0017】
このような組成の軟磁性材料を用いることにより、透磁率や磁束密度等の磁気特性が高く、また、保磁力が低い絶縁物被覆軟磁性粒子4が得られる。
【0018】
軟磁性材料において前述した主成分の含有率は、原子数比で50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましい。これにより、絶縁物被覆軟磁性粒子4の透磁率や磁束密度等の磁気特性を特に高めることができる。
【0019】
軟磁性材料を構成する組織は、特に限定されず、結晶組織、非晶質(アモルファス)組織、または、微結晶質(ナノ結晶質)組織のいずれであってもよい。このうち、軟磁性材料は、非晶質または微結晶質を含むことが好ましい。これらを含むことにより、保磁力が小さくなり、磁性素子のヒステリシス損失の低減に寄与する。なお、軟磁性材料では、結晶性が異なる組織が混在していてもよい。
【0020】
非晶質材料および微結晶質材料としては、例えば、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系のようなFe系合金、Ni-Si-B系、Ni-P-B系のようなNi系合金、Co-Si-B系のようなCo系合金等が挙げられる。
【0021】
軟磁性材料の組成は、以下のような分析手法により特定される。
分析手法としては、例えば、JIS G 1257:2000に規定された鉄及び鋼-原子吸光分析法、JIS G 1258:2007に規定された鉄及び鋼-ICP発光分光分析法、JIS G 1253:2002に規定された鉄及び鋼-スパーク放電発光分光分析法、JIS G 1256:1997に規定された鉄及び鋼-蛍光X線分析法、JIS G 1211~G 1237に規定された重量・滴定・吸光光度法等が挙げられる。
【0022】
具体的には、例えばSPECTRO社製固体発光分光分析装置、特にスパーク放電発光分光分析装置、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aや、株式会社リガク製ICP装置CIROS120型が挙げられる。
【0023】
また、特にC(炭素)およびS(硫黄)の特定に際しては、JIS G 1211:2011に規定された酸素気流燃焼(高周波誘導加熱炉燃焼)-赤外線吸収法も用いられる。具体的には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS-200が挙げられる。
【0024】
また、特にN(窒素)およびO(酸素)の特定に際しては、JIS G 1228:1997に規定された鉄および鋼の窒素定量方法、JIS Z 2613:2006に規定された金属材料の酸素定量方法通則も用いられる。具体的には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC-300/EF-300が挙げられる。
【0025】
軟磁性粉末の体積基準での粒度分布において、頻度の累積が50%である粒子径を平均粒径とするとき、軟磁性粉末の平均粒径は1μm以上20μm以下であるのが好ましく、2μm以上15μm以下であるのがより好ましく、3μm以上9μm以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
軟磁性粉末の平均粒径が前記範囲内であると、軟磁性粒子2の粒子内渦電流の経路が短くなるため、高周波域における磁性素子の渦電流損失を十分に低減することができる。また、軟磁性粉末の平均粒径が前記範囲内であると、圧粉時の充填性が高くなるため、圧粉体の透磁率、飽和磁束密度等の磁気特性を高めることができる。
【0027】
なお、軟磁性粉末の平均粒径が前記下限値を下回ると、凝集が発生しやすくなり、絶縁被膜3の形成が困難になるとともに、圧粉時の充填性が低下するおそれがある。一方、軟磁性粉末の平均粒径が前記上限値を上回ると、粒子内渦電流の経路が長くなるため、粒子内渦電流に由来する渦電流損失が増大するおそれがある。
【0028】
軟磁性粉末の体積基準での粒度分布は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて取得可能である。
【0029】
1.2.絶縁被膜
絶縁被膜3は、軟磁性粒子2の表面を被覆している。図1に示す絶縁被膜3は、2層構造になっており、無機絶縁膜32と、有機膜34と、を有する。無機絶縁膜32は、軟磁性粒子2の表面を被覆し、セラミックスを含む。有機膜34は、無機絶縁膜32の表面を被覆し、疎水性官能基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む。
【0030】
1.2.1.無機絶縁膜
無機絶縁膜32は、セラミックスを含み、軟磁性粒子2の表面を被覆している。セラミックスの構成成分としては、例えば、酸化物系化合物、非酸化物系化合物等が挙げられる。
【0031】
酸化物系化合物としては、例えば、SiOのような酸化ケイ素、MgOのような酸化マグネシウム、CaOのような酸化カルシウム、Alのような酸化アルミニウム、SiOのような酸化チタン、ZrOのような酸化ジルコニウム、Bのような酸化ホウ素、Yのような酸化イットリウム、Pのような酸化リン、Biのような酸化ビスマス、ZnOのような酸化亜鉛、SnOのような酸化スズ、PbOのような酸化鉛、LiOのような酸化リチウム、NaOのような酸化ナトリウム、KOのような酸化カリウム、SrOのような酸化ストロンチウム、BaOのような酸化バリウム、Gdのような酸化ガドリニウム、Laのような酸化ランタン、Ybのような酸化イッテルビウム等が挙げられる。なお、これらの組成式は、各化合物の組成比を表す一例であり、各化合物は、上述した組成比以外のものであってもよい。
【0032】
非酸化物系化合物としては、例えば、Siのような窒化ケイ素、AlNのような窒化アルミニウム、BNのような窒化ホウ素、TiNのような窒化チタン、WNのような窒化タングステン等が挙げられる。
【0033】
そして、本明細書におけるセラミックスは、これらの構成成分の1種または2種以上の混合物で構成される。また、本明細書におけるセラミックスは、結晶質であってもよいし、非晶質(ガラス質)であってもよいし、それらが混在したものであってもよい。
【0034】
このうち、セラミックスは、酸化ケイ素または酸化アルミニウムを含むことが好ましい。これらは、絶縁性および化学的安定性が特に良好であるとともに、入手が容易である。このため、これらの構成成分を含むセラミックスを用いることで、長期にわたって絶縁性が良好な無機絶縁膜32が得られる。
【0035】
無機絶縁膜32は、上記の構成成分以外の成分を含んでいてもよい。無機絶縁膜32における上記の構成成分の含有率は、50質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのがより好ましく、90質量%以上であるのがさらに好ましい。これにより、無機絶縁膜32は、特に良好な絶縁性を有する。
【0036】
無機絶縁膜32の平均厚さは、5nm以上100nm以下とされ、好ましくは10nm以上70nm以下とされ、より好ましくは15nm以上50nm以下とされる。無機絶縁膜32の平均厚さが前記範囲内であれば、無機絶縁膜32の絶縁性を十分に確保しつつ、圧粉磁心における無機絶縁膜32の占有率を下げて軟磁性粉末の充填率を高めることができる。また、軟磁性粒子2の表面に凹凸がある場合、無機絶縁膜32がその凹凸を均して平滑化するとともに球形に近づけることにも寄与する。これにより、有機膜34をより均一な厚さで成膜できるようになり、絶縁物被覆軟磁性粉末1の流動性をより高めることができる。
【0037】
無機絶縁膜32の平均厚さが前記下限値を下回ると、無機絶縁膜32の絶縁性が不十分になるとともに、軟磁性粒子2の表面の凹凸を十分に平滑化することができない。一方、無機絶縁膜32の平均厚さが前記上限値を上回ると、無機絶縁膜32が剥離しやすくなったり、圧粉磁心における軟磁性粉末の充填率が低下したりする。
【0038】
なお、無機絶縁膜32の平均厚さは、例えば、絶縁物被覆軟磁性粒子4の断面を拡大観察することによって測定される。具体的には、絶縁物被覆軟磁性粒子4を収束イオンビームによって切断し、断面薄片試料を作製する。次に、得られた断面薄片試料を、走査型透過電子顕微鏡にて観察し、1つの絶縁物被覆軟磁性粒子4について5か所以上で無機絶縁膜32の厚さを測定する。そして、測定値を平均し、その算出結果を無機絶縁膜32の平均厚さとする。観察像における無機絶縁膜32の分布範囲は、例えば、EDX分析(エネルギー分散型X線分析)、オージェ電子分光測定等を併用することで、より明確に確認できる。
【0039】
また、無機絶縁膜32は、上記のセラミックスで構成されているセラミック粒子を有していてもよい。セラミック粒子を軟磁性粒子2より小径とすることで、軟磁性粒子2の表面を覆うように分布させることができる。これにより、緻密で十分な膜厚を有する無機絶縁膜32が容易に得られる。このような無機絶縁膜32は、特に絶縁性が高いものとなる。
【0040】
セラミック粒子の平均粒径は、特に限定されないが、1nm以上50nm以下であるのが好ましく、3nm以上30nm以下であるのがより好ましく、5nm以上10nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、軟磁性粒子2の表面にセラミック粒子を均一に分布させやすくなる。その結果、無機絶縁膜32の厚さがより均一になり、絶縁性を高めることができる。
【0041】
なお、セラミック粒子の粒径は、前述した断面薄片試料を、走査型透過電子顕微鏡にて観察し、観察像から求めた円相当径である。そして、5つ以上のセラミック粒子から求めた円相当径の平均値を、セラミック粒子の平均粒径とする。
【0042】
1.2.2.有機膜
有機膜34は、疎水性官能基を持つカップリング剤を無機絶縁膜32の表面に反応させることによって造膜されたものである。したがって、有機膜34は、疎水性官能基を持つカップリング剤に由来する化合物を含み、疎水性官能基に由来する性質を示す。
【0043】
疎水性官能基としては、例えば、飽和炭化水素基、環状構造含有基、フルオロアルキル基、フルオロアリール基、ニトロ基、アシル基、シアノ基等を含有するものが挙げられる。これらは、有機膜34に対して良好な耐湿性を付与する。
【0044】
このうち、疎水性官能基は、飽和炭化水素基であるのが好ましく、炭素数が1以上6以下の直鎖状アルキル基であるのがより好ましい。これにより、有機膜34に対して特に高い耐湿性を付与する。なお、炭素数が前記上限値を上回ると、隣り合う長鎖状アルキル基同士が規則正しく配列する状態を形成しにくくなる。つまり、隣り合う長鎖状アルキル基の配列が乱れるおそれがある。そうなると、有機膜34の耐湿性が低下するおそれがある。
【0045】
また、疎水性官能基は、環状構造含有基、フルオロアルキル基またはフルオロアリール基であるのが好ましい。これらは、有機膜34に対して特に高い耐湿性を付与する。また、環状構造を持つ環状構造含有基やフルオロアリール基は、安定性が高いため、加熱された後でも、良好な耐湿性を維持できる。また、フッ素原子を有するフルオロアルキル基やフルオロアリール基は、フッ素原子に起因して表面張力が低いため、疎水性に優れ、結果として加熱された後でも、良好な耐湿性を有する。このため、多湿環境下でも、流動性に優れ、圧粉時の充填性が良好な絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。
【0046】
環状構造含有基は、環状構造を持つ官能基である。環状構造含有基としては、例えば、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基、環状エーテル基等が挙げられる。
【0047】
芳香族炭化水素基は、芳香族炭化水素から水素原子を除いた残基であり、炭素数は、6以上20以下であるのが好ましい。芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基、アルキルアリール基、アミノアリール基、ハロゲン化アリール基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、インデニル基等が挙げられる。アルキルアリール基としては、例えば、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、フェニルベンジル基等が挙げられる。なお、芳香族炭化水素基は、例えば炭素数1~3のアルキル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0048】
脂環式炭化水素基は、脂環式炭化水素から水素原子を除いた残基であり、炭素数は、3以上20以下であるのが好ましい。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。シクロアルキルアルキル基としては、例えば、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基等が挙げられる。脂環式炭化水素基は、例えば炭素数1~3のアルキル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0049】
環状エーテル基としては、例えば、エポキシ基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、オキセタニル基等が挙げられる。環状エーテル基は、例えば炭素数1~3のアルキル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0050】
フルオロアルキル基は、1つ以上のフッ素原子で置換されている炭素数1以上16以下のアルキル基または炭素数3以上16以下のシクロアルキル基である。特にフルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であるのが好ましい。
【0051】
フルオロアリール基は、1つ以上のフッ素原子で置換されている炭素数6以上20以下のアリール基である。特にフルオロアリール基は、パーフルオロアリール基であるのが好ましい。
【0052】
有機膜34の平均厚さは、無機絶縁膜32の平均厚さより薄いことが好ましい。これにより、有機膜34を単分子膜またはそれに近い分子膜とすることができ、疎水性官能基に由来する耐湿性を確保しつつ、絶縁物被覆軟磁性粉末1における有機膜34の占有率を十分に下げることができる。その結果、磁気特性が高い圧粉磁心が得られる。
【0053】
有機膜34の平均厚さは、無機絶縁膜32の平均厚さの1%以上100%未満であるのが好ましく、3%以上50%以下であるのがより好ましく、5%以上20%以下であるのがさらに好ましい。これにより、有機膜34を維持するのに必要な膜厚を確保するとともに、絶縁物被覆軟磁性粉末1における有機膜34の占有率をより下げることができる。
【0054】
有機膜34の平均厚さは、例えば、X線光電子分光法とイオンスパッタリングとを併用した、深さ方向の定性定量分析によって特定することができる。具体的には、カップリング剤に由来する成分の濃度を深さ方向に沿って調べる。そして、カップリング剤に由来する成分の濃度が高くなっている領域を、有機膜34の平均厚さとする。具体的には、有機膜34と無機絶縁膜32との境界近傍で濃度が変化しているとき、濃度の変化量の半分、つまり、有機膜34側の濃度と無機絶縁膜32側の濃度との中間点に対応する位置を境界とみなし、その境界よりも表面側の厚さを、有機膜34の平均厚さとすればよい。
【0055】
以上のような2層構造の絶縁被膜3によれば、次のような効果が得られる。
まず、無機絶縁膜32は、セラミックスに由来する良好な絶縁性を有する。このため、薄くても絶縁物被覆軟磁性粒子4同士を良好に絶縁する。その結果、絶縁物被覆軟磁性粉末1を圧粉することにより、粒子間の渦電流を抑制するとともに、耐電圧が良好な圧粉磁心が得られる。また、無機絶縁膜32は、軟磁性粒子2の表面にある凹凸を平滑化するとともに球形に近づけることができる。これにより、絶縁物被覆軟磁性粉末1の流動性を高め、充填率の高い圧粉磁心を製造することができる。さらに、無機絶縁膜32は、セラミックスに由来する水酸基を比較的高濃度に有している。このため、カップリング剤を高密度に結合させることができ、疎水性官能基の密度を高めることに寄与する。
【0056】
一方、有機膜34は、無機絶縁膜32を覆うことで、表面に疎水性を付与する。これにより、絶縁物被覆軟磁性粉末1の耐湿性を高めることができる。その結果、多湿環境下に置かれても、流動性が低下しにくい絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。また、下地に無機絶縁膜32が設けられることで、疎水性官能基の高密度化を図るとともに、カップリング剤に由来する化合物の結合強度を高めることができる。その結果、有機膜34の耐湿性を十分に高めることができ、かつ、粒子同士がこすれ合っても流動性が低下しにくい絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。また、圧粉磁心を製造するとき、絶縁物被覆軟磁性粉末1と結着材(バインダー)との密着性が向上する。このため、機械的強度が高い圧粉磁心が得られる。
【0057】
1.3.水分量
絶縁物被覆軟磁性粉末1の水分量は、質量比で30ppm以上400ppm以下であることが好ましく、40ppm以上300ppm以下であることがより好ましく、50ppm以上200ppm以下であることがさらに好ましい。絶縁物被覆軟磁性粉末1の水分量が前記範囲内であることにより、絶縁物被覆軟磁性粉末1は、吸湿しにくく、流動性が低下しにくいものとなる。また、水分による軟磁性粒子2の発錆を抑制することもできるので、圧粉磁心における磁気特性の低下も抑制できる。
【0058】
なお、水分量が前記下限値を下回ると、疎水性が過剰になり、圧粉成形時の充填性が低下することがある。一方、水分量が前記上限値を上回ると、水分量が多すぎるため、絶縁物被覆軟磁性粉末1の流動性が低下するとともに、軟磁性粒子2が発錆するおそれがある。
【0059】
絶縁物被覆軟磁性粉末1の水分量は、以下のようにして測定される。
まず、絶縁物被覆軟磁性粉末1を、大気圧、気温30℃、相対湿度80%の環境下に、24時間放置する。次に、絶縁物被覆軟磁性粉末1を250℃に加熱し、その状態での水分量をカールフィッシャー法により測定する。カールフィッシャー法による水分量の測定には、例えば、日東精工アナリテック株式会社製、水分測定装置CA-310等が用いられる。
【0060】
2.絶縁物被覆軟磁性粉末の製造方法
次に、絶縁物被覆軟磁性粉末1を製造する方法について説明する。
図2は、絶縁物被覆軟磁性粉末1を製造する方法を説明するための工程図である。
【0061】
図2に示す絶縁物被覆軟磁性粉末の製造方法は、準備工程S102と、無機絶縁膜形成工程S104と、有機膜形成工程S106と、を有する。
【0062】
2.1.準備工程
準備工程S102では、軟磁性粉末を用意する。軟磁性粉末は、いかなる方法で製造された粉末であってもよい。製造方法の例としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等の各種アトマイズ法の他、還元法、カルボニル法、粉砕法等が挙げられる。このうち、アトマイズ法が好ましく用いられる。つまり、軟磁性粉末は、アトマイズ粉末であるのが好ましい。アトマイズ粉末は、微小で真球度が高く、製造効率も高い。また、特に、水アトマイズ粉末または回転水流アトマイズ粉末は、溶融金属と水との接触によって製造されることから、表面に薄い酸化膜を有する。この酸化膜が、絶縁被膜3の下地となり得る。このため、軟磁性粒子2と絶縁被膜3との密着性に優れ、最終的に、粒子間の絶縁性が特に高い絶縁物被覆軟磁性粒子4が得られる。また、冷却速度が速いため、非晶質組織や微結晶質組織を含む軟磁性粉末の製造も可能である。
【0063】
2.2.無機絶縁膜形成工程
無機絶縁膜形成工程S104では、軟磁性粒子2の表面を被覆する無機絶縁膜32を形成する。
【0064】
無機絶縁膜32の形成方法は、特に限定されないが、例えば、メカノケミカル法、プラズマ重合法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、イオンプレーティング法等の乾式形成方法、ゾルゲル法、電解還元法等の湿式形成方法が挙げられる。
以下、メカノケミカル法およびゾルゲル法を代表として順次説明する。
【0065】
2.2.1.メカノケミカル法
メカノケミカル法は、セラミック粒子に機械的応力を印加して、セラミック粒子の物理化学的特性を変化させる方法である。例えば、内部に圧縮用具とブレードとを備え、高速回転する筒状チャンバーを有するメカノケミカル反応装置を用い、軟磁性粒子2とセラミック粒子との間で機械的な相互作用(メカノケミカル反応)を生じさせると、軟磁性粒子2の表面に無機絶縁膜32を形成することができる。このような機械的な被膜形成方法を用いることで、軟磁性粒子2の表面に汚染物が付着している場合や密着力が低い場合、表面粗さが小さい場合でも、無機絶縁膜32を良好に密着させることができる。さらに、無機絶縁膜32の形成過程で高温状態を経ないことから、軟磁性粒子2の熱変性、例えば意図しない結晶粗大化を抑制することができる。これにより、軟磁性粒子2の軟磁性が低下するのを抑制することができる。
【0066】
なお、メカノケミカル反応装置としては、例えば、ホソカワミクロン株式会社製の「ノビルタ」(登録商標)粉砕機、「メカノフュージョン」(登録商標)粉砕機、株式会社奈良機械製作所製の「ハイブリダイサー」(登録商標)粉砕機等が挙げられる。
【0067】
2.2.3.ゾルゲル法
ゾルゲル法は、金属アルコキシドの加水分解により、セラミックスを作製する方法である。例えば、酸化ケイ素を成膜して無機絶縁膜32とする場合、シリコンアルコキシドの加水分解反応を利用することができる。以下、シリコンアルコキシドを用いた方法について説明する。
【0068】
まず、軟磁性粒子2を、シリコンアルコキシドを含有するアルコール溶液に分散させる。アルコール溶液としては、エタノール、メタノール等の低級アルコールが挙げられる。例えば、テトラエトキシシラン1質量部に対し、10質量部以上50質量部以下のアルコールを混合すればよい。
【0069】
次に、反応を促進させるための触媒として、アンモニア水を混合し、加水分解を起こさせる。これにより、加水分解物同士や、シリコンアルコキシドとの間で脱水縮合反応が生じ、-Si-O-Si-の結合を粒子表面上で形成させる。これにより、酸化ケイ素で構成される無機絶縁膜32が形成される。
【0070】
2.3.有機膜形成工程
有機膜形成工程S106では、疎水性官能基を持つカップリング剤を軟磁性粒子2に反応させる。これにより、無機絶縁膜32の表面にカップリング剤を付着させる。
【0071】
この操作としては、例えば、以下の3つの操作が挙げられる。
第1の操作としては、無機絶縁膜32が形成された軟磁性粒子2とカップリング剤の双方をチャンバー内に投入した後、チャンバー内を加熱する操作が挙げられる。
【0072】
第2の操作としては、無機絶縁膜32が形成された軟磁性粒子2をチャンバー内に投入した後、軟磁性粒子2を撹拌しながらチャンバー内にカップリング剤を噴霧する操作が挙げられる。
【0073】
第3の操作としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の第1級アルコールに、水、カップリング剤、アンモニアや水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液および無機絶縁膜32が形成された軟磁性粒子2を入れて撹拌し、ろ過後乾燥させる操作が挙げられる。
【0074】
カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等が挙げられる。
【0075】
次の化学式は、シランカップリング剤の分子構造の一例である。
【0076】
【化1】
【0077】
上式のXは官能基、Yはスペーサー、ORは加水分解性基である。なお、Rは、例えばメチル基、エチル基等である。
【0078】
スペーサーとしては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基、アルキレンエーテル基等が挙げられる。
【0079】
加水分解性基は、例えばアルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、アセトキシ基、イソシアネート基等であり、このうち、アルコキシ基の場合、加水分解によってシラノールが生じる。このシラノールと無機絶縁膜32の表面に生じた水酸基とが反応し、カップリング剤が無機絶縁膜32の表面に付着する。
【0080】
このような加水分解性基は、カップリング剤に少なくとも1つ含まれていればよいが、2つ以上含まれているのが好ましく、上式のように3つの加水分解性基が含まれているのがより好ましい。例えば加水分解性基がアルコキシ基であるカップリング剤は、ジアルコキシ基を含有するのが好ましく、トリアルコキシ基を含有するのがより好ましい。トリアルコキシ基を含有するカップリング剤は、無機絶縁膜32の表面に生じた3つの水酸基と反応する。このため、無機絶縁膜32に対して良好な密着性を有する。また、トリアルコキシ基を含有するカップリング剤は、造膜性にも優れるため、連続性に優れた有機膜34を得ることができる。このような有機膜34は、絶縁物被覆軟磁性粉末1の流動性をより高めるのに寄与する。
【0081】
また、トリアルコキシ基を含有するカップリング剤では、有機膜34を形成後、疎水性官能基が熱分解しても、残部によって無機絶縁膜32の表面を覆い続けることができる。このため、疎水性の低下を抑えることができる。
【0082】
ここで、疎水性官能基を持つカップリング剤について例示する。芳香族炭化水素基を持つカップリング剤としては、例えば、
下記式(A-1)で表されるフェニルトリメトキシシラン、
【0083】
【化2】
【0084】
下記式(A-2)で表されるフェニルトリエトキシシラン、
【0085】
【化3】
【0086】
下記式(A-3)で表されるジメトキシジフェニルシラン、
【0087】
【化4】
【0088】
下記式(A-4)で表される2,2-ジメトキシ-1-フェニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、
【0089】
【化5】
【0090】
下記式(A-11)で表される3-フェノキシプロピルトリクロロシラン、
【0091】
【化6】
【0092】
下記式(A-12)で表されるフェニルトリアセトキシシラン、
【0093】
【化7】
【0094】
下記式(A-13)で表されるトリエトキシ(p-トリル)シラン、
【0095】
【化8】
【0096】
下記式(A-14)で表されるp-アミノフェニルトリメトキシシラン、
【0097】
【化9】
【0098】
下記式(A-15)で表されるm-アミノフェニルトリメトキシシラン、
【0099】
【化10】
【0100】
下記式(A-16)で表される((クロロメチル)フェニルエチル)トリメトキシシラン、
【0101】
【化11】
【0102】
等が挙げられる。
【0103】
環状エーテル基を持つカップリング剤としては、例えば、
下記式(A-5)で表される3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、
【0104】
【化12】
【0105】
下記式(A-6)で表される3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
【0106】
【化13】
【0107】
下記式(A-7)で表される3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、
【0108】
【化14】
【0109】
下記式(A-8)で表される3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、
【0110】
【化15】
【0111】
等が挙げられる。
【0112】
フルオロアルキル基を持つカップリング剤としては、例えば、
下記式(B-1)で表されるトリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン、
【0113】
【化16】
【0114】
下記式(B-2)で表されるトリメトキシ(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)シラン、
【0115】
【化17】
【0116】
下記式(B-3)で表されるトリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)シラン、
【0117】
【化18】
【0118】
等が挙げられる。
【0119】
フルオロアリール基を持つカップリング剤としては、例えば、
下記式(C-1)で表されるトリメトキシ(11-ペンタフルオロフェノキシウンデシル)シラン、
【0120】
【化19】
【0121】
下記式(C-2)で表されるペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、
【0122】
【化20】
【0123】
等が挙げられる。
【0124】
カップリング剤の投入量は、特に限定されないが、軟磁性粒子2に対して0.01質量%以上1.00質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上0.50質量%以下であるのがより好ましい。
【0125】
また、カップリング剤は、チャンバー内に静置、チャンバー内に噴霧といった方法で供給される。
【0126】
その後、カップリング剤が付着した軟磁性粒子2を加熱する。これにより、無機絶縁膜32の表面に有機膜34が形成され、絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。また、加熱により、未反応のカップリング剤を除去することができる。
【0127】
カップリング剤が付着した軟磁性粒子2の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上300℃以下であるのが好ましく、100℃以上250℃以下であるのがより好ましい。加熱時間は、10分以上24時間以下であるのが好ましく、30分以上10時間以下であるのがより好ましい。加熱処理の雰囲気としては、例えば、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気等が挙げられる。
【0128】
3.圧粉磁心および磁性素子
次に、実施形態に係る圧粉磁心および磁性素子について説明する。
【0129】
実施形態に係る磁性素子は、例えば、チョークコイル、インダクター、ノイズフィルター、リアクトル、トランス、モーター、アクチュエーター、電磁弁、発電機等のような、磁心を備えた各種磁性素子に適用可能である。また、実施形態に係る圧粉磁心は、これらの磁性素子が備える磁心に適用可能である。
【0130】
以下、磁性素子の一例として、2種類のコイル部品を代表に説明する。
3.1.トロイダルタイプ
まず、実施形態に係る磁性素子の一例であるトロイダルタイプのコイル部品について説明する。
図3は、トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
【0131】
図3に示すコイル部品10は、リング状の圧粉磁心11と、この圧粉磁心11に巻き回された導線12と、を有する。このようなコイル部品10は、一般に、トロイダルコイルと称される。
【0132】
圧粉磁心11は、実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末と結着材とを混合し、得られた混合物を成形型に供給するとともに、加圧、成形して得られる。圧粉磁心11は、実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末を含む圧粉体であるため、透磁率が高く、耐電圧が高いコイル部品10を実現できる。このため、コイル部品10を電子機器等に搭載したとき、電子機器等の高性能化および小型化を図ることができる。
【0133】
圧粉磁心11の作製に用いられる結着材の構成材料としては、例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の有機材料、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩等の無機材料等が挙げられるが、特に、熱硬化性ポリイミドまたはエポキシ系樹脂が好ましい。これらの樹脂材料は、加熱されることによって容易に硬化するとともに、耐熱性に優れたものである。したがって、圧粉磁心11の製造容易性および耐熱性を高めることができる。
【0134】
絶縁物被覆軟磁性粉末に対する結着材の割合は、作製する圧粉磁心11の目的とする磁気特性や機械的特性、許容される渦電流損失等に応じて若干異なるが、0.3質量%以上5.0質量%以下程度であるのが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下程度であるのがより好ましく、0.7質量%以上2.0質量%以下程度であるのがさらに好ましい。これにより、絶縁物被覆軟磁性粉末の粒子同士を十分に結着させつつ、磁気特性に優れたコイル部品10を得ることができる。
混合物中には、必要に応じて、任意の目的で各種添加剤を添加するようにしてもよい。
【0135】
導線12の構成材料としては、導電性の高い材料が挙げられ、例えば、Cu、Al、Ag、Au、Ni等を含む金属材料が挙げられる。また、導線12の表面には、必要に応じて絶縁膜が設けられていてもよい。
【0136】
圧粉磁心11の形状は、図3に示すリング状に限定されず、例えばリングの一部が欠損した形状であってもよく、長手方向の形状が直線状である形状であってもよく、シート状、フィルム状等であってもよい。
【0137】
圧粉磁心11は、必要に応じて、前述した実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0138】
3.2.閉磁路タイプ
次に、実施形態に係る磁性素子の一例である閉磁路タイプのコイル部品について説明する。
図4は、閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
【0139】
以下、閉磁路タイプのコイル部品について説明するが、以下の説明では、トロイダルタイプのコイル部品との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0140】
本実施形態に係るコイル部品20は、図4に示すように、コイル状に成形された導線22を、圧粉磁心21の内部に埋設してなるものである。すなわち、磁性素子であるコイル部品20は、前述した絶縁物被覆軟磁性粉末を含む圧粉磁心21を備え、導線22を圧粉磁心21でモールドしてなる。この圧粉磁心21は、前述した圧粉磁心11と同様の構成を有する。これにより、透磁率が高く、耐電圧が高いコイル部品20を実現することができる。
【0141】
また、このような形態のコイル部品20では、比較的小型化が容易である。このため、コイル部品20を電子機器等に搭載したとき、電子機器等の高性能化および小型化を図ることができる。
【0142】
また、導線22が圧粉磁心21の内部に埋設されているため、導線22と圧粉磁心21との間に隙間が生じ難い。このため、圧粉磁心21の磁歪による振動を抑制し、この振動に伴う騒音の発生を抑制することもできる。
【0143】
なお、圧粉磁心21の形状は、図4に示す形状に限定されず、シート状、フィルム状等であってもよい。
【0144】
また、圧粉磁心21は、必要に応じて、前述した実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0145】
4.電子機器
次に、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器について、図5図7に基づいて説明する。
【0146】
図5は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。図5に示すパーソナルコンピューター1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部100を備えた表示ユニット1106と、を備える。表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。このようなパーソナルコンピューター1100には、例えばスイッチング電源用のチョークコイルやインダクター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0147】
図6は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。図6に示すスマートフォン1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206を備える。また、操作ボタン1202と受話口1204との間には、表示部100が配置されている。このようなスマートフォン1200には、例えばインダクター、ノイズフィルター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0148】
図7は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)等の撮像素子により光電変換して撮像信号を生成する。
【0149】
図7に示すディジタルスチルカメラ1300は、ケース1302の背面に設けられた表示部100を備える。表示部100は、被写体を電子画像として表示するファインダーとして機能する。また、ケース1302の正面側、すなわち図中裏面側には、光学レンズやCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
【0150】
撮影者が表示部100に表示された被写体像を確認し、シャッターボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、メモリー1308に転送・格納される。このようなディジタルスチルカメラ1300にも、例えばインダクター、ノイズフィルター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0151】
実施形態に係る電子機器としては、図5のパーソナルコンピューター、図6のスマートフォン、図7のディジタルスチルカメラの他に、例えば、携帯電話、タブレット端末、時計、インクジェットプリンターのようなインクジェット式吐出装置、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡のような医療機器、魚群探知機、各種測定機器、車両、航空機、船舶の計器類、自動車制御機器、航空機制御機器、鉄道車両制御機器、船舶制御機器のような移動体制御機器類、フライトシミュレーター等が挙げられる。
【0152】
このような電子機器は、前述したように、実施形態に係る磁性素子を備えている。これにより、透磁率が高く耐電圧が高いという実施形態に係る磁性素子の効果を享受し、電子機器の高性能化および小型化を図ることができる。
【0153】
5.前記実施形態が奏する効果
以上のように、本実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末1は、軟磁性粉末と、無機絶縁膜32と、有機膜34と、を有する。無機絶縁膜32は、軟磁性粉末の粒子表面(軟磁性粒子2の表面)を被覆し、セラミックスを含む。有機膜34は、無機絶縁膜32の表面を被覆し、疎水性官能基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む。そして、絶縁物被覆軟磁性粉末1では、無機絶縁膜32の平均厚さが、5nm以上100nm以下である。また、絶縁物被覆軟磁性粉末1は、大気圧、気温30℃、相対湿度80%の環境下に、24時間放置した後、カールフィッシャー法により250℃で測定された水分量が、30ppm以上400ppm以下である。
【0154】
このような構成によれば、耐湿性に優れ、吸湿に伴う絶縁性や流動性の低下が抑制されている絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。これにより、粒子間の渦電流が抑制されるとともに、耐電圧が良好な圧粉磁心が得られる。また、圧粉磁心の充填率を高めることができ、透磁率および機械的強度が高い圧粉磁心が得られる。さらに、有機膜34の密着性および疎水性官能基の高密度化により、圧粉磁心の機械的強度をさらに高めることができる。
【0155】
また、セラミックスは、酸化ケイ素または酸化アルミニウムを含むことが好ましい。
これらは、絶縁性および化学的安定性が特に良好であるとともに、入手が容易である。このため、これらの構成成分を含むセラミックスを用いることで、長期にわたって絶縁性が良好な無機絶縁膜32が得られる。
【0156】
また、無機絶縁膜32は、軟磁性粒子2(軟磁性粉末の粒子)より小径であり、かつ、セラミックスで構成されているセラミック粒子を有していてもよい。
【0157】
これにより、軟磁性粒子2の表面を覆うように分布させることができる。その結果、緻密で十分な膜厚を有する無機絶縁膜32が容易に得られる。このような無機絶縁膜32は、特に絶縁性が高いものとなる。
【0158】
また、有機膜34の平均厚さは、無機絶縁膜32の平均厚さより薄いことが好ましい。
これにより、有機膜34を単分子膜またはそれに近い分子膜とすることができ、疎水性官能基に由来する耐湿性を確保しつつ、絶縁物被覆軟磁性粉末1における有機膜34の占有率を十分に下げることができる。その結果、磁気特性が高い圧粉磁心が得られる。
【0159】
また、疎水性官能基は、炭素数が1以上6以下の直鎖状アルキル基であってもよい。
これにより、有機膜34に対して特に高い耐湿性を付与できる。
【0160】
また、疎水性官能基は、環状構造含有基、フルオロアルキル基またはフルオロアリール基であってもよい。
【0161】
これにより、有機膜34に対して特に高い耐湿性を付与できる。また、環状構造を持つ環状構造含有基やフルオロアリール基は、安定性が高いため、加熱された後でも、良好な耐湿性を維持できる。また、フッ素原子を有するフルオロアルキル基やフルオロアリール基は、フッ素原子に起因して表面張力が低いため、疎水性に優れ、結果として加熱された後でも、良好な耐湿性を有する。このため、多湿環境下でも、流動性に優れ、圧粉時の充填性が良好な絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。
【0162】
また、実施形態に係る圧粉磁心は、実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末を含む。これにより、耐電圧が高く、かつ、機械的強度および相対密度が高い圧粉磁心が得られる。
【0163】
また、実施形態に係る磁性素子は、実施形態に係る圧粉磁心を備える。これにより、耐電圧が高く、透磁率が高い磁性素子が得られる。
【0164】
また、実施形態に係る電子機器は、実施形態に係る磁性素子を備える。これにより、高性能化および小型化が図られた電子機器が得られる。
【0165】
以上、本発明の絶縁物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0166】
例えば、前記実施形態では、本発明の絶縁物被覆軟磁性粉末の用途例として圧粉磁心を挙げて説明したが、用途例はこれに限定されず、例えば磁性流体、磁気ヘッド、磁気遮蔽シート等の磁性デバイスであってもよい。また、圧粉磁心や磁性素子の形状も、図示したものに限定されず、いかなる形状であってもよい。
【0167】
また、本発明に係る圧粉磁心および磁性素子は、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【実施例0168】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
6.絶縁物被覆軟磁性粉末の作製
6.1.サンプルNo.1
まず、表1に示す軟磁性材料で構成された軟磁性粉末を作製した。軟磁性材料の組成および軟磁性粉末の製造方法は、表1に示すとおりである。なお、表1に示す組成式は、各元素の比率を原子数比で表したものである。また、軟磁性粉末の平均粒径は、表2に示すとおりである。
【0169】
次に、軟磁性粉末の粒子表面に無機絶縁膜を形成した。無機絶縁膜の構成材料、平均厚さ、および、使用したセラミック粒子の平均粒径は、表2に示すとおりである。また、無機絶縁膜の形成には、メカノケミカル反応装置を使用した。
【0170】
次に、無機絶縁膜の表面に有機膜を形成した。有機膜の形成に使用したカップリング剤が持つ疎水性官能基、疎水性官能基がアルキル基である場合の炭素数、および、平均厚さの比率は、表2に示すとおりである。
【0171】
以上のようにして、サンプルNo.1の絶縁物被覆軟磁性粉末を得た。その後、得られた絶縁物被覆軟磁性粉末の水分量を測定した。測定結果を表2に示す。
【0172】
6.2.サンプルNo.2~40
絶縁物被覆軟磁性粉末の構成を表1ないし表3に示すように変更した以外は、サンプルNo.1の場合と同様にしてサンプルNo.2~40の絶縁物被覆軟磁性粉末を得た。
【0173】
【表1】
【0174】
なお、後に示す表2および表3においては、各サンプルNo.の絶縁物被覆軟磁性粉末のうち、本発明に相当するものについては「実施例」、本発明に相当しないものについては「比較例」とした。
【0175】
また、表2および表3に示す化学式の記号は、以下の化合物に対応している。
A-1:フェニルトリメトキシシラン
B-1:トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン
C-1:トリメトキシ(11-ペンタフルオロフェノキシウンデシル)シラン
D-1:メチルトリメトキシシラン
D-2:エチルトリメトキシシラン
D-3:プロピルトリメトキシシラン
D-4:ヘキシルトリメトキシシラン
D-5:オクチルトリメトキシシラン
【0176】
7.絶縁物被覆軟磁性粉末の評価
7.1.直流絶縁耐圧(耐電圧)
まず、各絶縁物被覆軟磁性粉末を、大気圧、気温30℃、相対湿度80%の多湿環境に24時間放置する暴露試験を行った。
【0177】
次に、暴露試験を行った各絶縁物被覆軟磁性粉末について、以下の方法で室温25℃、相対湿度45%における直流絶縁耐圧を測定した。
【0178】
まず、絶縁物被覆軟磁性粉末0.15gを内径8mmのアルミナ製の円筒に充填して、円筒の両端に真ちゅう製の電極を配置した。その後、デジタルフォースゲージを用い、円筒両端の電極で絶縁物被覆軟磁性粉末に20kgfの力を加えながら、電極間に直流電圧50Vを2秒間印加し、電極間の電気抵抗値をデジタルマルチメーターで測定した。
【0179】
次に、電極間に印加する直流電圧を50Vずつ昇圧しながら、電極間の電気抵抗値をその都度測定するとともに、絶縁破壊の有無を確認した。そして、絶縁破壊が発生するまで、昇圧および電気抵抗値の測定を繰り返し行った。そして、絶縁破壊が発生したときの最も低い直流電圧値を求めた。なお、電気抵抗値が1MΩ以下になった状態を絶縁破壊とみなした。以上の測定を3回行い、その測定値の平均値を直流絶縁耐圧とした。そして、得られた直流絶縁耐圧(耐電圧)を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2および表3に示す。
【0180】
A:耐電圧が400V以上である
B:耐電圧が350V以上400V未満である
C:耐電圧が300V以上350V未満である
D:耐電圧が250V以上300V未満である
E:耐電圧が200V以上250V未満である
F:耐電圧が200V未満である
【0181】
7.2.成形体の圧環強度
まず、各絶縁物被覆軟磁性粉末を、大気圧、気温30℃、相対湿度80%の多湿環境に24時間放置する暴露試験を行った。
【0182】
次に、暴露試験を行った各絶縁物被覆軟磁性粉末と、結着材であるエポキシ樹脂および有機溶媒であるトルエンと、を混合して、混合物を得た。なお、エポキシ樹脂の添加量は、絶縁物被覆軟磁性粉末100質量部に対して2質量部とした。
【0183】
次に、得られた混合物を撹拌したのち、大気雰囲気下、50℃で1時間乾燥させ、塊状の乾燥体を得た。次いで、この乾燥体を、目開き400μmのふるいにかけ、乾燥体を粉砕して、造粒粉末を得た。
【0184】
次に、得られた造粒粉末を、成形型に充填し、下記の成形条件に基づいて圧粉体を得た。
【0185】
・成形方法 :プレス成形
・成形体の形状:環状
・成形体の寸法:外径14mm、内径8mm、厚さ3mm
・成形圧力 :3t/cm(294.2MPa)
【0186】
次に、圧粉体を、大気雰囲気下、150℃で3時間加熱して、結着材を硬化させた。これにより、環状の成形体を得た。
【0187】
次に、得られた成形体について、JIS Z 2507:2000に規定されている圧環強さ試験方法に準じ、圧環強度を測定した。具体的には、圧環強度をKとし、外径をDとし、半径方向の肉厚(外径と内径の差の半分)をtとし、厚さをLとし、破壊荷重をFとするとき、圧環強度Kを、K=F(D-t)/(Lt)で求めた。そして、得られた圧環強度を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2および表3に示す。
【0188】
A:圧環強度が50MPa以上である
B:圧環強度が45MPa以上50MPa未満である
C:圧環強度が40MPa以上45MPa未満である
D:圧環強度が35MPa以上40MPa未満である
E:圧環強度が30MPa以上35MPa未満である
F:圧環強度が30MPa未満である
【0189】
7.3.成形体の相対密度
まず、各絶縁物被覆軟磁性粉末を、大気圧、気温30℃、相対湿度80%の多湿環境に24時間放置する暴露試験を行った。
【0190】
次に、暴露試験を行った各絶縁物被覆軟磁性粉末を7.2と同様の方法で成形し、成形体を得た。次に、圧粉体の密度を測定した。次に、圧粉体の密度を軟磁性粉末の真密度で除して、相対密度を算出した。そして、算出した相対密度を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2および表3に示す。
【0191】
A:相対密度が67%以上である
B:相対密度が66%以上67%未満である
C:相対密度が65%以上66%未満である
D:相対密度が64%以上65%未満である
E:相対密度が63%以上64%未満である
F:相対密度が63%未満である
【0192】
【表2】
【0193】
【表3】
【0194】
表2および表3に示すように、各実施例の絶縁物被覆軟磁性粉末は、比較例の絶縁物被覆軟磁性粉末と比べて、多湿環境に暴露した後でも、耐電圧が良好であるとともに、成形体の圧環強度および相対密度が高かった。
【0195】
これに対し、絶縁被膜が無機絶縁膜のみである場合や有機膜のみである場合は、耐電圧または圧環強度および相対密度のいずれかが低下することがわかった。また、無機絶縁膜の厚さや水分量が、耐電圧や圧環強度および相対密度の向上において重要であることもわかった。
【0196】
以上の結果から、本発明によれば、耐湿性に優れ、吸湿に伴う絶縁性や流動性の低下が抑制されている絶縁物被覆軟磁性粉末が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0197】
1…絶縁物被覆軟磁性粉末、2…軟磁性粒子、3…絶縁被膜、4…絶縁物被覆軟磁性粒子、10…コイル部品、11…圧粉磁心、12…導線、20…コイル部品、21…圧粉磁心、22…導線、32…無機絶縁膜、34…有機膜、100…表示部、1000…磁性素子、1100…パーソナルコンピューター、1102…キーボード、1104…本体部、1106…表示ユニット、1200…スマートフォン、1202…操作ボタン、1204…受話口、1206…送話口、1300…ディジタルスチルカメラ、1302…ケース、1304…受光ユニット、1306…シャッターボタン、1308…メモリー、S102…準備工程、S104…無機絶縁膜形成工程、S106…有機膜形成工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7