(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140110
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】積層造形体の製造方法、積層造形用粉末およびバインダー溶液
(51)【国際特許分類】
B22F 10/14 20210101AFI20241003BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20241003BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241003BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20241003BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241003BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241003BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20241003BHJP
B22F 10/38 20210101ALN20241003BHJP
B22F 10/34 20210101ALN20241003BHJP
【FI】
B22F10/14
B22F1/16
B22F1/05
B22F3/02 M
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y70/10
B22F10/38
B22F10/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051108
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】松本 康享
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA06
4K018AA07
4K018AA10
4K018AA24
4K018AA33
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA13
4K018BA17
4K018BB04
4K018BC08
4K018BC28
4K018CA09
4K018DA03
4K018DA31
4K018DA32
4K018FA08
4K018KA01
4K018KA25
4K018KA28
4K018KA32
4K018KA53
(57)【要約】
【課題】表面精度が高い積層造形体を製造可能な積層造形体の製造方法、ならびに、かかる製造方法に用いることができる積層造形用粉末およびバインダー溶液を提供すること。
【解決手段】金属粒子と、前記金属粒子に付着している2価以上の金属陽イオン性物質と、を含む粉末層を形成する工程(粉末層形成工程S102)と、前記粉末層の所定領域に対し、バインダー溶液を供給することにより、前記所定領域に結着層を得る工程(バインダー溶液供給工程S104)と、を有し、前記バインダー溶液は、水および水に溶解するアルギン酸塩を含有することを特徴とする積層造形体の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と、前記金属粒子に付着している2価以上の金属陽イオン性物質と、を含む粉末層を形成する工程と、
前記粉末層の所定領域に対し、バインダー溶液を供給することにより、前記所定領域に結着層を得る工程と、
を有し、
前記バインダー溶液は、水および水に溶解するアルギン酸塩を含有することを特徴とする積層造形体の製造方法。
【請求項2】
前記金属陽イオン性物質は、2価以上の金属陽イオンと陰イオンとの反応物であり、
前記粉末層を形成する工程は、前記反応物を付着させた前記金属粒子を層状に均す操作を含む請求項1に記載の積層造形体の製造方法。
【請求項3】
前記金属陽イオン性物質は、2価以上の金属陽イオンであり、
前記粉末層を形成する工程は、
前記金属粒子を層状に均して、金属粉末層を形成する操作と、
前記金属粉末層に、前記金属陽イオンを含むイオン溶液を供給する操作と、
を含む請求項1に記載の積層造形体の製造方法。
【請求項4】
前記バインダー溶液におけるアルギン酸塩の含有量は、0.1質量%以上7.0質量%以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の積層造形体の製造方法。
【請求項5】
前記バインダー溶液は、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリビニルピロリドン(PVP)を含有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の積層造形体の製造方法。
【請求項6】
前記結着層を得る工程は、前記結着層を加熱する操作を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の積層造形体の製造方法。
【請求項7】
金属粒子と、
前記金属粒子に付着している2価以上の金属陽イオン性物質と、
を含み、
水および水に溶解するアルギン酸塩を含有するバインダー溶液を用いた積層造形法に適用されることを特徴とする積層造形用粉末。
【請求項8】
バインダージェット法による積層造形体の製造に用いられるバインダー溶液であって、
水および水に溶解するアルギン酸塩を含有し、金属粒子および2価以上の金属陽イオン性物質を含む粉末層に向けて供給されることを特徴とするバインダー溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形体の製造方法、積層造形用粉末およびバインダー溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元の立体物を造形する技術として、近年、金属粉末を用いた積層造形法が普及しつつある。この技術は、立体物について積層方向と直交する面で薄くスライスしたときの断面形状を計算する工程と、金属粉末を層状にならして粉末層を形成する工程と、計算により求めた形状に基づいて粉末層の一部を結合させる工程と、を有し、粉末層を形成する工程と一部を結合させる工程とを繰り返すことにより、立体物を造形する技術である。
【0003】
積層造形法としては、結合させる原理に応じて、熱溶融積層法(FDM : Fused Deposition Modeling)、粉末焼結積層造形法(SLS : Selective Laser Sintering)、バインダージェット法、金属インクジェット法等が知られている。
【0004】
特許文献1には、複数個の金属粒子と、多価金属イオンによる架橋構造を有するバインダーと、水を含む溶媒と、を含有する三次元造形物製造用組成物が開示されている。この組成物は、金属インクジェット法に適用可能な組成物であり、インクジェットヘッドによって吐出され、吐出物が積層されることにより、目的とする三次元形状を有する造形物の製造に用いられる。また、この組成物は、多価金属イオンによる架橋構造を有するバインダーを含有しているため、粘度が十分に高められ、保存時の金属粒子の沈降を抑制する。これにより、組成のばらつきが抑制され、結果として寸法精度の高い造形物の製造が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インクジェットヘッドから吐出される液体の粘度が高くなりすぎると、液体の吐出が不安定になるおそれがある。このため、特許文献1に記載の三次元造形物製造用組成物では、粘度の上昇に限界がある。一方、粘度を下げた場合、吐出された組成物が広がりやすくなるため、造形物の表面精度が低下するおそれがある。
【0007】
また、バインダージェット法でも、同様の課題がある。バインダージェット法は、粉末層の一部にバインダー溶液を供給し、粒子同士を結着させることにより、造形物を製造する方法である。インクジェットヘッドから吐出されるバインダー溶液の粘度が高すぎると、吐出が不安定になる。一方、バインダー溶液の粘度が低すぎると、粉末層に供給されたバインダー溶液が粉末層内に広く浸透する。そうすると、バインダーで結着する領域の表面精度が低下する。
【0008】
そこで、吐出されたバインダー溶液の過度な浸透を抑制し、表面精度が高い積層造形体を製造可能な方法の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の適用例に係る積層造形体の製造方法は、
金属粒子と、前記金属粒子に付着している2価以上の金属陽イオン性物質と、を含む粉末層を形成する工程と、
前記粉末層の所定領域に対し、バインダー溶液を供給することにより、前記所定領域に結着層を得る工程と、
を有し、
前記バインダー溶液は、水および水に溶解するアルギン酸塩を含有する。
【0010】
本発明の適用例に係る積層造形用粉末は、
金属粒子と、
前記金属粒子に付着している2価以上の金属陽イオン性物質と、
を含み、
水および水に溶解するアルギン酸塩を含有するバインダー溶液を用いた積層造形法に適用される。
【0011】
本発明の適用例に係るバインダー溶液は、
バインダージェット法による積層造形体の製造に用いられるバインダー溶液であって、
水および水に溶解するアルギン酸塩を含有し、金属粒子および2価以上の金属陽イオン性物質を含む粉末層に向けて供給される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための工程図である。
【
図2】
図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図3】
図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図4】
図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図5】
図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図6】
図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図7】
図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図8】
図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図9】
図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図10】
図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【
図11】実施形態に係る積層造形用粉末を模式的に示す断面図である。
【
図12】
図11に示す積層造形用粉末の製造方法の一例を示す工程図である。
【
図13】変形例に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の積層造形体の製造方法、積層造形用粉末およびバインダー溶液の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
1.積層造形体の製造方法
まず、実施形態に係る積層造形体の製造方法について説明する。
【0015】
図1は、実施形態に係る積層造形体の製造方法を説明するための工程図である。
図2ないし
図10は、それぞれ
図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。なお、本願の各図では、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸およびZ軸を設定している。各軸は、矢印で表され、先端側を「プラス側」、基端側を「マイナス側」とする。以下の説明では、特に、Z軸のプラス側を「上」とし、Z軸のマイナス側を「下」とする。また、X軸と平行な両方向をX軸方向、Y軸と平行な両方向をY軸方向、Z軸と平行な両方向をZ軸方向という。
【0016】
図1ないし
図10に示す積層造形体の製造方法は、積層造形法の一種であるバインダージェット法と呼ばれる方法であり、
図1に示すように、粉末層形成工程S102と、バインダー溶液供給工程S104と、繰り返し工程S106と、を有する。バインダージェット法は、造形物を支持するサポート構造が不要であるため、複雑な形状の積層造形体を作製可能であるという利点を有する。
【0017】
粉末層形成工程S102では、
図3に示すように、積層造形用粉末1を敷いて粉末層31を形成する。本実施形態では、積層造形用粉末1が金属イオン性物質を含む。バインダー溶液供給工程S104では、粉末層31の所定領域にバインダー溶液4を供給し、粉末層31中の粒子同士を結着させ、結着層41を得る。本実施形態では、バインダー溶液4がアルギン酸塩を含有する。このアルギン酸塩を含有するバインダー溶液4は、粉末層31に含まれる金属イオン性物質と接触すると、アルギン酸にイオン架橋が生じ、増粘する。これにより、供給されたバインダー溶液4が粉末層31中に必要以上に浸透するのを抑制することができる。これにより、結着層41の位置精度および形状精度を高めることができる。繰り返し工程S106では、粉末層形成工程S102およびバインダー溶液供給工程S104を1回以上繰り返すことにより、
図10に示す積層造形体6を得る。以下、各工程について順次説明する。
【0018】
作製した積層造形体6は、焼結処理に供されることにより、金属焼結体となる。得られる金属焼結体には、積層造形体の形状が反映されるため、これにより、複雑な形状の金属焼結体を効率よく製造することができる。
【0019】
1.1.積層造形装置
まず、粉末層形成工程S102の説明に先立ち、積層造形装置2について説明する。
【0020】
積層造形装置2は、粉末貯留部211および造形部212を有する装置本体21と、粉末貯留部211に設けられた粉末供給エレベーター22と、造形部212に設けられた造形ステージ23と、装置本体21上において移動可能に設けられたコーター24、ローラー25および液体供給部26と、を備えている。
【0021】
粉末貯留部211は、装置本体21に設けられ、上部が開口している凹部である。この粉末貯留部211には、積層造形用粉末1が貯留される。そして、粉末貯留部211に貯留されている積層造形用粉末1の適量が、コーター24によって造形部212へ供給されるようになっている。
【0022】
粉末貯留部211の底部には、粉末供給エレベーター22が配置されている。粉末供給エレベーター22は、積層造形用粉末1を載せた状態で、上下方向に移動可能になっている。粉末供給エレベーター22を上方に移動させることにより、この粉末供給エレベーター22に載置されている積層造形用粉末1を押し上げ、粉末貯留部211からはみ出させる。これにより、はみ出した分の積層造形用粉末1を造形部212側へ移動させることができる。
【0023】
造形部212は、装置本体21に設けられ、上部が開口している凹部である。造形部212の内部には、造形ステージ23が配置されている。造形ステージ23上には、コーター24によって積層造形用粉末1が層状に敷かれるようになっている。また、造形ステージ23は、積層造形用粉末1が敷かれた状態で、上下方向に移動可能になっている。造形ステージ23の高さを適宜設定することにより、造形ステージ23上に敷かれる積層造形用粉末1の量を調整することができる。
【0024】
コーター24およびローラー25は、粉末貯留部211から造形部212にかけて、X軸方向に移動可能になっている。コーター24は、積層造形用粉末1を引きずることにより、積層造形用粉末1を均して、層状に敷くことができる。ローラー25は、均された積層造形用粉末1を上から圧縮する。
【0025】
液体供給部26は、例えばインクジェットヘッドやディスペンサー等で構成され、造形部212において、X軸方向およびY軸方向に移動可能になっている。そして、液体供給部26は、目的とする量のバインダー溶液4を目的とする位置に供給することができる。なお、液体供給部26は、1つのヘッドに複数の吐出ノズルを備えていてもよい。そして、複数の吐出ノズルからバインダー溶液4を同時または時間差を伴って吐出するようになっていてもよい。
【0026】
1.2.粉末層形成工程
次に、上述した積層造形装置2を用いた粉末層形成工程S102について説明する。粉末層形成工程S102では、造形ステージ23上に積層造形用粉末1を敷いて粉末層31を形成する。具体的には、
図2および
図3に示すように、コーター24を用い、粉末貯留部211に貯留している積層造形用粉末1を造形ステージ23上に引きずり、均一な厚さに均す。これにより、
図4に示す粉末層31を得る。この際、造形ステージ23の上面を、造形部212の上端よりも下げるとともに、下げる量を調整することにより、粉末層31の厚さを調整することができる。
【0027】
次に、粉末層31をローラー25で厚さ方向に圧縮しながら、
図4に示すように、ローラー25をX軸方向に移動させる。これにより、粉末層31における積層造形用粉末1の充填率を高めることができる。なお、ローラー25による圧縮は、必要に応じて行えばよく、省略してもよい。また、ローラー25とは異なる手段、例えば押さえ板等により、粉末層31を圧縮するようにしてもよい。
【0028】
1.3.バインダー溶液供給工程
バインダー溶液供給工程S104では、
図5に示すように、液体供給部26により、粉末層31のうち、造形しようとする積層造形体6に対応する形成領域60にバインダー溶液4を供給する。バインダー溶液4は、後述するように、水と、水に溶解するアルギン酸塩と、を含有する液体である。バインダー溶液4が供給された形成領域60には、
図6に示す結着層41が得られる。結着層41では、積層造形用粉末1の粒子同士がアルギン酸の架橋物によって結着され、自重によって壊れない程度の保形性を有している。
【0029】
なお、バインダー溶液4の供給と同時または供給後に、結着層41を加熱するようにしてもよい。これにより、結着層41に含まれる溶媒の揮発を促進するとともに、アルギン酸の架橋による粒子同士の結着を促進する。
【0030】
加熱する場合の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上250℃以下であるのが好ましく、70℃以上200℃以下であるのがより好ましい。これにより、結着層41に十分な熱量を与えることができ、溶媒の揮発を十分に促進することができる。
【0031】
バインダー溶液4は、アルギン酸塩を含有する液体であれば、特に限定されない。なお、アルギン酸塩については、後に詳述する。
【0032】
1.4.繰り返し工程
繰り返し工程S106では、結着層41を複数積層してなる積層体が、所定の形状になるまで、粉末層形成工程S102およびバインダー溶液供給工程S104を1回以上繰り返す。つまり、これらの工程を合計で2回以上行う。これにより、
図10に示す、立体的な積層造形体6を得る。
【0033】
具体的には、まず、
図6に示す結着層41の上に、
図7に示すように、新たな粉末層31を形成する。次に、
図8に示すように、新たに形成した粉末層31のうち、形成領域60にバインダー溶液4を供給する。これにより、
図9に示す結着層41が得られる。これらの操作を繰り返すことにより、
図10に示す積層造形体6が得られる。
【0034】
なお、粉末層31のうち、結着層41を構成しなかった積層造形用粉末1は回収され、必要に応じて再使用、すなわち再び積層造形体6の製造に供される。
以上のようにして得られた積層造形体6は、後述する焼結処理に供される。
【0035】
1.5.金属焼結体の製造方法
積層造形体6に焼結処理を施すことにより、金属焼結体が得られる。焼結処理では、積層造形体6を加熱し、焼結反応を生じさせる。
【0036】
焼結温度は、積層造形用粉末1の構成材料や粒径等によって異なるが、一例として、980℃以上1330℃以下であるのが好ましく、1050℃以上1260℃以下であるのがより好ましい。また、焼結時間は、0.2時間以上7時間以下であるのが好ましく、1時間以上6時間以下であるのがより好ましい。
【0037】
焼結処理の雰囲気は、例えば、水素等の還元性雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。減圧雰囲気の圧力は、常圧(100kPa)未満であれば、特に限定されないが、10kPa以下であるのが好ましく、1kPa以下であるのがより好ましい。
【0038】
なお、上記のような条件で行う焼結処理を「本焼結」とするとき、必要に応じて積層造形体6に対し、本焼結の前処理に相当する「仮焼結」または「脱脂」を行うようにしてもよい。これにより、積層造形体6に含まれるバインダーの少なくとも一部を除去したり、一部に焼結反応を生じさせたりすることができる。これにより、本焼結を行うとき、意図しない変形等を抑制することができる。
【0039】
仮焼結や脱脂の温度は、金属粉末が焼結を完了させない程度の温度であれば、特に限定されないが、100℃以上500℃以下であるのが好ましく、150℃以上300℃以下であるのがより好ましい。また、仮焼結や脱脂の時間は、前記温度範囲で、5分以上であるのが好ましく、10分以上120分以下であるのがより好ましく、20分以上60分以下であるのがさらに好ましい。仮焼結や脱脂の雰囲気は、例えば、大気雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
【0040】
以上のようにして得られる金属焼結体は、例えば、自動車用部品、自転車用部品、鉄道車両用部品、船舶用部品、航空機用部品、宇宙輸送機用部品のような輸送機器用部品、パソコン用部品、携帯電話端末用部品、タブレット端末用部品、ウェアラブル端末用部品のような電子機器用部品、冷蔵庫、洗濯機、冷暖房機のような電気機器用部品、工作機械、半導体製造装置のような機械用部品、原子力発電所、火力発電所、水力発電所、製油所、化学コンビナートのようなプラント用部品、時計用部品、金属食器、宝飾品、眼鏡フレームのような装飾品の全体または一部を構成する材料として用いることができる。
【0041】
2.バインダー溶液
次に、実施形態に係るバインダー溶液4について説明する。
【0042】
実施形態に係るバインダー溶液4は、前述したバインダージェット法による積層造形体の製造方法に用いられるバインダー溶液であって、水および水に溶解するアルギン酸塩を含有する。
【0043】
このアルギン酸塩は、水に溶解すると、アルギン酸と一価の陽イオンとに解離する。そして、水およびアルギン酸塩を含有するバインダー溶液4が、後述する2価以上の金属陽イオンと接触すると、アルギン酸の分子同士の間でイオン架橋を生じさせる。具体的には、2価以上の金属陽イオンが、2分子のアルギン酸のカルボキシル基にまたがるように結合し、架橋を生じさせる。これにより、イオン架橋物にゲル化が生じ、バインダー溶液4の粘度が上昇する。その結果、供給されたバインダー溶液4が粉末層31中に必要以上に浸透するのを抑制することができる。これにより、粉末層31中に形成される結着層41の位置精度および形状精度を高めることができる。その結果、表面精度が高い、つまり、目的とする表面形状からのずれが少ない積層造形体6を製造することができる。
【0044】
バインダー溶液4が粉末層31中に浸透するとき、単位時間での浸透距離h(t)は、Lucas-Washburnの式と呼ばれる下記式で表される。
【0045】
【0046】
上記式において、rは粉末層31中の粒子間ギャップ、σはバインダー溶液4の表面張力、θはバインダー溶液4に粉末層31に対する接触角、ηはバインダー溶液4の粘度、tは時間である。
【0047】
上記式からわかるように、単位時間での浸透距離h(t)は、バインダー溶液4の粘度ηに反比例する。したがって、バインダー溶液4の粘度ηが上昇すると、単位時間での浸透距離h(t)が短くなる。
【0048】
アルギン酸塩は、アルギン酸のカルボキシル基と一価の陽イオンとが結合した塩である。一価の陽イオンとしては、カリウムイオンやナトリウムイオンのようなアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0049】
このうち、アルギン酸塩は、アルギン酸アルカリ金属塩であるのが好ましく、アルギン酸ナトリウムであるのがより好ましい。アルギン酸アルカリ金属塩は、アルギン酸のカルボキシル基とアルカリ金属イオンとが結合した塩である。アルギン酸アルカリ金属塩、特にアルカリ金属ナトリウムを用いて調製されたバインダー溶液4は、後述する2価以上の金属陽イオンと接触したとき、特に短時間で増粘しやすい。このため、このようなバインダー溶液4は、積層造形体6の表面精度を高めやすい。
【0050】
バインダー溶液4が含有する水としては、特に限定されないが、例えば、純水、超純水、蒸留水、イオン交換水等が挙げられる。なお、バインダー溶液4は、水以外の溶媒を含有していてもよい。水以外の溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、カルボン酸エステル類等が挙げられる。
【0051】
バインダー溶液4におけるアルギン酸塩の濃度は、0.1質量%以上7.0質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であるのがさらに好ましい。アルギン酸塩の濃度が前記範囲内であれば、バインダー溶液4の増粘によって粘度を十分に高めることができる。これにより、粉末層31中におけるバインダー溶液4の浸透量を十分に抑えることができる。その結果、表面精度が十分に高い積層造形体6を製造することができる。
【0052】
なお、バインダー溶液4におけるアルギン酸塩の濃度が前記下限値を下回ると、バインダー溶液4の粘度を十分に高めることができず、粉末層31中におけるバインダー溶液4の浸透量が大きくなるおそれがある。一方、バインダー溶液4におけるアルギン酸塩の濃度が前記上限値を上回ると、アルギン酸塩が過剰になるため、最終的に得られる金属焼結体に一価の陽イオンが多量に取り込まれ、金属焼結体の機械的特性や化学的特性が低下するおそれがある。なお、バインダー溶液4におけるアルギン酸塩の濃度は、バインダー溶液4の質量に対するアルギン酸塩の質量の割合である。
【0053】
また、バインダー溶液4は、固形分としてアルギン酸塩以外の樹脂成分を含んでいてもよい。このような樹脂成分としては、例えば、脂肪酸、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル、ステアリン酸、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
【0054】
このうち、樹脂成分としては、ポリビニルピロリドンまたはポリビニルアルコールが好ましく用いられる。これらは、アルギン酸塩による上述した作用を阻害することなく、金属粒子11同士の結着力を高めることができる。これにより、積層造形体6の機械的強度を高めることができ、積層造形体6の意図しない変形を抑制することができる。
【0055】
バインダー溶液4における上記樹脂成分の濃度は、好ましくは0.01質量%以上10.0質量%以下とされ、より好ましくは0.10質量%以上5.0質量%以下とされ、さらに好ましくは0.50質量%以上3.0質量%以下とされる。これにより、金属粒子11同士の結着力を十分に高めることができる。
【0056】
また、バインダー溶液4における上記樹脂成分の濃度は、アルギン酸塩の濃度より高くてもよいが、低いことが好ましい。これにより、アルギン酸塩による上述した作用をさらに阻害しにくくなる。
【0057】
バインダー溶液4は、上記のアルギン酸塩や樹脂成分以外の添加物を含有していてもよい。添加物としては、例えば、分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0058】
3.積層造形用粉末
次に、実施形態に係る積層造形用粉末について説明する。
【0059】
図11は、実施形態に係る積層造形用粉末を模式的に示す断面図である。
実施形態に係る積層造形用粉末1は、バインダージェット法に用いられる粉末である。
【0060】
図11に示す積層造形用粉末1は、金属材料を含有する金属粒子11と、2価以上の金属陽イオンを含有する被膜12と、を含む造形用粒子13を複数有する。なお、被膜12は、金属粒子11の表面全体を覆っているのが好ましいが、覆っていない部分があってもよい。
【0061】
3.1.金属粒子
金属粒子11が含有する金属材料は、特に限定されず、焼結性を有している材料であれば、いかなる材料であってもよい。一例としては、Fe、Ni、Co、Ti等の単体、またはこれらを主成分とする合金、金属間化合物等が挙げられる。
【0062】
金属粒子11が含有する金属材料には、Fe基金属材料が好ましく用いられる。Fe基金属材料は、原子数比でFeの含有率が50%超である金属材料を指す。Fe基金属材料は、入手が容易であるとともに、機械的特性に優れる金属焼結体の製造が可能である。
【0063】
Fe基金属材料としては、例えば、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系(二相系)ステンレス鋼のようなステンレス鋼、低炭素鋼、炭素鋼、耐熱鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Co合金等が挙げられる。
【0064】
このうち、Fe基金属材料には、ステンレス鋼が好ましく用いられる。ステンレス鋼は、機械的強度および耐食性に優れる鋼種である。このため、ステンレス鋼で構成された積層造形用粉末1を用いることにより、機械的強度および耐食性に優れ、形状精度の高い金属焼結体を効率よく製造することができる。
【0065】
オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS301、SUS301L、SUS301J1、SUS302B、SUS303、SUS304、SUS304Cu、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS304J1、SUS304J2、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS312L、SUS315J1、SUS315J2、SUS316、SUS316L、SUS316N、SUS316LN、SUS316Ti、SUS316J1、SUS316J1L、SUS317、SUS317L、SUS317LN、SUS317J1、SUS317J2、SUS836L、SUS890L、SUS321、SUS347、SUSXM7、SUSXM15J1等が挙げられる。
【0066】
フェライト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS405、SUS410L、SUS429、SUS430、SUS430LX、SUS430J1L、SUS434、SUS436L、SUS436J1L、SUS445J1、SUS445J2、SUS444、SUS447J1、SUSXM27等が挙げられる。
【0067】
マルテンサイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS403、SUS410、SUS410S、SUS420J1、SUS420J2、SUS440A等が挙げられる。
【0068】
析出硬化系ステンレス鋼としては、例えば、SUS630、SUS631等が挙げられる。
【0069】
オーステナイト・フェライト系(二相系)ステンレス鋼としては、例えば、SUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4L等が挙げられる。
【0070】
なお、上記の記号は、JIS規格に基づく材料記号である。本明細書におけるステンレス鋼の種類は、上記材料記号で区別される。
【0071】
積層造形体6は、種類の異なるステンレス鋼を含有する積層造形用粉末1を用いて製造されてもよい。積層造形体6を2つの部位に分け、一方の部位を第1のステンレス鋼を含有する積層造形用粉末1を用いて作製し、他方の部位を第2のステンレス鋼を含有する積層造形用粉末1を用いて作製するようにしてもよい。
【0072】
3.2.被膜
被膜12は、2価以上の金属陽イオン性物質を含有する。この金属陽イオン性物質は、例えば微小な粒子等、固体の形態で、金属粒子11の表面に付着し、被膜12を構成している。したがって、被膜12は、金属粒子11の表面に沿う連続性を有している必要はなく、金属粒子11の表面に付着していればよい。これにより、
図11に示す造形用粒子13は、通常の粉末と同様に取り扱うことができる。つまり、造形用粒子13は、金属陽イオン性物質を伴いつつ、粉末層31等の形成に支障を生じさせないので、積層造形法に適した良好な取り扱い性を有する。
【0073】
2価以上の金属陽イオン性物質は、イオン化したときに2価以上の金属陽イオンとなる物質であればよい。2価以上の金属陽イオンとしては、例えば、Caイオン、Mgイオン、Baイオン、Cuイオン、Feイオン、Alイオン、Znイオン等が挙げられる。このうち、金属陽イオンは、金属粒子11の構成材料に応じて選択するようにしてもよい。例えば、金属粒子11の構成材料がFe基金属材料である場合、金属陽イオンにFeイオンを選択するのが好ましい。これにより、Feイオンが金属焼結体中に取り込まれても、合金組成に影響を及ぼしにくいため、金属焼結体の機械的特性や化学的特性の低下を抑制できる。
【0074】
金属陽イオン性物質としては、これらの金属陽イオンと陰イオンとの反応物、つまり塩が挙げられる。このような塩は、水に溶けて水溶液を調製可能なものが好ましく用いられる。これにより、バインダー溶液4に水が含まれていれば、塩が水に溶解してイオン化する。これにより、金属陽イオンが生成され、アルギン酸アルカリ金属との反応確率をより高めることができる。陰イオンとしては、特に限定されないが、塩化物イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、乳酸イオン等が挙げられる。このような塩の一例を挙げると、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、塩化鉄、塩化マグネシウム、硝酸バリウム、硝酸銅等が挙げられる。
【0075】
このような金属陽イオン性物質は、バインダー溶液4中の水と接触すると、イオン化して、2価以上の金属陽イオンを生成する。この金属陽イオンは、バインダー溶液4中に含まれるアルギン酸と接触すると、アルギン酸の分子同士の間でイオン架橋を生じさせる。これにより、イオン架橋物にゲル化が生じ、バインダー溶液4の粘度を上昇させる。その結果、供給されたバインダー溶液4が粉末層31中に必要以上に浸透するのを抑制することができる。これにより、粉末層31中に形成される結着層41の位置精度および形状精度を高めることができる。その結果、表面精度、つまり、目的とする表面形状からのずれが少ない積層造形体6を製造することができる。
【0076】
また、金属陽イオン性物質を金属粒子11の表面にあらかじめ付着させておくことで、粉末層31内にムラなく金属陽イオン性物質を分布させることができる。これにより、バインダー溶液4をムラなく増粘させることができる。つまり、バインダー溶液4が供給されれば、粉末層31中の位置を問わず、均質な増粘作用を得ることができる。
【0077】
金属陽イオン性物質の供給量、すなわち、金属粒子11に対する金属陽イオン性物質の付着量は、特に限定されないが、金属粒子11の0.10質量%以上7.00質量%以下であるのが好ましく、0.30質量%以上4.00質量%以下であるのがより好ましく、0.50質量%以上2.00質量%以下であるのがさらに好ましい。金属陽イオン性物質の付着量が前記範囲内であれば、アルギン酸アルカリ金属のイオン架橋が十分に生じるため、バインダー溶液4が十分に増粘し、結着層41の位置精度および形状精度を高めることができる。
【0078】
なお、金属陽イオン性物質の供給量が前記下限値を下回ると、バインダー溶液4を十分に増粘させることができないおそれがある。一方、金属陽イオン性物質の供給量が前記上限値を上回ると、積層造形体6に取り込まれる金属陽イオン性物質が多くなるため、金属焼結体の機械的特性や化学的特性が低下するおそれがある。
【0079】
被膜12には、上記の金属陽イオン性物質以外の任意の成分が含まれていてもよいが、その場合、上述した効果を確実に得るという観点において、上記物質の質量比率が50%超であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0080】
3.3.積層造形用粉末の粒度分布
本実施形態に係る積層造形用粉末1について、レーザー回折式粒度分布測定装置により体積基準で粒度分布を得たとき、頻度の累積が小径側から10%であるときの粒径をD10とする。同様に、頻度の累積が小径側から50%、90%であるときの粒径をD50、D90とする。粒度分布の測定装置としては、例えば、日機装株式会社製マイクロトラック、HRA9320-X100が挙げられる。
【0081】
積層造形用粉末1の粒径D50は、好ましくは1.0μm以上15.0μm以下とされ、より好ましくは3.0μm以上12.0μm以下とされ、さらに好ましくは4.0μm以上10.0μm以下とされる。これにより、積層造形用粉末1の焼結性と流動性の双方を両立させることができる。その結果、緻密で機械的強度および造形精度の高い積層造形体6を得ることができ、それを用いて最終的に高密度で表面精度の高い金属焼結体を製造することができる。
【0082】
なお、粒径D50が前記下限値を下回ると、積層造形用粉末1の粒子同士が凝集しやすくなるおそれがある。凝集が発生すると、積層造形用粉末1の流動性が低下し、金属焼結体の密度が低下するおそれがある。一方、粒径D50が前記上限値を上回ると、積層造形用粉末1の焼結性が低下し、金属焼結体の密度が低下するおそれがある。
【0083】
粒径50に対する粒径D90とD10との差の比(D90-D10)/D50は、0.8以上2.7以下であるのが好ましく、1.0以上2.4以下であるのがより好ましく、1.2以上2.2以下であるのがさらに好ましい。これにより、積層造形用粉末1の粒径が比較的揃った状態となり、流動性を高めやすくなるとともに、焼結性も確保することができる。なお、比(D90-D10)/D50が前記下限値を下回ると、粒度分布が広がることになり、流動性が低下するおそれがある。一方、比(D90-D10)/D50が前記上限値を上回った場合、逆に粒度分布が狭すぎて、充填率を高めにくくなり、焼結性が低下するおそれがある。
【0084】
4.積層造形用粉末の製造方法
次に、積層造形用粉末1の製造方法の一例について説明する。
【0085】
図12は、
図11に示す積層造形用粉末1の製造方法の一例を示す工程図である。なお、以下の説明では、前述した積層造形用粉末1を製造する方法を一例として説明する。
【0086】
図12に示す積層造形用粉末の製造方法は、金属粒子11を準備する粉末準備工程S202と、被膜12を形成する被膜形成工程S204と、を有する。
【0087】
4.1.粉末準備工程
粉末準備工程S202では、金属粒子11として用いる金属粉末を準備する。
【0088】
金属粉末は、いかなる製造方法で製造されたものであってもよく、例えばアトマイズ法により製造される。アトマイズ法では、溶融金属を坩堝から流下させ、高速で噴射された液体または気体のような流体に衝突させる。流体に衝突した溶融金属は、惰性落下するので、その際に液滴の球形化が図られる。その結果、比較的小径であるにもかかわらず、円形度が高く、比表面積が比較的小さい金属粉末を製造することができる。
【0089】
アトマイズ法には、冷却媒の種類や装置構成の違いによって、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等がある。
【0090】
溶融金属の流下量は、装置サイズ等によって異なるが、1.0[kg/分]超20.0[kg/分]以下であるのが好ましく、2.0[kg/分]以上10.0[kg/分]以下であるのがより好ましい。これにより、一定時間に流下する溶融金属の量を最適化することができるので、粒度分布が狭く、それぞれ球形化が十分に図られた金属粉末を効率よく製造することができる。その結果、比較的小径であるにもかかわらず、円形度が高く、比表面積が比較的小さい金属粉末を製造することができる。
【0091】
坩堝における溶融金属の温度(鋳込み温度)は、積層造形用粉末の構成材料の融点Tm[℃]に対し、Tm+100℃以上Tm+350℃以下に設定されるのが好ましく、Tm+180℃以上Tm+320℃以下に設定されるのがより好ましく、Tm+250℃以上Tm+300℃以下に設定されるのがさらに好ましい。これにより、各種アトマイズ法で微細化されて固化に至るとき、溶融金属として存在している時間を従来よりも長く確保することができる。その結果、小径でも、円形度が高く、比表面積が比較的小さい金属粉末を製造することができる。
【0092】
また、各種アトマイズ法では、溶融金属を流下させたときの細流の外径は、特に限定されないが、3.0mm以下であるのが好ましく、0.3mm以上2.0mm以下であるのがより好ましく、0.5mm以上1.5mm以下であるのがさらに好ましい。これにより、溶融金属に流体を均一に当て易くなるので、適度な大きさの液滴が均一に飛散し易くなる。その結果、上述したような平均粒径の金属粉末を、狭い粒度分布で製造することができる。
【0093】
また、製造した金属粉末に対し、必要に応じて、分級を行ってもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
【0094】
4.2.被膜形成工程
被膜形成工程S204では、金属粒子11の表面に被膜12を形成する。例えば、2価以上の金属陽イオン性物質を含む被膜形成用溶液を、金属粒子11に供給する。具体的には、調製した被膜形成用溶液中に金属粒子11を浸漬する。これにより、被膜形成用溶液を金属粒子11の表面に付着させる。その後、被膜形成用溶液中から金属粒子11を取り出し、被膜形成用溶液中の溶媒を除去する。これにより、金属陽イオン性物質を金属粒子11の表面に析出させることができ、被膜12が得られる。溶媒の除去には、加熱やガスの吹き付け、減圧等の各種乾燥操作が用いられる。
【0095】
例えば、加熱の場合、加熱温度は、溶媒を除去可能な温度であればよいが、60℃以上200℃以下であるのが好ましく、80℃以上150℃以下であるのがより好ましい。これにより、金属粒子11の意図しない焼結等を抑えつつ、短時間で乾燥させることができる。また、上記温度で加熱することにより、付着した金属陽イオン性物質の粒子が金属粒子11の表面に定着しやすくなる。これにより、粉末層31を形成する過程で、金属陽イオン性物質が金属粒子11から脱落するのを抑制することができる。
【0096】
被膜形成用溶液における金属陽イオン性物質の濃度は、特に限定されないが、0.01質量%以上1.00質量%以下であるのが好ましく、0.02質量%以上0.50質量%以下であるのがより好ましい。これにより、被膜形成用溶液の粘度を十分に下げることができる。その結果、金属粒子11の表面に金属陽イオン性物質をムラなく付着させることができ、金属陽イオン性物質が均一に分布した粉末層31を形成可能な積層造形用粉末1を製造することができる。
【0097】
なお、被膜形成用溶液は、金属粒子11に対して、例えば噴霧等の方法で供給されてもよい。
以上のようにして、
図11に示す造形用粒子13が得られる。
【0098】
5.積層造形体の製造方法の変形例
次に、変形例に係る積層造形体の製造方法について説明する。
【0099】
図13は、変形例に係る積層造形体の製造方法を説明するための図である。
以下、変形例に係る積層造形体の製造方法について説明するが、以下の説明では、前記実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、
図13において、前記実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。
【0100】
変形例に係る積層造形体の製造方法は、粉末層形成工程S102の構成が異なること以外、前記実施形態と同様である。
【0101】
前記実施形態の粉末層形成工程S102では、
図11に示す造形用粒子13で構成された積層造形用粉末1を用いて、粉末層31を形成する。
【0102】
これに対し、変形例の粉末層形成工程S102では、
図11に示す金属粒子11で構成された金属粉末10を用いて、まず、
図13に示す金属粉末層30を形成する。次に、この金属粉末層30に対し、2価以上の金属陽イオンを含むイオン溶液5を供給する。これにより、イオン溶液5を金属粒子11の表面に付着させる。その後、イオン溶液5を乾燥させる。乾燥には、前述した各種乾燥操作が用いられる。その結果、金属陽イオン性物質を金属粒子11の表面に付着させることができ、前記実施形態と同様の粉末層31が得られる。
【0103】
なお、金属粉末層30にイオン溶液を供給する場合、前述した液体供給部26から供給することができる。その場合、バインダー溶液4とは異なるノズルから供給されるようにしておけばよい。これにより、イオン溶液およびバインダー溶液4を、互いに独立して供給することができる。
【0104】
また、イオン溶液は、X-Y面における金属粉末層30の全体に供給してもよいが、バインダー溶液供給工程S104でバインダー溶液4を供給する範囲、つまり、形成領域60を包含する範囲のみに供給してもよい。この場合、イオン溶液の消費量を抑えることができる。
以上のような変形例においても、前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0105】
6.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る積層造形用粉末1は、粉末層形成工程S102と、バインダー溶液供給工程S104と、を有する。粉末層形成工程S102では、金属粒子11と、金属粒子11に付着している2価以上の金属陽イオン性物質と、を含む粉末層31を形成する。バインダー溶液供給工程S104では、粉末層31の形成領域60(所定領域)に対し、バインダー溶液4を供給することにより、形成領域60に結着層41を得る。そして、バインダー溶液4は、水および水に溶解するアルギン酸塩を含有する。
【0106】
このような構成によれば、バインダー溶液4を2価以上の金属陽イオンと接触させることにより、アルギン酸の分子同士の間でイオン架橋を生じさせることができるイオン架橋物にゲル化を生じさせ、バインダー溶液4の粘度が上昇させることができる。その結果、供給されたバインダー溶液4が粉末層31中に必要以上に浸透するのを抑制することができる。これにより、粉末層31中に形成される結着層41の位置精度および形状精度を高めることができる。その結果、表面精度が高い、つまり、目的とする表面形状からのずれが少ない積層造形体6を製造することができる。
【0107】
また、金属陽イオン性物質は、2価以上の金属陽イオンと陰イオンとの塩(反応物)であってもよい。この場合、粉末層形成工程S102(粉末層31を形成する工程)は、塩を付着させた金属粒子11を層状に均す操作を含んでいてもよい。
このような操作を含むことで、粉末層31内にムラなく金属陽イオン性物質を分布させることができる。これにより、バインダー溶液4をムラなく増粘させることができる。つまり、バインダー溶液4が供給されれば、粉末層31中の位置を問わず、均質な増粘作用を得ることができる。
【0108】
また、金属陽イオン性物質は、2価以上の金属陽イオンであってもよい。この場合、粉末層形成工程S102(粉末層31を形成する工程)は、金属粒子11を層状に均して、金属粉末層30を形成する操作と、金属粉末層30に、2価以上の金属陽イオンを含むイオン溶液を供給する操作と、を含む。
【0109】
このような操作を含むことで、イオン溶液を供給する範囲を選択することができるので、イオン溶液の消費量を抑えることができる。
【0110】
また、バインダー溶液4におけるアルギン酸塩の含有量は、0.1質量%以上7.0質量%以下であることが好ましい。
【0111】
これにより、バインダー溶液4の増粘によって粘度を十分に高めることができる。その結果、粉末層31中におけるバインダー溶液4の浸透量を十分に抑えることができる。その結果、表面精度が十分に高い積層造形体6を製造することができる。
【0112】
また、バインダー溶液4は、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリビニルピロリドン(PVP)を含有していてもよい。
【0113】
これにより、アルギン酸塩による作用を阻害することなく、金属粒子11同士の結着力を高めることができる。その結果、積層造形体6の機械的強度を高めることができ、積層造形体6の意図しない変形を抑制することができる。
【0114】
また、バインダー溶液供給工程S104(結着層41を得る工程)は、結着層41を加熱する操作を含むことが好ましい。
【0115】
これにより、結着層41に含まれる溶媒の揮発を促進するとともに、アルギン酸の架橋による粒子同士の結着を促進する。
【0116】
前記実施形態に係る積層造形用粉末1は、金属粒子11と、金属粒子11に付着している2価以上の金属陽イオン性物質と、を含む。そして、積層造形用粉末1は、水および水に溶解するアルギン酸塩を含有するバインダー溶液4を用いた積層造形法に適用される。
このような構成によれば、バインダー溶液4が2価以上の金属陽イオンに接触することで、アルギン酸の分子同士の間でイオン架橋を生じさせることができるイオン架橋物にゲル化を生じさせ、バインダー溶液4の粘度を上昇させ得る積層造形用粉末1が得られる。バインダー溶液4の粘度が上昇することで、供給されたバインダー溶液4が積層造形用粉末1で構成される粉末層31中に必要以上に浸透するのを抑制することができる。これにより、粉末層31中に形成される結着層41の位置精度および形状精度を高めることができる。したがって、積層造形用粉末1を用いることで、表面精度が高い、つまり、目的とする表面形状からのずれが少ない積層造形体6を製造することができる。
【0117】
前記実施形態に係るバインダー溶液4は、バインダージェット法による積層造形体6の製造に用いられるバインダー溶液であって、水および水に溶解するアルギン酸塩を含有し、金属粒子11および2価以上の金属陽イオン性物質を含む粉末層31に向けて供給される。
【0118】
このような構成によれば、2価以上の金属陽イオンに接触することで、アルギン酸の分子同士の間でイオン架橋を生じ、粘度が上昇するバインダー溶液4が得られる。バインダー溶液4の粘度が上昇することで、供給されたバインダー溶液4が積層造形用粉末1で構成される粉末層31中に必要以上に浸透するのを抑制することができる。これにより、粉末層31中に形成される結着層41の位置精度および形状精度を高めることができる。したがって、バインダー溶液4を用いることで、表面精度が高い、つまり、目的とする表面形状からのずれが少ない積層造形体6を製造することができる。
【0119】
以上、本発明の積層造形体の製造方法、積層造形用粉末およびバインダー溶液を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば本発明の積層造形用粉末およびバインダー溶液は、前記実施形態に任意の成分が付加されたものであってもよい。
【0120】
また、本発明の積層造形体の製造方法は、前記実施形態やその変形例に任意の目的の工程が付加されたものであってもよい。
【実施例0121】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
7.積層造形用粉末の製造
水アトマイズ法により、サンプルNo.1~26の積層造形用粉末に用いる金属粉末を作製した。次に、得られた金属粉末に対し、被膜形成用溶液である塩化カルシウム水溶液を用いて、2価以上の金属陽イオン性物質を含む被膜を形成した。具体的には、塩化カルシウム水溶液に金属粉末を接触させた後、金属粉末を100℃に加熱し、水を蒸発させた。これにより、積層造形用粉末を得た。金属粉末の鋼種、積層造形用粉末の代表粒径、ならびに、金属陽イオン性物質の組成、供給方法および供給量は、表1ないし表3に示すとおりである。なお、供給方法のうち、「粉末付着」とは、金属粒子に被膜を付けた造形用粒子を用いて粉末層を形成することを指し、「溶液供給」とは、金属粉末のみで構成された金属粉末層に対して塩化カルシウム水溶液を供給することを指す。
【0122】
【0123】
なお、表2および表3では、各サンプルNo.の積層造形用粉末のうち、本発明に相当するものを「実施例」、本発明に相当しないものを「比較例」とした。
【0124】
8.積層造形用粉末の評価
8.1.積層造形体の寸法精度
各積層造形用粉末を用い、バインダージェット法により、直方体形状をなす積層造形体を作製した。バインダー溶液におけるアルギン酸アルカリ金属塩の有無、一価の陽イオンの種類、アルギン酸アルカリ金属塩の濃度、および、添加成分は、表2および表3に示すとおりである。次に、得られた積層造形体の寸法を測定した。次に、寸法の狙い値からのずれ幅を算出し、狙い値に対するずれ幅の比率の絶対値を、積層造形体の寸法精度とした。そして、算出した寸法精度を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2および表3に示す。
【0125】
A:寸法精度が1%未満である
B:寸法精度が1%以上2%未満である
C:寸法精度が2%以上3%未満である
D:寸法精度が3%以上である
なお、添加成分の添加量は、アルギン酸アルカリ金属塩の添加量の50%とした。
【0126】
8.2.積層造形体の機械的強度
各積層造形用粉末を用い、バインダージェット法により、直方体形状をなす積層造形体を作製した。バインダー溶液には、8.1.と同様の溶液を使用した。作製した積層造形体のサイズは、長さ40mm、幅20mm、厚さ5mmであった。
【0127】
次に、作製した積層造形体について、3点曲げ試験治具を用い、曲げ荷重を測定した。そして、下記式により、積層造形体の曲げ応力σを算出した。
【0128】
【0129】
なお、上式において、Fは曲げ荷重、Lは3点曲げ試験治具の支点間距離、bは積層造形体の幅、hは積層造形体の厚さである。そして、算出結果を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2および表3に示す。
【0130】
A:積層造形体の機械的強度が高い(曲げ応力σが25N/cm2以上である)
B:積層造形体の機械的強度がやや高い(曲げ応力σが20N/cm2以上25N/cm2未満である)
C:積層造形体の機械的強度がやや低い(曲げ応力σが15N/cm2以上20N/cm2未満である)
D:積層造形体の機械的強度が低い(曲げ応力σが15N/cm2未満である)
【0131】
【0132】
【0133】
8.3.評価結果に対する考察
表2および表3に示すように、各実施例の積層造形体の製造方法では、金属粉末に塩化カルシウムを付着させ、バインダー溶液にアルギン酸塩を添加することにより、高い寸法精度の積層造形体を製造できることがわかった。また、バインダー溶液に樹脂等の成分を添加することにより、バインダー溶液におけるアルギン酸塩の濃度が多少低くても、積層造形体の寸法精度を確保できることもわかった。
1…積層造形用粉末、2…積層造形装置、4…バインダー溶液、5…イオン溶液、6…積層造形体、10…金属粉末、11…金属粒子、12…被膜、13…造形用粒子、21…装置本体、22…粉末供給エレベーター、23…造形ステージ、24…コーター、25…ローラー、26…液体供給部、30…金属粉末層、31…粉末層、41…結着層、60…形成領域、211…粉末貯留部、212…造形部、S102…粉末層形成工程、S104…バインダー溶液供給工程、S106…繰り返し工程、S202…粉末準備工程、S204…被膜形成工程