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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140111
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】磁気分離装置および磁気分離方法
(51)【国際特許分類】
   B03C 1/28 20060101AFI20241003BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241003BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20241003BHJP
   B03C 1/01 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B03C1/28 107
C12M1/00 A
B03C1/00 A
B03C1/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051109
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼城 富美男
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA23
4B029BB20
4B029CC04
4B029GA03
4B029HA10
(57)【要約】
【課題】磁気分離速度および磁性ビーズと液体との分離効率の双方に優れる磁気分離装置および磁気分離方法を提供すること。
【解決手段】第1軸に沿って延在する筒状の収容部に隣り合う位置に設けられ、前記収容部に磁場を印加する磁化を持つ磁石と、前記磁石を支持する基台と、前記第1軸と直交する軸を第2軸とし、前記第2軸を含む平面内において前記第2軸と直交する軸を第3軸とするとき、前記磁化の方向が前記第3軸よりも前記第2軸に近い方向を向く第1姿勢と、前記磁化の方向が前記第2軸よりも前記第3軸に近い方向を向く第2姿勢と、の間で前記磁石の姿勢を変化させる駆動部と、を備えることを特徴とする磁気分離装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸に沿って延在する筒状の収容部に隣り合う位置に設けられ、前記収容部に磁場を印加する磁化を持つ磁石と、
前記磁石を支持する基台と、
前記第1軸と直交する軸を第2軸とし、前記第2軸を含む平面内において前記第2軸と直交する軸を第3軸とするとき、前記磁化の方向が前記第3軸よりも前記第2軸に近い方向を向く第1姿勢と、前記磁化の方向が前記第2軸よりも前記第3軸に近い方向を向く第2姿勢と、の間で前記磁石の姿勢を変化させる駆動部と、
を備えることを特徴とする磁気分離装置。
【請求項2】
前記磁石は、前記第1軸と平行な回動軸まわりに回動するように設けられ、
前記駆動部は、前記磁石を前記回動軸まわりに回動させる請求項1に記載の磁気分離装置。
【請求項3】
前記磁石は、前記回動軸を中心軸とする円柱状をなしている請求項2に記載の磁気分離装置。
【請求項4】
前記収容部を介して互いに反対の位置に設けられる2つの前記磁石を備える請求項1ないし3のいずれか1項に記載の磁気分離装置。
【請求項5】
磁性ビーズを収容する複数の前記収容部が並ぶウェルプレートが重ねられたとき、
隣り合う前記収容部同士の間に前記磁石が位置するように、前記磁石が配置されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の磁気分離装置。
【請求項6】
前記収容部は、磁性ビーズを収容する容器が挿入される挿入部である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の磁気分離装置。
【請求項7】
複数の前記磁石を備え、
前記駆動部は、前記磁石の姿勢を互いに同期して変化させる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の磁気分離装置。
【請求項8】
前記駆動部は、
前記磁石に接続されているピニオンギアと、
前記ピニオンギアと螺合しているラックギアと、
を有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の磁気分離装置。
【請求項9】
前記第1軸に沿って前記基台を移動させる移動ステージをさらに備える請求項1ないし3のいずれか1項に記載の磁気分離装置。
【請求項10】
磁性ビーズおよび液体を収容する筒状の収容部に磁場を印加して前記磁性ビーズを前記収容部の内壁に固定することにより、前記磁性ビーズと前記液体とを分離する磁気分離工程と、
前記磁性ビーズと前記液体とを分離した状態で、前記液体を排出する液体排出工程と、
を有し、
前記収容部の延在方向に沿う軸を第1軸とし、
前記第1軸と直交する平面内において前記第1軸と直交する軸を第2軸とし、
前記平面内において前記第2軸と直交する軸を第3軸とするとき、
前記磁気分離工程では、前記第3軸よりも前記第2軸に近い角度で磁場を印加し、
前記液体排出工程では、前記第2軸よりも前記第3軸に近い角度で磁場を印加することを特徴とする磁気分離方法。
【請求項11】
前記液体と分離された前記磁性ビーズを乾燥させる乾燥工程をさらに有し、
前記乾燥工程では、前記第3軸よりも前記第2軸に近い角度で磁場を印加する請求項10に記載の磁気分離方法。
【請求項12】
前記磁性ビーズを前記液体に分散させる磁性ビーズ分散工程をさらに有し、
前記磁気分離工程および前記液体排出工程では、前記収容部に磁石を近づけることにより、前記収容部に対して磁場を印加し、
前記磁性ビーズ分散工程では、前記収容部から前記磁石を遠ざけることにより、前記収容部に対する磁場の印加を解除する請求項10または11に記載の磁気分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気分離装置および磁気分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野における診断や生命科学の分野において、生体物質の検査需要が高まっている。生体物質検査手法のうち、PCR(Polymerase chain reaction)法は、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)等の核酸を抽出し、その核酸を特異的に増幅して検出する方法である。こうした生体物質を検査する過程では、まず、検体から検査対象の物質を抽出することが必要である。この生体物質の抽出には、磁性ビーズを用いた磁気分離法が広く利用されている。磁気分離法では、抽出対象である生体物質を担持できる機能を有した磁性ビーズを利用し、磁場をかけることで生体物質を抽出する。具体的には、検査対象物質の担持能を表面に有する磁性ビーズを分散媒中に分散させた後、得られた分散液を磁気スタンド等の磁場発生装置に装着し、磁場印加のON/OFFを複数回繰り返す。これにより、検査対象物質を抽出する。こうした磁気分離法は、磁力によって磁性ビーズを分離し、回収する方法であるため、迅速な分離操作が可能である。
【0003】
また、PCR法における抽出に限らず、タンパク質の精製、エクソソーム、細胞の分離、抽出等の分野でも、同様の磁気分離法が利用されている。
【0004】
磁気分離法では、容器を保持する機能と、容器に磁場を印加する機能と、を有する磁気スタンドが用いられる。例えば、特許文献1には、容器を挿入するための保持孔を有する基台と、基台に設けられた永久磁石と、からなる磁気スタンドが開示されている。この磁気スタンドでは、N極が容器側を向き、S極が反対側を向くように、永久磁石が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-018692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁性ビーズが入った容器に磁場を印加すると、容器内の磁性ビーズは、磁場の方向に沿って配列する。このため、特許文献1に記載しているように永久磁石を配置した場合、容器の径方向に沿って磁性ビーズが針状に配列することになる。磁性ビーズがこのような針状に配列する現象を「スパイク現象」ともいう。スパイク現象が発生すると、針状に配列した磁性ビーズ同士の間に溶液が保持されやすくなる。その結果、磁性ビーズと溶液との分離性が低下し、抽出される生体物質に夾雑物が混入しやすくなる。
【0007】
一方、特許文献1に記載されている永久磁石の配置を変更すれば、スパイク現象の発生を抑制できる。しかし、その場合、容器内に生じる磁場勾配が小さくなり、磁気分離に要する時間が長くなる。
【0008】
そこで、磁気分離速度および磁性ビーズと液体との分離効率の双方に優れる磁気分離装置の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の適用例に係る磁気分離装置は、
第1軸に沿って延在する筒状の収容部に隣り合う位置に設けられ、前記収容部に磁場を印加する磁化を持つ磁石と、
前記磁石を支持する基台と、
前記第1軸と直交する軸を第2軸とし、前記第2軸を含む平面内において前記第2軸と直交する軸を第3軸とするとき、前記磁化の方向が前記第3軸よりも前記第2軸に近い方向を向く第1姿勢と、前記磁化の方向が前記第2軸よりも前記第3軸に近い方向を向く第2姿勢と、の間で前記磁石の姿勢を変化させる駆動部と、
を備える。
【0010】
本発明の適用例に係る磁気分離方法は、
磁性ビーズおよび液体を収容する筒状の収容部に磁場を印加して前記磁性ビーズを前記収容部の内壁に固定することにより、前記磁性ビーズと前記液体とを分離する磁気分離工程と、
前記磁性ビーズと前記液体とを分離した状態で、前記液体を排出する液体排出工程と、
を有し、
前記収容部の延在方向に沿う軸を第1軸とし、
前記第1軸と直交する平面内において前記第1軸と直交する軸を第2軸とし、
前記平面内において前記第2軸と直交する軸を第3軸とするとき、
前記磁気分離工程では、前記第3軸よりも前記第2軸に近い角度で磁場を印加し、
前記液体排出工程では、前記第2軸よりも前記第3軸に近い角度で磁場を印加する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る磁気分離装置およびそれに用いられるウェルプレートの例を示す斜視図である。
図2図1に示す磁気分離装置およびウェルプレートの側面図である。
図3図1に示す磁気分離装置およびウェルプレートの平面図である。
図4】第1実施形態に係る磁気分離装置が解決しようとする課題の1つであるスパイク現象の弊害を説明するための模式図である。
図5】第1実施形態に係る磁気分離装置が解決しようとする課題の1つであるスパイク現象の弊害を説明するための模式図である。
図6】第1姿勢POS1にあるときの磁石の磁化の方向と、ウェルの位置と、の関係を示す模式図である。
図7】第2姿勢POS2にあるときの磁石の磁化の方向と、ウェルの位置と、の関係を示す模式図である。
図8】第1実施形態に係る磁気分離方法を含む生体物質抽出方法を説明するための工程図である。
図9図8に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
図10図8に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
図11図8に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
図12】第2実施形態に係る磁気分離装置およびそれに用いられるウェルプレートの例を示す平面図である。
図13】第2実施形態に係る磁気分離方法を含む生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
図14】第2実施形態に係る磁気分離方法を含む生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
図15】第3実施形態に係る磁気分離装置を示す側面図である。
図16】第4実施形態に係る磁気分離装置およびそれに用いられるマイクロチューブの例を示す側面図である。
図17】磁石の姿勢を変えて測定した磁性ビーズ分散液の吸光度の推移を表すグラフである。
図18】磁石の姿勢を変えて測定した残液量を比較するグラフである。
図19】磁石の姿勢を変えて測定した重量変化量の推移(乾燥速度)を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の磁気分離装置および磁気分離方法の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、本願の一部の図では、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸およびZ軸を設定している。各軸を矢印で表し、先端側を「プラス」、基端側を「マイナス」とする。以下の説明で、例えば「X軸方向」とは、X軸のプラス方向およびマイナス方向の双方を含む。Y軸方向およびZ軸方向についても同様である。また、以下の説明では、Z軸プラス側を「上」、Z軸マイナス側を「下」として説明することがある。
【0013】
1.第1実施形態
まず、第1実施形態について説明する。
【0014】
1.1.磁気分離装置
図1は、第1実施形態に係る磁気分離装置1およびそれに用いられるウェルプレート9の例を示す斜視図である。図2は、図1に示す磁気分離装置1およびウェルプレート9の側面図である。図3は、図1に示す磁気分離装置1およびウェルプレート9の平面図である。
【0015】
図1および図2に示す磁気分離装置1は、磁石11と、磁石11を支持する基台12と、を備える。磁石11は、基台12の上面から上方に向かって突出するように設けられている。
【0016】
基台12の上面には、図1に矢印STで示すように、ウェルプレート9が重ねられるようになっている。ウェルプレート9は、凹形状をなすウェル92を複数有し、全体が平板状をなす部材である。このようなウェルプレート9では、例えば生体物質を含む溶液を磁性ビーズとともにウェル92に収容する。つまり、ウェル92は、溶液および磁性ビーズを収容する収容部である。このような溶液および磁性ビーズを収容したウェル92に外部から磁場を印加すると、溶液と磁性ビーズとが磁気分離される。本明細書では、このような操作を磁気分離操作という。磁気分離された状態で、溶液をピペット等で排出する。これにより、溶液の選択的な回収が可能になる。本明細書では、このような操作を液体排出操作という。磁気分離装置1は、このような磁気分離操作および液体排出操作に用いられる。
【0017】
図3に示すウェルプレート9では、一例として、ウェル92がX軸方向に等間隔に並ぶ列を構成するとともに、その列がY軸方向に等間隔に並んでいる。したがって、図3に示すウェル92は、X-Y面において格子状に並んでいる。なお、ウェル92の配列パターンは、格子状に限定されず、いかなるパターンであってもよい。また、1枚のウェルプレート9が有するウェル92の数は、特に限定されない。
【0018】
各ウェル92は、図2に示すように、第1軸AX1に沿って延在する筒状をなし、上方に開口する有底の凹部である。第1軸AX1は、例えばZ軸と平行である。一方、隣り合うウェル92同士の間には、図2に示す空間SPが設けられている。この空間SPは、下方に開口している。
【0019】
ウェルプレート9が磁気分離装置1に重ねられると、この空間SPに下方から磁石11が差し込まれる。これにより、磁石11は、図3に示すように、ウェル92に近接して配置されることになる。その結果、磁石11が持つ磁化Mによってウェル92に磁場が印加される。
【0020】
また、図1および図2に示す磁気分離装置1は、駆動部2を備える。駆動部2は、例えば基台12に収容されている。この駆動部2は、基台12に対して磁石11の姿勢を変化させるように駆動する。これにより、磁石11の磁化Mの方向を変化させることができる。磁化Mの方向を適時変化させることができれば、ウェル92に収容された磁性ビーズにおいて、スパイク現象の発生の有無を制御することができる。これにより、スパイク現象の発生に伴う課題を解決することができる。
【0021】
図4および図5は、第1実施形態に係る磁気分離装置1が解決しようとする課題の1つであるスパイク現象の弊害を説明するための模式図である。なお、図4および図5では、1つのウェル92およびそれに近接配置された1つの磁石11、および、ウェル92に収容された磁性ビーズ3および液体4を図示している。
【0022】
図4では、磁石11の磁化Mの方向を矢印で示している。図4に示す磁石11は、その磁極がウェル92に対向するように配置されている。このため、磁石11の磁化Mの方向は、磁石11とウェル92とを結ぶ線分に沿うことになる。これにより、磁石11から生じる磁束線Lmの密度は、ウェル92の内部で高くなり、それに伴って、ウェル92内の磁性ビーズ3にはスパイク現象が発生しやすくなる。スパイク現象は、図4に示すように、磁性ビーズ3が針状に配列する現象である。スパイク現象が発生すると、磁性ビーズ3全体の比表面積が大きくなるため、磁気分離操作後に液体排出操作を行っても、磁性ビーズ3同士の間に多くの液体4が排出されずに残るという課題が生じる。
【0023】
図5では、磁性ビーズ3と液体4とが分離された状態で、液体4を排出する操作(液体排出操作)を示している。磁気分離操作では、ウェル92の内壁に磁性ビーズ3を磁気吸引した状態で、ウェル92内にピペット8を挿入し、液体4を排出する。しかし、図5に示すように磁性ビーズ3にスパイク現象が発生していると、磁性ビーズ3に保持されて排出されない液体4が多くなる。その結果、磁性ビーズ3に吸着されている標的生体物質が抽出されるとき、液体4に含まれた夾雑物が混入することが懸念される。
【0024】
以上のような課題を解決するため、実施形態に係る磁気分離装置1は、前述したように駆動部2を備え、磁石11の姿勢を適宜変更できるように構成されている。
以下、磁気分離装置1の構成について詳述する。
【0025】
1.1.1.磁石
図1に示す磁気分離装置1は、一例として4つの磁石11を備えている。これらの磁石11は、基台12の上面から上方に向かって突出するように設けられている。また、図1に示す磁石11は、円柱状をなしている。そして、磁石11は、円柱の中心軸を回動軸AXRとして、回動するようになっている。回動角は、例えば90°とされるが、必要に応じて、これより大きく、または、小さく設定してもよい。
【0026】
磁石11の磁化Mの方向は、回動軸AXRと交差する方向に設定されている。これにより、磁石11が回動軸AXRまわりに回動したとき、磁化Mの方向も回動する。その結果、ウェル92内に形成される磁束密度を変化させることができ、スパイク現象の発生の有無を制御することができる。
【0027】
磁石11は、電磁石であってもよいが、永久磁石であるのが好ましい。これにより、磁気分離装置1の電源が不要になるとともに、小型化および軽量化が容易になる。また、磁気分離装置1の可搬性も高められるため、設置場所の自由度が高くなる。なお、磁石11として電磁石を用いた場合には、磁石11自体を回動させるのではなく、回動磁場を形成することによって、上記と同様の効果が得られる。
【0028】
永久磁石としては、例えば、ネオジウム鉄ボロン磁石、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石等が挙げられる。このうち、より小さなサイズで十分な磁場を発生させられることから、ネオジウム鉄ボロン磁石が好ましく用いられる。なお、ネオジウム鉄ボロン磁石は、耐食性等の経時的な信頼性を確保する観点から、ニッケルめっき等のコーティングを施して使用することが好ましい。
【0029】
磁石11の表面磁束密度は、特に限定されないが、50mT以上であることが好ましく、200mT以上であることがより好ましい。これにより、磁気分離における磁性ビーズ3の移動速度を高めることができ、また、固定した磁性ビーズ3の脱落を抑制することができる。磁石11の表面磁束密度は、例えば、ホール素子を用いたガウスメーターで測定される。
【0030】
図3に示すウェルプレート9は、一例として16個のウェル92を有している。このうち、4つの磁石11によって磁場の印加を制御する場合、図3において着色されている8個のウェル92を使うことが考えられる。この8個のウェル92には、4つの磁石11によって同様の磁束密度の磁場を同時に印加することができる。具体的には、磁石11の磁化Mが図3に矢印で示す方向に設定されているとき、着色されている8個のウェル92に収容された磁性ビーズには、スパイク現象が発生する。一方、着色されていない8個のウェル92には、スパイク現象がほとんど発生しない。一方、図3に示す状態から磁化Mの方向を90°回動させた場合、これらの関係は逆になる。したがって、図3に示す例において、スパイク現象の発生のタイミングをウェル92同士で揃える必要がある場合には、16個のウェル92のうち、半分のウェル92を利用することができる。ただし、スパイク現象の発生のタイミングを16個のウェル92全てで揃える必要がない場合、例えば、8個のウェル92にスパイク現象を発生させるとともに、残る8個のウェル92にはスパイク現象を発生させないという使い方をする場合には、16個のウェル92の全てを利用することができる。
【0031】
また、図3に示す磁石11は、隣り合う2つのウェル92同士の間に配置されている。これにより、1つの磁石11によって2つのウェル92に磁場を印加することができる。このため、1つの磁石11から発生する磁場を有効に利用することができる。
【0032】
磁石11が回動軸AXRを中心軸とする円柱状をなしている場合、磁石11が回動しても、磁石11とウェル92との距離の変化を抑えられる。このため、磁石11の回動に伴ってウェル92内に形成される磁束密度が変化するのを抑制することができる。これにより、ウェル92の内壁に固定されている磁性ビーズ3が意図せず離脱したり、意図しないスパイク現象が発生したりすることを抑制できる。なお、磁石11の形状は、円柱状に限定されず、例えば、四角柱、五角柱、六角柱、八角柱のような多角柱、楕円柱、長円柱、その他の形状であってもよい。また、ウェル92および磁石11の配置や数は、これに限定されない。
【0033】
1.1.2.基台
基台12は、磁石11を回動可能な状態で支持する部材である。図1に示す基台12は、一例として、直方体形状をなす箱体である。なお、基台12の形状は、特に限定されない。図1に示す基台12の内部は空洞になっており、駆動部2の一部が収容されている。
【0034】
1.1.3.駆動部
図1に示す駆動部2は、基台12の内部に配置されているピニオンギア21、ラックギア22およびシャフト23と、基台12の外部に配置されている把持部24と、を有する。
【0035】
ピニオンギア21は、各磁石11の下方に接続されている円筒歯車である。ピニオンギア21は、各磁石11の回動軸AXRと同軸になるように接続されている。ラックギア22は、Y軸に沿って延在する棒状歯車である。ピニオンギア21およびラックギア22は、互いに螺合している。これにより、ラックギア22がY軸に沿って移動するとき、その直線運動がピニオンギア21の回動運動に変換される。
【0036】
図1に示す磁気分離装置1は、一例として2本のラックギア22を有する。各ラックギア22は、2つのピニオンギア21と螺合している。また、各ラックギア22のY軸マイナス側の端部は、X軸に沿って延在するシャフト23に接続されている。シャフト23のX軸マイナス側の端部は、把持部24に接続されている。
【0037】
磁気分離装置1を操作する操作者は、把持部24を把持してY軸方向に動かす。これにより、2本のラックギア22がY軸に沿って移動するとともに、ラックギア22に螺合しているピニオンギア21が、各回動軸AXRまわりに回動する。その結果、磁石11を回動軸AXRまわりに回動させることができる。このようにして、磁石11の姿勢を変化させ、スパイク現象の発生の有無を制御することができる。
【0038】
このような構成を有する駆動部2によれば、ラックギア22に直線運動を与えるだけで、磁石11を回動させることができるため、簡単な操作で磁石11を回動させることができる。また、直線運動の運動量は、回動運動の運動量に比例するため、磁石11の回動量を簡単に調整できる。
【0039】
また、上記のような駆動部2によれば、4つの磁石11の姿勢を同期して変更できる。これにより、多数の磁石11の姿勢を変更して複数のウェル92で同様の操作を行うとき、省力化を図ることができる。
【0040】
なお、上記の駆動部2の構成は、これに限定されない。例えば、駆動部2は、磁石11を駆動するモーターと、各モーターの動作を制御するスイッチング装置と、で構成されていてもよいし、上記の構成にラックギア22またはピニオンギア21を駆動するモーターが追加された構成であってもよい。
【0041】
駆動部2は、図6に示す第1姿勢POS1、および、図7に示す第2姿勢POS2、となるように磁石11の姿勢を変化させる。
【0042】
図6は、第1姿勢POS1にあるときの磁石11の磁化Mの方向と、ウェル92の位置と、の関係を示す模式図である。図7は、第2姿勢POS2にあるときの磁石11の磁化Mの方向と、ウェル92の位置と、の関係を示す模式図である。
【0043】
図6および図7では、前述したように第1軸AX1に沿って筒状のウェル92(収容部)が延在している。第1軸AX1は、Z軸と平行である。また、第1軸AX1と直交する軸を第2軸AX2とする。さらに、第2軸AX2を含む平面PLを仮想した場合、この平面PL内において第2軸AX2と直交する軸を第3軸AX3とする。
【0044】
図6に示す第1姿勢POS1は、磁石11の磁化Mの方向が第3軸AX3よりも第2軸AX2に近い方向を向いている姿勢である。具体的には、平面PL内で磁化Mと第2軸AX2とのなす角度が、平面PL内で磁化Mと第3軸AX3とのなす角度よりも小さくなっていればよく、好ましくは30°以下とされ、より好ましくは10°以下とされる。図6では、磁化Mと第2軸AX2とのなす角度が0°の状態を図示している。
【0045】
磁石11が第1姿勢POS1にあるとき、磁石11の磁極をウェル92にほぼ正対させることができる。これにより、ウェル92内に生じる磁束密度を十分に高くすることができる。その結果、ウェル92には大きな磁場勾配が形成されるため、磁性ビーズ3の磁気分離速度が大きくできる。ただし、この場合、磁性ビーズ3にはスパイク現象が発生する。
【0046】
図7に示す第2姿勢POS2は、磁石11の磁化Mの方向が第2軸AX2よりも第3軸AX3に近い方向を向いている姿勢である。具体的には、平面PL内で磁化Mと第3軸AX3とのなす角度が、平面PL内で磁化Mと第2軸AX2とのなす角度よりも小さくなっていればよく、好ましくは30°以下とされ、より好ましくは10°以下とされる。図7では、磁化Mと第3軸AX3とのなす角度が0°の状態を図示している。
【0047】
このような第2姿勢POS2は、前述した第1姿勢POS1を基準にして、磁石11を回動軸AXRまわりに90°回動させた姿勢である。回動軸AXRは、第1軸AX1と平行な軸であるから、図7に示す磁石11の磁極は、ウェル92を正対していない。これにより、ウェル92内に形成される磁束密度を、磁石11が第1姿勢POS1にある場合に比べて小さくすることができる。その結果、ウェル92に収容されている磁性ビーズ3にスパイク現象が発生することを抑制できる。
【0048】
1.2.生体物質抽出方法
次に、第1実施形態に係る磁気分離方法を含む生体物質抽出方法について説明する。
【0049】
図8は、第1実施形態に係る磁気分離方法を含む生体物質抽出方法を説明するための工程図である。図9ないし図11は、図8に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
【0050】
図8に示す生体物質抽出方法は、溶解・吸着工程S100と、洗浄工程S200と、溶出工程S300と、を有する。
【0051】
生体物質抽出方法が抽出対象とする生体物質とは、例えば、DNAやRNAのような核酸、タンパク質、がん細胞のような各種細胞、ペプチド、ウイルス等の物質を指す。なお、核酸は、例えば、細胞や生体組織等の生体試料、ウイルス、細菌等に含まれた状態で存在していてもよい。図8に示す生体物質抽出方法は、このような生体物質を溶解・吸着、洗浄、溶出の各工程を経て抽出するものである。
【0052】
以下、各工程について順次説明する。なお、以下の説明では、生体物質が核酸である場合を例にして説明する。また、以下の説明では、磁気分離装置1を用いる場合について説明するが、磁気分離装置1以外の磁場発生装置を用いることも可能である。
【0053】
1.2.1.溶解・吸着工程
溶解・吸着工程S100は、さらに、磁性ビーズ分散工程S102、磁気分離工程S104および液体排出工程S106を有する。以下、各工程について順次説明する。
【0054】
1.2.1.1.磁性ビーズ分散工程
磁性ビーズ分散工程S102では、まず、核酸を含む検体試料を図9に示すウェル92に入れる。図9に示すウェル92は、図1のウェル92の1つを示したものである。このウェル92に、さらに磁性ビーズ3を含む分散液と、溶解吸着液と、を入れる。これにより、ウェル92では、図9に示すように、液体4中に磁性ビーズ3が分散した収容物が得られる。核酸は、通常、細胞膜や核に内包されているため、溶解吸着液の溶解作用により、細胞膜や核のいわゆる外殻を溶解除去して核酸が取り出される。その後、溶解吸着液の吸着作用により、磁性ビーズ3に核酸が吸着される。
【0055】
磁性ビーズ分散工程S102は、好ましくは図1に示す磁気分離装置1からウェルプレート9を離した状態で行う。この状態であれば、ウェルプレート9の空間SPに磁石11が差し込まれていないので、ウェル92には磁場が印加されない。このため、磁性ビーズ3を液体4に分散させることができる。その結果、磁性ビーズ3に対する核酸の吸着効率を高めることができる。なお、磁性ビーズ分散工程S102を省略してもよく、その場合、後述する磁気分離工程S104で上記の溶解、吸着を行ってもよい。
【0056】
溶解吸着液としては、例えば、カオトロピック物質を含む液体が用いられる。カオトロピック物質は、水溶液中でカオトロピックイオンを生じ、水分子の相互作用を減少させ、それにより構造を不安定化させる作用を有し、核酸の磁性ビーズ3への吸着に寄与する。水溶液中でカオトロピックイオンとして存在するカオトロピック物質としては、例えば、グアニジンチオシアン酸塩、グアニジン塩酸塩、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、過塩素酸ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、タンパク質変成作用の強いグアニジンチオシアン酸塩またはグアニジン塩酸塩が好ましく用いられる。
【0057】
溶解吸着液におけるカオトロピック物質の濃度は、カオトロピック物質によって異なるが、例えば、1.0M以上8.0M以下であるのが好ましい。また、特に、グアニジンチオシアン酸塩を使用する場合には、3.0M以上5.5M以下であるのが好ましい。さらに、特にグアニジン塩酸塩を使用する場合には、4.0M以上7.5M以下であるのが好ましい。
【0058】
溶解吸着液は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤は、細胞膜の破壊または細胞中に含まれるタンパク質を変性させる目的で用いられる。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、トリトン系界面活性剤やツイーン系界面活性剤といった非イオン性界面活性剤、N-ラウロイルサルコシンナトリウム等の陰イオン性界面活性剤が挙げられる。これらのうち、非イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。非イオン性界面活性剤によれば、抽出後の核酸を分析するとき、イオン性界面活性剤による影響が抑えられる。その結果、電気泳動法による分析が可能になり、分析手法の選択肢を広げることができる。
【0059】
溶解吸着液における界面活性剤の濃度は、特に限定されないが、0.1質量%以上2.0質量%以下であるのが好ましい。
【0060】
また、溶解吸着液は、還元剤およびキレート剤の少なくとも一方を含んでいてもよい。還元剤としては、例えば、2-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール等が挙げられる。キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物(EDTA)等が挙げられる。
【0061】
溶解吸着液における還元剤の濃度は、特に限定されないが、0.2M以下であるのが好ましい。溶解吸着液におけるキレート剤の濃度は、特に限定されないが、0.2mM以下であるのが好ましい。
【0062】
溶解吸着液のpHは、特に限定されないが、6以上8以下の中性であるのが好ましい。また、pHを調整するためにバッファー液としてトリス(ヒドロキシ)アミノメタンやHCl等を加えてもよい。
【0063】
磁性ビーズ分散工程S102では、必要に応じて、超音波照射、ボルテックスミキサー、手振り振とう等により、ウェル92の収容物を撹拌する。撹拌する時間は、特に限定されないが、5秒以上40分以下であるのが好ましい。
【0064】
磁性ビーズ3は、残留磁化を持つとともに核酸を吸着可能な磁性粒子であれば、特に限定されない。例えば、磁性ビーズ3は、フェライトの微粒子や磁性金属粒子を含む。
【0065】
このうち、磁性金属粒子が好ましく用いられる。磁性金属粒子は、飽和磁化が高いため、磁気分離において磁性ビーズ3の移動速度を向上させることができる。これにより、磁気分離に要する時間を短縮することができる。
【0066】
磁性金属粒子の組成としては、例えば、Feを主成分とする合金(Fe系合金)が挙げられ、具体的には、Fe-Co系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Co-Ni系合金、Fe-Si系合金、Fe-Si-Cr系合金、Fe-Si-Cr-B-C系合金等が例示できる。
【0067】
また、磁性金属粒子を構成する金属組織は、結晶組織、アモルファス組織、ナノ結晶組織等の種々の形態をとることができる。特に、アモルファス組織またはナノ結晶組織とすることで、保磁力Hcが低い値となり、磁性ビーズ3の分散性を高めることができる。
【0068】
磁性ビーズ3は、磁性金属粒子の表面を被覆する被覆層を備えることが好ましい。被覆層は、抽出対象である生体物質を捕捉する機能を有する。被覆層の構成材料としては、例えば、酸化シリコンの他、シリコンと、Al、Ti、V、Nb、Cr、Mn、SnおよびZrからなる群から選ばれた1種の酸化物または2種以上との複合酸化物あるいは複合物等が挙げられる。
【0069】
磁性ビーズ3の平均粒径は、0.5μm以上50μm以下であるのが好ましく、2μm以上20μm以下であるのがより好ましい。これにより、磁性ビーズ3が液中で均一に分散することができ、十分な量の核酸を磁性ビーズ3の表面に吸着させることができる。これにより、核酸の抽出効率および検出精度を高めることができる。
【0070】
1.2.1.2.磁気分離工程
磁気分離工程S104では、核酸が吸着された磁性ビーズ3に磁場を作用させ、磁気吸引する。これにより、磁性ビーズ3をウェル92の内壁に移動させ、固定する。その結果、固相である磁性ビーズ3と、液体4と、を分離することができる。
【0071】
磁気吸引を行った後、必要に応じて、ウェル92に加速度を与えるようにしてもよい。これにより、磁性ビーズ3に付着していた液体4を振り落とすことができるので、磁気分離の精度を高めることができる。加速度は、遠心加速度であってもよい。遠心加速度の付与には、遠心分離機を用いればよい。
【0072】
磁気分離工程S104は、図1に示す磁気分離装置1にウェルプレート9を重ねた状態で行う。この状態であれば、ウェルプレート9の空間SPに磁石11が差し込まれているので、ウェル92の側壁から磁場を印加することができる。これにより、磁性ビーズ3をウェル92の内壁に磁気吸引することができる。
【0073】
磁気分離工程S104では、図6に示す第3軸AX3よりも第2軸AX2に近い角度でウェル92内を磁束線Lmが通過するように磁場を印加する。このような磁場の印加は、例えば、図10に示すように、第1姿勢POS1にした磁石11によって実現できる。これにより、ウェル92内に生じる磁束線Lmの密度を十分に高くすることができ、ウェル92内に形成される磁場勾配を大きくすることができる。その結果、磁気分離速度を大きくすることができ、磁気分離操作に要する時間を短縮することができる。ただし、磁石11を第1姿勢POS1にした場合、図10に示すように、磁性ビーズ3にスパイク現象が発生する。
【0074】
1.2.1.3.液体排出工程
液体排出工程S106では、磁性ビーズ3をウェル92の内壁に固定した状態で、ウェル92内の液体4をピペット等により排出する。これにより、液体4を、磁性ビーズ3に吸着されている核酸と分離することができる。
【0075】
液体4の排出に先立ち、液体排出工程S106では、図7に示す第2軸AX2よりも第3軸AX3に近い角度でウェル92を磁束線Lmが通過するように磁場を印加する。このような磁場の印加は、例えば、図11に示すように、第2姿勢POS2にした磁石11によって実現できる。これにより、ウェル92内に生じる磁束線Lmの密度を下げることができ、スパイク現象の発生を抑制することができる。その結果、固定された磁性ビーズ3の表面積は、スパイク現象が発生していたときよりも減少するため、磁性ビーズ3同士の間に保持される液体4の量を抑えることができる。つまり、磁性ビーズ3と液体4との分離効率(固液分離性)を高めることができる。これにより、液体4に含まれるカオトロピック物質が後述する洗浄工程S200や溶出工程S300に移行するのを抑制することができる。
【0076】
また、スパイク現象の発生を抑制することで、ウェル92内にスペースを確保しやすくなる。これにより、ピペット等と磁性ビーズ3との接触を避けつつ、液体4の排出を行うことができる。
【0077】
1.2.2.洗浄工程
洗浄工程S200は、さらに、磁性ビーズ分散工程S202、磁気分離工程S204、液体排出工程S206および乾燥工程S208を有する。
【0078】
洗浄工程S200では、液体4として洗浄液を用いること以外、前述した溶解・吸着工程S100と同様にして磁気分離操作および液体排出操作を行う。これにより、核酸が吸着された磁性ビーズ3を洗浄する。洗浄とは、磁性ビーズ3に吸着された夾雑物を除去するため、核酸が吸着されている磁性ビーズ3を洗浄液と接触させた後、再び分離することによって、夾雑物を除去する操作のことをいう。
【0079】
磁性ビーズ分散工程S202では、前述した磁性ビーズ分散工程S102と同様、好ましくはウェル92に磁場を印加しない状態で、磁性ビーズ3を洗浄液である液体4に分散させる。なお、磁性ビーズ分散工程S202を省略してもよく、その場合、後述する磁気分離工程S204で上記の洗浄を行ってもよい。
【0080】
洗浄液は、核酸の溶出を促進せず、かつ、夾雑物の磁性ビーズ3に対する結合を促進しない液体であれば、特に限定されないが、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン等の有機溶媒またはその水溶液、低塩濃度水溶液等が挙げられる。低塩濃度水溶液としては、例えば、緩衝液が挙げられる。低塩濃度水溶液の塩濃度は、0.1mM以上100mM以下が好ましく、1mM以上50mM以下がより好ましい。緩衝液にするための塩は、特に限定されないが、TRIS、HEPES、PIPES、リン酸等の塩が好ましく用いられる。
【0081】
洗浄液は、Triton(登録商標)、Tween(登録商標)、SDS等の界面活性剤を含有していてもよい。また、洗浄液は、グアニジン塩酸塩等のカオトロピック物質を含有していてもよい。洗浄液のpHは、特に限定されない。
【0082】
磁気分離工程S204では、前述した磁気分離工程S104と同様、ウェル92に磁場を印加し、磁性ビーズ3と洗浄液である液体4とを分離する。磁気分離工程S204では、例えば、磁石11を第1姿勢POS1にすることで、磁気分離速度を大きくすることができる。
【0083】
液体排出工程S206では、前述した液体排出工程S106と同様、磁性ビーズ3をウェル92の内壁に固定した状態で、洗浄液である液体4を排出する。液体排出工程S206では、例えば、磁石11を第2姿勢POS2にすることで、スパイク現象の発生を抑制できるため、磁性ビーズ3と液体4との分離効率(固液分離性)を高めることができる。これにより、核酸が吸着された磁性ビーズ3の洗浄効率を高めることができ、液体4に含まれる夾雑物が後述する溶出工程S300に移行するのを抑制することができる。
【0084】
乾燥工程S208では、ウェル92内に残った磁性ビーズ3を乾燥させる。これにより、磁性ビーズ3同士の間に保持されていた洗浄液をより確実に除去することができ、洗浄液が溶出工程S300に移行するのを抑制することができる。乾燥は、自然乾燥で行ってもよいし、加熱やブロー等を伴う強制乾燥で行ってもよい。
【0085】
また、乾燥工程S208は、前述した磁気分離工程S204と同様、第3軸AX3よりも第2軸AX2に近い角度でウェル92を磁束線Lmが通過するように磁場を印加しながら行う。また、好ましくは第2軸AX2に沿う磁束線Lmがウェル92を通過するように磁場を印加しながら行う。これにより、スパイク現象を発生させ、磁性ビーズ3の表面積を大きくできるため、乾燥効率を高めることができる。なお、乾燥工程S208は、必要に応じて行えばよく、省略してもよい。
【0086】
また、洗浄工程S200では、上記各工程を1回以上繰り返すようにしてもよい。また、洗浄工程S200は、必要に応じて行えばよく、洗浄が必要ない場合には、省略されていてもよい。
【0087】
1.2.3.溶出工程
溶出工程S300は、さらに、磁性ビーズ分散工程S302、磁気分離工程S304および液体排出工程S306を有する。
【0088】
溶出工程S300では、液体4として溶出液を用いること以外、前述した溶解・吸着工程S100や洗浄工程S200と同様にして磁気分離操作および液体排出操作を行う。これにより、核酸が吸着された磁性ビーズ3から核酸を溶出液に溶出させる。溶出とは、核酸が吸着されている磁性ビーズ3を溶出液と接触させた後、再び分離することによって、核酸を溶出液に移行させる操作のことをいう。
【0089】
磁性ビーズ分散工程S302では、前述した磁性ビーズ分散工程S102と同様、好ましくはウェル92に磁場を印加しない状態で、磁性ビーズ3を溶出液である液体4に分散させる。なお、磁性ビーズ分散工程S302を省略してもよく、その場合、後述する磁気分離工程S304で上記の溶出を行ってもよい。
【0090】
溶出液は、核酸が吸着されている磁性ビーズ3から核酸の溶出を促進する液体であれば、特に限定されないが、例えば、滅菌水や純水のような水の他、TE緩衝液、すなわち、10mMトリス塩酸緩衝液および1mMのEDTAを含み、pHが8程度の水溶液が好ましく用いられる。
【0091】
溶出液は、Triton(登録商標)、Tween(登録商標)、SDS等の界面活性剤を含有していてもよい。また、防腐剤としてアジ化ナトリウムを含有していてもよい。
【0092】
また、磁性ビーズ分散工程S302では、溶出液を加熱するようにしてもよい。これにより、核酸の溶出を促進することができる。溶出液の加熱温度は、特に限定されないが、70℃以上200℃以下であるのが好ましく、80℃以上150℃以下であるのがより好ましく、95℃以上125℃以下であるのがさらに好ましい。
【0093】
加熱方法としては、例えば、予め加熱した溶出液を供給する方法、未加熱の溶出液を容器に供給した後に加熱する方法等が挙げられる。加熱時間は、特に限定されないが、30秒以上10分以下であるのが好ましい。
【0094】
磁気分離工程S304では、前述した磁気分離工程S104と同様、ウェル92に磁場を印加し、磁性ビーズ3と溶出液である液体4とを分離する。磁気分離工程S304では、例えば、磁石11を第1姿勢POS1にすることで、磁気分離速度を大きくすることができる。
【0095】
液体排出工程S306では、前述した液体排出工程S106と同様、磁性ビーズ3をウェル92の内壁に固定した状態で、溶出液である液体4を排出する。液体排出工程S306では、例えば、磁石11を第2姿勢POS2にすることで、スパイク現象の発生を抑制できるため、磁性ビーズ3と液体4との分離効率を高めることができる。これにより、核酸の収率を高めることができる。
【0096】
2.第2実施形態
次に、第2実施形態について説明する。
【0097】
図12は、第2実施形態に係る磁気分離装置1およびそれに用いられるウェルプレート9の例を示す平面図である。図13および図14は、第2実施形態に係る磁気分離方法を含む生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
【0098】
以下、第2実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、各図において第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。
【0099】
第2実施形態は、2つの磁石11で1つのウェル92に対して磁場を印加するように構成されていること以外、第1実施形態と同様である。
【0100】
まず、第2実施形態に係る磁気分離装置1について説明する。
図12に示す磁気分離装置1は、一例として8つの磁石11を備えている。そして、図12に示す磁気分離装置1では、ウェル92を介して互いに反対の位置に2つの磁石11が配置されるように構成されている。これにより、ウェル92に対し、2つの磁石11から磁場を印加することができるので、磁性ビーズ3を2か所に分けて固定することができる。その結果、1か所に固定される磁性ビーズ3の量を減らすことができ、磁気分離操作に要する時間をさらに短縮することができる。また、1か所に固定される磁性ビーズ3の量を減らすことにより、各磁性ビーズ3に生じる磁気吸着力を高め、磁性ビーズ3の脱離を抑制することができる。
【0101】
また、図12に示すウェルプレート9は、例えば、16個のウェル92を有しているが、このうち、8つの磁石11によって磁場の印加を制御する場合、図12において着色されている5個のウェル92を使うことが考えられる。この5個のウェル92には、8つの磁石11によって同様の磁束密度が形成される。具体的には、磁石11の磁化Mが図12に矢印で示す方向に設定されているとき、着色されている5個のウェル92には、2個の磁石11から発生した磁場を互いに打ち消し合うことなく印加することができ、高い磁束密度を形成することができる。したがって、着色した5個のウェル92では、上記のような効果を同時に得ることができる。また、効果が得られるタイミングが異なってもよい場合には、着色していないウェル92も利用可能である。なお、ウェル92および磁石11の配置や数は、これに限定されない。
【0102】
次に、第2実施形態に係る磁気分離方法について説明する。
前述したように、第1実施形態に係る磁気分離方法を含む生体物質抽出方法では、磁石11の姿勢を適時変化させることにより、磁気分離工程における磁気分離速度と、液体排出工程における磁性ビーズ3と液体4との分離効率の向上と、を図っている。
【0103】
これに対し、第2実施形態に係る磁気分離方法の磁気分離工程では、1つのウェル92に隣り合うように2つの磁石11を配置するとともに、各磁石11を、図13に示す第1姿勢POS1にする。この場合、2つの磁石11が持つ磁化Mの方向は、互いに同じ方向となる。これにより、各磁石11から発生する磁場を互いに打ち消し合うことなくウェル92に印加することができ、ウェル92内の2か所に高い磁束密度を形成することができる。その結果、磁性ビーズ3を2か所に分けて固定することができ、磁気分離操作に要する時間をさらに短縮することができる。また、磁性ビーズ3を2か所に分けた状態で、磁性ビーズ3にスパイク現象を発生させることができるので、磁性ビーズ3全体の表面積を特に大きくすることができ、磁性ビーズ3の乾燥に要する時間をさらに短縮することができる。
【0104】
また、第2実施形態に係る磁気分離方法の液体排出工程では、2つの磁石11を、図14に示す第2姿勢POS2にする。これにより、磁性ビーズ3におけるスパイク現象の発生を抑制し、表面積を抑えることができる。その結果、磁性ビーズ3と液体4との分離効率を高めることができる。
以上のような第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0105】
3.第3実施形態
次に、第3実施形態について説明する。
図15は、第3実施形態に係る磁気分離装置1を示す側面図である。
【0106】
以下、第3実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、図15において第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。
【0107】
第3実施形態は、第1軸AX1に沿って基台12を移動させる移動ステージ15を備えること以外、第1実施形態と同様である。
【0108】
図15に示す磁気分離装置1は、基台12の下面を支持し、基台12を上下に移動させる移動ステージ15を備える。移動ステージ15は、平板状をなし、基台12の下面を支持している。また、移動ステージ15は、図示しない駆動部により、図2に示す第1軸AX1、すなわち図15に示すZ軸に沿う任意の位置で保持されるようになっている。さらに、あらかじめ設定された2か所で保持されているようになっていてもよい。これにより、基台12の上方にウェルプレートが保持されている場合、ウェルプレートの空間に磁石11を差し込む位置と、空間から磁石11を引き抜いた位置と、で基台12を保持することができる。その結果、磁石11からの磁場をウェルに印加する磁場印加状態と、印加しない磁場非印加状態と、を容易に切り替えることができる。これにより、例えば、前述した磁気分離工程においては、磁場印加状態を選択し、前述した磁性ビーズ分散工程においては、磁場非印加状態を選択することにより、両工程の工数削減に寄与することができる。
【0109】
以上のような第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
なお、移動ステージ15は、前述した基台12を移動させる方式のものでもよいが、基台12とウェルプレートとの間に配置され、ウェルプレートを上下に移動させる方式のものでもよい。また、移動ステージ15に代えて、磁石11を基台12の内部に収容したり、突出させたりする機構を設けるようにしてもよい。
【0110】
4.第4実施形態
次に、第4実施形態について説明する。
【0111】
図16は、第4実施形態に係る磁気分離装置1およびそれに用いられるマイクロチューブ90の例を示す側面図である。
【0112】
以下、第4実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、図16において第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。
【0113】
第4実施形態は、マイクロチューブ90のような容器が挿入される挿入部13(収容部)を有すること以外、第1実施形態と同様である。
【0114】
図16に示す磁気分離装置1は、基台であるスタンド20と、磁石11と、図示しない駆動部と、を備える。
【0115】
スタンド20は、上板202および下板204と、これらを互いに接続する側板206と、を備える。上板202および下板204は、それぞれX-Y面に沿って広がる板状をなしている。また、側板206は、Y-Z面に沿って広がる板状をなしている。
【0116】
上板202は、貫通孔132を有している。貫通孔132は、Z軸と平行な第1軸AX1に沿って上板202を貫通している。また、下板204は、上面に開口する凹部134を有する。そして、貫通孔132および凹部134で、挿入部13が構成されている。この挿入部13には、マイクロチューブ90が挿入され、保持されるようになっている。つまり、貫通孔132にマイクロチューブ90を挿入し、下端を凹部134に差し入れることで、マイクロチューブ90を立てた状態で保持することができる。
【0117】
側板206には、磁石11が設けられている。磁石11は、駆動部によって回動軸AXRまわりに回動するようになっている。
【0118】
挿入部13にマイクロチューブ90を挿入した状態で、磁石11を回動させることにより、挿入部13内に形成される磁束密度を変化させることができる。これにより、マイクロチューブ90内に磁性ビーズを収容している場合、磁性ビーズにおけるスパイク現象の発生の有無を制御することができる。
【0119】
以上のような第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
なお、磁気分離装置1は、複数の挿入部13を有していてもよい。また、挿入部13の構成、形状等は、上記に限定されない。
【0120】
5.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る磁気分離装置1は、磁石11と、基台12と、駆動部2と、を備える。磁石11は、第1軸AX1に沿って延在するウェル92(筒状の収容部)に隣り合う位置に設けられ、ウェル92に磁場を印加する磁化Mを持つ。基台12は、磁石11を支持する。駆動部2は、第1姿勢POS1と第2姿勢POS2との間で磁石11の姿勢を変化させる。第1姿勢POS1は、第1軸AX1と直交する軸を第2軸AX2とし、第2軸AX2を含む平面PL内において第2軸AX2と直交する軸を第3軸AX3とするとき、磁化Mの方向が第3軸AX3よりも第2軸AX2に近い方向を向く姿勢である。第2姿勢POS2は、磁化Mの方向が第2軸AX2よりも第3軸AX3に近い方向を向く姿勢である。
【0121】
このような構成によれば、磁石11の磁化Mの方向を適時変化させ得る磁気分離装置1が得られる。このような磁気分離装置1によれば、ウェル92内に形成される磁束密度の大きさを切り替えることができ、それに伴って、スパイク現象の発生の有無を制御することができる。これにより、例えば磁気分離操作時には、磁石11を第1姿勢POS1にして磁気分離速度を大きくし、また、液体排出操作時には、磁石11を第2姿勢POS2にして磁性ビーズ3と液体4との分離効率(固液分離性)を高めることができる。したがって、磁気分離速度および磁性ビーズ3と液体4との分離効率に優れる磁気分離装置1を実現することができる。
【0122】
また、磁石11は、第1軸AX1と平行な回動軸AXRまわりに回動するように設けられていてもよい。そして、駆動部2は、磁石11を回動軸AXRまわりに回動させるようになっていてもよい。
【0123】
これにより、磁石11が回動軸AXRまわりに回動したとき、磁化Mの方向も回動する。その結果、ウェル92内に形成される磁束線Lmの密度を変化させることができ、スパイク現象の発生の有無を制御することができる。
【0124】
また、磁石11は、回動軸AXRを中心軸とする円柱状をなしていることが好ましい。
この場合、磁石11が回動しても、磁石11とウェル92との距離の変化を抑えられる。このため、磁石11の回動に伴ってウェル92内に形成される磁束密度が変化するのを抑制することができる。これにより、ウェル92の内壁に固定されている磁性ビーズ3が意図せず離脱したり、意図しないスパイク現象が発生したりすることを抑制できる。
【0125】
また、ウェル92(収容部)を介して互いに反対の位置に設けられる2つの磁石11を備えていてもよい。
【0126】
これにより、ウェル92内の2か所に高い磁束密度を形成することができる。その結果、磁性ビーズ3を2か所に分けて磁気分離することができ、磁気分離操作に要する時間をさらに短縮することができる。また、磁性ビーズ3を2か所に分けて固定し、かつ、磁性ビーズ3にスパイク現象を発生させることができるので、磁性ビーズ3の表面積を特に大きくすることができ、磁性ビーズ3の乾燥に要する時間をさらに短縮することができる。
【0127】
また、磁性ビーズ3を収容する複数のウェル92(収容部)が並ぶウェルプレート9が重ねられたとき、隣り合うウェル92同士の間に磁石11が位置するように、磁石11が配置されていることが好ましい。
【0128】
このような構成によれば、ウェル92の側壁から磁場を印加することができる。これにより、磁性ビーズ3をウェル92の内壁に磁気吸引することができる。この状態であれば、液体排出操作をピペット等で行うときの操作性を高めることができる。
【0129】
また、収容部は、磁性ビーズを収容するマイクロチューブ90(容器)が挿入される挿入部13であってもよい。
【0130】
これにより、マイクロチューブ90内に磁性ビーズを収容している場合、磁性ビーズにおけるスパイク現象の発生の有無を制御することができる。その結果、マイクロチューブ90のような容器を用いた場合でも、磁気分離速度および磁性ビーズ3と液体4との分離効率の双方に優れる磁気分離装置1を実現することができる。
【0131】
また、複数の磁石11を備えていてもよく、その場合、駆動部2は、磁石11の姿勢を互いに同期して変化させるようになっていてもよい。
【0132】
これにより、多数の磁石11の姿勢を変更する操作について省力化を図ることができる。
【0133】
また、駆動部2は、ピニオンギア21と、ラックギア22と、を有していてもよい。ピニオンギア21は、磁石11に接続されている。ラックギア22は、ピニオンギア21と螺合している。
【0134】
このような構成によれば、ラックギア22に直線運動を与えるだけで、磁石11を回動させることができるため、簡単な操作で磁石11を回動させることができる。また、直線運動の運動量は、回動運動の運動量に比例するため、磁石11の回動量を簡単に調整できる。
【0135】
また、第1軸AX1に沿って基台12を移動させる移動ステージ15をさらに備えていてもよい。
【0136】
このような構成によれば、例えば、磁石11からの磁場をウェル92に印加する磁場印加状態と、印加しない磁場非印加状態と、を容易に切り替えることができる。このため、磁気分離工程においては、磁場印加状態を選択し、磁性ビーズ分散工程においては、磁場非印加状態を選択することにより、両工程の工数削減に寄与することができる。
【0137】
前記実施形態に係る磁気分離方法は、磁気分離工程と、液体排出工程と、を有する。磁気分離工程では、磁性ビーズ3および液体4を収容するウェル92(筒状の収容部)に磁場を印加して磁性ビーズ3をウェル92の内壁に固定することにより、磁性ビーズ3と液体4とを分離する。液体排出工程では、磁性ビーズ3と液体4とを分離した状態で、液体4を排出する。また、ウェル92の延在方向に沿う軸を第1軸AX1とし、第1軸AX1と直交する平面PL内において第1軸AX1と直交する軸を第2軸AX2とし、平面PL内において第2軸AX2と直交する軸を第3軸AX3とする。このとき、磁気分離工程では、第3軸AX3よりも第2軸AX2に近い角度で磁場を印加し、液体排出工程では、第2軸AX2よりも第3軸AX3に近い角度で磁場を印加する。
【0138】
このような構成によれば、印加する磁場の方向を切り替えることにより、ウェル92内に形成される磁束密度の大きさを切り替えることができ、それに伴って、スパイク現象の発生の有無を制御することができる。これにより、例えば磁気分離操作時には、ウェル92内に生じる磁束線Lmの密度を高くして磁気分離速度を大きくし、また、液体排出操作時には、磁束線Lmの密度を下げてスパイク現象の発生を抑制して、磁性ビーズ3と液体4との分離効率(固液分離性)を高めることができる。つまり、磁気分離速度および磁性ビーズ3と液体4との分離効率を高めることができる。
【0139】
また、磁気分離方法は、液体4と分離された磁性ビーズ3を乾燥させる乾燥工程をさらに有していてもよい。乾燥工程では、第3軸AX3よりも第2軸AX2に近い角度で磁場を印加することが好ましい。
【0140】
このような構成によれば、磁性ビーズ3の表面積を大きくできるため、乾燥効率を高めることができる。
【0141】
また、磁気分離方法は、磁性ビーズ3を液体4に分散させる磁性ビーズ分散工程をさらに有していてもよい。そして、磁気分離工程および液体排出工程では、ウェル92(収容部)に磁石11を近づけることにより、ウェル92に対して磁場を印加し、磁性ビーズ分散工程では、ウェル92から磁石11を遠ざけることにより、ウェル92に対する磁場の印加を解除するようにしてもよい。
【0142】
このような構成によれば、磁石11を近づけたり遠ざけたりするだけで、磁場の印加を制御できるため、前述した効果を簡単に得ることができる。
【0143】
以上、本発明の磁気分離装置および磁気分離方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0144】
例えば、本発明の磁気分離方法は、前記実施形態に任意の目的の工程が付加されたものであってもよい。また、本発明の磁気分離装置は、前記実施形態の各部が同様の機能を有する任意の構成のものに置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【実施例0145】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
6.磁気分離速度の評価
まず、磁性ビーズを、濃度が0.1質量%となるように、25℃の純水に分散させて分散液を調製した。次に、分散液を分光セルに入れ、超音波照射による撹拌およびボルテックスミキサーによる撹拌を行った。撹拌時間は、1分とした。次に、撹拌処理を行った分光セルを速やかに分光光度計のセルホルダーにセットした。なお、セルホルダーには、あらかじめ分光セルが配置される位置に合わせて、磁石を取り付けておいた。また、分光セルをセットしたとき、分光セルの外壁と磁石との最短距離は2.0mmとし、磁石には、表面磁束密度が180mTの磁石を用いた。
【0146】
次に、分光セルの静置を開始するのと同時に、分光セルについて、波長550nmにおける吸光度の測定を開始した。そして、磁石の姿勢(磁化の向き)を変えて、吸光度の測定を繰り返し、測定結果からグラフを作成した。
【0147】
図17は、磁石の姿勢を変えて測定した磁性ビーズ分散液の吸光度の推移を表すグラフである。図17に示すグラフの横軸は時間、縦軸は初期吸光度に対する測定吸光度の比である。
【0148】
図17に示すように、磁石が第1姿勢になっているときは、磁石が第2姿勢になっているときに比べて、磁性ビーズ分散液の吸光度が低下する速度が大きい。よって、磁気分離操作を行う場合、磁石を第1姿勢にすることで、磁気分離速度を大きくできることがわかった。
【0149】
7.分離効率の評価
まず、容器に磁性ビーズを入れた。そして、磁性ビーズを含む容器の重量を測定した。この測定値を「初期重量」とする。
【0150】
次に、容器に純水を入れ、撹拌した後、磁気分離操作および液体排出操作を行った。その後、再び、収容物を含む容器の重量を測定した。この測定値を「分離操作後重量」とする。
【0151】
次に、分離操作後重量から初期重量を減算した。減算結果は、磁性ビーズに付着して残った液体(残液)の重量に相当するため、これを「残液重量」とする。
【0152】
次に、残液重量から残液の体積を算出した。算出結果を「残液量」とする。そして、磁石の姿勢(磁化の向き)を変えて、残液量の測定を繰り返し、測定結果からグラフを作成した。
【0153】
図18は、磁石の姿勢を変えて測定した残液量を比較するグラフである。
図18に示すように、磁石が第2姿勢になっているときは、磁石が第1姿勢になっているときに比べて、残液量が少ない。また、1つの容器に2つの磁石を近接配置しても、各磁石の姿勢が第2姿勢になっていれば、残液量が少なくなっている。よって、液体排出操作を行う場合、磁石を第2姿勢にすることで、残液量を減らすこと、つまり、磁性ビーズと液体との分離効率を高められることがわかった。
【0154】
8.乾燥速度の評価
まず、容器に磁性ビーズおよび純水を入れ、撹拌した後、磁気分離操作および液体排出操作を行った。
【0155】
次に、容器の開口を開けたまま、気温25℃、相対湿度50%の環境に置き、収容物を含む容器の重量変化量を測定した。そして、磁石の姿勢(磁化の向き)を変えた場合の重量変化量をそれぞれ測定し、測定結果からグラフを作成した。なお、収容物を含む容器の重量変化量の推移は、磁性ビーズに付着して残った液体(残液)の乾燥速度を表している。
【0156】
図19は、磁石の姿勢を変えて測定した重量変化量の推移(乾燥速度)を表すグラフである。図19に示すグラフの横軸は時間、縦軸は重量変化量である。
【0157】
図19に示すように、磁石が第1姿勢になっているときは、磁石が第2姿勢になっているときに比べて、重量減少量が大きくなっている。これは、磁石が第1姿勢になっているとき、磁性ビーズにスパイク現象が発生して表面積が大きくなったことに起因していると考えられる。つまり、表面積が大きくなることで、磁性ビーズ同士の間に保持されている液体の乾燥速度が大きくなったと考えられる。
【0158】
以上のような評価結果から、本発明によれば、磁気分離速度および磁性ビーズと液体との分離効率の双方に優れる磁気分離装置および磁気分離方法を実現可能であることが認められた。
【符号の説明】
【0159】
1…磁気分離装置、2…駆動部、3…磁性ビーズ、4…液体、8…ピペット、9…ウェルプレート、11…磁石、12…基台、13…挿入部、15…移動ステージ、20…スタンド、21…ピニオンギア、22…ラックギア、23…シャフト、24…把持部、90…マイクロチューブ、92…ウェル、132…貫通孔、134…凹部、202…上板、204…下板、206…側板、AX1…第1軸、AX2…第2軸、AX3…第3軸、AXR…回動軸、Lm…磁束線、M…磁化、PL…平面、POS1…第1姿勢、POS2…第2姿勢、S100…溶解・吸着工程、S102…磁性ビーズ分散工程、S104…磁気分離工程、S106…液体排出工程、S200…洗浄工程、S202…磁性ビーズ分散工程、S204…磁気分離工程、S206…液体排出工程、S208…乾燥工程、S300…溶出工程、S302…磁性ビーズ分散工程、S304…磁気分離工程、S306…液体排出工程、SP…空間、ST…矢印
図1
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